(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152949
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】シラン架橋ゴム成形体及びその製造方法、シラン架橋性ゴム組成物、並びにシラン架橋ゴム成形品
(51)【国際特許分類】
C08J 3/24 20060101AFI20221004BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20221004BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20221004BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20221004BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20221004BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20221004BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20221004BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20221004BHJP
H01B 3/28 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08J3/24 A CES
C08L23/16
C08L23/04
C08L23/10
C08L53/02
C08K3/013
C08K5/14
C08K5/54
H01B3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055917
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100198328
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】西口 雅己
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃一
(72)【発明者】
【氏名】白井 友之
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
5G305
【Fターム(参考)】
4F070AA08
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4F070AA15
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5G305AA02
5G305AB40
5G305CA01
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5G305CC02
5G305CD01
5G305CD06
5G305CD07
5G305DA01
(57)【要約】
【課題】射出成形によって、外観特性に優れ、圧縮永久歪みの低減されたシラン架橋ゴム成形体を得ることができる製造方法、この製造方法によって得られたシラン架橋ゴム成形体、及びシラン架橋ゴム成形品、並びにこのシラン架橋ゴム成形体の形成に好適な、シラン架橋性ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン成分量4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴム5~35質量%、MFRが1~15g/10minである、スチレンエラストマー及びオレフィンエラストマーの少なくとも一方を合計で3~30質量%、MFRが0.1g/10min未満であるスチレンエラストマー5~40質量%、及び鉱物性オイルを含むベースゴム100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.6質量部と、無機フィラー1~100質量部と、シランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合する工程を含む、シラン架橋法によるシラン架橋ゴム成形体の製造方法、これにより製造されるシラン架橋ゴム成形体及び成形品、並びにこれらに用いるシラン架橋性ゴム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有するシラン架橋ゴム成形体の製造方法であって、
工程(1):ベースゴム100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.6質量部と、無機フィラー1~100質量部と、前記有機過酸化物から発生したラジカルの存在下で前記ベースゴムとグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベースゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性ゴムを含むシラン架橋性ゴム組成物を得る工程
工程(2):前記シラン架橋性ゴム組成物を射出成形して、成形体を得る工程
工程(3):前記成形体を水と接触させて、シラン架橋ゴム成形体を得る工程
前記ベースゴムが、
ジエン成分量4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴム5~35質量%、190℃、2.16kgにおけるメルトフローレイトが1~15g/10minである、スチレンエラストマー及びオレフィンエラストマーの少なくとも一方を合計で3~30質量%、190℃、2.16kgにおけるメルトフローレイトが0.1g/10min未満であるスチレンエラストマー5~40質量%、及び鉱物性オイル
を含み、
前記工程(1)を行うにあたり、
下記工程(a-2)でベースゴムの全部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)及び工程(c)を有し、下記工程(a-2)でベースゴムの一部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)及び工程(c)を有する、シラン架橋ゴム成形体の製造方法。
工程(a-1):前記無機フィラー及び前記シランカップリング剤を混合して混合物を調製する工程
工程(a-2):前記混合物と前記ベースゴムの全部又は一部とを、前記有機過酸化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベースゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性ゴムを含み、190℃、10kgにおけるメルトフローレイトが0.8g/10min以上のシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベースゴムの残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程、及び
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マスターバッチとを溶融混合して、前記シラン架橋性ゴム組成物を得る工程。
【請求項2】
前記ベースゴムが、ジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィンゴム5~30質量%を含む請求項1に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
【請求項3】
前記ベースゴムが、前記鉱物性オイル20~60質量%を含む請求項1又は2に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ベースゴムが、プロピレン樹脂1~15質量%を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ベースゴムが、ジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィンゴム5~30質量%、前記鉱物性オイル20~60質量%、及びプロピレン樹脂1~15質量%を含む請求項1~4のいずれか1項に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
【請求項6】
前記無機フィラーを、前記ベースゴム100質量部に対して、10~60質量部配合する、請求項1~5のいずれか1項に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
【請求項7】
前記シラノール縮合触媒を、前記ベースゴム100質量部に対して、0.03~0.5質量部配合する、請求項1~6のいずれか1項に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
【請求項8】
前記無機フィラーが、金属水和物、タルク、クレー、シリカ、若しくはカーボンブラック、又はこれらの混合物である請求項1~7のいずれか1項に記載のシラン架橋性ゴム成形体の製造方法。
【請求項9】
前記工程(1)において、前記ベースゴム100質量部に対して、前記無機フィラー10~60質量部と、前記シランカップリング剤1~15質量部と、前記有機過酸化物0.01~0.6質量部と、前記シラノール縮合触媒0.03~0.5質量部とを溶融混合する、請求項1~8のいずれか1項に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法の工程(1)により製造されてなるシラン架橋性ゴム組成物。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法により製造されてなるシラン架橋ゴム成形体。
【請求項12】
請求項11に記載のシラン架橋ゴム成形体を含むシラン架橋ゴム成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン架橋ゴム成形体及びその製造方法、シラン架橋性ゴム組成物、並びにシラン架橋ゴム成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業用ケーブル(電線を含む)の被覆材、ゴムモールド材(例えば、自動車用グラスランチャンネル、ウェザーストリップ、ゴムホース、ワイパーブレードゴム、ガスケット、防振ゴム)等のゴム製品には、圧縮永久歪みが小さいことが一つの要求特性とされる。
従来、小さい圧縮永久歪みが要求される用途に用いられる製品には、エチレン-プロピレンゴム(EPゴム)を加硫(架橋)した架橋EPゴムが用いられてきた。例えば、特許文献1~3は、架橋EPゴムを用いた、シラン架橋法による、シラン架橋成形体の製造方法を開示している。この場合、シラン架橋法とは、有機過酸化物の存在下で不飽和基を有する加水分解性シランカップリング剤をゴムにグラフト反応させてシラングラフトポリマーを得た後に、シラノール縮合触媒の存在下でシラングラフトポリマーを水分と接触させることにより、ゴムを架橋する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6706870号
【特許文献2】国際公開第2015/046476号
【特許文献3】特開2015-86385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
架橋EPゴムの製造の際の成形方法としては、押出成形法、射出成形法などが知られている。射出成形は、押出成形に比較して、複雑な形状への成形もできるという利点がある。
一般的には、押出成形法及び射出成形法のいずれにおいても、成形材料を溶融混合して成形する工程、例えば、成形材料を成形機のシリンダー内において溶融混合して成形する工程を経る。シラン架橋法を前提とする場合、製造工程におけるシリンダー内での滞留時間が長くなるにつれて、シリンダーの熱によって、存在するシランカップリング剤同士の縮合反応、シラングラフトポリマーのシラノール縮合反応などが一部に生じ、得られる成形体の表面にゲルブツや荒れが生じる場合がある。
中でも架橋EPゴムを製造する場合、射出成形法においては、押出成形法に比較して、ゲルブツ、荒れ、フローマーク(ゴム組成物の流動跡)などの外観特性不良が生じやすい。射出成形法の場合、シリンダー内での成形材料の断続的な滞留がより頻繁に生じる。その上、金型の交換等、成形機を停止する機会も多く、成形材料のシリンダー内での滞留時間がより長い傾向である。また、多量生産する際には、作業を一時休止する場合や、作業の途中で作業者を変更する場合も想定される。その際、滞留時間は、3時間といった長時間となる場合がある。このような断続的な滞留及び長時間にわたる滞留のため、射出成形法の場合には上記ゲルブツや荒れが生じやすい。このシリンダー内での滞留は、大型の射出成形機を使用する場合にはより顕著となる。さらに、射出成形法の場合には、金型内やシリンダー内の壁面等に成形材料が付着して、成形体表面にゲルブツやフローマークを生じる場合もある。
特許文献1~3に記載の製造方法は、押出成形性に優れるものの、ゴム成形体の射出成形に対応したものではなかった。
【0005】
本発明は、射出成形によって、外観特性に優れ、圧縮永久歪みの低減されたシラン架橋ゴム成形体を得ることができる製造方法、この製造方法によって得られたシラン架橋ゴム成形体、及びシラン架橋ゴム成形品を提供することを課題とする。
また、本発明は、このシラン架橋ゴム成形体の製造に好適な、シラン架橋性ゴム組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、シラン架橋法を用い、射出成形による成形を行うシラン架橋ゴム成形体の製造方法において、ベースゴムとして、特定のジエン成分量のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴム、メルトフローレイトの異なる2種のエラストマー、及び鉱物性オイルを特定量で併用してシラン架橋ゴム成形体を製造すると、得られるシラン架橋ゴム成形体において、優れた外観特性及び圧縮永久歪みの低減化を実現できることを見出した。本発明者らはこの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
〔1〕
下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有するシラン架橋ゴム成形体の製造方法であって、
工程(1):ベースゴム100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.6質量部と、無機フィラー1~100質量部と、前記有機過酸化物から発生したラジカルの存在下で前記ベースゴムとグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベースゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性ゴムを含むシラン架橋性ゴム組成物を得る工程
工程(2):前記シラン架橋性ゴム組成物を射出成形して、成形体を得る工程
工程(3):前記成形体を水と接触させて、シラン架橋ゴム成形体を得る工程
前記ベースゴムが、
ジエン成分量4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴム5~35質量%、190℃、2.16kgにおけるメルトフローレイトが1~15g/10minである、スチレンエラストマー及びオレフィンエラストマーの少なくとも一方を合計で3~30質量%、190℃、2.16kgにおけるメルトフローレイトが0.1g/10min未満であるスチレンエラストマー5~40質量%、及び鉱物性オイル
を含み、
前記工程(1)を行うにあたり、
下記工程(a-2)でベースゴムの全部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)及び工程(c)を有し、下記工程(a-2)でベースゴムの一部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)及び工程(c)を有する、シラン架橋ゴム成形体の製造方法。
工程(a-1):前記無機フィラー及び前記シランカップリング剤を混合して混合物を調製する工程
工程(a-2):前記混合物と前記ベースゴムの全部又は一部とを、前記有機過酸化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベースゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性ゴムを含み、190℃、10kgにおけるメルトフローレイトが0.8g/10min以上のシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベースゴムの残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程、及び
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マスターバッチとを溶融混合して、前記シラン架橋性ゴム組成物を得る工程。
〔2〕
前記ベースゴムが、ジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィンゴム5~30質量%を含む〔1〕に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
〔3〕
前記ベースゴムが、前記鉱物性オイル20~60質量%を含む〔1〕又は〔2〕に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
〔4〕
前記ベースゴムが、プロピレン樹脂1~15質量%を含む〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
〔5〕
前記ベースゴムが、ジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィンゴム5~30質量%、前記鉱物性オイル20~60質量%、及びプロピレン樹脂1~15質量%を含む〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
〔6〕
前記無機フィラーを、前記ベースゴム100質量部に対して、10~60質量部配合する、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
〔7〕
前記シラノール縮合触媒を、前記ベースゴム100質量部に対して、0.03~0.5質量部配合する、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
〔8〕
前記無機フィラーが、金属水和物、タルク、クレー、シリカ、若しくはカーボンブラック、又はこれらの混合物である〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のシラン架橋性ゴム成形体の製造方法。
〔9〕
前記工程(1)において、前記ベースゴム100質量部に対して、前記無機フィラー10~60質量部と、前記シランカップリング剤1~15質量部と、前記有機過酸化物0.01~0.6質量部と、前記シラノール縮合触媒0.03~0.5質量部とを溶融混合する、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法。
〔10〕
〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の製造方法の工程(1)により製造されてなるシラン架橋性ゴム組成物。
〔11〕
〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載のシラン架橋ゴム成形体の製造方法により製造されてなるシラン架橋ゴム成形体。
〔12〕
〔11〕に記載のシラン架橋ゴム成形体を含むシラン架橋ゴム成形品。
【0008】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、射出成形によって、外観特性に優れ、圧縮永久歪みの低減されたシラン架橋ゴム成形体を得ることができる製造方法、この製造方法によって得られたシラン架橋ゴム成形体、及びシラン架橋ゴム成形品を提供できる。また、このような優れた特性を示すシラン架橋ゴム成形体の製造に好適な、シラン架橋性ゴム組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のシラン架橋ゴム成形体の製造方法を説明する。
【0011】
まず、本発明において用いる各成分について説明する。
【0012】
<ベースゴム>
本発明に用いられるベースゴムは、ジエン成分量(共重合体ゴムを構成するジエン成分の含有量をいう)4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムと、190℃、2.16kgにおけるメルトフローレイトが1~15g/10minである、スチレンエラストマー及びオレフィンエラストマーの少なくとも一方と、190℃、2.16kgにおけるメルトフローレイトが0.1g/10min未満であるスチレンエラストマーと、鉱物性オイルとを含む。ベースゴムは、プロピレン樹脂、エチレン樹脂等をさらに含んでいてもよい。これらの成分は、いずれも、有機過酸化物から発生したラジカルの存在下において、シランカップリング剤のグラフト化反応部位とグラフト化反応可能な部位、例えば炭素鎖の不飽和結合部位や、水素原子を有する炭素原子を主鎖中又はその末端に有している。
ベースゴムは、上記以外のゴム又は樹脂を、特性を損なわない範囲で含有しても良い。このようなゴム又は樹脂成分としては、シランカップリング剤のグラフト化反応部位と有機過酸化物の存在下でグラフト化反応可能な部位、例えば炭素鎖の不飽和結合部位や、水素結合を有する炭素原子を主鎖中又はその末端に有する重合体の樹脂又はゴムであれば特に限定されない。
【0013】
ジエン成分量4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムのジエン成分量は、4.6~9質量%が好ましく、4.8~8質量%がさらに好ましい。ジエン成分量は、例えば赤外線吸収分光法(FT-IR)、プロトンNMR(1H-NMR)法等で測定できる。
ベースゴムは、共重合体中のジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムを含有していてもよい。ベースゴムは、ジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムを含有する態様と、ジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムを含有しない態様とを含む。ジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムのジエン成分量は、0.9質量%以下が好ましく、0.7質量%以下がさらに好ましい。
ジエン成分量4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴム及びジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムは、後述するエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムであって、ジエン成分量が上記範囲内にあるものを使用することができる。
【0014】
ジエン成分量4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムのエチレン成分量(共重合体ゴムを構成するエチレン成分の含有量をいう)は特に限定されないが、50~80質量%が好ましく、55~75質量%がさらに好ましい。
ジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムのエチレン成分量は特に限定されないが、50~80質量%が好ましく、55~75質量%がさらに好ましい。
エチレン成分量はASTM D3900に記載の方法に準拠して測定される値である。
【0015】
ジエン成分量4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムのムーニー粘度は特に限定されないが、10~100(ML1+4(125℃))であることが好ましく、15~90(ML1+4(125℃))がより好ましく、20~80(ML1+4(125℃))がさらに好ましい。
ジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムのムーニー粘度は特に限定されないが、10~100(ML1+4(125℃))であることが好ましく、15~90(ML1+4(125℃))がより好ましく、20~80(ML1+4(125℃))がさらに好ましい。
ムーニー粘度は、JIS K 6300-1:2013に規定された測定方法に基づいて測定される。試験は以下のように行う。用いる試験片として、JIS K 6300-1 5.3.1記載のロール通し法で、直径約50mm、厚さ約6mmの試験サンプルを2個1組作成する。二つのダイで構成される円筒状の中空部(キャビティ)の中に円盤状の金属製L型ロータを装着し、その中に得られたゴム試験片を充填する。その後、余熱時間1分、ロータ回転時間4分、試験温度125℃の一定条件でロータを回転させ、このときのゴムの抵抗によりロータが受けるトルクを、ゴムのムーニー粘度としてムーニー単位で測定する。
【0016】
ベースゴムは、190℃、2.16kgにおけるメルトフローレイトが1~15g/10minの、スチレンエラストマー及びオレフィンエラストマーの少なくとも一方を含有する。ここで、メルトフローレイト(以後、MFRと記すことがある。)は本発明において、特に断らない限り、JIS K 7210に準拠して、温度190℃、加重2.16kgの条件で、測定した値をいう。
MFRが1~15g/10minであるスチレンエラストマーのMFR及びMFRが1~15g/10minであるオレフィンエラストマーのMFRは、1~12g/10minが好ましく、1~8g/10minがさらに好ましい。MFRが高すぎると、十分に圧縮永久歪みを小さくできない場合がある。MFRが低すぎると、長時間滞留させる場合に、優れた外観特性を得ることができない場合がある。
MFRが1~15g/10minであるスチレンエラストマーとしては、後述するスチレンエラストマーであって、MFRが上記範囲内にあるものを使用することができる。MFRが1~15g/10minであるオレフィンエラストマーとしては、後述するオレフィンラストマーであって、MFRが上記範囲内にあるものを使用することができる。
【0017】
MFRが0.1g/10min未満であるスチレンエラストマーとしては、後述するスチレンエラストマーであって、MFRが上記範囲内にあるものを使用することができる。MFRが0.1g/10min未満であるスチレンエラストマーのMFRは、0.001~0.08g/10minが好ましく、0.005~0.05g/10minがさらに好ましい。
【0018】
ベースゴムが含有する、鉱物性オイルの具体例は後述する。
【0019】
- エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム -
エチレン-α-オレフィン共重合体ゴムは、エチレンとα-オレフィンとジエンとの共重合体のゴムである。ジエン成分量が0質量%である場合、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴムは、エチレンとα-オレフィンとの共重合体のゴムである。
エチレン-α-オレフィン共重合体ゴムとしては、エチレン-α-オレフィン共重合体からなるゴムであって、エチレンとα-オレフィンとの二元共重合体からなるゴム、エチレンとα-オレフィンとジエンとの三元共重合体からなるゴムが挙げられる。三元共重合体のジエンは、共役ジエンであっても非共役ジエンであってもよく、非共役ジエンが好ましい。すなわち、三元共重合体は、エチレンとα-オレフィンと共役ジエンとの三元共重合体、及び、エチレンとα-オレフィンと非共役ジエンとの三元共重合体等が挙げられる。エチレンとα-オレフィンとの二元共重合体及びエチレンとα-オレフィンと非共役ジエンとの三元共重合体が好ましい。
共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が挙げられ、ブタジエンが好ましい。非共役ジエンとしては、例えば、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン等が挙げられ、エチリデンノルボルネンが好ましい。共役ジエン化合物及び非共役ジエンの各構成成分は、それぞれ、1種単独で使用され、又は2種以上を併用できる。
α-オレフィンとしては、炭素数3~12のα-オレフィンが好適に挙げられる。α-オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン又は1-ドデセン等が挙げられる。
【0020】
エチレンとα-オレフィンとの二元共重合体からなるゴムとして、例えば、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-ブテンゴム、エチレン-オクテンゴム等が挙げられる。エチレンとα-オレフィンとジエンとの三元共重合体からなるゴムとしては、例えば、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴム等が挙げられる。中でも、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-ブテンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム及びエチレン-ブテン-ジエンゴムが好ましく、エチレン-プロピレンゴム及びエチレン-プロピレン-ジエンゴムがより好ましく、エチレン-プロピレンゴム又はエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネンゴムが特に好ましい。
【0021】
- スチレンエラストマー -
スチレンエラストマーとは、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とに由来する構成成分の共重合体ブロック、及び/又は、上記化合物に由来する構成成分を主体としたブロック共重合体若しくはランダム共重合体の水素添加物である。
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-第3ブチルスチレンなどのうちから1種又は2種以上を選択でき、中でもスチレンが好ましい。共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンなどのうちから1種又は2種以上を選択でき、中でも、ブタジエン、イソプレン又はこれらの組み合せが好ましい。
スチレンエラストマーとしては、ポリスチレンブロックとポリオレフィン構造のエラストマーブロックで構成された、二元又は三元の共重合体を使用することができる。
上記共重合体の水素添加物(以下、水添共重合体という場合がある)は、芳香族ビニル化合物に由来する構成成分を5~70質量%、さらには10~60質量%含むものが好ましい。この含有量は、例えばクロロホルム溶液を用いた紫外線分光光度計にて、UV吸収スペクトルを測定することによって求められる。
スチレンエラストマーとしては、例えば、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー)、SIS(スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー)、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー:水素化SBS)、SEEPS(スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー)、SEPS(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー:水素化SIS)、HSBR(水素化スチレン-ブタジエンランダムコポリマー)等を挙げることができる。スチレンエラストマーは、1種でも2種以上でもよい。
スチレンエラストマーとしては、例えば、「セプトン」(商品名、クラレ社製)、「タフテック」(商品名、旭化成ケミカルズ社製)、「ダイナロン」(商品名、JSR社製)を挙げることができる。
【0022】
- オレフィンエラストマー -
オレフィンエラストマーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンをハードセグメントとし、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPDM)などのゴム成分をソフトセグメントとするものであって、ハードセグメントとソフトセグメントとが、ミクロ相分離した構造を有するものであればよい。ポリオレフィン成分とゴム成分との混合物でもよく、これらを動的架橋したものでもよく、これらを重合して得られるものでもよい。
オレフィンエラストマーとしては、ポリエチレンブロックとエチレン-α-オレフィン共重合体ブロックとのブロック共重合体、ポリプロピレンブロックとエチレン-α-オレフィン共重合体ブロックとのブロック共重合体、ポリブテンブロックとエチレン-α-オレフィン共重合体ブロックとのブロック共重合体、ポリプロピレン(PP)とエチレン-プロピレン(EP)ゴムの混合物(TPO、TPV)等が挙げられる。
オレフィンエラストマーとしては、例えば、「INFUSE」(商品名、ダウ社製)、「エンゲージ」(商品名、ダウ社製)、「タフマー」(商品名、三井化学社製)等を挙げることができる。
【0023】
- 鉱物性オイル -
本発明に用いる鉱物性オイルは、芳香族環を有するオイル、ナフテン環を有するオイル及びパラフィン鎖を有するオイルの三者を含む混合油である。パラフィンオイルとは、パラフィン鎖の炭素数(CP)が、芳香族環、ナフテン環及びパラフィン鎖の全炭素数に対して例えば50%以上75%未満で、ナフテン鎖の炭素数(CN)が20以上40%未満、芳香族環(CA)の炭素数が3以上10%未満を占めるものをいう。ナフテンオイルとは、上記全炭素数に対して、CNが40以上60%未満、CPが30%以上50%未満、かつCAが8%以上16%未満のもの、芳香族オイルとはCAが16%以上のものを、いう。
鉱物性オイル(ゴム用軟化材)としては、パラフィンオイル又はナフテンオイルを用いることができ、機械的強度の点でパラフィンオイルが好ましい。
パラフィンオイルは、40℃における動的粘度が20~500cSt、流動点が-10~-15℃、引火点(COC)が180~300℃を示すものが好ましい。
鉱物性オイルとしては、例えば、「ダイアナプロセスオイル」(商品名、出光興産社製)、「コスモニュートラル」(商品名、コスモ石油ルブリカンツ社製)等を挙げることができる。
【0024】
- プロピレン樹脂 -
プロピレン樹脂(PP樹脂)は、主成分がプロピレン構成成分を含む重合体の樹脂であればよく、プロピレンの単独重合体、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等の樹脂を使用することができる。
エチレン-プロピレンランダム共重合体は、エチレン成分の含有量が1~10質量%程度のものをいい、エチレン成分がプロピレン鎖中にランダムに取り込まれているものをいう。また、エチレン-プロピレンブロック共重合体は、エチレンやエチレン-プロピレンゴム(EPR)成分の含有量が5~20質量%程度のものをいい、プロピレン成分の中にエチレンやEPR成分が独立して存在する海島構造であるものをいう。プロピレン樹脂として特に好ましいものは、外観の点で、エチレン-プロピレンランダム共重合体の樹脂である。エチレン成分含有量は、ASTM D3900に記載の方法に準拠して、測定される値である。
プロピレン樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0025】
- エチレン樹脂 -
エチレン樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物を重合又は共重合して得られる重合体からなる樹脂(PP樹脂を除く)であれば、特に限定されず、従来、電線の被覆材の用途に使用されているものを使用することができる。例えば、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体等の各重合体からなる樹脂が挙げられる。なかでも、ポリエチレン樹脂、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂が好ましい。
ポリエチレン樹脂は、エチレン構成成分を含む重合体の樹脂であればよく、エチレンのみからなる単独重合体、エチレンとα-オレフィン(好ましくは5mol%以下)との共重合体(ポリプロピレンに該当するものを除く)、並びに、エチレンと官能基に炭素、酸素及び水素原子だけを持つ非オレフィン(好ましくは1mol%以下)との共重合体からなる樹脂が包含される。なお、上述のα-オレフィレン及び非オレフィンはポリエチレンの共重合成分として従来用いられる公知のものを特に制限されることなく用いることができる。
ポリエチレン樹脂としては、例えば、LDPE(低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、MDPE(中密度ポリエチレン)等が挙げられる。LLDPEは、メタロセン触媒存在下に合成されたLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)であってもよい。これらのポリエチレンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。これらのポリエチレンの中でも、メタロセン触媒存在下で合成されたLLDPEを使用することが好ましい。
エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂としては、例えばエチレンと炭素数4~12のα-オレフィンとの共重合体の樹脂が挙げられ、α-オレフィンとしては、1-ブテン、1-へキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等が挙げられる。これらのエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂における酸共重合成分又は酸エステル共重合成分としては、特に制限されないが、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸化合物、酢酸ビニル、又は、(メタ)アクリル酸アルキル(好ましくは、炭素数1~12のアルキル基を有するもの)等の酸エステル化合物が挙げられる。酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体(好ましくは、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体)等の各樹脂が挙げられる。
エチレン樹脂は、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂、若しくはエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、又はこれらの混合物であることが好ましい。
なお、本発明に係るベースゴムに使用可能なポリエチレン樹脂やエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂として、市販されているものとしては、例えば「エボリュー」(商品名:(株)プライムポリマー製)等を挙げることができる。
【0026】
エチレン樹脂は、酸変性されていてもよい。酸変性に用いられる酸としては、特に限定されず、通常用いられる不飽和カルボン酸等が挙げられる。
【0027】
- ベースゴム中の含有率 -
ベースゴムは、各成分の総計が100質量%となるように、各成分の含有率が好ましくは下記範囲内から決定される。
ジエン成分量4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムの含有率は、ベースゴム100質量%中、5~35質量%である。この含有率が多すぎると、射出成形性の低下や成形品外観にゲルブツ等の異常が発生することがある。一方、含有率が少なすぎると、圧縮永久歪み特性が低下することがある。
ベースゴム中の、ジエン成分量4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムの含有率は、ベースゴム100質量%中、7~32質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましい。この範囲内であると、優れた外観特性と圧縮永久歪みの低減化とをよりバランスよく実現することができる。
【0028】
MFRが1~15g/10minである、スチレンエラストマー及びオレフィンエラストマーの含有率はこれらの合計量として、ベースゴム100質量%中、3~30質量%である。この含有率が多すぎると、十分に圧縮永久歪みを小さくすることができないことがある。一方、含有率が少なすぎると、優れた外観特性を付与できないことがある。
ベースゴム中の、MFRが1~15g/10minである、スチレンエラストマー及びオレフィンエラストマーの含有率は、ベースゴム100質量%中、4~25質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。この範囲内であると、優れた外観特性と圧縮永久歪みの低減化とをよりバランスよく実現することができる。
【0029】
MFRが0.1g/10min未満であるスチレンエラストマーの含有率は、ベースゴム100質量%中、5~40質量%である。この含有率が多すぎると、優れた外観特性を付与できないことがある。一方、含有率が少なすぎると、十分に圧縮永久歪みを小さくすることができないことがある。
ベースゴム中の、MFRが0.1g/10min未満であるスチレンエラストマーの含有率は、ベースゴム100質量%中、8~35質量%が好ましく、10~32質量%がより好ましい。この範囲内であると、優れた外観特性と圧縮永久歪みの低減化とをよりバランスよく実現することができる。
【0030】
鉱物性オイルの含有率は、ベースゴム中に鉱物オイルが含有されていれば特に限定されないが、ベースゴム100質量%中、20~60質量%が好ましく、25~55質量%がより好ましく、28~50質量%がさらに好ましい。この範囲内であると、優れた外観特性と圧縮永久歪みの低減化とをよりバランスよく実現することができる。
【0031】
ジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムの含有率は、特に限定されないが、ベースゴム100質量%中、5~30質量%が好ましく、8~27質量%がより好ましく、10~25質量%がさらに好ましい。この範囲内であると、優れた外観特性と圧縮永久歪みの低減化とをよりバランスよく実現することができる。
【0032】
プロピレン樹脂の含有率は、ベースゴム100質量%中、1~15質量%が好ましく、3~13質量%がより好ましく、5~12質量%がさらに好ましい。この範囲内であると、優れた外観特性と圧縮永久歪みの低減化とをよりバランスよく実現することができる。
【0033】
エチレン樹脂の含有率は、ベースゴム100質量%中、1~15質量%が好ましく、2~12質量%がより好ましく、3~8質量%がさらに好ましい。この範囲内であると、優れた外観特性と圧縮永久歪みの低減化とをよりバランスよく実現することができる。
【0034】
ベースゴムに、ジエン成分量1.0質量%以下のエチレン-α-オレフィンゴム5~30質量%、鉱物性オイル20~60質量%、及びプロピレン樹脂1~15質量%を含むことが好ましい。
【0035】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、シランカップリング剤のゴム成分へのラジカル反応によるグラフト化反応(シランカップリング剤のグラフト化反応部位とゴム成分のグラフト化反応可能な部位との共有結合形成反応であって、(ラジカル)付加反応ともいう。)を生起させる働きをする。特にシランカップリング剤がグラフト化反応部位としてエチレン性不飽和基を含む場合、エチレン性不飽和基とゴム成分とのラジカル反応(ゴム成分からの水素ラジカルの引き抜き反応を含む)によるグラフト化反応を生起させる働きをする。
有機過酸化物としては、ラジカルを発生させるものであれば、特に制限はなく、例えば、一般式:R1-OO-R2、R3-OO-C(=O)R4、R5C(=O)-OO(C=O)R6で表される化合物が好ましい。ここで、R1~R6は各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。各化合物のR1~R6のうち、いずれもアルキル基であるもの、又は、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。
【0036】
このような有機過酸化物としては、国際公開第2015/046478号の段落[0037]に記載の有機過酸化物が挙げられ、該記載はここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
【0037】
有機過酸化物の分解温度は、120~195℃であるのが好ましく、125~180℃であるのが特に好ましい。有機過酸化物の分解温度は、後述する工程(a-2)における溶融混合温度以下である。
本発明において、有機過酸化物の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
【0038】
<無機フィラー>
本発明において、無機フィラーは、その表面に、シランカップリング剤のシラノール基等の反応部位と水素結合等が形成できる部位もしくは共有結合による化学結合しうる部位を有するものであれば特に制限なく用いることができる。この無機フィラーにおける、シランカップリング剤の反応部位と化学結合しうる部位としては、OH基(水酸基、含水もしくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
【0039】
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の水酸基あるいは結晶水を有する化合物のような金属水和物や、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボンブラック、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛を使用することができる。無機フィラーは、1種類を単独で配合してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
無機フィラーは、これらのなかでも、金属水和物(より好ましくは、水酸化マグネシウム)、タルク、クレー、シリカ、若しくはカーボンブラック、又はこれらの混合物が好ましい。
【0040】
無機フィラーの平均粒径は、0.2~10μmが好ましく、0.3~8μmがより好ましく、0.4~5μmがさらに好ましく、0.4~3μmが特に好ましい。平均粒径は、無機フィラーをアルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0041】
無機フィラーは、シランカップリング剤等で表面処理した無機フィラーを使用することができる。例えば、シランカップリング剤表面処理金属水和物として、キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、水酸化マグネシウム、協和化学社製等)などが挙げられる。シランカップリング剤による無機フィラーの表面処理量は、特に限定されないが、例えば、3質量%以下である。
【0042】
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤としては、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下で、ベースゴムのグラフト化反応可能な部位にグラフト化反応しうるグラフト化反応部位(基又は原子)を有している。また、無機フィラーの化学結合しうる部位と反応し、シラノール縮合可能な部位として加水分解性シリル基を有している。このようなシランカップリング剤としては、従来のシラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。
シランカップリング剤としては、不飽和基を有するシランカップリング剤が挙げられ、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルアルコキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルコキシシラン等が挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
シランカップリング剤は、1種類でも、2種類以上を用いてもよい。
シランカップリング剤は、そのままの形態で用いてもよいし、溶剤で希釈した形態で用いてもよい。
【0043】
<シラノール縮合触媒>
シラノール縮合触媒は、ベースゴムにグラフトされたシランカップリング剤の加水分解性シリル基を水分の存在下で縮合反応(促進)させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介して、ベースゴム同士が架橋される。
このようなシラノール縮合触媒としては、特に制限されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物が挙げられる。
シラノール縮合触媒は、1種類でも、2種類以上を用いてもよい。
【0044】
<添加剤>
本発明では、電線、電気ケーブル、電気コード、自動車用部材、OA機器、建築部材、雑貨、シート、発泡体、チューブ、パイプ等において、一般的に使用されている各種の添加剤を、目的とする効果を損なわない範囲で適宜配合してもよい。このような添加剤としては、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、金属不活性剤、難燃(助)剤や他の樹脂等が挙げられる。
【0045】
架橋助剤は、有機過酸化物の存在下においてゴム成分との間に部分架橋構造を形成する化合物をいう。例えば、多官能性化合物等が挙げられる。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤又はイオウ酸化防止剤等が挙げられる。
滑剤としては、炭化水素、シロキサン、脂肪酸、脂肪酸アミド、エステル、アルコール、金属石けん等の各滑剤が挙げられる。
難燃剤としては、特に限定されないが、赤燐が挙げられる。
【0046】
<シラン架橋ゴム成形体の製造方法>
以下、本発明のシラン架橋ゴム成形体の製造方法を具体的に説明する。
本発明のシラン架橋ゴム成形体の製造方法は、下記工程(1)、工程(2)、及び工程(3)を有する。
本発明のシラン架橋性ゴム組成物は、下記工程(1)により製造される。
【0047】
工程(1):ベースゴム100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.6質量部と、無機フィラー1~100質量部と、有機過酸化物から発生したラジカルの存在下でベースゴムとグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、有機過酸化物から発生したラジカルによってグラフト化反応部位とベースゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性ゴムを含むシラン架橋性ゴム組成物を得る工程
工程(2):シラン架橋性ゴム組成物を射出成形して、成形体を得る工程
工程(3):成形体を水と接触させて、シラン架橋ゴム成形体を得る工程
【0048】
上記工程(1)は、ベースゴムの使用態様に応じて、以下の工程を有する。
下記工程(a-2)でベースゴムの全部を溶融混合する場合には、工程(1)が、下記工程(a-1)、工程(a-2)及び工程(c)を有し、下記工程(a-2)でベースゴムの一部を溶融混合する場合には、工程(1)が、下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)及び工程(c)を有する。
工程(a-1):無機フィラー及びシランカップリング剤を混合して混合物を調製する工程
工程(a-2):混合物とベースゴムの全部又は一部とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、有機過酸化物から発生したラジカルによってグラフト化反応部位とベースゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性ゴムを含み、190℃、10kgにおけるメルトフローレイトが0.8g/10min以上のシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):ベースゴムの残部及びシラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程及び
工程(c):シランマスターバッチと、シラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとを溶融混合して、シラン架橋性ゴム組成物を得る工程。
以下、工程(a-1)及び工程(a-2)の両工程を併せて工程(a)ということがある。
【0049】
本発明の製造方法において、「ベースゴム」とは、シラン架橋ゴム成形体又はシラン架橋性ゴム組成物を形成するためのゴムである。したがって、本発明の製造方法においては、工程(1)で得られる反応組成物に100質量部のベースゴムが含有されていればよい。例えば、工程(a-2)において、「ベースゴムの全量(100質量部)が配合される態様」と、「ベースゴムの一部が配合される態様」とを含む。
【0050】
工程(a-2)でベースゴムの一部を配合する場合、工程(1)におけるベースゴムの配合量100質量部は、工程(a-2)及び工程(b)で混合されるベースゴムの合計量である。
ここで、工程(b)でベースゴムの残部(キャリアということがある)が配合される場合、ベースゴムは、工程(a-2)において、好ましくは80~95質量%、より好ましくは85~92質量%が配合され、工程(b)において、好ましくは5~20質量%、より好ましくは8~15質量%が配合される。
【0051】
工程(1)において、ベースゴム中の、ジエン成分量4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴム、MFRが1~15g/10minである、スチレンエラストマー及びオレフィンエラストマー、MFRが0.1g/10min未満であるスチレンエラストマー、並びに鉱物性オイルの各含有率、これらに加えて、プロピレン樹脂及び/又はエチレン樹脂を含有する場合のこれらの樹脂の各含有率は上述したとおりである。
ジエン成分量4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムは、工程(a-2)及び工程(b)のいずれか一方の工程で混合されればよいが、工程(a-2)において、混合されることが好ましい。
MFRが1~15g/10minである、スチレンエラストマー及びオレフィンエラストマーの少なくとも一方は、工程(a-2)及び工程(b)のいずれか一方の工程で混合されればよいが、工程(a-2)で混合されることが好ましい。
MFRが0.1g/10min未満であるスチレンエラストマーは、工程(a-2)及び工程(b)のいずれか一方の工程で混合されればよいが、工程(a-2)及び工程(b)の両方で混合されることが好ましい。
鉱物性オイルは、工程(a-2)及び工程(b)のいずれか一方の工程で混合されればよいが、工程(a-2)及び工程(b)の両方で混合されることが好ましい。
プロピレン樹脂は、工程(a-2)及び工程(b)のいずれか一方の工程で混合されればよい。
エチレン樹脂は、工程(a-2)及び工程(b)のいずれか一方の工程で混合されればよいが、工程(b)で混合されることが好ましい。
キャリアとしては、MFRが1~15g/10minである、スチレンエラストマー及び/又はオレフィンエラストマー、鉱物性オイル、プロピレン樹脂、及びエチレン樹脂が好ましく、これらの組合せがより好ましい。
【0052】
工程(1)において、有機過酸化物の配合量は、ベースゴム100質量部に対して、0.01~0.6質量部であり、0.01~0.5質量部が好ましく、0.05~0.2質量部がより好ましい。有機過酸化物の配合量を0.01~0.6質量部にすることにより、適切な範囲でグラフト化反応を行うことができ、シランカップリング剤同士の縮合を抑制して、成形体にゲルブツや荒れが生じて外観が悪化することを抑制することができる。
【0053】
工程(1)において、無機フィラーの配合量は、ベースゴム100質量部に対して、1~100質量部であり、10~60質量部が好ましく、15~50質量部がより好ましく、18~45質量部がさらに好ましい。無機フィラーの配合量を1~100質量部とすることにより、優れた外観特性と圧縮永久歪み低減化を実現することができる。
【0054】
工程(1)において、シランカップリング剤の配合量は、ベースゴム100質量部に対して、1~15質量部であり、好ましくは1.5~7質量部であり、より好ましくは2~5質量部である。
シランカップリング剤の配合量が1~15質量部であると、無機フィラーの表面にシランカップリング剤が吸着して、シランカップリング剤が混練中に揮発するのを抑制できるため、経済的である。また、吸着しないシランカップリング剤が縮合して、成形体にゲルブツや荒れが生じて外観が悪化することを抑制することができる。さらに、必要により、架橋反応を十分に進行させて圧縮永久歪みを低減することができる。
【0055】
工程(1)において、シラノール縮合触媒の配合量は、特に限定されず、ベースゴム100質量部に対して、好ましくは0.03~0.5質量部、より好ましくは0.05~0.3質量部、さらに好ましくは、0.07~0.25質量部、特に好ましくは、0.1~0.2質量部である。シラノール縮合触媒の配合量が上述の範囲内にあると、成形時にゲルブツの発生が抑制できるとともに、十分に架橋が進行し圧縮永久歪み性に優れる。
【0056】
優れた外観特性と圧縮永久歪みの低減化をよりバランスよく実現する観点からは、工程(1)において、ベースゴム100質量部に対して、無機フィラー10~60質量部と、シランカップリング剤1~15質量部と、有機過酸化物0.01~0.6質量部と、シラノール縮合触媒0.03~0.5質量部とを溶融混合することが好ましい。
【0057】
工程(1)を行うに際して、工程(a-1)及び工程(a-2)を順次行う。すなわち、まず、無機フィラー及びシランカップリング剤を混合し、次いで、得られた混合物と、ベースゴムの全部又は一部と、を、上記配合量で、有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混練することにより、上記グラフト化反応を生起させて、シランマスターバッチを調製する。
本発明において、「混合物とベースゴムの全部又は一部とを溶融混合する」とは、溶融混合する際の混合(ないしは配合)順を特定するものではなく、どのような順で混合してもよいことを意味する。すなわち、工程(a-2)における混合順は特に限定されない。
また、ベースゴムの混合方法も特に限定されない。例えば、予め混合調製されたベースゴムを用いてもよく、各成分、例えばゴム成分それぞれを別々に混合してもよい。
【0058】
本発明においては、シランカップリング剤は、シランマスターバッチに単独で導入されず、無機フィラーと前混合される。すなわち、無機フィラー及びシランカップリング剤を混合して混合物を調製する(工程(a-1))。前混合されたシランカップリング剤は、無機フィラーの表面を取り囲むように存在し、その一部又は全部が無機フィラーに吸着又は結合すると考えられる。これにより、後の溶融混合の際にシランカップリング剤の揮発を低減できる。また、無機フィラーに吸着又は結合しないシランカップリング剤が縮合して溶融混練が困難になることも防止できる。
【0059】
無機フィラーとシランカップリング剤とを前混合する方法としては、特に限定されないが、湿式処理、乾式処理等の混合方法が挙げられる。具体的には、好ましくは、有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは10~60℃、より好ましくは室温近傍(20~25℃)で無機フィラーとシランカップリング剤を、数分~数時間程度、乾式又は湿式により、混合する方法が挙げられ、無機フィラー、好ましくは乾燥させた無機フィラー中にシランカップリング剤を、加熱又は非加熱で加えて混合する乾式処理がより好ましい。工程(a-1)においては、上記分解温度未満の温度が保持されている限り、ベースゴムを混合していてもよい。
【0060】
本発明の製造方法においては、次いで、工程(a-1)で得られた、無機フィラーとシランカップリング剤との混合物と、ベースゴムの全部又は一部とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合する(工程(a-2))。このようにすると、ベースゴム成分同士の過剰な架橋反応を防止することができ、外観に優れた架橋成形体が得られる。
工程(a-2)における溶融混合により、有機過酸化物から発生したラジカルによって、シランカップリング剤のグラフト化反応部位とベースゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させる。その結果、シランカップリング剤がゴム成分に共有結合で結合したシラン架橋性ゴム(シラングラフトポリマー)が合成され、このシラン架橋性ゴムを含むシランマスターバッチが調製される。工程(a-2)において、シランカップリング剤がベースゴムにグラフト化反応する態様としては、少なくとも次のものが挙げられる。すなわち、無機フィラーと弱い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤が無機フィラーから脱離してベースゴムにグラフト化反応する態様である。また、無機フィラーと強い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤が無機フィラーとの結合を保持した状態でベースゴムにグラフト化反応する態様である。シランカップリング剤について、無機フィラーとの弱い結合としては、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷もしくは双極子間での相互作用、吸着による作用等が挙げられる。また、無機フィラーとの強い結合としては、無機フィラー表面の化学結合しうる部位との化学結合等が挙げられる。また、シラン架橋性ゴムにおいて、ジエン成分を含有するエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムは、ジエン成分において部分的に架橋している。スチレンエラストマーがジエン成分を含有する場合についても同様である。
【0061】
工程(a-2)において、上記成分を溶融混合(溶融混錬、混練りともいう)する温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25~110)℃の温度で、より好ましくは150~230℃である。有機過酸化物の分解温度はベースゴム成分が溶融してから設定することが好ましい。上記混合温度であれば、上記成分が溶融し、有機過酸化物が分解、作用して必要なシラングラフト化反応が工程(a-2)において十分に進行する。混合時間は、反応混合物が十分混合され、シラングラフト化反応が完了し得る時間でよく、3~20分の間で適宜設定されるが、これに制限されるものではない。その他の条件は適宜設定することができる。
混合方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混練装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。ベースゴム成分の分散性、及び架橋反応の安定性の面で、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーが好ましい。
【0062】
有機過酸化物は、上記工程(a-2)の溶融混合時、すなわち、工程(a-1)で得られた混合物とベースゴムとを溶融混合する際に、存在していればよい。有機過酸化物は、例えば、工程(a-1)において混合されてもよく、工程(a-2)において混合されてもよい。有機過酸化物は、工程(a-1)において混合されることが好ましい。
【0063】
工程(a-1)及び工程(a-2)、特に工程(a-2)においては、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに上述の各成分を混練することが好ましい。これにより、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることができ、溶融混合しやすく、また射出成形の際に所望の形状を得ることができる。ここで、「実質的に混合せず」とは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。例えば、工程(a-2)において、シラノール縮合触媒は、ベースゴム100質量部に対して0.01質量部以下であれば、存在していてもよい。
【0064】
このようにして、工程(a-1)及び工程(a-2)からなる工程(a)を行い、シランカップリング剤とベースゴムとをグラフト化反応させて、シランマスターバッチ(シランMBともいう)を調製する。こうして得られるシランMBは、後述するように、工程(1)で調製される反応組成物(シラン架橋性ゴム組成物)の製造に、好ましくは、シラノール縮合触媒又は後述する触媒マスターバッチとともに、用いられる。シランMBは、後述の工程(2)により成形可能な程度にシランカップリング剤がゴム成分にグラフト化反応したシラン架橋性ゴムを含有する混合物である。
【0065】
優れた圧縮永久歪みの観点から、シランMBの190℃、10kgにおけるMFRは、0.8g/10min以上である。射出成形性及び外観特性の向上の観点からは、シランMBの190℃、10kgにおけるMFRは、1g/10min以上が好ましく、2g/10min以上がより好ましく、5g/10min以上がさらに好ましい。上限は、限定されないが、20g/10min以下が実際的である。シランMBのMFRは、JIS K 7210に準拠して、温度190℃、加重10kgの条件で、測定した値をいう。
シランMBのMFRは、各ベースゴム成分の種類、配合量等を調整することにより、上記値を満たすようにすることができる。例えば、MFRの高い、スチレンエラストマー及び/又はオレフィンエラストマーの配合、鉱物性オイルの配合量の増量、ムーニー粘度の低いエチレン-αオレフィン共重合体ゴムの配合等をすると、シランMBのMFRは高まる傾向である。
【0066】
本発明の製造方法において、次いで、工程(a-2)でベースゴムの一部を溶融混合する場合には、ベースゴムの残部とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチ(触媒MBともいう)を調製する工程(b)を行う。したがって、工程(a-2)でベースゴムの全部を溶融混合する場合は、工程(b)を行わなくてもよく、また他のベースゴム成分とシラノール縮合触媒とを混合してもよい。
【0067】
キャリアとしてのベースゴムとシラノール縮合触媒との混合割合は、特に限定されないが、好ましくは、工程(1)における上記配合量を満たすように、設定される。
混合は、均一に混合できる方法であればよく、ベースゴムの溶融下で行う混合(溶融混合)が挙げられる。溶融混合は上記工程(a-2)の溶融混合と同様に行うことができる。例えば、混合温度は、ベースゴム成分の溶融温度以上で適宜設定でき、好ましくは120~200℃、より好ましくは140~180℃で行うことができる。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
【0068】
工程(b)において、ベースゴムの残部に代えて、又は、加えて他の樹脂をキャリアとして用いることができる。すなわち、工程(b)は、工程(a-2)でベースゴムの一部を溶融混合する場合のベースゴムの残部、又は、工程(a-2)で用いたゴム成分以外の樹脂と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチを調製してもよい。
キャリアが他の樹脂である場合、工程(a-2)においてグラフト化反応を促進させることができるうえ、成形中にブツが生じにくい点で、他の樹脂の配合量は、ベースゴム100質量部に対して、好ましくは1~60質量部、より好ましくは2~50質量部、さらに好ましくは3~40質量部である。
【0069】
また、工程(b)において、無機フィラーを用いてもよい。この場合、工程(b)における無機フィラーの配合量は、特には限定されないが、キャリア100質量部に対し、350質量部以下が好ましい。無機フィラーの量を350質量部以下とすることにより、シラノール縮合触媒が適度に分散して架橋が進行しやすい。
【0070】
このようにして調製される触媒MBは、シラノール縮合触媒及びキャリア、所望により添加されるフィラーの(溶融)混合物である。
この触媒MBは、シランMBとともに、工程(1)で調製されるシラン架橋性ゴム組成物の製造に用いられる。
【0071】
本発明の製造方法において、次いで、シランMBと、シラノール縮合触媒又は触媒MBとを溶融混合して、シラン架橋性ゴム組成物(反応組成物)を得る工程(c)を行う。この反応組成物は、上記工程(a-2)で合成したシラン架橋性ゴムを含む組成物である。
混合方法は、上述のように均一な反応組成物を得ることができれば、どのような混合方法でもよい。
【0072】
混合は、工程(a-2)の溶融混合と基本的に同様である。DSC等で融点が測定できないゴム成分、例えばエラストマーもあるが、少なくともゴム成分等が溶融する温度で混練する。溶融混合温度は、ベースゴム又はキャリアの溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80~250℃、より好ましくは100~240℃、さらに好ましくは120~200℃である。その他の条件、例えば混合(混練)時間は適宜設定することができる。
【0073】
工程(c)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
【0074】
この工程(c)は、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとを混合して、これらの溶融混合物として上記反応組成物を得る工程であればよく、シラノール縮合触媒及びキャリアを含有する触媒マスターバッチとシランマスターバッチとを溶融混合する工程であるのが好ましい。
【0075】
このようにして、工程(a)~(c)(工程(1))を行い、反応組成物として、シラン架橋性ゴム組成物が製造される。このシラン架橋性ゴム組成物は、ベースゴムに、シランカップリング剤がグラフト化したシラン架橋性ゴムと、ベースゴム100質量部に対して、無機フィラー1~100質量部と、シラノール縮合触媒と、を含有する。
このシラン架橋性ゴム組成物は、架橋方法の異なるシラン架橋性ゴムを含有する。このシラン架橋性ゴムにおいて、シランカップリング剤の、シラノール縮合可能な反応部位は、無機フィラーと結合又は吸着していてもよいが、後述するようにシラノール縮合していない。したがって、シラン架橋性ゴムは、無機フィラーと結合又は吸着したシランカップリング剤がベースゴムにグラフト化した架橋性ゴムと、無機フィラーと結合又は吸着していないシランカップリング剤がベースゴムにグラフト化した架橋性ゴムとを少なくとも含む。これらの架橋性ゴムは、ジエン成分部分でさらに架橋していてもよい。また、シラン架橋性ゴム組成物は、無機フィラーが結合又は吸着したシランカップリング剤と、無機フィラーが結合又は吸着していないシランカップリング剤とを有していてもよい。さらに、シランカップリング剤と未反応のゴム成分を含んでいてもよい。
上記のように、シラン架橋性ゴムは、シランカップリング剤がシラノール縮合していない未架橋体である。実際的には、工程(c)で溶融混合されると、一部架橋(部分架橋)は避けられないが、得られるシラン架橋性ゴム組成物について、少なくとも工程(2)での成形における成形性が保持されたものとする。
【0076】
工程(1)において、工程(a)~(c)は、同時又は連続して行うことができる。
【0077】
工程(1)においては、上記成分の他に用いることができる他のベースゴム成分や上記添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜に設定される。
工程(1)において、上記添加剤、特に酸化防止剤及び難燃剤は、いずれの工程で又は成分に混合されてもよいが、キャリアに混合されるのがよい。
工程(1)、特に工程(a-1)及び工程(a-2)において、架橋助剤は実質的に混合されないことが好ましい。架橋助剤が実質的に混合されないと、溶融混合中にゴム成分同士の架橋が生じにくく、シラン架橋ゴム成形体の外観が優れる。ここで、実質的に混合されないとは、架橋助剤を積極的に混合しないことを意味し、不可避的に混合することを除外するものではない。
【0078】
本発明のシラン架橋ゴム成形体の製造方法においては、次いで、得られた反応組成物を射出成形して成形体を得る工程(2)を行う。この工程(2)は、反応組成物を射出成形できればよく、本発明のシラン架橋ゴム成形体又はシラン架橋ゴム成形体を含むシラン架橋ゴム成形品の形態に応じて、適宜に射出成形条件が選択される。
射出成形温度は、使用するベースゴム成分の種類、配合量、無機フィラーの種類やその配合量等により、一義的に決定することはできないが、ノズル部で約180~210℃、シリンダー後部(フィーダー側)で約130~170℃、シリンダー中部で約140~180℃、シリンダー前部(ノズル側)で約160~210℃、金型温度は常温~40℃程度に設定することが好ましい。
射出成形は、汎用のプラスチック用射出成形機を用いて行うことができる。金型は成形体の形状、寸法等に応じて適宜に決定される。
【0079】
また、工程(2)は、工程(c)と同時に又は連続して、行うことができる。すなわち、工程(c)の溶融混合の一実施態様として、射出成形の際に、又は、その直前に、成形原料を溶融混合する態様が挙げられる。例えば、ドライブレンド等のペレット同士を常温又は高温で混ぜ合わせて射出成形機に導入(溶融混合)してもよいし、混ぜ合わせた後に溶融混合し、再度ペレット化をして射出成形機に導入してもよい。より具体的には、シランMBとシラノール縮合触媒又は触媒MBとからなる成形材料を射出成形機内で溶融混練し、次いで、所望の形状に射出成形する一連の工程を採用できる。
このようにして、シラン架橋性ゴム組成物の成形体が得られる。この成形体はシラン架橋性ゴム組成物と同様に、一部架橋は避けられないが、工程(2)で成形可能な成形性を保持する部分架橋状態にある。したがって、この発明のシラン架橋ゴム成形体は、工程(3)を実施することによって、架橋又は最終架橋された成形体とされる。
【0080】
本発明のシラン架橋ゴム成形体の製造方法においては、工程(2)で得られた成形体を水と接触させる工程(3)を行う。これにより、シランカップリング剤の、シラノール縮合可能な反応部位が加水分解されてシラノール基となり、成形体中に存在するシラノール縮合触媒によりシラノール基の水酸基同士が縮合して架橋反応が起こる。こうして、シランカップリング剤がシラノール縮合して架橋したシラン架橋ゴム成形体を得ることができる。
この工程(3)の処理自体は、通常の方法によって行うことができる。シランカップリング剤同士の縮合は、常温で保管するだけで進行する。したがって、工程(3)において、成形体を水に積極的に接触させる必要はない。この架橋反応を促進させるために、成形体を水分と積極的に接触させることもできる。例えば、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0081】
このようにして、本発明のシラン架橋性ゴム組成物からシラン架橋ゴム成形体が製造される。このシラン架橋ゴム成形体は、後述するように、シラン架橋性ゴムがシロキサン結合を介して縮合した架橋ゴムを含んでいる。このシラン架橋ゴム成形体の一形態は、シラン架橋ゴムと無機フィラーとを含有する。ここで、無機フィラーはシラン架橋ゴムのシランカップリング剤に結合していてもよい。したがって、このシラン架橋ゴムは、複数の架橋ゴムがシランカップリング剤により無機フィラーに結合又は吸着して、無機フィラー及びシランカップリング剤を介して結合(架橋)した架橋ゴムと、上記架橋性ゴムのシランカップリング剤の反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、シランカップリング剤を介して架橋した架橋ゴムとを少なくとも含む。また、シラン架橋ゴムは、無機フィラー及びシランカップリング剤を介した結合(架橋)と、シランカップリング剤を介した架橋とが混在していてもよい。さらに、シランカップリング剤と未反応のゴム成分及び/又は架橋していないシラン架橋性ゴム、ジエン成分部分で架橋したシラン架橋性ゴムを含んでいてもよい。
【0082】
本発明の製造方法によれば、射出成形によって、優れた外観特性を有し、圧縮永久歪みの低減化された成形体を得ることができる。本発明によれば、射出成形機を一時停止した後に成形を再開しても外観不良が発生を抑制して、外観の良好なシラン架橋ゴム成形体を製造できる。ここで、一時停止後、再開するとは、ベースゴムの組成、加工条件、その他製造工程中の必要な処置等に左右され一義的に述べることはできないが、例えば、200℃で、間隔3時間まで、好ましくは4時間まで、より好ましくは5時間まで、射出成形機内に成形材料を溶融状態で滞留させたのち、射出成形を再開しても、外観不良を抑制して成形できることをいう。このような優れた特性を有するシラン架橋ゴム成形体を製造できることの詳細についてはまだ定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の製造方法によれば、工程(a-1)において、無機フィラーとシランカップリング剤とを特定の量比で予め混合することにより、工程(a-2)で行うグラフト化反応に先立って、シランカップリング剤が無機フィラーに吸着又は結合する。この状態で、工程(a-2)において、有機過酸化物の存在下で、ベースゴムと共に溶融混練するとグラフト化反応が起こる。その際に、無機フィラーと弱い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤は、無機フィラーから脱離する一方、無機フィラーと強い結合で結合したシランカップリング剤は、無機フィラーとの結合を維持する。このようにして、無機フィラーの吸着状態の異なるシラン架橋性ゴムが形成される。さらに、これらのシラン架橋性ゴムが、工程(3)において、水分と接触することにより、シラノール結合を介する架橋構造を有する架橋ゴムが形成される。
本発明の製造方法においては、上述のシラン架橋による架橋構造の形成を前提とし、その上で、ベースゴムとして、ジエン成分量4.5~10質量%のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴム5~35質量%、MFRが1~15g/10minである、スチレンエラストマー及びオレフィンエラストマーの少なくとも一方を合計で3~30質量%、MFRが0.1g/10min未満であるスチレンエラストマー5~40質量%、及び鉱物性オイルを用いる。
ベースゴム成分中の、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴムは、工程(a-2)で、シラングラフト反応するのみならず、ジエン部分において架橋を形成する。(ただし、無機フィラーとシランカップリング剤とを前混合するため、ジエン成分同士の架橋よりシラングラフト反応が優先して生じると考えられる。)スチレンエラストマー等がジエン成分を含有する場合にも同様である。一方で、MFR1~15g/10minのスチレン又はオレフィンエラストマーは、ベースゴムに優れた流動性を付与して流動層として機能するのみでなく、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴムと相溶性が高いため、得られる成形体に優れた物性を付与できる。これらの成分が協働することに加えて、さらにシランマスターバッチのMFRを0.8g/10min以上に設定することにより、シリンダー内で生じたゲルブツ等を、流動性の高い状態で維持でき、成形機のシリンダー外に効率よく排出して、成形体の外観特性への影響を減じることができる。さらにはフローマークを抑制できる。その上、最終的に得られるシラン架橋成形体中においては、シラノール縮合による架橋構造に加えて、ジエン成分の架橋による架橋構造を形成して圧縮永久歪みを小さくすることができる。
本発明の製造方法によれば、シリンダー内での滞留が3時間といった長時間生じるような射出成形条件においても、優れた外観特性と圧縮永久歪みの低減化を実現できる。
【0083】
本発明の製造方法は、小さな圧縮永久歪みと優れた外観特性とが要求される製品(半製品、部品、部材も含む。)、ゴム材料等の製品の構成部品又はその部材の製造に適用することができる。したがって、シラン架橋ゴム成形体、又はシラン架橋ゴム成形体を含むシラン架橋ゴム成形品は、このような製品とされる。
本発明のシラン架橋ゴム成形体、又はシラン架橋ゴム成形体を含むシラン架橋ゴム成形品として、例えば、難燃絶縁電線等の電線又は難燃ケーブルの被覆材料、ゴム代替電線・ケーブルの材料、その他、難燃電線部品、難燃耐熱シート、難燃フィルム等が挙げられる。また、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、パッキン、クッション材、防震材、電気・電子機器の内部配線及び外部配線に使用される配線材、特に電線や光ケーブルが挙げられる。
【0084】
本発明のシラン架橋ゴム成形体は、小さな圧縮永久歪みと高い成形性(特に射出成形性)とが要求される部位に用いられる材料として好適であり、例えばゴムパッキンやモールド材など、従来、化学加硫工程を経ていたゴム材料の置き換えとして用いることができる。
【実施例0085】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
表1-1~表1-3(併せて表1という。)において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分について空欄は対応する成分の配合量が0質量部であることを意味する。
【0086】
実施例1~23及び比較例1~12において、ベースゴムを構成する成分の一部を触媒MBのキャリアとして用いた。
【0087】
(実施例1~23、比較例1~12)
まず、無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物とを表1に示す質量比で、回転刃式ミキサー(商品名、マゼラーPM、マゼラー社製)に投入し、室温(25℃)で、10rpmで1分間攪拌(前混合)し、粉体混合物を得た(工程(a-1))。次いで、得られた粉体混合物と、ベースゴムを、表1に示す質量比で、予め100℃に昇温したニーダー(容量75L)へ投入し、40rpmで5分間の混合後、30rpmで3分間、仕上げ混練を行った。混合物の温度が有機過酸化物の分解温度以上である180~200℃に達したことを確認した後、フィーダー・ルーダー及びペレタイザーを用いてペレット化することでシランマスターバッチを得た(工程(a-2))。こうして得られたシランMBは、ベースゴム成分にシランカップリング剤がグラフト化反応したシラン架橋性ゴムを含有している。
得られたシランマスターバッチのMFRを、JIS K 7210に準拠して、温度190℃、加重10kgの条件で、測定した。
【0088】
一方、ベースゴム、酸化防止剤及びシラノール縮合触媒を、表1に示す質量比で、順次、予め80℃に昇温したニーダー(容量75L)へ投入し、30rpmで5分間の混合後、25rpmで3分間、仕上げ混練を行った。混合物の温度が160℃程度に達しベースゴムが十分に溶融したことを確認した後、フィーダー・ルーダー及びペレタイザーを用いてペレット化することで触媒マスターバッチを得た(工程(b))。この触媒MBは、キャリア及びシラノール縮合触媒の溶融混合物である。
【0089】
次いで、シランMBと触媒MBをポリ袋の中に入れ、室温(25℃)で5分間ドライブレンドしてドライブレンド物を得た。このとき、シランMBと触媒MBとの混合比は表1に示す質量比である。具体的には、実施例1~23及び比較例1~12において、シランMBのベースゴムが90質量部で、触媒MBのキャリアが10質量部となる割合とした。
【0090】
次に、スクリュー直径26mm、50t射出成形機(ファナック社ROBOSHOTα―50iA)にて、ノズル温度200℃、以下フィーダー側へ、前部200℃、中部160℃、後部150℃、金型温度30℃の射出温度条件に設定した。この射出成形機に、調製したドライブレンド物を投入して溶融混合した(工程(c))。
こうして、反応組成物としてシラン架橋性ゴム組成物を調製した。このシラン架橋性ゴム組成物は、シランMBと触媒MBとの溶融混合物であって、上述のシラン架橋性ゴムを含有している。
上記溶融混合物を、下記射出成形条件(1)~(3)のいずれかにより金型に射出して、A4サイズかつ厚さ2mmのシートを得た(工程(2))。金型は、JIS規格に定める「A4」サイズ(210mm×297mm)で厚さ2mmのキャビティを有する金型を用いた。
上記射出成形条件(1)~(3)に共通する条件
ノズル数:1本
ゲート形状:4×3mm
充填圧力:5MPa
金型温度:30℃
スクリュー回転数:100rpm
射出速度:60mm/秒
射出時間:10秒
保圧:20MPa
保圧時間:10秒
冷却時間:30秒
射出成形条件(1)
成形を連続して10回繰り返した。
射出成形条件(2)
上記射出成形条件(1)の後、射出成形機を停止(スクリュー回転数0rpm)させ、射出温度条件を維持してシリンダー内にシラン架橋性ゴム組成物を溶融状態で滞留させて1時間放置した後、射出成形を再開し、成形を10回繰り返した。
射出成形条件(3)
上記射出成形条件(1)の後、射出成形機を停止(スクリュー回転数0rpm)させ、射出温度条件を維持してシリンダー内にシラン架橋性ゴム組成物を滞留させた状態で3時間放置した後、射出成形を再開し、成形を10回繰り返した。
【0091】
上記射出成形条件(1)~(3)において10回目の成形で得られた未架橋のシートを室温(23℃)、50%RHの条件下で48時間放置し、シラン架橋を進行させた(工程(3))。このようにして、上記射出成形条件により厚さ2mmの「A4」サイズの各シートサンプルを製造した。シートサンプルとしてのシラン架橋ゴム成形体は上述のシラン架橋ゴムを有している。
【0092】
(比較例11)
シランMBを調製する際に、無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物との前混合(工程(a-1))を行わずに、表1のシランMB欄に示す成分を、表1に示す質量比で、ニーダーに投入してシランMBを得た以外は、実施例1と同様にして、シートサンプルを製造した。
【0093】
上記実施例及び比較例の製造において、無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物との前混合(工程(a-1))を行った場合には、表1の「前混合」欄に「有」と記載し、前混合を行わなかった場合には「無」と記載した。
【0094】
表1に示す各成分としては、以下のものを用いた。
(1)エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム1:ノーデル4770P(商品名、ダウ社製、エチレン-プロピレン-ジエンゴム)
(2)エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム2:ノーデル6565XCF(商品名、ダウ社製、エチレン-プロピレン-ジエンゴム)
(3)エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム3:三井EPT0045(商品名、三井化学社製、エチレン-プロピレンゴム)
(4)スチレンエラストマー1:タフテックN504(商品名、旭化成社製、SEBS)
(5)スチレンエラストマー2:セプトン2063(商品名、クラレ社製、SEPS)
(6)スチレンエラストマー3:セプトン2002(商品名、クラレ社製、SEPS)
(7)オレフィンエラストマー1:INFUSE 9000(商品名、ダウ社製、オレフィンブロック共重合体(エチレン-1-オクテンブロック共重合体))
(8)オレフィンエラストマー2:INFUSE 9500(商品名、ダウ社製、オレフィンブロック共重合体(エチレン-1-オクテンブロック共重合体))
(9)オレフィンエラストマー3:エンゲージ8130(商品名、ダウ社製、エチレン-オクテン共重合体)
(10)オレフィンエラストマー4:エンゲージ8402(商品名、ダウ社製、エチレン-オクテン共重合体)
(11)プロピレン樹脂1:PB222A(商品名、サンアロマー社製、ランダムポリプロピレン)
(12)エチレン樹脂1:エボリューSP1071C(商品名、プライムポリマー社製、LLDPE)
(13)エチレン樹脂2:スミカセンCU5003(商品名、住友化学製、LLDPE)
(14)鉱物性オイル1:ダイアナプロセスオイルPW90(商品名、出光興産製、パラフィンオイル)
(15)無機フィラー1:キスマ5L(商品名、協和化学社製、水酸化マグネシウム)
(16)無機フィラー2:アエロジル200(商品名、日本アエロジル社製、フュームドシリカ)
(17)無機フィラー3:クリスタライト5X(商品名、瀧森社製、結晶性シリカ)
(18)無機フィラー4:タルクK-1(商品名、日本タルク社製、タルク)
(19)無機フィラー5:SATINTONE SP33(商品名、東新化成社製、焼成カオリン)
(20)無機フィラー6:ソフトン1200(商品名、備北粉化工業社製、炭酸カルシウム)
(21)シランカップリング剤1:KBM-1003(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン)
(22)有機過酸化物1:パーヘキサ25B(商品名、日油社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン)
(23)酸化防止剤1:イルガノックス1076(商品名、BASF社製、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル)
(24)シラノール縮合触媒1:アデカスタブOT-1(商品名、ADEKA社製、ジオクチルスズジラウレート)
【0095】
得られた各シートサンプルについて、下記に示されている試験方法で各種の特性を評価した。
【0096】
1.外観試験(1)
上記射出成形条件(1)における10回目の成形で得られたシートサンプルの表面を目視で観察した。シート表面にフローマーク(ゴム組成物の流動跡)が観察される場合には、フローマーク部の面積を求め、フローマーク率を計算した。具体的には、フローマーク部の境界を線で囲い、囲ったフローマーク部の面積をデジタルマイクロスコープVHX-1000(商品名、キーエンス社製)を用いて計測し、以下の計算式により、フローマーク率を計算した。
フローマーク率(%)=フローマーク部面積/シートサンプル面積×100
評価は以下の基準で行った。シート表面にフローマーク(ゴム組成物の流動跡)、ゲルブツ、荒れが観察されないものを「A(表面性が高度なもの)」、フローマークが観察されるもののフローマーク率は10%未満であり、ゲルブツ、荒れが観察されないものを「B(表面性が良好なもの)」、フローマーク率が10%以上であるか、ゲルブツ、荒れが観察されるものを「C(不合格)」とした。評価が「B」以上であることが本試験の合格レベルである。
【0097】
2.外観試験(2)
上記射出成形条件(2)における、射出成形再開後10回目の成形で得られたシートサンプルの表面を目視で観察した。シート表面にフローマークが観察される場合には、外観試験(1)と同様にしてフローマーク率を求めた。
評価は以下の基準で行った。シート表面にフローマーク(ゴム組成物の流動跡)、ゲルブツ、荒れが観察されないものを「A(表面性が高度なもの)」、フローマークが観察されるもののフローマーク率は10%未満であり、ゲルブツ、荒れが観察されないものを「B(表面性が良好なもの)」、フローマーク率が10%以上であるか、ゲルブツ、荒れが観察されるものを「C(不合格)」とした。評価が「B」以上であることが本試験の合格レベルである。
【0098】
3.外観試験(3)
上記射出成形条件(3)における、射出成形再開後10回目の成形で得られたシートサンプルの表面を目視で観察した。シート表面にフローマークが観察される場合には、外観試験(1)と同様にしてフローマーク率を求めた。
評価は以下の基準で行った。シート表面にフローマーク(ゴム組成物の流動跡)、ゲルブツ、荒れが観察されないものを「A(表面性が高度なもの)」、フローマークが観察されるもののフローマーク率は10%未満であり、ゲルブツ、荒れが観察されないものを「B(表面性が良好なもの)」、フローマーク率が10%以上であるか、ゲルブツ、荒れが観察されるものを「C(不合格)」とした。評価が「B」以上であることが本試験の合格レベルである。
【0099】
4.圧縮永久歪み試験
JIS K 6262 A法に基づき、上記射出成形条件(1)における10回目の成形により得られたシートサンプルを用いて、その圧縮永久歪を測定した。2枚の圧縮板とスペーサ(厚さはシートサンプルの厚さの75%)を備えた圧縮装置を利用して、シートサンプルを厚さ方向に25%分の圧縮を加え(圧縮率25%)、その状態で70℃に加熱して22時間保持した。その後、常温(23℃)にて圧縮を開放し、30分間の冷却後(最終的な温度は23℃)、シートサンプルの厚さを測定した。
シートサンプルの、圧縮前後の厚さから、以下の式によって、圧縮永久歪みを算出し
て、下記評価基準にて、評価した。
式:CS=[(t0-t2)/(t0-t1)]×100
式中、
CS:圧縮永久歪み(%)
t0:シートサンプルの圧縮前の厚さ(元の厚さ)(mm)
t1:スペーサの厚さ(mm)
t2:シートサンプルの圧縮後の厚さ(圧縮装置から取り外して、30分後の厚さ)(mm)
本試験において、圧縮永久歪み45%未満が合格レベルである。
圧縮永久歪みが45%未満であることは、少なくとも一般的な加硫ゴムと同程度の圧縮永久歪みであることを意味する。圧縮永久歪みが45%未満であると、光ケーブルの接続箱(クロージャ)等の、開閉回数が比較的少ない用途に用いる部材として好適に使用することができる。ここで、圧縮永久歪みが2%程度異なると、その分、部材としての寿命が短くなる。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
本発明で規定する各工程を有する製造方法に対して、本発明で規定する組成を満たしていないベースゴムを混合すると、外観試験(1)~(3)、及び圧縮永久歪み試験のいずれにも合格するシラン架橋ゴム成形体のシートを得ることができなかった(比較例1~10、12)。中でも、MFR1~15g/10minのスチレン又はオレフィンエラストマーに代えて、MFRが10g/10minであるエチレン樹脂1(LLDPE)を含有するベースゴムを用いた比較例1では、圧縮永久歪みが十分に小さいシラン架橋ゴム成形体のシートを製造できなかった。LLDPEを用いると、その部分が塑性変形を生じるためと考えられる。加えて、MFR1~15g/10minのスチレンエラストマーに代えて、MFRが15g/10minを越えるスチレンエラストマー又はオレフィンエラストマーを含有するベースゴムを用いた比較例5及び6は、いずれも、圧縮永久歪みの十分に小さいシラン架橋ゴム成形体のシートを製造できなかった。このようなMFRを示すエラストマーの分子量は一般的に小さく、本発明の効果のためには分子量が小さすぎるためと考えられる。無機フィラーとシランカップリング剤との前混合を行わないと、優れた外観特性と圧縮永久歪み性とを両立するシラン架橋ゴム成形体のシートを得ることができなかった(比較例11)。
これに対して、本発明で規定する各工程を有する製造方法において、本発明で規定する組成を満たしたベースゴムを、無機フィラー、有機過酸化物等と特定量で配合し、かつ前混合を行うと、外観試験(1)~(3)、及び圧縮永久歪みのいずれにも合格する、優れた外観特性と圧縮永久歪み性とを両立したシラン架橋ゴム成形体のシートを製造することができた(実施例1~23)。特に、外観試験(3)に合格していることから、射出成形の際の滞留時間が3時間もの長時間となっても外観不良を生じずに対応できることがわかる。さらに、本発明の製造方法によれば、射出成形のみにより、研削、研磨等の後処理を行わずとも、外観特性に優れた成形体を得ることができる。