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特開2022-153246水不溶性の高分子化合物及びそれを含む表面処理剤等
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153246
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】水不溶性の高分子化合物及びそれを含む表面処理剤等
(51)【国際特許分類】
   C08F 212/14 20060101AFI20221004BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08F212/14
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177013
(22)【出願日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2021054591
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】陳孫 詩蒙
(72)【発明者】
【氏名】根津 友祐
(72)【発明者】
【氏名】今富 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
【テーマコード(参考)】
4B029
4J100
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC08
4B029CC11
4B029GB09
4J100AB02Q
4J100AB07P
4J100AL03R
4J100BA16P
4J100CA05
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA18
4J100JA01
4J100JA51
(57)【要約】
【課題】細胞接着性高分子を含む表面処理剤を提供すること。
【解決手段】(A)酸性を示す官能基を持つ単量体、(B)HLB値(グリフィン法)が0~5.0の範囲にある単量体、(C)HLB値(グリフィン法)が5.0~9.0の範囲にある単量体の構成成分を含み、(A)、(B)及び(C)における(C)の比率が10~50mol%であることを特徴とする水不溶性の高分子化合物により前記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)(B)(C)の構成成分を含み、(A)、(B)及び(C)における(C)の比率が10~50mol%であることを特徴とする水不溶性の高分子化合物。
(A)酸性を示す官能基を持つ単量体。
(B)HLB値(グリフィン法)が0~5.0の範囲にある単量体。
(C)HLB値(グリフィン法)が5.0~9.0の範囲にある単量体。
【請求項2】
構成成分(A)と(B)のモル比A/Bが0.1~2.0(mol/mol)である請求項1記載の水不溶性の高分子化合物。
【請求項3】
構成成分(A)の酸性を示す官能基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基から選択される請求項1又は2に記載の水不溶性の高分子化合物。
【請求項4】
構成成分(A)の酸性を示す官能基の酸解離定数pKaが-5.0~6.0である請求項1~3いずれか1項に記載の水不溶性の高分子化合物。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載の水不溶性の高分子化合物を含む表面処理剤。
【請求項6】
請求項5記載の表面処理剤を基材に塗布してなる膜。
【請求項7】
基材の材質がプラスチック製である請求項6に記載の膜。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の膜を表面に被覆した細胞培養基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性の高分子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を原料とするバイオ医薬品は薬効の高さから普及が期待されており、原料細胞を大量に培養する技術に注目が集まっている。
【0003】
多くの有用細胞は培養する際に何らかの基材に接着する必要があり、優れた細胞接着性を持つ培養基材が求められる。細胞接着性を得るための一般的な方法としてプラズマ処理が挙げられるが、十分な細胞接着性を有しているとはいえず、細胞培養効率向上のために新規な細胞接着性を付与する技術が求められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57-186491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、細胞接着性を有する水不溶性の高分子化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以上の点を鑑み、鋭意研究を重ねた結果、(A)酸性を示す官能基を持つ単量体と、(B)HLB値(グリフィン法)が0~5の範囲にある単量体、(C)HLB値(グリフィン法)が5~9の範囲にある単量体、の構成成分を含み、(A)、(B)及び(C)における(C)の比率が10~50mol%であることを特徴とする水不溶性の高分子化合物は、一般的なプラスチック製基材への侵襲性の低い有機溶媒に溶解することができ、基材に被覆することで細胞接着性を付与できることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は以下の態様を包含する。
<1> 下記(A)(B)(C)の構成成分を含み、(A)、(B)及び(C)における(C)の比率が10~50mol%であることを特徴とする水不溶性の高分子化合物。
(A)酸性を示す官能基を持つ単量体。
(B)HLB値(グリフィン法)が0~5.0の範囲にある単量体。
(C)HLB値(グリフィン法)が5.0~9.0の範囲にある単量体。
<2> 構成成分(A)と(B)のモル比A/Bが0.1~2.0(mol/mol)である<1>記載の水不溶性の高分子化合物。
<3> 構成成分(A)の酸性を示す官能基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基から選択される<1>又は<2>に記載の水不溶性の高分子化合物。
<4> 構成成分(A)の酸性を示す官能基の酸解離定数pKaが-5.0~6.0である<1>~<3>いずれか1項に記載の水不溶性の高分子化合物。
<5> <1>~<4>いずれか1項に記載の水不溶性の高分子化合物を含む表面処理剤。
<6> <5>記載の表面処理剤を基材に塗布してなる膜。
<7> 基材の材質がプラスチック製である<6>に記載の膜。
<8> <6>又は<7>に記載の膜を表面に被覆した細胞培養基材。
【発明の効果】
【0007】
(A)酸性を示す官能基を持つ単量体と、(B)HLB値(グリフィン法)が0~5.0の範囲にある単量体、(C)HLB値(グリフィン法)が5.0~9.0の範囲にある単量体、の構成成分を含み、(A)、(B)及び(C)における(C)の比率が10~50mol%であることを特徴とする水不溶性の高分子化合物は、一般的なプラスチック製基材への侵襲性の低い有機溶媒に溶解することができ、それを基材に被覆することで細胞接着性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0009】
本発明の細胞接着性ポリマーは、(A)酸性を示す官能基を持つ単量体と、(B)HLB値(グリフィン法)が0~5.0の範囲にある単量体、(C)HLB値(グリフィン法)が5.0~9.0の範囲にある単量体、の構成成分を含み、(A)、(B)及び(C)における(C)の比率が10~50mol%であることを特徴とする水不溶性の高分子化合物である。
【0010】
本発明の構成成分(A)の酸性を示す官能基とは水中で電離してアニオン性を示す官能基であり、特に限定はないが、一例として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基から選択される。これらの中でも酸性の制御が容易なことから、カルボキシ基が好ましい。またこれら単量体中に官能基を二つ以上含んでも良いし、これら以外の官能基、例えば、アルデヒド基、カルボニル基、ニトロ基、アミノ基、エーテル基、エステル基、アミド基を含んでも良い。
【0011】
本明細書の酸解離定数は水中における酸解離定数pKaを指す。本明細書の酸解離定数pKaは高分子構造の側鎖構造から特定する。細胞接着性を付与するために細胞-基材間の静電結合を促進する必要があり、本発明の構成成分(A)の酸性を示す官能基の酸解離定数pKaは特に限定はないが、例えば-5.0~6.0であり、好ましくは-3.0~5.0、より好まくは1~4.5である。酸解離定数pKaが-5.0未満であると構成成分(B)との共重合が困難になる場合があり、酸解離定数pKaが6.0を超えると静電結合の促進効果が弱まる場合がある。酸解離定数の一例として、アクリル酸の側鎖構造は-COOHであるから4.76、カルボキシスチレンの側鎖構造は-CCOOHであるから4.20、スチレンスルホン酸の側鎖構造は-CSOHであるから-2.8である。
【0012】
本発明の高分子化合物は水不溶性である。本明細書における水不溶性とは20℃の水100g当たりの高分子化合物の溶解量が100mg以下であることを言う。
【0013】
本発明の構成成分(A)の構造は特に限定はないが、一例として、アクリル酸、カルボキシスチレン(カルボキシ基はオルト位、メタ位、パラ位のいずれであっても良い)、スチレンスルホン酸(スルホン酸基はオルト位、メタ位、パラ位のいずれであっても良い)およびその誘導体が挙げられる。これらの中でもより好ましいpKaの側鎖構造を有することからp-カルボキシスチレン、アクリル酸、又はp-スチレンスルホン酸が好ましく、p-カルボキシスチレンがさらに好ましい。
【0014】
本明細書において、HLB値(HLB;Hydrophile-Lipophile Balance)とは、W.C.Griffin,Journal of the Society of Cosmetic Chemists,1,311(1949).に記載の、水と油への親和性の程度を表す値である。計算によって決定する方法として、アトラス法、グリフィン法、デイビス法、川上法があるが、本発明においてはグリフィン法で計算した値を使用し、繰り返し単位中の親水部の式量と繰り返し単位の総式量を元に、下記の計算式で求めた。
HLB値=20×(親水部の式量)÷(総式量)
グリフィン法ではHLB値が0から20までの値を取り、0に近いほど疎水性が高く、20に近いほど親水性が高くなる。前述の、各ブロックの繰り返し単位中の親水部の定義として、スルホ基部(-SO-)、ホスホ基部(-PO-)、カルボキシ基部(-COOH)、エステル部(-COO-)、アミド部(-CONH-)、イミド部(-CON-)、アルデヒド基部(-CHO)、カルボニル基部(-CO-)、ヒドロキシ基部(-OH)、アミノ基部(-NH)、アセチル基部(-COCH)、エチレンアミン部(-CHCHN-)、エチレンオキシ部(-CHCHO-)、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、ハロゲン化物イオン、酢酸イオンを例示することができる。繰り返し単位中の親水部の算出では、親水部を構成する原子が、他の親水部を構成する原子として重複してはならない。繰り返し単位中のHLB値の算出例を以下に記載した。例えば、スチレン(分子量:104.15)の場合、親水部はなく、親水部の分子量は0であるから、HLB値は0.0である。カルボキシスチレン(分子量:148.15)の場合、親水部はカルボキシ基が1部であり、親水部の分子量は45.02であるから、HLB値は6.1である。n-ブチルアクリレート(分子量:128.2)の場合、親水部はエステル部が1部であり、親水部の分子量は44.01であるから、HLB値は6.9である。
【0015】
細胞接着性を付与するために細胞-基材間の疎水結合を促進する必要があり、本発明の構成成分(B)のHLB値は0~5.0の範囲にある単量体であり、好ましくは0~3.0である。HLB値が5.0を超えると疎水結合の促進効果が弱まる。
【0016】
本発明の構成成分(B)は特に限定はないが、一例として、スチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、およびその誘導体が挙げられる。これらの中でも構成成分(A)や(C)との共重合が容易であることからスチレンが好ましい。
【0017】
一般的なプラスチック製基材への侵襲性の低い有機溶媒に溶解するために、本発明の構成成分(C)のHLB値は5.0~9.0の範囲にある単量体であり、好ましくは5.0~8.0である。HLB値が5.0未満では有機溶媒への溶解性が低下し、HLB値が9.0を超えると水に溶解しやすくなる。
【0018】
本発明の構成成分(C)は特に限定はないが、一例として、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルが挙げられる。これらの中でも構成成分(A)や(B)との共重合が容易であることからn-ブチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0019】
本発明の構成成分(A)、(B)及び(C)における(C)の比率は10~50mol%である。10mol%未満では有機溶媒への溶解性が低下し、表面処理剤として用いる場合にコートムラが発生することがある。50mol%を超えると十分な細胞接着性を発現することが困難になる。
【0020】
本発明の構成成分(A)と(B)のモル比A/B(mol/mol)は特に限定はないが、例えば0.1~2.0であり、好ましくは0.2~1.0であり、さらに好ましくは0.5~0.9である。AとBのバランスが細胞接着性の発現に重要であり、0.1~2.0の範囲を超えると十分な細胞接着性が得られないことがある。
【0021】
本発明の高分子化合物には構成成分(A)(B)(C)以外の構成成分が含まれていても良い。また、構成成分がランダムに配列したランダム共重合体であっても良く、それぞれの構成成分からなる高分子が連結したブロック共重合体であっても良い。
【0022】
本発明の高分子化合物は特に限定はないが、数平均分子量Mnが5,000~1,000,000であり、好ましくは10,000~300,000である。5,000未満では水に溶解しやすくなり、1,000,000を超えると溶剤への溶解性が低下する。
【0023】
本発明の高分子化合物の重合方法は特に限定はなく、一例として、付加重合、重縮合、イオン重合、開環重合、リビングラジカル重合、配位重合を選択できる。
【0024】
本発明の高分子化合物の製法は特に限定はなく、一例として、塊状重合、溶液縮合、懸濁重合、乳化重合を選択できる。
【0025】
本発明の高分子化合物は溶剤に溶解することで表面処理剤として用いることができる。表面処理剤の溶剤は特に限定はないが、被覆する基材が溶解しない溶剤を選択することが好ましく、一例として、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、n-ヘキサン、ベンゼン、トルエン、1,4-ジオキサン、2-メトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、およびこれらから選択される混合液を用いることができる。表面処理剤中の高分子化合物の濃度は特に限定はないが、一例として、0.01~10wt%である。また本発明の高分子化合物以外の化合物を含んでも良い。
【0026】
本発明の表面処理剤は基材に塗布して乾燥などで溶媒を除去することで、基材表面に本発明の高分子化合物からなる膜を成形することができる。基材の種類に特に限定はなく、一例として、プラスチック(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、アクリル系ポリマー、メタクリル酸系ポリマー、シリコーンゴム、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等)、金属、セラミックス、ガラスが挙げられる。また、基材の形状は特に限定はないが、一例として、板状、フィルム状、ビーズ状、繊維状の形状のほか、板状の基材に設けられた穴や溝や突起なども挙げられる。膜の成型方法に特に限定はなく、一例として、はけ塗り、ディップコーティング、スピンコーティング、バーコーティング、流し塗り、スプレー塗装、ロール塗装、エアーナイフコーティング、ブレードコーティングなど通常知られている各種の方法を用いることが可能である。膜厚は特に限定はなく、一例として1nm~100μmである
本発明の膜を表面に被覆した基材は、細胞培養基材として用いることができる。本発明の細胞培養基材に適用可能な細胞は特に限定はないが、一例として、間葉系幹細胞、チャイニーズハムスター卵巣由来CHO細胞、マウス結合組織L929細胞、ヒト胎児腎臓由来細胞HEK293細胞、ヒト子宮頸癌由来HeLa細胞、更に生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン細胞、グリア細胞、繊維芽細胞、生体の代謝に関与する肝実質細胞、肝非実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、種々の組織に存在する幹細胞、さらにはそれらから分化誘導した細胞等を用いることができる。これら以外でも、血液、リンパ液、髄液、喀痰、尿又は便に含まれる細胞や、体内あるいは環境中に存在する微生物、ウイルス、原虫等を例示できる。
【実施例0027】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。
<ブロック共重合体の組成>
核磁気共鳴測定装置(日本電子(株)製、商品名JNM-ECZ400S/L1)を用いたプロトン核磁気共鳴分光(H-NMR)スペクトル分析より求めた。
<ブロック共重合体の分子量、分子量分布>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置は東ソー(株)製 HLC-8320GPCを用い、カラムは東ソー製 TSKgel Super AWM-Hを2本用い、カラム温度を40℃に設定し、溶離液は10mMトリフルオロ酢酸ナトリウムを含む10mMトリフルオロ酢酸ナトリウムを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mLで調製して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリメタクリル酸メチル(ポリマーラボラトリーズ製)を用いた。
<細胞数と細胞生存率の計測>
細胞懸濁液中から10μLを細胞数測定用スライド(Thermo Fisher Scientific(株)製、商品名Countess Cell Counting Chamber Slid)に添加し自動セルカウンター(Thermo Fisher Scientific(株)製、商品名CountessR II)を用いて、細胞数と細胞生存率を測定した。
【0028】
実施例1
200mL2口フラスコに構成成分(A)としてp-カルボキシスチレン(CSt,pKa=4.20)0.889g(6mmol)と構成成分(B)としてスチレン(St,HLB値=0)0.833g(8mmol)と構成成分(C)としてn-ブチルアクリレート(BA, HLB値=6.9)0.769g(6mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル16mg(100μmol)とtert-ブチルアルコール20mLを加え、窒素ガス置換後、64℃で24時間加熱撹拌した。反応液をn-ヘプタンで再沈精製し、減圧乾燥することで白色固体の高分子化合物1 poly(CSt/St/BA)を1.288g得た。得られた高分子化合物1の組成はCSt:St:BA=28:49:23(mol%)、モル比A/Bは0.57、数平均分子量Mnは9.1×10、分子量分布Mw/Mnは1.9であった。
【0029】
高分子化合物1を0.05g量り取り、2-ブタノール9.95gに溶解した。本溶液を60mmのIWAKI浮遊培養用ポリスチレンディッシュに100μL滴下し、3000rpmで60秒スピンコートすることで高分子化合物1を被覆した細胞培養基材を調製した。本細胞培養基材にヒト骨髄由来間葉系幹細胞(ロンザジャパン(株)製、Product Code:PT-2501)を1.0×10cells播種し、37℃、CO濃度5%で培養した。培養液にはウシ胎児血清(コロンビア産)を10vol%含むダルベッコ・フォークト変法イーグル最小必須培地(10vol%FBS/DMEM)を用いた。6日間培養後に細胞数を計測したところ、4.0×10cellsであった。
【0030】
実施例2
200mL2口フラスコに構成成分(A)としてp-カルボキシスチレン(CSt,pKa=4.20)0.889g(6mmol)と構成成分(B)としてスチレン(St,HLB値=0)0.625g(6mmol)と構成成分(C)としてn-ブチルアクリレート(BA, HLB値=6.9)1.282g(10mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル16mg(100μmol)とtert-ブチルアルコール20mLを加え、窒素ガス置換後、64℃で24時間加熱撹拌した。反応液をn-ヘプタンで再沈精製し、減圧乾燥することで白色固体の高分子化合物2 poly(CSt/St/BA)を1.128g得た。得られた高分子化合物2の組成はCSt:St:BA=25:29:46(mol%)、モル比A/Bは0.86、数平均分子量Mnは9.4×10、分子量分布Mw/Mnは1.9であった。
【0031】
高分子化合物2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞培養基材を調製し、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の培養を実施した。6日間培養後に細胞数を計測したところ、3.6×10cellsであった。
【0032】
実施例3
200mL2口フラスコに構成成分(A)としてp-カルボキシスチレン(CSt,pKa=4.20)0.593g(4mmol)と構成成分(B)としてスチレン(St,HLB値=0)0.729g(7mmol)と構成成分(C)としてn-ブチルアクリレート(BA, HLB値=6.9)0.385g(3mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル16mg(100μmol)とtert-ブチルアルコール20mLを加え、窒素ガス置換後、64℃で24時間加熱撹拌した。反応液をn-ヘプタンで再沈精製し、減圧乾燥することで白色固体の高分子化合物3 poly(CSt/St/BA)を1.089g得た。得られた高分子化合物3の組成はCSt:St:BA=31:51:18(mol%)、モル比A/Bは0.61、数平均分子量Mnは9.0×10、分子量分布Mw/Mnは1.9であった。
【0033】
高分子化合物3を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞培養基材を調製し、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の培養を実施した。6日間培養後に細胞数を計測したところ、3.4×10cellsであった。
【0034】
実施例4
200mL2口フラスコに構成成分(A)としてp-カルボキシスチレン(CSt,pKa=4.20)1.482g(10mmol)と構成成分(B)としてスチレン(St,HLB値=0)0.521g(5mmol)と構成成分(C)としてn-ブチルメタクリレート(BMA, HLB値=6.2)1.482g(10mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル16mg(100μmol)とtert-ブチルアルコール20mLを加え、窒素ガス置換後、64℃で24時間加熱撹拌した。反応液をn-ヘプタンで再沈精製し、減圧乾燥することで白色固体の高分子化合物7 poly(CSt/St/BMA)を1.301g得た。得られた高分子化合物7の組成はCSt:St:BMA=38:20:42(mol%)、モル比A/Bは1.90、数平均分子量Mnは9.0×10、分子量分布Mw/Mnは2.0であった。
【0035】
高分子化合物7を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞培養基材を調製し、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の培養を実施した。6日間培養後に細胞数を計測したところ、3.8×10cellsであった。
【0036】
実施例5
200mL2口フラスコに構成成分(A)としてアクリル酸(AA,pKa=4.76)0.360g(5mmol)と構成成分(B)としてスチレン(St,HLB値=0)1.250g(12mmol)と構成成分(C)としてn-ブチルアクリレート(BA, HLB値=6.9)0.641g(5mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル16mg(100μmol)とtert-ブチルアルコール20mLを加え、窒素ガス置換後、64℃で24時間加熱撹拌した。反応液をn-ヘプタンで再沈精製し、減圧乾燥することで白色固体の高分子化合物8 poly(AA/St/BA)を1.084g得た。得られた高分子化合物8の組成はAA:St:BA=25:59:16(mol%)、モル比A/Bは0.42、数平均分子量Mnは5.0×10、分子量分布Mw/Mnは2.3であった。
【0037】
高分子化合物8を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞培養基材を調製し、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の培養を実施した。6日間培養後に細胞数を計測したところ、3.6×10cellsであった。
【0038】
実施例6
p-スチレンスルホン酸ナトリウムをイオン交換水に溶解し、H型陽イオン交換樹脂を充填したカラムに通液した。さらに20℃でロータリーエバポレーターを用い濃縮と乾燥を行うことで白色粉末のp-スチレンスルホン酸を得た。
【0039】
200mL2口フラスコに構成成分(A)としてp-スチレンスルホン酸(SSA,pKa=-2.80)1.289g(7mmol)と構成成分(B)としてスチレン(St,HLB値=0)1.042g(10mmol)と構成成分(C)としてn-ブチルアクリレート(BA, HLB値=6.9)1.538g(12mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル16mg(100μmol)とエタノール20mLを加え、窒素ガス置換後、64℃で24時間加熱撹拌した。反応液をn-ヘプタンで再沈精製し、減圧乾燥することで白色固体の高分子化合物9 poly(SSA/St/BA)を1.497g得た。得られた高分子化合物9の組成はSSA:St:BA=24:31:45(mol%)、モル比A/Bは0.77、数平均分子量Mnは3.3×10、分子量分布Mw/Mnは2.6であった。
【0040】
高分子化合物9を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞培養基材を調製し、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の培養を実施した。6日間培養後に細胞数を計測したところ、3.5×10cellsであった。
【0041】
比較例1
200mL2口フラスコに構成成分(A)としてp-カルボキシスチレン(CSt,pKa=4.20)2.371g(16mmol)と構成成分(B)としてスチレン(St,HLB値=0)0.417g(4mmol)と構成成分(C)としてn-ブチルアクリレート(BA, HLB値=6.9)0.769g(6mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル16mg(100μmol)とtert-ブチルアルコール20mLを加え、窒素ガス置換後、64℃で24時間加熱撹拌した。反応液をn-ヘプタンで再沈精製し、減圧乾燥することで白色固体の高分子化合物4 poly(CSt/St/BA)を1.224g得た。得られた高分子化合物4の組成はCSt:St:BA=79:7:14(mol%)、モル比A/Bは11.29、数平均分子量Mnは9.4×10、分子量分布Mw/Mnは1.9であった。
【0042】
高分子化合物4を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞培養基材を調製し、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の培養を実施した。6日間培養後に細胞数を計測したところ、1.2×10cellsであった。
【0043】
比較例2
200mL2口フラスコに構成成分(B)としてスチレン(St,HLB値=0)1.458g(14mmol)と構成成分(C)としてn-ブチルアクリレート(BA, HLB値=6.9)0.769g(6mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル16mg(100μmol)とtert-ブチルアルコール20mLを加え、窒素ガス置換後、64℃で24時間加熱撹拌した。実施例1と同様の方法で精製することで、高分子化合物5 poly(St/BA)を1.215g得た。得られた高分子化合物5の組成はSt:BA=60:40(mol%)、モル比A/Bは0.0、数平均分子量Mnは8.3×10、分子量分布Mw/Mnは2.0であった。
【0044】
高分子化合物5を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞培養基材を調製し、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の培養を実施した。6日間培養後に細胞数を計測したところ、2.3×10cellsであった。
【0045】
比較例3
200mL2口フラスコに構成成分(A)としてp-カルボキシスチレン(CSt,pKa=4.20)2.222g(15mmol)と構成成分(B)としてスチレン(St,HLB値=0)0.521g(5mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル16mg(100μmol)とtert-ブチルアルコール20mLを加え、窒素ガス置換後、64℃で24時間加熱撹拌した。反応液をn-ヘプタンで再沈精製し、減圧乾燥することで白色個体の高分子化合物6 poly(CSt/St)を1.530g得た。得られた高分子化合物6の組成はCSt:St=80:20(mol%)、モル比A/Bは4.00、数平均分子量Mnは8.9×10、分子量分布Mw/Mnは1.9であった。
【0046】
高分子化合物6を0.05g量り取り、2-ブタノール9.95gへの溶解を試みたが、溶解できなかった。本懸濁液を60mmのIWAKI浮遊培養用ポリスチレンディッシュに100μL滴下し、3000rpmで60秒スピンコートしたが培養基材表面にコートムラが現れてしまい、均一なコーティングができなかった。本細胞培養基材を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でヒト骨髄由来間葉系幹細胞の培養を実施した。6日間培養後に細胞数を計測したところ、3.7×10cellsであった。
【0047】
比較例4
60mmのIWAKI浮遊培養用ポリスチレンディッシュにヒト骨髄由来間葉系幹細胞(ロンザジャパン(株)製、Product Code:PT-2501)を1.0×10cells播種し、37℃、CO濃度5%で培養した。培養液にはウシ胎児血清(コロンビア産)を10vol%含むダルベッコ・フォークト変法イーグル最小必須培地(10vol%FBS/DMEM)を用いた。6日間培養後に細胞数を計測したところ、2.0×10cellsであった。
【0048】
比較例5
60mmのIWAKI接着培養用ポリスチレンディッシュにヒト骨髄由来間葉系幹細胞(ロンザジャパン(株)製、Product Code:PT-2501)を1.0×10cells播種し、37℃、CO濃度5%で培養した。培養液にはウシ胎児血清(コロンビア産)を10vol%含むダルベッコ・フォークト変法イーグル最小必須培地(10vol%FBS/DMEM)を用いた。6日間培養後に細胞数を計測したところ、3.0×10cellsであった。
【0049】
【表1】