(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153113
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】遮光膜形成方法及び複層型回折光学素子
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20221004BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20221004BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B5/00 B
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056176
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福武 直之
【テーマコード(参考)】
2H042
2H087
2H249
【Fターム(参考)】
2H042AA05
2H042AA15
2H042AA17
2H087KA01
2H087PA01
2H087PA16
2H087PB04
2H087QA02
2H087QA07
2H087QA12
2H087QA34
2H087RA46
2H249AA04
2H249AA31
2H249AA43
2H249AA63
(57)【要約】
【課題】遮光膜を簡単に形成することが可能な遮光膜形成方法及び複層型回折光学素子を提供する。
【解決手段】遮光膜形成方法は、同心円状に複数の突条部が配列され、径方向の断面形状が鋸歯状の回折光学面をそれぞれ有する1対の回折格子層であって、プラスチックで形成された1対の回折格子層を備え、回折光学面同士の凹凸が嵌合した複層型回折光学素子に対して、遮光膜を形成する遮光膜形成方法であって、突条部の稜線から延びる2つの斜面のうちの一方の斜面を格子面、他方の斜面を側壁面とした場合に、嵌合した状態の1対の回折光学面において対面する側壁面同士の境界領域に、レーザ光を用いて回折格子層の一部を炭化させることにより、回折光学面に入射する入射光のうち境界領域を透過する透過光を遮光する遮光膜を形成する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心円状に複数の突条部が配列され、径方向の断面形状が鋸歯状の回折光学面をそれぞれ有する1対の回折格子層であって、プラスチックで形成された1対の回折格子層を備え、前記回折光学面同士の凹凸が嵌合した複層型回折光学素子に対して、遮光膜を形成する遮光膜形成方法であって、
前記突条部の稜線から延びる2つの斜面のうちの一方の斜面を格子面、他方の斜面を側壁面とした場合に、嵌合した状態の1対の前記回折光学面において対面する前記側壁面同士の境界領域に、レーザ光を用いて前記回折格子層の一部を炭化させることにより、前記回折光学面に入射する入射光のうち前記境界領域を透過する透過光を遮光する遮光膜を形成する、遮光膜形成方法。
【請求項2】
前記境界領域の一部に前記レーザ光を照射することにより、プラスチック製の前記回折格子層が炭化した炭化領域を形成すること、
前記回折光学面の面内において、前記境界領域の周方向に沿って、前記レーザ光の焦点位置を変化させながら、前記周方向に前記炭化領域を展開させることにより、前記境界領域の全周に渡って前記遮光膜を形成することを含む請求項1に記載の遮光膜形成方法。
【請求項3】
前記回折光学面と対向する方向から前記レーザ光を照射する請求項2に記載の遮光膜形成方法。
【請求項4】
前記突条部の前記側壁面に沿う方向からレーザ光を照射する請求項3に記載の遮光膜形成方法。
【請求項5】
前記レーザ光は、前記回折光学面の光軸方向に沿って照射される請求項4に記載の遮光膜形成方法。
【請求項6】
前記回折光学面の面内における前記レーザ光の1つの照射位置において、集光光学系によって前記レーザ光を集光させた場合の前記レーザ光の焦点位置を、前記レーザ光の照射方向に延びる前記側壁面の高さ方向に変化させながら、前記側壁面の高さ方向に沿って前記炭化領域を展開する、請求項3から請求項5のうちのいずれか1項に記載の遮光膜形成方法。
【請求項7】
前記レーザ光は、パルスレーザ光である、請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載の遮光膜形成方法。
【請求項8】
前記パルスレーザ光は、パルスの時間幅がピコ秒からフェムト秒の範囲内の超短パルスレーザ光である、請求項7に記載の遮光膜形成方法。
【請求項9】
前記パルスレーザ光によって、前記回折格子層にドット状の炭化領域を形成し、隣接する前記炭化領域のドット同士が部分的に重なる態様でパルス照射を繰り返す、請求項7または請求項8に記載の遮光膜形成方法。
【請求項10】
前記レーザ光を照射するレーザ照射部を固定した状態で前記複層型回折光学素子を変位させることにより、レーザ光の焦点位置を移動させる、請求項1から請求項9のうちのいずれか1項に記載の遮光膜形成方法。
【請求項11】
前記複層型回折光学素子を固定した状態で、前記レーザ光を照射するレーザ照射部を変位させることにより、レーザ光の焦点位置を移動させる、請求項1から請求項9のうちのいずれか1項に記載の遮光膜形成方法。
【請求項12】
同心円状に複数の突条部が配列され、径方向の断面形状が鋸歯状の回折光学面をそれぞれ有する1対の回折格子層であって、プラスチックで形成された1対の回折格子層を備え、前記回折光学面同士の凹凸が嵌合した複層型回折光学素子であって、
前記突条部の稜線から延びる2つの斜面のうちの一方の斜面を格子面、他方の斜面を側壁面とした場合に、嵌合した状態の1対の前記回折光学面において対面する前記側壁面同士の境界領域には、前記回折格子層の一部を炭化させた炭化領域によって形成された遮光膜であって、前記回折光学面に入射する入射光のうち前記境界領域を透過する透過光を遮光する遮光膜が設けられている、複層型回折光学素子。
【請求項13】
前記炭化領域は、複数のドットで形成されており、隣接する前記ドット同士は一部重なり合った状態で配列されている、請求項12に記載の複層型回折光学素子。
【請求項14】
複数の前記ドットは、断面が楕円形状であり、かつ、前記側壁面の高さ方向に長手方向が延びる姿勢で配列されている、請求項13に記載の複層型回折光学素子。
【請求項15】
前記突条部において、前記回折光学面の径方向における前記遮光膜の膜厚は、前記突条部の幅に対して、10%以下である請求項12から請求項14のうちのいずれか1項に記載の複層型回折光学素子。
【請求項16】
前記突条部において、前記回折光学面の径方向における前記遮光膜の膜厚は、前記突条部の幅に対して、1%以下である請求項15に記載の複層型回折光学素子。
【請求項17】
前記1対の回折格子層を有する回折格子部と、
前記回折格子部の両面とそれぞれ接合される1対のレンズとを備えた請求項12から請求項15のうちのいずれか1項に記載の複層型回折光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、遮光膜形成方法及び複層型回折光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
複層型回折光学素子が知られている。複層型回折光学素子は、例えば、1対の回折格子層を有する回折格子部と、回折格子部の両面とそれぞれ接合される1対のレンズとを備えている。回折格子部とレンズとを組み合わせた複層型回折光学素子は、回折レンズとも呼ばれる。回折レンズは、通常の屈折作用のみを発揮するレンズとは反対の色収差特性を備えている。そのため、回折レンズは、例えば色収差補正用のレンズとして用いられる。
【0003】
特許文献1には、遮光膜を有する回折レンズが記載されている。遮光膜によって、回折レンズに対して斜め方向から入射する斜め入射光などの不要光をカットできるため、ゴースト及びフレアなどを低減可能である。特許文献1において、遮光膜は、蒸着法、及びインクジェットプロセスなどの塗布法によって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、蒸着法及び塗布法は、回折格子層とは別に遮光膜を形成する材料が必要になる他、遮光膜を形成する領域以外を覆うマスクの形成及びマスクの除去の工程が必要になるなど、遮光膜の形成方法が複雑になるという問題があった。
【0006】
本開示の技術は、従来と比較して、遮光膜を簡単に形成することが可能な遮光膜形成方法及び複層型回折光学素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の技術に係る遮光膜形成方法は、同心円状に複数の突条部が配列され、径方向の断面形状が鋸歯状の回折光学面をそれぞれ有する1対の回折格子層であって、プラスチックで形成された1対の回折格子層を備え、回折光学面同士の凹凸が嵌合した複層型回折光学素子に対して、遮光膜を形成する遮光膜形成方法であって、突条部の稜線から延びる2つの斜面のうちの一方の斜面を格子面、他方の斜面を側壁面とした場合に、嵌合した状態の1対の回折光学面において対面する側壁面同士の境界領域に、レーザ光を用いて回折格子層の一部を炭化させることにより、回折光学面に入射する入射光のうち境界領域を透過する透過光を遮光する遮光膜を形成する。
【0008】
また、境界領域の一部にレーザ光を照射することにより、プラスチック製の回折格子層が炭化した炭化領域を形成すること、回折光学面の面内において、境界領域の周方向に沿って、レーザ光の焦点位置を変化させながら、周方向に炭化領域を展開させることにより、境界領域の全周に渡って遮光膜を形成することを含んでいてもよい。
【0009】
回折光学面と対向する方向からレーザ光を照射してもよい。
【0010】
突条部の側壁面に沿う方向からレーザ光を照射してもよい。
【0011】
レーザ光は、回折光学面の光軸方向に沿って照射されてもよい。
【0012】
回折光学面の面内におけるレーザ光の1つの照射位置において、集光光学系によってレーザ光を集光させた場合のレーザ光の焦点位置を、レーザ光の照射方向に延びる側壁面の高さ方向に変化させながら、側壁面の高さ方向に沿って炭化領域を展開してもよい。
【0013】
レーザ光は、パルスレーザ光であってもよい。
【0014】
パルスレーザ光は、パルスの時間幅がピコ秒からフェムト秒の範囲内の超短パルスレーザ光であってもよい。
【0015】
パルスレーザ光によって、回折格子層にドット状の炭化領域を形成し、隣接する炭化領域のドット同士が部分的に重なる態様でパルス照射を繰り返してもよい。
【0016】
レーザ光を照射するレーザ照射部を固定した状態で複層型回折光学素子を変位させることにより、レーザ光の焦点位置を移動させてもよい。
【0017】
複層型回折光学素子を固定した状態で、レーザ光を照射するレーザ照射部を変位させることにより、レーザ光の焦点位置を移動させてもよい。
【0018】
本開示の技術に係る複層型回折光学素子は、同心円状に複数の突条部が配列され、径方向の断面形状が鋸歯状の回折光学面をそれぞれ有する1対の回折格子層であって、プラスチックで形成された1対の回折格子層を備え、回折光学面同士の凹凸が嵌合した複層型回折光学素子であって、突条部の稜線から延びる2つの斜面のうちの一方の斜面を格子面、他方の斜面を側壁面とした場合に、嵌合した状態の1対の回折光学面において対面する側壁面同士の境界領域には、回折格子層の一部を炭化させた炭化領域によって形成された遮光膜であって、回折光学面に入射する入射光のうち境界領域を透過する透過光を遮光する遮光膜が設けられている。
【0019】
炭化領域は、複数のドットで形成されており、隣接するドット同士は一部重なり合った状態で配列されていてもよい。
【0020】
複数のドットは、断面が楕円形状であり、かつ、側壁面の高さ方向に長手方向が延びる姿勢で配列されていてもよい。
【0021】
突条部において、回折光学面の径方向における遮光膜の膜厚は、突条部の幅に対して、10%以下であってもよい。
【0022】
突条部において、回折光学面の径方向における遮光膜の膜厚は、突条部の幅に対して、1%以下であってもよい。
【0023】
1対の回折格子層を有する回折格子部と、回折格子部の両面とそれぞれ接合される1対のレンズとを備えていてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本開示の技術によれば、従来と比較して、遮光膜を簡単に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】回折レンズが組み込まれたズームレンズの説明図である。
【
図2】回折レンズの色収差特性を説明する図である。
【
図3】回折レンズの断面図(
図3Aに示す)及び回折格子層の平面図(
図3Bに示す)である。
【
図6】回折格子層における遮光膜の作用の説明図である。
【
図9】遮光膜を形成するレーザ加工装置の概要図である。
【
図12】ビームスポットのスポット径を決めるパラメータの説明図である。
【
図13】複数の炭化ドットによって形成される遮光膜の説明図である。
【
図14】複数の炭化ドットを突条部の高さ方向に形成する際のレーザ光の走査方法を示す図である。
【
図15】複数の炭化ドットを突条部の周方向に形成する際のレーザ光の走査方法を示す図である。
【
図17】炭化ドットが形成される姿勢の説明図である。
【
図19】遮光膜形成手順を示すフローチャートである。
【
図20】遮光膜の形成位置の変形例を示す図である。
【
図21】側壁面が傾斜している場合の炭化ドットの姿勢を説明する図である。
【
図22】側壁面に対する炭化ドットの姿勢の変形例である。
【
図23】ガルバノミラーを有する走査機構の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(回折レンズの機能)
本開示の技術に係る複層型回折光学素子の一例である回折レンズ10について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、回折レンズ10は、例えば、撮影光学系110に用いられる。
図1に示す撮影光学系110は、例えば、第1レンズ群G1、第2レンズ群G2、及び第3レンズ群G3の3群構成であり、被写体の像をイメージセンサ111に結像する。撮影光学系110は、例えば、ズームレンズであり、第2レンズ群G2は、光軸OA方向に移動可能な変倍用のレンズである。例えば、
図1Aに示す位置から
図1Bに示す位置に、第2レンズ群G2が光軸OA方向に移動すると、撮影光学系110の全体の焦点距離が変化することにより、イメージセンサ111に結像する結像倍率が変化する。
【0027】
撮影光学系110において、一例として、回折レンズ10は、第3レンズ群G3に組み込まれる。回折レンズ10は、DOE(Diffractive Optical Element)レンズなどとも呼ばれる。撮影光学系110に組み込まれる回折レンズ10の機能は、一例として、色収差補正機能である。
【0028】
図2は、回折レンズ10の色収差補正機能の説明図である。
図2Aは、比較例として屈折作用のみを有する凸レンズ120の色収差を示す。色収差は像の色ズレであり、凸レンズ120においては、波長に応じて屈折率が異なることによって生じる。凸レンズ120の場合は、入射した光線SRのうち、波長が短い光ほど屈折率が大きい。
図2Aに示すように、波長が短い光ほど、すなわち、青(B:Blue)、緑(G:Green)、及び赤(R:Red)の順に焦点距離が短い。これに対して、回折レンズ10は、色収差に関して、凸レンズ120と逆の特性を有しており、
図2Bに示すように、入射した光線SRのうち、波長が長い光ほど、すなわち、赤(R)、緑(G)、及び青(B)の順に焦点距離が短い。このような回折レンズ10の色収差の特性は、光の屈折作用のみを有する凸レンズ120と異なり、回折レンズ10が光の回折作用を有することに起因する。
【0029】
本例の回折レンズ10は、プラスチックで形成された回折格子部12と、ガラスで形成された2枚のレンズ13及びレンズ14とを備えており、2枚のレンズ13及びレンズ14によって回折格子部12を挟み込んだ構成である。本例の回折レンズ10は、回折格子部12による回折作用と、プラスチックとガラスとの屈折率の差によって生じる作用とを組み合わせた作用により、
図2Bに示すような色収差特性を実現している。
【0030】
(回折レンズの構成)
図3~
図5に示すように、回折レンズ10は、回折格子部12の一方の面とレンズ13が接合され、回折格子部12の他方の面とレンズ14が接合されている。レンズ13は、一例として、一方の面が凸面で他方の面が凹面のメニスカスレンズであり、レンズ14は、両面が凸面の凸レンズである。回折格子部12は、一方の面が凸面で他方の面が凹面であり、全体としてメニスカスレンズのような形状をしている。回折格子部12の凸面とレンズ13の一方の凹面とが接合し、回折格子部12の凹面とレンズ14の一方の凸面とが接合している。
【0031】
回折格子部12は、プラスチックで形成された1対の回折格子層12A及び12Bを有する。
図3Bは回折格子層12Bの平面図であり、
図3Aは、回折レンズ10の断面図であり、
図3BのA-Aで示す位置の断面図である。
図3Bにおいて、回折格子層12Bを例に示すように、各回折格子層12A及び12Bは、レンズ13及びレンズ14と同様に平面視において円形をしており、それぞれの一面に、回折光学面18を有する。
図3Bに示すように、回折光学面18には、光軸OAを中心に同心円状に複数の突条部20が配列されている。
図5に示すように、回折光学面18は、回折レンズ10の径方向の断面形状が鋸歯状である。1つの突条部20は、突条部20の稜線20C(
図3B及び
図5参照)から延びる2つの斜面を有する。一方の斜面は格子面20Aであり、他方の斜面は側壁面20Bである。格子面20Aは、回折作用を生じさせる面である。格子面20Aは、光軸OAと交差する斜面であり、光軸OAに対する傾斜が、側壁面20Bと比較すると急峻である。そのため、
図3Bに示すように、回折光学面18を平面視した場合に、格子面20Aは、側壁面20Bよりも幅広になる。本例の側壁面20Bは、光軸OAと平行な面である。
【0032】
図4及び
図5に示すように、回折レンズ10において、1対の回折格子層12A及び12Bは、それぞれの回折光学面18同士の凹凸が嵌合している。後述するように、1対の回折格子層12A及び12Bは、一例として樹脂成形によって形成される。この場合は、樹脂成形後において、1対の回折格子層12A及び12Bは、それぞれの回折光学面18同士が嵌合した状態となる。
【0033】
より詳細には、1対の回折格子層12A及び12Bのそれぞれの回折光学面18において、複数の突条部20のサイズ及びピッチは同一である。1対の回折格子層12A及び12Bは、それぞれの複数の突条部20によって形成された鋸歯状の凹凸が嵌合する。嵌合した状態では、それぞれの突条部20の格子面20A同士が対面し、側壁面20B同士が対面する。格子面20A同士は、両者の間に空気層はなく、密着しており、また、側壁面20B同士についても、同様に密着している。さらに、一対の回折格子層12A及び12Bのうちの一方の突条部20の頂点となる稜線20Cが、他方の突条部20の谷と接することになる。
【0034】
なお、図において、突条部20は説明の便宜上、サイズを拡大して描いているが、回折光学面18を平面視した場合(
図3B参照)の突条部20の径方向の実際の幅(すなわち格子面20Aの幅)は数mm(ミリメートル)程度である。また、突条部20の高さ(谷から稜線20Cまでの高さ)は、数十μm(マイクロメートル)程度である。
【0035】
また、
図4に示すように、嵌合した状態の1対の回折光学面18(
図5参照)において対面する側壁面20B同士の境界領域BRには、遮光膜22が設けられている。遮光膜22は、境界領域BRにおいて、膜面が側壁面20Bに沿って形成される。遮光膜22は、側壁面20Bのほぼ全域を覆う。遮光膜22は、回折光学面18に入射する入射光のうち境界領域BRを透過する透過光を遮光する。
【0036】
図6及び
図7を用いて遮光膜22の機能を説明する。
図6は回折レンズ10を示し、
図7は比較例の回折レンズ200を示す。回折レンズ10は境界領域BRに遮光膜22を有しており、回折レンズ200は遮光膜22を有していない。両者の相違は遮光膜22の有無のみであるため、同一部位については同一の符号を示す。
【0037】
図6及び
図7において、入射光線R1は、突条部20の格子面20Aに入射し、出射光線R1Aとして出射する。入射光線R1のように格子面20Aに入射する場合は、入射光線R1に対応する出射光線R1Aは不要光にはならない。これに対して、例えば、入射光線R2は突条部20の側壁面20Bに入射し、側壁面20Bで屈折し、出射光線R2Aとして出射する。入射光線R3は側壁面20Bで散乱し、出射光線R3Bとして出射する。入射光線R4は側壁面20Bで反射し、出射光線R4Bとして出射する。出射光線R2A~R4Aのように、側壁面20Bにおいて屈折、散乱又は反射した光線は、不要光となり、フレア及びリング状のゴーストなどの原因となる。
図7に示す回折レンズ200のように、側壁面20Bに遮光膜22が設けられていない場合は、側壁面20Bにおいて光線の屈折、散乱又は反射などが生じる。
図6に示すように、回折レンズ10においては、側壁面20B同士の境界領域BRに遮光膜22が設けられているため、側壁面20Bにおける光線の屈折、散乱又は反射などが抑制される。
【0038】
ただし、
図7に示す回折レンズ200のように遮光膜22が設けられていない場合でも、例えば単焦点レンズのように焦点距離が変化しない光学系に組み込まれる場合は、回折レンズ200に対して入射する入射光線の経路は変化しない。そのため、格子面20Aの幅、ピッチ及び傾斜角などを適切に設計することにより、側壁面20Bへ入射し、側壁面20Bにおいて屈折、散乱又は反射を生じる光線を抑制することにより不要光の発生を抑制することが可能である。
【0039】
しかし、
図1に示す撮影光学系110のように、焦点距離が変化するズームレンズに回折レンズ200を組み込む場合は、変倍レンズである第2レンズ群G2の移動によって焦点距離が変化すると、光学系内部の光線の経路が変化するため、回折レンズ200に対して入射する入射光線の経路が変化する。そのため、格子面20Aの幅、ピッチ及び傾斜角などを調節する方法では、側壁面20Bにおいて屈折、散乱又は反射を生じる光線を抑制することが困難であった。
【0040】
そこで、
図6に示す本例の回折レンズ10のように境界領域BRに遮光膜22を設けることで、側壁面20Bにおいて屈折、散乱又は反射を生じる光線を抑制することが可能となる。これにより回折レンズ10をズームレンズにも適用することが可能となっている。すなわち、焦点距離の変化にともなって光学系内部の光線の経路が変化することにより、回折レンズ10の側壁面20Bに入射する入射光線R2~R4があっても、入射光線R2~R4は遮光膜22によって吸収されるため、不要光の発生が抑制される。その結果、フレア及びリング状のゴーストなどの発生が抑制される。
【0041】
(回折レンズの回折格子部の形成方法)
図8は、回折レンズ10の回折格子部12の形成方法の一例を示す。まず、工程1において、金型31に、回折格子層12Bの材料となるプラスチック材料32を塗布する。プラスチック材料32は、例えば光硬化性樹脂であり、一例として紫外線UVによって硬化される。プラスチック材料32は、紫外線UVなどの光が照射される前は液状をしており、光が照射されることによって硬化する。液状のプラスチック材料32は、金型31の全面に塗布される。金型31には、回折光学面18の鋸歯状の凹凸が形成されている。液状のプラスチック材料32が塗布された金型31に対してレンズ14を押し当てる。これにより、プラスチック材料32は金型31とレンズ14とによって挟まれた状態となり、プラスチック材料32の一方の面には、金型31の凹凸の形状が転写され、他方の面はレンズ14の一面に密着する。
【0042】
工程2において、金型31とレンズ14とによって挟まれた状態のプラスチック材料32に対して、紫外線UVを照射する。紫外線UVが照射されると、金型31の凹凸の形状が転写された状態でプラスチック材料32が硬化し、硬化したプラスチック材料32が回折格子層12Bとなる。回折格子層12Bの一方の面には回折光学面18が形成され、他方の面はレンズ14に接合される。
【0043】
工程3において、レンズ14に接合された回折格子層12Bの回折光学面18を金型として、回折格子層12Aを形成する。レンズ13の全面には回折格子層12Aの材料であるプラスチック材料33が塗布される。プラスチック材料33も、一例として紫外線UVによって硬化する光硬化樹脂である。レンズ13上に塗布されたプラスチック材料33に対して、レンズ14に接合された回折格子層12Bの回折光学面18が押し当てられる。これにより、プラスチック材料33の一方の面に、回折格子層12Bの回折光学面18の凹凸の形状が転写され、他方の面はレンズ13の一面に密着する。
【0044】
工程4において、レンズ14に接合された回折格子層12Bとレンズ13とによって挟まれた状態のプラスチック材料33に対して、紫外線UVを照射する。紫外線UVが照射されると、回折格子層12Bの回折光学面18の凹凸の形状が転写された状態でプラスチック材料33が硬化し、硬化したプラスチック材料33が回折格子層12Aとなる。回折格子層12Aの一方の面には回折光学面18が形成され、他方の面はレンズ13に接合される。これにより、一対の回折格子層12A及び12Bを有する回折格子部12が形成される。工程4が終了した段階では、
図4に示したように、一対の回折格子層12A及び12Bのそれぞれの回折光学面18の凹凸が嵌合した状態となる。工程4が終了した段階では、遮光膜22が設けられていないものの、回折レンズ10の基本構成が完成する。
【0045】
プラスチック材料32及び33は、一例として、アクリル系樹脂である。プラスチック材料32及び33の材料については、回折レンズ10が目標とする光学特性に応じて適宜選択される。
【0046】
(遮光膜形成方法)
次に、
図9~
図19を参照しながら、回折レンズ10に遮光膜22を形成する方法を説明する。
図9に示すように、遮光膜22は、レーザ加工装置41が発するレーザ光LBを用いて、プラスチック製の回折格子層12A及び12Bの一部を炭化させることにより形成される。プラスチック材料などの炭素化合物が主成分の材料を、酸素を遮断した状態で加熱すると、炭素化合物は分解が生じ、その中から揮発性の低い固体の炭素成分が残る。こうした現象は一般的に炭化と呼ばれる。レーザ光LBを集光させた場合のレーザ光LBの焦点位置Fを回折格子部12の内部に設定し、その状態でレーザ光LBを照射すると焦点位置Fを中心に回折格子層12A及び12Bの一部が加熱され、焦点位置Fを中心に炭化領域が生じる。このような炭化領域を突条部20の側壁面20B及び稜線20Cに沿って形成することにより、側壁面20B同士の境界領域BRに炭化領域が形成される。炭化領域は黒くなるため、側壁面20Bに沿って形成された炭化領域は、光を吸収する遮光膜22として機能する。このように、レーザ光LBを用いて回折格子部12の一部に炭化領域を形成するレーザ加工を施すことで、遮光膜22が形成される。
【0047】
図9に示すように、レーザ加工装置41は、レーザ照射部42と、集光光学系43と、移動ステージ44と、ホルダ45とを備えている。レーザ照射部42は、レーザ光LBを発する光源である。集光光学系43は、レーザ光LBを、集光光学系43の焦点位置Fに集光する。
図10に示すように、集光光学系43の集光作用によって、レーザ光LBの照射方向と直交する方向の光束の断面積Sは、焦点位置Fに向かって縮小し、焦点位置Fで最小となる。断面積Sが小さいほど、レーザ光LBのエネルギーが集中するため、レーザ光LBのビームスポットの単位面積当たりの光強度であるパワー密度が高められる。ここで、ビームスポットは、集光光学系43によってレーザ光を集光させた場合のレーザ光LBの焦点位置Fにおける集光点をいう。
【0048】
移動ステージ44は、レーザ加工の加工位置となる焦点位置Fを走査させる走査機構である。移動ステージ44には、レーザ加工の対象である回折レンズ10がセットされ、移動ステージ44は、レーザ光LBの焦点位置Fに対して回折レンズ10を相対的に移動させる。
【0049】
移動ステージ44は、回転ステージ44Aと3軸ステージ44Bとを有する。回転ステージ44AはZ方向と平行な軸回りに回転する。回転ステージ44Aには、回折レンズ10を固定するためのホルダ45が設けられている。回転ステージ44Aにおいて、回折レンズ10は、光軸OAとZ方向とを一致させた状態で、ホルダ45にセットされる。これにより、回転ステージ44Aが回転すると、回折レンズ10は光軸OAを中心に回転する。レーザ光LBは、回折レンズ10の回折光学面18と対向する方向から照射される。
【0050】
また、より詳細には、本例において、レーザ光LBは、回折光学面18の光軸、すなわち回折レンズ10の光軸OAと平行な方向から照射される。また、本例において、突条部20の側壁面20Bの高さ方向も、回折レンズ10の光軸OAと平行である。そのため、レーザ光LBは、突条部20の側壁面20Bに沿う方向から照射される。
【0051】
3軸ステージ44Bは、X方向、Y方向及びZ方向の3軸方向に移動可能なステージである。Z方向は、光軸OAと平行な方向であり、X方向及びY方向は、Z方向に対して垂直な平面である。3軸ステージ44Bは、回転ステージ44Aに固定された回折レンズ10をX方向、Y方向及びZ方向の3軸方向に移動する。回転ステージ44Aは、3軸ステージ44Bに回転可能に取り付けられている。回転ステージ44A及び3軸ステージ44Bは図示しないアクチュエータによって駆動される。
【0052】
図10に示すように、XY面内の焦点位置Fに相当するレーザ光LBの照射位置は、3軸ステージ44Bによって、1つの突条部20の稜線20Cに対応する位置に位置決めされる。この状態で回転ステージ44Aを回転させると、XY面内において、レーザ光LBの焦点位置Fが、突条部20の円形の稜線20Cの周方向に沿って移動する。このように、レーザ加工装置41は、稜線20C及び側壁面20Bを含む境界領域BR(
図4等参照)の周方向に沿って、レーザ光LBの焦点位置Fを変化させながら、周方向に炭化領域を展開させる。そして、炭化領域を周方向に展開させることにより、境界領域BRの全周に渡って遮光膜22を形成する。
【0053】
また、レーザ光LBの1つの照射位置において、3軸ステージ44BをZ方向に移動させることにより、焦点位置Fは、突条部20の高さ方向、すなわち側壁面20Bに沿って移動する。このように、レーザ加工装置41は、回折光学面18の面内におけるレーザ光LBの1つの照射位置において、レーザ光LBの焦点位置Fを、レーザ光LBの照射方向に延びる側壁面20Bの高さ方向に変化させながら、側壁面20Bの高さ方向に沿って炭化領域を展開する。炭化領域を側壁面20Bの高さ方向に展開することにより、側壁面20Bの高さ方向に幅を持つ遮光膜22が形成される。
【0054】
このように移動ステージ44は、回折レンズ10とレーザ光LBの焦点位置Fとの相対位置を3次元的に移動させることにより、複数の突条部20の稜線20C及び側壁面20Bを含む境界領域BRに沿って焦点位置Fを走査させる。すなわち、レーザ光LBを照射するレーザ照射部42を固定した状態で、回折レンズ10を変位させることによりレーザ光の焦点位置Fを移動させる。
【0055】
図11に示すように、レーザ光LBは、一例として、パルス発振により複数のパルスが繰り返し照射されるパルスレーザ光である。連続発振のCW(Continuous Wave)レーザ光と比較して、パルスレーザ光の方がパワー密度を高くでき、短時間で炭化領域の形成が可能である。さらに、本例のパルスレーザ光は、パルスの時間幅であるパルス幅PWがピコ秒~フェムト秒の範囲内の超短パルスレーザ光である。パルス幅PWが短いと、焦点位置Fにおけるビームスポットの周囲に対する熱拡散の影響が少ないため、パルス幅PWが長い場合と比べて、ビームスポットの周囲への炭化領域の広がりを抑制することができる。
【0056】
図12は、ビームスポットのスポット径SDを変化させるパラメータの説明図である。
図12A~
図12Cは、横軸をレーザ光LBの光束の断面方向の位置とし、縦軸が光強度とした場合のビームスポットの光強度のプロファイルである。
図12Bに示すスポット径SDの大きさを基準とすると、集光光学系43の集光性能が高いほど、
図12Aに示すようにスポット径SDは小さくなる。この場合は、集光光学系43の集光性能が高いため、レーザ光LBのエネルギーが集中するので、光強度も上昇する。これにより、高いパワー密度が得られる。一方、
図12Cに示すように、レーザ照射部42の出力を上げれば、ビームスポットの光強度は上がるが、スポット径SDも大径化する。このように、集光光学系43の集光性能とレーザ照射部42の出力をパラメータとして、スポット径SDが設定される。
【0057】
図13に示すように、レーザ加工装置41は、パルスレーザ光であるレーザ光LBによってドット状の炭化領域を形成し、隣接する炭化領域のドット同士が部分的に重なる態様でパルス照射を繰り返す。
図13Aは、回折格子部12の一部を示す斜視図である。
図13Aにおいて、遮光膜22が、突条部20の側壁面20B及び境界領域BRの周方向に沿って形成されている様子が示される。
図13Bは、回折格子部12を径方向で切断した場合の断面図である。
図13Cは、側壁面20B及び境界領域BRの周方向に沿って形成される遮光膜22の展開図である。ここで、ドット状の炭化領域を炭化ドット22Aと呼ぶ。
図13B及び
図13Cに示すように、レーザ加工装置41は、レーザ光LBの焦点位置Fの走査とパルス照射とを繰り返すことにより、複数の炭化ドット22Aが、突条部20の側壁面20Bの高さ方向であるZ方向と、側壁面20Bの周方向とに配列された遮光膜22を形成する。
図13A及び
図13Bに示すように、遮光膜22は、複数の突条部20の側壁面20Bに沿って、境界領域BRに形成される。遮光膜22において、高さ方向及び周方向のどちらにおいても、隣接する炭化ドット22Aは、一部が重なった状態で配列される。これにより、隣接する炭化ドット22Aの間に光が透過する隙間が生じないようにしている。
【0058】
1つの炭化ドット22Aは、一例として1回のパルス照射によって形成される。もちろん、複数回のパルス照射によって1つの炭化ドット22Aを形成してもよいが、パルス照射の回数を増やすほど処理時間がかかるため、1つの炭化ドット22Aは、1回のパルス照射で形成することが好ましい。また、理由は後述するが、炭化ドット22Aは、
図13に示すとおり、レーザ光LBの照射方向が長手方向となる楕円形状の断面を持つラグビーボールのような形状で形成される。
【0059】
図14は、XY面内の1つの照射位置において、焦点位置Fを突条部20の側壁面20Bに沿って高さ方向に走査する様子を示す。
図14においては、高さ方向の下方から上方に向かって焦点位置Fを走査している。つまり、レーザ光LBの照射方向において、下流側から上流側に向けて焦点位置Fを走査している。高さ方向の走査方法としては、本例のように、レーザ光LBの下流側から上流側に向かって走査することが好ましい。というのも、レーザ光LBの照射方向の上流側から炭化させていくと、照射方向のより下流側を炭化させる場合に、上流側ですでに形成済みの炭化ドット22Aによってレーザ光LBが遮光されやすいためである。また、
図15に示すように、焦点位置Fが高さ方向に1列分走査されると、XY平面内の照射位置が周方向に1列分移動し、移動後の列で焦点位置Fが高さ方向に走査される。なお、側壁面20Bの高さ方向の走査方法は、本例のようにレーザ光LBの下流側から上流側に向かって走査することが好ましいが、逆向きに走査してもよい。
【0060】
パルス照射が1回行われる毎に、レーザ光LBの焦点位置Fが変化するように焦点位置Fの走査速度が設定される。遮光膜22を形成する速度を速くしたい場合は、パルス照射の繰り返し周波数は高く、かつ走査速度は速く設定される。また、隣接する炭化ドット22Aの高さ方向及び周方向の重なり量は、焦点位置Fの高さ方向及び周方向のそれぞれの走査速度によって調節される。
【0061】
また、プラスチック製の回折格子部12内に炭化領域を形成するレーザ加工は、プラスチック材料の内部加工になるため、レーザ光LBの波長は、プラスチック材料が透過する波長域内であることが好ましい。プラスチック材料では、一般的に、365nm以下又は1030nm以上では、プラスチック材料が光を吸収し始めるため、内部炭化が難しい。また、内部炭化は、多光子吸収という現象を利用しているため、比較的短波長の方が多光子吸収を引き起こしやすい。それを考慮すると、プラスチック材料に対する内部炭化が可能なレーザ光LBの波長域としては、約300nm~約800nmの範囲が好ましい。
【0062】
図16は、炭化ドット22Aがラグビーボールのような形状になる理由を説明する図である。レーザ光LBの光束は、集光光学系43から焦点位置Fに向かって集束し、焦点位置Fを超えると発散するため、光束の断面積は、レーザ光LBの照射方向においてレーザ光の集束に伴って縮小し、発散に伴って拡大する。より詳細には、レーザ光LBの照射方向における位置CS1における光強度プロファイルは、断面積が大きく、光強度が小さい。そして、位置CS1よりも焦点位置Fに近い位置CS2において断面積が小さくなり、かつ光強度が大きくなる。焦点位置FのCS3において、光束の断面積は最小となり、光強度は最大となる。そして、焦点位置Fを超えると、位置CS4に示すように、断面積が大きくなり、光強度も小さくなる。各位置CS1~CS4における光強度プロファイルはすべてガウシアン分布である。
【0063】
このように、レーザ光LBの照射方向の各位置における光強度プロファイルは、焦点位置Fを中心に対称形をなし、焦点位置Fから上流側と下流側のそれぞれに向かうにつれて、光束の断面積が大きくなり、光強度は小さくなる。そのため、プラスチック材料に対する炭化エネルギーの分布も、こうした光強度プロファイルに従う。その結果、炭化ドット22Aも、焦点位置Fに対応する位置であるCDを中心とするラグビーボールのような形状となる。炭化ドット22Aにおいて、照射方向と直交する短手方向の長さは、中心CDの位置で最大となり、その長さが短径D1となる。短径D1は、ビームスポットのスポット径SDとほぼ同じ大きさとなる。そして、炭化ドット22Aにおいて、照射方向に沿った長手方向の長さも、中心CDの位置で最大となり、その長さが炭化ドット22Aの長径D2となる。このように、炭化ドット22Aは、レーザ光LBの照射方向に沿った方向が長手方向となり、長手方向に沿って切断した縦断面の形状は楕円形状になる。そして、炭化ドット22Aは、照射方向と直交する方向である短手方向に沿って切断した横断面の形状は、ビームスポットの断面形状と同様の円形となる。
【0064】
図17において、炭化ドット22Aは、突条部20の側壁面20Bに沿う方向からレーザ光LBを照射することにより形成される。
図16で示したとおり、炭化ドット22Aは照射方向が長手方向となるラグビーボールのような形状となるため、長手方向の縦断面は楕円形状となる。そのため、
図17Aに示すように、炭化ドット22Aは、側壁面20Bに沿う方向、すなわち突条部20の側壁面20Bの高さ方向が長手方向となる姿勢で形成される。
図17Aにおいては1つの炭化ドット22Aのみを示しているが、複数の炭化ドット22Aは、
図17Aに示した姿勢で配列されることになる。また、本例では、側壁面20Bが延びる方向が回折光学面18の光軸OAの方向と一致するため、
図17Bに示すように、光軸OA方向から見ると、炭化ドット22Aの形状は円形となる。
【0065】
これらの図から明らかなとおり、本例では、スポット径SDとほぼ同じ大きさの炭化ドット22Aの短径D1が、遮光膜22の膜厚FTとなる。なお、1つの炭化ドット22Aの短径D1が膜厚FTとなるのは、本例においては、回折光学面18の径方向(
図13及び
図17A参照)において、炭化ドット22Aの列が1列だけ形成されるためである。なお、炭化ドット22Aの列を径方向に並べて2列形成する場合は、短径D1の2倍が膜厚FTとなる。
【0066】
遮光膜22の膜厚FTは、遮光性能を確保可能な厚みにする必要があるが、必要以上に厚くなりすぎるのも好ましくない。というのも、膜厚FTが厚くなると、側壁面20Bに入射する入射光線のみならず、格子面20Aに入射する入射光線を遮光してしまうことになるからである。そのため、
図18に示すように、回折光学面18の径方向における突条部20の幅RWに対する遮光膜22の膜厚FTの割合としては、約10%以下(FT/RW≦10%)が好ましく、1%以下(FT/RW≦1%)がさらに好ましい。幅RWに対する膜厚FTの割合をこの程度の値にすることで、格子面20Aに入射する入射光線に対して遮光膜22が与える悪影響を抑制することができる。FT/RWが1%以下の数値例としては、例えば、突条部20の幅RWは、1000μm(マイクロメートル)程度で、遮光膜22の膜厚FTは、10μm(マイクロメートル)程度である。
【0067】
ここで、回折光学面18の径方向における境界領域BRの範囲は、以下のとおりである。まず、側壁面20B同士の境界線を基準とする径方向における幅をWH(
図18参照)とし、かつ、径方向の一方を正方向、他方を負方向として、側壁面20B同士の境界線を基準とする±WHの範囲を境界領域BRの範囲と定義する。そして、幅WHは、遮光膜22の膜厚FTと同様に、突条部20の幅RWに対する割合で定義される。突条部20の幅RWに対する幅WHの割合は、約10%(WH/RW=10%)である。また、境界領域BRの範囲内において、遮光膜22はできるだけ側壁面20Bの近くに配置されることが好ましい。というのも、側壁面20Bと遮光膜22の間隔が空くと、側壁面20Bに入射する光を遮光しにくくなるためである。そのため、側壁面20B同士の境界線を基準として、突条部20の幅RWに対して約1%の幅の範囲内に遮光膜22が形成されることが好ましい。
【0068】
図19は、遮光膜22の形成手順を示すフローチャートである。
図8に示した手順で回折格子部12が形成された回折レンズ10は、レーザ加工装置41のホルダ45にセットされる。この後、ステップS100において、レーザ加工装置41は、移動ステージ44を介して、レーザ照射部42に対して回折レンズ10を移動させることにより、レーザ光LBの焦点位置Fを初期位置にセットする。焦点位置Fは、回折レンズ10の内部の側壁面20Bの境界領域BRに設定される。
【0069】
そして、ステップS200において、レーザ加工装置41は、レーザ光LBのパルス照射と焦点位置Fの走査を開始する。レーザ照射部42は、予め設定された繰り返し周波数でパルスレーザ光を照射する。パルスレーザ光が境界領域BRに照射されると、プラスチック製の回折格子部12内の焦点位置Fにおいて炭化が生じることにより、炭化ドット22Aが形成される。本例においては、1回のパルス照射により、1つの炭化ドット22Aが形成される。移動ステージ44は、予め設定された回転数で回転ステージ44Aを回転させ、かつ、予め設定されたタイミングで3軸ステージ44Bを移動させる。これにより、
図10、
図14及び
図15に示すような焦点位置Fの走査が行われる。
【0070】
ステップS300において、レーザ加工装置41は、焦点位置Fが最終位置まで終了したかを判定し、最終位置まで終了していない場合は(ステップS300でNO)、パルス照射と走査を継続し、最終位置まで終了した場合は(ステップS300でYES)、パルス照射と走査を終了する。このように、レーザ加工装置41は、側壁面20B同士の境界領域BRの高さ方向及び周方向に焦点位置Fを走査させることにより、境界領域BRの全周に渡って遮光膜22を形成する。
【0071】
以上説明したとおり、本例のレーザ加工装置41は、同心円状に複数の突条部20が配列され、径方向の断面形状が鋸歯状の回折光学面18をそれぞれ有する1対の回折格子層12A及び12Bであって、プラスチックで形成された1対の回折格子層12A及び12Bを備え、回折光学面同士の凹凸が嵌合した複層型回折光学素子の一例である回折レンズ10に対して、遮光膜22を形成する。レーザ加工装置41は、この遮光膜形成方法において、突条部20の稜線20Cから延びる2つの斜面のうちの一方の斜面を格子面20A、他方の斜面を側壁面20Bとした場合に、嵌合した状態の1対の回折光学面18において対面する側壁面20B同士の境界領域BRに、レーザ光LBを用いて回折格子層12A及び12Bの一部を炭化させることにより、回折光学面18に入射する入射光のうち境界領域BRを透過する透過光を遮光する遮光膜22を形成する。
【0072】
このように、本例の遮光膜形成方法では、プラスチックで形成された回折格子層12A及び12Bの一部を炭化させることにより遮光膜22を形成するから、蒸着法及び塗布法などの従来の製法と比較して、簡単に形成することができる。すなわち、蒸着法及び塗布法では、回折格子層12A及び12Bとは別に遮光膜22を形成する専用の材料が必要になる他、遮光膜22を形成する領域以外を覆うマスクの形成及びマスクの除去の工程が必要になるなど、遮光膜22の形成方法が比較的複雑である。本開示の技術に係る製法によれば、回折格子層12A及び12Bの一部を炭化させることにより遮光膜22を形成するため、専用の材料が不要である。また、レーザ光LBを照射することにより炭化を行うため、処理手順も簡便である。そのため、従来の製法と比較して簡単に形成することができる。また、これらのメリットは低コスト化にも寄与する。
【0073】
また、本例の遮光膜形成方法は、境界領域BRの一部にレーザ光LBを照射することにより、プラスチック製の回折格子層12A及び12Bの一部が炭化した炭化領域(一例として炭化ドット22A)を形成すること、及び回折光学面18の面内において、境界領域BRの周方向に沿って、レーザ光LBの焦点位置Fを変化させながら、周方向に炭化領域を展開させることにより、境界領域BRの全周に渡って遮光膜22を形成することを含む。このように、炭化領域を部分的に形成し、これを展開させるため、遮光膜22を形成する領域が比較的に広い場合に有効である。
【0074】
また、本例の遮光膜形成方法は、レーザ加工装置41を用いて、回折光学面18と対向する方向からレーザ光LBを照射する。そのため、回折光学面18と対向しない方向からレーザ光を照射する場合と比較して、回折光学面18の面内におけるレーザ光LBの入射位置及び入射角の制御が簡便になる。そのため、回折光学面18内において同心円状に複数の突条部20がある場合に有効である。
【0075】
また、本例の遮光膜形成方法は、レーザ加工装置41を用いて、突条部20の側壁面20Bに沿う方向からレーザ光LBを照射する。炭化領域(一例として炭化ドット22A)は、
図16及び
図17に示すように、レーザ光LBの照射方向が長径D2で、照射方向と直交するレーザ光LBのスポット径の方向が短径D1となるラグビーボールのような形状となる。そのため、側壁面20Bに沿う方向からレーザ光LBを照射することにより、それ以外の方向から照射する場合と比較して、短径D1に相当する遮光膜の膜厚FTを薄くすることができる。
【0076】
上述したとおり、突条部20内において遮光膜22の膜厚FTが厚すぎると、格子面20Aに入射する入射光を遮光することにもなりかねず、複層型回折光学素子の光学性能の悪化を招くおそれもある。そのため、遮光膜22の膜厚FTは、遮光性能が確保できる範囲で、できるだけ薄く形成することが好ましい。そのため、膜厚FTを薄くする観点からは、本例のように、突条部20の側壁面20Bに沿う方向からレーザ光LBが照射されることが好ましい。
【0077】
また、上記実施形態において、レーザ光LBは、回折光学面18の光軸OAの方向に沿って照射される。突条部20の側壁面20Bは、光軸OAと略平行に形成される場合が多い。この場合は、回折光学面18の光軸OAの方向からレーザ光LBを照射すれば、膜厚FTが薄い遮光膜22を形成することができる。また、回折光学面18を光軸回りで回転させながら遮光膜22を形成する場合は、レーザ照射部42の照射方向の調整などを考慮すると、レーザ光LBの照射方向と光軸OAの方向とが一致していると、装置構成の簡略化の観点から好ましい。
【0078】
また、上記実施形態において、レーザ加工装置41は、回折光学面18の面内におけるレーザ光LBの1つの照射位置において、集光光学系43によってレーザ光LBを集光させた場合のレーザ光LBの焦点位置Fを、照射方向に延びる側壁面20Bの高さ方向に変化させながら、側壁面20Bの高さ方向に沿って炭化領域を展開する。そのため、レーザ光LBの焦点位置Fを変化させるという簡便な方法により、側壁面20Bの高さ方向に沿って、炭化領域(一例として炭化ドット22A)を展開することができる。
【0079】
また、上記実施形態において、レーザ光LBは、パルスレーザ光である。上述したとおり、パルス発振のパルスレーザ光は、連続発振のCWレーザ光と比較して、パワー密度を高くでき、短時間で炭化領域(一例として炭化ドット22A)の形成が可能である。
【0080】
また、上記実施形態において、レーザ光LBとしては、上述したとおり、パルスの時間幅であるパルス幅PWがピコ秒からフェムト秒の範囲内の超短パルスレーザ光である。パルス幅PWが短いほど、焦点位置Fにおけるビームスポットの周囲に対する熱拡散の影響が少ないため、パルス幅PWが長い場合と比べて、ビームスポットの周囲への炭化領域の広がりを抑制することができる。また、
図17に示したとおり、炭化ドット22Aの大きさは、遮光膜22の膜厚FTに影響する。そのため、超短パルスレーザ光を用いることにより、ビームスポットのスポット径SDの制御を通じて、遮光膜22の膜厚FTを正確にコントロールしやすい。
【0081】
また、上記実施形態において、レーザ加工装置41は、パルスレーザ光によってドット状の炭化領域である炭化ドット22Aを形成し、隣接する炭化ドット22A同士が部分的に重なる態様でパルス照射を繰り返す。これにより、炭化ドット22A同士の間に隙間が生じることが抑制されるため、遮光膜22の漏れ光が抑制されるので、遮光膜22の遮光性能を向上させることができる。さらに、隣接する炭化ドット22A間の隙間が生じないように、隣接する炭化ドット22A同士を重ねれば、より効果的である。
【0082】
また、上記実施形態において、レーザ加工装置41は、レーザ光LBを照射するレーザ照射部42を固定した状態で、複層型回折光学素子の一例である回折レンズ10を変位させることにより、レーザ光LBの焦点位置Fを移動させる。これによれば、レーザ照射部42を移動させなく済む。レーザ照射部42を移動させにくい構成の場合は有効である。
【0083】
また、上記実施形態に示したように、複層型回折光学素子の一例である回折レンズ10は、同心円状に複数の突条部20が配列され、径方向の断面形状が鋸歯状の回折光学面18をそれぞれ有する1対の回折格子層12A及び12Bであって、プラスチックで形成された1対の回折格子層12A及び12Bを備え、回折光学面18同士の凹凸が嵌合している。突条部20の稜線から延びる2つの斜面のうちの一方の斜面を格子面20A、他方の斜面を側壁面20Bとした場合に、嵌合した状態の1対の回折光学面18において対面する側壁面20B同士の境界領域BRには、回折格子層12A及び12Bの一部を炭化させた炭化領域(一例として炭化ドット22A)によって形成された遮光膜22であって、回折光学面に入射する入射光のうち境界領域BRを透過する透過光を遮光する遮光膜22が設けられている。
【0084】
このような複層型回折光学素子は、プラスチックで形成された回折格子層12A及び12Bの一部を炭化させた炭化領域によって遮光膜22が形成されているから、上述した遮光膜形成方法のメリットと同様に、蒸着法及び塗布法などによって遮光膜が形成された複層型回折光学素子と比較して、製造が簡単である。専用の材料が不要である点と処理手順の簡便さは、低コスト化にも寄与する。
【0085】
上記実施形態では、一例として示した炭化ドット22Aのように、炭化領域は複数のドットで形成されており、隣接するドット同士は一部重なり合った状態で配列されている。隣接するドット同士を一部重ねることで、ドット間の隙間からの漏光を抑制することができる。
【0086】
上記実施形態では、一例として示した炭化ドット22Aのように、複数のドットは、断面が楕円形状であり、かつ、側壁面20Bの高さ方向に長手方向が延びる姿勢で配列されている。境界領域BRにおいて、遮光膜22の膜厚FTは、側壁面20Bの高さ方向と直交する、回折光学面18の径方向の長さになる。そのため、複数のドットを上記姿勢で配列することにより、楕円形状の短手方向の短径D1を遮光膜22の膜厚FTとすることができるので、膜厚FTを薄くすることができる。上述したとおり、膜厚FTが厚すぎると、光学性能を低下させる要因となるため、膜厚FTを薄くできる上記構成が好ましい。
【0087】
上記実施形態では、突条部20において、回折光学面18の径方向における遮光膜22の膜厚FTは、突条部20の幅RWに対して、10%以下であり、より好ましくは、1%以下である。これにより、格子面20Aに入射する入射光線を遮光することを抑制しつつ、側壁面20Bへの入射光線を遮光することができる。これにより、フレア及びリング状のゴーストなどの原因となる不要光が抑制される。
【0088】
上記実施形態において、複層型回折光学素子の一例である回折レンズ10は、1対の回折格子層12A及び12Bを有する回折格子部12と、回折格子部12の両面とそれぞれ接合される1対のレンズ13及び14とを備えている。回折格子部12とレンズ13及び14とを組み合わせることで、回折作用と屈折作用との組み合わせが可能となり、回折光学素子としての光学性能を向上させることができる。
【0089】
(変形例1:遮光膜の形成位置)
本開示の技術は、上記実施形態に限らず
図20~
図24に示す種々の変形が可能である。
図20は、遮光膜22を形成する位置の変形例である。上記実施形態では、
図13Bに示すように、回折格子部12内の側壁面20Bの境界領域BRにおいて、1対の回折格子層12A及び12Bのうち、回折格子層12Bに遮光膜22を形成している。
図20Aに示す例は、回折格子層12Aに遮光膜22が形成されている。また、
図20Bに示すように、1対の回折格子層12A及び12Bに跨って遮光膜22が形成されていてもよい。このように、遮光膜22は、1対の回折格子層12A及び12Bの側壁面20B同士の境界領域BRに形成されていればよい。
【0090】
(変形例2:側壁面の傾きとレーザ光の照射方向)
図21に示す変形例では、格子面60Aと側壁面60Bを有する突条部60において、側壁面60Bが、回折レンズ10のZ方向に相当する高さ方向、すなわち、光軸OAに対して傾斜している。このように側壁面60Bが光軸OAに対して傾斜している場合は、突条部60の側壁面60Bに沿う方向からレーザ光LBが照射されることが好ましい。これにより、側壁面60Bに沿う方向と炭化ドット22Aの長手方向を一致させることができるため、レーザ光LBの照射方向が側壁面60Bに対して傾斜している場合と比較して、遮光膜22を側壁面60Bに近づけることができる。遮光膜22と側壁面60Bとが離れすぎると、側壁面60Bからの不要光が生じやすくなる。遮光膜22を側壁面60Bに近づけることで不要光を抑制することができる。
【0091】
(変形例3:炭化ドットの姿勢)
上記実施形態では、
図17に示すように、炭化ドット22Aは、長手方向が側壁面20Bに沿う姿勢で形成されているが、
図22に示すように、炭化ドット22Aは、長手方向が側壁面20Bと直交する方向、すなわち、回折レンズ10の径方向に沿う姿勢で形成されてもよい。
図22Aは、
図17Aと同様に、突条部20を、高さ方向及び径方向のそれぞれと直交する方向から見た場合の炭化ドット22Aの姿勢を示している。
図22Bは、
図17Bと同様に、突条部20を光軸OAの方向から見た場合の炭化ドット22Aの姿勢を示している。
図22に示すように、炭化ドット22Aの長手方向を側壁面20Bと直交させた場合は、炭化ドット22Aの長径D2が、遮光膜22の膜厚FTとなる。
図22に示すように炭化ドット22Aを形成してもよいが、上述したとおり、遮光膜22の膜厚FTが厚すぎると、悪影響もあるため、
図17に示すような姿勢で炭化ドット22Aを形成することが好ましい。
【0092】
(変形例4:走査方法の変形例)
図23は、レーザ光LBを走査する走査機構としてガルバノミラー83及び84を用いた走査機構81を示す。走査機構81は、一例として、レーザ光LBをコリメートするコリメータ82、ガルバノミラー83及び84、及び集光光学系85を備えている。ガルバノミラー83及び84は、それぞれレーザ光LBを反射するミラー部と、ミラー部の姿勢を軸回りに回転させる機構とを備えている。ガルバノミラー83及び84のそれぞれのミラー部の姿勢を回転させることにより、レーザ光LBの焦点位置Fを走査することができる。走査機構81は、レーザ照射部42に組み込まれている。すなわち、本例では、複層型回折光学素子の一例である回折レンズ10を固定した状態で、走査機構81を含むレーザ照射部42を変位させることにより、レーザ光LBの焦点位置Fを移動させる。これにより、回折レンズ10を移動させることなく、焦点位置Fの走査が可能となる。この例は、例えば、回折レンズ10が大型の場合など、回折レンズ10を移動させにくい場合に有効である。
【0093】
(変形例5:CWレーザ光)
上記実施形態では、
図11に示したとおり、レーザ光LBとしてパルスレーザ光を使用した例で説明したが、
図24に示すように、レーザ光LBとしてはCWレーザ光を使用してもよい。もちろん、上述のとおり、パルスレーザ光には種々のメリットがあるため、CWレーザ光よりもパルスレーザ光を用いることが好ましい。
【0094】
(変形例6:回折格子部の形成方法)
上記実施形態では、
図8に示したように、一方の回折格子層12Bを形成した後に、回折格子層12Bを金型として利用して、他方の回折格子層12Aを形成する例で説明したが、回折格子部12は次のように形成してもよい。すなわち、回折格子層12Bに加えて、回折格子層12Aについても金型31を使用して形成する。そして、1対の回折格子層12A及び12Bをそれぞれ形成した後に、それぞれの回折光学面18を接着剤で貼り合わせてもよい。1対の回折格子層12A及び12Bは、接着剤で貼り合わせ後において、回折光学面18が嵌合した状態となる。
【0095】
(変形例7:用途)
また、上記例において、回折レンズ10を、
図1に示す撮影光学系110のようなカメラ用のズームレンズに適用した例で説明したが、プロジェクタの投写光学系に適用してもよい。
【0096】
(変形例8:遮光膜の形成領域)
また、同心円状に形成される複数の突条部20の一部に遮光膜22を形成してもよいし、全部に遮光膜22を形成してもよい。例えば、回折光学面18のうち有効径の範囲内にある突条部のみに遮光膜22を形成してもよい。有効径は、例えば複層型回折光学素子がカメラ及びプロジェクタなどの光学系に組み込まれる場合は、結像に寄与する光線が入射する範囲に対応するレンズの直径をいう。
【0097】
(変形例9:レンズの枚数)
複層型回折光学素子の一例として、2枚のレンズ13及び14を有する回折レンズ10を例に説明したが、例えば、3枚以上のレンズを有していてもよい。また、レンズは1枚だけでもよい。この場合は、例えば、回折格子部12の一方の面はレンズ面を持たない透明なガラス基板と接合される。つまり、レンズの枚数は何枚でもよく、複層型回折光学素子は、1対の回折格子層12A及び12Bを有していればよい。
【0098】
なお、本開示の技術は、上述の実施形態と種々の変形例を適宜組み合わせることも可能である。また、上記実施形態に限らず、要旨を逸脱しない限り種々の構成を採用し得ることはもちろんである。
【0099】
以上に示した記載内容及び図示内容は、本開示の技術に係る部分についての詳細な説明であり、本開示の技術の一例に過ぎない。例えば、上記の構成、機能、作用、及び効果に関する説明は、本開示の技術に係る部分の構成、機能、作用、及び効果の一例に関する説明である。よって、本開示の技術の主旨を逸脱しない範囲内において、以上に示した記載内容及び図示内容に対して、不要な部分を削除したり、新たな要素を追加したり、置き換えたりしてもよいことはいうまでもない。また、錯綜を回避し、本開示の技術に係る部分の理解を容易にするために、以上に示した記載内容及び図示内容では、本開示の技術の実施を可能にする上で特に説明を要しない技術常識等に関する説明は省略されている。
【0100】
本明細書において、「A及び/又はB」は、「A及びBのうちの少なくとも1つ」と同義である。つまり、「A及び/又はB」は、Aだけであってもよいし、Bだけであってもよいし、A及びBの組み合わせであってもよい、という意味である。また、本明細書において、3つ以上の事柄を「及び/又は」で結び付けて表現する場合も、「A及び/又はB」と同様の考え方が適用される。
【0101】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願及び技術規格は、個々の文献、特許出願及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0102】
10 回折レンズ
12 回折格子部
12A、12B 回折格子層
13、14 レンズ
18 回折光学面
20 突条部
20A 格子面
20B 側壁面
20C 稜線
22 遮光膜
22A 炭化ドット
31 金型
32、33 プラスチック材料
41 レーザ加工装置
42 レーザ照射部
43 集光光学系
44 移動ステージ
44A 回転ステージ
44B 3軸ステージ
45 ホルダ
60 突条部
60A 格子面
60B 側壁面
81 走査機構
82 コリメータ
83、84 ガルバノミラー
85 集光光学系
110 撮影光学系
111 イメージセンサ
120 凸レンズ
200 回折レンズ
BR 境界領域
CD 中心
CS1、C2、CS3、CS4 位置
D1 短径
D2 長径
F 焦点位置
FT 膜厚
G1 第1レンズ群
G2 第2レンズ群
G3 第3レンズ群
LB レーザ光
OA 光軸
PW パルス幅
R1 入射光線
R1A 出射光線
R2 入射光線
R2A 出射光線
R3 入射光線
R3B 出射光線
R4 入射光線
R4B 出射光線
RW 突条部の幅
S 断面積
SD スポット径
SR 光線
UV 紫外線