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特開2022-151721甘味増強剤、甘味増強用油脂組成物、食用組成物の甘味増強方法、及び甘味増強剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151721
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】甘味増強剤、甘味増強用油脂組成物、食用組成物の甘味増強方法、及び甘味増強剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20220929BHJP
   A23D 7/02 20060101ALI20220929BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20220929BHJP
   A23L 2/60 20060101ALN20220929BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20220929BHJP
   A23C 9/18 20060101ALN20220929BHJP
   A23L 19/18 20160101ALN20220929BHJP
   A23L 5/10 20160101ALN20220929BHJP
   A23L 29/00 20160101ALN20220929BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/00 F
A23D7/02
A23D9/00 518
A23L2/00 C
A23L2/52
A23L2/52 101
A23C9/18
A23L19/18
A23L5/10 D
A23L29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039180
(22)【出願日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2021050275
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西脇 美香
(72)【発明者】
【氏名】本池 千恵
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 舞子
(72)【発明者】
【氏名】熊田 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基孝
【テーマコード(参考)】
4B001
4B016
4B026
4B035
4B047
4B117
【Fターム(参考)】
4B001AC17
4B001AC25
4B001BC01
4B001BC99
4B016LC02
4B016LG06
4B016LK06
4B016LK18
4B016LP07
4B016LP13
4B026DG01
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DG05
4B026DG06
4B026DG07
4B026DG08
4B026DG12
4B026DH10
4B026DL09
4B026DP03
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4B035LC01
4B035LE17
4B035LG12
4B035LG51
4B035LK03
4B035LK19
4B035LP07
4B035LP59
4B047LG10
4B047LG11
4B047LG57
4B047LP02
4B047LP05
4B047LP16
4B047LP18
4B047LP20
4B117LG05
4B117LK10
4B117LK18
4B117LK24
4B117LP20
(57)【要約】
【課題】甘味を増強する効果に優れた素材を提供する。
【解決手段】酸化油脂の酵素による加水分解物を有効成分とすることを特徴とする甘味増強剤である。また、ベース油である食用油脂と、酸化油脂の酵素による加水分解物を含有することを特徴とする甘味増強用油脂組成物である。これらをベイカリー食品、菓子、スープ類、飲料類、畜肉加工食品、水産加工食品、フライ食品等の食用組成物又はその原料中に添加するようにして用いることにより、その食用組成物の甘味を増強することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化油脂の酵素による加水分解物を有効成分とすることを特徴とする甘味増強剤。
【請求項2】
前記酸化油脂は、菜種油、大豆油、コーン油、グレープシード油、ラード、レッドパーム油、乳脂、ココナッツオイル、マカダミアナッツオイル、米油、ヒマワリ油、及びアマニ油から選ばれた少なくとも1種の油脂を酸化処理してなるものである、請求項1記載の甘味増強剤。
【請求項3】
前記酸化油脂の過酸化物価が15以上300以下である、請求項1又は2記載の甘味増強剤。
【請求項4】
前記加水分解物の酸価が5以上200以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の甘味増強剤。
【請求項5】
ベース油である食用油脂と、酸化油脂の酵素による加水分解物を含有することを特徴とする甘味増強用油脂組成物。
【請求項6】
前記酸化油脂は、菜種油、大豆油、コーン油、グレープシード油、ラード、レッドパーム油、乳脂、ココナッツオイル、マカダミアナッツオイル、米油、ヒマワリ油、及びアマニ油から選ばれた少なくとも1種の油脂を酸化処理してなるものである、請求項5記載の甘味増強用油脂組成物。
【請求項7】
前記酸化油脂の過酸化物価が15以上300以下である、請求項5又は6記載の甘味増強用油脂組成物。
【請求項8】
前記加水分解物の酸価が5以上200以下である、請求項5~7のいずれか1項に記載の甘味増強用油脂組成物。
【請求項9】
前記酸化油脂の酵素による加水分解物を0.01質量%以上10質量%以下含有する、請求項5~8のいずれか1項に記載の甘味増強用油脂組成物。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1項に記載の甘味増強剤、又は請求項5~9のいずれか1項に記載の甘味増強用油脂組成物を、食用組成物又はその原料中に添加することを特徴とする食用組成物の甘味増強方法。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか1項に記載の甘味増強剤、又は請求項5~9のいずれか1項に記載の甘味増強用油脂組成物を、食用組成物の全量に対する、前記酸化油脂の酵素による加水分解物の含有量が1質量ppm以上1000質量ppm以下となるように、食用組成物又はその原料中に添加する、請求項10記載の飲食品の甘味増強方法。
【請求項12】
油脂を酸化処理して酸化油脂を得る工程と、前記酸化油脂を酵素により加水分解処理して前記酸化油脂の酵素による加水分解物を得る工程を含むことを特徴とする甘味増強剤の製造方法。
【請求項13】
前記油脂は、菜種油、大豆油、コーン油、グレープシード油、ラード、レッドパーム油、乳脂、ココナッツオイル、マカダミアナッツオイル、米油、ヒマワリ油、及びアマニ油から選ばれた少なくとも1種の油脂である、請求項12記載の甘味増強剤の製造方法。
【請求項14】
前記酸化油脂の過酸化物価が15以上300以下となるように酸化処理する、請求項12又は13記載の甘味増強剤の製造方法。
【請求項15】
前記油脂に酸素を供給しつつ、加熱することにより、前記酸化処理を行う、請求項12~14のいずれか1項に記載の甘味増強剤の製造方法。
【請求項16】
前記加水分解物の酸価が5以上200以下となるように加水分解処理を行う、請求項12~15のいずれか1項に記載の甘味増強剤の製造方法。
【請求項17】
前記酵素としてリパーゼを用いる、請求項12~16のいずれか1項に記載の甘味増強剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品等の甘味を増強する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、甘味を増強する効果に優れた食用素材については、種々のものが知られている。例えば特許文献1には、長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を用いて食品の甘味を増強させる方法が開示されている。また、例えば特許文献2には、過酸化物価が25~300の酸化部分水素添加油脂を有効成分として含む甘味増強剤が開示されている。また、例えば特許文献3には、過酸化物価が15~180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を有効成分とする、甘味の増強剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-284859号公報
【特許文献2】国際公開第2014/077019号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2018/037926号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、食への関心はますます高くなっており、甘味を増強することができる素材のより一層の開発が望まれている。
【0005】
よって、本発明の目的は、甘味を増強する効果に優れた素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、鋭意検討の結果、食用油脂に特定の処理を施すことにより、甘味を増強する効果に優れた素材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、その第1の観点においては、酸化油脂の酵素による加水分解物を有効成分とすることを特徴とする甘味増強剤を提供するものである。
【0008】
上記の甘味増強剤においては、前記酸化油脂は、菜種油、大豆油、コーン油、グレープシード油、ラード、レッドパーム油、乳脂、ココナッツオイル、マカダミアナッツオイル、米油、ヒマワリ油、及びアマニ油から選ばれた少なくとも1種の油脂を酸化処理してなるものであることが好ましい。
【0009】
また、上記の甘味増強剤においては、前記酸化油脂の過酸化物価が15以上300以下であることが好ましい。
【0010】
また、上記の甘味増強剤においては、前記加水分解物の酸価が5以上200以下であることが好ましい。
【0011】
本発明は、その第2の観点においては、ベース油である食用油脂と、酸化油脂の酵素による加水分解物を含有することを特徴とする甘味増強用油脂組成物を提供するものである。
【0012】
上記の甘味増強用油脂組成物においては、前記酸化油脂は、菜種油、大豆油、コーン油、グレープシード油、ラード、レッドパーム油、乳脂、ココナッツオイル、マカダミアナッツオイル、米油、ヒマワリ油、及びアマニ油から選ばれた少なくとも1種の油脂を酸化処理してなるものであることが好ましい。
【0013】
また、上記の甘味増強用油脂組成物においては、前記酸化油脂の過酸化物価が15以上300以下であることが好ましい。
【0014】
また、上記の甘味増強用油脂組成物においては、前記加水分解物の酸価が5以上200以下であることが好ましい。
【0015】
また、上記の甘味増強用油脂組成物においては、前記酸化油脂の酵素による加水分解物を0.01質量%以上10質量%以下含有することが好ましい。
【0016】
本発明は、その第3の観点においては、上記の甘味増強剤、又は上記の甘味増強用油脂組成物を、食用組成物又はその原料中に添加することを特徴とする食用組成物の甘味増強方法を提供するものである。
【0017】
上記の食用組成物の甘味増強方法においては、上記の甘味増強剤、又は上記の甘味増強用油脂組成物を、食用組成物の全量に対する、前記酸化油脂の酵素による加水分解物の含有量が1質量ppm以上1000質量ppm以下となるように、食用組成物又はその原料中に添加することが好ましい。
【0018】
本発明は、その第4の観点においては、油脂を酸化処理して酸化油脂を得る工程と、前記酸化油脂を酵素により加水分解処理して前記酸化油脂の酵素による加水分解物を得る工程を含むことを特徴とする甘味増強剤の製造方法を提供するものである。
【0019】
上記の甘味増強剤の製造方法においては、前記油脂は、菜種油、大豆油、コーン油、グレープシード油、ラード、レッドパーム油、乳脂、ココナッツオイル、マカダミアナッツオイル、米油、ヒマワリ油、及びアマニ油から選ばれた少なくとも1種の油脂であることが好ましい。
【0020】
また、上記の甘味増強剤の製造方法においては、前記酸化油脂の過酸化物価が15以上300以下となるように酸化処理することが好ましい。
【0021】
また、上記の甘味増強剤の製造方法においては、前記油脂に酸素を供給しつつ、加熱することにより、前記酸化処理を行うことが好ましい。
【0022】
また、上記の甘味増強剤の製造方法においては、前記加水分解物の酸価が5以上200以下となるように加水分解処理を行うことが好ましい。
【0023】
また、上記の甘味増強剤の製造方法においては、前記酵素としてリパーゼを用いることが好ましい。
【0024】
[不可能・非実際的事情の存在]
本発明は、食用油脂を酸化処理し、更に酵素により加水分解処理を行って、これを甘味増強の有効成分とするものである。一般に、食用油脂の処理物は極めて多種類の化学物質で構成される組成物となっており、含まれる化学物質を調べ、逐一特定することは、不可能であるか、又は著しく過大な経済的支出や時間を要するためおよそ実際的ではない。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、食用油脂の処理物を利用して、甘味を増強する効果に優れた素材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、食用油脂に特定の処理を施して、これを甘味増強の有効成分とするものである。具体的には、その処理は、酸化処理及び酵素による加水分解処理である。以下、本発明を実施するための形態について、更に詳細に説明する。
【0027】
酸化処理の原料とする油脂としては、飲食可能とされた油脂であればよく、特に制限はないが、菜種油、大豆油、コーン油、グレープシード油、ラード、レッドパーム油、乳脂、ココナッツオイル、マカダミアナッツオイル、米油、ヒマワリ油、及びアマニ油から選ばれた少なくとも1種の油脂であることが好ましい。酸化の程度としては、過酸化物価を指標にするとき、一般に市場に流通している食用油脂の過酸化物価が0~10程度であるところ、その過酸化物価が15以上300以下程度に高められていることが好ましい。過酸化物価(Peroxide value;以下「POV」という場合がある。)の範囲は、別の態様にあっては、25以上290以下の範囲であってよく、40以上270以下の範囲であってよく、60以上250以下の範囲であってよい。過酸化物価が上記範囲未満であると甘味増強効果に乏しくなる傾向がある。過酸化物価が上記範囲を超えると風味が悪くなるおそれがある。過酸化物価(POV)は、「基準油脂分析試験法 2.5.2 過酸化物価」(日本油化学会)に則って測定することができる。なお、酸化処理に供する油脂は、一種類を単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよいが、二種類以上を併用した場合、酸化処理後の混合油全体における過酸化物価が上記範囲内であればよい。また、二種類以上の油脂を別々に酸化処理して混合してもよく、酸化処理後に混合してなる混合油全体における過酸化物価が上記範囲内であればよい。
【0028】
酵素による加水分解物処理は、上記酸化油脂中に含まれるグリセロール脂肪酸等の脂肪酸のエステル化体が、酵素による加水分解を受けて、その脂肪酸を遊離することで該脂肪酸の含有量が高められていればよく、特に制限はないが、酵素としてリパーゼを用いることが好ましい。加水分解の程度としては、油脂中の遊離脂肪酸含量を反映する酸価を指標にするとき、一般に市場に流通している食用油脂の酸価が0~1程度であるところ、その酸価が5以上200以下程度に高められていることが好ましい。酸価(Acid value;以下「AV」という場合がある。)の範囲は、別の態様にあっては、10以上190以下の範囲であってよく、20以上180以下の範囲であってよく、30以上170以下の範囲であってよい。酸価が上記範囲未満であると甘味増強効果に乏しくなる傾向がある。酸価が上記範囲を超えると飲食品の風味が悪くなるおそれがある。酸価(AV)は、「基準油脂分析試験法 2.3.1 酸価」(日本油化学会)に則って測定することができる。なお、酵素による加水分解処理に供する酸化油脂は、一種類を単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよいが、二種類以上を併用した場合、加水分解処理後の混合油全体における酸価が上記範囲内であればよい。また、二種類以上の油脂を別々に酵素により加水分解処理して混合してもよく、加水分解処理後に混合してなる混合油全体における酸価(AV)が上記範囲内であればよい。
【0029】
油脂を酸化処理する方法としては、上記所定範囲の過酸化物価(POV)に酸化処理することができる方法であればよく、特に制限はないが、好ましくは加熱処理する方法が挙げられる。例えば、工業的スケールで生産する観点からは、タンク等の適当な容器に原料油脂を収容したうえ、容器に備わる電熱式、直火バーナー式、マイクロ波式、蒸気式、熱風式などの加熱手段で行うことが好ましい。
【0030】
酸化処理を施す原料油脂としては、上述したとおり、菜種油、大豆油、コーン油、グレープシード油、ラード、レッドパーム油、乳脂、ココナッツオイル、マカダミアナッツオイル、米油、ヒマワリ油、アマニ油等の油脂であればよく、これらは、一種類を単独でもよく、二種以上を併用してもよい。また、併用する場合には、混合油を酸化処理に供してもよく、別々に酸化処理した後に混合してもよい。
【0031】
加熱処理の条件としては、特に制限はないが、加熱温度50℃以上220℃以下で、加熱時間が0.1時間以上240時間以下で行うことが好ましく、加熱温度60℃以上160℃以下で、加熱時間が1時間以上100時間以下で行うことがより好ましい。また、加熱温度(℃)×加熱時間(時間)の積算量の条件としては、典型的に200以上20000以下であり、別の態様にあっては、220以上18000以下の範囲であってもよく、240以上15000以下の範囲であってもよい。なお、加熱温度を変化させた場合、加熱温度(℃)×加熱時間(時間)の積算量は、温度を変化させる前の加熱温度(℃)×温度を変化させる前の加熱時間(時間)+温度を変化させた後の加熱温度(℃)×温度を変化させた後の加熱時間(時間)、又は加熱時間(時間)にわたる加熱温度(℃)の積分値として算出することができる。
【0032】
加熱処理に際しては、撹拌により容器の開放スペースから酸素を取り入れたり、酸素を吹き込んだりして、酸素(空気)を供給してもよい。酸素源は空気などを用いてもよい。これにより油脂の酸化が促進される。その場合、酸素の供給量としては、上記油脂1kgあたり0.001~2L/分となるようにすることが好ましい。例えば、空気の場合は、上記油脂1kgあたり0.005~10L/分であることが好ましく、0.01~5L/分であることがより好ましい。
【0033】
一方、酵素により加水分解処理する方法としては、上記酸化油脂を原料として、上記所定範囲の酸価(AV)に加水分解処理することができる方法であればよく、特に制限はないが、好ましくは酵素としてリパーゼを用いる方法が挙げられる。使用するリパーゼとしては、例えば、微生物由来、動物由来、植物由来のいずれに由来するものでもよく、特に制限はないが、なかでも微生物由来のリパーゼを使用することが好ましい。微生物としては、例えば、糸状菌(Aspergillus awamori、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae、Aspergillus phoenicis、Aspergillus usamii、Geotrichum candidum、Humicola、Mucor javanicus、Mucor miehei、Penicillium camembertii、Penicillium chrysogenum、Penicillum roqueforti、Rhizomucor miehei、Rhizopus delemar、Rhizopus japonicus、Rhizomucоr miehei、Rhizopus niveus、Rhizopus oryzae)、放線菌(Streptomyces)、細菌(Alcaligenes、Arthrobactor、Chromobacterium viscosum、Pseudomonas、Serratia marcescens)、酵母(Candida)等が挙げられる。なかでもCandida属由来のリパーゼを使用することが好ましい。
【0034】
酵素は、一種類を単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。また、二種類以上を併用した場合、反応系に同時に複数種類の酵素を添加してもよく、一の酵素を添加して反応に処したうえ、その反応終了後に他の酵素を添加して、その酵素による反応に処するなど、順次に添加してもよい。
【0035】
酵素による加水分解の反応条件としては、使用する酵素に適した温度、pH、反応時間等の条件を適宜選択すればよい。典型的に、例えば、リパーゼを用いる場合であれば、そのリパーゼが失活しない温度であればよく、別の態様にあっては、20℃以上70℃以下の範囲であってよく、25℃以上60℃以下の範囲であってよく、30℃以上50℃以下の範囲であってよい。また、反応時間は、例えば、0.05時間以上120時間以下であればよく、別の態様にあっては、0.1時間以上72時間以下の範囲であってよく、0.2時間以上48時間以下の範囲であってよく、0.3時間以上30時間以下の範囲であってよい。また、酸化油脂に対する酵素の添加量は、例えば、0.01質量%以上40質量%以下であればよく、別の態様にあっては、0.04質量%以上30質量%以下の範囲であってよく、0.08質量%以上20質量%以下の範囲であってよく、0.1質量%以上10質量%以下の範囲であってよい。
【0036】
一般に酵素による加水分解の反応においては、一定の水分が存在したほうが、効率的に反応が起こる傾向がある。よって、加水分解処理に際しては、所定量の水分を加えたうえで行ってもよい。この場合、加水により、酸化油脂の100質量部に対して、水分が10質量部以上1000質量部以下となるようにすることが好ましく、20質量部以上800質量部以下となるようにすることがより好ましく、40質量部以上600質量部以下となるようにすることが更に好ましく、60質量部以上500質量部以下となるようにすることが更により好ましい。
【0037】
酵素による加水分解の処理後には、任意であるが、酵素の失活の処理を行ってもよい。酵素失活の処理としては、25~110℃で1分間~2時間程度の加熱処理によることが好ましい。また、油層と水層を分けるため遠心分離を行い、油層を回収することが好ましい。更に、回収した油層に新鮮な水を添加し水洗して、再度油層と水層を分けるため遠心分離して、油層を回収することも好ましい。これにより、油層から水溶性の夾雑物を除去することができる。
【0038】
上記に説明した酸化油脂の酵素による加水分解物(以下、単に「加水分解物」という場合がある。)は、後述する実施例において示されるように、甘味を増強する効果に優れている。よって、本発明においてはこれを甘味増強剤の有効成分として利用するものである。
【0039】
本発明の限定されない任意の態様においては、上記甘味増強剤は、油脂組成物の形態で提供されてよい。具体的には、例えば、必要に応じて任意に食用油脂、賦形剤、補助剤、乳化剤、pH調整剤等を配合して、公知の手法により、液体状、粉末状、ペースト状等の任意の形態の油脂組成物となし得る。すなわち、例えば、通常当業者に周知の製剤的技術により、油脂成分を主体とした、液体油脂、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング、粉末油脂等に調製されてもよく、あるいは、油脂成分の配合量が少ない溶液状、粉末状、ゲル状、顆粒状等に調製されてもよく、それら形態は任意に採用し得る。また、例えば、粉末化する場合には、コーンシロップ等の補助剤を使用することができ、更に、乳化剤を添加して乳化原料を調製したうえ、これを粉末化してもよい。粉末化の手段としては、スプレードライ、フリーズドライ等が挙げられる。
【0040】
食用油脂としては、例えば、菜種油(高オレイン酸タイプを含む)、大豆油、パーム油、パーム核油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ヒマワリ油、綿実油、米油、落花生油、ヤシ油、カカオ脂等の植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。加えて、これらの分別油(パーム油の中融点部、パーム油の軟質分別油、パーム油の硬質分別油等)、エステル交換油、水素添加油等の加工油脂等が挙げられる。食用油脂は、一種単独でも二種以上が混合されていてもよい。
【0041】
本発明により提供される甘味増強剤には、所望する甘味増強の機能性を損なわない範囲で、食用に通常添加される助剤が適宜配合されていてもよい。助剤としては、酸化防止剤、消泡剤、乳化剤、香料、風味付与剤、色素、生理活性物質等が挙げられる。具体的には、例えば、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール、トコフェロール、シリコーン等が挙げられる。
【0042】
上記に説明した酸化油脂の酵素による加水分解物の甘味増強剤中の含有量としては、特に限定されないが、0.01質量%以上10質量%以下含有していることが好ましく、0.03質量%以上7質量%以下含有していることがより好ましく、0.05質量%以上5質量%以下含有していることが更に好ましい。なお、上記に説明した酸化油脂の酵素による加水分解物を提供する素材自体が、上記甘味増強剤を構成してもよい。
【0043】
一方、本発明の限定されない他の態様においては、上記に説明した酸化油脂の酵素による加水分解物は、食用油脂に含有されていてもよい。すなわち、ベース油である食用油脂と、上記加水分解物を含む甘味増強用油脂組成物が提供される。これによれば、食用油脂を分散媒として上記加水分解物の濃度を調整しやすい。また、飲食品等に含有せしめる際にその食材や原料素材、食品成分等になじませやすい。
【0044】
食用油脂としては、上記した甘味増強剤と同様に、例えば、菜種油(高オレイン酸タイプを含む)、大豆油、パーム油、パーム核油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ヒマワリ油、綿実油、米油、落花生油、ヤシ油、カカオ脂等の植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。加えて、これらの分別油(パーム油の中融点部、パーム油の軟質分別油、パーム油の硬質分別油等)、エステル交換油、水素添加油等の加工油脂等が挙げられる。食用油脂は、一種単独でも二種以上が混合されていてもよい。
【0045】
上記甘味増強用油脂組成物中の食用油脂及び上記加水分解物の含有量は、特に限定されないが、油脂組成物中に上記加水分解物がよく分散した状態とすることが好ましい。例えば、食用油脂を90質量%以上99.99質量%以下含有していることが好ましく、93質量%以上99.97質量%以下含有していることがより好ましく、95質量%以上99.95質量%以下含有していることが更により好ましい。また、上記加水分解物を0.01質量%以上10質量%以下含有していることが好ましく、0.03質量%以上7質量%以下含有していることがより好ましく、0.05質量%以上5質量%以下含有していることが更により好ましい。また、食用油脂に対する上記加水分解物の含有比は、食用油脂100質量部に対して0.01質量部以上11.12質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以上7.53質量部以下であることがより好ましく、0.05質量部以上5.27質量部以下であることが更により好ましい。なお、上記加水分解物は、別の態様にあっては、その形態が常温で固体等の場合もあるので、加温等によって十分に溶融させた状態で食用油脂と混合するようにしてもよい。
【0046】
本発明により提供される甘味増強用油脂組成物には、上記した甘味増強剤と同様に、所望する甘味増強の機能性を損なわない範囲で、食用に通常添加される助剤が適宜配合されていてもよい。助剤としては、酸化防止剤、消泡剤、乳化剤、香料、風味付与剤、色素、生理活性物質等が挙げられる。具体的には、例えば、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール、トコフェロール、シリコーン等が挙げられる。
【0047】
上記した甘味増強剤又は甘味増強用油脂組成物の使用形態について更に説明すると、本発明においては、その剤又は組成物に含まれる上記加水分解物を、食用組成物やその原料に含有せしめるようにして用いればよい。これにより、その食用組成物の甘味を増強することができる。食用組成物への添加量としては、適用する食用組成物の種類に応じて適宜設定すればよいが、典型的には、例えば、本発明を適用する食用組成物の形態中に上記加水分解物の量として、好ましくは1質量ppm以上1000質量ppm以下などである。その含有量としては、別の態様にあっては、2質量ppm以上800質量ppm以下の範囲であってよく、3質量ppm以上500質量ppm以下の範囲であってよく、5質量ppm以上200質量ppm以下の範囲であってよい。
【0048】
本発明を食用組成物に適用する際の、その使用の態様に特に制限はない。例えば、上記加水分解物を食用組成物の原料や製造工程の中間物等へ、任意のタイミングで添加、混合、溶解、分散、乳化、注入すること等により、得られる食用組成物の甘味を増強することができる。また、原料や製造工程の中間物への添加等だけでなく、食用組成物の調理、加工、あるいは製造等の後に、上記加水分解物をふり掛けたり、塗布したりすること等により、その食用組成物に添加してもよい。更には、食用組成物の調理、加工、あるいは製造等におけるほぐし油、炊飯油、フライ油、炒め油等の調理用油、練りこみ油、インジェクション用油及び仕上げ油等の調味用油等に上記加水分解物を含有せしめて用いること等により、その食用組成物に添加してもよい。
【0049】
本発明を適用する食用組成物としては、甘味を呈するものであればよく特に限定されない。典型例として、例えば、ケーキ、パン、ドーナッツ等のベイカリー食品;ホイップクリーム、ホットケーキ、マドレーヌ、チョコレート、クッキー等の洋菓子類;ヨーグルト、杏仁豆腐、プリン、ゼリー等の冷菓類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス等の氷菓類;コーンスープ、コンソメスープ等のスープ類;ビーフシチュー、クリームシチュー等のシチュー類;コーヒー飲料、乳飲料等の飲料;焼き豚、チャーシュー等の畜肉加工食品;かまぼこ、魚肉ソーセージ等の水産加工食品などが挙げられる。あるいは、限定されないが、例えば、少なくとも砂糖、ないしはブドウ糖、麦芽糖、果糖、水飴、異性化糖、イソマルトオリゴ糖、トレハロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラフィノース、乳糖、糖アルコール、又は天然甘味料等の甘味材を含有せしめてなるものであることが好ましい。
【0050】
本発明の限定されない任意の態様においては、上記加水分解物は、揚げ物を油ちょうするための揚げ物用油脂組成物に添加して用いてもよい。これにより、得られるフライ食品等の油ちょう物には上記加水分解物が添加されるので、その甘味を増強することができる。その揚げ物として、好ましくは、例えば、フライドポテト、天ぷら、コロッケ、唐揚げ、とんかつ、魚フライ、アメリカンドッグ、チキンナゲット、揚げ豆腐、ドーナッツ、揚げパン、揚げ米菓、スナック菓子、インスタントラーメンなどが挙げられる。その揚げ物の製造の方法に特に制限はなく、揚げ物の種類に応じて、その揚げ物に適した方法にて揚げ物を製造すればよい。すなわち、例えば、本発明による甘味増強用油脂組成物は、これをそのまま揚げ物用油脂組成物として使用して、その温度を、典型的には150~210℃、より典型的には160~200℃とした状態で、所定の揚げ物原料を揚げる調理を行なうなどすればよい。
【0051】
本発明において、揚げ物用油脂組成物に上記加水分解物を添加して用いる場合、その揚げ物用油脂組成物中の含有量としては、上述した甘味増強用油脂組成物の形態の場合と同程度であってよく、特に限定さないが、0.01質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0.03質量%以上7質量%以下であることが更に好ましく、0.05質量%以上5質量%以下であることが更により好ましい。揚げ物用油脂組成物に添加して用いる際の含有量が上記範囲であれば、油ちょうした後のフライ食品等の油ちょう物に、上記加水分解物を有効量で付与されやすく、ひいてはその甘味を増強させやすくすることができる。
【0052】
なお、本発明を適用し得る食用組成物の範囲は、ヒト用に限られるものではなく、動物用のエサや飼料等にも適用され得る。
【0053】
本発明の限定されない任意の態様においては、本発明を適用した食用組成物において甘味が増強したかどうかを、上記加水分解物を添加して調製したものと、添加しないで同様に調製したものとを、官能評価試験、好ましくは、母集団に対して嗜好的偏向がないように選出された複数名のパネラーによる官能評価試験等に供することによって、客観的に評価することが可能である。
【実施例0054】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0055】
表1には、試験に使用した材料を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
[調製例1]
〔酸化油脂〕
油脂200~450gをビーカーに入れ、これに0.20~0.45L/分の量の空気を供給しつつ、オイルバス中、撹拌速度200~400rpmで攪拌しながら、表2に示す温度及び時間の条件で各油脂に対して加熱処理を施した。得られた酸化油脂の過酸化物価(POV)を、「基準油脂分析試験法2.5.2過酸化物価」に則って測定した。
【0058】
表2には、各油脂に対する酸化処理の条件と得られた酸化油脂のPOVの測定結果を示す。
【0059】
【表2】
【0060】
〔加水分解物〕
得られた酸化油脂に対してリパーゼによる加水分解処理を施した。具体的には、油脂20gと、水12gと、リパーゼ(表3に示す酵素添加量)とを50mLのチューブに入れて蓋を閉め、このチューブを40℃に設定した恒温槽に入れて、撹拌速度150rpmで振盪しながら、表3に示す時間条件でリパーゼによる加水分解処理を施した。反応時間経過後には、チューブを恒温槽から取り出し、24℃で遠心分離(3000rpm、5min)にかけて、上層(油層)の10~15gを採取した。採取した処理物を蓋付きチューブに入れ、オイルバスに漬けて酵素失活のため80℃で1時間処理した。得られたリパーゼ処理物の酸価を、「基準油脂分析試験法2.3.1酸価」(日本油化学会)に則って測定した。
【0061】
表3には、各酸化油脂に対するリパーゼ処理の条件と得られた処理物の酸価の測定結果を示す。
【0062】
【表3】
【0063】
<試験例1>
菜種油の各種処理油による甘味増強効果を評価した。具体的には以下のようにして官能評価を行った。
【0064】
ベース油として菜種油を用い、そのベース油に対して菜種油を未処理のまま、あるいは酸化処理もしくは酸化及びリパーゼの処理を施したサンプルを0.2質量%~8質量%混合して、試験油を調製した。また、カルピスを水で4倍希釈したうえ各試験油の添加量を0.25質量%とし、サンプル(未処理、酸化処理、又は酸化及びリパーゼ処理)の終濃度が5、25、50、100、又は200質量ppmとなるように試験油をカルピス飲料に添加、混合した。官能評価は、甘味の増強効果の観点から4名の専門パネラーにより行って、各パネラーに下記評点基準で点数付けし、その平均点を求めた。
(サンプル)
・未処理:酸化処理前の油脂
・酸化処理:酸化処理後の油脂
・酸化及びリパーゼ処理:酸化油脂に更にリパーゼ処理を施した油脂
(評点)
0点 効果無し
1点 わずかに効果あり
2点 やや効果あり
3点 効果あり
4点 やや強く効果あり
5点 強く効果あり
(各評点間の中間的評価である場合は0.5点間隔で評点)
【0065】
表4に、官能評価の結果を示す。
【0066】
【表4】
【0067】
その結果、表4上段の官能評価の結果に示されるように、菜種油にはカルピス飲料の甘味を増強する効果はなかった。これに対して、表4中段の官能評価の結果に示されるように、菜種油に所定の酸化処理を施して得られた酸化油脂には、カルピス飲料の甘味を増強する効果があることが明らかとなった。また、表4下段の官能評価の結果に示されるように、菜種油を原料として調製した酸化油脂に、更にリパーゼ処理を施すことにより、カルピス飲料の甘味を増強する効果が、酸化処理を施しただけの酸化油脂に比べて更に高められることが明らかとなった。
【0068】
<試験例2>
原料油脂としてラードを用いて調製したサンプルに替えた以外、試験例1と同様にして、甘味増強効果について調べた。
【0069】
表5に、官能評価の結果を示す。
【0070】
【表5】
【0071】
その結果、表5上段の官能評価の結果に示されるように、ラードにはカルピス飲料の甘味を増強する効果はなかった。これに対して、表5中段の官能評価の結果に示されるように、ラードに所定の酸化処理を施して得られた酸化油脂には、カルピス飲料の甘味を増強する効果があることが明らかとなった。また、表5下段の官能評価の結果に示されるように、ラードを原料として調製した酸化油脂に、更にリパーゼ処理を施すことにより、カルピス飲料の甘味を増強する効果が、酸化処理を施しただけの酸化油脂に比べて更に高められることが明らかとなった。
【0072】
<試験例3>
原料油脂として大豆油、コーン油、グレープシード油、レッドパーム油、乳脂、ココナッツオイル、マカダミアナッツオイルA、米油、ひまわり油、又はアマニ油を用いて調製したサンプルに替えた以外、試験例1と同様にして、甘味増強効果について調べた。なお、カルピス飲料に対するサンプルの終濃度は25ppmに調製して試験した。
【0073】
表6に、官能評価の結果を示す。
【0074】
【表6-1】
【0075】
【表6-2】
【0076】
その結果、表6の官能評価の結果に示されるように、原料油脂として大豆油、コーン油、グレープシード油、レッドパーム油、乳脂、ココナッツオイル、マカダミアナッツオイルA、米油、ヒマワリ油、又はアマニ油を使用した場合にも、所定の酸化処理を施して得られた酸化油脂には、カルピス飲料の甘味を増強する効果があることが明らかとなった。また、各種の油脂を原料として調製した酸化油脂に、更にリパーゼ処理を施すことにより、カルピス飲料の甘味を増強する効果が、酸化処理を施しただけの酸化油脂に比べて更に高められることが明らかとなった。
【0077】
<試験例4>
調製例1で調製した、原料油脂として菜種油、大豆油、コーン油、グレープシード油、ラード、レッドパーム油、乳脂、ココナッツオイル、マカダミアナッツオイルA、米油、ヒマワリ油、又はアマニ油を使用して調製したサンプルについて、これを練乳に適用したときの甘味増強効果について調べた。具体的には以下のようにして官能評価を行った。
【0078】
ベース油として菜種油を用い、そのベース油に対して原料油脂を未処理のまま、あるいは酸化処理もしくは酸化及びリパーゼの処理を施したサンプルを1質量%混合して試験油を調製し、サンプル(未処理、酸化処理、又は酸化及びリパーゼ処理)の終濃度が25質量ppm又は50質量ppmとなるように試験油を練乳に添加、混合した。官能評価は、甘味の増強効果の観点から、下記基準により、専門パネラーによる評価を行った。
(サンプル)
・未処理:酸化処理前の油脂
・酸化処理:酸化処理後の油脂
・酸化及びリパーゼ処理:酸化油脂に更にリパーゼ処理を施した油脂
(評価)
強い効果あり A
効果あり B
効果なし C
【0079】
表7に、官能評価の結果を示す。
【0080】
【表7】
【0081】
その結果、各種の油脂を原料として所定の酸化処理を施して得られた酸化油脂には、練乳についても、その甘味を増強する効果があることが明らかになった。また、各種の油脂を原料として調製した酸化油脂に、更にリパーゼ処理を施すことにより、練乳の甘味を増強する効果が、酸化処理を施しただけの酸化油脂に比べて更に高められることが明らかとなった。
【0082】
<試験例5>
調製例1で調製した、原料油脂として菜種油、大豆油、コーン油、グレープシード油、ラード、レッドパーム油、乳脂、ココナッツオイル、マカダミアナッツオイルB、米油、ヒマワリ油、又はアマニ油を使用して調製したサンプルについて、これをオレンジジュースに適用したときの甘味増強効果について調べた。具体的には以下のようにして官能評価を行った。
【0083】
ベース油として菜種油を用い、そのベース油に対して原料油脂を未処理のまま、あるいは酸化処理もしくは酸化及びリパーゼの処理を施したサンプルを1質量%混合して試験油を調製し、サンプル(未処理、酸化処理、又は酸化及びリパーゼ処理)の終濃度が25質量ppmとなるように試験油をオレンジジュースに添加、混合した。官能評価は、甘味の増強効果の観点から3名の専門パネラーにより行って、各パネラーに下記評点基準で点数付けし、その平均点を求めた。
(サンプル)
・未処理:酸化処理前の油脂
・酸化処理:酸化処理後の油脂
・酸化及びリパーゼ処理:酸化油脂に更にリパーゼ処理を施した油脂
(評点)
0点 効果無し
1点 わずかに効果あり
2点 やや効果あり
3点 効果あり
4点 やや強く効果あり
5点 強く効果あり
(各評点間の中間的評価である場合は0.5点間隔で評点)
【0084】
表8に、官能評価の結果を示す。
【0085】
【表8-1】
【0086】
【表8-2】
【0087】
【表8-3】
【0088】
その結果、表8の官能評価の結果に示されるように、各種の油脂を原料として所定の酸化処理を施して得られた酸化油脂には、オレンジジュースについても、その甘味を増強する効果があることが明らかになった。また、各種の油脂を原料として調製した酸化油脂に、更にリパーゼ処理を施すことにより、オレンジジュースの甘味を増強する効果が、酸化処理を施しただけの酸化油脂に比べて更に高められることが明らかとなった。
【0089】
[調製例2]
〔酸化油脂〕
撹拌速度200rpmで攪拌しながら、下記表に示す温度及び時間の条件で菜種油又はラードに対して加熱処理を施した。得られた酸化油脂の過酸化物価(POV)を、「基準油脂分析試験法2.5.2過酸化物価」に則って測定した。
【0090】
表9には、各油脂に対する酸化処理の条件と得られた酸化油脂のPOVの測定結果を示す。
【0091】
【表9】
【0092】
〔加水分解物〕
得られた酸化油脂に対してリパーゼによる加水分解処理を施した。具体的には、油脂20gと、水12gと、リパーゼ0.2gとを50mLのチューブに入れて蓋を閉め、このチューブを40℃に設定した恒温槽に入れて、撹拌速度150rpmで振盪しながら、0.5~1時間リパーゼによる加水分解処理を施した。反応時間経過後には、チューブを恒温槽から取り出し、24℃で遠心分離(3000rpm、5min)にかけて、上層(油層)の10~15gを採取した。採取した処理物を蓋付きチューブに入れ、オイルバスに漬けて酵素失活のため80℃で1時間処理した。得られたリパーゼ処理物の酸価を、「基準油脂分析試験法2.3.1酸価」(日本油化学会)に則って測定した。
【0093】
表10には、各酸化油脂に対するリパーゼ処理の条件と得られた処理物の酸価の測定結果を示す。
【0094】
【表10】
【0095】
<試験例6>
サンプルとして調製例2で調製した酸化油脂1~4又はそのリパーゼ処理物に替えた以外、試験例1と同様にして、甘味増強効果について調べた。なお、カルピス飲料に対するサンプルの終濃度は25ppmに調製して試験した。
【0096】
表11に、官能評価の結果を示す。
【0097】
【表11】
【0098】
その結果、表11中段の官能評価の結果に示されるように、菜種油に所定の酸化処理を施して得られた酸化油脂による、カルピス飲料の甘味を増強する効果は、酸化の程度が大きいほど高くなる傾向がみられた。また、表11下段の官能評価の結果に示されるように、菜種油を原料として調製した酸化油脂に、更にリパーゼ処理を施すことによる、甘味の更なる増強効果についても、酸化の程度が大きいほど高くなる傾向がみられた。
【0099】
<試験例7>
サンプルとして調製例2で調製した酸化油脂5~8又はそのリパーゼ処理物に替えた以外、試験例1と同様にして、甘味増強効果について調べた。なお、カルピス飲料に対するサンプルの終濃度は25ppmに調製して試験した。
【0100】
表12に、官能評価の結果を示す。
【0101】
【表12】
【0102】
その結果、表12中段の官能評価の結果に示されるように、ラードに所定の酸化処理を施して得られた酸化油脂による、カルピス飲料の甘味を増強する効果は、酸化の程度が大きいほど高くなる傾向がみられた。また、表12下段の官能評価の結果に示されるように、ラードを原料として調製した酸化油脂に、更にリパーゼ処理を施すことによる、甘味の更なる増強効果についても、酸化の程度が大きいほど高くなる傾向が見られた。
【0103】
<試験例8>
サンプルとして調製例2で調製した酸化油脂3又はそのリパーゼ処理物に替え、また、サンプルを希釈するベース油として菜種油又は大豆油を用いた以外、試験例1と同様にして、甘味増強効果について調べた。なお、カルピス飲料に対するサンプルの終濃度は25ppmに調製して試験した。
【0104】
表13に、官能評価の結果を示す。
【0105】
【表13】
【0106】
その結果、表13中段の官能評価の結果に示されるように、菜種油に所定の酸化処理を施して得られた酸化油脂による、カルピス飲料の甘味を増強する効果は、酸化油脂を希釈して試験油を調製するベース油を菜種油から大豆油に替えた場合も、同様に、その甘味増強効果が認められた。また、表13下段の官能評価の結果に示されるように、菜種油を原料として調製した酸化油脂に、更にリパーゼ処理を施すことによる、甘味の更なる増強効果について、リパーゼ処理物を希釈して試験油を調製するベース油を菜種油から大豆油に替えた場合も、同様に、その甘味の更なる増強効果が認められた。
【0107】
<試験例9>
サンプルとして調製例2で調製した酸化油脂7又はそのリパーゼ処理物に替え、また、サンプルを希釈するベース油として菜種油又は大豆油を用いた以外、試験例1と同様にして、甘味増強効果について調べた。なお、カルピス飲料に対するサンプルの終濃度は25ppmに調製して試験した。
【0108】
表14に、官能評価の結果を示す。
【0109】
【表14】
【0110】
その結果、表14中段の官能評価の結果に示されるように、ラードに所定の酸化処理を施して得られた酸化油脂による、カルピス飲料の甘味を増強する効果は、酸化油脂を希釈して試験油を調製するベース油を菜種油から大豆油に替えた場合も、同様に、その甘味増強効果が認められた。また、表14下段の官能評価の結果に示されるように、ラードを原料として調製した酸化油脂に、更にリパーゼ処理を施すことによる、甘味の更なる増強効果について、リパーゼ処理物を希釈して試験油を調製するベース油を菜種油から大豆油に替えた場合も、同様に、その甘味の更なる増強効果が認められた。
【0111】
[調製例3]
〔1.酸化油脂〕
撹拌速度400rpmで攪拌しながら、下記表に示す温度及び時間の条件でヒマワリ油又はマカダミアナッツオイルBに対して加熱処理を施した。得られた酸化油脂の過酸化物価(POV)を、「基準油脂分析試験法2.5.2過酸化物価」に則って測定した。
【0112】
表15には、各油脂に対する酸化処理の条件と得られた酸化油脂のPOVの測定結果を示す。
【0113】
【表15】
【0114】
〔2.加水分解物〕
得られた酸化油脂に対してリパーゼによる加水分解処理を施した。具体的には、酸化油脂20gと、水12gと、リパーゼ(表16に示す酵素添加量)とを50mLのチューブに入れて蓋を閉め、このチューブを40℃に設定した恒温槽に入れて、撹拌速度150rpmで振盪しながら、表16に示す時間条件でリパーゼによる加水分解処理を施した。反応時間経過後には、チューブを恒温槽から取り出し、24℃で遠心分離(3000rpm、5min)にかけて、上層(油層)の10~15gを採取した。採取した処理物を蓋付きチューブに入れ、オイルバスに漬けて酵素失活のため80℃で1時間処理した。得られたリパーゼ処理物の酸価を、「基準油脂分析試験法2.3.1酸価」(日本油化学会)に則って測定した。
【0115】
表16には、各酸化油脂に対するリパーゼ処理の条件と得られた処理物の酸価の測定結果を示す。
【0116】
【表16】
【0117】
<試験例10>
サンプルとして調製例3で調製した酸化油脂9~10のリパーゼ処理物に替えた以外、試験例5と同様にして、甘味味増強効果について調べた。なお、オレンジジュースに対するサンプルの終濃度は25ppmに調製して試験した。また、官能評価は3名の専門パネラーにより行った。
【0118】
表17に、官能評価の結果を示す。
【表17】
【0119】
その結果、表17の上から第2段の官能評価の結果に示されるように、ヒマワリ油を原料として調製した酸化油脂に更にリパーゼ処理を施すことによる、オレンジジュースの甘味を増強する効果は、リパーゼ処理物の酸価の程度が大きいほど顕著となる傾向がみられた。また、表17の最下段の官能評価の結果に示されるように、マカダミアナッツオイルBを原料として調製した場合も、同様に、オレンジジュースの甘味を増強する効果は、リパーゼ処理物の酸価の程度が大きいほど高くなる傾向がみられた。
【0120】
[調製例4]
〔酸化油脂〕
撹拌速度200rpmで攪拌しながら、下記表に示す温度及び時間の条件でヒマワリ油、コーン油、又はマカダミアナッツオイルBに対して加熱処理を施した。得られた酸化油脂の過酸化物価(POV)を、「基準油脂分析試験法2.5.2過酸化物価」に則って測定した。
【0121】
表18には、各油脂に対する酸化処理の条件と得られた酸化油脂のPOVの測定結果を示す。
【0122】
【表18】
【0123】
〔2.加水分解物〕
得られた酸化油脂に対してリパーゼによる加水分解処理を施した。具体的には、酸化油脂20gと、水12gと、リパーゼ(表19に示す酵素添加量)とを50mLのチューブに入れて蓋を閉め、このチューブを40℃に設定した恒温槽に入れて、撹拌速度150rpmで振盪しながら、表19に示す時間条件でリパーゼによる加水分解処理を施した。反応時間経過後には、チューブを恒温槽から取り出し、24℃で遠心分離(3000rpm、5min)にかけて、上層(油層)の10~15gを採取した。採取した処理物を蓋付きチューブに入れ、オイルバスに漬けて酵素失活のため80℃で1時間処理した。得られたリパーゼ処理物の酸価を、「基準油脂分析試験法2.3.1酸価」(日本油化学会)に則って測定した。
【0124】
表19には、各酸化油脂に対するリパーゼ処理の条件と得られた処理物の酸価の測定結果を示す。
【0125】
【表19】
【0126】
<試験例11>
調製例4で調製した、原料油脂としてヒマワリ油、コーン油、又はマカダミアナッツオイルBを使用して調製したサンプルについて、揚げ物用油脂組成物に添加してフライ食品に適用したときの甘味増強効果について調べた。具体的には以下のようにして官能評価を行った。
【0127】
ベース油として菜種油を用い、そのベース油に対して原料油脂を未処理のまま、あるいは酸化処理もしくは酸化及びリパーゼの処理を施したサンプルを0.5質量%混合して試験油を調製し、この試験油を用いて揚げ種としてポテトを油ちょうしてフライドポテトを調製した。官能評価は、甘味の増強効果の観点から4名又は3名の専門パネラーにより行って、各パネラーに下記評点基準で点数付けし、その平均点を求めた。
(サンプル)
・未処理:酸化処理前の油脂
・酸化処理:酸化処理後の油脂
(評点)
1点 とても弱い
2点 弱い
3点 やや弱い
4点 普通
5点 やや強い
6点 強い
7点 とても強い
(各評点間の中間的評価である場合は0.5点間隔で評点)
【0128】
表20に、官能評価の結果を示す。
【0129】
【表20】
【0130】
その結果、表20の官能評価の結果に示されるように、各種の油脂を原料として所定の酸化処理を施して得られた酸化油脂は、これを揚げ物用油脂組成物に添加してポテトを油ちょうしてフライドポテトを調製した場合でも、そのフライドポテトの甘味を増強する効果があることが明らかとなった。また、各種の油脂を原料として調製した酸化油脂に、更にリパーゼ処理を施すことにより、フライドポテトの甘味を増強する効果が、酸化処理を施しただけの酸化油脂に比べて更に高められる傾向となることが明らかとなった。
【0131】
<試験例12>
調製例4で調製した、原料油脂としてヒマワリ油、コーン油、又はマカダミアナッツオイルBを使用して調製したサンプルについて、揚げ物用油脂組成物に添加してフライ食品に適用したときの甘味増強効果について調べた。具体的には以下のようにして官能評価を行った。
【0132】
ベース油として菜種油を用い、そのベース油に対して原料油脂を未処理のまま、あるいは酸化処理もしくは酸化及びリパーゼの処理を施ししたサンプルを0.5質量%混合して試験油を調製し、この試験油を用いて揚げ種として冷凍コロッケを油ちょうしてコロッケを調製した。官能評価は、甘味の増強効果の観点から4名の専門パネラーにより行って、各パネラーに下記評点基準で点数付けし、その平均点を求めた。
(サンプル)
・未処理:酸化処理前の油脂
・酸化処理:酸化処理後の油脂
(評点)
1点 とても弱い
2点 弱い
3点 やや弱い
4点 普通
5点 やや強い
6点 強い
7点 とても強い
(各評点間の中間的評価である場合は0.5点間隔で評点)
【0133】
表21に、官能評価の結果を示す。
【0134】
【表21】
【0135】
その結果、表21の官能評価の結果に示されるように、各種の油脂を原料として所定の酸化処理を施して得られた酸化油脂は、これを揚げ物用油脂組成物に添加して冷凍コロッケを油ちょうしてコロッケを調製した場合でも、そのコロッケの甘味を増強する効果があることが明らかとなった。また、各種の油脂を原料として調製した酸化油脂に、更にリパーゼ処理を施すことにより、コロッケの甘味を増強する効果が、酸化処理を施しただけの酸化油脂に比べて更に高められることが明らかとなった。