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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153544
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】異方性光吸収膜および積層体
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119464
(22)【出願日】2022-07-27
(62)【分割の表示】P 2021027572の分割
【原出願日】2018-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2017076930
(32)【優先日】2017-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018074480
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】加藤 由実
(72)【発明者】
【氏名】森嶌 慎一
(72)【発明者】
【氏名】星野 渉
(72)【発明者】
【氏名】武田 淳
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 健吾
(72)【発明者】
【氏名】藤木 優壮
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い配向度と高い耐光性を両立する異方性光吸収膜およびそれを用いた積層体を提供する。
【解決手段】本発明の異方性光吸収膜は、第1の二色性アゾ色素と第2の二色性アゾ色素と特定の一般式(I)で表される化合物またはその重合体とを有する組成物から形成された異方性光吸収膜であって、第1の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長が400nm以上550nm未満であり、第2の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長が550nm以上750nm以下であり、膜中に、第1の二色性アゾ色素同士の配列構造を有するか、又は第2の二色性アゾ色素同士の配列構造を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性アゾ色素と、下記一般式(I)で表される化合物の重合体とを有する異方性光吸収膜であって、
前記異方性光吸収膜中の前記二色性アゾ色素の固形分割合が、22.0質量%以下であり、
前記二色性アゾ色素が、第1の二色性アゾ色素と、第2の二色性アゾ色素とを含み、
前記第1の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長が400nm以上550nm未満であり、
前記第2の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長が550nm以上750nm以下であり、
前記第2の二色性アゾ色素が、下記一般式(II)で表され、
前記膜中に、前記第2の二色性アゾ色素同士の配列構造を有し、
前記第2の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長と、前記異方性光吸収膜の吸収極大波長との差が、10nm以上である、異方性光吸収膜。ただし、前記異方性光吸収膜が少なくとも2つの吸収極大波長を有する場合、前記差は、前記第2の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長と前記異方性光吸収膜の吸収極大波長の近い方との差とする。
ここで、前記異方性光吸収膜が、膜中に、前記配列構造を有することは、以下の膜1~4のX線回折スペクトルを対比することで確認する。
膜1:前記異方性光吸収膜
膜2:前記一般式(I)で表される化合物またはその重合体のみを有する組成物から形成された膜
膜4:前記第2の二色性アゾ色素と前記一般式(I)で表される化合物またはその重合体とを有する組成物から形成された膜
前記膜2のX線回折スペクトルと前記膜4のX線回折スペクトルとを対比したときに、前記膜4のXRDスペクトルに、前記膜2のXRDスペクトルに観測されたピーク以外のピークが見られる場合、そのピークは第2の二色性アゾ色素同士の配列構造に由来するピークである。前記第2の二色性アゾ色素同士の配列構造に由来するピークをピーク2とする。
前記膜1のX線回折スペクトルに前記ピーク2が観測された場合、前記異方性光吸収膜は、膜中に、前記第2の二色性アゾ色素同士の配列構造を有する。
一般式(I):Q5-B5-A5-B6-A6-B8-Q6
一般式(I)中、Q5およびQ6の少なくとも一つは、ラジカル重合性基であり、残りは、水素原子、炭素数1乃至20のアルキル基、炭素数3乃至12のシクロアルキル基、炭素数6乃至40のアリール基、炭素数1乃至20のアルコキシ基、炭素数1乃至20のアルキルエステル、-CN、-NO、ハロゲン原子、または1乃至2個の炭素数1乃至6のアルキル基で置換もしくは非置換されたアミン基であり、
A5およびA6は、互いに同一でも異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数6乃至40のアリーレン基、または置換もしくは非置換の炭素数6乃至40のシクロヘキシル基であり、
B5、B8は、互いに同一でも異なっていてもよく、-(C=O)O-、-O(C=O)-、置換もしくは非置換の炭素数1乃至20のアルキレン基、置換もしくは非置換の炭素数1乃至20のアルキレンオキシド基、及び-O-、からなる群より選択される1種以上が組み合わせられた2価の作用基であり、
B6は、置換又は非置換の炭素数6乃至40のアリーレン基と、-(C=O)O-、-O(C=O)-及び置換又は非置換の炭素数1乃至20のアルキレン基からなる群より選択される1種以上とが組み合わせられた2価の基である。
【化1】

一般式(II)中、R31~R35はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し;R36及びR37はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し;Q31は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基又はシクロヘキサン環基を表し;L31は2価の連結基を表し;A31は酸素原子又は硫黄原子を表す。R36、R37及びQ31は、ラジカル重合性基を有していてもよい。ただし、アゾ基を3つ以上有する化合物を除く。
【請求項2】
前記第2の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長と、前記異方性光吸収膜の吸収極大波長との差が、10nm~100nmである、請求項1に記載の異方性光吸収膜。
【請求項3】
前記異方性光吸収膜が、少なくとも2つの吸収極大波長を有し、
前記少なくとも2つの吸収極大波長がそれぞれ、400nm以上550nm未満と550nm以上750nm以下である、請求項1又は2に記載の異方性光吸収膜。
【請求項4】
前記第1の二色性アゾ色素から下記式(1)で表される化合物が除かれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の異方性光吸収膜。
【化2】

【請求項5】
前記異方性光吸収膜の面内方向のX線回折測定において、
前記第2の二色性アゾ色素同士の配列構造に由来するピークのφスキャンにおける半値幅が、10.0°未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載の異方性光吸収膜。
【請求項6】
膜厚が0.3μm以上5μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の異方性光吸収膜。
【請求項7】
溶液吸収極大波長と前記異方性光吸収膜の吸収極大波長との差が10nm~100nmである前記第1および第2の二色性アゾ色素の少なくとも一方のLogP値と、前記一般式(I)で表される化合物またはその重合体のLogP値との差が、5以上8以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の異方性光吸収膜。
【請求項8】
前記第1の二色性アゾ色素が、下記一般式(III)で表される、請求項1~7のいずれか1項に記載の異方性光吸収膜。
一般式(III)
【化3】

一般式(III)中、nは、2乃至5の整数であって、2以上繰り返される-(A-N=N)-の繰り返し単位構造は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、
およびQの少なくとも一つは、ラジカル重合性基であり、残りは、水素、炭素数1乃至20のアルキル、炭素数1乃至20のアルコキシ、炭素数1乃至20のアルキルエステルまたはアミン基であり、
およびAは、互いに同一でも異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数6乃至40のアリーレン、または置換もしくは非置換の炭素数4乃至30のヘテロアリーレンであり、
およびBは、互いに同一でも異なっていてもよく、単結合、-(C=O)O-、-O(C=O)-、置換もしくは非置換の炭素数1乃至20のアルキレン、置換もしくは非置換の炭素数6乃至40のアリーレン、置換もしくは非置換の炭素数4乃至30のヘテロアリーレン、置換もしくは非置換の炭素数1乃至20のアルキレンオキシド、-O-、-S-、-NR1-および-PR1-からなる群より選択される1種以上が組み合わせられた2価の作用基であり、
R1は、水素または炭素数1乃至20のアルキルである。
【請求項9】
前記一般式(III)で表される第1の二色性アゾ色素が、下記式(A)を満たす請求項8に記載の異方性光吸収膜。
式(A)
Ld/Ll>3.2(一般式(III)中のnが2の場合)
Ld/Ll>3.6(一般式(III)中のnが3の場合)
Ld/Ll>4.0(一般式(III)中のnが4の場合)
式(A)中、Ldは第1の二色性アゾ色素の分子長軸の分子長を表し、Llは該二色性アゾ色素の分子長軸と直交する方向の分子長を表す。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の異方性光吸収膜と、配向膜とを有する積層体。
【請求項11】
前記配向膜が、ポリアミック酸およびポリイミド化合物の一方または両方を含む配向膜である、請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
前記配向膜が、光活性基としてアゾ基を有する光活性化合物を含む光配向膜である、請求項10に記載の積層体。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の異方性光吸収膜と、基板とを有する積層体。
【請求項14】
請求項10~12のいずれか1項に記載の積層体と、基板とを有し、
前記基板が、前記配向膜の前記異方性光吸収膜とは反対側に配置される積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性光吸収膜および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザー光や自然光を含む照射光の減衰機能、偏光機能、散乱機能、遮光機能などが必要となった際には、それぞれの機能ごとに異なった原理によって作動する装置を利用していた。そのため、上記の機能に対応する製品も、それぞれの機能別に異なった製造工程によって製造されていた。
例えば、液晶ディスプレイ(liquid crystal display:LCD)では、表示における旋光性および複屈折性を制御するために直線偏光板および円偏光板が用いられている。また、有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode:OLED)においても、外光の反射防止のために円偏光板が使用されている。
【0003】
従来、これらの偏光板(偏光素子)には、ヨウ素が二色性物質として広く使用されてきたが、ヨウ素の代わりに有機色素を二色性物質として使用する偏光素子についても検討されている。
例えば、特許文献1には、「少なくとも1種のサーモトロピック液晶性二色性色素、及び少なくとも1種のサーモトロピック液晶性高分子を含有し、上記サーモトロピック液晶性二色性色素の光吸収異方性膜中における質量含有率が30%以上であることを特徴とする光吸収異方性膜。」が記載されている([請求項1])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-237513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1に記載されているような二色性色素を含む異方性光吸収膜について検討したところ、異方性光吸収膜の形成に用いられる組成物に含まれる二色性色素の種類によっては、異方性光吸収膜の耐光性が不十分となる場合があることや、配向度を落としてしまうことを明らかとした。
【0006】
そこで、本発明は、高い配向度と高い耐光性を両立する異方性光吸収膜およびそれを用いた積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討の結果、特定の溶液吸収極大波長を有する二種類の二色性アゾ色素と特定の化合物を有する組成物から形成された異方性光吸収膜において、膜中に少なくとも一方の二色性アゾ色素同士の配列構造を有する場合に、高い配向度と高い耐光性が両立されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0009】
(1) 第1の二色性アゾ色素と、第2の二色性アゾ色素と、後述する一般式(I)で表される化合物またはその重合体とを有する組成物から形成された異方性光吸収膜であって、
上記第1の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長が400nm以上550nm未満であり、
上記第2の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長が550nm以上750nm以下であり、
上記膜中に、上記第1の二色性アゾ色素同士の配列構造を有するか、又は上記第2の二色性アゾ色素同士の配列構造を有する、異方性光吸収膜。
(2) 上記第1および第2の二色性アゾ色素の少なくとも一方の溶液吸収極大波長と、上記異方性光吸収膜の吸収極大波長との差が、10nm~100nmであり、
上記組成物中の、400nm~750nmに溶液吸収極大波長を与える成分の固形分割合が2質量%~20質量%である、上記(1)に記載の異方性光吸収膜。
(3) 上記第2の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長と、上記異方性光吸収膜の吸収極大波長との差が、10nm~100nmである、上記(1)又は(2)に記載の異方性光吸収膜。
(4) 上記異方性光吸収膜が、少なくとも2つの吸収極大波長を有し、
上記少なくとも2つの吸収極大波長がそれぞれ、400nm以上550nm未満と550nm以上750nm以下である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の異方性光吸収膜。
(5) 上記第2の二色性アゾ色素が、上記膜中で結晶構造を形成している、上記(1)~(4)のいずれかに記載の異方性光吸収膜。
(6) 上記異方性光吸収膜の面内方向のX線回折測定において、
上記第2の二色性アゾ色素同士の配列構造に由来するピークのφスキャンにおける半値幅が、10.0°未満である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の異方性光吸収膜。
(7) 上記第2の二色性アゾ色素の融点T1と、上記一般式(I)で表される化合物またはその重合体と上記第2の二色性アゾ色素とを含む組成物の転移温度のうち上記第2の二色性アゾ色素に対応する転移温度T2との差が、30℃以下である、上記(1)~(6)のいずれかに記載の異方性光吸収膜。
(8) 上記第2の二色性アゾ色素が、後述する一般式(II)で表される、上記(1)~(7)のいずれかに記載の異方性光吸収膜。
(9) 膜厚が0.3μm以上5μm以下である、上記(1)~(8)のいずれかに記載の異方性光吸収膜。
(10) 溶液吸収極大波長と上記異方性光吸収膜の吸収極大波長との差が10nm~100nmである上記第1および第2の二色性アゾ色素の少なくとも一方のLogP値と、上記一般式(I)で表される化合物またはその重合体のLogP値との差が、5以上8以下である、上記(1)~(9)のいずれかに記載の異方性光吸収膜。
(11) 上記第1の二色性アゾ色素が、後述する一般式(III)で表される、上記(1)~(10)のいずれかに記載の異方性光吸収膜。
(12) 上記一般式(III)で表される第1の二色性アゾ色素が、後述する式(A)を満たす上記(11)に記載の異方性光吸収膜。
(13) 上記(1)~(12)のいずれかに記載の異方性光吸収膜と、配向膜とを有する積層体。
(14) 上記配向膜が、ポリアミック酸およびポリイミド化合物の一方または両方を含む配向膜である、上記(13)に記載の積層体。
(15) 上記配向膜が、光活性基としてアゾ基を有する光活性化合物を含む光配向膜である、上記(13)に記載の積層体。
(16) 上記(1)~(12)のいずれかに記載の異方性光吸収膜と、基板とを有する積層体。
(17) 上記(13)~(15)のいずれかに記載の積層体と、基板とを有し、
上記基板が、上記配向膜の上記異方性光吸収膜とは反対側に配置される積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い配向度と高い耐光性を両立する異方性光吸収膜およびそれを用いた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1-1】図1-1は実施例13における膜2のXRDスペクトル(方位角:30°)である。
図1-2】図1-2は実施例13における膜4のXRDスペクトル(方位角:30°)である。
図2-1】図2-1は実施例20における膜2のXRDスペクトル(方位角:10°)である。
図2-2】図2-2は実施例20における膜4のXRDスペクトル(方位角:10°)である。
図3】本発明の積層体の実施形態の例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、平行、直交とは厳密な意味での平行、直交を意味するのではなく、平行または直交から±5°の範囲を意味する。
【0013】
また、本明細書において、液晶性組成物、液晶性化合物とは、硬化等により、もはや液晶性を示さなくなったものも概念として含まれる。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」または「メタクリレート」を表す表記であり、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を表す表記であり、「(メタ)アクリロイル」は、「アクリロイル」または「メタクリロイル」を表す表記である。
【0014】
最初に、本発明で使用されるパラメータについてその定義を説明する。
【0015】
《異方性光吸収膜の吸収極大波長》
本発明において、異方性光吸収膜の吸収極大波長は下記の方法で測定した値を表す。
Nikon製顕微鏡ECLIPSE E600 POLの光源側偏光子を挿入した状態で、OceanOptics社製マルチチャンネル分光器QE65000を用いて可視域での吸収軸方向の吸収スペクトルを測定し、ピークの波長を本発明における吸収極大波長とする。また、ピークが複数測定される場合、それぞれのピークを本発明における吸収極大波長とした。なお、吸収スペクトルは、基板や配向膜と積層した状態で測定し、基板や配向膜のみのスペクトルを差し引いて算出した。
【0016】
《二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長》
本発明において、二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長は下記の方法で測定した値を表す。
クロロホルムまたはそれに代わる溶媒中の吸収極大波長を、分光光度計UV-2550(島津製作所社製)で測定した。
【0017】
《LogP値の算出》
LogP値は、化学構造の親水性および疎水性の性質を表現する指標であり、親疎水パラメータと呼ばれることがある。LogP値は、ChemBioDraw UltraまたはHSPiP(Ver.4.1.07)などのソフトウェアを用いて計算できる。また、OECD Guidelines for the Testing of Chemicals,Sections 1,Test No.117の方法などにより、実験的に求めることもできる。本発明では特に断りのない限り、HSPiP(Ver.4.1.07)に化合物の構造式を入力して算出される値をLogP値として採用する。
【0018】
《二色性アゾ色素のアスペクト比の計算の計算》
本発明における二色性アゾ色素のアスペクト比は、分子が内接する最小直径の円筒の長さ(L)と 直径(D)の比(L/D)で定義した。Gaussian09(米・ガウシアン社)を用いて、密度汎関数法(b3lyp/6-31g(d))により構造最適化計算を行った後、Winmostar(株式会社クロスアビリティ)を用いて最適化構造のアスペクト比を算出した。なお、上記Lは後述するLdに相当し、上記Dは後述するLlに相当する。
【0019】
[異方性光吸収膜]
本発明の異方性光吸収膜(以下、「本発明の膜」とも言う)は、第1の二色性アゾ色素と、第2の二色性アゾ色素と、後述する一般式(I)で表される化合物またはその重合体とを有する組成物から形成された異方性光吸収膜である。
ここで、上記第1の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長が400nm以上550nm未満であり、上記第2の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長が550nm以上750nm以下である。
また、本発明の膜は、膜中に、上記第1の二色性アゾ色素同士の配列構造を有するか、又は上記第2の二色性アゾ色素同士の配列構造を有する。
上記組成物中の400nm~750nmに溶液吸収極大波長を与える成分(すなわち、第1の二色性アゾ色素及び第2の二色性アゾ色素)の固形分割合は、本発明の効果がより優れる理由から、2質量%~20質量%であることが好ましい。なお、本明細書において、「固形分割合」とは、固形分(溶媒以外の成分)全体を100質量%としたときの質量%を表す。
【0020】
〔二色性アゾ色素〕
本発明に用いられる二色性アゾ色素は、特定の溶液吸収極大波長を有していれば特に限定はない。具体的には、例えば、特開2013-228706号公報の[0067]~[0071]段落、特開2013-227532号公報の[0008]~[0026]段落、特開2013-209367号公報の[0008]~[0015]段落、特開2013-14883号公報の[0045]~[0058]段落、特開2013-109090号公報の[0012]~[0029]段落、特開2013-101328号公報の[0009]~[0017]段落、特開2013-37353号公報の[0051]~[0065]段落、特開2012-63387号公報の[0049]~[0073]段落(、特開平11-305036号公報の[0016]~[0018]段落、特開2001-133630号公報の[0009]~[0011]段落、特開2011-215337号公報の[0030]~[0169]、特開2010-106242号公報の[0021]~[0075]段落、特開2010-215846号公報の[0011]~[0025]段落、特開2011-048311号公報の[0017]~[0069]段落、特開2011-213610号公報の[0013]~[0133]段落、特開2011-237513号公報の[0074]~[0246]段落、特願2015-001425号公報の[0022]~[0080]段落、特願2016-006502号公報の[0005]~[0051段落]、WO2016/060173号公報の[0005]~[0041]段落、WO2016/136561号公報の[0008]~[0062]段落、特願2016-044909号公報の[0014]~[0033]段落、特願2016-044910号公報の[0014]~[0033]段落、特願2016-095907号公報の[0013]~[0037]段落、特願2017-045296号公報の[0014]~[0034]段落などが挙げられる。
【0021】
<第1の二色性アゾ色素>
本発明に用いられる第1の二色性アゾ色素は、溶液吸収極大波長が400nm以上550nm未満である二色性アゾ色素である。また、より高い配向度を達成できるという観点で、下記一般式(III)で表される二色性アゾ色素であることが好ましい。
【0022】
【化1】
一般式(III)
【0023】
一般式(III)中、nは、2乃至5の整数であって、2以上繰り返される-(A-N=N)-の繰り返し単位構造は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、
およびQの少なくとも一つは、ラジカル重合性基であり、残りは、水素、炭素数1乃至20のアルキル、炭素数1乃至20のアルコキシ、炭素数1乃至20のアルキルエステルまたはアミン基であり、
およびAは、互いに同一でも異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数6乃至40のアリーレン、または置換もしくは非置換の炭素数4乃至30のヘテロアリーレンであり、
およびBは、互いに同一でも異なっていてもよく、単結合、-(C=O)O-、-O(C=O)-、置換もしくは非置換の炭素数1乃至20のアルキレン、置換もしくは非置換の炭素数6乃至40のアリーレン、置換もしくは非置換の炭素数4乃至30のヘテロアリーレン、置換もしくは非置換の炭素数1乃至20のアルキレンオキシド、-O-、-S-、-NR1-および-PR1-からなる群より選択される1種以上が組み合わせられた2価の作用基であり、
R1は、水素または炭素数1乃至20のアルキルである。
【0024】
また、本発明の効果がより優れる理由から、一般式(III)で表される第1の二色性アゾ色素が、下記式(A)を満たすことが好ましい。
式(A)
Ld/Ll>3.2(一般式(III)中のnが2の場合)
Ld/Ll>3.6(一般式(III)中のnが3の場合)
Ld/Ll>4.0(一般式(III)中のnが4の場合)
式(A)中、Ldは第1の二色性アゾ色素の分子長軸の分子長を表し、Llは該二色性アゾ色素の分子長軸と直交する方向の分子長を表す。
【0025】
組成物中の第1の二色性アゾ色素の濃度(溶媒も含めた組成物全体に対する濃度)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、0.01~5質量%であることが好ましい。
組成物中の第1の二色性アゾ色素の固形分割合は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、1~10質量%であることが好ましい。
組成物中、第1の二色性アゾ色素の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、後述する一般式(I)で表される化合物またはその重合体100質量部に対して、0.3~10質量部であることが好ましい。
【0026】
<第2の二色性アゾ色素>
本発明に用いられる二色性アゾ色素は、溶液吸収極大波長が550nm以上750nm以下である二色性アゾ色素である。また、より高い配向度を達成できるという観点で、下記一般式(II)で表される二色性アゾ色素であることが好ましい。
【0027】
一般式(II)
【化2】
【0028】
一般式(II)中、R31~R35はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し;R36及びR37はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し;Q31は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基又はシクロヘキサン環基を表し;L31は2価の連結基を表し;A31は酸素原子又は硫黄原子を表す。R36、R37及びQ31は、ラジカル重合性基を有していてもよい。
【0029】
上記R36及びR37は、本発明の効果がより優れる理由から、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基(特に炭素数1~10のアルキル基)であることが好ましい。
上記置換基は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、(メタ)アクリロイルオキシ基、又は、アシルオキシ基(R-CO-O-*:Rはアルキル基(特に炭素数1~10))であることが好ましい。
【0030】
上記Q31は、本発明の効果がより優れる理由から、置換基を有する、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基又はシクロヘキサン環基であることが好ましい。
上記置換基は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、Q-L-*で表される基であることが好ましい。
ここで、Qは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基(特に炭素数1~20のアルキル基)、(メタ)アクリロイルオキシ基、又は、アシルオキシ基(R-CO-O-*:Rはアルキル基(特に炭素数1~10))を表し、Lは2価の連結基を表し、*は結合位置を表す。
上記Lとしては、単結合、2価の脂肪族炭化水素基(例えば、アルキレン基。好ましくは炭素数1~20)、2価の芳香族炭化水素基(例えば、アリーレン基。好ましくは炭素数6~12)、アルキレンオキシ基、-O-、-S-、-SO-、-SO-、-N(R)-(R:アルキル基)、-CO-、-NH-、-COO-、-CONR-、-Si(R)(R’)-(R及びR’はそれぞれアルキル基(特に炭素数1~10))、又はこれらを組み合わせた基などが挙げられる。
上記アルキル基の炭素原子は、-O-、-CO-、-C(O)-O-、-O-C(O)-、-Si(CH-O-Si(CH-、-N(R)-、-N(R)-CO-、-CO-N(R)-、-N(R)-C(O)-O-、-O-C(O)-N(R)-、-N(R)-C(O)-N(R’)-、-CH=CH-、-C≡C-、-N=N-、-C(R)=N-、-C(R)=CH-C(O)-または-O-C(O)-O-、によって置換されていてもよい。(R及びR’はそれぞれアルキル基(特に炭素数1~10))
上記アルキル基の炭素原子に結合する水素原子は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、-N(R)(R’)-、アミノ基、-C(R)=C(R’)-NO、-C(R)=C(R’)-CN、または、-C(R)=C(CN)、によって置換されていてもよい。(R及びR’はそれぞれアルキル基(特に炭素数1~10))
【0031】
組成物中の第2の二色性アゾ色素の濃度(溶媒も含めた組成物全体に対する濃度)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、0.1~10質量%であることが好ましい。
組成物中の第2の二色性アゾ色素の固形分割合は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、1~20質量%であることが好ましい。
組成物中、第2の二色性アゾ色素の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、後述する一般式(I)で表される化合物またはその重合体100質量部に対して、5~20質量部であることが好ましい。
【0032】
〔一般式(I)で表される化合物またはその重合体〕
本発明の膜に用いられる組成物は、下記一般式(I)で表される化合物またはその重合体(以下、まとめて「一般式(I)化合物」とも言う)を含む。
【0033】
一般式(I):Q5-B5-A5-B6-A6-B8-Q6
一般式(I)中、Q5およびQ6の少なくとも一つは、ラジカル重合性基であり、残りは、水素原子、炭素数1乃至20のアルキル基、炭素数3乃至12のシクロアルキル基、炭素数6乃至40のアリール基、炭素数1乃至20のアルコキシ基、炭素数1乃至20のアルキルエステル、-CN、-NO、ハロゲン原子、または1乃至2個の炭素数1乃至6のアルキル基で置換もしくは非置換されたアミン基であり、
A5およびA6は、互いに同一でも異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数6乃至40のアリーレン基、置換もしくは非置換の炭素数4乃至30のヘテロアリーレン基、または置換もしくは非置換の炭素数6乃至40のシクロヘキシル基であり、
B5、B6およびB8は、互いに同一でも異なっていてもよく、単結合、-(C=O)O-、-O(C=O)-、置換もしくは非置換の炭素数1乃至20のアルキレン基、置換もしくは非置換の炭素数6乃至40のアリーレン基、置換もしくは非置換の炭素数4乃至30のヘテロアリーレン基、置換もしくは非置換の炭素数6乃至40のシクロヘキシル基、置換もしくは非置換の炭素数1乃至20のアルキレンオキシド基、-O-、-S-、-NR3-および-PR3-からなる群より選択される1種以上が組み合わせられた2価の作用基であり、R3は、水素原子または炭素数1乃至20のアルキル基である。
高分子液晶性化合物としては、例えば、特開2011-237513号公報に記載されているサーモトロピック液晶性高分子、特開2016-4055号公報に記載のサーモトロピック液晶性を有する二色性色素ポリマーが挙げられる。
また、高分子液晶性化合物は、末端に架橋性基(例えば、アクリロイル基およびメタクリロイル基)を有していてもよい。
【0034】
<一般式(I)で表される化合物の重合体>
一般式(I)で表される化合物の重合体としては、本発明の効果がより優れる理由から、下記式(1)で表される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(1)」とも言う)を含む高分子液晶化合物(以下、「特定化合物」とも言う)が好適な態様として挙げられる。
【0035】
【化3】
【0036】
上記式(1)中、P1は繰り返し単位の主鎖を表し、L1は単結合または2価の連結基を表し、SP1はスペーサー基を表し、M1はメソゲン基を表し、T1は末端基を表す。
【0037】
P1が表す繰り返し単位の主鎖としては、具体的には、例えば、下記式(P1-A)~(P1-D)で表される基が挙げられ、なかでも、原料となる単量体の多様性および取り扱いが容易である観点から、下記式(P1-A)で表される基が好ましい。
【0038】
【化4】
【0039】
式(P1-A)~(P1-D)において、「*」は、式(1)におけるL1との結合位置を表す。式(P1-A)において、Rは水素原子またはメチル基を表す。式(P1-D)において、Rはアルキル基を表す。
式(P1-A)で表される基は、本発明の効果がより優れる理由から、(メタ)アクリル酸エステルの重合によって得られるポリ(メタ)アクリル酸エステルの部分構造の一単位であることが好ましい。
式(P1-B)で表される基は、本発明の効果がより優れる理由から、エチレングリコールを重合して得られるポリエチレングリコールにおけるエチレングリコール単位であることが好ましい。
式(P1-C)で表される基は、本発明の効果がより優れる理由から、プロピレングリコールを重合して得られるプロピレングリコール単位であることが好ましい。
式(P1-D)で表される基は、本発明の効果がより優れる理由から、シラノールの縮重合によって得られるポリシロキサンのシロキサン単位であることが好ましい。
【0040】
L1は、単結合または2価の連結基である。
L1が表す2価の連結基としては、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-C(O)NR-、-NRC(O)-、-SO-、および、-NR-などが挙げられる。式中、RおよびRはそれぞれ独立に、水素原子、置換基(例えば、後述する置換基W)を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基を表わす。
P1が式(P1-A)で表される基である場合には、本発明の効果がより優れる理由から、L1は-C(O)O-で表される基が好ましい。
P1が式(P1-B)~(P1-D)で表される基である場合には、本発明の効果がより優れる理由から、L1は単結合が好ましい。
【0041】
SP1が表すスペーサー基は、液晶性を発現しやすいことや、原材料の入手性などの理由から、オキシエチレン構造、オキシプロピレン構造、ポリシロキサン構造およびフッ化アルキレン構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を含むことが好ましい。
ここで、SP1が表すオキシエチレン構造は、*-(CH-CHO)n1-*で表される基が好ましい。式中、n1は1~20の整数を表し、*は、上記式(1)中のL1またはM1との結合位置を表す。n1は、本発明の効果がより優れる理由から、2~10の整数であることが好ましく、2~4の整数であることがより好ましく、3であることが最も好ましい。
また、SP1が表すオキシプロピレン構造は、本発明の効果がより優れる理由から、*-(CH(CH)-CHO)n2-*で表される基が好ましい。式中、n2は1~3の整数を表し、*はL1またはM1との結合位置を表す。
また、SP1が表すポリシロキサン構造は、本発明の効果がより優れる理由から、*-(Si(CH-O)n3-*で表される基が好ましい。式中、n3は6~10の整数を表し、*はL1またはM1との結合位置を表す。
また、SP1が表すフッ化アルキレン構造は、本発明の効果がより優れる理由から、*-(CF-CFn4-*で表される基が好ましい。式中、n4は6~10の整数を表し、*はL1またはM1との結合位置を表す。
【0042】
M1が表すメソゲン基とは、液晶形成に寄与する液晶分子の主要骨格を示す基である。液晶分子は、結晶状態と等方性液体状態の中間の状態(メソフェーズ)である液晶性を示す。メソゲン基については特に制限はなく、例えば、「FlussigeKristalle in Tabellen II」(VEB DeutscheVerlag fur Grundstoff Industrie,Leipzig、1984年刊)、特に第7頁~第16頁の記載、および、液晶便覧編集委員会編、液晶便覧(丸善、2000年刊)、特に第3章の記載、を参照することができる。
メソゲン基としては、例えば、芳香族炭化水素基、複素環基、および脂環式基からなる群より選択される少なくとも1種の環状構造を有する基が好ましい。
メソゲン基は、本発明の効果がより優れる理由から、芳香族炭化水素基を有するのが好ましく、2~4個の芳香族炭化水素基を有するのがより好ましく、3個の芳香族炭化水素基を有するのがさらに好ましい。
【0043】
メソゲン基としては、液晶性の発現、液晶相転移温度の調整、原料入手性および合成適性という観点、並びに、本発明の効果がより優れるから、下記式(M1-A)または下記式(M1-B)で表される基が好ましく、式(M1-B)で表される基がより好ましい。
【0044】
【化5】
【0045】
式(M1-A)中、A1は、芳香族炭化水素基、複素環基および脂環式基からなる群より選択される2価の基である。これらの基は、アルキル基、フッ化アルキル基、アルコキシ基又は後述する置換基Wなどの置換基で置換されていてもよい。
A1で表される2価の基は、4~6員環であることが好ましい。また、A1で表される2価の基は、単環でも、縮環であってもよい。
*は、SP1またはT1との結合位置を表す。
【0046】
A1が表す2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ナフチレン基、フルオレン-ジイル基、アントラセン-ジイル基およびテトラセン-ジイル基などが挙げられ、メソゲン骨格の設計の多様性や原材料の入手性などの観点から、フェニレン基またはナフチレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
【0047】
A1が表す2価の複素環基としては、芳香族または非芳香族のいずれであってもよいが、配向度がより向上するという観点から、2価の芳香族複素環基であることが好ましい。
2価の芳香族複素環基を構成する炭素以外の原子としては、窒素原子、硫黄原子および酸素原子が挙げられる。芳香族複素環基が炭素以外の環を構成する原子を複数有する場合、これらは同一であっても異なっていてもよい。
2価の芳香族複素環基の具体例としては、例えば、ピリジレン基(ピリジン-ジイル基)、ピリダジン-ジイル基、イミダゾール-ジイル基、チエニレン(チオフェン-ジイル基)、キノリレン基(キノリン-ジイル基)、イソキノリレン基(イソキノリン-ジイル基)、オキサゾール-ジイル基、チアゾール-ジイル基、オキサジアゾール-ジイル基、ベンゾチアゾール-ジイル基、ベンゾチアジアゾール-ジイル基、フタルイミド-ジイル基、チエノチアゾール-ジイル基、チアゾロチアゾール-ジイル基、チエノチオフェン-ジイル基、および、チエノオキサゾール-ジイル基などが挙げられる。
【0048】
A1が表す2価の脂環式基の具体例としては、シクロペンチレン基およびシクロへキシレン基などが挙げられる。
【0049】
式(M1-A)中、a1は1~10の整数を表す。a1が2以上である場合には、複数のA1は同一でも異なっていてもよい。
【0050】
式(M1-B)中、A2およびA3はそれぞれ独立に、芳香族炭化水素基、複素環基および脂環式基からなる群より選択される2価の基である。A2およびA3の具体例および好適態様は、式(M1-A)のA1と同様であるので、その説明を省略する。
式(M1-B)中、a2は1~10の整数を表し、a2が2以上である場合には、複数のA2は同一でも異なっていてもよく、複数のA3は同一でも異なっていてもよく、複数のLA1は同一でも異なっていてもよい。a2は、本発明の効果がより優れる理由から、2以上の整数であることが好ましく、2であることがより好ましい。
式(M1-B)中、a2が1である場合には、LA1は2価の連結基である。a2が2以上である場合には、複数のLA1はそれぞれ独立に、単結合または2価の連結基であり、複数のLA1のうち少なくとも1つが2価の連結基である。a2が2である場合、本発明の効果がより優れる理由から、2つのLA1のうち、一方が2価の連結基であり、他方が単結合であることが好ましい。
【0051】
式(M1-B)中、LA1が表す2価の連結基としては、-O-、-(CH-、-(CF-、-Si(CH-、-(Si(CHO)-、-(OSi(CH-(gは1~10の整数を表す。)、-N(Z)-、-C(Z)=C(Z’)-、-C(Z)=N-、-N=C(Z)-、-C(Z)-C(Z’)-、-C(O)-、-OC(O)-、-C(O)O-、-O-C(O)O-、-N(Z)C(O)-、-C(O)N(Z)-、-C(Z)=C(Z’)-C(O)O-、-O-C(O)-C(Z)=C(Z’)-、-C(Z)=N-、-N=C(Z)-、-C(Z)=C(Z’)-C(O)N(Z”)-、-N(Z”)-C(O)-C(Z)=C(Z’)-、-C(Z)=C(Z’)-C(O)-S-、-S-C(O)-C(Z)=C(Z’)-、-C(Z)=N-N=C(Z’)-(Z、Z’、Z”は独立に、水素、C1~C4アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、シアノ基、または、ハロゲン原子を表す。)、-C≡C-、-N=N-、-S-、-S(O)-、-S(O)(O)-、-(O)S(O)O-、-O(O)S(O)O-、-SC(O)-、および、-C(O)S-などが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、-C(O)O-が好ましい。LA1は、これらの基を2つ以上組み合わせた基であってもよい。
【0052】
M1の具体例としては、例えば以下の構造が挙げられる。なお、下記具体例において、「Ac」は、アセチル基を表す(以下同様)。
【0053】
【化6】
【0054】
【化7】
【0055】
T1が表す末端基としては、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルコキシカルボニルオキシ基、炭素数1~10のアルコキシカルボニル基(ROC(O)-:Rはアルキル基)、炭素数1~10のアシルオキシ基、炭素数1~10のアシルアミノ基、炭素数1~10のアルコキシカルボニルアミノ基、炭素数1~10のスルホニルアミノ基、炭素数1~10のスルファモイル基、炭素数1~10のカルバモイル基、炭素数1~10のスルフィニル基、および、炭素数1~10のウレイド基、(メタ)アクリロイルオキシ基含有基などが挙げられる。上記(メタ)アクリロイルオキシ基含有基としては、例えば、-L-A(Lは単結合又は連結基を表す。連結基の具体例は上述したL1及びSP1と同じである。Aは(メタ)アクリロイルオキシ基を表す)で表される基が挙げられる。
T1は、本発明の効果がより優れる理由から、炭素数1~10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~5のアルコキシがより好ましく、メトキシ基がさらに好ましい。これらの末端基は、これらの基、または、特開2010-244038号公報に記載の重合性基によって、さらに置換されていてもよい。
T1の主鎖の原子数は、本発明の効果がより優れる理由から、1~20が好ましく、1~15がより好ましく、1~10がさらに好ましく、1~7が特に好ましい。T1の主鎖の原子数が20以下であることで、偏光子の配向度がより向上する。ここで、T1おける「主鎖」とは、M1と結合する最も長い分子鎖を意味し、水素原子はT1の主鎖の原子数にカウントしない。例えば、T1がn-ブチル基である場合には主鎖の原子数は4であり、T1がsec-ブチル基である場合の主鎖の原子数は3である。
【0056】
繰り返し単位(1)の含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、特定化合物が有する全繰り返し単位100質量%に対して、20~100質量%が好ましく、30~99.9質量%がより好ましく、40~99.0質量%がさらに好ましい。
本発明において、高分子液晶化合物に含まれる各繰り返し単位の含有量は、各繰り返し単位を得るために使用される各単量体の仕込み量(質量)に基づいて算出される。
繰り返し単位(1)は、特定化合物中において、1種単独で含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、繰り返し単位(1)が特定化合物中に2種含まれているのがよい。
【0057】
特定化合物が繰り返し単位(1)を2種含む場合、本発明の効果がより優れる理由から、一方(繰り返し単位A)においてT1が表す末端基がアルコキシ基であり、他方(繰り返し単位B)においてT1が表す末端基がアルコキシ基以外の基であることが好ましい。
上記繰り返し単位BにおいてT1が表す末端基は、本発明の効果がより優れる理由から、アルコキシカルボニル基、シアノ基、又は、(メタ)アクリロイルオキシ基含有基であることが好ましく、アルコキシカルボニル基、又は、シアノ基であることがより好ましい。
特定化合物中の上記繰り返し単位Aの含有量と特定化合物中の上記繰り返し単位Bの含有量との割合(A/B)は、本発明の効果がより優れる理由から、50/50~95/5であることが好ましく、60/40~93/7であることがより好ましく、70/30~90/10であることがさらに好ましい。
【0058】
特定化合物の具体例としては、下記構造式で表される高分子液晶化合物、及び、下記構造式(繰り返し単位)を適宜組み合わせた高分子液晶化合物が挙げられる。なお、下記構造式中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。Meは、メチル基を表す(以下同様)。
【0059】
【化8】
【0060】
【化9】
【0061】
【化10】
【0062】
【化11】
【0063】
(重量平均分子量)
一般式(I)で表される化合物の重合体の重量平均分子量(Mw)は、本発明の効果がより優れる理由から、1000~500000が好ましく、2000~300000がより好ましい。一般式(I)で表される化合物の重合体のMwが上記範囲内にあれば、一般式(I)で表される化合物の重合体の取り扱いが容易になる。
特に、塗布時のクラック抑制の観点から、一般式(I)で表される化合物の重合体の重量平均分子量(Mw)は、10000以上が好ましく、10000~300000がより好ましい。
また、配向度の温度ラチチュードの観点から、一般式(I)で表される化合物の重合体の重量平均分子量(Mw)は、10000未満が好ましく、2000以上10000未満が好ましい。
ここで、本発明における重量平均分子量および数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法により測定された値である。
・溶媒(溶離液):N-メチルピロリドン
・装置名:TOSOH HLC-8220GPC
・カラム:TOSOH TSKgelSuperAWM-H(6mm×15cm)を3本接続して使用
・カラム温度:25℃
・試料濃度:0.1質量%
・流速:0.35mL/min
・校正曲線:TOSOH製TSK標準ポリスチレン Mw=2800000~1050(Mw/Mn=1.03~1.06)までの7サンプルによる校正曲線を使用
【0064】
組成物中、一般式(I)化合物の濃度(溶媒も含めた組成物全体に対する濃度)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、0.5~20質量%であることが好ましく、1~17質量%であることがより好ましく、2~15質量%であることがさらに好ましい。
また、組成物中、一般式(I)化合物の固形分割合は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、1~99質量%であることが好ましく、50~95質量%であることがより好ましく、70~93質量%であることがさらに好ましい。
【0065】
〔その他の成分〕
本発明に用いられる組成物は、上述した成分以外にも適宜添加剤等を用いても良い。例えば、重合開始剤、界面改良剤、溶媒等が挙げられる。
【0066】
<重合開始剤>
本発明に用いられる組成物は、本発明の効果がより優れる理由から、重合開始剤を含有することが好ましい。
重合開始剤としては特に制限はないが、感光性を有する化合物、すなわち光重合開始剤であることが好ましい。
光重合開始剤としては、各種の化合物を特に制限なく使用できる。光重合開始剤の例には、α-カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号および同2951758号の各明細書)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60-105667号公報および米国特許第4239850号明細書)、オキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書)、および、アシルフォスフィンオキシド化合物(特公昭63-40799号公報、特公平5-29234号公報、特開平10-95788号公報および特開平10-29997号公報)などが挙げられる。
このような光重合開始剤としては、市販品も用いることができ、BASF社製のイルガキュア(以下、「Irg」とも略す。)-184、イルガキュア-907、イルガキュア-369、イルガキュア-651、イルガキュア-819、イルガキュア-OXE-01およびイルガキュア-OXE-02等が挙げられる。
【0067】
<溶媒>
本発明に用いられる組成物は、作業性等の観点から、溶媒(溶剤)を含有するのが好ましい。
溶媒としては、例えば、ケトン類(例えば、アセトン、2-ブタノン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、および、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキソラン、テトラヒドロフルフリルアルコール、および、シクロペンチルメチルエーテルなど)、脂肪族炭化水素類(例えば、ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(例えば、シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、および、トリメチルベンゼンなど)、ハロゲン化炭素類(例えば、ジクロロメタン、トリクロロメタン(クロロホルム)、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、および、クロロトルエンなど)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、および、酢酸ブチル、炭酸ジエチルなど)、アルコール類(例えば、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、および、シクロヘキサノールなど)、セロソルブ類(例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、および、1,2-ジメトキシエタンなど)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(例えば、ジメチルホルムアミド、および、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなど)、および、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジンなど)などの有機溶媒、ならびに、水が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの溶媒のうち、本発明の効果がより優れる理由から、有機溶媒を用いることが好ましく、ハロゲン化炭素類またはケトン類を用いることがより好ましい。
本発明に用いられる組成物が溶媒を含有する場合、溶媒の含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、組成物の全質量に対して、70~99.5質量%であることが好ましく、80~99質量%であることがより好ましく、85~98質量%であることがさらに好ましい。
【0068】
<界面改良剤>
本発明に用いられる組成物は、界面改良剤を含むことが好ましい。界面改良剤を含むことにより、塗布表面の平滑性が向上し、配向度が更に向上したり、ハジキおよびムラを抑制して、面内の均一性が向上したりする効果が見込まれる。
界面改良剤としては、上記二色性アゾ色素と上記一般式(I)で表される化合物またはその重合体を塗布表面側で水平にさせるものが好ましく、特開2011-237513号公報の[0253]~[0293]段落に記載の化合物(水平配向剤)を用いることができる。
本発明に用いられる組成物が界面改良剤を含有する場合、界面改良剤の含有量は、組成物中の上記二色性アゾ色素と上記一般式(I)で表される化合物またはその重合体との合計100質量部に対し、0.001~5質量部が好ましく、0.01~3質量部が好ましい。
【0069】
〔吸収極大波長〕
本発明の膜は、通常、1つ以上の吸収極大波長(λmax)を有する。
上述した第1および第2の二色性アゾ色素の少なくとも一方の溶液吸収極大波長と、本発明の膜の吸収極大波長との差(Δλmax)は、本発明の効果がより優れる理由から、10nm~100nmであることが好ましい。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、上述した第2の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長と、本発明の膜の吸収極大波長との差(Δλmax)が、10nm~100nmであることが好ましい。
本発明の膜は、本発明の効果がより優れる理由から、少なくとも2つの吸収極大波長を有するのが好ましく、上記少なくとも2つの吸収極大波長がそれぞれ、400nm以上550nm未満と550nm以上750nm以下であるのがより好ましい。なお、本発明の膜が少なくとも2つの吸収極大波長を有する場合、Δλmaxは、二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長と本発明の膜の吸収極大波長の近い方との差とする。
【0070】
〔膜厚〕
本発明の異方性光吸収膜は、本発明の効果がより優れる理由から、膜厚が0.3μm以上5μm以下であることが好ましく、0.3μm以上3μm以下であることがより好ましい。上記膜厚の下限については、本発明の効果がより優れる理由から、0.8μm以上であることがより好ましい。上記膜厚の上限については、本発明の効果がより優れる理由から、3μm以下であることがより好ましい。
【0071】
〔LogP値〕
本発明の異方性光吸収膜において、溶液吸収極大波長と、異方性光吸収膜の吸収極大波長の差を制御しやすくなる観点で、溶液吸収極大波長と異方性光吸収膜の吸収極大波長との差(異方性光吸収膜が少なくとも2つの吸収極大波長を有する場合、異方性光吸収膜の吸収極大波長の近い方との差)が10nm~100nmである第1および第2の二色性アゾ色素の少なくとも一方(特に、第2の二色性アゾ色素)のLogP値と、一般式(I)で表される化合物またはその重合体(一般式(I)化合物)のLogP値との差(ΔLogP)が、5以上8以下であることが好ましい。このようにLogP値が特定の関係にある一般式(I)化合物と二色性アゾ色素を用いた場合、一般式(I)化合物と二色性アゾ色素との相溶性が低下し、異方性光吸収膜中において二色性アゾ色素同士で配列するものと考えられる。
なお、一般式(I)化合物と二色性アゾ色素との相溶性の制御は、組成物中の二色性アゾ色素の濃度によっても影響を受ける。組成物の固形分を100質量部とした時に、二色性アゾ色素の濃度が10質量部未満の時はLogP値の差は6以上であることが好ましく、二色性アゾ色素の濃度が10質量部以上の時はLogP値の差は5以上であることが好ましい。
【0072】
〔DSC〕
上述のように、一般式(I)化合物と二色性アゾ色素(特に、第2の二色性アゾ色素)との相溶性が低下していることは、DSC(示差走査熱量計)により以下の方法で確かめることができる。
二色性アゾ色素をガラス上にキャストし、二色性アゾ色素の融点以上に加熱した後、室温まで冷却する。得られた二色性アゾ色素のキャスト膜から掻き取ったサンプル(サンプル1)約5mgをアルミパンに入れて蓋をし、示差走査熱量計(DSC)にセットする。
その後、10℃/分の速度で昇温させながら、熱量測定を行う。得られたスペクトルからサンプル1(二色性アゾ色素)の融点(T1)を確認する。続いて、一般式(I)化合物と二色性アゾ色素とを含有する組成物をガラス上にキャストして得られたサンプル(サンプル2)の熱量測定を同様にして行い、サンプル2の二色性アゾ色素に対応する転移温度(T2)を確認する。二色性アゾ色素と一般式(I)化合物が相溶している場合、一般的にT1>T2の関係になり、T1とT2との差が小さい程、二色性アゾ色素と一般式(I)化合物の相溶性は低下しているものと判断する。
【0073】
T1とT2との差は、本発明の効果がより優れる理由から、30℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがさらに好ましい。
【0074】
〔配列構造〕
上述のとおり、本発明の異方性光吸収膜(本発明の膜)は、膜中に、上述した第1の二色性アゾ色素同士の配列構造(結晶構造)を有するか、又は上述した第2の二色性アゾ色素同士の配列構造(結晶構造)を有する。本発明の膜は、膜中に、上述した第1の二色性アゾ色素同士の配列構造と、上述した第2の二色性アゾ色素同士の配列構造の両方を有していてもよい。本発明の膜は、本発明の効果がより優れる理由から、膜中に、上述した第2の二色性アゾ色素同士の配列構造を少なくとも有するのが好ましい。
なお、二色性アゾ色素同士の配列構造は、反応後(例えば、ラジカル重合性基の反応後)の二色性アゾ色素同士の配列構造であってもよい。
【0075】
本発明の膜が、膜中に、上述した配列構造を有することは、以下の膜1~4のX線回折(XRD)スペクトルを対比することで確認することができる。
・膜1:第1の二色性アゾ色素と第2の二色性アゾ色素と一般式(I)化合物とを有する組成物から形成された膜(本発明の膜)
・膜2:一般式(I)化合物のみを有する組成物から形成された膜
・膜3:第1の二色性アゾ色素と一般式(I)化合物とを有する組成物から形成された膜
・膜4:第2の二色性アゾ色素と一般式(I)化合物とを有する組成物から形成された膜
【0076】
<膜の作製>
上記膜1~4は同様の方法で作製する。例えば、塗布液の濃度や塗布条件を揃え、膜の面積、及び膜厚を同じになるように注意する。
膜1~4の作製方法は同様の方法であれば特に制限されないが、膜1が界面改良剤を含有する場合には、膜2~4は膜1と同じ量の界面改良剤を含有する膜とする。
【0077】
<XRD測定>
上記膜1~4について、同様の条件(例えば、膜厚、測定面積、測定条件を揃える)でXRD測定を行う。
例えば、以下のようにしてXRD測定を行う。
膜1~4について、薄膜評価用X線回折装置(リガク社製、商品名:「SmartLab」インプレーン光学系)を用いてX線回折の測定を行う。以下において、インプレーン法を用いて行われるX線回折分析を、「インプレーン XRD」とも記載する。インプレーン XRDは、薄膜X線回折装置を用いて、以下の条件で、偏光子層表面にX線を照射して行うものとする。そして、一般式(I)化合物及び二色性アゾ色素が長軸方向で配向した方向を方位角(φ)0°とし、15°刻みで全方向のインプレーン XRDを行い、観測されたピークに対して行ったφスキャンにより、ピーク強度が最大となる基板平面内における向きを決定する。得られた向きにおけるインプレーン測定のスペクトルを用いて、後述するXRDスペクトルの対比を行う。ピーク強度については、X線入射角0.2°におけるX線侵入長に相当する膜厚として規格化した値を用いる。
【0078】
以下にXRD測定の測定例を示す。
膜を40mm×40mmサイズにカットし、薄膜評価用X線回折装置(リガク社製、商品名:「SmartLab」)を用いて偏光子層表面に下記条件にてX線を照射し、インプレーン XRDを行う。
・Cu線源使用(CuKα、出力45kV、200mA)
・X線入射角0.2°
・使用光学系:平行光学系(CBO(Cross Beam Optics)(PB(Parallel Beam))
・入射側 入射スリット0.2mm 入射平行スリットIn-plane PSC(Parallel Slit Collimator) 0.5deg(degree)、長・手制限スリット 10mm
・受光側 受光スリット 20 mm、受光平行スリットIn-plane PSA(Parallel Slit Analyzer) 0.5deg
・2θχ/φスキャン Scan条件:1~40degreeの範囲を0.008degree/step、2.0degree/min(分)
・φスキャン Scan条件:-120~120degreeの範囲を0.5degree/step、9.6degree/min
一般式(I)化合物及び二色性アゾ色素が長軸方向で配向した方向を方位角(φ)0°とし、15°刻みで全方向のインプレーン測定(2θχ/φスキャン)を行い、観測されたピークに対して行ったφスキャンにより、ピーク強度が大きい基板平面内における向きを決定する。両測定とも、CuKαを用いて、入射角0.20°で実施する。配向方向(上述のとおり決定された向き)の測定から得られたピークを用いて、下記の回折角と距離の関係から周期長を求める。また、X線入射角0.2°におけるX線侵入長に相当する膜厚として規格化しピーク強度を算出する(cps表記)。
d=λ/(2×sinθ) (d:距離、λ:入射X線波長(CuKα;1.54Å))
【0079】
なお、上述のとおり、膜1~4の作製条件及びXRDの測定条件を合せているため、XRDスペクトルのピークを比較することができる。
【0080】
<XRDスペクトルの対比>
膜2(一般式(I)化合物のみ)のXRDスペクトルには、通常、一般式(I)化合物の結晶構造に由来するピークが観測される。
膜2(一般式(I)化合物のみ)のXRDスペクトルと膜3(第1の二色性アゾ色素+一般式(I)化合物)のXRDスペクトルとを対比したときに、膜3のXRDスペクトルに、膜2のXRDスペクトルに観測されたピーク以外のピークが見られる場合、該ピーク(以下、「ピーク1」とする)は第1の二色性アゾ色素同士の配列構造(結晶構造)に由来するピークと言える。
同様に、膜2(一般式(I)化合物のみ)のXRDスペクトルと膜4(第2の二色性アゾ色素+一般式(I)化合物)のXRDスペクトルとを対比したときに、膜4のXRDスペクトルに、膜2のXRDスペクトルに観測されたピーク以外のピークが見られる場合、該ピーク(以下、「ピーク2」とする)は第2の二色性アゾ色素同士の配列構造(結晶構造)に由来するピークと言える。
【0081】
そして、膜1(第1の二色性アゾ色素+第2の二色性アゾ色素+一般式(I)化合物)についてXRD測定を行い、XRDスペクトルに上述したピーク1が観測された場合、膜1は膜中に上述した第1の二色性アゾ色素同士の配列構造を有すると言える。
また、膜1のXRDスペクトルに上述したピーク2が観測された場合、膜1は膜中に上述した第2の二色性アゾ色素同士の配列構造を有すると言える。
一方、膜1のXRDスペクトルに膜2のXRDスペクトルに観測されたピーク以外のピークが見られない場合、又は、膜1のXRDスペクトルに膜2のXRDスペクトルに観測されたピーク以外のピークが見られるものの該ピークが上述したピーク1及びピーク2のいずれにも該当しない場合、膜1は、膜中に、上述した第1の二色性アゾ色素同士の配列構造、及び、上述した第2の二色性アゾ色素同士の配列構造のいずれも有さないと言える。
【0082】
後述する実施例13を例により具体的に説明する。
実施例13では、一般式(I)化合物として高分子液晶化合物P-7が使用され、第1の二色性アゾ色素として二色性アゾ色素Y-1が使用され、第2の二色性アゾ色素として二色性アゾ色素C-1が使用される。
まず、膜2(高分子液晶化合物P-7のみ)のXRDスペクトル(図1-1)と膜4(二色性アゾ色素C-1+高分子液晶化合物P-7)のXRDスペクトル(図1-2)とを対比すると、膜4のXRDスペクトルに、膜2のXRDスペクトルに観測されたピーク以外のピーク2(2θ:3.7°、半値幅:8.3°)が見られる(方位角:30°)。ピーク2は二色性アゾ色素C-1(第2の二色性アゾ色素)同士の配列構造に由来するピークである。
次に、膜1(二色性アゾ色素Y-1+二色性アゾ色素C-1+高分子液晶化合物P-7)のXRDスペクトルを測定すると、膜1のXRDスペクトル(図1-2と同じ)には上述したピーク2が観測される(方位角:30°)。
したがって、実施例13の異方性光吸収膜は、膜中に、二色性アゾ色素C-1(第2の二色性アゾ色素)同士の配列構造(結晶構造)を有すると言える。
【0083】
同様に、後述する実施例20について、膜2(高分子液晶化合物P-7のみ)のXRDスペクトル(図2-1)と膜4(二色性アゾ色素C-6+高分子液晶化合物P-7)のXRDスペクトル(図2-2)とを対比すると、膜4のXRDスペクトルに、膜2のXRDスペクトルに観測されたピーク以外のピーク2(2θ:9.3°、半値幅:5.0°)が見られる(方位角:10°)。ピーク2は二色性アゾ色素C-6(第2の二色性アゾ色素)同士の配列構造に由来するピークである。
次に、後述する実施例20について、膜1(二色性アゾ色素Y-1+二色性アゾ色素C-6+高分子液晶化合物P-7)のXRDスペクトルを測定すると、膜1のXRDスペクトル(図2-2と同じ)には上述したピーク2が観測される(方位角:10°)。
したがって、実施例20の異方性光吸収膜は、膜中に、二色性アゾ色素C-6(第2の二色性アゾ色素)同士の配列構造(結晶構造)を有すると言える。
【0084】
また、二色性アゾ色素同士の配列構造(結晶構造)に由来するピークのφスキャンにおける半値幅は、本発明の効果がより優れる理由から、10.0°未満であることが好ましい。このようにφスキャンにおける半値幅が小さいことは、上記の結晶構造の結晶性が高いことを意味し、より高い配向度が可能になる。
【0085】
[積層体]
本発明の積層体10は、図3に示すように、本発明の異方性光吸収膜1と、配向膜2または基板3とを有する積層体である。
【0086】
〔配向膜〕
本発明に用いられる配向膜は、本発明に用いられる二色性アゾ色素、一般式(I)で表される化合物またはその重合体を配向させることのできる配向膜であれば特に限定はない。有機化合物(好ましくはポリマー)の膜表面へのラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュアブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。本発明に用いられる配向膜は、ポリアミック酸およびポリイミド化合物の一方または両方を含む配向膜や、光活性基としてアゾ基を有する光活性化合物を含む光配向膜であってもよい。
【0087】
<光配向膜>
光活性基としてアゾ基を有する光活性化合物を含む光配向膜に用いられる光配向材料としては、多数の文献などに記載がある。本発明においては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-76839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-94071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号、特許第4151746号に記載のアゾ化合物、特開2002-229039号公報に記載の芳香族エステル化合物、特開2002-265541号公報、特開2002-317013号公報に記載の光配向性単位を有するマレイミドおよび/またはアルケニル置換ナジイミド化合物、特許第4205195号、特許第4205198号に記載の光架橋性シラン誘導体、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報、または、特許第4162850号に記載の光架橋性ポリイミド、ポリアミドもしくはエステルが好ましい例として挙げられる。より好ましくは、アゾ化合物、光架橋性ポリイミド、ポリアミド、または、エステルである。
【0088】
上記材料から形成した光配向膜に、直線偏光または非偏光照射を施し、光配向膜を製造する。
本明細書において、「直線偏光照射」「非偏光照射」とは、光配向材料に光反応を生じせしめるための操作である。用いる光の波長は、用いる光配向材料により異なり、その光反応に必要な波長であれば特に限定されるものではない。光照射に用いる光のピーク波長は、200nm~700nmが好ましく、光のピーク波長が400nm以下の紫外光がより好ましい。
【0089】
光照射に用いる光源は、通常使われる光源、例えばタングステンランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ、水銀ランプ、水銀キセノンランプおよびカーボンアークランプなどのランプ、各種のレーザー[例、半導体レーザー、ヘリウムネオンレーザー、アルゴンイオンレーザー、ヘリウムカドミウムレーザーおよびYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザー]、発光ダイオード、ならびに、陰極線管などを挙げることができる。
【0090】
直線偏光を得る手段としては、偏光板(例えば、ヨウ素偏光板、2色色素偏光板、および、ワイヤーグリッド偏光板)を用いる方法、プリズム系素子(例えば、グラントムソンプリズム)もしくはブリュースター角を利用した反射型偏光子を用いる方法、または、偏光を有するレーザー光源から出射される光を用いる方法が採用できる。また、フィルタまたは波長変換素子などを用いて必要とする波長の光のみを選択的に照射してもよい。
【0091】
照射する光は、直線偏光の場合には、配向膜に対して上面、または裏面から配向膜表面に対して垂直、または斜めから光を照射する方法が採用される。光の入射角度は、光配向材料によって異なるが、0~90°(垂直)が好ましく、40~90°が好ましい。
非偏光の場合には、配向膜に対して、斜めから非偏光を照射する。その入射角度は、10~80°が好ましく、20~60°がより好ましく、30~50°がさらに好ましい。
照射時間は、1分~60分が好ましく、1分~10分がより好ましい。
【0092】
パターン化が必要な場合には、フォトマスクを用いた光照射をパターン作製に必要な回数施す方法、または、レーザー光走査によるパターンの書き込みによる方法を採用できる。
【0093】
〔基板〕
本発明に用いられる基板は、通常光学フィルム等を作成する場合の基板として用いられる基板であれば特に限定はない。必要に応じて、フレキシブル性や剥離性を持たせてもよい。基板上に、前述の配向膜を設け、その上に本発明の異方性光吸収層を設け、基板が、配向膜の異方性光吸収膜とは反対側に配置される態様としてもよい。
【0094】
例えば、ガラスおよびポリマーフィルムが挙げられる。基板の光透過率は、80%以上であるのが好ましい。
基板としてポリマーフィルムを用いる場合には、光学的等方性のポリマーフィルムを用いるのが好ましい。ポリマーの具体例および好ましい態様は、特開2002-22942号公報の[0013]段落の記載を適用できる。また、従来知られているポリカーボネートやポリスルホンのような複屈折の発現しやすいポリマーであっても国際公開第2000/26705号公報に記載の分子を修飾することで発現性を低下させたものを用いることもできる。
【実施例0095】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明は以下の実施例に限定され制限されるものではない。
【0096】
[合成例]
【0097】
<高分子液晶化合物P-1>
下記ステップ1~3に従い、高分子液晶化合物P-1を合成した。
【0098】
(ステップ1)
【0099】
【化12】
【0100】
水酸化ナトリウム(34.2g)を1Lの水に溶解させ、窒素雰囲気下で、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(40.6g)およびブロモエタノール(37.2g)を添加し、95℃で10時間攪拌した。
その後、室温まで冷却し、濃塩酸を加えて反応系を酸性に調整してから濾過および乾燥を行い、化合物P9-Aを含む白色固体を得た。
得られた白色固体を400mLのジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させ、氷冷下、3-クロロプロピオニルクロリド(62.0g)を滴下し、5時間攪拌した。メタノール(40mL)を加えて反応を停止した後に、水と酢酸エチルを加えた。
分液操作により洗浄した有機層を、ロータリーエバポレーターで溶媒除去し、得られた濃縮物にクロロホルムを加えた。析出した固体を濾過により取り除いた後、ロータリーエバポレーターで溶媒除去をし、酢酸エチル/クロロホルムを用いたカラムクロマトグラフィーによるに精製を行い、白色固体である化合物P9-Aを20.3g(収率29%)得た。
【0101】
H-NMR(溶媒:DMSO-d)δ(ppm):2.80-2.90(t,2H),3.75-3.85(t,2H),4.15-4.25(m,2H),4.35-4.45(m,2H),6.75-6.85(m,2H),6.90-7.00(m,2H),7.30-7.50(m,4H),9.40(br s,1H)
【0102】
(ステップ2)
【0103】
【化13】
【0104】
化合物P9-Aの4.0gと、合成例1で調製した化合物P1-1の8.08gと、ジクロロメタン100mLとを混合し、室温で撹拌した。混合物に、N,N-ジメチルアミノピリジン152mg、および、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDCI)9.56gを加え、室温で12時間撹拌した。
その後、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、メタノール120mLと1M、塩酸水120mLを加えて濾過を行い、白色固体を得た。得られた白色固体を酢酸エチルと水を加えて分液を行い、集めた有機層を1N塩酸水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別して、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、シリカゲルクロマトグラフィによる精製を行うことで化合物P9-Bを5.4g得た(収率69%)。
【0105】
H-NMR(溶媒:CDCl)δ(ppm):2.87(t,2H)、3.68-3.82(m,8H),3.90(t,2H),4.18-4.28(m,4H),4.28-4.38(m,2H),4.46-4.54(m,2H),5.84(dd,1H),6.16(dd,1H),6.43(dd,1H),6.90-7.05(m,4H),7.20-7.30(m,2H),7.48-7.65(m,4H),8.10-8.20(m,2H)
【0106】
(ステップ3)
【0107】
【化14】
【0108】
化合物P1-2(0.8g)および化合物P9-B(0.2g)のDMAc溶液(3.3mL)を、窒素気流下、内温が80℃まで加熱した。そこに、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル(0.054mmol,0.012g)のDMAc溶液(0.5mL)を加え、80℃で2時間撹拌した。その後、H-NMRスペクトル測定にて重合性基の消失を確認し、室温まで冷却した。メタノールを加えてろ過を行い、残渣をメタノールで洗浄することで白色固体である化合物P9-Cを0.90g得た。得られた化合物P9-Cのクロロホルム溶液(7mL)に、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)(50mg)、および、トリエチルアミン(0.7mL)を加え、内温を50℃まで加熱した。50℃で9時間撹拌した後、H-NMRスペクトル測定にて原料の消失を確認し、室温へと冷却した。そこに、メタノールを加えてろ過を行い、残渣をメタノールで洗浄することで白色固体である高分子液晶化合物P-1を0.8g得た。得られた高分子液晶化合物P-1をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)で分析したところ、重量平均分子量(Mw)は17000(ポリスチレン換算)であった。
【0109】
<P-1以外の高分子液晶化合物及び重合性液晶化合物>
後述するP-1以外の高分子液晶化合物及び重合性液晶化合物を、高分子液晶化合物P-1と同様又は公知の方法を利用して合成した。
【0110】
<イエローアゾ色素Y-1>
まず、4-ヒドロキシブチルアクリレート(20g)およびメシルクロライド(16.8g、MsCl)を酢酸エチル(90mL)に溶解させた後、氷浴で冷却しながらトリエチルアミン(16.4g、NEt)を滴下した。その後、室温で2時間撹拌した後、1NのHClを加え分液した。得られた有機層を減圧留去し、下記構造の化合物X(30g)を得た。
【0111】
【化15】
【0112】
そして、以下のルートにしたがって、イエローアゾ色素Y-1を合成した。
【0113】
【化16】
【0114】
まず、文献(Chem.Eur.J.2004.10.2011)にしたがって、化合物A(10g)を合成した。
化合物A(10g)を水(300mL)および塩酸(17mL)に溶解させて、氷浴で冷却し、亜硝酸ナトリウム(3.3g)を添加して30分撹拌した。さらにアミド硫酸(0.5g)を添加後、m-トルイジン(5.1g)を加え室温で1時間撹拌した。撹拌後、塩酸で中和し得られた固体を吸引ろ過で回収し、化合物B(3.2g)を得た。
化合物B(1g)を、テトラヒドロフラン(30mL、THF)、水(10mL)、および、塩酸(1.6mL)からなるTHF溶液に溶解させ、氷浴で冷却し、亜硝酸ナトリウム(0.3g)を添加し30分間撹拌した後、さらにアミド硫酸(0.5g)を添加した。別途、フェノール(0.4g)を炭酸カリウム(2.76g)および水(50mL)に溶解させて、氷浴で冷却した後、上記のTHF溶液を滴下し室温で1時間撹拌した。撹拌後、水(200mL)を添加し、得られた化合物C(1.7g)を吸引ろ過した。
化合物C(0.6g)、化合物X(0.8g)および炭酸カリウム(0.95g)をDMAc(30mL、ジメチルアセトアミド)に溶解させ、90℃で3.5時間撹拌した。撹拌後、水(300mL)を添加し、得られた固体を吸引ろ過し、イエローアゾ色素Y-1(0.3g)を得た。
【0115】
<Y-1以外のイエローアゾ色素及びシアンアゾ色素>
後述するY-1以外のイエローアゾ色素及びシアンアゾ色素を、イエローアゾ色素Y-1と同様又は公知の方法を利用して合成した。
【0116】
[実施例1]
下記構造の光配向材料E-1を1質量部に、ブトキシエタノール41.6質量部、及びジプロピレングリコールモノメチル41.6質量部、純水15.8質量部を加え、得られた溶液を0.45μmメンブレンフィルターで加圧ろ過した。得られた光配向膜用塗布液をポリエチレンテレフタレート基板上に塗布し、60℃で1分間乾燥した。得られた塗布膜に、偏光紫外線露光装置を用いて直線偏光紫外線(照度4.5mW、照射量300mJ/cm)を照射し、配向膜1を作製した。
【0117】
【化17】
【0118】
得られた配向膜1上に、下記の二色性アゾ色素組成物1を#15バーで塗布またはスピンコートして、塗布膜1を形成した。
塗布膜1を140℃で90秒間加熱し、塗布膜1を室温になるまで冷却した。次いで、70℃で60秒間加熱し、再び室温になるまで冷却した。
その後、高圧水銀灯を用いて照度28mW/cmの照射条件で60秒間照射することにより、配向膜1上に異方性光吸収膜1を作製した。この様にして、積層体1を作製した。なお、配向膜1の膜厚は45nmであり、異方性光吸収膜1の膜厚は2μmであった。
【0119】
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
二色性アゾ色素組成物1の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・イエローアゾ色素Y-1(第1の二色性アゾ色素) 7.1質量部
・シアンアゾ色素C-1(第2の二色性アゾ色素) 9.1質量部
・高分子液晶化合物P-1(一般式(I)化合物) 101.1質量部
・重合開始剤IRGACURE819(BASF社製) 1.0質量部
・界面改良剤F-1 0.3質量部
・シクロペンタノン 617.0質量部
・テトラヒドロフラン(THF) 264.4質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0120】
【化18】

イエローアゾ色素Y-1
【0121】
【化19】

シアンアゾ色素C-1
【0122】
【化20】

高分子液晶化合物P-1
【0123】
【化21】

界面改良剤F-1
【0124】
[実施例2~12、比較例1~5]
実施例1の二色性アゾ色素組成物1において、溶剤・一般式(I)化合物・二色性アゾ色素の種類、濃度(固形分割合)を下記表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、配向膜1上に異方性光吸収膜を作製した。この様にして、実施例2~12の積層体2~12及び比較例1~5の積層体13~17を作製した。
なお、実施例10および11の異方性光吸収膜の作製に用いた組成物には、2種類の一般式(I)化合物を用いた(表1中の量比は質量比を表す)。また、比較例5では二色性アゾ色素として第2の二色性アゾ色素のみを用いた。
【0125】
<一般式(I)化合物>
以下に表1中の一般式(I)化合物をまとめて示す。
なお、下記P-1~P-5はいずれも上述した一般式(I)で表される化合物またはその重合体であるため、上述した「一般式(I)化合物」に該当する。
【0126】
【化22】

高分子液晶化合物P-1
【0127】
【化23】

高分子液晶化合物P-2
【0128】
【化24】

重合性液晶化合物P-3
【0129】
【化25】

重合性液晶化合物P-4
【0130】
【化26】

高分子液晶化合物P-5
【0131】
<二色性アゾ色素>
以下に表1中の二色性アゾ色素をまとめて示す。
なお、下記表1に記載のとおり、下記イエローアゾ色素Y-1~Y-5はいずれも溶液吸収極大波長が400nm以上550nm未満であり、上述した第1の二色性アゾ色素に該当する。また、下記表1に記載のとおり、下記シアンアゾ色素C-1~C-5はいずれも溶液吸収極大波長が550nm以上750nm以下であり、上述した第2の二色性アゾ色素に該当する。
【0132】
【化27】

イエローアゾ色素Y-1
【0133】
【化28】

イエローアゾ色素Y-2
【0134】
【化29】

イエローアゾ色素Y-4
【0135】
【化30】

イエローアゾ色素Y-5
【0136】
【化31】

シアンアゾ色素C-1
【0137】
【化32】

シアンアゾ色素C-2
【0138】
【化33】

シアンアゾ色素C-3
【0139】
【化34】

シアンアゾ色素C-4
【0140】
【化35】

シアンアゾ色素C-5
【0141】
[実施例13]
【0142】
<透明支持体13の作製>
厚み40μmのTAC(トリアセチルセルロース)基材(TG40、富士フイルム社製)上に、下記の組成の配向膜塗布液を#8のワイヤーバーで連続的に塗布した。その後、100℃の温風で2分間乾燥することにより、TAC基材上に厚み0.8μmのポリビニルアルコール(PVA)配向膜が形成された透明支持体13が得られた。
なお、変性ポリビニルアルコールは、固形分割合が4質量%となるように配向膜塗布液中に加えた。
【0143】
――――――――――――――――――――――――――――――――
配向膜塗布液の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――
下記の変性ポリビニルアルコール
水 70質量部
メタノール 30質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0144】
変性ポリビニルアルコール
【0145】
【化36】
【0146】
<配向膜13の形成>
下記構造の光配向材料E-1の1質量部に、ブトキシエタノール41.6質量部、ジプロピレングリコールモノメチル41.6質量部、および、純水15.8質量部を加え、得られた溶液を0.45μmメンブレンフィルターで加圧ろ過することで配向膜形成用組成物13を調製した。
次いで、得られた配向膜形成用組成物13を透明支持体13のPVA配向膜側に塗布し、60℃で1分間乾燥した。その後、得られた塗布膜に、偏光紫外線露光装置を用いて直線偏光紫外線(照度4.5mW、照射量500mJ/cm)を照射し、配向膜13を作製した。
【0147】
【化37】
【0148】
<異方性光吸収膜13の形成>
得られた配向膜13上に、下記の二色性アゾ色素組成物13を#7のワイヤーバーで連続的に塗布し、塗布膜13を形成した。
次いで、塗布膜13を140℃で90秒間加熱し、塗布膜13を室温(23℃)になるまで冷却した。
次いで、80℃で60秒間加熱し、再び室温になるまで冷却した。
その後、高圧水銀灯を用いて照度28mW/cmの照射条件で60秒間照射することにより、配向膜13上に異方性光吸収膜13を作製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
二色性アゾ色素組成物13の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・下記高分子液晶化合物P-7(一般式(I)化合物) 5.940質量部
・下記二色性アゾ色素Y-1(第1の二色性アゾ色素) 0.416質量部
・下記二色性アゾ色素C-1(第2の二色性アゾ色素) 0.535質量部
・下記界面改良剤F-1 0.059質量部
・重合開始剤IRGACURE819(BASF社製) 0.050質量部
・シクロペンタノン 27.90質量部
・テトラヒドロフラン 65.10質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0149】
<透明樹脂層1の形成>
異方性光吸収膜13上に、下記バリア層形成用組成物1を#2のワイヤーバーで連続的に塗布し、40℃で90秒間乾燥を行った。
その後、高圧水銀灯を用いて照度30mW/cmの照射条件で10秒間照射し、樹脂組成物を硬化させ、異方性光吸収膜13上に透明樹脂層1が形成された積層体を作製した。このようにして、実施例13の積層体を得た。
ミクロトーム切削機を用いて、透明樹脂層1の断面を切削し、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)観察にて膜厚を測定したところ、膜厚は約0.7μmであった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
バリア層形成用組成物1
―――――――――――――――――――――――――――――――――
・下記CEL2021P(ダイセル社製) 144質量部
・IRGACURE819(BASF社製) 3質量部
・CPI-100P(炭酸プロピレン溶液)(サンアプロ社製)6質量部
・メガファックRS-90(DIC製) 0.3質量部
・メチルエチルケトン(MEK) 347質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0150】
【化38】

CEL2021P
【0151】
光カチオン重合開始剤(CPI-100P)
【化39】
【0152】
[実施例14~21、比較例6~8]
実施例13の二色性アゾ色素組成物13において、二色性アゾ色素の種類及び質量部、一般式(I)化合物の種類及び質量部、重合開始剤の種類及び質量部、界面改良剤の種類及び質量部、並びに、溶剤の種類及び質量部を下記表2に示すように変更した以外は、実施例13と同様の方法で、配向膜13上に異方性光吸収膜を作製した。このようにして各積層体を得た。
【0153】
<一般式(I)化合物>
以下に表2中の一般式(I)化合物をまとめて示す。
なお、下記P-1及びP-5~P-7はいずれも上述した一般式(I)で表される化合物またはその重合体であるため、上述した「一般式(I)化合物」に該当する。
【0154】
【化40】

高分子液晶化合物P-1
【0155】
【化41】
【0156】
<二色性アゾ色素>
以下に表2中の二色性アゾ色素をまとめて示す。
なお、下記表2に記載のとおり、下記Y-1~Y-2はいずれも溶液吸収極大波長が400nm以上550nm未満であり、上述した第1の二色性アゾ色素に該当する。また、下記表2に記載のとおり、下記C-1~C-11はいずれも溶液吸収極大波長が550nm以上750nm以下であり、上述した第2の二色性アゾ色素に該当する。
【0157】
【化42】
【0158】
【化43】
【0159】
<界面改良剤>
以下に表2中の界面改良剤を示す。
【0160】
【化44】

界面改良剤F-1
【0161】
<重合開始剤>
以下に表2中の重合開始剤をまとめて示す。
・Irgcure819:IRGACURE819(BASF社製)
・Irgcure820:IRGACURE820(BASF社製)
【0162】
[評価]
【0163】
<X線回折>
得られた異方性光吸収膜について上述のとおりX線回折(XRD)の測定を行った。
その結果、実施例1~21及び比較例5の異方性光吸収性膜では、いずれもピーク2が観測され、膜中に、第2の二色性アゾ色素同士の配列構造を有することが確認された。一方、比較例1~4及び比較例6~8の異方性光吸収膜では、膜1のXRDスペクトルに膜2のXRDスペクトルに観測されたピーク以外のピークが見られず、膜中に、第1の二色性アゾ色素同士の配列構造、及び、第2の二色性アゾ色素同士の配列構造のいずれも有さないことが確認された。
表2に、実施例13~21の異方性光吸収膜について、観測されたピーク2の方位角及び、phi scanにより観測されたピークに対してgauss関数でフィッティングすることで求めた半値幅を示す。
【0164】
<配向度>
光学顕微鏡(株式会社ニコン製、製品名「ECLIPSE E600 POL」)の光源側に直線偏光子を挿入した状態で、サンプル台に実施例および比較例の各積層体をセットし、マルチチャンネル分光器(Ocean Optics社製、製品名「QE65000」)を用いて各積層体の吸光度を測定し、以下の式により配向度を算出した。結果を表1及び表2に示す。
配向度:S=[(Az0/Ay0)-1]/[(Az0/Ay0)+2]
Az0:積層体の吸収軸方向の偏光に対する吸光度
Ay0:積層体の透過軸方向の偏光に対する吸光度
【0165】
<偏光度>
光学顕微鏡(株式会社ニコン製、製品名「ECLIPSE E600 POL」)の光源側に直線偏光子を挿入した状態で、サンプル台に実施例および比較例の各積層体をセットし、マルチチャンネル分光器(Ocean Optics社製、製品名「QE65000」)を用いて各積層体の透過率を測定し、以下の式により偏光度を算出した。結果を表1に示す。
偏光度:P=√[(Ty0-Tz0)/(Ty0+Tz0)]
Tz0:積層体の吸収軸方向の偏光に対する透過率
Ty0:積層体の透過軸方向の偏光に対する透過率
【0166】
<耐光性評価>
上記作製した積層体の異方性光吸収膜とは反対側から、スーパーキセノンウェザーメーター“SX-75”(スガ試験機社製、60℃、50%RH条件)にて、キセノン光を150W/m(300-400nm)で300時間照射した。所定時間の経過後、積層体の偏光度の変化を測定した。結果を表1及び表2に示す。実用上、A又はBであることが好ましく、Aであることがより好ましい。
A:偏光度の変化が5%未満
B:偏光度の変化が5%以上10%未満
C:偏光度の変化が10%以上
【0167】
【表1】
【0168】
表1中、「λmax」の欄について、「液」の欄は各二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長を表し、「膜」の欄は異方性光吸収膜の吸収極大波長を表す。「膜」の欄に2つの値があるものは吸収極大波長が2つ存在することを意味し、上側の値は低波長側の吸収極大波長であり、下側の値は長波長側の吸収極大波長である。
また、表1中、「Δλmax」の欄は各二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長と異方性光吸収膜の吸収極大波長の近い方との差を表す。
また、表1中、「LogP(式(I))」の欄は一般式(I)化合物のLogP値を表し、「LogP(色素)」の欄は各二色性アゾ色素のLogP値を表し、「ΔLogP」の欄は一般式(I)化合物のLogP値と各二色性アゾ色素のLogP値との差を表す。
また、表1中、「Ld/Ll」の欄は上述したLd/Llを表す。
【0169】
【表2】
【0170】
表2中、「λmax」の欄について、「液」の欄は第2の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長を表し、「膜」の欄は異方性光吸収膜の吸収極大波長(第2の二色性アゾ色素の溶液吸収極大波長に近い方の吸収極大波長)を表す。
また、表2中、「DSC」の欄について、「T1」の欄は上述した融点(T1)を表し、「T2」の欄は上述した転移温度(T2)を表し、「差」の欄は融点(T1)と転移温度(T2)との差を表す。
また、表2中、「色素合計濃度」の欄は、第1の二色性アゾ色素と第2の二色性アゾ色素の合計の濃度(固形分割合)を表す。
【0171】
表1及び表2から分かるように、膜中に、第1の二色性アゾ色素同士の配列構造を有するか、又は第2の二色性アゾ色素同士の配列構造を有する実施例1~21は、高い配向度、及び、高い耐光性を示した。
一方、膜中に、第1の二色性アゾ色素同士の配列構造、及び、第2の二色性アゾ色素同士の配列構造のいずれも有さない比較例1~4及び比較例6~8、並びに、二色性アゾ色素として第2の二色性アゾ色素のみを使用した比較例5は、耐光性が不十分であった。
【0172】
表1及び表2に示すように、第1および第2の二色性アゾ色素の少なくとも一方の溶液吸収極大波長と、異方性光吸収膜の吸収極大波長の近い方との差が、10nm~100nmとなる二色性アゾ色素組成物を用いると、配向度が高く、耐光性も高い異方性光吸収膜が得られることが示された(実施例)。
【0173】
実施例1~3の対比(一般式(I)化合物として高分子液晶化合物P1のみを用い、第1の二色性アゾ色素としてイエローアゾ色素Y-1を用い、第2の二色性アゾ色素としてシアンアゾ色素C-1を用いた態様同士の対比)から、組成物中の第1の二色性アゾ色素の固形分割合及び第2の二色性アゾ色素の固形分割合がいずれも5.0質量%以上である実施例1及び2は、より高い配向度、及び、より高い耐光性を示した。
実施例1と4~5と8~11との対比(第1の二色性アゾ色素の固形分割合が6.0質量%であり、第2の二色性アゾ色素の固形分割合が7.7質量%である態様同士の対比)から、第1の二色性アゾ色素のLd/Llが上述した式(A)を満たす実施例1、4~5、8及び10~11は、より高い配向度及び偏光度、並びに、より高い耐光性を示した。なかでも、一般式(I)化合物として一般式(I)で表される化合物と一般式(I)で表される化合物の重合体とを併用した実施例10及び11は、より高い配向度を示した。
【0174】
実施例13~21の対比から、融点(T1)と転移温度(T2)との差が30℃以下である実施例13~20は、より高い配向度、及び、より高い耐光性を示した。なかでも、上記差が20℃以下である実施例15~18及び20は、さらに高い配向度を示した。そのなかでも、上記差が18℃以下である実施例16~18及び20は、さらに高い配向度を示した。そのなかでも、上記差が15℃以下である実施例16~17及び20は、さらに高い配向度を示した。
また、実施例13~21の対比から、異方性光吸収膜のXRDスペクトルにおいて、二色性アゾ色素同士の配列構造に由来するピークの半値幅が10.0°未満である実施例13~20は、より高い配向度、及び、より高い耐光性を示した。なかでも、上記半値幅が8.4°未満である実施例13及び15~20は、さらに高い配向度を示した。そのなかでも、上記半値幅が6.0°以下である実施例15~18及び20は、さらに高い配向度を示した。そのなかでも、上記半値幅が6.0°未満である実施例16~18及び20は、さらに高い配向度を示した。そのなかでも、上記半値幅が5.5°以下である実施例16~17及び20は、さらに高い配向度を示した。そのなかでも、上記半値幅が5.0°未満である実施例16~17は、さらに高い配向度を示した。
【0175】
[実施例A]
配向膜を下記の配向膜2に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、配向膜2上に異方性光吸収膜を作製した。この様にして、実施例Aの積層体を作製した。
【0176】
<配向膜の作製>
SE-130(日産化学社製)2質量部に、N-メトルピロリドン98質量部を加え、得られた溶液を0.45μmメンブレンフィルターで加圧ろ過し、配向膜用塗布液を得た。
上記配向膜用塗布液を#4のバーを用いてポリイミド基板上に塗布し、塗布した配向膜用塗布液を80℃で15分間乾燥後、250℃で1時間加熱して、塗布膜を形成した。
得られた塗布膜にラビング処理(ローラーの回転数:1000回転/スペーサー厚2.6mm、ステージ速度1.8m/分)を1回施して、ポリイミド基板上に配向膜2を作製した。
【0177】
実施例Aについて実施例1と同様に評価を行ったところ、実施例1とほぼ同様の結果が得られた。
【0178】
[実施例B]
【0179】
<重合体CQ-1の合成>
撹拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン100.0質量部、メチルイソブチルケトン500質量部、および、トリエチルアミン10.0質量部を仕込み、室温で混合物を撹拌した。次に、脱イオン水100質量部を滴下漏斗より30分かけて得られた混合物に滴下した後、還流下で混合物を混合しつつ、80℃で6時間反応させた。反応終了後、有機相を取り出し、0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで有機相を洗浄した。その後、得られた有機相から減圧下で溶媒および水を留去し、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンを粘調な透明液体として得た。
このエポキシ基を有するポリオルガノシロキサンについて、H-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)分析を行ったところ、化学シフト(δ)=3.2ppm付近にオキシラニル基に基づくピークが理論強度どおりに得られ、反応中にエポキシ基の副反応が起こっていないことが確認された。このエポキシ基を有するポリオルガノシロキサンの重量平均分子量Mwは2,200、エポキシ当量は186g/モルであった。
次に、100mLの三口フラスコに、上記で得たエポキシ基を有するポリオルガノシロキサン10.1質量部、アクリル基含有カルボン酸(東亜合成株式会社、商品名「アロニックスM-5300」、アクリル酸ω-カルボキシポリカプロラクトン(重合度n≒2))0.5質量部、酢酸ブチル20質量部、特開2015-26050号公報の合成例1の方法で得られた桂皮酸誘導体1.5質量部、および、テトラブチルアンモニウムブロミド0.3質量部を仕込み、得られた混合物を90℃で12時間撹拌した。撹拌後、得られた混合物と等量(質量)の酢酸ブチルで混合物を希釈し、さらに希釈された混合物を3回水洗した。得られた混合物を濃縮し、酢酸ブチルで希釈する操作を2回繰り返し、最終的に、光配向性基を有するポリオルガノシロキサン(下記重合体CQ-1)を含む溶液を得た。この重合体CQ-1の重量平均分子量Mwは9,000であった。また、H-NMR分析の結果、重合体CQ-1中のシンナメート基を有する成分は23.7質量%であった。
【0180】
重合体CQ-1
【化45】
【0181】
<光配向膜形成用組成物2Qの調製>
以下の成分を混合して、光配向膜形成用組成物2Qを調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・上記重合体CQ-1 10.67質量部
・下記低分子化合物B-1 5.17質量部
・下記添加剤PQ-1(TA-60B、サンアプロ社製) 0.53質量部
・酢酸ブチル 8287.37質量部
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
2071.85質量部
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【0182】
低分子化合物B-1
【化46】
【0183】
添加剤PQ-1
【化47】
【0184】
<光学異方性層用塗布液の調製>
下記組成の光学異方性層用塗布液を調製した。
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光学異方性層用塗布液
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・下記液晶性化合物L-3 42.00質量部
・下記液晶性化合物L-4 42.00質量部
・下記重合性化合物A-1 16.00質量部
・下記低分子化合物B-1 6.00質量部
・下記重合開始剤S-1(オキシム型) 0.50質量部
・下記レベリング剤G-1 0.20質量部
・ハイソルブMTEM(東邦化学工業社製) 2.00質量部
・NKエステルA-200(新中村化学工業社製) 1.00質量部
・メチルエチルケトン 424.8質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
なお、下記液晶性化合物L-3およびL-4のアクリロイルオキシ基に隣接する基は、プロピレン基(メチル基がエチレン基に置換した基)を表し、下記液晶性化合物L-3およびL-4は、メチル基の位置が異なる位置異性体の混合物を表す。
【0185】
【化48】




【0186】
<セルロースアシレートフィルム1の作製>
(コア層セルロースアシレートドープの作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、コア層セルロースアシレートドープとして用いるセルロースアセテート溶液を調製した。
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コア層セルロースアシレートドープ
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・アセチル置換度2.88のセルロースアセテート 100質量部
・特開2015-227955号公報の実施例に
記載されたポリエステル化合物B 12質量部
・下記化合物F 2質量部
・メチレンクロライド(第1溶媒) 430質量部
・メタノール(第2溶剤) 64質量部
─────────────────────────────────
【0187】
化合物F
【化49】
【0188】
(外層セルロースアシレートドープの作製)
上記のコア層セルロースアシレートドープ90質量部に下記のマット剤溶液を10質量部加え、外層セルロースアシレートドープとして用いるセルロースアセテート溶液を調製した。
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マット剤溶液
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・平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子
(AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製) 2質量部
・メチレンクロライド(第1溶媒) 76質量部
・メタノール(第2溶剤) 11質量部
・上記のコア層セルロースアシレートドープ 1質量部
─────────────────────────────────
【0189】
(セルロースアシレートフィルム1の作製)
上記コア層セルロースアシレートドープと上記外層セルロースアシレートドープを平均孔径34μmのろ紙および平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した後、上記コア層セルロースアシレートドープとその両側に外層セルロースアシレートドープとを3層同時に流延口から20℃のドラム上に流延した(バンド流延機)。
次いで、溶剤含有率略20質量%の状態で剥ぎ取り、フィルムの幅方向の両端をテンタークリップで固定し、横方向に延伸倍率1.1倍で延伸しつつ乾燥した。
その後、熱処理装置のロール間を搬送することにより、更に乾燥し、厚み40μmのセルロースアシレートフィルムを作製し、これをセルロースアシレートフィルム1とした。得られたセルロースアシレートフィルム1の面内レターデーションは0nmであった。
【0190】
<λ/4位相差フィルム1の作製>
作製したセルロースアシレートフィルム1の片側の面に、先に調製した光配向膜用組成物2Qをバーコーターで塗布した。
塗布後、120℃のホットプレート上で1分間乾燥して溶剤を除去し、厚さ0.3μmの光異性化組成物層を形成した。
得られた光異性化組成物層を偏光紫外線照射(10mJ/cm、超高圧水銀ランプ使用)することで、光配向膜を形成した。
次いで、光配向膜上に、先に調製した光学異方性層用塗布液をバーコーターで塗布し、組成物層を形成した。
形成した組成物層をホットプレート上でいったん110℃まで加熱した後、60℃に冷却させて配向を安定化させた。
その後、60℃に保ち、窒素雰囲気下(酸素濃度100ppm)で紫外線照射(500mJ/cm、超高圧水銀ランプ使用)によって配向を固定化し、厚さ2.3μmの光学異方性層を形成し、λ/4位相差フィルム1を作製した。得られたλ/4位相差フィルム1の面内レターデーションは140nmであった。
【0191】
<ポジティブCプレート膜2の作製>
仮支持体として、市販されているトリアセチルセルロースフィルム「Z-TAC」(富士フイルム社製)を用いた(これをセルロースアシレートフィルム2とする)。
セルロースアシレートフィルム2を温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ、フィルム表面温度を40℃に昇温した後に、フィルムの片面に下記に示す組成のアルカリ溶液を、バーコーターを用いて塗布量14ml/mで塗布し、110℃に加熱し、(株)ノリタケカンパニーリミテド製のスチーム式遠赤外ヒーターの下に、10秒間搬送した。
次いで、同じくバーコーターを用いて、純水を3ml/m塗布した。
次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に、70℃の乾燥ゾーンに10秒間搬送して乾燥し、アルカリ鹸化処理したセルロースアシレートフィルム2を作製した。
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アルカリ溶液の組成(質量部)
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水酸化カリウム 4.7質量部
水 15.8質量部
イソプロパノール 63.7質量部
含フッ素界面活性剤SF-1
(C1429O(CHCHO)20H) 1.0質量部
プロピレングリコール 14.8質量部
─────────────────────────────────
【0192】
上記アルカリ鹸化処理されたセルロースアシレートフィルム2を用い、下記の組成の配向膜形成用塗布液を#8のワイヤーバーで連続的に塗布した。60℃の温風で60秒、さらに100℃の温風で120秒乾燥し、配向膜を形成した。
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配向膜形成用塗布液の組成
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ポリビニルアルコール(クラレ製、PVA103) 2.4質量部
イソプロピルアルコール 1.6質量部
メタノール 36質量部
水 60質量部
─────────────────────────────────
【0193】
上記で作成した配向膜を有するセルロースアシレートフィルム2上に、下記塗布液Nを塗布し、60℃60秒間熟成させた後に、空気下にて70mW/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて1000mJ/cmの紫外線を照射して、その配向状態を固定化することにより、重合性棒状液晶化合物を垂直配向させ、ポジティブCプレート膜2を作製した。波長550nmにおいてRthが-60nmであった。
【0194】
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光学異方性膜用塗布液Nの組成
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下記液晶性化合物L-1 80質量部
下記液晶性化合物L-2 20質量部
下記垂直配向剤(S01) 1質量部
エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート
(V#360、大阪有機化学(株)製) 8質量部
イルガキュアー907(BASF製) 3質量部
カヤキュアーDETX(日本化薬(株)製) 1質量部
下記化合物B03 0.4質量部
メチルエチルケトン 170質量部
シクロヘキサノン 30質量部
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【0195】
【化50】


【0196】
<円偏光板の作製>
λ/4位相差フィルム1のセルロースアシレートフィルム1側に、粘着剤を介して実施例13で作製した積層体のバリア層(透明樹脂層1)側を貼り合わせて円偏光板を作製した。
また、同様にして、λ/4位相差フィルム1の光学異方性層側に、粘着剤を介して上記で作製したポジティブCプレート膜2の光学異方性膜(上記塗布液Nにより形成された膜)側を転写し、セルロースアシレートフィルム2を除去した後、λ/4位相差フィルム1のセルロースアシレートフィルム1側に、粘着剤を介して実施例13で作製した積層体のバリア層(透明樹脂層1)側を貼り合わせて別の円偏光板を作製した。
【0197】
有機ELパネル(有機EL表示素子)搭載のSAMSUNG社製GALAXY S5を分解し、有機EL表示装置から、円偏光板付きタッチパネルを剥離し、さらにタッチパネルから円偏光板を剥がし、有機EL表示素子、タッチパネルおよび円偏光板をそれぞれ単離した。次いで、単離したタッチパネルを有機EL表示素子と再度貼合し、さらに上記で作製した円偏光板のλ/4位相差フィルム1側またはポジティブCプレート膜2側がパネル側になるようにタッチパネル上に貼合し、有機EL表示装置を作製した。
【0198】
作製した有機EL表示装置について、上述した実施例と同様の評価を行ったところ、上述した実施例13とほぼ同様の効果が発揮されることを確認した。また、実施例13の積層体の代わりに実施例14~21及び比較例6~8の積層体を用いる以外は実施例Bと同様の手順に従って有機EL表装置を作製し、同様に評価を行ったところ、ほぼ同様の傾向が見られた。
【符号の説明】
【0199】
1 異方性光吸収膜
2 配向膜
3 基板
10 積層体
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3