(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152704
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】HTLV-1がコードするTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球のT細胞受容体又はその機能的断片
(51)【国際特許分類】
C07K 14/725 20060101AFI20221004BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20221004BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20221004BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
C07K14/725
A61P35/00
A61P35/02
A61K39/00 A
C12N15/13 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055570
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 美樹
(72)【発明者】
【氏名】小松 則夫
(72)【発明者】
【氏名】安藤 純
(72)【発明者】
【氏名】石井 翠
(72)【発明者】
【氏名】中内 啓光
(72)【発明者】
【氏名】渡部 素生
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた抗腫瘍効果を有するT細胞受容体又はその機能的断片を提供する。
【解決手段】Tax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)のT細胞受容体をクローニングし、CTLクローンを一度iPS細胞に変換し、そのiPS細胞からTax抗原特異的CTLを再分化誘導して得られた、もとのCTLクローンよりも強力な抗腫瘍効果を持つCTLを得て、そこで明らかになったアミノ酸配列に基づく、α鎖V領域、及びβ鎖V領域を有する、HTLV-1がコードするTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球のT細胞受容体又はその機能的断片。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖V領域、及び配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域を有する、HTLV-1がコードするTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球のT細胞受容体又はその機能的断片。
【請求項2】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるα鎖V領域、及び配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域を有する、請求項1記載のT細胞受容体又はその機能性断片。
【請求項3】
さらに、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖J領域、及び配列番号5で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域を有する、請求項1又は2記載のT細胞受容体又はその機能的断片。
【請求項4】
さらに、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるα鎖J領域、及び配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域を有する、請求項1又は2記載のT細胞受容体又はその機能的断片。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載のT細胞受容体又はその機能的断片を有するTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球を含有する、成人T細胞白血病/リンパ腫治療薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HTLV-1がコードするTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球のT細胞受容体又はその機能的断片、及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL:adult T-cell leukemia-lymphoma)は、HTLV-1(human T-lymphotropic virus type-I)というウイルス感染が原因で、CD4+T細胞に感染し、感染したT細胞からがん化した細胞(ATL細胞)が無制限に増殖することで発症する(非特許文献1)。HTLV-1は発がん作用を有するTaxというウイルスタンパク質の遺伝子を持っているが、このTax抗原をターゲットにしたCTL療法は有効な治療法と期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、Tax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球のT細胞受容体をクローニングし、優れた抗腫瘍効果を有するT細胞受容体又はその機能的断片を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、患者末梢血からTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球を誘導後、シングルセルクローニングを行い、Tax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)のクローン樹立に成功した。そして、得られたクローンの自己腫瘍細胞(ATL細胞)に対する抗腫瘍効果を確認した。しかしCTLクローンは増殖力に限りがあり、実際の患者の治療に用いるための細胞を確保するのは難しいと考えた。そのため、CTLクローンを一度iPS細胞に変換し、そのiPS細胞からTax抗原特異的CTLを再分化誘導したところ、もとのCTLクローンよりも強力な抗腫瘍効果を持つCTLの作製に成功した。
再分化誘導したCTLをレパトア解析することにより、T細胞受容体(TCR)のアミノ酸配列を明らかにし、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[8]を提供するものである。
[1]配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖V領域、及び配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域を有する、HTLV-1がコードするTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球のT細胞受容体又はその機能的断片。
[2]配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるα鎖V領域、及び配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域を有する、[1]記載のT細胞受容体又はその機能性断片。
[3]さらに、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖J領域、及び配列番号5で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域を有する、[1]又は[2]記載のT細胞受容体又はその機能的断片。
[4]さらに、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるα鎖J領域、及び配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域を有する、[1]又は[2]記載のT細胞受容体又はその機能的断片。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のT細胞受容体又はその機能的断片を有するTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球を含有する、成人T細胞白血病/リンパ腫治療薬組成物。
[6][1]~[4]のいずれかに記載のT細胞受容体又はその機能的断片を有するTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球の、成人T細胞白血病/リンパ腫治療薬製造のための使用。
[7]成人T細胞白血病/リンパ腫を治療するための、[1]~[4]のいずれかに記載のT細胞受容体又はその機能的断片を有するTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球。
[8][1]~[4]のいずれかに記載のT細胞受容体又はその機能的断片を有するTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球を投与することを特徴とする、成人T細胞白血病/リンパ腫の治療方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のHTLV-1がコードするTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球のT細胞受容体又はその機能的断片を有するTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球は、成人T細胞白血病/リンパ腫治療薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】得られたTリンパ球のTax抗原に対する抗原特異性を示す。
【
図2】得られたもとのTax特異的CTLクローンとiPSC由来Tax特異的CTLの抗原特異的細胞傷害活性を示す。autoATLは、ATLに対する作用を示し、HLA mismatched LCLは、コントロールとしてHLAの一致しないLCL細胞に対する作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、HTLV-1がコードするTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球のT細胞受容体(TCR)又はその機能的断片であって、配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖V領域、及び配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域を有することを特徴とする。
【0010】
HTLV-1は、成人T細胞白血病/リンパ腫(Adult T-cell leukemia:ATL)、HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1 associated myelopathy:HAM)及びHTLV-1ぶどう膜炎(HTLV-1 uveitis:HU)などの疾患を引き起こす。HTLV-1は、長さ約9kbのプロウイルス遺伝子を有する。HTLV-1のプロウイルス遺伝子は、Tax、Rex、gag、pol、env等の種々のタンパク質をコードする。このうちTaxタンパク質は、完全長として約353アミノ酸残基を有し、宿主細胞内でNF-κB、SRF、CREBなどの宿主の転写因子の活性化、p53等のタンパク質の機能抑制など、多数の機能を有する。
また、HTLV-1の感染対象細胞のほとんどは、CD4+T細胞である。
【0011】
T細胞受容体(以下、TCRという)は、T細胞の抗原認識機能を担うものであり、α鎖、β鎖、γ鎖、δ鎖などのタンパク質から構成される。このうち、TCRα鎖タンパク質(TCRα)とTCRβ鎖タンパク質(TCRβ)とのヘテロ二量体、又はγとδ鎖とのヘテロ二量体が、補助分子としてのCD3複合体(γ、δ、ε、ζを含む)、CD4又はCD8などと一緒になってTCRを形成している。
TCRα及びTCRβは、可変領域(V領域+J領域)及び定常領域(C領域)を有している。なお、可変領域中のV領域には相補性決定領域(CDR)が存在する。従って、TCRは、TCRα及びTCRβ中のV領域(CDR領域を含む)、又はV領域及びJ領
域のアミノ酸配列によって特徴づけることができる。
【0012】
本発明のTCRは、配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖V領域、及び配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域を有することを特徴とする。
ここで、当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列は、当該アミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよく、さらに当該アミノ酸配列と97%以上の同一性を有するアミノ酸配列であるのが好ましい。
本発明のTCRとしては、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるα鎖V領域、及び配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域を有するTCRが好ましい。
また、前記配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるα鎖V領域中には、配列番号3で示されるCDR3領域が含まれる。配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域には、配列番号6で示されるCDR3領域が含まれる。
【0013】
本発明のTCRは、さらに、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖J領域、及び配列番号5で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域を有することが好ましい。
ここで、当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列は、当該アミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよく、さらに当該アミノ酸配列と97%以上の同一性を有するアミノ酸配列であるのが好ましい。
本発明のTCRとしては、さらに、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるα鎖J領域、及び配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域を有するTCRが好ましい。
さらに本発明のTCRは、配列番号7で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖を有するTCRが好ましい。
【0014】
本発明のTCRの機能的断片としては、前記α鎖V領域及びβ鎖V領域を有するポリペプチド、前記α鎖V領域、α鎖J領域、β鎖V領域及びβ鎖J領域を有するポリペプチド、これらのポリペプチドの結合体などが挙げられる。
【0015】
本発明のTCRは、例えば、患者末梢血からTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球を誘導後、シングルセルクローニングを行い、Tax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球クローンを樹立することにより得られる。
末梢血からTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球を誘導するには、健常人であっても、ウイルス感染症を患っているヒトであってもよい。
本発明においてT-iPS細胞に誘導されるT細胞は、Tax抗原特異性を有するT細胞が好ましい。例えば、CD3及びCD8が発現しているT細胞であり、具体的にはCD8陽性細胞であるCTLが挙げられる。また、例えばCD3及びCD4が発現しているT細胞であり、具体的にはCD4陽性細胞であるT細胞が挙げられる。なお、T細胞における抗原特異性は、抗原特異的な、再構成されたTCR遺伝子によりもたらされる。なお、製造効率の観点からは、特にこれに限定されないが、抗原特異的CD8陽性細胞を得るためには、T-iPS細胞へ誘導されるヒトT細胞としては、抗原特異的CD8陽性T細胞を用いることが好ましい。また、免疫療法を実施する場合、iPS細胞から分化させるヒトT細胞は、iPS細胞へ誘導されるヒトT細胞と抗原特異性が同一または実質的に同一であることが好ましい。また、T-iPS細胞を誘導するT細胞として、抗原特異性のないT細胞も含まれる。具体的にはCART細胞もしくはTCR-T細胞など遺伝子改変T細胞が挙げられる。
【0016】
このようなT細胞は、例えばヒトの組織から公知の手法により単離することができる。ヒトの組織としては、前記T細胞を含む組織、例えば、末梢血、リンパ節、骨髄、胸腺、脾臓、臍帯血、病変部組織が挙げられる。これらの中では、ヒトに対する侵襲性が低く、調製が容易であるという観点から、末梢血が好ましい。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を分離する際には腫瘍組織もしくは末梢血から分離することができる。ヒトT細胞を単離するための公知の手法としては、例えば、細胞分離用磁気ビーズなどを用いる磁気セレクション、CD4又はCD8等の細胞表面マーカーに対する抗体と、セルソーターとを用いたフローサイトメトリー、抗CD3抗体、抗CD28抗体を用いる活性化T細胞誘導法などが挙げられる。また、サイトカインの分泌や機能性分子の発現、又はPD-1などのシグナル分子を指標に、所望のT細胞を単離することも出来る。また、グランザイムやパーフォリンなどの分泌又は産生を指標として、細胞傷害性T細胞(CTL)を単離することが出来る。さらに、抗原特異性を有するT細胞を含むヒトの組織より単離する場合には、所望の抗原を結合させたMHC(主要組織適合遺伝子複合体)を多量体化させたもの(例えば、「MHCテトラマー」、「プロ5(登録商標)MHC クラスIペンタマー」)を用いて、ヒトの組織より所望の抗原特異性を有するT細胞を精製することができる。
【0017】
本発明において、T細胞をiPS細胞にするために導入される遺伝子は、(a)Oct3/4遺伝子、(b)c-Myc遺伝子、(c)Sox2遺伝子、(d)Klf4遺伝子、(e)NANOG遺伝子、及び(f)LIN28遺伝子などのうち少なくとも4種類の遺伝子の組み合わせが好ましい。
【0018】
本発明において、T細胞に前記遺伝子群を導入する方法としては特に制限はなく、公知の手法を適宜選択して用いることができる。例えば、前記遺伝子群をコードする核酸の形態にて前記T細胞に導入する場合においては、前記遺伝子群をコードする核酸(例えば、cDNA、RNA)を、T細胞で機能するプロモーターを含む適当な発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを感染、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法にて細胞に導入することができる。
【0019】
このような発現ベクターのうち、前記遺伝子群を含むステルス型RNA発現ベクターを用いるのが、がん化の危険性の低減、導入効率の点から、より好ましい。
ステルス型RNA発現ベクターとは、ベクターが染色体に入ることを回避し、核内ではなく細胞質内で、持続的で安定して遺伝子が発現するように設計されたベクターである。1万3000塩基対以上の大きな遺伝子の導入や、10個の遺伝子の同時導入もでき、細胞に傷害を与えず、導入遺伝子が不要な時には除去が可能で、細胞がベクターを異物として認識できないステルス性を持っている。
このようなステルス型RNA発現ベクターとしては、下記(1)~(8)のRNA配列を含むマイナス一本鎖RNA(A)と、一本鎖RNA結合タンパク質(B)、RNA依存性RNA合成酵素からなり、自然免疫構造を活性化させない複合体が挙げられる。
(1)前記遺伝子群に対するRNA配列、
(2)非コード領域を構成するヒトmRNA由来RNA配列、
(3)前記RNA依存性RNA合成酵素が認識する転写開始シグナル配列、
(4)前記RNA依存性RNA合成酵素が認識する転写終結シグナル配列、
(5)前記RNA依存性RNA合成酵素が認識する複製起点を含むRNA配列、
(6)前記RNA依存性RNA合成酵素をコードするRNA配列、
(7)前記RNA依存性RNA合成酵素の活性を調節するタンパク質をコードするRNA配列、
(8)前記一本鎖RNA結合タンパク質をコードするRNA配列。
【0020】
また、T-iPS細胞を樹立する際には、前記T細胞は、前記遺伝子群の導入前に、インターロイキン-2(IL-2)もしくはインターロイキン-7(IL-7)及びインターロイキン-15(IL-15)の存在下にて抗CD3抗体及び抗CD28抗体によって刺激して活性化することが好ましく、フィトヘマグルチニン(PHA)、インターロイキン-2(IL-2)、同種抗原発現細胞、抗CD3抗体、及び抗CD28抗体、CD3及びCD28アゴニストからなる群から選択される少なくとも1の物質によって刺激して活性化してもよい。かかる刺激は、例えば、培地中に、PHA、IL-2、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体等を添加して前記T細胞を一定期間培養することによって行うことができる。また、抗CD3抗体及び抗CD28抗体は磁性ビーズ等が結合されているものであってもよく、さらにこれらの抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を表面に結合させた培養ディッシュ上で前記T細胞を一定期間培養することによって刺激を与えてもよい。さらにまた、前記T細胞(例えば、ヒトT細胞)が認識する抗原ペプチドをフィーダー細胞とともに培地中に添加することによって刺激を与えても良い。
【0021】
かかる刺激を前記T細胞に与えるために、培地中に添加するPHAの濃度としては特に制限はないが、1~100μg/mLであることが好ましい。また、培地中に添加するIL-2の濃度としては特に制限はないが、1~200ng/mLであることが好ましい。さらに、培地中に添加する抗CD3抗体及び抗CD28抗体の濃度としては特に制限はないが、前記T細胞の培養量の1~10倍量であることが好ましい。また、かかる刺激を前記T細胞に与えるために、培養ディッシュの表面上に結合させた抗CD3抗体及び抗CD28抗体の濃度としては特に制限はないが、コーティングの際の濃度は抗CD3抗体では0.1~100μg/mL、好ましくは1~100μg/mL、抗CD28抗体では0.1~10μg/mLであることが好ましい。
【0022】
また、かかる刺激を行うための培養期間は、前記T細胞に対してかかる刺激を与えるのに十分な期間であって、前記4遺伝子の導入に必要な細胞数までT細胞を増殖しうる期間であれば特に制限はないが、通常2~7日間であるが、遺伝子導入効率の観点から、好ましくは3~5日間である。15mLチューブ内でT細胞とベクターを混合することにより感染させる、もしくは遺伝子導入効率を上げるという観点から、レトロネクチンがコートしてある培養ディッシュ上にて培養することが好ましい。
【0023】
前記T細胞を培養し、PHA、IL-2、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体等を添加する培地としては、例えば、前記T細胞の培養に適した公知の培地(より具体的には、他のサイトカイン類、ヒト血清を含む、ロズウェルパーク記念研究所(RPMI)1640培地、AIM VTM medium、NS-A2を用いることができる。培地には、PHA、IL-2、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体以外にも、培養に必要なアミノ酸(例えば、L-グルタミン)、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン)が添加してあっても良い。また、IL-2のかわりに培地にIL-7及びIL-15を添加することも好ましい。IL-7及びIL-15の添加濃度としては特に制限はないが、それぞれ1~100ng/mLであることが好ましい。
【0024】
また、前記T細胞に前記4遺伝子を導入する際、又はその後の条件としては特に制限はないが、前記4遺伝子を導入した前記T細胞は、フィーダーフリー条件下で培養するのが好ましい。例えば、ラミニン511E8断片であるiMatrix-511溶液もしくはビトロネクチンでコーティングされたウェルなどが挙げられる。フィーダー細胞条件下での培養でも樹立可能であり、フィーダー細胞としては例えば、放射線の照射や抗生物質処理により細胞分裂を停止させたマウス胎児繊維芽細胞(MEF)、STO細胞、SNL細胞が挙げられる。
【0025】
さらに、前記T細胞からT-iPS細胞に誘導する過程において、翌日からiPS細胞の培地を添加しておくことが好ましい。その後は1日おきに半量ずつ培地交換を行い、徐々にT細胞培地からiPS培地に置換するのが好ましい。
【0026】
また、前記T細胞からiPS細胞への移行に合わせて、前記T細胞の培養に適した公知の培地から、iPS細胞の培養に適した培地に徐々に置換していきながら培養することが好ましい。かかるiPS細胞の培養に適した培地としては、公知の培地を適宜選択して用いることができ、例えば、iMatrixコーティングした場合にはStemFit AK03Nもしくはビトロネクチンでコーティングした場合にはEssential 8 Medium、MEF細胞などのフィーダー細胞上ではノックアウト血清代替物、L-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール、及びb-FGF等を含有する、ダルベッコ変法イーグル培地/F12培地(ヒトiPS細胞培地)が望ましい。
【0027】
このようにしてT-iPS細胞の選択は、公知の手法を適宜選択することによって行うことができる。かかる公知の手法としては、例えば、ES細胞/iPS細胞様コロニーの形態を顕微鏡下にて観察して選択する方法が挙げられる。一方でシングルセルであるCTLクローンから樹立したT-iPSの場合、性質が似ていることが多いため、T-iPS細胞の各コロニーを選択せず、樹立できたコロニーを全てそのまま継代する方法もある。
【0028】
このようにして選択された細胞がT-iPS細胞であるということの確認は、例えば、選択された細胞における未分化細胞特異的マーカー(ALP、SSEA-4、Tra-1-60、及びTra-1-81等)の発現を免疫染色やRT-PCR等によって検出する方法や、選択された細胞をマウスに移植して、そのテラトーマ形成を観察する方法により行うことができる。また、このようにして選択された細胞が前記T細胞由来であることの確認は、TCR遺伝子再構成の状態をゲノムPCRによって検出することにより行うことができる。
【0029】
これらの細胞を選択して回収する時期は、コロニーの生育状態を観察しながら、回収するのが好ましい。概ね、前記4遺伝子を含む遺伝子群を前記T細胞に導入してから10~40日、好ましくは14日~28日である。培養環境としては、上記にて特に断りのない限り、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。
【0030】
次に、樹立したT-iPS細胞からTax抗原特異的CTL細胞を分化誘導する。
この再分化誘導方法としては、T-iPS細胞を、CD8+シングルポジティブT細胞に分化させる方法が好ましく、T-iPS細胞を、CD4/CD8ダブルネガティブT細胞に分化させ、次いで当該CD4/CD8ダブルネガティブT細胞をCD8+シングルポジティブT細胞に分化させる方法がより好ましい。
更には、前記特許文献1記載のように、T-iPS細胞を、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞に分化させ、T細胞受容体を刺激する物質を添加してCD4/CD8ダブルネガティブ細胞に刺激を与え、次いでT細胞受容体に刺激を与えた前記CD4/CD8ダブルネガティブ細胞を、IL-7及びIL-15のサイトカインの存在下でCD8シングルポジティブT細胞に分化させることにより得るのが好ましい。
【0031】
T-iPS細胞をCD4/CD8ダブルネガティブ細胞に分化させるには、T-iPS細胞をフィーダー細胞(好ましくはマウスストローマ細胞)上で、サイトカイン、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS))、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、L-グルタミン、α-モノチオグリセロール、アスコルビン酸等を含有する培地中にて培養することが好ましい。
用いるストローマ細胞としては、放射線照射等の処理を施したOP9細胞、10T1/2細胞(C3H10T1/2細胞)であることが好ましい。培地に添加されるサイトカインは、VEGF、SCF、TPO及びFLT3L群から選択される少なくとも1種のサイトカインであることが好ましく、VEGF、SCF及びTPO、又は、VEGF、SCF及びFLT3Lであることがより好ましい。
また、培地としては、例えば、X-VIVO培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM培地)、α-MEM、DMEMが挙げられるが、T-iPSサック(造血前駆細胞を含有する袋状の構造物)を形成させやすくする点から、IMDM培地が好ましい。このT-iPS細胞の培養期間としては、T-iPS細胞の培養を開始してから好ましくは8~14日間、より好ましくは10~14日間である。培養環境としては、特に制限はないが、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。また、低酸素濃度条件(酸素濃度:例えば、5~20%)下にて1週間程度培養することがより好ましい。
【0032】
T-iPS細胞をCD4/CD8ダブルネガティブ細胞に分化させるために、さらに、前記のT-iPSサックに含まれている細胞を、サイトカインや血清(例えば、FBS)等を含有する培地中にて、フィーダー細胞(好ましくはストローマ細胞、より好ましくはヒトストローマ細胞)上で培養することが好ましいが、フィーダーフリーの条件下でサイトカインコートのwellを使用する。T-iPSサックの内部に存在する細胞は、例えば、滅菌済みの篩状器具(例えば、セルストレイナーなど)に通すことにより、分離することができる。この培養に用いるストローマ細胞としては、notchシグナルを介して、Tリンパ球への分化誘導を行うという観点から、放射線照射等の処理を施したOP9-DL1細胞、OP9-DL4細胞、10T1/2/DL4細胞、10T1/2/DL1細胞であることが好ましい。培地に添加するサイトカインとしては、例えば、IL-7、FLT3L、VEGF、SCF、TPO、IL-2、及びIL-15が挙げられる。培地としては、例えば、α-MEM培地、DMEM培地、IMDM培地が挙げられるが、α-MEM培地が好ましい。また、培地には、IL-7及びFLT3L以外にも、培養に必要なアミノ酸(例えば、L-グルタミン)、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン)が添加してあっても良い。
【0033】
このT-iPSサックに含有されている細胞の培養期間としては、このようにして分化して得られたCD4/CD8ダブルネガティブ細胞の細胞表面上にT細胞受容体(TCR)が発現するまでの期間であることが好ましく、T-iPSサックに含有されている細胞の培養を開始してから14~28日間であることが好ましい。培養環境としては、特に制限はないが、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。
【0034】
なお、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞の細胞表面上にT細胞受容体(TCR)が発現しているか否かは、抗TCRαβ抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体及び抗CD8抗体を用いたフローサイトメトリーにより評価することができる。
【0035】
抗原特異性を有するヒトCD8シングルポジティブ細胞の製造方法においては、T-iPS細胞由来のCD4/CD8ダブルネガティブ細胞を、該細胞表面上に発現しているTCRを介して刺激することにより、TCRA遺伝子の更なる再構成を抑制することができ、ひいては、再分化して得られたCD8シングルポジティブ細胞において、元のヒトT細胞と同じTCR遺伝子の再構成パターンを有するT細胞の出現頻度を極めて高くすることができる。
【0036】
T-iPS細胞由来のCD4/CD8ダブルネガティブ細胞のT細胞受容体に刺激を与える方法としては、抗CD3抗体、抗CD28抗体、T-iPS細胞の元となったヒトT細胞が特異的に結合する抗原ペプチド、前記T細胞受容体に対し拘束性を示すHLAとの複合体を発現する細胞、及び該抗原ペプチドを結合させたMHC多量体からなる群から選択される少なくとも1の物質とT-iPS細胞由来のCD4/CD8ダブルネガティブ細胞とを接触させる方法が好ましく、生理的な刺激を与える観点からは、特異ペプチド/HLA複合体発現細胞を接触させる方法がより好ましい。また、刺激の均一性を重視する観点からは、抗体や試薬を接触させる方法がより好ましい。
【0037】
接触させる方法は、例えば、培地中に、PHA等を添加して前記T細胞を一定期間培養することによって行うことができる。また、抗CD3抗体及び抗CD28抗体は磁性ビーズ等が結合されているものであってもよく、さらにこれらの抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を表面に結合させた培養ディッシュ上で前記T細胞を一定期間培養することによって刺激を与えてもよい。さらにまた、前記抗原ペプチドをフィーダー細胞とともに培地中に添加することによって刺激を与えても良い。
【0038】
CD4/CD8ダブルネガティブ細胞のTCRを刺激するために、培地中に添加するPHAの濃度としては、1~100μg/mlであることが好ましい。また、培地中に添加する抗CD3抗体及び抗CD28抗体の濃度としては、前記T細胞の培養量の1~10倍量であることが好ましい。また、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞のTCRを刺激するために、培養ディッシュの表面上に結合させた抗CD3抗体及び抗CD28抗体の濃度としては、コーティングの際の濃度は抗CD3抗体では0.1~100μg/ml、抗CD28抗体では0.1~10μg/mlであることが好ましい。
【0039】
このT-iPSサックに含有されている細胞の培養期間としては、このようにして分化して得られたCD4/CD8ダブルネガティブ細胞の細胞表面上にT細胞受容体(TCR)が発現するのに必要な期間を含むことが好ましく、T-iPSサックに含有されている細胞の培養を開始してから7~29日間であることが好ましい。培養環境としては、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。
【0040】
本発明において、T細胞受容体に刺激を与えたCD4/CD8ダブルネガティブ細胞をCD8シングルポジティブ細胞に分化させるために、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞は、サイトカインや血清(例えば、ヒト血清)等を含有する培地中にて培養することが好ましい。培地に添加するサイトカインとしては、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞をCD8シングルポジティブ細胞に分化させることができるものであればよく、例えば、IL-7、IL-15が挙げられる。これらの中では、CD8シングルポジティブ細胞への分化において、CD8系譜を選択させ、かつメモリー型CD8+T細胞生成が生じ易くさせるという観点では、IL-7及びIL-15を組み合わせて添加することが好ましい。IL-7及びIL-15の添加濃度としては、1~20ng/mlであることが好ましい。培地としては、例えば、RPMI-1640培地、X-VIVO培地、DMEM培地、α-MEM培地が挙げられるが、RPMI-1640培地又はX-VIVO培地が好ましい。また、培地には、IL-7、IL-15等以外にも、培養に必要なアミノ酸(例えば、L-グルタミン)、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン)、IL-7、IL-15等以外のサイトカインが添加してあってもよい。
【0041】
かかる培養においては、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞をフィーダー細胞と共培養してもよい。フィーダー細胞としては、末梢血単核球細胞(PBMC)であることが好ましい。かかるPBMCとして、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞とはアロ(同種異系)の関係にあることが好ましい。また、TCRを刺激し続け、TCRの更なる再構成を抑制し続けるという観点から、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞の元となったヒトT細胞が特異的に結合する抗原ペプチドを提示する末梢血単核球細胞を用いることがより好ましい。
【0042】
このCD4/CD8ダブルネガティブ細胞をCD8シングルポジティブ細胞に分化させるための培養期間としては、2~4週間であることが好ましい。培養環境としては、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。
【0043】
このように分化誘導されたCD8シングルポジティブ細胞が、T-iPS細胞由来であり、また該T-iPS細胞の元となったT細胞由来であることの確認は、例えば、TCR遺伝子再構成の状態をゲノムPCRによって検出することにより行うことができる。
【0044】
また、このようにして得られたCD8シングルポジティブ細胞は、公知の手法を適宜選択して単離することができる。かかる公知の手法としては、例えば、CD8の細胞表面マーカーに対する抗体と、セルソーターとを用いたフローサイトメトリーが挙げられる。例えば、CD8シングルポジティブ細胞の場合は、CD8シングルポジティブ細胞の元となったT細胞が認識する抗原を固定化したアフィニティカラム等を用いて精製する方法、当該抗原を結合させたMHC多量体(例えば、MHCテトラマー)を用いて精製する方法を採用することもできる。
【0045】
また、本発明により得られたCD8シングルポジティブ細胞は、PD-1は発現していないのに対し、セントラルメモリーT細胞の表現型を代表するCD27及びCD28と共にCCR7が発現しており、またテロメアも元となったT細胞と比べ長くなっており、高い自己複製能を有している。従って、本発明によれば、元のT細胞と同一のTCR遺伝子の再構成パターンを有するCD8シングルポジティブT細胞であって、PD-1を発現せず、CD27、CD28及びCCR7を発現する細胞を製造することができる。そして、ヒトから採取したT細胞は、PD-1を発現し、幼若なメモリーフェノタイプの割合は少ない点で、得られたT細胞とは異なる。
【0046】
このようにして得られたCD8シングルポジティブ細胞を維持するために、1~2週間毎に、当該細胞に刺激を与えてもよい。かかる刺激としては、抗CD3抗体、抗CD28抗体、IL-2、IL-7、IL-15、該CD8SP細胞が認識する抗原、当該抗原を結合させたMHC多量体、該CD8シングルポジティブ細胞とアロの関係にあるフィーダー細胞及び該CD8シングルポジティブ細胞とオートの関係にあるフィーダー細胞からなる群から選択される少なくとも1の物質との接触が挙げられる。
【0047】
得られたiPSC由来Tリンパ球が、Tax抗原特異的細胞傷害活性を有するか否かの確認は、MHCペンタマー、MHCテトラマーなどを用いてもとの末梢血由来CTLと同一の抗原特異性を保持していることを確認する。更にTCR配列解析を行いTCRαβを同定した。
【0048】
また、Tax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球は、本発明のTCRをコードする遺伝子を用いて、遺伝子組み換えによって製造することもできる。すなわち、例えば、本発明のTCRをコードする遺伝子を宿主T細胞に導入し、Tax抗原特異的細胞傷害性を有する細胞を選択すればよい。
宿主T細胞にTCRをコードする遺伝子を導入するには、種々のウイルスベクターに当該遺伝子を組み込むのが好ましい。
Tax抗原特異的細胞傷害性を有する細胞の選択は、前記のTax抗原特異的細胞傷害活性の確認でもよいし、IFN-γなどのサイトカインの産生能の検出でもよい。
【0049】
得られたTax抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球は、優れたTax抗原特異的細胞傷害活性を有するので、成人T細胞白血病/リンパ腫、HTLV-1関連脊髄症及びHTLV-1ぶどう膜炎(HTLV-1 uveitis:HU)などの疾患の治療薬、特に成人T細胞白血病/リンパ腫治療薬組成物として有用である。
【0050】
本発明の医薬組成物は、本発明のTリンパ球に加えて、薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。そのような担体の例として、生理食塩水、リンゲル液などが挙げられる。さらに本発明の医薬組成物は、必要に応じて、保存剤、着色剤などの公知の薬学的に許容される添加物を含むことができる。
本発明の医薬組成物の形態は、注射剤が好ましく、T細胞輸注療法用の注射剤が好ましい。
【実施例0051】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1
Tax特異的CTLクローンよりセンダイウイルスベクターを用いてT-iPS細胞の樹立。
1)健常人末梢血より末梢血単核球を分離後、抗原提示目的に樹状細胞を誘導した。7日後、誘導した樹状細胞にTax抗原ペプチド(Tax11-19,A0201)を添加し末梢血単核球と共培養開始した。約8~10日後にTax特異的CTL検出のため、CTLをMHCテトラマーで染色後、フローサイトメトリーにてテトラマー陽性率を確認した。Tax特異的CTLを確認後、シングルセルソート又はテトラマー/PEビーズセレクション後限界希釈法を行った。
【0053】
2)約3~6週間後立ち上がったコロニーのテトラマー染色を行い、フローサイトメトリーでCTLクローン樹立の確認をした。樹立確認後CTLクローンをCD3/28刺激後、以下のA)の2種類のベクターを用い遺伝子導入した。iMatrixでコートした6wellプレートに遺伝子導入後のCTLを移動し、CTLメディウムを培地としてCO2インキュベーターで培養開始した。
【0054】
A)SeV4因子ベクター + SV40 large T抗原
【0055】
3)SeV遺伝子導入翌日、iPSメディウム(StemFitAK03N)を等量加え、その後は1日おきに半量ずつStem FitAK03Nに置換した。
4)7日後にT-iPS細胞のコロニーが観察でき、その後コロニーピックアップして拡大培養を行なった。その後iPSC由来 rejuvenated Tax-CTL(Tax-rejT)を分化誘導した。
5)細胞傷害性試験を行うと元の末梢血CTLより強力に腫瘍細胞に抗原特異的細胞傷害活性を示すことができた。
【0056】
図1に末梢血から誘導したTax-CTLと樹立したTax特異的CTLクローン、更にiPSC由来Tax-CTL(Tax-rejT)のテトラマー染色結果を示す。
【0057】
実施例2
(細胞傷害性試験)
1)ATL腫瘍細胞に対するTax-rejTの細胞傷害活性と末梢血由来Tax-CTLの細胞傷害性細胞傷害性を比較するために51クロム放出試験を行った。エフェクターとしてTax-rejT又は末梢血由来Tax-CTL、クロムでラベルしたターゲットである患者由来(自家)ATL細胞、コントロールターゲットであるHLA不一致EBウイルス感染腫瘍細胞株(LCL)をエフェクター:ターゲット比を20:1、10:1、5:1と2.5:1で6時間共培養した。
2)共培養後培養上清を別のカウンター用のプレートに移し、乾燥後プレートリーダーで測定した。
3)Tax-rejTはATL細胞に対して強い抗原特異的細胞傷害性を示したが(60-70%)、コントロールのHLA不一致腫瘍細胞株に対しては10%以下と細胞傷害性を示さなかった。末梢血由来Tax-CTLはATL細胞に対して15-20%程度の細胞傷害性を示した。コントロールのHLA不一致腫瘍細胞株に対しては10%以下と細胞傷害性を示さなかった。Tax-rejTのTax抗原特異的細胞傷害活性はTax-CTLより強力であった(
図2)。
【0058】