(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152242
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】セメント原料供給装置、並びに、セメントクリンカの製造設備及びセメントクリンカの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/38 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
C04B7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054943
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】厚井 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】植田 隆昌
(72)【発明者】
【氏名】酒見 昌利
(57)【要約】
【課題】シンプルな装置構成で内壁にセメント原料が付着することを抑制することが可能なセメント原料供給装置を提供すること。
【解決手段】セメント原料供給装置100は、セメント原料が落下する内部空間12を有し、落下したセメント原料50を貯蔵可能に構成される本体部10と、本体部10の上方からセメント原料50を導入する導入部20と、本体部10の下方からセメント原料50を導出する導出部30と、本体部10の内部空間12を落下するセメント原料50の一部のみが衝突することによって、当該一部の落下方向を変える衝突部材15Aと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント原料が落下する内部空間を有し、落下した前記セメント原料を貯蔵可能に構成される本体部と、
前記本体部の上方から前記セメント原料を導入する導入部と、
前記本体部の下方から前記セメント原料を導出する導出部と、
前記本体部の前記内部空間を落下するセメント原料の一部のみが衝突することによって、当該一部のみの落下方向を変える衝突部材と、を備える、セメント原料供給装置。
【請求項2】
前記衝突部材に衝突する前記セメント原料の前記一部は、前記セメント原料の平均粒径よりも大きい粒径を有する粗粒物を含む、請求項1に記載のセメント原料供給装置。
【請求項3】
前記導入部から前記本体部に導入される際の前記セメント原料の導入方向と、前記導出部における前記セメント原料の導出方向とが、平面視において互いに交差する、請求項1又は2に記載のセメント原料供給装置。
【請求項4】
前記セメント原料が、複数種類の原材料を含む調合原料であり、
前記導出部の下流に原料ミルを備える、請求項1~3のいずれか一項に記載のセメント原料供給装置。
【請求項5】
前記導出部から導出される前記セメント原料は、投入シュートを介して前記原料ミルに導入される、請求項4に記載のセメント原料供給装置。
【請求項6】
前記セメント原料が、焼却灰、石炭灰、石灰石、鉄源、及びスラグからなる群より選ばれる二種以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のセメント原料供給装置。
【請求項7】
前記衝突部材と、前記衝突部材の衝突面と対向する前記本体部の内壁と、の間における前記内部空間に、原料ミルで粉砕される再粉砕原料を落下させる、請求項1~6のいずれか一項に記載のセメント原料供給装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項のセメント原料供給装置と、前記セメント原料供給装置から供給される前記セメント原料を粉砕する原料ミルと、粉砕されたセメント原料を焼成してセメントクリンカを得る焼成装置と、を備える、セメントクリンカの製造設備。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項のセメント原料供給装置から供給される前記セメント原料を粉砕する工程と、粉砕された前記セメント原料を焼成してセメントクリンカを得る工程と、を有する、セメントクリンカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セメント原料供給装置、並びに、セメントクリンカの製造設備及びセメントクリンカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカの製造には、複数の原材料が使用される。このため、セメントクリンカの製造設備には、原材料を調合する原料調合設備と、調合した原材料を粉砕する原料ミル等の粉砕設備が設けられる。特許文献1では、セメント製造用の原料を、原料調合設備から粉砕設備に搬送するため、ベルトコンベアを用いる搬送方法が提案されている。ベルトコンベアの上流又は下流には、各設備間を移動するセメント原料のバッファーのため、セメント原料を一旦貯蔵するホッパー及びタンク等が配設される。
【0003】
種々の原材料を用いる場合、原材料の粒径及び密度の相違に起因して偏析が生じる場合がある。このため、特許文献2では、ベルレス高炉に原料を装入するホッパーの下端に旋回シュートを設けることが提案されている。これによって、原料粒子の粒子径及び密度の相違によって生じる偏析を改善することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-147392号公報
【特許文献2】特開2014-224293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セメント原料供給装置では、下流側の装置への原料の供給量を調整している。このようなセメント原料供給装置で運転を継続して行うと、ホッパー及びタンク等の設備の内壁にセメント原料が付着する場合がある。内壁に付着物が一旦形成されると、設備内の閉塞の原因となることが懸念される。
【0006】
このような付着物が発生する要因として、セメント原料がセメント原料供給装置の本体部の内部空間を落下する際、落下するセメント原料に含まれる粒子の粒径及び重量の違いに起因して粒子の分布が不均一となり、粗粒物と細粒物とが偏流する現象が生じることが挙げられる。このような偏流が生じると、本体部を構成する内壁に、細粒物のみが集中して落下する部分が生じ、この部分に付着物が形成されやすくなる。
【0007】
このような付着物の発生を抑制する手段として、特許文献2のような旋回構造を設けることが考えられるものの、このような旋回構造を設けると装置構成が複雑となり、取り付け及びメンテナンスの作業が複雑になることが懸念される。
【0008】
そこで、本開示では、シンプルな装置構成で内壁にセメント原料が付着することを抑制することが可能なセメント原料供給装置を提供する。また、本開示では、このようなセメント原料供給装置を備えることによって、安定的に運転をすることが可能なセメントクリンカの製造設備を提供する。また、本開示では、セメントクリンカを安定的に製造することが可能なセメントクリンカの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、セメント原料が落下する内部空間を有し、落下したセメント原料を貯蔵可能に構成される本体部と、本体部の上方からセメント原料を導入する導入部と、本体部の下方からセメント原料を導出する導出部と、本体部の内部空間を落下するセメント原料の一部のみが衝突することによって、当該一部の落下方向を変える衝突部材と、を備える、セメント原料供給装置を提供する。
【0010】
本開示のセメント原料供給装置は、セメント原料の一部のみが衝突することによって、当該一部の落下方向を変える衝突部材を備えている。衝突部材によってセメント原料の一部のみの落下方向が変わると、落下するセメント原料に偏流が生じていても、当該一部によって偏流が低減され、セメント原料の粒径の分布の均一性を向上することができる。これによって、シンプルな装置構成で、細粒物のみが集中して落下する部分が生じることを抑制し、内部空間を形成する内壁に付着物が形成されることを抑制できる。
【0011】
上記セメント原料供給装置において、衝突部材に衝突するセメント原料の一部は、セメント原料の平均粒径よりも大きい粒径を有する粗粒物を含むことが好ましい。このような粗粒物の落下方向を変えると、内部空間を形成する内壁に付着物が形成されることを一層抑制することができる。また、内壁に付着物が形成されたとしても、当該付着物に粗粒物が衝突することによって付着物が落下するため、付着物が成長して大きくなることを未然に抑制することができる。
【0012】
上記セメント原料供給装置では、導入部から本体部に導入される際のセメント原料の導入方向と、導出部におけるセメント原料の導出方向とが、平面視において互いに交差していてもよい。導入方向と導出方向とが互いに交差していると、粗粒物と細粒物とが偏流する現象が生じた場合に、下流側の設備に付着物が形成されやすい。上記セメント原料供給装置では、上記偏流を抑制できるため、設備設計の自由度を確保しつつ下流側の設備への付着物を大幅に低減することが可能となり、セメント原料を安定的に供給することができる。
【0013】
上記セメント原料は、複数種類の原材料を含む調合原料であり、上記導出部の下流に原料ミルを備えることが好ましい。原料ミルよりも上流では、セメント原料に含まれる粗粒物と細粒物の粒径の差異が大きい。このため、セメント原料に含まれる粒子の粒径の相違に起因する偏流が生じやすい。したがって、上記原料ミルよりも上流に上記本体部と上記衝突部材を備えることによって、原料ミルよりも上流においても粗粒物と細粒物とが偏流する現象を抑制し、設備の内壁にセメント原料が付着することを抑制することができる。
【0014】
上記導出部から導出されるセメント原料は、投入シュートを介して原料ミルに導入されることが好ましい。上記導出部から導出されるセメント原料は、粗粒物と細粒物との偏流が抑制されているため、投入シュートにおいて細粒物が付着することを抑制できる。これによって原料ミルを安定的に運転することができる。
【0015】
セメント原料は、焼却灰、石炭灰、石灰石、鉄源、及びスラグからなる群より選ばれる二種以上の原材料を含むことが好ましい。このように比重の異なる原材料を含んでいても、粗粒物と細粒物との偏流を抑制し、内壁にセメント原料が付着することを抑制することができる。
【0016】
衝突部材と、衝突部材の衝突面と対向する本体部の内壁と、の間における内部空間に、原料ミルで粉砕される再粉砕原料を落下させることが好ましい。再粉砕原料は、粉砕設備である原料ミルにおいて細粒物と分離された粗粒物である。再粉砕原料は、他のセメント原料に比べて大きい粒径を有する。このため、粒径の小さいセメント原料が落下する部分に再粉砕原料を落下させて、粒径の小さいセメント原料が本体部の内壁に付着することを十分に抑制することができる。
【0017】
本開示は、上述のいずれかセメント原料供給装置と、当該セメント原料供給装置から供給されるセメント原料を粉砕する原料ミルと、粉砕されたセメント原料を焼成してセメントクリンカを得る焼成装置と、を備える、セメントクリンカの製造設備を提供する。このセメントクリンカの製造設備は、上述のいずれかのセメント原料供給装置を備えるため、安定的にセメント原料を粉砕することができる。したがって、セメントクリンカを安定的に製造することができる。
【0018】
本開示は、上述のいずれかのセメント原料供給装置から供給されるセメント原料を粉砕する工程と、粉砕されたセメント原料を焼成してセメントクリンカを得る工程と、を有する、セメントクリンカの製造方法を提供する。このセメントクリンカの製造方法は、上述のいずれかセメント原料供給装置から供給されるセメント原料を用いるため、付着物によって設備内部が閉塞することを抑制でき、セメントクリンカを安定的に製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、シンプルな装置構成で内壁にセメント原料が付着することを抑制することが可能なセメント原料供給装置を提供することができる。また、このようなセメント原料供給装置を備えることによって、安定的に運転をすることが可能なセメント原料粉砕装置及びセメントクリンカの製造設備を提供することができる。また、セメントクリンカを安定的に製造することが可能なセメントクリンカの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態に係るセメント原料供給装置を正面からみたときの本体部の内部を示す図である。
【
図2】
図1のセメント原料供給装置の平面図である。
【
図5】セメント原料の一部が衝突部材に衝突して落下方向が変わる様子を模式的に示す図である。
【
図6】別の実施形態に係るセメント原料供給装置を正面からみたときの本体部の内部を示す図である。
【
図7】
図6に示すセメント原料供給装置の平面図の一例である。
【
図8】さらに別の実施形態に係るセメント原料供給装置を正面からみたときの本体部の内部を示す図である。
【
図9】さらに別の実施形態に係るセメント原料供給装置を正面からみたときの本体部の内部を示す図である。
【
図10】(A)は、
図1のセメント原料供給装置の導出部において導出されるセメント原料の例を示す写真である。(B)は、
図11のセメント原料供給装置の導出部において導出されるセメント原料の例を示す写真である。(C)は、
図12のセメント原料供給装置の導出部において導出されるセメント原料の例を示す写真である。
【
図11】従来のセメント原料供給装置(比較例)を示す図である。
【
図12】
図11のセメント原料供給装置の変形例(比較例)を示す図である。
【
図13】セメント原料を焼成する焼成装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、場合により図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0022】
図1は、一実施形態に係るセメント原料供給装置を正面からみたときの本体部の内部を示す図である。セメント原料供給装置100は、セメント原料50が落下する内部空間12を有し、落下したセメント原料50を貯蔵可能に構成される本体部10と、本体部10の上方からセメント原料50を導入する導入部20と、本体部10の下方からセメント原料50を導出する導出部30と、本体部10の内部空間12を落下するセメント原料50の一部のみが衝突することによって、当該一部のみの落下方向を変える衝突部材15Aと、を備える。
【0023】
導入部20はセメント原料50を搬送し、セメント原料50を本体部10に導入する。導入部20は、例えばベルトコンベア等の通常の搬送機であってよい。本体部10は、例えばタンクであり、セメント原料50を一旦貯蔵する内部空間12を有する。本体部10は下部に、上方から下方に向かうにつれて細くなる絞り部10Aを有する。セメント原料50は、導入部20から本体部10内に導入され、本体部10の内部空間12を落下する。内部空間12を落下するセメント原料50は、本体部10の下部で絞り部10Aによって集められ、一旦本体部10内に溜められた後に、本体部10の底部の中央部にある導出口から、本体部10の下方に設けられる導出部30に導出される。
【0024】
導出部30は、本体部10から導出されたセメント原料50を搬送し、下流側の設備の投入シュート40にセメント原料50を導入する。導出部30は、例えばベルトコンベア等の通常の搬送機であってよい。下流側の設備は、例えば、セメント製造に用いる原料ミルであってよい。導出部30は、セメント原料の搬送速度を変えることによって、セメント原料50の本体部10からの導出量を調節する。セメント原料50の導入量及び導出量が異なる場合、本体部10の内部空間12におけるセメント原料50の在庫を変えてセメント原料供給装置の運転を安定的に継続することができる。
【0025】
セメント原料50は、セメントの製造に用いられる各種の原料を用いることができる。例えば互いに大きさの異なる複数種類の原材料を含む調合原料であってよく、調合前の原材料であってもよい。このように、セメント原料50には各種の原料が用いられるため、粒径の範囲も広い。セメント原料50にはCaO等、固まりやすい性質を有するものも含まれる。また、セメント原料50のうち、粒径の小さい細粒物は、粒径の大きい粗粒物に比べて、設備の内壁等に付着しやすい傾向にある。
【0026】
図11は、従来のセメント原料供給装置(比較例)を示す図である。セメント原料供給装置200では、導入部220から本体部210に導入されるセメント原料250は、内部空間212を落下する。このとき、セメント原料250のうち、粗粒物は、導入部220の搬送方向の下流側(
図11の左側)に偏って落下する。一方、セメント原料250のうち細粒物は、粗粒物よりも、導入部220の搬送方向の上流側(
図11の右側)に偏って落下する。このため、本体部210の下部にある絞り部210Aでは、
図11の右側に細粒物のみが落下して内壁に付着し、付着物91を形成する。例えば、通常運転では内部空間212内に、セメント原料250が溜まっているが、全てのセメント原料250を導出しようとしても、絞り部210Aには、セメント原料250の付着物91が残留する。
【0027】
付着物91が残留すると、導出部230からの原料の抜き出し不良が発生し易くなる。また、導入部220の搬送方向の上流側(
図11の右側)に偏って落下した細粒物は投入シュート240の付着物92が生じる要因にもなる。このような付着物92が生じると投入シュート240においても正常にセメント原料が供給できなくなる。投入シュート240が閉塞した場合は、セメント原料供給装置200の運転を停止して内部の清掃等を行わなければならなくなる。
【0028】
図12は、
図11のセメント原料供給装置の変形例(比較例)を示す図である。セメント原料供給装置201は、本体部210の内部に、内部空間212を落下するセメント原料250の全てが衝突することによって、全てのセメント原料250の落下方向を変える衝突部材215を備える。この場合、セメント原料250のうち、粗粒物は、衝突部材215によって落下方向が大きく変わり、導入部220の搬送方向の上流側(
図12の右側)に偏って落下する。一方、セメント原料250のうち細粒物は、衝突部材215に沿って落下するものもあり、このような細粒物は、導入部220の搬送方向の下流側(
図12の左側)に偏って落下する。このため、本体部210の下部にある絞り部210Aでは、
図12の左側に細粒物のみが落下して付着し、付着物93を形成する。この場合も、内部空間212内に、セメント原料250を一旦貯留し、その後、全てのセメント原料250を導出しようとしても、絞り部210Aには、セメント原料250の付着物93が残留する。
【0029】
付着物93が残留すると、導出部230からの原料の抜き出し不良が発生し易くなる。また、細粒物が偏って導出部230から導出されることとなるため、下流側の設備における投入シュート240において付着物94が生じる。このような付着物94が生じると、投入シュート240で閉塞が発生し易くなる。このため、セメント原料供給装置201の運転を停止して内部の清掃等を行わなければならなくなる。
【0030】
一方、
図1に示すように、セメント原料供給装置100では、セメント原料50の一部のみが衝突する衝突部材15Aを備えている。衝突部材15Aによってセメント原料の一部のみの落下方向が変わると、当該一部によって粒径の偏りが低減され、落下するセメント原料50の粒径の分布の均一性を向上することができる。これによって、絞り部10Aにおいて細粒物のみが集中して落下する部分が生じることを抑制し、内部空間12を形成する内壁10aに付着物が形成されることを抑制できる。また、投入シュート40においても付着物が形成されることを抑制できる。
【0031】
セメント原料50は、セメント原料50が、焼却灰、石炭灰、石灰石、鉄源、及びスラグからなる群より選ばれる二種以上を含んでもよい。上記原材料は、粒径が互いに異なるうえに、CaOを含んでいるため固まりやすい性質を有する。セメント原料供給装置100は、衝突部材15Aを有するため、セメント原料50がCaOを含んでいても、セメント原料50の粒径の偏りが低減されているため、内部空間12を構成する内壁10aにセメント原料50が付着することを十分に抑制することができる。
【0032】
図2は、
図1のセメント原料供給装置を導入部の上方から見たときの図である。衝突部材15Aは、枠体15の一部であってよい。枠体15は、図示しない支持部によって、本体部10の内壁10aに固定されてもよいし、本体部10の上面を覆うように蓋部材を設け、この蓋部材に固定されてもよい。このような蓋部材は、導入部20からのセメント原料50が通過可能な導入口を有する。
【0033】
図2に示すような平面視(x-y平面)において、導入部20から本体部10に導入される際のセメント原料の導入方向(C1方向)と、導出部30におけるセメント原料の導出方向(C2方向)とが、交差していてもよい。C1方向とC2方向とが互いに交差していると、粗粒物と細粒物とが偏流する現象が生じた場合に、下流側の設備に付着物が形成されやすい。例えば、
図1において、本体部10の右側に細粒物が偏って落下した場合、
図2において、本体部10の下段に設けられる導出口18から導出部30に導出されるセメント原料は、
図2の右側に細粒物が偏った状態で搬送される。そうすると、下流側の設備の投入シュート40にも、右側に細粒物が偏った状態で供給されることとなる。
【0034】
本実施形態では、セメント原料50の粗粒物及び細粒物の偏りが抑制できるため、C1方向とC2方向とが互いに交差していても、下流側の設備に付着物が形成されることを十分に抑制することができる。本実施形態では、C1方向とC2方向が互いに直交しているが、これに限定されない。例えば、
図2のC1方向がx方向からずれていてもよい。例えば、
図2のC2方向がy方向からずれていてもよい。このように、C1方向とC2方向を種々の方向に設定することが可能であるため、設備設計の自由度を十分に確保することができる。
【0035】
図3は、
図1のIII-III線断面図であり、
図4は、
図1のIV-IV線断面図である。
図3では、枠体15は、矩形筒状の断面形状を有する。
図3よりも下方の断面構造を示す
図4では、枠体15のうち、衝突部材15Aの断面構造のみが示されている。このように、矩形筒状の枠体15の一部をなす衝突部材15Aは、枠体15の他部15Bよりも、鉛直方向における長さが長くなっている。この長くなっている部分に、内部空間12を落下するセメント原料50の一部が衝突してよい。衝突部材15Aは、鉛直方向に沿う長さが調整可能に構成されていてよい。例えば、衝突部材15Aを2枚の板材を重ね合わせて構成し、一方の板材に対して他方の板材を移動させて、x-y平面における長さを調整してもよい。これによって、セメント原料50の粒径分布、及び、内壁10aにおけるセメント原料50の付着状況によって、衝突部材15Aの他部15Bに対する長さを調整し、衝突部材15Aの衝突するセメント原料50の割合を変更してもよい。
【0036】
図5は、セメント原料50の一部が衝突部材15Aに衝突して落下方向が変わる様子を模式的に示す図である。セメント原料50の一部52は、衝突部材15Aの衝突面16に衝突し、落下方向が、左斜め下向きから、右斜め下向きに変わっている。一方、セメント原料50の一部51は、衝突部材15Aに衝突せずに、左斜め下向きに落下している。このように、一部52の落下方向が変わることによって、落下するセメント原料の粒径の偏りが抑制される。
【0037】
衝突部材15Aは、鋼板で形成されており、衝突面が上向きになるように傾斜して固定されている。これによって、衝突するセメント原料50の一部52の落下方向を大きく変更することができる。これによって、落下するセメント原料50の粒径の偏りを十分に抑制し、落下位置におけるセメント原料50の粒径の分布の均一性を一層向上することができる。ただし、必ずしも衝突面が上向きである必要はなく、例えば衝突部材の衝突面が鉛直方向と平行であっても、セメント原料50の一部52の落下方向を変えて粒径の偏りを抑制することができる。
【0038】
本実施形態では、衝突部材15Aが枠体15の一部を構成しているが、これに限定されない。例えば、衝突部材15Aが平板で構成され、この平板が本体部10の内壁10a又は本体部10の上部を覆う蓋体に固定されていてもよい。また、衝突部材15Aには、下端における中央部に切り欠き部が形成され、凹形状を有していてもよい。この切り欠き部の大きさを変えて、衝突部材15Aに衝突するセメント原料50の一部52の割合を調節してもよい。切り欠き部を中央部に設けることによって、衝突部材15Aの摩耗を抑制できる。
【0039】
衝突部材15Aに衝突するセメント原料50の一部52は、セメント原料50全体の平均粒径よりも大きい粒径を有する粗粒物を含むことが好ましい。このような粗粒物の落下方向を変えると、内部空間12を形成する内壁10aに付着物が形成されることを一層抑制することができる。また、内壁10aに付着物が形成されたとしても、当該付着物に粗粒物が衝突することによって付着物が落下するため、付着物が成長して大きくなることを未然に抑制することができる。
【0040】
セメント原料50全体の平均粒径は、例えば、ランダムに100個以上の粒子を選択し、その二次元画像において、粒径として当該粒子の外縁に外接する外接円の直径を測定する。平均粒径は、このようにして測定された粒径の個数平均値として求められる。なお、粒径の測定には、必要に応じて光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡を用いてもよい。
【0041】
図6は、別の実施形態に係るセメント原料供給装置を正面からみたときの本体部の内部を示す図である。
図6のセメント原料供給装置101は、導入部20(第1導入部)に加えて第2導入部22を有する点、及び、2枚の板状部材15a,15dで構成される衝突部材15A’を有する点で、上述のセメント原料供給装置100と異なっている。その他の構成は、セメント原料供給装置100と同様であってよい。
【0042】
第2導入部22からは、例えば原料ミルの再粉砕原料55が導入される。再粉砕原料55とは、原料ミルに投入されたものの十分に粉砕されなかったために、原料ミルで再粉砕される粗粒物である。原料ミルは、粉砕を必要とする全てのセメント原料が調合された後に粉砕及び分級を行う装置であり、原料ミルで得られる粉砕物(細粒物)は、後述する焼成装置に供給される。一方、この粉砕物よりも大きい粒径を有する再粉砕原料55は、衝突部材15A’と、衝突部材15A’の衝突面に対向する本体部10の内壁10bと、の間における内部空間12を落下する。再粉砕原料55は、セメント原料50に含まれる細粒物よりも粒径が大きいため、セメント原料50の細粒物が衝突部材15A’の衝突面と対向する本体部10の内壁10bとの間における内部空間12に偏って落下している場合であっても、再粉砕原料55によって細粒物が絞り部10Aの右側部分に付着することを抑制できる。
【0043】
再粉砕原料55の導入量は、原料ミルの運転に応じて変動する場合がある。このため、再粉砕原料55の導入量の変化に応じて衝突部材15A’の衝突面の大きさを調整してもよい。衝突面の大きさは、互いに重ね合わせて設けられる2つの板状部材15a,15dの重ね合わせ部分と非重ね合わせ部分との割合を変えて調整することができる。
【0044】
図7は、
図6に示すセメント原料供給装置101の平面図の一例である。
図7に示すように、第1導入部20におけるセメント原料の導入方向(C1方向)と、第2導入部22における再粉砕原料の導入方向(C3方向)は、正反対を向いていてもよい。これによって、セメント原料の細粒物が本体部10の内部空間12をC1方向とは反対方向に偏って落下する場合に、再粉砕原料をC3方向に搬送する第2導入部22から再粉砕原料を導入することによって、細粒物の偏り及び内壁への付着を解消することができる。
【0045】
本実施形態では、C1方向とC3方向が正反対の方向を向いているが、これに限定されない。例えば、
図7のC1方向がx方向からずれていてもよい。例えば、
図7のC3方向がx方向とは反対の方向からずれていてもよい。このように、C1方向とC3方向は種々の方向に設定することができる。
図7に示すように、第1導入部20と第2導入部22は、
図7に示すように、
図7の上下方向にずれるようにして設けられていてもよい。
【0046】
図8は、さらに別の実施形態に係るセメント原料供給装置を正面からみたときの本体部の内部を示す図である。
図8のセメント原料供給装置102は、原料ミルで粉砕された再粉砕原料57を導入する第3導入部24を備える点で、上述のセメント原料供給装置100と異なっている。その他の構成は、セメント原料供給装置100と同様であってよい。
【0047】
第3導入部24は、本体部10に対して、
図6に示す第2導入部22よりも左側にずれて設置されている。このため第3導入部24から内部空間12に導入された再粉砕原料57は、衝突部材15Aの衝突面を滑るように接触して落下する。このように再粉砕原料57を落下することによって、セメント原料50の衝突部材15Aへの衝突量及び衝突速度を低減することができる。これによって、衝突部材15Aの摩耗を低減することができる。再粉砕原料57としては、再粉砕原料55と同様のものを用いることができる。
【0048】
セメント原料供給装置102の変形例では、第3導入部24から、セメント原料50を導入してもよい。このように2つの導入部から同じ原料を導入してもよい。別の変形例では、衝突部材15Aの代わりに、
図6及び
図7の衝突部材15A’を有していてもよい。
【0049】
図9は、さらに別の実施形態に係るセメント原料供給装置を正面からみたときの本体部の内部を示す図である。
図9のセメント原料供給装置103は、
図1のセメント原料供給装置100の衝突部材15Aの代わりに、衝突部材15Cを備える。その他の部分は、セメント原料供給装置100と同様であってよい。
【0050】
衝突部材15Cは、下端にフック部15fが形成されている。このフック部15fに衝突部材15Cに衝突したセメント原料50の一部が堆積する。
図9では、フック部15fに堆積しているセメント原料を白抜きの粒子として示している。セメント原料50が、衝突部材15Cのフック部15f上に堆積すると、その後、セメント原料50の一部は、フック部15f上の堆積物に衝突する。これによって、衝突部材の摩耗を抑制することができる。フック部15f上の堆積物は、衝突部材15Cに付着していてもよい。
【0051】
セメント原料供給装置103の変形例では、
図6に示すような第2導入部22を設けて本体部10に再粉砕原料55を導入してもよいし、
図8に示すような第3導入部24を設けて再粉砕原料57を導入してもよい。この場合、フック部15f上の堆積物の少なくとも一部は再粉砕原料57であってもよい。
【0052】
図10(A)は、
図1のセメント原料供給装置100の導出部30において導出されるセメント原料の例を示す写真である。
図10(A)では、写真の上から下に向かってセメント原料が導出部30であるコンベアで搬送されている様子を示している。
図10(A)では、セメント原料の粒径の偏りが十分に低減されている。セメント原料供給装置101,102,103においても、同様にセメント原料の粒径の偏りを十分に低減することができる。このように、セメント原料供給装置100,101,102,103によれば、流通するセメント原料の粒径の分布の均一性を向上することができる。これによって、シンプルな装置構成で、細粒物のみが集中して落下する部分が生じることを抑制し、内部空間12を構成する内壁10a及び下流側の投入シュート40の内壁に付着物が形成されることを抑制できる。
【0053】
図10(B)は、
図11のセメント原料供給装置200の導出部230において導出されるセメント原料の例を示す写真である。
図10(B)も、写真の上から下に向かってセメント原料が導出部230であるコンベアで搬送されている様子を示している。
図10(B)では、写真の左側に粗粒物が偏っている。この場合、
図11に示されるように、本体部210の右側、及び、投入シュート240の右側に細粒物が付着して付着物91,92が形成される。
【0054】
図10(C)は、
図12のセメント原料供給装置201の導出部230において導出されるセメント原料の例を示す写真である。
図10(C)も、写真の上から下に向かってセメント原料が導出部230であるコンベアで搬送されている様子を示している。
図10(C)では、写真の右側に粗粒物が偏っている。このため、
図12に示されるように、本体部210の左側、及び、投入シュート240の左側に細粒物が付着して付着物93,94が形成される。
【0055】
一実施形態に係るセメントクリンカの製造設備は、上述のセメント原料供給装置100,101,102,103のいずれか又はその変形例と、そのセメント原料供給装置から供給されるセメント原料を粉砕する粉砕装置と、当該粉砕装置で粉砕されたセメント原料を焼成する焼成装置とを備える。
【0056】
図13は、セメント原料を焼成する焼成装置の一例を示す図である。セメント原料供給装置100(101,102,103)の導出部30から導出されるセメント原料は、例えば、投入シュート40を介して原料ミルで破砕される。原料ミルで粉砕され、必要に応じて分級されたセメント原料は、セメント原料を、予熱及び仮焼する導入部151と、予熱及び仮焼されたセメント原料を焼成してセメントクリンカを得るキルン152と、キルン152で得られたセメントクリンカを冷却するクリンカクーラ153とを備える焼成装置150に導入される。導入部151は、4つのサイクロンC1,C2,C3,C4(プレヒータ)と仮焼炉112とを有する。
【0057】
キルン152の窯尻122と導入部151の仮焼炉112はライジングダクト114で接続されている。ライジングダクト114には、ライジングダクト114内の排ガスを抽気して、抽気ガスを塩素バイパス140に導入するプローブ142が接続されている。
【0058】
塩素バイパス140は、プローブ142側から、抽気ガスを冷却する冷却部143、チャンバ145、熱交換器146、集塵器147及び吸引ファン148をこの順に有する。抽気ガスは冷却部143及び熱交換器146で揮発性アルカリ塩の融点以下に冷却される。冷却に伴って析出した、抽気ガスに含まれるクリンカダストは、集塵器147で回収される。吸引ファン148から排出される排出ガスは、例えば、セメントクリンカの冷却ガスとして、クリンカクーラ153に導入されてもよい。塩素バイパス140を備えることによって、焼成装置150内の揮発性成分を低減することができる。
【0059】
導入部151のサイクロンC1とサイクロンC2との接続部から導入されるセメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2、サイクロンC3、ライジングダクト114、仮焼炉112、サイクロンC4を流通してキルン152の窯尻122に到達する。キルン152では、予熱及び仮焼されたセメント原料が、本体部126の後端側に設けられたバーナ124の燃焼によって加熱されセメントクリンカとなる。得られたセメントクリンカは、クリンカクーラ153で冷却される。クリンカクーラ153によって冷却された後、セメントクリンカが得られる。
【0060】
このように、セメント原料供給装置100,101,102,103のいずれか又はその変形例を備えるセメントクリンカの製造設備は、付着物によって設備内部が閉塞することを抑制できる。したがって、導入部151に導入されるセメント原料を安定的に製造することが可能であり、セメントクリンカの製造設備を安定的に運転することができる。そして、セメントクリンカを安定的に製造することができる。
【0061】
一実施形態に係るセメントクリンカの製造方法は、セメント原料供給装置から供給されるセメント原料を粉砕する工程と、粉砕されたセメント原料を焼成してセメントクリンカを得る工程、を有する。このセメントクリンカの製造方法は、セメント原料供給装置100,101,102,103のいずれか又はその変形例を用いてよい。上記工程では、セメント原料供給装置から供給されるセメント原料を粉砕し、
図13に示すような焼成装置150に粉砕されたセメント原料を供給してセメント原料を焼成してセメントクリンカを得る。この製造方法では、上記セメント原料供給装置100,101,102,103のいずれか又はその変形例から供給されるセメント原料を用いるため、付着物によって設備内部が閉塞することを抑制できる。そのため、セメント原料を安定的に製造することが可能となり、セメントクリンカを安定的に製造することができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、導出部30から導出されるセメント原料は、投入シュート40を通過する前に、シールホッパー、ロールフィーダー、三段ゲート等の設備を通過させてもよい。このような設備においても付着物が生じることを抑制することができる。導出部30はロールフィーダーであってもよい。
【0063】
また、幾つかの例では、全ての原料調合が完了した後のセメント原料、すなわち、原料ミルに投入されるセメント原料について説明したが、これに限定されない。例えば、セメント原料は、原料調合が完了する前のものであってもよい。例えば、1つのベルトコンベアから粒径が大きく異なる2種類以上のセメント原料(例えば、焼却灰、石炭灰、石灰石、鉄源、及びスラグから選ばれる二種)が本体部に導入される場合にも適用できる。この場合も、上記各実施形態のように本体部内に衝突部材を設け、本体部の内部空間を落下するセメント原料の一部のみの落下方向を変えることによって、粒径の偏りを抑制し、セメント原料の粒径の分布の均一性を向上することができる。これによって、シンプルな装置構成で設備の内壁に付着物が形成されることを抑制できる。また、セメント原料の抜き出し不良等の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0064】
10,210…本体部、10A,210A…絞り部、10a,10b…内壁、12,212…内部空間、15…枠体、15A,15A’、15C,215…衝突部材、15a,15d…板状部材、15f…フック部、16…衝突面、18…導出口、20…導入部(第1導入部)、22…第2導入部,24…第3導入部,220…導入部、30,230…導出部、40,240…投入シュート、50,250…セメント原料、55,57…再粉砕原料、91,92,93,94…付着物、100,101,102,103,200,201…セメント原料供給装置、112…仮焼炉、114…ライジングダクト、122…窯尻、124…バーナ、126…本体部、140…塩素バイパス、142…プローブ、143…冷却部、145…チャンバ、146…熱交換器、147…集塵器、148…吸引ファン、150…焼成装置、151…導入部、152…キルン、153…クリンカクーラ、C1,C2,C3,C4…サイクロン。