(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152870
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】樹脂成形体のスライス用治具、及び樹脂成形体のスライス方法
(51)【国際特許分類】
B26D 7/02 20060101AFI20221004BHJP
B26D 3/00 20060101ALI20221004BHJP
B26D 3/28 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B26D7/02 Z
B26D3/00 601A
B26D3/28 610T
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055804
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭佑
【テーマコード(参考)】
3C021
【Fターム(参考)】
3C021CC01
(57)【要約】
【課題】樹脂成形体をスライスしてスライス片を得るに際し、十分な膜厚精度を確保しつつスライス片を高い歩留まりで得ることができる、新たな技術の提供を目的とする。
【解決手段】樹脂成形体を挟持する少なくとも一対の挟持面、前記樹脂成形体の一部が突出する下部開口、及び上部開口を有する保持具と、前記樹脂成形体の上に載置される押込具と、を備える樹脂成形体のスライス用治具であって、前記押込具の側周面の少なくとも一部に緩衝材が配置されており、前記緩衝材を備える前記押込具は、上方から平面視した際に、前記一対の挟持面の間に収容可能な大きさを有する、樹脂成形体のスライス用治具。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体を挟持する少なくとも一対の挟持面、前記樹脂成形体の一部が突出する下部開口、及び上部開口を有する保持具と、
前記樹脂成形体の上に載置される押込具と、
を備える樹脂成形体のスライス用治具であって、
前記押込具の側周面の少なくとも一部に緩衝材が配置されており、前記緩衝材を備える前記押込具は、上方から平面視した際に、前記一対の挟持面の間に収容可能な大きさを有する、樹脂成形体のスライス用治具。
【請求項2】
上方から平面視した際に、前記緩衝材が前記押込具の側周面を覆う部分の長さが、前記押込具の側周長の80%以上100%以下を占める、請求項1に記載の樹脂成形体のスライス用治具。
【請求項3】
前記緩衝材の静摩擦係数が0.30以上1.40以下である、請求項1又は2に記載の樹脂成形体のスライス用治具。
【請求項4】
前記緩衝材の見掛けのヤング率が0.03GPa以上0.15GPa以下である、請求項1~3の何れかに記載の樹脂成形体のスライス用治具。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の樹脂成形体のスライス用治具を用いて、樹脂成形体をスライスしてスライス片を得る樹脂成形体のスライス方法であって、
前記樹脂成形体の一部が前記保持具の下部開口から突出するように前記樹脂成形体を前記保持具に保持させ、且つ前記樹脂成形体の上に前記緩衝材を備える前記押込具を載置して、前記保持具に保持されている樹脂成形体をスライス開始位置に配置する工程(A)と、
前記工程(A)の後に、前記保持具に保持されている樹脂成形体をスライス刃に対して相対移動させて前記保持具の下部開口から突出した樹脂成形体を1回以上スライスする工程(B)と、
前記工程(B)の後に、一部がスライスされ、且つ、前記保持具に保持されている樹脂成形体を押し出し開始位置に配置する工程(C)と、
前記工程(C)の後に、前記保持具に保持されている樹脂成形体の一部を前記保持具の下部開口よりも下方に押し出す工程(D)と、
前記工程(D)の後に、前記保持具に保持されている樹脂成形体をスライス開始位置に配置し、前記保持具に保持されている樹脂成形体をスライス刃に対して相対移動させて前記保持具の下部開口から突出した樹脂成形体を1回以上スライスする工程(E)と、
を含む、樹脂成形体のスライス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体のスライス用治具、及び当該スライス用治具を用いて樹脂成形体をスライスする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱伝導シートや導電性シートなどの各種シート材を製造する方法として、樹脂形成体をスライスして樹脂成形体のスライス片よりなるシートを得る方法が用いられている。
【0003】
例えば特許文献1では、樹脂成形体をスライス刃に対して繰り返し相対移動させ、スライス片としてのシートを得る手法が採用されている。より具体的には、特許文献1では、保持具により保持された樹脂成形体を、スライス面上でスライス刃に対して相対移動させ、保持具の下端から突出した樹脂成形体をスライスしてスライス片よりなるシートを連続で作製している。
【0004】
そして特許文献1では、保持具により保持された樹脂成形体の上に押込具を載置し、載置した押込具の自重で樹脂成形体を下方に押しつつスライスを行う手法が提案されている。このように、押込具で樹脂成形体を下方(スライド面)に押し付けながらスライスを行うことで、樹脂成形体を良好にスライスすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のスライス方法には、樹脂成形体のスライス片を一層高い歩留まりで得るという点に改善の余地があった。具体的に、押込具で樹脂成形体を下方に押し付けながらスライスを行う上記従来のスライス方法では、スライスが進行し樹脂成形体の厚みが減少すると、樹脂成形体の上に載置された押込具も、樹脂成形体の厚み減少分だけ保持具に対する相対的位置が低下する。そしてスライス終盤では、保持具が有する一対の挟持面により、樹脂成形体でなく押込具を挟持した状態で樹脂成形体のスライスを行うことになる。この際、押込具がスライスの衝撃により大きく揺動することにより、得られるスライス片の膜厚精度が低下するという問題があることが明らかとなった。
そこで、本発明は、樹脂成形体をスライスしてスライス片を得るに際し、十分な膜厚精度を確保しつつスライス片を高い歩留まりで得ることができる、新たな技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の樹脂成形体のスライス用治具は、樹脂成形体を挟持する少なくとも一対の挟持面、前記樹脂成形体の一部が突出する下部開口、及び上部開口を有する保持具と、前記樹脂成形体の上に載置される押込具と、を備える樹脂成形体のスライス用治具であって、前記押込具の側周面の少なくとも一部に緩衝材が配置されており、前記緩衝材を備える前記押込具は、上方から平面視した際に、前記一対の挟持面の間に収容可能な大きさを有することを特徴とする。このようなスライス治具により樹脂成形体を保持しながら、樹脂成形体をスライス刃に対して繰り返し相対移動させてスライスを行えば、樹脂成形体がスライス中に変形するのを抑制すると共に、スライスが進行し樹脂成形体の厚みが減少した場合であっても緩衝材により押込具の揺動が抑制され、樹脂成形体のスライスを、高い膜厚精度を維持しながら完了することができる。結果として、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、高い歩留まりで得ることができる。
【0008】
ここで、本発明の樹脂成形体のスライス用治具は、上方から平面視した際に、前記緩衝材が前記押込具の側周面を覆う部分の長さが、前記押込具の側周長の80%以上100%以下を占めることが好ましい。緩衝材が押込具の側周長の80%以上100%を覆っていれば、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、より高い歩留まりで得ることができる。
【0009】
そして、本発明の樹脂成形体のスライス用治具は、前記緩衝材の静摩擦係数が0.30以上1.40以下であることが好ましい。緩衝材の静摩擦係数が上記範囲内であれば、樹脂成形体の一部を保持具の下部開口から突出するように押し出す際の作業性を確保するとともに、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、より高い歩留まりで得ることができる。
なお、本発明において、緩衝材の「静摩擦係数」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0010】
さらに、本発明の樹脂成形体のスライス用治具は、前記緩衝材の見掛けのヤング率が0.03GPa以上0.15GPa以下であることが好ましい。緩衝材の見掛けのヤング率が上記範囲内であれば、樹脂成形体のサイズばらつきを十分に吸収しつつ、十分な膜厚精度が確保されたスライス片をより高い歩留まりで得ることができる。
なお、本発明において、緩衝材の「見掛けのヤング率」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0011】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の樹脂成形体のスライス方法は、上述した何れかの樹脂成形体のスライス用治具を用いて、樹脂成形体をスライスしてスライス片を得る樹脂成形体のスライス方法であって、前記樹脂成形体の一部が前記保持具の下部開口から突出するように前記樹脂成形体を前記保持具に保持させ、且つ前記樹脂成形体の上に前記緩衝材を備える前記押込具を載置して、前記保持具に保持されている樹脂成形体をスライス開始位置に配置する工程(A)と、前記工程(A)の後に、前記保持具に保持されている樹脂成形体をスライス刃に対して相対移動させて前記保持具の下部開口から突出した樹脂成形体を1回以上スライスする工程(B)と、前記工程(B)の後に、一部がスライスされ、且つ、前記保持具に保持されている樹脂成形体を押し出し開始位置に配置する工程(C)と、前記工程(C)の後に、前記保持具に保持されている樹脂成形体の一部を前記保持具の下部開口よりも下方に押し出す工程(D)と、前記工程(D)の後に、前記保持具に保持されている樹脂成形体をスライス開始位置に配置し、前記保持具に保持されている樹脂成形体をスライス刃に対して相対移動させて前記保持具の下部開口から突出した樹脂成形体を1回以上スライスする工程(E)と、を含むことを特徴とする。このように、上述した何れかのスライス用治具を用いて工程(A)及び工程(B)の実施後に工程(C)及び工程(D)を実施すれば、保持具に保持されていた樹脂成形体部分を、工程(E)でスライスすることができる。したがって、保持具で樹脂成形体をしっかりと保持して樹脂成形体部分がスライス中に変形するのを抑制しつつ、保持具に保持されていた樹脂成形体部分を保持具から押し出し、工程(E)でスライスすることができる。加えて、本発明のスライス方法では、上述した何れかのスライス用治具を用いているため、スライスが進行し樹脂成形体の厚みが減少した場合であっても緩衝材により押込具の揺動が抑制され、樹脂成形体のスライスを、高い膜厚精度を維持しながら完了することができる。結果として、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、高い歩留まりで得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂成形体のスライス用治具及びスライス方法を用いれば、樹脂成形体から、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を高い歩留まりで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のスライス用治具の一例の構成を示す図であり、(a)は樹脂成形体を保持した状態のスライス用治具の側面図であり、(b)は(a)のスライス用治具を上方から平面視した平面図である。
【
図2】
図1のスライス用治具で樹脂成形体をスライスし、スライスが進行し樹脂成形体の厚みが減少した状態を説明する図である。
【
図3】本発明のスライス用治具の一例の構成を示す他の図であり、樹脂成形体を保持した状態のスライス用治具の側面図である。
【
図4】本発明のスライス用治具が備える保持具の一例の構成を示す図であり、(a)は保持具の正面図であり、(b)は保持具の上面図である。
【
図5】本発明のスライス方法の一例に従い樹脂成形体をスライスする過程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面に基づき詳細に説明する。なお、各図において同一の符号を付したものは、同一の構成要素を示すものとする。また、本発明は、以下に示す実施形態に限定されない。
【0015】
本発明のスライス用治具は、樹脂成形体をスライスしてスライス片を得る際に用いられる。また、本発明のスライス方法は、本発明のスライス用治具により保持された樹脂成形体をスライスしてスライス片を製造する方法である。
【0016】
(樹脂成形体)
スライスの対象である樹脂成形体としては、特に限定されることなく、樹脂を含む材料を任意の方法で成形して得られた樹脂成形体が挙げられる。
なお、樹脂成形体の形状は、特に限定されることなく、得られるスライス片の用途に応じた形状とすることができる。中でも、樹脂成形体は、円柱状又は多角柱状などの柱状であることが好ましく、四角柱状であることがより好ましい。
【0017】
そして、樹脂成形体の成形に使用される材料としては、得られるスライス片の用途に応じた材料を用いることができる。中でも、樹脂成形体の成形に使用される材料としては、樹脂と、無機充填材とを含み、任意に添加剤を更に含有する複合材料を用いることが好ましい。無機充填材を含む複合材料を使用すれば、得られるスライス片に強度、熱伝導性、導電性などの無機充填材の種類に応じた様々な性能を付与することができるからである。
なお、上記樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。また、上記無機充填材としては、特に限定されることなく、例えば、炭素材料、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化チタンなどが挙げられる。更に、上記添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、難燃剤、可塑剤、靭性改良剤、吸湿剤、接着力向上剤、濡れ性向上剤、イオントラップ剤などが挙げられる。
【0018】
上述した中でも、得られるスライス片を熱伝導シートとして使用する場合には、樹脂成形体としては、樹脂と、無機充填材としての炭素材料とを含み、任意に添加剤を更に含有する複合材料を成形して得られた樹脂成形体が好ましい。
そして、上記炭素材料としては、粒子状炭素材料(例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;など)及び繊維状炭素材料(例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、及びそれらの切断物など)の少なくとも一方を用いることが好ましく、少なくとも粒子状炭素材料を用いることがより好ましく、粒子状炭素材料及び繊維状炭素材料の両方を用いることが更に好ましい。
また、上記樹脂成形体の形成方法としては、上記複合材料を加圧してシート状に成形し、1次シートを得た後、得られた1次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、得られた1次シートを折畳又は捲回して、1次シートの積層体よりなる樹脂成形体を得る方法が好ましい。
【0019】
(スライス用治具)
上述した樹脂成形体をスライスする際に用いる本発明のスライス用治具は、樹脂成形体を少なくとも一対の挟持面により挟持する保持具と、保持具に保持された樹脂成形体の上面に配置される押込具とを備える。ここで、本発明のスライス用治具において、押込具の側周面の少なくとも一部に緩衝材が配置されており、緩衝材が配置された押込具は、スライス用治具を上方から平面視した際に、保持具が備える一対の挟持面の間(一対の挟持面の間に形成される空間)に収容可能な大きさであることが必要である。なお、本発明のスライス用治具は、保持具、押込具、及び緩衝材以外の構成(その他の構成)を備えていてもよい。その他の構成としては、押込具を上から加圧して押込具及び樹脂成形体を下方に押圧する押圧機構が挙げられる。
【0020】
そして本発明のスライス用治具を用い、保持具で樹脂成形体を保持しつつ当該樹脂成形体を押込具でスライド面に押し付けながらスライス刃に対して繰り返し相対移動させてスライスを行えば、スライス中に樹脂成形体が変形してしまうことを抑制することができる。また、スライスが進行し樹脂成形体の厚みが減少した場合であっても、挟持面と押込具の間に位置する緩衝材により押込具の揺動が抑制され、樹脂成形体のスライスを、高い膜厚精度を維持しながら完了することができる。結果として、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、高い歩留まりで得ることができる。
【0021】
ここで、
図1は、本発明のスライス用治具の一例の構成を示す図であり、(a)は樹脂成形体を保持した状態のスライス用治具の側面図であり、(b)は(a)のスライス用治具を上方から平面視した平面図である。
図1のスライス用治具100は、樹脂成形体10を保持する保持具20と、樹脂成形体10の上に載置される押込具30と、押込具30の側周面に配置される緩衝材40とを備える。ここで
図1の例では、樹脂成形体10は四角柱状(上方から平面視すると正方形状)であり、樹脂成形体10の一部は下部開口24から突出している。そして保持具20は、その内周面の四面全てにチャック22が設けられ、当該チャック22の挟持面21で四方から樹脂成形体10を挟持している。また
図1(b)から分かるように、この例では、上方から平面視した際に、緩衝材40は、押込具30の側周面と保持具20の(チャック22の)挟持面21との隙間を埋める大きさを有しており、緩衝材40を備える押込具30は、少なくとも一対(
図1では二対)の挟持面21の間に嵌合する大きさとなる。そして、スライスが進行し、
図2に示すように樹脂成形体10の厚みが減少すると、緩衝材40は挟持面21に当接し、押込具30は緩衝材40により保持具20に保持される。
【0022】
また、
図3は、本発明のスライス用治具の一例の構成を示す他の図であり、樹脂成形体を保持した状態のスライス用治具の側面図である。
図3のスライス用治具100Aは、
図1のスライス用治具100同様、樹脂成形体10を保持する保持具20と、樹脂成形体10の上に載置される押込具30と、押込具30の側周面に配置される緩衝材40とを備える。ここで
図3のスライス用治具は、押込具を上から加圧して押込具及び樹脂成形体を下方に押圧する押圧機構50を備える。ここで
図3の例でスライス用治具100Aが有する押圧機構50は、押込具30に上から当接する上部押さえ51と、押圧方向(
図3では下方向)の圧力を発生させる圧力源52と、圧力源52と上部押さえ51を接続する伸縮可能なロッド53を備えている。圧力源52により発生された下方向の圧力を、ロッド53を介して上部押さえ51に伝達し、押込具30及び樹脂成形体10を下方向に押圧することができる。なお、
図3の押圧機構50は上部押さえ51を有しているが、押圧機構に上部押さえは必須ではなく、例えば
図3の押圧機構50において、ロッド53を直接押込具40に接続してもよい。
【0023】
以下に、本発明のスライス用治具を構成する保持具、押込具、緩衝材、及び押圧機構について詳述する。
【0024】
<保持具>
保持具としては、樹脂成形体の側周面に当接して樹脂成形体を挟持する一対以上の挟持面を有する保持具を用いる。即ち、保持具としては、樹脂成形体の上面及び下面以外の面(側周面)に当接して樹脂成形体を自重で落下させることなく支持可能であり、且つ、所定以上の外力を加えたり、後述する締結機構を調整する等して挟持圧を弱めたり、及び/又は後述するチャックの位置(チャック位置)を調整したりすることで保持具に保持されている樹脂成形体を下方に押し出す(移動させる)ことが可能な保持具を用いる。このように、樹脂成形体の側周面に当接して樹脂成形体を挟持する挟持面を有する保持具を使用すれば、保持具の挟持面で樹脂成形体をしっかりと保持して樹脂成形体部分がスライス中に変形するのを抑制することができる。また、樹脂成形体を下方に押し出すことで保持具に保持されていた樹脂成形体部分を保持具から押し出してスライスすることができる。
【0025】
また、保持具は、緩衝材を備えた押込具、並びに任意に用いられる押出機構の上部押さえ及びロッド等を挿通するための上部開口と、樹脂成形体の一部(スライスされる部分)が突出する下部開口とを有する。
また、樹脂成形体の取り付けの容易性を高める観点からは、保持具は、ネジ孔及びネジ等の任意の締結機構を用いて分割及び結合可能に形成されていてもよい。保持具を複数の部品で構成すれば、樹脂成形体を配置した状態で部品を結合することで樹脂成形体を容易に取り付けることができるからである。
【0026】
ここで、
図4(a)に正面図を示し、
図4(b)に上面図を示す保持具20は、樹脂成形体の形状に対応した形状を有する。具体的には、
図4に示す例では、保持具20は、内周面を構成する四面(四つの側壁)全てにチャック22が設けられた四角筒状体であり、互いに対向する一対の挟持面21を二組有する。保持具20は、四角柱状の樹脂成形体の保持に用いられる。そして、例えば
図1に示すように、保持具20には、下部開口24から樹脂成形体10の一部が突出するように樹脂成形体10が取り付けられる。また、保持具20の上部開口23には緩衝材40を備える押込具30が挿通される。
なお、樹脂成形体の取り付けの容易性を高める観点からは、筒状体よりなる保持具20は、一部の側壁(例えば、
図4(b)において下側に位置する側壁)が取り外し及び再結合可能に形成されていてもよい。
また、
図1及び
図4に示す保持具20は、内周面を構成する四つの側壁全てにチャック22が備えられているが、内周面を構成する側壁の一部(例えば、四つの側壁のうちの一つ以上三つ以下)にチャックが設けられていてもよいし、保持具はチャックを有さなくてもよい。すなわち保持具は、内周面が挟持面となってもよい。
【0027】
<押込具>
押込具としては、特に限定されることなく、後述する緩衝材を備えた状態で上述した保持具内に挿入可能であり、且つ、保持具内に支持された樹脂成形体を押し出すことが可能な長さを有する部材を用いることができる。
【0028】
ここで、押込具は、ヤング率が1.5GPa以上であることが好ましく、2.5GPa以上であることがより好ましい。押込具のヤング率が1.5GPa以上であれば、スライスの衝撃に対する耐性が向上する。そのため十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、より高い歩留まりで得ることができる。なお、押込具のヤング率の上限は、特に限定されないが、例えば200GPa以下とすることができる。
なお、本発明において、押込具の「ヤング率」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0029】
また、押込具を構成する材料は、特に限定されないが、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612)、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン及びスチレンを共重合してなる樹脂)などの樹脂;アルミニウム、ステンレス鋼(例えば、SUS304、SUS430、SUS410)などの金属、が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、十分な膜厚精度が確保されたスライス片をより高い歩留まりで得る観点から、ポリアミド樹脂が好ましい。
【0030】
そして、押込具の形状は、特に限定されないが、樹脂成形体の形状に対応した形状を有することが好ましく、樹脂成形体が四角柱状である場合は、押込具は四角柱状であることが好ましい。
【0031】
さらに、押込具の下面(底面)の面積は、樹脂成形体上面の面積を100%として、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、101%以下であることが好ましく、100%以下であることがより好ましい。押込具の下面の面積が、樹脂成形体上面の面積100%に対して80%以上であれば、押込具により押し付けに起因して樹脂成形体が不均一に変形することもなく、101%以下であれば、緩衝材を備える押込具が保持具及び当該保持具が有するチャックに過度に干渉することもない。
【0032】
<緩衝材>
緩衝材は、上述した押込具の側周面の少なくとも一部に配置される部材である。そして、緩衝材は、当該緩衝材を備える押込具が、スライス用治具の上方から平面視した際に、一対の挟持面の間に収容可能となるような大きさであることが必要である。このような緩衝材を押込具の側周面に配置することにより、上述した通りスライス終盤における押込具の揺動を抑制して、樹脂成形体のスライスを、高い膜厚精度を維持しながら完了することができる。
【0033】
ここで、緩衝材は、(例えば保持具内部に位置する状態で)上方から平面視した際に、押込具の側周面と保持具の挟持面との隙間を埋める大きさを有することが好ましい。換言すると、緩衝材を備える押込具は、少なくとも一対の挟持面の間に嵌合する大きさであることが好ましい。緩衝材、及び緩衝材を備える押込具がこのような大きさとなることで、スライス終盤において、緩衝材を備える押込具を挟持面で強固に保持することが可能となり、押込具の揺動を一層抑制してスライス片の膜厚精度を更に高めることが可能になるからである。
【0034】
また、緩衝材を備える押込具を上方から平面視した際に、緩衝材が押込具の側周面を覆う部分の長さが、押込具の側周長を100%として、80%以上100%以下を占めることが好ましく、98%以上100%以下を占めることがより好ましく、100%を占めることが更に好ましい。緩衝材が押込具の側周長の80%以上100%以下を覆っていれば、挟持面と押込具の間に位置する緩衝材により押込具の揺動が一層抑制され、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、より高い歩留まりで得ることができる。
【0035】
そして、緩衝材の高さ(上下方向の幅)は、押込具の高さを100%として、80%以上100%以下を占めることが好ましく、90%以上100%以下を占めることがより好ましく、100%を占めることが更に好ましい。緩衝材が押込具の高さの80%以上100%以下を覆っていれば、スライスが進行し樹脂成形体の厚みが減少した場合であっても、挟持面と押込具の間に位置する緩衝材により押込具の揺動が一層抑制され、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、より高い歩留まりで得ることができる。
【0036】
ここで、緩衝材の静摩擦係数は、0.30以上であることが好ましく、0.50以上であることがより好ましく、0.70以上であることが更に好ましく、0.95以上であることが特に好ましく、1.40以下であることが好ましく、1.30以下であることがより好ましく、1.20以下であることが更に好ましく、1.10以下であることが特に好ましい。緩衝材の静摩擦係数が0.30以上であれば、緩衝材を備える押込具が滑り落ちるのを抑制することができる。一方、緩衝材の静摩擦係数が1.40以下であれば、保持具に保持されている樹脂成形体を下方に向けて押圧して保持具の下部開口から突出するように押し出す際、緩衝材を備える押込具や樹脂成形体が斜めに押し出される等といった問題が生じることもない。すなわち緩衝材の静摩擦係数が0.30以上1.40以下であれば、本発明のスライス用治具を用いたスライスの作業性を確保しつつ、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、より高い歩留まりで得ることができる。
【0037】
また、スライスの作業性を確保しつつ、十分な膜厚精度が確保されたスライス片をより高い歩留まりで得る観点から、樹脂成形体を保持したスライス用治具を上方から平面視した際、当該樹脂成形体の上に配置された押込具及び緩衝材の面積の合計は、樹脂成形体上面の面積を100%として94%以上106%以下であることが好ましく、94%以上100%以下であることがより好ましい。
【0038】
なお、緩衝材を備える押込具を上方から平面視した際に、緩衝材の厚み(押込具の側周面と直交する方向の幅)は、3mm以上28mm以下であることが好ましい。緩衝材の厚みが3mm以上であれば、樹脂成形体のサイズばらつきを十分に吸収することができ、28mm以下であれば、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、より高い歩留まりで得ることができる。
【0039】
ここで、緩衝材は、見掛けのヤング率が0.03GPa以上であることが好ましく、0.05GPa以上であることがより好ましく、0.15GPa以下であることが好ましく、0.10GPa以下であることがより好ましい。緩衝材の見掛けのヤング率が上述した範囲内であれば、樹脂成形体のサイズばらつきを十分に吸収しつつ、十分な膜厚精度が確保されたスライス片をより高い歩留まりで得ることができる。
【0040】
また、緩衝材を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、ニトリルゴム(NBR、ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体)、クロロプレンゴム(CR、クロロプレンの単独重合体)、エチレンプロピレンゴム(EPM、エチレンとプロピレンの共重合体)が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、より高い歩留まりで得る観点から、ニトリルゴムが好ましい。
【0041】
<押圧機構>
本発明のスライス用治具が任意に備える押圧機構は、例えば、樹脂成形体上に載置された押込具に上から当接する上部押さえと、押込具を下方に押圧する圧力を発生させる圧力源と、圧力源と上部押さえを接続するロッドとを備える。
【0042】
ここで、上部押さえの大きさは、上方から平面視した際に、保持具が有する一対の挟持面に収容可能であれば特に限定されない。また上部押さえの材質としては、「押込具を構成する材料」として上述したものが挙げられ、これらの中でポリアミド樹脂が好ましい。
【0043】
なお、圧力源としては、ロッド及びロッド先端に取り付けられた上部押さえを上下に移動可能であり且つバネ等を用いて上部押さえを下方向に押圧可能であれば特に限定されず、任意の機械要素を用いることができる。
【0044】
(スライス方法)
本発明の樹脂成形体のスライス方法は、上述した本発明のスライス用治具を用いて樹脂成形体をスライスしてスライス片を得る方法である。
【0045】
そして、本発明のスライス方法は、樹脂成形体の一部が保持具の下部開口から突出するように樹脂成形体を保持具に保持させ、且つ樹脂成形体の上に緩衝材を備える押込具を載置して、保持具に保持されている樹脂成形体をスライス開始位置に配置する工程(A)と、保持具に保持されている樹脂成形体を1回以上スライスする工程(B)と、工程(B)でスライスされた樹脂成形体を保持具に保持された状態のまま押し出し開始位置に配置する工程(C)と、保持具に保持されている樹脂成形体を下方に押し出す工程(D)と、保持具に保持されている樹脂成形体をスライス開始位置に配置し、保持具に保持されている樹脂成形体を1回以上スライスする工程(E)とを順次実施することを特徴とする。このように、上述した何れかのスライス用治具を用いて工程(A)及び工程(B)の実施後に工程(C)及び工程(D)を実施すれば、保持具に保持されていた樹脂成形体部分を、工程(E)でスライスすることができる。したがって、保持具で樹脂成形体をしっかりと保持して樹脂成形体部分がスライス中に変形するのを抑制しつつ、保持具に保持されていた樹脂成形体部分を保持具から押し出し、工程(E)でスライスすることができる。加えて、本発明のスライス方法では、上述した何れかのスライス用治具を用いているため、スライスが進行し樹脂成形体の厚みが減少した場合であっても緩衝材により押込具の揺動が抑制され、樹脂成形体のスライスを、高い膜厚精度を維持しながら完了することができる。結果として、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、高い歩留まりで得ることができる。
【0046】
なお、本発明の樹脂成形体のスライス方法では、工程(E)の実施後に、スライスされた樹脂成形体を保持具に保持された状態のまま押し出し開始位置に配置する工程と、保持具に保持されている樹脂成形体を下方に押し出す工程と、保持具に保持されている樹脂成形体をスライス開始位置に配置し、保持具に保持されている樹脂成形体を1回以上スライスする工程とを順次繰り返して実施してもよい。直前のスライス工程において保持具に保持されていた樹脂成形体部分を保持具から押し出してスライスする操作を繰り返し実施すれば、樹脂成形体のスライス片を更に高い歩留まりで得ることができるからである。
【0047】
<工程(A)>
本発明の樹脂成形体のスライス方法の工程(A)では、樹脂成形体の一部が保持具の下部開口から突出するように(すなわち、保持具の下端よりも下方に突出するように)樹脂成形体を保持具に保持させ、且つ緩衝材を備える押込具を樹脂成形体の上に載置して、保持具に保持されている樹脂成形体をスライス開始位置に配置する。具体的には、例えば
図5(a)に示すように、樹脂成形体10の一部が保持具20の下部開口から突出するように樹脂成形体10を保持具20に保持させる。また、保持具20に保持されている樹脂成形体10の上に、側周面に緩衝材(図示せず)を備える押込具30を載置する。そして、樹脂成形体10を保持具20と共に下降させて、保持具20に保持されている樹脂成形体10をスライス刃60が設置されたスライド面70上のスライス開始位置に配置する。
なお、以下に詳細に説明する工程(A)~工程(E)において、保持具に保持されている樹脂成形体の移動及びスライスは、手作業で行ってもよいし、把持した保持具を移動させるスライド機構などを備えるスライス装置(例えば、株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」など)を用いて行ってもよい。また、保持具20に保持されている樹脂成形体10のスライス開始位置への配置及び押し出し開始位置への配置は、スライス刃60が設置されたスライド面70を移動させることにより行ってもよい。
【0048】
ここで、樹脂成形体が複数枚のシートの積層体よりなる場合、工程(A)では、樹脂成形体の積層方向両面が保持具の挟持面で挟持されるように樹脂成形体を保持具に保持させることが好ましい。複数枚のシートの積層体よりなる樹脂成形体はシート同士の剥離などが起こり易く、スライス中に変形し易いが、積層方向両側を保持具の挟持面で挟持すれば、スライス中に樹脂成形体が変形するのを十分に抑制することができる。
【0049】
また、保持具の下部開口から突出させる(下端から突出させる)樹脂成形体の長さは、特に限定されることなく、例えば0.5mm以上30mm以下とすることが好ましい。保持具の下部開口から突出させる樹脂成形体の長さを30mm以下にすれば、スライス中に樹脂成形体が変形するのを十分に抑制することができる。また、保持具の下端から突出させる樹脂成形体の長さを0.5mm以上にすれば、工程(B)において樹脂成形体をスライス可能な量を十分に確保して、スライス片を効率的に得ることができる。
【0050】
<工程(B)>
次に、工程(B)では、保持具に保持されている樹脂成形体をスライス刃に対して相対移動させて保持具の下端から突出した樹脂成形体を1回以上スライスする。具体的には、例えば
図5(b)に示すように、スライド面70上で保持具20に保持されている樹脂成形体10を図示例では左方向にスライドさせて保持具20の下端から突出した樹脂成形体10をスライスする操作を1回以上実施する。
なお、工程(B)において、樹脂成形体10のスライスを複数回(2回以上)行う場合、1回のスライス毎に保持具20の下端から突出する樹脂成形体10の長さは短くなっていくため、1回のスライス毎に、スライス開始位置における保持具20と、スライス刃60及びスライス面70との距離は狭まることとなる。
【0051】
樹脂成形体をスライスする回数は、保持具がスライス刃に接触しない範囲で任意の回数とすることができる。また、樹脂成形体のスライスは、スライス刃の位置を固定した状態で保持具に保持されている樹脂成形体を移動させることにより行ってもよいし、保持具に保持されている樹脂成形体の位置を固定した状態でスライス刃を移動させることにより行ってもよいし、スライス刃と保持具に保持されている樹脂成形体との双方を移動させることにより行ってもよい。
【0052】
そして、工程(B)では、保持具でしっかりと保持した樹脂成形体をスライスすることができるので、保持具から突出した樹脂成形体部分がスライス中に変形するのを抑制しつつ、スライス片を得ることができる。
【0053】
なお、工程(B)では、
図5(b)に示すように、保持具20に保持されている樹脂成形体10の上に押込具30を載置した状態で樹脂成形体10をスライスする。押込具30を載置した状態で樹脂成形体10をスライスすることにより、押込具30の自重で樹脂成形体10を下方に押しつつスライスを行うことができるので、樹脂成形体10を良好にスライスすることができる。
またスライス用治具が押圧機構を備える場合は、当該押圧機構で押込具30及び樹脂成形体10を下方に押しつつスライスを行うこともできる。
【0054】
<工程(C)>
工程(C)では、工程(B)のスライスにより保持具の下端から突出する樹脂成形体の長さがある程度短くなった段階で、一部がスライスされた樹脂成形体を、保持具に保持された状態のまま押し出し開始位置に配置する。具体的には、例えば
図5(c)に示すように、一部がスライスされ、且つ、保持具20に保持されている樹脂成形体10を上方に持ち上げて押し出し開始位置に配置する。
【0055】
<工程(D)>
次に、工程(D)では、押し出し開始位置において、保持具に保持されている樹脂成形体を、押込具を介して下方に向けて押圧して樹脂成形体の一部を保持具の下部開口(下端)よりも下方に押し出す。具体的には、例えば
図5(d)に示すように、保持具20に保持されている樹脂成形体10に対し、上方から押込具30を介して外力Fを加え、樹脂成形体10の一部を保持具20の下部開口よりも下方に押し出す。
なお、樹脂成形体に加える外力は、特に限定されないが上述した押圧機構により行うことが好ましい。
【0056】
ここで、保持具の下部開口から突出させる樹脂成形体の長さは、工程(A)と同様の理由により、例えば0.5mm以上30mm以下とすることが好ましい。
【0057】
また、工程(D)において樹脂成形体に加える外力の大きさは、緩衝材を備える押込具や樹脂成形体を下方に真直ぐ押し出すことができれば特に限定されず、適宜調整することができる。
【0058】
なお、上記のように樹脂成形体を下方に押し出すに際しては、保持具がネジ孔及びネジ等の締結機構を用いて分割及び結合可能に形成されている場合、締結機構を調整することで保持具の挟持圧を弱めてもよい。また、保持具に可動式のチャックが設けられている場合はチャック位置を調整することで樹脂成形体を開放してもよい。
【0059】
また、工程(D)においては、スライド面を利用して樹脂成形体を押し出す量を調整してもよい。具体的には、工程(D)では、保持具の下端とスライド面との間の距離が保持具の下部開口(下端)から突出させたい樹脂成形体の長さと等しくなる位置を押し出し開始位置とし、スライド面に当接するまで樹脂成形体を押し出すことにより、樹脂成形体を押し出す量を調整してもよい。このように、スライド面を利用すれば、樹脂成形体を押し出す量を確実に調節することができる。
【0060】
更に、本発明の樹脂成形体のスライス方法では、工程(D)を実施した後、工程(E)を実施する前に、樹脂成形体の押し出し状態を確認してもよい。具体的には、樹脂成形体が斜めに押し出されていないかを検知する機構を利用し、樹脂成形体の押し出し状態を確認してもよい。そして、樹脂成形体が斜めに押し出されていた場合には、樹脂成形体が真っ直ぐに押し出された状態になるように押し出し状態を修正することが好ましい。樹脂成形体が斜めに押し出された状態で次の工程(E)を実施すると、得られるスライス片の面精度が低下するからである。
なお、樹脂成形体が斜めに押し出されていないかを検知する機構としては、特に限定されることなく、例えば、樹脂成形体の底面全体が均一に面接触するかを検知する感圧センサ;樹脂成形体の底面全体が均一に面接触するかを目視で確認できる透明な部材で形成されたスライス面;押込具の側面に配置された目盛り等の目印;などが挙げられる。
【0061】
<工程(E)>
その後、工程(E)では、工程(D)で押し出された樹脂成形体を保持具と共にスライス開始位置に配置し、保持具に保持されている樹脂成形体をスライス刃に対して相対移動させ保持具の下端から突出した樹脂成形体を1回以上スライスする。具体的には、例えば
図5(e)に示すように、保持具20に保持されている樹脂成形体10をスライド面70上のスライス開始位置に移動させた後、スライド面70上で保持具20に保持されている樹脂成形体10を図示例では左方向にスライドさせて保持具20の下部開口から突出した樹脂成形体10をスライスする操作を1回以上実施する。
【0062】
なお、工程(B)と同様に、樹脂成形体をスライスする回数は、保持具がスライス刃に接触しない範囲で任意の回数とすることができる。また、樹脂成形体のスライスは、スライス刃の位置を固定した状態で保持具に保持されている樹脂成形体を移動させることにより行ってもよいし、保持具に保持されている樹脂成形体の位置を固定した状態でスライス刃を移動させることにより行ってもよいし、スライス刃と保持具に保持されている樹脂成形体との双方を移動させることにより行ってもよい。更に、樹脂成形体のスライスは、樹脂成形体が保持具から押し出されない程度の力で樹脂成形体をスライド面に押し付けつつ行ってもよい。
【0063】
そして、工程(E)では、保持具でしっかりと保持した樹脂成形体をスライスすることができるので、保持具から突出した樹脂成形体部分がスライス中に変形するのを抑制しつつ、スライス片を得ることができる。また、工程(E)では、工程(B)の実施中には保持具で保持されていた樹脂成形体部分をスライスすることができるので、樹脂成形体のスライス片を高い歩留まりで得ることができる。
【0064】
<その後の工程>
なお、本発明のスライス方法では、工程(E)の実施後に、上述した工程(C)~工程(E)と同様の操作を順次繰り返して実施してもよい。直前のスライス工程において保持具に保持されていた樹脂成形体部分を保持具から押し出してスライスする操作を繰り返し実施すれば、例えば
図5(f)に示すように、樹脂成形体10を更に押し出してスライスすることができる。加えて本発明のスライス方法では、押し出し及びスライスを繰り返して保持具で保持されている樹脂成形体の厚みが減少した場合であっても、上述した緩衝材の寄与により、樹脂成形体のスライスを高い膜厚精度を維持しながら完了することができる。結果として、十分な膜厚精度が確保されたスライス片を、高い歩留まりで得ることができる。
【実施例0065】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、緩衝材の静摩擦係数数、緩衝材の見掛けのヤング率、押込具のヤング率、樹脂成形体のアスカーC硬度、並びに熱伝導シート(スライス片)の膜厚精及び歩留まりは、それぞれ以下の方法を使用して測定及び評価した。
【0066】
<静摩擦係数>
静摩擦係数は、JIS K7312に準拠し、試験機(株式会社島津製作所製、商品名「AG-IS20kN」)を用いて測定した。具体的には、緩衝材と同じ材質からなる約120×120mmの試験片を準備し、テーブルに固定した当該試験片上に、総重量を200gに調整した移動重錘を載せ、100mm/分の速度で試験片に対して水平に重錘を引っ張ることで、重錘を引っ張る際の試験力(N)を測定した。得られた試験力(N)を下記式:
μs=As/B
に代入し、静摩擦係数を求めた。ここで上記式中、μsは静摩擦係数、Asは始動時の最大引張試験力(N)、Bは重錘による重力(N)である。
なお、緩衝材を用いていない比較例1及び2については、緩衝材に代えて押込具と同じ材質からなる試験片を用いて、上記測定を行った。
<見掛けのヤング率(緩衝材)>
緩衝材の見掛けのヤング率を算出するため、まずは静的せん断弾性率を測定した。静的せん断弾性率は、JIS K6254に準拠し、試験機(株式会社島津製作所製、商品名「AG-IS20kN」)を用いて測定した。具体的には、打ち抜き刃により短冊状1号形に打ち抜いた試験片を用いて、引張速度50mm/分、チャック間距離80mmとし、予備引張りを2回、本試験として25%引張試験を1回行った。得られた応力(MPa)を下記式に代入することによって静的せん断弾性率を算出した。
Gε=σε/(a-1/a2)
ここで上記式中、Gεは25%静的せん断弾性率(MPa)、σεは25%引張応力(MPa)、a=1.25である。
緩衝材は無限長柱であるため、得られた静的せん断弾性率(MPa)を下記式:
Eap=Gε(4+3.29(b/2h)2)×10―3
に代入し、見掛けのヤング率を求めた。ここで上記式中Eapは見掛けのヤング率(GPa)、bは材料の幅(mm)、hは材料の高さもしくは厚み(mm)である。また、無限長柱とは材料の形状において、幅に比べ長さが3倍以上長い角柱のことを言う。
<ヤング率(押込具)>
押込具のヤング率はASTM D638に準拠し、試験機(株式会社島津製作所製、商品名「AG-IS20kN」)を用いて測定した。具体的にはダンベル型打ち抜き刃TypIVにより打抜いた試験片を用いて、引張速度50mm/分、チャック間距離65mmとして引張試験を行った。得られた応力-ひずみ曲線の弾性領域における曲線の傾きから下記式によりヤング率E(GPa)を算出した。
E=(σ2-σ1)/(ε2-ε1)×10-3
ここで上記式中σ1はひずみε1(mm)が0.05%における応力(MPa)、σ2はひずみε2(mm)が0.05%における応力(MPa)である。
<アスカーC硬度>
樹脂成形体のアスカーC硬度の測定は、日本ゴム協会規格(SRIS)のアスカーC法に準拠し、硬度計(高分子計器社製、製品名「ASKER CL-150LJ」を使用して温度23℃で行った。具体的には、得られた樹脂成形体(積層体)を温度23℃に保たれた恒温室内に48時間以上静置して、試験体とした。次に、積層面から針先の距離が2cmになるように硬度計を設置し、ダンパーを降ろして、ブロック体(積層体)とダンパーとを衝突させた。当該衝突から60秒後のブロック体(積層体)のアスカーC硬度を、硬度計(高分子計器社製、商品名「ASKER CL-150LJ」)を用いて2回測定し、測定結果の平均値を採用した。
<膜厚精度及び歩留まり>
膜厚計(ミツトヨ製、製品名「デジマチックインジケーター ID-C112XBS」)を用いて、得られた熱伝導シートの略中心点及び四隅(四角)の計五点における厚みを測定し、狙いの厚み(100μm)に対する測定した厚みの偏差(膜厚精度、μm)を求めた。得られた偏差(膜厚精度)が±5μm以下の熱伝導シートをA級品、膜厚精度が±5μm超10μm以下である熱伝導シートをB級品とした。得られた熱伝導シートの全体の数を100%として、A級品の割合(%)、B級品の割合(%)を算出した。
また、樹脂成形体の厚みが残り1mmとなった際(スライス終盤)にスライスして得られる熱伝導シートについて、上記膜厚計を用いて任意の9点における厚みを測定し、狙いの厚み(100μm)に対する測定した厚みの偏差(膜厚精度、μm)を求めた。
【0067】
(実施例1)
<樹脂成形体の製造>
樹脂としての常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、製品名「ダイエルG-101」)70部及び常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、製品名「ダイニオンFC2211」)30部、並びに、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC300」、体積平均粒子径:50μm)90部を、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、得られた混合物を解砕機(大阪ケミカル社製、製品名「ワンダークラッシュミルD3V-10」)に投入して、10秒間解砕した。
解砕後の混合物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形することにより、厚みが0.8mmの1次シートを得た。
得られた1次シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、1次シートの厚み方向に188枚積層し、更に、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレスすることにより、高さ約150mmの四角柱状の積層体(樹脂成形体X、質量:10kg、アスカーC硬度:75)を得た。
<スライス>
ネジ孔及びネジを有し、ネジの緩締により四つの壁面が分割及び結合可能に形成されている四角筒状体の内周面の二面(
図4(b)において下側の位置する側壁と、右側に位置する側壁)にチャックを設けて保持具とした。なお、チャックが設けられた保持具の内周寸法は、樹脂成形体の外周寸法と等しくなるよう調整した。
別途、押込具(四角柱状、ポリアミド樹脂(商品名:MCナイロン(登録商標)製、ヤング率:2.5GPa)を準備し、この押込具の四つの側面全てに、緩衝材(ニトリルゴム(NBR)製、見掛けのヤング率:0.08GPa、厚み:3mm、静摩擦係数:1.03)を、両面テープを用いて貼り付けた。そして、緩衝材を備える押込具を上方から平面視した際に、緩衝材が押込具の側周面を覆う部分の長さは、押込具の側周長を100%として100%であった。また、緩衝材の高さは、押込具の高さを100%として100%であった。
次に、保持具の内周面側に、樹脂成形体の積層方向が保持具の軸線と直交するように、且つ、保持具の下部開口から樹脂成形体が5mm突出するように、樹脂成形体をセットした(樹脂成形体、及びスライス用治具(保持具、及び緩衝材を備える押込具)は、保持具に備えられたチャックの数以外は
図1のような状態である)。
また、上部押さえと、圧力源と、ロッドとを備える押圧機構を準備し、
図3のように、押込具に上部押さえが当接するよう配置した。
なお、押込具の下面(底面)の面積は、樹脂成形体上面の面積を100%として96%であった。加えて、上方から平面視した際、押込具及び緩衝材の面積の合計は、樹脂成形体上面の面積を100%として96%であった。
そして、保持具から突出した樹脂成形体部分のスライス(5回)と、上方から下方に向けて押圧機構により0.014MPaの外力を加えて保持具に保持されていた樹脂成形体を保持具の下部開口から樹脂成形体が5mm突出するように押し出す操作(なお押し出しの際は、チャック位置を調整し樹脂成形体を開放した。)とを交互に繰り返して実施して、縦150mm×横150mm×厚さ0.100mm(100μm)の熱伝導シート(スライス片)を得た。
なお、スライスは、樹脂成形体上に載置された押込板の上から下方に向けて、押圧機構で0.014MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」を用いて行った。
そして、熱伝導シート膜厚精度及び歩留まりの評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2~5)
緩衝材の材質を下記の通り変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂成形体をスライスして熱伝導シート(スライス片)を作製し、膜厚精度及び歩留まりの評価を行った。結果を表1に示す。
<実施例2>
ニトリルゴム製、見掛けのヤング率:0.11GPa、静摩擦係数:0.90
<実施例3>
ニトリルゴム製、見掛けのヤング率:0.04GPa、静摩擦係数:1.08
<実施例4>
ニトリルゴム製、見掛けのヤング率:0.08GPa、静摩擦係数:1.20。実施例1で用いた緩衝材の表面をやすりで擦ることで作製した。
<実施例5>
ニトリルゴム製、見掛けのヤング率:0.08GPa、静摩擦係数:0.48。実施例1で用いた緩衝材の表面にABS樹脂の薄膜を貼り付けることで作製した。
【0069】
(実施例6)
<樹脂成形体の製造>
樹脂としての常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、製品名「ダイエルG-101」)100部、及び、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC100」、体積平均粒子径:190μm)50部を、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、得られた混合物を解砕機(大阪ケミカル社製、製品名「ワンダークラッシュミルD3V-10」)に投入して、10秒間解砕した。
解砕後の混合物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形することにより、厚みが0.8mmの1次シートを得た。
得られた1次シートを縦60mm×横60mm×厚み0.8mmに裁断し、1次シートの厚み方向に188枚積層し、更に、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレスすることにより、高さ約60mmの四角柱状の積層体(樹脂成形体Y、質量:0.4kg、アスカーC硬度:40)を得た。
<スライス>
チャックが設けられた保持具の内周寸法を、上記樹脂成形体Yの外周寸法と等しくなるよう調整した以外は、実施例1と同様にして熱伝導シート(スライス片)を得た。そして、熱伝導シートの膜厚精度及び歩留まりの評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(比較例1)
押込具(四角柱状、ポリカーボネート製、ヤング率:2.3GPa、静摩擦係数:0.45)を用い、且つ当該押込具の側周面に緩衝材を設けなかった以外は実施例1と同様にして熱伝導シート(スライス片)を得た。そして、熱伝導シートの膜厚精度及び歩留まりの評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(比較例2)
押込具(四角柱状、ポリアミド樹脂(商品名:MCナイロン製、ヤング率:2.5GPa、静摩擦係数:0.24)の側周面に緩衝材を設けなかった以外は実施例1と同様にして熱伝導シート(スライス片)を得た。そして、熱伝導シートの膜厚精度及び歩留まりの評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
表1より、実施例1~6では、膜厚精度に優れるスライス片を高い歩留まりで得られることが分かる。一方、表1より、押込具の側周面に緩衝材を設けなかった比較例1及び2では、膜厚精度に優れるスライス片の歩留まりを十分に高めることができないことが分かる。