(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152677
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】磁石原料粉末、磁石粉末、及び磁石原料粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/053 20060101AFI20221004BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20221004BHJP
B22F 9/20 20060101ALI20221004BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20221004BHJP
【FI】
H01F1/053
H01F41/02 G
B22F9/20 A
B22F1/00 B
B22F1/00 G
B22F1/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055532
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】岡田 周祐
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一行
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB09
4K017BB12
4K017CA07
4K017DA04
4K017EH01
4K017EH18
4K017FB03
4K017FB10
4K018AA27
4K018BA18
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4K018BB06
4K018BC19
4K018KA45
5E040AA03
5E040CA01
5E040NN01
5E040NN06
5E062CC05
5E062CD04
(57)【要約】
【課題】本発明の一態様は、異相が抑えられたTbCu
7型サマリウム-鉄系合金の単結晶粒子を含む磁石原料粉末を提供する。
【解決手段】磁石原料粉末が、TbCu
7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の単結晶粒子を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の単結晶粒子を含む、磁石原料粉末。
【請求項2】
X線回折スペクトルにおけるTbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の(110)面の回折ピークに対するSm2Fe17相の(024)面の回折ピークの強度比が0.4以下である、請求項1に記載の磁石原料粉末。
【請求項3】
TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の格子定数比率c/aが0.84以上である、請求項1又は2に記載の磁石原料粉末。
【請求項4】
TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の割合が95%以上である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁石原料粉末。
【請求項5】
前記磁石原料粉末全量に対し、Zr量が0.5重量%以上8.0重量%以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁石原料粉末。
【請求項6】
Fe相の割合が5%以下である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁石原料粉末。
【請求項7】
前記TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の粒子の粒径が0.5μm以上3μm以下である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の磁石原料粉末。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の磁石原料粉末の窒化物を含む、磁石粉末。
【請求項9】
金属鉄と、酸化ジルコニウムと、金属サマリウム若しくはサマリウム化合物又はそれらの混合物と、アルカリ金属の塩化物及び/又はアルカリ土類金属の塩化物と、還元剤とを混合して熱処理することによって、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の単結晶粒子を含む磁石原料粉末を得る、磁石原料粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石原料粉末、磁石粉末、及び磁石原料粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム磁石を超える高い磁気特性を有する磁石の原料として、TbCu7型結晶構造を有するサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末(以下、「TbCu7型サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末」ともいう)が知られている。このようなTbCu7型サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末は、TbCu7型サマリウム-鉄系合金粉末を窒化処理することによって製造される。
【0003】
ここで、高い磁気特性、特に高い最大エネルギー積を有する磁石を得るためには、TbCu7型サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末自体が、高い磁気特性を示すことのできる異方性磁石粉末であることが必要である。そのために、窒化前のTbCu7型サマリウム-鉄系合金粉末(磁石原料粉末)が単結晶粒子微粉末であることが望まれる。
【0004】
特許文献1、2には、溶融塩を用いてサマリウム原料と鉄原料とを反応させることによる、TbCu7型サマリウム-鉄合金の単結晶粒子の合成について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-13887号公報
【特許文献2】国際公開第2020/183885号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載の技術では、熱処理温度を比較的低く設定する等によってTh2Zn17型サマリウム-鉄合金相の生成が抑えられている。しかしながら、低い熱処理温度では原料の拡散が不十分となり、未反応の鉄相等の異相が生じやすいため、TbCu7型サマリウム-鉄合金相の比率が低下し得る。一方、未反応鉄相の低減を優先させた場合に、TbCu7型の単結晶粒子が得られないことがある。そのため、異相が抑えられたTbCu7型サマリウム-鉄系合金の単結晶粒子を含む磁石原料粉末が求められている。
【0007】
上記に鑑みて、本発明の一態様は、異相が抑えられたTbCu7型サマリウム-鉄系合金の単結晶粒子を含む磁石原料粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の単結晶粒子を含む磁石原料粉末である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、異相が抑えられたTbCu7型サマリウム-鉄系合金の単結晶粒子を含む磁石原料粉末を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1、比較例1及び比較例2の磁石原料粉末のX線回折スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を説明するが、本発明は、以下の実施形態に記載した内容により限定されるものではない。
【0012】
<磁石原料粉末>
本実施形態は、磁石原料粉末であって、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の単結晶粒子を含むものである。ここで、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金は、TbCu7型サマリウム-鉄系合金に含まれるものであり、TbCu7型サマリウム-鉄合金中のサマリウム原子の一部がジルコニウム原子に置き換えられたものであってよい。本明細書において、「粉末」とは粒子の集合体を指す。また、「単結晶粒子」とは、その内部に結晶粒界を含まないか又は実質的に含まない、結晶方位が揃った粒子を指す。なお、磁石原料粉末中の単結晶粒子の存在は、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて取得された制限視野回折像を観察することによって評価され得る。
【0013】
本形態は、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の単結晶粒子を含む合金粉末であることで、残留鉄相(合金の生成過程で生じ得る未反応鉄単体相)等の異相の生成が抑えられたTbCu7型サマリウム-鉄系合金の単結晶粒子含有の磁石原料粉末を得ることができる。そのため、本形態による磁石原料粉末の品質は高く、本形態による磁石原料粉末を窒化処理して得られるTbCu7型サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の磁気特性、特に最大エネルギー積をさらに高めることができる。
【0014】
本形態による磁石原料粉末(TbCu7型サマリウム-鉄系合金粉末)においては、CoKα線を用いたX線回折(XRD)の測定で得られたX線回折スペクトルにおけるTbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の(110)面の回折ピークに対する、Sm2Fe17相の(024)面の回折ピークの強度比が、好ましくは0.40以下、より好ましくは0.20以下、さらに好ましくは0.10以下、さらに好ましくは0.01以下であってよい。上記強度比は、より具体的には、2θ=42.5°近傍に観測されるTbCu7型合金相の(110)面の回折ピークの積分強度(I42.5)に対する、2θ=44.1°近傍に観測されるTh2Zn17型合金相の(024)面の回折ピークの積分強度(I44.1)の比(I44.1/I42.5)とすることができる。上記の回折ピークの強度比を有する磁石原料粉末では、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の割合が十分に高くなっている。
【0015】
TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の格子定数比率(c/a)は、好ましくは0.840以上、より好ましくは0.842以上、さらに好ましくは0.845以上であってよい。格子定数比率は、磁石原料粉末のX線回折スペクトルに基づき、リートベルト解析等を利用して求めることができる。上記格子定数比率(c/a)が0.84以上である磁石原料粉末では、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の割合が十分に高くなっている。
【0016】
磁石原料粉末におけるTbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の割合は、磁石原料粉末全体に対して、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上であってよい。磁石原料粉末を構成する粒子が、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相から実質的になる、又はTbCu7型結晶であることが好ましい。上記割合は、X線回折スペクトルの積分強度に基づいて求められる割合(%)である。TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の割合は、具体的には、TbCu7型合金相の主回折ピークである、2θ=49.8°近傍に観測される(111)面の積分強度(I_TbCu7)と、Fe相の主回折ピークである、2θ=52.7°近傍に観測される(110)面の積分強度(I_Fe)と、TbCu7型合金相とFe相以外の相の主回折ピークの積分強度(I_Other)を求め、I_TbCu7/(I_TbCu7+I_Fe+I_Other)×100より積分強度の百分率で求めることができる。ここで、TbCu7型合金相以外の相とは例えばSmFe2相、SmFe3相、(Sm、Zr)Fe2相、ZrO2相、ZrFe2相、サマリウム酸化物相等がある。
【0017】
また、磁石原料粉末におけるFe相(単体鉄相)の割合は、好ましくは10.00%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは1.00%以下、さらに好ましくは0.10%以下、さらに好ましくは0.01%以下であってよい。磁石原料粉末におけるFe相の割合が10%以下であることで、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の割合を高めることができる。磁石原料粉末におけるFe相の上記割合も、上記のTbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の割合と同様に、磁石原料粉末のX線回折スペクトルから求められる割合である。
【0018】
磁石原料粉末中のジルコニウムの量は、磁石原料粉末全量に対して、好ましくは0.1重量%以上15重量%以下、より好ましくは0.5重量%以上8重量%以下であってよい。ジルコニウムの量の測定は、例えば発光分光分析法を使用して行うことができる。ジルコニウムの量を上記範囲とすることで、Fe相の割合を低減でき、且つ熱的に安定したTbCu7型合金の単結晶粒子を得ることができる。
【0019】
TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の粒子の粒径は、好ましくは3.0μm以下、より好ましくは1.0μm以下であってよい。粒径の下限は特に限定されないが、本形態による合金粉末を用いて製造される磁石の熱安定性を確保する観点から、粒子の粒径は0.5μm以上であると好ましい。なお、上記平均粒径は、走査型電子顕微鏡によって測定された値である。上記TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の粒子には、単結晶粒子のみならず、多結晶粒子が含まれていてよい。
【0020】
なお、本形態による磁石原料粉末において、全元素中のサマリウム元素の割合(原子%)は、5%以上15%以下であってよい。また、磁石原料粉末において、全元素中の鉄元素及びジルコニウム元素の割合は、85%以上95%以下であってよい。さらに、磁石原料粉末におけるTbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金は、本形態の作用効果を妨げない範囲で、サマリウム以外の希土類元素を含んでいてもよいし、鉄及びジルコニウム以外の遷移元素、例えばコバルト等を含んでいてもよい。
【0021】
また、本形態による磁石原料粉末は、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の単結晶粒子以外に、SmFe2の粒子、SmFe3の粒子、(Sm、Zr)Fe2の粒子、ZrO2の粒子、ZrFe2、サマリウム酸化物等の粒子等を含んでいてよい。
【0022】
<磁石原料粉末の製造方法>
また、本実施形態は、磁石原料粉末の製造方法であって、金属サマリウムと、金属鉄と酸化ジルコニウムとの混合物と、アルカリ金属の塩化物及び/又はアルカリ土類金属の塩化物と、還元剤とを混合して熱処理することによって、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の単結晶粒子を含む磁石原料粉末を得る、製造方法であってよい。
【0023】
本形態による製造方法では、アルカリ金属の塩化物及び/又はアルカリ土類金属の塩化物の溶融塩を利用する方法であることから、従来の加熱溶解及び冷却による合金化方法や超急冷法等では困難であった、準安定相のTbCu7型結晶構造を有するサマリウム-鉄系合金の単結晶粒子を合成できる。さらに、本形態では、ジルコニウムを含む原料、特に酸化ジルコニウムを用いることで、より高い温度での熱処理が可能になる。本形態によれば、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の単結晶粒子を含む磁石原料粉末が得られる。
【0024】
本形態による方法で用いられる金属鉄粉末と酸化ジルコニウム粉末との混合物は、前駆体である鉄-ジルコニウム酸化物粉末から作製することができる。ここで、鉄-ジルコニウム酸化物粉末は、水熱合成法、噴霧熱分解法、共沈法等で製造できる。噴霧熱分解法では、鉄塩とジルコニウム塩とを含む水溶液を調製し、水溶液を霧状にし、その霧状の水溶液を、好ましくはキャリアガス(例えば大気)とともに加熱する。水溶液を霧状にする手段は、特に限定されないが、超音波等を用いることが好ましい。水溶液に溶解させる鉄塩及びジルコニウム塩は、例えば硝酸塩等の水溶性の化合物であると好ましい。また、水溶液には、水素還元時の粒子間焼結を抑制するために硝酸カルシウム等のカルシウム塩、ストロンチウム塩といった粒成長抑制剤を添加しておくことが好ましい。
【0025】
鉄-ジルコニウム酸化物粉末の製造に上述の噴霧熱分解法を使用することによって、元素分布が均一な酸化物粉末を得ることができ、ひいては元素分布が均一な磁石原料粉末を製造することができる。また、得られる鉄-ジルコニウム酸化物粉末が球状に近く、粒径のばらつきも小さいので、反応性も高い。
【0026】
なお、鉄-ジルコニウム酸化物粉末の一次粒子の平均粒径は、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の粒子の粗大化を防ぐため、3.0μm以下、より好ましくは1μm以下が好ましい。粒径の下限は特に限定されないが、熱処理中のTbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の粒子の粒子間凝結を抑制するために0.1μm以上であると好ましい。
【0027】
得られたた鉄-ジルコニウム酸化物粉末は、例えば500℃程度の温度での水素ガスによる処理によって、粉末中の鉄を還元し、金属鉄粉末と酸化ジルコニウム粉末との混合物とすることができる。本形態では、原料として金属の形態ではなく、酸化物の形態のジルコニウムを添加することで、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の粒子内のジルコニウムが均一となる。
【0028】
金属鉄粉末と酸化ジルコニウム粉末との混合物の前駆体となる鉄-ジルコニウム酸化物粉末において、鉄元素とジルコニウム元素との比は(Fe:Zr)は、好ましくは1:0.01~1:0.18、より好ましくは1:0.02~1:0.15であってよい。上記範囲の比で構成された原料(鉄源及びジルコニウム源)を使用することで、TbCu7型マリウム-鉄-ジルコニウム合金の単結晶粒子をより確実に生成させることができる。
【0029】
上記製造方法における熱処理におけるサマリウム源としては、サマリウム金属若しくはサマリウム化合物、もしくはその混合物が挙げられる。サマリウム化合物は、例えば、酸化物又はハロゲン化物の状態であっても良い。ハロゲン化物としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物、及びフッ化物などが挙げられる。
【0030】
上記製造方法における熱処理において用いられるアルカリ金属の塩化物としては、LiCl、KCl、NaCl等が挙げられる。アルカリ土類金属の塩化物としては、例えば、CaCl2、MgCl2、BaCl2、SrCl2等が挙げられる。上記のアルカリ金属の塩化物及び/又はアルカリ土類金属の塩化物は、粉末の形態であってよい。また、熱処理では、還元剤として、金属カルシウム及び/又は水素化カルシウムを用いることが好ましい。
【0031】
本形態では、TbCu7型サマリウム-鉄合金系合金粉末(磁石原料粉末)の製造の原料に、ジルコニウムを含む化合物を利用することで、より高い温度での熱処理が可能となる。具体的には600℃超、好ましくは650℃以上、より好ましくは700℃以上での熱処理が可能となる。そのため、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の単結晶粒子の割合をより多く、また異相である残留Fe相(未反応のFe)の割合をより少なくすることができるので、TbCu7型サマリウム-鉄合金系合金粉末から得られる、TbCu7型サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の磁気特性を向上させることができる。なお、熱処理の温度は、TbCu7型結晶相を安定して生成するために、好ましくは850℃以下、より好ましくは800℃以下であってよい。
【0032】
なお、熱処理によって得られた粉末は、洗浄処理することができる。洗浄には純水等を用いる。洗浄処理によって、熱処理後の粉末中に残存するアルカリ金属の塩化物及び/又はアルカリ土類金属の塩化物を除去することができる。さらに、上記洗浄処理の後、乾燥することができる。乾燥は、常温での真空乾燥が好ましい。乾燥処理によって、得られた合金粉末の酸化を抑制することができる。乾燥に際しては、残存している水を、イソプロパノール等の揮発性有機溶剤で置換してから行ってもよい。
【0033】
得られた磁石原料粉末は、窒化されて、サマリウム-鉄-ジルコニウム-窒素磁石粉末とすることができる。窒化の方法は特に限定されないが、アンモニア、アンモニアと水素との混合ガス、窒素、窒素と水素との混合ガス等の雰囲気下、300~500℃で、サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の単結晶粒子を含む磁石材料粉末を熱処理する方法等が挙げられる。なお、磁石粉末の保磁力を高くするために最適な組成である、Sm0.667Fe5.667N1.26が得られるよう単結晶粒子中の窒素の含有量を制御することが好ましい。また、窒化後のTbCu7型サマリウム-鉄―窒素合金相の格子比率c/aは、TbCu7型サマリウム-鉄合金相と比較して、±0.001~0.002程度の変化が生じる。
【0034】
なお、上記洗浄処理と窒化処理の順序は限定されることはなく、窒化処理の後に洗浄処理を行ってもよい。
【実施例0035】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
[鉄及び酸化ジルコニウム混合粉末の作製]
硝酸鉄九水和物161.6g、硝酸カルシウム四水和物4.97g、及び硝酸ジルコニル二水和物2.68gを水4200mLに溶解させた後、硝酸26.8mlを加えて撹拌し、水溶液を得た。続いて、水溶液を超音波によって霧状とし、キャリアガス(大気)とともに、900℃に加熱した反応管を通すことによって、鉄-ジルコニウム酸化物粉末を作製した。さらに、得られた鉄-ジルコニウム酸化物粉末を、水素気流中500℃で6時間還元し、Fe金属粉末と酸化ジルコニウム粉末との混合物とした。
【0037】
[サマリウム-鉄-ジルコニウム合金粉末の作製]
上述のようにして得られたFe金属粉末と酸化ジルコニウム粉末との混合物0.24gと、サマリウム金属粉末0.40gと、塩化リチウム(LiCl)0.63と、塩化カルシウム(CaCl2)0.42gと、カルシウム金属0.20gを鉄製るつぼに入れ、アルゴン(Ar)雰囲気中、700℃で6時間熱処理し、サマリウム-鉄-ジルコニウム合金粉末を得た。
【0038】
[合金粉末の洗浄]
得られたサマリウム-鉄-ジルコニウム合金粉末を純水で洗浄し、カルシウム金属、並びに未反応のサマリウム及び塩化リチウムを除去した。続いて、水をイソプロパノールで置換した後、常温で真空乾燥させた。
【0039】
(実施例2)
硝酸ジルコニル二水和物の量を5.35g、水を4200mlとしたこと以外は、実施例1と同様にして、Fe金属粉末と酸化ジルコニウム粉末との混合物を作製し、サマリウム-鉄-ジルコニウム合金粉末を作製した。さらに同様に、得られたサマリウム-鉄-ジルコニウム合金粉末を洗浄した。
【0040】
(実施例3)
硝酸ジルコニル二水和物の量を10.7g、水を4400mlとしたこと以外は、実施例1と同様にして、Fe金属粉末と酸化ジルコニウム粉末との混合物を作製し、サマリウム-鉄-ジルコニウム合金粉末を作製した。さらに同様に、得られたサマリウム-鉄-ジルコニウム合金粉末を洗浄した。
【0041】
(比較例1)
[鉄粉末の作製]
硝酸鉄九水和物161.6g、及び硝酸カルシウム四水和物4.97gを水4000mLに溶解させた後、硝酸26.8mlを加えて撹拌し、水溶液を得た。続いて、水溶液を超音波によって霧状とし、キャリアガス(大気)とともに、900℃に加熱した反応管を通すことによって、酸化鉄粉末を作製した。得られた酸化鉄粉末を、水素気流中500℃で6時間還元して鉄粉末を作製した。
【0042】
[サマリウム-鉄合金粉末の作製]
上述のようにして得られた鉄粉末0.24gと、サマリウム粉末0.40gと、塩化リチウム(LiCl)0.63と、塩化カルシウム(CaCl2)0.42gと、金属カルシウム0.20gを鉄製るつぼに入れ、アルゴン(Ar)雰囲気中、600℃で6時間熱処理し、サマリウム-鉄合金粉末を得た。
【0043】
[合金粉末の洗浄]
得られたサマリウム-鉄合金粉末を、実施例1と同様に洗浄した。
【0044】
(比較例2)
サマリウム-鉄合金粉末を得るための熱処理の温度を700℃としたこと以外は、比較例1と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得て、さらに洗浄を行った。
【0045】
(比較例3)
硝酸ジルコニル二水和物の量を21.4g、水を4800mlとしたこと以外は、実施例1と同様にして、Fe金属粉末と酸化ジルコニウム粉末との混合物を作製し、サマリウム-鉄-ジルコニウム合金粉末を作製した。さらに同様に、得られたサマリウム-鉄-ジルコニウム合金粉末を洗浄した。
【0046】
<評価・測定>
[TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム単結晶粒子の有無]
サンプルと熱硬化性樹脂(G2樹脂)を体積比で等量程度をよく混合した後にFIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)用試料台(ピンスタブ)上に塗布し、真空脱泡した後にホットプレートを用いて120℃で1時間加熱し硬化させた。上記で作製した試料の表面を研磨紙で乾式研磨した。研磨紙の順序は粗い研磨紙(#600)で粗研磨した後、中程度の研磨紙(#1200)でさらに研磨し、最終的に細かい研磨紙(#3000)で仕上げ研磨することによって、研磨面を鏡面とした。上記で鏡面加工した試料をFIB装置によって薄片状に加工した。上記で得た薄片の断面に対し、収差補正TEM装置を用いて300kVの加速電圧でSTEM-EDS測定(Scanning Transmission Electron Microscopy-Energy Dispersive Spectroscopy:走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光分析)を実施した。これにより、TbCu7型Sm-Fe-Zr粒子の有無を確認した。具体的には、Zr:Sm:Feの原子比率にしてFe/(Zr+Sm)がおおよそ7.0~10.0である粒子をTbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム粒子とした。さらに、TEM分析(Transmission Electron Microscopy)の電子線回折像により、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム粒子の結晶性を評価し、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム単結晶粒子の有無を評価した。より具体的には,逆格子空間の格子点がスポット状であり、その格子点がTbCu7型結晶構造の空間群であるP6/mmmと一致する孤立粒子を、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム単結晶粒子とした。
【0047】
[TbCu
7型合金相の(110)面の回折ピークに対するTh
2Zn
17型合金相の(024)面の回折ピークの強度比]
X線回折装置Empyrean(Malvern Panalytical製)及びX線検出器Pixcel 1D(Malvern Panalytical製)を用いて、サマリウム-鉄-ジルコニウム合金粉末のX線回折スペクトルを測定した。具体的には、X線源として、Co管球を使用し、管電圧45kV、管電流40mA、測定角度30~60°、測定ステップ幅0.013°、幅スキャンスピード0.09°/secの条件で、サマリウム-鉄-ジルコニウム合金粉末のX線回折スペクトルを測定した。X線回折パターンの解析ソフトとして、High Score Plus(Malvern Panalytical製)を用い、最小有意度を1.00に設定して、ピークサーチ及びプロファイルフィッティングを実施した。具体的には、42.5°近傍に観測されるTbCu
7型合金相の(110)面の回折ピークの積分強度と、44.1°近傍に観測されるTh
2Zn
17型合金相の(024)面の回折ピークの積分強度を求めた後、X線回折ピークの強度比を算出した。
図1に、実施例1、比較例1及び比較例2による磁石原料粉末のX線回折スペクトルを示す。
【0048】
[TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金の格子定数比率(c/a)]
サマリウム-鉄-ジルコニウム合金粉末のX線回折スペクトルを測定した後、リートベルト解析を実施することにより、格子定数比率(c/a)を求めた。
【0049】
[TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の割合(%)]
解析ソフトHigh Score Plusを用いて、TbCu7型合金相の主回折ピークである49.8°近傍に観測される(111)面の積分強度(I_TbCu7)と、Fe相の主回折ピークである52.7°近傍に観測される(110)面の積分強度(I_Fe)と、TbCu7型合金相とFe相以外の相の主回折ピークの積分強度(I_Other)を求め、下式
I_TbCu7/(I_TbCu7+I_Fe+I_Other)×100
から、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の割合(%)を算出した。
【0050】
[残留Fe相の割合]
解析ソフトHigh Score Plus(Malvern Panalytical製)を用いて、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の主回折ピークである49.8°近傍に観測される(111)面の積分強度(I_TbCu7)と、Fe相の主回折ピークである52.7°近傍に観測される(110)面の積分強度(I_Fe)と、TbCu7型合金相とFe相以外のサマリウム-鉄-ジルコニウム合金相の主回折ピークの積分強度(I_Other)を求め、下式
I_Fe/(I_TbCu7+I_Fe+I_Other)×100
から、残留Fe相の割合(%)を算出した。
【0051】
[Zr量(重量%)]
ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:発光分光分析法)を用いて、Zrの重量比率(重量%)を測定した。
【0052】
[TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム合金粒子の平均粒子径]
SEM-EDS測定(Scanning Electron Microscopy-Energy Dispersive Spectroscopy:走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光分析)を実施した。これにより、TbCu7型Sm-Fe-Zr粒子を選定した。具体的には、Zr:Sm:Feの原子比率にしてFe/(Zr+Sm)がおおよそ7.0~10.0である粒子をTbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム粒子とした。さらに、SEM分析(Scanning Electron Microscopy)の電子線回折像により、TbCu7型サマリウム-鉄-ジルコニウム粒子の中から、無作為に100個以上を選定し、これらの粒子直径を測定し、その平均を平均粒子径とした。ここで、結晶粒子径Dは円相当径を使用したため、結晶粒子径Dと面積Sを用いて D=√(4S/π) で定義した。
【0053】
表1に、実施例1~3及び比較例1~3の製造条件及び評価結果を示す。
【0054】
【0055】
表1より、比較例1では600℃の熱処理によりTbCu7型サマリウム-鉄系合金粉末が得られているがFe相が観測された。その残留Fe相を低減するために700℃で熱処理を行なった結果、残留Fe相が低減されたが700℃ではTh2Zn17型サマリウム-鉄系合金が安定化し、TbCu7型サマリウム-鉄系合金粉末は得られなかった。本発明の実施例1~実施例3では、ジルコニウムを含む合金系の単結晶粒子を含むTbCu7型サマリウム-鉄系合金粉末であって、鉄相の生成が低減された磁石原料粉末が得られている。これは、TbCu7型サマリウム-鉄系合金粉末にジルコニウムが添加されることでTbCu7型構造が安定化したことに起因すると考えられる。一方、過剰なジルコニウムを含んでいる比較例3ではTbCu7型サマリウム-鉄系合金粉末は得られていない。これは、Zrが多すぎる場合にはZrFe2相等のZrリッチ相が形成され、結果的にTbCu7型サマリウム-鉄系合金相にZrが導入されなかったことが原因であると考えられる。