IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特開2022-153144脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153144
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/07 20060101AFI20221004BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08J3/07
C08J3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056231
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 隆志
(72)【発明者】
【氏名】赤▲崎▼ 浩二朗
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA41
4F070AB01
4F070AB23
4F070AC56
4F070AE08
4F070CA01
4F070CB03
4F070CB12
4F070GA05
4F070GA06
4F070GC01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】粒子径が小さく、円形度の高い脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】脂環式構造含有重合体を、有機溶媒に溶解させることで、溶液(a)を得る溶解工程と、(a)に、ラジカル発生剤を添加し、溶液(b)を得るラジカル発生剤添加工程と、分散剤を含有する水系媒体と、前記溶液(b)とを混合し、乳化させることで、乳化液(c)を得る乳化工程と、前記乳化液(c)を加熱温度T[℃]で加熱することにより、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を含有するスラリーを得る架橋工程と、前記乳化液(c)または前記スラリーを加熱温度T[℃]で加熱することで、有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程と、前記脂環式構造含有架橋重合体の粒子を回収する回収工程と、を備え、前記加熱温度Tが、前記ラジカル発生剤の10時間半減期温度以上の温度であり、前記有機溶媒除去工程における前記加熱温度Tが40~95℃である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造含有重合体を、溶解用の有機溶媒に溶解させることで、溶液(a)を得る溶解工程と、
前記溶解工程で得られた前記溶液(a)に、ラジカル発生剤を添加することで、溶液(b)を得るラジカル発生剤添加工程と、
分散剤を含有する水系媒体と、前記溶液(b)とを混合し、乳化させることで、乳化液(c)を得る乳化工程と、
前記乳化液(c)を加熱温度T[℃]で加熱することにより、前記水系媒体中で、前記脂環式構造含有重合体を架橋させ、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を含有するスラリーを得る架橋工程と、
前記架橋工程の前または後に、前記乳化液(c)または前記スラリーを加熱温度T[℃]で加熱することで、前記乳化液(c)または前記スラリー中の有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程と、
前記スラリーから、前記脂環式構造含有架橋重合体の粒子を回収する回収工程と、を備え、
前記架橋工程における前記加熱温度Tが、前記ラジカル発生剤の10時間半減期温度以上の温度であり、前記有機溶媒除去工程における前記加熱温度Tが40~95℃である脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法。
【請求項2】
前記乳化液(c)が、前記溶解工程で用いた前記溶解用の有機溶媒とは、別の添加用の有機溶媒をさらに含有する請求項1に記載の脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法。
【請求項3】
前記溶解用の有機溶媒のSP値と、前記添加用の有機溶媒のSP値との差の絶対値が、0.2~14MPa1/2である請求項2に記載の脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法。
【請求項4】
体積平均粒子径が0.5~100μmであり、かつ平均円形度が0.90~1.00である脂環式構造含有架橋重合体の粒子。
【請求項5】
周波数1Hzで動的粘弾性測定を行うことにより得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線における、200℃における損失正接(tanδ)を「tanδ(200)」とし、250℃における損失正接(tanδ)を「tanδ(250)」としたときに、下記式(1)を満たす請求項4に記載の脂環式構造含有架橋重合体の粒子。
{tanδ(200)-tanδ(250)}/50>0 (1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種重合体からなる重合体粒子は、光拡散剤、粉体塗料、トナー用材料、インク、液晶ディスプレイ用などのスペーサー、充填材、ブロッキング防止剤、潤滑剤成分、立体物造形用粉末等として用いられている。
【0003】
このような重合体粒子として、ガラス転移温度、および光線透過率が高く、しかも屈折率の異方性が小さいことから光学用途に好適であるという観点より、環状オレフィン系樹脂などの脂環式構造含有合体の粒子が着目されている。たとえば、特許文献1では、環状オレフィン系樹脂を有機溶媒に溶解する工程1と、工程1で得られた溶液aを、界面活性剤を0~20質量%含有する水溶液b中で乳化させる工程2と、工程2で得られた乳化液中に分散した環状オレフィン系樹脂粒子を回収し乾燥する工程3とを有する環状オレフィン系樹脂粒子の製造方法が提案されている。
【0004】
一方で、近年、重合体粒子には、各種用途において、高い要求特性を満たすべく、円形度が高いことが求められている。その一方で、特許文献1に記載の方法では、得られる環状オレフィン系樹脂粒子は、円形度が低く、このような要求を満たすことができないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-59360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、粒子径が小さく、円形度の高い脂環式構造含有架橋重合体の粒子を製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、脂環式構造含有重合体を、有機溶媒に溶解させ、次いで、ラジカル発生剤を添加することにより得られた溶液を、分散剤を含有する水系媒体中に乳化させることで、乳化液とし、乳化液の状態にて、特定の加熱温度で、脂環式構造含有重合体を架橋させることにより、粒子径が小さく、円形度の高い脂環式構造含有架橋重合体の粒子を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、脂環式構造含有重合体を、溶解用の有機溶媒に溶解させることで、溶液(a)を得る溶解工程と、
前記溶解工程で得られた前記溶液(a)に、ラジカル発生剤を添加することで、溶液(b)を得るラジカル発生剤添加工程と、
分散剤を含有する水系媒体と、前記溶液(b)とを混合し、乳化させることで、乳化液(c)を得る乳化工程と、
前記乳化液(c)を加熱温度T[℃]で加熱することにより、前記水系媒体中で、前記脂環式構造含有重合体を架橋させ、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を含有するスラリーを得る架橋工程と、
前記架橋工程の前または後に、前記乳化液(c)または前記スラリーを加熱温度T[℃]で加熱することで、前記乳化液(c)または前記スラリー中の有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程と、
前記スラリーから、前記脂環式構造含有架橋重合体の粒子を回収する回収工程と、を備え、
前記架橋工程における前記加熱温度Tが、前記ラジカル発生剤の10時間半減期温度以上の温度であり、前記有機溶媒除去工程における前記加熱温度Tが40~95℃である脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法において、前記乳化液(c)が、前記溶解工程で用いた前記溶解用の有機溶媒とは、別の添加用の有機溶媒をさらに含有することが好ましい。
本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法において、前記溶解用の有機溶媒のSP値と、前記添加用の有機溶媒のSP値との差の絶対値が、0.2~14MPa1/2であることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、体積平均粒子径が0.5~100μmであり、かつ平均円形度が0.90~1.00である脂環式構造含有架橋重合体の粒子が提供される。
本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子は、周波数1Hzで動的粘弾性測定を行うことにより得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線における、200℃における損失正接(tanδ)を「tanδ(200)」とし、250℃における損失正接(tanδ)を「tanδ(250)」としたときに、下記式(1)を満たすものであることが好ましい。
{tanδ(200)-tanδ(250)}/50>0 (1)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粒子径が小さく、円形度の高い脂環式構造含有架橋重合体の粒子を製造するための方法、および、このような製造方法を用いて得られた脂環式構造含有架橋重合体の粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法>
本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法は、
脂環式構造含有重合体を、溶解用の有機溶媒に溶解させることで、溶液(a)を得る溶解工程と、
前記溶解工程で得られた前記溶液(a)に、ラジカル発生剤を添加することで、溶液(b)を得るラジカル発生剤添加工程と、
分散剤を含有する水系媒体と、前記溶液(b)とを混合し、乳化させることで、乳化液(c)を得る乳化工程と、
前記乳化液(c)を加熱温度T[℃]で加熱することにより、前記水系媒体中で、前記脂環式構造含有重合体を架橋させ、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を含有するスラリーを得る架橋工程と、
前記架橋工程の前または後に、前記乳化液(c)または前記スラリーを加熱温度T[℃]で加熱することで、前記乳化液(c)または前記スラリー中の有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程と、
前記スラリーから、前記脂環式構造含有架橋重合体の粒子を回収する回収工程と、を備え、
前記架橋工程における前記加熱温度Tが、前記ラジカル発生剤の10時間半減期温度以上の温度であり、前記有機溶媒除去工程における前記加熱温度Tが40~95℃であるものである。
【0013】
<溶解工程>
本発明の製造方法における溶解工程は、脂環式構造含有重合体を、溶解用の有機溶媒に溶解させることで、溶液(a)を得る工程である。
【0014】
脂環式構造含有重合体としては、重合体の構造単位中に脂環式構造を有する重合体であり、主鎖に脂環式構造を有する重合体、および、側鎖に脂環式構造を有する重合体のいずれであてもよいが、機械的強度および耐熱性に優れるという観点より、主鎖に脂環式構造を含有する重合体が好ましい。
【0015】
脂環式構造としては、たとえば、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などが挙げられる。中でも、機械的強度および耐熱性に優れるという観点より、シクロアルカン構造およびシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0016】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。
【0017】
脂環式構造含有重合体としては、たとえば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン重合体、環状共役ジエン重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、および、これらの水素添加物を挙げることができる。これらの中でも、耐熱性および低吸湿性に優れることから、ノルボルネン系重合体が好適である。
【0018】
ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン類に由来する構造単位を20モル%以上含有する重合体、またはその水素化物であることが好ましく、ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン類以外の化合物に由来する構造単位を含むものであってもよい。
【0019】
ノルボルネン類由来の構造単位を形成しうる、ノルボルネン類としては、特に限定されないが、後述する架橋工程において、好適に架橋反応を行うことができるという点より、少なくとも、架橋性を示すノルボルネン類を用いることが好ましい。架橋性を示すノルボルネン類としては、特に限定されないが、ノルボルネン構造以外の部分に、炭素-炭素二重結合を有するノルボルネン類(たとえば、ビニル基、アルキリデン基、アクリロイル基、またはメタクリロイル基を有するノルボルネン類)や、ノルボルネン構造以外の部分に、3級炭素を有するノルボルネン類などが挙げられる。架橋性を示すノルボルネン類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ノルボルネン構造以外の部分に、炭素-炭素二重結合を有するノルボルネン類の具体例としては、たとえば、5-メタクリロキシ-2-ノルボルネン、5-メタクリロキシメチル-2-ノルボルネン、5-(2-メタクリロキシエチル)-2-ノルボルネン、5-(3-メタクリロキシプロピル)-2-ノルボルネン、5-(4-メタクリロキシブチル)-2-ノルボルネン、5-(5-メタクリロキシペンチル)-2-ノルボルネン等のメタクリロイル基を有する2環のノルボルネン類;
5-アクリロキシ-2-ノルボルネン、5-アクリロキシメチル-2-ノルボルネン、5-(2-アクリロキシエチル)-2-ノルボルネン、5-(3-アクリロキシプロピル)-2-ノルボルネン、5-(4-アクリロキシブチル)-2-ノルボルネン、5-(5-アクリロキシペンチル)-2-ノルボルネン等のアクリロイル基を有する2環のノルボルネン類;
5-メチリデン-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-n-プロピリデン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、5,6-ジエチリデン-2-ノルボルネン等のアルキリデン基を有する2環のノルボルネン類;
ジシクロペンタジエン等の3環のノルボルネン類;
9-メチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチリデン-10-メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチリデン-10-エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチリデン-10-イソプロピルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチリデン-10-ブチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン(エチリデンテトラシクロドデセン)、9-エチリデン-10-メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチリデン-10-エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチリデン-10-イソプロピルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチリデン-10-ブチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-n-プロピリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-n-プロピリデン-10-メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-n-プロピリデン-10-エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-n-プロピリデン-10-イソプロピルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-n-プロピリデン-10-ブチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-イソプロピリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-イソプロピリデン-10-メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-イソプロピリデン-10-エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-イソプロピリデン-10-イソプロピルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-イソプロピリデン-10-ブチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-ビニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-プロペニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エンなどのアルキリデン基を有する4環のノルボルネン類;
などが挙げられる。
【0021】
また、ノルボルネン構造以外の個所に、3級炭素を有するノルボルネン類としては、例えば、下記一般式(1)~(4)に示すような構造を有するノルボルネン類であって、ノルボルネン構造以外の個所に、3級炭素を有するものなどが挙げられる。
【化1】
式中、R~Rは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、および、有機基からなる群より選ばれるものであり、R~Rの少なくとも1個は水素原子でない。RとR 、RとRは、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、RまたはRと、RまたはRとは、互いに環を形成していてもよい。また、nは、1~2の整数を示す。R~Rは、たとえば、アルキル基、アルケニル基などの鎖状炭化水素基、カルボニル基、ニトリル基が挙げられる。
【0022】
また、ノルボルネン類由来の構造単位を形成しうる、ノルボルネン類としては、上記した架橋性を示すノルボルネン類以外のノルボルネン類を用いることができ、たとえば、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、5-エチル-2-ノルボルネン、5-プロピル-2-ノルボルネン、5-フェニル-2-ノルボルネン、5,6-ジメチル-2-ノルボルネン、5,5,6-トリメチル-2-ノルボルネンなどの2環のノルボルネン類;1,2-ジヒドロジシクロペンタジエンなどの3環のノルボルネン類;テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン(テトラシクロドデセン、TCD)、9-メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9,10-ジメチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン(MTF)などの4環のノルボルネン類;トリシクロペンタジエンなどの5環のノルボルネン類;などが挙げられる。
架橋性を示すノルボルネン類以外のノルボルネン類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン類由来の構造単位を20モル%以上含有する重合体またはその水素化物であればよく、たとえば、ノルボルネン類由来の構造単位を含有する付加重合体およびその水素化物(以下、「ノルボルネン系付加重合体」と称する。)、ノルボルネン類由来の構造単位を含有する開環重合体およびその水素化物(以下、「ノルボルネン系開環重合体」と称する。)のいずれであってもよいが、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、および軽量性により優れるという観点より、ノルボルネン類由来の構造単位を含有する開環重合体の水素化物が好適である。
【0024】
ノルボルネン系付加重合体としては、ノルボルネン類の付加重合体、ノルボルネン類とこれと付加共重合可能なその他の化合物との付加重合体、または、これらの水素化物が挙げられる。
【0025】
ノルボルネン系付加重合体の調製に用いうるノルボルネン類としては、特に限定されないが、上述したノルボルネン類を用いることができる。これらのノルボルネン類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ノルボルネン類としては、架橋性を示すノルボルネン類を少なくとも含むものを用いることが好ましく、アルキリデン基を有するノルボルネン類を少なくとも含むものを用いることがより好ましく、9-エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン(エチリデンテトラシクロドデセン)を少なくとも含むものを用いることがより好ましい。
【0026】
ノルボルネン系付加重合体の調製に用いうるその他の化合物としては、ノルボルネン類と付加共重合可能な化合物であれば特に限定されず、たとえば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンなどの炭素数2~20のα-オレフィン;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロドデセン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ-4-エン(トリシクロウンデセン)、およびこれらの誘導体などの、ノルボルネン類以外のシクロオレフィン類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β-エチレン性不飽和ニトリル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸化合物およびそのエステル化合物;などが挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系付加重合体の重合容易性の観点から、炭素数2~20のα-オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0027】
ノルボルネン系付加重合体中の、ノルボルネン類由来の構造単位の含有割合は、20モル%以上であり、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上であり、実質的にノルボルネン類由来の構造単位のみかなるものであること(すなわち、ノルボルネン類由来の構造単位の含有割合が、100モル%であること)が、特に好ましい。
【0028】
ノルボルネン系付加重合体を調製する方法は、特に限定されず、上述したノルボルネン類、および任意にその他の化合物を含む単量体組成物を付加重合し、さらに必要に応じて水素添加を行うことで、得ることができる。なお、付加重合および水素添加は、何れも既知の方法を用いて行うことができる。たとえば、付加重合は、特開2008-144013号公報に記載の方法を用いて行うことができる。
【0029】
ノルボルネン系開環重合体としては、ノルボルネン類の開環重合体、ノルボルネン類とこれと開環共重合可能なその他の化合物との開環重合体、または、これらの水素化物が挙げられる。
【0030】
ノルボルネン系開環重合体の調製に用いうるノルボルネン類としては、特に限定されないが、上述したノルボルネン類を用いることができる。これらのノルボルネン類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ノルボルネン類としては、架橋性を示すノルボルネン類を少なくとも含むものを用いることが好ましく、アルキリデン基を有するノルボルネン類を少なくとも含むものを用いることがより好ましく、9-エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン(エチリデンテトラシクロドデセン)を少なくとも含むものを用いることがより好ましい。
【0031】
ノルボルネン系開環重合体の調製に用いうるその他の化合物としては、ノルボルネン類と開環共重合可能な化合物であれば特に限定されず、たとえば、上記したノルボルネン系付加重合体の調製に用いうるその他の化合物と同様のものを用いることができる。
【0032】
ノルボルネン系開環重合体を調製する方法は、特に限定されず、上述したノルボルネン類、および任意にその他の化合物を含む単量体組成物を開環重合し、任意に水素添加を行うことで、得ることができる。なお、開環重合および水素添加は、何れも既知の方法を用いて行うことができる。たとえば、開環重合および水素添加は、特開2017-179001号公報に記載の方法を用いて行うことができる。
【0033】
また、溶解工程において用いる、溶解用の有機溶媒としては、脂環式構造含有重合体を溶解できるものであればよく、特に限定されないが、たとえば、石油エーテル、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどの環状炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、クロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロブタン、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサンなどのエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド類;などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、脂環式構造含有重合体の溶解性に優れるという観点より、環状炭化水素類が好ましく、シクロヘキサンがより好ましい。
【0034】
溶解工程における溶解用の有機溶媒の使用量は、特に限定されないが、脂環式構造含有重合体100重量部に対して、好ましくは300~2000重量部、より好ましくは400~1000重量部である。また、溶解工程における溶解用の有機溶媒の使用量としては、脂環式構造含有重合体を、溶解用の有機溶媒に溶解させることにより得られる溶液(a)中における、脂環式構造含有重合体の含有割合が、5~30重量%となる量とすることが好ましく、10~20重量%となる量とすることがより好ましい。
【0035】
溶解工程において、脂環式構造含有重合体を、溶解用の有機溶媒に溶解させる方法としては、特に限定されないが、溶解用の有機溶媒に、脂環式構造含有重合体を添加し、これらを混合する方法が挙げられる。
【0036】
<ラジカル発生剤添加工程>
本発明の製造方法におけるラジカル発生剤添加工程は、上記した溶解工程で得られた溶液(a)に、ラジカル発生剤を添加することで、溶液(b)を得る工程である。
【0037】
ラジカル発生剤としては、加熱によりラジカルを発生する化合物であればよく、特に限定されないが、取り扱い性の観点から10時間半減期温度が80℃以上のものが好ましく、120℃以上のものがより好ましい。このようなラジカル発生剤として、たとえば、ジクミルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)2,5-ジメチルヘキサン、2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)2,5-ジメチルヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキシド、イソプロピルクミル-t-ブチルパーオキシド、ビス(α-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルパーオキシド類;1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、エチル-3,3-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブチレート、3,3,6,6,9,9-ヘキサメチル-1,2,4,5-テトラオキシシクロノナンなどのパーオキシケタール類;ビス(t-ブチルパーオキシ)イソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシアセテートなどのパーオキシエステル類;t-ブチルハイドロパーオキシド、t-ヘキシルハイドロパーオキシド、クミンハイドロパーオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド、p-メンタンハイドロパーオキシドなどのハイドロパーオキシド類;2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタンなどのビベンジル化合物類;3,3,5,7,7-ペンタメチル-1,2,4-トリオキセパンなど;が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、ジアルキルパーオキシド類が好ましく、ジクミルパーオキシドがより好ましい。
【0038】
ラジカル発生剤の使用量は、溶液(a)中の脂環式構造含有重合体100重量部に対し、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~7重量部、さらに好ましくは1~6重量部である。ラジカル発生剤の使用量を上記範囲とすることにより、後述する架橋工程において、架橋反応を十分進行させ、かつ架橋反応終了後に、ラジカル発生剤が残存するおそれが小さく、予期せぬ副反応の進行をより適切に抑制することができる。
【0039】
また、ラジカル発生剤添加工程においては、溶液(a)に対し、ラジカル発生剤に加えて、架橋剤をさらに添加することが好ましい。架橋剤を添加することにより、得られる架橋後の脂環式構造含有架橋重合体の粒子の架橋構造をより緻密なものとすることができ、これにより、強度をより高めることができる。
【0040】
架橋剤としては、ジビニルベンゼン、ジビニルジフェニル、ジビニルナフタレン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N-ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジアリルフタレート、アリル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートなどの2官能の架橋剤;トリアリルイソシアネート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート及びこれらのエトキシ化体などの3官能以上の架橋剤;が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、3官能の架橋剤が好ましく、トリアリルイソシアネートがより好ましい。
【0041】
架橋剤の使用量は、溶液(a)中の脂環式構造含有重合体100重量部に対し、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~8重量部、さらに好ましくは0.65~5重量部である。架橋剤の使用量を上記範囲とすることにより、得られる架橋後の脂環式構造含有架橋重合体の粒子の強度の向上効果をより高めることができる。
【0042】
ラジカル発生剤添加工程において、上記した溶解工程で得られた溶液(a)に、ラジカル発生剤、および必要に応じて用いられる架橋剤を添加する方法としては、特に限定されないが、溶液(a)中に、ラジカル発生剤、および必要に応じて用いられる架橋を添加し、これらを混合する方法が挙げられる。
【0043】
<乳化工程>
本発明の製造方法における乳化工程は、分散剤を含有する水系媒体と、上記したラジカル発生剤添加工程において得られた溶液(b)とを混合し、乳化させることで、乳化液(c)を得る工程である。
【0044】
分散剤としては、特に限定されないが、有機分散剤、無機分散剤のいずれも用いることができる。有機分散剤としては、たとえば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ゼラチンなどの水溶性高分子;アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などの界面活性剤;等が挙げられる。また、無機分散剤としては、酸化アルミニウム、酸化チタン等の金属酸化物;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム等のリン酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化第二鉄等の金属水酸化物;シリカ、二酸化チタン、酸化アルミニウムなどの無機粒子;シリコーン、金属石鹸などが挙げられる。分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、有機分散剤が好ましく、最終的に得られる、架橋後の脂環式構造含有架橋重合体の粒子の粒子径をより小さなものとすることができるという点より、界面活性剤がより好ましい。
【0045】
アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
両性界面活性剤としては、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0046】
これら界面活性剤のなかでも、アニオン性界面活性剤が好ましく、脂肪酸カリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムがより好ましく、オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムがさらに好ましい。界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
水系媒体としては、水を単独で用いてもよいが、水に溶解可能な有機溶媒を併用することもできる。
【0048】
乳化工程において用いる、分散剤を含有する水系媒体は、水系媒体中に、分散剤を溶解または分散させることにより調製することができる。分散剤を含有する水系媒体中における、分散剤の含有割合は、特に限定されないが、好ましくは0.5~10重量%、より好ましくは1~8重量%である。分散剤の含有割合を上記範囲とすることにより、上記ラジカル発生剤添加工程において調製した溶液(b)を、分散剤を含有する水系媒体中において乳化させた際に、得られる乳化液(c)中における安定性により優れたものとすることができる。
【0049】
また、乳化工程において、分散剤を含有する水系媒体と、上記ラジカル発生剤添加工程において調製した溶液(b)とを混合する際における、これらの使用割合は、特に限定されないが、溶液(b)100重量部に対する、分散剤を含有する水系媒体の使用量を200~600重量部とすることが好ましく、300~500重量部とすることがより好ましい。
【0050】
分散剤を含有する水系媒体と、上記ラジカル発生剤添加工程において調製した溶液(b)とを混合し、乳化させ、これにより、乳化液(c)を得る際における、混合方法としては、特に限定されないが、乳化機を用いる方法が好ましい。乳化機としては、たとえば、商品名「ホモジナイザー」(IKA社製)、商品名「ポリトロン」(キネマティカ社製)、商品名「TKオートホモミキサー」(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化機;商品名「TKパイプラインホモミキサー」(特殊機化工業社製)、商品名「コロイドミル」(神鋼パンテック社製)、商品名「スラッシャー」(日本コークス工業社製)、商品名「トリゴナル湿式微粉砕機」(三井三池化工機社製)、商品名「キャビトロン」(ユーロテック社製)、商品名「マイルダー」(太平洋機工社製)、商品名「ファインフローミル」(太平洋機工社製)等の連続式乳化機などが挙げられる。
【0051】
また、本発明の製造方法においては、上記溶解工程で用いた、溶解用の有機溶媒とは別の有機溶媒を用い、これを添加用の有機溶媒とし、このような添加用の有機溶媒を、乳化工程において得られる乳化液(c)中に含有させることが好ましい。溶解用の有機溶媒とは別の添加用の有機溶媒を、乳化液(c)中に含有させることで、乳化液(c)中における、架橋前の脂環式構造含有重合体の粒子径を好適に制御することができ、これにより、最終的に得られる、架橋後の脂環式構造含有架橋重合体の粒子の粒子径より小さなものとすることができる。
【0052】
このような添加用の有機溶媒としては、溶解用の有機溶媒とは異なる別の種類の有機溶媒であればよいが、粒子径の制御をより好適に行うことができるという観点より、溶解用の有機溶媒のSP値と、添加用の有機溶媒のSP値との差の絶対値が、0.2~14MPa1/2であるような有機溶媒を用いることが好ましく、0.2~5MPa1/2であるような有機溶媒を用いることがより好ましく、1~3MPa1/2であるような有機溶媒を用いることがさらに好ましい。添加用の有機溶媒として、溶解用の有機溶媒のSP値と、添加用の有機溶媒のSP値との差の絶対値が上記範囲となるような有機溶媒を用いることにより、最終的に得られる、架橋後の脂環式構造含有架橋重合体の粒子の粒子径をより小さなものとすることができる。
【0053】
SP値は、たとえば、ハンセン溶解度パラメータ計算ソフトHSPiP(Version 5.3.03)に搭載されているデータベース値を用いることができる。あるいは、公知文献に記載がないものについては、SP値として、SP値のシミュレーションソフトであるAspen Plusを用いて推算した値を用いることができる。Aspen Plusにおける、SP値は、分子構造から見積もられる沸点、臨界点、臨界圧、蒸発エンタルピー、および液体モル体積から計算されるものである。また、溶解用の有機溶媒、添加用の有機溶媒の一方、あるいは、両方について、2種以上を混合したものを用いる場合には、各有機溶媒のSP値に体積比率を乗じたものを、加算することにより求められる値を、これらのSP値として採用すればよい。たとえば、第1の有機溶媒と、第2の有機溶媒との2種を混合した場合には、下記式にしたがって、混合溶媒のSP値を求めればよい。
SPMix=(SP×V)+(SP×V
(上記式中、SPMixは、混合溶媒のSP値、SPは、第1の有機溶媒のSP値、SPは、第2の有機溶媒のSP値、Vは、第1の有機溶媒の体積比率、Vは、第1の有機溶媒の体積比率であり、V+V=1である。)
【0054】
たとえば、溶解用の有機溶媒として、シクロヘキサン(SP値:16.8MPa1/2)を使用する場合には、添加用の有機溶媒としては、トルエン(SP値:18.2MPa1/2)、メチルエチルケトン(SP値:19.0MPa1/2)、酢酸エチル(SP値:18.6MPa1/2)、n-ヘキサン(SP値:14.9MPa1/2)、酢酸ブチル(SP値:17.0MPa1/2)などを好適に用いることができ、これらの中でも、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチルが好ましい。
【0055】
乳化液(c)中に、添加用の有機溶媒を含有させる方法としては、特に限定されないが、たとえば、以下の(α)の方法、(β)の方法、(γ)の方法が挙げられる。
・(α)の方法
分散剤を含有する水系媒体に、添加用の有機溶媒を添加し、乳化させることで、添加用の有機溶媒を含有する乳化液(c-1)を調製し、次いで、添加用の有機溶媒を含有する乳化液(c-1)に、上記ラジカル発生剤添加工程において調製した溶液(b)を添加し、乳化させることで、乳化液(c)を得る。
・(β)の方法
上記ラジカル発生剤添加工程において調製した溶液(b)に、添加用の有機溶媒を添加し、混合することで、添加用の有機溶媒を含有する溶液(b-1)を調製し、添加用の有機溶媒を含有する溶液(b-1)と、分散剤を含有する水系媒体とを混合し、乳化させることで、乳化液(c)を得る。
・(γ)の方法
分散剤を含有する水系媒体と、上記ラジカル発生剤添加工程において調製した溶液(b)とを混合し、乳化させる操作を行っている際に、添加用の有機溶媒を添加し、混合および乳化を継続することで、乳化液(c)を得る。
【0056】
上記(α)の方法、(β)の方法、(γ)の方法の中でも、添加用の有機溶媒を含有させることによる効果をより高めることができるという観点より、(α)の方法、(γ)の方法が好ましく、(α)の方法がより好ましい。
【0057】
添加用の有機溶媒の使用量は、溶解用の有機溶媒100重量部に対して、好ましくは1~300重量部であり、より好ましくは5~250重量部である。添加用の有機溶媒の使用量を上記範囲とすることにより、乳化液(c)中における、最終的に得られる、架橋後の脂環式構造含有架橋重合体の粒子の粒子径をより小さなものとすることができる。なお、添加用の有機溶媒を含有させる場合においても、分散剤の使用量や、分散剤を含有する水系媒体の使用量については、上記した範囲とすればよい。
【0058】
<架橋工程>
本発明の製造方法における架橋工程は、乳化液(c)を加熱温度T[℃]で加熱することにより、水系媒体中で、脂環式構造含有重合体を架橋させ、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を含有するスラリーを得る工程である。架橋工程においては、加熱温度Tは、ラジカル発生剤の10時間半減期温度以上の温度とする。
【0059】
架橋工程によれば、ラジカル発生剤の10時間半減期温度以上の温度にて、加熱することで、ラジカル発生剤の作用により、脂環式構造含有重合体を架橋させ、これにより、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を形成することができる。特に、本発明の製造方法においては、水系媒体中で、架橋を進行させるため、脂環式構造含有架橋重合体を、粒子径が小さく、かつ、円形度の高い粒子状の形態として得ることができるものである。
【0060】
架橋工程における、加熱温度T[℃]は、ラジカル発生剤の10時間半減期温度以上の温度とすればよいが、架橋反応をより適切に進行させるという観点より、ラジカル発生剤の10時間半減期温度+10℃以上、200℃以下とすることが好ましく、ラジカル発生剤の10時間半減期温度+20℃以上、180℃以下とすることがさらに好ましい。また、架橋工程における、加熱時間は、好ましくは2時間~12時間であり、より好ましくは3時間~5時間である。なお、架橋工程においては、水系媒体中で、架橋反応を進行させることから、架橋工程においては、通常、水系媒体および脂環式構造含有重合体の温度を、加熱温度T[℃]とすることにより、架橋反応を進行させるものである。
【0061】
また、架橋工程においては、水系媒体中で、架橋反応が進行するような方法にて、加熱を行えばよいが、たとえば、アンプルやオートクレーブなどの密閉容器中で、密閉した状態で加熱を行うなど、水系媒体の揮発が抑制された状態で加熱を行うことが望ましい。本発明の製造方法によれば、このように、水系媒体中で、架橋反応を進行させることにより、最終的に得られる脂環式構造含有架橋重合体の粒子を、粒子径が小さく、円形度の高いものとすることができるものである。また、本発明においては、架橋工程において、粒子状の状態にて、十分に架橋を進行させることができるため、これにより、最終的に得られる脂環式構造含有架橋重合体の粒子について、200℃における損失正接(tanδ)と、250℃における損失正接(tanδ)とが後述する所定の関係を好適に満たすものとすることができる。
【0062】
<有機溶媒除去工程>
本発明の製造方法における有機溶媒除去工程は、上記した架橋工程の前または後に、乳化液(c)またはスラリーを加熱温度T[℃]で加熱することで、乳化液(c)またはスラリー中の有機溶媒を除去する工程である。有機溶媒除去工程においては、加熱温度Tは、40~95℃とする。
【0063】
有機溶媒除去工程は、上記した架橋工程の前または後に行われる工程であり、乳化工程で得られた乳化液(c)、または、架橋工程において得られた脂環式構造含有架橋重合体の粒子を含有するスラリーについて、加熱温度Tにて加熱することにより、乳化液(c)またはスラリーに含まれている有機溶媒(溶解用の有機溶媒、添加用の有機溶媒)のうち、少なくとも一部を除去するものである。すなわち、有機溶媒除去工程においては、乳化液(c)またはスラリーに含まれている有機溶媒(溶解用の有機溶媒、添加用の有機溶媒)のうち、少なくとも一部を除去すればよく、必ずしも、全部が除去される必要はないが、乳化液(c)またはスラリーに含まれている有機溶媒(溶解用の有機溶媒、添加用の有機溶媒)のうち、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは実質的に全量(すなわち、100重量%)を除去することが好ましい。
【0064】
有機溶媒除去工程は、上記した架橋工程の前、あるいは、上記した架橋工程の後のいずれに行ってもよいが、最終的に得られる脂環式構造含有架橋重合体の粒子の円形度をより高めることができるという観点より、架橋工程の前に行うことが好ましい。なお、架橋工程の前に、有機溶媒除去工程を行う場合には、架橋工程の加熱温度Tと、有機溶媒除去工程の加熱温度Tとは、T>Tの関係とすることが望ましい。あるいは、架橋工程の後に、有機溶媒除去工程を行う場合には、T<Tの関係とすることが望ましい。また、ラジカル発生剤の10時間半減期温度が、有機溶媒除去工程の加熱温度Tの温度範囲である40~95℃の範囲にある場合には、T=Tとし、架橋工程と、有機溶媒除去工程とを同時に行ってもよい。すなわち、本発明の製造方法において、「架橋工程の前または後に、有機溶媒除去工程を行う」とは、「架橋工程と同時に、有機溶媒除去工程を行う」ことをも含むものである。
【0065】
有機溶媒除去工程における、加熱温度T[℃]は、40~95℃とすればよく、使用した有機溶媒の種類に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは60~95℃であり、より好ましくは80~92℃である。また、有機溶媒除去工程における、加熱時間は、好ましくは1~5時間であり、より好ましくは2~4時間である。
【0066】
<回収工程>
本発明の製造方法における回収工程は、上記した架橋工程および有機溶媒除去工程を経た、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を含有するスラリーから、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を回収する工程である。
【0067】
回収工程において、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を回収する方法としては、特に限定されないが、たとえば、脱水およびろ過によう方法などが挙げられる。脱水、ろ過の方法は、種々の公知の方法等を用いることができ、特に限定されない。たとえば、遠心ろ過法、真空ろ過法、加圧ろ過法等を挙げることができる。
【0068】
また、回収工程においては、洗浄操作を行った後、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を回収するような態様としてもよい。洗浄操作としては、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を含有するスラリーに対し、遠心分離操作を行い、上澄み溶液を取り除き、次いで、イオン交換水などの洗浄水を添加し、リスラリーする方法などが挙げられる。洗浄操作は複数回繰り返してもよい。
【0069】
回収工程においては、回収した脂環式構造含有架橋重合体の粒子について、必要に応じて乾燥を行ってもよい。乾燥温度は、好ましくは20~160℃、より好ましくは30~140℃、さらに好ましくは40~120℃である。乾燥温度を上記範囲とすることにより、回収した脂環式構造含有架橋重合体の粒子の融着を適切に抑制しながら、乾燥を十分に行うことができる。
【0070】
<脂環式構造含有架橋重合体の粒子>
本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子は、脂環式構造含有重合体の架橋物からなる粒子であり、体積平均粒子径が0.5~100μmであり、かつ平均円形度が0.90~1.00であるものである。
【0071】
本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子は、たとえば、上記した本発明の製造方法により得ることができるが、上記した本発明の製造方法により得られたものに特に限定されるものではない。
【0072】
本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子は、体積平均粒子径が0.5~100μmであり、好ましくは0.5~20μm、より好ましくは0.5~2.0μmである。脂環式構造含有架橋重合体の粒子の体積平均粒子径は、レーザ回析式粒度分布測定装置を用いたレーザ回折法などにより測定することができる。
【0073】
また、本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子は、平均円形度が0.90~1.00であり、好ましくは0.92~1.00、より好ましくは0.94~1.00である。平均円形度は、下記式で求められる円形度を、1,000個以上の粒子について求め、その平均値を算出することにより求めることができる。
円形度=(粒子の投影面積に等しい円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0074】
さらに、本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子は、周波数1Hzで動的粘弾性測定を行うことにより得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線における、200℃における損失正接(tanδ)を「tanδ(200)」とし、250℃における損失正接(tanδ)を「tanδ(250)」としたときに、下記式(1)を満たすものであることが好ましい。
{tanδ(200)-tanδ(250)}/50>0 (1)
【0075】
本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子は、脂環式構造含有重合体が架橋したものであるため、200℃以上に加熱した場合でも、加熱に伴う、動的粘弾性測定による損失正接(tanδ)の上昇が起こらず、200℃における損失正接(tanδ)と、250℃における損失正接(tanδ)とを比較すると、僅かに減少するものである。一方で、架橋が行われていない場合には、200℃以上に加熱すると、加熱による温度上昇に伴い、損失正接(tanδ)が急激に上昇し、これにより、250℃における損失正接(tanδ)の値が大きなものとなり、上記式(1)中の、「{tanδ(200)-tanδ(250)}/50」が、大きな負の値を示すものとなる。
【0076】
本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子は、体積平均粒子径および平均円形度が上記範囲にあり、粒子径が小さく、円形度の高いものであり、また、脂環式構造含有重合体が架橋した架橋物であることから、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れ、さらには、形状安定性にも優れるものである。そのため、本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子は、光拡散剤、粉体塗料、トナー用材料、インク、液晶ディスプレイ用などのスペーサー、充填材、ブロッキング防止剤、潤滑剤成分、立体物造形用粉末などとして好適に用いることができる。
【0077】
なお、本発明の脂環式構造含有架橋重合体の粒子は、上記した本発明の製造方法以外にも、たとえば、以下の製造方法によって製造してもよい。すなわち、
脂環式構造含有重合体を、溶解用の有機溶媒に溶解させることで、溶液(a)を得る溶解工程と、
前記溶解工程で得られた前記溶液(a)に、ラジカル発生剤を添加することで、溶液(b)を得るラジカル発生剤添加工程と、
分散剤を含有する水系媒体と、前記溶液(b)とを混合し、乳化させることで、乳化液(c)を得る乳化工程と、
前記乳化液(c)を加熱温度T[℃]で加熱することで、前記乳化液(c)中の有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程と、
有機溶媒を除去した前記乳化液(c)から、脂環式構造含有重合体の粒子を回収する回収工程と、
前記回収工程において、回収した前記脂環式構造含有重合体の粒子を、加熱温度T[℃]で加熱することにより、前記脂環式構造含有重合体を架橋させ、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を得る架橋工程と、を備え、
前記架橋工程における前記加熱温度Tが、前記ラジカル発生剤の10時間半減期温度以上の温度であり、前記有機溶媒除去工程における前記加熱温度Tが40~95℃である脂環式構造含有架橋重合体の粒子の製造方法により、製造してもよい。
【0078】
すなわち、上記製造方法においては、乳化液(c)中において、粒子状とされた脂環式構造含有重合体を回収し、回収した脂環式構造含有重合体の粒子を、ラジカル発生剤の10時間半減期温度以上の温度で加熱することにより、架橋反応を進行させ、これにより、脂環式構造含有架橋重合体の粒子を得るものである。
【実施例0079】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0080】
<体積平均粒子径(レーザ回折法)>
乳化液中の粒子、および、環状オレフィン樹脂架橋物の粒子の体積平均粒子径を、レーザ回析式粒度分布測定装置(商品名「SALD2200」、島津製作所社製)を用いて、測定した。なお、比較例1については、環状オレフィン樹脂架橋物の粒子が凝集固化したものであったため、環状オレフィン樹脂架橋物の粒子の体積平均粒子径については測定できなかった。
【0081】
<粒子径(光学顕微鏡)>
環状オレフィン樹脂架橋物の粒子について、光学顕微鏡にて観察を行い、100個の粒子について、粒子径の測定を行い、粒子径の大きさの分布(粒径範囲)を測定した。なお、比較例1については、環状オレフィン樹脂架橋物の粒子が凝集固化したものであったが、凝集固化した環状オレフィン樹脂架橋物を構成する各粒子の粒子径を、光学顕微鏡により観察、測定することで、粒子径の大きさの分布(粒径範囲)を求めた。
【0082】
<平均円形度>
容器中に、予めイオン交換水10mlを入れ、その中に分散剤として界面活性剤水溶液(富士フィルム社製、商品名:ドライウェル)0.2gを加え、さらに環状オレフィン樹脂架橋物の粒子0.2gを加え、超音波分散機で60W、3分間分散処理を行った。測定時の環状オレフィン樹脂架橋物の粒子濃度を3,000~10,000個/μLとなるように調整し、環状オレフィン樹脂架橋物の粒子1,000~10,000個についてフロー式粒子像分析装置(シスメックス社製、商品名:FPIA-2100)を用いて測定した。測定値から、平均円形度を求めた。
円形度は下記式に示され、平均円形度は、その平均値である。
円形度=(粒子の投影面積に等しい円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0083】
<粘弾性>
環状オレフィン樹脂架橋物の粒子(比較例1については、環状オレフィン樹脂架橋物の粒子の凝集固化体、比較例2については、固形の環状オレフィン樹脂)について、動的粘弾性測定を行うことにより、貯蔵弾性率(G’)、損失正接(tanδ)の温度依存性曲線を得て、200℃における損失正接(tanδ(200))、250℃における損失正接(tanδ(250))、および、{tanδ(200)-tanδ(250)}/50の値を求めた。
動的粘弾性測定は、回転平板型レオメータ(TAインスツルメント社製、ARES-G2)を使用し、クロスハッチプレートを用いて、下記条件にて行った。試験片は、トナーを8mmφの筒状の成型器に0.2g注ぎ、1.0MPaで30秒加圧し、厚み3mmで8mmφの円柱の成形体とすることで作製した。
(動的粘弾性測定の条件)
測定周波数:1Hz
サンプルセット:試験片(3mm厚)を8mmφプレートにて20g荷重で挟み、温度を160℃まで上げて、治具に試験片を融着させた後、120℃に戻し、昇温を開始した
昇温速度:5℃/分
測定温度範囲:120~250℃
【0084】
<ガラス転移温度>
環状オレフィン樹脂架橋物の粒子(比較例1については、環状オレフィン樹脂架橋物の粒子の凝集固化体)について、高速示差走査熱量測定により、昇温時および降温時のDSC曲線を得た。前記高速示差走査熱量計を用いた示差走査熱量測定(DSC)は、試料の前処理として、筆の毛先を使ってシリコンオイルをチップセンサーに塗布し、広げた。シリコンオイルをチップセンサーに塗布することで、測定後の環状オレフィン樹脂架橋物の粒子がチップセンサーに融着しないため、測定後の環状オレフィン樹脂架橋物の粒子を除去することができ、同じチップセンサーを再利用することが可能になる。その結果、ベースラインがサンプル間で安定することになり、再現性の良いデータが得られる。シリコンオイルを塗布したチップセンサーに、10粒程度の環状オレフィン樹脂架橋物の粒子(比較例1については、10粒に相当する量)を乗せ、当該環状オレフィン樹脂架橋物の粒子について、超高速DSC装置(メトラー・トレド社製、Flash DSC)を用いて、窒素気流下で、下記(1)~(5)の温度条件にて行った。
(1)0℃で0.1秒保持する。
(2)0℃から150℃まで1000K/秒で昇温する。
(3)150℃で60秒保持する。
(4)150℃から0℃まで-1000K/秒で降温する。
(5)0℃で1秒保持する。
環状オレフィン樹脂架橋物の粒子のガラス転移温度は、高速示差走査熱量測定における昇温時のDSC曲線において、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分、もしくはエンタルピー緩和による吸熱ピークの曲線のこう配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度とした。
【0085】
<製造例1>
(環状オレフィン樹脂の調製)
攪拌機付槽型反応器を十分に窒素置換し、この反応器に、エチリデンテトラシクロドデセン20部に、シクロヘキサン200部、1-ヘキセン2.0部、トリエチルアルミニウム15重量%トルエン溶液15部およびトリエチルアミン5.0部を加え、20℃に保ち、撹拌しながら、エチリデンテトラシクロドデセン80部および四塩化チタン20重量%トルエン溶液9.0部を60分にわたって連続的に加えた。その後、1時間反応させた後、エチルアルコール5.0部および水2.0部を加えて反応を停止させた。反応溶液を40℃に加温して触媒を加水分解した後、硫酸カルシウム3部およびシクロヘキサン60部を加え、過剰の水を除去した。析出した金属を含む沈殿物を濾過して除去し、エチリデンテトラシクロドデセン開環重合体を含む透明な重合体溶液371部を得た。この操作を繰り返し得た重合体溶液750部に、Ni-ケイソウ土触媒(日揮化学社製、N113)15部を添加し、耐圧反応容器に入れ、水素を導入して圧力50kg/cm、温度200℃で3時間水素添加反応を行った。反応終了後、シクロヘキサン700部を加えて希釈し、濾過により触媒を除き、開環重合体水素添加物含有重合体溶液1350部を得た。
【0086】
上記にて得られた開環重合体水素添加物含有重合体溶液800部を、活性アルミナ(水澤化学社製、ネオビードD)4.5部を充填した内径10cm、長さ100cmのカラムに滞留時間100秒になるように通過させて、24時間循環させた。この溶液550部をイソプロパノール1500部中へ撹拌しながら注ぎ、開環重合体水素添加物を凝固させた。凝固させた開環重合体水素添加物を濾過して回収し、イソプロパノール300部で2回洗浄した後、回転式減圧乾燥器中で5torr、120℃で48時間乾燥し、環状オレフィン樹脂を得た。
【0087】
<実施例1>
製造例1で得られた環状オレフィン樹脂を、シクロヘキサンに、環状オレフィン樹脂の濃度が20重量%となるように溶解させるこことで、溶液(a)(環状オレフィン樹脂20重量%シクロヘキサン溶液)を得た(溶解工程)。次いで、得られた溶液(a)258部に、ラジカル発生剤としてのジクミルパーオキシド(日本油脂社製、製品名「パークミル D」、10時間半減期温度:116.4℃)2.6部、架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート(東京化成工業社製)2.0部を添加することで、溶液(b)を得た(ラジカル発生剤添加工程)。
【0088】
次いで、イオン交換水1000部に対し、オレイン酸カリウム16重量%水溶液を73.1部、および、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王社製、製品名「ネオペレックス G-65」)9部を混合することで、分散剤水溶液を得て、得られた分散剤水溶液に、トルエン506部、メチルエチルケトン10部を添加し、乳化機(ユーロテック社製、製品名「キャビトロン」)にて、乳化することで、添加用の有機溶媒の乳化液を得た。そして、上記にて調製した添加用の有機溶媒の乳化液の全量(1598.1部)を、上記乳化機にて分散させた状態とし、分散中の添加用の有機溶媒の乳化液に対し、上記にて得られた溶液(b)の全量(262.6部)を添加し、混合すること乳化させ、乳化液(c)を得た(乳化工程)。
【0089】
次いで、得られた乳化液(c)の液中に、Nガスの噴き込みを行いながら、温度50℃から温度92℃まで、0.2℃/分の昇温速度にて昇温させた後、温度92℃で180分間加熱することで、有機溶媒を除去した後、水冷を行うことで、有機溶媒除去後の乳化液(c)を得た(有機溶媒除去工程)。なお、有機溶媒除去後の乳化液(c)は、用いた有機溶媒(シクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトン)のほぼ全量が除去されたものであった(後述する実施例2、比較例1においても同様。)。次いで、有機溶媒除去後の乳化液(c)をオートクレーブに入れ、Nガスをパージした後、オートクレーブ中で密閉を保った状態にて、140℃で、180分間加熱することで、環状オレフィン樹脂を架橋させ、環状オレフィン樹脂架橋物の粒子を含有するスラリーを得た(架橋工程)。
【0090】
次いで、得られた環状オレフィン樹脂架橋物を含有するスラリーについて、遠心分離操作を行うことにより、上澄み溶液を取り除き、イオン交換水を添加し、リスラリーする洗浄操作を4回繰り返し、次いで、乾燥操作を行うことで、環状オレフィン樹脂架橋物の粒子を得た(回収工程)。そして、乳化工程により得られた乳化液(c)中の粒子について、上記方法にしたがい、体積平均粒子径(レーザ回折法)の測定を行うとともに、得られた環状オレフィン樹脂架橋物の粒子について、上記方法にしたがい、体積平均粒子径(レーザ回折法)、粒子径(光学顕微鏡)、平均円形度、粘弾性、および、ガラス転移温度の各測定を行った。結果を表1に示す。
【0091】
<実施例2>
トリアリルイソシアヌレートの使用量を1.0部に変更するとともに、トルエン506部、およびメチルエチルケトン10部に代えて、トルエン466部、および酢酸エチル50部を使用した以外は、実施例1と同様にして、環状オレフィン樹脂架橋物の粒子を得て、同様に各測定を行った。
【0092】
<比較例1>
溶液(a)(環状オレフィン樹脂20重量%シクロヘキサン溶液)の使用量を516部に、ジクミルパーオキシドの使用量を2.3部に、トリアリルイソシアヌレートの使用量を1.0部にそれぞれ変更するとともに、トルエン506部、およびメチルエチルケトン10部に代えて、トルエン264部、および酢酸エチル32部を使用した以外は、実施例1と同様にして、有機溶媒除去後の乳化液(c)を得た。そして、得られた有機溶媒除去後の乳化液(c)について、Nガス雰囲気下で、120℃で、3.0時間の条件で乾燥機(オーブン)により、開放系にて加熱することで、環状オレフィン樹脂架橋物の粒子を得て、同様に各測定を行った。なお、比較例1においては、環状オレフィン樹脂架橋物の粒子が凝集固化した、凝集固化体の形態となった。また、比較例1においては、乾燥機(オーブン)による加熱開始に伴い、乳化液(c)が加熱され、乳化液(c)の加熱に伴い、乳化液(c)中の水が除去されていき、ラジカル発生剤としてのジクミルパーオキシドの10時間半減期温度である116.4℃よりも十分に低い温度において、完全に水が除去される結果となった。そのため、比較例1においては、水が完全に除去された状態において(すなわち、水系媒体が存在しない状態において)、環状オレフィン樹脂の架橋反応が進行したものといえる。
【0093】
<比較例2>
比較例2では、製造例1で得られた環状オレフィン樹脂を、そのまま使用し、同様に各測定を行った。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示すように、本発明の製造方法により得られた脂環式構造含有架橋重合体(環状オレフィン樹脂架橋物)の粒子は、粒子径が小さく、円形度の高いものであった(実施例1,2)。
一方、乾燥機(オーブン)により、開放系にて加熱することで、水が完全に除去された状態において(すなわち、水系媒体が存在しない状態において)、架橋を行った場合には、脂環式構造含有架橋重合体の粒子が凝集固化してしまい、粒子状の環脂環式構造含有架橋重合体(環状オレフィン樹脂架橋物)を得ることができないものであり、また、粘弾性測定による、200℃における損失正接(tanδ)、および250℃における損失正接(tanδ)についても、上記式(1)を満たさないものであった(比較例1)。