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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151842
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】フェライト焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20220929BHJP
   H01F 1/10 20060101ALI20220929BHJP
   C01F 17/229 20200101ALI20220929BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20220929BHJP
   C04B 35/26 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/10
C01F17/229
C01G49/00 D
C04B35/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048728
(22)【出願日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2021052504
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 義徳
【テーマコード(参考)】
4G002
4G076
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4G002AA09
4G002AB02
4G002AD02
4G002AE04
4G076AA02
4G076AB02
4G076BA24
4G076BA42
4G076CA11
4G076DA07
5E040AB04
5E040BD01
5E040CA01
5E040NN02
5E062CD01
(57)【要約】
【課題】 高いBと高いHcjを維持したままH/Hcjを向上させるフェライト焼結磁石の製造方法の提供。
【解決手段】 Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素(Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素、AはSr及び/又はBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x―yFe2n-zCoにおいて、x、y及びz、並びにn(2nはモル比であって、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される)が、0.3≦1-x―y≦0.65、0.3≦x≦0.65、0≦y≦0.2、0.25≦z≦0.65、及び4.5≦n≦7を満足し、仮焼工程、粉砕工程、成形工程、焼成工程を有し、仮焼工程後、成形工程前において、仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%を超え0.3質量%以下のLa(OH)を添加する工程を含み、焼成工程において、1100℃~焼成温度の温度範囲での平均昇温速度が1℃/分未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素(Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素、AはSr及び/又はBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x―yFe2n-zCoにおいて、前記x、y及びz、並びにn(2nはモル比であって、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.3≦1-x―y≦0.65、
0.3≦x≦0.65、
0≦y≦0.2、
0.25≦z≦0.65、及び
4.5≦n≦7
を満足するように仮焼体を準備する仮焼工程、
前記仮焼体を粉砕し、仮焼体粉末を得る粉砕工程、
前記仮焼体粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程、
前記仮焼工程後、前記成形工程前において、前記仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%を超え0.3質量%以下のLa(OH)を添加する工程を含み、
前記焼成工程において、1100℃~焼成温度の温度範囲での平均昇温速度が1℃/分未満であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記La(OH)の添加量が0.05~0.3質量%であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記La(OH)の添加量が0.05~0.15質量%であることを特徴とする請求項2に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
平均昇温速度が0.5℃/分以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
0<y≦0.2であることを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記仮焼工程後、前記成形工程前に、前記仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%を超え1.5質量%以下のSiOを添加する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
前記仮焼工程後、前記成形工程前に、前記仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対してCaO換算で0質量%を超え1.5質量%以下のCaCOを添加する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項6に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フェライト焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石は最大エネルギー積が希土類系焼結磁石(例えばNdFeB系焼結磁石)の1/10にすぎないが、主原料が安価な酸化鉄であることからコストパフォーマンスに優れており、化学的に極めて安定であるという特長を有している。そのため、世界的な生産重量は現在でも磁石材料の中で最大である。
【0003】
モータやスピーカなどフェライト焼結磁石が用いられている様々な用途の中で高性能材の要望が強いのは自動車電装用モータや家電用モータなどである。近年、希土類原料の価格高騰や調達リスクの顕在化を背景に、これまで希土類系焼結磁石しか用いられていなかった産業用モータや電気自動車用(EV、HV、PHVなど)駆動モータ・発電機などにもフェライト焼結磁石の応用が検討されている。
【0004】
代表的なフェライト焼結磁石は、マグネトプランバイト構造を有するSrフェライトであり、基本組成はSrFe1219で表される。その後、SrFe1219のSr2+の一部をLa3+で置換し、Fe3+の一部をCo2+で置換したSrLaCo系フェライト焼結磁石が実用化されたことによりフェライト磁石の磁石特性は大きく向上した。また、磁石特性をさらに向上させたCaLaCo系フェライト焼結磁石が実用化されたが、前記用途に供するためには、CaLaCo系フェライト焼結磁石においてもさらなる高性能化が望まれている。
【0005】
特許文献1では、残留磁束密度(以下「B」という)及び保磁力(以下「Hcj」という)の向上、並びにHcjの温度特性の改善を図るため、Caの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCo等で置換した、少なくとも19k0e以上、最高20k0e以上の異方性磁界(以下「H」という)を有するCaLaCo系フェライト焼結磁石を開示している。このHはSrLaCo系フェライト焼結磁石に比べて10%以上高い値であると記載している。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のCaLaCo系フェライト焼結磁石は、SrLaCo系フェライト焼結磁石を上回るHを有するものの、B及びHcjはSrLaCo系フェライト焼結磁石と同程度であり、一方で角形比が非常に悪く、モータ等の各種用途に応用されるまでには至っていない。
【0007】
フェライト焼結磁石において、トレードオフの関係にあるBとHcjとのバランスを変化させようとする場合、CaLaCo系フェライト焼結磁石では焼結助剤としてSiOやCaCOを添加することが知られている。高いBを得るには、非磁性成分となる焼結助剤の添加量を焼結に必要な液相成分を確保できる範囲で少なくしたり、SiOに比べCaCOの添加割合を増やしたりすることが有効であるが、微細な焼結組織を維持することが困難になりHcjが低下する。一方、高いHcjを得るには、焼結助剤の添加量を増やしたり、CaCOに比べSiOの添加割合を増やしたりすることが有効であるが、非磁性成分の増加や焼結性の低下によりBが低下するとともに、角形比(以下「H/Hcj」という[Hは、J(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.95Bの値になる位置のHの値])の低下が避けられない。
【0008】
前記用途に供するためには、高いB、高いHcJとともに高いHk/HcJを有することが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3181559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示の目的は、高いBと高いHcjを維持したままH/Hcjを向上させるフェライト焼結磁石の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本開示のフェライト焼結磁石の製造方法は、Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素(Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素、AはSr及び/又はBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x―yFe2n-zCoにおいて、前記x、y及びz、並びにn(2nはモル比であって、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.3≦1-x―y≦0.65、
0.3≦x≦0.65、
0≦y≦0.2、
0.25≦z≦0.65、及び
4.5≦n≦7
を満足するように仮焼体を準備する仮焼工程、
前記仮焼体を粉砕し、仮焼体粉末を得る粉砕工程、
前記仮焼体粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程、
前記仮焼工程後、前記成形工程前において、前記仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%を超え0.3質量%以下のLa(OH)を添加する工程を含み、
前記焼成工程において、1100℃~焼成温度の温度範囲での平均昇温速度が1℃/分未満である。
【0012】
本開示のフェライト焼結磁石の製造方法において、La(OH)の添加量が0.05~0.3質量%であることが好ましい。
【0013】
本開示のフェライト焼結磁石の製造方法において、La(OH)の添加量が0.05~0.15質量%であることが好ましい。
【0014】
本開示のフェライト焼結磁石の製造方法において、平均昇温速度が0.5℃/分以下であることが好ましい。
【0015】
本開示のフェライト焼結磁石の製造方法において、0<y≦0.2であることが好ましい。
【0016】
本開示のフェライト焼結磁石の製造方法において、仮焼工程後、成形工程前に、仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%を超え1.5質量%以下のSiOを添加する工程をさらに含むことが好ましい。
【0017】
本開示のフェライト焼結磁石の製造方法において、仮焼工程後、成形工程前に、仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対してCaO換算で0質量%を超え1.5質量%以下のCaCOを添加する工程をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、高いBと高いHcjを維持したままH/Hcjを向上させるフェライト焼結磁石の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示のフェライト焼結磁石の製造方法は、Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素(Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素、AはSr及び/又はBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x―yFe2n-zCoにおいて、前記x、y及びz、並びにn(2nはモル比であって、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.3≦1-x―y≦0.65、
0.3≦x≦0.65、
0≦y≦0.2、
0.25≦z≦0.65、及び
4.5≦n≦7
を満足するように仮焼体を準備する仮焼工程、
前記仮焼体を粉砕し、仮焼体粉末を得る粉砕工程、
前記仮焼体粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程、
前記仮焼工程後、前記成形工程前において、前記仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%を超え0.3質量%以下のLa(OH)を添加する工程を含み、
前記焼成工程において、1100℃~焼成温度の温度範囲での平均昇温速度が1℃/分未満である。
【0020】
本開示の仮焼体(フェライト仮焼体)において、原子比1-x-y(Caの含有量)は、0.3≦1-x―y≦0.65である。xが0.3未満又は0.65を超えるとBとHcjが低下するため好ましくない。
【0021】
原子比x(Rの含有量)は、0.3≦x≦0.65である。xが0.3未満又は0.65を超えるとBとHcjが低下するため好ましくない。Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素である。La以外の希土類元素の含有量はモル比でRの合計量の50%以下であるのが好ましい。
【0022】
原子比y(Aの含有量)は、0≦y≦0.2である。AはSr及び/又はBaである。Aを含有しなくても本開示の効果が損なわれることはないが、添加することにより、仮焼体における結晶が微細化されアスペクト比が小さくなるため、Hcjがさらに向上するという効果を得ることができる。Aが0.2を超えると、BとHcjが低下するため好ましくない。原子比yは0<y≦0.2がより好ましい。
【0023】
原子比z(Coの含有量)は、0.25≦z≦0.65である。zが0.25未満ではHcJが低下するため好ましくない。zが0.65を超えるとBが低下するため好ましくない。
【0024】
前記一般式において、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される。nは4.5≦n≦7である。nが4.5未満又は7を超えると高いBを得ることができない。
【0025】
前記一般式は、金属元素の原子比で示したが、酸素(O)を含む組成は、一般式:Ca1-x―yFe2n-zCoαで表される。酸素の原子比αは基本的にはα=19であるが、Fe及びCoの価数、x、y及びzやnの値などによって異なってくる。また、還元性雰囲気で焼成した場合の酸素の空孔(ベイカンシー)、フェライト相におけるFeの価数の変化、Coの価数の変化等により金属元素に対する酸素の比率が変化する。従って、実際の酸素の原子比αは19からずれる場合がある。そのため、本開示においては、最も組成が特定し易い金属元素の原子比で組成を表記している。
【0026】
本開示のフェライト仮焼体を構成する主相は、六方晶のマグネトプランバイト型(M型)構造を有する化合物相(フェライト相)である。一般に、磁性材料、特に焼結磁石は、複数の化合物から構成されており、その磁性材料の特性(物性、磁石特性など)を決定づけている化合物が「主相」と定義される。
【0027】
「六方晶のマグネトプランバイト型(M型)構造を有する」とは、一般的な条件のフェライト仮焼体粉末のX線回折測定において、六方晶のマグネトプランバイト型(M型)構造のX線回折パターンが主として観察されることを言う。
【0028】
原料粉末としては、価数にかかわらず、それぞれの金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、塩化物等の化合物を使用することができる。原料粉末を溶解した溶液であってもよい。Caの化合物としては、Caの炭酸塩、酸化物、塩化物等が挙げられる。Rの化合物としては、La等の希土類酸化物、La(OH)等の希土類水酸化物、La(CO・8HO等の希土類炭酸塩等が挙げられる。A元素の化合物としては、Sr及び/又はBaの炭酸塩、酸化物、塩化物等が挙げられる。Feの化合物としては、酸化鉄、水酸化鉄、塩化鉄、ミルスケール等が挙げられる。Coの化合物としては、CoO、Co等の酸化物、CoOOH、Co(OH)等の水酸化物、CoCO等の炭酸塩、及びmCoCo3・mCo(OH)・mO等の塩基性炭酸塩(m、m、mは正の数である)が挙げられる。
【0029】
仮焼時の反応促進のため、必要に応じてB、HBO等のB(硼素)を含む化合物を1質量%程度まで添加してもよい。特にHBOの添加は、磁石特性の向上に有効である。HBOの添加量は0.3質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%程度が最も好ましい。HBOは、焼成時に結晶粒の形状やサイズを制御する効果も有するため、仮焼後(微粉砕前や焼成前)に添加してもよく、仮焼前及び仮焼後の両方で添加してもよい。
【0030】
上述した本開示のフェライト仮焼体の成分、組成を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末とする。原料粉末の配合、混合は、湿式及び乾式のいずれで行ってもよい。スチールボール等の媒体とともに撹拌すると原料粉末をより均一に混合することができる。湿式の場合は、分散媒に水を用いるのが好ましい。原料粉末の分散性を高める目的でポリカルボン酸アンモニウム、グルコン酸カルシウム等の公知の分散剤を用いてもよい。混合した原料スラリーはそのまま仮焼してもよいし、原料スラリーを脱水した後、仮焼してもよい。
【0031】
乾式混合又は湿式混合することによって得られた混合原料粉末は、電気炉、ガス炉等を用いて加熱することで、固相反応により、六方晶のマグネトプランバイト型(M型)構造のフェライト化合物を形成する。このプロセスを「仮焼」と呼び、得られた化合物を「仮焼体」と呼ぶ。従って、本開示のフェライト仮焼体はフェライト化合物と言い換えることができる。
【0032】
仮焼工程では、温度の上昇とともにフェライト相が形成される固相反応が進行する。仮焼温度が1100℃未満では、未反応のヘマタイト(酸化鉄)が残存するため磁石特性が低くなる。一方、仮焼温度が1450℃を超えると結晶粒が成長し過ぎるため、粉砕工程において粉砕に多大な時間を要することがある。従って、仮焼温度は1100℃~1450℃であるのが好ましい。仮焼時間は0.5時間~5時間であるのが好ましい。
【0033】
粉砕工程では、仮焼体をハンマーミル等によって粉砕(粗粉砕)後、振動ミル、ジェットミル、ボールミル、アトライター等によって粉砕(微粉砕)し、仮焼体粉末(微粉砕粉末)とする。仮焼体粉末の平均粒径は0.4μm~1.2μm程度にするのが好ましい。磁石特性の向上を重視する場合は、0.4μm~0.7μm程度にするのが好ましい。製造コスト(粉砕時間短縮、プレスサイクル短縮など)を重視する場合は、0.7μm~1.2μm程度にするのが好ましい。なお、本開示においては、粉体比表面積測定装置(例えば島津製作所製SS-100)などを用いて空気透過法によって測定した値を粉末の平均粒径(平均粒度)という。
【0034】
粉砕工程は乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれでもよく、双方を組み合わせてもよい。湿式粉砕の場合は、分散媒として水及び/又は非水系溶剤(アセトン、エタノール、キシレン等の有機溶剤)を用いて行う。典型的には、水(分散媒)と仮焼体とを含むスラリーを生成する。スラリーには公知の分散剤及び/又は界面活性剤を固形分比率で0.2~2質量%を添加してもよい。湿式粉砕後は、スラリーを濃縮してもよい。
【0035】
成形工程は、粉砕工程後のスラリーを、分散媒を除去しながら磁界中又は無磁界中でプレス成形する。磁界中でプレス成形することにより、粉末粒子の結晶方位を整列(配向)させることができ、磁石特性を飛躍的に向上させることができる。さらに、配向を向上させるために、成形前のスラリーに分散剤及び潤滑剤をそれぞれ0.1~1質量%添加してもよい。また成形前にスラリーを必要に応じて濃縮してもよい。濃縮は遠心分離、フィルタープレス等により行うのが好ましい。
【0036】
本開示のフェライト焼結磁石の製造方法では、仮焼工程後、成形工程前に、La(OH)を添加する工程を有する。この工程が本開示のフェライト焼結磁石の製造方法の一つの特徴である。
【0037】
La(OH)の添加量は、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%より多く、0.3質量%以下が好ましい。本開示のフェライト焼結磁石は、その組成から明らかなようにCaLaCo系フェライト焼結磁石に属しており、主相成分としてCaが含まれているため、液相が生成する。また、液相の生成により主相成分であるLaが液相へ溶解するため、主相中のLa量が減少し、H/Hcjの低下を引き起してしまう。そして、液相に溶解するLa量が増えることで、ペロブスカイト構造を有する異相であるオルソフェライト相(LaFeOなど)が析出しやすくなり、H/Hcjの低下だけでなくBやHcjといった磁石特性の悪化を引き起こしやすくなる。しかし、本開示のようにLa(OH)を0質量%より多く、0.3質量%以下添加することで、主相から液相へのLaの溶解を抑制できるため、H/Hcjを向上させることができる。その一方で、0.3質量%より多いとH/Hcjが低下してしまう。したがって、La(OH)の添加量は0.05~0.3質量%が好ましく、0.05~0.15質量%がより好ましい。
【0038】
前記La(OH)を添加する工程に加えて、仮焼工程後、成形工程前に、仮焼体又は仮焼体粉末(粗粉砕粉末又は微粉砕粉末)にCoを添加する工程を有していてもよい。つまり、仮焼工程後、成形工程前に、仮焼体又は仮焼体粉末に、La(OH)とCoを添加してもよい。Coの添加量は、原子比z(Coの含有量)が0.25≦z≦0.65を満たすように添加することが好ましい。
【0039】
また、仮焼工程後、成形工程前に、仮焼体又は仮焼体粉末(粗粉砕粉末又は微粉砕粉末)にSiO、CaCOを添加する工程を有していてもよい。つまり、前記仮焼工程後、成形工程前に、仮焼体又は仮焼体粉末に、La(OH)とSiO、La(OH)とCaCO、あるいはLa(OH)とSiOとCaCOを添加してもよい。更に、これら組み合わせに加え、Coを添加しても良い。SiOの添加量は、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%より多く、1.5質量%以下が好ましい。SiOを添加しない場合、HcJが低下してしまうことがある。また、1.5質量%より多くなると、Bが低下してしまうことがある。
【0040】
CaCOの添加量は、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対してCaO換算で0質量%より多く、1.5質量%以下が好ましい。CaCOを添加しない場合、HcJが低下してしまうことがある。また、1.5質量%より多くなると、Bが低下してしまうことがある。
【0041】
なお、本開示においては、CaCOの添加量は全てCaO換算で表記する。CaO換算での添加量からCaCOの添加量は、式:(CaCOの分子量×CaO換算での添加量)/CaOの分子量によって求めることができる。例えば、CaO換算で0.5質量%のCaCOを添加する場合、{(40.08[Caの原子量]+12.01[Cの原子量]+48.00[0の原子量×3]=100.09[CaCOの分子量])×0.5質量%[CaO換算での添加量]}/(40.08[Caの原子量]+16.00[0の原子量]=56.08[CaOの分子量])=0.892質量%[CaCOの添加量]、となる。
【0042】
前記のLa(OH)、SiO及びCaCOの添加は、例えば、仮焼工程によって得られた仮焼体に添加した後、粉砕工程を実施する、粉砕工程の途中で添加する、又は粉砕工程後の仮焼体粉末(微粉砕粉末)に添加、混合した後成形工程を実施する、などの方法を採用することができる。SiO、CaCO、La(OH)の他に、Cr、Al等を添加してもよい。
【0043】
焼結工程では、プレス成形により得られた成形体を、必要に応じて脱脂した後、焼成(焼結)する。焼成は電気炉、ガス炉等を用いて行う。焼成は酸素濃度が10体積%以上の雰囲気中で行うことが好ましい。より好ましくは20体積%以上であり、最も好ましくは100体積%である。焼成温度は1150℃~1250℃が好ましい。焼成時間は0時間(焼成温度での保持無し)~2時間が好ましい。
【0044】
焼成工程の昇温時において、1100℃から焼成温度までの温度範囲における平均昇温速度を1℃/分未満で昇温する。これが本開示のフェライト焼結磁石の製造方法のもう一つの特徴である。
【0045】
1100℃から焼成温度までの温度範囲での平均昇温速度が1℃/分以上になると高いBと高いHcjを維持したままH/Hcjを向上させることができない。平均昇温速度は0.5℃/分以下がより好ましい。
【0046】
焼成温度で所定の時間キープした後(保持無しの場合も含む)、室温まで降温する。降温速度は特に問わないが、リードタイムの短縮を考慮すれば、被熱処理物が熱衝撃により亀裂や割れが発生しない程度に出来るだけ速く冷却することが好ましい。なお、本発明の実施形態において、温度を記載する場合は全て被熱処理物の温度を指す。温度の測定は、焼成炉内の被熱処理物にR熱電対を接触させることにより測定した。
【0047】
焼成工程の後は、加工工程、洗浄工程、検査工程等の公知の製造プロセスを経て、最終的にフェライト焼結磁石を製造する。
【実施例0048】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0049】
実験例1
一般式Ca0.48La0.51Sr0.01Fe10.25Co0.35となるようにCaCO粉末、La(OH)粉末、SrCO粉末、Fe粉末及びCo粉末を所定の組成で秤量し、秤量後の粉末の合計100質量%に対してHBO粉末を0.1質量%添加後、それぞれ湿式ボールミルで4時間混合した後、乾燥、整粒して混合原料粉末を得た。
【0050】
得られた混合原料粉末を大気中において仮焼温度1300℃で3時間仮焼し、仮焼体を得た。そして、得られた仮焼体を小型ミルで粗粉砕して仮焼体の粗粉砕粉末を得た。
【0051】
試料No.1、7は、得られた仮焼体の粗粉砕粉末100質量%に対して、表1に示すCaCO(添加量はCaO換算)及びSiOを添加し、試料No.2~6、8~11は、得られた仮焼体の粗粉砕粉末100質量%に対して、表1に示すCaCO(添加量はCaO換算)、SiO及びLa(OH)を添加し、水を分散媒とした湿式ボールミルで平均粒度が0.65μmになるまで微粉砕して11種類の微粉砕スラリーを得た。
【0052】
粉砕工程により得られた各微粉砕スラリーを、分散媒を除去しながら、加圧方向と磁界方向とが平行である平行磁界成形機(縦磁界成形機)を用い、約1Tの磁界を印加しながら約2.4MPaの圧力で成形し、11種類の成形体を得た。
【0053】
得られた各成形体を焼結炉内に挿入し、大気中で、1100℃まで昇温速度400℃/時で昇温し、1100℃から焼成温度1190℃まで表1に示す昇温速度で昇温した。その後、1時間焼成し、その後室温まで6時間かけて冷却することにより11種類のフェライト焼結磁石を得た。得られたフェライト焼結磁石のB、HcJ及びH/HcJの測定結果を表1に示す。表1において試料No.の横に*印を付していない試料No.2~6が本開示の実施形態に基づく実験例であり、*印を付した試料No.1、7~11は本開示の実施形態を満足しない実験例(比較例)である。なお、表1におけるHは、J(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.95×J(Jは残留磁化、J=B)の値になる位置のHの値である。
【0054】
【表1】
【0055】
La(OH)を添加しなかった試料No.1、7と、La(OH)を添加した試料No.2~6を比較すると、La(OH)を添加した方がH/HcJの値が高い結果となった。また、B、HcJの値は同等の結果となった。
【0056】
また、La(OH)を添加し、昇温速度が1℃/分である試料No.8~11と、La(OH)を添加し、昇温速度が0.5℃/分である試料No.2~6を比較すると、昇温速度が0.5℃/分の方がH/HcJの値が高い結果となった。また、B、HcJの値は同等の結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本開示によれば、高いBと高いHcjを維持したままH/Hcjを向上させたフェライト焼結磁石を提供することが可能となる。提供されたフェライト焼結磁石は各種モータなどに好適に利用することができる。