(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152832
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形物
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20221004BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20221004BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08L29/04 D
C08L79/08
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055760
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】椋木 一詞
(72)【発明者】
【氏名】金子 達雄
(72)【発明者】
【氏名】野田 拓海
【テーマコード(参考)】
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4J002BE021
4J002CM042
4J002GG01
4J002GH01
4J002GJ01
4J002GP00
4J043PC106
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA62
4J043SB01
4J043TA22
4J043UA021
4J043UA022
4J043UA131
4J043UB401
4J043VA021
4J043XA16
4J043YA06
4J043YB08
4J043YB14
4J043ZB01
4J043ZB03
4J043ZB11
4J043ZB21
(57)【要約】
【課題】透明性を維持しながら耐熱性に優れる成形物が得られるポリビニルアルコール系樹脂を含有してなる樹脂組成物とその樹脂組成物からなる成形物を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系樹脂(A)とイミド構造を有する樹脂(B)を含有する樹脂組成物であり、前記イミド構造を有する樹脂(B)が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする樹脂組成物。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)とイミド構造を有する樹脂(B)を含有する樹脂組成物であり、前記イミド構造を有する樹脂(B)が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする樹脂組成物。
【化1】
(一般式(1)中、M
1及びM
2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM
1及びM
2が同時に水素原子になる場合を除く。)を示し、
X
1及びX
2は、一価の有機基を示し、
m及びnは、各々独立に0以上4以下の整数を示し、
Z
2は、置換基を有していてもよい炭化水素基又は-Ph-B-Ph-を示し、
-Ph-B-Ph-におけるBはO、C=O、又はSO
2を示し、Phはベンゼンから2~3個の水素原子を除いた基を示し、
Z
1及びZ
3は、各々独立に水素原子又は-C(=O)X
3で表される基(但しZ
1及びZ
3が同時に水素原子になる場合を除く。)を示し、
-C(=O)X
3におけるX
3はZ
2と結合する単結合を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位が、下記の一般式(2-1)又は(2-2)で表される繰り返し単位である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】
(一般式(2-1)及び式(2-2)中、M
1、M
2、X
1、X
2、m、n、Z
1、Z
2及びZ
3は前記一般式(1)におけるものと同じ。)
【請求項3】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位が、下記の一般式(3-1)又は(3-2)で表される繰り返し単位である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化3】
(一般式(3-1)及び一般式(3-2)中、M
1、M
2、X
1、X
2、m、及びnは前記一般式(1)におけるものと同じであり、R
1は、置換基を有していてもよい炭素数4~14の四価の炭化水素基を示す。)
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)のケン化度が60~100モル%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)の平均重合度が200~4000である、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記イミド構造を有する樹脂(B)を、前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)100質量部に対して、1~25質量部含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6いずれか一項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物及び成形物に関する。さらに詳しくは、ポリビニルアルコール系樹脂を含有してなる樹脂組成物とその樹脂組成物からなる成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂と略記することがある。)は、従来水溶性の樹脂として様々な用途に用いられている。例えば、無機物との接着性や機械的特性に優れていることから、糊剤、コーティング剤として使用されるほか、フィルム素材、繊維素材としても使用されている。
PVA系樹脂は溶融成形が困難であるため、フィルム素材等の成形物とする場合は、水溶性であることを活かして、通常水溶液を乾燥することで成形している。
【0003】
しかし、PVA系樹脂は、分子骨格内に水酸基を有するため、充分な耐熱性を得にくい。そのため、乾燥工程における歩留まりが低下しやすいという問題がある。また、成形物の用途に応じて、高い耐熱性が求められる場合もある。
PVA系樹脂の耐熱性を向上させるため、PVA系樹脂に架橋剤を配合して、架橋構造体とする試みや、PVA系重合体とフィラーを複合させる試みが報告されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、アセトアセチル基含有PVA系樹脂を用い、アルデヒド基を有効な官能基とするグリオキシル酸塩を含有する架橋剤と反応させることで、PVA系樹脂フィルムを得ることが提案されている。
また、特許文献2では、特定の平均繊維径並びに改質されたセルロースナノファイバーとPVA系樹脂を複合することで、耐熱性や耐熱水性の優れたPVA系樹脂フィルムを得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-77385号公報
【特許文献2】特開2010-242063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で得られるPVA系樹脂フィルムは、効率的に架橋構造体を得るため、PVA系樹脂に対してアセトアセチル基を導入する工程が必要である。
また、特許文献2で得られるPVA系樹脂フィルムは、耐熱性が十分とはいえない。セルロースナノファイバーの分散性によっては、透明性が損なわれる場合もある。
本発明は上記事情に鑑みて、透明性を維持しながら耐熱性に優れる成形物が得られるポリビニルアルコール系樹脂を含有してなる樹脂組成物とその樹脂組成物からなる成形物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]ポリビニルアルコール系樹脂(A)とイミド構造を有する樹脂(B)を含有する樹脂組成物であり、前記イミド構造を有する樹脂(B)が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする樹脂組成物。
【0008】
【0009】
(一般式(1)中、M1及びM2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM1及びM2が同時に水素原子になる場合を除く。)を示し、
X1及びX2は、一価の有機基を示し、
m及びnは、各々独立に0以上4以下の整数を示し、
Z2は、置換基を有していてもよい炭化水素基又は-Ph-B-Ph-を示し、
-Ph-B-Ph-におけるBはO、C=O、又はSO2を示し、Phはベンゼンから2~3個の水素原子を除いた基を示し、
Z1及びZ3は、各々独立に水素原子又は-C(=O)X3で表される基(但しZ1及びZ3が同時に水素原子になる場合を除く。)を示し、
-C(=O)X3におけるX3はZ2と結合する単結合を示す。)
【0010】
[2]前記一般式(1)で表される繰り返し単位が、下記の一般式(2-1)又は(2-2)で表される繰り返し単位である、[1]に記載の樹脂組成物。
【0011】
【0012】
(一般式(2-1)及び式(2-2)中、M1、M2、X1、X2、m、n、Z1、Z2及びZ3は前記一般式(1)におけるものと同じ。)
【0013】
[3]前記一般式(1)で表される繰り返し単位が、下記の一般式(3-1)又は(3-2)で表される繰り返し単位である、[1]に記載の樹脂組成物。
【0014】
【0015】
(一般式(3-1)及び一般式(3-2)中、M1、M2、X1、X2、m、及びnは前記一般式(1)におけるものと同じであり、R1は、置換基を有していてもよい炭素数4~14の四価の炭化水素基を示す。)
【0016】
[4]前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)のケン化度が60~100モル%である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[5]前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)の平均重合度が200~4000である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[6]前記イミド構造を有する樹脂(B)を、前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)100質量部に対して、1~25質量部含有する、[1]~[5]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[7][1]~[6]いずれか一項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする成形物。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂を含有してなる樹脂組成物によれば、透明性を維持しながら耐熱性に優れる成形物が得られる。また、本発明の成形物は、透明性を維持しながら耐熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書及び特許請求の範囲における以下の用語の定義は以下のとおりである。
「単量体」は、重合性炭素-炭素二重結合を有する化合物を意味する。
「C1」、「C6」等、Cの後に付した数字は、炭素数を示す。
数平均分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィーで測定された数平均分子量を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0019】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、PVA系樹脂(A)と、特定の繰り返し単位を有するイミド構造を有する樹脂(B)を含有する。本発明の樹脂組成物は、必要に応じてその他の成分を含有することができる。また、水溶液とすることができる。
【0020】
〔PVA系樹脂(A)〕
まず、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)(以下単に樹脂(A)と記す場合がある。)について説明する。
樹脂(A)は、ビニルエステル系単量体を共重合して得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とビニルエステル構造単位から構成される。
【0021】
上記ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、中でも経済的に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0022】
樹脂(A)の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、200~4000であることが好ましく、230~3500であることがより好ましく、250~3000であることがさらに好ましい。
平均重合度が好ましい範囲の下限値以上であることにより、成形物の強度が向上する。平均重合度が好ましい範囲の上限値以下であることにより、水溶液とした際の安定性、及びハンドリング性が向上する。
【0023】
また、樹脂(A)のケン化度(JIS K6726に準拠して測定)は、60~100モル%であることが好ましく、70~99.5モル%であることがより好ましく、80~98モル%であることがさらに好ましい。
ケン化度が好ましい範囲の下限値以上であることにより、水溶性が向上する。ケン化度がより好ましい範囲の上限値以下の樹脂(A)は、製造が容易である。
【0024】
また、本発明では、樹脂(A)として、ポリビニルエステル系樹脂の製造時に各種単量体を共重合させ、これをケン化して得られた共重合変性PVA系樹脂や、PVA系樹脂に後変性によって各種官能基を導入した後変性PVA系樹脂を用いることができる。かかる変性は、樹脂(A)の水溶性が失われない範囲で行うことができる。
【0025】
共重合変性PVA系樹脂を得るために、ビニルエステル系単量体との共重合に用いられる単量体としては、例えば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート、等が挙げられる。
【0026】
また、共重合変性PVA系樹脂として、側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂が挙げられる。かかるPVA系樹脂としては、例えば、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、ビニルエチレンカーボネート、グリセリンモノアリルエーテル等を共重合して得られる側鎖1,2ジオール変性PVA系樹脂、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート等を共重合して得られる側鎖にヒドロキシメチル基を有するPVA系樹脂が挙げられる。
【0027】
また、後反応によって官能基が導入された後変性PVA系樹脂としては、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するもの、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するもの、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基を有するもの、あるいは各種官能基を有するアルデヒド化合物をPVAと反応させて得られるものなどを挙げることができる。
【0028】
かかる変性PVA系樹脂中の変性種、すなわち樹脂(A)中のビニルエステル系単量体以外の各種単量体に由来する構成単位、あるいは後反応によって導入された官能基の含有量は、変性種によって特性が大きく異なるため一概には言えない。通常は、0.1~20モル%であることが好ましく、0.5~12モル%であることがより好ましく、1~10モル%であることがさらに好ましい。
【0029】
〔イミド構造を有する樹脂(B)〕
次に、本発明で用いられるイミド構造を有する樹脂(B)(以下単に樹脂(B)と記す場合がある。)について説明する。樹脂(B)は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する。
【0030】
【0031】
一般式(1)中、M1及びM2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM1及びM2が同時に水素原子になる場合を除く。)を示し、X1及びX2は、一価の有機基を示し、m及びnは、各々独立に0以上4以下の整数を示す。
Z2は、置換基を有していてもよい炭化水素基又は-Ph-B-Ph-を示し、-Ph-B-Ph-におけるBはO、C=O、又はSO2を示し、Phはベンゼンから2~3個の水素原子を除いた基を示す。
Z1及びZ3は、各々独立に水素原子又は-C(=O)X3で表される基(但しZ1及びZ3が同時に水素原子になる場合を除く。)を示し、-C(=O)X3におけるX3はZ2と結合する単結合を示す。
【0032】
M1及びM2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれかである。但しM1及びM2が同時に水素原子になる場合を除く。
一価の金属原子としては、アルカリ金属原子が好ましく、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。このうちLi、Na、Kがより好ましい。また、アルカリ土類金属としては、Be、Mg、Ca、Sr、Baが挙げられる。このうち、Be、Mg、Caがより好ましい。
【0033】
アンモニウムイオンは、第1級アミノ基、第2級アミノ基又は第3級アミノ基を有する化合物由来のイオンであり、アンモニウムイオン(NH4+)、アルキルアンモニウムイオン、アルカノールアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられる。中でも、樹脂(B)の水に対する溶解度が高まることから、アンモニウムイオン(NH4+)であることが好ましい。
M1及びM2としては、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又はアンモニウムイオン(NH4+)が好ましい。
【0034】
X1及びX2は、一価の有機基を示す。有機基としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。中でも、樹脂(B)の水に対する溶解度が高まることから、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基が好ましい。
【0035】
m及びnは、各々独立に0以上4以下の整数である。樹脂(B)の水に対する溶解度が高まることから、m及びnは、各々独立に3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。m及びnの双方が0であるものが最も好ましい。すなわち、樹脂(B)の繰り返し単位におけるX1及びX2で示した一価の有機基は、少ない方が好ましく、存在しないことが好ましい。
【0036】
Z1及びZ3は、各々独立に水素原子又は-C(=O)X3で表される基を示す。但し、Z1及びZ3は、同時に水素原子とはならない。ここで、-C(=O)X3におけるX3はZ2と結合する単結合を示す。
【0037】
Z1は、X3がZ2と結合する単結合である、-C(=O)-で表される基であることが好ましい。この場合、Z1とZ2を含む環状のイミド構造が形成される。
Z3は、X3がZ2と結合する単結合である、-C(=O)-で表される基であることが好ましい。Z3が、Z2と結合する-C(=O)-で表される基である場合、Z3とZ2を含む環状のイミド構造が形成される。
Z1が、Z2と結合する-C(=O)-で表される基であると共に、Z3が、Z2と結合する-C(=O)-で表される基であることが特に好ましい。この場合、Z1とZ2を含む環状のイミド構造とZ3とZ2を含む環状のイミド構造が形成される。
環状のイミド構造が形成されると透明性が向上するため好ましい。
【0038】
Z2は、置換基を有していてもよい炭化水素基又は-Ph-B-Ph-を示す。-Ph-B-Ph-におけるBはO、C=O、又はSO2を示し、Phはベンゼンから2~3個の水素原子を除いた基を示す。
Z2は、Z1及びZ3のいずれとも環を形成していないとき、Z2は二価の炭化水素基であり、Z1及びZ3のいずれか一方と環を形成しているときは三価の炭化水素基であり、Z1及びZ3のいずれとも環を形成しているときは四価の炭化水素基である。Z2は、Z1及びZ3のいずれとも環を形成している四価の炭化水素基であることが好ましい。
【0039】
炭化水素基としては、アルカン、アルケン、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素から2~4個の水素を取り除いた基が挙げられ、このうち脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素から2~4個の水素を取り除いた基が好ましい。
これらの炭化水素基の炭素数は、樹脂(B)の水に対する溶解度が高くなる点で1~14が好ましく、環状の場合の炭素数は4~14が好ましく、鎖状の場合の炭素数は1~8が好ましい。
【0040】
Z2の水素を取り除く前のアルカンとしては、C1-C8アルカンが好ましく、アルケンとしてはC2-C8アルケンが好ましい。アルカン及びアルケンは、直鎖状であっても分岐鎖を有していてもよい。
Z2の水素を取り除く前の脂環式炭化水素としては、炭素数4~14の脂環式炭化水素が好ましく、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等がより好ましく、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンが、樹脂(B)の水に対する溶解度が高まる点でさらに好ましい。Z2は、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンから4個の水素を取り除いた基が特に好ましい。
Z2の水素を取り除く前の芳香族炭化水素としては、炭素数6~14の芳香族炭化水素が好ましく、ベンゼン、ナフタレンが得られる高分子化合物の溶解度が高い点でより好ましく、ベンゼンがより製造が容易である点でさらに好ましい。
【0041】
また、これらの炭化水素基の水素原子に置換し得る置換基としては、本発明の効果を有する限りにおいて特に限定はされないが、C1-C6のアルキル基、C1-C6のアルコキシ基、C2-C6のアルケニル基等が挙げられる。
置換基には、-R2-Y-R3(Yはヘテロ原子又はカルボニル基、R2及びR3は炭化水素基)も含む。R2及びR3の水素を取り除く前の炭化水素としては、例えばZ2の炭化水素として例示されたものが使用できる。ヘテロ原子としては酸素等が挙げられる。
【0042】
一般式(1)において、シクロブタン環へのCOOM2とフェニル基の結合形態としては、以下の一般式(2-1)又は(2-2)の形態が挙げられる。
【0043】
【0044】
一般式(2-1)及び式(2-2)中、M1、M2、X1、X2、m、n、Z1、Z2及びZ3は前記一般式(1)におけるものと同じであり、好ましい態様も同じである。
一般式(2-1)と一般式(2-2)の繰り返し単位は、いずれも本発明の効果をもたらす。
樹脂(B)の柔軟性が高くなりやすく、成形性が良好となりやすい点では、一般式(2-2)で表される繰り返し単位を有する樹脂(B)が好ましい。
【0045】
樹脂(B)の力学強度が高くなりやすい点では、一般式(2-1)で表される繰り返し単位を有する樹脂(B)が好ましい。
一般式(2-1)で表される繰り返し単位を有する場合も、樹脂(B)は水溶解性を有するため、加工性を確保できる。
一般式(2-1)で表される繰り返し単位を有する場合、酸と接触させて水不溶性に変換した樹脂(B)は力学強度が一層高まるため、水に対する溶解性の変化を利用することで、加工性と力学強度を高い次元で両立できるので好ましい。
【0046】
一般式(2-1)で表される繰り返し単位は、下記一般式(3-1)で表される繰り返し単位であることが好ましく、一般式(2-2)で表される繰り返し単位は、下記一般式(3-2)で表される繰り返し単位であることが好ましい。特に、下記一般式(3-1)で表される繰り返し単位であることが、樹脂(B)の力学強度が高くなりやすいので好ましい。
【0047】
【0048】
一般式(3-1)及び一般式(3-2)中、M1、M2、X1、X2、m、及びnは前記一般式(1)におけるものと同じであり、好ましい態様も同じである。R1は、置換基を有していてもよい炭素数4~14の四価の炭化水素基を示す。
一般式(3-1)及び一般式(3-2)は、一般式(1)におけるZ1が、Z2と結合する-C(=O)-で表される基であると共に、Z3が、Z2と結合する-C(=O)-で表される基であり、かつ、Z2が炭素数4~14の四価の炭化水素である場合に該当する。
【0049】
R1としては炭素数4~14の脂環式炭化水素基又は炭素数6~14の芳香族炭化水素基が好ましく、炭素数4~8の脂環式炭化水素基がより好ましく、炭素数4~6の脂環式炭化水素基がさらに好ましい。
またR1が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を有する限りにおいて特に限定はされないが、例えば前記のZ2において炭化水素基が有してよい置換基として例示された置換基が使用できる。
【0050】
樹脂(B)には、シクロブタン環上の置換基の結合形態により、種々の光学異性体が存在する。例えば前記一般式(2-2)で表される繰り返し単位の内、m及びnが共に0であるものには、下記一般式(2-2-1)、一般式(2-2-2)で表されるような光学異性体及びラセミ体が含まれる。
いずれを用いることもできるが、光学純度の高いモノマーを用いて得られる樹脂(B)が、耐熱性、力学強度等の物性向上の面で好ましい。
【0051】
【0052】
なお、一般式(2-2-1)、一般式(2-2-2)中、M1、M2、Z1、Z2及びZ3は、前記一般式(1)におけるもの、及び前記一般式(2-2)におけるものと同じであり、好ましい態様も同じである。
【0053】
樹脂(B)は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するが、その分子内に有する前記繰り返し単位の種類は、1種類であっても、2種類以上を含んでいてもよい。
すなわち、前記一般式(1)で表される構造を1種類のみ繰り返し単位として有する単独重合体であってもよいし、2種類以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。
【0054】
樹脂(B)が共重合体の場合、樹脂(B)中に含まれる各繰り返し単位の比率(重合度の比率)も本発明の効果が得られる範囲において特に限定されるものではない。また、樹脂(B)中に含まれる各繰り返し単位の配列についても検定はなく、ランダムでもブロックでもよい。
【0055】
樹脂(B)の数平均分子量は、本発明の効果が得られる限りにおいて限定されるものではないが、親水性、透明性、耐熱性、柔軟性及び伸び性を向上させる観点から、10,000~1,000,000が好ましく、50,000~500,000がさらに好ましい。
数平均分子量が上記好ましい範囲の下限値以上であると、耐久性が向上する。数平均分子量が上記好ましい範囲の上限値以下であると、樹脂(A)との相溶性が向上する。
【0056】
樹脂(B)の平均重合度は、本発明の効果が得られる範囲において特に限定されるものではないが、20~2000であることが好ましく、100~1000であることがより好ましい。平均重合度が上記好ましい範囲内であれば、数平均分子量を上記好ましい範囲内としやすい。
【0057】
樹脂(B)は、置換基を有していてもよい4-アミノ桂皮酸又は4-ニトロ桂皮酸を出発原料とし、国際公開第2013/073519や特開2016-166315に記載の方法に準じて二量化し、その繰り返し単位の中心骨格である、置換基を有していてもよい4,4’-ジアミノ-α-トルキシル酸を得る。この化合物を縮重合成分と共に縮重合させることにより、ポリアミド又はポリイミドを得、次いで一価の金属塩、アルカリ土類金属塩、又はアミン化合物で処理することにより製造することができる。縮重合の方法は、国際公開第2013/073519や特開2016-166315等の既知の方法によって適宜行うことができる。
さらに具体的には、国際公開第2019/026795に記載の方法にて、樹脂(B)を得ることができる。
【0058】
〔その他の成分〕
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、樹脂(A)、樹脂(B)とは異なる他の水溶性高分子を含有していてもよい。他の水溶性高分子としては、例えば、澱粉、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等を挙げることができる。
【0059】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、補強剤、充填剤、可塑剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、帯電防止剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤などが含有されてもよい。
【0060】
〔配合量〕
本発明の樹脂組成物における樹脂(B)の固形分換算の含有量は、樹脂(A)の固形分換算の含有量100質量部に対して、1~25質量部であることが好ましく、5~20質量部であることが特に好ましい。
樹脂(B)の固形分換算の含有量が上記好ましい範囲の下限値以上であることにより、充分な耐熱性向上効果を得やすい。樹脂(B)の固形分換算の含有量が上記好ましい範囲の上限値以下であることにより、成形物の透明性を確保しやすい。
【0061】
本発明の樹脂組成物が樹脂(A)、樹脂(B)以外の他の水溶性高分子を含有する場合、他の水溶性高分子の固形分換算の含有量は、樹脂組成物全体の固形分に対して、10質量%以下が好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
本発明の樹脂組成物における樹脂(A)と樹脂(B)の固形分換算の合計含有量は、樹脂組成物全体の固形分に対して、90質量%以上が好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0062】
〔水溶液〕
本発明の樹脂組成物は、成形物製造の用途に供する際、水溶液の態様であることが好ましい。
水溶液とする場合、作業性の点から、水溶液全体に対する樹脂成分全体の固形分換算の含有量(樹脂(A)と樹脂(B)と、必要に応じて含有する他の水溶性高分子の固形分換算の含有量の合計)は1~25質量%であることが好ましく、1.5~20質量%であることがより好ましい。
【0063】
<成形体>
本発明においては、上記樹脂組成物を用いて成形物が得られる。かかる成形物の形状としては、例えば、フィルム状、カップ状、チューブ状、中空状、カプセル状などが挙げられ、特にフィルム状のものが好適に用いられる。
【0064】
本発明において、成形物の製造方法としては、特に限定はされないが、以下の工程[I]及び[II]を順次行い成形物を得ることが好ましい。
[I]本発明の樹脂組成物を水溶液として得る水溶液調製工程
[II]得られた水溶液を、乾燥する乾燥工程
以下に、成形物がフィルムである場合を例に取って成形物の製造方法を詳述するが、フィルム以外の他の成形物の場合でもこれに準じて行えばよい。
【0065】
フィルムを製造するには、例えば、流延法等の方法を採用することができる。以下、流延法について説明する。
[I]の水溶液調製工程の具体的方法としては、(i)樹脂(A)の粉末と樹脂(B)の粉末とを混合してから水に溶解し、水溶液とする方法、(ii)樹脂(A)の水溶液に樹脂(B)の粉末を添加し、水溶液とする方法、(iii)樹脂(B)の水溶液に樹脂(A)の粉末を添加し、水溶液とする方法、(iv)樹脂(A)の水溶液と樹脂(B)の水溶液を混合する方法等が挙げられる。
【0066】
水溶液全体に対する樹脂成分全体の固形分換算の含有量(樹脂(A)と樹脂(B)と、必要に応じて含有する他の水溶性高分子の固形分換算の含有量の合計)は1~25質量%であることが好ましく、1.5~20質量%であることがより好ましい。
樹脂成分全体の含有量が好ましい範囲の下限値以上であれば生産性が向上する。樹脂成分全体の含有量が好ましい範囲の上限値以下であれば、粘度が高くなりすぎず、ドープの脱泡に時間を要したり、フィルム製膜時にダイラインが発生することを避けやすい。
【0067】
次に[II]の得られた水溶液を、乾燥する乾燥工程であるが、アプリケーター等を用いて、上記樹脂組成物の水溶液をPETフィルムやポリエチレンフィルム等のプラスチック基材あるいは金属基材上にキャストして、乾燥させてフィルムを得ることができる。
また、乾燥温度としては、30~80℃が好ましく、40~60℃がより好ましい。乾燥温度が好ましい範囲の下限値以上であれば、乾燥に時間を短くすることができる。乾燥温度が好ましい範囲の上限値以下であれば、製膜時の発泡を抑制しやすい。
乾燥時間は、0.1~6時間が好ましく、1~4時間がより好ましい。
【0068】
上記の方法で得られたフィルムにおいては、その厚みは、用途により適宜選択されるが、5~100μm、が好ましく、10~90μmが特に好ましい。かかる厚みが薄すぎるとフィルムの機械的強度が低下する傾向があり、厚すぎると製膜効率が低下し、製造効率が低下する傾向がある。
フィルムの表面は平坦であってもよいが、ブロッキング性、加工時の滑り性、製品同士の密着性軽減の点から、片面あるいは両面にエンボス模様や梨地模様等を施しておくこともできる。
【0069】
<作用効果>
本発明のポリビニルアルコール系樹脂を含有してなる樹脂組成物によれば、透明性を維持しながら耐熱性に優れる成形物が得られる。また、本発明の成形物は、透明性を維持しながら耐熱性に優れる。
耐熱性に優れるのは、樹脂(B)により、樹脂中にイミド構造が組み込まれるためと考えられる。また、透明性が維持できるのは、樹脂(A)と樹脂(B)の相溶性が高いためであると考えられる。
【実施例0070】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「部」は質量基準を意味する。
【0071】
<樹脂(B-1)の作製>
あらかじめ調製しておいた4-アミノ桂皮酸の塩酸塩92gを25℃のヘキサン1.8Lに分散させ、得られた分散液に高圧水銀灯で20時間紫外線を照射することにより、4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸の塩酸塩を得た。
得られた4,4’-ジアミノ-α-トルキシル酸の塩酸塩を濾取し、乾燥させることにより、4,4’-ジアミノ-α-トルキシル酸の塩酸塩の粉末86.9gを回収した(収率:94%)。
【0072】
前記で得られた4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸の塩酸塩の粉末を水3Lに溶解させ、活性炭40gを加え、3時間撹拌した。撹拌後、吸引ろ過し、得られたろ液に1N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、当該水溶液のpHを3に調整した。その結果、白色粉末が晶析した。得られた白色粉末を濾取し、水洗した後、乾燥することにより、4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸60gを得た。
【0073】
前記で得られた4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸10g(28mmol)及びシクロブタンテトラカルボン酸二無水物5.9g(28mmol)を脱水ジメチルアセトアミド30mLに溶解させた後、得られた溶液を窒素ガス雰囲気中で室温にて36時間撹拌させることにより、4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸とシクロブタンテトラカルボン酸二無水物とを反応させた。
【0074】
得られた反応溶液をメタノールに滴下することにより、沈殿させて白色固体を得た。得られた白色固体を回収し、1H-NMRスペクトルおよびFT-IRスペクトルにより同定した。その結果、得られた白色固体は、以下に示す式(3-1-X)の繰り返し単位を有するポリアミド酸であることがわかった。
得られたポリアミド酸の収量は14.6gであり、収率は92%であった。
【0075】
【0076】
前記で得られたポリアミド酸300mgをジメチルアセトアミド1.2mLに溶解させ、得られた溶液をシリコンウエハー上にキャストし、真空オーブン中で100℃、150℃、200℃及び250℃と段階的に昇温させることにより、イミドポリマーのフィルムを形成させた。
【0077】
次に、前記で得られたイミドポリマー200mgを水4mL中に添加し、さらに水酸化カリウム44mgを添加したところ、当該イミドポリマーが水酸化カリウム水溶液に溶解した。得られた溶液をエタノールに添加したところ、親水性樹脂230mgが析出した。
【0078】
前記で得られた親水性樹脂を濾別し、乾燥させることにより回収し、1H-NMRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルにより同定した。その結果、得られた親水性樹脂は、以下に示す式(3-1-1)の繰り返し単位(一般式(3-1)に該当)を有する樹脂(B-1)であることを確認した。
樹脂(B-1)のプルランを標準試料とした数平均分子量は、490000であった。
【0079】
【0080】
<アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体のナトリウム塩の作製>
アクリル酸(東京化成社製)10g、及びアクリル酸エチル(東京化成社製)7g、エタノール(東京化成社製)100g、2,2-アゾビスイソブチロニトリル0.1g(東京化成社製)を200mlの二口ナスフラスコに加え、窒素を吹き込みながら氷水中で10分撹拌した。
その後、上記ナスフラスコを60℃で10時間加熱した後、氷水中に浸した。
【0081】
次いで、上記で得られた溶液を1000mlのヘキサン中に10ml/minの速度で撹拌しながら滴下し、オイル状の沈殿物を得た。得られた沈殿物を1H-NMRスペクトルにより同定した結果、アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体であることがわかった。
得られたアクリル酸-アクリル酸エチル共重合体のポリスチレンを標準試料とした数平均分子量は30100であった。
【0082】
さらに、上記で得られたアクリル酸-アクリル酸エチル共重合体2gを、1.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液200gに溶解させ、得られた溶液を1000mlのエタノールに10ml/minの速度で撹拌しながら滴下し、アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体のナトリウム塩を得た。
【0083】
<実施例1>
PVA系樹脂(ケン化度88モル%、平均重合度500)10部を656部の純水に添加後、85℃に昇温して溶解し、1.5質量%の樹脂(A-1)水溶液を得た。得られた樹脂(A-1)水溶液に前記樹脂(B-1)0.50部を添加し、室温で10分撹拌して完全に溶解させ、樹脂組成物を作製した。
次に、上記で得られた樹脂組成物を厚さ100μmのPET基材に塗工し、40℃で4時間乾燥した後、ピンセットを用いてPET基材から剥離し、膜厚50μmのフィルムを得た。とした。さらに、60℃、12時間真空乾燥し、実施例1のフィルムを得た。
【0084】
<実施例2>
樹脂(B-1)の添加量を1.1部とした以外は、実施例1と同様にして実施例2のフィルムを得た。
【0085】
<実施例3>
PVA系樹脂(ケン化度98.5モル%、平均重合度1800)10部を656部の純水に添加後、85℃に昇温して溶解し、1.5質量%の樹脂(A-2)水溶液を得た。
樹脂(A-1)水溶液に代えて樹脂(A-2)水溶液を用いた他、実施例1と同様にして、実施例3のフィルムを得た。
【0086】
<実施例4>
樹脂(B-1)の添加量を1.1部とした以外は、実施例3と同様にして実施例4のフィルムを得た。
【0087】
<実施例5>
樹脂(B-1)の添加量を1.8部とした以外は、実施例3と同様にして実施例5のフィルムを得た。
【0088】
<比較例1>
樹脂(A-1)水溶液を厚さ100μmのPET基材に塗工し、40℃で4時間乾燥して、膜厚50μmのフィルムとした。さらに、60℃、12時間真空乾燥し、比較例1のフィルムを得た。
【0089】
<比較例2>
樹脂(A-1)水溶液に代えて樹脂(A-2)水溶液を用いた他、比較例1と同様にして、比較例2のフィルムを得た。
【0090】
<比較例3>
樹脂(B-1)に代えて、アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体のナトリウム塩を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例3のフィルムを得た。
【0091】
<評価>
各例フィルムについて、下記の(1)、(2)について、測定、評価を行った。その結果を表1、表2に示す。
なお、表1における変化量は、比較例1に対する変化量であり、表2における変化量は、比較例2に対する変化量である。
【0092】
(1)全光線透過率及びHAZE:
得られたフィルムの全光線透過率及びHAZEをそれぞれJIS K 7361及びJIS K 7136に準拠した方法で、Haze Mater NDH4000(日本電色社製)を用いて測定した。なお、HAZEは、全体HAZEである。
【0093】
(2)ガラス転移温度:
得られたフィルムの動的粘弾測定を実施した。具体的には、レオメーター Rheosol-G5000NT(UBM社製)を用いて、幅10mm、つかみ具間距離20mm、昇温速度3℃/minで測定し、Tanδのピークの値をガラス転移温度として評価した。
【0094】
【0095】
【0096】
表1、2に示す結果から明らかなように、実施例1~5で得られたフィルムは、全光線透過率及びHAZEの値が良好で、かつ高いガラス転移温度を示した。
比較例1~3で得られたフィルムは、全光線透過率及びHAZE及びガラス転移温度のいずれかの点で劣っていた。
本発明の樹脂組成物からなる成形物は、透明性及び耐熱性に優れるため、偏光板用フィルムなどのフィルム素材として有用である。さらに、本発明の樹脂組成物は、紙加工剤、塗料、コーティング剤、接着剤などにも適用できる。