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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152616
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】パンおよびパン生地
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/16 20060101AFI20221004BHJP
   A21D 15/02 20060101ALI20221004BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20221004BHJP
【FI】
A21D2/16
A21D15/02
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055452
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲羽▼染 芳宗
(72)【発明者】
【氏名】片岡 直人
(72)【発明者】
【氏名】將野 喜之
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK54
4B032DL20
4B032DP08
4B032DP33
4B032DP40
4B032DP60
4B032DP73
4B032DP74
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、冷凍解凍後の食感の劣化が抑制されたパンを提供することである。
【解決手段】穀粉を含むパン生地であって、0.3~1.5質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドが練り込まれた状態で含まれる、パン生地。100質量部の穀粉に対して、0.6~2.8質量部の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む、前記パン生地。0.3~15質量%の油脂を含む、前記パン生地。前記パン生地が焼成されたパン。油脂中に、5~95質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する、練り込み用可塑性油脂組成物。パン生地に0.3~1.5質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを練り込むことにより、焼成後の冷凍解凍によるパンの食感劣化を抑制する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉を含むパン生地であって、
0.3~1.5質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドが練り込まれた状態で含まれる、パン生地。
【請求項2】
100質量部の穀粉に対して、0.6~2.8質量部の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む、請求項1に記載のパン生地。
【請求項3】
0.3~15質量%の油脂を含む、請求項1または2に記載のパン生地。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載のパン生地が焼成されたパン。
【請求項5】
油脂中に、5~95質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する、練り込み用可塑性油脂組成物。
【請求項6】
パン生地に0.3~1.5質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを練り込むことにより、焼成後の冷凍解凍によるパンの食感劣化を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍解凍後の食感の劣化が抑制されたパン、当該パンを得るためのパン生地に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にパンは、小麦粉に、水、イースト、食塩、油脂、糖類、乳製品などを加えて捏ね上げて発酵させたパン生地を焼成することにより製造される。焼成されたパンは、時間の経過とともに、主に澱粉の老化により、やわらかさが失われてゆく。そこで、焼成されたパンの経時的な劣化を抑制するために、冷凍保存し、必要に応じて解凍する技術が開発されてきた(例えば、特許文献1~3)。しかし、冷凍パン生地が実用化されるようになり、商業的には、焼成済み冷凍パンを解凍(必要に応じて加熱)して提供する形態に替わり、冷凍パン生地を必要に応じて焼成する形態が主流となっている。
【0003】
家庭では、食べきれなかったパンや一度に多量に購入したパンを冷凍保存することは今でもよく行われる。パンの冷凍保存は、フードロスを減らす観点からも有効である。しかし、冷凍解凍したパンの食感は、ややパサつくなど、幾分劣化したものとならざるを得ない。焼成後のパンの食感の劣化を抑制する方法として、飽和脂肪酸モノグリセリドなどの乳化剤の使用は、よく知られている。また、液状油を多く含む油脂をパン生地に練り込むことによりソフトで劣化しにくいパンを得る方法が提案されている(例えば、特許文献4)。しかし、多量の乳化剤の使用は、パンに好ましくない風味が付与されることがあり、また、液状油の割合が多くなると、パンの膨らみ(ボリューム)が乏しくなることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55-42607号公報
【特許文献2】特開昭62-36138号公報
【特許文献3】特開平2-182145号公報
【特許文献4】特開平3-47028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、冷凍解凍後の食感の劣化が抑制されたパンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、特定量の中鎖脂肪酸トリグリセリドが練り込まれたパン生地を焼成することにより得られるパンは、冷凍解凍後の食感の劣化が抑制されることを見出した。これにより、本発明は完成されるに至った。すなわち、本発明は以下の態様であり得る。
【0007】
[1]穀粉を含むパン生地であって、0.3~1.5質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドが練り込まれた状態で含まれる、パン生地。
[2]100質量部の穀粉に対して、0.6~2.8質量部の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む、[1]のパン生地。
[3]0.3~15質量%の油脂を含む、[1]または[2]のパン生地。
[4][1]~[3]の何れか1つのパン生地が焼成されたパン。
[5]油脂中に、5~95質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する、練り込み用可塑性油脂組成物。
[6]パン生地に0.3~1.5質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを練り込むことにより、焼成後の冷凍解凍によるパンの食感劣化を抑制する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、冷凍解凍後の食感の劣化が抑制されたパン、および、当該パンを得るためのパン生地、を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明について詳細に説明する。なお、本発明において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。なお、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様などは、「好ましい」や「より好ましい」などの表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、「好ましい」や「より好ましい」などの表現にかかわらず各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。
【0010】
本発明のパン生地は、穀粉を含有する。穀粉は、通常、パンに使用される穀粉でよい。具体例としては、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉など)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉、などが挙げられる。穀粉は、1種あるいは2種以上を使用してもよい。また、穀粉は、コーンスターチなどの澱粉、架橋処理タピオカ澱粉などの加工澱粉、などの澱粉性原料を含み得る。また、穀粉は、ふすま粉、米糠粉、などの穀皮粉を含み得る。また、穀粉は、活性グルテンなどの機能性粉末を含み得る。しかし、穀粉は、好ましくは小麦粉を含む。なお、パン生地は、パンの製造に使用する生地であって、穀粉を主成分とした焼成前の生地のことである。
【0011】
本発明の一態様によれば、パン生地に占める穀粉の含有量は、好ましくは38~60質量%であり、より好ましくは42~58質量%であり、さらに好ましくは46~56質量%である。また、本発明の一態様によれば、パン生地に含まれる穀粉に占める小麦粉の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80~100質量%である。
【0012】
本発明のパン生地は、0.3~1.5質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、MCTとも表記する)が生地に練り込まれたパン生地である。パン生地に(練り込まれて)含まれるMCTの含有量は、好ましくは0.4~1.1質量%であり、より好ましくは0.5~0.9質量%であり、さらに好ましくは0.6~0.8質量%である。パン生地に少量のMCTが練り込まれることにより、焼成後のパンは冷凍解凍による食感の劣化が抑制される。
【0013】
上記中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)は、トリグリセリドを構成する3つの脂肪酸残基の全てが中鎖脂肪酸からなるトリグリセリドである。中鎖脂肪酸は、6~10の炭素数を有する脂肪酸であり、好ましくは直鎖の飽和脂肪酸である。中鎖脂肪酸としては、具体的には、カプロン酸(炭素数6)、カプリル酸(炭素数8)、カプリン酸(炭素数10)が挙げられる。MCTを構成する中鎖脂肪酸は、同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。また、MCTを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、カプリル酸およびカプリン酸の合計量の割合は、好ましくは80~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%である。
【0014】
本発明の一態様によれば、パン生地に含まれるMCTと穀粉の量比は、100質量部の穀粉に対して、MCTが好ましくは0.6~2.8質量部である。100質量部の穀粉に対するMCTは、より好ましくは0.8~2.2質量部であり、さらに好ましくは1~1.8質量部であり、ことさらに好ましくは1.2~1.6質量部である。パン生地に含まれるMCTと穀粉の量比が上記範囲程度であると、焼成後のパンは冷凍解凍による食感の劣化が抑制される。
【0015】
本発明の一態様によれば、パン生地は、好ましくは0.3~15質量%の油脂を含む。前記油脂にはMCTも含まれる。また、前記油脂には、パン生地の原材料に含まれる油脂も含まれる。例えば、パン生地の原材料として全卵が含まれる場合、パン生地に含まれる油脂には、全卵に含まれる約10質量%の油脂も含める。パン生地に含まれる油脂は、より好ましくは0.6~12質量%であり、さらに好ましくは1.2~10質量%であり、ことさらに好ましくは2~9質量%である。
【0016】
本発明の一態様によれば、パン生地に含まれる油脂は、MCTのみであってもよい。また、本発明の一態様によれば、パン生地に含まれる油脂は、液状油(ただし、MCTを除く。以下同様)を好ましくは40質量%以下含有し、より好ましくは30質量%以下含有し、さらに好ましくは0~20質量%含有する。ここで、液状油は、食用に適した常温(20℃)で液状(流動状)の油脂であり、好ましくは清澄な油脂である。液状油としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、胡麻油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油、などが挙げられる。なお、パン生地に配合される油脂は、必要に応じて食用に適するように精製された油脂である。本発明のパン生地は、MCTを特定量含有することにより、液状油の含有量を少なくしても、軟らかく、また、液状油の含有量を少なくできるので、焼成により、パンが膨らみ易い。
【0017】
本発明の一態様によれば、パン生地に含まれる油脂は、全卵などの原材料に含まれる油脂などを除いて、MCTを含む粉末油脂としてパン生地に練り込まれたものであってもよいし、MCTを含む可塑性油脂組成物としてパン生地に練り込まれたものであってもよい。可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占めるMCTの含有量は、好ましくは5~95質量%であり、より好ましくは10~35質量%であり、さらに好ましくは12~24質量%である。しかし、例えば、リーンなパン生地(油脂の含有量が0.4~3.5質量%、好ましくは0.5~3質量%)の場合などは、可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占めるMCTの含有量は、より好ましくは63~90質量%であり、さらに好ましくは65~85質量%であり得る。また、可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める液状油の含有量は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは0~20質量%である。可塑性油脂組成物は、好ましくは常温(20℃)で固体(非流動状)の油脂(ハードストック)を有する。ハードストックは、好ましくは42℃未満の上昇融点を有し、可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める含有量は、好ましくは5~95質量%であり、より好ましくは65~90質量%であり、さらに好ましくは76~88質量%である。しかし、リーンなパン生地に使用するなど、可塑性油脂組成物のMCT含有量が多い場合、ハードストックは、好ましくは42℃以上の上昇融点を有し、可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める含有量は、より好ましくは10~37質量%であり、さらに好ましくは15~35質量%である。ハードストックは、通常、可塑性油脂組成物の調製に使用されるものであれば特に限定されない。パーム油、パーム分別油などのパーム系油脂、およびそれらのエステル交換油脂などが挙げられる。また、パーム系油脂、ラウリン系油脂(構成脂肪酸に占めるラウリン酸の含有量が30質量%以上の油脂)を含む混合油脂のエステル交換油脂などが挙げられる。ハードストックは必要に応じて硬化されていてもよい。また、ハードストックは2種以上を併用してもよい。
【0018】
パン生地に含まれる油脂(油分)やMCTの含有量は、原材料中の配合量に準じる。しかし、パン生地やパンに含まれる油脂やMCTの含有量は、従来公知の方法で測定できる。油脂の含有量は、例えば、ソックスレー法により測定できる。MCTの含有量は、例えば、ソックスレー法などにより抽出された油脂を、ガスクロマトガラフィー法(例えば、AOCS Ce5-86に準じた方法)で分析することにより測定できる。
【0019】
本発明の一態様によれば、可塑性油脂組成物に含まれる油脂以外のその他の成分として、パンの製造に用いる油脂組成物に一般的に使用される成分を含有してもよい。その他の成分としては、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩、塩化カリウムなどの塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸などの酸味料、糖類、糖アルコール類、ステビア、アスパルテームなどの甘味料、β-カロテン、カラメル、紅麹色素などの着色料、トコフェロール、茶抽出物(カテキン)、ルチンなどの酸化防止剤、小麦蛋白、大豆蛋白などの植物蛋白、卵、卵加工品、香料、全脂粉乳、脱脂粉乳、乳清蛋白などの乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料などの食品添加物、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類などの食品素材、が挙げられる。
【0020】
本発明の一態様によれば、可塑性油脂組成物は、例えば、水相を有するマーガリンもしくはファットスプレッドであってもよいし、水相を有さないショートニングであってもよい。水相を有する乳化物の場合、乳化は、油中水型、水中油型および複合乳化型のいずれであってもよい。しかし、好ましくは油中水型である。可塑性油脂組成物がショートニングである場合、油脂の含有量は、好ましくは90~100質量%であり、より好ましくは99~100質量%であり、さらに好ましくは99.8~100質量%である。可塑性油脂組成物が油中水型乳化物である場合、油脂の含有量は、好ましくは60~98質量%であり、より好ましくは69~96質量%であり、さらに好ましくは79~94質量%である。また、油中水型乳化物に含まれる水の含有量は、好ましくは1~39質量%であり、より好ましくは3~30質量%であり、さらに好ましくは、5~20質量%である。
【0021】
本発明の一態様によれば、可塑性油脂組成物に含まれる乳化剤の含有量は、好ましくは0~1質量%であり、より好ましくは0~0.4質量%であり、さらに好ましくは0~0.2質量%である。乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、などが挙げられる。本発明のパン生地は、MCTを特定量含有することにより、可塑性油脂組成物に含まれる乳化剤の含有量を少なくしても、パンの食感を維持し易い。
【0022】
本発明の一態様によれば、可塑性油脂組成物の製造方法は、特に限定されない、公知のパンの製造に使用される油脂組成物の製造方法および製造条件を適用できる。具体的には、油脂組成物は、油溶成分を混合溶解することで製造できる。また、可塑性油脂組成物とする場合は、油溶成分を混合融解して油相を調製する。必要により水溶成分を混合溶解して水相を調製する。可塑性油脂組成物は、融解した油相を単独で、または、油相に水相を混合乳化した後、冷却し、結晶化させることで製造できる。冷却および結晶化は、好ましくは冷却可塑化を含む。冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、より好ましくは-5℃/分以上である。この際、徐冷却より急冷却の方が好ましい。また、油相の調製後または混合乳化後は、殺菌処理することが望ましい。殺菌方法としては、タンクでのバッチ式や、プレート型熱交換機、掻き取り式熱交換機を用いた連続式が挙げられる。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクターなどのマーガリン製造機やプレート型熱交換機などが挙げられる。また、冷却する機器としては、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせも挙げられる。
【0023】
本発明の一態様によれば、パン生地製造に使用される可塑性油脂組成物の量は、特に限定されない。パン生地に含まれる中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)の含有量が0.3~1.5質量%となるように調整すればよい。使用量の目安としては、例えば、パン生地に含まれる100質量部の穀粉に対して、好ましくは0.5~25質量部であり、より好ましくは1~13質量部であり、さらに好ましくは2~11質量部である。
【0024】
本発明の一態様によれば、パン生地は、穀粉、中鎖脂肪酸トリグリセリド(必要に応じて上記のMCTを含む可塑性油脂組成物など)以外に、通常パン生地の製造に使用される、その他の食品素材(原材料)を含んでもよい。その他食品素材としては、例えば、セルロース粉末、ココアパウダーなどの粉類、イースト、イーストフード、酵素、食塩、砂糖、ブドウ糖などの糖類・糖アルコール類、卵(全卵、液卵)、各種卵加工品、脱脂粉乳、牛乳などの乳製品、バターなどの練り込み用油脂、水、豆乳などの水性成分、などが挙げられる。
【0025】
本発明の一態様によれば、パン生地の原材料には、15~45質量%の水が配合され得る。パン生地に配合される水の量は、好ましくは18~42質量%であり、より好ましくは21~38質量%である。パン生地に配合される水は、一部もしくは全部が、牛乳、豆乳、全卵、などで置き換えられてもよい。
【0026】
本発明の一態様によれば、パン生地は、穀粉を主原料とする混合物に中鎖脂肪酸トリグリセリド(必要に応じて上記のMCTを含む可塑性油脂組成物など)を練り込む以外、公知の方法により製造できる。具体的には、例えば、直捏法(ストレート法)、中種法、液種法、オールインミックス法、老麺法、などが挙げられる。本発明の一態様によれば、フランスパン、ベーグル、イングリッシュマフィンなどの、油脂の配合が必須とされないリーンなパン生地の場合は、原料混合物に、規定量のMCTやMCTの粉末油脂などが直接練り込まれ得る。また、食パン、ロールパン、コッペパン、蒸しパンなどのパン生地の場合、原料混合物に、MCTを含む可塑性油脂組成物が練り込まれてもよい。本発明の一態様によれば、パン生地は、好ましくは、イースト、酵母などが配合され、発酵工程を経て製造される。製造された生地は冷凍保存されてもよい。
【0027】
本発明の一態様によれば、本発明のパンは、本発明のパン生地が焼成されたものである。パンは、パン生地の特性・種類に応じて、公知の条件および方法により製造できる。具体的には、本発明のパン生地をオーブンなどで焼成することにより製造できる。オーブンを使用する場合、例えば、下火180~230℃程度、上火180~230℃程度で、5~40分間程度、焼成され得る。焼成は、オーブン、直焼きで焼き上げる他、電子レンジ調理、蒸す、揚げるなどの態様が挙げられる。焼成後のパンは冷凍されてもよい。冷凍条件は、温度が低いほど好ましい(例えば、-35℃以下)が、家庭用の冷凍庫では、好ましくは-15℃以下である。
【0028】
本発明の一態様によれば、本発明のパンは、焼成後の冷凍解凍による食感の劣化が抑制されるので、保存期間の延長が可能であり、フードロスの低減が期待できる。本発明のパンは、食パン、ロールパン、コッペパン、フランスパン、ベーグル、イングリッシュマフィン、蒸しパンなど、食される頻度が高い(食事性が高い)パンに好適である。
【実施例0029】
次に、実施例および比較例により本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は、これらの実施例になんら限定されない。
【0030】
<油脂の準備>
・中鎖脂肪酸トリグリセリド(日清オイリオグループ株式会社製、構成脂肪酸に占める炭素数8と10の飽和脂肪酸含有量100質量%)をMCT1とした。
・大豆油(日清オイリオグループ株式会社製、MCT含有量0質量%、20℃で清澄)を液状油1とした。
・パーム油とエステル交換パーム軟質油の混合油脂(日清オイリオグループ株式会社社製、MCT含有量0質量%、20℃で固体状、上昇融点39℃)を固体脂1とした。
・ヤシ油硬化油(日清オイリオグループ株式会社製、MCT含有量0質量%、構成脂肪酸に占める中鎖脂肪酸含有量14質量%、20℃で固体状、上昇融点31℃)を固体脂2とした。
【0031】
<食パンの調製と評価>
表1、2の配合および表3の製造条件(中種法)でワンローフ型(山形)食パンを製造した。焼成から1日後の各食パンのボリュームを以下の評価基準で評価した。また、各食パンを六つ切りしてジッパー付き冷凍用袋に入れ、冷凍庫(-18℃)で保存した。12日後、室温で自然解凍した各六つ切りパンの食感を、比較例2を比較対照として以下の評価基準で評価した。なお、パンの製造および評価は、経歴10年以上のパン職人により行われた。
【0032】
〔ボリュームの評価基準〕
4 :非常に良好
3 :良好
2 :通常程度
1 :ボリュームが悪い

〔食感の評価基準〕
4 :対照と比較して、やわらかい(あとひき感もなく非常に良好)
3 :対照と比較して、やわらかい(良好)
2 :対照と比較して、同程度の硬さか、ややねばつきがある
1 :対照と比較して、食感が硬いか、ねばつきがある
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
<ロールパンの調製と評価>
表4の配合および表5の製造条件(中種法)でロールパンを製造した。焼成から1日後の各ロールパンのボリュームを評価した。また、各ロールパンをジッパー付き冷凍用袋に入れ、冷凍庫(-18℃)で保存した。12日後、室温で自然解凍した各ロールパンの食感を、比較例8を比較対照として評価した。なお、パンの製造および評価は、食パンの評価と同様の評価基準で、経歴10年以上のパン職人により行われた。
【0037】
【表4】

【0038】
【表5】