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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152257
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】加熱装置および加熱方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/74 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
H05B6/74 F
H05B6/74 A
H05B6/74 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054962
(22)【出願日】2021-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム シーズ育成タイプ 「無電極高効率発熱ランプを用いた次世代超低消費電力型加熱装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】517108527
【氏名又は名称】テクノリサーチ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 俊之
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 智由
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 和泉
【テーマコード(参考)】
3K090
【Fターム(参考)】
3K090AA02
3K090BB03
3K090CA01
3K090PA03
(57)【要約】
【課題】加熱装置において、様々な構成や形態が可能な発熱体に対し、被加熱物の短時間での加熱を実現可能にする。
【解決手段】マイクロ波を反射する反射容器20の開口部20Aに発熱体ユニット130を配置することによってマイクロ波照射空間MSが形成された加熱装置10において、アンテナ60がマイクロ波照射空間MSに配置し、軸回転させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を反射する容器と、
前記容器内のマイクロ波照射空間に配置され、マイクロ波を吸収して発熱する発熱材を有する発熱体と、
前記マイクロ波照射空間に配置され、前記マイクロ波照射空間へ放射されたマイクロ波を散乱可能なアンテナと
を備えたことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記アンテナが、前記マイクロ波照射空間内の電界強度分布を、前記発熱材の加熱を均一化する電界強度分布に近づけることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記アンテナが、前記マイクロ波照射空間の電界強度分布を均等化する、または均等化に近づけることを特徴とする請求項1または2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記アンテナが、少なくとも部分的に前記発熱体と対向する位置に配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項5】
前記容器内へマイクロ波を導く導波管をさらに備え、
前記導波管と、前記アンテナと、前記発熱体とが、少なくとも部分的に位置が互いに重なるように、並んで配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項6】
前記アンテナが、容器縦方向に沿って、前記発熱体より前記マイクロ波照射空間の中央側で、かつ、前記マイクロ波照射空間の底より上に配置されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項7】
前記アンテナが、前記マイクロ波照射空間を横断するように延びるプレート部分を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項8】
前記アンテナが、位置変動可能であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項9】
前記アンテナが、一定回転速度または回転速度を変えながら軸回転可能であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項10】
マイクロ波を反射する容器内のマイクロ波照射空間に、マイクロ波を吸収して発熱する発熱材を有する発熱体を配置し、
前記マイクロ波照射空間に、前記マイクロ波照射空間へ放射されたマイクロ波を散乱可能なアンテナを配置する
ことを特徴とする加熱方法。
【請求項11】
マイクロ波を反射する容器と、
前記容器内のマイクロ波照射空間に配置され、マイクロ波を吸収して発熱する発熱材を有する発熱体と、
前記マイクロ波照射空間に配置されるアンテナとを備え、
前記アンテナが、前記マイクロ波照射空間内の電界強度分布を、前記発熱材の加熱を均一化する電界強度分布に近づけることを特徴とする加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を吸収して発熱する発熱体を用いて被加熱物を加熱する加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物やセラミックスなどを焼成する加熱装置として、マイクロ波を利用した加熱装置が知られている(特許文献1参照)。そこでは、カーボンである発熱材を管内に充填した発熱体を、マイクロ波反射容器内に格納し、被加熱物を発熱体傍に配置する。マイクロ波発振機によって発振されたマイクロ波をカーボン発熱材が吸収することによって、発熱体が加熱され、被加熱物を加熱、焼成、あるいは乾燥などさせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-165608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発熱体の形状や形態などは、加熱装置の構成、発熱体の設置場所、被加熱物の種類や使用目的などに合わせて適宜定めることも可能であり、例えば発熱体の形状を、管状だけでなく環状形態することも可能である。その一方で、発熱体はマイクロ波吸収によって早期に発熱する特徴があることから、被加熱物の加熱をできるだけ短時間で行うことが望ましい。
【0005】
したがって、様々な構成や形態が可能な発熱体に対し、被加熱物の短時間での加熱を実現可能にすることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様である加熱装置は、マイクロ波を反射する容器と、容器内のマイクロ波照射空間に配置され、マイクロ波を吸収して発熱する発熱材を有する発熱体と、アンテナとを備える。
【0007】
本発明のアンテナは、マイクロ波照射空間に配置され、マイクロ波照射空間へ放射されたマイクロ波を散乱可能なアンテナとして構成される。ここでのアンテナには、一次放射器としてのアンテナは含まれない。
【0008】
アンテナは、マイクロ波照射空間内の電界強度分布を、発熱材の加熱を均一化する電界強度分布に近づけるように構成することが可能である。例えば、アンテナが、マイクロ波照射空間の電界強度分布を均等化する、または均等化に近づけるように構成することで、発熱材の加熱均一化を図ることができる。
【0009】
アンテナは、マイクロ波照射空間内において様々な配置構成が可能であり、容器縦方向に沿って、発熱体よりマイクロ波照射空間の中央側で、かつ、マイクロ波照射空間の底より上に配置させることができる。
【0010】
例えば、アンテナは、少なくとも部分的に発熱体と対向する位置に配置することが可能である。また、容器内へマイクロ波を導く導波管と、アンテナと、発熱体とが、少なくとも部分的に位置が互いに重なるように、並んで配置させることができる。
【0011】
アンテナは、様々な形状で構成することが可能であり、マイクロ波照射空間を横断するように延びるプレート部分を設けた構成にすることができる。例えば、プロペラ形状にすることが可能である。
【0012】
アンテナは、マイクロ波照射空間内において、位置変動させるようにすることができる。例えば、アンテナが、一定回転速度または回転速度を変えながら軸回転可能なように構成することができる。
【0013】
本発明の一態様である加熱方法は、マイクロ波を反射する容器内のマイクロ波照射空間に、マイクロ波を吸収して発熱する発熱材を有する発熱体を配置し、マイクロ波照射空間に、マイクロ波照射空間へ放射されたマイクロ波を散乱可能なアンテナを配置する。
【0014】
本発明の他の態様である加熱装置は、マイクロ波を反射する容器と、容器内のマイクロ波照射空間に配置され、マイクロ波を吸収して発熱する発熱材を有する発熱体と、マイクロ波照射空間に配置されるアンテナとを備える。そして、アンテナは、マイクロ波照射空間内の電界強度分布を、発熱材の加熱を均一化する電界強度分布に近づけるように構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加熱装置において、様々な構成や形態が可能な発熱体に対し、被加熱物の短時間での加熱を実現可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態である加熱装置の概略的内部構成図である。
図2】発熱体を複数本互いに隣接配置させた発熱体ユニットの概略平面図である。
図3】本実施形態におけるアンテナを示した図である。
図4】アンテナを回転させたときの回転速度(角速度)を示したグラフである。
図5A】アンテナを回転角度Φ0°~50°に位置決めしたときの電界強度分布を例示的に示した図である。
図5B】アンテナを回転角度Φ60°~90°に位置決めしたときの電界強度分布を例示的に示した図である。
図6】シミュレーション結果による電界強度分布を示した図である。
図7】シリコン基板のシート抵抗測定分布を示した図である。
図8】シリコン基板の活性化率分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態である加熱装置の概略的構成図である。図2は、発熱体を複数本互いに隣接配置させた発熱体ユニットの概略平面図である。
【0019】
加熱装置10は、マイクロ波を利用して被加熱物Kを加熱、焼成あるいは乾燥等可能な装置であり、ここではマイクロ波多重反射型加熱装置として構成されている。加熱装置10は、耐熱性のある円筒状反射容器(キャビティ)20と発熱体30とを備え、また、1つあるいは複数のマイクロ波発振機(図示せず)と、マイクロ波発振機を制御可能な電源回路(図示せず)とを備えている。
【0020】
反射容器20は、マイクロ波を反射する反射面(内壁)20Rを有し、発熱体30を反射容器20の開口部20Aを塞ぐように設置することによって、内部空間(以下、マイクロ波照射空間という)MSが形成される。
【0021】
発熱体30を搭載した支持部材90は、反射容器20に対して取り外し自在に設置可能であり、反射容器20の挿入口(図示せず)から挿入可能である。反射容器20の底面20Bの一部は、マイクロ波発振機から発振されるマイクロ波を反射容器20へ導く導波管50A、50Bと繋がっている。
【0022】
導波管50A、50Bは、ここでは、容器上下方向(以下、縦方向ともいう)を向けて開口領域が拡大するホーン部(フレアともいう)が形成された端部51A、51Bを有し、それぞれ端部51A、51Bは反射容器20の底面20Bから突出している。マイクロ波発振機から発振されたマイクロ波は、導波管50A、50Bを介して反射容器20に向けて放射される。
【0023】
発熱体30は、ここでは、棒状の発熱体を(紙面に対し垂直方向に)複数本互いに隣接配置させた発熱体ユニット130として構成され、フレーム形状の支持部材90によって支持される。発熱体30は、マイクロ波を吸収して発熱する粉粒体状のカーボンCFを細長の発熱管133に封入、充填させた管状部材であり、発熱管133は、マイクロ波を透過する素材(ここでは石英ガラス)によって成形されている。
【0024】
発熱体30は、カーボンCFを充填させた部分(発熱部)131と、カーボンCFが充填されない部分(非発熱部)132A、132Bとから成る。ここでは、発熱部131の長さを変えた24種類の発熱体30を55本隣接配置させたユニットとして構成し、両端に配置される発熱体30の発熱部131が最も短く、真ん中に配置される発熱体30の発熱部131が最も長い。
【0025】
すなわち、図2に示すように、発熱体ユニット130を上から見たときに、発熱部131の領域で円状となるように発熱体30が配置され、発熱部131は円筒状の反射容器20の開口部20Aのエリアに収まる。一方、支持部材90に支持された非発熱部132A、132Bは、開口部20Aのエリアから外れる。
【0026】
発熱管133におけるカーボンCFの粒径および充填率、発熱管133へ封入される希ガスの種類、ガス圧(封止圧)は任意に調整可能であり、例えば、充填率0.12、粒径5μm、Arガス、ガス圧14kPaなどに定めることができる。発熱管133の長さや径の大きさも、反射容器20のサイズや配置の仕方によって適宜定めることができる。
【0027】
なお、複数の棒状発熱体を配列したユニットによって発熱体を構成する代わりに、反射容器20を小型化し、1本の棒状発熱体で構成してもよい。また、粉粒体以外の発熱材によって発熱体を構成してもよい。さらに、半円状の発熱体、平板状の一体的な発熱体など様々な構成や形態にすることも可能である。
【0028】
マイクロ波照射空間MSが、発熱体30よりも下方(容器中央側)に形成される一方、反射容器20の発熱体30より上方側には、加熱室(加熱空間)HSが形成されている。被加熱物Kは、図示しない支持部材によって加熱室HSに設置され、また、加熱室HSの天井面20Tには、反射板MRが形成されている。天井面20Tには、放射温度計110で温度を測定するための窓120が設けられている。
【0029】
マイクロ波発振機によってマイクロ波を発振させると、マイクロ波照射空間MSに面する発熱体30は、マイクロ波を吸収して発熱する。そして、加熱空間HSに配置された被加熱物Kは、発熱体30の発熱によって加熱される。
【0030】
反射容器20と発熱体30によって形成されるマイクロ波照射空間MSには、アンテナ60が配置されている。アンテナ60は、マイクロ波照射空間MSへ導かれたマイクロ波に対して再放射可能、あるいは反射可能であり、また、反射容器20に反射したマイクロ波に対しても再放射(反射)することが可能であり、マイクロ波照射空間MSのマイクロ波を散乱および/または拡散させる機能をもつ。
【0031】
図3には、本実施形態におけるアンテナ60を示している。アンテナ60は、ここでは、反射容器20の左右方向(以下、横方向ともいう)を長手方向とするプロペラ形状として構成され、マイクロ波照射空間MSを左右方向に沿って横断するように延びている。
【0032】
アンテナ60は、2つの矩形状プレート部80A、80Bを備え、2つのプレート部80A、80Bの間にシャフト65が接続されている。ここでのプレート部80A、80Bは、そのサイズ、形状が同じであり、z方向(シャフト65)に関して対称的な配置となっている。また、プレート部80A、80Bは、z方向に対して所定角度θL、θRだけ傾斜し、互いに同じ方向を向くように取り付けられている。例えば、角度θL、θRをそれぞれ45°に設定することが可能である。
【0033】
アンテナ60には、長手方向に沿った両プレート部を含めた長さLの中間位置を中心ラインとしたとき、セラミック製など絶縁性のシャフト65がそのライン上に沿って取り付けられている。そのため、アンテナ60は、シャフト65に関して対称的であり、また、上記ラインが反射容器20の容器上下方向に沿った中心軸Cと一致するため、反射容器20に対して同軸的配置にもなっている。
【0034】
アンテナ60は軸回転可能であり、反射容器20の底面20Bより上方に位置することで反射容器20と絶縁している。シャフト65はサーボモータ(図示せず)と接続し、図示しないコントローラがサーボモータを制御する。これによって、アンテナ60の位置(角度)、回転速度、増速および減速、動作時間などが設定、調整可能となる。なお、サーボモータ以外によってアンテナ60の回転制御を行ってもよい。このような回転制御や加熱に耐える必要性があることから、アンテナ60は、軽量で耐熱性を有する金属が望ましく、例えばチタンやステンレスといった素材で構成することが可能である。
【0035】
アンテナ60の容器左右方向に沿った長さLは、反射容器20の内壁20R近くまでその両端が位置するように定められ、発熱体30の長さに合わせて定めてもよい。アンテナ60までの上下方向に沿った高さH(プレート中心ラインとシャフトとの接続部)は、アンテナ60の短手方向両端が発熱体30付近に位置するような高さに定められている。アンテナ60の幅Wは、例えばシャフト65を取り付け可能な幅にすることができる。
【0036】
アンテナ60は、容器上下方向に沿って発熱体ユニット130と少なくともその一部が対向するように配置されている。また、アンテナ60は、導波管50A、50B(導波管端部51A、51B)に対してもその一部が対向するように位置している。したがって、アンテナ60は、容器上下方向から見たとき、互いに位置が重なり合うように並んでいる。
【0037】
図1では、アンテナ60が、所定角度の位置で位置決めされた状態であり、ここでは、(中心軸Cラインに沿った)反射容器20の径方向中心付近を原点としてx-y-z座標系を規定し、また、x方向を発熱体30の延びる方向となるように定めている。
【0038】
反射容器20内に設けられたアンテナ60は、軸回転(図1の矢印参照)することによって、導波管50A、50Bを通じてマイクロ波照射空間MSへ1次放射されたマイクロ波、反射容器20に反射したマイクロ波などを散乱させ、電界強度分布を変化させることができる。
【0039】
ここでは、アンテナ60の軸回転により、電界強度分布を均等化させるように構成されている。具体的には、x-y座標系で見たときの2次元電界強度分布の均等化を図る、あるいは均等化に近づくように、アンテナ60が機能する。
【0040】
電界強度分布が均等化する、あるいは均等化に近づくことにより、マイクロ波照射空間MSにおけるマイクロ波は、容器横方向に沿って横断する発熱体30に対し、偏りなく吸収される。発熱体30が全体的にムラなく発熱することによって、被加熱物Kに対しても、加熱の均一化を図ることができる。
【0041】
特に、アンテナ60が発熱体30と対向位置にあり、また、導波管50A、50Bとの間に配置されることで、同一ライン上に沿った並びとなり、効果的に発熱体30へのマイクロ波吸収を実現させることができる。
【0042】
また、反射容器20は、発熱体30によって加熱室HSとマイクロ波照射空間MSとの間で空間が区分けされている。そのため、被加熱物Kの配置場所に対する考慮することなく、アンテナ60を反射容器20の中心部に配置し、横断的な長さを持つ形状に設定することが可能であり、アンテナ60のサイズ、配置位置なども自由に設定しやすい。
【0043】
このように本実施形態によれば、マイクロ波を反射する反射容器20の開口部20Aに発熱体ユニット130を配置することによってマイクロ波照射空間MSが形成された加熱装置10において、アンテナ60がマイクロ波照射空間MSに配置され、軸回転する。
【0044】
上述したプロペラ形状で構成されるアンテナ60は、電界強度分布の均等化を図る一例であり、他の形状によってアンテナ60を構成することも可能である。例えば、矩形状プレートとして、その短辺にシャフト65を取り付けて軸回転させることも可能であり、あるいは、容器横方向に沿って矩形状プレートを配置してシャフト65の上端部に取り付ける構成、L字形状のプレートでアンテナ60を構成することも可能である。
【0045】
さらには、アンテナ60を三角形状プレートにし、シャフト65をプレート底辺中心付近に取り付けた構成にすることも可能である。一方で、面をもつ任意のプレート形状を適宜適用することも可能であり、アンテナ形状に応じて、アンテナを回転させない(無回転)あるいは横軸回転させてもよい。
【0046】
アンテナ60は、回転速度を変えながら軸回転可能である。そのため、電界強度分布が均等化する、あるいは均等化に近づくように回転速度の変調を行うことができる。具体的には、アンテナ60が回転角度Φを変えながら一回転(0°~360)した場合の電界強度分布をシミュレーションなどで計算あるいは測定し、相対的に電界強度分布が均等化する位置にあるときの回転速度を、相対的に電界強度分布に偏りが生じている位置の回転速度と比べて低下させることが可能である。
【0047】
また、このようなアンテナ60を軸回転させることによって電界強度分布の均等化を図る構成だけでなく、軸回転以外の回転や往復運動などの動きによって、アンテナを位置変動させ、電界強度分布の均等化を図る構成にしてもよい。この場合、アンテナの位置変動、動き方に合わせたアクチュエータ、制御機構を設ければよい。さらに、アンテナの形状を複数のプレート形状、あるいはそれ以外の複雑な曲面をもつ形状にし、アンテナ位置を固定しながら、電界強度分布の均等化を図ることも可能である。
【0048】
以上の説明では、電解強度分布の均等化を図る構成を説明したが、発熱体30の形状、構成によっては、局所的に電界強度に偏りを持たせた方が、発熱体30の加熱均一化が効果的になる場合もある。例えば、球状の発熱体を構成した場合、そのような球状の発熱体の加熱が均一となるように、電界強度分布に電界強度の偏りが生じるアンテナ配置、アンテナの位置変動制御を行えばよく、また、アンテナを位置固定して実現することも可能である。発熱体30の構成や形態に制限されることなく、被加熱物Kを短時間で加熱可能である。すなわち、加熱均一化を実現する機能を備えたアンテナを設ければよい。
【0049】
本実施形態では、加熱室とマイクロ波照射空間を隔てた容器を備えた加熱装置として構成されているが、反射容器内にインナーシリンダを設け、インナーシリンダと発熱体とによってマイクロ波照射空間MSを形成してもよい。さらに、加熱室HSを別途設けず、マイクロ波照射空間MSを加熱室として形成する構成にすることも可能である。
【0050】
一方で、容器内を加熱空間と兼用するマイクロ波照射空間として形成した加熱装置の構成も可能である。また、導波管を通じてマイクロ波をマイクロ波照射空間へ放射させる代わりに、マイクロ波発振機から発振されたマイクロ波をマイクロ波照射空間MSへ放射する1次放射器(アンテナ)をマイクロ波照射空間付近に設けてもよい。
【0051】
以下、実施例に対するシミュレーションにより得られたアンテナの回転速度(角速度)および電界強度分布について説明する。
【実施例0052】
実施例1は、本実施形態に相当する加熱装置であり、プロペラ型アンテナを備えた加熱装置のモデルを構成した。ここでは、反射容器20の径を330mm、発熱体30までの高さを198mm、アンテナの両プレート部の長手方向長さを280mm、短手方向長さを30mm、プレート部80Aの角度θLを45°、プレート部80Bの角度θRを-45°、アンテナまでの高さH(プレート中心ラインとシャフトとの接続部)を105mmとする加熱装置をモデル化した。
【0053】
図4は、アンテナ60を回転させたときの回転速度(角速度)を示したグラフである。図4に示すように、0°~70°の間では回転速度に大きな変化がない一方、70°~90°に向けて回転速度を下げている。90°~180°、180°~270°、270°~360°の間でも、同様に回転速度を変調している。ただし、図3のアンテナ60の位置にあるときを0°として定めている。
【実施例0054】
次に、実施例2に対してシミュレーションにより得られた電界強度分布について説明する。
【0055】
実施例2の加熱装置は、プロペラ形状アンテナのプレート部の角度θL、θRをそれぞれ45°、アンテナまでの高さHを100mmとし、それ以外はすべて実施例1と同様の加熱装置をモデル化し、発熱解析用シミュレータソフトにより、マイクロ波発振時における入力電力を3000Wとしたときの電界強度分布を測定した。
【0056】
図5は、アンテナ60を回転角度Φ0°~90°に位置決めしたときの電界強度分布を例示的に示した図である。図5A(A)、図5B(J)に示すように、アンテナ60を90°で位置決めした場合、0°に位置決めした場合と比べて強度分布の偏りが少ない。そのため、図4に示すような回転速度制御をすることにより、アンテナ60の軸回転中、電界強度分布の均等化がより図られる。
【0057】
図6は、シミュレーション結果による電界強度分布を示した図である。図6(A)は、図4に示す最適速度変調によってアンテナを軸回転させたときのx-y座標系での平均電界強度分布を示す。図6(B)は、アンテナを一定回転速度で軸回転させたときの電界強度分布を示す。図6(C)は、アンテナを設けない場合の電界強度分布を示す。アンテナを配置して軸回転させた場合、アンテナを設けない場合と比べ、電界強度分布が均等化されていることが確認された。また、アンテナを一定速度で回転させる場合よりも、回転速度を変調させる方が電界強度分布がより均等化することが確認された。
【実施例0058】
次に、実施例3を用いて、リンを添加したシリコン基板に対する加熱実験の結果について説明する。
【0059】
実施例3は、実施例1、2で示した加熱装置モデルとは異なり、実際に試作した加熱装置として構成される。アンテナまでの高さHを100mmに調節したこと以外は、実施例1の加熱装置モデルと同様の構成である。リンを添加した直径300mmのシリコン基板に対し、800℃で170秒間加熱した。そして、加熱したシリコン基板のシート抵抗を測定し、シート抵抗分布を得た。
【0060】
図7は、シート抵抗測定分布を示した図である。図7(A)は、本実施形態と同様の回転速度の変調によってアンテナを軸回転させたときのx-y座標系でのシート抵抗測定分布を示す。図7(B)は、アンテナを設けない場合のシート抵抗測定分布を示す。アンテナを配置して軸回転させた場合、アンテナを設けない場合と比べ、シート抵抗がより広い面積範囲で低下していることが確認された。
【0061】
図8は、実施例4で用いたシリコン基板の電子移動度を120cm2/Vsとしたときの活性化率分布を示した図である。図8(A)は、本実施形態と同様の回転速度の変調によってアンテナを軸回転させたときのx-y座標系での活性化率分布を示す。図8(B)は、アンテナを設けない場合の活性化率分布を示す。アンテナを配置して軸回転させた場合、アンテナを設けない場合と比べ、より広い面積範囲で活性化率が大きくなっていることが確認された。
【0062】
このように、マイクロ波の電界強度分布がより均等化される効果が明らかとなり、好適な回転式アンテナの導入により電界強度の均等化が実現された。さらに、回転速度変調により、被加熱物のより均一な加熱を可能にすることが示された。
【符号の説明】
【0063】
10 加熱装置
20 反射容器(キャビティ)
30 発熱体
60 アンテナ
MS マイクロ波照射空間
K 被加熱物
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8