IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧 ▶ 公益財団法人相模中央化学研究所の特許一覧

特開2022-151959酸化ケイ素膜、ガスバリア膜用材料及び酸化ケイ素膜の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151959
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】酸化ケイ素膜、ガスバリア膜用材料及び酸化ケイ素膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20221004BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20221004BHJP
   C23C 16/50 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C23C16/42
B32B9/00 A
C23C16/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054532
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】田中 陵二
(72)【発明者】
【氏名】布川 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】杉本 俊
【テーマコード(参考)】
4F100
4K030
【Fターム(参考)】
4F100AA20A
4F100AK41B
4F100AT00B
4F100EH66A
4F100JD02A
4F100JD04
4F100JN01
4K030AA09
4K030BA44
4K030FA01
4K030JA09
4K030JA16
(57)【要約】
【課題】短時間で成膜可能であり、かつ500nm以下の膜厚でも9.0×10-3g/m・dayオーダー以下の水蒸気透過率(WVTR)を示す高いガスバリア性能と高い成膜速度を有する酸化ケイ素膜、ガスバリア膜用材料、及び該ガスバリア膜用材料を用いた酸化ケイ膜の製造方法を提供する
【解決手段】以下の(1)~(3)の要件を満たすことを特徴とする酸化ケイ素膜。
(1)膜厚500nm以下における水蒸気透過率(WVTR)が9.0×10-3g/m・day以下
(2)プラズマ励起化学気相成長法による成膜速度が100nm/min以上
(3)X線光電子測定分光法(XPS)で測定した膜中炭素濃度が3.0atom%以下
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)~(3)の要件を満たすことを特徴とする酸化ケイ素膜。
(1)膜厚500nm以下における水蒸気透過率(WVTR)が9.0×10-3g/m・day以下
(2)プラズマ励起化学気相成長法による成膜速度が100nm/min以上
(3)X線光電子測定分光法(XPS)で測定した膜中炭素濃度が3.0atom%以下
【請求項2】
一般式(1)
【化1】
(1)
(式中、Aは酸素原子又はメチレン基を表す。Rは炭素数1~6のアルキル基を、Rは炭素数1~3のアルキル基を表す。)で示される水素化ケイ素化合物を含む、化学気相成長法用のガスバリア膜用材料。
【請求項3】
が、メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基であり、Rがメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基である、請求項2に記載のガスバリア膜用材料。
【請求項4】
ガスバリア膜用材料が、1,3-ジメチル-1,3-ジメトキシジシロキサン、1,3-ジメチル-1,3-ジエトキシジシロキサン、1,3-ジメチル-1,3-ジ(イソプロピルオキシ)ジシロキサン、1,3-ジエチル-1,3-ジメトキシジシロキサン、1,3-ジエチル-1,3-ジエトキシジシロキサン、1,3-ジエチル-1,3-ジ(イソプロピルオキシ)ジシロキサン、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサン、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジエトキシジシロキサン、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジ(イソプロピルオキシ)ジシロキサン、ビス(メトキシメチルシリル)メタン、ビス(エトキシメチルシリル)メタン及びビス(イソプロピルメトキシシリル)メタンからなる群から選ばれる1種類以上の化合物を含む、請求項2又は3に記載のガスバリア膜用材料。
【請求項5】
請求項1に記載の酸化ケイ素膜の製造方法であって、請求項2~4のいずれかに記載のガスバリア膜用材料を、成膜圧力0.01Pa以上50Pa未満の条件でプラズマ励起化学気相成長法により成膜する、酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項6】
高周波電源(RF電源)の電力が100W以上の条件でプラズマ励起化学気相成長法により成膜する、請求項5に記載の酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項7】
高周波電源(RF電源)の電力密度が0.1W/cm以上の条件でプラズマ励起化学気相成長法により成膜する、請求項5又は6に記載の酸化ケイ素膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜下においても高いガスバリア性と高い成膜速度を有する酸化ケイ素膜、酸化ケイ素膜作成に有用な水素化ケイ素化合物を含むガスバリア膜用材料、及び酸化ケイ素膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化ケイ素(シリカ)は、高い化学的・熱的安定性と良好な物理的特性(高強度、透明性、絶縁性)を併せ持つ代表的な金属酸化物材料であり、バルクからナノサイズ材料まで、様々な形態で産業利用されている。二酸化ケイ素の薄膜を作製する方法としては、湿式法と乾式法が主として用いられるが、工程数が少なく高密度で高機能な膜を与えることから、乾式法、特に化学気相成長法(CVD法)による成膜が、酸化ケイ素薄膜を基材上に堆積させる目的で主に用いられる。とりわけ、高分子フィルム材料の透明性を維持させつつ酸素・水蒸気バリア特性を付与するために、CVD法によりフィルム上に透明な酸化ケイ素膜を堆積させ、該目的を達成することが多い。CVD法による成膜では、蒸発気化可能なケイ素化合物を酸化ケイ素薄膜前駆体として用いる必要がある。これまでに種々の有機ケイ素化合物を前駆体として用い、CVD法により所望の組成と物性を有する含ケイ素薄膜を堆積させる方法が確立されている。
【0003】
CVD法による酸化ケイ素薄膜前駆体の分子設計としては、高い蒸気圧を有し、プラズマ雰囲気下において良好な成膜速度で酸化ケイ素薄膜を堆積させることができ、かつ該酸化ケイ素薄膜が所望の機能や物性を発現させうる分子構造であることが重要である。一般的には、アルキル-アルコキシ基を有するケイ素原子数が一つであるモノシラン化合物が用いられるが、その成膜速度にはまだ改善の余地が大きい。またガスバリア膜においては、基材の薄膜化に伴い、より薄い膜厚で高いガスバリア性能を示すガスバリア膜が求められている。さらに、生産性向上の観点から、短時間で成膜が可能な高い成膜速度を有するガスバリア膜用材料が求められている。
【0004】
特許文献1では、テトラエトキシシランと酸素とを原料としたPECVD法により、SiOガスバリア層を形成したポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを製造する方法が開示されている。このフィルムの水蒸気透過率(WVTR)は1.7×10-3g/m・dayと充分なガスバリア性能を示すものの、成膜速度は67nm/minであり、成膜速度に改善の余地がある。
【0005】
特許文献2には、アルキルヒドロジシロキサン化合物を用い、PECVD法により成膜速度257nm/minでガスバリア膜を形成する方法が記載されている。このガスバリア膜は、膜厚2570nmの単層膜で、水蒸気透過率(WVTR)が4.0×10-3g/m・dayという低い値を示しており、ガスバリア性に難がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-176091号公報
【特許文献2】特許第6007662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、短時間で成膜可能であり、かつ500nm以下の膜厚でも9.0×10-3g/m・dayオーダー以下のWVTRを示す高いガスバリア性能と高い成膜速度を有する酸化ケイ素膜、ガスバリア膜用材料、及び該ガスバリア膜用材料を用いた酸化ケイ膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、分子内に2つのケイ素原子を有し、該ケイ素原子上に水素、アルキル基、及びアルコキシ基を1つずつ有する水素化ケイ素化合物が高い気化特性を示し、かつプラズマ励起化学気相成長法(以下、PECVD法ともいう)により基板上に酸化ケイ素薄膜を堆積せしめることが可能であること、並びに、これをガスバリア膜用材料として用いることにより製造できる酸化ケイ素膜によって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の構成よりなる。
[1]
以下の(1)~(3)の要件を満たすことを特徴とする酸化ケイ素膜。
(1)膜厚500nm以下における水蒸気透過率(WVTR)が9.0×10-3g/m・day以下
(2)プラズマ励起化学気相成長法による成膜速度が100nm/min以上
(3)X線光電子測定分光法(XPS)で測定した膜中炭素濃度が3.0atom%以下
[2]
一般式(1)
【0010】
【化1】
【0011】
(1)
(式中、Aは酸素原子又はメチレン基を表す。Rは炭素数1~6のアルキル基を、Rは炭素数1~3のアルキル基を表す。)で示される水素化ケイ素化合物を含む、化学気相成長法用のガスバリア膜用材料。
[3]
が、メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基であり、Rがメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基である、[2]に記載のガスバリア膜用材料。
[4]
ガスバリア膜用材料が、1,3-ジメチル-1,3-ジメトキシジシロキサン、1,3-ジメチル-1,3-ジエトキシジシロキサン、1,3-ジメチル-1,3-ジ(イソプロピルオキシ)ジシロキサン、1,3-ジエチル-1,3-ジメトキシジシロキサン、1,3-ジエチル-1,3-ジエトキシジシロキサン、1,3-ジエチル-1,3-ジ(イソプロピルオキシ)ジシロキサン、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサン、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジエトキシジシロキサン、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジ(イソプロピルオキシ)ジシロキサン、ビス(メトキシメチルシリル)メタン、ビス(エトキシメチルシリル)メタン及びビス(イソプロピルメトキシシリル)メタンからなる群から選ばれる少なくとも一つを含む、[2]又は[3]に記載のガスバリア膜用材料。
[5]
[1]に記載の酸化ケイ素膜の製造方法であって、[2]~[4]のいずれかに記載のガスバリア膜用材料を、成膜圧力0.01Pa以上50Pa未満の条件でプラズマ励起化学気相成長法により成膜する、酸化ケイ素膜の製造方法。
[6]
高周波電源(RF電源)の電力が100W以上の条件でプラズマ励起化学気相成長法により成膜する、[5]に記載の酸化ケイ素膜の製造方法。
[7]
高周波電源(RF電源)の電力密度が0.1W/cm以上の条件でプラズマ励起化学気相成長法により成膜する、[5]又は[6]に記載の酸化ケイ素膜の製造方法。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
<酸化ケイ素膜>
本発明の酸化ケイ素膜は、膜厚が500nm以下、好ましくは50~500nm、更に好ましくは100~500nm、特に好ましくは200~500nmにおける水蒸気透過率(WVTR)が、9.0×10-3g/m・day以下であることを特徴とし、好ましくは1.0×10-6~9.0×10-3g/m・dayの範囲のWVTRであり、更に好ましくは1.0×10-6~9.0×10-4g/m・dayの範囲のWVTRであり、殊更に好ましくは1.0×10-4~9.0×10-4g/m・dayの範囲のWVTRである。
【0014】
ここで、水蒸気透過率(WVTR)はガスクロマトグラフ法(GC法)で測定したものである。
【0015】
本発明の酸化ケイ素膜は、プラズマ励起化学気相成長法による成膜速度が100nm/min以上であり、好ましくは100~1000nm/min、さらに好ましくは100~500nm/min、100~300nm/min、特に好ましくは100~200nm/minである。
【0016】
ここで、成膜速度は電界放射型走査電子顕微鏡(日本電子社製、FE-SEM)JSM-7600Fを用いて膜の断面像を撮影し求めた膜厚と成膜時間により求めたものである。
【0017】
また、本発明の酸化ケイ素膜は、X線光電子測定分光法(XPS)で測定した膜中炭素濃度が、3.0atom%以下であることを特徴とし、好ましくは1.5atom%以下、更に好ましくは1.0atom%以下である。膜中の炭素濃度が低いほど、可視光線に対する透過性が高く、WVTRが低くなるため、好ましい。
【0018】
また、酸化ケイ素膜の膜厚は、高いガスバリア性能を実現するため10nm以上であることが好ましく、更に好ましくは50nm~1000nmの範囲から適宜選ばれる膜厚であり、殊更に好ましくは100nm~1000nmの範囲から適宜選ばれる膜厚である。
【0019】
なお、本発明における酸化ケイ素膜のガスバリア性能とは、酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気などのガスに対する不透過性能を意味する。また、ガスバリア性能の指標は、測定評価指標として当該材料分野において当業者により一般的に採用されている理由により、水蒸気透過率(WVTR)で評価される。
【0020】
本発明における酸化ケイ素膜は、酸化ケイ素層と基板とからなる積層膜とすることもできる。
【0021】
基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルスルホン(PES)、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ABS樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等が挙げられ、その中でもポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルスルホン(PES)、メタクリル樹脂又はエポキシ樹脂が好ましい。特に好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)又はシクロオレフィンポリマー(COP)である。
【0022】
積層膜は、可視光線透過率が80%以上であることが好ましく、更に好ましくは84%以上、殊更に好ましくは86%以上である。
【0023】
ここで、可視光線透過率は分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U-4100)を用いて測定された、波長380~780nmでの平均透過率(基板を含む)である。また、基板の平均透過率も同装置による測定値である。
【0024】
積層膜の厚み(酸化ケイ素膜と基板の合計の厚み)には特に制限はなく、10μm以上であることが好ましく、更に好ましくは50μm~2000μm、殊更に好ましくは100μm~1000μmである。積層膜における酸化ケイ素膜の好ましい膜厚は、上記したとおりである。
【0025】
<ガスバリア膜用材料>
次に、ガスバリア膜用材料について説明する。
【0026】
本発明のガスバリア膜用材料は、下記一般式(1)示される水素化ケイ素化合物(1)を含む、化学気相成長法用のガスバリア膜用材料である。
【0027】
【化2】
【0028】
(1)
(式中、Aは酸素原子又はメチレン基を表す。Rは炭素数1~6のアルキル基を、Rは炭素数1~3のアルキル基を表す。)
まず、一般式(1)中のA、R及びRについて説明する。
【0029】
Aは2つのケイ素原子を結合するリンカー部位であり、酸素原子又はメチレン基である。蒸発特性が優れる点から、酸素原子であることが好ましい。
【0030】
は炭素数1~6のアルキル基であり、直鎖状、分枝状又は環状のいずれであっても良い。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、1-メチルブチル基、2-エチルプロピル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、1-メチルぺンチル基、2-エチルブチル基、及びシクロヘキシル基が例示出来る。これらのうち、水素化ケイ素化合物のコスト、高い蒸気圧、及び成膜した酸化ケイ素膜のガスバリア性能の点から、メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基が好ましく、メチル基、エチル基又はイソプロピル基が更に好ましく、メチル基又はイソプロピル基が殊更好ましい。
【0031】
は炭素数1~3のアルキル基であり、直鎖状、分枝状又は環状のいずれであっても良い。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基及びシクロプロピル基が例示出来る。これらのうち、水素化ケイ素化合物の製造コスト、高い蒸気圧、及び成膜した酸化ケイ素膜の水蒸気バリア性の点から、メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基が好ましく、メチル基、エチル基又はイソプロピル基が更に好ましく、メチル基又はイソプロピル基が殊更好ましい。
【0032】
一般式(1)における水素化ケイ素化合物(1)は、2つのケイ素原子の立体化学によって、(1R,3R)体、(1R,3S)体、及び(1S,3S)体の3つの異性体を生じる。(1R,3R)体と(1S,3S)体は、互いに鏡像異性体の関係にある。水素化ケイ素化合物(1)は、これらの混合物であっても良く、いずれかを優先して含有するものであっても良い。
【0033】
一般式(1)で示される水素化ケイ素化合物としては、以下の化合物が例示出来る。なお、本明細書中では、Me、Et、Pr、i-Pr、Bu、i-Bu、sec-Bu及びtert-Buは、それぞれメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基及びtert-ブチル基を表す。
【0034】
【化3】
【0035】
【化4】
【0036】
【化5】
【0037】
これらのうち、蒸気圧の高さ、成膜後の酸化ケイ素膜のバリア性の高さ、及び経済性に優れる点で1,3-ジメチル-1,3-ジメトキシジシロキサン(1-1-1)、1,3-ジメチル-1,3-ジエトキシジシロキサン(1-1-2)、1,3-ジメチル-1,3-ジ(イソプロピルオキシ)ジシロキサン(1-1-4)、1,3-ジエチル-1,3-ジメトキシジシロキサン(1-2-1)、1,3-ジエチル-1,3-ジエトキシジシロキサン(1-2-2)、1,3-ジエチル-1,3-ジ(イソプロピルオキシ)ジシロキサン(1-2-4)、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサン(1-4-1)、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジエトキシジシロキサン(1-4-2)、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジ(イソプロピルオキシ)ジシロキサン(1-4-4)、ビス(メトキシメチルシリル)メタン(1-14-1)、ビス(エトキシメチルシリル)メタン(1-14-2)又はビス(イソプロピルメトキシシリル)メタン(1-17-1)が好ましく、1,3-ジメチル-1,3-ジメトキシジシロキサン(1-1-1)、1,3-ジメチル-1,3-ジ(イソプロピルオキシ)ジシロキサン(1-1-4)、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサン(1-4-1)、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジエトキシジシロキサン(1-4-2)、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジ(イソプロピルオキシ)ジシロキサン(1-4-4)、ビス(メトキシメチルシリル)メタン(1-14-1)又はビス(イソプロピルメトキシシリル)メタン(1-17-1)が更に好ましく、1,3-ジメチル-1,3-ジメトキシジシロキサン(1-1-1)、1,3-ジメチル-1,3-ジ(イソプロピルオキシ)ジシロキサン(1-1-4)、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサン(1-4-1)又はビス(メトキシメチルシリル)メタン(1-14-1)が殊更好ましい。
【0038】
水素化ケイ素化合物(1)の入手は、市販品を用いてもよく、既知の製造方法を適宜採用して合成し用いても良い。これらの合成法としては、一般式(1)中のAが酸素原子である場合は、官能性シラン類の加水分解(合成例1及び合成例2)、若しくは1,3-ジハロ-1,3-ジアルキルジシロキサンのアルコキシ化等により、並びに、一般式(1)中のAがメチレン基である場合は、ビス(クロロアルキルシリル)メタンのアルコキシ化(合成例3)等により製造が可能であり、当業者であれば容易に達成し得る。合成により得た有機シラン化合物は、濃縮、蒸留、及びカラムクロマトグラフィー等の汎用的な方法により精製して成膜に用いることもできる。
【0039】
これらの水素化ケイ素化合物(1)は、単独でガスバリア膜用材料として用いても、複数種を任意の割合で混合しガスバリア膜用材料として用いても良い。また、酸化ケイ素膜を生成可能な、別の有機ケイ素化合物を含んでも良い。該有機ケイ素化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ヘキサメトキシジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン等が例示できる。
【0040】
<酸化ケイ素膜の製造方法>
次に、本発明の酸化ケイ素膜の製造方法について説明する。
【0041】
本発明の酸化ケイ素膜は、上記ガスバリア膜用材料を、成膜圧力(ゲージ圧、特に、言及のない限り同じである。)0.01Pa以上50Pa未満の条件で、プラズマ励起化学気相成長法により成膜して製造することを特徴とする。
【0042】
なお、酸化ケイ素膜の製造方法では、以下の通り基板上に酸化ケイ素膜を製造することから、同時に積層膜も製造することができる。
【0043】
本発明の酸化ケイ素膜の製造方法では、プラズマ励起化学気相成長法(PECVD法)で成膜し、その際に水素化ケイ素化合物(1)に加え酸素を供給することが必須である。具体的には、PECVD法で水素化ケイ素化合物(1)及び酸素を原料として酸化ケイ素膜を製造する際、水素化ケイ素化合物(1)を気化させて成膜用基板を設置した成膜室に供給する。気化させる方法としては、例えば加熱した恒温槽に水素化ケイ素化合物(1)を収めた容器を入れ、真空ポンプ等を用いて減圧して気化する方法、加熱した恒温槽に水素化ケイ素化合物(1)を収めた容器を入れ、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、窒素などのキャリアガスを吹き込み気化する方法、水素化ケイ素化合物(1)をそのままもしくは溶液とし、これを気化器に送って加熱して気化器内で気化させる方法(リキッドインジェクション法)等を採用することが出来る。
【0044】
溶液とする場合に用いる溶媒としては、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグリム)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の炭化水素類を例示することが出来る。溶媒としては、これらのうち一種を単独で用いても、二種以上を任意の比で混合して用いても良い。
【0045】
このようにして成膜室に供給した水素化ケイ素化合物(1)及び酸素は、成膜室内で発生させたプラズマにより反応し、成膜用基板上へ酸化ケイ素膜が形成される。成膜はプラズマのみでも進行するが、光照射や成膜用基板の加熱等を併用してもよい。
【0046】
プラズマの発生源には特に限定はなく、例えば、容量結合プラズマ、誘導結合プラズマ、ヘリコン波プラズマ、表面波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴プラズマ等が挙げられる。
【0047】
酸化ケイ素膜の製造に用いる成膜装置としては、当業者が通常用いる化学気相蒸着用装置を用いればよく、基板の搬送方法としては、例えばバッチ式、枚葉式、ロールツーロール方式等が挙げられる。
【0048】
成膜圧力は0.01Pa以上50Pa未満の範囲にあることが必須であり、得られる酸化ケイ素膜のWVTRが低い点及び真空度の制御が容易な点から、0.1Pa以上40Pa以下の範囲より適宜選ばれた圧力であることが好ましい。
【0049】
高周波電源(RF電源)の電力は100W以上であることが好ましく、得られる酸化ケイ素膜のWVTRが低い点から200W~1500Wが更に好ましく、700W~1500Wが殊更好ましい。
【0050】
プラズマ放電のために電極に印可する電力の密度は、0.1W/cm以上であることが好ましい。得られる酸化ケイ素膜のWVTRが低い点から2.0W/cm~100W/cmが更に好ましい。
【0051】
成膜中の成膜用基板の温度は特に限定はないが、成膜用基板の耐熱温度以下であり、0℃~300℃の範囲より適宜選ばれた温度であることが好ましい。
【0052】
成膜用基板材料の種類は特に限定はなく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルスルホン(PES)、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ABS樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルスルホン(PES)、メタクリル樹脂又はエポキシ樹脂であり。更に好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)又はシクロオレフィンポリマー(COP)である。
【0053】
成膜時の水素化ケイ素化合物(1)の供給流量をX、酸素の供給流量をYとすると、水素化ケイ素化合物(1)に対する酸素の流量比(Y/X)は1以上であることが好ましく、5~100の範囲から適宜選ばれた流量比が更に好ましい。
【発明の効果】
【0054】
本発明の水素化ケイ素化合物(1)を含む化学気相成長法用のガスバリア膜用材料をCVD前駆体として供することにより、処理基材に極めて高い酸素・水蒸気バリア性能を示す透明な酸化ケイ素膜を短時間で付与することが出来る。これは特に、有機高分子フィルム基材の酸素・水蒸気バリア性能改善に好適である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の酸化ケイ素膜は高い気体バリア性を示すことから、食品用包装材料、電子機器用包装材料、太陽電池素子、EL素子などの電子素子封止膜などに好適に利用できる。又、薄膜性の高強度酸化ケイ素膜として、種々の形態の基材表面に対し、熱的・化学的・機械的特性を向上させた薄膜処理が可能になると考えられる。
【実施例0056】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0057】
容量結合型PECVD法により、成膜を行う一般的なCVD装置を用いて、成膜用基板に酸化ケイ素膜を成膜した。成膜用基板には厚さ125μmのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(可視光線透過率88.3%)を使用した。原料ガスとして、恒温槽中で気化させた水素化ケイ素化合物(1)、酸素ガス及びアルゴンガスを用いた。さらに、電源として周波数13.56MHzの高周波電源を用いた。
【0058】
成膜した酸化ケイ素膜の膜厚は、電界放射型走査電子顕微鏡(日本電子社製、FE-SEM)JSM-7600Fを用いて酸化ケイ素膜の断面像を撮影し、概算した。
【0059】
ガスバリア性能の指標となる水蒸気透過率(WVTR)は、水分透過率測定装置(GTRテック社製、GTR3000シリーズ)を用いてガスクロマトグラフ法(GC法)で測定した。
【0060】
酸化ケイ素膜の膜組成(炭素濃度を含む)はX線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ社製、XPS)PHI5000 VersaProbeIIを用いて分析した。
【0061】
合成した水素化ケイ素化合物(1)の分析は、H-NMR(プロトン核磁気共鳴スペクトル)、13C-NMR(炭素13核磁気共鳴スペクトル)及び29Si-NMR(ケイ素29核磁気共鳴スペクトル)測定はBruker-Avance社のDPX-400核磁気共鳴分光計を用い、測定溶媒には重クロロホルムを用いた。IR(赤外吸収)スペクトルは堀場製作所社のFT-720分光光度計を用い、SensIRtechnologies社のDuraSamplIRII(反射型)を用いて測定を行った。質量スペクトル測定は、ガスクロマトグラフィー型質量分析装置(島津製作所社製、GCMS-QP2010型)を使用し、キャピラリーカラムにはアジレント・テクノロジー社のDB-5MSを使用した。
【0062】
製造で用いたトリクロロシラン(東京化成工業株式会社製試薬)、ジクロロエチルシラン(東京化成工業株式会社製試薬)、ジクロロメチルシラン(シグマアルドリッチジャパン株式会社)、2-クロロプロパン(東京化成工業株式会社製試薬)、ジブロモメタン(東京化成工業株式会社製試薬)、ジブロモエタン(東京化成工業株式会社製試薬)、金属マグネシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製試薬)、脱水ジエチルエーテル(関東化学株式会社製試薬)、脱水テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)(関東化学株式会社製試薬)、脱水ヘキサン(関東化学株式会社製試薬)、脱水メタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製試薬)、脱水エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製試薬)、ピリジン(関東化学株式会社製試薬)、キノリン(東京化成工業株式会社製試薬)、ジエチルアミン(関東化学株式会社製試薬)及びトリエチルアミン(関東化学株式会社製試薬)は市販品を購入しそのまま用いた。
【0063】
(合成例1)1,3-ジエチル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-2-1))の合成
【0064】
【化6】
【0065】
<クロロ(ジエチルアミノ)エチルシランの調製>
磁気撹拌子、滴下ロート、ジムロート冷却管、及び3方コックを備えた300mL3口フラスコをアルゴンで置換し、ジクロロエチルシラン12.1g(93.8mmol)およびTHF160mLを収めた。滴下ロートにキノリン 25.1g(0.194mol)およびジエチルアミン6.85g(93.6mmol)を収めた。反応容器を0℃に冷やして1時間かけて滴下し、その後1.5時間撹拌した。
<エチル(ジエチルアミノ)メトキシシランの調製>
滴下ロートにTHF10mLおよびメタノール3.06g(95.6mmol)を収めて、反応容器を0℃に冷やしながら40分かけて滴下した。滴下終了後、室温へ戻して4時間撹拌した。
<1,3-ジエチル-1,3-ジメトキシジシロキサンの合成>
上記反応混合物に蒸留水0.856g(47.5mmol)をシリンジより5分かけて加えて、22時間撹拌した。アルゴン雰囲気下でセライトを敷いたフィルター付シュレンク管を用いてろ過し、得られた液体を濃縮した。これを減圧蒸留することにより、1,3-ジエチル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-2-1))(沸点83℃/7.3kPa)を無色液体として2.69g(収率29.5%)得た。
質量スペクトル(電子衝撃イオン化、70eV),m/z(%):193([M-H],2),165([M-Et],100),135(74);H-NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm):0.643(q,4H,J=7.8Hz),0.99(t,6H,J=7.9Hz),3.56(s,6H),4.55(t,2H,J=1.3Hz);13C-NMR(101MHz,CDCl)δ(ppm):5.325,6.822,51.03;29Si-NMR(79MHz,CDCl)δ(ppm):-21.78;赤外スペクトル(neat,cm-1):2960,2939,2918,2893,2879,2837,2135,1460,1414,1381,1240,1190,1086,1065,1009,966,829,771,704。
【0066】
(合成例2)1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-4-1))の合成
【0067】
【化7】
【0068】
<ジクロロイソプロピルシランの調製>
磁気撹拌子、滴下ロート、ジムロート冷却管、及び3方コックを備えた500mLの3口フラスコに削り状金属マグネシウム9.40g(387mmоl)を収め、装置内をアルゴンで置換した。3口フラスコに脱水THF10mLを収め、1,2-ジブロモエタン0.1mLを加えマグネシウムを活性化させた。次いで、滴下ロートから2-クロロプロパン29.9g(381mmоl)の脱水THF190mL溶液を1.5時間かけて滴下し、滴下終了後さらに室温で1.5時間撹拌し、イソプロピルマグネシウムクロリド溶液を調製した。
【0069】
別に、磁気撹拌子、滴下ロート、ジムロート冷却管、及び3方コックを備えた1000mLの3口フラスコをアルゴンで置換し、反応容器内にトリクロロシラン50.9g(376mmоl)および脱水THF300mLを収めた。反応容器を-10℃に冷却し、先に調製したイソプロピルマグネシウムクロリド溶液を滴下ロートから4.5時間かけて滴下した。滴下終了後、反応容器を室温に戻し72時間撹拌し、イソプロピルジクロロシランを含む溶液を調製した。
<(ジエチルアミノ)イソプロピルメトキシシランの調製>
上記のイソプロピルジクロロシランを含む溶液を0℃に冷却し、滴下ロートからトリエチルアミン77.5g(0.765mоl)およびジエチルアミン27.1g(0.376mоl)の混合物を1時間かけて滴下し、さらに2時間撹拌した。さらに、この混合物に、滴下ロートから0℃でメタノール12.1g(0.376mоl)の脱水THF40mL溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で16時間撹拌し、(ジエチルアミノ)イソプロピルメトキシシランの溶液を調製した。
<1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサンの合成>
上記の反応混合物を収めた3口フラスコ内にシリンジより蒸留水3.99g(0.188mоl)を撹拌しながらゆっくり加え、その後2時間加熱還流した。減圧下で溶液を半分程度に濃縮し、ここに脱水ヘキサン300mLを加え、アルゴン雰囲気下で焼結ガラスフィルターを用いて固形分をろ別した。濃縮とヘキサン希釈、ろ過の操作を再度繰り返した。濃縮後に粗生成物を減圧蒸留(沸点86℃/4.8kPa)することにより、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-4-1))を無色液体として22.6g(収率54%)得た。
【0070】
この化合物は、ケイ素原子上の立体化学が、(1R,3R)、(1S,3S)および(1R,3S)の異性体を含んでおり、前二者および後者はジアステレオマーの関係にあるため、ケイ素NMRでは2つの極めて接近したシグナルが観測された。
質量スペクトル(電子衝撃イオン化、70eV),m/z(%):179([M-Pr],100),151(72),121(65);H-NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm):0.842~0.932(m,2H),1.01(dd,12H,J=7.12,1.32Hz),3.57(s,6H),4.44(d,2H,J=0.68Hz);13C-NMR(101MHz,CDCl)δ(ppm):13.49,15.67,51.28;29Si-NMR(79MHz,CDCl)δ(ppm):-21.90,-21.87;赤外スペクトル(neat,cm-1):2945,2897,2868,2837,2131,1464,1385,1246,1190,1165,1088,1057,1001,922,881,825,766,683,661,648。
【0071】
(合成例3)ビス(エトキシメチルシリル)メタン(化合物(1-14-2))の合成
<ビス(クロロメチルシリル)メタンの調製>
【0072】
【化8】
【0073】
ジムロート冷却管、及び3方コックを備えた300mL3口フラスコに磁気撹拌子及び削り状金属マグネシウム10.0g(0.412mmol)を収めて、アルゴンで置換した。この容器にTHF10mL、ジブロモメタン1.00g、メチルジクロロシラン80.1g(0.696mol)を収めた。滴下ロートにTHF170mL及びジブロモメタン29.0g(0.173mmol)を収め、7.5時間かけて滴下した。室温で一日反応させた後、アルゴン雰囲気下でセライトを敷いたガラスフィルター付きシュレンク管を用いてろ過した。減圧下で溶媒を除去し、減圧蒸留(106℃/35.1kPa)することによりビス(クロロメチルシリル)メタンを15.5g(収率51.9%)得た。
<ビス(エトキシメチルシリル)メタンの合成>
【0074】
【化9】
【0075】
磁気撹拌子、ジムロート冷却管及び3方コックを備えた300mL3口フラスコをアルゴンで置換した。容器内にジエチルエーテル100mL及びビス(クロロメチルシリル)メタン23.5g(0.136mol)を収めた。反応容器を0℃に冷却し、滴下ロートからジエチルエーテル30mL、ピリジン23.7g(0.300mol)及び脱水エタノール19.0g(0.412mol)の混合物を1.5時間かけて滴下した。室温で一日撹拌し、アルゴン雰囲気下でセライトを敷いたガラスフィルター付きシュレンク管を用いてろ過した。減圧下で溶媒を留去し、減圧蒸留(82℃/6.5kPa)することにより、ビス(エトキシメチルシリル)メタン(化合物(1-14-2))を14.2g(収率54.3%)得た。
質量スペクトル(電子衝撃イオン化、70eV),m/z(%):191([M-H],40),177([M-CH,70),163([M-CHCH,12),147([M-OCHCH,47),119(100);H-NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm):0.15-0.21(m,2H),0.26(d,6H,J=2.80Hz),1.21(t,6H,J=7.00Hz),3.71(qd,4H,J=6.97,0.64Hz),4.64-4.69(m,2H);13C-NMR(101MHz,CDCl)δ(ppm):-1.023,-0.928,2.639,18.19,59.76;29Si-NMR(79MHz,CDCl)δ(ppm):2.746,2.763;赤外スペクトル(neat,cm-1):2972,2925,2891,2871,2106,1481,1442,1390,1352,1292,1254,1165,1105,1076,1041,997,945,887,866,849,764。
【0076】
(実施例1)1,3-ジエチル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-2-1))を用いた成膜
1,3-ジエチル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-2-1))を用い、酸素と共にPECVD法によりPENフィルム上に酸化ケイ素膜を成膜した。1,3-ジエチル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-2-1))の供給流量を18sccm、酸素供給流量を180sccm、成膜室圧力を40Pa、電源周波数13.56MHzの高周波電源(RF電源)の電力を900Wとし、3分間成膜を行った。また、1,3-ジエチル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-2-1))の供給流量に対する酸素の供給流量比(Y/X)は10.0であった。
【0077】
得られた酸化ケイ素膜の膜厚は324nmであった。成膜速度は108nm/minであった。膜の組成は、Si=33atom%、O=67atom%であり、炭素濃度は1.0atm%未満であった。WVTRは3.9×10-4g/m・dayであった。
【0078】
酸化ケイ素膜とPENフィルムからなる積層膜の可視光線透過率は87.7%であった。
【0079】
1,3-ジエチル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-2-1))を用い、酸素と共にPECVD法により成膜すると、酸化ケイ素膜厚が300nmと薄い膜であっても、WVTRが10-4g/m・dayオーダーと高いガスバリア性能を示し、かつ成膜速度も100nm/min以上と高くガスバリア膜として好適であった。
【0080】
(実施例2)1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-4-1))を用いた成膜
1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-4-1))を用い、酸素と共にPECVD法によりPENフィルム上に酸化ケイ素膜を成膜した。1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-4-1))の供給流量を13sccm、酸素供給流量を90sccm、成膜室圧力を40Pa、電源周波数13.56MHzの高周波電源(RF電源)の電力を900Wとし、2分間成膜を行った。また、1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-4-1))の供給流量に対する酸素の供給流量比(Y/X)は6.9であった。
【0081】
得られた酸化ケイ素膜の膜厚は306nmであった。成膜速度は153nm/minであった。膜の組成は、Si=33atom%、O=67atom%であり、炭素濃度は1.0atm%未満であった。WVTRは6.4×10-3g/m・dayであった。
【0082】
酸化ケイ素膜とPENフィルムからなる積層膜の可視光線透過率は86.8%であった。
【0083】
1,3-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシジシロキサン(化合物(1-4-1))を用い、酸素と共にPECVD法により成膜すると、酸化ケイ素膜厚が300nmと薄い膜であっても、WVTRが10-3g/m・dayオーダーと高いガスバリア性能を示し、かつ成膜速度も100nm/min以上と高くガスバリア膜として好適であった。
【0084】
(実施例3)ビス(エトキシメチルシリル)メタン(化合物(1-14-2))を用いた成膜
ビス(エトキシメチルシリル)メタンを用い、酸素と共にPECVD法によりPENフィルム上に酸化ケイ素膜を成膜した。ビス(エトキシメチルシリル)メタンの供給流量を16sccm、酸素供給流量を90sccm、成膜室圧力を40Pa、電源周波数13.56MHzの高周波電源(RF電源)の電力を900Wとし、2分間成膜を行った。また、ビス(エトキメチルシシリル)メタンの供給流量に対する酸素の供給流量比(Y/X)は5.6であった。
【0085】
得られた酸化ケイ素膜の膜厚は290nmであった。成膜速度は145nm/minであった。膜の組成は、Si=35atom%、O=65atom%であり、炭素濃度は1.0atm%未満であった。WVTRは4.4×10-3g/m・dayであった。
【0086】
酸化ケイ素膜とPENフィルムからなる積層膜の可視光線透過率は86.4%であった。
【0087】
ビス(エトキシメチルシリル)メタンを用い、酸素と共にPECVD法により成膜すると、酸化ケイ素膜厚が290nmと薄い膜であっても、WVTRが10-3g/m・dayオーダーと高いガスバリア性能を示し、かつ成膜速度も100nm/min以上と高くガスバリア膜として好適である。
【0088】
(比較例1)tert-ブチルトリエトキシシランを用いた成膜
K. Lin、R. J. Wiles、C. B. Kelly、G. H. M.Davies、G. A. Molander、ACS Catalysis、2017年、7巻、5129~5133頁.に記載の方法を参考に合成したtert-ブチルトリエトキシシランを用い、酸素と共にPECVD法によりPENフィルム上に酸化ケイ素膜を成膜した。tert-ブチルトリエトキシシランの供給流量を80sccm、酸素供給流量を2100sccm、成膜室圧力を8Pa、電源周波数13.56MHzの高周波電源(RF電源)の電力を1000Wとし、14分間成膜を行った。また、tert-ブチルトリエトキシシランの供給流量に対する酸素の供給流量比Y/Xは26.3であった。
【0089】
得られた酸化ケイ素膜の膜厚は800nmであった。膜の組成は、Si=33atom%、O=67atom%であり、炭素濃度は1.0atm%未満であった。WVTR値は2.0×10-4g/m・dayであった。
【0090】
酸化ケイ素膜とPENフィルムからなる積層膜の可視光線透過率は88.2%であった。
【0091】
tert-ブチルトリエトキシシランを用い、酸素と共にPECVD法によりPENフィルム上に酸化ケイ素膜を成膜した。tert-ブチルトリエトキシシランの供給流量を80sccm、酸素供給流量を2100sccm、成膜室圧力を8Pa、電源周波数13.56MHzの高周波電源(RF電源)の電力を1000Wとし、7分間成膜を行った。また、tert-ブチルトリエトキシシランの供給流量に対する酸素の供給流量比Y/Xは26.3であった。
【0092】
得られた酸化ケイ素膜の膜厚は400nmであった。成膜速度は57nm/minであった。WVTR値は4.3×10-4g/m・dayであった。酸化ケイ素膜とPENフィルムからなる積層膜の可視光線透過率は88.5%であった。
【0093】
tert-ブチルトリエトキシシランを用い、酸素と共にPECVD法により成膜すると、酸化ケイ素膜厚が400nmと薄い膜であってもWVTRが10-3g/m・dayオーダー以下の10-4g/m・dayオーダーを示すが、成膜速度が57nm/minと低く、生産性に乏しい。
【0094】
(比較例2)ヘキサメチルジシロキサンを用いた成膜
ヘキサメチルジシロキサンを用い、酸素と共にPECVD法によりPENフィルム上に成膜した。ヘキサメチルジシロキサンの供給流量を80sccm、酸素供給流量を2100sccm、成膜室の圧力を6Pa、電源周波数13.56MHzの高周波電源(RF電源)の電力を1000Wとし、2分間成膜を行った。また、ヘキサメチルジシロキサンの供給流量に対する酸素の供給流量比Y/Xは26.3であった。
【0095】
得られた膜の膜厚は200nmであった。成膜速度は117nm/minであった。WVTRは2.4×10-2g/m・dayであり、高い値を示した。
【0096】
ヘキサメチルジシロキサンを用い、酸素と共にPECVD法により成膜すると、酸化ケイ素膜厚が200nmと薄い膜の場合、成膜速度は117nm/minと高いものの、WVTRは2.4×10-2g/m・dayであり、高い値を示した。