(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151624
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】発泡紙積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20220929BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B32B5/18 101
B32B27/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018676
(22)【出願日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2021053909
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西野 嘉貢
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK04A
4F100AK06C
4F100AK51D
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA13D
4F100DG10B
4F100DJ01C
4F100DJ02C
4F100GB15
4F100GB16
4F100HB31D
4F100JB16A
4F100JB16C
4F100JJ02
4F100JL10D
4F100YY00C
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】
水性フレキソ印刷によって印刷層を形成する場合であっても、発泡性に優れ、且つ外観が良好な発泡紙積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明者らは、熱可塑性樹脂層(A)、紙基材、及び発泡熱可塑性樹脂層(B)を順次有する発泡紙と、前記発泡紙の前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の表面に、フレキソ印刷により形成された印刷層とを有する発泡紙積層体の製造方法であって、印刷層は、少なくとも白インキ層を有し、且つ、白インキ層が少なくとも2回の重ね刷りによって形成されることを特徴とする発泡紙積層体の製造方法によって、上記課題を解決し得ることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂層(A)、紙基材層、及び発泡熱可塑性樹脂層(B)を順次有する発泡紙と、前記発泡紙の前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の表面に、フレキソ印刷により形成された印刷層とを有する発泡紙積層体の製造方法であって、
印刷層は、少なくとも白インキ層を有し、且つ、白インキ層が少なくとも2回の重ね刷りによって形成されることを特徴とする、
発泡紙積層体の製造方法。
【請求項2】
前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の単位面積あたりの発泡セル数が800個/1cm2以上であることを特徴とする、
請求項1記載の発泡紙積層体の製造方法。
【請求項3】
前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の単位面積あたりの発泡セル数が1,000個/1cm2以上であることを特徴とする、
請求項1又は2記載の発泡紙積層体の製造方法。
【請求項4】
前記印刷層の膜厚が1.0~2.5μmであることを特徴とする、
請求項1~3のいずれか1項に記載の発泡紙積層体の製造方法。
【請求項5】
前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の厚さが500~950μmであることを特徴とする、
請求項1~4のいずれか1項に記載の発泡紙積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、印刷層を有する発泡紙積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡容器は、優れた断熱性を有することから、高温又は低温の液体を含む食品を収容するための容器として広く使用されており、なかでもカップ麺用途においては欠かせないものとなっている。カップ麺用の発泡容器としては、発泡スチロール製容器、及び発泡紙製容器が知られているが、近年、環境負荷及び安全性の観点から、発泡紙製容器が注目されている。
【0003】
発泡紙製容器は、紙基材層と、容器製造時などの加熱によって発泡し、断熱層を形成する熱可塑性樹脂層とを有する発泡紙材料を用いて製造される。通常、発泡紙製容器(発泡紙材料)の表面には、装飾模様、社名、バーコードなどの描かれた印刷層が形成される。そのため、印刷層は、発泡紙材料の熱可塑性樹脂層が加熱によって発泡し断熱層を形成する際に、発泡を妨げることなく、発泡追随性に優れることが望ましい。また、熱可塑性樹脂層が発泡した後の発泡紙積層体における印刷層の表面(印刷面)は、平滑であり、ひび割れ及び火脹れなどがなく、優れた外観(以下「発泡外観」という)を有することが望ましい。
【0004】
従来から、発泡紙製容器の印刷層の形成には、油性グラビアインキ及び油性フレキソインキといった油性インキが用いられている。油性インキは、バインダー樹脂の溶解性及び乾燥性の観点から、通常、トルエンなどの有機溶剤を含む。しかし、近年、環境負荷及び労働安全衛生性などの観点から、有機溶剤の使用に対する規制が厳しくなってきているため、水性フレキソインキへの切り替えが検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1は、発泡紙積層体の印刷層を形成するインキとして、バインダー樹脂、顔料、及び水を含み、上記バインダー樹脂がポリウレタン樹脂を含む、水性フレキソインキを開示している。また、特許文献2は、水性フレキソインキの塗装部(印刷層)によって発泡層の発泡を所定の範囲に抑制することを開示している。特許文献2で開示された水性フレキソインキは、着色剤、及びバインダー樹脂を含み、上記バインダー樹脂の樹脂固形分中、ガラス転移点が-20℃以上30℃以下のウレタン系樹脂を30質量%以上含有する。さらに、特許文献3は、バインダー樹脂として、アクリル系樹脂、アクリル-ウレタン共重合樹脂、スチレン-マレイン酸共重合樹脂、又はポリウレタン樹脂を含む、水性フレキソインキを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-058955号公報
【特許文献2】国際公開第2018/066031号公報
【特許文献3】特開2011-068381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発泡紙製容器の断熱性は、主に、発泡紙積層体において発泡層(断熱層)を構成する熱可塑性樹脂層の発泡性に依存する。しかし、加熱加工時の熱可塑性樹脂層の発泡性が高くなるに従い、熱可塑性樹脂層の上に形成される印刷層の表面において、ひび割れ及び火脹れといった外観不良が起こりやすくなる。そのため、印刷層は、ひび割れ及び火脹れといった外観不良を防止できるように、発泡を均一に抑制可能であることが望ましい。
【0008】
しかし、本発明を完成させる過程で、水性フレキソインキを用いた場合には、熱可塑性樹脂層(フィルム)のロット、位置、温度によって、外観不良が起こりやすいことが明らかになってきた。なお、フィルムのロット等によっては外観不良が起こらないこともあるため、この外観不良は、水性フレキソインキの塗膜物性によるものでないと推察される。
【0009】
したがって、上述の状況に鑑み、水性フレキソ印刷によって印刷層を形成する場合であっても、発泡性に優れ、且つ外観が良好な発泡紙積層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、水性フレキソインキを用いた際に、フィルムのロット等によって外観不良が起こる原因を究明するとともに、その課題解決方法について鋭意検討を行った。その結果、フィルムのロット等によって水性フレキソインキの塗布量に差が生じ、外観不良を引き起こすこと、インキ塗布量の斑を解消すれば、外観不良を解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一実施形態は、熱可塑性樹脂層(A)、紙基材層、及び発泡熱可塑性樹脂層(B)を順次有する発泡紙と、前記発泡紙の前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の表面に、フレキソ印刷により形成された印刷層とを有する発泡紙積層体の製造方法であって、印刷層は、少なくとも白インキ層を有し、且つ、白インキ層が少なくとも2回の重ね刷りによって形成されることを特徴とする、発泡紙積層体の製造方法に関するものである。
【0012】
一実施形態は、前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の単位面積あたりの発泡セル数が800個/1cm2以上であることを特徴とする、上記の発泡紙積層体の製造方法に関するものである。
【0013】
一実施形態は、前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の単位面積あたりの発泡セル数が1,000個/1cm2以上であることを特徴とする、上記の発泡紙積層体の製造方法に関するものである。
【0014】
一実施形態は、前記印刷層の膜厚が1.0~2.5μmであることを特徴とする、上記の発泡紙積層体の製造方法に関するものである。
【0015】
一実施形態は、前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の厚さが500~950μmであることを特徴とする、上記の発泡紙積層体の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フィルムのロット等によらず、発泡外観が良好な発泡紙製容器を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に記載する実施態様に限定されるものではない。
【0018】
<1> 発泡紙積層体
発泡紙積層体は、熱可塑性樹脂層(A)、紙基材層、及び発泡熱可塑性樹脂層(B)を順次有する発泡紙と、上記発泡紙の上記発泡熱可塑性樹脂層(B)の表面に形成された印刷層とを有し、上記発泡熱可塑性樹脂層(B)は、単位表面積あたりの発泡セル数が1,000個/1cm2以上であることを特徴とする。
【0019】
<発泡熱可塑性樹脂層(B)>
(発泡熱可塑性樹脂層(B)の単位表面積あたりの発泡セル数)
上記発泡熱可塑性樹脂層(B)(以下、発泡層(B)という)の単位表面積あたりの発泡セル数は、数が多いほど発泡層(B)に存在する気泡が小さく、数が少ないほど発泡層(B)に存在する気泡が大きいことを意味する。発泡層(B)に存在する気泡が大きくなると、印刷面のひび割れ、及び火脹れといった外観不良が起こりやすくなる。
【0020】
発泡層(B)の単位表面積あたりの発泡セル数は、少なくとも800個/1cm2以上であることが必要であり、1,000個/1cm2以上であることが好ましく、1,250個/1cm2以上であることがより好ましい。発泡セル数が上記範囲である場合、発泡層(B)上に形成された印刷層において、ひび割れ及び火脹れのない優れた発泡外観を容易に得ることができる。一方、発泡セル数の上限は特に限定されない。一実施形態において、製造条件などの観点から、上記発泡セル数は1,600個/1cm2以下であってよい。
【0021】
ここで、「単位面積あたりの発泡セル数」とは、発泡層(B)の表面において、縦横(X-Y)方向に一定の長さで区画される範囲内に存在する独立セル(気泡)の数をカウントし、1cm2あたりの独立セル数として算出される値を意味する。独立セル数は、発泡紙積層体の印刷層を溶剤で除去し、発泡層(B)の表面を露出させた後に、光学顕微鏡を用いて発泡層(B)の表面を観察することによって決定される。
【0022】
(発泡熱可塑性樹脂層(B)の厚さ)
発泡層(B)の厚さは、断熱性の観点から、500μm以上であることが好ましく、630μm以上であることがより好ましい。発泡層(B)の厚さが500μm以上であれば、発泡紙積層体をカップ状の容器に成形し、その容器内に100℃程度の熱水を注いだ場合にも、容器を素手で継続的に保持することが容易となる。一方、省資源化の観点から、樹脂の使用量は、できる限り少ない方が好ましい。また、断熱性の観点からは、断熱層として過剰品質となるほどの厚みは必要ない。したがって、発泡層(B)の厚さは、950μm以下であることが好ましく、900μm以下であることがより好ましく、800μmであることが極めて好ましい。
【0023】
上述の観点から、一実施形態において、上記発泡層(B)の厚さは、500~950μmが好ましく、500~900μmがより好ましく、500~800μmがさらに好ましい。発泡層(B)の厚さは、発泡紙積層体の断面を光学顕微鏡写真で観察し、紙基材の上面から、印刷層の下面までの高さを測定することによって決定される。
【0024】
(発泡紙積層体の総厚)
上記実施形態において、発泡紙積層体の総厚は、1,000~1,450μmが好ましく、1,000~1,300μmがより好ましい。ここで、総厚は、発泡紙積層体を構成する印刷層の上面から、熱可塑性樹脂層(A)の下面までの高さをいい、発泡紙積層体の断面を光学顕微鏡写真で観察し、前記高さを測定することによって決定した。
【0025】
上記実施形態の発泡紙積層体において、発泡紙の発泡層(B)は、加熱によって熱可塑性樹脂層が発泡した後の状態を意味する。すなわち、発泡層(B)は、前駆体となる未発泡の熱可塑性樹脂層(発泡熱可塑性樹脂層形成層(B0))を加熱し、発泡させることによって形成される。一実施形態において、上記発泡紙積層体を構成するために、熱可塑性樹脂層(A)と、紙基材と、上記熱可塑性樹脂層(A)よりも低い融点を有し、加熱処理によって発泡する、発泡熱可塑性樹脂層形成層(B0)とを順次有する発泡紙材料(加熱前発泡紙)を使用することができる。発泡紙材料は当技術分野で公知の材料から構成することができる。以下、発泡紙積層体の構成材料について具体的に説明する。
【0026】
<紙基材層>
(紙基材の坪量、および水分量)
発泡紙積層体を構成する紙基材層は、紙基材から構成されており、その種類は、特に限定されない。例えば、クラフト紙、又は上質紙を使用することができる。容器として使用する時に十分な強靭さを実現する観点から、紙基材の坪量は、150~450g/m2であることが好ましく、250~400g/m2であることがより好ましい。紙基材層の厚さは、110~860μmであることが好ましく、140~640μmであることがより好ましい。また、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂の好適な発泡性を得る観点から、紙基材層に含まれる水分量は4~10質量%が好ましく、5~8質量%がより好ましい。
【0027】
<熱可塑性樹脂層(A)、発泡層形成層(B0)>
一実施形態において、熱可塑性樹脂層(A)、及び発泡層形成層(B0)は、それぞれ、従来から容器材料として周知の樹脂材料からなるフィルムであってよい。例えば、ポリエチレン、及びポリプロピレンなどの延伸及び無延伸ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン、セロファン、及びビニロンからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなるフィルム(熱可塑性樹脂フィルム)を使用することができる。一実施形態において、ラミネート適性及び発泡性に優れることから、ポリエチレンフィルムを好適に使用することができる。
【0028】
発泡紙材料は、互いに融点が異なる熱可塑性樹脂フィルムを、それぞれ紙基材にラミネートすることによって構成することができる。ここで、熱可塑性樹脂層(A)として紙基材層の一面に設けられる熱可塑性樹脂フィルムよりも、発泡層形成層(B0)として紙基材層の他面に設けられる熱可塑性樹脂フィルムの融点(Mp)が低くなるように材料を選択する。発泡紙材料では、加熱処理時に紙基材層中の水分が蒸発し、その蒸発した水分が、軟化状態になった発泡層形成層(B0)(低Mp樹脂フィルム)側に押し出される。そして、そのような押し出しに伴って上記低Mp樹脂フィルムが外側に向かって膨み(発泡し)、発泡層(B)が形成される。このようにして形成される発泡層(B)は、容器において断熱層として機能する。一方、熱可塑性樹脂層(A)(高Mp樹脂フィルム)については、低Mp樹脂フィルムが加熱処理によって発泡する時に、溶融又は軟化しない材料を選択する。
【0029】
発泡紙積層体を使用して発泡紙製容器を製造する観点から、発泡紙材料は、例えば、紙基材層の一面(容器の内側)に約125℃~140℃の融点を有する高Mpポリエチレンフィルム(熱可塑性樹脂層(A))、及び上記紙基材層の他面(容器の外側)に約105℃~120℃の融点を有する低Mpポリエチレンフィルム(発泡層形成層(B0))をそれぞれラミネートした構造を有してよい。発泡紙製容器の製造時などの加熱によって、低Mpポリエチレンフィルムが発泡して発泡層を形成する。一方、高Mpポリエチレンフィルムは、被覆層として機能することが好ましい。すなわち、被覆層は、低Mpポリエチレンフィルムの発泡中に、紙基材層中の水分が外部に蒸散することを抑制し、紙基材層中の水分を効率よく発泡に寄与させることが可能である。
【0030】
(発泡形成層(B0)の密度)
一実施形態において、発泡層形成層(B0)の材料は、ポリエチレン樹脂のなかでも、低密度ポリエチレン樹脂(密度910~925kg/m3、融点105~120℃)を含むことが好ましい。低密度ポリエチレン樹脂の密度は、より好ましくは910~922kg/m3であり、さらに好ましくは910~918kg/m3である。一方、発泡層形成層(B0)の材料として、中密度ポリエチレン樹脂(密度925~940kg/m3、融点115~130℃)、及び高密度ポリエチレン樹脂(密度940~970kg/m3、融点125~140℃)を使用した場合、融点が高く、十分な発泡性を得ることが困難となる傾向がある。なお、ポリエチレン樹脂の密度は、JIS K 6922-1(1997)により測定された値である。
【0031】
(発泡層形成層(B0)のメルトフローレート)
また、均一に発泡した層を得る観点から、ポリエチレン樹脂のメルトフローレート(以下、「MFR」という)は、8~28g/10分であることが好ましく、10~20g/10分であることがより好ましい。なお、ポリエチレン樹脂のMFRは、JIS K 6922-1(1997)により測定された値である。
【0032】
(発泡層形成層(B0)の膜厚)
特に限定するものではないが、一実施形態において発泡層形成層(B0)の膜厚は、40μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましい。膜厚を40μm以上に調整することによって、加熱発泡処理後に十分な断熱性を得ることができる。
【0033】
一方、省資源化の観点から、樹脂の使用量は、できる限り少ない方が好ましい。また、断熱性の観点においても、過剰品質となるほどの厚さは必要ない。したがって、発泡層形成層(B0)の膜厚は、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることが極めて好ましい。
【0034】
<印刷層>
上記実施形態の発泡紙積層体において、印刷層は、発泡紙材料の発泡層形成層(B0)の表面に水性フレキソインキ組成物を塗布して得られる塗膜である。印刷層を構成する塗膜の主成分は、水性フレキソインキ組成物中のバインダー樹脂であり、バインダー樹脂はポリウレタン樹脂を含有することが好ましい。
【0035】
(印刷層の膜厚)
印刷層(乾燥後の塗膜)の膜厚は、印刷層による発泡抑制の観点から、1.0~2.5μmであることが好ましい。印刷層の膜厚は、より好ましくは1.2~2.5μmであってよく、さらに好ましくは1.5~2.5μmであってよい。
【0036】
<2> 水性フレキソインキ
本発明の水性フレキソインキは、ポリウレタン樹脂(X)、水、アルコール系溶剤、着色剤及びその他材料を含むものである。
【0037】
柔軟性のあるポリウレタン樹脂(X)を主成分とすることで、発泡層形成層(B0)の過発泡を抑制しつつ、発泡の印刷層のひび割れなどを抑制することができる。
【0038】
ポリウレタン樹脂(X)の一実施形態としては、少なくともポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるポリウレタン樹脂(X1)が挙げられる。また、他の実施形態としては、ポリウレタン樹脂のプレポリマーを鎖延長して得られる、ポリウレタンウレア樹脂(X2)が挙げられる。
【0039】
先ず、ポリウレタン樹脂(X1)は、酸基を有するポリオール(y1)及びポリマーポリオール(y2)(必要に応じてその他ポリオール(y3))と、ポリイソシアネート(z1)とを反応させることにより得ることができる。また、ポリウレタンウレア樹脂(X2)は、酸基を有するポリオール(y1)及びポリマーポリオール(y2)(必要に応じてその他ポリオール(y3))と、ポリイソシアネート(z1)とを反応させて得られたイソシアネート末端のプレポリマーに、鎖延長剤(z2)を反応させることにより得ることができる。
【0040】
酸基を有するポリオール(y1)としては、例えば、カルボキシル基を有するポリオール、スルホン酸基を有するポリオール等が挙げられる。
【0041】
カルボキシル基を有するポリオールとしては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸等が挙げられる。なかでも分散安定性が良好な、2,2-ジメチロールプロピオン酸や2,2-ジメチロールブタン酸が好ましい。
【0042】
前記スルホン酸基を有するポリオールとしては、例えば、5-スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4-スルホフタル酸、5-(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸等のジカルボン酸またそれらの塩と、エチレングリコールやプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の低分子ポリオールとを反応させて得られるポリエステルポリオールが挙げられる。これらの酸基を有するポリオールは、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
酸基を有するポリオール(y1)は、ウレタン樹脂(X)の酸価が10~50となる範囲で用いることが好ましく、10~35となる範囲で用いることがより好ましい。この範囲であれば、ウレタン樹脂(X)を水に溶解、又は自己乳化させることができる。また、ウレタン樹脂が水に溶解、又は自己乳化することにより、顔料分散性も向上する。
【0044】
ポリマーポリオール(y2)としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオールなどが挙げられ、中でも、ポリエーテルポリオール、及び/又はポリエステルポリオールを使用することがより好ましい。
【0045】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタジオールから得られるポリエステルポリオール(PMPA)、アジピン酸と1,2―プロパンジオールとから得られるポリエステルジオール(PPA)等が挙げられる。これらのポリマーポリオールは、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
ポリマーポリオール(y2)の数平均分子量は、反応生成物として得られるポリウレタン樹脂の耐エタノール性、伸び率及び応力などの特性を考慮して適宜決定されるため、特に限定するものではないが、通常、ポリマーポリオール(y2)の数平均分子量は、500~10,000の範囲が好ましく、500~6,000の範囲がより好ましい。
【0047】
また、本発明では、前記のポリオールの他に、その他ポリオール(y3)を用いることができる。
【0048】
その他ポリオール(y3)としては、例えば、シクロブタンジオール、シクロペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、シクロヘプタンジオール、シクロオクタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキシプロピルシクロヘキサノール、ジシクロヘキサンジオール、ブチルシクロヘキサンジオール、1,1’-ビシクロヘキシリデンジオール、シクロヘキサントリオール、水素添加ビスフェノ-ルA、1,3-アダマンタンジオール等の、概ね100~500程度の低分子量の脂環式構造含有ポリオールが挙げられる。これらのその他ポリオールは、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
また、印刷物のブロッキングを抑制するために、ポリオール総量に対して前記ポリオール(y3)を1~20重量%の範囲で用いることが好ましい。なお、ポリオール総量とは、酸基を有するポリオール(y1)、ポリマーポリオール(y2)、及びその他ポリオール(y3)を合計した量を指す。
【0050】
ポリイソシアネート(z)としては、ポリウレタン樹脂の製造に一般的に用いられる各種公知の芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。例えば、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4'-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4'-ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメリールジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ビス-クロロメチル-ジフェニルメタン-ジイソシアネート、2,6-ジイソシアネート-ベンジルクロライドやダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等が挙げられる。これらのジイソシアネート化合物は単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
上述のポリイソシアネートの中でも、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネートの3量体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0052】
鎖延長剤(z2)としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジアミンなどのジアミン化合物、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピルジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシピロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシピロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミンなど分子内に水酸基を有するアミン化合物、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン:(IBPA、3,3'-ジアミノジプロピルアミン)、N-(3-アミノプロピル)ブタン-1,4-ジアミン:(スペルミジン)、6,6-イミノジヘキシルアミン等の多官能アミン化合物、ヒドラジン、N,N’-ジメチルヒドラジン、1,6-ヘキサメチレンビスヒドラジン、コハク酸ジヒドラジッド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、β-セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド、3-セミカルバジッド-プロピル-カルバジン酸エステル、セミカルバジッド-3-セミカルバジドメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン等のヒドラジン化合物が挙げあれる。
【0053】
また、過剰反応停止するために、重合停止剤(z3)を用いることができる。具体的には、1級、2級のアミノ基を有する化合物、ジ-n-ブチルアミン等のジアルキルアミン類やアミノアルコール類等が挙げられる。
【0054】
さらに、酸価を有するポリウレタン樹脂を中和によって水性化するために、中和剤(z4)を用いることが好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。なお、印刷後にインキ塗膜に中和剤が残留していると、耐水性が落ちやすく、且つ残留臭気の問題が生じるため、印刷によって速やかに揮発するアンモニアを中和剤として用いることが好ましい。
【0055】
ポリウレタン樹脂(X)の合成方法としては、例えば、イソシアネートに対して反応性を有さず、親水性の有機溶剤を用いて重合する方法(溶剤法)、溶剤を使用せずに重合する方法(無溶剤法)などが挙げられる。
【0056】
イソシアネートに対して反応性を有さず、親水性の有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル等のエステル溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶剤が挙げられる。なお、溶剤法では、重合反応後に水と中和剤を添加し、さらに有機溶剤を除去する必要がある。このため、有機溶剤としては、水より低沸点の溶剤を使用することが好ましい。
【0057】
(ポリウレタン樹脂(X)の含有量)
なお、水性フレキソインキの固形分中、ポリウレタン樹脂(X)を20重量%以上、70重量%以下含むことが好ましく、40~60重量%含むことがより好ましい。ポリウレタン樹脂(X)を20重量%以上含むことで充分な接着性を実現できる。また、ポリウレタン樹脂(X)を70重量%以下とすることで、印刷に適した粘度に調整しやすい。
【0058】
本発明では、水性フレキソインキの溶剤として水以外にアルコール系溶剤を併用することができる。アルコール系溶剤を併用することで、乾燥性や印刷基材への濡れ性を向上させることができる。具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等を用いることができる。
【0059】
(白色顔料)
本実施形態に用いられる水性フレキソインキは各種の着色剤を含む。白インキの着色剤(白色顔料)としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。白色顔料の含有量は、白インキの全重量を基準として、20重量%以上、50重量%以下であればよく、かかる範囲内とすることにより、所望の着肉濃度を得ることができる。また、隠蔽性、及び耐光性の観点から、白色顔料は二酸化チタンが好ましい。
【0060】
(有色顔料)
有色インキの着色剤(有色顔料)としては、カーボンブラック、アルミニウム、ベンガラ(酸化鉄)等の無機顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、キナクリドン系顔料、チオインジゴ系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、ジクトピロロピロール系顔料などの有機顔料などが挙げられる。有色顔料の含有量は、有色インキの全重量を基準として、5重量%以上、30重量%以下であればよく、かかる範囲内とすることにより、所望の着肉濃度を得ることができる。
【0061】
(体質含量)
本実施形態に用いられる水性フレキソインキはさらに、体質顔料を含んでもよい。前記の通り、本実施形態に用いられる水性フレキソインキは、ポリウレタン樹脂を多く含有している。このため、印刷層がブロッキングを起こしやすい。しかしながら、本実施形態では体質顔料を含むことにより、ポリウレタン樹脂の柔軟性を維持しつつも、印刷層のブロッキングを抑えることができる。
【0062】
前記体質顔料としては、シリカ(二酸化ケイ素)が挙げられる。シリカの粒子径は、2μm以上、20μm以下であることが好ましく、3μm以上、10μm以下であることがより好ましい。2μm以上、20μm以下のシリカを使用することで、印刷不良を起こすことなく、ブロッキングを抑制できる。
【0063】
本実施形態においてシリカを含有する場合、水性フレキソインキの全重量を基準として、シリカを0.2質量%以上、5重量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以上、3.5質量%以下とすることがより好ましい。シリカの含有量が上記範囲とすることにより、ブロッキングを抑制するとともに、水性フレキソインキとして取扱いやすい粘度に調整することができる。
【0064】
<3> 発泡紙積層体の製造方法
一実施形態は、発泡積層体の製造方法に関する。すなわち、一実施形態は、熱可塑性樹脂層(A)、紙基材層、及び発泡層(B)を順次有する発泡紙と、上記発泡紙の発泡層(B)の表面に形成された印刷層とを有し、上記発泡層(B)の単位表面積あたりの発泡セル数が1,000個/1cm2以上の発泡紙積層体を製造するための方法に関する。この製造方法は、以下の工程(i)~(iii)、すなわち
(i)ラミネート工程
(ii)フレキソ印刷工程
(iii)発泡工程
を含む。
【0065】
上記製造方法において、(i)ラミネート工程、(ii)フレキソ印刷工程、(iii)発泡工程は、それぞれ当技術分野で周知の方法に従って実施することができる。以下、各工程について説明する。
【0066】
(工程(i):ラミネート工程)
発泡紙材料の準備は、例えば、押出ラミネート法に従って実施することができる。発泡紙材料を構成する、紙基材、熱可塑性樹脂層(A)、及び発泡層形成層(B0)の構成材料は先に説明したとおりである。押出ラミネート法として、シングルラミネート法、タンデムラミネート法、サンドウィッチラミネート法、及び共押出ラミネート法などの周知の方法を適宜選択することができる。一実施形態において、熱可塑性樹脂層(A)、及び発泡層形成層(B0)の構成材料として、それぞれ融点の異なるポリエチレン樹脂を好適に使用することができる。
【0067】
発泡層形成層(B0)は、熱可塑性樹脂層(A)を構成するポリエチレン樹脂の融点(Mp)よりも低いMpを有するポリエチレン樹脂(低Mpポリエチレン樹脂)を使用して構成する。発泡紙材料は、Tダイ押出機を通して、紙基材層の片面に対して低Mpポリエチレン樹脂をフィルム状に押出し、また紙基材層の他面に対して高Mpポリエチレン樹脂をフィルム状に押出すことによって製造することができる。
【0068】
ラミネート時のポリエチレン樹脂の温度(Tダイ直下の温度)は、300~350℃が好ましく、320℃~340℃がより好ましい。この温度範囲であれば、各ポリエチレン樹脂層(A、B0)と紙基材層との間に十分なラミネート強度を実現できる。ラミネート後に経由する冷却ロールの表面温度は10~50℃の範囲で制御することが好ましい。
【0069】
一実施形態において、ラミネート速度は、50~130m/分が好ましく、60~110m/分がより好ましい。ラミネート速度が遅すぎると生産性が低く、一方、ラミネート速度が早すぎると、ネックインによって歩留まりが低下する傾向がある。ネックインとは、Tダイ押出機によってポリエチレン樹脂を押出しフィルム化する際に、Tダイの有効幅よりも、押し出されたポリエチレン樹脂フィルムの幅が小さくなる現象である。この際、フィルムの両端部が中央部よりも厚くなる。両端部の厚みが規格から外れる場合には、両端部を切断・除去するのが一般的であるが、ネックインが酷い場合には、規格から外れる面積が増加するため、歩留まりが低下する。
【0070】
一実施形態において、エアギャップは、300mm以下が好ましく、200mm以下がより好ましい。エアギャップを広げすぎると、ポリエチレン樹脂がネックインし、歩留まりが低下する傾向がある。エアギャップとは、Tダイの押出口からニップロールまでの距離を指す。ポリエチレン樹脂がエアギャップを通過している間に、オゾンガス及び/又は酸素ガスを用いて、ポリエチレン樹脂の表面処理を行うことが好ましい。オゾンガス及び/又は酸素ガスを用いて表面処理を行うことによって、酸化被膜の形成を促進し、基材層との接着力を向上させることができる。オゾンガス及び/又は酸素ガスの処理量には特に限定はないが、ポリエチレン樹脂の酸化を促進する観点で、0.5mg/m2以上が好ましい。
【0071】
(工程(ii):フレキソ印刷工程)
印刷層は、フレキソ印刷により形成される。フレキソ印刷は印刷時の見当ズレが少なく、生産効率の良い印刷方式であるが、凸版を使用するためインキの塗布量には限界がある。このため、フレキソ印刷では他の印刷方式(例えばグラビア印刷)と比べて、顔料濃度の高いインキを用いるのが一般的である。しかしながら、本発明において印刷層(特に白インキ層)には、発泡層形成層(B0)の過発泡を抑制する機能が必要とされるため、顔料濃度が高く、樹脂比率の低いインキを使用することができない。
【0072】
そこで本発明では、白インキ層を少なくとも2度刷りによって形成することが必要である。白インキを2度刷りすることにより、高い意匠性(隠蔽性)と、過発泡の抑制を両立することができる。
【0073】
(工程(iii):発泡工程)
発泡層(B)の形成において、適切な加熱温度及び加熱時間は、使用する紙基材層、及び熱可塑性樹脂フィルムの特性に依存して変化する。当業者であれば、使用する熱可塑性樹脂フィルムなどの材料に応じて、最適な加熱温度と加熱時間との組合せ条件を決定することができる。特に限定するものではないが、一般的に、加熱処理は、容器の成形工程において実施される。加熱処理時の加熱温度が低すぎると十分な発泡性が得られず、加熱温度が高すぎると発泡セルが結合し火脹れが生じやすくなる。
【0074】
特に限定するものではないが、発泡層形成層を低密度ポリエチレンフィルムから構成する場合、加熱温度は、好ましくは100~125℃であってよく、より好ましくは110~120℃であってよい。加熱時間は、加熱温度に応じて適宜調整することができるが、3~10分間が好ましく、5~7分がより好ましい。一実施形態において、発泡層形成層を低密度ポリエチレンフィルムから構成し、その上に先に説明した水性フレキソインキ組成物を使用して印刷層を形成する場合、加熱温度を110~123℃、加熱時間を5~7分に調整することが好ましい。加熱温度を115~121℃、加熱時間を5~7分に調整することがより好ましい。上記条件下で加熱を行った場合、印刷層によって加熱加工時の発泡層形成層の発泡を適切に制御することが容易となる。
【0075】
加熱手段として、熱風、電熱、電子線など任意の手段を使用できる。コンベヤによる搬送手段を備えたトンネル内で熱風又は電熱などによって加熱すれば、安価に大量の加熱処理を実施できる。
【0076】
<4> 発泡紙製容器
一実施形態は、上記実施形態の発泡紙積層体を具備する発泡紙製容器に関する。発泡紙製容器は、容器胴体部材と底板部材とから構成され、容器胴体部材が上記実施形態の発泡紙積層体から形成されることを特徴とする。
【0077】
発泡紙製容器の成形加工は、周知の技術を適用して実施することができる。例えば、最初に印刷層を形成した発泡紙積層体(加熱前の発泡紙積層体)を型に沿って所定の形状に打ち抜き容器胴体部材を得る。同様にして、底板材料を所定の形状に打ち抜いて底板部材を得る。次に、常用の容器製造装置を用いて、容器胴体部材と、底板部材とを容器の形状に組み立て成形する。容器製造装置による容器の組み立て成形は、容器胴体部材の上記高Mp樹脂フィルムが内壁面を形成し、上記低Mp樹脂フィルムが外壁面を形成し、さらに底板部材のラミネート面が内側となるようにして実施する。このように容器製造装置によって容器を組み立て成形した後、加熱処理を行うことによって、低Mp樹脂フィルムが発泡し、発泡層(断熱層)を形成し、断熱性を有する発泡紙容器を得ることができる。
【0078】
一実施形態において、発泡紙製容器の胴部内壁面、及び胴部外壁面をそれぞれポリエチレンフィルムから構成する場合、紙基材の一方の面(容器の内壁面)は中密度又は高密度ポリエチレンフィルムでラミネートし、他方の面(容器の外壁面)は低密度ポリエチレンフィルムでラミネートすることが好ましい。紙基材にラミネートする各フィルムの厚さは、特に限定されない。しかし、容器胴部の外壁面を構成する低Mp樹脂フィルムの厚さは、フィルムを発泡させた場合に、発泡後のフィルムが断熱層として機能するのに十分な厚みとなるように適宜設定されることが好ましい。
【0079】
例えば、容器胴部の外壁面を低密度ポリエチレンフィルムで構成する場合、紙基材にラミネートするフィルムの厚さは40~150μmであってよい。一方、容器胴部の内壁面を中密度又は高密度ポリエチレンフィルムで構成する場合、紙基材にラミネートするフィルムの厚さは、特に限定されない。しかし、断熱性発泡紙製容器として使用した時に内容物の耐浸透性が確保されるように、フィルムの厚さを適宜設定することが好ましい。紙基材にラミネートするフィルムの厚さは、使用するフィルムの樹脂材料によって異なるため、樹脂材料の特性を考慮して、当業者が適切に設定することが望ましい。
【実施例0080】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載する「部」及び「%」は、特段の注釈の無い限り、「重量部」及び「重量%」を表す。
【0081】
(試作例1)
紙基材層の片面に中密度ポリエチレン樹脂を押出ラミネートし、さらに紙基材層の反対面には低密度ポリエチレン樹脂を押出ラミネートした(ラミネート工程)。次に、低密度ポリエチレン側の面に、CI型フレキソ印刷機を用いて水性フレキソインキを印刷した(印刷工程)。印刷後、121℃のオーブンで120秒加熱し、発泡紙積層体1(試作例1)を製造した(発泡工程)。
【0082】
ラミネート工程の詳細は下記の通りである。
【0083】
(紙基材)
紙基材:水分量23g/m2、坪量320g/m2
【0084】
(熱可塑性樹脂層(A):中密度ポリエチレン樹脂層)
中密度ポリエチレン樹脂(M):東ソー社製「ペトロセンLW04-1」、MFR4.3g/10分、密度940kg/m3
押出温度(Tダイ出口温度):320℃
引取速度(ラミネート速度):50m/分
エアギャップ:130mm
厚さ:40μm(ポリエチレン樹脂層の中央部の厚さ)
【0085】
(発泡層形成層(B0):低密度ポリエチレン樹脂層)
低密度ポリエチレン樹脂(L);東ソー社製「ペトロセン07C03C」、MFR15g/10分、密度918kg/m3
押出温度(Tダイ出口温度):310℃
引取速度(ラミネート速度):60m/分
エアギャップ:130mm
厚さ:70μm(ポリエチレン樹脂層の中央部の厚さ)
【0086】
印刷工程の詳細は下記の通りである。
印刷機:CI型フレキソ印刷
水性フレキソインキ:白色顔料20重量%、ウレタン樹脂30重量%、水45重量%、エタノール5重量%
アニロックス線数(lpi):表1参照
アニロックス容量(ml/m2):表1参照
【0087】
本試作例の発泡紙積層体の層構成は、以下のように表現される。
印/LDPE 70/紙/MDPE 40
「/」は層と層の境界を表している。左端の層が、発泡紙積層体の外面を構成する層であり、右端の層が、発泡紙積層体の最内面を構成する層である。「印」は 、印刷層を意味する。「LDPE」は、低密度ポリエチレン樹脂層を意味する。「紙」は、紙基材層を意味する。「MDPE」は、中密度ポリエチレン樹脂層を意味する。数字は、層の厚み(単位はμm)を意味する。
【0088】
(評価)
発泡紙積層体について、印刷層の膜厚、隠蔽性、発泡層(B)のセル数、発泡紙積層体の総厚、及び外観評価(火脹れ、及びひび割れ)の評価を行った。詳細は下記の通りである。
【0089】
(印刷層の膜厚)
発泡紙積層体の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真(倍率5,000)から印刷層の膜厚を測定した。なお、任意の5箇所について測定を行い、これらの平均値を表1に記載している。
【0090】
(隠蔽性)
印刷層(顔料の量)が薄い場合には、印刷層の隠蔽性が不十分なため、発泡セルが透けて見えてしまうことがある。そこで、印刷層の隠蔽性を下記の基準で評価した。
〇:発泡セルが見えておらず、隠蔽性が良好である。
×:発泡セルが透けて見えてしまい、隠蔽性が不良である。
【0091】
(発泡紙積層体の総厚)
発泡紙積層体の総厚は、上述の通り、発泡紙積層体の断面を光学顕微鏡写真で観察して、印刷層の上面から、熱可塑性樹脂層(A)の下面までの高さを測定することによって決定した。
【0092】
(発泡層(B)の発泡セル数)
発泡紙積層体の印刷層をメチルエチルケトン(MEK)で除去し、発泡層(B)の表面を露出させた。次いで、光学顕微鏡(ニコン社製、AZ100M)を用いて発泡層(B)の表面を観察し(倍率25倍)、縦横(X-Y)方向に一定の長さで区画される範囲内に存在する独立セルの数を求め、さらに1cm2あたりの独立セル数として算出される値を得た。なお、任意の5箇所について観察を行い、これらの平均値を表1に記載している。
【0093】
(発泡層(B)厚さ)
発泡層(B)の厚さは、発泡紙積層体の断面を光学顕微鏡写真で観察し、紙基材の上面から、印刷層の下面までの高さを測定することによって決定した。また、発泡前の膜厚は、発泡層形成層の膜厚に対応する。そのため、発泡層形成層として形成した低密度ポリエチレン樹脂の膜厚を測定して得た値とした。
【0094】
(外観評価)
<火膨れ>
発泡紙積層体の印刷面を目視で観察した。評価基準は以下の通りである。なお、表1に示した結果は、発泡紙積層体を無造作に10個サンプリングし、評価した際の最頻値である。最頻値が複数存在する場合は、より低い評価となる値を採用した。
(評価基準)
〇:火脹れが全くない(火脹れが確認できない)。
△:長径5mm未満の火脹れが、100cm2あたり1~2個存在する。
×:長径5mm未満の火脹れが、100cm2あたり3個以上存在する。又は、長径5mm以上の火脹れが、100cm2あたり1個存在する。
なお、長径が異なる複数の火脹れが混在している場合は、より低い評価を採用する。具体的には、100cm2あたり、長径5mm未満の火脹れが2個、及び長径5~20mmの火脹れが1個存在する場合は、評価は「×」となる。
【0095】
<ひび割れ>
発泡紙積層体について、火膨れの評価と同様に、目視にて発泡紙積層体の印刷面を観察した。評価基準は以下の通りである。なお、表1に示した結果は、発泡紙積層体のサンプルを無造作に10個準備し、各サンプルを観察及び評価した結果における最頻値である。最頻値が複数存在する場合は、より低い評価となる値を採用した。
(評価基準)
〇:ひび割れが全くない(ひび割れが確認できない)。
△:長さ2mm未満のひび割れが、100cm2あたり1~4本存在する。
×:長さ2mm未満のひび割れが、100cm2あたり5本以上存在する。又は、長さ2mm以上のひび割れが、100cm2あたり1本以上存在する。
なお、長さの異なる複数のひび割れが混在している場合には、より低い評価を採用する。具体的には、100cm2あたり、長さ1mmのひび割れが1本、及び長さ4mmのひび割れが1本存在する場合は、評価は「×」となる。
【0096】
【0097】
なお、試験例1~7の発泡紙積層体において、発泡層(B)の厚さは、500~950μmであり、さらに、試験例3~7の発泡紙積層体の発泡層(B)の厚さは、500~800μであった。