(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151940
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ホウ素化キノロン誘導体及びその製造方法、並びに、キノロンイソインドリン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20221004BHJP
C07D 401/04 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C07F5/02 A
C07D401/04 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054502
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】林 祐希
(72)【発明者】
【氏名】宮奥 隆行
【テーマコード(参考)】
4C063
4H048
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB01
4C063CC14
4C063DD07
4C063EE05
4H048AA01
4H048AA02
4H048AB20
4H048AD15
4H048BA25
4H048BA39
4H048BA48
4H048BB25
4H048BC10
4H048VB10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規な化合物であるホウ素化キノロン誘導体及びその製造方法と、キノロンイソインドリン誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(I)に表されるホウ素化キノロン誘導体である。
(式(I)において、R
1は、互いに結合して、置換若しくは非置換の環員数4以上8以下の飽和複素環、又は、置換若しくは非置換の環員数4以上8以下の不飽和複素環を形成していてもよい。R
2は、水素原子、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。R
3は、炭素数3以上8以下のシクロアルキル基、炭素数1以上6以下のハロアルキル基、又は、炭素数4以上10以下の複素環基である。R
4は、水素原子、炭素数1以上6以下のハロアルキル基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)に表されるホウ素化キノロン誘導体:
【化1】
前記式(I)において、
R
1は、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基であり、
R
1は、互いに結合して、置換若しくは非置換の環員数4以上8以下の飽和複素環、又は、置換若しくは非置換の環員数4以上8以下の不飽和複素環を形成していてもよく、
R
2は、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基であり、
R
3は、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数3以上8以下のシクロアルキル基、炭素数1以上6以下のハロアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数4以上10以下の複素環基であり、
R
4は、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のハロアルキル基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。
【請求項2】
下記式(Ia)に表される請求項1に記載のホウ素化キノロン誘導体:
【化2】
前記式(Ia)において、R
2、R
3、及びR
4は、前記式(I)におけるものと同義である。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のホウ素化キノロン誘導体と、下記式(II)に表されるイソインドリン誘導体とを、遷移金属触媒存在下で接触させて、下記式(III)に表されるキノロンイソインドリン誘導体を得ることを含む、キノロンイソインドリン誘導体の製造方法:
【化3】
前記式(II)において、
R
5及びR
7は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基であり、
R
6は、アミノ基の保護基であり、
【化4】
前記式(III)において、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ、前記式(I)におけるものと同義であり、R
5、R
6、及びR
7は、それぞれ、前記式(II)におけるものと同義である。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のホウ素化キノロン誘導体の製造方法であって、
下記式(IV)に表されるキノロン誘導体と、下記式(V)に表されるホウ素化剤とを接触させて、前記式(I)に表されるホウ素化キノロン誘導体を得ることを含む、ホウ素化キノロン誘導体の製造方法:
【化5】
前記式(IV)において、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ、前記式(I)におけるものと同義であり、Xは、ハロゲン原子であり、
【化6】
前記式(V)において、R
1は、前記式(I)におけるものと同義であり、
R
8は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基、又は、炭素数1以上3以下のアルキルアミン基であり、
aは、1又は2であり、bは、0又は1であり、a+b=2である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素化キノロン誘導体及びその製造方法、並びに、キノロンイソインドリン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(A)に表されるガレノキサシンは、抗菌剤として有用な化合物である。
【0003】
【0004】
特許文献1には、このガレノキサシンを、下記式(B)に表される化合物と下記式(C)に表される化合物とをカップリングして製造することが記載されている。
【0005】
【0006】
上記式(B)において、R16は、水素原子、ハロゲン原子等であり、R17は、水素原子又はカルボキシル保護基であり、R18は、置換されていてもよいアルキル等であり、AはC-Y等(Yは、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル等)であり、Zは、塩素、臭素等である。
【0007】
【0008】
上記式(C)において、R11はアルキル基であり、R12は水素、アミノ保護基等であり、R14及びR15は水素若しくは低級アルキル基、又は、一緒になってホウ素を含有する環である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、新規な化合物であるホウ素化キノロン誘導体及びその製造方法と、キノロンイソインドリン誘導体の製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態によると、下記式(I)に表されるホウ素化キノロン誘導体が提供される。
【0012】
【0013】
式(I)において、R1は、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。R1は、互いに結合して、置換若しくは非置換の環員数4以上8以下の飽和複素環、又は、置換若しくは非置換の環員数4以上8以下の不飽和複素環を形成していてもよい。R2は、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。R3は、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数3以上8以下のシクロアルキル基、炭素数1以上6以下のハロアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数4以上10以下の複素環基である。R4は、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のハロアルキル基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。
【0014】
他の実施形態によると、キノロンイソインドリン誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、実施形態に係るホウ素化キノロン誘導体と、下記式(II)に表されるイソインドリン誘導体とを、遷移金属触媒存在下で接触させて、下記式(III)に表されるキノロンイソインドリン誘導体を得ることを含む。
【0015】
【0016】
式(II)において、R5及びR7は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。R6は、アミノ基の保護基である。
【0017】
【0018】
式(III)において、R2、R3、及びR4は、それぞれ、式(I)におけるものと同義である。R5、R6、及びR7は、それぞれ、式(II)におけるものと同義である。
【0019】
他の実施形態によると、ホウ素化キノロン誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、下記式(IV)に表されるキノロン誘導体と、下記式(V)に表されるホウ素化剤とを接触させて、式(I)に表されるホウ素化キノロン誘導体を得ることを含む。
【0020】
【0021】
式(IV)において、R2、R3、及びR4は、それぞれ、式(I)におけるものと同義である。Xは、ハロゲン原子である。
【0022】
【0023】
式(V)において、R1は、式(I)におけるものと同義である。R8は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基、又は、炭素数1以上3以下のアルキルアミン基である。aは、1又は2である。bは、0又は1である。a+b=2である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、新規な化合物であるホウ素化キノロン誘導体及びその製造方法と、キノロンイソインドリン誘導体の製造方法とが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<ホウ素化キノロン誘導体>
ホウ素化キノロン誘導体は、下記式(I)に表される。ホウ素化キノロン誘導体は、抗菌剤であるガレノキサシンとして使用可能なキノロンイソインドリン誘導体の合成材料として使用し得る。ホウ素化キノロン誘導体を合成材料として使用すると、キノロンイソインドリン誘導体の合成コストを低下させ得る。
【0026】
【0027】
式(I)において、R1は、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。
【0028】
R1は、好ましくは水素原子、又は炭素数1以上6以下のアルキル基であり、より好ましくは水素原子、又は炭素数1以上3以下のアルキル基である。R1は、それぞれ、同一の基であっても、異なる基であっても良い。R1は、互いに結合して、置換若しくは非置換の環員数4以上8以下の飽和複素環、又は、置換若しくは非置換の環員数4以上8以下の不飽和複素環を形成していてもよい。
【0029】
置換基としては、炭素数1以上6以下のアルキレン基、炭素数6以上10以下のアリーレン基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキレン基を用いる。アリーレン基、又は、アラルキレン基は、置換基を有していても良く、置換基は、炭素数1以上3以下のアルキル基、炭素数1以上3以下のアルコキシ基、又は、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)である。
【0030】
2つのR1が結合して形成された飽和複素環は、環員数5~8の飽和複素環であることが好ましく、下記化学式(VIa)から(VId)のいずれかで表わされる基であることがより好ましい。
【0031】
【0032】
R2は、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。R2は、好ましくは炭素数1以上4以下のアルキル基又は水素原子であり、より好ましくはエチル基である。
【0033】
R3は、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数3以上8以下のシクロアルキル基、炭素数1以上6以下のハロアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数4以上10以下の複素環基である。
【0034】
R3は、好ましくは炭素数1以上4以下のアルキル基、又は、炭素数3以上6以下のシクロアルキル基であり、より好ましくはシクロプロピル基である。
【0035】
R4は、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のハロアルキル基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。
【0036】
R4は、好ましくは炭素数1以上4以下のアルキル基、又は炭素数1以上4以下のハロアルキル基であり、より好ましくはジフルオロメチル基である。
【0037】
ホウ素化キノロン誘導体としては、下記式(Ia)に表されるものを用いることが好ましい。
【0038】
【0039】
<ホウ素化キノロン誘導体の製造方法>
ホウ素化キノロン誘導体は、例えば、キノロン誘導体とホウ素化剤とを接触させることにより得られる。
【0040】
キノロン誘導体は、下記式(IV)に表される。
【0041】
【0042】
式(IV)において、R2、R3、及びR4は、それぞれ、式(I)におけるものと同義である。Xは、ハロゲン原子である。
【0043】
ホウ素化剤は、下記式(V)に表される。
【0044】
【0045】
式(V)において、R1は、式(I)におけるものと同義である。
【0046】
R8は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基、又は、炭素数1以上3以下のアルキルアミン基である。
【0047】
aは、1又は2である。bは、0又は1である。a+b=2である。aは、2であることが好ましく、bは0であることが好ましい。このような構造を有するホウ素化剤を用いると、ホウ素化キノロン誘導体の収率が高まる傾向にある。
【0048】
式(V)で表されるホウ素化剤の具体例としては、ビス(ピナコラート)ジボロン、ビス(ネオペンチルグリコラート)ジボロン、ビス(ヘキシレングリコラート)ジボロン、ビス(カテコラート)ジボロン、テトラヒドロキシジボラン、ピナコールボラン、及びネオペンチルグリコールボランが挙げられる。
【0049】
ホウ素化剤としては、ビス(ピナコラート)ジボロンを用いることが好ましい。このホウ素化剤を用いると、ホウ素化キノロン誘導体の収率が高まる傾向にある。
【0050】
1モルのキノロン誘導体に対する、ホウ素化剤の量は、1モル以上5モル以下であることが好ましく、1.2モル以上3モル以下であることがより好ましい。
【0051】
キノロン誘導体とホウ素化剤との接触においては、接触させるときの温度は0℃以上120℃以下が好ましく、30℃以上90℃以下がより好ましい。反応時間は、反応が完結する時間に適宜決定すればよいが、通常、0.5時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。反応雰囲気は特に制限されないが、例えば、不活性ガス(例えば、窒素やアルゴン等)の雰囲気下で行ってよい。
【0052】
キノロン誘導体とホウ素化剤との接触は、第1触媒存在下で行われることが好ましい。第1触媒としては、遷移金属触媒が好ましく、パラジウム触媒、又は、ニッケル触媒がより好ましい。パラジウム触媒としては、[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(以下、「PdCl2(dppf)」とも称す)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(以下、「Pd(TPPh)4」とも称す)、ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム(II)(以下、「PdCl2(TPPh)2」とも称す)、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロパラジウム(II)(以下、「PdCl2(dppe)」とも称す)、及び[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ジクロロパラジウム(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。1モルのキノロン誘導体に対する、第1触媒の量は、0.001モル以上1モル以下であることが好ましく、0.02モル以上0.5モル以下であることがより好ましい。
【0053】
キノロン誘導体とホウ素化剤との接触は、第1触媒に加えて、塩基化合物の存在下で行われることが好ましい。塩基化合物は、キノロン誘導体のボリル化を促進する。
【0054】
塩基化合物としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、りん酸三ナトリウム、りん酸三カリウム、及びトリエチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。1モルのキノロン誘導体に対する、塩基化合物の量は、1モル以上5モル以下であることが好ましく、1.2モル以上4モル以下であることがより好ましい。
【0055】
キノロン誘導体とホウ素化剤との接触は、第1溶媒存在下で行われることが好ましい。第1溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等のアルコール系の溶媒;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルセロソルブ等のエ-テル系の溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系の溶媒;アセトン等のケトン系の溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系の溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。これら溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。1gのキノロン誘導体に対する、第1溶媒の量は、1mL以上50mL以下であることが好ましく、3mL以上20mL以下であることがより好ましい。なお、溶媒として混合溶媒を使用する場合には、混合溶媒の全量が前記範囲を満足すればよい。
【0056】
ホウ素化キノロン誘導体の製造においては、先ず、撹拌機構を備えた反応容器内で第1溶媒とキノロン誘導体とを混合して混合物を得る。次いで、この混合物に第1触媒、塩基、及びホウ素化剤をこの順で混合する。撹拌温度は0℃以上120℃以下が好ましく、30℃以上90℃以下がより好ましい。反応時間は、反応が完結する時間に適宜決定すればよいが、通常、0.5時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。
【0057】
得られた物質がホウ素化キノロン誘導体であることは、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光分析により確認できる。
【0058】
なお、上記の方法で得られたホウ素化キノロン誘導体のR1がHである場合、ピナコールと反応させて、ホウ素化部分を上記(VIc)に表される構造へと変化させてもよい。上記(VIc)に表される構造を有するホウ素化キノロン誘導体は、イソインドリン誘導体との反応性が高く、キノロンイソインドリン誘導体の収率が高まる傾向にある。1モルのホウ素化キノロン誘導体に対するピナコールの量は、(1)モル以上(5)モル以下であることが好ましく、(1)モル以上(3)モル以下であることがより好ましい。
【0059】
<キノロンイソインドリン誘導体の製造方法>
キノロンイソインドリン誘導体は、例えば、上述したホウ素化キノロン誘導体と、イソインドリン誘導体とを、遷移金属触媒存在下で接触させることにより得られる。
【0060】
キノロンイソインドリン誘導体は、下記式(III)に表される。キノロンイソインドリン誘導体は、例えば、上述したガレノキサシン等の医薬品の原料として使用し得る。
【0061】
【0062】
式(III)において、R2、R3、及びR4は、それぞれ、式(I)におけるものと同義である。R5、R6、及びR7は、それぞれ、式(II)におけるものと同義である。
【0063】
イソインドリン誘導体は、下記式(II)に表される。
【0064】
【0065】
式(II)において、R5及びR7は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。
【0066】
R5は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。R7は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0067】
R6は、アミノ基保護基である。アミノ基保護基としては、トリチル基、トリフルオロアセチル基、ピバロイル基、又はtert-ブトキシカルボニルが挙げられる。アミノ基保護基としては、トリチル基を用いることがより好ましい。
【0068】
ホウ素化キノロン誘導体とイソインドリン誘導体との接触において、接触させるときの温度は0℃以上120℃以下が好ましく、30℃以上90℃以下がより好ましい。反応時間は、反応が完結する時間に適宜決定すればよいが、通常、0.5時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。反応雰囲気は特に制限されないが、例えば、不活性ガス(例えば、窒素やアルゴン等)の雰囲気下で行ってよい。
【0069】
ホウ素化キノロン誘導体とイソインドリン誘導体との接触は、第2触媒存在下で行われる。第2触媒は、遷移金属触媒である。第2触媒としては、パラジウム触媒、又は、ニッケル触媒を用いることが好ましい。パラジウム触媒としては、[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)、ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム(II)、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロパラジウム(II)、及び[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ジクロロパラジウム(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。1モルのホウ素化キノロン誘導体に対する、第2触媒の量は、0.001モル以上1モル以下であることが好ましく、0.02モル以上0.5モル以下であることがより好ましい。
【0070】
ホウ素化キノロン誘導体とイソインドリン誘導体との接触は、第2触媒に加えて、塩基化合物の存在下で行われることが好ましい。塩基化合物は、第2触媒存在下、ホウ素化キノロン誘導体とイソインドリン誘導体とのクロスカップリングを促進する。
【0071】
塩基化合物としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、りん酸三ナトリウム、りん酸三カリウム、トリエチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。1モルのホウ素化キノロン誘導体に対する、塩基化合物の量は、1モル以上5モル以下であることが好ましく、1.2モル以上4モル以下であることがより好ましい。
【0072】
ホウ素化キノロン誘導体とイソインドリン誘導体との接触は、第2溶媒存在下で行われることが好ましい。第2溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等のアルコール系の溶媒;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルセロソルブ等のエ-テル系の溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系の溶媒;アセトン等のケトン系の溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系の溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水等を挙げることができる。これら溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。1gのホウ素化キノロン誘導体に対する、第2溶媒の量は、1mL以上50mL以下であることが好ましく、3mL以上20mL以下であることがより好ましい。なお、溶媒として混合溶媒を使用する場合には、混合溶媒の全量が前記範囲を満足すればよい。
【0073】
キノロンイソインドリン誘導体の製造においては、先ず、撹拌機構を備えた反応容器内で第2溶媒、ホウ素化キノロン誘導体、及びイソインドリン誘導体を混合して混合物を得る。次いで、この混合物に第2触媒、及び塩基をこの順で混合する。撹拌温度は0℃以上120℃以下が好ましく、30℃以上90℃以下がより好ましい。反応時間は、反応が完結する時間に適宜決定すればよいが、通常、0.5時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。
【0074】
得られた物質がキノロンイソインドリン誘導体であることは、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光分析により確認できる。
【0075】
ここで、キノロン誘導体とイソインドリン誘導体とをカップリングしてキノロンイソインドリン誘導体を製造する方法においては、十分な量のキノロンイソインドリン誘導体を得ることを目的として、キノロン誘導体及びイソインドリン誘導体のどちらか一方の化合物のモル量を1とし、他方の化合物のモル量を1を超えるように配合することがある。そして、イソインドリン誘導体は、キノロン誘導体に比較して、高価な化合物である。
【0076】
実施形態に係る方法では、ホウ素化されたキノロン誘導体とハロゲン化されたイソインドリン誘導体とをカップリングさせるため、比較的高価なイソインドリン誘導体の配合量を低減できる。すなわち、実施形態に係る方法では、ホウ素化されたキノロン誘導体のモル量を1として、ハロゲン化されたイソインドリン誘導体のモル量を0.90以上となるように配合させることにより、キノロンイソインドリン誘導体を高収率で得ることができる。1モルのホウ素化キノロン誘導体に対するイソインドリン誘導体の量は、0.95モル以上であることが好ましく、1.00モル以上であることがより好ましい。1モルのホウ素化キノロン誘導体に対するイソインドリン誘導体の量の下限値は特にないが、一例によると、1.10モル以下である。
以上のことから、実施形態に係る方法によると、比較的低コストでキノロンイソインドリン誘導体を得られる。
【実施例0077】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。なお、下記に示す実施例は、例示的な具体例であって、本発明は、これらにより限定されるものではない。
【0078】
なお、実施例は、キノロン誘導体である下記式(VI)で表される7-ブロモ-1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステルから、ホウ素化キノロン誘導体である下記式(VII)1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-7-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステルを製造した場合の例である。
【0079】
【0080】
【0081】
[実施例1]
撹拌機構を備えた200mL反応容器に、2-メチルテトラヒドロフラン(100mL)と7-ブロモ-1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステル(10.0g、24.9mmol)とを混合して混合物を得た。この混合物に、[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(0.9g、1.2mmol)、酢酸カリウム(7.3g、74.6mmol)、及びビス(ピナコラート)ジボロン(12.6g、49.7mmol)をこの順で混合して混合液を得た。この混合液を4時間加熱還流した。その後、混合液を30℃まで冷却し、水(50mL)を加えた後、pHを7に調製した。有機層を分取し、減圧下濃縮した。濃縮残渣にメタノール(50mL)を加えて60℃で30分、0℃で1時間撹拌したのち、固形分をろ取し、1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-7-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステル(10.2g、収率91.3%)を得た。
【0082】
なお、得られた固形分についてNMR分光分析を行い、1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-7-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステルであることを確認した。物性データは、以下の通りであった。
【0083】
NMR(400MHz、DMSO-d6、TMS)δ値8.59(s、1H)、8.14(d、1H)、7.70(d、1H)、7.03(t、1H)、4.23(q、2H)、3.7-4.3(m、1H)、1.34(s、12H)、1.28(t、3H)、1.12(2、2H)、0.95(s、1H)。
[実施例2~6]
表1に記載のとおり、溶媒若しくは触媒の種類、又は反応時間を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で実施した。なお、得られた物性データは、実施例1のものと一致した。結果を表1に示した。
[実施例7]
撹拌機構を備えた20mL反応容器に2-メチルテトラヒドロフラン(10mL)と7-ブロモ-1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステル(1.00g、2.49mmol)とを混合して混合物を得た。この混合物に[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(0.091g、0.12mmol)、酢酸カリウム(0.73g、7.46mmol)、及びテトラヒドロキシジボラン(0.45g、4.97mmol)をこの順で混合して混合液を得た。この混合液を4時間加熱還流した。その後、この混合液にピナコール(0.59g、4.97mmol)を加えて2時間加熱還流した。還流後の混合液に水(5mL)を加えた後、pHを7に調製した。有機層を分取し、減圧下濃縮した。濃縮残渣にメタノール(5mL)を加えて60℃で30分、0℃で1時間撹拌したのち、固形分をろ取し、1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-7-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステル(0.92g、収率82.3%)を得た。
【0084】
なお、得られた固形分についてNMR分光分析を行い、1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-7-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステルであることを確認した。
【0085】
【0086】
[実施例8]
撹拌機構を備えた100mL反応容器に、2-メチルテトラヒドロフラン(25mL)、実施例1で得られた1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-7-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステル(5.00g、11.1mmol)、及び(R)-5-ブロモ-1-メチル-2-トリチル-イソインドリン(5.06g、11.1mmol)を混合して混合物を得た。この混合物に炭酸ナトリウム(2.36g、22.3mmol)、[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(0.41g、0.56mmol)、及び水(5mL)をこの順で混合して混合液を得た。この混合液を2時間加熱還流した。還流後の混合液に水(20mL)を加えた後、有機層を分取し、減圧下濃縮した。得られた濃縮残渣にメタノール(15mL)を加えて加熱溶解した。放冷後、固形分をろ取し、(R)-1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-7-(1-メチル-2-トリチルイソインドリン-5-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステル(6.84g、収率88.2%)を得た。
【0087】
なお、得られた固形分についてNMR分光分析を行い、(R)-1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-7-(1-メチル-2-トリチルイソインドリン-5-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステルであることを確認した。物性データは、以下の通りであった。
【0088】
NMR(400MHz、DMSO-d6、TMS)δ値8.58(s、1H)、8.13(d、1H)、6.80-7.80(m、19H)、6.19(t、1H)、3.7-4.7(m、6H)、0.90-1.50(m、10H)
[実施例9]
撹拌機構を備えた100mL反応容器に2-メチルテトラヒドロフラン(50mL)と7-ブロモ-1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステル(5.00g、12.4mmol)とを混合して混合物を得た。この混合物に、[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(0.46g、0.62mmol)、酢酸カリウム(3.66g、37.3mmol)、及びビス(ピナコラート)ジボロン(6.31g、24.9mmol)の順に混合して混合液を得た。この混合液を4時間加熱還流した。この混合液を30℃まで冷却して反応液を得た。
【0089】
次いで、この反応液に(R)-5-ブロモ-1-メチル-2-トリチル-イソインドリン(5.65g、12.4mmol)、炭酸ナトリウム(2.64g、24.9mmol)、[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(0.45g、0.62mmol)、及び水(10mL)をこの順に混合し、2時間加熱還流して混合液を得た。この混合液に水(40mL)を加えた後、有機層を分取し、減圧下濃縮した。得られた濃縮残渣にメタノール(15mL)を加えて加熱溶解した。放冷後、固形分をろ取し、(R)-1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-7-(1-メチル-2-トリチルイソインドリン-5-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステル(7.16g、収率82.7%)を得た。
【0090】
なお、得られた固形分についてNMR分光分析を行い、(R)-1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-7-(1-メチル-2-トリチルイソインドリン-5-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステルであることを確認した。物性データは、実施例8で得られた化合物のデータと一致した。