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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152138
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ガラス積層体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/25 20060101AFI20221004BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20221004BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20221004BHJP
   B32B 5/16 20060101ALI20221004BHJP
   B32B 5/14 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C03C17/25 A
B32B17/06
B32B7/023
B32B5/16
B32B5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054796
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 友哉
(72)【発明者】
【氏名】森田 晋平
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
【Fターム(参考)】
4F100AA01
4F100AA01B
4F100AA20
4F100AA20B
4F100AA28
4F100AA28B
4F100AG00
4F100AG00A
4F100AH06
4F100AH06B
4F100AR00
4F100AR00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA07
4F100CA07B
4F100DE01
4F100DE01B
4F100GB32
4F100JA13
4F100JA13B
4F100JD09
4F100JD09B
4F100JD10
4F100JD10B
4G059AA01
4G059AC07
4G059AC18
4G059EA05
4G059EA18
4G059EB05
(57)【要約】
【課題】紫外線および赤外線を良好に遮蔽でき、耐候性・耐光性が向上され、使用時の可視光線透過率の低下を抑制できるガラス積層体の提供。
【解決手段】ガラス板(10)の表面(10S)上に、シリカと紫外線遮蔽剤と赤外線遮蔽粒子(20P)とを含む紫外線赤外線遮蔽膜(20)が形成され、平面視にて、紫外線赤外線遮蔽膜(20)の、ガラス板の上端辺から5cm以内に位置する上端部の少なくとも一部の領域において、紫外線赤外線遮蔽膜を膜表面から深さ方向に見たとき、膜表面と膜表面から50%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子に含まれる任意に選択された1種以上の金属元素の濃度が55atomic%以上であり、膜表面と膜表面から10%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子に含まれる前記1種以上の金属元素の濃度が12~20atomic%である、ガラス積層体(1)。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の表面上に、シリカと、紫外線遮蔽剤と、金属化合物を含む赤外線遮蔽粒子とを含む紫外線赤外線遮蔽膜が形成されたガラス積層体であって、
平面視にて、前記紫外線赤外線遮蔽膜の、前記ガラス板の上端辺から5cm以内に位置する上端部の少なくとも一部の領域において、
前記紫外線赤外線遮蔽膜中に存在するすべての前記赤外線遮蔽粒子に含まれる任意に選択された1種以上の金属元素の濃度を100atomic%とし、前記紫外線赤外線遮蔽膜の厚さを100%とし、前記紫外線赤外線遮蔽膜を膜表面から深さ方向に見たとき、
前記膜表面と前記膜表面から50%の深さとの間に存在する前記赤外線遮蔽粒子に含まれる前記1種以上の金属元素の濃度が55atomic%以上であり、
前記膜表面と前記膜表面から10%の深さとの間に存在する前記赤外線遮蔽粒子に含まれる前記1種以上の金属元素の濃度が12~20atomic%である、ガラス積層体。
【請求項2】
前記赤外線遮蔽粒子は、密度が5g/cm以上である、請求項1に記載のガラス積層体。
【請求項3】
前記赤外線遮蔽粒子は、密度が5~10g/cmである、請求項2に記載のガラス積層体。
【請求項4】
前記赤外線遮蔽粒子は、平均一次粒子径が10~150nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス積層体。
【請求項5】
前記赤外線遮蔽粒子は、インジウム錫酸化物、アンチモンドープ酸化錫、セシウムドープ酸化タングステン、フッ素ドープ酸化錫、六ホウ化ランタン、および五酸化バナジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属化合物を含む金属化合物粒子である、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス積層体。
【請求項6】
前記赤外線遮蔽粒子は、セシウムドープ酸化タングステンおよび六ホウ化ランタンからなる群より選ばれる1種以上の金属化合物を含む金属化合物粒子である、請求項5に記載のガラス積層体。
【請求項7】
前記紫外線遮蔽剤は、密度が2.5g/cm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス積層体。
【請求項8】
前記紫外線遮蔽剤は、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾジチオール系紫外線吸収剤、アゾメチン系紫外線吸収剤、インドール系紫外線吸収剤、およびトリアジン系紫外線吸収剤からなる群より選ばれる1種以上の紫外線吸収剤である、請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス積層体。
【請求項9】
硬化性シランと前記紫外線遮蔽剤と前記赤外線遮蔽粒子とを含む液状組成物を用意する工程(S1)と、
前記ガラス板の温度をT[℃]とし、前記液状組成物の温度をT[℃]としたとき、T>Tとなるよう、前記ガラス板および/または前記液状組成物の温度を調整する工程(S2)と、
前記ガラス板の表面上に、前記ガラス板より低い温度の前記液状組成物を塗工し塗工膜を形成して、塗工膜付きガラス板を得る工程(S3)と、
前記塗工膜側が下側になるように、前記塗工膜付きガラス板を略水平に配置する工程(S4)と、
前記塗工膜付きガラス板を加熱し、前記塗工膜を硬化する工程(S5)とを有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項10】
工程(S2)において、T≧T+5となるよう、前記ガラス板および/または前記液状組成物の温度を調整する、請求項9に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項11】
工程(S4)において、前記塗工膜の少なくとも前記ガラス板との界面近傍部分における平均一次粒子径の前記赤外線遮蔽粒子の沈降深さが0.1~0.4μmである、請求項9または10に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項12】
工程(S4)において、前記塗工膜の少なくとも前記ガラス板との界面近傍部分における平均一次粒子径の前記赤外線遮蔽粒子の沈降速度が1~50nm/sである、請求項9~11のいずれか1項に記載のガラス積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス積層体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両等の用途では、ガラス板の表面に、可視光線の透過率は高く、紫外線および赤外線の透過率は低い紫外線赤外線遮蔽膜を形成したガラス積層体が知られている。
紫外線赤外線遮蔽膜は例えば、紫外線吸収剤等の紫外線遮蔽剤および赤外線吸収剤等の赤外線遮蔽剤を含む膜である。
例えば、特許文献1には、ガラス板と、その表面上に形成された紫外線遮蔽膜とを備える紫外線遮蔽ガラスが開示されている(請求項1)。紫外線遮蔽膜形成用の組成物は、紫外線吸収剤および硬化性シランを含み、さらに好ましくはITO(インジウム錫酸化物)等の赤外線吸収剤および溶媒を含む(段落0035、0041、0047)。紫外線遮蔽膜は、ガラス板上に上記組成物を塗布し、乾燥し、硬化することで、形成できる(段落0042)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/141601号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような用途では、一般的に、ガラス板の内面側(乗員等がいる側)に紫外線赤外線遮蔽膜が形成される。太陽光はガラス板の外面に入射し、ガラス板を透過した光がガラス板の内面上に形成された紫外線赤外線遮蔽膜に入射する。
本発明者らの研究により、紫外線赤外線遮蔽膜を有するガラス積層体では、耐候性・耐光性試験において、赤外線遮蔽剤が劣化して可視光線透過率が低下する場合があることが分かった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、紫外線および赤外線を良好に遮蔽でき、耐候性・耐光性が向上され、使用時の可視光線透過率の低下を抑制できるガラス積層体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のガラス積層体とその製造方法を提供する。
[1] ガラス板の表面上に、シリカと、紫外線遮蔽剤と、金属化合物を含む赤外線遮蔽粒子とを含む紫外線赤外線遮蔽膜が形成されたガラス積層体であって、
平面視にて、前記紫外線赤外線遮蔽膜の、前記ガラス板の上端辺から5cm以内に位置する上端部の少なくとも一部の領域において、
前記紫外線赤外線遮蔽膜中に存在するすべての前記赤外線遮蔽粒子に含まれる任意に選択された1種以上の金属元素の濃度を100atomic%とし、前記紫外線赤外線遮蔽膜の厚さを100%とし、前記紫外線赤外線遮蔽膜を膜表面から深さ方向に見たとき、
前記膜表面と前記膜表面から50%の深さとの間に存在する前記赤外線遮蔽粒子に含まれる前記1種以上の金属元素の濃度が55atomic%以上であり、
前記膜表面と前記膜表面から10%の深さとの間に存在する前記赤外線遮蔽粒子に含まれる前記1種以上の金属元素の濃度が12~20atomic%である、ガラス積層体。
【0007】
[2] 硬化性シランと前記紫外線遮蔽剤と前記赤外線遮蔽粒子とを含む液状組成物を用意する工程(S1)と、
前記ガラス板の温度をT[℃]とし、前記液状組成物の温度をT[℃]としたとき、T>Tとなるよう、前記ガラス板および/または前記液状組成物の温度を調整する工程(S2)と、
前記ガラス板の表面上に、前記ガラス板より低い温度の前記液状組成物を塗工し塗工膜を形成して、塗工膜付きガラス板を得る工程(S3)と、
前記塗工膜側が下側になるように、前記塗工膜付きガラス板を略水平に配置する工程(S4)と、
前記塗工膜付きガラス板を加熱し、前記塗工膜を硬化する工程(S5)とを有する、[1]のガラス積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガラス積層体では、紫外線赤外線遮蔽膜において赤外線遮蔽粒子が膜表面側に偏って分布している。本発明のガラス積層体では、比較的強い紫外線照射を受ける赤外線遮蔽粒子の数が相対的に少ないため、紫外線照射による赤外線遮蔽粒子の劣化とこれによる紫外線赤外線遮蔽膜の可視光線透過率の低下を効果的に抑制できる。本発明によれば、耐候性・耐光性が向上され、使用時の可視光線透過率の低下が抑制されたガラス積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る一実施形態のガラス積層体の模式平面図の一例である。
図2】本発明に係る一実施形態のガラス積層体の模式断面図である。
図3図2の部分拡大模式断面図である。
図4】比較用のガラス積層体(左図)と本発明のガラス積層体(右図)との対比を示す部分拡大模式断面図である。
図5A】本発明に係る一実施形態のガラス積層体の製造方法の工程(S3)を示す模式断面図である。
図5B】本発明に係る一実施形態のガラス積層体の製造方法の工程(S4)を示す模式断面図である。
図5C】本発明に係る一実施形態のガラス積層体の製造方法の工程(S4)を示す模式断面図である。
図6A】例1で得られた紫外線赤外線遮蔽膜のXPSスペクトルである。
図6B】例2で得られた紫外線赤外線遮蔽膜のXPSスペクトルである。
図6C】例13で得られた紫外線赤外線遮蔽膜のXPSスペクトルである。
図7A】例1で得られたガラス積層体のSEM断面写真の例である。
図7B図7Aのトリミング処理および二値化処理後の画像である。
図8A】例2で得られたガラス積層体のSEM断面写真の例である。
図8B図8Aのトリミング処理および二値化処理後の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一般的に、薄膜構造体は、厚さに応じて、「フィルム」および「シート」等と称される。本明細書では、これらを明確には区別しない。したがって、本明細書で言う「フィルム」に「シート」が含まれる場合がある。
本明細書において、特に明記しない限り、「上下」は、ガラス積層体が車両等に嵌め込まれた状態(実際の使用状態)での「上下」である。
本明細書において、特に明記しない限り、紫外線は300~380nmの波長域の光であり、赤外線は780~2500nmの波長域の光であり、可視光線は380~780nmの波長域の光である。
本明細書において、特に明記しない限り、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
[ガラス積層体]
図面を参照して、本発明に係る一実施形態のガラス積層体の構造について、説明する。
図1は、本実施形態のガラス積層体の模式平面図の一例である。図2は、本実施形態のガラス積層体の模式断面図である。図3は、図2の部分拡大模式断面図である。
図2に示すように、本実施形態のガラス積層体1は、ガラス板10の一方の表面10S上に、シリカと、紫外線遮蔽剤と、金属化合物を含む赤外線遮蔽粒子とを含む紫外線赤外線遮蔽膜20が形成された積層体である。
ガラス板10の表面10Sは、ガラス板10の紫外線赤外線遮蔽膜20側の表面であり、ガラス板10と紫外線赤外線遮蔽膜20との界面とも言う。
【0012】
本実施形態のガラス積層体1は例えば、自動車等の車両用のガラス(例えば、フロントガラス、サイドガラスおよびリアガラス)に好ましく適用できる。
車両等の用途では、紫外線赤外線遮蔽膜20は、ガラス板10の内面側(乗員等がいる側、通常凹面側)に形成される。
紫外線赤外線遮蔽膜20は、ガラス板10の一方の表面10Sの全面に形成されていてもよいし、ガラス板10の一方の表面10Sの周縁部(例えば、端辺から30mm以内の領域)の少なくとも一部を除く略全面に形成されていてもよい。紫外線赤外線遮蔽膜20は、少なくとも使用状態(例えば車両等に嵌め込まれた状態)で視認される領域に形成されていればよく、使用状態で視認されない周縁部には形成されていなくてもよい。
【0013】
図1は、本実施形態のガラス積層体1の模式平面図の一例である。この例では、ガラス積層体1は、自動車の運転手席または助手席の横にあるサイドガラスである。
図示例では、ガラス板10は、上辺11、下辺12、前方側辺13および後方側辺14の4辺からなる外周を有し、下辺12は凹凸を有している。
図示例では、紫外線赤外線遮蔽膜20は、上辺21、下辺22、前方側辺23および後方側辺24の4辺からなる外周を有する。視認しやすくするため、紫外線赤外線遮蔽膜20の外周のうち、ガラス板10の外周と一致していない部分は、二点鎖線で示してある。
図示例では、紫外線赤外線遮蔽膜20の上辺21は、ガラス板10の上辺11より15mm程度内側に位置し、紫外線赤外線遮蔽膜20の前方側辺23はガラス板10の前方側辺13に一致し、紫外線赤外線遮蔽膜20の後方側辺24はガラス板10の後方側辺14に一致している。
ガラス板10の平面形状および紫外線赤外線遮蔽膜20の形成領域は、取り付けられる車両等の形態に応じて、適宜設計できる。
【0014】
(ガラス板)
ガラス板10としては、強化ガラス、複数のガラス板を中間膜を介して貼り合わせた合わせガラス、および有機ガラスが挙げられ、車両等の用途では、強化ガラスまたは合わせガラスが好ましい。図1および図2では、ガラス板10は平坦に図示してあるが、車両等の用途では、ガラス板10は、曲面を有する形状に加工されている。
強化ガラスおよび合わせガラスの材料であるガラス板の種類としては特に制限されず、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、リチウムシリケートガラス、石英ガラス、サファイアガラス、および無アルカリガラス等が挙げられる。
強化ガラスは、上記のようなガラス板に対して、イオン交換法および風冷強化法等の公知方法にて強化加工を施したものである。強化ガラスとしては、風冷強化ガラスが好ましい。
強化ガラスの厚さは特に制限されず、用途に応じて設計される。車両のフロントガラス、サイドガラスおよびリアガラス等の用途では、好ましくは2~6mmである。
合わせガラスの厚さは特に制限されず、用途に応じて設計される。車両のフロントガラス、サイドガラスおよびリアガラス等の用途では、好ましくは2~6mmである。
【0015】
合わせガラスの中間膜は、樹脂膜からなる。その構成樹脂としては、複数のガラス板を良好に接着できる樹脂であれば特に制限されない。中間膜は例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリウレタン(PU)、およびアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含むことが好ましい。
中間膜は必要に応じて、樹脂以外の1種以上の添加剤を含んでいてもよい。
中間膜の材料としては、上記例示の樹脂を含む樹脂フィルムが好ましい。
【0016】
強化ガラスおよび合わせガラスは、表面の少なくとも一部の領域に、撥水、低反射性、低放射性および着色等の機能を有する被膜を有していてもよい。
合わせガラスは、内部の少なくとも一部の領域に、低反射性、低放射性および着色等の機能を有する膜を有していてもよい。合わせガラスの中間膜の少なくとも一部の領域が、着色等の機能を有していてもよい。合わせガラスの中間膜は、単層膜でも積層膜でもよい。
【0017】
有機ガラスの材料としては、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチック;ポリエチレンテレフタレート(PET):ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリスチレン(PS);これらの組合せ等が挙げられ、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチックが好ましい。
【0018】
(紫外線赤外線遮蔽膜)
図3に示すように、紫外線赤外線遮蔽膜20は、シリカと、紫外線遮蔽剤と、金属化合物を含む赤外線遮蔽粒子20Pとを含む。紫外線赤外線遮蔽膜20は、紫外線遮蔽剤と赤外線遮蔽粒子20Pとを含むため、紫外線と赤外線を良好に遮蔽できる。
紫外線遮蔽剤としては公知のものを用いることができ、紫外線吸収タイプでも紫外線反射タイプでもよい。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾジチオール系紫外線吸収剤、アゾメチン系紫外線吸収剤、インドール系紫外線吸収剤、およびトリアジン系紫外線吸収剤からなる群より選ばれる1種以上の紫外線吸収剤が好ましい。
【0019】
赤外線遮蔽粒子20Pとしては公知のものを用いることができ、赤外線吸収タイプでも赤外線反射タイプでもよい。インジウム錫酸化物(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、セシウムドープ酸化タングステン(CWO(登録商標))、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、六ホウ化ランタン(LaB)、および五酸化バナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属化合物を含む金属化合物粒子が好ましい。
【0020】
赤外線遮蔽粒子20Pとしては、セシウムドープ酸化タングステン(CWO(登録商標))および/または六ホウ化ランタン(LaB)を含む金属化合物粒子が特に好ましい。この金属化合物粒子を用いる場合、800~1500nmの波長の光に対する紫外線赤外線遮蔽膜の吸光度を、紫外線赤外線遮蔽膜1cm当たりに含まれる赤外線遮蔽粒子の質量で割った値を比較的大きくでき、例えば1.5以上にできる。この場合、紫外線赤外線遮蔽膜中の赤外線遮蔽粒子20Pの含有量を減らせる。この場合、塗工膜の熱膨張性が高まり、塗工膜中の対流が生じやすくなり、赤外線遮蔽粒子20Pをより効果的に膜表面側に偏って分布させることができる。
紫外線赤外線遮蔽膜20は必要に応じて、上記以外の1種以上の任意成分を含むことができる。
【0021】
紫外線赤外線遮蔽膜20は、硬化性シランと紫外線遮蔽剤と赤外線遮蔽粒子20Pとを含む液状組成物(LC)を用意し、この液状組成物(LC)をガラス板10の表面10S上に塗工し、加熱して塗工膜を硬化することで形成できる。
【0022】
硬化性シランとは、1個以上の水酸基または1個以上の加水分解性基が結合したケイ素原子を1個以上有するケイ素化合物を言う。加水分解性基は、加水分解により水酸基となり得る基であり、アルコキシ基、塩素原子、アシル基およびアシルオキシ基等が挙げられる。硬化性シランとしては、2個以上のアルコキシ基が結合したケイ素原子を有するアルコキシシランが好ましく、アルコキシ基としては炭素原子数1~4のアルコキシ基が好ましい。
【0023】
硬化性シランとしては、テトラアルコキシシランおよびビスアルコキシシラン等が好ましい。テトラアルコキシシランとしては、テトラエトキシシラン(TEOS)およびテトラメトキシシラン等が挙げられる。ビスアルコキシシランとしては、下式(1)で表される化合物が挙げられる。
3-nSi-Q-SiR 3-m・・・(1)
上記式中、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素原子数1~3の1価の炭化水素基である。XおよびXはそれぞれ独立に、アルコキシ基である。Qは、炭素原子数3~8の直鎖状または分岐鎖状の2価の炭化水素基である。nおよびmはそれぞれ独立に、0~2の整数である。
【0024】
硬化性シランを含む液状組成物(LC)を加熱すると、硬化性シランの加水分解および重縮合を経て、シリカが生成される。ただし、硬化反応の終了後に、紫外線赤外線遮蔽膜20中に、硬化性シランの部分加水分解縮合物等の中間生成物が多少残っていてもよい。
本明細書で言う「シリカ」は、特に明記しない限り、硬化性シランの反応生成物であり、硬化性シランの部分加水分解縮合物を含んでいてもよい。
【0025】
(赤外線遮蔽粒子と紫外線遮蔽剤の分布)
図3に示すように、本実施形態のガラス積層体1において、紫外線赤外線遮蔽膜20は、厚さ方向に見たとき、赤外線遮蔽粒子20Pの個数が分布を有する。
赤外線遮蔽粒子20Pに含まれる任意の1種以上の金属元素を選び、紫外線赤外線遮蔽膜20中に存在するすべての赤外線遮蔽粒子20Pに含まれる選択された1種以上の金属元素の濃度を100atomic%とする。また、紫外線赤外線遮蔽膜20の厚さを100%とする。
例えば、赤外線遮蔽粒子20Pがインジウム錫酸化物(ITO)粒子である場合、1種以上の金属元素として、インジウム(In)および/または錫(Sn)を選べる。
紫外線赤外線遮蔽膜20は、厚さ方向に見たとき、赤外線遮蔽粒子20Pに含まれる選択された1種以上の金属元素の濃度が分布を有する。
紫外線赤外線遮蔽膜20の深さ方向の赤外線遮蔽粒子20Pに含まれる1種以上の金属元素の濃度分布は、X線光電子分光法(XPS)により測定できる。
【0026】
本実施形態のガラス積層体1では、平面視にて、紫外線赤外線遮蔽膜20の、ガラス板10の上端辺から5cm以内に位置する上端部の少なくとも一部の領域において、
紫外線赤外線遮蔽膜20を膜表面20Sから深さ方向に見たとき、
膜表面20Sと膜表面20Sから50%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子20Pに含まれる選択された1種以上の金属元素の濃度が55atomic%以上であり、
膜表面20Sと膜表面20Sから10%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子20Pに含まれる選択された1種以上の金属元素の濃度が12~20atomic%である。
【0027】
膜表面20Sと膜表面20Sから50%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子20Pに含まれる選択された1種以上の金属元素の濃度は、好ましくは58atomic%以上、より好ましくは60atomic%以上である。上限値は、好ましくは80atomic%、より好ましくは75atomic%である。
膜表面20Sと膜表面20Sから10%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子20Pに含まれる選択された1種以上の金属元素の濃度は、好ましくは15~20atomic%、より好ましくは16~18atomic%である。
本明細書において、特に明記しない限り、2種以上の金属元素の濃度は、2種以上の金属元素の合計濃度である。
【0028】
図中、符号0.1tは膜表面20Sから10%の深さ、符号0.5tは膜表面20Sから50%の深さを示す。符号20Tは膜表面20Sと膜表面20Sから50%の深さとの間の範囲(図示上半分)、符号20Bは膜表面20Sから50%の深さとガラス板10の表面10Sとの間の範囲(図示下半分)を示す。
【0029】
本実施形態のガラス積層体1では、平面視にて、少なくとも、紫外線赤外線遮蔽膜20の、ガラス板10の上端辺から5cm以内に位置する上端部の少なくとも一部の領域において、厚さ方向に見たとき、図3に示すように、赤外線遮蔽粒子20Pが、膜表面20S側に偏って分布している。
なお、図3における粒子分布はイメージ図である。粒子形状および粒子サイズは任意であり、均一でも不均一でもよい。粒子の個数分布は、図示するものに制限されない。
【0030】
図4は、厚さ方向に見て、赤外線遮蔽粒子20Pが略均一に分布した比較用のガラス積層体101(左図)と赤外線遮蔽粒子20Pが膜表面20S側に偏って分布した本実施形態のガラス積層体1(右図)との対比を示す部分拡大模式断面図である。図中、白太矢印の太さは紫外線強度を模式的に示し、太い方が紫外線強度が高いことを示す。
【0031】
紫外線UVを含む太陽光が、ガラス板10の外面からガラス積層体101、1に入射する。ガラス板10に入射する時点の紫外線強度を「高強度」とする。ガラス板10に入射した紫外線UVはガラス板10を通る間に強度が低下し、紫外線赤外線遮蔽膜20に入射する時点の紫外線強度は「中強度」となる。膜表面20Sから50%の深さとガラス板10の表面10Sとの間の範囲20B(図示下半分)における紫外線強度は「中強度」となる。紫外線UVは、紫外線赤外線遮蔽膜20を通る間に、紫外線赤外線遮蔽膜20に含まれる紫外線遮蔽剤によって遮蔽(具体的には吸収または反射)される。膜表面20Sと膜表面20Sから50%の深さとの間の範囲20Tにおける紫外線強度は「低強度」となる。ここで言う、「高強度」、「中強度」、「低強度」は、相対的な強度の関係を表す。
【0032】
赤外線遮蔽粒子20Pが略均一に分布した比較用のガラス積層体101では、膜表面20Sから50%の深さとガラス板10の表面10Sとの間の範囲20B(図示下半分)に、略半数の赤外線遮蔽粒子20Pが存在する。この略半数の赤外線遮蔽粒子20Pが中強度の紫外線UVの照射を受ける。
赤外線遮蔽粒子20Pが膜表面20S側に偏って分布した本実施形態のガラス積層体1では、膜表面20Sから50%の深さとガラス板10の表面10Sとの間の範囲20B(図示下半分)に存在する赤外線遮蔽粒子20Pの数が相対的に少なく、中強度の紫外線UVの照射を受ける赤外線遮蔽粒子20Pの数が相対的に少ない。
【0033】
比較的強い強度(中強度から高強度)の紫外線照射を長時間受けた赤外線遮蔽粒子20Pは劣化する恐れがあり、劣化した赤外線遮蔽粒子20Pの数が多くなると、紫外線赤外線遮蔽膜20の可視光線透過率が低下する恐れがある。
赤外線遮蔽粒子20Pが膜表面20S側に偏って分布した本実施形態のガラス積層体1では、比較的強い強度(中強度から高強度)の紫外線UVの照射を受ける赤外線遮蔽粒子20Pの数が相対的に少ないため、紫外線照射による赤外線遮蔽粒子20Pの劣化とこれによる紫外線赤外線遮蔽膜20の可視光線透過率の低下を効果的に抑制できる。本実施形態によれば、耐候性・耐光性が向上され、使用時の可視光線透過率の低下が抑制されたガラス積層体1を提供できる。
【0034】
自動車等の車両用のサイドガラスの用途など、ガラス積層体が立てて使用されるものである場合、上辺およびその近傍部分に対して太陽光が相対的に多く照射する。
図1に示す模式平面図においては、符号UPで示す領域がガラス板10の上辺11から5cm以内に位置する上端部である。
平面視にて、ガラス板10の上辺11から5cm以内に位置する上端部UPの少なくとも一部の領域において、厚さ方向に上記のように赤外線遮蔽粒子20Pが分布することで、赤外線遮蔽粒子20Pの劣化およびこれによる紫外線赤外線遮蔽膜20の可視光線透過率の低下を効果的に抑制できる。
平面視にて、上端部UPにおいて、赤外線遮蔽粒子20Pの厚さ方向の濃度分布が上記規定を充足する領域の面積は大きい方が好ましい。
平面視にて、上端部UPの略全域において、赤外線遮蔽粒子20Pの厚さ方向の濃度分布が上記規定を充足することが好ましい。
【0035】
紫外線赤外線遮蔽膜20中、紫外線遮蔽剤は、厚さ方向に見て、略均一に分布していることが好ましい。紫外線遮蔽剤は、厚さ方向に見て、ガラス板10側に偏って分布していてもよい。
膜表面20Sから50%の深さとガラス板10の表面10Sとの間の範囲20B(図示下半分)に充分な量の紫外線遮蔽剤が存在していれば、この範囲に存在する赤外線遮蔽粒子20Pの劣化を効果的に抑制できる。紫外線遮蔽剤が、厚さ方向に見て、ガラス板10側に偏って分布している場合、この作用効果がより効果的に得られる。
【0036】
[ガラス積層体の製造方法]
本発明のガラス積層体の製造方法は、
硬化性シランと紫外線遮蔽剤と赤外線遮蔽粒子とを含む液状組成物を用意する工程(S1)と、
ガラス板の温度をT[℃]とし、液状組成物の温度をT[℃]としたとき、T>Tとなるよう、ガラス板および/または液状組成物の温度を調整する工程(S2)と、 ガラス板の表面上に、ガラス板より低い温度の液状組成物を塗工し塗工膜を形成して、塗工膜付きガラス板を得る工程(S3)と、
塗工膜側が下側になるように、塗工膜付きガラス板を略水平に配置する工程(S4)と、
塗工膜付きガラス板を加熱し、塗工膜を硬化する工程(S5)とを有する。
本明細書において、「略水平」とは、地面に対して完全な水平方向±10°の範囲を意味する。
【0037】
図面を参照して、各工程について、説明する。図5A図5Cは、図3に対応した部分模式断面図である。
(工程(S1))
工程(S1)では、硬化性シランと紫外線遮蔽剤と赤外線遮蔽粒子20Pとを含む液状組成物(LC)を用意する。液状組成物(LC)は必要に応じて、樹脂、表面調整剤、キレート剤、硬化触媒、酸および溶剤等の上記以外の1種以上の任意成分を含むことができる。
【0038】
(工程(S2))
工程(S2)では、ガラス板10の温度をT[℃]とし、液状組成物(LC)の温度をT[℃]としたとき、T>Tとなるよう、ガラス板10および/または液状組成物(LC)の温度を調整する。好ましくはT≧T+5、より好ましくはT≧T+10である。
従来の方法では、ガラス板10と液状組成物(LC)の温度の調整は特に行っておらず、いずれも環境温度であり、略同一である。
ガラス板10の温度Tおよび液状組成物(LC)の温度Tは上記規定を充足すれば、特に制限されない。ガラス板10の温度Tおよび液状組成物(LC)の温度Tは、例えば10~30℃の範囲内、好ましくは15~25℃の範囲内で、上記規定を充足するように、それぞれの温度を設定できる。ガラス板10の温度Tおよび液状組成物(LC)の温度Tは、恒温槽等を用いて調整できる。
【0039】
(工程(S3))
工程(S3)では、図5Aに示すように、ガラス板10の表面10S上に、ガラス板10より低い温度の液状組成物(LC)を塗工し塗工膜20Cを形成して、塗工膜付きガラス板1Cを得る。
車両等の用途では、ガラス板10は曲面を有する形状に加工されており、その内面側(通常凹面側)に、塗工膜20Cが形成される。
図中、符号0.1tcは塗工膜20Cの膜表面20CSから10%の深さ、符号0.5tcは塗工膜20Cの膜表面20CSから50%の深さを示す。符号20CTは膜表面20CSと膜表面20CSから50%の深さとの間の範囲、符号20CBは膜表面20CSから50%の深さとガラス板10の表面10Sとの間の範囲(図示下半分)を示す。
塗工方法としては特に制限されず、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、メニスカスコート法およびダイコート法等が挙げられる。
工程(S3)の環境温度は特に制限されず、通常の室温、例えば10~30℃でよい。
【0040】
(工程(S4))
工程(S4)では、図5Bに示すように、塗工膜20C側が下側になるように、塗工膜付きガラス板1Cを略水平に配置(平置きとも言う。)する。例えば、吸着チャック等の保持部材を用いてガラス板10を保持し、塗工膜20Cの膜表面20CSが他の部材に接触しないように、塗工膜付きガラス板1Cを略水平に配置する。
工程(S4)の環境温度は特に制限されず、通常の室温、例えば10~30℃でよい。
【0041】
この工程の開始時点では、図5Bに示すように、塗工膜20C中において、赤外線遮蔽粒子20Pは略均一な濃度で分布している。紫外線遮蔽剤も、略均一な濃度で分布している。塗工膜20C側を下側にした状態で平置きすると、塗工膜20C中において、赤外線遮蔽粒子20Pは重力と塗工膜中の対流によって全体的に沈降する。赤外線遮蔽粒子20Pの沈降を好適化することで、図5Cに示すように、赤外線遮蔽粒子20Pを膜表面20CS側に偏らせることができる。
【0042】
一般的に流体中の粒子の沈降速度は、ストークスの式(下式)で表される。
【数1】
上記式中の各符号は、以下のパラメータを示す。
:沈降速度[cm/s]、
:粒子径[cm]、
ρ:粒子の密度[g/cm]、
ρ:流体の密度[g/cm]、
g:重力加速度[cm/s]、
η:流体の粘度[g/(cm・s)]。
【0043】
液状組成物(LC)は、組成が同じ条件であれば、液温が高いほど粘度は低下し、赤外線遮蔽粒子20Pの沈降速度が速くなる傾向がある。しかしながら、液温が高くなりすぎると、液の安定性が低下する恐れがある。
工程(S2)において、ガラス板10の温度T[℃]を、液状組成物(LC)の温度T[℃]よりも高く調整しておくことで、塗工膜20Cにおいてガラス板10に近い部分(この部分は、使用時に赤外線遮蔽粒子20Pの劣化が起こりやすい部分である。)の温度を相対的に高め、この部分の粘度を効果的に下げ、この部分の赤外線遮蔽粒子20Pの沈降速度を効果的に高められる。加えて、塗工膜20C内の温度勾配により高温側から低温側に対流が起こるため、赤外線遮蔽粒子20Pが塗工膜20Cの表面側に移動しやすくなる。塗工膜20Cの膜表面20CS側に移動した赤外線遮蔽粒子20Pは比重が比較的重いため、ガラス板10との界面側に浮き上がってきにくい。これら作用効果が相俟って、塗工時点の液状組成物(LC)の温度が高くなくても、図5Cに示すように、赤外線遮蔽粒子20Pを膜表面20CS側に偏在させることができる。
【0044】
工程(S4)において、塗工膜20Cのガラス板10との界面近傍部分における、平均一次粒子径の赤外線遮蔽粒子20Pの沈降深さは特に制限されず、好ましくは0.1~0.4μm、より好ましくは0.1~0.3μm、特に好ましくは0.1~0.2μmである。
工程(S4)において、塗工膜20Cのガラス板10との界面近傍部分における、平均一次粒子径の赤外線遮蔽粒子20Pの沈降速度は特に制限されず、好ましくは1~50nm/s、より好ましくは1~20nm/s、特に好ましくは5~10nm/sである。
沈降深さおよび沈降速度は、上記ストークスの式に基づいて、算出できる。
【0045】
例えば、赤外線遮蔽粒子20Pの密度、赤外線遮蔽粒子20Pの平均一次粒子径、液状組成物(LC)中の赤外線遮蔽粒子20Pの濃度、液状組成物(LC)の塗工前の粘度、ガラス板10と液状組成物(LC)との温度関係、および平置き時間等を調整することによって、塗工膜20Cのガラス板10との界面近傍部分における、平均一次粒子径の赤外線遮蔽粒子20Pの沈降深さと沈降速度を上記範囲に調整できる。
本明細書において、特に明記しない限り、「塗工膜のガラス板との界面近傍部分」とは、ガラス板との界面とガラス板との界面から20%の深さとの範囲である。
【0046】
赤外線遮蔽粒子20Pの密度は特に制限されない。密度が大きい程、沈降速度が速くなる傾向がある。沈降速度の好適化の観点から、好ましくは5g/cm以上、より好ましくは5~10g/cmである。
赤外線遮蔽粒子20Pの平均一次粒子径は特に制限されない。平均一次粒子径が大きい程、沈降速度が速くなる傾向がある。ただし、平均一次粒子径が過大では、紫外線赤外線遮蔽膜20にヘイズが生じる恐れがある。沈降速度の好適化および紫外線赤外線遮蔽膜20の透明性の観点から、好ましくは10~150nm、より好ましくは10~100nm、特に好ましくは50~100nmである。
赤外線遮蔽粒子20Pは、充分な密度とサイズを有することで、塗工膜20C中で良好に沈降でき、透明性が良好な紫外線赤外線遮蔽膜20が得られる。
本明細書において、「赤外線遮蔽粒子の平均一次粒子径」は、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定するものとする。
【0047】
塗工膜20C側が下側になるように、塗工膜付きガラス板1Cを略水平に配置する時間(平置き時間)は特に制限されない。長い程、赤外線遮蔽粒子20Pの沈降深さを大きくできる。沈降深さの好適化および生産性の観点から、好ましくは10~60秒間、より好ましくは10~50秒間、特に好ましくは20~40秒間である。
【0048】
紫外線遮蔽剤の密度は特に制限されず、好ましくは2.5g/cm以下である。紫外線遮蔽剤の密度が赤外線遮蔽粒子20Pの密度より小さく、好ましくは2.5g/cm以下である場合、紫外線遮蔽剤の沈降を効果的に抑制でき、紫外線遮蔽剤については塗工膜20C中に略均一な濃度で分布した状態を維持できる。
紫外線遮蔽剤は、密度が充分に小さければ、少なくとも一部が赤外線遮蔽粒子20Pの沈降によって浮上し、ガラス板10側に移行する場合がある。この場合、紫外線遮蔽剤については、ガラス板10側に偏って分布させることができる。
紫外線遮蔽剤については、塗工膜20C中に略均一な濃度で分布した状態、または、ガラス板10側に偏って分布した状態にすることで、得られるガラス積層体1において、ガラス板10に近い部分で紫外線を効果的に遮蔽し、紫外線照射による赤外線遮蔽粒子20Pの劣化を効果的に抑制できる。
【0049】
(乾燥工程)
工程(S4)と工程(S5)との間に、必要に応じて、硬化反応が進まない条件で、塗工膜20Cを乾燥する乾燥工程を実施してもよい。乾燥方法として特に制限されず、40~60℃程度の加熱乾燥、減圧乾燥および40~60℃程度の減圧加熱乾燥が挙げられる。
【0050】
(工程(S5))
工程(S5)では、塗工膜付きガラス板1Cを加熱し、塗工膜20Cを硬化する。加熱は、硬化性シランが硬化してシリカとなる温度条件で行う。工程(S5)(加熱硬化工程)は、本焼成のみの1段階または仮焼成と本焼成の2段階で実施できる。
本焼成温度は特に制限されない。ガラス板10が強化ガラスである場合、好ましくは80~230℃、より好ましくは100~230℃、特に好ましくは150~230℃、最も好ましくは180~210℃である。ガラス板10が合わせガラスである場合、好ましくは80~110℃、より好ましくは90~110℃である。加熱時間は、液状組成物(LC)の組成および加熱温度等に応じて適宜設計できる。
【0051】
乾燥工程および工程(S5)における塗工膜付きガラス板1Cの配置の向きは、特に制限されない。
乾燥工程および工程(S5)では、工程(S4)と同様、塗工膜20C側が下側になるように、塗工膜付きガラス板1Cを略水平に配置してもよい。この場合、これらの工程でも赤外線遮蔽粒子20Pが若干沈降する可能性があるが、工程開始後の早い段階で塗工膜20Cが固体またはそれに近い状態になるため、沈降深さは短く、無視できる程度と考えてよい。
乾燥工程および工程(S5)では、塗工膜20C側が上側になるように、塗工膜付きガラス板1Cを略水平に配置してもよい。
以上のようにして、図3に示したようなガラス積層体1が得られる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、紫外線および赤外線を良好に遮蔽でき、耐候性・耐光性が向上され、使用時の可視光線透過率の低下を抑制できるガラス積層体1を提供できる。
【実施例0053】
以下に、実施例に基づいて本発明について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。例1、2が実施例、例11~13が比較例である。
【0054】
[評価項目と評価方法]
評価項目と評価方法は、以下の通りである。紫外線赤外線遮蔽膜およびガラス積層体の評価は、ガラス積層体の、ガラス板の上端辺から5cm以内に位置する上端部について、実施した。
【0055】
(液状組成物(LC)の粘度)
粘度計(東機産業社製「RE85L」)を用いて、液状組成物(LC)の粘度を測定した。25℃または15℃での粘度を測定した。
【0056】
(紫外線赤外線遮蔽膜の膜厚)
触針式表面形状測定器(ULVAC社製「Dektak150」)を用いて、紫外線赤外線遮蔽膜の膜厚D[μm]を測定した。
【0057】
(赤外線遮蔽粒子の平均一次粒子径)
走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジーズ社製「S-4800」)を用いて、ガラス積層体の断面観察を行った。無作為に選んだ5箇所の断面SEM像(倍率20万倍)を得た。5箇所の断面SEM像で観察された全赤外線遮蔽粒子の一次粒子径の平均値を平均一次粒子径として求めた。
【0058】
(紫外線赤外線遮蔽膜のXPS分析)
XPS(ULVAC社製「PHIQuanteraSXM」)を用いて、赤外線遮蔽粒子に含まれる任意に選択された1種の金属元素(例えば、ITOの場合はIn)について、紫外線赤外線遮蔽膜中の膜表面からの深さ方向の元素分析を行い、XPSスペクトルを得た。スペクトルの面積比率から、深さ方向に見てある範囲内の選択された1種の金属元素の濃度[atomic%]を求めた。紫外線赤外線遮蔽膜を膜表面から深さ方向に見たとき、膜表面と膜表面から50%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子に含まれる選択された1種の金属元素の濃度と、膜表面と膜表面から10%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子に含まれる選択された1種の金属元素の濃度とを求めた。
【0059】
(ガラス積層体の可視光線透過率)
分光光度計(日立製作所社製「U-4100」)を用いて、ガラス積層体の300~2600nmの波長域の透過スペクトルを測定し、JIS R3212(1998年)に準拠して、耐候性・耐光性試験を実施する前の初期状態の可視光線透過率(Tv[%])を算出した。
【0060】
(ガラス積層体の耐候性・耐光性)
照射光の波長域300~400nm、照射照度150W/m、ブラックパネル温度83℃、相対湿度50%の条件に設定したスーパーキセノンウェザーメーター(スガ試験機社製「SX75」)に、ガラス積層体を設置し、500時間試験を行った。この試験後に、試験前と同じ上記方法にて、透過スペクトルを測定し、可視光線透過率(Tv[%])を求めた。試験前のTv[%]に対する試験後のTv[%]の変化量(ΔTv)[%]を求めた。ΔTvの低下量が小さい程、耐候性・耐光性が良好である。
【0061】
(紫外線赤外線遮蔽膜の比重)
ガラス積層体から任意面積S[cm]の紫外線赤外線遮蔽膜を剃刀で削りとり、ガラス積層体の質量変化分[g]を、紫外線赤外線遮蔽膜の質量W[g]とした。ガラス積層体の質量が紫外線赤外線遮蔽膜の質量と比較して極めて大きく、差分が有意ではないと判断される場合は、削りとった紫外線赤外線遮蔽膜の質量を直接測定してもよい。比重d[g/cm]は、以下の式から求めた。
d=W÷(S×D)[g/cm
【0062】
(赤外線遮蔽粒子の含有量[mg/cm])
XPS(ULVAC社製「PHIQuanteraSXM」)を用いて、紫外線赤外線遮蔽膜中の膜表面からの深さ方向の全元素分析を行い、XPSスペクトルを得た。スペクトルのピークの面積比率から、深さ方向に見てある範囲内の各元素の質量濃度[質量%]を求めた。質量濃度[質量%]の深さ方向の分布の平均値を、紫外線赤外線遮蔽膜全体における各元素の質量濃度[質量%]とした。次に、赤外線遮蔽粒子に含まれる各元素(例えば、ITOの場合はInとSnとO)の質量濃度[質量%]の和から、紫外線赤外線遮蔽膜中に含まれる赤外線遮蔽粒子の質量濃度[質量%]を求めた。
赤外線遮蔽粒子を除いた紫外線赤外線遮蔽膜中に、赤外線遮蔽粒子に含まれる元素と同じ元素X(例えば、ITOの場合はO)が含まれる場合、赤外線遮蔽粒子全体で電気的に中性となるように元素Xの質量濃度を求めた。この時、赤外線遮蔽粒子に含まれる各元素の酸化数は、一般的に知られている値を用いた。例えば、ITOの場合は、Inが3+、Snが4+、Oが2-として、Oの質量濃度[質量%]を求めた。このようにして求めた、紫外線赤外線遮蔽膜に含まれる赤外線遮蔽粒子の各元素の質量濃度[質量%]と、紫外線赤外線遮蔽膜の膜厚および比重から、紫外線赤外線遮蔽膜1cm当たりに含まれる赤外線遮蔽粒子の含有量[mg/cm]を求めた。
【0063】
(紫外線赤外線遮蔽膜の吸光度)
分光光度計(日立製作所製「U-4100」)を用いて、ガラス積層体およびガラス板の800~1500nmの波長域の透過スペクトルを測定し、ガラス積層体とガラス板の吸光度の差分から、紫外線赤外線遮蔽膜の波長800~1500nmにおける吸光度および吸光度の単純平均を求めた。
【0064】
[材料]
各例で用いた材料の略号は、以下の通りである。
<ガラス板>
(G1)縦670mm×横910mm×厚さ3.1mmの平面視矩形状のガラス板(AGC社製「高熱線吸収グリーンガラス」)が湾曲した湾曲ガラス板(内面(凹面)の縦方向の曲率半径=5200mm、横方向の曲率半径=300000mm)。
【0065】
TEOS:テトラエトキシシラン、
KBM-403:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業社製「KBM-403」、
EX-614B:エポキシ樹脂、ナガセケムテックス社製「EX-614B」、
ソルスパース41000:ポリエーテルリン酸エステル系ポリマー、日本ルーブリゾール社製「ソルスパース41000」、
TINUVIN360:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「TINUVIN360」、
BYK307:表面調整剤、ビッグケミー・ジャパン社製「BYK307」、
AP-1:エタノール85.5質量%、メタノール1.1質量%および2-プロパノール13.4質量%の混合溶媒。
【0066】
[製造例1](液状組成物(LC1)の調製)
ビーカーに、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン(BASF社製)の49.2g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403)の123.2g、硬化触媒として塩化ベンジルトリエチルアンモニウム(BTEAC)(純正化学社製)の0.8g、および酢酸ブチル(純正化学社製)の100gを仕込んだ。これらを撹拌しながら60℃に昇温し、溶解させ、120℃まで加熱し4時間反応させることにより、固形分濃度63質量%のシリル化紫外線吸収剤溶液を得た。
丸底フラスコに、上記シリル化紫外線吸収剤溶液の12.78g、混合溶媒(AP-1)の49.82g、テトラエトキシシラン(TEOS)の11.43g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403)の2.81g、エポキシ樹脂(EX-614B)の1.96g、純水の15.60g、表面調整剤(BYK307)の0.06g、および酸として濃度63質量%の硝酸水溶液の0.10g仕込み、50℃で2時間撹拌した。その後、20質量%CWO(登録商標)分散液(住友金属鉱山社製、溶媒は水)の5.44gを加え、固形分濃度14.5質量%の液状組成物(LC1)を得た。
主な配合組成と得られた液状組成物の固形分濃度を、表1に示す。
【0067】
[製造例2、3](液状組成物(LC2)、(LC3)の調製)
表1に示す配合組成に変更した以外は製造例1と同様にして、液状組成物(LC2)、(LC3)を得た。主な配合組成と得られた液状組成物の固形分濃度を、表1に示す。
製造例2~4で用いた20質量%ITO分散液は、三菱マテリアル社製(溶媒は混合溶媒(AP-1))である。
【0068】
[製造例4](液状組成物(LC4)の調製)
シリル化紫外線遮蔽剤溶液を調製せず、20質量%ITO分散液以外のすべての成分を混合し、50℃で2時間反応させた後、20質量%ITO分散液を添加し、混合して、液状組成物(LC4)を得た。主な配合組成と得られた液状組成物の固形分濃度を、表1に示す。
【0069】
[例1]
(工程(S1))(液状組成物(LC1)の用意)
製造例1で得られた液状組成物(LC1)を用意した。
【0070】
(工程(S2))
恒温槽を用いて、ガラス板(G1)の温度Tを25℃、液状組成物(LC1)の温度Tを15℃に調整した。
【0071】
(工程(S3))
ガラス板(G1)を垂直に立て、ガラス板(G1)の内面(凹面)上に、ガラス板(G1)の上辺から数mm~数十mmをあけた位置で、ガラス板(G1)の上辺に沿うように、工程(S2)の調整温度の液状組成物(LC1)を流しかけた。このようにして、塗工膜付きガラス板を得た。
【0072】
(工程(S4))
塗工膜側が下側になるように、20秒間、塗工膜付きガラス板を水平に配置(平置き)した。この工程では、吸着チャックを用いてガラス板10を保持し、塗工膜の表面が他の部材に接触しないように、塗工膜付きガラス板を水平に配置した。
【0073】
(工程(S5))
塗工膜付きガラス板を200℃で20分間加熱した(本焼成)。本焼成では、塗工膜側が上側になるように、塗工膜付きガラス板を水平に配置(平置き)した。このようにして、塗工膜を硬化し、ガラス積層体(GL1)を得た。
【0074】
主な製造条件と評価結果を、表2および表3に示す。表2および表3において、記載のない条件は共通条件とした。
塗工膜中のガラス板との界面近傍部分における平均一次粒子径の赤外線遮蔽粒子の沈降速度および沈降深さは、ストークスの式に基づいて、算出した。計算において、塗工膜中のガラス板との界面近傍部分の温度は、工程(S2)で調整したガラス板の温度を用い、液状組成物の粘度は、工程(S2)で調整したガラス板の温度における液状組成物の粘度を用いた。
【0075】
[例2、例11~13]
表2に示すように条件を変更した以外は例1と同様にして、ガラス積層体(GL2)、(GL11)~(GL13)を得た。主な製造条件と評価結果を、表2および表3に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
[結果のまとめ]
例1、2では、ガラス板の表面上に、ガラス板より低い温度の液状組成物を塗工し塗工膜を形成して、塗工膜付きガラス板を得、塗工膜側が下側になるように、塗工膜付きガラス板を水平に配置した後、塗工膜付きガラス板を加熱し、塗工膜を硬化して、ガラス積層体を製造した。
これらの例では、平面視にて、紫外線赤外線遮蔽膜の、ガラス板の上端辺から5cm以内に位置する上端部において、膜表面と膜表面から50%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子に含まれる選択された1種の金属元素の濃度が55atomic%以上であり、膜表面と膜表面から10%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子に含まれる選択された1種の金属元素の濃度が12~20atomic%である、ガラス積層体が得られた。
これらの例で得られたガラス積層体は、耐候性・耐光性試験において、試験前に対する試験後の可視光線透過率の低下量が小さく、良好であった。
【0080】
特に例1で得られたガラス積層体は、膜表面と膜表面から50%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子に含まれる選択された1種の金属元素の濃度が60atomic%以上、膜表面と膜表面から10%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子に含まれる選択された1種の金属元素の濃度が15atomic%以上、であり、例2で得られたガラス積層体より耐候性・耐光性に優れていた。
【0081】
例11では、ガラス板の温度と液状組成物の温度を同一とした。
例12では、液状組成物の粘度が高く、塗工膜中のガラス板との界面近傍部分における平均一次粒子径の赤外線遮蔽粒子の沈降速度および沈降深さが過小であった。
例13では、塗工膜側が上側になるように、塗工膜付きガラス板を水平に配置した後、塗工膜付きガラス板を加熱し、塗工膜を硬化した。
【0082】
例11~13で得られたガラス積層体は、平面視にて、紫外線赤外線遮蔽膜の、ガラス板の上端辺から5cm以内に位置する上端部において、膜表面と膜表面から10%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子に含まれる選択された1種の金属元素の濃度が12atomic%未満であった。
例12、13で得られたガラス積層体は、平面視にて、紫外線赤外線遮蔽膜の、ガラス板の上端辺から5cm以内に位置する上端部において、膜表面と膜表面から50%の深さとの間に存在する赤外線遮蔽粒子に含まれる選択された1種の金属元素の濃度が55atomic%未満であった。
例11では、沈降速度は好ましい範囲内であり、赤外線遮蔽粒子を全体的に塗工膜の表面側50%の範囲に偏在させられた。しかしながら、ガラス板と液状組成物の温度が同一であったため、塗工膜中で温度差による対流が生じず、塗工膜の表面側10%の範囲に沈降する赤外線遮蔽粒子の量が少なかったと考えられる。
これらの例で得られたガラス積層体は、耐候性・耐光性試験において、試験前に対する試験後の可視光線透過率の低下量が大きく、不良であった。
【0083】
代表的に、例1、2、13で得られたガラス積層体の紫外線赤外線遮蔽膜のXPSスペクトルを図6A図6Cに示す。
図6Cに示すように、例13で得られたガラス積層体の紫外線赤外線遮蔽膜のXPSスペクトルでは、赤外線遮蔽粒子が全体的に均一に分布しているのに対し、図6Aおよび図6Bに示すように、例1、2で得られたガラス積層体の紫外線赤外線遮蔽膜のXPSスペクトルでは、赤外線遮蔽粒子が膜表面側に偏って分布していることが分かった。
【0084】
代表的に、例1、2で得られたガラス積層体の断面SEM写真の例を図7A図8Aに示す。符号20で示す膜が、紫外線赤外線遮蔽膜である。得られた断面SEM像に対してトリミング処理を行って、紫外線赤外線遮蔽膜の部分のみを残し、さらに、明度で二値化処理を起こって、赤外線遮蔽粒子を「黒」、その他の部分を「白」で表すように処理した画像を図7B図8Bに示す。
なお、図7A図7B図8A図8Bは、平面視にて、ガラス積層体の下辺側に近い厚膜部分の断面写真または断面画像であり、参考写真または参考画像である。参考写真または参考画像ではあるが、これらの図には、赤外線遮蔽粒子が膜表面側に偏っている様子が示されている。
【0085】
本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更できる。
【符号の説明】
【0086】
1:ガラス積層体、1C:塗工膜付きガラス板、10:ガラス板、10S:表面、11:上辺、12:下辺、13:前方側辺、14:後方側辺、20:紫外線赤外線遮蔽膜、20C:塗工膜、20P:赤外線遮蔽粒子、20S:膜表面、UP:上端部。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B