(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151565
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びこれを成形してなる成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20220929BHJP
C08L 33/12 20060101ALI20220929BHJP
C08L 25/12 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C08L69/00 ZAB
C08L33/12
C08L25/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203232
(22)【出願日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2021053370
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC06Y
4J002BG06X
4J002CG01W
4J002GL00
4J002GN00
4J002GP00
4J002GQ00
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】環境に考慮した原料を用い、かつ、光線透過性に優れ、かつ、位相差の小さい熱可塑性樹脂組成物、これを成形してなる成形品を提供する。
【解決手段】所定のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A)、(メタ)アクリル酸エステル系単量体成分由来の構成単位を有する樹脂(B)、及びアクリロニトリル由来の構成単位及び芳香族ビニル系単量体由来の構成単位を有する少なくとも1種類の樹脂(C)を含み、樹脂(B)と樹脂(C)とは互いに相溶し、樹脂(B)と樹脂(C)の重量比がB:C=99:1~1:99である熱可塑性樹脂組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A)、
(メタ)アクリル酸エステル系単量体成分由来の構成単位(b)を有する樹脂(B)、及び、
アクリロニトリル由来の構成単位(c1)及び芳香族ビニル系単量体由来の構成単位(c2)を有する少なくとも1種類の樹脂(C)を含み、
前記の樹脂(B)と樹脂(C)とは互いに相溶し、
前記樹脂(B)と樹脂(C)の重量比がB:C=99:1~1:99である熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
【請求項2】
前記樹脂(C)が構成単位(c1)及び構成単位(c2)の両構成単位を有する樹脂(C1)である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂(C)がアクリロニトリルスチレン共重合体である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記の樹脂(A)、樹脂(B)、及び樹脂(C)の合計量を100重量部としたとき、前記樹脂(B)及び樹脂(C)の合計量が1重量部以上50重量部以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂(B)と樹脂(C)との含有比が、重量比でB:C=99:1~65:35である請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A)、
(メタ)アクリル酸エステル系単量体成分由来の構成単位(b)を有する樹脂(B)、及び、
アクリロニトリル由来の構成単位(c1)及び芳香族ビニル系単量体由来の構成単位(c2)の両構成単位のみからなる樹脂(C1’)を含み、
前記樹脂(B)と、前記樹脂(C1’)の重量比がB:C1’=99:1~1:99である熱可塑性樹脂組成物。
【化2】
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含有してなる成形品。
【請求項8】
下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体成分由来の構成単位(b)を有する樹脂(B)と、アクリロニトリル由来の構成単位(c1)及び芳香族ビニル系単量体由来の構成単位(c2)を有する少なくとも1種類の樹脂(C)とを混合して熱可塑性樹脂組成物を製造する工程を有し、
前記樹脂(B)と樹脂(C)の重量比がB:C=99:1~1:99である熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【化3】
【請求項9】
前記樹脂(C)は、アクリロニトリル由来の構成単位(c1)及び芳香族ビニル系単量体由来の構成単位(c2)の両構成単位のみからなる樹脂(C1’)である請求項8に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記の樹脂(B)と樹脂(C)とは、互いに相溶する請求項8に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品とした際に、光線透過率がよく、位相差の小さい熱可塑性樹脂組成物、これを成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。しかしながら、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネートの提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたポリカーボネートの開発が求められている。なかでも、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野、雑貨分野などのように耐衝撃性とヘイズの低さが要求される用途に用いるため、成形品とした際に、耐衝撃性に優れ、ヘイズの低い樹脂組成物が求められてきている。
【0003】
従来、植物由来モノマーを原料とした種々のポリカーボネートが開発されている。例えば、植物由来モノマーとしてイソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により、ポリカーボネートを得ることが提案されている(特許文献1)。ここで、従来広く用いられてきた芳香族ポリカーボネート樹脂の場合には樹脂そのものの耐衝撃性に優れていたが、イソソルビドを使用する場合には芳香族ポリカーボネート樹脂と比べて耐衝撃性に劣り、改良が必要となる。この問題に対し、イソソルビドを原料としてなるポリカーボネートにゴム質グラフト重合体やスチレン系樹脂を含有させることにより、耐衝撃性を向上させる方法が提案されている(特許文献2、3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】英国特許第1079686号公報
【特許文献2】特開2017-149817号公報
【特許文献3】特開2009-144016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2や3に記載の発明は、耐衝撃性について検討されており、OA機器分野や光学部品分野等に有用である旨が記載されているものの、得られる熱可塑性樹脂からなる成形体の位相差が大きく、この成形体を通した像が二重になったり、ぶれたりする等の歪みが生じるおそれがある。
そこで、この発明は、これらの問題点を解決し、環境に考慮した原料を用い、かつ、光線透過性に優れ、かつ、位相差の小さい熱可塑性樹脂組成物、これを成形してなる成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが検討を行った結果、特定のジヒドロキシ化合物由来の構成単位を含有するポリカーボネート樹脂(A)と、互いに相溶化した少なくとも2種類の特定の樹脂からなる相溶化樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物とすることで、光線透過性に優れ、かつ、位相差の小さい成形品となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1]下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A)、(メタ)アクリル酸エステル系単量体成分由来の構成単位(b)を有する樹脂(B)、及びアクリロニトリル由来の構成単位(c1)及び芳香族ビニル系単量体由来の構成単位(c2)を有する少なくとも1種類の樹脂(C)を含み、前記の樹脂(B)と樹脂(C)とは互いに相溶し、前記樹脂(B)と樹脂(C)の重量比がB:C=99:1~1:99である熱可塑性樹脂組成物。
【0008】
【0009】
[2]前記樹脂(C)が構成単位(c1)及び構成単位(c2)の両構成単位を有する樹脂(C1)である[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]前記樹脂(C)がアクリロニトリルスチレン共重合体である[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0010】
[4]前記の樹脂(A)、樹脂(B)、及び樹脂(C)の合計量を100重量部としたとき、前記樹脂(B)及び樹脂(C)の合計量が1重量部以上50重量部以下である[1]~[3]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5]前記樹脂(B)と樹脂(C)との含有比が、重量比でB:C=99:1~65:35である[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
[6]上記の一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A)、(メタ)アクリル酸エステル系単量体成分由来の構成単位(b)を有する樹脂(B)、及びアクリロニトリル由来の構成単位(c1)及び芳香族ビニル系単量体由来の構成単位(c2)の両構成単位のみからなる樹脂(C1’)を含み、前記樹脂(B)と、前記樹脂(C1’)の重量比がB:C1’=99:1~1:99である熱可塑性樹脂組成物。
[7][1]~[6]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含有してなる成形品。
【0012】
[8]上記の一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体成分由来の構成単位(b)を有する樹脂(B)と、アクリロニトリル由来の構成単位(c1)及び芳香族ビニル系単量体由来の構成単位(c2)を有する少なくとも1種類の樹脂(C)とを混合して熱可塑性樹脂組成物を製造する工程を有し、前記樹脂(B)と樹脂(C)の重量比がB:C=99:1~1:99である熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
[9]前記樹脂(C)は、アクリロニトリル由来の構成単位(c1)及び芳香族ビニル系単量体由来の構成単位(c2)の両構成単位のみからなる樹脂(C1’)である[8]に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
[10]前記の樹脂(B)と樹脂(C)とは、互いに相溶する[8]に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、得られる熱可塑性樹脂組成物から成形される成形体は、光線透過性に優れ、かつ、位相差が小さいので、この成形体を通した像が二重になったり、ぶれたりする等の歪みを抑制し、鮮明な像を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
本発明は、特定のポリカーボネート樹脂(A)(以下、単に「樹脂(A)」と称することがある。)、所定の樹脂(B)及び樹脂(C)を含む熱可塑性樹脂組成物、及びこの熱可塑性樹脂組成物を含有してなる成形品に係る発明である。
【0015】
<ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)(樹脂(A))は、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a)を含むポリカーボネート樹脂である。
【0016】
【0017】
上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、成形性、耐熱性、耐衝撃性、表面硬度、カーボンニュートラルの面から最も好ましい。
【0018】
上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、環状エーテル構造を有するため、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管や、製造時には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤等を用いたり、窒素雰囲気下で取り扱うことが肝要である。例えば、イソソルビドが酸化されると、蟻酸等の分解物が発生する場合がある。これら分解物を含むイソソルビドをポリカーボネート樹脂の製造原料として使用すると、得られるポリカーボネート樹脂及び熱可塑性樹脂組成物の着色を招く可能性があり、又、物性を著しく劣化させる可能性があるだけではなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られない場合もある。
【0019】
本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)は、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a)を含む限りで特に限定されないが、樹脂の構成単位として実質的に前記構成単位(a)のみを含むホモポリカーボネート樹脂であってもよいし、構成単位(a)以外の構成単位をさらに含む共重合ポリカーボネート樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂から得られる成形体が耐衝撃性により優れるという観点からは、ポリカーボネート樹脂(A)は共重合ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)が共重合ポリカーボネート樹脂である場合において、ポリカーボネート樹脂(A)中の構成単位(a)の含有割合は、ポリカーボネート樹脂(A)中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位において、30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、60モル%以上が特に好ましい。また、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下が特に好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)中の他のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)が少なすぎると、耐熱性が不足する可能性があり、多すぎると耐衝撃性が不足する場合がある。
【0020】
本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)は、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a)以外に、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、芳香族ビスフェノール類及び式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のエーテル基含有ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる一種以上のジヒドロキシ化合物(以下、「他のジヒドロキシ化合物」と称す場合がある。)に由来する構成単位(a1)を含む共重合ポリカーボネート樹脂であってもよい。この共重合ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性を向上させることができる。この構成単位(a1)の中でも、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、芳香族ビスフェノール類からなる群より選ばれる一種以上のジヒドロキシ化合物が好ましい。また、ポリカーボネート樹脂の耐光性の観点からは、分子構造内に芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物、即ち脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/又は脂環式ジヒドロキシ化合物が好ましく、耐熱性も加味して考慮すると、脂環式ジヒドロキシ化合物が最も好ましい。
【0021】
前記の脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物であっても、分岐鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物であってもよく、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオールなどが挙げられる。
【0022】
前記の脂環式ジヒドロキシ化合物としては、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、リモネン等が挙げられる。
【0023】
前記の芳香族ビスフェノール類としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4´-ジヒドロキシ-ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4´-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4´-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4´-ジヒドロキシ-3,3´-ジクロロジフェニルエーテル、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ-2-メチル)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)フルオレンが挙げられる。
【0024】
前記のエーテル基含有ジヒドロキシ化合物としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量150~2000)、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0025】
本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)が前記の他のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)を含有する場合、その含有割合は、ポリカーボネート樹脂(A)中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位において、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が特に好ましい。また、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下が特に好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)中の他のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)が少なすぎると、耐衝撃性が不足する可能性があり、多すぎると耐熱性が不足する場合がある。
【0026】
光学特性の観点からは、本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)は、構成単位として芳香族成分を含有しないことが好ましい。即ち、非芳香族構造で構成される化合物のみを共重合モノマーとして用いることが好ましい。ポリマーの主鎖に芳香族成分が含まれていると、樹脂組成物の耐候性や透明性及び位相差が悪化する懸念がある。芳香族成分を含有しない前記その他の構成単位を採用することにより、当該構成単位に由来して主鎖に芳香族成分が組み込まれることを防止できる。
【0027】
一方、光学特性を確保しつつ、耐熱性や機械特性等とのバランスをとるために、ポリマーの主鎖や側鎖に芳香族成分を組み込むことが有効な場合もある。諸特性のバランスをとる観点から、前記樹脂における、芳香族基を含む構成単位の含有量は、30モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以下であることが特に好ましい。
【0028】
なお、本発明のポリカーボネート樹脂(A)は二種以上を混合することもできるが、その場合のポリカーボネート樹脂(A)における他のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)の含有割合は、ポリカーボネート樹脂(A)に該当するものそれぞれのポリカーボネート樹脂を含有量に応じて平均して上記の範囲であれば、同様に好ましいものである。
【0029】
本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)は、一般に用いられるポリカーボネート樹脂の製造方法で製造することができ、その製造方法は、ホスゲンを用いた溶液重合法、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とを反応させる溶融重合法のいずれの方法でもよいが、重合触媒の存在下に、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物を、より環境への毒性の低い炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法が好ましい。また、溶融重合における重合触媒(エステル交換触媒)としては、公知のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が使用される。アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能である。
【0030】
本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)は、上述のように式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステルをエステル交換反応させて製造することができる。より詳細には、エステル交換反応させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒の存在下でエステル交換反応により溶融重合を行う。
【0031】
本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)の製造時に使用し得るエステル交換反応
触媒(以下、「触媒」と称する場合がある)としては、例えば長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族又は2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。これらの中でも、好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用され、透明性、耐候性の点から、特に好ましくは2族金属化合物が使用される。
【0032】
1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
また、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
【0033】
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム,カリウム,リチウム,セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩,2カリウム塩,2リチウム塩,2セシウム塩等が挙げられ、中でもセシウム化合物、リチウム化合物が好ましい。
【0034】
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられ、中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましい。
【0035】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩,カリウム塩,リチウム塩,カルシウム塩,バリウム塩,マグネシウム塩,あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0036】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホス
フィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0037】
アミン系化合物としては、例えば、4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0038】
上記の中でも、第2族金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を触媒として用いるのが、得られるポリカーボネート樹脂(A)の透明性、色相、耐光性等の種々の物性を優れたものとするために好ましい。
また、上記ポリカーボネート樹脂(A)の透明性、色相、耐光性を特に優れたものとするために、触媒が、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、及びバリウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であるのが好ましく、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であるのが特に好ましい。
【0039】
前記触媒の使用量は、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の場合、反応に供する全ジヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として、好ましくは0.1~300μモル、より好ましくは0.1~100μモル、さらに好ましくは0.5~50μモル、特に好ましくは1~25μモルの範囲内である。
上記の中でも2族金属からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、金属換算量として、反応に供する全ジヒドロキシ化合物1モル当たり、好ましくは0.1μモル以上、更に好ましくは0.5μモル以上、特に好ましくは0.7μモル以上とする。また、上限としては、好ましくは20μモル、更に好ましくは10μモル、特に好ましくは3μモル、最も好ましくは2.0μモルである。
【0040】
触媒の使用量が少なすぎると、所望の分子量のポリカーボネート樹脂(A)を製造するのに必要な重合活性が得られず、充分な破壊エネルギーが得られない可能性がある。一方、触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂(A)の色相が悪化するだけでなく、副生成物が発生したりして流動性の低下やゲルの発生が多くなり、脆性破壊の起因となる場合があり、目標とする品質のポリカーボネート樹脂(A)の製造が困難になる可能性がある。
【0041】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物において、触媒の金属の使用量は、ポリカーボネート樹脂製造に用いられる触媒に由来して熱可塑性樹脂組成物中に含まれるものである。したがって、熱可塑性樹脂組成物中の触媒の金属の使用量は、上記規定する範囲と同じ使用量である。
重合反応の形式は、公知の形式を用いることができ、バッチ式、連続式、あるいはバッ
チ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
【0042】
また、本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)を製造する際には、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが望ましい。フィルターの設置位置は押出機の下流側が好ましく、フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%除去の濾過精度として通常100μm以下が好ましい。特に、フィルム用途等で微少な異物の混入を嫌う場合は、40μm以下が好ましく、さらには10μm以下が好ましい。
【0043】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の押出は、押出後の異物混入を防止するために、好ましくはJIS B 9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが望ましい。
また、押出されたポリカーボネート樹脂(A)を冷却しチップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10μm~0.45μmであることが好ましい。
【0044】
本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、通常0.30dL/g以上が好ましく、0.35dL/g以上がより好ましい。還元粘度の上限は、通常1.20dL/g以下が好ましく、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下が更に好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度が低すぎると樹脂組成物としたときの靱性が小さい可能性があり、還元粘度が大きすぎると、電気・電子機器部品や自動車内外装部品を成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性を低下させる傾向がある。また、成形温度を適正以上に高くしなければならず、色調が悪化する場合がある。
尚、ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート樹脂濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定する。
【0045】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、70℃以上145℃以下が好ましく、80℃以上135℃以下がより好ましく、特に90℃以上125℃以下が好ましい。ガラス転移温度が70℃未満では耐熱性が不足し、145℃以上では成形時に流動性が不足し、樹脂組成物が製品の末端まで充填されなかったり、ウエルド部での強度が低下したりすることがある。
本発明のポリカーボネート樹脂(A)の全光線透過率及びヘイズ(Haze)は、下記の方法により測定することができる。
【0046】
(1)ペレット製造
3つのベント口及び注水設備を供えた二軸押出機に連続的に溶融状態のポリカーボネート樹脂を供給し、該ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、酸化防止剤としてイルガノックス1010(BASF・ジャパン(株)製、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])を0.1質量部、アデカスタブ2112((株)ADEKA製、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト)を0.05質量部及び離型剤としてユニスターE-275(日油(株)製)0.3質量部を連続的に添加するとともに、二軸押出機に具備された各ベント部にてフェノールなどの低分子量物を減圧脱揮した後、ペレタイザーによりペレット化を行う。
【0047】
(2)射出成形
二軸押出機で混練したペレットについて、100℃で6時間予備乾燥したペレットを(株)日本製鋼所製J85AD型射出成形機で、シリンダー温度240℃、成形サイクル40秒、金型温度60℃で、100mm×100mm×2mmtの平板を成形する。
【0048】
(3)ヘイズ(Haze)及び全光線透過率測定
日本電色工業社製ヘイズメーターNDH2000を使用し、D65光源にて上記試験片のヘイズ(Haze(%))及び全光線透過率(%)を測定する。本発明のポリカーボネート樹脂(A)の全光線透過率は、85%以上であることが好ましく、さらに88%以上であることが好ましく、特に90%以上であることが好ましい。この全光線透過率が上記下限よりも高いと、熱可塑性樹脂組成物としたときの全光線透過率が高くなる。この全光線透過率の測定方法の詳細は実施例の項で記載する。
【0049】
本発明のポリカーボネート樹脂(A)のJIS K 7105に準拠したヘイズ(Haze)が、通常2%以下、好ましくは1.5%以下、最も好ましくは1%以下である。ヘイズ(Haze)が上記範囲であれば、熱可塑性樹脂組成物としたときに高い全光線透過率と高いヘイズ(Haze)を両立することができる。
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、ポリカーボネート樹脂(A)として、1種を単独で用いてもよく、他のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の種類や共重合割合、物性等の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0050】
<樹脂(B)>
本発明で用いられる樹脂(B)は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体成分由来の構成単位(b)を有する樹脂、すなわち、アクリル系樹脂である。
【0051】
本発明で用いられるアクリル系樹脂としては、熱可塑性樹脂としてのアクリル系樹脂が使用される。このアクリル系樹脂の構成単位である(メタ)アクリル酸エステル系単量体成分の構成単位(b)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ベンジル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、コハク酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、マレイン酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、フタル酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2-(メタ)アクリオイルオキシエチル、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が例示される。これらは、単独で重合して使用してもよく、2種類以上を重合して使用してもよい。これらの中でも、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルの少なくとも一方を用いるものが、耐衝撃性及びヘイズの低さから好ましい。また、これらのアクリル系単量体と重合され得る他の単量体、例えばポリオレフィン系単量体、ビニル系単量体等を併用してもよい。
【0052】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。
前記アクリル系樹脂の分子量は特に限定されるものではないが、重量平均分子量で3万
以上、30万以下の範囲であれば、多層体として成形する際に流れムラ等の外観不良を生じることがなく、機械特性、耐熱性に優れた多層体を提供することができる。
【0053】
<樹脂(C)>
本発明で用いられる樹脂(C)は、アクリロニトリル由来の構成単位(c1)及び芳香族ビニル系単量体由来の構成単位(c2)を有する少なくとも1種類の樹脂である。この樹脂(C)としては、構成単位(c1)及び構成単位(c2)の両構成単位を有する樹脂(C1)を用いてもよく、また、構成単位(c1)を有する樹脂(C2-1)及び構成単位(c2)を有する樹脂(C2-2)を併用してもよい。
【0054】
[相溶性]
ところで、樹脂(C)は、樹脂(B)と互いに相溶することが好ましい。ここで、「相溶」とは、複数の物質を混合した場合、分離せずに混ざり合う性質をいう。
本発明において、樹脂(B)と樹脂(C)とが互いに相溶するので、樹脂(A)の屈折率に合わせやすくなり、高い透明性を維持することができるという特徴を発揮することができる。
樹脂(B)と樹脂(C)とが互いに相溶していることは、例えば、樹脂(B)と樹脂(C)が示すそれぞれのガラス転移温度とは異なるガラス転移温度を熱可塑性樹脂組成物が示すことによって確認することができる。
【0055】
[構成単位(c1)、構成単位(c2)]
前記の構成単位(c1)の例としては、アクリロニトリル等があげられる。また、構成単位(c2)としては、スチレンや、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等のスチレン誘導体が挙げられ、特にスチレンが好ましい。さらにこれらは単独または2種以上用いることができる。
【0056】
[樹脂(C1)]
樹脂(C1)は、アクリロニトリル由来の構成単位(c1)及び芳香族ビニル系単量体由来の構成単位(c2)の両構成単位を有する樹脂である。この両構成単位を有し、かつ、前記の通り、樹脂(B)と相溶性のある樹脂(C1)としては、アクリロニトリル由来の構成単位(c1)及び芳香族ビニル系単量体由来の構成単位(c2)の両構成単位のみからなる樹脂(C1’)、具体的には、アクリロニトリル-スチレン共重合体をあげることができる。
【0057】
[樹脂(C2-1)、樹脂(C2-2)]
樹脂(C2-1)は、アクリロニトリル由来の構成単位(c1)を有する樹脂であり、前記構成単位(c2)を含まない樹脂である。この樹脂(C2-1)の例としては、ポリアクリロニトリル等があげられる。
また、樹脂(C2-2)は、芳香族ビニル系単量体由来の構成単位(c2)を有する樹脂であり、前記構成単位(c1)を含まない樹脂である。この樹脂(C2-2)の例としては、ポリスチレン、ポリα-メチルスチレン等があげられる。
【0058】
<樹脂(B)と樹脂(C)との混合比>
前記の樹脂(B)と樹脂(C)の混合比(重量比)は、B/Cで、99/1以下がよく、95/5以下が好ましい。樹脂(B)が多すぎると、全光線透過率が下がってヘイズが上昇するという問題点が生じるおそれがある。また、B/Cの下限は、1/99以上がよく、65/35以上が好ましい。樹脂(C)が多すぎると、全光線透過率が下がってヘイズが上昇するという問題点が生じるおそれがある。
【0059】
<樹脂(A)と樹脂(B)及び樹脂(C)との混合比>
前記の樹脂(A)と樹脂(B)及び樹脂(C)の混合比(重量比)は、樹脂(A)、樹脂(B)及び樹脂(C)の合計量を100重量部としたとき、樹脂(B)及び樹脂(C)の合計量は1重量部以上がよく、5重量部以上が好ましく、10重量部以上がより好ましく、20重量部以上が特に好ましい。樹脂(B)及び樹脂(C)の合計量が少なすぎると、位相差の低減が不十分という問題点が生じるおそれがある。また、樹脂(B)及び樹脂(C)の合計量の上限は、50重量部以下がよく、45重量部以下が好ましく、40重量部以下がより好ましい。樹脂(B)及び樹脂(C)の合計量が多すぎると、耐衝撃性が低下するという問題点が生じるおそれがある。
【0060】
<樹脂(A)の屈折率と、樹脂(B)及び樹脂(C)の混合樹脂の屈折率の差>
前記樹脂(A)の屈折率と、樹脂(B)及び樹脂(C)の混合樹脂の屈折率の差、すなわち、(樹脂(A)の屈折率)-(樹脂(B)と樹脂(C)の混合樹脂の屈折率)は、±0.007の範囲内がよく、±0.005の範囲内が好ましい。この屈折率の差が大きすぎると、全光線透過率が下がったり、ヘイズが上昇するおそれがある。
【0061】
<本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の樹脂(A)、樹脂(B)及び樹脂(C)を所定の割合で同時に、又は任意の順序でタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混合機により混合することにより製造することができる。
【0062】
<添加剤>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、中和剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、充填剤等を添加することも出来る。
【0063】
(離型剤)
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、シート成形時の冷却ロールからのロール離れ、或いは射出成形時の金型からの離型性をより向上させるなどのために、本発明の目的を損なわない範囲で離型剤が配合されていてもよい。
かかる離型剤としては、一価又は多価アルコールの高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸、パラフィンワックス、蜜蝋、オレフィン系ワックス、カルボキシ基及び/又はカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。離型剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0064】
前記高級脂肪酸エステルとしては、炭素数1~炭素数20の一価又は多価アルコールと炭素数10~炭素数30の飽和脂肪酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。かかる一価又は多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステル又は全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、ビフェニルビフェネ-ト、ソルビタンモノステアレート、2-エチルヘキシルステアレート等が挙げられる。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ベヘニン酸ベヘニルが好ましく用いられる。離型性と透明性の観点から離型
剤としてより好ましいのはステアリン酸エステルである。
【0065】
このステアリン酸エステルとしては、置換又は無置換の炭素数1~炭素数20の一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。かかる一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルとしては、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、ブチルステアレート、ソルビタンモノステアレート、2-エチルヘキシルステアレートなどがより好ましい。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリルステアレートが更に好ましく、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸モノグリセリドが特に好ましい。
【0066】
前記高級脂肪酸としては、置換又は無置換の炭素数10~炭素数30の飽和脂肪酸が好ましい。なかでも無置換の炭素数10~炭素数30の飽和脂肪酸がより好ましく、このような高級脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等が挙げられる。中でも炭素数16~18の飽和脂肪酸が更に好ましく、このような飽和脂肪酸としてパルミチン酸、ステアリン酸などが挙げられるが、ステアリン酸が特に好ましい。
【0067】
離型剤を用いる場合には、その配合量は、前記樹脂(A)、樹脂(B)及び樹脂(C)の合計量100重量部に対し、通常0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上であり、また、通常2重量部以下、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。離型剤の含有量が過度に多いと成形時に金型付着物が増える場合があり、大量に成形を実施した場合には金型の整備に労力を要する可能性があり、また、得られる成形品に外観不良をきたす可能性がある。熱可塑性樹脂組成物中の離型剤の含有量が上記下限以上であると成形時、成形品が金型から離型しやすくなり、成形品が取得しやすいという利点がある。
【0068】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては樹脂に使用される一般的な酸化防止剤が使用できるが、酸化安定性、熱安定性、漆黒性等の観点から、ホスファイト系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、及びフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0069】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に、酸化防止剤を添加する場合、その添加量は、樹脂(A)100質量部に対し、通常0.001質量部以上が好ましく、より好ましくは0.002質量部以上、更に好ましくは0.005質量部以上であり、通常5質量部以下が好ましく、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。
酸化防止剤の添加量が5質量部より多いと、成形時、金型を汚染し、優れた表面外観の成形品が得られないことがある。一方、0.001質量部未満であると、耐候試験に対する十分な改良効果が得られない傾向がある。
【0070】
<ホスファイト系酸化防止剤>
ホスファイト系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert
-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0071】
これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく使用される。
これらの化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
<イオウ系酸化防止剤>
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル-3,3´-チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル-3,3´-チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル-3,3´-チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル-3,3´-チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル-3,3´-チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール-3-ステアリルチオプロピオネート、ビス[2-メチル-4-(3-ラウリルチオプロピオニルオキシ)-5-tert-ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプト-6-メチルベンズイミダゾール、1,1´-チオビス(2-ナフトール)等が挙げられる。
これらの中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
これらの化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
<フェノール系酸化防止剤>
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルホスホネート-ジエチルエステル、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4´-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)、3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール等の化合物が挙げられる。
【0074】
これらの化合物の中でも、炭素数5以上のアルキル基によって1つ以上置換された芳香族モノヒドロキシ化合物が好ましく、具体的には、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が好ましく、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が更に好ましい。
これらの化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
(耐光安定剤)
耐光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤が挙げられ、その分子量は、1000以下が好ましく、900以下がより好ましい。分子量が1000を超えると、成形品としたときに耐候性が十分得られない可能性がある。また分子量は300以上が好ましく、400以上がより好ましい。分子量が300未満では、耐熱性に乏しく、成形時に金型を汚染し、優れた表面外観の成形品が得られないことがある。
【0076】
さらに、ピペリジン構造を有する化合物が好ましい。ここで規定するピペリジン構造とは、飽和6員環のアミン構造となっていればよく、ピペリジン構造の一部が置換基により置換されているものも含む。置換基としては、炭素数4以下のアルキル基が挙げられ、特にメチル基が好ましい。
ヒンダードアミン系光安定剤としては、特に、ピペリジン構造を複数有する化合物が好ましく、それら複数のピペリジン構造がエステル構造により連結されている化合物が好ましい。
【0077】
そのような耐光安定剤としては、4-ピペリジノール,2,2,6,6-テトラメチル-4-ベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-カルボン酸)1,2,3,4-ブタンテトライル、2,2,6,6-テトラメチル-ピレリジノールとトリデシルアルコールと1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸の縮合物、2,2,6,6-テトラメチル-ピレリジノールとメタノールと1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸の縮合物、ビス(1,2,3,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル、1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、1-[2-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-4-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4,4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、N,N´-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,6-ヘキサンジアミンポリマーと2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジンとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β,β-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン-ジエタノールとの縮合物、N,N´-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミンと2,4-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ]-6-クロロ-1,3,5-トリアジンとの縮合物、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンとの縮合物等が挙げられる。
【0078】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に耐光安定剤を添加する場合、その添加量は、樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上5質量部以下であり、好ましくは0.
005質量部以上3質量部以下、より好ましくは0.01質量部以上1質量部以下である。
耐光安定剤の添加量が5質量部より多いと、着色する傾向にあり、着色剤を添加したとしても、例えば深みと清澄感のある漆黒を得難い。一方、0.001質量部未満であると、自動車内外装品としたときに耐候性が十分得られない可能性がある。
【0079】
<熱可塑性樹脂組成物の物性>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、以下の物性を有することが好ましい。
・全光線透過率
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、全光線透過率が80%以上であることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂組成物の透明性により一層優れる。同様の観点から、全光線透過率は85%以上であることが特に好ましい。全光線透過率は、後述の方法により測定される。
【0080】
・ヘイズ
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ヘイズが45%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、15%以下であることが特に好ましく、5%以下であることが最も好ましい。この場合には、熱可塑性樹脂組成物の透明性により一層優れる。ヘイズは、後述の方法により測定される。
【0081】
・位相差
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、位相差が150nm以下であることが好ましく、130nm以下であることがより好ましく、125nm以下であることが特に好ましい。この場合には、熱可塑性樹脂組成物から成形される成形体は、位相差がより小さいので、この成形体を通した像が二重になったり、ぶれたりする等の歪みの抑制効果がより優れる。位相差は、後述の方法により測定される。
【0082】
<成形品>
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形品を成形する際、任意の成形法を用いることができるが、射出成形、射出圧縮、射出プレス成形が好適に用いられる。その際に用いるランナーも、通常のコールドランナー方式だけでなく、ホットランナー方式を用いることも可能である。また、インサート成形、インモールドコーティング成形、二色成形、サンドイッチ成形等も可能である。さらに意匠性を得るために、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形を用いることも可能である。
【実施例0083】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。まず、評価方法について説明する。
【0084】
[評価方法]
(1)屈折率
真空乾燥機を用いて、ペレットを80℃で6時間乾燥した。次に、乾燥したペレットをミニテストプレス((株)東洋精機製作所製MP-2FH)を用いて、230℃でプレス成形板(幅7mm×長さ15mm×厚さ1mm)を作製した。得られたプレス成形板を所定の寸法(幅160mm×長さ160mm×厚さ1mm)に切断し、アッベ屈折計(アタゴ社製「DR-M4」)で、589nm(D線)の干渉フィルターを用いて、屈折率nDを測定した。
【0085】
(2)全光線透過率測定
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を用いて、100℃で6時間乾
燥した。次に、乾燥した熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形機((株)日本製鋼所製:J85AD型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル40秒間の条件で、射出成形板(幅100mm×長さ100mm×厚さ2mm)を成形した。得られた射出成形板についてJIS K7361-1に準拠し、日本電色工業(株)製のNDH-7000IIを使用して前記試験片の全光線透過率を測定した。
【0086】
(3)ヘイズ測定
前記の全光線透過率測定と同じ試験片を使用し、JIS K7136に準拠して日本電色工業社製のNDH-7000IIを用いて前記試験片のヘイズを測定した。
【0087】
(4)鉛筆硬度測定
前記のヘイズ測定と同じ試験片を使用し、JIS K5600-5-4に準拠して、株式会社マイズ試験機製鉛筆硬度計を用いて鉛筆硬度を測定した。
【0088】
(5)位相差測定
前記の鉛筆硬度測定と同じ試験片を使用し、王子計測機器(株)製の位相差測定装置「KOBRA WWR/XY」により、波長590nmに対する位相差を測定した。測定は10mmx10mmのメッシュに分割して行い、分割したメッシュの各位相差の平均を平均位相差とした。
【0089】
(6)色相測定
前記の位相差測定と同じ試験片を使用し、コニカミノルタ(株)製の色相装置「CM-5」により、明度L*値を測定した。測定は、D65/10光源で反射測定径φ30mmを使用し反射法にてL*値を測定した
【0090】
下記条件を全て満たしたものを合格とした。
・全光線透過率:80%以上
・ヘイズ:45%以下
・鉛筆硬度:F以上
・平均位相差:170nm以下
【0091】
[原材料]
<ポリカーボネート樹脂(A)の原料>
・イソソルビド…ロケットフルーレ社製:POLYSORB、以下「ISB」と称する。・シクロヘキサンジメタノール…イーストマン社製、以下「CHDM」と称する。
・ジフェニルカーボネート…三菱ケミカル(株)製、以下「DPC」と称する。
【0092】
<樹脂(B)>
・ポリメタクリル酸メチル…三菱ケミカル(株)製、商品名:アクリペットVH、屈折率:nd=1.492、以下「PMMA」と称する。
<樹脂(C)>
・アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂…テクノUMG社製、屈折率:nd=1.569、商品名:サンレックス、以下「AS」と称する。
【0093】
[ポリカーボネート樹脂(A-1)の製造]
(製造例1)
撹拌翼及び100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISB、CHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPC及び酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.70/0.30/1.00/1.3×10-6になるように仕込み、十分に窒素置換して、酸素濃度0.0005~0.001体積%に調節した。
続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに60分間保持した。
【0094】
重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるジヒドロキシ化合物や炭酸ジエステルを重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼及び前記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温及び減圧を開始して、60分で内温220℃、圧力200Paにした。
その後、20分かけて内温230℃、圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で大気圧に復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでカーボネート共重合体のペレットにした。得られた樹脂(A-1)を以下の実施例及び比較例に用いた。なお、樹脂(A-1)の屈折率(nD)は、1.50であった。
【0095】
[ポリカーボネート樹脂(A-2)の製造]
(製造例2)
ISB、CHDMをモル比率でISB/CHDM=0.30/0.70にした以外は製造例1と同様に製造した。得られた樹脂(A-2)を以下の実施例及び比較例に用いた。なお、樹脂(A-2)の屈折率(nD)は、1.50であった。
【0096】
[ポリカーボネート樹脂(A-3)の製造]
(製造例3)
CHDMをTCDDMにした以外は製造例1と同様に製造した。得られた樹脂(A-3)を以下の実施例及び比較例に用いた。なお、樹脂(A-3)の屈折率(nD)は、1.511であった。
【0097】
(実施例1~13、比較例1~6、参考例1~3)
製造例1~3において製造した樹脂(A-1)、(A-2)、(A-3)、PMMA、ASを用い、表1に示すポリカーボネート樹脂組成物配合で各成分を配合し、2つのベント口を有する日本製鋼所社製2軸押出機(LABOTEX30HSS-32)を用いて、押出機出口の樹脂温度が250℃になるようにストランド状に押し出し、水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化した。この際、ベント口は真空ポンプに連結し、ベント口での圧力が500Paになるように制御した。参考例3は、実施例5の配合をベースに黒色に着色した。
得られた熱可塑性樹脂組成物の評価を前記した方法で行い、結果を表1に示した。
なお、PMMA及びASの位相差を参考例1、2に示し、各実施例との差異を確認した。
【0098】
【0099】
[結果]
前記の結果から、実施例1~13においては、十分に高い透明性と低い平均位相差が得られることが明らかとなった。さらに、参考例1~2からも明らかなように、樹脂(C)単独の平均位相差は著しく高いにもかかわらず、樹脂(B)と樹脂(C)の相溶化樹脂を含有する実施例1~13は、樹脂(A-1)又は樹脂(A-3)と樹脂(B)のみを含有する比較例1又は比較例4より高い透明性を保持しつつ、同等若しくはそれ以下の平均位相差が得られた。
一方、比較例2及び比較例5では試料の透明性が悪すぎたため、平均位相差の測定ができなかった。また、比較例3及び比較例6では実施例1~13と同様に十分に高い透明性が得られる反面、実施例1~13より高い平均位相差が得られることが明らかとなった。
参考例3ではL*値が0.74となり、十分に高い透明性と低い平均位相差が得られることで漆黒性を発現できることが明らかとなった。