IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-抗体の分析方法 図1
  • 特開-抗体の分析方法 図2
  • 特開-抗体の分析方法 図3
  • 特開-抗体の分析方法 図4
  • 特開-抗体の分析方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151678
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】抗体の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20220929BHJP
   C07K 14/735 20060101ALI20220929BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220929BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20220929BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20220929BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20220929BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G01N33/68
C07K14/735 ZNA
C12M1/00 A
C12M1/34 F
B01J20/281 R
G01N30/86 F
G01N30/88 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033413
(22)【出願日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2021051535
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 泰之
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 諭
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045DA37
4B029AA07
4B029BB17
4B029CC01
4B029FA12
4B029FA15
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA50
4H045FA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】 試料中に含まれる抗体を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を用いたアフィニティクロマトグラフィにより、再現性高く分析可能な方法を提供すること。
【解決手段】 前記アフィニティクロマトグラフィで得られる被検抗体の分離パターンを、当該分離パターンおよび標準抗体の分離パターンに共通して存在する複数の特徴点での溶出時間と、両パターンにおける前記複数の特徴点での溶出時間差との関係式に基づき補正してから分析することで、前記課題を解決する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)から(g)に示す工程を含む、試料中に含まれる被検抗体の分析方法:
(a)Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに標準抗体を含む試料を添加し、当該標準抗体を前記担体に吸着させた後、前記担体に吸着した標準抗体を溶出液を用いて溶出させ、標準抗体の第1の分離パターンを得る工程;
(b)前記(a)の工程の後に、前記カラムに被検抗体を含む試料を添加し、当該被検抗体を前記担体に吸着させた後、前記担体に吸着した被検抗体を前記溶出液を用いて溶出させ、被検抗体の分離パターンを得る工程;
(c)前記(b)の工程の前または後に、前記(a)の工程を再度実施し、標準抗体の第2の分離パターンを得る工程;
(d)前記第1および第2の標準抗体の分離パターンに共通して存在する複数の特徴点を選択する工程;
(e)前記(d)の工程で選択した複数の特徴点での溶出時間と、当該複数の特徴点での溶出時間の差異との関係式を作成する工程;
(f)前記(e)の工程で作成した関係式に基づき、前記(b)の工程で得られた被検抗体の分離パターンを補正する工程;および
(g)前記(f)の工程で補正した被検抗体の分離パターンに基づき、当該被検抗体を分析する工程。
【請求項2】
前記(g)の工程が、前記(f)の工程で補正した被検抗体の分離パターンの特徴値を求める工程を含む、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記(g)の工程が、前記(f)の工程で補正した被検抗体の分離パターンを、標準抗体または被検抗体の分離パターンに共通して存在する特徴点での溶出時間で分割し、当該分割した領域での特徴値を求める工程を含む、請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記複数の特徴点が、分離パターンの極値点および/または変曲点である、請求項1から3のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項5】
前記(c)の工程が、前記(b)の工程の直前または直後に実施される、請求項1から4のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項6】
前記試料が、体液である、請求項1から5のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項7】
被検抗体および標準抗体がヒト由来の抗体であり、Fc結合性タンパク質がヒトFcγRIIIaである、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ヒトFcγRIIIaが以下の(1)から(3)のいずれかのポリペプチドである、請求項7に記載の方法:
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、少なくとも176番目のバリンがフェニルアラニンに置換されたポリペプチド;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、少なくとも176番目のバリンのフェニルアラニンへの置換を有し、さらに前記置換以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸配列において、176番目のバリンのフェニルアラニンへの置換を有するアミノ酸配列全体
に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、ただし前記置換を含むアミノ酸配列を含み、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【請求項9】
前記複数の特徴点が、3つまたはそれ以上の特徴点である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体を分析する方法に関する。特に本発明は、アフィニティクロマトグラフィを用いて抗体を再現性高く分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガンや免疫疾患等の治療に抗体を含む医薬品(抗体医薬品)が用いられている。抗体医薬品に用いる抗体は、遺伝子工学的手法により得られた、当該抗体を発現可能な細胞(たとえば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等)を培養後、カラムクロマトグラフィ等を用いて高純度に精製し製造されている。しかしながら近年の研究により、前記製造により得られた抗体は、酸化、還元、異性化、糖鎖付加等の修飾を受けることで多様な分子の集合体となっていることが判明しており、薬効や安全性への影響が懸念されている。特に、抗体に結合している糖鎖構造は、抗体医薬品の活性、動態、および安全性に大きな影響を与えることが報告されており、詳細な糖鎖構造の解析が重要である(非特許文献1)。またリウマチ等の疾患では、血液中の抗体に付加される糖鎖構造の変化が知られており(非特許文献2および3)、抗体に付加された糖鎖構造を分析することで疾患を検出できる可能性がある。
【0003】
抗体の糖鎖構造を分析する方法として、糖鎖の切り出しを含むLC-MS分析(特許文献1および2)が主に実施されている。しかしながら、前記分析方法では非常に煩雑な操作を伴い、多大な時間を要する。より簡便な抗体の分子構造の分析方法として、不溶性担体に固定化されたFc結合性タンパク質と抗体との親和性に基づくアフィニティクロマトグラフィによる方法があり、当該方法は抗体のFc領域に結合した糖鎖構造の違いに基づく分析ができる(特許文献3)。しかしながら、前記分析で得られる分離パターンのばらつきが大きく、試料中に含まれる抗体を再現性高く分析するのは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-194500号公報
【特許文献2】特開2016-099304号公報
【特許文献3】WO2019/244901号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】CHROMATOGRAPHY、34(2)、83-88(2013)
【非特許文献2】Science、320、373-376(2008)
【非特許文献3】Nature Communication、7、11205(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、試料中に含まれる抗体を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を用いたアフィニティクロマトグラフィにより、再現性高く分析可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を用いたアフィニティクロマトグラフィで試料中に含まれる抗体を分析
する際に、抗体の分離パターンから得られる特徴点を比較し得られた関係式に基づき前記分離パターンを補正することで、抗体を再現性高く分析できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の[1]から[9]に記載の態様を包含する。
[1]
以下の(a)から(g)に示す工程を含む、試料中に含まれる被検抗体の分析方法:
(a)Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに標準抗体を含む試料を添加し、当該標準抗体を前記担体に吸着させた後、前記担体に吸着した標準抗体を溶出液を用いて溶出させ、標準抗体の第1の分離パターンを得る工程;
(b)前記(a)の工程の後に、前記カラムに被検抗体を含む試料を添加し、当該被検抗体を前記担体に吸着させた後、前記担体に吸着した被検抗体を前記溶出液を用いて溶出させ、被検抗体の分離パターンを得る工程;
(c)前記(b)の工程の前または後に、前記(a)の工程を再度実施し、標準抗体の第2の分離パターンを得る工程;
(d)前記第1および第2の標準抗体の分離パターンに共通して存在する複数の特徴点を選択する工程;
(e)前記(d)の工程で選択した複数の特徴点での溶出時間と、当該複数の特徴点での溶出時間の差異との関係式を作成する工程;
(f)前記(e)の工程で作成した関係式に基づき、前記(b)の工程で得られた被検抗体の分離パターンを補正する工程;および
(g)前記(f)の工程で補正した被検抗体の分離パターンに基づき、当該被検抗体を分析する工程。
[2]
前記(g)の工程が、前記(f)の工程で補正した被検抗体の分離パターンの特徴値を求める工程を含む、[1]に記載の分析方法。
[3]
前記(g)の工程が、前記(f)の工程で補正した被検抗体の分離パターンを、標準抗体または被検抗体の分離パターンに共通して存在する特徴点での溶出時間で分割し、当該分割した領域での特徴値を求める工程を含む、[1]または[2]に記載の分析方法。
[4]
前記複数の特徴点が、分離パターンの極値点および/または変曲点である、[1]から[3]のいずれかに記載の分析方法。
[5]
前記(c)の工程が、前記(b)の工程の直前または直後に実施される、[1]から[4]のいずれかに記載の分析方法。
[6]
前記試料が、体液である、[1]から[5]のいずれかに記載の分析方法。
[7]
被検抗体および標準抗体がヒト由来の抗体であり、Fc結合性タンパク質がヒトFcγRIIIaである、[1]から[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
ヒトFcγRIIIaが以下の(1)から(3)のいずれかのポリペプチドである、[7]に記載の方法:
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、少なくとも176番目のバリンがフェニルアラニンに置換されたポリペプチド;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、少なくとも176番目のバリンのフェニルアラニンへの置換を有し、さらに前記置換以外に1もしくは数
個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸配列において、176番目のバリンのフェニルアラニンへの置換を有するアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、ただし前記置換を含むアミノ酸配列を含み、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
[9]
前記複数の特徴点が、3つまたはそれ以上の特徴点である、[1]から[8]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試料中に含まれる抗体を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を用いたアフィニティクロマトグラフィで分析する際、前記抗体を再現性高く分析できる。
【0010】
本発明は、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体(FcRゲル)を用いたアフィニティクロマトグラフィで試料中に含まれる被検抗体を分析する際、前記アフィニティクロマトグラフィで得られる被検抗体の分離パターンを、当該分離パターンおよび標準抗体の分離パターンに共通して存在する複数の特徴点での溶出時間と、両パターンにおける前記複数の特徴点での溶出時間差との関係式に基づき補正してから分析することを特徴としている。
【0011】
FcRゲルを充填したカラムによる抗体の分離パターンにおいて、同一試料においても測定毎に分離パターンが変化することがある。特に血液由来試料には前記カラムに結合する抗体以外の成分が多く含まれることもあり、前記カラムに不要成分が吸着することによりカラムの分離パターンが変化することがあり、抗体分離パターンの再現性が得られず、他の試料との分離パターンの比較が困難となるおそれがある。一方、本発明の方法は、分離パターンの変動を標準抗体を用いて溶出時間を補正することで再現性高い分離パターンを取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例2における、標準抗体と被検抗体を含む試料(血清検体)との測定間隔を示した図。
図2】被検抗体を含む試料を分析する前後での、標準抗体の分離パターンの変化を示した図。
図3】実施例2で抗体の分離パターン補正に用いた関係式を示した図。
図4】(a)実施例2および(b)比較例1に記載の方法で血清検体の分離パターンを補正した結果、ならびに(c)分離パターン未補正(比較例2)の結果を示した図。
図5】Fc結合性タンパク質固定化ゲル充填カラムで抗体を分析して得られる標準サンプルおよび血清検体の分離パターンの一例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明において、「Fc結合性タンパク質」とは、試料中に含まれる抗体のFc領域に対する結合能を有し、かつ抗体の糖鎖構造(例えば、Fc領域の糖鎖構造)の違いを認識できるポリペプチドを意味する。Fc結合性タンパク質は、そのようなポリペプチドであれば、特に制限はない。例えば、前記抗体がヒト由来の抗体である場合、Fc結合性タンパク質として、ヒトFc結合性タンパク質が挙げられる。ヒトFc結合性タンパク質の好ましい例として、ヒトFcレセプターが挙げられる。ヒトFcレセプターには、ヒト免疫
グロブリンG(IgG)に対するレセプターであるヒトFcγレセプター、ヒト免疫グロブリンA(IgA)に対するレセプターであるヒトFcαレセプター、ヒト免疫グロブリンD(IgD)に対するレセプターであるヒトFcδレセプター、ヒト免疫グロブリンE(IgE)に対するレセプターであるヒトFcεレセプター等が挙げられるが、いずれのレセプターも本発明におけるヒトFc結合性タンパク質として利用可能である。なお、本明細書において、「ヒト由来の抗体」とは、少なくともヒト由来のFc領域を有した免疫グロブリンを意味する。ヒト由来の抗体は、ヒト抗体であってもよく、ヒト化抗体であってもよく、キメラ抗体であってもよい。
【0015】
ヒトFcγレセプターの具体例として、ヒトFcγRI(CD64)、ヒトFcγRIIa(CD32a)、ヒトFcγRIIb(CD32b)、ヒトFcγRIIc(CD32c)、ヒトFcγRIIIa(CD16a)、またはヒトFcγRIIIb(CD16b)の細胞外領域の部分配列を少なくとも含むポリペプチド、ならびに当該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の一部を置換、欠失、挿入、および/または付加したポリペプチドが挙げられる。中でも、ヒトFcγRIIIaの細胞外領域の部分配列を少なくとも含むポリペプチドや、当該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の一部を置換、欠失、挿入、および/または付加したポリペプチドが、本発明でヒトFc結合性タンパク質として用いるヒトFcγレセプターとして好ましい。
【0016】
ヒトFcγRIIIaの細胞外領域の部分配列を少なくとも含むポリペプチドや、当該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の一部を置換、欠失、挿入、および/または付加したポリペプチドの具体例として、以下の(1)から(3)に記載のポリペプチドが挙げられる。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、少なくとも176番目のバリンがフェニルアラニンに置換されたポリペプチド;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、少なくとも176番目のバリンのフェニルアラニンへの置換を有し、さらに前記置換以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸配列において176番目のバリンのフェニルアラニンへの置換を有するアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、ただし前記置換を含むアミノ酸配列を含み、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【0017】
前記(1)に記載のポリペプチドの一例として、配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目から199番目までのアミノ酸残基を含むポリペプチドや、特開2018-197224号公報に開示のポリペプチド(Fc結合性タンパク質)が挙げられる。また前記(2)に記載の置換、欠失、挿入および付加の例として、特開2015-086216号公報、特開2016-169167号公報、特開2017-118871号公報およびWO2019/083048号に開示されているアミノ酸残基の置換が挙げられる。
【0018】
前記(3)において、「相同性」とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味する。相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等のアラインメントプログラムを用いて決定できる。例えば、「アミノ酸配列の同一性」とは、blastpを用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してよく、具体的には、blastpをデフォルトのパラメータで用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してもよい。相同性は、70%以上であればよく、80%以上、90%以上、または95%以上であってもよい。
【0019】
本発明において、「不溶性担体」とは、当該担体を充填したカラムに通液される液体(例えば、平衡化液や溶出液等の、抗体の吸着または溶出に用いる液体)に対して不溶性の担体を意味する。「担体が液体に対して不溶性」とは、液体への担体の溶解度が20℃において100mg/L以下、10mg/L以下、または約0mg/Lであることを意味してよい。不溶性担体は、Fc結合性タンパク質を共有結合で固定化するための官能基(例えばヒドロキシ基)を備えていてよい。不溶性担体としては、ジルコニア、ゼオライト、シリカ、皮膜シリカ等の無機系物質に由来した担体、セルロース、アガロース、デキストラン等の天然有機高分子物質に由来した担体、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリメタクリレート、ビニルポリマー等の合成有機高分子物質に由来した担体が挙げられる。
【0020】
Fc結合性タンパク質の不溶性担体への固定化は、例えば、当該担体表面に存在する、Fc結合性タンパク質と共有結合で固定化可能な官能基を利用して実施できる。例えば、不溶性担体表面にヒドロキシ基が存在する場合、活性化剤を用いて当該ヒドロキシ基からFc結合性タンパク質と共有結合可能な活性化基を形成することで、当該活性化基とFc結合性タンパク質とを共有結合できる。ヒドロキシ基に対する活性化剤の具体例として、エピクロロヒドリン(活性化基としてエポキシ基を形成)、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(活性化基としてエポキシ基を形成)、トレシルクロリド(活性化基としてトレシル基を形成)、ビニルブロミド(活性化基としてビニル基を形成)が挙げられる。また、ヒドロキシ基をアミノ基やカルボキシ基等に変換した後、活性化剤を作用させて活性化することもできる。アミノ基やカルボキシ基等に対する活性化剤の具体例として、3-マレイミドプロピオン酸N-スクシンイミジル(活性化基としてマレイミド基を形成)、1,1’-カルボニルジイミダゾール(活性化基としてカルボニルイミダゾール基を形成)、ハロゲン化酢酸(活性化基としてハロゲン化アセチル基を形成)が挙げられる。
【0021】
本発明における分析対象の抗体は、少なくとも糖鎖が付加されたFc領域を含む免疫グロブリンであればよく、他の領域を含んでいてもよい。また、本発明における分析対象の抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。免疫グロブリンは、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEのいずれであってもよい。ただし、Fc結合性タンパク質としてFcレセプターを用いる場合は、本発明における分析対象の抗体は、当該レセプターに対応した免疫グロブリンである必要がある。例えば、Fc結合性タンパク質としてヒトFcγレセプターを用いる場合は、本発明における分析対象の抗体は、ヒト由来のIgGであり、特にヒトIgGであってよい。なお、前記IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のいずれであってもよい。
【0022】
抗体の由来は特に制限はなく、抗体は、単一の生物に由来するものであってもよく、2種またはそれ以上の生物の組み合わせに由来するものであってもよい。抗体は、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、またはそれらのバリアント(例えばアミノ酸置換体)であってもよい。また、抗体としては、二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)、Fc領域と他のタンパク質との融合抗体、Fc領域と薬物との複合体(ADC)等の人工的に構造改変した抗体も挙げられる。さらに、抗体医薬も本発明における「抗体」に包含される。抗体医薬の一例として、抗TNF-α(腫瘍壊死因子α)抗体であるインフリキシマブ(Infliximab)や抗IL-6(インターロイキン6)抗体であるトシリズマブ(Tocilizumab)、癌遺伝子HER2に対する抗体であるトラスツズマブ(Trastuzumab)が挙げられる。中でも、本発明の分析方法は、後述する体液由来の抗体の分析に好適な分析方法である。
【0023】
本発明において「試料」とは、前述した抗体を含むまたは含み得る溶液のことを意味す
る。試料は、例えば、被検者から得られたものであってよい。試料の一例として、前述した抗体を含むもしくは含み得る体液または緩衝液が挙げられる。よって、抗体は、例えば、体液に由来するものであってよい。前記体液の例として、被検者から得られた、
血液(全血)、希釈血液、血清、血漿、髄液、臍帯血、成分採血液等の血液試料;
尿、唾液、精液、糞便、痰、羊水、腹水等の血液由来成分を含み得る試料;
肝臓、肺、脾臓、腎臓、皮膚、腫瘍、リンパ節等の組織の断片(組織片)もしくは細胞を含み得る試料;
それらから分離された抗体またはそれらに含有される抗体を含み得る試料;
が挙げられる。なお、前記被検者は、単に測定の対象とするヒト個体、またはリスクの検出の対象とするヒト個体を意味する。被検者は、それに由来する試料を利用できるもの(すなわち抗体試料を取得できるか、既に取得したもの)であれば、特に制限されない。被検者は男性でもよく女性でもよい。また、被検者は、子供、若者、中年、老人等、いずれの年代の個体であってもよい。さらに、被検者は、健常者であってもよく、そうでなくてもよい。
【0024】
本発明の分析方法は、試料中に含まれる被検抗体を以下の(a)から(g)の工程を含む方法で分析することを特徴としている。すなわち、本発明の分析方法は、以下の(a)から(g)の工程を含む、試料中に含まれる抗体の分析方法である:
(a)Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに標準抗体を含む試料を添加し、当該標準抗体を前記担体に吸着させた後、前記担体に吸着した標準抗体を溶出液を用いて溶出させ、標準抗体の第1の分離パターンを得る工程;
(b)前記(a)の工程の後に、前記カラムに被検抗体を含む試料を添加し、当該被検抗体を前記担体に吸着させた後、前記担体に吸着した被検抗体を前記溶出液を用いて溶出させ、被検抗体の分離パターンを得る工程;
(c)前記(b)の工程の前または後に、前記(a)の工程を再度実施し、標準抗体の第2の分離パターンを得る工程;
(d)前記第1および第2の標準抗体の分離パターンに共通して存在する複数の特徴点を選択する工程;
(e)前記(d)の工程で選択した複数の特徴点での溶出時間と、当該複数の特徴点での溶出時間の差異との関係式を作成する工程;
(f)前記(e)の工程で作成した関係式に基づき、前記(b)の工程で得られた被検抗体の分離パターンを補正する工程;および
(g)前記(f)の工程で補正した被検抗体の分離パターンに基づき、当該被検抗体を分析する工程。
【0025】
以下、各工程を詳細に説明する。
【0026】
<分離パターン取得工程(前記(a)から(c)の工程)>
前記(a)から(c)の工程を総称して、「分離パターン取得工程」とも表記する。
【0027】
前記(c)の工程は、前記(b)の工程の前または後に実施されてよい。前記(c)の工程は、前記(b)の工程と近い時期に実施されるのが、被検抗体の分離パターンの補正の精度が向上し得る点で好ましい。前記(b)の工程と前記(c)の工程との間隔(すなわち、前記(b)の工程と前記(c)の工程との間に含まれる任意の対象物の分析の回数)は、10回以内、7回以内、5回以内、3回以内、2回以内、または1回以内であってもよく、ゼロ回(すなわち、前記(c)の工程が前記(b)の工程の直前または直後に実施される)であってもよい。前記(c)の工程は、特に、前記(b)の工程の直前または直後に実施されてよい。前記(c)の工程が前記(b)の工程の直前または直後に実施される場合としては、前記(b)の工程と前記(c)の工程が交互に実施される場合が挙げられる。
【0028】
分離パターン取得工程は、
Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体(以下、「FcRゲル」とも表記する)を充填したカラム(以下、「FcRカラム」とも表記する)に抗体を含む試料を添加し、当該抗体を前記担体に吸着させる工程(以下、「吸着工程」とも表記する)と、
前記担体に吸着した被検抗体を溶出液を用いて溶出させ、被検抗体の分離パターンを得る工程(以下、「溶出工程」とも表記する)と
を含む。
【0029】
分離パターン取得工程で用いられる抗体を含む試料は、前記(a)および(c)の工程においては標準抗体を含む試料であり、前記(b)の工程においては被検抗体を含む試料である。
【0030】
吸着工程では、FcRカラムに抗体を含む試料を添加し、当該抗体をFcRゲルに吸着させる。
【0031】
吸着工程でFcRカラムに添加する標準抗体は、不溶性担体に固定化されたFc結合性タンパク質に吸着する抗体であればよい。前記標準抗体として、具体的には、Fc結合性タンパク質がFcγレセプターの場合、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4が挙げられる。標準抗体の由来は、被検抗体の由来と同一であると好ましい。一例として、被検抗体がヒト由来の抗体である場合、標準抗体は、ヒト血液由来、ヒトミエローマ由来、ヒト培養細胞由来といったヒト由来の抗体、またはヒトを含む2種またはそれ以上の生物の組み合わせに由来する抗体であるのが好ましい。
【0032】
吸着工程でFcRカラムに添加する、被検抗体を含む試料は、複数種類の抗体分子を含む混合溶液であってもよい。被検抗体を含む試料は、具体的には、糖鎖構造の異なる複数種類の抗体分子を含む混合溶液であってもよい。被検抗体を含む試料は、より具体的には、Fc領域に付加された糖鎖構造の異なる複数種類の抗体分子を含む混合溶液であってもよい。
【0033】
なお、被検抗体を含む試料として体液を用いる場合、当該体液をそのままカラムに添加してもよいし、適宜前処理に供してからカラムに添加してもよい。前処理を行なう場合、例えば、遠心分離やカラムによる精製といった、当業者が通常行なう方法で実施すればよい。体液または前処理後の体液は、適宜液体媒体で溶解、懸濁、分散、または溶媒交換等した後、カラムに添加してもよい。前記液体媒体の例として、後述する平衡化液が挙げられる。本発明において、「体液」には、このように前処理や溶媒交換等の処理がなされたものも包含される。
【0034】
FcRカラムへの、抗体を含む試料の添加は、例えば、ポンプ等の送液手段を用いて添加すればよい(以降、本明細書では、液体をカラムに添加することを「液体をカラムに送液する」とも表記する)。抗体を含む試料の添加(送液)量、液相の種類、液相の送液速度、カラム温度等の吸着工程の実施条件は、抗体がFcRゲルに吸着される限り、特に制限されない。吸着工程の実施条件は、抗体の種類、Fc結合性タンパク質の種類、不溶性担体の種類、カラムのスケール等の諸条件に応じて適宜設定できる。液相としては、後述する平衡化液が例示できる。送液速度は、例えば、カラムの内径が4.6mmの場合、0.1mL/分以上2.0mL/分以下、0.2mL/分以上1.5mL/分以下、または0.4mL/分以上1.2mL/分以下であってよい。送液速度は、例えば、カラムの内径の2乗に比例するように設定してよい。FcRカラムの温度は、例えば、0℃以上50℃以下の範囲で適宜設定してよい。
【0035】
吸着工程前および/または吸着工程後に、平衡化液をカラムに添加(送液)する平衡化工程をさらに実施してもよい。特に、吸着工程後に平衡化工程を実施すると、Fc結合性タンパク質に結合しない抗体や、試料雰囲気下では前記タンパク質に結合するが平衡化緩衝液雰囲気下では結合しない抗体を、カラムから排除できる点で好ましい。そのようにして排除される、抗体を含む画分のことを、本明細書では「未吸着画分」とも表記する。未吸着画分は、具体的には、後述する分離パターンにおいて、試料をカラムに添加(送液)後、検出されるピークが平衡化工程中に最小値を取るまでの領域の画分である。未吸着画分と、後述する分離工程で溶出液添加後に検出されるピークとは、溶出時間として離れている方が分離精度が高く、好ましい。特に、未吸着画分と溶出液添加後に検出されるピーク領域との間の検出値が一定値を取っていると、平衡化工程により未吸着画分がカラムから十分に除かれたことがわかり好ましい。ここでいう「一定値」とは、同一の値に限られず、検出値が一定の傾きをもって変化する状態をも包含する。
【0036】
平衡化液の例として水性緩衝液が挙げられる。水性緩衝液として、具体的には、pH5.0以上8.0以下の弱酸性から弱アルカリ性緩衝液が例示できる。緩衝液の成分は、緩衝液のpH等の諸条件に応じて適宜選択できる。緩衝液の成分としては、リン酸、酢酸、ギ酸、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)、クエン酸、コハク酸、グリシン、ピペラジンが例示できる。なお前記緩衝液に、塩化ナトリウムや塩化カリウム等の塩をさらに添加してもよい。当該塩は、同業者が容易に想定し得る塩であれば特に限定されない。
【0037】
溶出工程は、前述した吸着工程で不溶性担体に吸着した抗体を、溶出液を用いて溶出させ、当該抗体の分離パターンを得る工程である。すなわち、FcRカラムに溶出液を添加(送液)することで、FcRゲルに吸着した抗体を溶出できる。溶出液の種類、溶出液の送液形式、液相の送液速度、FcRカラム温度等の溶出工程の実施条件は、所望の態様で抗体が分離される限り、例えば、所望の分離パターンが得られる限り、特に制限されない。溶出工程の実施条件は、抗体の種類、Fc結合性タンパク質の種類、不溶性担体の種類、カラムのスケール等の諸条件に応じて適宜設定できる。溶出液としては、抗体とFc結合性タンパク質との親和性を弱めるものを用いればよい。溶出液としては、例えば、溶出前の液相(例えば、吸着工程で平衡化工程を行なう場合は当該工程で用いた平衡化液)よりもpHが酸性側の水性緩衝液が挙げられる。具体例として、溶出前の液相(例えば、平衡化液)がpH5.0以上pH8.0以下の弱酸性から弱アルカリ性緩衝液である場合は、pH2.5以上pH4.5以下の酸性緩衝液を溶出液として用いればよい。緩衝液の成分は、緩衝液のpH等の諸条件に応じて適宜選択できる。緩衝液の成分としては、リン酸、酢酸、ギ酸、MES、MOPS、クエン酸、コハク酸、グリシン、ピペラジンが挙げられる。溶出液の送液形式は、液相中の溶出液の比率を連続的に変化させて溶出させるリニアグラジエント(linear gradient)溶出であってもよく、前記比率を段階的に変化させて溶出させるステップワイズ(stepwise)溶出であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。グラジエントは、例えば、10分以上60分以下、15分以上50分以下、または20分以上40分以下で液相中の溶出液の比率が0%(v/v)から100%(v/v)に増大するように設定してよい。例えばカラムの内径が4.6mmの場合、送液速度は0.1mL/分以上2.0mL/分以下、0.2mL/分以上1.5mL/分以下、または0.4mL/分以上1.2mL/分以下であってよい。送液速度は、例えば、カラムの内径の2乗に比例するように設定すればよい。カラム温度は、例えば、0℃以上50℃以下の範囲で適宜設定してよい。
【0038】
FcRカラムから溶出した抗体を検出器を用いて検出することで、当該抗体の分離パターンが得られる。前記検出器としては、UV検出器や質量検出器が例示できる。抗体の分離パターンとしては、抗体の溶出時のクロマトグラムが例示できる。検出器による測定データの取得間隔は任意の時間間隔でよいが、時間間隔が広がることで抗体の分離パターンの本来の特徴をクロマトグラムに反映する際の精度が低下するため、時間間隔は1分以下が好ましく、10秒以下がさらに好ましく、さらに2秒以下が特に好ましい。
【0039】
溶出工程により、試料中に含まれる抗体が分離された態様で得られる。分離された抗体は、例えば、当該抗体を含む溶出画分として得てもよい。すなわち、分離された抗体を含有する溶出画分を分取することにより、分離された抗体が得られる。溶出画分は、例えば、常法により分取できる。溶出画分は、具体的には、例えば、オートサンプラー等の自動フラクションコレクター等により分取できる。さらに、分離された抗体を溶出画分から回収してもよい。分離された抗体は、例えば、常法により溶出画分から回収できる。分離された抗体は、具体的には、例えば、タンパク質の分離精製に用いられる公知の方法により溶出画分から回収できる。
【0040】
<分離パターン補正工程(前記(d)から(f)の工程)>
前記(d)から(f)の工程を総称して、「分離パターン補正工程」とも表記する。
【0041】
分離パターン補正工程は、
複数回測定した標準抗体の分離パターンに共通して存在する複数の特徴点を選択する工程(以下、「特徴点選択工程」とも表記する)と、
特徴点選択工程で選択した複数の特徴点での溶出時間と、当該複数の特徴点での溶出時間の差異との関係式を作成する工程(以下、「関係式作成工程」とも表記する)と、
前記関係式に基づき、被検抗体の分離パターンを補正する工程(以下、「補正工程」とも表記する)と
を含む。
【0042】
特徴点選択工程は、前述した分離パターン取得工程で得られる、基準となる標準抗体の分離パターン(前記(a)の工程で得られる第1の分離パターン)および補正対象の標準抗体の分離パターン(前記(c)の工程で得られる第2の分離パターン)に共通して存在する複数の特徴点を選択する工程である。基準となる標準抗体の分離パターンは、前記(b)の工程の前の任意の測定で得られた標準抗体の分離パターンであってよい。
【0043】
本明細書において「特徴点」とは、基準となる標準抗体の分離パターンと補正対象の標準抗体の分離パターンとで共通の特徴を有した点を意味する。特徴点は、分離パターンから目視で選択してもよいが、分離パターンからプログラム言語により自動的に抽出するのが、特徴点の選択を自動化でき、かつ作業者間差も抑制できるため好ましい。特徴点の選択は、例えば、未処理の分離パターン(生データ)に基づき行なってもよく、前記分離パターンより得られる近似曲線に基づき行なってもよい。また、特徴点の選択を分離パターン全体から行なってもよいが、分離パターンのうち抗体の溶出に係る領域から特徴点を選択するのが好ましい。
【0044】
特徴点の好ましい態様として、分離パターンを微分することで得られる極値点(すなわち極大点(分離パターンのピークトップに相当)および極小値(分離パターンの谷に相当))ならびに分離パターンを二階微分することで得られる変曲点があげられる。これらの点は、データ処理上抽出しやすく、分離パターンを再現性高く補正できるため、特徴点として好ましい。
【0045】
選択される特徴点の数は、2つまたはそれ以上であれば特に制限されない。選択される特徴点の数は、例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上で、または5つ以上であってもよい。選択される特徴点の数は、特に、3つ以上であってもよい。選択される特徴点の数は、例えば、検出すべきピークの数またはそれ以上であってもよい。
【0046】
関係式作成工程は、特徴点選択工程で選択した複数の特徴点での溶出時間と、当該複数の特徴点での溶出時間の差異(すなわち、当該複数の特徴点における溶出時間の変動)との関係式を作成する工程である。前記関係式は、例えば、前記溶出時間および前記差異と軸としたプロット図を作成し、当該プロット同士を結んだ線または近似線を基に得られる。近似線の求め方としては、移動平均法や最小二乗法が例示されるが、特に限定されない。近似線としては、線形近似、多項式近似、累乗近似、対数近似等の近似に基づくものが挙げられる。
【0047】
前記溶出時間は、任意の時点から溶出時までに経過した時間の値であってよい。前記溶出時間は、例えば、FcRカラムへの試料添加(送液)時からの時間でもよく、FcRカラムへの溶出液添加(送液)時からの時間でもよく、解析開始時点からの時間でもよい。また、前記溶出時間は、任意の時点から溶出時までに経過した時間を反映する限り、特定の時間からこれら時間を引いた値や、これら時間を累乗した値や、これら時間に係数を掛け合わせた値等の、上記のような溶出時間から算出される値であってもよい。
【0048】
補正工程は、前述した関係式作成工程で得られた関係式を基に、被検抗体の分離パターン(具体的には、被検抗体の分離パターンにおける溶出時間)を補正する工程である。補正工程では、具体的には、前述した関係式作成工程で得られた関係式を基に、被検抗体の分離パターンにおける溶出時間を補正する。補正は、例えば、前記関係式で得られた補正量(溶出時間の差異)に基づき、補正対象の分離パターンにおける溶出時間を、当該差異の分、加減することにより実施されてよい。補正工程により、例えば、カラムの長期間および/または多数回の使用に伴って生じ得る被検抗体の分離パターン(具体的には、溶出時間)の変動を補正できる。
【0049】
<分析工程(前記(g)の工程)>
分析工程は、前述した分離パターン補正工程で補正した被検抗体の分離パターンに基づき、被検抗体を分析する工程である。被検抗体の分析としては、被検抗体の分離パターンに特徴的な値(以降、「特徴値」とも表記する)を取得することが挙げられる。分析工程では、具体的には、例えば、被検抗体の分離パターンを特定の溶出時間で分割して、分割された領域の特徴値を求めてもよい。特徴値の取得にあたっては、標準抗体の分離パターンを併せて参照してもよい。標準抗体の分離パターンは、適宜、溶出時間が補正されていてもよい。標準抗体の分離パターンにおける溶出時間の補正は、補正工程での被検抗体の分離パターンにおける溶出時間の補正と同様に実施することができる。
【0050】
前記特定の溶出時間(以下、「分割時間」とも記載)は、被検抗体の分離パターン中の特定の溶出時間としてよい。また、被検抗体の分離パターンが不明瞭な場合には、分離パターンが明瞭な標準抗体の分離パターンに存在する特徴点での溶出時間、または当該溶出時間に任意の値を加減した時間を分割時間としてよい。また、被検抗体の測定毎に前記分割時間を定めてもよく、複数の被検抗体もしくは標準抗体の分離パターンよりそれぞれ定めた分割時間の平均値または中央値を、固定した分割時間として用いてもよい。
【0051】
なお、標準抗体または被検抗体の分離パターンに共通して存在する特徴点での溶出時間を分割時間とし、当該分割時間で分割した領域から求められる特徴値を取得すると、被検抗体の分析を再現性高く行なえるため、好ましい。
【0052】
特徴値は、前記分割時間で分割した領域における極値(極大値または極小値)や当該極値をとる溶出時間、前記分割した領域における変曲点での値や当該変曲点での溶出時間、前記分割した領域に存在するピークの数や高さ、前記分割した領域の面積など、分離パターンを特徴づける値であれば特に限定はない。なお、前記分割した領域における抗体の溶出時間と当該時間における検出値との積を総和した値を特徴値とすると、被検抗体を再現性高く分析できるため、好ましい。なお、前記検出値としては、例えば、前述した検出器で得られた値をそのまま用いてもよく、適宜ベースライン等を補正してから用いてもよい。
【0053】
前記好ましい態様における総和する領域として、任意の解析開始時間から任意の解析終了時間までの領域が挙げられる。解析開始時間は特に限定はなく、例えば、FcRカラムへの試料添加(送液)時でもよく、FcRカラムへの溶出液添加(送液)時でもよい。解析開始時間は、当該カラムに充填したFcRゲルに結合しない非吸着画分のピークから、当該担体に結合した抗体由来の分離ピークが得られるまでの間に設定すると好ましい。解析終了時間は特に限定はなく、例えば、測定終了時間でもよく、FcRカラムへの溶出液の添加(送液)割合が100%になった時間でもよい。解析終了時間は、前述した吸着工程前に平衡化工程を行なう場合は、FcRカラムに充填したFcRゲルに結合した抗体由来の分離ピークが得られた後の時間から、FcRカラムを溶出液で洗浄後、平衡化液に切り替えてFcRカラムを平衡化する際、当該切り替わりに伴い発生する、検出値の変動が得られるまでの間に設定すると好ましい。
【0054】
抗体の溶出時間と当該時間における検出値との積の総和値は、一定の時間間隔の溶出時間に対する検出値との積の総和でもよく、不規則な時間間隔の溶出時間に対する検出値との積の総和でもよく、連続した溶出時間に対する検出値との積の総和(積分)でもよい。前記時間間隔は、例えば、検出値のデータ取得間隔であってよい。また、前記時間間隔は、例えば、秒単位でもよく、分単位でもよい。時間間隔が広がることで抗体の分離パターンの特徴を数値に反映する際の精度が低下するため、1分以下の時間間隔での総和値を求めるのが好ましい。総和値は、例えば、溶出時間と実測定した検出値との積の総和値であってもよく、近似曲線で関数化した溶出時間と検出値との関係性の式から算出した総和値であってもよく、前記近似曲線を基に積分することで得た総和値であってもよい。
【0055】
一例として、FcRゲルと強く結合する抗体の分離パターンでは、溶出時間が遅い領域に高い検出値を示すため、溶出時間と当該溶出時間における検出値との積の総和値(特徴値)は高い値を示す。一方、前記担体と弱く結合する抗体の分離パターンでは、溶出時間が早い領域に高い検出値を示すため、溶出時間と当該溶出時間における検出値との積の総和値(特徴値)は低い値を示す。
【0056】
また特定の時間から溶出時間を引いた値と、当該溶出時間における検出値との積の総和値を算出する場合、FcRゲルと強く結合する抗体の分離パターンでは低い値が算出され、前記担体と弱く結合する抗体の分離パターンでは高い値が算出される(逆相関)。そのため、FcRゲルと強く結合する抗体の量を強調させるデータを取得したい場合は、前記抗体の溶出時間と当該溶出時間における検出値との積の総和値を、特徴値として用いてもよい。
【0057】
また、溶出時間と当該溶出時間における検出値との積の総和値を、検出値の総和値で除した値(本明細書では「形状正規化値」とも表記する)を、特徴値として用いてもよい。
【0058】
さらに抗体の溶出時間として、前記溶出時間を累乗した値を用いてもよい。すなわち、抗体の溶出時間を累乗した値と当該溶出時間における検出値との積の総和値を特徴値として用いてもよい。前記累乗することで、総和値または形状正規化値への溶出時間の影響が大きくなり、前記担体への抗体結合能の違いをより顕著に評価することが可能となる。一方で累乗することで、測定再現性を示す変動係数CV値が大きくなるため、累乗の回数(冪指数)は、10以下が好ましく、7以下がより好ましい。
【0059】
一方、FcRゲルと弱く結合する抗体の量を強調させるデータを取得したい場合は、特定の時間と前記抗体の溶出時間との差と、当該溶出時間における検出値との積の総和値を特徴値として用いてもよく、特定の時間と前記抗体の溶出時間との差を累乗した値と、当該溶出時間における検出値との積の総和値を特徴値として用いてもよい。
【0060】
総和値および/または形状正規化値から、ピーク分割値を換算してもよい。「ピーク分割値」とは、分離パターン中に出現する各ピークのパラメータを意味する。ピークのパラメータとしては、ピーク面積、ピーク面積%、ピーク幅、ピーク幅%、ピーク高さ、ピーク高さ%が挙げられ、特に、ピーク面積やピーク面積%が挙げられる。各ピーク分割値を換算するために、総和値および/または形状正規化値との関係式を求めるとよい。各ピーク面積は総和値から、各ピーク面積%は形状正規化値から、それぞれ換算すると相関性が高く好ましい。各ピーク分割値は、総和値および/または形状正規化値から直接的もしくは間接的に換算してもよい。
【0061】
また、特徴値は、被検者の性質に基づき補正してもよい。当該補正の例として、被検者の年齢に基づく補正が挙げられる。例えば、特徴値が被検者の年齢に影響を受ける場合、得られた特徴値を被検者の年齢に基づいて補正してから、後述する検出工程に用いてもよい。被検者の年齢に基づいて補正された特徴は、例えば、加齢以外の症状についてのリスクの検出に利用でき得る。
【0062】
このようにして同定されたピーク領域によって、試料に含まれる抗体に結合したN結合型糖鎖の糖鎖構造の違い等を識別できる(特許文献:WO2019/244901号)。前記識別可能な糖鎖構造としてN結合型糖鎖を構成するシアル酸、ガラクトース、マンノース、N―アセチルグルコサミン、フコースが挙げられ、糖鎖構造の一例として、G0、G0F、G1、G0F+GN、G1Fa、G1Fb、G1F+GN、G2、G2F、G1F+SA、G2F+SA、G2F+2SA、G2F+GN、G2+SA、G2+2SA、S1、S2、S3等が挙げられる。
【0063】
本発明の分析方法は、さらに、下記(h)の工程を含んでいてよい:
(h)前記(g)の工程で得られた分析結果に基づき、被検者における疾患の有無、疾患の発症リスク、疾患の進行度合い、および/または加齢の進行度合いを検出する工程(以下、「検出工程」とも表記する)。
【0064】
具体的には、試料が被検者から得たものである場合、本発明の分析方法は、前記(h)の工程を含んでいてよい。本発明の分析方法が前記(h)の工程を含む場合、被検抗体を含む試料を提供した被検者における疾患の有無、疾患の発症リスク、疾患の進行度合い、および/または加齢の進行度合いを検出できる。すなわち、本発明の分析方法の一態様は、被検者(具体的には、被検抗体を含む試料を提供した被検者)における疾患の有無、疾患の発症リスク、疾患の進行度合い、および/または加齢の進行度合いの検出方法(以下、単に「本発明の検出方法」とも表記する)であってよい。
【0065】
<検出工程(前記(h)の工程)>
前記(g)の工程で得られた分析結果(例えば、特徴値)を指標として、被検者におけるリスク(すなわち、疾患の有無、疾患の発症リスク、疾患の進行度合い、および/または加齢の進行度合い)を検出する工程である。
【0066】
以下、特徴値を指標として被検者におけるリスクを検出する場合について説明するが、当該説明は、任意の分析結果を指標とする場合にも準用できる。
【0067】
疾患の例として、免疫細胞の活性(例えば、損傷作用や貪食作用)に影響を受ける疾患
が挙げられる。前記免疫細胞としては、ナチュラルキラー細胞、単球、マクロファージが例示できる。免疫細胞の活性に影響を受ける疾患として、具体的には、ガン、自己免疫疾患、感染症、アレルギー、炎症疾患が例示できる。
【0068】
ガンの例として、脳腫瘍、乳ガン、子宮体ガン、子宮頚ガン、卵巣ガン、食道ガン、胃ガン、虫垂ガン、大腸ガン、肝ガン、胆嚢ガン、胆管ガン、膵ガン、副腎ガン、消化管間質腫瘍(GIST)、中皮腫、頭頚部ガン、腎ガン、肺ガン、骨肉腫、ユーイング(Ewing)肉腫、軟骨肉腫、前立腺ガン、精巣腫瘍、腎細胞ガン、膀胱ガン、横紋筋肉腫、皮膚ガン、肛門ガンが挙げられる。ガンの例として、中でも、膵ガン、胃ガン、乳ガン、大腸ガン、腎ガンが挙げられる。
【0069】
自己免疫疾患の例として、ギラン・バレー(Guillain-Barre)症候群、重症筋無力症、多発性硬化症、慢性胃炎、慢性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、原発性胆汁性胆管炎、自己免疫性膵炎、高安動脈炎、グッドパスチャー(Goodpasture’s)症候群、急速進行性糸球体腎炎、巨赤芽球性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性好中球減少症、特発性血小板減少性紫斑病、バセドウ病、橋本病、原発性甲状腺機能低下症、特発性アジソン(Addison)病、1型糖尿病、慢性円板状エリテマトーデス(erythematosus)、限局性強皮症、天疱瘡、膿疱性乾癬、尋常性乾癬、類天疱瘡、妊娠性疱疹、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症、円形脱毛症、尋常性白斑、サットン(Sutton)後天性遠心性白斑・サットン母斑、原田病、自己免疫性視神経症、自己免疫性内耳障害、特発性無精子症、習慣性流産、リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質抗体症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、シェーグレン(Sjoegren)症候群、IgG4関連疾患、血管炎症候群、混合性結合組織病が挙げられる。自己免疫疾患の例として、中でも、リウマチやシェーグレン症候群が挙げられる。
【0070】
感染症の例として、細菌感染症、真菌感染症、寄生性原虫感染症、寄生性蠕虫感染症、ウイルス感染症が挙げられる。細菌感染症の例として、レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、腸球菌、リステリア(Listeria)、髄膜炎菌、淋菌、病原性大腸菌、クレブシエラ(Klebsiella)、プロテウス(Proteus)、百日咳菌、緑膿菌、セラチア(Serratia)、シトロバクター(Citrobacter)、アシネトバクター(Acinetobacter)、エンテロバクター(Enterobacter)、マイコプラズマ(Mycoplasma)、クロストリジウム(Clostridium)、リケッチア(Rickettsia)、クラミジア(Chlamydia)等の各種細菌による感染症;結核、非結核性抗酸菌症、コレラ、ペスト、ジフテリア、赤痢、猩紅熱、炭疽、梅毒、破傷風、ハンセン病、レジオネラ(Legionella)肺炎、レプトスピラ(Leptospira)症、ライム病、野兎病、Q熱が挙げられる。真菌感染症の例として、アスペルギルス(Aspergillus)症、カンジダ(Candida)症、クリプトコッカス(Cryptococcus)症、白癬菌症、ヒストプラズマ(Histoplasma)症、ニューモシスチス(Pneumocystis)肺炎(カリニ肺炎)が挙げられる。寄生性原虫感染症の例として、アメーバ赤痢、マラリア、トキソプラズマ(Toxoplasma)症、リーシュマニア(Leishmania)症、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)症が挙げられる。寄生性蠕虫感染症の例として、エキノコックス(Echinococcus)症、日本住血吸虫症、フィラリア(Filaria)症、回虫症、広節裂頭条虫症が挙げられる。ウイルス感染症の例として、インフルエンザ、ウイルス性肝炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性結膜炎、後天性免疫不全症候群(AIDS)、成人T細胞白血病、エボラ出血熱、黄熱、風邪症候群、狂犬病、サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus)感染症、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、進行性多巣性白質脳症、水痘・帯状疱疹、単純疱疹、手足口病、デング(Dengue)熱、日本脳炎、伝染性紅斑、伝染性単核球症、天然痘、風疹、急性灰白髄炎(ポリオ)、麻疹、咽頭結膜熱(プール熱)、マールブルグ(Marburg)出血熱、腎症候性出血熱、ラッサ(Lassa)熱、流行性耳下腺炎、ウエストナイル熱、ヘルパンギーナ、チクングニア(Chikungunya)熱が挙げられる。感染症は、例えば、日和見感染症であってもよい。
【0071】
アレルギーの例として、アナフィラキシーショック、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、薬剤性溶血性貧血、顆粒球減少症、血小板減少症、グッドパスチャー症候群、血清病、全身性エリテマトーデス、リウマチ、糸球体腎炎、過敏性肺炎、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)、接触性皮膚炎、アレルギー性脳炎、移植拒絶反応、結核性空洞、類上皮細胞性肉芽腫が挙げられる。
【0072】
炎症疾患の例として、IL-6やTNF-α等の炎症性サイトカインにより誘導される疾患が挙げられる。炎症疾患の例として、具体的には、脳炎、骨髄炎、髄膜炎、神経炎、眼の炎症(涙腺炎、強膜炎、上強膜炎、角膜炎、脈絡網膜炎、網膜炎、脈絡網膜炎、眼瞼炎、結膜炎、ぶどう膜炎等)、耳の炎症(外耳炎、中耳炎、内耳炎等)、乳腺炎、心炎(心内膜炎、心筋炎、心膜炎等)、血管炎(動脈炎、静脈炎、毛細血管炎等)、呼吸器の炎症(副鼻腔炎、鼻炎、咽頭炎、喉頭炎、気管炎、気管支炎、細気管支炎、肺炎、胸膜炎、縦隔炎等)、口腔の炎症(口内炎、歯肉炎、歯肉口内炎、舌炎、扁桃炎、シラデン炎、耳下腺炎、口唇炎、歯髄炎、鼻炎等)、消化器の炎症(食道炎、胃炎、胃腸炎、腸炎、小腸炎、大腸炎、十二指腸炎、回腸炎、虫垂炎、直腸炎等)、皮膚炎、蜂巣炎、汗腺炎、関節炎、皮膚筋炎、筋炎、滑膜炎、腱炎、脂肪織炎、骨炎、骨髄炎、骨膜炎、腎炎、輸尿管炎、膀胱炎、尿管炎、卵巣炎、卵管炎、子宮内膜炎、子宮頸管炎、膣炎、外陰炎、精巣炎、精巣上体炎、前立腺炎、精嚢膀胱炎、亀頭炎、包皮炎、絨毛膜羊膜炎、臍帯炎、臍炎、肝炎、上行性胆管炎、胆嚢炎、膵炎、腹膜炎、下垂体炎、甲状腺炎、副甲状腺炎、副腎炎、リンパ管炎、リンパ節炎、悪液質、フレイル(虚弱)、サルコペニア、ロコモティブシンドローム等の加齢関連疾患が例示できる。炎症疾患の例として、中でも、膵炎が挙げられる。
【0073】
検出工程においては、前記特徴値を指標として、被検者における疾患の有無、疾患の発症リスク、疾患の進行度合い、および/または加齢の進行度合いを検出してよい。すなわち、前記特徴値は、被検者における疾患の有無、疾患の発症リスク、疾患の進行度合い、および/または加齢の進行度合いを検出するための指標として用いられるデータとみなしてよい。具体的には、被検者から得た抗体(被検抗体)をFcRカラムを用いて分離して得られる分離パターンに基づき求めた特徴値を指標として、当該被検者における疾患の有無、疾患の発症リスク、疾患の進行度合い、および/または加齢の進行度合いを検出できる。すなわち、本発明の分析方法または検出方法は、被検抗体をFcRカラムを用いて分離することで得られる特徴値を指標として、前記被検者における疾患の有無、疾患の発症リスク、疾患の進行度合い、および/または加齢の進行度合いを精度よく検出するための方法として提供してもよい。なお本明細書では、疾患の有無、疾患の発症リスク、疾患の進行度合い、および/または加齢の進行度合いを総称して、単に「リスク」とも表記する。また本明細書において「リスクの検出」および「リスクの評価」は、同義に用いられてよい。
【0074】
被検者における発症リスクの検出としては、被検者において発症リスクがあるかないかの検出(定性的検出)や、被検者においてリスクが高いか低いかの検出(定量的検出)が挙げられる。
【0075】
疾患の有無の検出としては、被検者が現在疾患を発症している可能性があるかないかの
検出(定性的検出)や、被検者が現在疾患を発症している可能性が高いか低いかの検出(定量的検出)が挙げられる。
【0076】
疾患の発症リスクの検出としては、被検者が将来疾患を発症する可能性または発症した場合に重症化する可能性があるかないかの検出(定性的検出)や、被検者が将来疾患を発症する可能性または発症した場合に重症化する可能性が高いか低いかの検出(定量的検出)が挙げられる。
【0077】
疾患の進行度合いの検出としては、被検者における現在の疾患の進行度合い(例えば重症度)が大きいか小さいかの検出(定量的検出)が挙げられる。
【0078】
加齢の進行度合いの検出としては、被検者における現在の加齢の進行度合い(例えば重症度)が大きいか小さいかの検出(定量的検出)が挙げられる。
【0079】
すなわち、「被検者において発症リスクがある」とは、例えば、被検者が現在疾患を発症している可能性があること、被検者が将来疾患を発症する可能性があること、および/または被検者が将来疾患を発症した場合に重症化する可能性があることを意味してよい。一方、「被検者において発症リスクがない」とは、例えば、被検者が現在疾患を発症している可能性がないこと、被検者が将来疾患を発症する可能性がないこと、および/または被検者が将来疾患を発症した場合に重症化する可能性がないことを意味してよい。
【0080】
また、「被検者において発症リスクが高い」とは、例えば、被検者が現在疾患を発症している可能性が高いこと、被検者が将来疾患を発症する可能性が高いこと、被検者が将来疾患を発症した場合に重症化する可能性が高いこと、被検者における現在の疾患の進行度合いが大きいこと、および/または被検者における現在の加齢の進行度合いが大きいことを意味してよい。一方、「被検者において発症リスクが低い」とは、例えば、被検者が現在疾患を発症している可能性が低いこと、被検者が将来疾患を発症する可能性が低いこと、被検者が将来疾患を発症した場合に重症化する可能性が低いこと、被検者における現在の疾患の進行度合いが小さいこと、および/または被検者における現在の加齢の進行度合いが小さいことを意味してよい。
【0081】
検出工程は、例えば、特徴値の高低を指標として実施できる。前記特徴値の高低は、例えば、前記分析工程で求めた特徴値を所定の閾値と比較することにより決定できる。言い換えると、検出工程は、例えば、分離パターンから得られた特徴値を閾値と比較する工程を含んでいてよい。
【0082】
すなわち、「特徴値が高い」とは、例えば、特徴値が閾値を基準として高いことを意味してよい。また、「特徴値が閾値を基準として高い」とは、例えば、特徴値が閾値以上であること、特徴値が閾値を超えていること、または特徴値が閾値よりも統計学的に有意に高いことを意味してよい。「特徴値が閾値を基準として高い」場合の具体例として、特徴値が閾値の1.01倍以上、1.02倍以上、1.03倍以上、1.05倍以上、1.07倍以上、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、1.7倍以上、2倍以上、2.5倍以上、または3倍以上である場合が挙げられる。
【0083】
一方、「特徴値が低い」とは、例えば、特徴値が閾値を基準として低いことを意味してよい。また、「特徴値が閾値を基準として低い」とは、例えば、特徴値が閾値以下であること、特徴値が閾値未満であること、または特徴値が閾値よりも統計学的に有意に低いことを意味してよい。「特徴値が閾値を基準として低い」場合の具体例として、特徴値が閾値の0.99倍以下、0.98倍以下、0.97倍以下、0.95倍以下、0.93倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下、0.6倍以下、0.
5倍以下、0.4倍以下、または0.3倍以下である場合が挙げられる。
【0084】
特徴値は、例えば、閾値を基準に、危険範囲に区分されてよい。特徴値は、例えば、閾値を基準に、非危険範囲に区分されてよい。特徴値は、具体的には、例えば、閾値を基準に、危険範囲と非危険範囲とに区分されてもよい。「危険範囲」とは、特徴値について、被検者においてリスクがある可能性が高い範囲を意味してよい。「非危険範囲」とは、特徴値について、被検者においてリスクがない可能性が高い範囲を意味してよい。すなわち、特徴値が危険範囲にあれば、被検者においてリスクがある、またはリスクが高いことを検出してよい。一方、特徴値が非危険範囲にあれば、被検者においてリスクがない、またはリスクが低いことを検出してよい。
【0085】
なお、「特定の特徴値が一定の基準を満たす(例えば、低いもしくは高い、または特定の範囲にある)場合に被検者においてリスクがある、ない、高い、または低いことを検出する」とは、少なくとも当該基準を満たす範囲において被検者においてリスクがある、ない、高い、または低いことを検出することを意味し、当該基準を満たさない範囲において被検者においてリスクが検出されることを要求しない。しかし、一態様においては、「特定の特徴値が一定の基準を満たす(例えば、低いもしくは高い、または特定の範囲にある)場合に被検者においてリスクがある、ない、高い、または低いことを検出する」場合、当該基準を満たさない範囲において、それぞれ、被検者においてリスクがない、ある、低い、または高いことを検出してもよい。
【0086】
閾値は、例えば、特徴値の種類や所望の判定精度等の諸条件に応じて、当業者が適宜設定できる。閾値は、例えば、疾患や加齢等の判定対象の症状ごとに設定されてよい。閾値を決定する手段は、特に制限されない。閾値は、例えば、集団を2群に区分するためのデータ解析に利用される公知の手法に従って決定できる。
【0087】
閾値は、例えば、対照被検者から得た被検抗体の分離パターンから求めた特徴値に基づいて決定できる(本明細書では、対照被検者から得た被検抗体の分離パターンを「対照分離パターン」とも表記する)。すなわち、対照分離パターンの特徴値に基づき、閾値を決定し、検出工程を実施してもよい。具体的には、対照分離パターンの特徴値を閾値の決定に用いることで、特徴値との比較に用いられてよい。言い換えると、検出工程は、例えば、特徴値と対照分離パターンの特徴値との比較を行なってもよい。
【0088】
前記対照被検者としては、陽性対照や陰性対照が挙げられる。「陽性対照」とは、リスクがある、または高いと検出され得る被検者を意味してよい。「陰性対照」とは、リスクがない、または低いと検出され得る被検者を意味してよい。陽性対照としては、上記例示したような疾患(特に、リスクの検出対象となる疾患と同一の疾患)に罹患している、または罹患したことがある個体や、加齢が進行した個体、それらの組み合わせの性質を有する個体が挙げられる。陰性対照としては、上記例示したような疾患(特に、リスクの検出対象となる疾患と同一の疾患)に罹患していない、または罹患したことがない個体や、加齢が進行していない個体、それらの組み合わせの性質を有する個体が挙げられる。閾値は、陽性対照を分析し求めた特徴値のみに基づいて決定してもよく、陰性対照を分析し求めた特徴値のみに基づいて決定してもよく、陽性対照と陰性対照の両方を分析し算出した特徴値に基づいて決定してもよい。閾値は、通常は、陽性対照と陰性対照の両方を分析し求めた特徴値に基づいて決定すればよい。陽性対照と陰性対照の人数は、リスクの判定が所望の精度で可能となる閾値が得られる限り、特に制限されない。陽性対照と陰性対照の人数は、それぞれ、1人であってもよく、2人またはそれ以上であってもよい。陽性対照と陰性対照の人数は、それぞれ、通常、複数名であってよい。陽性対照と陰性対照の人数は、それぞれ、例えば、5人以上、10人以上、20人以上、または50人以上であってもよい。陽性対照と陰性対照の人数は、それぞれ、例えば、10000人以下、1000人以下、または100人以下であってもよい。
【0089】
陽性対照を分析し求めた特徴値のみに基づいて閾値を決定する場合には、例えば、陽性対照の複数個体を分析し求めた特徴値の上限から下限までの範囲から選択される値、例えば平均値、を閾値として設定してもよい。また、例えば、陽性対照の複数個体を分析し求めた特徴値の分布において、陽性対照の所定の割合が危険範囲に含まれるように閾値を決定してもよい。所定の割合とは、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または100%であってよい。
【0090】
陰性対照を分析し求めた特徴値のみに基づいて閾値を決定する場合には、例えば、陰性対照の複数個体を分析し求めた特徴値の上限から下限までの範囲から選択される値、例えば平均値、を閾値として設定してもよい。また、例えば、陰性対照の複数個体を分析し求めた特徴値の分布において、陰性対照の所定の割合が非危険範囲に含まれるように閾値を決定してもよい。所定の割合とは、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または100%であってよい。
【0091】
陽性対照を分析し求めた特徴値と陰性対照を分析し求めた特徴値との両方に基づいて閾値を決定する場合には、例えば、陽性対照の所定の割合が危険範囲に含まれ、かつ、陰性対照の所定の割合が非危険範囲に含まれるように閾値を決定してもよい。陽性対照のうち危険範囲に含まれるものの割合、および、陰性対照のうち非危険範囲に含まれるものの割合は、いずれも高い方が好ましい。これらの割合は、それぞれ、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または100%であってよい。これらの割合の両方を高くすることが困難な場合は、例えば、本発明による検出結果の利用目的等の諸条件に応じて、いずれかの割合が優先的に高くなるように閾値を設定してもよい。例えば、偽陰性率を下げるためには、陽性対照の内の危険範囲に含まれるものの割合が優先的に高くなるように閾値を設定してよい。
【0092】
閾値の決定は、例えば、ソフトウェアを用いて実施してもよい。例えば、統計解析ソフトウェアを用い、陰性対照と陽性対照とを統計学的に最も適切に判別できるような閾値を決定してもよい。そのようなソフトウェアとしては、「R」等の統計解析ソフトウェアが挙げられる。
【0093】
また、対照被検者としては、標的被検者自体も挙げられる。すなわち、例えば、被検者における特徴値の変動を指標として、被検者におけるリスクを検出してもよい。本明細書において「特徴値が高い」とは、特徴値が増大した場合も包含してよい。本明細書において「特徴値が増大した」とは、具体的には、特徴値が過去の値と比較して増大したことを意味してよい。また本明細書において「特徴値が低い」とは、特徴値が低下した場合も包含してよい。本明細書において「特徴値が低下した」とは、具体的には、特徴値が過去の特徴値と比較して低下したことを意味してよい。すなわち、閾値としては、過去の特徴値も挙げられる。本明細書において「過去の特徴値」とは、標的被検者から過去の特定時点で得た被検抗体での特徴値を意味する。過去の特定時点における標的被検者は、例えば、陽性対照であってもよく、陰性対照であってもよい。
【0094】
被検者における特徴値の変動を指標として、被検者におけるリスクの増減を検出してもよい。本明細書において「リスクがある、または高い」とは、リスクが増大した場合も包含してよい。本明細書において「リスクが増大した」とは、具体的には、リスクが過去の特定時点と比較して増大したことを意味してよい。一方、本明細書において「リスクがない、または低い」とは、リスクが低下した場合も包含してよい。本明細書において「リスクが低下した」とは、具体的には、リスクが過去の特定時点と比較して低下したことを意味してよい。
【0095】
本明細書において「特徴値を得てリスクの検出の指標とする」とは、当該特徴値そのものを得てリスクの検出の指標とする場合に限られず、当該特徴値を反映する他の値を得て検出の指標とすることも包含する。
【0096】
リスクの検出結果は、被検者に対してリスクを低減するための処置(以下、「リスク軽減処置」ともいう)を実施するかを決定するための指標として用いてもよい。言い換えると、本検出工程を実施することで、被検者に対してリスク軽減処置を実施するかを決定するための指標が得られる。すなわち、例えば、本検出工程により被検者においてリスクがある、または高いと検出された場合に、被検者に対してリスク軽減処置を実施すると決定してよい。本検出工程は、例えば、単独で、または他の手段と組み合わせて、被検者に対してリスク軽減処置を実施するかを決定するための指標として用いてよい。例えば、本検出工程により被検者においてリスクがある、または高いと検出された症状について、他の手段により確定診断を実施してから、被検者に対してリスク軽減処置を実施すると決定してもよい。リスク軽減処置は、医療行為であってもよく、非医療行為であってもよい。リスク軽減処置としては、前記例示したような疾患や加齢の予防や治療が挙げられる。すなわち、本発明は、例えば、疾患や加齢等の症状の予防または治療方法を提供してよい。予防または治療方法は、例えば、本検出工程により被検者においてリスクがある、または高いと検出された場合に、被検者に対して予防または治療を実施する工程を含む、疾患や加齢等の症状の予防または治療方法であってよい。具体的には、本検出工程により被検者においてリスクがある、または高いと検出された症状について予防または治療を実施してよい。予防または治療は、例えば、各症状についての一般的な手段(例えば、投薬や外科手術)により実施できる。
【実施例0097】
以下、実施例および比較例を参照して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0098】
実施例1 アフィニティクロマトグラフィカラム(FcR9_Fカラム)の作製
特開2018-197224号公報の方法で得られたFc結合性タンパク質FcR9_F_Cys(配列番号2)を、以下に示す方法でゲルに固定化し、FcR9_Fカラムを作製した。なおFcR9_F_Cys(配列番号2)において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までが改良PelBシグナルペプチド(UniProt No.P0C1C1の1番目から22番目までのアミノ酸残基からなるオリゴペプチドであり、ただし6番目のプロリンのセリンへのアミノ酸置換が生じたオリゴペプチド)であり、24番目のグリシン(Gly)から199番目のグルタミン(Gln)までがFc結合性タンパク質FcR9_F(特開2018-197224号公報)のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、200番目のグリシン(Gly)から207番目のグリシン(Gly)までがシステインタグ配列である。また前記FcR9_Fは、ヒトFcγRIIIaの細胞外領域(配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基)からなるポリペプチドを構成するアミノ酸残基のうち、Val27Glu(この表記は、配列番号1の27番目(配列番号2では34番目に相当)のバリンがグルタミン酸に置換されていることを表す、以下同様)、Phe29Ile、Tyr35Asn、Gln48Arg、Phe75Leu、Asn92Ser、Val117Glu、Glu121Gly、Phe171SerおよびVal176Pheのアミノ酸置換を有した、ポリペプチドである。
【0099】
(1)2mLの分離剤用親水性ビニルポリマー(東ソー社製:液体クロマトグラフィ用充填剤)の表面のヒドロキシ基をヨードアセチル基で活性化後、特開2018-1972
24号公報の方法で得られたFcR9_F_Cysを4mg反応させることで、FcR9_F固定化ゲルを得た。
【0100】
(2)(1)で作製したFcR9_F固定化ゲル0.8mLをφ4.6mm×50mmのステンレスカラムに充填してFcR9_Fカラムを作製した。
【0101】
実施例2 溶出時間の補正方法の検討
(1)標準抗体としてヒトミエローマ血漿由来IgG1(mIgG1、Sigma社製)を0.2μm径のフィルター(Merck Millipore社製)に通し、標準抗体溶液を調製した。溶液中のタンパク質濃度はNanoDrop超微量分光光度計(Thermo Fisher Scientific社製)で測定した。
【0102】
(2)インフォームドコンセントを得た被検者から採血した血液を遠心し、血清を得た。当該血清をPBS(Phosphate Buffered Saline)(pH7.4)で10倍希釈後、0.2μm径のフィルター(Merck Millipore社製)に通すことで血清検体を調製した。
【0103】
(3)実施例1で作製したFcR9_Fカラムを高速液体クロマトグラフィー装置(東ソー社製)に接続し、100mMの塩化ナトリウムを含む10mMのクエン酸緩衝液(pH6.5)(以下「平衡化液」とも表記)で平衡化後、(1)で調製した標準抗体溶液を流速1.2mL/minにて10μL添加した。流速1.2mL/minのまま平衡化液で7分洗浄後、500mMの塩化ナトリウムを含む10mMのクエン酸緩衝液(pH4.5)(以下「溶出液」とも表記)を用いたpHグラジエント(11分で溶出液が100%となるグラジエント)で吸着したガンマグロブリンを溶出した。UV検出器による溶出液の吸光度(280nm)測定を1/5秒間隔で行ない、分離パターンを得た。
【0104】
(4)FcR9_Fカラムに添加する溶液を(2)で調製した血清検体とした他は、(3)と同様な方法で分離パターンを得た。
【0105】
(5)(3)の操作と(4)の操作を各50回交互に実施した(図1)。
【0106】
(6)pHグラジエントを開始した時間(溶出開始後7分)、およびpHグラジエントが終了した(すなわち溶出液が100%となった)時間(溶出開始後18分)での検出値がともに0となるよう、(3)で得られた標準抗体の分離パターンおよび(4)で得られた血清検体の分離パターンを補正した。
【0107】
(7)(6)で補正した各分離パターンに対して、以下に示す方法で、式1および式2に基づき、分離パターンの溶出時間を補正した。
【0108】
【数1】
【0109】
(7-1)標準抗体(mIgG1)の分離パターン(図2)に存在する3つの極大値(ピークトップ)を特徴点として選択した(基準:Tcsp1、Tcsp2およびTcsp3、補正対象:Tcp1、Tcp2およびTcp3)。
【0110】
(7-2)補正対象(測定50回目)の標準抗体の分離パターンにおける、(7-1)で選択した特徴点での溶出時間(Tcp1、Tcp2およびTcp3)をX軸に、補正対象の標準抗体の分離パターンにおける、(7-1)で選択した特徴点での溶出時間と、基準となる(測定1回目の)標準抗体の分離パターンにおける溶出時間との差((Tcp1-Tcsp1)、(Tcp2-Tcsp2)および(Tcp3-Tcsp3))をY軸に、それぞれプロットし、プロット図を作成した(図3)。
【0111】
(7-3)(7-2)で作成したプロット図(図3)から、繰返し測定による分離パターンの変動が、解析開始時間から解析終了時間の範囲の溶出時間において、溶出時間に依存して変動幅が異なると仮定し、最小二乗法による単回帰式で、特定の溶出時間における溶出時間の変動幅と当該溶出時間との近似線(関係式)を作成した。図3において、プロットが略近似線上に位置していることから、最小二乗法による単回帰式で溶出時間を補正可能なことがわかる(図3)。
【0112】
(7-4)(7-3)で作成した関係式に基づき、補正対象(測定50回目)の血清検体の分離パターンにおける溶出時間を補正した。
【0113】
(8)(7)より得られた溶出時間を補正した分離パターンに対して、補正後の溶出開始後7分、および補正後の溶出開始後18分がともに補正後の溶出時間に対する検出値が0となるよう、ベースライン補正し、血清検体の分離パターンを得た。
【0114】
比較例1
実施例2(7)に記載の分離パターンの溶出時間補正を、以下に示す方法で、式3に基づき行なった他は、実施例2に記載と同様な方法で、血清検体の分離パターンを得た。
【0115】
【数2】
【0116】
(1)標準抗体(mIgG1)の分離パターン(図2)に存在する3つの極大値(ピークトップ)のうち、溶出時間が最も遅い極大値を選択した。
【0117】
(2)(1)で選択した特徴点での、補正対象(測定50回目)の標準抗体の分離パターンにおける溶出時間と、基準となる(測定1回目の)標準抗体の分離パターンにおける溶出時間との差(Tcp3-Tcsp3)を算出した。
【0118】
(3)繰返し測定による分離パターンの変動が、解析開始時間から解析終了時間の範囲の溶出時間において、均一な時間だけシフトしていると仮定して、補正対象(測定50回目)の血清検体の分離パターンにおける溶出時間を、前記(2)で算出した値で補正した。
【0119】
比較例2
実施例2(7)に記載の分離パターンの溶出時間補正を行なわなかった他は、実施例2に記載と同様な方法で、血清検体の分離パターンを得た。
【0120】
実施例2ならびに比較例1および2の結果をまとめて図4に示す。図4に示す分離パターンのうち、実線は測定1回目の血清検体の分離パターンであり、点線は測定50回目(補正対象)の血清検体の分離パターンである。図4から、未補正(比較例2)時に見られた大幅な溶出時間のシフトが(図3のパネル(c))、3点補正(実施例2)することで分離パターン全体がほぼ同一の線上に位置した(図3のパネル(a))。一方、1点補正(比較例1)では、補正対象ピーク(溶出時間の最も遅いピーク)以外のピークにおいて溶出時間のシフトが残存した(図3のパネル(b))。以上より、複数の特徴点での溶出時間に基づき補正することで、精度高く補正され、繰返し測定による溶出時間の変動が抑えられることがわかる。
【0121】
実施例3
(1)標準抗体としてリツキシマブ(全薬工業製)またはmIgG1(Sigma社製)をPBSでタンパク質濃度1mg/mLに希釈し、0.2μm径のフィルター(Merck Millipore社製)に通し、標準抗体溶液を調製した。
【0122】
(2)実施例2と同一の被検者(以下、被検者A)から採血した血液から、実施例2(2)と同様な方法で、血清検体を調製した。
【0123】
(3)抗体の分離パターンにおける各ピーク領域を定めるための標準サンプルとしてリツキシマブ(全薬工業製)をPBSでタンパク質濃度1mg/mLに希釈し、0.2μm径のフィルター(Merck Millipore社製)に通し、標準サンプル溶液を調製した。
【0124】
(4)FcR9_Fカラムに添加する溶液を(1)で調製した標準抗体溶液または(3)で調製した標準サンプル溶液とした他は、実施例2(3)と同様な方法で、標準抗体リツキシマブの分離パターン、標準抗体mIgG1の分離パターン、および標準サンプルの分離パターンを順に得た。
【0125】
(5)FcR9_Fカラムに添加する溶液を(1)で調製した標準抗体溶液または(2)で調製した血清検体とした他は、実施例2(3)と同様な方法で、標準抗体リツキシマブの分離パターン、標準抗体mIgG1の分離パターン、および血清検体の分離パターンを順に得た。
【0126】
(6)(5)の操作を、同一日で12回、2日間で合計24回実施した。
【0127】
(7)実施例2(7)の補正対象として、各測定回で得られた血清検体に対して、補正を行う血清検体と同一の測定回における標準抗体を基に、当該分離パターンの溶出時間を補正した他は、実施例2(6)から(8)と同様な方法で、血清検体の分離パターンを得た。
【0128】
(8)ベースライン補正した標準サンプルの分離パターン(図5)から、溶出開始後7分から18分までの間に検出される3つのピーク間(溶出時間が短い(FcR9_Fとの結合能が低い)順に第1ピーク、第2ピーク、第3ピーク)の谷領域で導関数が0を取る2つの溶出時間で分割した領域をピーク領域とした。すなわち第1ピーク領域は溶出開始後7分から第1ピークと第2ピークの間の谷領域の導関数が0を取る溶出時間までの範囲とし、第2ピーク領域は第1ピークと第2ピークの間の谷領域の導関数が0を取る溶出時間から第2ピークと第3ピークの間の谷領域の導関数が0を取る溶出時間までの範囲とし、第3ピーク領域は第2ピークと第3ピークの間の谷領域の導関数が0を取る溶出時間から溶出開始後18分までの範囲とした。当該標準物質で定義付けたピーク領域を標準サンプルの分析後に測定した血清検体に適用することで、当該血清検体のピーク領域の定義付けを標準サンプルを用いて行なった。
【0129】
(9)(8)で定義付けた血清検体の各ピーク領域のピーク面積を算出し、当該ピーク面積を溶出開始後7分から18分までの間のピーク面積の合計値(すなわち第1ピーク面積、第2ピーク面積および第3ピーク面積の和)で割った値から各ピーク面積%(第1ピーク面積%、第2ピーク面積%、第3ピーク面積%を、以下area1%、area2%、area3%とも記載)を算出した。
【0130】
比較例3
実施例3(7)に記載の分離パターンの溶出時間補正を行わなかった他は、実施例3と同様な方法で、血清検体の各ピーク面積%を算出した。
【0131】
参考例1 抗インターロイキン6レセプター(IL-6R)抗体発現細胞の構築
(1)以下の方法で抗IL-6R抗体を哺乳動物細胞で発現可能なベクターを構築した。
【0132】
(1-1)配列番号3に記載のジヒドロ葉酸レダクターゼ(dihydrofolate
reductase、dhfr)およびSV40のPolyAをコードする遺伝子に制限酵素SacII認識配列列(CCGCGG)を5’末端および3’末端の両方に付加した遺伝子を全合成し(Integrated DNA Technologies社に委託)プラスミドにクローニングした。
【0133】
(1-2)(1-1)で作製したプラスミドで大腸菌JM109株を形質転換した。得られた形質転換体を培養し、プラスミドを抽出したのち、制限酵素SacIIで消化することで、dhfr-SV40PolyAをコードする遺伝子を調製しdhfr-P1と命名した。
【0134】
(1-3)pIRESベクター(Clontech社)を鋳型として、配列番号4(5’-TCC[CCGCGG]GCGGGACTCTGGGGTTCGAAATGACCG-3’)および配列番号5(5’-TCC[CCGCGG]GGTGGCTCTAGCCTTAAGTTCGAGACTG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号4および5中の角かっこは制限酵素SacII認識配列を示している)を用いてPCRを行なった。具体的には、表1に示す組成の反応液を調製し、当該反応液を98℃で30秒間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で5分間の第3ステップを1サイクルとする反応を25サイクル繰り返すことで実施した。このPCRにより、pIRESベクターのうちネオマイシン耐性遺伝子を除いた領域を増幅した。
【0135】
【表1】
【0136】
(1-4)(1-3)で作製したPCR産物を精製後、制限酵素SacIIで消化し、(1-2)で調製したdhfr-P1とライゲーションした。当該ライゲーション産物で大腸菌JM109株を形質転換し、培養した形質転換体からプラスミドを抽出することでdhfr遺伝子を含んだ発現ベクターpIRES-dhfrを得た。
【0137】
(2)(1)で作製したpIRES-dhfrを鋳型として配列番号6(5’-TTTAAATCA[GCGGCCGC]GCAGCACCATGGCCTGAAATAACCTCTG-3’)および配列番号7(5’-GCAAGTAAAACCTCTACAAATGTGGTAAA[CGATCG]CTCCGGTGCCCGT-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号6中の角かっこは制限酵素NotI認識配列を、配列番号7中の角かっこは制限酵素PvuI認識配列を、それぞれ示している)を用いてPCRを行なった。具体的には、表2に示す組成の反応液を調製し、当該反応液を98℃で1分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル繰り返すことで実施した。このPCRにより増幅したPCR産物(SV40プロモーター、dhfr、SV40のPolyAまでの領域を)をdhfr-P2と命名した。
【0138】
【表2】
【0139】
(3)ヒト抗体の重鎖定常領域を含んだpFUSEss-CHIg-hG1(InvivoGen社)、ヒト抗体の軽鎖定常領域を含んだpFUSE2ss-CLIg-hk(InvivoGen社)および(2)で作製したdhfr-P2をそれぞれ制限酵素NotIおよびPvuIで消化した後、精製しライゲーションした。当該ライゲーション産物で大腸菌JM109株を形質転換し、培養した形質転換体からプラスミドを抽出することでSV40プロモーター、dhfr、SV40のPolyAを含んだpFUSEss-CHIg-hG1およびpFUSE2ss-CLIg-hkを得た。pFUSEss-CHIg-hG1にSV40プロモーター、dhfrおよびSV40のPolyAを組込んだプラスミドをpFU-CHIg-dhfrと命名し、pFUSE2ss-CLIg-hkにSV40プロモーター、dhfrおよびSV40のPolyAを組込んだプラスミドをpFU-CLIg-dhfrと命名した。
【0140】
(4)配列番号8に記載のアミノ酸配列からなる抗インターロイキン6レセプター(以下、IL-6R)抗体の重鎖可変領域をコードする配列番号9に記載のポリヌクレオチドの5’末端に制限酵素EcoRI認識配列(GAATTC)とフレームシフト抑制のためグアニン(G)を付加し、3’末端に制限酵素NheI認識配列(GCTAGC)を付加した遺伝子を全合成しプラスミドにクローニングした(FASMAC社に委託)。作製したプラスミドをpUC-VH6Rと命名した。また、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなる抗IL-6R抗体の軽鎖可変領域をコードする配列番号11に記載のポリヌクレオチドの5‘末端に制限酵素EcoRI認識配列(GAATTC)とフレームシフト抑制のためグアニン(G)を付加し、3’末端に制限酵素BsiWI認識配列(CGTACG)を付加した遺伝子を全合成しプラスミドにクローニングした(FASMAC社に委託)。作製したプラスミドをpUC-VL6Rと命名した。
【0141】
(5)(4)で作製したpUC-VH6Rおよび(3)で作製したpFU-CHIg-dhfrをそれぞれ制限酵素EcoRI、NheIで消化後、精製し、ライゲーションした。当該ライゲーション産物で大腸菌JM109株を形質転換し、培養した形質転換体からプラスミドを抽出することで、抗IL-6R抗体の重鎖(H鎖)を発現するプラスミドpFU-6RH-dhfrを得た。また(4)で作製したpUC-VL6Rおよび(3)で作製したpFU-CLIg-dhfrをそれぞれ制限酵素EcoRI、BsiWIで消化後、精製し、ライゲーションした。当該ライゲーション産物で大腸菌JM109株を形
質転換し、培養した形質転換体からプラスミドを抽出することで、抗IL-6R抗体の軽鎖(L鎖)を発現するプラスミドpFU-6RL-dhfrを得た。
【0142】
参考例2 抗IL-6R抗体高発現細胞の構築
(1)参考例1で作製したpFU-6RH-dhfrおよびpFU-6RL-dhfrを、CHO細胞(DG44株)にNeon Transfection System(Thermo Fisher Scientific社)を用いて遺伝子導入した。その後、50μg/mLのカナマイシン、40mL/LのGlutaMAX(Thermo Fisher Scientific社)を含んだCD OptiCHO Medium(Thermo Fisher Scientific社)で形質転換細胞を培養抗IL-6R抗体発現細胞を得た。その後、培地に50ng/mLのメトトレキサート
(MTX)を添加することで遺伝子増幅を行なった。
【0143】
(2)(1)でMTX処理をした細胞を限外希釈法により単クローン化し、下記に記載のELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)を用いて、抗IL-6R抗体を安定的に高生産可能な細胞を選択した。
【0144】
(2-1)抗ヒトFab抗体(Bethyl社)を、96穴マイクロプレートのウェルに1μg/wellで固定化した(4℃で一晩)。固定化終了後、2%(w/v)のSKIM MILK(Becton Dickinson社)および150mM塩化ナトリウムを含んだ20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)によりブロッキングした。
【0145】
(2-2)洗浄緩衝液(0.05%[w/v]のTween 20(商品名)と150mMのNaClとを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0))で洗浄後、抗体を含んだ培養上清を添加し、抗体と固定化タンパク質とを反応させた(30℃で1時間)。
【0146】
(2-3)反応終了後、前記洗浄緩衝液で洗浄し、100ng/mLに希釈したペルオキシターゼで標識された抗ヒトFc抗体(Bethyl社)を100μL/wellで添加した。
【0147】
(2-4)30℃で1時間反応し、前記洗浄緩衝液で洗浄した後、TMB Peroxidase Substrate(KPL社)を50μL/wellで添加した。その後、1Mのリン酸を50μL/wellで添加することで発色を止め、マイクロプレートリーダー(テカン社)を用いて450nmの吸光度を測定し、測定値の高い抗IL-6R抗体高生産細胞株を選択した。
【0148】
(3)MTX濃度を段階的(50nM、500nM、1μM、2μM、4μM、8μM、16μM、32μM、64μM)に上昇させながら、限外希釈を行ない(2)に記載のELISAでクローン選択を行なうことを繰り返した。その結果、抗IL-6R抗体高生産細胞株を得た。
【0149】
参考例3 ジャーファーメンターを用いたバッチ培養による抗IL-6R抗体の取得
(1)50μg/mLのカナマイシン、30mL/LのGlutaMAX(Thermo Fisher Scientific社)を含んだ50mLのBalanCD CHO Growth A medium(Irvine Scientific社)を入れた250mLの三角フラスコ(Corning社)に、参考例2で作製した抗IL-6R抗体高発現細胞を接種し、130rpm、37℃、8%COの条件下で振盪培養した。
【0150】
(2)校正したpH計、溶存酸素(DO)計をセットした3器の250mLの滅菌済み
ジャーファーメンター(バイオット社)に、50μg/mLのカナマイシン、30mL/LのGlutaMAXを含んだ100mLのBalanCD CHO Growth A
mediumを入れ、(1)で培養した抗IL-6R抗体高発現細胞を0.2×10cells/mLとなるよう接種後、全量を110mLとなるよう前述の培地を追加した。
【0151】
(3)培地および細胞を加えたジャーファーメンターを制御装置(Bio Jr.8:バイオット社)にセットし、気相に空気を100mL/分で流しながら、37℃、130rpmで12日間バッチ培養した。なお培養中、pHは気相の二酸化炭素濃度を調整するのと同時に0.5Mの炭酸水素ナトリウム水溶液を添加することでpH7.0に制御し、DOは37℃での飽和溶存酸素量の50%量を保つよう制御した。培養途中で培養液を1から2mLサンプリングし、生細胞密度をVi-CELL XR(ベックマン・コールター社)を使用して測定し、抗体生産性をCedex Bio(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を使用して測定した。
【0152】
(4)培養終了後の培養液を遠心分離によって細胞および不純物を除去し、得られた上清を、1.0mLのMabSelect SuRe LX(GEヘルスケア社)をオープンカラムに充填し作製した分離カラム(150mMの塩化ナトリウムを含んだ20mMのTris-HCl(pH7.4)で平衡化済)にアプライした。
【0153】
(5)前記平衡化に用いた緩衝液10mLで前記分離カラムを洗浄後、0.1Mのグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)5mLで前記分離カラムに吸着した抗体を溶出した。溶出液に1mLの1M Tris-HCl(pH8.0)を加えることでpHを中性領域に戻し、限外ろ過膜で濃縮しながら150mMの塩化ナトリウムを含んだ50mMのクエン酸緩衝液(pH6.5)に緩衝液交換することで、高純度な抗IL-6R抗体を得た。
【0154】
実施例4
(1)標準抗体としてリツキシマブ(全薬工業製)または参考例3で得た抗IL-6R抗体を用い、且つ、血清検体を実施例3とは異なる被検者(以下、被検者B)から採血した血液から調製した他は、実施例3と同様な方法で、血清検体の各ピーク面積%を算出した。
【0155】
比較例4
実施例4で分離パターンの溶出時間補正を行わなかった他は、実施例4と同様な方法で、血清検体の各ピーク面積%を算出した。
【0156】
実施例3および4ならびに比較例3および4の結果をまとめて表3に示す。表3では、同一血清検体を24回測定した際の値のばらつき(CV値[%])としてデータを記載しており、当該値が小さい程、ばらつきが低く、測定再現性の高い結果といえる。
【0157】
標準抗体による分離パターンの溶出時間補正を行わなかった場合(比較例3および4)、CV値が、それぞれ、area1%では18.9%および17.7%、area2%では4.2%および3.6%、area3%では7.5%および7.3%と大きくばらついた。一方、血清検体の分離パターンの溶出時間を、標準抗体としてリツキシマブもしくはmIgG1(実施例3)またはリツキシマブもしくは抗IL-6R抗体(実施例4)を用いて溶出時間補正を行うと、すべてのピーク面積%においてCV値が改善し(リツキシマブおよびmIgG1(実施例3)について、それぞれ、area1%では6.7%および6.5%、area2%では1.9%および1.1%、area3%では1.2%および1.3%;リツキシマブおよび抗IL-6R抗体(実施例4)について、それぞれ、area1%では10.8%および10.6%、area2%では2.0%および1.4%、area3%では2.3%および2.8%)、測定再現性が向上していることがわかる。実施例3および4では、測定毎に変化する溶出時間の差異を補正することで、分離パターンの溶出時間で定義される各ピーク領域の変動が抑えられた結果、比較例3および4と比較し、ばらつきが抑制されたと考えられる。
【0158】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2022151678000001.app