(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152120
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール類の分解方法およびポリビニルアルコール分解能を有する微生物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20221004BHJP
C12N 9/14 20060101ALI20221004BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20221004BHJP
C12R 1/01 20060101ALN20221004BHJP
C12R 1/63 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
C12N1/20 F ZNA
C12N1/20 A
C12N9/14
C12N15/09 Z
C12R1:01
C12R1:63
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054769
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 悟史
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆利
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭士
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 健一
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC01
4B050CC03
4B050DD02
4B050KK16
4B050LL05
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA55X
4B065AA55Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA27
4B065CA54
4B065CA55
4B065CA56
(57)【要約】
【課題】海洋性のポリビニルアルコール分解微生物を用いた、ポリビニルアルコール類の分解のための技術の提供。
【解決手段】レイシンゲラ属(Leisingera)に属し、配列番号1の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物、セルロファガ属(Cellulophaga)に属し、配列番号2の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物、およびビブリオ属(Vibrio)に属し、配列番号3の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物、から選択される一以上の微生物および/またはその菌体処理物と、ポリビニルアルコール類と、を接触させる工程を含む、ポリビニルアルコール類の分解方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レイシンゲラ属(Leisingera)に属し、配列番号1の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物、
セルロファガ属(Cellulophaga)に属し、配列番号2の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物、および
ビブリオ属(Vibrio)に属し、配列番号3の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物、
から選択される一以上の微生物および/またはその菌体処理物と、ポリビニルアルコール類と、を接触させる工程を含む、ポリビニルアルコール類の分解方法。
【請求項2】
レイシンゲラ属(Leisingera)に属する前記微生物が、レイシンゲラ・カエルレア(Leisingera caerulea)に属し、
セルロファガ属(Cellulophaga)に属する前記微生物が、セルロファガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)に属し、
ビブリオ属(Vibrio)に属する前記微生物が、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)に属する、請求項1に記載の分解方法。
【請求項3】
レイシンゲラ・カエルレア(Leisingera caerulea)に属する前記微生物が、レイシンゲラ・カエルレア(Leisingera caerulea)PA2株であり、
セルロファガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)に属する前記微生物が、セルロファガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)PA0株であり、
ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)に属する前記微生物が、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)SSW-PVOH1株である、請求項2に記載の分解方法。
【請求項4】
前記工程が、海水中で行われる、請求項1-3のいずれか一項に記載の分解方法。
【請求項5】
レイシンゲラ・カエルレア(Leisingera caerulea)PA2株(受領番号:NITE ABP-03432)。
【請求項6】
セルロファガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)PA0株(受領番号:NITE ABP-03433)。
【請求項7】
ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)SSW-PVOH1株(受領番号:NITE ABP-03434)。
【請求項8】
請求項5-7のいずれか一項に記載の微生物の培養上清または菌体処理物。
【請求項9】
請求項5-7のいずれか一項に記載の微生物由来のポリビニルアルコール分解酵素。
【請求項10】
請求項8に記載の培養上清または菌体処理物および/または請求項9に記載の酵素と、ポリビニルアルコール類と、を含有する樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール類の分解方法、ポリビニルアルコール分解能を有する微生物、および、該微生物の培養上清および菌体処理物、該微生物由来のポリビニルアルコール分解酵素、これらを含有する樹脂組成物に関する。より詳しくは、海洋性のポリビニルアルコール分解微生物を用いたポリビニルアルコール類の分解方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロプラスチックによる海洋汚染の懸念をうけ、プラスチック廃棄物による環境汚染問題への取り組みの重要性が改めて高まっており、プラスチック廃棄物の分解、再資源化のための技術の開発が望まれている。
【0003】
本発明に関連して、例えば、特許文献1では、ミクロバクテリウム属細菌をポリビニルアルコールに接触させることを含む、ポリビニルアルコールの分解方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、海洋性のポリビニルアルコール分解微生物を用いた、ポリビニルアルコール類の分解のための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]-[16]を提供する。
[1] レイシンゲラ属(Leisingera)に属し、配列番号1の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物、
セルロファガ属(Cellulophaga)に属し、配列番号2の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物、および
ビブリオ属(Vibrio)に属し、配列番号3の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物、
から選択される一以上の微生物および/またはその菌体処理物と、ポリビニルアルコール類と、を接触させる工程を含む、ポリビニルアルコール類の分解方法。
[2] レイシンゲラ属(Leisingera)に属する前記微生物が、レイシンゲラ・カエルレア(Leisingera caerulea)に属し、
セルロファガ属(Cellulophaga)に属する前記微生物が、セルロファガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)に属し、
ビブリオ属(Vibrio)に属する前記微生物が、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)に属する、[1]の分解方法。
[3] レイシンゲラ・カエルレア(Leisingera caerulea)に属する前記微生物が、レイシンゲラ・カエルレア(Leisingera caerulea)PA2株であり、
セルロファガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)に属する前記微生物が、セルロファガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)PA0株であり、
ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)に属する前記微生物が、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)SSW-PVOH1株である、[2]の分解方法。
[4] 前記工程が、海水中で行われる、[1]-[3]のいずれかの分解方法。
[5] 前記工程が、3重量%以上のNaCl存在下で行われる、[1]-[3]のいずれかの分解方法。
【0007】
[6] レイシンゲラ・カエルレア(Leisingera caerulea)PA2株(受領番号:NITE ABP-03432)。
[7] レイシンゲラ属(Leisingera)、好ましくはレイシンゲラ・カエルレア(Leisingera caerulea)に属し、配列番号1の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物。
[8] セルロファガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)PA0株(受領番号:NITE ABP-03433)。
[9] セルロファガ属(Cellulophaga)、好ましくはセルロファガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)に属し、配列番号2の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物。
[10] ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)SSW-PVOH1株(受領番号:NITE ABP-03434)。
[11] ビブリオ属(Vibrio)に属し、好ましくはビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)に属し、配列番号3の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物。
[12] [6]-[11]のいずれかの微生物の培養上清または菌体処理物。
[13] [6]-[11]のいずれかの微生物由来のポリビニルアルコール分解酵素。
[14] [13]の酵素をコードする核酸、該核酸を含む発現ベクター又は該酵素を発現する組換え微生物。
[15] [12]の培養上清または菌体処理物および/または[13]の酵素と、ポリビニルアルコール類と、を含有する樹脂組成物。
【0008】
[16] レイシンゲラ属(Leisingera)に属し、配列番号1の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物、
セルロファガ属(Cellulophaga)に属し、配列番号2の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有し、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物、および
ビブリオ属(Vibrio)に属し、配列番号3の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子をし、かつ、ポリビニルアルコールの分解能を有する微生物、
から選択される一以上の微生物および/またはその菌体処理物と、ポリビニルアルコール類と、を接触させる工程を含む、ポリビニルアルコール類分解物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、海洋性のポリビニルアルコール分解微生物を用いた、ポリビニルアルコール類の分解のための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】PVOH分解微生物のPVOH分解活性を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0012】
[ポリビニルアルコール類]
本発明におけるポリビニルアルコール(PVOH)類は、ビニルエステル系単量体の重合によって得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化することにより得られるもので、ビニルアルコール単位を主構成単位とし、そのケン化度に応じて酢酸ビニル等のビニルエステル単位を有するものである。
【0013】
本発明におけるPVOH類は、このようなビニルアルコール単位とビニルエステル単位のみからなる未変性PVOHに加えて、各種変性基を有するPVOH系樹脂であってもよい。変性基を有するPVOH系樹脂としては、ビニルエステル系樹脂の製造時に各種単量体を共重合させ、これをケン化して得られた変性PVOH系樹脂や、未変性PVOHに後変性によって各種官能基を導入した変性PVOH系樹脂が挙げられる。
【0014】
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニルおよびステアリン酸ビニル等が挙げられる。これらは単独でまたは2以上を組み合わせて用いられ得る。ビニルエステル系単量体は、酢酸ビニルが好ましい。
【0015】
ビニルエステル系単量体との共重合に用いられる単量体としては、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート、等が挙げられる。
【0016】
後変性によって官能基が導入された変性PVOH系樹脂としては、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するもの、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するもの、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基が有するもの、あるいは各種官能基を有するアルデヒド化合物をPVOHとアセタール化反応させて得られたものなどを挙げることができる。
【0017】
重合(あるいは共重合)方法は、特に制限はなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の公知の重合方法が任意に用いられるが、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合が好ましい。
【0018】
重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒を用いて行われる。
【0019】
ポリビニルエステル系樹脂のケン化は、該樹脂をアルコールまたはアルコール/脂肪酸エステル系混合溶媒に溶解してアルカリ触媒の存在下に行なわれる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール等があげられる。脂肪酸エステル系溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等をあげることができる。溶媒には、他にベンゼンやヘキサン等を併用してもよい。
【0020】
ケン化触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラート等のアルカリ触媒を用いることができる。塩酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸等の酸触媒によりケン化することも可能である。
【0021】
本発明におけるPVOH類の形態は、特に限定されず、粉末、フィルム、ペレットなどであってよい。
【0022】
[ポリビニルアルコール分解微生物]
本発明に係るポリビニルアルコール分解微生物(PVOH分解微生物)は、海洋に由来するものであって、以下のいずれかの株であることが好ましい。
(1)レイシンゲラ・カエルレア(Leisingera caerulea)PA2株。
(2)セルロファガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)PA0株。
(3)ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)SSW-PVOH1株。
(4)ハイフォモナス・ジャンナサイアナ(Hyphomonas jannaschiana)MK PVOH-1株。
(5)アルテロモナス・マクレオデイ(Alteromonas macleodii)WSW-PVOH1株。
【0023】
上記株(1)-(3)は、特許法施行規則第27条の2及び3の規定に基づく寄託機関であり、微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づく国際寄託当局である、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に国際寄託されている。上記株(1)-(3)の受領番号はそれぞれNITE ABP-03432、NITE ABP-03433、NITE ABP-03434であり、受領日はいずれも2021年3月12日である。
【0024】
また、PVOH分解微生物は、上記株(1)-(5)と同一種に属する近縁株であってよい。近縁株として以下のいずれかの微生物が挙げられる。
(1-1)レイシンゲラ・カエルレア(Leisingera caerulea)に属する株。
(2-1)セルロファガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)に属する株。
(3-1)ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)に属する株。
(4-1)ハイフォモナス・ジャンナサイアナ(Hyphomonas jannaschiana)に属する株。
(5-1)アルテロモナス・マクレオデイ(Alteromonas macleodii)に属する株
このような近縁株にも上記(1)-(5)の株と同様のポリビニルアルコール分解活性が期待できる。
【0025】
さらに、PVOH分解微生物は、上記株(1)-(5)と同一属に属する近縁種であってよい。近縁種として以下のいずれかの微生物が挙げられる。
(1-2)レイシンゲラ属(Leisingera)、好ましくはレイシンゲラ・カエルレア(Leisingera caerulea)に属し、配列番号1の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有する微生物。
(2-2)セルロファガ属(Cellulophaga)、好ましくはセルロファガ・ライティカ(Cellulophaga lytica)に属し、配列番号2の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有する微生物。
(3-2)ビブリオ属(Vibrio)、好ましくはビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)に属し、配列番号3の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有する微生物。
(4-2)ハイフォモナス属(Hyphomonas)、好ましくはハイフォモナス・ジャンナスシアナ(Hyphomonas jannaschiana)に属し、配列番号4の塩基配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有する微生物。
(5-2)アルテロモナス属(Alteromonas)、好ましくはアルテロモナス・マクレオデイ(Alteromonas macleodii)に属し、 Alteromonas macleodii WSW-PVOH1株が有する16S rRNA遺伝子配列と80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有する微生物。
このような近縁種にも上記(1)-(5)の株と同様のポリビニルアルコール分解活性が期待できる。
ポリビニルアルコール分解活性の保持の観点で、上記(1-2)-(5-2)の微生物は、それぞれ配列番号1-4の塩基配列に対しておよびAlteromonas macleodii WSW-PVOH1株が有する16S rRNA遺伝子の塩基配列に対して、85%以上、90%以上、好ましくは95%以上、98%以上、より好ましくは99%以上、99.5%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有する。
本発明に適したPVOH分解微生物は、上述の分類学上の属または種に属する微生物の中から、16S rRNA遺伝子の塩基配列の配列同一性に基づいて候補微生物を選択し、当該候補微生物のPVOH分解能を評価することによって取得できる。
【0026】
rRNA遺伝子の解析および同定方法は、例えば、「遺伝子解析法 16SrRNA遺伝子の塩基配列決定法(日本放線菌学会編 放線菌の分類と同定、pp88-117 2001)」、「Bulletin of Japanese Society of Microbial Ecology Vol.10、 31-42、1995」および「第16改正日本薬局方;遺伝子解析による微生物の迅速同定法」等を参照することができる。
【0027】
PVOH分解能の評価は、例えば、生物学的酸素要求量(BOD)の測定、PVOH単一炭素源培地での生育度確認、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布確認、ヨウ素による呈色の観察などによって行うことができる。
【0028】
[菌体処理物・培養上清]
上述したPVOH分解微生物は、培養液をそのまま用いるか、または、該培養液から遠心分離等の集菌操作によって得られる、菌体またはその処理物あるいは培養上清を用いることもできる。
菌体処理物としては、アセトンおよびトルエン等で処理した菌体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、無細胞抽出物、およびこれらから酵素を抽出した粗酵素または精製酵素等が挙げられる。菌体処理物は、特に酵素(PVOH分解酵素)が好ましい。
【0029】
[組換え微生物]
PVOH分解酵素は、上述した微生物から単離・精製してもよく、従来公知の分子生物学的手法を用いて組換え微生物により発現させ、精製することもできる。
組換え微生物の作製は、PVOH分解酵素をコードする核酸を一般的な宿主ベクター系に導入し、該ベクター系で微生物を形質転換することより行われる。宿主としては、上述した海洋微生物に加えて、細菌では大腸菌、Rhodococcus属、Pseudomonas属、Corynebacterium属、Bacillus属、Streptococcus属、Streptomyces属などが挙げられ、酵母ではSaccharomyces属、Candida属、Shizosaccharomyces属、Pichia属、糸状菌ではAspergillus属などが挙げられる。これらの中で、特に大腸菌を用いることが簡便であり、効率もよく好ましい。
【0030】
[ポリビニルアルコール類の分解方法]
PVOH分解微生物、その組換え微生物、またはそれらの菌体処理物とポリビニルアルコール類とを接触させることにより、ポリビニルアルコール類を分解させることができる。
ポリビニルアルコール類の分解は、例えば、生物学的酸素要求量(BOD)の測定、PVOH単一炭素源培地での生育度確認、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布確認、ヨウ素による呈色の観察などにより確認できる。
【0031】
PVOH分解微生物、その組換え微生物、またはそれらの菌体処理物とポリビニルアルコール類とを接触させる工程は、適当な溶媒中で行えばよい。溶媒には、通常、緩衝液等の水性溶媒が用いられる。
本発明に係るPVOH分解微生物は海洋由来であり高塩濃度下でも加水分解活性を示すため、高塩濃度(例えば3重量%以上のNaCl濃度)の溶媒中でも酵素反応を行うことができる。したがって、溶媒として安価、容易かつ大量に使用可能な海水を溶媒に利用でき、水資源の有効利用にも資する。
【0032】
酵素反応の時間や温度、pH、酵素の添加量は、特に制限されず、適宜調整され得る。反応温度及び時間は、通常10-60℃で1時間~1週間とされ、好ましくは20-50℃で1日以上であり、より好ましくは30-40℃で3日以上である。
酵素反応のpH条件も、例えばpH4~10の範囲、好ましくはpH5.0~9.0である。
酵素の添加量は、ポリビニルアルコール類に対して例えば0.001-20%(w/w)、好ましくは0.01-10%(w/w)、より好ましくは0.1-5%(w/w)である。
【0033】
生成するポリビニルアルコール類の分解物は、ポリビニルアルコール類の再合成のために回収し利用してもよい。
ポリビニルアルコール類の分解物は、ポリビニルアルコール類の種類に応じて定まるが、例えば、末端カルボキシル基あるいはケトン基を有するビニルアルコールオリゴマー、およびそれらの酢酸エステル体であってよい。
【0034】
[樹脂組成物]
本発明に係るPVOH分解微生物の培養上清または菌体処理物とポリビニルアルコール類とを含有する樹脂組成物は、優れた生分解性を示す。本発明に係る樹脂組成物は、通常、海水中、淡水中、汽水中、土壌中又はコンポスト中の少なくとも何れかの環境で生分解される。また、特に、海水中では微生物量が少ないため、海水中で生分解性が高いこと(海洋生分解性樹脂組成物)が好ましい。本発明に係る樹脂組成物は、例えば海洋中に投棄された場合にも、酵素が高塩濃度下でも加水分解活性を示すことにより海水中で分解されることが期待できる。
【0035】
本発明に係る樹脂組成物において、ポリビニルアルコール類は、1種類を単独で用いても、2種類以上の樹脂を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
【0036】
樹脂組成物中におけるポリビニルアルコール類に対するPVOH分解微生物の培養上清または菌体処理物の配合量は、特に限定されないが、例えば0.001-20%(w/w)、好ましくは0.01-10%(w/w)、より好ましくは0.1-5%(w/w)である。
【0037】
PVOH分解微生物の培養上清または菌体処理物は、そのまま、あるいは水溶解性のカプセル中に充填された状態、またはマイクロスフィア等の担体に固定化された状態で樹脂組成物中に配合され得る。
【実施例0038】
[実施例1:海洋からのPVOH分解微生物の分離]
1g/L NH4Cl、1 g/L K2HPO4、1 g/L Yeast Extract、3 g/L PVOHを1Lの人工海水に溶解し、PVOH培地1を調製した。限外ろ過膜(Q2000 150E、分画分子量200,000Da)を用いて体積比1/100まで濃縮した海水1 mLを、30 mLのPVOH培地1に接種し、一次培養を開始した。培養は30℃、1週間振とう培養を行った。
1g/L NH4Cl、0.05 g/L K2HPO4、0.1 g/L Yeast Extract、10 g/L PVOH を1Lの人工海水に溶解し、PVOH培地2を調製した。一次培養液1 mLを、30 mLのPVOH培地2に接種し、二次培養を開始した。培養は30℃、3週間振とう培養を行った。
一次培養液および二次培養液をそれぞれ40 μLずつ採取し、PVOH単一炭素源寒天培地に画線し、30℃で培養した。寒天培地は、0.1% NH4Cl、0.05 g/L K2HPO4、10 g/L PVOH、15 g/L Agaroseを人工海水に溶解し調製した。出現したコロニーを新しい寒天培地上に画線し、さらに30℃で培養し、菌1および菌2を単離した。
【0039】
4.6 g/L KH2PO4、11.8 g/L Na2HPO4・12H2O、0.5 g/L MgSO4・7H2O、1.0 g/L NH4Cl、0.1 g/L FeCl3・6H2O、30 g/L NaClを1Lの水に溶解し、培地を調製した。培地に等量の海水を加え、さらに終濃度2 g/LのPVOHを添加して、30℃、1週間振とう培養を行った。培養液を1 mLを、同培地に接種し、再度培養を行った。この操作をさらにもう一度繰り返した。
10倍~100倍に希釈した培養液を寒天培地に塗布し、30℃で培養して菌3を単離した。寒天培地は、同培地に15 g/LのAgaroseを溶解し調製した。
【0040】
単離した菌1-3からゲノムDNAを抽出し、16SrRNA領域の塩基配列を決定した。得られた配列情報から菌1としてLeisingera caerulea PA2株、菌2としてCellulophaga lytica PA0株、菌3としてVibrio alginolyticus SSW-PVOH1株を同定した。
【0041】
[実施例2:PVOH分解能の評価]
生物学的酸素要求量(BOD)を指標として菌1-3のPVOH分解活性を測定した。
BODの測定には、セントラル科学株式会社製BOD測定器Oxitopを用いた。BOD試験系は以下の手順で準備した。
11 μmフィルターでろ過した海水に0.1 g/L KH2PO4、0.5 g/L NH4Clおよび0.3 g/L PVOHを添加し、撹拌し、100 mLずつOxitopボトルに分注した。
【0042】
分解菌の培養は以下の手順で行った。
1g/L NH4Cl、0.05 g/L K2HPO4および1 g/L PVOHを1Lの人工海水に溶解し、等量のDifco Marine Broth 2216培地と混合して培地を調製した。菌1-3をそれぞれ1白金耳培地に接種し30℃で3日間培養した。培養液を遠心分離し、菌体を回収した。回収した菌体を人工海水に懸濁し、再度遠心分離して菌体を回収した。
【0043】
菌体を1 mLの人工海水に懸濁し、BOD試験系に接種した。その際、比較例として、菌体を接種しない対象区を用意した。反応容器にNaOHのリザーバーおよびOxitopセンサーを取り付け、30℃でBODの測定を行った。
【0044】
BODを指標としたPVOHの生分解度の測定結果を
図1に示す。菌1-3についてPVOHの生分解能が確認できた。