(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153329
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】接着剤塗布用治具および透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
G01N1/28 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051068
(22)【出願日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2021054669
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 誠
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AD32
2G052AD52
2G052EC18
2G052GA34
(57)【要約】
【課題】微小領域へ接着剤を容易に塗布する。
【解決手段】接着剤を塗布するための接着剤塗布用治具であって、把持部と、把持部に取り付けられ、先細った細長い繊維体からなる、接着剤を担持するためのプローブ部と、プローブ部の先端側に設けられ、プローブ部から隆起するように形成される隆起部と、を備える、接着剤塗布用治具である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤を塗布するための接着剤塗布用治具であって、
把持部と、
把持部に取り付けられ、先細った細長い繊維体からなる、前記接着剤を担持するためのプローブ部と、
前記プローブ部の先端側に設けられ、前記プローブ部から隆起するように形成される隆起部と、を備える、
接着剤塗布用治具。
【請求項2】
前記隆起部の大きさが前記プローブ部の径の1.3倍以上3.0倍以下である、
請求項1に記載の接着剤塗布用治具。
【請求項3】
前記プローブ部の径が10μm以上70μm以下であり、
前記隆起部の大きさが13μm以上200μm以下である、
請求項1又は2に記載の接着剤塗布用治具。
【請求項4】
前記隆起部はシアノアクリレート系樹脂から形成される、
請求項1~3のいずれか1項に記載の接着剤塗布用治具。
【請求項5】
シートメッシュの孔部に試料片を配置する工程と、
把持部と、前記把持部に取り付けられ、先細った細長い繊維体からなる、接着剤を担持するためのプローブ部と、前記プローブ部の先端側に設けられ、前記プローブ部から隆起するように形成される隆起部と、を備える接着剤塗布用治具を準備する工程と、
前記接着剤塗布用治具の前記プローブ部の先端に前記接着剤を担持させた後、前記シートメッシュと前記試料との間に形成される隙間に前記接着剤を塗布し、前記隙間を前記接着剤で充填する工程と、を有する、
透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項6】
前記隙間の幅が200μm以下である、
請求項5に記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項7】
前記接着剤がエポキシ樹脂を含む、
請求項5又は6に記載の接着剤塗布用治具。
【請求項8】
シート状試料の中央部分の一部領域に薄片加工を施す工程と、
把持部と、前記把持部に取り付けられ、先細った細長い繊維体からなる、接着剤を担持するためのプローブ部と、前記プローブ部の先端側に設けられ、前記プローブ部から隆起するように形成される隆起部と、を備える接着剤塗布用治具を準備する工程と、
前記接着剤塗布用治具の前記プローブ部の先端に前記接着剤を担持させた後、前記一部領域が薄片化されたシート状試料の両端のそれぞれに前記接着剤を塗布する工程と、
前記シート状試料の上に、リング状補強部材を前記薄片化された一部領域が露出するように前記接着剤を介して載置する工程と、を有する、
透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤塗布用治具および透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス産業の発達により、当該分野で使用される各種の材料について、その物性、変化の状態等について精密な情報が求められるようになった。こうした情報を得る手段として透過電子顕微鏡観(以下、「TEM」ともいう)による観察は有効な手段であると考えられている。
【0003】
ここで、シート状や鱗片状をはじめとする各種形状を有し、各種の材質からなる材料をTEMにより観察する際には、この材料を、TEMの試料ホルダに装填できるように、TEM観察用試料に予め加工する必要がある。例えば特許文献1には、基板上に接着剤を塗布して試料片を配置するとともに試料片を両側から挟み込むようにスペーサを配置し、その上から接着剤をさらに塗布することにより、試料片を含む積層体を加工する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シート状や鱗片状の薄い試料をTEM観察用試料に加工する方法として、シートメッシュを用いることが検討されている。具体的には、シートメッシュの孔部に試料を配置し、シートメッシュと試料との間に接着剤を充填し、接着剤を硬化させる方法が検討されている。
【0006】
しかし、本発明者の検討によると、シートメッシュの孔部が小さく、またシートメッシュと試料との隙間も狭いため、このような狭い微小領域に接着剤を塗布して充填させいにくいことが見出された。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、接着剤を微小領域へと容易に塗布する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、
接着剤を塗布するための接着剤塗布用治具であって、
把持部と、
把持部に取り付けられ、先細った細長い繊維体からなる、前記接着剤を担持するためのプローブ部と、
前記プローブ部の先端側に設けられ、前記プローブ部から隆起するように形成される隆起部と、を備える、
接着剤塗布用治具である。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記隆起部の大きさが前記プローブ部の径の1.3倍以上3.0倍以下である。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、
前記プローブ部の径が10μm以上70μm以下であり、
前記隆起部の大きさが13μm以上200μm以下である。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれかにおいて、
前記隆起部は、シアノアクリレート系樹脂から形成される。
【0012】
本発明の第5の態様は、
シートメッシュの孔部に試料片を配置する工程と、
把持部と、前記把持部に取り付けられ、先細った細長い繊維体からなる、接着剤を担持するためのプローブ部と、前記プローブ部の先端側に設けられ、前記プローブ部から隆起するように形成される隆起部と、を備える接着剤塗布用治具を準備する工程と、
前記接着剤塗布用治具の前記プローブ部の先端に前記接着剤を担持させた後、前記シートメッシュと前記試料との間に形成される隙間に前記接着剤を塗布し、前記隙間を前記接着剤で充填する工程と、を有する、
透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
【0013】
本発明の第6の態様は、第5の態様において、
前記隙間の幅が200μm以下である。
【0014】
本発明の第7の態様は、第5又は第6の態様において、
前記接着剤がエポキシ樹脂を含む。
【0015】
本発明の第8の態様は、
シート状試料の中央部分の一部領域に薄片加工を施す工程と、
把持部と、前記把持部に取り付けられ、先細った細長い繊維体からなる、接着剤を担持するためのプローブ部と、前記プローブ部の先端側に設けられ、前記プローブ部から隆起するように形成される隆起部と、を備える接着剤塗布用治具を準備する工程と、
前記接着剤塗布用治具の前記プローブ部の先端に前記接着剤を担持させた後、前記一部領域が薄片化されたシート状試料の両端のそれぞれに前記接着剤を塗布する工程と、
前記シート状試料の上に、リング状補強部材を前記薄片化された一部領域が露出するように前記接着剤を介して載置する工程と、を有する、
透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、微小な隙間へ接着剤を容易に塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態にかかる接着剤塗布用治具の概略図である。
【
図2】
図2は、
図1において、プローブ部を部分的に拡大した拡大図である。
【
図3】
図3は、1スロットの孔部を有するシートメッシュの斜視図である。
【
図4】
図4は、観察対象である試料の斜視図である。
【
図5】
図5は、観察対象である試料をトリミングして得られる試料片の斜視図である。
【
図6】
図6は、シートメッシュの孔部へ試料片を配置したときの断面図である。
【
図7】
図7は、治具を用いた隙間への接着剤の塗布・充填を説明するための図である。
【
図8】
図8は、硬化試料の薄片化加工を説明するための図であり、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
【
図9】
図9は、透過電子顕微鏡観察用試料の概略構成を示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
【
図10】
図10は、シート状試料への接着剤の塗布を説明するための図である。
【
図11】
図11は、シート状試料へのリング状補強部材の接着固定を説明するための図である。
【
図12】
図12は、実施例1の接着剤塗布用治具に接着剤を付着させたときの図である。
【
図13】
図13は、比較例1の接着剤塗布用治具に接着剤を付着させたときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
接着剤を塗布する方法としては、例えばマイクロシリンジやディスペンサを用いた方法があるが、これらの方法では以下の理由から微小な領域へ接着剤を容易に塗布することができない。マイクロシリンジは安価であるものの、マイクロシリンジから接着剤を吐出させる際に、作業者の手元が震えることにより、所望の領域に正確に接着剤を塗布しにくいことがある。ディスペンサはマイクロシリンジのような手元が震えることを抑制できるものの、一般的に使用されるディスペンサ装置では、ニードル径が例えば0.23mmと太く、塗布面積が広くなる傾向がある。塗布面積が広いと、隙間だけでなく試料の表面にも接着剤が塗布されてしまうことがあり、薄片加工する際の加工時間が長くなってしまう。
【0019】
例えば、上述したシートメッシュの孔部に試料を配置して接着剤を塗布する場合であれば、シートメッシュの孔部は、その種類によっても異なるが、小さい場合では径が1mm程度であり、その孔部に配置する試料の径は0.9mm程度である。そのため、シートメッシュと試料との隙間は、幅が20~80μm程度の狭い領域となる。このような微小な領域では、上述した塗布方法では、隙間に容易に塗布できないことがある。
【0020】
このことから、本発明者は、微小な領域へ接着剤を容易に塗布できるような接着剤塗布用治具について検討を行った。そして、接着剤を担持させて塗布するための部材として、いわゆるプローブのような形状を有しており、細長く、先端に向かって径が細くなる繊維体に着目した。そこで、1本の繊維体からなるプローブ部を把持部に取り付けて塗布用治具を構成し塗布性を検討した。
【0021】
ただし、この場合、プローブ部で接着剤をすくい取ったときに、接着剤が表面張力によりプローブ部の先端から根本へと移動してしまい、接着剤を先端側に担持できず、微小な領域に接着剤を塗布しにくいことが確認された。
【0022】
このことから接着剤の流れを抑制する方法についてさらに検討を行い、プローブ部の先端側にこぶ状の隆起部を設けるとよいことを見出した。この隆起部によれば、接着剤を先端側に担持できることができる。
【0023】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0024】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態にかかる接着剤塗布用治具について説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる接着剤塗布用治具の概略図である。
図2は、
図1において、プローブ部を部分的に拡大した拡大図である。
【0025】
本実施形態の接着剤塗布用治具(以下、単に治具ともいう)は、微小な領域に接着剤を塗布・充填するためのものであり、例えば、シートメッシュの小さい孔部に試料を配置したときに形成される隙間に接着剤を塗布し充填するために使用することができる。具体的には、
図1に示すように、治具1は、把持部11と、プローブ部12と、隆起部13とを備える。
【0026】
把持部11は、プローブ部12を支持し、作業者が治具を用いるときの取っ手となるものである。把持部11としては、プローブ部12を取り付けられ、取り扱い性の良いものであれば特に限定されない。例えば
図1に示すように、棒状部材などを用いることができる。棒状部材としては、例えば爪楊枝や竹ひご、樹脂製スティックなどを用いることができる。また、その長さや径、形状も特に限定されず、適宜変更することができる。
【0027】
プローブ部12は、把持部11に取り付けられ、接着剤を付着させて担持するものである。プローブ部12は、先細った細長い1本の繊維体からなり、接着剤を付着させて担持させるものである。プローブ部12は、微小な狭い領域に接着剤を塗布できるような径(繊維径)を有する。プローブ部12は、例えば接着剤などを用いて把持部に取り付けるとよい。
【0028】
プローブ部12を構成する繊維体としては、接着剤を付着させて担持できるようなものであれば特に限定されず、例えば、樹脂繊維、もしくは、まつ毛や動物毛などコシのある繊維状物を用いることができる。
【0029】
プローブ部12を構成する繊維体の径は、シートメッシュと試料との隙間の幅よりも小さいことが好ましく、具体的には10μm以上70μm以下であることが好ましい。また、繊維体の長さも特に限定されないが、3mm以上6mm以下であることが好ましい。繊維体の径や長さを上記範囲とすることにより、治具1の取り扱い性を維持しながらも、微小な隙間への塗布を容易にすることができる。
【0030】
隆起部13は、
図1、
図2に示すように、プローブ部12の先端側に設けられる。隆起部13は、プローブ部12から隆起するよう、こぶ状に形成される。隆起部13によれば、プローブ部12において、先細った先端における径を局所的に大きくすることができる。隆起部13によれば、プローブ部12の先端を接着剤に浸漬させたときに、プローブ部12の根本側(把持部11側)への接着剤の移動を抑制し、接着剤をプローブ部12の先端に保持させることができる。隆起部13が接着剤を保持するメカニズムは定かではないが、隆起部13によりプローブ部12との間に段差が生じる、もしくは、隆起部13がプローブ部12よりも径が大きいため、隆起部13が接着剤をせき止めるように作用し、接着剤がプローブ部12へ広がるのを抑制するものと推測される。
【0031】
隆起部13の形成位置はプローブ部12の先端側であれば特に限定されないが、隆起部13は、プローブ部12の先端が隆起部13から突き出ないように、プローブ部12の先端に設けられることが好ましい。このように隆起部13を設けることにより、接着剤をプローブ部12の先端により確実に担持させることができる。
【0032】
隆起部13の形成材料としては、形成のしやすさから、樹脂であるとよい。樹脂としては、常温硬化型やUV硬化型、2液硬化型を用いることができる。常温硬化型としては、例えば水分により硬化するシアノアクリレート系樹脂を用いることができる。UV硬化型樹脂としては、例えば紫外線で硬化するアクリル系樹脂やエポキシ系樹脂などを用いることができる。2液硬化型樹脂としては、2液混合型のエポキシ系樹脂などを用いることができる。取り扱い性や隆起部13の形成のしやすさの観点からは、シアノアクリレート系樹脂などの常温硬化型が好ましい。常温硬化型樹脂を用いた隆起部13の形成は、例えば、繊維体からなるプローブ部12の先端を液状もしくはゲル状の樹脂に浸漬させ、樹脂を硬化させるとよい。
【0033】
隆起部13は、プローブ部12よりも径が大きくなるような形状であれば特に限定されない。例えば
図2に示すような球状だけでなく、三角錐状やT字形状などでもよい。また、隆起部13の大きさは、接着剤をより確実に担持させる観点からは、プローブ部12の径の1.3倍以上3.0倍以下とすることが好ましい。なお、隆起部13の大きさとは、隆起部13において最も径が大きい箇所の大きさを示す。
【0034】
(透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法)
続いて、上述した治具1を用いて微小な部分に接着剤を塗布する具体例として、シートメッシュを用いて、透過電子顕微鏡観察用試料を作製する方法を説明する。
【0035】
まず、
図3に示すようなシートメッシュ20を準備する。シートメッシュ20は、従来、試料をTEM内に装填するために使用され、観察対象である試料を載置する小さな円形の金網である。シートメッシュ20には、本体部21の中央に孔部22が設けられている。本実施形態では、このシートメッシュ20を、試料をトリミングした試料片を支持・固定するための支持部材として使用する。シートメッシュ20の大きさは、TEMの試料ホルダに装填できれば特に限定されないが、例えば外径が3mmφとするとよい。また、シートメッシュ20の厚みは、機械的強度および後述するイオンミリング(IM)による加工のし易さの観点からは、10μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0036】
シートメッシュ20の孔部22には試料片が挿入されて配置される。
図3では、孔部22として1個のスロットが設けられるシートメッシュ20を示すが、孔部22の数、孔部22のサイズや形状は、試料片のサイズや形状等に合わせて任意に選択できる。孔部22としては単孔でもよく、孔部22の数は2個以上であってもよい。後述するIMによる加工を容易に行う観点から、一般的には、孔部22として単孔または1スロットを有する円盤状のシートメッシュ20を用いることが好ましい。また、孔部22のサイズは、スロットの場合であれば、例えば1mm×2mm程度とするとよく、単孔の場合であれば、その直径を0.3mmφ以上1mmφ以下とするとよい。このようなサイズとすることにより、後述する試料のトリミングが容易となり、後述するTEMによる観察の際に観察視野を確保しやすくできる。
【0037】
シートメッシュ20の材質としては、例えば、銅、ニッケル、金、モリブデン、銅などの金属の他、炭素、高分子材料などから適宜選択することができる。シートメッシュ20の材質は、後述するTEMによる観察の際、試料片から発生するX線のスペクトルと重複しないスペクトルを有するものを選択するとよい。
【0038】
続いて、観察対象となる試料を準備する。この試料としては、例えば金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属窒化物、複合酸化物、複合水酸化物、複合炭酸塩、複合窒化物、各種セラミック粉などを1種もしくは2種以上含むものを用いることができる。試料の形状は特に限定されず、本実施形態では、シート状や鱗片状の試料でも使用することができる。例えば
図4に示すように、試料30としては、金属箔31の一方の面に金属酸化物を含む塗布体32が設けられたシート状のものを用いることができる。
【0039】
続いて、試料30を、シートメッシュ20の孔部22に配置できるような大きさにトリミングし、
図5に示すような試料片33を作製する。試料片33の大きさは、使用するシートメッシュ20の孔部22の径によって適宜変更するとよく、孔部22に確実に入り込むような大きさとするとよい。後述するイオンビームによる薄片加工を考慮すると、試料片33と孔部22との隙間の幅が小さいことが好ましい。具体的には、隙間の幅が200μm以下となるように、孔部22の径に応じて試料片33の大きさを調整するとよい。また、試料片33の形状は、任意でよいが、孔部22の形状に近いことが好ましい。例えば
図5では、
図8に示す孔部22としてのスロット内に挿入するため、試料片33を8角形の形状にトリミングしている。孔部22が単孔である場合も同様に、試料片33を8角形とするとよい。
【0040】
続いて、シートメッシュ20へ試料片33を固定する。
【0041】
具体的には、
図6に示すように、まず、シート40の上にシートメッシュ20を載置する。次に、試料片33を孔部22内の中央部分に設置する。このとき、試料片33の観察対象となる面(ここでは塗布体32)がシート40に接触するように試料片33を配置する。これにより、試料片33の観察対象となる面とシートメッシュ20の面とを面一として、観察対象とする面がシートメッシュ20から突出することを抑制できる。
【0042】
試料片33の孔部22での設置位置は、特に限定されないが、好ましくは、試料片33を孔部22の中心から外れるように設置するとよい。言い換えると、
図6において、孔部22内で試料片33をシートメッシュ20の枠部分に片寄らせて設置するとよい。これにより、シートメッシュ20と試料片33との一方の隙間が他方の隙間よりも狭くなるように、試料片33が設置される。隙間の幅としては、例えば20μm以上200μm以下となることが好ましい。なお、この隙間の幅は、シートメッシュ20と試料片33との間に形成される隙間のうち、最も狭い幅を示す。
【0043】
シートメッシュ20を載置するシート40としては、シリコン樹脂製のものを用いることが好ましい。シリコン樹脂製のシート40によれば、シートメッシュ20や試料片33を吸着できるので、接着剤を塗布する際に試料片33の位置ずれなどを抑制することができる。しかも、硬化した接着剤の貼りつきを抑制し、硬化後の取り扱い性にも優れる。
【0044】
続いて、上述した治具1を用いて、孔部22の内壁と試料片33との隙間に接着剤を塗布し充填する。まず、治具1のプローブ部12の先端を接着剤に浸漬させる。このとき、プローブ部12の先端側には隆起部13が設けられているので、接着剤がプローブ部12の根本側へ移動することを抑制し、プローブ部12の先端に接着剤を担持させることができる。続いて、
図7に示すように、接着剤50を担持させたプローブ部12を隙間に近接させ、隙間に接着剤50を塗布し、隙間を接着剤50で充填する。
【0045】
隙間に充填する接着剤50としては、充填時の雰囲気下において液状もしくはゲル状であって、硬化により試料片33をシートメッシュ20の孔部22に固定できるようなものであれば特に限定されない。例えば、常温硬化型、加熱硬化型、UV照射により硬化するUV硬化型など、公知の接着剤を用いることができる。これらの中でも、硬化したときにTEM観察の際に所望の強度が得られることから、加熱硬化型が好ましい。加熱硬化型としては、作業の容易性から、エポキシ樹脂であることが好ましい。なお、接着剤の粘度は、液状であって隙間への充填が好適に行えれば特に限定されない。
【0046】
続いて、隙間に充填した接着剤50を硬化させて、シート40を剥離する。これにより、硬化試料を得る。なお、硬化方法は接着剤50の種類に応じて適宜変更するとよい。
【0047】
得られる硬化試料は、シートメッシュ20の孔部22に試料片33が挿入されるとともに、孔部22の内壁と試料片33との隙間に接着剤50の硬化物が充填されて構成される。また、試料片33の観察対象となる面がシートメッシュ20の表面と面一となっている。また、硬化試料60では、試料片33がシートメッシュ20の孔部22において片寄って配置されることが好ましい。
【0048】
続いて、硬化試料をTEMへ装填できるようにIMを用いて硬化試料に薄片加工を施す。
【0049】
具体的には、まず、
図8(a)、(b)に示すように、円盤状の硬化試料60を、そのシートメッシュ20の側面がIMのイオンガンに相対するように、IMへ装填する。このとき、シートメッシュ20が遮蔽板としても機能するため、IMに装備されている遮蔽板を省略することができる。
【0050】
続いて、イオンガンからイオンビーム100を硬化試料60へ照射する。このとき、シートメッシュ20におけるイオンガン側の部分20a(図中の点線部分20a)が遮蔽板として機能する。これにより、試料片33の観察対象とする面が大きく切削されることを回避することができる。この結果、硬化試料60において、シートメッシュにおけるイオンガン側の部分20aと試料片33とがイオンビーム100により切削され、薄片化される。以上により、TEM観察用試料を得る。
【0051】
薄片加工する際に硬化試料60のIMでの配置方法は特に限定されないが、孔部22で片寄って配置される試料片33がイオンビーム100の照射側に位置するように、硬化試料60をIMに装填することが好ましい。つまり、孔部22と試料片33との隙間が狭い箇所がイオンビーム100の照射側に位置するように、硬化試料60を装填することが好ましい。接着剤50はシートメッシュ20と比較してイオンビーム100により削られやすい。そのため、孔部22と試料片33との隙間が広い箇所(接着剤50が充填される領域が広い箇所)がイオンビーム100側に配置されると、薄片化の途中で接着剤50が削られて、試料片33がシートメッシュ20から脱離したり位置ずれなどを起こすことがある。この点、隙間が狭い箇所がイオンビーム100側に配置されるように硬化試料60を設置することにより、試料片33の脱離や位置ずれを抑制しつつ、試料片33の薄片化を行うことができる。
【0052】
TEM観察用試料は、
図9(a)、(b)に示すように、試料片33が部分的に薄片化され、中央部には穿孔71が形成されて、TEMでの観察に適した厚みとなる。試料片33において薄片化された部分33aの厚さは、例えば0.01μm以上0.1μm以下であるとよい。また、試料片33において薄片化された部分33aは、例えば0.5×1mm程度の領域とし、TEMで観察する際に十分な視野面積を確保するとよい。
【0053】
なお、イオンガンは、シートメッシュ20の中心を中心とする円周上で適宜往復運動(首振り)させる、あるいは、シートメッシュ20を偏心回転運動させる。この運動により、硬化試料60へイオンビーム100が入射する際の入射角の変動範囲であるθの値の範囲内において変動させながら、硬化試料60へイオンビーム100を照射することができる。イオンビーム100が、硬化試料60へ入射する際の変動範囲θの値は0°~20°、好ましくは0.5°~5°程度の範囲である。また、イオンビーム100としては、例えばアルゴンやガリウム、キセノンなどを用いることができる。
【0054】
また、硬化試料60を薄片化する際に、シートメッシュ20のイオンガン側の部分20aがスパッタされてしまい、シートメッシュ20としての強度はあるものの、遮蔽板としての機能が消失する場合がある。このような場合は、一方向からイオンビーム100の照射を行うのみでなく、二以上の複数方向からイオンビーム100の照射を行い、薄片化加工を行うとよい。
【0055】
(TEM観察)
続いて、得られたTEM観察用試料70をTEMに装填して観察を行う。TEM観察用試料70は試料片33の周囲がシートメッシュ20で囲まれているので、試料片33への機械的衝撃を抑制しつつ、TEM観察用試料70のままTEMの試料ホルダに装填することができる。TEM観察用試料70は、試料片33における薄片化された部分33aがTEMでの観察に適した厚さを有し、かつ十分な観察視野を確保できる広さを有しているので、高精度な観察を行うことができる。
【0056】
なお、観察の結果、試料片33において観察方位が合わない、薄片化された部分33aが厚すぎる等、精度よく観察できない場合、TEM観察用試料70に追加工を行ってもよい。TEM観察用試料70をTEMから取り出してIMに配置し、前回のイオンビームの照射の際から、時計回り(または、反時計回り)に所望の角度をもって回転させた位置から(例えば、前回の照射の際から90°回転あるいは180°回転)、イオンビーム100の照射を行ってもよい。そして、イオンビーム100の照射後、再び、TEM観察用試料70をTEMに配置して観察する。このように、TEMでの観察および追加工を容易、かつ、所望回数実施することができる。
【0057】
<本実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0058】
本実施形態の接着剤塗布用治具1によれば、プローブ部12の先端側に隆起部13が設けられているので、プローブ部12の先端に接着剤50を付着させたときに、先端に接着剤50を担持させることができる。そのため、シートメッシュ20の孔部22に試料片33を配置したときに孔部22の側壁と試料片33との間に形成される微小な隙間に対して、接着剤50を容易に塗布して充填することができる。
【0059】
治具1において、隆起部13の大きさをプローブ部12の径の1.3倍以上3.0倍以下とすることが好ましい。これにより、隆起部13が過度に大きくなることによるプローブ部12のしなりを抑制しながらも、プローブ部12の先端での接着剤50の担持性を維持することができる。
【0060】
また、プローブ部12の径を10μm以上70μm以下、隆起部13の大きさを13μm以上200μm以下とすることが好ましい。プローブ部12を所定の径とすることにより、例えば幅が200μm以下の微小な隙間への接着剤50の塗布を容易とし、また隆起部13を所定の大きさとすることにより、プローブ部12の先端に接着剤50をより担持させやすくできる。
【0061】
隆起部13はシアノアクリレート系樹脂で形成することが好ましい。シアノアクリレート系樹脂によれば、細長いプローブ部12の先端に隆起部13を形成しやすく、またプローブ部12の先端で接着剤50をより担持しやすくできる。
【0062】
また、本実施形態のTEM観察用試料70の作製方法によれば、まず、シートメッシュ20の孔部22に試料片33を配置した後、孔部22の側壁と試料片33との間の微小な隙間に対して、上述の治具1を用いて接着剤50を塗布・充填し、接着剤50を硬化させることにより、硬化試料60を作製している。接着剤50の塗布に際して、試料片33の表面への接着剤50の付着を低減できるので、IMで余分な接着剤50を除去する必要がなく、薄片化をより効率よく行うことができる。そして、硬化試料60における試料片33に対してイオンビーム100を照射し、試料片33を薄片化することにより、TEM観察用試料70を得ることができる。TEM観察用試料70によれば、試料片33における薄片化された部分33aを、TEMでの観察に適した厚さに形成するとともに、十分な観察視野を確保できるような広さに形成することができる。これにより、TEMを用いて高精度な観察を行うことができる。
【0063】
また、得られたTEM観察用試料70によれば、IMによる薄片化加工を施すだけで、例えばナイフによる切断などの機械的加工を施していないので、TEM観察用試料70への機械的ダメージを与える可能性を回避でき、また作製工程を簡略化してTEM観察用試料70の作製効率を高めることができる。
【0064】
また、得られたTEM観察用試料70によれば、試料片33において薄片化された部分33aは脆化するものの、試料片33がシートメッシュ20の孔部22に配置され、試料片33がシートメッシュ20で囲まれた状態となっているので、薄片化された部分33aへ機械的衝撃が直接的に加わることを抑制できる。これにより、薄片化により脆化する試料片33を含むTEM観察用試料70の取り扱い性を向上することができる。
【0065】
TEM観察用試料70において、シートメッシュ20の孔部22と試料片33との間に形成される隙間の幅が200μm以下となるように、孔部22の径に応じて試料片33の大きさを調整することが好ましい。治具1によれば、幅が200μm以下の微小な隙間に対して接着剤を効率的に充填することができる。このように孔部22の径に対して試料片33の大きさを近づけることにより、硬化試料60をイオンビームで薄片加工するときに、加工を容易に行うことができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0067】
上述の実施形態では、試料30からトリミングして得られた微小な試料片33をシートメッシュ20に固定するときに、その微小な隙間に接着剤を塗布する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、試料30をそのままイオンミリング装置で薄片化した後、TEMに供する前に補強部材を取り付ける際に、試料30と補強部材との接着固定に上述した接着剤塗布用治具1を使用することもできる。以下、この点について具体的に説明する。
【0068】
まず、例えば
図10に示すように、イオンミリング装置にて薄片化された試料30としてシート状試料80を取り出す。シート状試料80は、その両端を試料ホルダ90で支持されている。また、シート状試料80は、その中央部部の一部領域が薄片化されており、薄片領域80aを有する。このシート状試料80は、試料ホルダ90から取り外し、TEMに供することになるが、シート状試料80は薄片化により強度が不足し、取り扱いにくいことがある。そのため、薄片化されたシート状試料80に補強部材を取り付ける。この補強部材としては、
図11に示すように、薄片化された領域(薄片領域80a)を覆わないようなリング状補強部材81が使用される。リング状補強部材81としては、リング状であれば特に限定されないが、例えばC型リング形状やO型リング形状のものを使用することができる。リング状補強部材81の材質は特に限定されないが、MoやSUSなどが挙げられる。なお、シート状試料80の大きさは特に限定されないが、例えば横が2.5mm~2.8mm、縦が0.5mm~1.0mm、厚さは0.05mm~0.2mmである。またリング状補強部材81の大きさ(外径)は、TEMの試料台の大きさに応じて適宜選択するとよく、例えば2.5mm~3.5mm、好ましくは3.05mmとするとよい。また、リング状補強部材81におけるリング状部分の大きさ(内径)は、シート状試料80の大きさや薄片化された領域80aの大きさに応じて適宜選択すればよく、例えば1.5mm~2.5mmとするとよい。
【0069】
続いて、薄片化されたシート状試料80にリング状補強部材81を取り付ける。具体的には、
図10および11に示すように、上述した接着剤塗布用治具1を用いて接着剤50をシート状試料80の両端に塗布し、その上に、薄片領域80aが露出するようにリング状補強部材81を載置する。接着剤50の塗布量が多く、その塗布領域が広くなり、接着剤50が試料ホルダ90側に回り込むと、シート状試料80が試料ホルダ90に固着され取り外しが困難となる。この点、接着剤塗布用治具1によれば、少量の接着剤50でも適度に塗布することができ、塗布領域の過度な広がりを抑制して、接着剤50が試料ホルダ90側までに回り込むことを抑制することができる。
【0070】
接着剤50が固化した後、試料ホルダ90を温めて、リング状補強部材81を持ち上げ、シート状試料80を試料ホルダ90から取り外す。リング状補強部材が取り付けられたシート状試料80をTEM観察用試料としてTEMに導入し、TEM観察を行うことができる。
【0071】
また上述の実施形態では、治具を接着剤の塗布に用いる場合について説明したが、接着剤以外の液体を微小領域に塗布する場合に用いてもよい。接着剤以外の液体としては、例えば顔料を含むインクなどが挙げられる。
【実施例0072】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0073】
(実施例1)
まず、接着剤塗布用治具を作製した。本実施例では、把持部にプローブ部が取り付けられたものとして、まつ毛プローブを用いた。まつ毛プローブは、把持部としての爪楊枝の一端にプローブ部としてまつ毛を接着固定したものであり、一般的には、TEMで薄片試料などを移動させたりするのに使用する治具である。本実施例では、このまつ毛プローブのまつ毛の先端を東亜合成株式会社製のアロンアルファ(登録商法)に浸漬させた後に引き上げて、まつ毛の先端側にアロンアルファからなる球状の塊を付着させ、これを硬化させることによりボール状の隆起部を形成した。隆起部の大きさは88μm程度であり、まつ毛の先端側の径(63μm)に対して約1.4倍であった。
【0074】
また、観察対象である試料、接着剤、およびシートメッシュとして以下を準備した。
【0075】
観察対象である試料としては、金属箔(厚さ約10μm)上に遷移金属の酸化物粉末と導電助剤等が厚さ約10μmで塗布されたシート状のものを準備した。遷移金属の酸化物粉末と導電助剤等を含む塗布体が設けられた面側が観察面となる。
【0076】
接着剤としては、GATAN社製エポキシ樹脂(G2)を準備した。
【0077】
シートメッシュとしては、応研商事株式会社製(#09-1059)を準備した。これは、観察対象である試料とEDSスペクトルが重複しないモリブデン(Mo)製の1スロット(1mm×2mm)のシートメッシュである。なお、シートメッシュの厚さは12μmであった。
【0078】
続いて、観察対象である試料を、シートメッシュの孔部(スロット)に入るようなサイズ(縦0.9mm×横1.7mmの長八角形)にトリミングし、試料片を得た。
【0079】
続いて、シートメッシュをシリコンラップ(株式会社ダイソー製:キッチンシリコーンC008)上に載置し、シートメッシュに吸着させた。このシートメッシュのスロット内にトリミングした試料片を配置した。このとき、試料片の塗布体が設けられた面をシリコンラップに対向させ、スロットの長辺と試料片の長辺とをあわせて、試料片を配置した。シートメッシュのスロットの内壁と試料片との隙間の幅は50μmであった。
【0080】
続いて、シートメッシュのスロットの内壁と試料片との隙間に接着剤を塗布・充填する。本実施例では、まつ毛プローブの、先端にボール状の隆起部が設けられたまつ毛を接着剤に浸漬させて、まつ毛に接着剤を担持させた。このとき、
図12に示すように、表面張力により丸くなった接着剤(A)が、まつ毛(B)の隆起部が設けられた先端に留まり、まつ毛の根本側への移動を抑制できることが確認された。そして、まつ毛の先端をスロットの内壁と試料片との隙間に移動し、隙間に接着剤を塗布・充填した。充填後、125℃で15分間、ホットプレートで加熱して接着剤を硬化させ、シリコンラップを剥離させることにより、硬化試料を得た。なお、接着剤としては、エポキシ樹脂系接着剤(コニシ株式会社製「ボンドクイック5」、粘度50000cP/25℃)を用いた。
【0081】
続いて、硬化試料をイオンミリング装置(日本電子製の「イオンスライサIB09060CIS」)に導入した。このとき装置に付属する遮蔽板は使用せず、硬化試料におけるシートメッシュを遮蔽板として使用した。そして、イオンガンより硬化試料へアルゴンイオンを照射した。このとき、硬化試料をアルゴンイオンに対して2°傾け、硬化試料における試料片の金属箔側の面に6kVの条件で1時間アルゴンイオンを照射した。続いて、アルゴンイオンを、硬化試料の両面へ、それぞれ6kV、5kV、は1時間ずつ、3kVは15分照射し、硬化試料を薄片化した。これにより、実施例1のTEM観察用試料を作製した。
【0082】
最後に、TEM観察用試料をTEMの試料ホルダに装填し、TEM(日本電子株式会社製の「JEM-ARM200F」)に設置した。TEM観察用試料においてアルゴンイオンにより薄片化された部分は、厚さがTEMの観察に適したものであり、また十分な観察視野を確保できていたため、シート状の試料を対象として高精度な観察を行うことができた。
【0083】
(比較例1)
比較例1では、まつ毛プローブの先端に樹脂製の隆起部を設けずに、まつ毛プローブをそのまま使用した以外は、実施例1と同様にTEM観察用試料を作製した。しかし、まつ毛プローブをそのまま接着剤に浸漬させた場合、
図13に示すように、接着剤(A)がまつ毛(B)の根本側へと移動してしまい、まつ毛の先端に接着剤を担持できないことが確認された。この理由は定かではないが、まつ毛が先細っているので、先端側で丸くなった接着剤が、根本側にできた接着剤の塊に引き寄せられ、接着剤が根本側へと移動したものと考えられる。そのため、比較例1の治具では、微小な隙間へ接着剤を容易に塗布・充填できないことが確認された。
【0084】
以上説明したように、接着剤塗布用治具において先細った繊維体の先端に隆起部を設けることにより、接着剤を担持させやすくでき、微小な隙間などの微小領域へ接着剤を容易に塗布できることが確認された。