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特開2022-151703摩耗試験装置におけるワーク保持機構および摩耗試験装置並びに摩耗試験方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151703
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】摩耗試験装置におけるワーク保持機構および摩耗試験装置並びに摩耗試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/56 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
G01N3/56 E
G01N3/56 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037134
(22)【出願日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2021048595
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509311643
【氏名又は名称】株式会社山本金属製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】小関 秀峰
(72)【発明者】
【氏名】宮城 俊美
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲吾
(72)【発明者】
【氏名】真所 最
(57)【要約】
【課題】 実際の加工状態を模擬した金型を作製することなく、加熱したワークの摩耗状態を高精度かつ定量的に評価・モニタリングすることができる摩耗試験装置におけるワーク保持機構および摩耗試験装置並びに摩耗試験方法を提供する。
【解決手段】
摩耗試験装置におけるワーク保持機構は、本体部と、本体部に対して進退するアーム部と、アーム部の一端に装着され、ワークを先端に装着するワーク取付機構と、接触治具がワークに接触したときに、アーム部の進退方向の反発力を付与する反発部とを備え、接触治具側にワークの一面を露出状態で装着するワーク取付部と、ワークの一面の反対側の面を加熱するように配設されるヒータと、ヒータから伝達された熱をアーム部に伝達することを抑制する断熱機構と、を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対して接触治具を繰り返し接触・離反させてワークの摩耗状態を測定する摩耗試験装置におけるワーク保持機構であって、
本体部と、該本体部に対して進退するアーム部と、該アーム部の一端に装着され、ワークを先端に装着するワーク取付機構と、前記接触治具がワークに接触したときに、前記アーム部の進退方向の反発力を付与する反発部と、を備え、
前記ワーク取付機構は、前記接触治具側にワークの一面を露出状態で装着するワーク取付部と、前記ワークの前記一面の反対側の面を加熱するように配設されるヒータと、前記ヒータから伝達された熱を前記アーム部に伝達することを抑制する断熱機構と、を備える摩耗試験装置におけるワーク保持機構。
【請求項2】
前記断熱機構は、前記ヒータと前記アーム部の先端側との間に設けられた第1断熱機構である請求項1に記載の摩耗試験装置におけるワーク保持機構。
【請求項3】
前記ワーク取付機構の前記本体部側後方に設けられた第2断熱機構と、を有する請求項1または2に記載の摩耗試験装置におけるワーク保持機構。
【請求項4】
前記第2断熱機構の前記本体部側後方には、放熱フィンを有する、請求項3に記載の摩耗試験装置におけるワーク保持機構。
【請求項5】
前記放熱フィンの前記本体部側後方には放射状に配列された複数のブレードを有する、請求項4に記載の摩耗試験装置におけるワーク保持機構。
【請求項6】
前記ヒータから送信されたヒータの温度信号及び/又は前記アーム部から送信されたアーム部の温度信号を受信し、前記ヒータ及び/又は前記アーム部の温度を所定温度になるように前記ヒータの動作信号を送信する温度調節機構を備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の摩耗試験装置におけるワーク保持機構。
【請求項7】
前記温度調節機構は、前記ワークを加熱したときの前記アーム部の温度を100℃以下となるように制御する、請求項6に記載の摩耗試験装置におけるワーク保持機構。
【請求項8】
前記断熱機構は、熱伝導率10W/(m・K)以下の断熱材料からなる、請求項1~7のいずれか1項に記載の摩耗試験装置におけるワーク保持機構。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のワーク保持機構と、少なくともワークに対して接触・離反を繰り返す接触治具と、前記ワークの温度を制御する温度調節機構と、を備えている摩耗試験装置。
【請求項10】
前記ワークに対して潤滑剤を噴射する潤滑剤噴射機構をさらに備えている請求項9に記載の摩耗試験装置。
【請求項11】
前記潤滑剤噴射機構は噴射圧力と噴射流量の調整ができる請求項10に記載の摩擦試験装置。
【請求項12】
ワークに対して接触治具を繰り返し接触・離反させてワークの摩耗状態を測定する摩耗試験方法であって、
前記接触治具に取付けた押付板部材を位置決めして前記ワークに所望の面圧及び速度で摺動するための摺動条件と、潤滑剤を噴射するときの噴射条件とを設定するステップ1と、
前記ワークを装着したワーク保持機構に内蔵したヒータにより、前記ワークを加熱し、前記ワークの温度を予め設定した温度に制御するステップ2と、
前記ワークと対向配置された前記押付板部材を偏心回転させることにより、前記押付板部材が前記ワークに接触と離反とを繰り返す摺動サイクルを有し、その後、所定の摺動サイクル回数まで繰り返すステップ3とを含む、摩耗試験方法。
【請求項13】
前記ステップ2では、前記ヒータの加熱温度又は前記ワークの温度を計測し、計測した温度に基づいて前記ヒータの加熱温度を制御することにより前記ワークの温度を予め設定した温度に制御する、請求項12に記載の摩耗試験方法。
【請求項14】
前記ステップ3の後に、
前記押付板部材と前記ワークとが接触する摺動面に、前記潤滑剤の噴射と無噴射とを行うステップ4と、を有し、
前記ステップ3~ステップ4を所定の摺動サイクル回数になるまで繰り返す、請求項12または13に記載の摩耗試験方法。
【請求項15】
前記摺動条件は、前記押付板部材が前記ワークに接触する位置、前記押付板部材の回転方向の速度および前記押付板部材の総回転回数を含み、前記噴射条件は、前記潤滑剤の噴射時間および無噴射時の乾燥時間を含んでいる、請求項12~14のいずれか1項に記載の摩耗試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実際の加工状態を模擬した金型を作製することなく、加熱したワークの摩耗状態を高精度かつ定量的に評価・モニタリングすることができる摩耗試験装置におけるワーク保持機構および摩耗試験装置並びに摩耗試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱した金属材料のプレス加工や鍛造加工では、加工される金属材料を上下に配置された金型の間に挟み込んで大きな加圧力を負荷することにより、金属材料を塑性変形させて加工を行う。このような加工においては、金型が被加工体である金属材料に直接接触するとともに大きな加圧力によって、金型と金属材料との間には繰り返しの摩擦が生じる。このとき金型と加熱された金属材料との間に生じる摩耗により金型の損傷が大きいと、金型の変形や割れ等が発生して金型の寿命が短くなる等の弊害を有する。
【0003】
上記弊害対策として、例えば特許文献1では実際の鍛造加工状態を模擬した試験装置により、所定の繰り返し回数の加工を行った後に潤滑剤を噴射し、金型材料の評価をする方法が開示されている。特許文献2では同じく実際の鍛造加工状態を模擬した試験装置を用いて金型形状を変更し、鍛造加工時の応力負荷量を変化させた繰り返しの摩耗試験を実施して、金型の摩耗等を評価する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された評価方法では、実際の加工状態を模擬した金型の摩耗状態を評価するものであり、鍛造されるワークの材料や形状等の仕様が変更されると、改めてその試験のための金型を準備する必要があった。このため、多大な費用や時間を要してしまうという問題がある。また、特許文献1や2に記載された方法では、高温・高圧の環境下での凝着や焼き付きといった摩耗形態の評価を行うことができない。また、特許文献3には、変位可能な回転体を用いた摩耗試験方法が開示されている。しかし、特許文献1~3には常温を超える所定温度での摩耗試験を可能とする方法に関しての開示も示唆も無い。試験環境全体を加熱することも考えられるが、その際、多量の加熱エネルギーが投入されるため摩耗試験装置全体が高熱化してしまい、試験装置の安定稼働が維持出来ないという新たな課題が生じてしまう。
【0005】
このようなことを踏まえて特許文献4では、保持機構で保持されたワーク(金型等に相当)に対して回転機構の主軸で把持され接触・離反を繰り返す連結接触治具(鍛造物等の製造対象に相当)を有し、この連結接触治具の端部を加熱機構により間欠的に加熱するようにした摩擦試験装置が提供されている。この摩耗試験装置では、実際の加工状態を模擬した金型を作製することなく、加熱された被加工体の金属材料と金型材料の摩耗状態の評価を行うことができる。
【0006】
しかしながら、特許文献4の摩耗試験装置の場合、加熱機構により加熱されるのは、主軸で把持回転される連結接触治具側であり、実際の熱間鍛造における金型を想定したワークへの影響を高精度に再現するものとは言えなかった。また、ワーク保持機構には高温耐久性が低い動力計や加圧機構などの周辺電子機器が備えられており、これらの周辺電子機器が熱により損傷しないように配慮する必要があった。さらに、実際の熱間鍛造工程においては、金型の耐久性を向上させるためにワーク表面に潤滑剤を噴射しており、これを踏まえた評価ができることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-000694号公報
【特許文献2】特開2014-223653号公報
【特許文献3】特表2007-513354号公報
【特許文献4】特開2018-21907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記課題の解決を鑑みて本発明は創作されたものであり、実際の加工状態を模擬した金型を作製することなく、熱間鍛造におけるワーク(金型材料)を実際の温度や潤滑剤を噴射する環境を制御しながら、その摩耗状態を高精度かつ定量的に評価・モニタリングすることができる摩耗試験装置におけるワーク保持機構および摩耗試験装置並びに摩耗試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、ワークに対して接触治具を繰り返し接触・離反させてワークの摩耗状態を測定する摩耗試験装置におけるワーク保持機構であって、
本体部と、該本体部に対して進退するアーム部と、該アーム部の一端に装着され、ワークを先端に装着するワーク取付機構と、前記接触治具がワークに接触したときに、前記アーム部の進退方向の反発力を付与する反発部と、を備え、
前記ワーク取付機構は、ワークの一面を前記接触治具側に露出状態で前記ワークを装着するワーク取付部と、前記ワークの前記一面の反対側の面を加熱するように配設されるヒータと、前記ヒータから伝達された熱を前記アーム部に伝達することを抑制する断熱機構と、を備える。
【0010】
本発明の摩耗試験装置におけるワーク保持機構では、ヒータをワーク保持機構側に設けて温度制御装置(後述)により温度制御している。このためワークを熱間鍛造等における金型に極めて近い状態にすることができるため、高精度かつ定量的に摩耗状態をモニタリングすることができる。さらに、ワーク取付機構の後方側(露出面の反対側)にヒータを設けた場合に、ワークからアーム部へ熱伝導が生じるが、ヒータの背面側に断熱機構を備えているのでアーム部への熱伝導を低減し、周辺電子機器への影響を低減できる。
【0011】
また、前記断熱機構は、前記ヒータと前記アーム部の先端側との間に設けられた第1断熱機構と、前記ワーク取付機構の前記本体部側後方に設けられた第2断熱機構と、を有することが好ましい。
【0012】
上記断熱機構は第1断熱機構を設けるだけでも良いが、この例における断熱機構では、第1断熱機構と第2断熱機構とが存在する。第1断熱機構は、アーム部に装着されるワーク取付機構内部でヒータとアーム部先端との間に挟まれて配設され、ワークからアーム部先端への直接的な熱伝導を遮断している。また、第2断熱機構は、間接的にアーム部に伝達される熱、すなわちワークやヒータからワーク取付機構を介してアーム部に伝達される熱を遮断している。この構成により、ヒータからの熱がアーム部先端に直接伝達されることを防止しつつ、ワークやヒータからワーク取付機構を回った熱が間接的にアーム部に伝達されることも防止しており、断熱性を向上させている。また、このような断熱機構によれば、ワークの昇温速度を高めることにも寄与する。これにより、潤滑剤がワークに噴射された際にも、設定した温度まで迅速に戻すことができる。
【0013】
また、前記第2断熱機構の前記本体部側後方には、放熱フィンを有することができ、好ましくはこの放熱フィンの前記本体部側後方には、放射状に配列された複数のブレードを有している。
【0014】
本発明のワーク保持機構では、第1断熱機構及び第2断熱機構に加え、さらにワーク取付機構の後方に放熱フィンを設けている。この放熱フィンは、例えば冷却性の高い熱伝導率30W/mK以上の高熱伝導性材料を使用し、後方に放射状の複数のブレードを設けて表面積を増やし、前方のワークとの温度差から生じる空気流(乱流を含む)を後方に流すようにしている。このような放熱フィンの機構により、ワーク取付機構内から前記断熱機構を経て漏れてくる熱を効率的に外部に放散することができる。その結果、ヒータの発熱とワークの露出面他から空気によって送られてきた熱がワーク取付機構の後方に蓄積することを防止することができる。これによりアーム部への熱移動をさらに低減することができる。
【0015】
また、前記ヒータから送信されたヒータの温度信号及び/又は前記アーム部から送信されたアーム部の温度信号を受信し、前記ヒータ及び/又は前記アーム部の温度を所定温度になるように前記ヒータの動作信号を送信する温度調節機構を備えることができる。なお、前記アーム部から送信されたアーム部の温度信号を受信し、前記アーム部の温度を所定温度になるように前記ヒータの動作信号を送信する温度調節機構を備える場合もある。
【0016】
温度調節機構を備えたことにより、ヒータやアーム部又はその両者の温度を所定温度となるようにそれぞれのON/OFF等の動作信号を制御することで実際の熱間鍛造工程等における金型やアーム部の高温状態を疑似して高精度かつ定量的な摩耗試験を提供することができる。
【0017】
また、前記温度調整機構は、前記ワークの加熱中の前記アーム部の温度を100℃以下となるように制御することが好ましい。
【0018】
アーム部の温度を100℃以下に維持すると、概ねその周辺に置かれた電子機器(計測器)の動作に影響することがなく安定した摺動試験ができる。
【0019】
また、前記断熱機構は、前記本体部と前記アーム部とを熱伝導率10W/mK以下の断熱材料を介して接続していることが好ましい。
【0020】
次に、本発明は、上記ワーク保持機構と、少なくともワークに対して接触・離反を繰り返す接触治具と、前記ワークの温度を制御する温度調節機構と、を備えている摩耗試験装置をも提供する。また、この摩耗試験装置は、前記ワークに対して潤滑剤を噴射する潤滑剤噴射機構をさらに備えることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、ワークに対して接触治具を繰り返し接触・離反させてワークの摩耗状態を測定する摩耗試験方法であって、
前記接触治具に取付けた押付板部材を位置決めして前記ワークに所望の面圧及び速度で摺動するための摺動条件と、潤滑剤を噴射するときの噴射条件とを設定するステップ1と、
前記ワークを装着したワーク保持機構に内蔵したヒータにより、前記ワークを加熱し、ワークの温度を予め設定した温度に制御するステップ2と、
前記ワークと対向配置された前記押付板部材を偏心回転させることにより、前記押付板部材が前記ワークに接触・離反を繰り返し、所定の摺動サイクルおよび潤滑剤の噴射サイクルを繰り返すステップ3とを含む、摩耗試験方法をも提供する。
【0022】
本発明の摩耗試験方法によれば、工作機械の回転主軸を利用して偏心回転させる押付板部材を加熱されたワークに接触・離反させてワークを所定の面圧、速度で摺動させることにより摩耗状態の評価を行うことができる。このときワーク側にヒータを設けているので熱間鍛造のように高温化するワークに近い状態で摩耗試験を行うことができる点で有利である。
【0023】
また、上記摩耗試験方法は、
ワークに対して接触治具を繰り返し接触・離反させると共に、潤滑剤を摺動部に噴射及び無噴射させながらワークの摩耗状態を測定する摩耗試験方法であって、
前記ステップ2では、前記ヒータの加熱温度又は前記ワークの温度を計測して計測した温度に基づいて前記ヒータの加熱温度を制御することにより前記ワークの温度を予め設定した温度に制御し、
上記ステップ3の後に、
前記押付板部材と前記ワークとが接触する摺動面に、前記潤滑剤の噴射と無噴射とを行うステップ4と、を有し、
その後、前記ステップ3~ステップ4を繰り返し、所定の摺動サイクル回数になるまで繰り返す、ことが好ましい。
【0024】
この場合、冷却のための潤滑剤の噴射の制御とワークの温度を計測しながらのヒータの加熱制御とを行っているので、実際の鍛造工程における金型等で想定される状況を分析しながらリアルタイムに温度制御することができ、高精度、且つ定量的な摩耗評価ができる。又これまで実証されていなかった現象、すなわち、指定した温度、面圧、滑り速度において潤滑剤が塗布された断続的な摺動環境における摩擦力、垂直抗力、摩擦係数の取得・評価を行うことができる。これらは、実際の温熱間鍛造金型の表面状態を局所的に模擬できることを意味し、金型材材料や潤滑剤の効果を評価する際に有益である。
【0025】
なお、前記摺動条件は、押付板部材がワークに接触する位置、前記押付板部材の回転方向の速度および前記押付板部材の総回転回数を含み、前記噴射条件は、前記潤滑剤の噴射時間および無噴射時の乾燥時間を含んでいることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、実際の加工状態を模擬した金型を作製することなく、加熱された金属材料の接触による金型材料の摩耗状態の評価を行うことができる。このときワーク保持機構側のヒータでワークを直接加熱することで、高精度かつ定量的な摩耗試験装置及び摩耗試験方法を提供することができる。また、同時にワークを加熱するヒータを背面から冷却し、後方への断熱を効率的に行うことができ、アーム部を熱伝達して周辺電子機器等に影響を与えることを防止している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本摩耗試験装置におけるワーク保持機構を備えた摩耗試験装置全体の構成を示す模式図である。
図2】本摩耗試験装置におけるワーク保持機構を示す模式図である。具体的には(a)は斜視図、(b)は側面図が示されている。
図3】ワーク保持機構におけるワーク取付機構を示す模式図である。具体的には(a)は図2(b)の左斜め上方から見た斜視図、(b)には図2(b)の右斜め上方から見た斜視図が示されている。
図4】同じくワーク取付機構を示す模式図である。具体的には(a)は図2(b)と同視点のワーク取付機構の側面図が示されており、(b)には図2(a)と同視点のワーク取付機構の断面図が示されている。
図5】本摩耗試験装置におけるワーク保持機構の動作を説明する図である。(a)は離反時、(b)は(a)から接触治具が90°回転した状態を示している。
図6】同じく(a)は図5(b)からさらに接触治具が90°回転した状態、(b)は(a)からさらに接触治具が90°回転した状態を示している。
図7】本摩耗試験装置におけるワーク保持機構の各構成機構の動作フロー図であり、(a)は摺動面に潤滑剤を噴射しない場合、(b)は摺動面に潤滑剤の噴射を行った場合における動作フロー図を示している。
図8】本摩耗試験装置におけるワーク保持機構に第1断熱機構を設置した場合のワーク表面の温度の時間変化を示すグラフ図である。
図9図8におけるワーク保持機構の第1断熱機構を取り外した場合のワーク表面の温度の時間変化を示すグラフ図である。
図10】本摩耗試験装置においてワーク保持機構のワークの温度変化に対する第1断熱機構としてのアーム部及び第2断熱機構としての放熱フィンの温度測定結果を示すグラフ図である。
図11】本摩耗試験方法において潤滑剤を塗布して潤滑膜を形成させたワークWの表面写真図を示している。
図12】本摩耗試験方法において2つの異なる潤滑剤を塗布して摺動させた試験後のワークWの表面写真図を示している。
図13】本摩耗試験装置の潤滑剤噴射機構における各噴射条件での潤滑膜の写真図およびワークWの表面温度をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の摩耗試験装置におけるワーク保持機構の実施形態について、以下図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1は、本発明の摩耗試験装置におけるワーク保持機構を備えた摩耗試験装置全体の構成を示す模式図である。摩耗試験装置100は、例えば旋盤等の工作機械が適用され、これに改造を加えることで実施できる。以下、旋盤装置に適用する場合を例に説明する。
摩耗試験装置100は、タレット170に設けられ、先端にワークWを取り付けて保持するワーク保持機構110と、ワークWに対して接触・離反を繰り返す接触治具120と、接触治具120を偏心回転自在に保持する回転機構の主軸130と、ワークWの温度を制御する外部パソコン又は旋盤装置に備えられる温度調節機構160と、ワークWに対して潤滑剤を噴射する潤滑剤噴射機構150とを備えている。さらに、図1では省略するが摩耗試験中に接触治具120を加熱する加熱機構を備えていてもよい。また摩擦摩耗試験機として、接触治具120がワークWに接触を繰り返すときの摩擦力、垂直荷重、温度などのデータを採るときは、ワーク保持機構110にデータ解析機構(外部パソコン(図示せず))を接続して摩擦係数の解析を行うことも出来る。
【0030】
摩耗試験される対象物であるワークWは、ワーク保持機構110の先端側に露出するように取り付けられ、ワークWと対向する位置に、ワークWとの接触・離反を繰り返す接触治具120が配置される。接触治具120は、回転駆動部を内蔵した回転機構の主軸130に回転自在に保持されており、主軸130が回転することによりワークWとの接触・離反の動作が行われる。この動作については後述する。
【0031】
図2は、ワーク保持機構110の一例を示す模式図である。具体的には(a)は斜視図、(b)には側面図が示されている。
ワーク保持機構110は、本体部112と、本体部112に対して進退するアーム部114と、このアーム部114の一端に装着され、ワークWを先端に装着するワーク取付機構180と、アーム部114の進退方向の反発力を受けて押圧力を付与する反発部112bを備えている。そして、ワーク取付機構180は、板状のワークWの一面を接触治具120側に露出状態で装着するワーク取付部180d(図3参照)と、ワークWの露出側の反対面を加熱するように配設されたセラミックヒータ180e(図4(b)参照)と、このセラミックヒータ180eからの熱を前記アーム部114に伝達することを防止する断熱機構(第1断熱機構180gおよび第2断熱機構180i)とを備えている。以下、ワーク保持機構110を構成する機構について説明する。
【0032】
本体部112の一方の側面は動力計172(図1参照)に装着する設置部112aを有し、動力計172を介挿させてタレット170に固定される。動力計172(固定式動力計(KISTLER社))は、ワークWへの摩耗試験工程における抵抗力を内部の3成分センサで測定し、測定結果を電気信号として出力する。本体部112の内部には、スプライン軸であるアーム部114を進退させるようになっており、後方にはアーム部114に長手方向に負荷される垂直抗力を受けると共に、接触治具120へのワークWの押圧力を付与する反発部112b、ここではバネ機構が内挿されている。バネ機構は、無負荷の状態では所定の長さを有するが、ワークWが垂直抗力を受けてアーム部114に押し込まれる方向に移動しようとすると、垂直抗力に反発して押し返す反力を生じるように構成されている。反発部112bの他の例としては、例えばサーボモータや電気式、油圧式、空圧式などのピストン等が例示できる。
【0033】
また、アーム部114の先端に連結されたワーク取付機構180の先端には、上述したようにワークWが取り付けられている。図3はワーク取付機構180の斜視図が示されており、(a)には図2(b)の左斜め上方から見た斜視図、(b)には図2(b)の右斜め上方から見た斜視図が示されている。さらに、図4は、同じくワーク取付機構180を図示しており、(a)は図2(b)と同視点のワーク取付機構180の側面図が示されており、(b)にはその断面図が示されている。
【0034】
ワーク取付機構180は、本体部112より進退するアーム部114の先端周囲を覆って固定されており、概ね先端側から箱状部材180aと放熱フィン180bとで構成されている。箱状部材180aは、先端側に開放された枠状のワーク取付部180dが設けられ、ワークの被摩耗表面側を接触治具120側に露出させるようにワークWを嵌め込み、ネジ等でワーク取付部180dの先端に装着している。なお、本実施形態においてワークWは直方体の部材として形成しているが、接触治具120との接触面を確保できる形状であれば、円筒状や半球状としてもよい。
【0035】
また、ワーク取付機構180の箱状部材180aは、ワーク取付部180dの後方にヒータが設けられている。ここではセラミックヒータ180eが配設され、ワークWの背面(摩耗側と反対の面)にセラミックヒータ180eがワークWに当接又は接近している。セラミックヒータは、直接ワークWと接するように設置してあるため、熱伝達によってワークWを加熱する。これによりセラミックヒータ180eが加熱されるとワークWは加熱され、熱間鍛造時等における金型に疑似した高温状態を作ることができる。これにより疑似環境における摩耗評価をすることができる。なお、セラミックヒータ180eは、通電することでジュール熱を発生させ加熱する。セラミックヒータの他には、例えばダイオードレーザを用いることができる。
【0036】
セラミックヒータ180eの後方には、セラミックヒータ180eからアーム部114への直接の熱伝導を遮断するための断熱機構が設けられる。ここでは、例えばセラミック製の第1断熱機構180gが設けられており、第1断熱機構180gの後面にはアーム部114の先端との間に弾性部材180h(巻ばね)が介挿されている。この弾性部材180hによりアーム部114の進退による衝撃力を減衰させることで第1断熱機構180gやワークW、接触治具120の押付板部材122の損傷を防止することができる。
【0037】
また、セラミックヒータ180eからの放熱が箱状部材180aを介してアーム部114に伝導することを防止するために箱状部材180aの後方にも第2断熱機構180iが設けられる。第2断熱機構180iは図4(b)にも示すようにそれぞれ間隔を空けて積層する複数の板状部材で形成されている。第1断熱機構180g及び第2断熱機構180iは、熱伝導率が10W/mK以下の断熱材料であることが好ましい。例えば、強度と靭性及び軽量性を備える点でアルミナあるいはジルコニア等のセラミックスが用いられ得る。さらに、第2断熱機構180iの後方にはアーム部114の周囲を覆う放熱フィン180bが配列されている。放熱フィン180bは、その後側の表面積を増やして熱を放出するように放射状に複数のブレード180b1が配設されている(図3(b)参照)。尚、ヒータからの熱流入速度を抑え、放熱フィンによる排熱速度と同等にするには、放熱フィン180bの熱伝導率は高い方が良く、30W/mK以上の熱伝導率にすることでアーム部114への熱流入を抑制することができる。例えば、アルミニウム、銅、マグネシウム、鉄やそれらの合金が用いられる。フィンは可動部となるため、密度が小さい方が好ましい。そのため、アルミニウムやマグネシウムやそれらの合金がより好ましい。
【0038】
セラミックヒータ180eは内蔵の温度センサや熱電対等の温度検出手段でワークWの温度を計測し、デジタル化された計測データを有線配線により温度調節機構160に出力する。また、温度調節機構160からはセラミックヒータ180eのON/OFF信号を配線180fを介して出力し、受信した信号に従ってセラミックヒータ180eがON/OFFされて温度調節が行われる。尚、ON/OFF信号など温度調節機構への信号の出入力はアンテナを用いた無線で行うことも出来る。
【0039】
次に、接触治具120とワークWとの接触・離反の動作について説明する。
図5図6は、図1の右側から見たワーク保持機構110及び接触治具120との位置関係を示す略図であって、図5(a)は離反時、図5(b)は図5(a)から接触治具120が90°回転した状態、図6(a)は図5(b)からさらに接触治具120が90°回転した状態、図6(b)は図6(a)からさらに接触治具120が90°回転した状態を示している。なお、図5図6は位置関係を示す略図であり、視認容易の観点からワーク取付機構180をアーム部114の先端として一体に図示している。
【0040】
図1図5図6に示すように接触治具120は、その側面の少なくとも一部がワークWに接触する断面円形の押付板部材122を挟んで、押付板部材122よりも小さい径を有する軸部材124が、互いに偏心する態様で取り付けられた構成となっている。このとき、押付板部材122の中心軸(重心軸)Cdは、軸部材124の回転軸Caに対して偏心するように取り付けられる。押付板部材122は、ワークWに接触することにより、ワークWの摩耗状態を再現できるような材料で構成されている。例えば、ワークWに熱間鍛造加工やプレス加工で使用される金型を構成する金属材料、例えば熱間ダイス鋼(JIS SKD61)、冷間ダイス鋼(JIS SKD11)、超硬合金等を選択した場合、接触治具120の押付板部材122には、金型で成形する被加工材の材料、例えば炭素鋼(S45C,S50C)、クロモリ鋼(SCM440)等の金属材料を採用する。
【0041】
接触治具120を構成する押付板部材122と軸部材124とは、実際に評価を所望する材料が好ましく、また押付板部材122のY方向の幅は、ワーク保持機構110に取り付けられたワークWの接触面の幅よりも小さく設定されるのが好ましい。またワークW側は、図3(a)や図4(a)に示すように枠状のワーク取付部180dに装着されたワークWの露出面側の隅部に、接触治具120側に突出するスペーサ180cが装着され、ワークWが接触治具120の軸部材124に接触することを防止している。
【0042】
図5(a)に示す段階では、押付板部材122の中心軸Cdは、軸部材124の回転軸Caを基準とすると、ワークWとは反対側に位置するため、結果的に中心軸CdとワークWとが最も離間する位置関係となり、押付板部材122はワークWと非接触(離反)の状態となる。また、図5(b)に示す段階では、押付板部材122が軸部材124の回転軸Caを中心に時計回りに回転し、押付板部材122の中心軸Cdが軸部材124の回転軸Caの直上に位置している。したがって、押付板部材122とワークWとの距離が縮まることとなり、押付板部材122の外周面122aがワークWの対向する面と接触する。このとき、ワークWには、図中-X方向の垂直抗力Nと押付板部材122の回動方向(図中-Z方向)の摩擦力Fとの合力Pが押付板部材122から負荷される。
【0043】
また、図6(a)に示す段階では、押付板部材122が軸部材124の回転軸Caを中心にさらに時計回りに回転し、押付板部材122の中心軸Cdが軸部材124の回転軸CaとワークWとを結ぶ線上に位置する。これにより、中心軸CdとワークWとが最も近接する位置関係となり、ワークWは押付板部材122から受ける垂直抗力Nにより、最も押し付けられた状態となる。さらに、図6(b)に示す段階では、押付板部材122が軸部材124の回転軸Caを中心にさらに時計回りに回転し、押付板部材122の中心軸Cdが軸部材124の回転軸Caの直下に位置している。これにより、図6(a)の段階に比べて押付板部材122とワークWとの距離が広がる方向に変化することとなり、回動が進むと、押付板部材122の外周面122aがワークWの対向する面から離間(離反)して、図5(a)に示す段階に戻る。
【0044】
また、本実施形態の説明では省略するが本摩耗試験装置では特許文献4に示すように接触治具120の加熱機構を設けても良い。この加熱機構の加熱パッド部が接触治具120の押付板部材122を挟んでワーク保持機構110と対向する位置に配置されることにより、押付板部材122が加熱される。加熱パッド部の加熱は、加熱機構に内蔵する温度制御手段又は前述した温度調節機構160により加熱パッド部への電力供給信号が有線送信又は無線送信されることで行われる。ただし、ワークWとして熱間鍛造における金型のような高温環境下における高精度な評価を想定する場合、ワーク保持機構110側で直接的にワークWを加熱できる上記セラミックヒータ180eのような加熱手段が必要となる。
【0045】
また、図1に示すように摩耗試験装置100では実際の鍛造工程やプレス加工で行われる金型への潤滑剤の噴射を疑似すべく、試験中に接触治具120とワークWとの間に潤滑剤を供給する潤滑剤噴射機構150が設けられる。
【0046】
潤滑剤噴射機構150は、潤滑剤を貯蔵する潤滑剤供給源152と、潤滑剤を接触治具120とワークWの間に供給する供給管(スプレーガン)154と、供給管154及び潤滑剤供給源152に圧縮空気を送り込むコンプレッサ156と、を備えている。供給管154には、コンプレッサ156により圧縮空気と潤滑剤とが混合した空気流が供給され、先端のノズルから潤滑剤が噴射される。ワーク保持機構110に保持されたワークWに接触する直前に、接触治具120の押付板部材122の外周面122aに潤滑剤Lが供給され、潤滑剤が押付板部材の外周面122aに保持された状態である押付板部材122とワークWとの接触状態と、押付板部材122とワークWとが離反した状態とが繰り返される。
【0047】
以上のような構成及び動作により、本摩耗試験装置100では、接触治具120の押付板部材122に潤滑剤を介在させた状態でのワークWとの繰り返し摩耗試験を実施することができるため、プレス加工や鍛造加工等で金型と被加工材との間に潤滑剤を供給した状態により、金型と被加工材との間の動摩擦係数を変化させた場合を想定した摩耗状態の評価を行うことができる。
【0048】
次に、本発明の摩耗試験装置100を用いた摩耗試験方法について概説する。図7には本摩耗試験装置100の各構成機構の動作フロー図が示されている。図7(a)は摺動面に潤滑剤を噴射しない場合、図7(b)は摺動面に潤滑剤の噴射を行った場合のフロー図である。本実施形態において摩耗試験装置100はNC旋盤を活用しており、動作制御はNC旋盤におけるCNC(computerized numerical control)を設定又は元々の旋盤加工を実行するCNCの内部情報に外部PCから割り込み処理することで実行する。まず、CNCの数値情報に基づいて動作条件が設定される(ST1)。具体的には、接触治具120で固定された押付板部材122が回転によりワークWに所望の面圧で摺動する位置(摺動位置)や、当該押付板部材122のワークWへの面圧、回転方向の速度(摺動速度)、当該押付板部材122の総回転回数(摺動回数)などの摺動条件、潤滑剤噴射機構150における潤滑剤の噴射時間又は無噴射時の乾燥時間(潤滑剤乾燥時間)などの噴射条件、その他の摩耗試験の条件設定が実行される。
【0049】
摩耗試験の条件設定が実行されるとNC旋盤の主軸130が、偏芯回転する押付板部材122の最外周部の周速が所望の速度となるように回転を始める(ST2)。押付板部材122が偏心回転すると、温度調節機構160や図示しない加熱機構により、それぞれワーク保持機構110内のセラミックヒータ180e、接触治具120の押付板部材122が加熱される(ST3)。
【0050】
セラミックヒータ180e等が加熱され、所定温度が検出されるとワーク保持機構110が設置されたタレット170が、設定された面圧に応じた摺動位置になるように押付板部材122側に移動し、指定回数の摺動が行われる(ST4)。潤滑剤を噴射しない場合は、指定回数の摺動試験が完了したのち、押付板部材122とワークWの加熱が終了する(ST6)。その後、主軸回転が停止し(ST7)、NC旋盤の主軸130が元の位置に移動すると、試験が終了する(ST8)。
一方、潤滑剤を噴射する場合は、ワークWの表面に摺動1サイクルごとに設定された潤滑剤噴射機構150からの潤滑剤噴射・乾燥(無噴射)が実行される(ST5)。そして接触治具120の押付板部材122が1回転し1サイクルを終えた後、サイクル回数を判定し、指定した繰り返し回数となったとき摺動が終了する(ST4~ST5)。こうして、評価対象となる熱間鍛造工程等における金型への潤滑剤の噴射が疑似される。
【0051】
そして、設定された総摺動回数が経過すると摩耗試験が終了したとしてセラミックヒータ180e等の加熱が終了し(ST6)、NC旋盤の主軸130の回転及び接触治具120の軸部材124の偏心回転が停止し(ST7)、NC旋盤の主軸130が元の位置に移動すると、摩耗試験が終了する(ST8)。
【0052】
以下、実施例について説明する。
[実施例1]
ワーク保持機構110を準備し、15×15×5mmのワークWを取り付けた。ワーク材質はSKD61の焼き戻し材とした。ワークWを加熱するため、セラミックヒータ180eを設定値400℃としてPID制御しながら加熱した。図8に第1断熱機構180gを設置した場合のワークW表面の温度の時間変化を示す。また、図9に第1断熱機構180gを取り外した場合のワークW表面の温度の時間変化を示す。第1断熱機構180gを設置した場合には、図8に示すように短時間でワークW表面が400℃に到達するのに対し、第1断熱機構180gを取り外すと、図9のようにワークWの表面が400℃に到達するのに長時間要したことがわかる。このことは、第1断熱機構180gの設置により、効率的なワークWの加熱を可能とし、潤滑剤噴射時においても指定温度に瞬時に回復することを示す。さらには、ワークWを加熱した時の熱がアーム部114を通じて設置部112aや反発部112bへ伝達されるのを防いでいる効果と言える。
【0053】
[実施例2]
実施例1で用いたワーク保持機構110に第1断熱機構180g、第2断熱機構180i、放熱フィン180bを設置し、15×15×5mmのワークWを取り付けた。ワーク材質はSKD61の焼き戻し材とした。セラミックヒータ180eにより、ワークW表面の温度をPID制御しながら加熱したときのアーム部114と放熱フィン180bの温度を測定した。図10にワークWの温度(横軸の試験片温度)に対するアーム部114と放熱フィン180bの温度変化の測定結果を示す。ワークW(試験片温度)の温度が530℃程度となった場合でも、アーム部114の温度は150℃以下であった。アーム部をスライドさせながら保持するスプライン潤滑用グリスの耐熱温度が150℃であることから、アーム部のスライド機構を損なうことなく、摺動試験ができることが確認できた。なお、放熱フィン180bの温度は180℃程度まで上昇した。すなわち、ワークWの加熱時に生じた熱は放熱フィン180bまで到達しているが放散されるので、アーム部114への伝熱は防がれたことがわかる。
【0054】
[実施例3]
次に、潤滑剤の噴射有無による摺動特性を評価した。
ワークWは、SKD61の焼き戻し材(45HRC)とし、押付板部材122は炭素鋼のS45Cを準備した。接触治具120は動力計172に設置した。動力計には、KISTLER社製、型式9129AAを使用した。摺動速度30m/min、荷重設定値は300Nとした。ワークWを300℃に加熱し、潤滑剤塗布の有無の条件で200回摺動させた。潤滑剤は10回摺動後に1回噴射した。潤滑剤は大同化学株式会社製F-10Mとし、10%濃度となるように希釈して用いた。図11に潤滑剤塗布ありの条件で摺動させた試験後のワークWの表面写真を示す。図12は摺動回数ごとの摩擦係数を示したものである。
【0055】
潤滑剤F-10Mは、250℃程度の温度域で乾燥され潤滑効果を示す。図11に示されるようにワークWの表面には十分に乾燥された潤滑剤が付着し、その状態で摺動試験が行われたことがわかる。図12において、潤滑剤の有無によって摩擦係数が異なることがわかる。潤滑剤有りの条件であっても、100回程度摺動させると、潤滑成分が失われることがあり、摩擦係数が不安定となることがわかる。潤滑成分が不足する場合は、摺動回数に対する噴射回数を増加させ、潤滑剤の存在する状態を確保することができる。あるいは、摩耗は潤滑成分が不足した状態で起こりやすいため、摺動回数に対する噴射回数を減じて、潤滑成分が失われた状態での摩耗試験としてもよい。このようにワークWの加熱機構を有することにより、高温環境下で潤滑剤の効果を確認する試験が可能となった。
【0056】
[実施例4]
次に、加熱されたワークWの表面に潤滑剤噴射による潤滑膜が均一に形成される噴射条件を検討した。ここで、均一な潤滑膜とは、ワーク表面全体に潤滑剤がムラなく塗布され、かつ表面の凹凸が少ない状態を指す。
ワークWは、SKD61の焼き戻し材(45HRC)とし、ワークWの温度は200℃とした。潤滑剤は大同化学株式会社製F-10Mとし、10%濃度となるように希釈して用いた。潤滑剤の噴射条件は,潤滑剤の流量、噴射距離、噴射時間、空気圧の4つをパラメータとして設定した。噴射距離は供給口(スプレーガン)154の先端からワークW表面までの距離とし,潤滑剤がワークWの表面に対して垂直方向に噴射されるようスプレーガンの位置を調整した。ここで、空気圧とはコンプレッサ156から供給される圧縮空気の圧力のことを指す。各噴射条件において、潤滑剤噴射後に形成された潤滑膜の均一性をそれぞれ目視で評価した。また、ワークWの表面温度を熱電対で計測し、各噴射条件において潤滑剤の噴射後に最も低下した温度をワーク最低温度として記録した。
【0057】
図13に各噴射条件における潤滑膜の写真とワーク最低温度をそれぞれ示す。図13に示すように、噴射距離200mm以下の場合、ワーク表面には潤滑膜がほとんど形成されなかった。一方で、噴射距離を220mmとすることで潤滑膜が形成され、ワーク表面温度は160℃前後まで低下した。加えて、噴射距離を220mm、噴射時間を2s、流量を49mL/min、空気圧を0.2MPaとした場合、潤滑膜には気泡の跡による凹凸が見られたが、空気圧を上げて流量を下げることで気泡の跡は減少し、潤滑膜の均一性は改善される傾向が見られた。図13に示す検討結果から、均一な潤滑膜が形成される噴射条件は、噴射距離220mm、噴射時間2s、流量22mL/min、空気圧0.39MPaとなり、かつワークの温度低下も160℃前後まで抑えられることが分かった。これは一例ではあるが、潤滑剤噴射機構150において潤滑剤の噴射条件を変えることで、ワーク表面に均一な潤滑膜を形成することが可能となった。
【0058】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0059】
100 摩耗試験装置
110 ワーク保持機構
112 本体部
112a 設置部
112b 反発部(バネ機構)
114 アーム部
114a ボルト
120 接触治具
122 押付板部材
122a 押付板部材の外周面
Cd 押付板部材の中心軸
124 軸部材
Ca 軸部材の回転軸
130 回転機構の主軸
150 潤滑剤噴射機構
152 潤滑剤供給源
154 供給管(スプレーガン)
156 コンプレッサ
160 温度調節機構
170 タレット
172 動力計
180 ワーク取付機構
180a 箱状部材
180b 放熱フィン
180b1 ブレード
180c スペーサ
180d ワーク取付部
180e セラミックヒータ
180f 配線
180g 第1断熱機構
180h 弾性部材
180i 第2断熱機構
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13