(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152284
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】検出装置及び放電検出システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20221004BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054996
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(72)【発明者】
【氏名】大塚 信也
(72)【発明者】
【氏名】古家 広貴
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA06
2G015AA30
2G015BA02
2G015BA04
2G015BA05
2G015BA06
2G015CA01
(57)【要約】
【課題】サンプリング周期の長い装置により、放電発生を検出する装置を提供する。
【解決手段】検出装置は、電気機器から発せられる信号を捕捉し、捕捉した信号を電気信号に変換する信号変換部と、電気信号の強さの減衰を遅延させる波形処理部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器から発せられる信号を捕捉し、捕捉した前記信号を電気信号に変換する信号変換部と、
前記電気信号の強さの減衰を遅延させる波形処理部と、
を備える検出装置。
【請求項2】
前記信号は前記電気機器から発せられる特定の周波数の電磁波であって、
前記特定の周波数は、前記電気機器の障害によって生じる放電に係る電磁波が持つ周波数を含み、かつ、正常な機器が発する既知の周波数を含まない、
請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
平板上の基板をさらに備え、
前記信号変換部及び前記波形処理部は、前記基板上のアナログ回路により実現される、
請求項1又は2に記載の検出装置。
【請求項4】
請求項1に記載の検出装置と、
前記検出装置により変換される電気信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器と、
前記デジタル信号を処理し、電気機器の放電の有無を判定する処理装置と、
を備え、
前記電気機器の放電が生じたときに前記検出装置が出力する前記電気信号のパルスの持続時間は、前記アナログデジタル変換器のサンプリング周期よりも長い、
放電検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置及び放電検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子機器や電力機器は、異常や劣化などにより放電を生じることがある。この放電を検知し時間変化特性を把握するために、放電により生じる電磁波パルスを測定する方法が知られている。この電磁波パルスの持続時間は使用するアンテナの周波数帯域によっても異なって見えるが、例えば30nsや300nsなどと1μs以下と短い。この周波数は、UHF帯と呼ばれる数百MHzから数GHzの周波数帯に含まれる周波数であるため、この測定方法はUHF法と呼ばれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この放電による電磁波は、ランダムに発生するだけでなく、瞬時に起こりうる、いわゆるパルスの波形であり、その持続時間は上述したように非常に短い。更に、上述したようにこの電磁波が発生する周波数帯域では、携帯電話やテレビ、無線などの各種通信や放送用の帯域としても使用されており、それら電磁波は常時放射されその強度は放電により放射される電磁波よりも高い。そのため、このような電波の影響等により放電による電磁波の測定は非常に難しい。
一方、上記内容を加味し、上記測定を行うために、一般的に、放電以外の電波を受信しないように周波数帯域により受信信号を選別することが必要であり、かつ常時信号を取得すると記録するデータの容量が膨大となるために、瞬時の電磁波波形だけを記録するようにトリガをかけた測定が行われる。例えば、トリガをかけることができ、UHF帯に含まれる周波数を有する正負に振動する短時間パルス波形を検出して処理可能な時間分解能を有するオシロスコープを用いた測定が行われている。しかしながらこのようなオシロスコープは高価であり使用するには高い専門知識を要するため、電力設備や工場あるいは家庭で気軽に簡単に使用するのは難しい。
本発明の目的は、上述した課題を解決する検出装置及び放電検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様によれば、検出装置は、電気機器から発せられる信号を捕捉し、捕捉した信号を電気信号に変換する信号変換部と、電気信号の強さの減衰を遅延させる波形処理部とを備える。
【0005】
本発明の第2の態様によれば、放電検出システムが、上記態様に係る検出装置と、前記検出装置により変換される電気信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器と、前記デジタル信号を処理し、電気機器の放電の有無を判定するする処理装置と、前記処理されたデジタル信号に基づいて放電発生源を制御する制御装置と、を備える。前記アナログデジタル変換器のサンプリング周期は、前記電気機器の放電が生じたときに前記検出装置が出力する前記電気信号のパルスの持続時間は、前記アナログデジタル変換器のサンプリング周期よりも長い。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、低いサンプリング周波数、すなわち長いサンプリング周期で放電を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】検出抵抗130を10kΩとし、オシロスコープを用いて500ミリ秒間電磁波を測定した結果を示す図である。
【
図5】抵抗130の抵抗値別の波形を示す図である。
【
図6】検出装置20により電磁波パルスが変換された結果生じた電流パルスの実験結果を示す図である。
【
図7】処理装置30によりアナログデジタル変換器25から受信されるデジタル信号の実験結果を示す図である。
【
図8】処理装置30によりアナログデジタル変換器25から受信されるデジタル信号の実験結果を示す図である。
【
図10】放電検出システム1の動作を示すフローチャートである。
【
図11】放電検出システム1の構成を示す図である。
【
図12】放電検出システム1の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〈第1の実施形態〉
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係る検出装置20を示す図である。第1の実施形態に係る検出装置20は、電気機器10の障害によって、あるいは正常な動作によることも含めて電気機器10から放射される電磁波を検出する。電気機器10は、例えば家庭の電化製品や工場や変電所の電力機器であってよい。電気機器10は、絶縁異常、絶縁劣化、トラッキング、断線などの障害によって、高周波の電磁波を放射する。障害によって電気機器10が放電する電磁波は、通常、持続時間が1μs以下であり、UHF帯と呼ばれる数百MHzから数GHzの周波数帯に含まれる周波数で振動する。電気機器10は、空気清浄機や高輝度ランプのように正常動作時に放電現象を伴う機器もあり、そのような機器からもUHF帯を含む周波数成分を含む電磁波が放射される。このような正常な機器に障害が起こると、逆に放電が起こりにくくなることがある。
【0009】
検出装置20は、UHF帯に含まれる周波数のうち、電気機器10の障害によってあるいは正常な放電を利用する動作でも生じる特定の周波数の電磁波を受信し、電気機器10の通常運転時に生じる周波数の電磁波を受信しないように設計される。電気機器10の通常運転時に生じるあるいは使用する周波数の例としては、ISMバンドに係る周波数(915MHz帯、2.45GHz帯)や、移動体通信に用いられる周波数(700MHz帯、800MHz帯、1.5GHz帯、1.7GHz帯、2GHz帯)などが挙げられる。したがって第1の実施形態に係る検出装置20は、例えば、1GHz帯の電磁波を受信するように設計される。1GHz帯の電磁波は、放電により発生する電磁波パルスの周波数帯域には含まれるが、ISMバンドには含まれない。そのため、検出装置20は、無線LANや携帯電話、あるいはTV放送などによる電磁波を受信せず、障害によってあるいは正常な放電を利用する動作でも放射される電磁波を選択的に受信することができる。なお、検出装置20が受信する周波数帯は、必ずしも1GHz帯でなくてもよい。例えば、ISMバンドに係る周波数帯であっても電気機器10の使用環境において通信波などの恒常的な強い電磁波が存在しない周波数帯であれば、検出装置20は、当該周波数帯の電磁波を検出してもよい。つまり、検出装置20は、ISMバンドに係る周波数帯域や、移動体通信に用いられる周波数帯域等を避けた特定の周波数帯域に設定することが可能であり、放電による電磁波を受信することができる。
【0010】
《検出装置20の構成》
図2は、検出装置20の構成を示す図である。検出装置20は、アンテナ部201と波形処理部202とを備える。検出装置20は、アナログ回路によって構成される。
アンテナ部201は受信した電磁波を電気信号に変換する。アンテナ部201は、例えば、ダイポールアンテナやパッチアンテナによって構成される。またアンテナ部201は、ダイポールアンテナやパッチアンテナだけでなくホーンアンテナやバイログアンテナなどの市販のアンテナによって構成されてもよい。アンテナ部201は、電気機器から発せられる信号を捕捉し、捕捉した前記信号を電気信号に変換する信号変換部の一例である。
【0011】
波形処理部202は、アンテナ部201により変換される正負に振動する電気信号を整流することで単極性のパルスの電気信号の波形に処理し、さらにその電気信号の減衰を遅延させる。すなわち、波形処理部202は、アンテナ部201が生成した電気信号の持続時間を長くし、例えば、一定の強度以上の電気信号が一定時間保たれるようにする。一定の強度及び一定時間は、波形処理部202に接続されるアナログデジタル変換器により電気信号がデジタル信号可能な強度及び時間である。つまり、波形処理部202は、アナログデジタル変換器のサンプリングレートに係る時間より長く、放電に係る電磁波と判別可能な強度の電気信号が保たれるように設計される。波形処理部202は、例えば、整流回路と積分器によって構成され、ダイオードや抵抗、キャパシタンスあるいはオペアンプなどの電気素子を用いて作成される。電気素子を変化させることで、電気信号が減衰する際の時定数も変化する。
また、波形処理部202には後述するように、整流時の帰還回路に、周波数が高くなる程インピーダンスが高くなる、インピーダンス非線形型の電気素子を用いて構成される。なお、本実施の形態については、一例としてインダクタンスを用いて説明する。
【0012】
《検出装置20の回路》
図3Aは、検出装置20を構成する回路の一例を示す図である。検出装置20の回路に関して、
図3Aに示すように、アンテナ素子110(110A、110B)とダイオード140(140A、140B、140C、140D)、インダクタ120(120A、120B)及び抵抗130で構成され、4つのダイオードのうち2つを各々並列に配置し、その回路を抵抗130でつなぐブリッジ回路を有する。また、このブリッジ回路と共に2つのアンテナ素子110を配置しブリッジ回路と接続され、更に、2つのアンテナ素子110の間に2つのインダクタ120(120A、120B)を設け2つのアンテナ素子110を接続し、ブリッジ回路、アンテナ素子110及びインダクタ120で正と負のそれぞれの整流回路に対応する閉回路が形成される。第1の実施形態に係る検出装置20は、全波整流を行う回路構成を有するが、他の実施形態に係る検出装置は、半波整流を行う回路構成を有していてもよい。また、第1の実施形態に係る検出装置20は、2つのアンテナ素子110を備えるが、他の実施形態に係る検出装置20は、アンテナ素子110を1つだけ備えるものであってもよい。
【0013】
検出装置20のアンテナ部201は、例えば、
図3Aに示すように2つのアンテナ素子110(110A、110B)によって実現される。検出装置20は、アンテナ素子110を2つ備えることで、電磁波の検出効率を向上することができる。また検出装置20の波形処理部202は、
図3Aに示すようにインダクタ120(120A、120B)、抵抗130、ダイオード140(140A、140B、140C、140D)、キャパシタンス150によって構成される。
【0014】
各々の素子の具体的な接続形態に関して説明する。
ダイオード140Aのアノードは、アンテナ素子110Aの第1端子T1に接続される。ダイオード140Aのカソードは、抵抗130に接続される。
ダイオード140Bのアノードは、アンテナ素子110Aの第2端子T2に接続される。ダイオード140Bのカソードは、抵抗130に接続される。つまり、ダイオード140Aとダイオード140Bとは、抵抗130に並列に接続される。
ダイオード140Cのアノードは、抵抗130に接続される。ダイオード140Cのカソードは、アンテナ素子110Bの第3端子T3に接続される。
ダイオード140Dのアノードは、抵抗130に接続される。ダイオード140Dのカソードは、アンテナ素子110Bの第4端子T4に接続される。つまり、ダイオード140Cとダイオード140Dとは、抵抗130に並列に接続される。
なお、ダイオード140は、逆電圧がかかったときに静電容量が現れるため、キャパシタンスとしても振る舞う。
【0015】
インダクタ120の具体的な配置に関し、インダクタ120Aの第1端は、アンテナ素子110Aの第1端子T1に接続される。インダクタ120Aの第2端は、アンテナ素子110Bの第3端子T3に接続される。つまり、アンテナ素子110Aの第1端子T1とアンテナ素子110Bの第3端子T3とはインダクタ120Aを介して接続される。
インダクタ120Bの第1端は、アンテナ素子110Aの第2端子T2に接続される。インダクタ120Bの第2端は、アンテナ素子110Bの第4端子T4に接続される。つまり、アンテナ素子110Aの第2端子T2とアンテナ素子110Bの第4端子T4とはインダクタ120Bを介して接続される。
インダクタ120は、高周波成分に対してハイインピーダンスとなるようにふるまう。そのため、インダクタ120を介して2つのアンテナ素子110を接続する回路は、整流時の帰還回路として機能する。
出力端子は、抵抗130の両端に設けられる。キャパシタンス150は、抵抗130に対して並列に存在する。このキャパシタンスは抵抗130に並列に挿入した素子により実現してもよいし、ダイオード140の逆方向動作時に発生するものと出力端子間の静電容量の合計と捉えてもよい。これ以外に、基板の誘電率や基板の配線間隔、基板の配線と基板裏面に接地がある場合に形成されるマイクロストリップ線路としての静電容量などを変更することでも調整可能である。
【0016】
各素子が上記のように接続されることにより、検出装置20を構成する閉回路は、4つの閉ループを有する。第1の閉ループは、アンテナ素子110Aからダイオード140A、抵抗130、ダイオード140D、及びインダクタ120Bを介してアンテナ素子110Aに接続される回路である。第2の閉ループは、アンテナ素子110Bからインダクタ120A、ダイオード140A、抵抗130、ダイオード140Dを介してアンテナ素子110Bに接続される回路である。第3の閉ループは、アンテナ素子110Aからダイオード140B、抵抗130、ダイオード140C、及びインダクタ120Aを介してアンテナ素子110Aに接続される回路である。第4の閉ループは、アンテナ素子110Bからインダクタ120B、ダイオード140B、抵抗130、ダイオード140Cを介してアンテナ素子110Bに接続される回路である。
【0017】
第1及び第2の閉ループと第3及び第4の閉ループとは、互いに反対の極性の電圧の場合に動作する。電磁波は、交流波形であり正負の値を伴って振動するため、波形処理部202は、上記の4つの閉ループを有することで、交流波形における正電圧及び負電圧の両方を同一方向の電流に変換して測定することが可能となる、いわゆる、全波整流回路として動作する。全波整流に関しては後述で詳細に説明する。なお、本発明では、4つのダイオード140を設け4つの閉ループで構成したが、例えば、1つのダイオード140と1つのアンテナ素子110を用いた1つの閉ループで構成してもよい。この場合、波形処理部202は、いわゆる半波整流回路として動作する。また、更にダイオード140とアンテナ素子110を設け、例えば、2つのダイオード140と2つのアンテナ素子110を用いた2つの閉ループで構成することも可能である。全波整流回路については、上記の整流回路では2つのアンテナ素子110を用いているが、1つのアンテナ素子110を用いて各電圧極性毎に1つの閉ループを構成することも可能である。これにより、1つのアンテナ素子110で検出装置20を構成することができるため、回路構造がシンプルとなり、装置自体のコンパクト化を図ることが可能である。
【0018】
波形処理部202は、上記の閉ループが形成されることにより、アンテナ素子110A、110Bが生成する電気信号を整流し、かつ時定数を長くすることができる。具体的には、アンテナ素子110A及び110Bにおいて、アンテナ素子110Aの第1端子T1の電圧が第2端子T2の電圧より高い場合、即ち、アンテナ素子110Bの第3端子T3の電圧が第4端子T4の電圧より高い場合、電流は、アンテナ素子110Aでは、上記の第1の閉ループに沿ってアンテナ素子110Aの第1端子、ダイオード140A、抵抗130、ダイオード140D、インダクタ120B、アンテナ素子110Aの第2端子の順に流れ、他方、アンテナ素子110Bでは上記の第2の閉ループに沿ってアンテナ素子110Bの第3端子T3、インダクタ120A、ダイオード140A、抵抗130、ダイオード140D、アンテナ素子110Bの第4端子T4、の順に流れる。他方、アンテナ素子110A及び110Bにおいて、アンテナ素子110Aの第1端子T1の電圧が第2端子T2の電圧より低い場合、即ち、アンテナ素子110Bの第3端子T3の電圧が第4端子T4の電圧より低い場合、電流は、アンテナ素子110Aでは、上記の第3の閉ループに沿ってアンテナ素子110Aの第2端子T2、ダイオード140B、抵抗130、ダイオード140C、インダクタ120A、アンテナ素子110Aの第1端子T1の順に流れ、アンテナ素子110Bでは、上記の第4の閉ループに沿ってアンテナ素子110Bの第4端子T4、インダクタ120B、ダイオード140B、抵抗130、ダイオード140C、アンテナ素子110Bの第3端子T3の順に流れる。このように正負を有する交流波形に係る電流が、並列配置した各ダイオード140を介して流れるようにすることにより、電気信号が整流され、単極性を有する直流成分が生成される。
【0019】
また上記において、各々ダイオード140B及びダイオード140Cまたはダイオード140A及びダイオード140Dは、逆電圧がかかる場合に、キャパシタンスとして振る舞う。更に、逆電圧のかかっているダイオード140の端子間や検出抵抗の端子間、あるいは検出抵抗と並列にキャパシタンスを挿入した場合の当該キャパシタンス素子による静電容量と抵抗の積が時定数CRとなり、波形処理部202とアンテナ素子110で構成させる回路の電気信号の波形形状を調整することができる。このようなキャパシタンスは、個々の素子間の距離、配線間あるいは配線と基板裏側の接地面との間もキャパシタンスとして機能する。これより、この時定数をある所定の値に定め、放電による電磁波に係る単極性のパルスの持続時間が、後述するアナログデジタル変換器25のサンプリング周期より長くなるように設定することができる。
【0020】
また、波形処理部202では、連続して発生する放電による電磁波を処理する際に、連続して処理された単極性のパルスが重ならないようにCR回路の時定数が設定される。放電による電磁波が連続して発生する場合、処理された単極性のパルスの持続時間が長くなると、次に発生した電磁波によるパルスと重畳した波形が形成される可能性がでてくる。連続といっても
図4に示すようにミリ秒オーダの差が存在するため、この時間まで引き延ばすと、1発の単極性パルスでも多数の点がサンプリングされ、処理にも時間を要するようになり、データ容量も大きくなる。また重畳された波形では電波強度も重畳された分だけ大きくなることから、例えば、後述するように、発生頻度や電波強度の大きさ等に基づく、障害の度合いや電気機器10の制御を行うことが困難となるおそれがある。そこで、波形処理部202では、CR回路に基づく時定数に基づき、パルスとして検出し、アナログデジタル変換器25のサンプリング周期より長くなるように設定しながら、連続する単極性のパルスが重ならないように処理される。
前述の
図4は、検出抵抗130を10kΩとし、オシロスコープを用いて500ミリ秒間電磁波を測定した結果を示す図である。
図4のグラフA及びBは、市販のアンテナによる電磁波の測定結果を示す。
図4のグラフCは、第1の実施形態に係る検出装置20による電磁波の測定結果を示す。検出抵抗130を変えると後述の
図5のように波形処理部202で形成される単極性パルスの持続時間が変化する。一方で
図4のグラフCに示すように、第1の実施形態に係る検出装置20によれば、市販のセンサAやBでの測定結果と同様に、同じ数のパルスが測定できていることがわかる。このように検出抵抗を調整して波形形成することで、パルスが重ならないようにして放電による電磁波を単極性のパルスに変換できる。
【0021】
図3Bは、ダイポールアンテナを用いた検出装置20の構成例を示す図である。
図3Bに示す例では、アンテナ素子110A、110Bは、いずれもダイポールアンテナである。
図3Bに示す例においては、アンテナ素子110Aは、二分の一波長の長さの1本の直線状のエレメントEaと2本のL字線路(第1L字線路L1a及び第2L字線路L2a)で構成される。第1L字線路L1aは、エレメントEaの一端から四分の一の長さの点から伸びる。第2L字線路L2aは、エレメントEaの他端から四分の一の長さの点から伸びる。同様に、アンテナ素子110Bは、二分の一波長の長さの1本の直線状のエレメントEbと2本のL字線路(第1L字線路L1b及び第2L字線路L2b)で構成される。第1L字線路L1bは、エレメントEbの一端から四分の一の長さの点から伸びる。第2L字線路L2bは、エレメントEbの他端から四分の一の長さの点から伸びる。
これにより、エレメントEa、Ebの中心が常にゼロ電位になるため、アンテナ素子110A、110Bは、仮想的に2つのエレメントを有するダイポールアンテナとして振る舞う。なお、他の実施形態においては、四分の一波長の長さの2つのエレメントを有するダイポールアンテナを用いてもよい。
【0022】
図3Bに示す例では、アンテナ素子110Aの第1端子T1は、第1L字線路L1aの先端に設けられる。アンテナ素子110Aの第2端子T2は、第2L字線路L2aの先端に設けられる。アンテナ素子110Bの第3端子T3は、第1L字線路L1bの先端に設けられる。アンテナ素子110Bの第4端子T4は、第2L字線路L2bの先端に設けられる。
図3Bに示す例では、検出装置20は誘導体基板上に形成され、素子同士は、幅を持った導体箔で形成された線路によって接続される。これにより、作動時に逆電圧がかかるダイオード140と互いに向き合う各素子の線路間にキャパシタンスが生じる。これにより、例えば、
図3Aに示すように、回路上の、ダイオード140A、Bとダイオード140C、Dとの間に抵抗130と並列にキャパシタンス150を設けたように、抵抗130と並列にキャパシタを有する回路として動作する。すなわち、第1の実施形態に係る検出装置20は、物理的なキャパシタ素子を設けなくても、キャパシタンス150を有する。
【0023】
図3Bに示すように、検出装置20をダイポールアンテナを用いた構成とすることで、平板上のコンパクトな基板に検出装置20を構成することができる。また、本実施の形態では、リジッドプリント基板を用いた例を示したが、他の実施形態では検出装置20は例えば、リジッド基板に代えてフレキシブル基板上に構成されてもよい。この場合、このような基板の上にパタンを形成すれば、ラウンドした平面上に形成した回路を構成でき、例えば、小型化等、装置の設計の自由度を高めることができる。
【0024】
なお、第1の実施形態では、ダイポールアンテナ110による電磁波の受信範囲を確保するため、検出装置20はマイクロストリップラインではなく、裏面にグラウンドプレーンを有しない基板で形成されるが、他の実施形態においては、アンテナ部以外をマイクロストリップラインやストリップラインで構成してもよい。また、アンテナ部をパッチアンテナで構成する場合には、検出装置20全体をマイクロストリップラインで構成してもよい。
また、本実施の形態では、上記のように
図3Bに仮想的にキャパシタンス150が設けられる例を示したが、
図3Aのように抵抗130と並列に物理的なキャパシタ素子を配置する等、抵抗130と積分回路を構成するように、回路上に物理的なキャパシタ素子を設けてもよい。
【0025】
ダイポールアンテナ110の長さ、使用するダイオード140(140A、140B、140C、140D)の種類、インダクタ120のインダクタンス及び抵抗130の抵抗値、およびこれら素子の配置を調整することにより、検出装置20が検出することができる周波数及び電気信号が減衰する際の時定数を変化させることができる。時定数は、連続して生じる放電による電磁波を処理した単極性のパルスが重ならないようにしながら、検出装置20に接続されるアナログデジタル変換器のサンプリング周期より長くなるように設定される。第1の実施形態ではダイオード140として、高周波用のショットキーバリアダイオードを用いる。第1の実施形態に係るダイポールアンテナ110のエレメントEの長さは、放電によって生じる電磁波の波長の2分の1の長さ(例えば90mm)に設定される。ダイポールアンテナ110のエレメントの長さを長くすることで、検出装置20が検出可能な電磁波の周波数は低くなる。
図5は、抵抗130の抵抗値別の波形を示す図である。
図5に示すように、抵抗130の抵抗値を大きくすることで、電気信号が減衰する際の時定数は長くなる。なお、減衰の時定数は抵抗値と静電容量の積で決定されるため、ダイオード140のキャパシタンス成分や、回路配線の伝送線路の幅や厚みあるいは線間距離を調整し、容量を大きくすることが好ましい。なお、検出装置20の少なくとも一部をマイクロストリップラインで構成することで、キャパシタンスを増加させることができる。
図3Bに示す基板は、長辺がダイポールアンテナ110の長さである90mm(1GHzの電磁波を受信するように設定された長さ)ほどである。抵抗130の抵抗値は10kΩ、インダクタ120のインダクタンスは220nHである。
【0026】
《実験結果》
図6は、障害によって生じる電磁波を捉えた検出装置20の出力波形を示す図である。グラフA及びグラフBは、1GHz周辺の周波数を含む電磁波を受信できる一般的なアンテナにより、1GHz周辺の周波数を含む電磁波を受信したときのアンテナの出力電圧の時間変化を示す図である。グラフCは、第1の実施形態に係る検出装置20が1GHz周辺の周波数を含む電磁波を受信したときの出力電圧の時間変化を示す図である。グラフA、グラフB及びグラフCは、いずれもオシロスコープによる計測結果を示す。
【0027】
グラフA及びグラフBに示される電圧は正負に振動して持続時間が短く、減衰が早く、いずれにおいても電圧がピーク値をとったときからグラフAでは30ns後に、グラフBでは300ns後には電磁波由来の電圧が検出されていない。これに対して、グラフCにおける電圧は、単極性であり、減衰が遅く、電圧がピーク値をとったときから15μs後であっても電磁波由来の電圧が検出されている。例えば、サンプリング間隔が10μsのアナログデジタル変換器を用いてデジタル信号の変換を試みる場合、グラフA及びグラフBに示す電圧は減衰が早いためアナログデジタル変換器の出力信号に電磁波由来の電圧が含まれない可能性がある。例えば、電圧のピーク部分がサンプリング間隔の間に生じる場合、及びサンプリングタイミングが電磁波パルス発生時と仮に一致している場合でも信号が負の値である場合に、適切にデジタル信号に変換することができない。これに対し、第1の実施形態に係る検出装置20によれば、グラフCに示すように出力電圧が単極性の正の値を示すパルスであり減衰が遅いため、サンプリング間隔が10μsのアナログデジタル変換器を用いても電磁波由来の電圧を含むデジタル信号に変換することができる。
【0028】
図7は、処理装置30によりアナログデジタル変換器25から受信されるデジタル信号の実験結果を示す図である。
図7に示すグラフにおいて、横軸は時間、縦軸は信号強度である。この実験においては電気機器10としてボイド放電を発生させるサンプルと電気トリー放電を発生させるサンプルを使用した。期間1では電気機器10を使用せず、期間2では電気機器10としてボイド放電を発生させるサンプルを使用し、期間3では電気トリー放電を発生させるサンプルを使用した。期間1における信号強度は放電による電磁波が発生していない条件での環境ノイズ(BGN:Background Noise)であることから、これらの信号は放電の検出においてはノイズである。期間1において検出される信号の強度は最大約20mVであることから、本実験においてノイズは最大約20mVであると考えられる。
期間2及び期間3において処理装置30が受信する信号の中には、信号強度がノイズよりも大きいものが含まれる。これらの信号は放電による電磁波が発生したことによる信号と考えられる。
【0029】
図8は、処理装置30によりアナログデジタル変換器25から受信されるデジタル信号の実験結果を示す図である。
図8に示す実験においては、
図7に示す実験とは異なり、処理装置30は、信号強度が50mV以上の信号のみをカウントするように設定されている。期間1から期間3までの期間において使用される電気機器10は、それぞれ
図8に示す実験で使用されたものと同じである。
期間1において信号は1つもカウントされていないが、期間2及び期間3において閾値である50mV以上の信号がいくつかカウントされている。このようにして、適切な閾値を設定し閾値以上の信号強度を持つ信号のみをカウントすることによって、放電により発生する電磁波パルスを検出することができる。
【0030】
《作用・効果》
このように、本実施形態によれば、検出装置20は、アンテナ部201により電気機器10の障害に伴って生じる電磁波を受信し、当該電磁波を正の単極性の電流パルスに変換し、かつ電流が減衰するのを遅らせる。これにより、検出装置20は、波形処理部202の時定数をアナログデジタル変換器のサンプリング周期より長くすることで、放電による電磁波パルス由来の電流を処理するアナログデジタル変換器が比較的長いサンプリング周期を有していても、適切に検出、処理することができる。また、第1の実施形態に係る検出装置20は、平板上の小さな回路として構成されることができる。これにより、家庭内など大きな装置を置くことができない環境にも検出装置20を設置することができる。
【0031】
〈第2の実施形態〉
《放電検出システムの構成》
第2の実施形態では、第1の実施形態に係る検出装置20を用いて電気機器10の放電を検出する放電検出システムについて説明する。
図9は、放電検出システム1の構成を示す図である。
放電検出システム1は、検出装置20、アナログデジタル変換器25、処理装置30、制御装置40を備える。第2の実施形態に係る処理装置30は、例えば、消費電力の小さい小型のシングルボードコンピュータ(SBC)で構成される。このようなコンピュータの処理能力は、一般的にオシロスコープなどの分析装置と組み合わせた専用の処理装置と比較して低いが、本発明では上記で述べた検出装置20を用いることにより、専用の処理装置と同様の処理を行うことが可能となる。つまり、放電検出システム1では、アナログデジタル変換器25で処理装置30が処理可能な程度の伝送速度で信号を伝送する必要があるため、検出装置20により、受信した電波の波形を調整し、低いサンプリング周波数でも標本を得ることができるように処理されたものがアナログデジタル変換器25に入力されるように構成される。また、放電検出システム1では、短時間パルスの電磁波の検知ができることに限らず、その電磁波は放電によるものであるかの識別を行い、放電である場合はその強度も把握することできるため、必要最小限の構成で安価かつ、省スペースで各種、機能を有することが可能である。第2の実施形態に係る放電検出システム1は、制御対象の電気機器10ごとに設けられる。なお、他の実施形態においては、放電検出システム1は部屋や測定領域に置かれ、一つあるいは複数の検出装置を用いることで放電が発生した方向を特定して、その方向にある電気機器10と関連付けが行われるように設定されてもよい。検出装置20は、制御対象の電気機器10の近傍に設けられることが望ましいが、上記のように電気機器から離れた場所に設置してもよく、例えば、電気機器10から伝搬してくる電磁波をアンテナが有する指向性の方向により特定することも可能である。以下にこのシステムについて詳細に説明する。
【0032】
検出装置20は、障害によって生じる電磁波に係る単極性パルスの持続時間が、アナログデジタル変換器25のサンプリング周期より長くなるように設定される。なお、検出装置20は、1つだけでなく複数設けることが可能である。
アナログデジタル変換器25は、検出装置20から送信された正の単極性の電流パルスをデジタル信号に変換する。アナログデジタル変換器25は、変換により生じたデジタル信号を処理装置30に送信する。処理装置30は、アナログデジタル変換器25より受信したデジタル信号を処理し電気機器10の放電による電磁波を評価する。
【0033】
ここで処理装置30に関して具体的に説明する。処理装置30は電気機器10の放電に関するさまざまな評価を行う機能を持たせたものとすることができる。例えば、第1の機能として、処理装置30は、このデジタル信号が入力されることにより放電による電磁波の存在を認識されるため、いわゆる、放電による電磁波の有無を評価するものである。この機能については、放電が起こりうる事象が、動作への影響等、対象とする電気機器10に対するものや、その電気機器10が用いられる電波環境に対して影響が大きい場合に非常に有効である。第2の機能としては、電波強度も取得可能であることから、例えば、ある値以上の時に放電が発生したことを判定したり、または、デジタル信号の強度をいくつかの段階に分け、放電の危険度の判定等により、状況の監視、状況表示や通報、警告等により評価するものである。この機能は例えば、故障等の異常発生の高い電気機器10や、危険度の監視が必要な設備や環境等への適用が有効である。更に、第3の機能として、電波強度の定量的大きさも把握できることから、上記のような、異常や危険度等の機器の作動への影響を配慮したものだけでなく、例えば、対象とする電気機器10が放電を常時、機能の一つとして利用する場合等、正常に作動しているかどうか、状況を監視しながら、検出される電磁波の大きさに基づいて対象とする電気機器10の作動を制御し安定した作動を維持、確保することで、放電の評価を行うものである。処理装置30は、上記の機能を1つまたは2つ、または全て有するものとして構成することができる。また放電の評価は、他の放電検知システムにより記録されたデータ、または自身の記録装置に過去に記録されたデータと比較して、放電の危険度や状態を評価することが含まれる。処理装置30は処理した結果に基づいて所定のアクションを実行する。具体的には、処理装置30は、処理結果に応じて、障害の度合い(放電無し、注意不要、軽度障害、重度障害)を示す表示をディスプレイやインジケータに表示させる。また処理装置30は、障害の度合いが重度である場合に、制御装置40に電気機器10へ供給する電力を制限させる指示を出力する。また処理装置30は、処理結果に応じて電子メールなどによってを制御装置40に送信してもよい。
【0034】
制御装置40は、上記の機能を有する処理装置30から受信した処理結果に基づいて電気機器10を制御する。制御装置40は、例えば、電気機器10と接続されたスイッチや、電気機器10に電力を供給する回路に設けられたブレーカであってよい。制御装置40は、例えば、処理結果が放電の危険度が高いことを示す場合に、電気機器10への電気の供給を停止する。また制御装置40は、例えば、処理結果が放電の危険度が高いことを示す場合に、電気機器10へ供給される電力を制限してもよい。
【0035】
アナログデジタル変換器25及び処理装置30は、波形処理部202が単極性の電流パルスの減衰を遅延化させていることから、アンテナ部201が受信する短時間電磁波パルスを検出し処理するための時間分解能を有する必要はない。例えば、検出装置20が検出する電圧がグラフCで示される電圧である場合、アナログデジタル変換器25のサンプリング周期は10μsでよい。
【0036】
《放電検出システム1の動作》
図10は、前述した機能を全て組み合わせた例として、放電検出システム1の動作を示すフローチャートである。
検出装置20のアンテナ部201は、電磁波を受信し、電磁波を電気信号に変換する(ステップS101)。生成された電気信号は、波形処理部202を通ることで、単極性の遅延時間の長いパルス状の電気信号に変換される(ステップS102)。アナログデジタル変換器25は、検出装置20の出力端子から電気信号を取得し、所定のサンプリング周期によって電圧の大きさとサンプリング時刻を有するデジタル信号に変換する(ステップS103)。アナログデジタル変換器25が生成したデジタル信号は、処理装置30に入力される。処理装置30は、入力されたがデジタル信号が表す電圧値に基づいて電気機器10の放電の有無を判定する(ステップS104)。例えば、処理装置30は、デジタル信号が所定の閾値を超える電圧値を示す場合に、電気機器10に障害による放電が生じていると判定する。
【0037】
処理装置30は、電気機器10が放電していると判定した場合(ステップS104:YES)、放電の状態を評価する(ステップS105)。例えば、処理装置30は、放電を示す電圧値の発生頻度が多いほど、電圧値が大きいほど、電圧値の変化の傾きが大きいほど、電気機器10の障害の度合いが重度であると判定する。処理装置30は、電気機器10の状態が重度の障害であると判定した場合(ステップS105:重)、制御装置40に電気機器10への電力の供給を制限させる指示を出力する(ステップS106)。制御装置40は、指示に従って電気機器10に供給する電力を制限する(ステップS107)。このとき、処理装置30は、ディスプレイやインジケータに電気機器10が重度の障害であることを表示させてもよい。例えば、処理装置30は、インジケータを赤色に点灯させる。また処理装置30は、ユーザが所持するスマートホンなどに電気機器10の障害を通知する信号や電子メールを送信してもよい。
【0038】
他方、処理装置30は、電気機器10の状態が軽度の障害であると判定した場合(ステップS105:軽)、処理装置30のディスプレイやインジケータに電気機器10が軽度の障害であることを表示させる(ステップS108)。例えば、処理装置30は、インジケータを黄色に点灯させる。処理装置30は、ユーザが所持するスマートホンなどに電気機器10の障害を通知する信号を送信してもよい。
【0039】
ステップS105において電気機器10に注意を要する程度の障害が生じていないと判定した場合(ステップS105:無)、処理装置30のディスプレイやインジケータに電気機器10に注意を要する程度の障害が生じていないことを表示させる(ステップS109)。例えば、処理装置30は、インジケータを青色に点灯させる。
また、ステップS104にて電気機器10が放電していないと判定した場合(ステップS104:NO)、処理装置30のディスプレイやインジケータに電気機器10に障害による放電が生じていないことを表示させる(ステップS110)。例えば、処理装置30は、インジケータを緑色に点灯させる。
【0040】
処理装置30は、ステップS104及びS105の判定結果をログデータとして内部の記録装置に記録する(ステップS111)。ログデータは、検出した電圧値、障害の程度、及び時刻を含む。上記の処理が、アナログデジタル変換器25のサンプリング周期ごとに、または処理装置30の計算周期ごとに実行される。なお、ログデータは放電が検出された場合にのみ記録されてもよい。これにより、ログデータの増大を防ぐことができる。
【0041】
《作用・効果》
このように、第2の実施形態に係る放電検出システム1によれば、検出装置20が捕捉した放電パルスに相当するパルス信号の持続時間が、アナログデジタル変換器25のサンプリング周期より長く構成される。このように構成することで、放電検出システム1は、シングルボードコンピュータのような簡易かつ安価な機器を用いて、電気機器10の放電を検出することができる。これにより、工場等に限らず、家庭内などにおいても電気機器10の障害を検出することができる。また、工場に配置する場合にも、放電検出システム1のコストを抑えることができる。
また、第2の実施形態に係る放電検出システム1によれば、検出装置20を
図3Bに示すような回路で構成することで、検出装置20のサイズを小さくし、またパルス信号の持続時間を長くすることでシングルボードコンピュータのような小型の機器で電気機器10の放電を検出することができる。これにより、例えば、検出装置20とアナログデジタル変換器25、処理装置30、及び制御装置40をコンパクトに一体化する等により、家庭内など、十分なスペースを確保することが困難な場所でも、放電検出システム1を設置することができる。別の実施形態として、検出装置20に用いる基板をフレキシブル基板とすることで、曲面を有する本体に合わせてアンテナや検出回路を構成することもできる等、装置の設計に対する自由度を高めることができる。
【0042】
また、第2の実施形態に係る放電検出システム1によれば、処理装置30は、ステップS104において電気機器10が放電していると判定した場合に、ステップS105で受電強度や頻度に基づいて放電の状態を評価する。これにより、処理装置30は、放電が発生した場合に電気機器10の故障の進行度合いに応じた処理を行うことができる。なお、他の実施形態においては、放電検出システム1は、必ずしも放電の状態の評価を行わず、放電の有無の検出により故障の有無を判定するものであってもよい。
【0043】
また、第2の実施形態に係る放電検出システム1によれば、処理装置30は、電気機器10を制御する制御装置40と連携し、電気機器10の状態に応じて電気機器10を制御することができる。例えば、電気機器10が電子レンジであって、誤って金属を内包したまま動作した場合に、放電検出システム1はマイクロ波が金属に当たって生じる放電を検出し、放電の大きさから危険度が高いと判断し、電子レンジを停止させることができる。これにより、電子レンジの故障や事故等を未然に防ぐことができる。なお、他の実施形態においては、放電検出システム1が必ずしも電気機器10の制御を行わず、故障の状態を光や音で報知するものであってもよい。
【0044】
〈第3の実施形態〉
《動作判定システムの構成》
第3の実施形態では、第1の実施形態に係る検出装置20を用いて電磁波を発する電気機器10が正常に動作しているか否かを判定する動作判定システムについて説明する。
図11は、動作判定システム2の構成を示す図である。第3の実施形態に係る電気機器10は、例えば空気清浄機や高輝度ランプのように、常時動作時に放電を生じる機器である。
動作判定システム2は、第2の実施形態に係る放電検出システム1と同様に、検出装置20、アナログデジタル変換器25、処理装置30、制御装置40を備える。第3の実施形態に係る動作判定システム2は、第2の実施形態と検出装置20が検出する電磁波の周波数帯と、処理装置30及び制御装置40の動作が異なる。
【0045】
第3の実施形態に係る検出装置20は、電気機器10の正常動作時に生じる放電の電磁波を捕捉するように構成される。例えば、検出装置20は、ISMバンドの電磁波を検出する。
処理装置30は、アナログデジタル変換器25より受信したデジタル信号の強度に基づいて電気機器10が正常に動作しているか否かを評価する。例えば、処理装置30は、電気機器10の動作中に所定の周波数帯の電磁波が発生している場合に、電気機器10が正常に動作していると判定する。また処理装置30は、電気機器10の動作中に生じている電磁波の強度が正常範囲を上回る場合もしくは下回る場合、または電磁波の発生頻度が正常範囲を上回る場合もしくは下回る場合に、電気機器10が異常であると判定する。また処理装置30は、電気機器10が動作中であるにもかかわらず電磁波が生じていない場合に、電気機器10が異常であると判定する。
【0046】
制御装置40は、処理装置30から受信した処理結果に基づいて電気機器10を制御する。制御装置40は、例えば、電気機器10と接続されたスイッチや、電気機器10に電力を供給する回路に設けられたブレーカと有線、または無線で接続され、電気機器10に電気が供給されているか否かを検出し、電気機器10が動作しているか否かを処理装置30に通知する。また、スイッチに関するその他の例として、例えば、電気機器10が接続されるコンセントに、ブレーカと有線、または無線で接続されるスイッチを設け、制御装置40と通信することにより、電気機器10の作動状況を検知することも有用である。このようにすることで、例えば、家庭やオフィス、個人事務所等、小規模の設備への適用する場合、有用である。
【0047】
《動作判定システム2の動作》
図12は、動作判定システム2の動作を示すフローチャートである。
検出装置20のアンテナ部201は、電磁波を受信し、電磁波を電気信号に変換する(ステップS201)。生成された電気信号は、波形処理部202を通ることで、単極性のパルス状の電気信号に変換される(ステップS202)。アナログデジタル変換器25は、検出装置20の出力端子から電気信号を取得し、所定のサンプリング周期によって電圧の大きさを示すデジタル信号に変換する(ステップS203)。アナログデジタル変換器25が生成したデジタル信号は、処理装置30に入力される。処理装置30は、入力されたがデジタル信号が表す電圧値に基づいて電気機器10の放電の有無を判定する(ステップS204)。
【0048】
処理装置30は、電気機器10が放電していると判定した場合(ステップS204:YES)、放電に係る電磁波に基づいて正常な動作状態であるか否かを評価する(ステップS205)。例えば、処理装置30は、電磁波の強度及び発生頻度が、機器ごとに予め定められた正常範囲内にある場合に、電気機器10が正常に動作していると判定する。他方、強度及び発生頻度の正常範囲からの乖離の度合いが大きいほど、電気機器10の正常の動作範囲でないと判定する。処理装置30は、正常の動作範囲でないと判定された電気機器10の状態が重度であると判定した場合(ステップS205:重)、制御装置40に電気機器10への電力の供給を制限させる指示を出力する(ステップS206)。制御装置40は、指示に従って電気機器10に供給する電力を制限する(ステップS207)。このとき、処理装置30は、ディスプレイやインジケータに電気機器10が重度の状況であることを表示させてもよい。また処理装置30は、ユーザが所持するスマートホンなどに電気機器10の状況を通知する信号を送信してもよい。
【0049】
他方、処理装置30は、正常の動作範囲でないが電気機器10の状態が軽度であると判定した場合(ステップS205:軽)、処理装置30のディスプレイやインジケータに電気機器10が軽度であることを表示させる(ステップS208)。処理装置30は、ユーザが所持するスマートホンなどに電気機器10の状況を通知する信号を送信してもよい。
【0050】
ステップS205において電気機器10が正常な動作範囲内であると判定した場合(ステップS205:無)、処理装置30のディスプレイやインジケータに電気機器10に正常であることを表示させる(ステップS209)。
【0051】
ステップS204において、処理装置30によって電気機器10が放電していないと判定された場合(ステップS204:NO)、処理装置30は、電気機器10が稼働しているか否かを判定する(ステップS210)。具体的には、処理装置30は、制御装置40に電気機器10の稼働状態の問い合わせを送信し、その回答に基づいて判定を行う。制御装置40は、処理装置30からの問い合わせに対し、電気機器10に所定レベル以上の電力を供給している場合に稼働している旨の応答を、供給されている電力が所定レベル未満(例えば、待機電力相当)である場合に稼働していない旨の応答を送信する。
【0052】
電気機器10が稼働していない場合(ステップS210:NO)、処理装置30のディスプレイやインジケータに電気機器10に、停止中等、正常であることを表示させる(ステップS211)。他方、電気機器10が稼働している場合(ステップS210:YES)、処理装置30は電気機器10が正常な動作範囲でなく動作していないと判定し、処理装置30のディスプレイやインジケータに電気機器10が動作していないことを表示させる(ステップS212)。このとき、処理装置30は、制御装置40に電気機器10への電力の供給を制限させる指示を出力してもよい。
【0053】
処理装置30は、ステップS204、S205及びS210の判定結果をログデータとして内部の記録装置に記録する(ステップS213)。上記の処理が、アナログデジタル変換器25のサンプリング周期ごとに、または処理装置30の計算周期ごとに実行される。
【0054】
《作用・効果》
このように、第3の実施形態に係る動作判定システム2によれば、処理装置30は、ステップS204において電気機器10が放電していると判定した場合に、ステップS205で受電強度や頻度に基づいて電気機器10の動作状態を評価する。これにより、処理装置30は、放電が発生した場合に電気機器10が正常に動作しているか否かに応じた処理を行うことができる。なお、他の実施形態においては、放電検出システム1は、必ずしも放電の状態の評価を行わず、放電の有無の検出により故障の有無を判定するものであってもよい。
【0055】
また、第3の実施形態に係る動作判定システム2によれば、処理装置30は、ステップS204において電気機器10が放電していないと判定した場合に、ステップS210で電気機器10が稼働中か否かを判定することで、電気機器10の動作状態を評価する。すなわち、電気機器10に電力が供給されているにも関わらず、電気機器10から放電が発生していないということは、電気機器10が正常に動作していないことを示す。これにより、空気清浄機や高輝度ランプのように、家庭や公共設備等、一般的に使用されているが動作状況が目に見えない電気機器10においても、動作判定システム2を用いることで、利用者は電気機器10が正常に動作しているか否かを確認することができる。
【0056】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0057】
第2の実施形態に係る放電検出システム1は、検出対象の電気機器10ごとに設けられるが、これに限られない。例えば、他の実施形態では、1つの放電検出システム1が複数の電気機器10が設けられた部屋や測定領域に置かれ、放電が発生した方向にある電気機器10を特定することで、複数の電気機器10の障害を判定してもよい。例えば、放電検出システム1は、異なる方向に指向性を向けた2つ以上の検出装置20を備えてもよい。検出装置20はそれぞれ異なる方向から発生した電磁波を受信するように配置される。例えば、検出装置20のアンテナ素子110がダイポールアンテナによって構成される場合、アンテナ素子110のアンテナ長さ方向の検出感度が低いことを利用することができる。また、例えば、アンテナ素子110の一部を金属で遮蔽し、遮蔽していない方向からの電磁波のみを受信するようにしてもよい。このとき、処理装置30は、アンテナ部201が電磁波を受信した方向に基づいて、複数の電気機器10のうちいずれで放電が発生したかを判定する。例えば、処理装置30は、検出装置20の設置位置及び指向性の向く方向とから、電磁波の到来方向を推定し、予め記憶している電気機器10の設置位置に基づいて到来方向に存在する電気機器10を、放電が生じた機器と推定することができる。また、他の実施形態に係る放電検出システム1は、アンテナ素子110でアレイアンテナを構成することで、電磁波の到来方向を走査することができる。
【0058】
また、他の実施形態に係る検出装置20は、受信する電磁波の周波数が異なる2つ以上のアンテナ部201を含んでいてもよい。このとき、処理装置30は、アンテナ部201が受信した電磁波の周波数に基づいて、2以上ある電気機器10のうちいずれで放電が発生したかを判定してもよい。つまり、処理装置30は、予め電気機器10ごとに、障害時に発生する電磁波の周波数を記憶しておくことで、放電の発生した電気機器10を特定することができる。処理装置30は、アンテナ部201が受信した電磁波の周波数に基づいて、電気機器10により発生させられる放電が機器の異常を示すものであるのか否かを判定してもよい。また他の実施形態に係る検出装置20は、アンテナ部201と波形処理部202との間にフィルタリング周波数を変更可能なバンドパスフィルタを設けることで、異なる周波数の電磁波を検出するように構成してもよい。
【0059】
アンテナ部201は、一般的なアンテナ及び検波器のようなフィルタからなる構成でもよい。例えば、一般的なアンテナがUHF帯の電磁波を受信するアンテナであり、フィルタがアンテナにより受信される電磁波のうち1GHz帯の電磁波以外をカットし、且つ正負に振動する波形を単極のパルスに形成するフィルタであるとき、アンテナ部201は、1GHz帯の電磁波を受信することができる。なお、一般的なアンテナを用いる場合にも、
図3Aに示すような回路構成を組み込むことで、SBCのような小型で簡素な構成のコンピュータを用いて簡便に放電の検出を行うことができる。
【0060】
上述した実施形態では処理装置30はアナログデジタル変換器25から受信する信号の強度のみを基準として放電が発生したか否かを判定しているが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る処理装置30は、放電により発生する光、音または電流を検出する素子を有し、放電により発生する光、音または電流を検出し、検出した光、音または電流にも基づいて放電が発生したか否かを判定してもよい。例えば、処理装置30は、所定の強度の電磁波を検出し、検出時刻を中心とする所定の時間帯において、光、音、電流の何れか1つが検出された場合に、放電が発生したと判定する。なお、光、音、電流を検出する素子も、アナログデジタル変換器25のサンプリング周期に応じてピークを検出することができるように、波形処理部202を備えていてよい。
【0061】
また、電気機器10が電源電圧として交流電圧を使用する場合、処理装置30は電源電圧の位相にも基づいて放電が発生したか否かを判定してもよい。放電の発生原因により、放電の発生する周期が電源電圧の周期と相関性を有することがあるためである。例えば、処理装置30は、電気機器10と同じ電源電圧によって駆動し、電源電圧のゼロクロスタイミングを中心とする所定の時間帯において所定の強度の電磁波が検出された場合に、放電が発生したと判定する。
【0062】
上述した実施形態では処理装置30は電気機器10に電力を供給する制御装置に指示を出力するが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る処理装置30は、電気機器10に動作を制限させる制御信号を送信してもよい。また、処理装置30は、制御装置40や電気機器10に信号を出力せず、処理装置30自身が警告音を発する、ランプを光らせるなど人間が知覚可能な信号を出力することで、放電が生じていることを示してもよい。
【0063】
上述した検出装置20や放電検出システム1に関しては、受信可能な周波数帯を対象とする電気機器や、またはユーザのニーズに応じて受信可能な周波数を柔軟に適宜設定可能であることから汎用性が高く、更に制御機能、通信機能等を有し簡易かつコンパクトな構造とすることができ、例えば、機器の作動を自動で運用される、スマートホームやスマートファクトリへの適用が有効である。
【符号の説明】
【0064】
1 放電検出システム
2 動作判定システム
10 電気機器
20 検出装置
201 アンテナ部
202 波形処理部
25 アナログデジタル変換器
30 処理装置
40 制御装置