(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153314
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、分散液状組成物、固体高分子形燃料電池用積層体、該固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20221004BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221004BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20221004BHJP
H01M 8/043 20160101ALI20221004BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20221004BHJP
C08J 9/24 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M8/10 101
H01M4/88 C
H01M8/043
H01M8/0438
C08J9/24 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047422
(22)【出願日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2021055008
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021192412
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 篤史
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 想
(72)【発明者】
【氏名】東郷 英一
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋
【テーマコード(参考)】
4F074
5H018
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
4F074AA87
4F074AH04
4F074CA52
4F074CB47
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4F074CC10X
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5H018AA06
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5H127DB02
5H127DB22
(57)【要約】
【課題】
マイクロポーラス層の熱伝導性など、水分量調節以外の機能設計が可能な、固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、該樹脂を含む分散液状組成物、固体高分子形燃料電池用積層体、該固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】
固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の熱可塑性樹脂(熱硬化性樹脂)であって、350℃における溶融粘度が、200Pa・s以下であり、かつ、100℃の熱水100mlに2gの熱可塑性樹脂(熱硬化性樹脂)を6時間浸漬したときの金属イオンの溶出量が65ppm以下である熱可塑性樹脂(熱硬化性樹脂)、分散液状組成物、固体高分子形燃料電池用積層体、該固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の熱可塑性樹脂であって、350℃における溶融粘度が、200Pa・s以下であり、かつ、100℃の熱水100mlに2gの熱可塑性樹脂を6時間浸漬したときの金属イオンの溶出量が65ppm以下である熱可塑性樹脂。
【請求項2】
融点が120℃以上300℃以下である請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項3】
2次粒子の平均粒径が、5μm以上50μm以下である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項4】
2次粒子の比表面積が、2.0m2/g以上である請求項1~3のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項5】
水の接触角が80°以上120°以下である請求項1~4のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項6】
フィラーを含有する請求項1~5のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項7】
ポリフェニレンサルファイド樹脂である請求項1~6のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項8】
固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の熱硬化性樹脂であって、350℃における溶融粘度が、200Pa・s以下であり、かつ、100℃の熱水100mlに2gの熱硬化性樹脂を6時間浸漬したときの金属イオンの溶出量が65ppm以下である熱硬化性樹脂。
【請求項9】
上記請求項1~7のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂と導電性炭素材と分散媒と分散剤を含む固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物。
【請求項10】
さらに、撥水性樹脂を含む請求項9に記載の固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物。
【請求項11】
上記熱可塑性樹脂を、3質量%以上35質量%以下含有する請求項9又は10に記載の固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物。
【請求項12】
上記請求項8に記載の熱硬化性樹脂と導電性炭素材と分散媒と分散剤を含む固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物。
【請求項13】
ガス拡散層とマイクロポーラス層とを積層した固体高分子形燃料電池用積層体であって、上記マイクロポーラス層が、少なくとも請求項1~7のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂に由来する熱可塑性樹脂塊を備え、上記ガス拡散層と上記マイクロポーラス層との界面付近に上記熱可塑性樹脂塊が分散している固体高分子形燃料電池用積層体。
【請求項14】
上記マイクロポーラス層は、ガス拡散層側に上記熱可塑性樹脂塊を多く含む請求項13に記載の固体高分子形燃料電池用積層体。
【請求項15】
上記マイクロポーラス層は、その面内方向に上記熱可塑性樹脂塊の存在領域と非存在領域とを備える請求項13又は14に記載の固体高分子形燃料電池用積層体。
【請求項16】
上記熱可塑性樹脂塊の平均粒径と上記ガス拡散層の平均細孔径との比(平均粒径/平均細孔径)が、0.14以上1.25以下である請求項13~15のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体。
【請求項17】
上記熱可塑性樹脂塊の平均粒径が、5μm以上50μm以下である請求項13~16のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体。
【請求項18】
ガス拡散層とマイクロポーラス層とを積層した固体高分子形燃料電池用積層体であって、上記マイクロポーラス層が、少なくとも請求項8に記載の熱硬化性樹脂に由来する熱硬化性樹脂塊を備え、上記ガス拡散層と上記マイクロポーラス層との界面付近に上記熱硬化性樹脂塊が分散している固体高分子形燃料電池用積層体。
【請求項19】
上記請求項9~12のいずれか1つの項に記載のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物を上記ガス拡散層上に塗布してマイクロポーラス層形成用分散液状組成物像を形成し、加熱する、請求項13~17のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法。
【請求項20】
上記請求項9~12のいずれか1つの項に記載のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物を平滑基盤上に塗布乾燥して単独膜状のマイクロポーラス層を形成し、該単独膜を前記ガス拡散層主面上に張り合わせ、加熱圧縮する、請求項13~17のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法。
【請求項21】
上記請求項8に記載のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物を上記ガス拡散層上に塗布してマイクロポーラス層形成用分散液状組成物像を形成し、加熱する、請求項18に記載の固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法。
【請求項22】
上記請求項8に記載のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物を平滑基盤上に塗布乾燥して単独膜状のマイクロポーラス層を形成し、該単独膜を前記ガス拡散層主面上に張り合わせ、加熱圧縮する、請求項18に記載の固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法。
【請求項23】
固体高分子形燃料電池用のガス拡散層に隣接して配置され、その主成分が導電性炭素と請求項1~7のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド樹脂を主成分として形成されているマイクロポーラス層。
【請求項24】
ポリフェニレンサルファイド樹脂が、数平均分子量Mnが、1000以上8000以下であり、重量平均分子量Mwが、7000以上40000以下である請求項23に記載のマイクロポーラス層。
【請求項25】
マイクロポーラス層1gを密閉した100℃の熱水15gに6時間浸漬した際に、熱水中に溶出する金属イオンの濃度が56ppm以下である請求項23又は24に記載のマイクロポーラス層。
【請求項26】
燃料電池の発電運転前に、請求項13~18のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体に純水、酸性水溶液および水蒸気の1つ以上の媒体を通液させる工程を行う固体高分子形燃料電池用積層体の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層の機能設計が可能な熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、該樹脂を含む分散液状組成物、該マイクロポーラス層が接合された固体高分子形燃料電池用積層体、該固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池の電解質膜として、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸などのプロトン交換膜が多く用いられている。
【0003】
このプロトン交換膜は、イオン伝導性の電解質として機能するとともに、燃料ガスと酸化剤ガスとを分離する機能を有し、含水させることによってこれらの機能を発揮する。
【0004】
したがって、高い電池特性を得るには、固体高分子電解質膜に対して十分なガスの拡散供給と飽和状態あるいは飽和に近い状態に含水させることが重要である。
【0005】
しかし、電解質膜表面に配置された触媒層に水が滞留(フラッディング)すると、燃料ガスや酸化剤ガスが触媒層に継続して供給されず発電が不安定化するため、ガスの拡散機能を保持しつつ、水の滞留も防止する必要がある。
【0006】
燃料電池では、一般的にガス拡散層は電解質膜および触媒層を挟持するように配置されている。しかしながら、ガス拡散層は炭素繊維によって構成されているため、燃料電池の組み立て時の圧縮の際に、炭素繊維末端部が電解質膜に接触することで膜の破損の原因になることも知られている。
【0007】
このため、ガス拡散層(GDL)と触媒層との間に、炭素粉とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性樹脂を含むマイクロポーラス層を設けて導電性とガス拡散機能を保持しつつ、固体高分子電解質膜の水分量を調節することが行われている。しかし、撥水性樹脂は、その忌避性のためガス拡散層(GDL)との接合力が弱い。
【0008】
特許文献1の特開2018-092775号公報には、分子量が100万以下のポリテトラフルオロエチレンで形成したマイクロポーラス層は、水分量調節機能以外に、触媒層に対するガス拡散層の接合力を向上させることができる旨、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、マイクロポーラス層中のポリテトラフルオロエチレンなどの撥水性樹脂の含有量は、耐フラッディング性と耐ドライアップ性とのバランスによって決まるため、マイクロポーラス層は、水分量調節機能以外の機能設計の自由度が低い。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、マイクロポーラス層のガス拡散層との接合力や熱伝導性など、水分量調節以外の機能設計が可能な、固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の熱可塑性樹脂等、該樹脂を含む分散液状組成物、これを用いた固体高分子形燃料電池用積層体、該固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、上述する従来から使用されているポリテトラフルオロエチレンなどの撥水性樹脂を溶融させてマイクロポーラス層を形成するときの加熱過程において、上記撥水性樹脂の溶融粘度よりも粘度が低い熱可塑性樹脂等を用いることにより上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題は、本発明の下記(1)~(8)のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の熱可塑性樹脂等によって解決される。
(1)固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の熱可塑性樹脂であって、350℃における溶融粘度が、200Pa・s以下であり、かつ、100℃の熱水100mlに2gの熱可塑性樹脂を6時間浸漬したときの金属イオンの溶出量が65ppm以下である熱可塑性樹脂。
(2)融点が120℃以上300℃以下である上記(1)項に記載の熱可塑性樹脂。
(3)2次粒子の平均粒径が、5μm以上50μm以下である上記(1)項又は(2)項に記載の熱可塑性樹脂。
(4)2次粒子の比表面積が、2.0m2/g以上である上記(1)項~(3)項のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂。
(5)水の接触角が80°以上120°以下である上記(1)項~(4)項のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂。
(6)フィラーを含有する上記(1)項~(5)項のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂。
(7)ポリフェニレンサルファイド樹脂である上記(1)項~(6)項のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂。
(8)固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の熱硬化性樹脂であって、350℃における溶融粘度が、200Pa・s以下であり、かつ、100℃の熱水100mlに2gの熱硬化性樹脂を6時間浸漬したときの金属イオンの溶出量が65ppm以下である熱硬化性樹脂。
(9)上記(1)項~(7)項のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂と導電性炭素材と分散媒と分散剤を含む固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物。
(10)さらに、撥水性樹脂を含む上記(9)項に記載の固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物。
(11)上記熱可塑性樹脂を、3質量%以上35質量%以下含有する上記(9)項又は(10)項に記載の固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物。
(12)上記(8)項に記載の熱硬化性樹脂と導電性炭素材と分散媒と分散剤を含む固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物。
(13)ガス拡散層とマイクロポーラス層とを積層した固体高分子形燃料電池用積層体であって、上記マイクロポーラス層が、少なくとも上記(1)項~(7)項のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂に由来する熱可塑性樹脂塊を備え、上記ガス拡散層と上記マイクロポーラス層との界面付近に上記熱可塑性樹脂塊が分散している固体高分子形燃料電池用積層体。
(14)上記マイクロポーラス層は、ガス拡散層側に上記熱可塑性樹脂塊を多く含む上記(13)項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体。
(15)上記マイクロポーラス層は、その面内方向に上記熱可塑性樹脂塊の存在領域と非存在領域とを備える上記(13)項又は(14)項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体。
(16)上記熱可塑性樹脂塊の平均粒径と上記ガス拡散層の平均細孔径との比(平均粒径/平均細孔径)が、0.14以上1.25以下である上記(13)項~(15)項のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体。
(17)上記熱可塑性樹脂塊の平均粒径が、5μm以上50μm以下である上記(13)項~(16)項のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体。
(18)ガス拡散層とマイクロポーラス層とを積層した固体高分子形燃料電池用積層体であって、上記マイクロポーラス層が、少なくとも上記(8)項に記載の熱硬化性樹脂に由来する熱硬化性樹脂塊を備え、上記ガス拡散層と上記マイクロポーラス層との界面付近に上記熱硬化性樹脂塊が分散している固体高分子形燃料電池用積層体。
(19)上記(9)項~(12)項のいずれか1つの項に記載のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物を上記ガス拡散層上に塗布してマイクロポーラス層形成用分散液状組成物像を形成し、加熱する、上記(13)項~(17)項のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法。
(20)上記(9)項~(12)項のいずれか1つの項に記載のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物を平滑基盤上に塗布乾燥して単独膜状のマイクロポーラス層を形成し、該単独膜を前記ガス拡散層主面上に張り合わせ、加熱圧縮する、上記(13)項~(17)項のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法。
(21)上記(8)項に記載のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物を上記ガス拡散層上に塗布してマイクロポーラス層形成用分散液状組成物像を形成し、加熱する、上記(18)項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法。
(22)上記(8)項に記載のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物を平滑基盤上に塗布乾燥して単独膜状のマイクロポーラス層を形成し、該単独膜を前記ガス拡散層主面上に張り合わせ、加熱圧縮する、上記(18)項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体の製造方法。
(23)固体高分子形燃料電池用のガス拡散層に隣接して配置され、その主成分が導電性炭素と上記(1)項~(7)項のいずれか1つの項に記載の熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド樹脂を主成分として形成されているマイクロポーラス層。
(24)ポリフェニレンサルファイド樹脂が、数平均分子量Mnが、1000以上8000以下であり、重量平均分子量Mwが、7000以上40000以下である上記(23)項に記載のマイクロポーラス層。
(25)マイクロポーラス層1gを密閉した100℃の熱水15gに6時間浸漬した際に、熱水中に溶出する金属イオンの濃度が56ppm以下である上記(23)項又は(24)項に記載のマイクロポーラス層。
(26)燃料電池の発電運転前に、上記(13)項~(18)項のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用積層体に純水、酸性水溶液および水蒸気の1つ以上の媒体を通液させる工程を行う固体高分子形燃料電池用積層体の使用方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレンなどの撥水性樹脂の溶融粘度よりも粘度が低い熱可塑性樹脂等を用いることとしたため、ガス拡散層との接合力や熱伝導性の調節機能など、水分量調節以外の機能をマイクロポーラス層に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】燃料電池構成部材のアッセンブリの一例を示す図である。
【
図2】熱可塑性樹脂が均一分散したMPLとGDLとの積層体の一例を示す図である。
【
図3】熱可塑性樹脂がGDL側に偏ったMPLとGDLとの積層体の一例を示す図である。
【
図6】実施例1の積層体の断面SEM像とその元素分布像である。
【
図8】実施例2の積層体の断面SEM像とその元素分布像である。
【
図10】実施例3の積層体の断面SEM像とその元素分布像である。
【
図11】実施例4の積層体の断面SEM像とその元素分布像である。
【
図13】実施例5の積層体の断面SEM像とその元素分布像である。
【
図14】実施例6の積層体の断面SEM像とその元素分布像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、固体高分子形燃料電池について説明する。
【0016】
固体高分子形燃料電池は、
図1に示すように、中央に配置した固体高分子電解質膜2と、この固体高分子電解質膜2の一方の側に配置した燃料電極と、他方の側に酸化剤電極とを備える。
【0017】
上記燃料電極と酸化剤電極とは、固体高分子電解質膜2側から順に、それぞれ触媒層3、マイクロポーラス層(MPL)4、ガス拡散層(GDL)5を有する。
【0018】
そして、燃料電極の外側には燃料ガス流路を形成する燃料セパレータが設けられ、また酸化剤電極の外側には酸化剤ガス流路を形成する酸化剤セパレータが設けられて、固体高分子形燃料電池の単セルを構成する。
【0019】
上記固体高分子電解質膜は、イオン伝導性の電解質として機能するとともに、燃料ガスと酸化剤ガスとを分離する機能をも有し、上記ガス拡散層は、各触媒層への反応ガスの拡散を促す。
【0020】
上記固体高分子電解質膜2と上記ガス拡散層(GDL)5との間に介装されたマイクロポーラス層(MPL)4は、反応ガスの触媒層への移動や、電極反応によって酸化剤電極側の触媒層で生成する水の酸化剤ガス流路への排出を容易にして、MPL内の液水によるフラッディングを回避しつつ、適度な湿度を維持して固体高分子電解質膜の乾燥を防止する。
【0021】
このように、マイクロポーラス層は、主に水分量の調節を目的として設けられるものであるため、マイクロポーラス層を形成する撥水性樹脂の種類やその含有量を変えることが困難である。
【0022】
<熱可塑性樹脂等>
上記熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(明細書において「熱可塑性樹脂等」という)は、固体高分子形燃料電池のマイクロポーラス層を形成する樹脂であり、350℃における溶融粘度が200Pa・s以下である。
【0023】
ガス拡散層に撥水性樹脂を含むマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物を塗布し、加熱し撥水性樹脂を溶融させてマイクロポーラス層を形成する際、熱可塑性樹脂等の溶融粘度が上記撥水性樹脂の溶融粘度よりも小さく流動性が高いため、マイクロポーラス層に隣接するガス拡散層を形成する炭素繊維への樹脂の絡みつきやガス拡散層の表層付近の細孔内への入り込みが容易である。
【0024】
したがって、ガス拡散層とマイクロポーラス層とを強固に接合させて、燃料電池の発電運転に伴う電池の繰り返しの膨張収縮に伴う両部材の剥離による電気抵抗の増大を防止できる。
【0025】
また、撥水性樹脂に加えて上記熱可塑性樹脂等を用いることで、マイクロポーラス層中の樹脂量を増加させることができ、マイクロポーラス層の熱伝導率を低下させ、発電により触媒層で発生する熱の放出を抑制して、電池の低温起動性を向上させることができる。
【0026】
上記熱可塑性樹脂とは、耐熱性、耐酸性、耐クリープ性、耐加水分解性を有する樹脂であり、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂などを挙げることができる。さらに、耐熱性、耐酸性、耐クリープ性、耐加水分解性を有する樹脂としては、熱可塑性樹脂の他、熱硬化性樹脂も用いることができ、熱硬化性樹脂とは、例えば、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などを挙げることができる。
【0027】
熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂やフェノール樹脂の多くは350℃の環境下では分解が始まってしまうような仕様も存在する。したがって、硬化する前の溶融した時点での溶融粘度が200Pa・s以下であれば使用することができる。
【0028】
上記熱可塑性樹脂等は、100℃の熱水100mLに2gを6時間浸漬したときの金属イオンの溶出量が、65ppm以下である。溶出量が65ppmを越えると、熱可塑性樹脂等からの金属イオンの溶出により触媒層の被毒又はイオン交換膜中で結合してプロトン移動を阻害することで、発電性能が低下することがある。50ppm以下が好ましく、10ppm以下がさらに好ましく、5ppm以下が特に好ましい。
【0029】
ここで、ポリフェニレンサルファイド樹脂は塩化ナトリウムを副生成物として下記の反応式1により合成される。また、ポリフェニレンサルファイド樹脂は、その末端にナトリウム(Na)を有する。
【0030】
nCl-C6H4-Cl + nNa2S → [-C6H4-S-]n + 2nNaCl ・・・(式1)
(式中、nは整数を表わす。)
ポリフェニレンサルファイド樹脂から溶出するナトリウムイオンの主要因は副生成物の塩化ナトリウムからであるが、他にはポリマー末端からのナトリウムイオン単体や、同樹脂を合成する過程で発生する不十分な重合体、すなわち末端にナトリウムが結合した状態のモノマー又はオリゴマーなども僅かに含まれている可能性もある。
【0031】
したがって、上記熱可塑性樹脂等を洗浄するなどの前処理を実施することで金属イオンの溶出量を低減させることができる。
【0032】
上記熱可塑性樹脂等の融点は、120℃以上300℃以下であることが好ましい。撥水性樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の融点はおよそ327℃であり、マイクロポーラス層形成時の昇温過程において、撥水性樹脂よりも早期に溶融することでガス拡散層の細孔内に入り込み易くなり、マイクロポーラス層とガス拡散層との接合力の向上が期待できる。
【0033】
上記熱可塑性樹脂等は、2次粒子の平均粒径が5μm以上50μm以下であることが好ましい。上記範囲の2次粒子の平均粒径を有することでガス拡散層の細孔内に入り込み易くなる。また、分散液状の組成物にしてGDL上に塗布する場合に、50μm以下のサイズであれば、例えばスプレー塗布時に安定した塗布ができる。
【0034】
上記熱可塑性樹脂等は、2次粒子の比表面積が、2.0m2/g以上であることが好ましい。比表面積が2.0m2/g以上あれば、同熱可塑性樹脂等をあらかじめ洗浄して金属イオンを除去する場合に、樹脂表面からの除去が効果的になる。
【0035】
上記熱可塑性樹脂等は、水の接触角が80°以上120°以下であることが好ましい。水の接触角が80°以上120°以下である熱可塑性樹脂等は、水を忌避したり引きつけたりすることがなく、撥水性樹脂による水分量調節に影響を及ぼさないため、水分量調節との関係を考慮することなく、マイクロポーラス層の機能設計を行うことができる。
【0036】
上記熱可塑性樹脂等は、フィラーを含有することができる。特に、ポリフェニレンサルファイド樹脂は、脆く耐衝撃性が低いためフィラーを含有することで、耐衝撃性が向上する。また、熱可塑性樹脂等にフィラーを含有させることで、熱伝導性や電気伝導性など、ガス拡散層との接合機能以外の機能をも付与することができる。上記フィラーとしては、例えば、ガラス、炭素、金属酸化物、窒化物、炭酸塩、ホウ酸塩、ホウ素化合物、水酸化物等の粒子や繊維を挙げることができる。フィラーを含有する場合、熱可塑性樹脂等は、例えば、熱可塑性樹脂等とフィラーとを混練し、粉砕することで作製できる。
【0037】
<マイクロポーラス層形成用の分散液状組成物>
本発明のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物は、上記熱可塑性樹脂等と導電性炭素材と分散媒と分散剤とを含み、必要に応じて、撥水性樹脂の他、添加剤を含んで成る。分散剤は熱可塑性樹脂等を分散できるものであれば制限されず、市販のものが用いられる。分散媒は熱可塑性樹脂等を分散できる分散剤の種類によって有機溶剤や水でも使用が可能である。
【0038】
上記分散液状組成物の固形分は、熱可塑性樹脂等と導電性炭素材とで構成され、更に撥水性樹脂を含んでいてもよい。
【0039】
上記分散液状組成物中の熱可塑性樹脂等の含有量は、マイクロポーラス層に付与する機能やガス拡散層の細孔径などにもよるが、熱可塑性樹脂等による効果が充分発揮されるため、3質量%以上35質量%以下であることが好ましく、20質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
上記撥水性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)や、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(FEP)等があげられる。
【0041】
上記導電性炭素材としては、例えば、導電性炭素、アモルファスカーボン、黒鉛、グラフェンなどの炭素、導電性炭素繊維、カーボンナノチューブなどの炭素繊維の少なくとも一種又はこれらの混合物等があげられる。
【0042】
上記分散媒、分散剤としては、例えば、イソプロピルアルコールなどのアルコール類等があげられる。
【0043】
上記添加剤としては、例えば、種々の界面活性剤等があげられる。
【0044】
マイクロポーラス層形成用の分散液状組成物は、上記熱可塑性樹脂等と分散媒と分散剤、必要に応じて、撥水性樹脂、添加剤を純水及びイソプロピルアルコールの混合溶媒中に投入し、例えば、超音波にて30分攪拌することで、製造することができる。組成物の分散性の改善のため、分散剤を添加することができる。分散剤は例えばDOW製のTRITON(登録商標) X-100などを使用することができ、ポリフェニレンサルファイド樹脂と導電性炭素材の重量比及び分散濃度によって添加量を調整することができる。
【0045】
<マイクロポーラス層>
本発明のマイクロポーラス層は、導電性とガス拡散機能のための多孔質構造を有し、隣接するガス拡散層の触媒層と対峙する主面に形成された薄膜層である。厚さは一般的に50μm以上100μm以下であることが多く、本発明でも同様な厚さのマイクロポーラス層を形成した。
【0046】
本発明のマイクロポーラス層は、その主成分が導電性炭素と上記の熱可塑性樹脂等(例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂)として形成されている。
【0047】
本発明のマイクロポーラス層におけるポリフェニレンサルファイド樹脂は、数平均分子量Mnが、1000以上8000以下であり、重量平均分子量Mwが、7000以上40000以下であることが好ましい。
【0048】
マイクロポーラス層は、マイクロポーラス層1gを密閉した100℃の熱水15gに6時間浸漬した際に、熱水中に溶出する金属イオンの濃度が56ppm以下であることが好ましい。
【0049】
マイクロポーラス層の形成は、以下の2つの方法で行うことができる。
【0050】
1つは、マイクロポーラス層形成用の分散液状組成物を公知のキャスト法やスプレー法によってガス拡散層表面上に直接1回以上塗布した後に加熱(乾燥)して形成することができる。この場合、マイクロポーラス層の厚さやガス透過性などを指標に分散液状組成物中のポリフェニレンサルファイド樹脂濃度や、塗布回数を適宜調整する。乾燥条件は分散媒(例えばアルコール類)が十分に蒸発して乾燥できる温度と時間で行うのが好ましい。
【0051】
もう1つは、ガラス、金属、セラミックス等の平滑な耐熱性基盤上に、マイクロポーラス層形成用の分散液状組成物を上述のキャスト法やスプレー法によって1回以上塗布した後に乾燥し、得られた塗布層を基盤から剥がすことでマイクロポーラス層単体を得、これをガス拡散層と貼り合わせて、加熱圧縮することで固定することができる。この場合、ガス拡散層の顕著な塑性変形が発生しない範囲での圧縮荷重と加温条件の設定が好ましく、例えば0.5~2MPaで100~250℃が好ましい。
【0052】
<固体高分子形燃料電池用積層体>
本発明の固体高分子形燃料電池用積層体は、ガス拡散層とマイクロポーラス層とを積層した積層体であり、上記ガス拡散層と上記マイクロポーラス層とが上記マイクロポーラス層中の熱可塑性樹脂塊又は熱硬化性樹脂塊(以下「熱可塑性樹脂塊等」という)によって接合されて成る。
【0053】
上記熱可塑性樹脂塊等は、熱可塑性樹脂等の粉の1次粒子や2次粒子や分散液状組成物中の2次粒子がマイクロポーラス層内およびガス拡散層界面にて融解して一塊となっているものである。
【0054】
上記熱可塑性樹脂塊等は、
図2に示すように、厚さ方向に熱可塑性樹脂塊等が均一に分散していてもよいが、
図3に示すように、ガス拡散層側に上記熱可塑性樹脂塊等を多く含むことが好ましい。少なくとも断面において、厚さ半分よりもガス拡散層側に偏在することが好ましい。
【0055】
ガス拡散層側の熱可塑性樹脂塊等が多いことで、マイクロポーラス層とガス拡散層との接合力が向上する。
【0056】
また、マイクロポーラス層形成用樹脂以外に導電性炭素材を用いている場合は、同樹脂に炭素粉が含まれた状態でガス拡散層と接合する。
【0057】
上記マイクロポーラス層は、その面内方向に上記熱可塑性樹脂塊等が一様に分散していてもよく、熱可塑性樹脂塊等の存在領域と非存在領域とを有していてもよい。
【0058】
上記熱可塑性樹脂塊等を所望のパターンで存在させることで、マイクロポーラス層の設計自由度を向上させることができる。
【0059】
例えば、マイクロポーラス層が形成された面内において、熱可塑性樹脂塊等の含有量を面内中央部よりも周縁部に相対的に多く存在させることで周縁部の熱伝導性を低下させることができる。周辺部は熱可塑性樹脂等の含有量の増加によってマイクロポーラス層自体の熱伝導率が低下するため、酸化還元反応によって発熱する触媒層からの放熱を抑制する効果を有する。この効果によって、例えば、低温環境下における電池の起動性を改善できる。
【0060】
熱可塑性樹脂等の含有量が相対的に少ないマイクロポーラス層面中央部では触媒層からの放熱を効率よくできるため、電池の連続運転時における放熱性を改善できる。
【0061】
なお、本発明において、熱可塑性樹脂塊等が存在しない「非存在領域」とは、少なくとも50μm四方以上の領域内に熱可塑性樹脂塊等が全く存在しない領域をいい、隣り合う熱可塑性樹脂塊等同士間の間隔をいわない。
【0062】
ガス拡散層と上記マイクロポーラス層との界面付近に熱可塑性樹脂塊が分散しており、マイクロポーラス層における熱可塑性樹脂塊の分散は、マイクロポーラス層面内(面方向)で均一又は偏在分散しているか、同層内部で均一又は偏在分散していることができる。特に、層内での熱可塑性樹脂塊の分散では、マイクロポーラス層とガス拡散層の対峙面(界面)側に偏在することで、両層間の接合力を高めることが期待できる。
【0063】
上記熱可塑性樹脂塊等の平均粒径と上記ガス拡散層の平均細孔径との比(平均粒径/平均細孔径)が、0.14以上1.25以下であることが好ましい。
【0064】
上記比が0.14未満であると、熱可塑性樹脂塊等がガス拡散層の細孔深部まで入り込み、マイクロポーラス層とガス拡散層との接合力が低下し易くなることがあり、また1.25を超えるとガス拡散層の細孔を塞いで反応ガスの拡散性を低下させることがある。
【0065】
上記熱可塑性樹脂塊等の平均粒径は、ガス拡散層の平均細孔径にもよるが、5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0066】
上記積層体中の熱可塑性樹脂塊等の大きさは、紛体の状態や分散液状組成物中の熱可塑性樹脂等の2次粒子の大きさや、分散液状組成物中の熱可塑性樹脂塊等の濃度などにより調節できる。
【0067】
固体高分子形燃料電池用積層体は、カーボンペーパー又はカーボンクロスから成るガス拡散層上に、前述のマイクロポーラス層形成用の分散液状組成物を塗布し、加熱して樹脂成分を溶融させることで形成できる。特に広く使用されているカーボンペーパーは、例えば、東レ製トレカ等があげられる。ガス拡散層上に直接塗布することによって、分散液状組成物中の熱可塑性樹脂塊等の一部を確実にガス拡散層表層付近の空孔内や炭素繊維表面に付着させることができる。
【0068】
分散液状組成物の塗布は、従来公知の方法で行うことができるが、スプレー法、インクジェット法、スクリーン法は、所望のパターンのマイクロポーラス層形成用分散液状組成物像を形成することができ、マイクロポーラス層の機能設計をし易いため、好ましく使用できる。
【0069】
また、固形分として、導電性炭素材と熱可塑性樹脂塊等とを含む分散液状組成物を塗布した後、撥水性樹脂をも含む分散液状組成物を塗布することで、熱可塑性樹脂塊等を確実に拡散層側に存在させることができる。
【0070】
本発明の固体高分子形燃料電池用積層体は、燃料電池を組み立てた後の発電運転前に、純水、酸性水溶液および水蒸気の1つ以上の媒体を、本来水素や空気を供給する配管に通液させる工程を行うことで使用することができる。通液するのは水素供給配管でも空気供給配管のどちらか一方もしくは両側への通液ができる。一方の供給配管のみに通液を行う場合は、通液しない側の燃料電池積層体の洗浄が不十分になることから、両側に通液させることが好ましい。また、通液は室温実施が可能であるが、燃料電池作動温度に加温した状況で行うことが好ましい。
【0071】
<燃料電池等>
燃料電池は、電解質膜(パーフルオロスルホン酸)の両主面に触媒層を備えた膜電極接合体を挟持するように前述の固体高分子形燃料電池用積層体を配置させる。この際、マイクロポーラス層が触媒層と向き合うようにする。これらの部品を一体化するため、90~120℃で設定した熱プレスで圧縮することもできる。
【0072】
得られた部材を更にガスケット、セパレータ、ガスケット、エンドプレートで順に挟持する。セパレータは一般的にはグラファイトによって作製されており、ガス拡散層と対峙する主面にはそれぞれ水素と空気が流通する流路が形成されている。エンドプレートはステンレス等でできており、ガス供給排出のためのコネクタ、熱電対、ヒーター等が取り付けられると共に、電池積層体を圧縮固定するための締結機構も付与される。産業用ならびに車載向けの燃料電池は複数の電解質膜を用いて繰り返し積層される積層体電池として使用されるが、本発明では1枚の電解質膜を使用した単位電池(以降、単セルと略記)にて実験評価を実施した。
【実施例0073】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。実施例1~6はポリフェニレンサルファイド樹脂を単独で用いた場合の炭素繊維との絡まり方の違いを確認する原理確認として実施した。
【0074】
<ポリフェニレンサルファイド樹脂の製造>
実施例で使用したポリフェニレンサルファイド樹脂は、硫化ナトリウムを原料とし、これを脱水した後にパラジクロロベンゼンと重縮合させて得た。(前述の式1)。
【0075】
本発明で使用するポリフェニレンサルファイド樹脂は、燃料電池内への組み込み後のナトリウムイオンの溶出を極力減らすため、2種類の製造工夫が可能であった。1つは、製造工程で溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)を揮発乾燥させる際に、高温中で短時間に乾燥させると、ポリフェニレンサルファイド粉は微視的に凹凸の少ない表面性状になり、表面積が少なくなるため、金属(ナトリウム)イオンの溶出を抑制できる。一方、乾燥工程でろ過などを使用した比較的低温下での分離乾燥を経ると、相対的に微視的な凹凸の多い表面性状を有するものが得られる。この場合は、ポリフェニレンサルファイド樹脂を洗浄して金属(ナトリウム)イオンを除去するには有利な樹脂形状となる。本実施例では前者の工程を経て用意された樹脂を使用したが、ポリフェニレンサルファイド樹脂に含まれるナトリウムイオンの量によっては後者の工程を採用し、事前の洗浄効率を上げることも可能である。
【0076】
市販仕様のポリフェニレンサルファイド樹脂は、成形品の機械的強度の確保などを目的にガラス繊維や炭素繊維などのフィラーを混合してペレット化しているが、本願で説明する実施例ではフィラーを含まず、ペレット化もしていない粉体状の樹脂を使用している。
【0077】
後述する実施例8にて使用するポリフェニレンサルファイド樹脂は、使用する前にあらかじめナトリウムイオンもしくはモノマーやオリゴマーの溶出を減少させるために洗浄工程が加わっている。例えば、樹脂融点以下の温度の高圧熱水処理を挙げることができる。
【0078】
<比表面積の測定>
窒素吸着BET多点法による測定を行った。測定は、細孔分布測定装置(ASAP―2020、マイクロメリティクス製)を使用した。
【0079】
<溶融粘度の測定>
熱可塑性樹脂の溶融粘度は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスター(商品名CFT-500、島津製作所製)にて、測定温度350℃、荷重10kgの条件下で測定した。
【0080】
<融点の測定>
熱可塑性樹脂の融点は、示差走査熱量分析装置(「Q1000」、TA Instruments製)を用いてASTM D3418-82に準じて測定した。
【0081】
具体的には、樹脂5mgを精秤し、これをアルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定温度範囲30~350℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行った。
【0082】
測定においては、一度350℃まで昇温させ、続いて30℃まで降温し、その後に再度昇温を行う。この2度目の昇温過程での温度30~350℃の範囲におけるDSC曲線の最大の吸熱ピークを融点(Tm)とした。
【0083】
<2次粒子の平均粒径の測定>
熱可塑性樹脂の体積平均粒径は、粒度測定器(「マルチサイザーIII」、ベックマン・コールター製)を用い、解析ソフト(Beckman Coulter Multisizer 3 Version3.51)にて解析を行なうことにより、測定した。
【0084】
まず、電解水溶液(ISOTON-II、コールター製)100ml~150ml中に分散剤として界面活性剤(アルキルベンゼンスフォン酸塩ネオゲンSC-A、第一工業製薬社製)を0.1ml~5ml加え、更に測定試料を2mg~20mg加える。試料を懸濁した電解液は、超音波分散器(本多電子製)で約1分間~3分間分散処理を行い、前記測定装置により、アパーチャーとして100μmアパーチャーを用いて、上記熱可塑性樹脂の体積、個数を測定して、体積分布と個数分布を算出した。得られた体積分布から、体積平均粒径(D4:各チャンネルの中央値をチャンネルの代表値とする)を求めた。
【0085】
<水の接触角の測定>
熱可塑性樹脂の水の接触角は、自動接触角計CA-W型(協和界面科学製)を使用し、シート状に成形した上記熱可塑性樹脂上にオートディスペンサー(AD-31、協和界面科学製)で水滴を10個形成し、それぞれの接触角を測定し、その平均値を算出した。
【0086】
また、固体高分子形燃料電池用積層体の水の接触角を同様の方法で測定した。
【0087】
<金属イオンの溶出量の測定>
石英製のフラスコに100℃の熱水100mlを入れ、ここに2gの上記熱可塑性樹脂を6時間浸漬して得られた抽出液の各イオンを以下の方法で測定し、金属イオンの溶出量を測定した。
【0088】
フレーム原子吸光法 :Na、K
誘導結合プラズマ発光分光分析法 :Ca
イオンクロマトグラフ法 :Cl-、NO3
-、SO4
2-
燃焼法 :全クロル
実施例1
<ポリフェニレンサルファイド樹脂の製造>で得られたポリフェニレンサルファイド樹脂(2次粒子の平均粒径:10μm、350℃の溶融粘度:13Pa・s、金属(ナトリウム)イオンの溶出量:62ppm)に水及びイソプロピルアルコールを加え、分散液を得た。なお、本実施例では、ポリフェニレンサルファイド樹脂のカーボンペーパー上での溶融性や炭素繊維との親和性をより明確に確認するために、通常添加しているカーボンブラック等の導電性フィラーを加えず、実施している。
【0089】
この分散液をポリフェニレンサルファイド樹脂の塗布量が平均0.08g/cm2になるように、カーボンペーパー(平均細孔径:35~40μm、東レ製:TGP-H-30)上に塗布した。
【0090】
分散液を塗布したカーボンペーパーを350℃で1時間加熱して、固体高分子形燃料電池用積層体を得た。
【0091】
実施例1の固体高分子形燃料電池用積層体の加熱前後のSEM像を
図4、その拡大像を
図5、断面像とSEM-EDXによる元素分布像を
図6に示す。
【0092】
実施例2
ポリフェニレンサルファイド樹脂の塗布量が平均0.01g/cm2になるように、カーボンペーパー上に均一に塗布する他は実施例1と同様にして、固体高分子形燃料電池用積層体を得た。
【0093】
実施例2の固体高分子形燃料電池用積層体の加熱前後のSEM像を
図7、断面像とSEM-EDXによる元素分布像を
図8に示す。
【0094】
実施例3
ポリフェニレンサルファイド樹脂を、2次粒子の平均粒径が30μmのポリフェニレンサルファイド樹脂に代えた他は、実施例1と同様にして固体高分子形燃料電池用積層体を得た。
【0095】
実施例3の固体高分子形燃料電池用積層体の加熱前後の拡大SEM像を
図9、断面像とSEM-EDXによる元素分布像を
図10に示す。
【0096】
実施例4
ポリフェニレンサルファイド樹脂の塗布量が平均0.01g/cm2になるように、カーボンペーパー上に均一に塗布する他は実施例3と同様にして、固体高分子形燃料電池用積層体を得た。
【0097】
実施例4の固体高分子形燃料電池用積層体の断面像とSEM-EDXによる元素分布像を
図11に示す。
【0098】
実施例5
ポリフェニレンサルファイド樹脂を、350℃の溶融粘度が180Pa・s、2次平均粒径30μmのポリフェニレンサルファイド樹脂に代えた他は、実施例3と同様にして固体高分子形燃料電池用積層体を得た。
【0099】
実施例5の固体高分子形燃料電池用積層体の加熱前後の拡大SEM像を
図12、断面像とSEM-EDXによる元素分布像を
図13に示す。
【0100】
実施例6
ポリフェニレンサルファイド樹脂の塗布量が平均0.01g/cm2になるように、カーボンペーパー上に均一に塗布する他は実施例5と同様にして、固体高分子形燃料電池用積層体を得た。
【0101】
実施例6の固体高分子形燃料電池用積層体の断面像とSEM-EDXによる元素分布像を
図14に示す。
【0102】
比較例1
ポリテトラフルオロエチレン樹脂(Sigma-Aldrich製、平均粒径:9μm、350℃の溶融粘度:109~1010Pa・s)とカーボンブラック(デンカ製:デンカブラック)とを重量比3:7で分散剤とを加えてイソプロピルアルコール水溶液中で分散させてマイクロポーラス層形成用ペーストを得、これをカーボンペーパー上に塗布し、350℃で1時間乾燥固化した。
【0103】
この分散液状組成物を用いた他は、実施例1と同様にして固体高分子形燃料電池用積層体を得た。比較例1の固体高分子形燃料電池用積層体の断面像を
図15に示す。
【0104】
<評価>
実施例1~6、比較例1の固体高分子形燃料電池用積層体を、以下のように評価した。
【0105】
また、マイクロポーラス層を形成しないカーボンペーパーを比較例2とした。評価結果を表1に示す。
【0106】
【0107】
<電気抵抗の測定>
試料(積層体又はカーボンペーパー)を直径が20mmの円形の銅製電極で挟み、圧縮面圧1MPa、印加電流1Aの条件で四端子法によって電圧を計測し、電気抵抗を算出した。
【0108】
多孔体の熱伝導計測は難しく、限られた計測領域での熱伝導になることから、本発明では比較的面積を確保した特性を把握すべく電気抵抗と熱伝導率とは、およそ比例関係にあることから、電気抵抗で積層体の熱伝導率の大小を相対評価した。
【0109】
実施例と比較例2との比較から、熱可塑性樹脂塊等を含むマイクロポーラス層を形成することで、積層体の熱伝導率が低下し燃料電池の放熱性を調節できることがわかる。
【0110】
また、比較例1と比較例2との比較から、実施例のマイクロポーラス層に撥水性樹脂と導電性炭素材とを積層することで、さらに積層体の熱伝導率が低下することがわかる。
【0111】
比較例1の断面像から、マイクロポーラス層がガス拡散層の繊維に絡み付いていないことがわかる。これに対し実施例の断面像では、マイクロポーラス層がガス拡散層の内部に浸入しガス拡散層の繊維に絡み付いていることがわかる。
【0112】
実施例1と実施例2の比較(
図6と
図8)、実施例3と実施例4との比較(
図10と
図11)、実施例5と実施例6との比較(
図13と
図14)から、上記熱可塑性樹脂の塗布量によってガス拡散層内への移動量が変わり、塗布量が少ない方がガス拡散層内に入り易く、接合力が向上することがわかる。
【0113】
実施例7
実施例1~6では導電性炭素材を使用することなく、ポリフェニレンサルファイド樹脂のみを用いて原理検証を実施したが、実施例7では導電性炭素材と同樹脂を用いたマイクロポーラス層をカーボンペーパー上に作製して燃料電池用積層体を得、これを使用した燃料電池単セルを組み立て、発電評価を行なった。
【0114】
カーボンブラックとポリフェニレンサルファイド樹脂を重量比7:3でイソプロピルアルコール水溶液中で混合分散させ、カーボンペーパー表面に塗布し、375℃にて30分乾燥することによって燃料電池用積層体を得た。
【0115】
実施例7で作成した燃料電池用積層体のSEM―EDXによる断面写真を
図16に示す。
図16では断面写真(左上)に加えて、炭素と硫黄(右上)、炭素(左下)、硫黄(右下)の分布を示している。特に硫黄(ポリフェニレンサルファイド樹脂)の分布は、マイクロポーラス層内部だけでなく、カーボンペーパーとの界面とその表層に近い内部にも存在していることが確認できた。
【0116】
実施例7で得られた燃料電池用積層体の電気抵抗計測を行い、結果を表1に記載した。積層体の電気抵抗は比較例1などと同等の低抵抗をしており、電気的にも問題のない積層体が形成されていることが分かった。
【0117】
実施例7にて得られた積層体を約5cmの正方形に切り出し、電解質膜(電解質膜はナフィオンNR212)の表裏上に形成された正負極触媒層上に貼り付けることで膜電極接合体(MEA)を準備した。
【0118】
MEAを挟持するように燃料電池用積層体を配置し、更にこれを挟持するようにセパレータを配置することで燃料電池単セルを組み立てた。
【0119】
実施例7で使用したポリフェニレンサルファイド樹脂は、先述の実施例1と同等とした。
【0120】
実施例8
実施例7で使用したポリフェニレンサルファイド樹脂に、あらかじめ前処理を行い、ナトリウムイオン単体およびナトリウムが結合した樹脂モノマー、オリゴマーの溶出が改善された改良仕様品を用いた以外は、実施例7と同様の条件でマイクロポーラス層を作製し、これを組み込んだ燃料電池単セルを準備した。
【0121】
比較例3
実施例7で使用したポリフェニレンサルファイド樹脂を、あらかじめ同樹脂の熱分解温度である430℃に近い400℃×10分の熱処理を行った後は、実施例7と同様の条件でマイクロポーラス層を作製し、これを組み込んだ燃料電池単セルを準備した。
【0122】
比較例4
比較例1と同様に、熱可塑性樹脂を用いずに、従来使用されているPTFEとカーボンブラックを用いてマイクロポーラス層を作製した以外は、燃料電池用積層体及び燃料電池単セルを準備した。
【0123】
<ナトリウムイオンの溶出性>
実施例7、8および比較例3で使用するポリフェニレンサルファイド樹脂から溶出し得るナトリウムイオン量の簡易的な確認を実施した。各樹脂の1gを純水50gに加えたのち、超音波にて撹拌し、100℃で6時間保持した。途中、複数回容器の攪拌を行った。
【0124】
容器から超純水を取り出したのち、前述の原子フレーム吸光法にて定性分析を実施した。
【0125】
前述の浸漬実験が終了したポリフェニレンサルファイド樹脂に、改めて準備した純水50gを加え、攪拌後に再び100℃で6時間保持した。前述と同様に、途中複数回の攪拌を行った。
【0126】
6時間の保持後に容器から超純水を取り出したのちに、定性分析を実施した。結果を表2に示す。
【0127】
【0128】
実施例7と8で使用する樹脂では、定量されるナトリウムイオンの量が1/3以下であり、純水の交換によって更に減少することがわかった。
【0129】
すなわち、ポリフェニレンサルファイド樹脂そのものにあらかじめ所定の工夫処理をなうことで、同条件におけるナトリウムイオンの溶出量を低減できることがわかった。
【0130】
比較例3は、後述する燃料電池単セル評価における発電性能の差異を確認するために意図的に樹脂の一部を分解させ、ナトリウムが結合している分解成分が溶出しやすいように処理を行った例である。
【0131】
表2から分かるように、比較例3ではナトリウムイオンの溶出量が比較的多いことがわかる。比較例では意図的に高温で熱処理を行ったが、ポリフェニレンサルファイド樹脂の仕様によってはナトリウムイオンが実施例7以上の溶出量や比較例3のような溶出量を示す起こる可能性もあり、これを模擬した例である。
【0132】
<燃料電池単セル評価>
燃料電池単セル評価は、セル温度70℃、水素供給は毎分100ccとし、空気の供給は毎分500ccとした。両ガスとも、加湿量は相対湿度60%とした。
【0133】
一般的に燃料電池の発電評価は、電流-電圧曲線を計測することで発電性能の確認をしている報告が多いため、本発明の効果を確認するために上記条件にて計測を行ない、これを初期性能とした。
【0134】
また、ポリフェニレンサルファイド樹脂由来のナトリウムイオン溶出の電解質膜への影響を確認するため、セル温度を変えずに、両極に窒素ガスを毎分100cc供給して1時間保持した。
【0135】
ただし、アノード側(水素極側)の窒素は相対湿度100%で加湿し、カソード側(空気極側)の窒素ガスは相対湿度30%で加湿することで、アノード側に供給された水蒸気や電池内で一部凝縮した水が両極の水の濃度勾配によってアノード側からカソード側に移動しやすい環境を設定した。
【0136】
本条件によって、特にアノード側の凝縮水中に溶出したナトリウムイオンが電解質膜に移動することで、溶出ナトリウムの発電性能への影響が確認できる。
【0137】
1時間の窒素供給の終了後、再び前述の条件にて水素と空気を電池に供給し、電流-電圧曲線を計測し、これを診断性能とした。
【0138】
初期性能と診断性能の評価の結果、各燃料電池単セルの開放端電圧(OCV)と電流密度0.5A/cm2におけるセル電圧をまとめたものを表3に示す。
【0139】
【0140】
表3の結果から、抵抗成分の発生しない開放単電圧(OCV)では実施例と比較例の初期性能と診断性能に顕著な差は確認されないことが分かった。OCVは電解質膜のガス遮蔽性にかかわる致命的な劣化がない限りはほぼ同等の電圧を示す。このため、実施例および比較例によらず、使用する電解質膜のガス遮蔽性に差異はないことが分かる。また、この結果から、ナトリウムイオンの溶出に対しても電解質膜のガス遮蔽性に影響がないことも確認できた。
【0141】
実施例7および8は、ナトリウムイオンが溶出されない比較例4と比べて、0.5A/cm2におけるセル電圧は、初期性能で4~5mVの僅かな差異が確認されるが、ほぼ同等の電圧を示す。
【0142】
診断性能では、実施例7は初期性能に対して4mVの電圧低下が確認されるが、実施例8では比較例4と同様に電圧低下は確認されず、ナトリウムイオン溶出を抑制したポリフェニレンサルファイドを使用した効果が確認できる。
【0143】
表2で示すように、ナトリウムが比較的多く定量された比較例3では、診断性能は初期性能に対して13mVの電圧低下が確認された。また、比較例4に対して20mV以上低いことが分かった。
【0144】
比較例3における発電性能の低下は、ポリフェニレンサルファイド樹脂から溶出するナトリウムイオンによって電解質のイオン交換性能に影響を及ぼしているのが一因と考えられる。
【0145】
表2の結果から、熱水に浸漬することでポリフェニレンサルファイド樹脂から溶出するナトリウムイオンの量を減らせることが分かる。
【0146】
したがって、純水を使用ではなく、例えば酸性水溶液などを用いることで、よりナトリウムの溶出を促すことも可能である。
【0147】
また、樹脂単体を洗浄することも有効であるが、前述のように燃料電池をくみ上げたのちに、窒素などの無反応なガスを高加湿条件で供給し、水蒸気や凝縮水とともに電池外に排出することで、マイクロポーラス層としての洗浄も期待できる。
【0148】
実施例9
カーボンブラックとポリフェニレンサルファイド樹脂を重量比6:4でイソプロピルアルコール水溶液中で混合分散させ、ガラス板上に塗布した後に375℃にて30分乾燥し、ガラス板からマイクロポーラス層を剥がすことによって、同層の単独膜を得た。
【0149】
得られた膜をカーボンペーパー上に配置し、面圧2MPaにて圧縮することで燃料電池積層体を得た。
【0150】
比較例5
比較例1のPTFEとカーボンブラックの重量比を4:6に変えた以外は、実施例9と同様にガラス板上にマイクロポーラス層を形成し、得られた単独膜を実施例9と同様の条件でカーボンペーパーと一体化することで燃料電池積層体を得た。
【0151】
実施例9及び比較例5はマイクロポーラス層をガス拡散層面に直接形成せずに、基板上に塗膜形成と乾燥を行うことで、自立した単独膜の形成可否を試みた結果であり、それらを用いて得られた燃料電池積層体の電気抵抗結果をまとめたものを表4に示す。
【0152】