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特開2022-151722金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151722
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/36 20060101AFI20220929BHJP
   G01N 1/32 20060101ALI20220929BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G01N1/36
G01N1/32 B
G01N1/28 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039308
(22)【出願日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2021051767
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 秀美
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA11
2G052AB01
2G052AD52
2G052BA22
2G052EA03
2G052EC18
2G052FA02
2G052FD02
2G052GA34
(57)【要約】
【課題】金属ニッケル粉末の析出反応を解析する。
【解決手段】ニッケル水溶液にアルカリおよび還元剤を添加して金属ニッケル粉末の析出反応を行い、反応溶液を得る反応工程と、所定時間、析出反応をさせた後、析出反応途中の反応中間物粒子を反応溶液から採取する採取工程と、反応中間物粒子を耐熱型の2-シアノアクリレート系樹脂と混合して、樹脂を硬化させることで樹脂包埋試料を作製する包埋工程と、樹脂包埋試料を集束イオンビーム装置で加工して分析用試料を作製する加工工程と、分析用試料を分析する分析工程と、を有し、分析工程の結果に基づいて、金属ニッケル粉末の析出反応を解析する、金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル水溶液にアルカリおよび還元剤を添加して金属ニッケル粉末の析出反応を行い、反応溶液を得る反応工程と、
所定時間、前記析出反応をさせた後、析出反応途中の反応中間物粒子を前記反応溶液から採取する採取工程と、
前記反応中間物粒子を耐熱型の瞬間接着剤と混合して、前記瞬間接着剤を硬化させることで樹脂包埋試料を作製する包埋工程と、
前記樹脂包埋試料を集束イオンビーム装置で加工して分析用試料を作製する加工工程と、
前記分析用試料を分析する分析工程と、を有し、
前記分析工程の結果に基づいて、前記金属ニッケル粉末の析出反応を解析する、金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法。
【請求項2】
前記瞬間接着剤は、2-シアノアクリレート系樹脂である、
請求項1に記載の金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法。
【請求項3】
前記瞬間接着剤は、硬化させたときの硬化物の耐熱温度が110℃以上150℃以下である、
請求項1又は2に記載の金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法。
【請求項4】
前記採取工程では、析出反応の開始から前記反応中間物粒子を採取するまでの時間を変化させて、反応時間の異なる複数の反応中間物粒子を採取し、
前記複数の反応中間物粒子のそれぞれについて、前記包埋工程、前記加工工程および前記分析工程を行い、
前記金属ニッケル粉末の析出反応の経時変化を解析する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法。
【請求項5】
前記分析工程では、前記分析用試料を透過型電子顕微鏡で観察する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法。
【請求項6】
前記アルカリはアルカリ金属水酸化物である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法。
【請求項7】
前記還元剤はヒドラジンである、
請求項1から6のいずれか1項に記載の金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法。
【請求項8】
前記採取工程では、メンブランフィルターを用いた吸引ろ過により、前記反応溶液から前記反応中間物粒子を固液分離する、
請求項1から7のいずれか1項に記載の金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法。
【請求項9】
前記包埋工程では、前記反応中間物粒子を、前記採取工程で採取した直後であって、前記反応溶液が付着した状態のまま、前記瞬間接着剤と混合する、
請求項1から8のいずれか1項に記載の金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ニッケル粉末は、電子回路のコンデンサの材料として、特に、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板などの積層セラミック部品の内部電極などを構成する厚膜導電体の材料の中の導電性ペーストとして利用されている。
【0003】
近年、これらの配線基板や電子部品の小型化および高密度化に伴って、導電層および電極層の幅や厚みが縮小される傾向にある。そのため、これらを形成する材料として用いられる導電性ペーストの材料である導電性粉末についても、その小径化が要求されており、粒径が500nm以下程度である金属ニッケル粉末が用いられている。
【0004】
金属ニッケル粉末の製造方法には、大別すると、気相法と湿式法がある。湿式法は、例えば、ニッケル水溶液にアルカリおよび還元剤を添加し、時間の経過とともに金属ニッケル粉末を成長させて生成させる方法である。湿式法では、金属ニッケル粉末の生成、成長状態の情報に基づいて、反応条件(アルカリや還元剤の添加速度、添加量、添加タイミング、温度、時間等)を最適化することが重要となる。
【0005】
金属ニッケル粉末の生成、成長状態を観察し、把握するために、金属ニッケル粉末の析出反応の途中で生成する反応中間物粒子を分析することが考えられる。この分析方法としては、例えば、まず、ニッケル水溶液にアルカリおよび還元剤を添加して、金属ニッケル粉末の析出反応を行う。所定時間経過後、反応溶液から反応中間物粒子を採取する。この反応中間物粒子を樹脂に包埋して樹脂包埋試料を作製する。そして、反応中間物粒子を透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:以降TEMと表記する)で分析すべく、樹脂包埋試料を集束イオンビーム(Focused Ion Beam:以降、FIBと表記する)装置により薄片化し、分析用試料を作製する。続いて、分析用試料をTEMに供して分析を行う。
【0006】
試料を包埋する樹脂としては、一般的にエポキシ樹脂が用いられる。また、包埋する樹脂としては、2-シアノアクリレート系接着剤(以降、2-シアノアクリレート系樹脂と表記する)を用いることも提案されている(例えば特許文献1、2を参照)。特許文献1には、粉末試料と2-シアノアクリレート系樹脂を混合して樹脂包埋試料を作製した後、断面加工する方法が開示されている。特許文献2には、ニッケル酸リチウムの一次粒子を観察するために、ニッケル酸リチウムと2-シアノアクリレート系樹脂を混合して樹脂包埋試料を作製後、FIBにより、表面処理を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-025547号公報
【特許文献2】特開2003-261334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、エポキシ樹脂では、金属ニッケル粉末の析出反応途中で採取した反応中間物粒子と混合して硬化させたときに硬化が十分に進まず、樹脂包埋試料を作製できないことが確認された。これは、反応中間物粒子に付着する苛性ソーダなどのアルカリが、エポキシ樹脂に添加されるアミン系硬化剤と反応して、その硬化作用を阻害するためと推測される。
【0009】
一方、2-シアノアクリレート系樹脂では、反応中間物粒子と混合しても硬化反応を進めることができる。ただし、得られる樹脂包埋試料をFIBで薄片化したときに、TEMで分析可能な形状に加工できないことが確認された。これは、FIBではイオンビームの照射により樹脂が加熱され、熱分解してしまうためである。
【0010】
このように、反応中間物粒子を分析に供する形態に加工できず、金属ニッケル粉末の析出反応を解析できないことがあった。
【0011】
本発明は、金属ニッケル粉末の析出反応を解析する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、
ニッケル水溶液にアルカリおよび還元剤を添加して金属ニッケル粉末の析出反応を行い、反応溶液を得る反応工程と、
所定時間、前記析出反応をさせた後、析出反応途中の反応中間物粒子を前記反応溶液から採取する採取工程と、
前記反応中間物粒子を耐熱型の瞬間接着剤と混合して、前記瞬間接着剤を硬化させることで樹脂包埋試料を作製する包埋工程と、
前記樹脂包埋試料を集束イオンビーム装置で加工して分析用試料を作製する加工工程と、
前記分析用試料を分析する分析工程と、を有し、
前記分析工程の結果に基づいて、前記金属ニッケル粉末の析出反応を解析する、金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法が提供される。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記瞬間接着剤は、2-シアノアクリレート系樹脂である。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、
前記瞬間接着剤は、硬化させたときの硬化物の耐熱温度が110℃以上150℃以下である。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1から第3の態様において、
前記採取工程では、析出反応の開始から前記反応中間物粒子を採取するまでの時間を変化させて、反応時間の異なる複数の反応中間物粒子を採取し、
前記複数の反応中間物粒子のそれぞれについて、前記包埋工程、前記加工工程および前記分析工程を行い、
前記金属ニッケル粉末の析出反応の経時変化を解析する。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1から第4の態様のいずれかにおいて、
前記分析工程では、前記分析用試料を透過型電子顕微鏡で観察する。
【0017】
本発明の第6の態様は、第1から第5の態様のいずれかにおいて、
前記アルカリはアルカリ金属水酸化物である。
【0018】
本発明の第7の態様は、第1から第6の態様のいずれかにおいて、
前記還元剤はヒドラジンである。
【0019】
本発明の第8の態様は、第1から第7の態様のいずれかにおいて、
前記採取工程では、メンブランフィルターを用いた吸引ろ過により、前記反応溶液から前記反応中間物粒子を固液分離する。
【0020】
本発明の第9の態様は、第1から第8の態様のいずれかにおいて、
前記包埋工程では、前記反応中間物粒子を、前記採取工程で採取した直後であって、前記反応溶液が付着した状態のまま、前記瞬間接着剤と混合する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、金属ニッケル粉末の析出反応を解析することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<本発明者による知見>
金属ニッケル粉末の析出反応を精度よく分析する観点から、析出反応途中の反応中間物粒子は、反応溶液から採取した後、できるだけ短時間にそのままの状態で、樹脂で固結することが望ましい。例えば、反応溶液から採取した反応中間物粒子を水で洗浄し、エポキシ樹脂の硬化を阻害するアルカリを取り除いた後に分析を行うことも考えられる。しかし、この場合、採取してから分析に供するまでの時間がかかること、また、反応中間物粒子を洗浄することで、反応溶液から採取したときの状態をそのまま維持できないことから、精度よく分析できないおそれがある。
【0023】
一般的に、TEM観察を行う際に試料を包埋する包埋樹脂としては、浸透性、透明性、低伸縮性、観察の妨害にならない化合物の含有量が少ない等の要件を満たすものを用いることができる。例えばエポキシ系、ポリエステル系、アクリル系等、様々な樹脂を用いることができる。そして、金属ニッケル粉末の析出反応を解析するという特殊な用途に用いられる包埋樹脂としては、上述したように、エポキシ樹脂のように硬化が阻害されず、反応溶液から採取したときの状態をそのまま維持できることから、空気中等の水分と反応して瞬間的に硬化する瞬間接着剤として2-シアノアクリレート系樹脂を用いることができる。
【0024】
しかし、2-シアノアクリレート系樹脂などの瞬間接着剤には、FIBで加工を行う際に熱分解してしまうという問題があった。この点について本発明者が検討したところ、FIBで薄片加工を行うと、ビーム照射により樹脂包埋試料が100℃程度まで加熱されることが分かった。なお、特許文献1には、粉末試料を2-シアノアクリレート系樹脂で包埋した後、樹脂包埋試料を走査型プローブ顕微鏡で観察するために断面加工を施すことが開示されているが、断面加工では薄片加工のように大きな発熱が生じない。また、特許文献2には、ニッケル酸リチウムの一次粒子を観察するために、2-シアノアクリレート系樹脂を混合して硬化させた後、FIB装置により表面処理を行う方法が開示されているが、表面処理では、断面加工と同様、薄片加工のような大きな発熱が生じない。
【0025】
このことから、本発明者は、金属ニッケル粉末の析出反応を解析するという特殊な用途において、FIBによる加熱で熱分解しにくい樹脂について検討を行い、瞬間接着剤の中でも、耐熱性を付与した耐熱型の瞬間接着剤に着目した。この瞬間接着剤としては、耐熱型の2-シアノアクリレート系樹脂などがある。耐熱型の瞬間接着剤によれば、アルカリと反応して硬化作用が阻害されるアミン系硬化剤は用いられず、空気中等の水分との反応により硬化反応が進むので、アルカリが付着したままの反応中間物粒子と混合した場合であっても十分に硬化させることができる。そのため、反応中間物粒子を、採取してから短時間で樹脂に包埋でき、析出反応途中の状態を維持することができる。しかも、耐熱性が高いので、熱分解を抑制しつつ、FIBで薄片加工を行うことができ、得られる分析用試料をTEM分析に供することができる。これにより、金属ニッケル粉末の析出反応を解析することが可能となる。
【0026】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。
【0027】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態にかかる金属ニッケル粉末の析出反応の解析方法について説明する。本実施形態の解析方法は、準備工程、反応工程、採取工程、包埋工程、加工工程および分析工程に分けられる。以下、各工程について説明する。
【0028】
(準備工程)
まず、金属ニッケル粉末を析出させるためのニッケル水溶液、アルカリおよび還元剤を準備する。
【0029】
ニッケル水溶液としては、例えば塩化ニッケル水溶液や硫酸ニッケル水溶液を用いることができる。アルカリとしては、特に限定されないが、入手の容易さや価格の面からアルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いることができる。還元剤としてはヒドラジンを用いることができ、無水ヒドラジン、ヒドラジン水和物である抱水ヒドラジン(N・HO)のどちらを用いても構わない。ヒドラジンの還元力は水溶液のアルカリ性が強いほど大きくなるので、水酸化アルカリの配合量はpHが10以上とするのがよい。
【0030】
(反応工程)
続いて、ニッケル水溶液にアルカリおよび還元剤を添加して、金属ニッケル粉末の析出反応を行い、反応溶液を得る。析出反応においては、還元剤の還元作用によって金属ニッケルが析出するが、基本的には、まず核となる金属ニッケルが生成した後、その核に金属ニッケルが析出して粒子の成長が起こる。よって、析出反応の反応時間が長くなるほど、得られる金属ニッケル粉末の粒径が大きくなる。なお、液性がアルカリ条件に調整されるので、金属ニッケルに還元される前の未反応のニッケルの形態は、水酸化ニッケルとなる。
【0031】
(採取工程)
本実施形態では、金属ニッケル粉末の析出反応を解析するため、反応溶液を調製し、所定時間、析出反応を行った後、反応溶液から析出反応途中の反応中間物粒子を採取する。この反応中間物粒子は、金属ニッケルと水酸化ニッケルの混合物であり、そのうちの金属ニッケルは、反応開始から採取までの反応時間に応じて成長しており、所定の粒子径を有している。
【0032】
前述の通り、目的とする金属ニッケル粉末の粒子径は500nm以下程度なので、反応中間物粒子中の金属ニッケル粒子の粒子径はその目的とする500nm以下程度よりも小さくなる。析出反応を解析する際に反応中間物粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察する観点から、反応中間物粒子はTEMで観察できるような粒径を有することが好ましく、その粒径は例えば1nm以上100nm以下であることが好ましい。なお、反応中間物粒子は、析出した金属ニッケル粒子や未反応の水酸化ニッケル粒子で主に構成されるが、これらの粒子は金属ニッケルや水酸化ニッケル以外に不可避的に混入する不純物元素を含んでもよい。
【0033】
反応中間物粒子の採取は、特に限定されないが、例えば以下のように行うとよい。まず、反応溶液から、反応中間物粒子を含むスラリーを分取する。続いて、スラリーを固液分離して、反応中間物粒子を回収するとよい。スラリーを固液分離して得られる固形分には、反応中間物粒子として、成長途中の金属ニッケル粒子だけでなく、未反応の水酸化ニッケルなどが含まれる。金属ニッケル粒子は黒色を呈するため、フィルター上に残留した固形分のうち、黒色のものが含まれる部分のフィルターを注意深く切取る。採取に際しては、例えば、固形分を実体顕微鏡で観察しながら、ピンセットとナイフなどを用いて、固形分のうちの黒色の粒子が含まれる部分を採取する。また、後述のFIB装置での加工処理を行いやすくする観点からは、黒色の粒子が含まれる部分の中でも、表面が平らな部分を採取するとよい。
【0034】
固液分離の方法は特に限定されないが、処理を迅速に行う観点からは、メンブランフィルターを用いた吸引ろ過が好ましい。分取したスラリー中でも析出反応が進むため、固液分離を迅速に行うことで、反応中間物粒子の状態を採取した時点の状態に保存し、析出反応の解析をより精度よく行うことができる。
【0035】
また、採取工程は、1回でもよいが、析出反応の開始から採取するまでの時間を変化させて複数回行ってもよい。これにより、反応時間の異なる複数の反応中間物粒子を採取することができる。反応時間の異なる複数の反応中間物粒子を採取すれば、析出反応の時間経過による成長度合いを把握することができ、析出反応の経時変化を解析することができる。
【0036】
(包埋工程)
次に、採取した反応中間物粒子を耐熱型の瞬間接着剤で包埋する。具体的には、まず、金属板またはガラス板を用意し、その上にフッ素樹脂製テープを貼り、テープ上に導電性シリコンウエハを固定する。続いて、導電性シリコンウエハ上に耐熱型の瞬間接着剤を滴下する。続いて、上記で採取した反応中間物粒子を耐熱型の瞬間接着剤上におき、樹脂中に包埋させる。その後、瞬間接着剤を空気中で硬化させて、樹脂包埋試料を得る。樹脂包埋試料は、耐熱型の瞬間接着剤の硬化物中に反応中間物粒子を含んだ部分が分散して包埋されて構成される。
【0037】
耐熱型の瞬間接着剤は、水分により硬化するとともに、後述するFIB装置での薄片加工の際に熱分解しないようなものである。好ましくは、硬化させたときの硬化物の耐熱温度が110℃以上150℃以下のものであるとよい。耐熱温度が110℃以上となる樹脂であれば、薄片加工の際に樹脂が熱分解することを抑制できる。また、一般的に入手可能な耐熱型の瞬間接着剤(例えば耐熱型の2-シアノアクリレート系樹脂など)の耐熱温度の上限が150℃であることにもより、耐熱温度の上限は150℃であればよい。ここで、耐熱温度とは、樹脂を硬化させた硬化物を加熱下で引張せん断接着強さを測定したときに、硬化物が破断するときの温度を示す。耐熱型の瞬間接着剤の選定に際しては、樹脂の耐熱温度を予め測定し、耐熱温度が110℃以上のものを選定するとよい。
【0038】
耐熱型の瞬間接着剤としては、所望の耐熱温度を得られ、かつ硬化反応の進みやすさ、取り扱い性の良さから、耐熱型の2-シアノアクリレート系樹脂が好ましい。
【0039】
採取した反応中間物粒子は、乾燥させた状態で樹脂に包埋させてもよく、固液分離により採取した直後であって、反応溶液が付着したままの状態で樹脂に包埋させてもよい。反応中間物粒子の析出反応を抑制し、反応中間物粒子を採取時点での状態に維持する観点からは、反応中間物粒子を反応溶液が付着したままの状態で包埋することが好ましい。反応溶液にはアルカリが含まれているものの、耐熱型の瞬間接着剤、特に耐熱型の2-シアノアクリレート系樹脂であれば、アルカリが存在しても硬化反応を進めることができる。しかも、反応溶液には水分が含まれており、この水分も2-シアノアクリレート系樹脂の硬化反応に寄与させることができる。なお、反応溶液(水分)の付着量が過度に多いと、硬化により得られる硬化物の硬化度が不十分となるおそれがあるが、吸引ろ過により固液分離した状態であれば、適度な硬化度を得ることができる。
【0040】
なお、樹脂包埋試料の作製において、金属板やガラス板を使用するのは、樹脂包埋試料の表面を平坦とし、FIB装置での薄片加工を容易にするためである。また、導電性シリコンウエハを使用するのは、FIB装置で薄片加工するときにチャージアップが生じないように、樹脂包埋試料に導電性をもたせるためである。また、反応中間物粒子を包埋した後、必要に応じて、余分な2-シアノアクリレート系樹脂を例えば紙縒りまたは綿棒で除去してもよい。これにより、包埋する樹脂量を調節することができる。
【0041】
(加工工程)
次に、得られた樹脂包埋試料をTEMでの分析に供する形状に加工する。例えば、まず、樹脂包埋試料に白金蒸着を施す。その後、白金蒸着を施した箇所をFIB装置で切り出し、その試料片を銅製のメッシュに固定する。続いて、メッシュに固定した試料片に対してFIB装置によりガリウムイオンを照射し、厚さ100nm以下となるまで薄片加工を施し、分析用試料を作製する。本実施形態では、樹脂包埋試料を構成する樹脂の硬化物が例えば耐熱型の2-シアノアクリレート系樹脂などの瞬間接着剤で形成されているため、ガリウムイオンの照射にともなう発熱により樹脂が熱分解してしまうことを抑制でき、所望の厚さの分析用試料を得ることができる。
【0042】
なお、採取工程にて、反応時間の異なる複数の反応中間物粒子を採取した場合は、複数の反応中間物粒子のそれぞれについて、上記包埋工程および加工工程を行い、複数の分析用試料を作製する。
【0043】
(分析工程)
次に、得られた分析用試料を分析する。例えば、分析用試料を透過電子顕微鏡(TEM)に導入し、反応中間物粒子に含まれる析出反応途中の金属ニッケル粒子について粒子径を確認する。また、分析用試料は、例えばエネルギー分散型X線検出器(Energy Dispersive X-ray Spectrometer:以降EDSと表記する)を備えた走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:以降STEMと表記する)に導入し、反応中間物粒子をより詳細に分析してもよい。STEMによれば、反応中間物粒子でも、ニッケルのみが検出された粒子を金属ニッケル粒子、ニッケルおよび酸素が検出された粒子を未反応の水酸化ニッケルと判断することができる。
【0044】
そして、得られた分析結果に基づいて、例えば反応時間と金属ニッケル粒子の粒子径との相関に基づいて、析出反応の最適な条件を把握することができる。また例えば、反応中間物粒子において、未還元の水酸化ニッケル粒子の存在する割合を確認することで、析出反応の終点や還元度(還元剤の添加量)などを把握することができる。しかも、反応時間の異なる反応中間物粒子を含む複数の分析用試料についてそれぞれ分析することにより、析出反応の経時的な変化を把握することができ、析出反応についてより精度よく解析することが可能となる。
【0045】
以上により、金属ニッケル粉末の析出反応について解析することができる。
【0046】
<本実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0047】
比較形態として、反応溶液から採取し、アルカリなどが付着する反応中間物粒子をエポキシ樹脂に添加してアミン系硬化剤を用いて樹脂を硬化させる場合がある。この場合、アルカリの存在により硬化反応が進まず、樹脂包埋試料を作製することができない。これに対して、本実施形態では、包埋する樹脂として、耐熱型の瞬間接着剤を、好ましくは耐熱型の2-シアノアクリレート系樹脂を使用している。このような瞬間接着剤によれば、空気中等の水分により、もしくは、反応中間物粒子に付着する水分を吸収することにより硬化反応を進めることができるので、アルカリなどが存在する場合であっても樹脂を硬化させることができる。特に、耐熱型の2-シアノアクリレート系樹脂によれば、吸引ろ過により固液分離した状態であれば、適度な硬化度を得ることができる。即ち、反応中間物粒子を採取して樹脂包埋をした時点での反応中間物粒子の観察が可能となる。しかも、耐熱型の瞬間接着剤によれば、硬化させた硬化物が高い耐熱性を有するので、樹脂包埋試料をFIB装置により薄片加工する際、加工にともなう発熱で樹脂が熱分解することを抑制することができる。そのため、樹脂包埋試料をTEM分析に供することが可能な形状に加工することができる。
【0048】
瞬間接着剤は、硬化させた硬化物の耐熱温度が110℃以上150℃以下の耐熱型の2-シアノアクリレート系樹脂であることが好ましい。このような耐熱温度を有する硬化物によれば、FIB装置での薄片加工の際に、樹脂の熱分解をより確実に抑制することができる。
【0049】
また、反応溶液から反応中間物粒子を採取する際、析出反応の開始から採取するまでの時間を変えて、反応時間の異なる複数の粒子を採取することができる。これら複数の反応中間物粒子をそれぞれ分析することにより、金属ニッケル粉末の析出反応について経時的な変化を解析することができる。
【0050】
また、反応中間物粒子は、吸引ろ過による固液分離により採取した直後であって、反応溶液が付着したままの状態で瞬間接着剤に包埋させることが好ましい。このように包埋することで、付着する反応溶液に含まれる水分も瞬間接着剤の硬化反応に寄与し、反応中間物粒子を採取して樹脂包埋をした時点での反応中間物粒子の観察が可能となる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例0052】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0053】
(実施例1)
まず、ニッケル水溶液に、アルカリとして水酸化ナトリウムと、還元剤としてヒドラジンとを添加し、反応溶液を調製した。これにより金属ニッケル粉末の析出反応を行った。反応を開始してから所定時間が経過した後、スラリーを分取した。続いて、スラリーをメンブランフィルターを用いて吸引ろ過することにより、固液分離を行い、固形分を得た。続いて、固形分を実体顕微鏡で確認しながらピンセットとナイフを使って反応中間物粒子を採取した。本実施例では、反応を開始してから6分後と20分後に反応中間物粒子を採取した。
【0054】
一方、金属板またはガラス板の上にフッ素樹脂製テープを貼り、その上に縦2.5mm、横2.5mm、厚さ0.5mmのシリコンウエハを固定した。そのシリコンウエハ上に耐熱型の瞬間接着剤として耐熱型の2-シアノアクリレート系樹脂(東亞合成株式会社製「アロンアルファ EXTRA4000」、耐熱温度120℃)を1滴、滴下した。さらに、その樹脂上に、採取した反応中間物粒子を載せて、樹脂中に包埋させた。続いて、反応中間物粒子を包埋していない過剰分の2-シアノアクリレート系樹脂を紙縒りを使って除去し、空気中で放置することで、樹脂を硬化させた。これにより、反応中間物粒子を包埋した樹脂包埋試料を得た。
【0055】
次に、樹脂包埋試料に白金蒸着を施し、その上部をFIB装置(日立ハイテクノロジーズ株式会社製「FB-2100」)により縦8μm、横17μm、厚さ3μmの大きさに切り出し、試料片を得た。次に、この試料片を銅製のメッシュに固定した。続いて、銅製のメッシュに固定した試料片に対して、FIB装置によりガリウムイオンを照射して、厚さ90nmまで薄片加工を施した。これにより、分析用試料を得た。
【0056】
次に、得られた分析用試料をSTEM(日立ハイテクノロジーズ株式会社製「HD-2300A」)にセットし、加速電圧200kVの電子線を照射し、倍率50000倍、100000倍および500000倍で観察した。
その結果、反応時間6分では粒径が20nmから50nm程度の球状の粒子が観察された。また反応時間20分では粒径が70nmから130nmの球状の粒子が観察された。このことから、時間の経過とともに球状の粒子が大きくなっていることが確認できた。なお、反応時間20分で観察された100nm以上の球状の粒子は、観察した薄片が約100nmであるため、実際にはもっと大きな粒子が存在する可能性がある。
【0057】
(実施例2)
実施例2では、実施例1でSTEMにセットした薄片に対して加速電圧200kVの電子線を照射し、球状粒子部分または球状粒子の周辺部分から発生した特性X線をEDS(アメテック株式会社製「GENESIS」)により検出し、含有元素を測定した。その結果、球状粒子部分からニッケルが検出され、球状粒子の周辺からは、ニッケルおよび酸素が検出された。EDS測定により球状粒子部分が析出した金属ニッケル粉末、その周辺には未反応の水酸化ニッケルが存在していることが確認された。
【0058】
(比較例1)
比較例1では、実施例1の硬化工程で使用した耐熱型の2-シアノアクリレート系樹脂の代わりに、アミン系硬化剤(日本合成化工株式会社製「VX3293B」)とエポキシ樹脂(日本合成化工株式会社製「VX 3293A」)を使用した以外は、実施例1と同様に樹脂包埋試料を作製した。しかし、比較例1では、エポキシ樹脂にアミン系硬化剤が添加されたため、樹脂を硬化できず、TEM装置に導入できるような形状に加工できないことが確認された。
【0059】
以上説明したように、反応溶液から、析出反応途中の反応中間物粒子を採取して、耐熱型の瞬間接着剤で樹脂包埋し分析を行うことにより、金属ニッケル粉末の析出反応を解析することができる。