(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152785
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ニッケル粉末及びニッケル粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20221004BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20221004BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B22F1/00 M
B22F1/02 B
B22F9/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055690
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】石井 潤志
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 堪
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 友希
(72)【発明者】
【氏名】須藤 真悟
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸寿
(72)【発明者】
【氏名】松村 文彦
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017BA03
4K017CA07
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K017EJ01
4K017FB01
4K017FB03
4K017FB07
4K018AA07
4K018AB01
4K018AC01
4K018BA04
4K018BB04
4K018BB05
4K018BC08
4K018BC13
4K018BC29
4K018BD04
4K018CA09
4K018DA03
4K018DA22
4K018DA31
4K018FA14
4K018KA33
(57)【要約】 (修正有)
【課題】MLCC製造時の硫黄由来のガスの発生を抑制しつつ、焼結クラック等の発生を抑制することのできる、ニッケル粉末及びニッケル粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】比表面積に対する硫黄含有量が0.05質量%・g/m
2未満であるニッケル粉末。少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、ヒドラジン(N2H4)、水酸化アルカリ、及び水と、を混合した反応液中において、還元反応によりニッケル晶析粉を得る晶析工程と、前記ニッケル晶析粉の比表面積に対する硫黄含有量が0.05質量%・g/m
2未満となるように、前記ニッケル晶析粉と前記硫黄化合物とを混合し、表面を硫黄化合物で表面処理する表面処理工程とを有する、ニッケル粉末の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積に対する硫黄含有量が0.05質量%・g/m2未満であるニッケル粉末。
【請求項2】
請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法であって、
少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、ヒドラジン(N2H4)、水酸化アルカリ、及び水と、を混合した反応液中において、還元反応によりニッケル晶析粉を得る晶析工程と、
前記ニッケル晶析粉の比表面積に対する硫黄含有量が0.05質量%・g/m2未満となるように、前記ニッケル晶析粉と前記硫黄化合物とを混合し、表面を硫黄化合物で表面処理する表面処理工程と、
を有する、ニッケル粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル粉末及びニッケル粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタル機器等の電子機器の小型化及び高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサ(MLCC;Multilayer Ceramic Chip Capacitor)等を含む電子部品についても小型化及び高容量化が望まれている。積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体層と複数の内部電極層とが交互に積層した構造を有し、これらの誘電体層及び内部電極層を薄膜化することにより、小型化及び高容量化を図ることができる。
【0003】
一般的に、内部電極層の形成に用いられる導電性ペーストは、導電性粉末、セラミック粉末、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む。また、導電性ペーストは、導電性粉末等の分散性を向上させるために分散剤を含むことがある。導電性ペーストに含まれるセラミック粉末は、導電性ペースト乾燥膜とグリーンシートの収縮温度の差を小さくし、焼成時のクラックを抑制する効果がある。近年の内部電極層の薄膜化に伴い、導電性粉末及びセラミック粉末も小粒径化する傾向がある。導電性粉末及びセラミック粉末の小粒径化にともない、導電性粉末の活性が高くなりバインダーの熱分解が低温で急激に発生することにより、クラックが生じる場合や、分散性低下により、セラミック粉末による導電性粉末の焼結抑制効果が十分に得られないことで、導電性ペーストの焼成時にクラックが生じる場合がある。
【0004】
そこで、導電性粉末であるニッケル粉末の表面に硫黄を付着させることで、表面活性を抑制することが知られている。例えば、特許文献1には、ニッケル粉末を硫黄化合物で湿式処理した後、乾燥して、硫黄の大部分を硫化物形態でニッケル粉末に含有することで、脱バインダー温度が高温化することが示されている。
【0005】
また、特許文献2には、硫黄を混合したチタン酸バリウム粉をニッケルペーストに用いることで、ニッケル電極層の焼結が抑制され、クラック抑制につながることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-043339号公報
【特許文献2】特開2011-018898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、セラミック粉末への硫黄処理が必要であり、ニッケルペースト中の硫黄量が増加してしまう。更に、硫黄量が増加することで、MLCCを製造した場合に硫黄由来のSOxガスやH2Sガスが増加し、これらのガスが焼成炉の腐食を促進させてしまうおそれがあるため、MLCC製造時の発生ガスを無害化することが必要になる。
【0008】
本発明は、MLCC製造時の硫黄由来のガスの発生を抑制しつつ、焼結クラック等の発生を抑制することのできる、ニッケル粉末及びニッケル粉末の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本実施形態に係わるニッケル粉末は、比表面積に対する硫黄含有量が0.05質量%・g/m2未満である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のニッケル粉末及びニッケル粉末の製造方法は、MLCC製造時の硫黄由来のガスの発生を抑制しつつ、焼結クラック等の発生を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における製造工程の一例を示す模式図。
【
図4】ニッケル粉末の比表面積に対する硫黄含有量と結晶粒子径との関係を示す図。
【
図5】導電性ペースト乾燥粉を円柱状のペレットに成型し、1300℃で焼結した焼結体断面のSEM像。
【
図6】導電性ペーストの製造方法における製造工程の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態に係わるニッケル粉末、ニッケル粉末の製造方法、導電性ペースト、導電性ペーストの製造方法について図面等を参照しながら説明する。
【0013】
[ニッケル粉末]
ニッケル粉末は、導電性ペーストに用いられる導電性粉末として有用である。ニッケル粉末は、MLCC製造時の脱バインダー処理の際、バインダー樹脂の部分的な熱分解による急激なガス発生を抑制するために、硫黄による表面処理がされている。ただし、MLCC製造時にSOxガスやH2Sガス等の硫黄由来のガスおよび焼結クラックの発生を抑制するべく、ニッケル粉末の比表面積に対する硫黄含有量を0.05質量%・g/m2未満とする。比表面積に対する硫黄含有量が0.05質量%・g/m2以上である場合、硫黄由来のガスが多く発生するおそれがある。
【0014】
ニッケル粉末の平均粒径は、好ましくは0.05μm以上1.0μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。ニッケル粉末の平均粒径が上記範囲である場合、薄膜化したMLCCの内部電極用ペーストとして好適に用いることができ、例えば、乾燥膜の平滑性及び乾燥膜密度が向上する。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率10,000倍にて観察した画像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値である。
【0015】
[ニッケル粉末の製造方法]
以下、ニッケル粉末の製造方法について、図面等を用い説明する。
【0016】
(ニッケル粉末の製造方法)
図1には、ニッケル粉末の製造方法における製造工程の一例を示す模式図を示す。ニッケル粉末の製造方法は、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、還元剤としてのヒドラジン、pH調整剤としての水酸化アルカリと水を含む反応液中において、ヒドラジンによる還元反応でニッケル晶析粉を得る晶析工程を主体とし、必要に応じて行う解砕工程を後処理工程として付加したものである。
【0017】
還元反応で生成したニッケル晶析粉は、公知の手順を用いて反応液から分離すればよく、例えば、洗浄、固液分離、乾燥の手順を経ることにより、ニッケル粉末(ニッケル晶析粉)が得られる。
【0018】
また、ニッケル晶析粉を含む反応液や、洗浄液に硫黄を含む化合物を添加し、ニッケル晶析粉の表面を修飾する表面処理(硫黄コート処理)工程を行う。これらの硫黄成分の混合による処理で、MLCC製造時の焼結クラック等の発生を抑制できる。より具体的には、内部電極での脱バインダー挙動やニッケル粉末の焼結挙動を制御できる。
【0019】
硫黄化合物としては、チオグリコール酸、メチオニン、メルカプトプロピオン酸、サッカリン、エチオニン、チオフェン、ジチオジグリコール酸、チオモルホリン、システイン酸、水硫化ナトリウム、チオジプロピオン酸、メチオノール、ランチオニン等から選択することが可能である。例えば、ニッケル粉末の比表面積1m2/gに対しての硫黄含有量が0.01質量%より多く0.05%より少なくなるようにする。より好ましくは0.025質量%・g/m2乃至0.045質量%・g/m2である。0.01質量%・g/m2より少ない場合はMLCC製造時の焼結クラック等発生を抑制できないおそれがある。また、0.05%・g/m2より多い場合は、ニッケル粉末の焼結挙動を制御できないおそれや、硫黄由来のガスが多く発生するおそれがある。より具体的にはニッケル粉末の結晶粒が粗大化してしまうおそれがある。
【0020】
また、必要に応じて、晶析工程で得られたニッケル粉末(ニッケル晶析粉)に解砕処理を施す解砕工程(後処理工程)を追加して、晶析工程のニッケル粒子生成過程で生じたニッケル粒子の連結による粗大粒子等の低減を図ったニッケル粉末を得ることが好ましい。
【0021】
次に、本実施形態に係るニッケル粉末の製造方法の詳細について晶析工程、解砕工程の順に説明する。
【0022】
(1-1.晶析工程)
晶析工程では、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、ヒドラジン、水酸化アルカリ、及びアミン化合物と水とを混合した反応液中でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン、またはニッケル錯イオン)をヒドラジンで還元すると同時に、極微量の特定のアミン化合物の作用でヒドラジンの自己分解を大幅に抑制しながらニッケル晶析粉を得ている。
【0023】
(1-1-1.晶析工程で用いる薬剤)
晶析工程では、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、還元剤、水酸化アルカリ、アミン化合物等の各種薬剤と水を含む反応液が用いられている。溶媒としての水は、得られるニッケル粉末中の不純物量を低減させる観点から、超純水(導電率:≦0.06 μS/cm(マイクロジーメンス・パー・センチメートル)、純水(導電率:≦1μS/cm)という高純度のものがよく、中でも安価で入手が容易な純水を用いることが好ましい。以下、上記各種薬剤について、それぞれ詳述する。
【0024】
(a)ニッケル塩
ニッケル粉末の製造方法に用いるニッケル塩は、水に易溶であるニッケル塩であれば、特に限定されるものではなく、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケルから選ばれる1種以上を用いることができる。これらのニッケル塩の中では、塩化ニッケル、硫酸ニッケルあるいはこれらの混合物を用いればよい。
【0025】
(b)ニッケルよりも貴な金属の金属塩
ニッケルよりも貴な金属をニッケル塩溶液に含有させることで、ニッケルを還元析出させる際に、ニッケルよりも貴な金属が先に還元されて初期核となる核剤として作用しており、この初期核が粒子成長することで微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を作製することができる。
【0026】
ニッケルよりも貴な金属の金属塩としては、水溶性の銅塩や、金塩、銀塩、プラチナ塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩等の水溶性の貴金属塩が挙げられる。例えば、水溶性の銅塩としては硫酸銅を、水溶性の銀塩としては硝酸銀を、水溶性のパラジウム塩としては塩化パラジウム(II)ナトリウム、塩化パラジウム(II)アンモニウム、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)等を用いることができるが、これらには限定されない。
【0027】
ニッケルよりも貴な金属の金属塩としては、特に上述したパラジウム塩を用いると、粒度分布は幾分広くなるものの、得られるニッケル粉末の粒径をより微細に制御することが可能となるため好ましい。パラジウム塩を用いた場合の、パラジウム塩とニッケルの割合[モルppm](パラジウム塩のモル数/ニッケルのモル数×106)は、ニッケル粉末の目的とする平均粒径にもよるが、例えば平均粒径0.05μm~0.5μmであれば、0.2モルppm~100モルppmの範囲内、好ましくは0.5モルppm~25モルppmの範囲内がよい。上記割合が0.2モルppm未満だと、平均粒径が0.5μmを超えてしまい、一方で、100モルppmを超えると、高価なパラジウム塩を多く使用することとなり、ニッケル粉末のコスト増につながる。
【0028】
(c)ヒドラジン
ニッケル粉末の製造方法では、還元剤としてヒドラジン(N2H4、分子量:32.05)を用いる。なお、ヒドラジンには、無水のヒドラジンの他にヒドラジン水和物である抱水ヒドラジン(N2H4・H2O、分子量:50.06)があるが、どちらを用いてもかまわない。ヒドラジンは、その還元反応は後述する式(2)に示す通りであるが、(特にアルカリ性で)還元力が高いこと、還元反応の副生成物が反応液中に生じないこと(窒素ガスと水)、不純物が少ないこと、及び入手が容易なこと、という特徴を有しているため還元剤に好適であり、例えば、市販されている工業グレードの60質量%抱水ヒドラジンを用いることができる。
【0029】
(d)水酸化アルカリ
ヒドラジンの還元力は、反応液のアルカリ性が強い程大きくなるため、アルカリ性を高めるpH調整剤として水酸化アルカリを用いる。水酸化アルカリは特に限定されるものではないが、入手の容易さや価格の面から、アルカリ金属水酸化物を用いることが好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる1種以上とすることがより好ましい。
【0030】
水酸化アルカリの配合量は、還元剤としてのヒドラジンの還元力が十分高まるように、反応液のpHが、反応温度において、9.5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは10.5以上となるようにするとよい。(液のpHは、例えば、25℃と70℃程度では、高温の70℃の方が小さくなる。)
【0031】
(e)アミン化合物
アミン化合物は、ヒドラジンの自己分解抑制剤として用いられる。ニッケル粉末の製造方法に用いるアミノ化合物はヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、ニッケル粒子同士の連結抑制剤の作用を有しており、分子内に第1級アミノ基(-NH2)を2個以上含有するか、あるいは、分子内に第1級アミノ基(-NH2)を1個、かつ第2級アミノ基(-NH-)を1個以上含有する化合物である。
【0032】
アミン化合物は、アルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかであって、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合した下記式Aの構造を少なくとも有していることが好ましい。
【0033】
【0034】
上記アルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体は、アルキレンアミンとして、エチレンジアミン(略称:EDA)(H2NC2H4NH2)、ジエチレントリアミン(略称:DETA)(H2NC2H4NHC2H4NH2)、トリエチレンテトラミン(略称:TETA)(H2N(C2H4NH)2C2H4NH2)、テトラエチレンペンタミン(略称:TEPA)(H2N(C2H4NH)3C2H4NH2)、ペンタエチレンヘキサミン(略称:PEHA)(H2N(C2H4NH)4C2H4NH2)、プロピレンジアミン(別名称:1,2-ジアミノプロパン、1,2-プロパンジアミン)(略称:PDA)(CH3CH(NH2)CH2NH2)から選ばれる1種以上、アルキレンアミン誘導体として、トリス(2-アミノエチル)アミン(略称:TAEA)(N(C2H4NH2)3)、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン(別名称:2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール(略称:AEEA)(H2NC2H4NHC2H4OH)、N-(2-アミノエチル)プロパノールアミン(別名称:2-(2-アミノエチルアミノ)プロパノール(略称:AEPA)(H2NC2H4NHC3H6OH)、L(または、D、DL)-2,3-ジアミノプロピオン酸(別名称:3-アミノ-L(または、D、DL)-アラニン)(略称:DAPA)(H2NCH2CH(NH)COOH)、1,2-シクロヘキサンジアミン(別名称:1,2-ジアミノシクロヘキサン)(略称:CHDA)(H2NC6H10NH2)から選ばれる1種以上である。これらのアルキレンアミン、アルキレンアミン誘導体は水溶性であり、中でもエチレンジアミン、ジエチレントリアミンは、ヒドラジンの自己分解抑制作用が比較的強く、かつ入手が容易で安価のため好ましい。ニッケルのモル数に対するアミン化合物のモル数の割合は0.01モル%~5モル%の範囲が好ましい。
【0035】
(f)スルフィド化合物
ニッケル粉末の製造方法に用いるスルフィド化合物も同様に、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤として用いることが可能である。上記アミン化合物と異なり、単独で用いた場合にはヒドラジンの自己分解抑制作用はそれ程大きくないが、上記アミン化合物と併用すると、ヒドラジンの自己分解抑制作用を大幅に強めることができる。分子内にスルフィド基(-S-)を1個以上含有する化合物である。なお、上記スルフィド化合物は、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤の作用に加えて、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用も有しており、上記アミン化合物と併用すると、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子の生成量をより効果的に低減できる。
【0036】
スルフィド化合物は、分子内にさらにカルボキシ基(-COOH)または水酸基(-OH)を少なくとも1個以上含有するカルボキシ基含有スルフィド化合物または水酸基含有スルフィド化合物であって、より具体的には、L(または、D、DL)-メチオニン(CH3SC2H4CH(NH2)COOH)、L(または、D、DL)-エチオニン(C2H5SC2H4CH(NH2)COOH)、チオジプロピオン酸(別名称:3,3’-チオジプロピオン酸)(HOOCC2H4SC2H4COOH)、チオジグリコール酸(別名称:2,2’-チオジグリコール酸、2,2’-チオ二酢酸、2,2’-チオビス酢酸、メルカプト二酢酸)(HOOCCH2SCH2COOH)、チオジグリコール(別名称:2,2’-チオジエタノール)(HOC2H5SC2H5OH)から選ばれる1種以上である。これらのカルボキシ基含有スルフィド化合物または水酸基含有スルフィド化合物は水溶性であり、中でもメチオニンやチオジグリコール酸は、ヒドラジンの自己分解抑制補助作用に優れ、かつ入手が容易で安価のため好ましい。反応液中のニッケルのモル数に対する上記スルフィド化合物のモル数の割合[モル%](スルフィド化合物のモル数/ニッケルのモル数×100)は0.01モル%~5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%~2モル%、より好ましくは0.05モル%~1モル%の範囲がよい。
【0037】
上記割合が0.01モル%未満だと、上記スルフィド化合物が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤やニッケル粒子同士の連結抑制剤の各作用が得られなくなるおそれがある。一方で、上記割合が5モル%を超えても上記各作用の向上は見られないため、単にスルフィド化合物の使用量が増加するだけであり、薬剤コストが上昇すると同時に、反応液に有機成分の配合量が増大して晶析工程の反応廃液の化学的酸素要求量(COD)が上昇するため廃液処理コスト増大を生じる。
【0038】
(g)その他の含有物
晶析工程の反応液中には、本実施形態に係るニッケル粉末の製造方法に用いるアミン化合物によるヒドラジンの自己分解抑制、還元反応促進、ニッケル粒子同士の連結抑制の各作用を阻害せず、薬剤コスト増が問題とならない範囲内であれば、上述のニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、還元剤(ヒドラジン)、水酸化アルカリ、アミン化合物に加え、分散剤、錯化剤、消泡剤等の各種添加剤を少量含有させてもよい。分散剤や錯化剤は、適切なものを適正量用いれば、ニッケル晶析粉の粒状性(球状性)や粒子表面平滑性を改善でき、粗大粒子低減が可能になる場合がある。また、消泡剤も、適切なものを適正量用いれば、晶析反応で生じる窒素ガスに起因する晶析工程での発泡を抑制することが可能となる。分散剤と錯化剤の境界線は曖昧であるが、分散剤としては、公知の物質を用いることができ、例えば、アラニン(CH3CH(COOH)NH2)、グリシン(H2NCH2COOH)、トリエタノールアミン(N(C2H4OH)3)、ジエタノールアミン(別名:イミノジエタノール)(NH(C2H4OH)2)等が挙げられる。錯化剤としては、公知の物質を用いることができ、ヒドロキシカルボン酸、カルボン酸(少なくとも一つのカルボキシ基を含む有機酸)、ヒドロキシカルボン酸塩やヒドロキシカルボン酸誘導体、カルボン酸塩やカルボン酸誘導体、具体的には、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、蟻酸、酢酸、ピルビン酸、及びそれらの塩や誘導体等が挙げられる。
【0039】
例えば、晶析工程においてはニッケル塩溶液(ニッケル塩+ニッケルよりも貴な金属の塩)に還元剤溶液(ヒドラジン+水酸化アルカリ)を添加混合する、または還元剤溶液(ヒドラジン+水酸化アルカリ)にニッケル塩溶液(ニッケル塩+ニッケルよりも貴な金属の塩)を添加混合して、反応液を調合する。
【0040】
アルカリ性の還元剤溶液に弱酸性のニッケル塩溶液を添加混合する場合には、原料混合時間の終盤になるほど添加された核剤の核発生作用が弱まってしまう。このため、量産設備面の制約等を考慮し、好ましくは10秒~180秒、より好ましくは20秒~120秒、さらに好ましくは30秒~80秒の原料混合時間であるとよい。
【0041】
アミン化合物とスルフィド化合物の反応液への添加混合における混合時間は、数秒以内の一気添加でも良いし、数分間~30分間程度にわたり分割添加や滴下添加してもよい。アミン化合物は、還元反応促進剤(錯化剤)としての作用もあるため、ゆっくり添加する場合に結晶成長がゆっくり進んでニッケル晶析粉が高結晶性となる。しかし、ヒドラジンの自己分解抑制も徐々に作用することとなりヒドラジン消費量の低減効果は減少するため、上記混合時間は、これら両者のバランスをみながら適宜決定すればよい。晶析手順におけるアミン化合物の添加混合タイミングについては、目的に応じ総合的に判断して適宜選択することができる。
【0042】
ニッケル塩溶液と還元剤溶液の添加混合や、ニッケル塩・還元剤含有液への水酸化アルカリ溶液の添加混合は、溶液を撹拌しながら混合する撹拌混合が好ましい。撹拌混合性が良いと、核発生の場所によるが不均一が低下(均一化)し、かつ、前述したような核発生の原料混合時間依存性や水酸化アルカリ混合時間依存性が低下するため、ニッケル晶析粉の微細化や狭い粒度分布を得やすくなる。撹拌混合の方法は、公知の方法を用いればよく、撹拌混合性の制御や設備コストの面から撹拌羽根を用いることが好ましい。
【0043】
(1-1-3.晶析反応(還元反応))
晶析工程では、反応液中において、水酸化アルカリとニッケルよりも貴な金属の金属塩の共存下でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン、またはニッケル錯イオン)をヒドラジンで還元すると同時に、極微量の特定のアミン化合物または、アミン化合物とスルフィド化合物の作用でヒドラジンの自己分解を大幅に抑制しながらニッケル晶析粉を得ている。
【0044】
まず、晶析工程における還元反応について説明する。ニッケル(Ni)の反応は下記の式(1)の2電子反応、ヒドラジン(N2H4)の反応は下記の式(2)の4電子反応であって、例えば、上述のように、ニッケル塩として塩化ニッケル、水酸化アルカリとして水酸化ナトリウムを用いた場合には、還元反応全体は下記の式(3)のように、塩化ニッケルと水酸化ナトリウムの中和反応で生じた水酸化ニッケル(Ni(OH)2)がヒドラジンで還元される反応で表され、化学量論的には(理論値としては)、ニッケル(Ni)1モルに対し、ヒドラジン(N2H4)0.5モルが必要である。
【0045】
ここで、式(2)のヒドラジンの還元反応から、ヒドラジンはアルカリ性が強い程、その還元力が大きくなることが分かる。上記水酸化アルカリはアルカリ性を高めるpH調整剤として用いており、ヒドラジンの還元反応を促進する働きを担っている。
【0046】
[数1]
Ni2++2e- →Ni↓ ・・・・(1)
N2H4→N2↑+4H+4e- ・・・・(2)
2NiCl2+ N2H4 +4NaOH → 2Ni(OH)2+ N2H4 +4NaCl
→ 2Ni↓ +N2↑ +4NaCl +4H2O ・・・・(3)
【0047】
上述の通り、晶析工程では、ニッケル晶析粉の活性な表面が触媒となって、下記の式(4)で示されるヒドラジンの自己分解反応が促進され、還元剤としてのヒドラジンが還元作用以外に大量に消費される。このため、晶析条件(反応開示温度等)にもよるが、例えば、ニッケル1モルに対しヒドラジン2モル程度(前述の還元に必要な理論値の4倍程度)が一般的に用いられている。
【0048】
さらに、ヒドラジンの自己分解では多量のアンモニアが副生して(式(4)参照)、反応液中に高濃度で含有されて含窒素廃液を生じることとなる。
【0049】
[数2]
3N2H4 →N2↑+ 4HN3 ・・・・(4)
【0050】
このような高価な薬剤であるヒドラジンの過剰量の使用や、含窒素廃液の処理コスト発生が、湿式法によるニッケル粉末(湿式ニッケル粉末)のコスト増要因となる場合がある。この場合、極微量の特定のアミン化合物または、アミン化合物とスルフィド化合物を反応液に加えることで、ヒドラジンの自己分解反応を著しく抑制し、薬剤として高価なヒドラジンの使用量の大幅な削減することができる。
【0051】
なお、湿式法での晶析工程では、還元反応時間(晶析反応時間)を実用的な範囲にまで短縮するために、酒石酸やクエン酸等のニッケルイオン(Ni2
+)と錯イオンを形成してイオン状ニッケル濃度を高める錯化剤を還元反応促進剤として用いるのが一般的であるが、これら酒石酸やクエン酸等錯化剤は、上記特定のアミン化合物やスルフィド化合物のようなヒドラジンの自己分解抑制剤、自己分解抑制補助剤の作用はほとんど有していない。
【0052】
一方で、上記特定のアミン化合物は、酒石酸やクエン酸等と同様に錯化剤としても働き、ヒドラジンの自己分解抑制剤と還元反応促進剤の作用を兼ね備える利点を有している。加えて、上記特定のアミン化合物やスルフィド化合物は、晶析中にニッケル粒子同士が連結して生じる粗大粒子を形成しにくくする連結抑制剤としての作用も有している。
【0053】
(1-1-4.晶析条件(反応開始温度))
晶析工程の晶析条件として、少なくとも、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、ヒドラジン、水酸化アルカリ、必要に応じてアミン化合物または、アミン化合物とスルフィド化合物を含む反応液(アミン化合物は最終的に反応液に必ず含まれる)が調合された時点、すなわち、還元反応が開始する時点の反応液の温度(反応開始温度)が、40℃~90℃とすることが好ましく、50℃~80℃とすることがより好ましく、60℃~70℃とすることがさらに好ましい。なお、ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液等の個々の溶液の温度は、それらを混合して得られる反応液の温度(反応開始温度)が上記温度範囲になれば特に制約はなく自由に設定することができる。
【0054】
反応開始温度は、高いほど還元反応は促進され、かつニッケル晶析粉は高結晶化する傾向にあるが、一方で、ヒドラジンの自己分解反応がそれ以上に促進される側面があるため、ヒドラジンの消費量が増加するとともに、反応液の発泡が激しくなる傾向がある。したがって、反応開始温度が高すぎると、ヒドラジンの消費量が大幅に増加や、多量の発泡で晶析反応を継続できなくなる場合がある。一方で、反応開始温度が低くなり過ぎると、ニッケル晶析粉の結晶性が著しく低下する場合や、還元反応が遅くなって晶析工程の時間が大幅に延長して生産性が低下する傾向がある。上記温度範囲にすることで、ヒドラジン消費量を抑制しながら、高い生産性を維持しつつ、高性能のニッケル晶析粉を安価に製造することができる。
【0055】
(1-1-5.ニッケル晶析粉の回収)
ヒドラジンによる還元反応で反応液中に生成したニッケル晶析粉は、前述の通り、必要に応じて、メルカプト化合物やジスルフィド化合物等の硫黄化合物で硫黄コート処理を施こした後、公知の手順を用いて反応液から分離すればよい。具体的な方法として、デンバーろ過器、フィルタープレス、遠心分離機、デカンター等を用いて反応液中からニッケル晶析粉を固液分離すると共に、純水(導電率:≦1μS/cm)等の高純度の水で十分に洗浄し、大気乾燥機、熱風乾燥機、不活性ガス雰囲気乾燥機、真空乾燥機等の汎用の乾燥装置を用いて50~300℃、好ましくは、80~150℃で乾燥し、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得ることができる。なお、不活性ガス雰囲気乾燥機、真空乾燥機等の乾燥装置を用いて、不活性雰囲気、還元性雰囲気、真空雰囲気中で200℃~300℃程度で乾燥した場合は、単なる乾燥に加え、熱処理を施したニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得ることが可能である。
【0056】
ニッケル晶析粉を含む反応液や、洗浄液にこれらの硫黄化合物を添加することによって、ニッケル晶析粉表面を修飾する表面処理(硫黄コート処理)を行う。本発明者らは、導電性ペーストに含有される硫黄量について検討した結果、導電性ペースト中に含まれる硫黄量が、ニッケル粉末の比表面積に対して0.5質量%・g/m2未満であることにより、ニッケル粉末の焼結が抑制されることを見出した。
【0057】
この理由の詳細は不明であるが、ニッケルと硫黄が共存する状態で高温になるとNiSの液相が生成する。液相の存在により、ニッケル粒子の拡散が速くなることや焼結抑制剤である共材粒子の移動が容易になることでニッケル粒子の焼結が促進させることが考えられる。硫黄含有量を少なくすることで、ニッケル粒子の拡散や共材粒子の移動を抑制することができるため、焼結が抑制されたと考えられる。
【0058】
ニッケル粉末の比表面積は、目標とする粒径に依存し、晶析工程における温度や混合時間の制御によって目標の粒径を制御することによって調整可能である。目標とする粒径は例えば平均粒径0.05μm~0.5μmでの範囲内がよい。
【0059】
硫黄化合物としては、チオグリコール酸、メチオニン、メルカプトプロピオン酸、サッカリン、エチオニン、チオフェン、ジチオジグリコール酸、チオモルホリン、システイン酸、水硫化ナトリウム、チオジプロピオン酸、メチオノール、ランチオニン等から選択することが可能である。例えば、チオグリコール酸は流通量が多く、入手しやすいので使い勝手がよい。
【0060】
なお、ニッケル粉末の比表面積に対する硫黄含有量が0.5質量%・g/m2未満となるように、反応液や、洗浄液に硫黄化合物を添加すればよい。また、表面コート処理を十分行うため、また、作製されたニッケル粉末の分析において、硫黄化合物の添加量から算出される硫黄含有量の理論値と、硫黄含有量の分析値との間に±0.01%の誤差が生じえる場合がある。これを加味して、ニッケル粉末の比表面積に対する硫黄含有量が0.5質量%・g/m2未満となることを条件に、硫黄含有量の理論値が分析値よりも0.01質量%程度多くなるように、硫黄化合物を添加してもよい。
【0061】
(1-2.解砕工程(後処理工程))
晶析工程で得られたニッケル晶析粉(ニッケル粉末)は、前述の通り、アミン化合物または、アミン化合物とスルフィド化合物が晶析中においてニッケル粒子の連結抑制剤として作用するため、ニッケル粒子が還元析出の過程で互いに連結して形成される粗大粒子の含有割合はそもそもそれ程大きくない。ただし、晶析手順や晶析条件によっては、粗大粒子の含有割合が幾分大きくなって問題になる場合もあるため、
図1に示すように、晶析工程に引き続いて解砕工程を設け、ニッケル粒子が連結した粗大粒子をその連結部で分断して粗大粒子の低減を図ることが好ましい。解砕処理としては、スパイラルジェット解砕処理、カウンタージェットミル解砕処理等の乾式解砕方式や、高圧流体衝突解砕処理等の湿式解砕方式を用いればよい。
【0062】
[導電性ペースト]
導電性ペーストは、本実施形態のニッケル粉末と、セラミック粉末と、バインダー樹脂と、前記バインダー樹脂を溶解する有機溶剤を含む。以下、各成分について詳細に説明する。
【0063】
(ニッケル粉末)
導電性ペーストに用いられる導電性粉末には例えば、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、及びこれらの合金から選ばれる1種類以上の粉末を用いることができる。本実施形態の導電性ペーストでは、本実施形態のニッケル粉末を用いる。ニッケル粉末は、MLCC製造時の脱バインダー処理の際、バインダー樹脂の部分的な熱分解による急激なガス発生を抑制するために、比表面積に対する硫黄含有量が0.05質量%・g/m2未満となるように硫黄を含む。
【0064】
ニッケル粉末の含有量は、導電性ペースト全量に対して、好ましくは30質量%以上70質量%未満であり、より好ましくは40質量%以上60質量%以下である。ニッケル粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0065】
(セラミック粉末)
セラミック粉末としては、特に限定されない。例えば、MLCCの内部電極用ペーストである場合、適用するMLCCの種類により適宜、公知のセラミック粉末が選択できる。例えば、Ba及びTiを含むペロブスカイト型酸化物が挙げられ、好ましくはチタン酸バリウム(BaTiO3)である。
【0066】
例えば、チタン酸バリウムを主成分とし、酸化物を副成分として含むセラミック粉末を用いてもよい。酸化物としては、Mn、Cr、Si、Ca、Ba、Mg、V、W、Ta、Nb及び1種類以上の希土類元素の酸化物が挙げられる。このようなセラミック粉末としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)のBa原子やTi原子を他の原子、例えば、Sn、Pb、Zr等で置換したペロブスカイト型酸化物強誘電体のセラミック粉末が挙げられる。
【0067】
内部電極用ペーストにおいては、MLCCのグリーンシートを構成する誘電体セラミック粉末と同一組成の粉末を用いてもよい。これにより、焼結工程における誘電体層と内部電極層との界面での収縮のミスマッチによるクラック発生が抑制される。このようなセラミック粉末としては、上記以外に、例えば、ZnO、フェライト、PZT、BaO、Al2O3、Bi2O3、R(希土類元素)2O3、TiO2、Nd2O3等の酸化物が挙げられる。なお、セラミック粉末は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0068】
セラミック粉末の平均粒径は、例えば、0.01μm以上0.5μm以下であり、好ましくは0.01μm以上0.3μm以下の範囲である。セラミック粉末の平均粒径が上記範囲であることにより、内部電極用ペーストとして用いた場合、十分に細く薄い均一な内部電極を形成することができる。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率50,000倍にて観察した映像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値である。
【0069】
セラミック粉末の含有量は、ニッケル粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは3質量部以上30質量部以下である。
【0070】
セラミック粉末の含有量は、導電性ペースト全量に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上20質量%以下である。セラミック粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0071】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、特に限定されず、公知の樹脂を用いることができる。バインダー樹脂としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルブチラール等のブチラール系樹脂等が挙げられる。中でも、溶剤への溶解性、燃焼分解性の観点等からエチルセルロースを含むことが好ましい。また、内部電極用ペーストとして用いる場合、グリーンシートとの接着強度を向上させる観点からブチラール樹脂を含む、又は、ブチラール樹脂を単独で使用してもよい。バインダー樹脂は、1種類を用いてもよく、又は、2種類以上を用いてもよい。バインダー樹脂は、例えば、セルロース系の樹脂とブチラール樹脂とを用いることができる。また、バインダー樹脂の分子量は、例えば、2×104~105程度である。
【0072】
バインダー樹脂の含有量は、ニッケル粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上8質量部以下である。
【0073】
バインダー樹脂の含有量は、導電性ペースト全量に対して、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上6質量%以下である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0074】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、特に限定されず、上記バインダー樹脂を溶解することができる公知の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えば、ジヒドロターピニルアセテート、イソボルニルアセテート、イソボルニルプロピネート、イソボルニルブチレート及びイソボルニルイソブチレート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のアセテート系溶剤、ターピネオール、ジヒドロターピネオール等のテルペン系溶剤、トリデカン、ノナン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶剤等が挙げられる。なお、有機溶剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0075】
有機溶剤の含有量は、ニッケル粉末100質量部に対して、好ましくは40質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは65質量部以上95質量部以下である。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0076】
有機溶剤の含有量は、導電性ペースト全量に対して、20質量%以上60質量%以下が好ましく、35質量%以上55質量%以下がより好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0077】
(分散剤)
分散剤としては、特に限定されず、公知の分散剤を用いることができる。分散剤としては、例えば酸系分散剤やアミン系分散剤が挙げられる。分散剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。例えば、カルボキシル基含有高分子分散剤を使用する場合、その酸価は0.1~100mgKOH/gであることが好ましく、分子量Mwは2000~200000であることが好ましい。このようなカルボキシル基含有高分子分散剤としては、カルボキシル基を有するアクリル樹脂やアクリル・スチレン共重合体等が挙げられる。具体的なカルボキシル基含有高分子分散剤には、酸価が1以上の市販のアクリル樹脂や、東亜合成社製のUCシリーズやUFシリーズ等が挙げられる。なお、分散剤は有機溶媒に対して質量比で有機溶剤:分散剤=100:30の割合で混合してもよい。
【0078】
[導電性ペーストの製造方法]
本実施形態の導電性ペーストの製造方法について
図6を用いて説明する。まず、バインダー樹脂と、有機溶剤とを混合し、有機ビヒクルを作製する(ステップS01)。バインダー樹脂と、有機溶剤とを混合する方法は、特に限定されない。混合方法は、例えば、有機溶剤に、バインダー樹脂を徐々に加えながら、攪拌し、有機溶剤中にバインダー樹脂を溶解させる。また、有機溶剤は、混合前に、予め加熱してもよい。有機溶剤の加熱温度は、例えば、50℃以上60℃以下である。また、混合の際、有機溶剤を、50℃以上60℃以下での温度に保持し、バインダー樹脂を添加してもよい。
【0079】
有機ビヒクルの粘度(25℃)は、例えば、5Pa・S以上1000Pa・S以下程度とすることができ、5Pa・S以上600Pa・S以下であることが好ましい。有機ビヒクルの粘度が上記範囲である場合、濾過フィルターを用いて、より効率的に異物が除去できる。
【0080】
濾過は、例えば、20℃以上であり、25℃以上の温度で行うことができる(ステップS02)。有機ビヒクル(濾液)は、例えば、濾過の際、加熱してもよい。加熱することにより、単位時間内でより大量の濾液(有機ビヒクル)を処理することができる。濾過の温度の上限は、特に限定されず、例えば、フィルター材質の使用温度の上限を超えない範囲で加熱してもよい。温度の上限は、例えば、80℃以下である。
【0081】
次いで、異物が除去された有機ビヒクルにニッケル粉末を混合する(ステップS03)。有機ビヒクルに、ニッケル粉、セラミック粉末、分散剤、粘度調整用の有機溶剤等を混合する方法は、特に限定されず、添加した成分が十分、混合される方法であればよい。混合方法は、例えば、ミキサーにより攪拌、混合した後、3本ロールミル等で、混練、分散させる方法とすることができる。
【0082】
MLCCの内部電極用等の導電ペーストに含まれる導電性金属粉末には、金、銀、パラジウム、銅、ニッケル等の金属粉末又はその合金粉末を使用することができるが、これらの中では安価なニッケル及び/又はその合金からなる粉末を使用するのが好ましく、本実施形態では比表面積に対する硫黄含有量が0.05質量%・g/m2未満であるニッケル粉末を用いる。
【0083】
ニッケル粉末は導電性ペースト中の含有量が40~60質量%であるのが好ましく、45~55質量%であるのがより好ましい。ニッケル粉末の含有量が40質量%未満では形成した電極の厚みが薄くなりすぎて良好な導電性が得られなくなるおそれがあり、逆に含有量が60質量%を超えると電極層を薄層化するのが困難になるからである。
【0084】
また、導電性ペーストに含まれるニッケル粉末は、その平均粒径が0.05~1.0μmであるのが好ましい。その理由は、ニッケル粉末は凝集により粗大粒子を生じることがあり、平均粒径が1.0μmを超える粗大粒子が導電性ペーストに含まれると、特に薄い金属膜を形成する場合、得られる乾燥膜や焼成後の金属膜の平滑性が損なわれるおそれがある。グリーンシート上に形成した金属膜の平滑性が損なわれると、積層した際に空隙を生じる等の不具合を発生するため、MLCCの内部電極用としては好ましくない。なお、ニッケル粉末の粗大粒子は、SEM等の電子顕微鏡で確認することもできるが、公知の粒度分布測定装置でも確認することができる。
【0085】
一方、平均粒径が0.05μm未満では粒子の比表面積が大きくなりすぎ、表面活性が強くなって導電性ペーストの乾燥等の処理の際に悪影響を及ぼしたり導電性ペーストを長期間保存している間に変質したりするおそれがあるので好ましくない。
【0086】
また。作製される導電性ペーストに含まれる樹脂にメチルセルロース、エチルセルロース、ニトロセルロース等セルロース系樹脂、メタクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等のポリアセタール樹脂を用いることができる。これら樹脂を加えることで、導電性ペーストの粘度を良好な値に調整することができるが、特にセルロース系樹脂が印刷性等の観点から望ましく、セルロースのOH基の一部を塩化メチルでエーテル化した樹脂であるエチルセルロースを用いることがより望ましい。上記の樹脂を導電性ペースト中に1~5質量%程度含有されるように添加するのが好ましい。この含有量が1質量%未満では乾燥膜の強度が低下したり積層膜に剥がれが生じたりするおそれがあるので好ましくない。逆に、樹脂の含有量が5質量%を超えると脱バインダー性が損なわれるおそれがあるので好ましくない。
【0087】
また、有機溶剤が上記樹脂成分と相溶性を有することが望ましい。有機溶剤が導電性金属粉末等の無機成分粉末をペースト中で安定して分散させる機能を有しているのが好ましい。これにより、電子部品のグリーンシートや回路基板等の表面に無機成分粉末を均一に塗布(印刷)することができる。塗布された有機溶媒は、焼成時までにはほとんど蒸発して大気中に拡散する。
【0088】
このような有機溶剤としては、ターピネオール(α、β、若しくはγ又はこれらの混合物)、ジヒドロターピネオール、オクタノール、デカノール、トリデカノール、フタル酸ジブチル、酢酸ブチル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることができる。具体的な有機溶剤は導電性ペーストが塗布される基材の種類に応じて適宜選択すればよい。また、上記導電性ペーストには、所望の無機成分濃度となるように炭化水素系有機溶剤を用いて希釈してもよい。
【0089】
また、有機溶剤中、ビヒクル用の有機溶剤としては、有機ビヒクルの馴染みをよくするため、導電性ペーストの粘度を調整するペースト用の有機溶剤と同じものを用いることが好ましい。ビヒクル用の有機溶剤の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、例えば、5質量部以上80質量部以下である。また、ビヒクル用の有機溶剤の含有量は、導電性ペースト全体量に対して、好ましくは10質量%以上40質量%以下である。
【0090】
また、カルボキシル基を有する酸系有機添加剤が分散剤として含まれてもよい。例えば、グリシンとオレイン酸とのアミド化合物であるオレオイルサルコシンを挙げることができる。更にアミン系有機添加剤が含まれてもよい。使用するアミン系有機添加剤は、炭素数10以上の高級アミンやロジンアミンが望ましい。前者の高級アミンは、不飽和炭素結合を有しても有していなくてもよく、例えばラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等を挙げることができる。例えば、有機溶媒に含有率1~30質量%となるように樹脂を溶解させて得られるビヒクルにアミン系有機添加剤を添加して混合することで添加剤含有ビヒクルを作製する。
【0091】
また、本実施形態の導電性ペーストの製造方法では、
図6の手順とは異なる手順により導電性ペーストを製造してもよい。例えば、あらかじめニッケル粉末を有機溶剤に分散させ(分散工程)、分散工程後のニッケル粉末及び有機溶剤にセラミック粒子とバインダー樹脂とを混合してペースト化してもよい(ペースト化工程)。
【0092】
[積層セラミックコンデンサ]
導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサ等の電子部品に好適に用いることができる。積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートを用いて形成される誘電体層及び導電性ペーストを用いて形成される内部電極を有する。そして、内聞電極は、少なくも本実施形態のニッケル粉末を用いた内部電極であり、積層セラミックコンデンサは、この内部電極と誘電体層とを積層した積層体を備える。
【0093】
積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートに含まれる誘電体セラミック粉末と導電性ペーストに含まれるセラミック粉末とが同一組成の粉末であることが好ましい。導電性ペーストを用いて製造される積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートの厚さが、例えば3μm以下である場合でも、シートアタックやグリーンシートの剥離不良が抑制される。
【0094】
[電子部品]
図2及び
図3は、電子部品の一例である、積層セラミックコンデンサ1を示す図である。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層12及び内部電極層11を交互に積層した積層体10と外部電極20とを備える。ここで、
図2及び
図3における図面は、XYZ直交座標系において、X方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向(上下方向)である。
【0095】
次に、上記導電性ペーストを使用した積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。まず、セラミックグリーンシートからなる誘電体層上に、導電性ペーストを印刷して、乾燥し、乾燥膜を形成する。この乾燥膜を上面に有する複数の誘電体層を、圧着により積層させて積層体を得た後、積層体を焼成して一体化することにより、内部電極層11と誘電体層12とが交互に積層したセラミック積層体10を作製する。その後、セラミック積層体の両端部に一対の外部電極を形成することにより積層セラミックコンデンサ1が製造される。以下に、より詳細に説明する。
【0096】
まず、未焼成のセラミックシートであるセラミックグリーンシートを用意する。このセラミックグリーンシートとしては、例えば、チタン酸バリウム等の所定のセラミックの原料粉末に、ポリビニルブチラール等の有機バインダーとターピネオール等の溶剤とを加えて得た誘電体層用ペーストを、PETフィルム等の支持フィルム上にシート状に塗布し、乾燥させて溶剤を除去したもの等が挙げられる。なお、セラミックグリーンシートからなる誘電体層の厚みは、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサの小型化の要請の観点から、0.05μm以上3μm以下が好ましい。
【0097】
次いで、このセラミックグリーンシートの片面に、スクリーン印刷法等の公知の方法によって、上述の導電性ペーストを印刷(塗布)して乾燥し、乾燥膜を形成したものを複数枚、用意する。なお、印刷後の導電性ペースト(乾燥膜)の厚みは、内部電極層の薄層化の要請の観点から、乾燥後1μm以下とすることが好ましい。
【0098】
次いで、支持フィルムから、セラミックグリーンシートを剥離するとともに、セラミックグリーンシートからなる誘電体層とその片面に形成された乾燥膜とが交互に配置されるように積層した後、加熱・加圧処理により積層体を得る。なお、積層体の両面に、導電性ペーストを塗布していない保護用のセラミックグリーンシートを更に配置する構成としても良い。
【0099】
次いで、積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを形成した後、当該グリーンチップに対して脱バインダー処理を施し、還元雰囲気下において焼成することにより、セラミック積層体を製造する。なお、脱バインダー処理における雰囲気は、大気またはN2ガス雰囲気にすることが好ましい。脱バインダー処理を行う際の温度は、例えば200℃以上400℃以下である。また、脱バインダー処理を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間以上24時間以下とすることが好ましい。また、焼成は、内部電極層に用いる金属の酸化を抑制するために還元雰囲気で行われ、また、積層体の焼成を行う際の温度は、例えば、1000℃以上1350℃以下であり、焼成を行う際の、温度の保持時間は、例えば、0.5時間以上8時間以下である。
【0100】
グリーンチップの焼成を行うことにより、グリーンシート中の有機バインダーが完全に除去されるとともに、セラミックの原料粉末が焼成されて、セラッミック製の誘電体層が形成される。また乾燥膜中の有機ビヒクルが除去されるとともに、ニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末が焼結もしくは溶融、一体化されて、内部電極が形成され、誘電体層と内部電極層とが複数枚、交互に積層された積層セラミック焼成体が形成される。なお、酸素を誘電体層の内部に取り込んで信頼性を高めるとともに、内部電極の再酸化を抑制するとの観点から、焼成後の積層セラミック焼成体に対して、アニール処理を施してもよい。
【0101】
そして、作製した積層セラミック焼成体に対して、一対の外部電極を設けることにより、積層セラミックコンデンサが製造される。例えば、外部電極は、外部電極層及びメッキ層を備える。外部電極層は、内部電極層と電気的に接続される。なお、外部電極の材料としては、例えば、銅やニッケル、またはこれらの合金が好適に使用できる。なお、電子部品は、本実施形態の積層セラミックコンデンサのみに限定されず、積層セラミックコンデンサに加え、積層セラミックコンデンサ以外の部品を備えるものであってもよい。
【実施例0102】
以下、本発明を実施例と比較例に基づき詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0103】
[実施例1]
〈ニッケル粉末の製造〉
[ニッケル塩溶液の調製]
ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl2・6H2O、分子量:237.69)405g、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NH4)2PdCl4、分子量:284.31)2.41mgを、純水1880mLに溶解して、主成分としてニッケル塩とニッケルより貴な金属の金属塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩溶液を調製した。ここで、ニッケル塩溶液において、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し9.0質量ppm(5.0モルppm)である。
【0104】
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N2H4・H2O、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を215g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。還元剤溶液に含まれるヒドラジンのニッケルに対するモル比は1.51であった。
【0105】
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)230gを、純水560mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を用意した。水酸化アルカリ溶液に含まれる水酸化ナトリウムのニッケルに対するモル比は5.75であった。
【0106】
[アミン化合物溶液]
自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)としてのアミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(-NH2)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(H2NC2H4NH2、分子量:60.1)2.048gを、純水18mLに溶解して、主成分としてのエチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。アミン化合物溶液に含まれるエチレンジアミンはニッケルに対し、モル比で0.02(2.0モル%)と微量であった。
【0107】
なお、上記ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、およびアミン化合物溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも富士フィルム和光純薬株式会社製の試薬を用いた。
【0108】
[晶析工程]
上記各薬剤を用い、
図1に示す晶析手順で晶析反応を行い、ニッケル晶析粉を得た。すなわち、塩化ニッケルとパラジウム塩を純水に溶解したニッケル塩溶液を撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ液温75℃になるように撹拌しながら加熱した後、液温25℃でヒドラジンと水を含む上記還元剤溶液を混合時間20秒で添加混合してニッケル塩・還元剤含有液とした。このニッケル塩・還元剤含有液に液温25℃で水酸化アルカリと水を含む上記水酸化アルカリ溶液を混合時間80秒で添加混合し、液温63℃の反応液(塩化ニッケル+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム)を調合し、還元反応(晶析反応)を開始した(反応開始温度63℃)。反応液の色調は、反応液調合直後は水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)の黄緑色であったが、反応開始(反応液調合)から数分すると、核剤(パラジウム塩)の働きによる核発生に伴い反応液が変色(黄緑色→灰色)した。反応液が暗灰色に変化した反応開始後8分後から18分後までの10分間にかけて上記アミン化合物溶液を上記反応液に滴下混合し、ヒドラジンの自己分解を抑制しながら還元反応を進めてニッケル晶析粉を反応液中に析出させた。反応開始から90分以内には、還元反応は完了し、反応液の上澄み液は透明で、反応液中のニッケル成分はすべて金属ニッケルに還元されていることを確認した。
【0109】
ところで、上記反応液の上澄み液中にはヒドラジンが僅かに残存しており、その量を測定したところ、還元剤溶液に配合した60%抱水ヒドラジン215gに対し、晶析反応で消費された60%抱水ヒドラジン量は212gであり、ニッケルに対するモル比は1.49であった。ここで、還元反応に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は、理論値で0.5と想定されるため、自己分解に消費されたヒドラジンのニッケルに対するモル比は0.99であったと見積もられる。
【0110】
ニッケル晶析粉を含む反応液はスラリー状であり、このニッケル晶析粉含有スラリーにメルカプト酢酸(チオグリコール酸)(HSCH2COOH、分子量:92.12)の水溶液を加えて、ニッケル粉末中の硫黄含有量が0.11質量%となるように、ニッケル晶析粉の表面処理(硫黄コート処理)を施した。表面処理後、導電率が1μS/cmの純水を用い、ニッケル晶析粉含有スラリーからろ過したろ液の導電率が10μS/cm以下になるまでろ過洗浄し、固液分離した後、150℃の温度に設定した真空乾燥器中で乾燥して、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。
【0111】
[解砕処理工程(後処理工程)]
図1に示すように、晶析工程に引き続いて解砕工程を実施し、ニッケル粉末中の主にニッケル粒子が連結して形成された粗大粒子の低減を図った。具体的には、晶析工程で得られた上記ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、乾式解砕方法であるスパイラルジェット解砕処理を施し、湿式法の晶析反応に微量のアミン化合物(エチレンジアミン:EDA)がヒドラジンの自己分解抑制剤として適用された、実施例1のニッケル粉末を得た。
【0112】
(比表面積の測定)
ニッケル粉末の比表面積は、マウンテック社製の「マックソーブ」を用いて測定した。
【0113】
(硫黄含有量の測定)
ニッケル粉末中の硫黄含有量は、炭素・硫黄分析装置(LECO社製CS844)により測定した。
【0114】
〈導電性ペーストの製造〉
[使用材料]
(ニッケル粉末)
上記方法により製造したニッケル粉末(SEM画像より求められる平均粒径0.2μm)を使用した。
【0115】
(セラミック粉末)
セラミック粉末としては、チタン酸バリウム(BaTiO3;SEM画像より求められる平均粒径0.06μm)(堺化学社製「BT-01」)を使用した。
【0116】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、エチルセルロース樹脂4.5質量%をターピネオール228質量%に溶解したものを使用した。
【0117】
(分散剤)
分散剤として、カルボキシル基含有高分子分散剤(アクリル主鎖を有し、官能基としてカルボキシル基を有し、分子量Mw90000、酸価3mgKOH/g、熱分解温度270℃である分散剤)を用いた。
【0118】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、ターピネオールを使用した。
【0119】
[導電性ペーストの製造]
ニッケル粉末46質量%、セラミック粉末11.5質量%、ビヒクル中のバインダー樹脂3.2質量%、分散剤を0.8質量%、及び、残部としてターピネオール(有機溶剤)を全体として100質量%となるよう配合し、これらの材料を混合して導電性ペーストを作製した。このようにして実施例1の導電性ペーストを作製した。
【0120】
[評価方法]
(導電性ペーストの焼結性評価)
作製した導電性ペーストをPETフィルム上に載せ、幅50mm、隙間125μmのアプリケータで長さ約100mmに延ばした。得られたPETフィルムを120℃、40分乾燥させて、乾燥膜を形成した。その後乾燥膜のみを乳鉢にて粉砕し、100メッシュの篩にかけ、ニッケルペースト乾燥粉末を得た。得られたニッケルペースト乾燥粉末0.15gをペレット成型治具で直径5mmの円柱状にし、100MPaの圧力で1分間以上プレスして成型体を作製した。
【0121】
成型体を、TMA(熱機械分析)により空気雰囲気中にて310℃の温度条件下に1時間保持して脱バインダー処理を行った。その後、成形体を2%H
2-N
2雰囲気で室温から1300℃まで5℃/分で昇温し、そして1300℃で10分~2時間保持して焼結し、TMA焼結体を得た。得られた焼結体をイオンミリングで断面研磨し、研磨面の結晶粒のSEM観察を実施し、結晶粒100個の大きさを測定し、数平均粒子径を測定した。
図5に、実施例1、比較例1、2による焼結体の断面のSEM像を示す。
【0122】
実施例1では数平均粒子径が5μm以下であり、焼結処理によるクラックは見られなかった。評価結果を表1及び
図4に示す。
【0123】
[実施例2~6]
ニッケル粉末の硫黄含有量が、実施例2では0.09質量%、実施例3では0.11質量%、実施例4では0.14質量%、実施例5では0.16質量%、実施例6では0.15質量%となるように、ニッケル晶析粉含有スラリーにチオグリコール酸の水溶液を加えて硫黄コート処理をした以外は、実施例1と同様の条件でニッケル粉末および導電性ペーストを作製し、実施例1と同様に物性評価を行った。評価結果を表1及び
図4に示す。いずれも結晶子サイズが5μm以下であり、焼成によるクラックは見られなかった。
【0124】
また、実施例1~6のニッケル粉末は、後述する比較例1、2のニッケル粉末と比較して、硫黄含有量が少ないため、焼結の際に発生するおそれのある硫黄由来ガスの発生量が少なくなることは明らかであると考えられた。
【0125】
[比較例1及び2]
ニッケル粉末の硫黄含有量が0.022質量%となるように、ニッケル晶析粉含有スラリーにチオグリコール酸の水溶液を加えて硫黄コート処理をした以外は、実施例1と同様の条件でニッケル粉末および導電性ペーストを作製し、実施例1と同様に物性評価を行った。評価結果を表1及び
図4に示す。結晶子サイズが7μmより大きく成長し、焼結処理によりクラックが生じた。
【0126】
本実施形態に係る導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサ製造時の焼結処理による硫黄由来のガスの発生およびクラックの発生等を抑制することに優れているため、特に携帯電話やデジタル機器等の電子機器のチップ部品(電子部品)である積層セラミックコンデンサの内部電極用の原料として好適に用いることができる。