(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153156
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】シラン架橋樹脂成形体及びその製造方法、シラン架橋性樹脂組成物及びその製造方法、並びに製品
(51)【国際特許分類】
C08J 3/24 20060101AFI20221004BHJP
C08F 8/42 20060101ALI20221004BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20221004BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20221004BHJP
C08K 3/011 20180101ALI20221004BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08J3/24 A CES
C08J3/24 CET
C08F8/42
C08L23/26
C08L53/02
C08K3/011
H01B7/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056251
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100198328
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】芦川 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】西口 雅己
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J100
5G309
【Fターム(参考)】
4F070AA08
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5G309RA06
(57)【要約】
【課題】配線材等とした際に、極低温環境下における低温柔軟性と常温取り扱い性とに優れたシラン架橋樹脂成形体の製造方法、並びにこの製造方法により得られるシラン架橋樹脂成形体、これを用いた製品、このシラン架橋樹脂成形体の製造に好適な、シラン架橋性樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】密度0.890g/cm3未満で、ガラス転移温度-50℃以下のポリオレフィン樹脂10~50質量%と、密度0.890g/cm3未満で、ガラス転移温度が-50℃を超え-40℃以下のポリオレフィン樹脂3~10質量%と、スチレンエラストマーと、鉱物性オイルとを含有するベース樹脂を、有機過酸化物と、シランカップリング剤と、無機フィラーを含む、融点が250℃以上の成分とを特定量で溶融混合する工程を有する製造方法、これらにより製造されるシラン架橋性樹脂組成物及びシラン架橋樹脂成形体、並びに製品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有するシラン架橋樹脂成形体の製造方法であって、
工程(1):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.5質量部と、無機フィラーと、前記ベース樹脂とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシラン架橋性樹脂組成物を得る工程
工程(2):前記シラン架橋性樹脂組成物を成形して、成形体を得る工程
工程(3):前記成形体を水と接触させて、シラン架橋樹脂成形体を得る工程
前記ベース樹脂が、密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度-50℃以下のポリオレフィン樹脂10~50質量%と、密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度が-50℃を超え-40℃以下であるポリオレフィン樹脂3~10質量%と、スチレンエラストマーと、鉱物性オイルとを含有し、
前記無機フィラーの配合量が、前記ベース樹脂100質量部に対して0.5質量部以上であり、
融点が250℃以上の成分の配合量が、前記シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積に対して15.0体積%以下であり、
前記工程(1)を行うにあたり、
下記工程(a)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a)及び工程(c)を有し、下記工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する、シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
工程(a):前記ベース樹脂の全部又は一部と前記無機フィラーと前記シランカップリング剤とを、前記有機過酸化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程、及び
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マスターバッチとを溶融混合して、前記シラン架橋性樹脂組成物を得る工程。
【請求項2】
前記融点が250℃以上の成分の配合量が、前記シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積に対して10.0体積%以下である、請求項1に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記ベース樹脂が、前記スチレンエラストマーを10~50質量%及び前記鉱物性オイルを10~50質量%含有する、請求項1又は2に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ベース樹脂が、前記密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度-50℃以下のポリオレフィン樹脂10~30質量%、前記スチレンエラストマー20~50質量%、及び前記鉱物性オイル20~50質量%を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記無機フィラーが、金属水和物、炭酸カルシウム、シリカ、若しくは三酸化アンチモン、又はこれらの混合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
下記工程(1)を有するシラン架橋性樹脂組成物の製造方法であって、
工程(1):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.5質量部と、無機フィラーと、前記ベース樹脂とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシラン架橋性樹脂組成物を得る工程
前記ベース樹脂が、密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度-50℃以下のポリオレフィン樹脂10~50質量%と、密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度が-50℃を超え-40℃以下であるポリオレフィン樹脂3~10質量%と、スチレンエラストマーと、鉱物性オイルとを含有し、
前記無機フィラーの配合量が、前記ベース樹脂100質量部に対して0.5質量部以上であり、
融点が250℃以上の成分の配合量が、前記シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積に対して15.0体積%以下であり、
前記工程(1)を行うにあたり、
下記工程(a)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a)及び工程(c)を有し、下記工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する、シラン架橋性樹脂組成物の製造方法。
工程(a):前記ベース樹脂の全部又は一部と前記無機フィラーと前記シランカップリング剤とを、前記有機過酸化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程、及び
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マスターバッチとを溶融混合して、前記シラン架橋性樹脂組成物を得る工程。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により製造されてなるシラン架橋性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法により製造されてなるシラン架橋樹脂成形体。
【請求項9】
請求項8に記載のシラン架橋樹脂成形体を含む製品。
【請求項10】
前記シラン架橋樹脂成形体が、絶縁電線又は光ファイバケーブルの被覆として設けられている、請求項9に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン架橋樹脂成形体及びその製造方法、シラン架橋性樹脂組成物及びその製造方法、並びに製品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部配線若しくは外部配線に使用される絶縁電線、ケーブル、コード、光ファイバ心線又は光ファイバコードの各配線材には、種々の特性が要求されている。
【0003】
配線材が利用される環境は様々であり、寒冷地、冷蔵施設、冷凍施設等の低温環境下で利用される場合もある。低温環境下で利用される配線材には、配線材の安全性、信頼性の観点から、低温環境においても被覆を損傷せずに曲げて、使用することができる低温柔軟性が要求される。特許文献1及び特許文献2は、0℃又は-40℃の低温環境下においても柔軟性を示す配線材の製造方法を開示している。一方、特許文献3及び特許文献4は、特に低温環境に対応したものではないが、常温において柔軟性を示す配線材の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-195575号公報
【特許文献2】特開2019-008888号公報
【特許文献3】国際公開第2015/046476号
【特許文献4】特開2017-179235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷凍施設の中でも、施設内の温度は用途に応じて異なり、例えば、-60℃以下といった極低温環境下で使用されるものもある。特許文献1、2、及び4に記載の製造方法によって得られる配線材はいずれも極低温環境下においては柔軟性を維持できないという問題があった。
一方で、上記極低温環境下で使用される配線材であっても、その敷設は常温環境下で行うことが多く、敷設の際の配線材の取扱いの容易さ、例えば、タック性(配線材同士の接着性)が小さいことも重要な要素である。タック性が強すぎると、配線材同士を接触させた場合に、互いに粘着してしまい、配線材を分離すると配線材の被覆が変形して、外観が悪くなる場合がある。特許文献3に記載の製造方法によって得られる配線材は、低温柔軟性と取り扱い性とを両立できるものではなかった。
さらに、配線材等は、その用途によっては、架橋物であることが要求される。例えば、電気用品安全法に定められている架橋ポリエチレン混合物を被覆した絶縁電線等においては、被覆を架橋物とすることが求められている。特許文献2に記載の製造方法は、架橋工程を有するものではなかった。
【0006】
本発明は、配線材等とした際に、極低温環境下における低温柔軟性と常温での取り扱い性とに優れたシラン架橋樹脂成形体の製造方法、この製造方法により得られるシラン架橋樹脂成形体、及びこれを用いた製品を提供することを課題とする。
また、本発明は、このシラン架橋樹脂成形体の製造に好適な、シラン架橋性樹脂組成物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、シラン架橋法において、ベース樹脂の成分として密度が0.890g/cm3未満と低いポリオレフィン樹脂を選択し、その上で、このポリオレフィン樹脂をガラス転移温度の異なる2種のポリオレフィン樹脂(-50℃以下のポリオレフィン樹脂と-50℃を超え-40℃以下のポリオレフィン樹脂)を含むものとし、これらを特定量で、スチレンエラストマー及び鉱物性オイルと組合せて含有するベース樹脂を用い、無機フィラー、及び融点が250℃以上の成分の配合量を特定量としてシラン架橋樹脂成形体を製造すると、得られる樹脂成形体において極低温環境下での低温柔軟性と常温での取り扱い性の向上を実現できること、を見出した。本発明者らはこれらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
〔1〕
下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有するシラン架橋樹脂成形体の製造方法であって、
工程(1):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.5質量部と、無機フィラーと、前記ベース樹脂とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシラン架橋性樹脂組成物を得る工程
工程(2):前記シラン架橋性樹脂組成物を成形して、成形体を得る工程
工程(3):前記成形体を水と接触させて、シラン架橋樹脂成形体を得る工程
前記ベース樹脂が、密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度-50℃以下のポリオレフィン樹脂10~50質量%と、密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度が-50℃を超え-40℃以下であるポリオレフィン樹脂3~10質量%と、スチレンエラストマーと、鉱物性オイルとを含有し、
前記無機フィラーの配合量が、前記ベース樹脂100質量部に対して0.5質量部以上であり、
融点が250℃以上の成分の配合量が、前記シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積に対して15.0体積%以下であり、
前記工程(1)を行うにあたり、
下記工程(a)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a)及び工程(c)を有し、下記工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する、シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
工程(a):前記ベース樹脂の全部又は一部と前記無機フィラーと前記シランカップリング剤とを、前記有機過酸化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程、及び
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マスターバッチとを溶融混合して、前記シラン架橋性樹脂組成物を得る工程。
〔2〕
前記融点が250℃以上の成分の配合量が、前記シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積に対して10.0体積%以下である、〔1〕に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
〔3〕
前記ベース樹脂が、前記スチレンエラストマーを10~50質量%及び前記鉱物性オイルを10~50質量%含有する、〔1〕又は〔2〕に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
〔4〕
前記ベース樹脂が、前記密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度-50℃以下のポリオレフィン樹脂10~30質量%、前記スチレンエラストマー20~50質量%、及び前記鉱物性オイル20~50質量%を含有する、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
〔5〕
前記無機フィラーが、金属水和物、炭酸カルシウム、シリカ、若しくは三酸化アンチモン、又はこれらの混合物である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のシラン架橋樹脂成形体の製造方法。
〔6〕
下記工程(1)を有するシラン架橋性樹脂組成物の製造方法であって、
工程(1):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.5質量部と、無機フィラーと、前記ベース樹脂とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシラン架橋性樹脂組成物を得る工程
前記ベース樹脂が、密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度-50℃以下のポリオレフィン樹脂10~50質量%と、密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度が-50℃を超え-40℃以下であるポリオレフィン樹脂3~10質量%と、スチレンエラストマーと、鉱物性オイルとを含有し、
前記無機フィラーの配合量が、前記ベース樹脂100質量部に対して0.5質量部以上であり、
融点が250℃以上の成分の配合量が、前記シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積に対して15.0体積%以下であり、
前記工程(1)を行うにあたり、
下記工程(a)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a)及び工程(c)を有し、下記工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する、シラン架橋性樹脂組成物の製造方法。
工程(a):前記ベース樹脂の全部又は一部と前記無機フィラーと前記シランカップリング剤とを、前記有機過酸化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程、及び
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マスターバッチとを溶融混合して、前記シラン架橋性樹脂組成物を得る工程。
〔7〕
〔6〕に記載の製造方法により製造されてなるシラン架橋性樹脂組成物。
〔8〕
〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の製造方法により製造されてなるシラン架橋樹脂成形体。
〔9〕
〔8〕に記載のシラン架橋樹脂成形体を含む製品。
〔10〕
前記シラン架橋樹脂成形体が、絶縁電線又は光ファイバケーブルの被覆として設けられている、〔9〕に記載の製品。
【0009】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、極低温環境における低温柔軟性と常温での取り扱い性とに優れたシラン架橋樹脂成形体の製造方法、この製造方法により得られるシラン架橋樹脂成形体、及びこの成形体を用いた製品を提供できる。また、このような優れた特性を示すシラン架橋樹脂成形体の製造に好適な、シラン架橋性樹脂組成物及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、極低温とは、-40℃未満の温度であればよく、例えば、-60℃近傍(-65~-55℃)の温度のことをいう。
本発明において、常温とは、15~25℃の温度のことをいう。
まず、本発明において用いる各成分について説明する。
【0012】
<ベース樹脂>
本発明に用いられるベース樹脂は、樹脂成分として密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度-50℃以下のポリオレフィン樹脂と、密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度が-50℃を超え-40℃以下であるポリオレフィン樹脂と、スチレンエラストマーと、鉱物性オイルとを含有する。これらの成分は、いずれも、有機過酸化物から発生したラジカルの存在下において、シランカップリング剤のグラフト化反応部位とグラフト化反応可能な部位、例えば炭素鎖の不飽和結合部位や、水素原子を有する炭素原子を主鎖中又はその末端に有している。
【0013】
- ポリオレフィン樹脂 -
密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度-50℃以下のポリオレフィン樹脂(PO-A)と、密度0.890g/cm3未満で、かつガラス転移温度が-50℃を超え-40℃以下であるポリオレフィン樹脂(PO-B)とについて説明する。
PO-Aの密度は、0.890g/cm3未満であり、0.860~0.880g/cm3が好ましく、0.860~0.870g/cm3がより好ましい。密度が高すぎると、優れた低温柔軟性を実現できない場合がある。
PO-Bの密度は、0.890g/cm3未満であり、0.865~0.885g/cm3が好ましく、0.875~0.885g/cm3がより好ましい。
ポリオレフィン樹脂の密度は、JIS K 0061:2001(化学製品の密度及び比重測定方法)に従って測定した、温度20℃における密度(単位体積当たりの質量)をいう。
PO-Aのガラス転移温度は、-50℃以下であり、-55℃以下が好ましく、-60℃以下がより好ましい。下限は特に限定されないが、-75℃程度が実際的である。
PO-Bのガラス転移温度は、-50℃を超え-40℃以下であり、-45~-40℃が好ましく、-43~-40℃がより好ましい。
PO-Aのガラス転移温度(TgA)とPO-Bのガラス転移温度(TgB)との差(TgB-TgA)は、5~15℃であることが好ましく、10~15℃であることがより好ましい。
本発明において、ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量計)により測定されたガラス転移温度をいう。ガラス転移温度は、5℃/分で昇温させた後に冷却し、再度5℃/分で昇温させて測定した。
PO-A及びPO-Bは、後述のポリオレフィン樹脂の内、上記密度及びガラス転移温度を有するものからそれぞれ選択することができる。本発明において、特に密度及びガラス転移温度を特定せずに「ポリオレフィン樹脂」と記載する場合には、密度及びガラス転移温度が限定されないものを意味する。
PO-Aは、ポリエチレン樹脂及びエチレンゴムが好ましい。
PO-Bは、ポリエチレン樹脂が好ましい。
【0014】
ポリオレフィン樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物(通常、アルケン)を重合又は共重合して得られる重合体からなる樹脂であれば、特に限定されない。従来、絶縁電線及びケーブルに使用されている公知のポリオレフィン樹脂を使用することができる。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体等の重合体からなる樹脂、これら重合体のゴム又はエラストマー等(スチレンエラストマーを除く)が挙げられる。ゴムとしてはエチレンゴムが挙げられる。ポリオレフィン樹脂は、1種単独で、又は2種以上であってもよい。
ポリオレフィン樹脂は、通常用いられる不飽和カルボン酸又はその誘導体等で酸変性されていてもよい。
【0015】
ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)が挙げられる。なかでも、直鎖型低密度ポリエチレン、及び低密度ポリエチレンが好ましい。
【0016】
ポリプロピレン樹脂は、プロピレンの単独重合体のほか、共重合体としてランダムポリプロピレン等のエチレン-プロピレン共重合体及びブロックポリプロピレンの樹脂を包含する。
【0017】
エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂としては、好ましくは、エチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体(上述のポリエチレン及びポリプロピレンに該当するものを除く)の樹脂が挙げられる。
【0018】
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体からなる樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体(好ましくは、炭素数1~12のアルキル基を有するもの)等からなる各樹脂が挙げられる。なかでも、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体が好ましい。
【0019】
エチレンゴムとしては、エチレンとα-オレフィンとの共重合体のゴムであれば特に限定されない。例えば、エチレンゴムとしては、好ましくは、エチレンとα-オレフィン(好ましくは炭素数1~12のα-オレフィン)との二元共重合体ゴム、エチレンとα-オレフィン(好ましくは炭素数1~12のα-オレフィン)とα-オレフィン以外の、不飽和結合を有する第三成分との3元共重合体からなるゴムが挙げられる。第三成分としては、共役若しくは非共役のジエンが挙げられ、具体的には、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン等が挙げられる。二元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、三元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が挙げられる。
【0020】
- スチレンエラストマー -
本発明に用いるスチレンエラストマーは、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とに由来する構成成分の共重合体ブロック、及び/又は、上記化合物に由来する構成成分を主体としたブロック共重合体若しくはランダム共重合体の水素添加物である。
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-第3ブチルスチレンなどのうちから1種又は2種以上を選択でき、中でもスチレンが好ましい。共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンなどのうちから1種又は2種以上を選択でき、中でも、ブタジエン、イソプレン又はこれらの組み合せが好ましい。
スチレンエラストマーとしては、ポリスチレンブロックとポリオレフィン構造のエラストマーブロックで構成された、二元又は三元の共重合体を使用することができる。
上記共重合体の水素添加物(以下、水添共重合体という場合がある)は、芳香族ビニル化合物に由来する構成成分を5~70質量%、さらには10~60質量%含むものが好ましい。この含有量は、例えばクロロホルム溶液を用いた紫外線分光光度計にて、UV吸収スペクトルを測定することによって求められる。
スチレンエラストマーとしては、例えば、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー)、SIS(スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー)、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー:水素化SBS)、SEEPS(スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー)、SEPS(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー:水素化SIS)、HSBR(水素化スチレン-ブタジエンランダムコポリマー)等を挙げることができる。スチレンエラストマーは、1種でも2種以上でもよい。
スチレンエラストマーとしては、例えば、「セプトン」(商品名、クラレ社製)、「タフテック」(商品名、旭化成ケミカルズ社製)、「ダイナロン」(商品名、JSR社製)を挙げることができる。
【0021】
- 鉱物性オイル -
本発明に用いる鉱物性オイルは、芳香族環を有するオイル、ナフテン環を有するオイル及びパラフィン鎖を有するオイルの三者を含む混合油である。パラフィンオイルとは、パラフィン鎖の炭素数(CP)が、芳香族環、ナフテン環及びパラフィン鎖の全炭素数に対して例えば50%以上75%未満で、ナフテン鎖の炭素数(CN)が20以上40%未満、芳香族環(CA)の炭素数が3以上10%未満を占めるものをいう。ナフテンオイルとは、上記全炭素数に対して、CNが40以上60%未満、CPが30%以上50%未満、かつCAが8%以上16%未満のもの、芳香族オイルとはCAが16%以上のものを、いう。
鉱物性オイル(ゴム用軟化材)としては、パラフィンオイル又はナフテンオイルを用いることができ、機械的強度の点でパラフィンオイルが好ましい。
パラフィンオイルは、40℃における動的粘度が20~500cSt、流動点が-10~-15℃、引火点(COC)が180~300℃を示すものが好ましい。
鉱物性オイルとしては、例えば、「ダイアナプロセスオイル」(商品名、出光興産社製)、「コスモニュートラル」(商品名、コスモ石油ルブリカンツ社製)等を挙げることができる。
【0022】
- 他のベース樹脂成分 -
本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の樹脂又はゴムを用いることが出来る。
【0023】
- ベース樹脂中の含有率 -
ベース樹脂は、各成分の総計が100質量%となるように、各成分の含有率が下記範囲内から決定される。
ベース樹脂は、PO-A10~50質量%と、PO-B3~10質量%と、スチレンエラストマーと、鉱物性オイルとを含有する。
【0024】
PO-Aの含有率は、ベース樹脂100質量%中、10~50質量%である。この範囲内であれば、十分な低温柔軟性を実現できる。PO-Aの含有率は、10~30質量%が好ましく、10~20質量%がより好ましい。
PO-Bの含有率は、ベース樹脂100質量%中、3~10質量%である。この範囲内であれば、低温柔軟性と常温での取り扱い性を向上することができる。PO-Bの含有率は、5~10質量%が好ましく、5~7質量%がより好ましい。
スチレンエラストマーの含有率は、特に限定されないが、ベース樹脂100質量%中、7~50質量%が好ましく、10~50質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましく、20~35質量%が特に好ましい。
鉱物性オイルの含有率は、特に限定されないが、ベース樹脂100質量%中、7~50質量%が好ましく、10~50質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましく、30~40質量%が特に好ましい。
ベース樹脂は、スチレンエラストマーを10~50質量%及び鉱物性オイルを10~50質量%含有することが好ましい。
ベース樹脂は、PO-A10~30質量%、スチレンエラストマー20~50質量%、及び鉱物性オイル20~50質量%を含有することが好ましい。
【0025】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、シランカップリング剤の樹脂成分へのラジカル反応によるグラフト化反応(シランカップリング剤のグラフト化反応部位と樹脂成分のグラフト化反応可能な部位との共有結合形成反応であって、(ラジカル)付加反応ともいう。)を生起させる働きをする。特にシランカップリング剤がグラフト化反応部位としてエチレン性不飽和基を含む場合、エチレン性不飽和基と樹脂成分とのラジカル反応(樹脂成分からの水素ラジカルの引き抜き反応を含む)によるグラフト化反応を生起させる働きをする。
有機過酸化物としては、ラジカルを発生させるものであれば、特に制限はなく、例えば、一般式:R1-OO-R2、R3-OO-C(=O)R4、R5C(=O)-OO(C=O)R6で表される化合物が好ましい。ここで、R1~R6は各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。各化合物のR1~R6のうち、いずれもアルキル基であるもの、又は、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。
【0026】
このような有機過酸化物としては、国際公開第2015/046478号の段落[0037]に記載の有機過酸化物が挙げられ、該記載はここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
【0027】
有機過酸化物の分解温度は、120~195℃であるのが好ましく、125~180℃であるのが特に好ましい。有機過酸化物の分解温度は、後述する工程(a)における溶融混合温度以下である。
本発明において、有機過酸化物の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
【0028】
<無機フィラー>
本発明において、無機フィラーは、その表面に、シランカップリング剤のシラノール基等の反応部位と水素結合等が形成できる部位もしくは共有結合による化学結合しうる部位を有するものであれば特に制限なく用いることができる。この無機フィラーにおける、シランカップリング剤の反応部位と化学結合しうる部位としては、OH基(水酸基、含水もしくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
【0029】
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の水酸基あるいは結晶水を有する化合物のような金属水和物や、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボンブラック、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛を使用することができる。無機フィラーは、1種類を単独で配合してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
無機フィラーの融点は、特に制限されないが、250℃以上であることが好ましく、この場合、後述する「融点が250℃以上の成分の配合量」については無機フィラーの配合量も加算する。
無機フィラーの平均粒径は、0.2~10μmが好ましく、0.3~8μmがより好ましく、0.4~5μmがさらに好ましく、0.4~3μmが特に好ましい。平均粒径は、無機フィラーをアルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0031】
無機フィラーは、シランカップリング剤等で表面処理した無機フィラーを使用することができる。例えば、シランカップリング剤表面処理金属水和物として、キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、水酸化マグネシウム、協和化学社製等)などが挙げられる。シランカップリング剤による無機フィラーの表面処理量は、特に限定されないが、例えば、3質量%以下である。
【0032】
無機フィラーは、密度が大きいものを用いることが好ましい。このようにすると、シラングラフト時に必要な無機フィラーの配合量を担保しつつ、低温柔軟性を高めることができる。無機フィラーの密度は特に限定されないが、3.0g/cm3以上が好ましく、3.2g/cm3以上がより好ましい。無機フィラーの密度の上限は特に限定されないが、6.0g/cm3以下が実際的である。
【0033】
無機フィラーは、これらのなかでも、金属水和物(より好ましくは、水酸化マグネシウム)、シリカ、三酸化アンチモン、又はこれらの混合物が好ましい。
【0034】
<有機難燃剤>
有機難燃剤としては、ケーブルや配線材において使用される有機難燃剤を特に制限なく使用することができる。有機難燃剤は、ハロゲン系難燃剤(臭素系難燃剤)、リン系難燃剤、窒素系難燃剤等が好ましく、臭素系難燃剤がより好ましい。有機難燃剤は、特に限定されないが、融点が250℃以上の有機難燃剤が好ましい。有機難燃剤の融点が250℃以上である場合、後述する「融点が250℃以上の成分の配合量」については有機難燃剤の配合量も加算する。
【0035】
<シランカップリング剤>
本発明に用いられるシランカップリング剤は、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下で、ベース樹脂とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位(基又は原子)を有している。また、無機フィラーの化学結合しうる部位と反応し、シラノール縮合可能な反応部位(加水分解性シリル基)を有する。このようなシランカップリング剤としては、従来のシラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。
シランカップリング剤としては、不飽和基を有するシランカップリング剤が挙げられ、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルアルコキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルコキシシラン等が挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
シランカップリング剤は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
シランカップリング剤は、そのままの形態で用いてもよいし、溶剤で希釈した形態で用いてもよい。
【0036】
<シラノール縮合触媒>
シラノール縮合触媒は、ベース樹脂にグラフトしたシランカップリング剤を水分の存在下で縮合反応させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介して、樹脂成分同士が架橋される。
このようなシラノール縮合触媒としては、特に制限されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物が挙げられる。
シラノール縮合触媒は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
【0037】
<添加剤>
本発明では、絶縁電線、電気ケーブル、電気コード、自動車用部材、OA機器、建築部材、雑貨、シート、発泡体、チューブ、パイプにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤を、目的とする効果を損なわない範囲で適宜配合してもよい。このような添加剤としては、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、金属不活性剤、難燃(助)剤や他の樹脂等が挙げられる。
【0038】
架橋助剤は、有機過酸化物の存在下において樹脂成分との間に部分架橋構造を形成する化合物をいう。例えば、多官能性化合物等が挙げられる。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤又はイオウ酸化防止剤等が挙げられる。
滑剤としては、炭化水素、シロキサン(シリコーンガムを含む)、脂肪酸、脂肪酸アミド、エステル、アルコール、金属石けん等の各滑剤が挙げられる。滑剤としては、シリコーンガムが好ましい。
【0039】
<融点が250℃以上の成分>
シラン架橋性樹脂組成物は、上記成分のうち融点が250℃以上の成分を有していることが好ましい。融点が250℃以上の成分としては、上記樹脂以外の成分で250℃以上の融点を有する成分(化合物)が挙げられ、具体的には、シラン架橋性樹脂組成物を調製する際の溶融混合において(成分自体が変化しないこと、具体的には、溶融、分解(熱分解)、変質(水和水等の除去)等せずに)固体状態(粒子、粉体)として存在しうる成分をいう。このような成分としては、特に制限されないが、例えば、上記無機フィラー、有機難燃剤等が挙げられる。
本発明において、融点は、常圧(1atm)環境において、JIS K 0064に規定の方法に準拠して、測定した値とする。
【0040】
<シラン架橋樹脂成形体の製造方法>
以下、本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法を具体的に説明する。
本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法は、下記工程(1)、工程(2)、及び工程(3)を有する。
本発明のシラン架橋性樹脂組成物は、下記工程(1)により製造される。
【0041】
工程(1):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.5質量部と、無機フィラーと、ベース樹脂とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、有機過酸化物から発生したラジカルによってグラフト化反応部位とベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシラン架橋性樹脂組成物を得る工程
工程(2):シラン架橋性樹脂組成物を成形して、成形体を得る工程
工程(3):成形体を水と接触させて、シラン架橋樹脂成形体を得る工程
【0042】
上記工程(1)は、ベース樹脂の使用態様に応じて、以下の工程を有する。
下記工程(a)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a)、及び工程(c)を有し、下記工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には、工程(1)が下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する。
工程(a):ベース樹脂の全部又は一部と無機フィラーとシランカップリング剤とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、有機過酸化物から発生したラジカルによってグラフト化反応部位とベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):ベース樹脂の残部及びシラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程、及び
工程(c):シランマスターバッチと、シラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとを溶融混合して、シラン架橋性樹脂組成物を得る工程。
【0043】
本発明の製造方法において、「ベース樹脂」とは、シラン架橋樹脂成形体又はシラン架橋性樹脂組成物を形成するための樹脂である。したがって、本発明の製造方法においては、工程(1)で得られる反応組成物に100質量部のベース樹脂が含有されていればよい。例えば、工程(a)において、「ベース樹脂の全量(100質量部)が配合される態様」と、「ベース樹脂の一部が配合される態様」とを含む。工程(1)におけるベース樹脂の配合量100質量部は、ベース樹脂の一部が工程(a)で混合される場合には、工程(a)及び工程(b)で溶融混合されるベース樹脂の合計量である。
【0044】
工程(1)において、ベース樹脂の一部を工程(a)において配合し、ベース樹脂の残部を工程(b)において配合する場合、ベース樹脂は、工程(a)において、好ましくは70~95質量%、より好ましくは75~92質量%が配合され、工程(b)において、好ましくは5~30質量%、より好ましくは8~25質量%が配合される。
【0045】
工程(1)において、ベース樹脂中の、PO-A、PO-B、スチレンエラストマー、及び鉱物性オイルの、ベース樹脂中の配合量(含有率)は、上記したとおりである。
工程(a)において配合するベース樹脂成分は特に限定されないが、PO-A、PO-B、スチレンエラストマー、及び鉱物性オイルを配合することが好ましく、PO-A、スチレンエラストマー、及び鉱物性オイルを配合することが好ましい。
工程(b)において配合するベース樹脂成分は特に限定されないが、PO-A、PO-B、スチレンエラストマー、及び鉱物性オイルを配合することが好ましい。
【0046】
工程(1)において、有機過酸化物の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して0.01~0.5質量部であり、0.01~0.4質量部が好ましく、0.05~0.2質量部がより好ましい。有機過酸化物の配合量を0.01~0.5質量部にすることにより、適切な範囲でグラフト化反応を行うことができ、シランカップリング剤同士の縮合を抑制できる。また、副反応による樹脂成分の直接架橋が抑制される。
【0047】
工程(1)において、無機フィラーの配合量(質量基準)は、ベース樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上である。無機フィラーの配合量(質量基準)は、ベース樹脂100質量部に対して、3~100質量部が好ましく、5~50質量部がより好ましい。
さらに、シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分のうち、融点が250℃以上の成分(以下、高融点成分ともいう)の配合量(体積基準)は、シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積に対して、15.0体積%以下である。高融点成分の配合量を、上記のようにすることにより、グラフト化反応を適正に行いつつ、低温柔軟性を実現することができる。
高融点成分の配合量(体積基準)は、シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積に対して、10.0体積%以下が好ましく、7.0体積%以下が好ましい。下限は特に限定されないが、0.1体積%以上が実際的である。
本発明において、高融点成分の、シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積に対する配合量(体積基準)は、各成分の配合量と密度とから求めることができる。
シラン架橋性樹脂組成物を構成する各成分の密度は、JIS K 0061:2001(化学製品の密度及び比重測定方法)に従って測定した、20℃における密度をいう。具体的には、上記温度で固体の有機物質(鉱物性オイル以外のベース樹脂成分及び滑剤)の密度は、上記JISの8.1 天びん法により求めることができる。上記温度で液体の有機物質(鉱物性オイル、シランカップリング剤、有機過酸化物、及びシラノール縮合触媒)の密度は、上記JISの7.1 浮ひょう法により求めることができる。上記温度で固体の無機物質(無機フィラー及び酸化防止剤)の密度は、上記JISの8.2 比重瓶法により求めることができる。ただし、有機難燃剤の内、融点が250℃以上の有機難燃剤の密度は、比重瓶法により求める。これら以外の成分の密度については、上記JISの適切な方法を選択して測定することができる。上記密度は、ベース樹脂成分の内のポリオレフィン樹脂及び鉱物性オイル、並びに有機過酸化物については、小数点以下第3位の精度で、これらの成分以外の成分については、小数点以下第2位の精度で求める。
高融点成分の体積(Vf)は、上記で得られた密度の逆数に対して、ベース樹脂100質量部に対する、高融点成分の配合量を掛け合わせることにより、得ることができる。高融点成分を複数種類用いる場合には、それぞれ別々に体積を求めて、その合計を高融点成分の体積とする。
シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積(Vtotal)は、上記で得られた各成分の密度の逆数に対して、ベース樹脂100質量部に対する、各成分の配合量をそれぞれ掛け合わせ、得られた数値を合計して得ることができる。同じカテゴリーの成分を複数種類用いている場合には、それぞれ別々に体積を求めるものとする。ベース樹脂を構成する各樹脂成分については、ベース樹脂100質量部中の各含有率を、各樹成分の、ベース樹脂100質量部に対する配合量として、それぞれ体積を求める。
高融点成分の配合量(体積基準)は、上記のようにして求めた、高融点成分の体積(Vf)の、シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積の合計(Vtotal)に占める割合(Vf/Vtotal×100)を、算出し、小数点以下第1位まで求める。
上記をまとめると以下のようになる。
高融点成分の配合量(体積基準)
=高融点成分の体積(Vf)/シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積(Vtotal)×100
高融点成分の体積(Vf)
=高融点成分の密度の逆数×ベース樹脂100質量部に対する高融点成分の配合量(質量部)
シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積(Vtotal)
=成分Aの密度の逆数×ベース樹脂100質量部に対する成分Aの配合量(質量部)
+成分Bの密度の逆数×ベース樹脂100質量部に対する成分Bの配合量(質量部)
… +成分Xの密度の逆数×ベース樹脂100質量部に対する成分Xの配合量(質量部)
ここで、成分A~Xは、シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分とする。
【0048】
工程(1)において、シランカップリング剤の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、1~15質量部であり、好ましくは1.5~7質量部であり、より好ましくは2~5質量部である。
シランカップリング剤の配合量が1~15質量部であると、無機フィラーの表面にシランカップリング剤が吸着して、シランカップリング剤が混練中に揮発するのを抑制できるため、経済的である。さらに、架橋反応を十分に進行させることができる。
【0049】
工程(1)において、シラノール縮合触媒の配合量は、特に限定されず、ベース樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~0.5質量部、より好ましくは0.02~0.5質量部、さらに好ましくは、0.05~0.4質量部、特に好ましくは、0.08~0.3質量部である。シラノール縮合触媒の配合量が上述の範囲内にあると、十分に架橋が進行する。
【0050】
シランマスターバッチは、ベース樹脂の全部又は一部と無機フィラーとシランカップリング剤とを、上記配合量で、有機過酸化物の分解温度以上において溶融混練する工程(a)により、上記グラフト化反応を生起させて、調製することができる。
本発明において、「ベース樹脂の全部又は一部と無機フィラーとシランカップリング剤とを溶融混合する」とは、溶融混合する際の混合順を特定するものではなく、どのような順で混合してもよいことを意味する。すなわち、工程(a)における混合順は特に限定されない。
また、ベース樹脂の混合方法も特に限定されない。例えば、予め混合調製されたベース樹脂を用いてもよく、各成分、例えば樹脂成分それぞれを別々に混合してもよい。
【0051】
本発明においては、無機フィラーをシランカップリング剤と予め混合(前混合)することが好ましい。すなわち、本発明においては、上記各成分を、下記工程(a-1)及び(a-2)により、(溶融)混合することが好ましい。
工程(a-1):無機フィラー及びシランカップリング剤を混合して混合物を調製する工程
工程(a-2):混合物と、ベース樹脂の全部又は一部とを、有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合して、有機過酸化物から発生したラジカルによってグラフト化反応部位とベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
【0052】
上記工程(a-2)においては、「ベース樹脂の全量(100質量部)が配合される態様」と、「ベース樹脂の一部が配合される態様」とを含む。
工程(a-2)において、ベース樹脂の一部が配合される場合、ベース樹脂の残部は工程(b)で配合される。
工程(a-2)でベース樹脂の一部を配合する場合、工程(a)及び工程(b)におけるベース樹脂の配合量100質量部は、工程(a-2)及び工程(b)で混合されるベース樹脂の合計量である。
【0053】
工程(a-1)において、無機フィラー及びシランカップリング剤を前混合する方法としては、特に限定されないが、湿式処理、乾式処理等の混合方法が挙げられる。具体的には、有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは10~60℃、より好ましくは室温近傍(20~25℃)で無機フィラーとシランカップリング剤とを、数分~数時間程度、乾式又は湿式により、混合する方法が挙げられ、無機フィラー、好ましくは乾燥させた無機フィラー中にシランカップリング剤を、加熱又は非加熱で加えて混合する乾式処理がより好ましい。
前混合されたシランカップリング剤は、無機フィラーの表面を取り囲むように存在し、その一部又は全部が無機フィラーに吸着又は結合すると考えられる。これにより、後の工程(a-2)での溶融混合の際にシランカップリング剤の揮発を低減できる。
工程(a-1)においては、上記分解温度未満の温度が保持されている限り、ベース樹脂を混合していてもよい。
【0054】
次いで、工程(a-1)で得られた、無機フィラーとシランカップリング剤との混合物と、ベース樹脂の全部又は一部とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱しながら、溶融混合する(工程(a-2))。このようにすると、ベース樹脂成分同士の過剰な架橋反応を防止することができ、外観に優れた架橋成形体が得られる。
工程(a-2)における溶融混合により、有機過酸化物から発生したラジカルによってシランカップリング剤のグラフト化反応部位とベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させる。その結果、シランカップリング剤が樹脂成分に共有結合で結合したシラン架橋性樹脂(シラングラフトポリマー)が合成され、このシラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチが調製される。
【0055】
工程(a-2)において、上記成分を溶融混合(溶融混錬、混練りともいう)する温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25~110)℃の温度で、より好ましくは150~230℃である。有機過酸化物の分解温度はベース樹脂成分が溶融してから設定することが好ましい。上記混合温度であれば、上記成分が溶融し、有機過酸化物が分解、作用して必要なシラングラフト化反応が工程(a-2)において十分に進行する。混合時間は反応混合物が十分混合され、シラングラフト化反応が完了し得る時間でよく、3~40分の間で適宜設定されるが、これに制限されるものではない。その他の条件は適宜設定することができる。
混合方法としては、樹脂、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混練装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。ベース樹脂成分の分散性、及び架橋反応の安定性の面で、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーが好ましい。
【0056】
有機過酸化物、無機フィラー以外の高融点成分は、それぞれ、上記工程(a-2)の溶融混合時、すなわち、工程(a-1)で得られた混合物とベース樹脂とを溶融混合する際に、存在していればよい。有機過酸化物、及び無機フィラー以外の高融点成分は、例えば、工程(a-1)において混合されてもよく、工程(a-2)において混合されてもよい。有機過酸化物、及び無機フィラー以外の高融点成分は、工程(a-1)において混合されることが好ましい。
【0057】
本発明において、上記各成分を一度に溶融混合する場合(工程(a))、溶融混合の条件は、特に限定されないが、上述の工程(a-2)の条件を採用できる。
この場合、溶融混合時にシランカップリング剤の一部又は全部が無機フィラーに吸着又は結合する。
【0058】
工程(a)、工程(a-1)及び工程(a-2)、特に工程(a-2)においては、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに上述の各成分を混練することが好ましい。これにより、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることができ、溶融混合しやすく、また押出成形の際に所望の形状を得ることができる。ここで、「実質的に混合せず」とは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。例えば、工程(a-2)において、シラノール縮合触媒は、ベース樹脂100質量部に対して0.01質量部以下であれば、存在していてもよい。
【0059】
このようにして、工程(a)(好ましくは、上記工程(a-1)及び工程(a-2)からなる工程(a))を行い、シランカップリング剤とベース樹脂とをグラフト化反応させて、シランマスターバッチ(シランMBともいう)を調製する。こうして得られるシランMBは、後述するように、工程(1)で調製される反応組成物(シラン架橋性樹脂組成物)の製造に、好ましくは、シラノール縮合触媒又は後述する触媒マスターバッチとともに、用いられる。シランMBは、後述の工程(2)により成形可能な程度にシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト化反応したシラン架橋性樹脂を含有する混合物である。
【0060】
本発明の製造方法において、次いで、工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には、ベース樹脂の残部とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチ(触媒MBともいう)を調製する工程(b)を行う。したがって、工程(a)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合は、工程(b)を行わなくてもよく、また他のベース樹脂成分とシラノール縮合触媒とを混合してもよい。
【0061】
キャリアとしてのベース樹脂とシラノール縮合触媒との混合割合は、特に限定されないが、好ましくは、工程(1)における上記配合量を満たすように、設定される。
混合は、均一に混合できる方法であればよく、ベース樹脂の溶融下で行う混合(溶融混合)が挙げられる。溶融混合は上記工程(a-2)の溶融混合と同様に行うことができる。例えば、混合温度は、ベース樹脂成分の溶融温度以上で適宜設定でき、好ましくは120~200℃、より好ましくは140~180℃で行うことができる。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
【0062】
工程(b)において、ベース樹脂の残部に代えて、又は、加えて他の樹脂をキャリアとして用いることができる。すなわち、工程(b)は、工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合のベース樹脂の残部、又は、工程(a)で用いた樹脂成分以外の樹脂と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチを調製してもよい。
キャリアが他の樹脂である場合、工程(a)においてグラフト化反応を促進させることができるうえ、成形中にブツが生じにくい点で、他の樹脂の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、好ましくは1~60質量部、より好ましくは2~50質量部、さらに好ましくは3~40質量部である。
【0063】
また、工程(b)において、無機フィラーを混合することもできる。この場合、工程(b)における無機フィラーの配合量は、特に限定されず、無機フィラーの上記配合量を考慮して適宜に設定され、例えば、10質量部以下とすることができる。
【0064】
このようにして調製される触媒MBは、シラノール縮合触媒及びキャリア、所望により添加されるフィラーの(溶融)混合物である。
この触媒MBは、シランMBとともに、工程(1)で調製されるシラン架橋性樹脂組成物の製造に用いられる。
【0065】
本発明の製造方法において、次いで、シランMBと、シラノール縮合触媒又は触媒MBとを溶融混合して、シラン架橋性樹脂組成物(反応組成物)を得る工程(c)を行う。この反応組成物は、上記工程(a)(工程(a-2))で合成したシラン架橋性樹脂を含む組成物である。
混合方法は、上述のように均一な反応組成物を得ることができれば、どのような混合方法でもよい。
【0066】
混合は、工程(a)の溶融混合と基本的に同様である。DSC等で融点が測定できない樹脂成分、例えばエラストマーもあるが、少なくとも樹脂成分が溶融する温度で混練する。溶融温度は、ベース樹脂又はキャリアの溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80~250℃、より好ましくは100~240℃である。その他の条件、例えば混合(混練)時間は適宜設定することができる。
【0067】
工程(c)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
【0068】
この工程(c)は、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを混合して、これらの溶融混合物として上記反応組成物を得る工程であればよく、シラノール縮合触媒及びキャリアを含有する触媒マスターバッチとシランマスターバッチとを溶融混合する工程であるのが好ましい。
【0069】
このようにして、工程(a)~(c)(工程(1))を行い、反応組成物として、シラン架橋性樹脂組成物が製造される。このシラン架橋性樹脂組成物は、PO-A10~50質量%と、PO-B3~10質量%と、スチレンエラストマーと、鉱物性オイルを含有するベース樹脂に、シランカップリング剤がグラフト化したシラン架橋性樹脂と、ベース樹脂100質量部に対して、シラノール縮合触媒と、を含有し、無機フィラーの含有量は、ベース樹脂100質量部に対して0.5質量部以上であり、高融点成分の配合量は、シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積に対して15.0体積%以下である。
このシラン架橋性樹脂組成物は、架橋方法の異なるシラン架橋性樹脂を含有する。このシラン架橋性樹脂において、シランカップリング剤の、シラノール縮合可能な反応部位は、無機フィラーと結合又は吸着していてもよいが、後述するようにシラノール縮合していない。したがって、シラン架橋性樹脂は、無機フィラーと結合又は吸着したシランカップリング剤がベース樹脂にグラフト化した架橋性樹脂と、無機フィラーと結合又は吸着していないシランカップリング剤がベース樹脂にグラフト化した架橋性樹脂とを少なくとも含む。また、シラン架橋性樹脂は、無機フィラーが結合又は吸着したシランカップリング剤と、無機フィラーが結合又は吸着していないシランカップリング剤とを有していてもよい。さらに、シランカップリング剤と未反応の樹脂成分を含んでいてもよい。
上記のように、シラン架橋性樹脂は、シランカップリング剤がシラノール縮合していない未架橋体である。実際的には、工程(c)で溶融混合されると、一部架橋(部分架橋)は避けられないが、得られるシラン架橋性樹脂組成物について、少なくとも工程(2)での成形における成形性が保持されたものとする。
【0070】
工程(1)において、工程(a)~(c)は、同時又は連続して行うことができる。
【0071】
工程(1)においては、上記成分の他に用いることができる他のベース樹脂成分や上記添加剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜に設定される。
工程(1)において、上記添加剤、特に酸化防止剤は、いずれの工程で又は成分に混合されてもよいが、キャリアに混合されるのがよい。
工程(1)、特に工程(a)において、架橋助剤は実質的に混合されないことが好ましい。架橋助剤が実質的に混合されないと、溶融混合中に樹脂成分同士の架橋が生じにくい。ここで、実質的に混合されないとは、架橋助剤を積極的に混合しないことを意味し、不可避的に混合することを除外するものではない。
【0072】
本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法は、次いで、工程(2)及び工程(3)を行う。
本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法において、得られた反応組成物を成形して成形体を得る工程(2)を行う。この工程(2)は、反応組成物を成形できればよく、本発明のシラン架橋樹脂成形体又はシラン架橋樹脂成形体を含むシラン架橋樹脂成形品の形態に応じて、適宜に成形方法及び成形条件が選択される。成形方法は、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた押出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。押出成形は、本発明のシラン架橋樹脂成形体又はシラン架橋樹脂成形体を含むシラン架橋樹脂成形品が絶縁電線又は光ファイバケーブルである場合に、好ましい。
工程(2)を押出成形により行う場合、成形速度(押出速度)は、特に限定されず、通常、線速で10~250m/分未満、好ましくは20~100m/分に設定できる。
【0073】
また、工程(2)は、工程(c)と同時に又は連続して、行うことができる。すなわち、工程(c)の溶融混合の一実施態様として、溶融成形の際、例えば押出成形の際に、又は、その直前に、成形原料を溶融混合する態様が挙げられる。例えば、ドライブレンド等のペレット同士を常温又は高温で混ぜ合わせて成形機に導入(溶融混合)してもよいし、混ぜ合わせた後に溶融混合し、再度ペレット化をして成形機に導入してもよい。より具体的には、シランMBとシラノール縮合触媒又は触媒MBとからなる成形材料を被覆装置内で溶融混練し、次いで、導体等の外周面に押出被覆して、所望の形状に成形する一連の工程を採用できる。
このようにして、シラン架橋性樹脂組成物の成形体が得られる。この成形体はシラン架橋性樹脂組成物と同様に、一部架橋は避けられないが、工程(2)で成形可能な成形性を保持する部分架橋状態にある。したがって、この発明のシラン架橋樹脂成形体は、工程(3)を実施することによって、架橋又は最終架橋された成形体とされる。
【0074】
本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法においては、工程(2)で得られた成形体を水と接触させる工程(3)を行う。これにより、シランカップリング剤の、シラノール縮合可能な反応部位が加水分解されてシラノール基となり、成形体中に存在するシラノール縮合触媒によりシラノール基の水酸基同士が縮合して架橋反応が起こる。こうして、シランカップリング剤がシラノール縮合して架橋したシラン架橋樹脂成形体を得ることができる。
この工程(3)の処理自体は、通常の方法によって行うことができる。シランカップリング剤同士の縮合は、常温、例えば20~25℃で保管するだけで進行する。したがって、工程(3)において、成形体を水に積極的に接触させる必要はない。この架橋反応を促進させるために、成形体を水分と積極的に接触させることもできる。例えば、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0075】
このようにして、本発明のシラン架橋性樹脂組成物からシラン架橋樹脂成形体が製造される。このシラン架橋樹脂成形体は、後述するように、シラン架橋性樹脂がシロキサン結合を介して縮合した架橋樹脂を含んでいる。このシラン架橋樹脂成形体の一形態は、シラン架橋樹脂と無機フィラーとを含有する。ここで、無機フィラーはシラン架橋樹脂のシランカップリング剤に結合していてもよい。したがって、このシラン架橋樹脂は、複数の架橋樹脂がシランカップリング剤により無機フィラーに結合又は吸着して、無機フィラー及びシランカップリング剤を介して結合(架橋)した架橋樹脂と、上記架橋性樹脂のシランカップリング剤の反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、シランカップリング剤を介して架橋した架橋樹脂とを少なくとも含む。また、シラン架橋樹脂は、無機フィラー及びシランカップリング剤を介した結合(架橋)と、シランカップリング剤を介した架橋とが混在していてもよい。さらに、シランカップリング剤と未反応の樹脂成分及び/又は架橋していないシラン架橋性樹脂を含んでいてもよい。
【0076】
本発明の製造方法によって、優れた特性をシラン架橋樹脂成形体において実現できることの詳細についてはまだ定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の製造方法によれば、工程(a)において、ベース樹脂と無機フィラーとシランカップリング剤とを有機過酸化物の分解温度以上において溶融混合することにより、グラフト化反応が起こる。このグラフト化反応により得られたシラン架橋性樹脂が、工程(3)において、水分と接触することにより、シラノール結合を介する架橋構造を有する架橋樹脂が形成される。本発明では、工程(a)において無機フィラーを配合することにより、無機フィラーを介した結合も形成される。
本発明の製造方法においては、上述のシラン架橋による架橋構造の形成を前提とし、その上で、ベース樹脂として、ガラス転移温度が-50℃以下であるPO-Aと、ガラス転移点が-40~-50℃であるPO-Bと、スチレンエラストマーと、鉱物性オイルと、無機フィラーとを、特定量で、他の成分等と併せて用いる。ここで、ベース樹脂の成分の内、PO-Aは主に低温柔軟性に、PO-Bは主にタック性の抑制に寄与する。本発明では、これらPO-AとPO-Bを適切な割合で、他の成分と共に配合することで、-60℃における柔軟性と、常温における取り扱い性を両立することが出来る。特に、PO-Bを配合することが、低温柔軟性を維持しつつタック性を小さくすることに繋がっている。上記特性の両立のためには、無機フィラー及び高融点成分の配合量も重要であり、無機フィラーの配合量をベース樹脂に対して0.5質量部以上に設定したうえで、高融点成分の配合量を15体積%以下に設定することにより、シラン架橋の形成に必要な無機フィラーの量を確保しつつ、上記低温柔軟性を実現できる。
【0077】
本発明の製造方法は、低温柔軟性が要求される製品(半製品、部品、部材も含む。)、低温柔軟性に加えて、架橋していることが求められる製品、樹脂材料等の製品の構成部品又はその部材の製造に適用することができる。したがって、シラン架橋樹脂成形体、又はシラン架橋樹脂成形体を含む製品は、このような製品とされる。例えば、難燃絶縁電線等の絶縁電線又は難燃ケーブルの被覆材料、ゴム代替電線・ケーブルの材料、その他、難燃電線部品、難燃耐熱シート、難燃フィルム等が挙げられる。また、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、パッキン、クッション材、防震材、電気・電子機器の内部配線及び外部配線に使用される配線材、絶縁電線、ケーブル、コード、光ファイバ心線又は光ファイバコードが挙げられる。
【0078】
本発明の製造方法は、上記低温柔軟性が要求される製品のなかでも、特に絶縁電線及び光ファイバケーブルの製造に好適に適用され、これらの被覆(絶縁体、シース)を形成することができる。
【0079】
本発明のシラン架橋樹脂成形体、又はシラン架橋樹脂成形体を含む製品が絶縁電線、ケーブル等の押出成形品である場合、好ましくは、成形材料を押出機(押出被覆装置)内で溶融混練して上記グラフト化反応させることによりシラン架橋性樹脂組成物を調製しながら、このシラン架橋性樹脂組成物を導体等の外周に押し出して、導体等を被覆する等により、製造できる(工程(c)及び工程(2))。このときの押出成形機の温度は、樹脂の種類、導体等の引取り速度の諸条件にもよるがシリンダー部で120~180℃、クロスヘッド部で約160~210℃程度にすることが好ましい。シラン架橋樹脂成形体、又はシラン架橋樹脂成形体を含むシラン架橋樹脂成形品は、無機フィラーを大量に加えたシラン架橋性樹脂組成物を電子線架橋機等の特殊な機械を使用することなく汎用の押出被覆装置を用いて、導体の周囲に、又は抗張力繊維を縦添え若しくは撚り合わせた導体の周囲に押出被覆することにより、成形することができる。例えば、導体としては、金属導体が好ましく、軟銅、銅合金、アルミニウムなどの単線又は撚り線等を用いることができる。また、導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いることもできる。導体の周りに形成される絶縁層(本発明のシラン架橋性樹脂組成物からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが、通常、0.15~5mm程度である。
【実施例0080】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
表1-1及び表1-2(併せて表1という。)において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分について空欄は対応する成分の配合量が0質量部であることを意味する。
【0081】
実施例1~16及び比較例1~10において、ベース樹脂を構成する成分の一部を触媒MBのキャリア樹脂として用いた。
【0082】
(実施例1~16、比較例1~10)
まず、無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物と臭素系難燃剤とを表1に示す質量比で、回転刃式ミキサー(商品名、マゼラーPM、マゼラー社製)に投入し、室温(25℃)、10rpmで1分間攪拌(前混合)して、粉体混合物を得た(工程(a-1))。次いで、得られた粉体混合物とベース樹脂と滑剤とを、表1に示す質量比で、予め100℃に昇温したニーダー(容量75L)へ投入し、40rpmで5分間の混合後、30rpmで3分間の仕上げ混練を行った。ただし実施例8は、上述の前混合の工程を実施せず、ニーダーに原材料を直接投入した。混合物の温度が有機過酸化物の分解温度以上である180~200℃に達したことを確認した後、フィーダー・ルーダー及びペレタイザーを用いてペレット化することでシランマスターバッチを得た(工程(a-2))。こうして得られたシランMBは、樹脂成分にシランカップリング剤がグラフト化反応したシラン架橋性樹脂を含有している。
【0083】
一方、ベース樹脂、無機フィラー、酸化防止剤及びシラノール縮合触媒を、表1に示す質量比で、順次、予め80℃に昇温したニーダー(容量75L)へ投入し、30rpmで5分間の混合後、25rpmで3分間仕上げ混練を行った。混合物の温度が160℃程度に達しベース樹脂が十分に溶融、混合したことを確認した後、フィーダー・ルーダー及びペレタイザーを用いてペレット化することで触媒マスターバッチを得た(工程(b))。この触媒MBは、キャリア樹脂及びシラノール縮合触媒の溶融混合物である。
【0084】
次いで、シランMBと触媒MBを密閉型のリボンブレンダーに投入し、室温(25℃)で5分間ドライブレンドしてドライブレンド物を得た。このとき、シランMBと触媒MBとの混合比は表1に示す質量比である。
【0085】
次いで、得られたドライドブレンド物を、下記成形条件(1)又は(2)のいずれかで溶融混合、成形して、被覆導体又は未架橋のシートをそれぞれ得た(工程(c)及び工程(2))。上記ドライブレンド物を成形機内で成形前に溶融混合すること(工程(c))により、反応組成物としてシラン架橋性樹脂組成物を調製した。このシラン架橋性樹脂組成物は、シランMBと触媒MBとの溶融混合物であって、上述のシラン架橋性樹脂を含有している。
【0086】
(成形条件1:押出成形)
L/D(スクリュー有効長Lと直径Dとの比)=24のスクリュー径40mmのスクリューを備えた押出機を、圧縮部スクリュー温度160℃、ヘッド温度180℃に設定した。この押出機に、調製したドライブレンド物を投入して溶融混合し(工程(c))、裸軟銅線からなる1/0.8A導体の外側に厚さ1mmで押出・被覆し、外径2.8mmの被覆導体を得た(工程(2))。得られた被覆導体を、60℃、95%RHの雰囲気で24時間静置し、シラン架橋を促進させた(工程(3))。このようにして、上記導体をシラン架橋樹脂成形体で被覆した各絶縁電線を製造した。被覆としてのシラン架橋樹脂成形体は上述のシラン架橋樹脂を含有している。
【0087】
(成形条件2:シート成形)
調製したドライブレンド物を、180℃に加温した8インチロールを用いて10分間溶融混合し(工程(c))、シート状に成形して、厚さ約2.1mmの帯状シートを得た(工程(2))。さらにこの帯状シートをA4サイズに切り抜き、80tプレス機を用いて180℃で10分間加圧し、厚さ2mmの未架橋のシートを得た。得られた未架橋のシートを、60℃、95%RHの雰囲気で24時間静置し、シラン架橋を進行させた(工程(3))。このようにしてシラン架橋樹脂成形体からなるシートを製造した。得られたシートとしてのシラン架橋樹脂成形体は上述のシラン架橋樹脂を含有している。
【0088】
表1に示す各成分としては、以下のものを用いた。
(1)ポリオレフィン樹脂1:エンゲージ7387(商品名、ダウ社製、LLDPE、ガラス転移温度-52℃、密度0.870g/cm3)
(2)ポリオレフィン樹脂2:エンゲージ8150(商品名、ダウ社製、LLDPE、ガラス転移温度-52℃、密度0.868g/cm3)
(3)ポリオレフィン樹脂3:EPT3092PM(商品名、三井化学社製、EPDM,ガラス転移温度-53℃、密度0.870g/cm3)
(4)ポリオレフィン樹脂4:エボリューSP0540(商品名、プライムポリマー社製、LLDPE、ガラス転移温度-70℃、密度0.905g/cm3)
(5)ポリオレフィン樹脂5:エンゲージ7256(商品名、ダウ社製、LLDPE、ガラス転移温度-42℃、密度0.885g/cm3)
(6)スチレンエラストマー1:セプトン4077(商品名、旭化成社製、SEEPS、密度0.91g/cm3)
(7)スチレンエラストマー2:タフテックN504(商品名、旭化成社製、SEPS、密度0.91g/cm3)
(8)鉱物性オイル1:コスモニュートラル500(商品名、コスモ石油ルブリカンツ社製、密度0.885g/cm3)
(9)臭素系難燃剤1:SAYTEX8010(商品名、アルベマール社製、臭素系難燃剤、密度3.25g/cm3、融点345℃)
(10)無機フィラー1:PATOX-C(商品名、日本精鉱社製、三酸化アンチモン、密度5.40g/cm3、融点656℃)
(11)無機フィラー2:マグシーズ FK-640(商品名、神島化学工業社製、水酸化マグネシウム、密度2.38g/cm3、分解温度:300℃以上)
(12)無機フィラー3:ベーマイト FKB-104(商品名、神島化学工業社製、水酸化アルミニウム、密度3.00g/cm3、分解温度:500℃以上)
(13)無機フィラー4:クリスタライト5X(商品名、龍森社製、結晶性シリカ、密度2.60g/cm3、融点1710℃)
(14)無機フィラー5:AEROSIL 200(商品名、日本アエロジル社製、乾式シリカ、密度2.20g/cm3、融点1700℃)
(15)無機フィラー6:ソフトン1200(商品名、備北粉化工業社製、炭酸カルシウム、密度2.70g/cm3、分解温度:825℃)
(16)滑剤1:X-21-3043(商品名、信越化学工業社製、シリコーンガム、密度0.98g/cm3)
(17)シランカップリング剤1:KBM-1003(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン、密度0.97g/cm3、融点0℃)
(18)有機過酸化物1:パーヘキサ25B(商品名、日油社製、ジクミルパーオキサイド、密度0.873g/cm3、融点3.9℃)
(19)酸化防止剤1:イルガノックス1076(商品名、BASF社製、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル、密度1.02g/cm3、融点55℃)
(20)シラノール縮合触媒1:アデカスタブOT-1(商品名、ADEKA社製、ジオクチルスズジラウレート、密度1.00g/cm3、融点7.5℃)
【0089】
上記(1)~(20)の各成分の密度は、JIS K 0061:2001に従って測定した。(1)~(7)及び(16)は上記JISの8.1 天びん法、(8)、(17)、(18)及び(20)は上記JISの7.1 浮ひょう法、(9)~(15)及び(19)は上記JISの8.2 比重瓶法を用いて密度を測定した。
表1に上記測定による各成分の密度を示す。
このようにして得られた密度と、表中に記載のベース樹脂100質量部に対する配合量とを用いて、高融点成分の体積の、シラン架橋性樹脂組成物を構成する成分の全体積に対する割合を求めた。
【0090】
このようにして得られた絶縁電線及びシートについて、下記に示されている試験方法で各種の特性を評価した。
【0091】
<極低温柔軟性試験>
上記で製造した絶縁電線を用いて、JIS C 3005(2014)(4.20 低温巻付け、A法)に準じた方法で、-60℃における柔軟性を評価した。
-60℃の極低温槽に、絶縁電線と、直径2.8mm(絶縁電線外径と同径)及び直径5.6mm(絶縁電線外径の2倍径)のマンドレルを投入し、1時間以上冷却した。その後極低温槽の中で、絶縁電線を直径2.8mmのマンドレル及び直径5.6mmのマンドレルにそれぞれ6ターンずつ巻き付け、巻付けが出来るか否か、及び巻き付けた後の絶縁電線の表面状態を確認し、以下の基準で評価した。
直径2.8mmのマンドレルに、絶縁電線とマンドレルとの間に隙間無く巻き付けることができ、巻き付け後に絶縁電線表面にクラックが生じなかったものを、低温柔軟性に極めて優れているもの「A」、
直径2.8mmのマンドレルに、絶縁電線とマンドレルとの間に隙間を生じたものの、絶縁電線を6ターン巻き付けることができ、かつ直径5.6mmのマンドレルに、絶縁電線とマンドレルとの間に隙間無く巻き付けることができ、いずれの場合でも、巻き付け後に絶縁電線表面にクラックが生じなかったものを、低温柔軟性に優れているもの「B」、
直径5.6mmのマンドレルに、絶縁電線とマンドレルとの間に隙間を生じたものの、絶縁電線を6ターン巻き付けることができ、巻き付け後に絶縁電線表面にクラックが生じなかったものを、低温柔軟性が良好なもの「C」、
いずれのマンドレルにも6ターン巻き付けることが出来なかったもの、又はいずれかのマンドレルに巻き付けた後に絶縁電線表面に目視で確認できる程度のクラックが生じたものを、低温柔軟性に劣るもの「D」とした。
ここで、「隙間を生じる」とは、マンドレルの表面と絶縁電線表面との最大距離が1~2mmであることをいう。「巻き付けられない」とは、上記最大距離が2mmを超えることをいう。
評価が「C」以上であることが本試験の合格レベルである。
【0092】
<タック性試験>
常温での取り扱い性を評価するため、上記で製造したシートを用いてタック性試験を行った。
タック性は、シート同士の接着性を指標として評価した。
製造したシートを、常温(23℃)、50%RHの雰囲気で、5cm四方に切断し、得られた厚さ2mm、5cm四方のシート2枚を上下方向に重ねて水平な台上に設置し、上から均一に圧力がかかるように5kgの荷重をかけた。その状態で常温(23℃)、50%RHの雰囲気で30分間静置した後、荷重を除き、シート同士の接着性を測定した。
シート同士が接着していない、又はシート同士が一部接着しているものの、非接着部分において、2枚のシートの内の一枚の端を持って持ち上げたときにシートの自重のみで剥がれるものを、タック性が小さく優れているもの「A」、
シート同士が接着しておりシートの自重のみでは剥がれないものの、2枚のシートの同じ端を持って剥がしたときに剥がした後のシートが5cm四方の形状を保っているものを、タック性がやや小さく良好なもの「B」、
シート同士が強く接着しており、2枚のシートの同じ端を持って剥がしたときにシートが変形してしまい、剥がした後のシートが5cm四方の形状を保っていないものを、タック性が大きく不合格なもの「D」とした。
ここで、「5cm四方の形状を保っていない」とは、変形後のシートを直ちに観察したときに、5.5cm四方の範囲にシートの全てが収まっていない状態をいう。
評価が「B」以上であることが本試験の合格レベルである。
上記評価において「B」以上であれば、例えば、シラン架橋樹脂成形体の被覆を有する配線材とした際に、被覆同士を接触させても、接触部において、配線材を変形させることなく引き剥がすことができる。
【0093】
<加熱変形試験>
成形体が十分に架橋しているかを評価するため、製造した絶縁電線を用いて加熱変形試験を行った。
加熱変形試験は、JIS C 3005:2014(4.23 加熱変形)に基づき、測定温度120℃、荷重5Nで行った。被覆の、加熱後の厚さと加熱前の厚さとから、加熱変形率(減少率)を求めた。
加熱変形率が20%以下のものを極めて優れているもの「A」、変形率が20%を超え30%以下のものを優れているもの「B」、変形率が30%を超え40%以下のものを良好なもの「C」、変形率が40%を超えるものを不合格「D」とした。評価が「C」以上であることが本試験の合格レベルである。
【0094】
【0095】
【0096】
本発明で規定する各工程を有する製造方法に対して、多すぎる配合量で高融点成分を混合すると、極低温柔軟性試験に不合格であり、極低温環境における低温柔軟性と常温での取り扱い性とを両立したシラン架橋樹脂成形体を製造することができなかった(比較例1及び2)。本発明で規定する各工程を有する製造方法において、無機フィラーを使用しないと、加熱変形試験に不合格となり、架橋ポリエチレン絶縁電線に通常要求される程度の架橋が形成されたシラン架橋樹脂成形体を製造することができなかった(比較例3)。本発明で規定する各工程を有する製造方法に対して、本発明で規定する組成を満たさないベース樹脂を混合すると、極低温柔軟性試験、タック性試験、及び加熱変形試験のいずれかに不合格であり、極低温環境における低温柔軟性と常温での取り扱い性とを両立したシラン架橋樹脂成形体を製造することができなかった(比較例4、5、8~10)。本発明で規定する各工程を有する製造方法に対して、多すぎる又は少なすぎる配合量で有機過酸化物を混合すると、極低温柔軟性試験、タック性試験、及び加熱変形試験のいずれかに不合格であり、極低温環境における低温柔軟性と常温での取り扱い性とを両立したシラン架橋性成形体を製造することができなかったばかりか、十分な架橋が形成された成形体とすることができなかった(比較例6、7)。なお、比較例10の製造方法は、試験温度を-40℃とした以外は上記極低温柔軟性試験と同じ極低温柔軟性試験に合格するシラン架橋性樹脂成形体を製造できた。
これに対して、本発明で規定する各工程を有する製造方法において、本発明で規定する組成を満たしたベース樹脂を、無機フィラーを含む高融点成分、有機過酸化物等と特定量で配合すると、極低温柔軟性試験及びタック性試験のいずれにも合格し、極低温環境における低温柔軟性と常温での取り扱い性とを両立したシラン架橋樹脂成形体を製造することができた(実施例1~16)。さらに、加熱変形試験に合格していることから、上記用途の配線材に通常要求される程度の架橋が形成された成形体とできたことがわかる。