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特開2022-152770光象牙質診断装置及び光象牙質診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152770
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】光象牙質診断装置及び光象牙質診断方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/04 20060101AFI20221004BHJP
   A61B 1/247 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
A61C19/04 Z
A61B1/247
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055670
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】595148176
【氏名又は名称】学校法人大阪歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間 久直
(72)【発明者】
【氏名】粟津 邦男
(72)【発明者】
【氏名】吉川 一志
【テーマコード(参考)】
4C052
4C161
【Fターム(参考)】
4C052NN05
4C052NN07
4C052NN12
4C052NN15
4C161AA08
(57)【要約】
【課題】象牙質の硬さを定量的に測定でき、さらにはう蝕象牙質の軟化が進んで水分が染み出してくる象牙質であっても硬さを定量的に測定でき、その結果う蝕象牙質と健全歯との識別や象牙質う蝕の進行程度を定量的に診断できる光象牙質診断装置を提供すること。
【解決手段】光透過性を有し且つ先細り形状を有しており、象牙質に当接する圧子と、圧子に光を出射する光源と、圧子の先端部から反射した光を受光する受光素子と、圧子の先端部と受光素子の受光面が互いに結像関係となる位置に配置されているレンズと、を有しており、圧子の先端部の頂角が57°以下である光象牙質診断装置。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有し且つ先細り形状を有しており、象牙質に当接する圧子と、
前記圧子に光を出射する光源と、
前記圧子の先端部から反射した光を受光する受光素子と、
前記圧子の先端部と前記受光素子の受光面が互いに結像関係となる位置に配置されているレンズと、を有しており、
前記圧子の先端部の頂角が57°以下である光象牙質診断装置。
【請求項2】
前記圧子の頂部から軸方向に0.5mmまでの表面の算術平均粗さが50nm以上である請求項1に記載の光象牙質診断装置。
【請求項3】
前記受光素子が、二次元に配列している単位セルを含む請求項1又は2に記載の光象牙質診断装置。
【請求項4】
前記圧子と前記光源との間の光路上であって、前記圧子と前記受光素子との間の光路上に配置されたビームスプリッターを有している請求項1~3のいずれか一項に記載の光象牙質診断装置。
【請求項5】
さらに圧力センサを備え、前記圧子が象牙質に当接する圧力が所定の値に達すると前記受光素子が撮像する請求項1~4のいずれか一項に記載の光象牙質診断装置。
【請求項6】
前記圧子の先端部が何にも当接していないとき(非当接)の前記受光素子の受光強度から、前記圧子の先端部が象牙質に当接しているときの前記受光素子の受光強度を差し引くことにより、差分強度画像を取得する請求項1~5のいずれか一項に記載の光象牙質診断装置。
【請求項7】
所定の値を閾値として前記差分強度画像を二値化する請求項6に記載の光象牙質診断装置。
【請求項8】
前記二値化により得られた差分強度画像の外径の長軸の長さと単軸の長さの比((長軸の長さ)/(単軸の長さ))が所定の値以上であるときに、エラー信号を発する請求項7に記載の光象牙質診断装置。
【請求項9】
前記閾値を超えた領域の面積を取得する請求項7又は8に記載の光象牙質診断装置。
【請求項10】
さらに筐体を有しており、前記圧子が前記筐体に着脱可能である請求項1~9のいずれか一項に記載の光象牙質診断装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の光象牙質診断装置を用意するステップと、
前記圧子の先端部の水分及び前記圧子を当接させる象牙質の表面の水分を除去するステップと、
前記圧子の先端部を前記象牙質に当接させるステップと、
前記圧子の先端部が前記象牙質に当接している状態で、前記光源から出射し前記圧子の先端部から反射した光を前記受光素子で受光し撮像するステップと、を有している光象牙質診断方法。
【請求項12】
前記圧子の先端部を何にも当接させない状態(非当接)で、前記光源から出射し前記圧子の先端部から反射した光を前記受光素子で受光し撮像するステップをさらに有している請求項11に記載の光象牙質診断方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の光象牙質診断装置を含む象牙質診断システムであって、有線又は無線で接続されている情報端末装置と、前記情報端末装置に蓄積されている光象牙質診断情報(請求項1~10のいずれか一項に記載の光象牙質診断装置により測定されたもの)を有している象牙質診断システム。
【請求項14】
前記情報端末装置は、さらに、請求項1~10のいずれか一項に記載されている光象牙質診断装置以外の装置により測定された象牙質診断情報を有している請求項13に記載の象牙質診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯の象牙質を診断できる光象牙質診断装置及び光象牙質診断方法、並びにそれらを含む象牙質診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯の健康は全身の健康に与える影響が大きく、う蝕の予防や適切な治療は社会的要請である。特に高齢者においては、歯の残存数と認知症発症の関連性が非常に高いことが知られており、歯の健康を維持することが認知症予防に有効であるといわれている。う蝕の予防や適切な治療が行われることにより認知症発症を減らすことができれば、介護費用の大きな削減を見込むことができる。
【0003】
高齢者のう蝕として問題となっているのが根面う蝕である。加齢に伴って歯茎が下がると歯根が表面に露出する。歯根はエナメル質に覆われていないため象牙質が剥き出しとなるが、象牙質はエナメル質に比べて柔らかくう蝕になりやすい。また、根面う蝕は進行も早いため、できるだけ早期に診断し適切な治療を行うことが求められる。しかし、う蝕と健全象牙質との識別、及びう蝕の治療として一般的に行われるう蝕除去の範囲についての客観的な基準は確立されておらず、歯科医療者の経験や感覚に頼っているのが現状である。そのため、初期のう蝕が見逃されたり本来切除する必要のない部分まで切除されたりする事例も多く、歯科医療者の経験に左右されない客観的なう蝕の診断技術が求められている。
【0004】
う蝕を診断する技術として、特許文献1~4に開示されているようなう蝕診断装置が知られている。特許文献1のう蝕診断装置は、う蝕部に探針を押し当て引き上げた時に生じる抵抗(タグバック)の有無を測定することにより、軟化した歯の存在の有無を判定している。しかし、これにより軟化の有無は判別できるものの、軟化の度合いまで測定してう蝕の進行程度を定量化することはできない。
【0005】
特許文献2のう蝕診断装置は、歯の隣接面に光を照射することで発生する蛍光の強度を測定することによりう蝕を診断している。しかし、この方法でも、軟化の度合いを定量化してう蝕の進行程度を定量的に評価するのは困難である。さらに、歯の隣接面以外への適用も想定されていないため利用目的が制限される上、歯とプローブとの間を充填剤で満たす必要があり、測定手順が煩雑である。
【0006】
特許文献3に開示されている硬さ測定用圧子とそれを用いた硬さ測定方法では、定量的な硬さの測定が試みられているが、円錐形圧子の表面に塗料を塗布する工程や測定後の顕微鏡観察が必要であるなど、工程及び装置ともに複数に及び測定値順が煩雑であるという課題があった。
【0007】
特許文献4では、圧子が反射した光源からの光を受光することによりう蝕の定量的な診断を試みたう蝕診断計が開示されているが、う蝕が進んでスポンジ状となり水分が染み出してくる象牙質を診断するには不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-29412号公報
【特許文献2】特開2010-252911号公報
【特許文献3】特開2011-112629号公報
【特許文献4】国際公開第2020/080219号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、う蝕象牙質では脱灰による軟化が見られるところ、象牙質の硬さを定量的に測定でき、さらにはう蝕象牙質の軟化が進んで水分が染み出してくる象牙質であっても硬さを定量的に測定でき、その結果う蝕象牙質と健全歯との識別や象牙質う蝕の進行程度を定量的に診断できる光象牙質診断装置及び光象牙質診断方法、並びにそれらを含む象牙質診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置は、光透過性を有し且つ先細り形状を有しており、象牙質に当接する圧子と、圧子に光を出射する光源と、圧子の先端部から反射した光を受光する受光素子と、圧子の先端部と受光素子の受光面が互いに結像関係となる位置に配置されているレンズと、を有しており、圧子の先端部の頂角が57°以下である。このような構成により、本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置は、象牙質の硬さを定量的に測定でき、さらにはう蝕が進んでスポンジ状となり水分が染み出してくる象牙質であっても硬さを定量的に測定でき、その結果根面う蝕等の象牙質う蝕の有無や進行程度を定量的に診断できる。
【0011】
圧子の頂部から軸方向に0.5mmまでの表面の算術平均粗さは50nm以上であることが好ましい。
【0012】
受光素子が、二次元に配列している単位セルを含むことが好ましい。
【0013】
圧子と光源との間の光路上であって、圧子と受光素子との間の光路上に配置されたビームスプリッターを有していることが好ましい。
【0014】
さらに圧力センサを備え、圧子が象牙質に当接する圧力が所定の値に達すると前記受光素子が撮像することが好ましい。
【0015】
圧子の先端部が何にも当接していないとき(非当接)の受光素子の受光強度から、圧子の先端部が象牙質に当接しているときの受光素子の受光強度を差し引くことにより、差分強度画像を取得することが好ましい。この場合、所定の値を閾値として差分強度画像を二値化することが好ましい。さらにこの場合、二値化により得られた差分強度画像の外径の長軸の長さと単軸の長さの比((長軸の長さ)/(単軸の長さ))が所定の値以上であるときに、エラー信号を発することが好ましい。
【0016】
二値化する場合、閾値を超えた領域の面積を取得することが好ましい。
【0017】
さらに筐体を有しており、圧子が筐体に着脱可能であることが好ましい。
【0018】
本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置は、上記に記載の光象牙質診断装置を用意するステップと、圧子の先端部の水分及び圧子を当接させる象牙質の表面の水分を除去するステップと、圧子の先端部を象牙質に当接させるステップと、圧子の先端部が象牙質に当接している状態で、光源から出射し圧子の先端部から反射した光を受光素子で受光し撮像するステップと、を有している。このような方法により、象牙質の硬さを定量的に測定でき、さらにはう蝕が進んでスポンジ状となり水分が染み出してくる象牙質であっても硬さを定量的に測定でき、その結果根面う蝕等の象牙質う蝕の有無や進行程度を定量的に診断できる。
【0019】
圧子の先端部を何にも当接させない状態(非当接)で、光源から出射し圧子の先端部から反射した光を受光素子で受光し撮像するステップをさらに有していることが好ましい。
【0020】
本発明の実施形態に係る象牙質診断システムは、上記に記載の光象牙質診断装置を含む象牙質診断システムであって、有線又は無線で接続されている情報端末装置と、情報端末装置に蓄積されている光象牙質診断情報(上記に記載の光象牙質診断装置により測定されたもの)を有している。
【0021】
情報端末装置は、さらに、上記に記載されている光象牙質診断装置以外の装置により測定された象牙質診断情報を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の光象牙質診断装置及び光象牙質診断方法、並びにそれらを含む象牙質診断システムによれば、象牙質の硬さを定量的に測定でき、さらにはう蝕が進んでスポンジ状となり水分が染み出してくる象牙質であっても硬さを定量的に測定でき、その結果根面う蝕等の象牙質う蝕の進行程度を定量的に診断できる。本発明の光象牙質診断装置を用いれば、歯の根面の象牙質が露出した部分であっても、硬さの測定を定量的に行うことができ、根面う蝕等の象牙質う蝕の有無や進行程度を診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】歯の断面図を表す。
図2】根面う蝕に罹患した歯の断面図を表す。
図3】本発明の一実施形態に係る光象牙質診断装置の断面図を表す。
図4】本発明の一実施形態に係る圧子が象牙質に当接したときの模式図を表す。
図5】本発明の一実施形態に係る圧子の側面図を表す。
図6図5に示した圧子の先端部とは反対側から見た平面図を表す。
図7】本発明の他の実施形態に係る圧子の側面図を表す。
図8】時間と当接圧力の関係を示すグラフである。
図9図3に示した光象牙質診断装置の別の断面図を表す。
図10】圧子の先端部が何にも当接していないとき(非当接)の圧子の先端部からの反射光の撮像画像である。
図11】圧子の先端部が象牙質に当接しているときの圧子の先端部からの反射光の撮像画像である。
図12図10に示した撮像画像から図11に示した撮像画像を差し引いた差分強度画像である。
図13図12に示した差分強度画像を二値化した二値化後差分強度画像である。
図14】圧子の先端部が象牙質に垂直に当接したときの模式図を表す。
図15】圧子の先端部が象牙質に垂直から逸脱して当接したときの模式図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合は明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における各部材の寸法は、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0025】
1.光象牙質診断装置
本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置は、光透過性を有し且つ先細り形状を有しており、象牙質に当接する圧子と、圧子に光を出射する光源と、圧子の先端部から反射した光を受光する受光素子と、圧子の先端部と受光素子の受光面が互いに結像関係となる位置に配置されているレンズと、を有しており、圧子の先端部の頂角が57°以下であることに特徴を有する。
【0026】
図1に示すように、加齢に伴って歯茎300が下がると歯根が表面に露出するが、歯根はエナメル質200に覆われていないため象牙質100が剥き出しとなる。このような象牙質100はエナメル質200に比べて柔らかくう蝕に罹患しやすい。また、図2に示すように、象牙質100がう蝕に罹患すると、う蝕象牙質110は軟化し、う蝕が進行するとう蝕象牙質110はスポンジ状となって圧子等の治療機器を当接させると水分120が染み出してくる。本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置は、上記構成を有することにより、そのような水分120が染み出してくるう蝕象牙質110であっても硬さを定量的に測定することができる。
【0027】
図3図9を参照しながら、本発明の一実施形態に係る光象牙質診断装置を説明する。図3は本発明の一実施形態に係る光象牙質診断装置の断面図を表す。図4は本発明の一実施形態に係る圧子が象牙質に当接したときの模式図を表す。図5は本発明の一実施形態に係る圧子の側面図を表し、図6図5に示した圧子の先端部とは反対側から見た平面図を表す。図7は本発明の他の実施形態に係る圧子の側面図を表す。図8は本発明の一実施形態に係る光象牙質診断装置を象牙質に当接させたときの時間と当接圧力との関係を示すグラフである。図9図3に示した光象牙質診断装置の別の断面図を表す。
【0028】
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る光象牙質診断装置1は、光透過性を有し且つ先細り形状を有しており、象牙質100に当接する圧子20と、圧子20に光を出射する光源10と、圧子20の先端部21から反射した光を受光する受光素子30と、圧子20の先端部21と受光素子30の受光面が違いに結像関係となる位置に配置されているレンズ40と、を有しており、圧子20の先端部21の頂角θが57°以下であることに特徴を有する。このような構成により、光象牙質診断装置1は、水分が染み出してくるう蝕象牙質であっても健全象牙質と同じように硬さを定量的に測定することができ、う蝕に罹患した象牙質と健全象牙質との識別や、象牙質う蝕の進行程度の診断が可能となる。
【0029】
図4に示すように、象牙質100に圧子20が当接すると、象牙質100の硬さに応じて圧子20の先端部21の一定の面積が象牙質100の表面と接する。この面積は象牙質100の硬さに比例し、象牙質100が軟らかいほど当接面積は大きくなる。図4の入射光11のように圧子20に光を入射すると、圧子20の先端部21の象牙質100の表面と接した部分S1では全反射が起こらず、圧子20の先端部21の何にも当接していない部分S2では全反射が起こるため、圧子20の先端部21の象牙質100に当接した部分と当接しない部分との反射光の受光強度のコントラストを検出でき、圧子20の先端部21の象牙質100と当接した部分S1の面積の情報を得ることができる。これにより、この面積に比例する象牙質100の硬さを得ることができる。
【0030】
図5に示すように、圧子20の先端部21は先細り形状を有するように縮径されている。圧子20の先端部21の好ましい形状は、概ね錐状であり、例として図5に示した円錐のほか多角錐等が挙げられる。中でも、圧子20の先端部21の形状は円錐又は四角錐であることが好ましい。先端部21は頂部22を有する。先端部21が円錐や多角錐等の場合は、頂部22はそれらの頂点である。
【0031】
図6に示すように、圧子20の頂部22とは反対側にある面(以下、底面と呼ぶことがある。)の形状は円形であってもよいし、図示していないが多角形やその他任意の形状であってよい。
【0032】
図5及び図6に示すように、圧子20は底面の図心O(図5及び図6の場合は円の中心)と頂部22とを結ぶ中心軸cを有しており、先端部21は頂角θを有する。頂角θは、圧子20の先端部21が円錐の場合は対向する母線のなす角度であり、圧子20の先端部21が四角錐の場合は対向する面同士がなす角度である。
【0033】
象牙質う蝕が進行して水分が染み出してくると、圧子20の先端部21は水分を介して象牙質100に当接することとなるが、先端部21の頂角θが57°以下であることで、先端部21が水分を介さずに象牙質100に当接している場合と同様に、先端部21が水分を介して象牙質100に当接している場合であっても先端部21からの反射光の受光強度を測定することができ、先端部21の何にも当接しない部分との反射光の受光強度のコントラストを検出して先端部21の象牙質100と当接した分S1の面積の情報を得ることができる。これにより、象牙質100の硬さを定量的に得ることができ、う蝕に罹患した象牙質と健全象牙質との識別や、象牙質う蝕の進行程度の診断が可能となる。
【0034】
先端部21の頂角θは、55°以下が好ましく、52°以下がより好ましく、50°以下がさらに好ましく、45°以下であってもよい。また、先端部21の頂角θは、10°以上が好ましく、15°以上がより好ましく、20°以上がさらに好ましい。先端部21の頂角θが上記範囲であれば、象牙質がどのような状態であっても、すなわち、健全象牙質、進行程度の浅いう蝕象牙質、及び進行したう蝕象牙質であっても、象牙質の硬さを定量的に得ることができる。
【0035】
圧子20の底面の大きさは、口腔内への挿入に支障がなく象牙質100に当接可能であれば特に制限されないが、直径又は長径が3mm以下であることが好ましく、より好ましくは2mm以下である。
【0036】
図7に示すように、圧子20の先端部21は尖鋭ではなくある程度の丸みを有するR部を有していてもよい。R部を有することにより、圧子20が破損しにくく、被験者が痛みを感じにくいという利点がある。一方で、R部の丸みが付きすぎると象牙質100への当接がしにくくなったり反射光の検出に悪影響があったりするため、R部の曲率半径rは上記条件を満たすように適宜定めればよい。具体的には、R部の曲率半径rは5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。また、R部の曲率半径rは500μm以下であることが好ましく、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは150μm以下である。
【0037】
圧子20は光透過性を有している。圧子20が光透過性を有していることにより、圧子20の底面側から入射した光が圧子20の先端部21まで達することができ、先端部21で反射された光が圧子20を透過して受光素子30まで達することができる。圧子20を形成する材料は、光透過性を有する限り特に制限されず、ガラス、鉱石、樹脂材料等から適宜選ぶことができる。具体的には、ガラス、有機ガラス等のガラス;サファイア、ルビー等の天然鉱物;人工鉱物;アクリル樹脂、ポリカボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の樹脂材料等が挙げられる。これらの中から、屈折率や硬さが診断する象牙質の条件に最適となるような材料を用いて圧子20とすればよい。
【0038】
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る光象牙質診断装置1は、圧子20の先端部21と受光素子30の受光面が互いに結像関係となる位置に配置されているレンズ40を有している。これにより、反射光の弱い領域と強い領域とのコントラストの違いを精度よく観測することが可能となる。さらに、単に反射光強度を測定する手法と比べて、測定値の較正の変動が少ないという利点がある。
【0039】
光源10は特に制限されないが、半導体レーザー、発光ダイオード等が用いられる。これらは、特定の波長の光を得られるため不要な光との分離が容易であり好適である。中でも、半導体レーザーは指向性を有するため好ましい。
【0040】
図3に示す光路P1のように、光源10から出射した光は圧子20の底面側から圧子20に入射し、圧子20の先端部21に到達することが好ましい。圧子20の先端部21に到達した光は、光路P2のように先端部21で反射され、光路P3のようにレンズ40を通って受光素子30で受光されることが好ましい。図3では、光源10から圧子20の先端部21までの光路と先端部21から受光素子30までの光路が平行ではない位置に光源10と受光素子30が配されているため、互いに平行ではない光路P2及び光路P3が示されているが、受光素子30が圧子20の先端部21に対して光源10と同じ方向に配されている場合は、光路P2及び光路P3は互いに平行で一直線上に配される構成とすることもできる。
【0041】
圧子20の頂部22から軸方向に0.5mmまでの表面の算術平均粗さが50nm以上であることが好ましい。圧子20の頂部22から軸方向に0.5mmまでの表面の算術平均粗さは、75nm以上がより好ましく、90nm以上がさらに好ましく、100nm以上、200nm以上、250nm以上、300nm以上、400nm以上、500nm以上、550nm以上、600nm以上であってもよい。また、圧子20の頂部22から軸方向に0.5mmまでの表面の算術平均粗さは、2500nm以下が好ましく、2000nm以下がより好ましく、1500nm以下がさらに好ましく、1000nm以下であってもよい。算術平均粗さは、例えば、走査型共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定することができる。圧子20の頂部22から軸方向に0.5mmまでの表面の算術平均粗さが上記範囲であれば、圧子20の先端部21の頂角θが57°以下であっても反射光の受光強度を安定して測定することができる。
【0042】
受光素子30は、二次元に配列している単位セルを含むことが好ましい。該二次元に配列している単位セルは、固体撮像素子(イメージセンサ)であってもよく、CDCイメージセンサ、CMOSイメージセンサ等であってもよい。中でも、供給価格が比較的安く消費電力が少なく携帯用に好適であるという理由からCMOSイメージセンサが好ましい。
【0043】
本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置1は、圧子20と光源10との光路P1上であって、圧子20と受光素子30との光路上に配置されたビームスプリッター50をさらに有していることが好ましい。ビームスプリッター50を配置することで、図3に示したように光源10から圧子20までの光路P1と平行ではない光路(光路P3)を圧子20から受光素子30までの光路が有することが可能となり、光象牙質診断装置1の自由度が向上する。その結果、光象牙質診断装置1の圧子20側を口腔内に挿入しつつ、他端を把持して操作することが容易な形状とすることができる。また、受光画像のS/N比を高めるために、ビームスプリッター50の反射率は、例えば52%以上が好ましく、55%がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。
【0044】
或いは、図示していないが、本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置1は、圧子20と光源10との光路P1上であって、圧子20と受光素子30との光路上に配置されたミラーを有していてもよい。受光素子30が圧子20に対して光源10と反対側に配されており、圧子20から受光素子30までの光路が光源10から圧子20までの光路P1と平行な場合は、圧子20からの反射光をミラーで反射することにより受光素子30で受光することができる。
【0045】
本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置1は、さらに圧力センサ71を備え、圧子20が象牙質100に当接する圧力が所定の値に達すると受光素子30が撮像することが好ましい。これにより、一定の圧力で圧子20を象牙質100に当接したときの象牙質100の硬さを測定でき、操作者の技量にかかわらず定量的な測定が可能となる。
【0046】
図8に時間と当接圧力の関係を表すグラフを示す。図8において、所定の当接圧力をSとすると、Tのタイミングで撮像する。圧子20は操作者により象牙質100に当接されるため、時間とともに当接圧力が変化するのは避けられないが、所定の当接圧力のタイミングで撮像することで、常に一定の当接圧力における反射光を撮像できる。当接圧力の所定値は、象牙質100の条件により適宜定められるが、好ましくは3N以下、より好ましくは2.5N以下、さらに好ましくは2N以下、また、好ましくは0.1N以上、より好ましくは0.5N以上、さらに好ましくは0.8N以上である。
【0047】
図示していないが、本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置1は、圧力センサ71とは別にさらにスイッチを有しており、スイッチからの信号で受光素子30が撮像してもよい。スイッチからの信号で撮像することにより、圧子20の先端部21が何にも当接しておらず(非当接)圧力センサ71からの信号がない場合であっても随時撮像が可能となる。
【0048】
本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置1は、さらにフィルター60を有していてもよい。フィルター60が透過することのできる光の波長を光源10が出射する光の波長とすることで、光源10から出射された光以外の光の影響、例えば室内蛍光灯や歯科用照明器等の影響を除くことができ、撮像画像のS/N比を高められる。
【0049】
本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置1は、さらに筐体80に納められていてもよい。例えば図7に示すように、光源10から圧子20の先端部21までの光路P1、圧子20の先端部21からビームスプリッター50までの光路P2、及びビームスプリッター50から受光素子30までの光路P3が筐体80内に配置され、圧子20は筐体80に設けられた開口部に取り付けることができる。
【0050】
圧子20は、筐体80の開口部に着脱可能であることが好ましい。測定前に圧子20の消毒や滅菌を行ったり、患者によって圧子20を取り替えたり、象牙質100の状態によって最適な圧子20を用いたりすることができる。また、圧子20を消耗部品として定期的に交換することもでき、使用の都度使い捨てとしてもよい。このとき、光路P1、光路P2、及び光路P3の距離が測定の度に変化しないことが好ましい。従って、筐体80は、圧子20が着脱される開口部内に圧子20を固定するストッパー等の固定部を備えていることが好ましい。光路P1、光路P2、及び光路P3の距離が一定であることで、結像関係を変えずに圧子20を交換でき、安定した撮像が可能となる。
【0051】
筐体80の一部が、筐体80を納める空洞を有した持ち手90に取り付けられていてもよい。図9に示すように、一実施形態において、筐体80の外側に設けられた回転軸72を持ち手90内に設けられた軸穴に嵌合することで、筐体80を持ち手90に取り付けることができる。圧子20の先端部21が象牙質100に当接すると、筐体80が回転軸72を軸として回転し、このとき生じる力を圧力センサ71が検出することができる。
【0052】
硬さの測定値を定量的に取得するために、反射光が弱くなる領域の面積は一定の条件下で測定されることが好ましい。このために、本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置1は、以下の画像処理過程を有することができる。
【0053】
図10図15を参照しながら、本発明の実施形態に係る画像処理過程を説明する。図10は圧子20の先端部21が何にも当接していないとき(非当接)の圧子20の先端部21からの反射光の撮像画像である。図11は圧子20の先端部21が象牙質100に当接しているときの圧子20の先端部21からの反射光の撮像画像である。図12図10に示した撮像画像から図11に示した撮像画像を差し引いた差分強度画像である。図13図12に示した差分強度画像を二値化した二値化後差分強度画像である。図14は圧子20の先端部21が象牙質100に垂直に当接したときの模式図を表し、図15は圧子20の先端部21が象牙質100に垂直から逸脱して当接したときの模式図を表す。
【0054】
[差分強度画像取得過程]
圧子20の先端部21が非当接であるときの反射光を受光素子30が撮像した強度画像(図10)から、圧子20の先端部21が象牙質100に当接しているときの反射光を受光素子30が撮像した強度画像(図11)を差し引いて、差分強度画像(図12)を取得する。差し引くことにより、圧子20の個体差による反射のばらつきや、観測したい反射光以外の寄与分を除外することができる。上記画像処理過程では圧子20は同一のものを使用し、他の撮像条件も同一にして撮像する。
【0055】
[差分強度画像の二値化過程]
上記で得られた差分強度画像を、所定の値を閾値として二値化する。このとき、本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置1は、下記の条件でエラー信号を発することができる。象牙質100に圧子20の先端部21を当接する際は、図14に示すように圧子20の中心軸cができるだけ象牙質100の表面に対して垂直に当接することが好ましいが、象牙質100の表面の凹凸や操作者の技量により必ずしも直角とならない場合がある。中心軸cと象牙質100の表面との当接角度が垂直から外れると、図15に示すように、反射光が弱くなる領域の外径が円形から逸脱する。そうすると、得られた撮像画像が硬さ以外の情報を含んでしまうことになるため、上記閾値を超えた差分強度画像(二値化差分強度画像)の外形の長軸Lmの長さと短軸Lsの長さの比((長軸Lmの長さ/短軸Lsの長さ))が所定の値以上であるときにエラー信号を発することが好ましい。これにより、硬さ以外の情報を除外できる。
【0056】
[二値化差分強度画像の面積取得過程]
上記過程を経た二値化差分強度画像の面積を取得する。当該面積は象牙質100の硬さを反映しており、硬ければ面積は小さく、軟らかければ面積は大きい。
【0057】
2.光象牙質診断方法
本発明の実施形態に係る光象牙質診断方法は、上記光象牙質診断装置1を用意するステップと、圧子20の先端部21の水分及び圧子20を当接させる象牙質100の表面の水分を除去するステップと、圧子20の3反歩21を象牙質100に当接させるステップと、圧子20の先端部21が象牙質100に当接している状態で、光源10から出射し圧子20の先端部21から反射した光を受光素子30で受光し撮像するステップと、を有している。健全象牙質又は進行の浅いう蝕象牙質の場合は、表面の水分を除去すれば水分の影響を受けることなく光象牙質診断装置1により象牙質100の硬さを測定することができる。う蝕が進んで水分が染み出してくるう蝕象牙質110であっても、本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置1を用いれば水分の影響を受けることなくう蝕象牙質110の硬さを測定することができる。これにより、根面う蝕等の象牙質う蝕の有無や進行程度を定量的に診断できる。
【0058】
本発明の実施形態に係る光象牙質診断方法は、圧子20の先端部21を何にも当接させない状態(非当接)で、光源10から出射し圧子20の先端部21から反射した光を受光素子30で受光し撮像するステップをさらに有していることが好ましい。これにより、非当接のときの撮像画像から象牙質100に当接したときの撮像画像を差し引いて差分強度画像を得ることができ、圧子20の個体差による反射のばらつきや、観測したい反射光以外の寄与分を除外することができる。
【0059】
3.象牙質診断システム
本発明の実施形態に係る象牙質診断システムは、本発明の実施形態に係る光象牙質診断装置を含むシステムであって、有線又は無線で接続されている情報端末装置と、該情報端末装置に蓄積されている光象牙質診断情報(本発明の光象牙質診断装置により測定されたもの)を有している。情報端末装置に光象牙質診断情報を蓄積することにより、情報をデータベース化して診断する歯の硬さをより精度よく測定することができる。
【0060】
本発明の実施形態に係る象牙質診断システムは、さらに、本発明の光象牙質診断装置以外の装置により測定された象牙質診断情報、例えば探針やカリオテスター、パノラマレントゲン等の従来の象牙質診断方法により診断された情報を有していることが好ましい。これら従来の診断方法により診断された情報を併せて蓄積することで、従来の診断方法で診断した象牙質診断結果を、本発明の光象牙質診断装置で得た硬さの情報と対応させることができる。
【符号の説明】
【0061】
1:光象牙質診断装置
10:光源
11:入射光
20:圧子
21:圧子の先端部
22:圧子の頂部
30:受光素子
40:レンズ
50:ビームスプリッター
60:フィルター
71:圧力センサ
72:回転軸
80:筐体
90:持ち手
100:象牙質
110:う蝕象牙質
120:水分
200:エナメル質
300:歯茎
c:圧子の中心軸
m:長軸
s:短軸
O:圧子の底面の図心
R:R部
r:R部の曲率半径
1:象牙質の表面と接した部分
2:何にも接していない部分
θ:頂角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15