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特開2022-152548硬化性シロキサン組成物、及びその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152548
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】硬化性シロキサン組成物、及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/08 20060101AFI20221004BHJP
   C08K 5/5425 20060101ALI20221004BHJP
   C08K 5/5475 20060101ALI20221004BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08L83/08
C08K5/5425
C08K5/5475
C08L83/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055358
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高巣 真弓子
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】板垣 浩司
(72)【発明者】
【氏名】山下 修治
(72)【発明者】
【氏名】青木 康浩
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP091
4J002CP121
4J002ET006
4J002EX017
4J002EX076
(57)【要約】
【課題】ニトリルオキシド基を用いた従来技術とは異なるシロキサンの新しい硬化機構を提供することを課題とする
【解決手段】(A)ニトリルオキシド基を一分子中に2個以上含有する化合物、及び(B)アルケニル基を一分子中に2個以上含有するシロキサン化合物、を少なくとも含む、硬化性シロキサン組成物により課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ニトリルオキシド基を一分子中に2個以上含有する化合物、及び(B)アルケニル基を一分子中に2個以上含有するシロキサン化合物、を少なくとも含む、硬化性シロキサン組成物。
【請求項2】
前記(A)の化合物が、下記一般式[I][II]及び[III]のいずれかで表される化合物である、請求項1に記載の硬化性ポリシロキサン組成物。
【化1】

前記一般式[I]中、Rはそれぞれ独立して、水素原子及び置換又は無置換の炭化水素基から選択され、Aはシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよいs価の有機基であり、sは2~10の整数である。
【化2】

前記一般式[II]中、Zは置換又は無置換の芳香族炭化水素基であり、Aはシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよいs価の有機基であり、sは2~10の整数である。
【化3】

前記一般式[III]中、R~Rはそれぞれ独立して、水素原子、置換又は無置換の炭化水素基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、フッ素原子及びニトリルオキシド基から選択され、該置換基はシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよく、R~Rの隣り合う基は結合して環を形成してもよく、R~Rのうち少なくとも2つはニトリルオキシド基又はニトリルオキシド基が置換した炭化水素基である。但し、R~Rの隣り合う基が結合して環を形成する場合には、形成された環の水素原子がニトリルオキシド基で置換されていてもよく、その場合には該少なくとも2つのニトリルオキシド基のうちの1つに含まれる。
【請求項3】
前記(A)の化合物が、一般式[IV]で表される化合物であり、融点が25~300
℃であり、且つニトリルオキシド当量が1.0~4.5mmol/gである、請求項1に記載の硬化性ポリシロキサン組成物。
【化4】

前記一般式[IV]中、R’はそれぞれ独立して、炭素数4~10の炭化水素基及び炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基から選択され、Gは、2価の炭化水素基、-O-、-S-及び-N(R”)-から選択され、R”は水素原子及び炭素数1~6の炭化水素基から選択され、Aはシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよいs価の有機基であり、sは2~4の整数である。
【請求項4】
前記(A)の化合物が、一般式[V]で表される化合物である、請求項1に記載の硬化性ポリシロキサン組成物。
【化5】

前記一般式[V]中、Xは2価の炭化水素基であり、Yは-O-、-S-及び-N-から選択され、Zは置換又は無置換の芳香族炭化水素基であり、Aはシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよいs価の有機基であり、sは、2~4の整数である。
【請求項5】
前記一般式[I]、[II]、[IV]又は[V]中のAが、シロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含む、請求項2~4のいずれか1項に記載の硬化性シロキサン組成物。
【請求項6】
前記一般式[III]中、R~Rのうち少なくとも1つが、シロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含む、請求項2に記載の硬化性シロキサン組成物。
【請求項7】
前記(B)の化合物が、アルケニル基を両末端に含有する直鎖状ポリアルキルシロキサン、を少なくとも含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の硬化性シロキサン組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の硬化性シロキサン組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な硬化性シロキサン組成物、及びその硬化物に関する。詳しくは、ニトリルオキシド基とアルケニル基の間の付加反応を利用したシロキサンの新しい硬化機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシロキサンは周知の材料であり、ポリシロキサン成分を含有する硬化した組成物は、多くの用途で長い間にわたって使用されてきている。シロキサンの硬化機構は、シラノール基やアルコキシ基の間のようなケイ素官能基間の縮合反応を利用する縮合型、不飽和基とヒドロシリル基を白金触媒で付加反応させる付加型、加硫剤に有機過酸化物を使用しラジカル反応させるラジカル型、に主に分類され、幅広い製品分野・用途に採用されている。
【0003】
縮合型は、スズなどの有機金属化合物触媒を必要とし、また硬化の際に副生物を放出する。触媒として汎用的に有機スズ化合物が使用されてきたが、有機スズ化合物はREACH規制、ロッテルダム条約などの規制の対象となり、環境への負荷が懸念されている。付加硬化反応で使用される白金触媒には、窒素を含有する化合物、硫黄を含有する化合物など種々の硬化阻害毒・触媒毒が存在し、硬化を停止あるいは阻害する力を持つある種の化合物による汚染に影響されやすい面がある。また、ヒドロシリル基は水と接触して、水素を放出するおそれがある。
【0004】
加硫剤に有機過酸化物を使用するラジカル反応は、硬化には通常加熱が必要で硬化が遅く、酸素によって重合阻害をうける。過酸化物の分解残渣による影響の懸念もある。従って、目的に合った硬化機構の硬化性シロキサンを適宜選択して使用する必要があるが、例えば、シロキサンの硬化に必要な熱で、他の部材が劣化する、など、ポリシロキサンの適用が難しい場合があった。
【0005】
ニトリルオキシド基は、不飽和結合と無触媒下で容易にかつ副生物を生じることなく[2+3]付加環化反応を起こす。そのため、ニトリルオキシド基を有する化合物は、種々の用途における反応剤として有用である。しかし、ニトリルオキシド基は、二量化、異性化等の副反応を起こしやすく、著しく不安定である(非特許文献1)。ニトリルオキシド基の、二量化が抑制されたニトリルオキシド化合物としては、ニトリルオキシド基のオルト位に置換基を導入した芳香族ニトリルオキシド化合物が知られている。(非特許文献1)
【0006】
一方で、多官能型のニトリルオキシドを用いて、架橋(硬化)反応のようなポリマー鎖間を結合させる反応に使用することもできる。ニトロオレフィン誘導体に目的とする任意の構造を組み込み、これをカルボアニオン種と反応させることによる、多官能脂肪族ニトリルオキシドが知られている(特許文献1参照)。また、合成容易で高い反応性を有しながら、室温での保存安定性に優れ、高温でもニトリルオキシド基が異性化しにくい、室温で固体状のニトリルオキシド化合物が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-65033号公報
【特許文献2】特開2019-557291号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】小山,外1名,“クリック反応のためのニトリルオキシド反応剤:炭素-炭素結合形成を伴う無触媒環化付加反応”,有機合成化学協会誌,第47巻,第9号,2016年,p.866-876
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ニトリルオキシド基を用いた、上記従来技術とは異なるシロキサンの新しい硬化機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、ニトリルオキシド基とアルケニル基の間の付加反応をシロキサンの硬化機構に利用できることを見出し、特に、合成容易で高い反応性を有しながら、室温での保存安定性に優れる多官能ニトリルオキシド化合物を用いることで、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、以下に存する。
【0011】
[1](A)ニトリルオキシド基を一分子中に2個以上含有する化合物、及び(B)アルケニル基を一分子中に2個以上含有するシロキサン化合物、を少なくとも含む、硬化性シロキサン組成物。
[2]前記(A)の化合物が、下記一般式[I][II]及び[III]のいずれかで表される化合物である、[1]に記載の硬化性ポリシロキサン組成物。
【化1】

前記一般式[I]中、Rはそれぞれ独立して、水素原子及び置換又は無置換の炭化水素基から選択され、Aはシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよいs価の有機基であり、sは2~10の整数である。
【化2】

前記一般式[II]中、Zは置換又は無置換の芳香族炭化水素基であり、Aはシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよいs価の有機基であり、sは2~10の整数である。
【化3】

前記一般式[III]中、R~Rはそれぞれ独立して、水素原子、置換又は無置換の炭化水素基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、フッ素原子及びニトリルオキシド基から選択され、該置換基はシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよく、R~Rの隣り合う基は結合して環を形成してもよく、R~Rのうち少なくとも2つはニトリルオキシド基又はニトリルオキシド基が置換した炭化水素基である。但し、R~Rの隣り合う基が結合して環を形成する場合には、形成された環の水素原子がニトリルオキシド基で置換されていてもよく、その場合には該少なくとも2つのニトリルオキシド基のうちの1つに含まれる。
[3]前記(A)の化合物が、一般式[IV]で表される化合物であり、融点が25~300℃であり、且つニトリルオキシド当量が1.0~4.5mmol/gである、[1]に記載の硬化性ポリシロキサン組成物。
【化4】

前記一般式[IV]中、R’はそれぞれ独立して、炭素数4~10の炭化水素基及び炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基から選択され、Gは、2価の炭化水素基、-O-、-S-及び-N(R”)-から選択され、R”は水素原子及び炭素数1~6の炭化水素基から選択され、Aはシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよいs価の有機基であり、sは2~4の整数である。
[4]前記(A)の化合物が、一般式[V]で表される化合物である、[1]に記載の硬化性ポリシロキサン組成物。
【化5】

前記一般式[V]中、Xは2価の炭化水素基であり、Yは-O-、-S-及び-N-から選択され、Zは置換又は無置換の芳香族炭化水素基であり、Aはシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよいs価の有機基であり、sは、2~4の整数である。
[5]前記一般式[I]、[II]、[IV]又は[V]中のAが、シロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含む、[2]~[4]のいずれかに記載の硬化性シロキサン組成物。
[6]前記一般式[III]中、R~Rのうち少なくとも1つが、シロキサン結合に
有機基が結合したオルガノシロキサンを含む、[2]に記載の硬化性シロキサン組成物。[7]前記(B)の化合物が、アルケニル基を両末端に含有する直鎖状ポリアルキルシロキサン、を少なくとも含む、[1]~[6]のいずれかに記載の硬化性シロキサン組成物。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の硬化性シロキサン組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、触媒が不要で副生物を生じることなく、酸素による重合阻害が無く、水素放出のリスクが無く、加熱が必須ではない、ポリシロキサンの新しい硬化機構を提供する。そのため、従来のポリシロキサンの硬化機構では適用が難しかった用途への、ポリシロキサンの適用を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態に即して詳細に説明する。ただし、本発明は本明細書に明示的又は黙示的に記載された実施形態に限定されるものではない。
本明細書中、特に記載が無い限り、「炭化水素基」とは、炭素および水素を含む基を意味する(但し、水素原子は下記する置換基により一部または全部が置換されていてもよい)。当該「炭化水素基」としては、特に限定されるものではないが、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。かかる炭化水素基は、その末端または分子鎖中に、1つまたはそれ以上のN、O、S等を有していてもよい。
【0014】
本明細書中、特に記載が無い限り、「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよく、1つまたはそれ以上の環構造を含んでいてもよい。当該「脂肪族炭化水素基」としては、特に限定されるものではないが、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。当該「脂肪族炭化水素基」は、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
本明細書中、特に記載が無い限り、「アルキル基」は、直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよく、例えば、炭素数1~20、好ましくは1~12、より好ましくは1~6のアルキル基である。
【0015】
本明細書中、特に記載が無い限り、「芳香族炭化水素基(以下、アリール基とも称する)」は、単環式、多環式、例えば二環式または三環式のいずれであってもよく、また、芳香族複素環基(以下、ヘテロアリール基とも称する)であってもよい。当該「芳香族炭化水素基」としては、特に限定されるものではないが、炭素数3~20のアリール基、例えばフェニル基、ナフチル基、炭素数3~20のヘテロアリール基、例えばフリル基、チエニル基、ピリジル基、インドリル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾリル基等が挙げられる。当該「芳香族炭化水素基」は、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0016】
本発明の一実施形態は、(A)ニトリルオキシド基を一分子中に2個以上含有する化合物、及び(B)アルケニル基を一分子中に2個以上含有するシロキサン化合物、を少なくとも含む、硬化性シロキサン組成物、である。以下順に説明する。
【0017】
<1.(A)ニトリルオキシド基を一分子中に2個以上含有する化合物>
本実施形態においては、(A)成分として使用される、ニトリルオキシド基を一分子中に2個以上含有する化合物は特に限定されないが好ましい形態の1つは以下の式(I)で表される化合物である。
【化6】
【0018】
式[I]中、Rはそれぞれ独立して、水素原子及び置換又は無置換の炭化水素基から選択される。当該炭化水素基としては、1個またはそれ以上の置換基を有していてもよい、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、または(ポリ)アルキルエーテル基などが挙げられる。好ましくは、Rの少なくとも1つは炭化水素基である。より好ましくは、Rの一方または両方が、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいアルキル基、又は(ポリ)アルキルエーテル基により置換されているアルキル基である。
【0019】
Aはシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよいs価の有機基であり、sは2~10の整数である。好ましくは2~6の整数であり、より好ましくは2~4の整数であり、更に好ましくは2または3であり、特に好ましくは2である。
上記Aとしては、限定するものではないが、2価、3価またはそれ以上の価数の脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基が挙げられ、かかる炭化水素基は、その末端または分子鎖中に、1つまたはそれ以上のN、O、S等を有していてもよい。なお、Aが、シロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含むことが好ましい。
【0020】
上記式(I)において、RおよびAは、それぞれ、炭素原子によりニトリルオキシドが結合する炭素原子に結合している。一の態様において、RおよびAの少なくとも1つは、少なくとも1個のフッ素原子により置換されていてもよい。
【0021】
一の好ましい態様において、上記Aは2価の有機基である。Aが2価の有機基である化合物としては、下記式(X)で表される化合物である。
【化7】

式(X)中、R及びAは、上記(I)におけるものと同義である。
【0022】
また、別の好ましい形態の1つは、(A)成分が以下の式(II)で表される化合物である。
【化8】

前記一般式[II]中、Zは置換又は無置換の芳香族炭化水素基であり、Aはシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよいs価の有機基であり、sは2~10の整数である。A及びsの好ましい範囲は式[I]中のA及びsと同様である。なお、Aが、シロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含むことが好ましい。
【0023】
一の好ましい態様において、(A)成分が以下の式(V)で表される化合物である。
【化9】

前記一般式[V]中、Xは2価の炭化水素基であり、Yは-O-、-S-及び-N-から選択され、Zは置換又は無置換の芳香族炭化水素基であり、Aはシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよいs価の有機基であり、sは、2~4の整数である。なお、Aが、シロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含むことが好ましい。
【0024】
一般式[V]において、Xはアルキル基等の炭素数1~20の2価の炭化水素基であることが好ましく、当該炭化水素基としては特に限定されるものではないが、1個またはそれ以上の置換基を有していてもよい、アルキレン基、(ポリ)オキシアルキレン基が挙げられる。好ましくは熱安定性の観点からXがアルキレン基であるニトリルオキシド化合物である。
Zはアリール基、ナフチル基、アントラセルニル基から選択されることが好ましい。sは更に好ましくは2または3、特に好ましくは2である。
【0025】
好ましい形態の1つは、(A)成分が下記式[VI]で表される化合物である。
【化10】

式[VI]中、X、Y及びZは、式[V]と同義であり、ニトリルオキシド当量が、1.0~4.5mmol/gであることがより好ましい。
【0026】
また、別の好ましい形態の1つは、(A)成分が以下の式(III)で表される化合物である。
【化11】

式[III]中、R~Rはそれぞれ独立して、水素原子、置換又は無置換の炭化水素基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、フッ素原子及びニトリルオキシド基から選択され、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数1~8のアルコキシ基、フッ素原子及びニトリルオキシド基から選択されることが好ましい。
【0027】
また、該置換基はシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよく、R~Rの隣り合う基は結合して環を形成してもよく、R~Rのうち少なくとも2つはニトリルオキシド基又はニトリルオキシド基が置換した炭化水素基である。但し、R~Rの隣り合う基が結合して環を形成する場合には、形成された環の水素原子がニトリルオキシド基で置換されていてもよく、その場合には該少なくとも2つのニトリルオキシド基のうちの1つに含まれる。
~Rのうち少なくとも1つが、シロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含むことが好ましい。
【0028】
また、別の好ましい形態の一つは、(A)成分が以下の式(IV)で表される化合物であり、、融点が、25~300℃であり、ニトリルオキシド当量が、1.0~4.5mmol/gであることが好ましい。
【化12】

一般式[IV]中、R’はそれぞれ独立して、炭素数4~10の炭化水素基及び炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基から選択され、Gは、2価の炭化水素基、-O-、-S-及び-N(R”)-から選択され、R”は水素原子及び炭素数1~6の炭化水素基から選択され、Aはシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含んでいてもよいs価の有機基であり、sは2~4の整数である。
なお、Aが、シロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含むことが好ましい。
【0029】
一般式[IV]として好ましいものは、
・R’がそれぞれ独立して炭素数6~8のアリール基であるニトリルオキシド化合物
・sが2であり、Aが炭素数2~10のアルキレン基であるニトリルオキシド化合物
・Aが1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、2-メチル-1,3-プロピレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-ヘプチレン基、1,8-オクチレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基、1,4-シクロへキシレン基、1,4-シクロヘキサジメチレ
ン基、1-メチル-1,2-エチレン基または1-メチル-1,3-プロピレン基であるニトリルオキシド化合物
・sが2であり、Aが、下記一般式[VII]で表される基であるニトリルオキシド化合物、である。
-(R-O)-R-(O-R- ・・・[VII]
【0030】
前記一般式[VII]中、mは0または1であり、Rは、炭素数2~4のアルキレン基であり、Rは、下記一般式[VIII]で表される基または下記一般式[IX]で表される基である。
【化13】

前記一般式[VIII]において、R~R11は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、及びハロゲン原子から選択され、RとRが連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R10とR11が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。
【化14】

前記一般式[IX]において、R12~R19は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基及びハロゲン原子から選択され、R12とR13が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R14とR15が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R16とR17が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R18とR19が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。
nは、0または1であり、Qは、-C(R20)(R21)-、-C(=O)-、-S-または-S(=O)-であり、R20およびR21は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、R20とR21が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。
【0031】
前記一般式[VII]において、mが1であり、Rが、前記一般式[IX]で表され
る基であり、前記一般式[IX]において、nが1であり、Qが-C(R20)(R21)-である、ニトリルオキシド化合物であることが好ましい。
【0032】
発明の別の好ましい形態の1つは、前記一般式[I]、[II]、[IV]又は[V]中のAが、シロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含む形態、又は前記一般式[III]中、R~Rのうち少なくとも1つが、シロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含む形態、である。ニトリルオキシド化合物がシロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンを含むことで、(A)成分の(B)成分への溶解性や相溶性が増す効果が期待できる。
【0033】
シロキサン結合に有機基が結合したオルガノシロキサンとしては、特に限定するものではないが、例えば下記一般式[XII][XIII][XIV][XV]で表される基、もしくはそれらの組み合わせ、が挙げられる。
【化15】
【0034】
前記一般式[XII]乃至[XIV]において、nは通常1~100の整数でありR
、R、Rは炭化水素基、水素、アルコキシ基、及びヒドロキシ基から選択され、好ましくは炭素数1~10の炭化水素基、アリール基、アルケニル基及び水素から選択される。
【0035】
(B)アルケニル基を一分子中に2個以上含有するシロキサン化合物
本実施形態において(B)成分として使用されるアルケニル基を一分子中に2個以上含有するシロキサン化合物(以下、「シロキサン化合物(B)」と称す場合がある。)とは、下記一般式(XXI)で表されるアルケニル基含有シロキサン単位を、分子中に少なくとも2個有するシロキサン化合物が挙げられる。シロキサン化合物(B)としては、直鎖状シロキサン化合物、分岐状シロキサン化合物、及び環状シロキサンのいずれでもよく、これらのうちの1種を単独で、又は2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることができる。
(R31(R32SiO〔(4-a-b)/2〕 …(XXI)
上記一般式(XXI)中、R31はアルケニル基を表し、R32は脂肪族炭素-炭素不飽和結合を含まない置換又は非置換の1価の炭化水素基、アルコキシ基、又は水酸基を表す。aは、1~3の整数であり、好ましくは1である。bは0~2の整数である。ただし、a+bは1~3の整数である。なお、aが2又は3の場合、複数のR31は同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、bが2の場合、複数のR32は同一であってもよく、異なるものであってもよい。
【0036】
シロキサン化合物(B)が有するアルケニル基R31としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基などの炭素数2~8のアルケニル基であることが好ましく、ビニル基であることがより好ましい。
上記一般式(I)のR32の炭化水素基としては、メチル基、エチル基などのアルキル基、シクロヘキシルのようなシクロアルキル基、フェニルのようなアリール基、2-フェニルエチルのようなアラルキル基等の炭素数1~20の1価の炭化水素基が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、フェニル基である。耐光性(耐UV性)が要求される場合には、R32がメチル基であることがより好ましい。R32は炭素数1~8のアルコキシ基や水酸基であってもよいが、アルコキシ基や水酸基の含有率は、硬化性シロキサン組成物の保存安定性、硬化物の寸法安定性の観点からシロキサン化合物(B)の10重量%以下であることが好ましい。
【0037】
好ましい形態の1つは、シロキサン化合物(B)として、アルケニル基を両末端に含有する直鎖状ポリアルキルシロキサン、及び又は、両末端がトリアルキルシリル基で封鎖され、側鎖にアルケニル基を含有する直鎖状ポリアルキルシロキサンを含むものである。アルケニル基を両末端に含有する直鎖状ポリアルキルシロキサンとしては、両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ポリジメチルシロキサン、両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサンコポリマーなどが挙げられる。両末端がトリアルキルシリル基で封鎖され、側鎖にアルケニル基を含有する直鎖状ポリアルキルシロキサンとしては、両末端トリメチルシリル基封鎖ポリビニルメチルシロキサン、両末端トリメチルシリル基封鎖ビニルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーなどが挙げられる。
【0038】
直鎖状ポリアルキルシロキサンの25℃における粘度は通常500,000mPa・s以下、好ましくは50,000mPa・s以下であり、通常5mPa・s以上、好ましくは10mPa・s以上である。直鎖状ポリアルキルシロキサンの粘度が上記上限以下であれば、硬化性シロキサン組成物の粘度の上昇を抑制することができ、取り扱い性に優れる。直鎖状ポリアルキルシロキサンの粘度が上記下限以下であれば、均一な硬化物が得られにくい傾向がある。
【0039】
また、直鎖状ポリアルキルシロキサンの単位重量当たりのアルケニル基の含有量は通常0.01mmol/g以上、好ましくは0.02mmol/g以上で、通常3mmol/g以下、好ましくは1mmol/g以下である。アルケニル基含有量が上記下限以上であれば、シロキサン組成物が十分な硬化反応速度を発現するものとなり、上記上限以下であれば、より均一な硬化物が得られる傾向がある。
【0040】
ここで、直鎖状ポリアルキルシロキサンのアルケニル基含有量はH-NMRスペクトルにてアルケニル基のシグナル強度(ピーク面積)と内部標準試薬のシグナル強度(ピーク面積)との比率、および、NMR測定サンプル調製時の直鎖状ポリアルキルシロキサンと内部標準試薬の秤量値から計算により求めることができる。後述のMQ樹脂においても同様である。
【0041】
両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ポリジメチルシロキサンの市販品としては、DMS-V00、DMS-V03、DMS-V05、DMS-V21、DMS-V22、DMS-V25、DMS-V31、DMS-V33、DMS-V35、DMS-V41、DMS-V42、DMS-V46、DMS-V51(いずれもGelest社製)が挙げられる。
また、両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサンコポリマーの市販品としては、PDV-0325、PDV-0331、PDV-0341、PDV-0346、PDV-0525、PDV-0535、PDV-0541、PDV-1625、PDV-1631、PDV-1635、PDV-1641、PDV-2331、PDV-2335(いずれもGelest社製)等が挙げられる。
【0042】
トリメチルシリル基封鎖ビニルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーの市販品としては、VDT-123、VDT-127、VDT-131、VDT-153、VDT-431、VDT-731、VDT-954(いずれもGelest社製)等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0043】
別の好ましい形態は、シロキサン化合物(B)として、SiO4/2単位(Q単位)及び/又はRSiO3/2単位(T単位)並びにRSiO1/2単位(M単位)及び/又はRSiO2/2単位(D単位)(式中、Rは、それぞれ独立して、1価の非置換又は置換の炭化水素基を表す。ただし、Rの一部、例えば20モル%以下はアルコキシ基及び/又は水酸基であってもよい。)を含み、アルケニル基を一分子中に3個以上含有する分岐状ポリシロキサン化合物を含むものである。このようなものとしては、Q単位及び/又はT単位と、M単位及び/又はD単位とで構成される、MQ樹脂、MDQ樹脂、DQ樹脂、MTQ樹脂、MDTQ樹脂、DTQ樹脂、MT樹脂、DT樹脂、MDT樹脂から選ばれるシリコーン樹脂が挙げられる。これらのうち、特に好ましいのは、Q単位とM単位を有するMQ樹脂である。ここで「MQ樹脂」なる用語は、M単位及びQ単位より本質的に成り、限られた数のD単位及び/又はT単位を含む樹脂を包含する。
【0044】
これらのシリコーン樹脂も市販品を用いることができ、MDQ樹脂(MQ樹脂)の市販品として、D単位にビニル基を有するMDQ樹脂のビニルQレジンディスパージョンVQM-135、VQM-146(いずれもGelest社製、両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ポリジメチルシロキサンとの混合物)が挙げられる。MDT樹脂の市販品としてビニルT構造ポリマーMTV-112(Gelest社製)が挙げられる。
【0045】
別の好ましい形態は、シロキサン化合物(B)として、SiO4/2単位(Q単位)及びRSiO1/2単位(M単位)(式中、Rは、それぞれ独立して、1価の非置換又は
置換の炭化水素基を表す。ただし、Rの一部は、例えば20モル%以下はアルコキシ基及び/又は水酸基であってもよい。)を有し、アルケニル基を一分子中に3個以上含有し、SiO4/2単位(Q単位)とRSiO1/2(M単位)の比が、1:1~1:2(Q:M)の範囲であり、かつ室温で液状の分岐状ポリシロキサン化合物を含むものである。ここで、SiO4/2単位(Q単位)には、Q単位の一部が(RO)SiO3/2単位、(RO)SiO2/2単位、(RO)SiO1/2単位(式中、Rは、それぞれ独立して、1価の非置換又は置換の炭化水素基又は水素原子を表す。)である場合も含まれる。また、室温で液状の分岐状ポリシロキサン化合物は、全ケイ素に対する含有量が20モル%以下のRSiO2/2単位(D単位)及び/又はRSiO3/2単位(T単位)(式中、Rは、それぞれ独立して、1価の非置換又は置換の炭化水素基を表す。ただし、Rの一部、例えば20モル%以下はアルコキシ基及び/又は水酸基であってもよい。)を含んでいてもよい。
【0046】
このような室温で液状のMQ樹脂は比較的分子量が小さく、その数平均分子量は通常20,000以下、好ましくは10,000以下、さらに好ましくは5,000以下であり、通常500以上、好ましくは900以上である。ここで、MQ樹脂の数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0047】
また、このMQ樹脂等の分岐状ポリシロキサン化合物の25℃における粘度は通常20,000mPa・s以下、好ましくは1,000mPa・s以下、さらに好ましくは500mPa・s以下であり、通常10mPa・s以上、好ましくは50mPa・s以上、さらに好ましくは100mPa・s以上である。MQ樹脂の粘度が上記上限以下であれば、シロキサン組成物の粘度の上昇を抑制することができ、取り扱い性に優れる。MQ樹脂の粘度が上記下限以上であれば、得られる硬化物に十分な強度を付与することができる。
なお、Q単位とM単位の比は29Si-NMRスペクトルにおいて、Q単位由来のピークの総面積とM単位由来のピークの総面積の比により求めることができる。
【0048】
また、このMQ樹脂の単位重量当たりのアルケニル基の含有量は、0.05mmol/g以上、特に0.1mmol/g以上で、10mmol/g以下、特に7mmol/g以下であることが好ましい。アルケニル基の含有量が上記下限以上であれば、シロキサン組成物が十分な硬化反応速度を発現するものとなり、上記上限以下であれば、均一で強度の高い硬化物が得られる傾向がある。
【0049】
シロキサン化合物(B)として、直鎖状ポリシロキサン化合物と分岐状ポリシロキサン化合物、を混合して用いる場合、その混合割合には特に制限はなく、得られる硬化物に要求される機械的強度や、用いる直鎖状ポリシロキサン化合物及び分岐状ポリシロキサン化合物の性状、ポリシロキサン組成物に要求される粘度等に応じて適宜決定されるが、例えば硬化性シロキサン組成物中に直鎖状ポリシロキサン化合物を20~99重量%、分岐状ポリシロキサン化合物を1~80重量%の割合で用いることが好ましい。
【0050】
また(A)成分と(B)成分の合計重量に対する(B)成分の重量比の上限は、通常99%、好ましくは90%、下限は通常30%、好ましくは50%である。大きすぎると、硬化が遅くなったり、硬化が不十分になり硬化物が脆くなる傾向にあり、小さすぎると硬化物の機械強度が小さくなるおそれがある。
【0051】
(A)成分の化合物分子中のニトリルオキシド基の数が2個の場合には、(B)成分には分岐状シロキサン化合物を少なくとも含むのが好ましく、(B)成分のシロキサン化合物が直鎖状ポリシロキサン化合物のみの場合、(A)成分の化合物分子中のニトリルオキシド基は3個以上が好ましい。
そして(B)成分の化合物が有するアルケニル基の合計と、前記(A)成分の化合物の有するニトリルオキシド基と、の合計のモル比(ニトリルオキシド基/アルケニル基)が0.01~10である。モル比の下限は、好ましくは、0.1、上限は好ましくは5、より好ましくは2、である。モル比が0.01より小さくても、10より大きくても、組成物の硬化が不十分になる傾向にあり、残存するニトリルオキシド基やアルケニル基が多くなるため硬化物の強度や安定性が低下する場合がある。
【0052】
<無機粒子(フィラー)の併用>
本実施形態の硬化性シロキサン組成物の硬化物の機械的特性や作業性を向上させるため、また、以下の<1>~<5>の何れかの効果を得ることを目的として、更に無機粒子を含有させてもよい。
<1>硬化性シロキサン組成物の硬化物に結合剤として無機粒子を配合することにより、硬化物の硬度を調整し、強度を向上させクラックの発生を防止する。
<2>硬化性シロキサン組成物に、粘度調整剤として無機粒子を配合することにより、当該組成物液の粘度を高くする。
<3>硬化性シロキサン組成物の硬化物に無機粒子を配合することにより、その収縮を低減する。
<4>硬化性シロキサン組成物の硬化物を少なくとも備えることを特徴とした光学部材を、半導体発光装置に使用する場合などにおいては、硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物に光散乱物質として無機粒子を混入し、半導体発光装置の光を散乱させることにより、蛍光体に当たる半導体発光素子の光量を増加させ、波長変換効率を向上させると共に、半導体発光装置から外部に放出される光の指向角を広げる。
<5>硬化性シロキサン組成物の硬化物に無機粒子を配合することにより、その屈折率を調整して光取り出し効率を向上させる。
【0053】
この場合は、硬化性シロキサン組成物に、無機粒子を目的に応じて適量混合すればよい。無機粒子としては、シリカ微粒子、溶融球状シリカ、破砕状シリカ、アモルファスシリカ、石英ビーズ、ガラスビーズ、シリコーン粒子、などが挙げられる。
【0054】
粘度調整剤としては、シリカ微粒子を好適に使用することができ、硬化物の硬度アップや線膨張係数を小さくする目的には、溶融球状シリカを好適に使用することができる。例えば親水性のシリカの表面に存在するシラノール基と表面改質剤を反応させることにより表面を疎水化したものを使用してもよい。
【0055】
表面改質剤としては、アルキルシラン類の化合物が挙げられ、具体例としてジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、オクチルシラン、ジメチルシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0056】
シリカ微粒子としては、例えばフュームドシリカを挙げることができる。フュームドシリカは、HとOとの混合ガスを燃焼させた1100~1400℃の炎でSiClガスを酸化、加水分解させることにより作製される。フュームドシリカの一次粒子は、平均粒径が5~50nm程度の非晶質の二酸化ケイ素(SiO)を主成分とする球状の超微粒子であり、この一次粒子がそれぞれ凝集し、粒径が数百nmである二次粒子を形成する。
特に限定されるものではないが、BET法による比表面積が、通常50m/g以上、好ましくは80m/g以上、さらに好ましくは100m/g以上である。また、通常300m/g以下、好ましくは200m/g以下である。比表面積が小さすぎるとシリカ微粒子の添加効果が認められず、大きすぎると樹脂中への分散処理が困難になる傾向にある。
【0057】
フュームドシリカは、超微粒子であるとともに、急冷によって作製されるため、表面の構造が化学的に活性な状態となっている。
具体的には、例えば日本アエロジル株式会社製「アエロジル」(登録商標)が挙げられ、親水性アエロジル(登録商標)の例としては、「90」、「130」、「150」、「200」、「300」、疎水性アエロジル(登録商標)の例としては、「R8200」、「R972」、「R972V」、「R972CF」、「R974」、「R202」、「R805」、「R812」、「R812S」、「RY200」、「RY200S」「RX200」が挙げられる。
【0058】
シロキサン硬化物における無機粒子の含有率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、その適用形態により自由に選定できる。例えば、無機粒子を光散乱剤として用いる場合は、その含有率は組成物全体の0.01~10重量%が好適である。また、例えば、無機粒子を骨材として用いる場合は、その含有率は1~90重量%が好適である。また、例えば、無機粒子を増粘剤(チキソ剤)として用いる場合は、その含有率は0.1~20重量%が好適である。また、例えば、無機粒子を屈折率調整剤として用いる場合は、その含有率は10~80重量%が好適である。無機粒子の量が少なすぎると所望の効果が得られなくなる可能性があり、多すぎるとシロキサン組成物が高粘度となり加工が困難になる他、硬化物の密着性、透明性、強度等の諸特性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0059】
<その他の成分>
その他の成分として、有機溶媒の他、耐熱向上剤としての金属酸化物、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、金属粒子などの熱伝導性向上剤、難燃助剤、カーボン系、金属系、金属酸化物系、金属被覆系、金属酸化物被覆系の導電付与剤、帯電防止剤、加工助剤、シランカップリング剤などの接着助剤、チタニアなどの顔料、染料、など、種々の添加剤やフィラーを適宜用いることができる。
本実施形態の硬化性シロキサン組成物を、半導体発光装置用封止材として用いる場合などにおいては、蛍光体や無機粒子などを含有させてもよい。
【0060】
本発明の硬化性シロキサン組成物は、付加型、縮合型、ラジカル重合型など他の硬化機構を併用してもよく、他の硬化機構の硬化触媒が共存してもよい。
好ましい態様では、硬化性シロキサン組成物は硬化触媒を含有しない。具体的には、Pt、Snなどの金属化合物の濃度が10ppm以下であることが好ましく、1ppm以下であることが、より好ましい。
【0061】
<硬化性ポリシロキサン組成物の製造方法>
本実施形態の硬化性シロキサン組成物は、上記した各成分を均一に混合することによって得ることができる。その混合方法は特に限定されない。
この混合には一般のシリコーンゴム調製に使用される混合機を用いることができ、例えば、万能混練機、プラネタリミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、ゲートミキサー、品川ミキサー、加圧ニーダー、三本ロール、二本ロールを用いることができる。
【0062】
<他の媒体との組み合わせ>
本実施形態の硬化性ポリシロキサン組成物は単独で用いてもよいが、粘度、硬化速度、硬化物の硬度、塗布しやすさの向上などの性状の調整を目的として、他の液状媒体と混合してもよい。使用される液状媒体としては無機系材料および/または有機系材料が使用できる。
【0063】
<硬化条件について>
本実施形態のポリシロキサン硬化物を製造する方法は、本実施形態の硬化性シロキサン組成物を硬化させる工程を有していれば制限されない。
本実施形態のシロキサン組成物は、通常、空気中で、室温で硬化する。硬化反応に加熱は必須ではないが、硬化を加速させる、組成物の相溶性を上げる、などの目的で、適宜加熱してもよい。シロキサン組成物が溶媒を含有している場合には、事前に組成物から溶媒を留去してもよいし、硬化後に硬化物を乾燥させてもよい。溶媒を乾燥させながら硬化反応を進めてもよい。
【実施例0064】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例の記載により制限されることはない。
【0065】
[合成例1]
ニトリルオキシド化合物A-1の合成:
【化16】
【0066】
1,6-ヘキサンジオールの14.17g(120mmol)を脱水THFの120mLに溶解し、0℃に冷却した。この溶液に、窒素ガス下で水素化ナトリウムの16g(400mmol)を加え、0℃で1時間撹拌した。この液に、1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレンの60g(266mmol)を加え、20℃で16時間撹拌した。溶液を0℃に冷却した後、2mol/Lの塩化水素水溶液でpHが6~7になるまで中和した。中和後の液について、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。ジクロロメタン溶液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を濃縮し、精製した。得られた固体を酢酸エチルで洗浄することによって白色固体の化合物A-1-0の50gを得た(収率70%)。
化合物A-1-0 NMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.36-7.24(m,20H),5.34(s,4H),3.35(t,4H),1.74-1.61(m,4H),1.47-1.32(m,4H)ppm.
【0067】
化合物A-1-0の25g(44.0mmol)を脱水ジクロロメタンの750mLに溶解した。この溶液に、4-クロロフェニルイソシアネートの22.5mL(176mmol)、トリエチルアミンの26.90g(266mmol)、モレキュラーシーブス4Aの50gを投入し、窒素ガス下、20℃で16時間撹拌した。溶液をろ過し、ろ液を濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(酸性シリカゲル、溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル1/0,3/1)で精製した。白色固体のニトリルオキシド化合物A-1の7.87gを得た(収率34%)。ニトリルオキシド化合物A-1のニトリルオキシド等量は3.76mmol/gであった。
ニトリルオキシド化合物A-1のNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.44-7.30(m,20H),
3.45(t,4H),1.69(m4H),1.41(m,4H)ppm.
ニトリルオキシド化合物A-1の融点:95℃
【0068】
[合成例2]
ニトリルオキシド化合物A-2(n=5)の合成:
【化17】

ジメチルシロキシ-[[[ジメチルシロキシ(ジメチル)シリル]オキシ-ジメチル-シリル]オキシ-ジメチル-シロキシ]オキシ-ジメチル-シラン0.5g(1.16mmol)と、Karsted’t触媒1.16mmolをトルエン10mLに懸濁させ、室温で4-ブロモ-1-ブテン0.345g(2.55mmol)を10分間で滴下した後、還流温度にまで昇温し1時間反応を行った。反応後、濃縮し溶剤を留去することで、ジメチルシリコーンのジブロモ体0.753g(0.813mmol)を得た。
【0069】
ジメチルシリコーンのジブロモ体0.753g(1.07mmol)、炭酸カリウム0.307g(2.20mmol)をDMF3.8mL中、室温で懸濁させ25分攪拌した後、2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒド0.444g(2.58mmol)を加え100℃に昇温し1時間反応させた。反応後、室温に戻し、酢酸エチル/ヘキサン/水を加え有機層を抽出し、硫酸マグネシウムにより脱水を行い濾別した溶液をエバポレーションにより溶剤を留去した後、酢酸エチル/ヘキサンを溶離液にバイオタージによるカラムクロマトグラフィーにより精製を行う事で、0.637g(0.721mmol)の二官能アルデヒドを得た。
【0070】
二官能アルデヒド0.957gをTHF/i-PrOH混合溶媒(2/1)9.9mL中、氷浴下で、ヒドロキシルアミン塩酸塩0.221g(3.19mmol)と酢酸ナトリウム0.261g(3.19mmol)を純水1.5mLに溶かした水溶液を滴下した。そして100分反応させた後、酢酸エチル/ヘキサン/水を加え有機層を抽出し無水硫酸マグネシウムを加え脱水を行った後、ろ過し濾別した溶液を濃縮することで二官能オキシム0.976gを得た。
【0071】
二官能性オキシム0.635g(0.695mmol)をクロロホルム6.35mL中、0℃で攪拌、懸濁しているところに、ジエチルアミン0.211g(2.09mmol)を滴下した後、N-クロロスクシンイミド(NCS)0.223g(1.67mmol
)を加え、1.5時間反応させた。そして、ヘキサン/酢酸エチル/水を加え有機層を抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾別し、溶媒を減圧濃縮後、ヘキサン/酢酸エチルの溶離液でシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーにより精製することで0.181g(0.263mmol、>99%)の二官能性ニトリルオキシド(ニトリルオキシド化合物A-2)を得た。ニトリルオキシド化合物A-2のニトリルオキシド等量は2.46mmol/gであった。
【0072】
[参考合成例3]
ニトリルオキシド化合物A-3(n=2)の合成
【化18】

ビス(ジメチルシロキシ)ジメチルシラン1g(4.8mmol)とKarsted’t触媒4.8mmolをトルエン10mLに懸濁させ、室温で4-ブロモ-1-ブテン1.42g(10.6mmol)を10分間で滴下した後、還流温度にまで昇温し1時間反応を行った。反応後、濃縮し溶剤を留去することで、ジメチルシリコーンのジブロモ体2.2g(4.6mmol)を得た。
【0073】
ジメチルシリコーンのジブロモ体2.2g(4.60mmol)、炭酸カリウム1.31g(9.43mmol)をDMF11mL中、室温で懸濁させ25分攪拌した後、2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒド1.90g(11mmol)を加え100℃に昇温し1時間反応させた。反応後、室温に戻し、酢酸エチル/ヘキサン/水を加え有機層を抽出し、硫酸マグネシウムにより脱水を行い濾別した溶液をエバポレーションにより溶剤を留去した後、酢酸エチル/ヘキサンを溶離液にバイオタージによるカラムクロマトグラフィーにより精製を行う事で、2.05g(3.10mmol)の二官能アルデヒドを得た。
【0074】
二官能アルデヒド0.957gをTHF/i-PrOH混合溶媒(2/1)9.9mL
中、氷浴下で、ヒドロキシルアミン塩酸塩0.221g(3.19mmol)と酢酸ナトリウム0.261g(3.19mmol)を純水1.5mLに溶かした水溶液を滴下した。そして100分反応させた後、酢酸エチル/ヘキサン/水を加え有機層を抽出し無水硫酸マグネシウムを加え脱水を行った後、ろ過し濾別した溶液を濃縮することで二官能オキシム0.976gを得た。
【0075】
二官能性オキシム0.3g(0.434mmol)をクロロホルム3mL中、0℃で攪拌、懸濁しているところに、ジエチルアミン0.132g(1.3mmol)を滴下した後、N-クロロスクシンイミド(NCS)0.139g(1.04mmol)を加え、1.5時間反応させた。そして、ヘキサン/酢酸エチル/水を加え有機層を抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾別し、溶媒を減圧濃縮後、ヘキサン/酢酸エチルの溶離液でシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーにより精製することで0.181g(0.263mmol、>99%)の二官能性ニトリルオキシド(ニトリルオキシド化合物A-3)を得た。ニトリルオキシド化合物A-3のニトリルオキシド等量は2.73mmol/gであった。
【0076】
[ニトリルオキシド化合物とアリルベンゼンの環化反応]
参考合成例3で合成したニトリルオキシド化合物0.21g(0.306mmol)をジクロロメタン10.5mLに溶解させ、氷浴下、アリルベンゼン0.0867g(0.734mmol)を加え、室温に戻し3.5時間攪拌した後、還流下7.5時間反応させることで対応する環化体A-40.157g(0.160mmol)を得た。ESI-MS分析にてn=2の環化体に対応するMSスペクトル(m/z:946.2(M+Na))を確認した。
【化19】
【0077】
参考合成例3で合成したニトリルオキシド化合物に代えて、合成例2で合成したニトリルオキシド化合物を用いたこと以外、同様にしてn=5の環化体A-5を得た。ESI-MS分析にてn=5の環化体に対応するMSスペクトル(m/z:1167.2(M+Na))を確認した。
【化20】
【0078】
これらにより、合成例2及び参考合成例3で合成したニトリルオキシド化合物とアリル基の反応を確認した。
【0079】
[実施例1]
(A)合成例1で合成したニトリルオキシド化合物A-1(ニトリルオキシド基:3.76mmol/g)をトルエンに20重量%溶解させたトルエン溶液41.28重量部、(B1)両末端がトリメチルシリル基で封鎖されたメチルビニルシロキサンージメチルシロキサン共重合体(粘度10,000mPa・s、ビニル基:0.55mmol/g)50重量部、(B2)両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン(粘度1,000mPa・s、ビニル基:0.07mmol/g)50重量部を秤量、混合し、硬化性シロキサン組成物を得た。
硬化性シロキサン組成物をポリテトラフルオロエチレン製シャーレに入れ、室温で約2時間静置して溶媒のトルエンを揮発させ、厚さ約2mmで半透明のエラストマー状硬化物を得た。硬化物を分割したピースを3枚重ね、タイプAデュロメータにより硬度を測定したところ15であった。更に室温で3日間静置した後に硬度を測定したところ17であった。
【0080】
[実施例2]
(A)合成例2で合成したニトリルオキシド化合物A-2(ニトリルオキシド基:2.46mmol/g)12.608重量部に、酢酸エチル10.106重量部を加え完全に溶解させ、ここに(B2)両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン(粘度1,000mPa・s、ビニル基:0.07mmol/g)50重量部を秤量、混合した。更に、酢酸エチル74.506重量部、(B1)両末端がトリメチルシリル基で封鎖されたメチルビニルシロキサンージメチルシロキサン共重合体(粘度10,000mPa・s、ビニル基:0.55mmol/g)50重量部を混合し、濁りのない均一な硬化性シロキサン組成物を得た。
硬化性シロキサン組成物2.97gを内径3cmのポリテトラフルオロエチレン製シャーレに入れ、室温で酢酸エチルが揮発するまで静置し、厚さ約2.44mmのエラストマー状硬化物を得た。硬化物を中心から放射状に4分割したピースを4枚重ね、タイプAデュロメータにより硬度を測定したところ16であった。