(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153662
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】生体電極
(51)【国際特許分類】
A61B 5/268 20210101AFI20221004BHJP
A61B 5/27 20210101ALI20221004BHJP
A61B 5/265 20210101ALI20221004BHJP
【FI】
A61B5/268
A61B5/27
A61B5/265
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125608
(22)【出願日】2022-08-05
(62)【分割の表示】P 2021015930の分割
【原出願日】2012-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2011251524
(32)【優先日】2011-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2012185343
(32)【優先日】2012-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2012189102
(32)【優先日】2012-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2012212998
(32)【優先日】2012-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 信吾
(72)【発明者】
【氏名】中島 寛
(72)【発明者】
【氏名】島田 明佳
(72)【発明者】
【氏名】住友 弘二
(72)【発明者】
【氏名】鳥光 慶一
(57)【要約】
【課題】導電性、乾燥状態及び湿潤状態における強度、並びに柔軟性に優れた導電性高分子繊維と、それを備えた生体電極を提供する。
【解決手段】基材繊維41に、導電性高分子を含む導電体42が含浸及び/又は付着されてなる導電性高分子繊維40であって、複数の前記基材繊維の間に、前記導電体が前記基材繊維に密着して配されていることを特徴とする導電性高分子繊維40。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子を含有する導電性繊維を用いた生体電極であって、
前記導電性繊維は、基材繊維に導電性高分子を含む導電体が含浸及び/又は付着されてなり、
前記基材繊維が、セリシンの一部又は全部を除去したシルク繊維であることを特徴とする生体電極。
【請求項2】
前記導電性繊維が親水性を有することを特徴とする請求項1に記載の生体電極。
【請求項3】
複数の前記基材繊維の間に、前記導電体が保持及び固定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子繊維、導電性高分子繊維の製造方法及び製造装置、生体電極、生体信号測定装置、体内埋め込み型電極、および生体信号測定装置に関する。
本願は、2011年11月17日に日本に出願された特願2011-251524号、2012年8月24日に日本に出願された特願2012-185343号、2012年8月29日に日本に出願された特願2012-189102号、及び、2012年9月26日に日本に出願された特願2012-212998号、に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性繊維として、銅などの金属を繊維表面にコーティングしたものや、カーボンや金属細線を織り込んだ繊維、及び導電性高分子を紐状に成形した導電性繊維などが知られている。これらの導電性繊維は、生体電極、バイオインターフェース、静電気防止衣料などに幅広く利用されている。しかし、従来の金属やカーボンなどの導電性素材は疎水性で硬い。このため、水分が豊富で柔軟である生体の体表面や体内組織と接触する用途には適合性が低いという問題があった。例えば、体表面に生体電極を設置する場合、硬くて疎水的な材料からなる生体電極であると、体表面に対して密着させて直接導通することが困難である。このため、生体電極と体表面とを電気的に繋ぐ導電性のペースト(ゼリー)を別途準備して、使用する必要がある。
近年では、生体への適合性が良い材料として、導電性及び親水性が特に優れた導電性高分子であるPEDOT-PSS{ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)}の水溶液を、アセトンの凝固浴槽へ、ノズルから押し出すことによって糸状に成形した導電性繊維の開発が進められている。そして、その実用化も検討されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上述のPEDOT-PSSからなる導電性繊維は、高湿度の環境で使用すると、PEDOT-PSSが水分を吸収して、強度(特に引張強度)が低下するという問題があった。また、PEDOT-PSSからなる導電性繊維は、水分を吸収すると膨張し、逆に、乾燥すると収縮する。このため、前記繊維の内部に亀裂が発生したり、あるいは前記繊維が破断したりする結果、前記繊維の導電性が低下又は喪失し易いという問題があった。
衣料品は使用時に雨や汗による水濡れが発生する可能性がある。生体電極やバイオインターフェースは、その使用環境が、本来、高湿度である。従って、これらの幅広い用途に導電性及び親水性に優れたPEDOT-PSSを活用するために、上記問題の解決が求められていた。
【0004】
また、PEDOT-PSSからなる導電性繊維は水分含有時の強度が著しく低くなるという上記問題に加えて、以下のような問題があった。すなわち、前記非特許文献1に記載されるWet-Spinning法で製造される前記繊維は、その直径が10ミクロン前後という細い繊維であった。このため、扱いづらく、乾燥時においても強度が不充分であるという問題があった。さらに、前記繊維は剛直性が高く、ごわごわした感触であった。このため、衣料品等の用途に求められる柔軟性の付与が不足する点も課題となっていた。
【0005】
一方、脳波、事象関連電位、誘発電位、筋電図、心電図等の生体電気信号の記録、及び生体に対する電気刺激のために、体表面装着型の生体電極が広く使用されている。(以下、体表面装着型の生体電極を単に生体電極と呼ぶことがある。)
【0006】
従来広く使用されている生体電極は、金属製の電極板と電解質溶液を含むゲルまたはペーストとから構成される。これらの生体電極の基本構造は、金属製の電極板と皮膚表面との間にゲル又はペーストを使用(塗布)することにより、電極板と皮膚表面とを固定する基本構造を有する。生体電極の装着によって、常時皮膚の表面の所定の位置が密閉される。このため、特に長期間の連続使用においては、発汗の蒸れによる不快感又は掻痒感が生じるとともに、さらに接触性皮膚炎又は細菌の感染等が生じる場合もある。従来技術におけるこのような問題の解決が求められている。
【0007】
また高齢化が進む各国では、医療機関又は在宅において、心電図等の生体信号のモニタリングを長期間行うケースが増えている。高齢者は皮膚の種々の機能が低下しているため、従来型の粘着テープ等を用いた粘着性の高い貼り付け電極は、皮膚炎の発生や掻痒感等の違和感を生じやすい。さらに認知症や夜間譫妄等を呈する装着者自身が、生体電極を外すトラブルも多く発生しており、このような問題の解決策が求められている。
【0008】
上記のような問題が発生しやすい従来の生体電極では、皮膚と金属製の電極板との間に電解質溶液を含むゲルまたはペーストを使用している。ゲル又はペーストを介して生体電極を皮膚表面に設置する場合、電極の接触面積を増大させる必要が生じる。なぜならば、ゲル又はペーストの導電性は高くないため、皮膚との接触面積を拡大することによって、電極抵抗を低下させる必要があるからである。しかし、電極の接触面積の拡大は、上記の問題を生じさせる主因ともなっている。
このように、電解質ゲル又はペーストに頼った既存の生体電極の構成は、装着感が不良であり、電極のさらなる小型化や高密度化を困難にしている。
【0009】
一方、生体内の電気信号を、外部装置で正確に効率良く受信し、また逆に外部装置から生体内へ電気信号を送信するためには、体内埋め込み型の生体電極が必要である。特に神経細胞の活動電位やシナプス電位などの信号は微弱である。よって、細胞のごく近傍に電極を設置しなければ、その測定や入力が困難な信号が少なくない。神経系以外においても、心臓ペースメーカーや人工内耳などに体内埋め込み型の生体電極が広く使用されている。また将来のヒューマンインターフェースとして、ブレインマシンインターフェースなどの埋め込み型の生体電極の開発が進められている。
【0010】
生体は、水と電解質に富み、柔軟な組織である。これに対して、従来の体内埋め込み用の生体電極は、金属またはカーボン等の硬く疎水性の導電性材料を用いて製作されている。このため、従来の生体電極と生体組織との間での、機械的および電気化学的な適合性に問題があることがあった。
特に生体電極と生体組織の境界部に生じる機械的なストレスによって炎症が生じ、組織が障害(侵襲)されることが問題となっている。
【0011】
生体組織の中でも、特に脳脊髄の神経組織への電極の埋め込みの際には、以下の問題が発生する場合がある。すなわち、神経組織に与える微細な損傷により惹起される炎症が徐々に拡大し、結果として電極周囲の神経細胞の変性や脱落が生じて測定や刺激(信号入力)が困難となる場合がある。特に神経組織への恒久的な電極の埋め込みにおいては、神経細胞の欠損とグリア瘢痕が形成され、電気刺激の効率の低下や、測定波形の劣化や喪失が生じることがある。さらに神経細胞の欠損によって神経の機能障害をきたす恐れもある。
これらのことから、その解決策が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】”Spinning and Characterization of Conducting Microfibers”Macromol. Rapid Commun. (2003) 24, pp261-264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明では、上記PEDOT-PSSからなる導電性繊維の問題を克服するために、導電性高分子であるPEDOT-PSSを、シルクなどの繊維や繊維束(糸)の内外に固定させた複合素材が提案される。このようなPEDOT-PSSの複合素材からなる導電性繊維は、導電性、親水性、引っ張り強度、耐水強度を有することから、特に、生体電極の材料として期待される。
【0014】
これまで、市販品のPEDOT-PSS材料(例えば、Clevios P Heareus社製等) は、PEDOT-PSSの溶液として供給されており、一般に、基材の上に固定化して使用される。このように、PEDOT-PSSを固定する方法としては、大別して、化学法と電気化学法の2種類が考えられる。化学法は、比較的簡便な固定方法であり、さまざまな基材にPEDOT-PSSを固定することができるが、導電性や強度については、後述する電気化学法ほど高くない。また、電気化学法は、PEDOT-PSSを電気的に電極表面に重合、固定する方法であり、化学法に比べて導電性と強度に優れるが、基材と溶液の間を通電する必要があるため、基材に導電性材料を用いることが必要となる。
【0015】
ここで、上述のようなPEDOT-PSSと繊維束との複合繊維を製造する場合には、基材となる繊維束が絶縁体(非導電性)であることから、通常、電気化学法を使用することはできず、化学固定法を用いる必要がある。具体的には、PEDOT-PSSを含浸させた繊維束を、アセトン、エタノール、メタノール等の有機溶媒、もしくは酸化マグネシウム溶液等の電解質溶液の吹き付け、又は、液中に浸漬する方法によって製造できる。
【0016】
しかしながら、化学的固定法で製造したPEDOT-PSSの繊維束からなる導電性高分子繊維は、例えば、9号シルク糸(繊維束径約280ミクロン)で40~50MΩ/cm程度の導電性にとどまり、さらに、PEDOT-PSSと繊維束との接着強度が低い。
このためにPEDOT-PSSの剥離が生じやすく、導電性が低下しやすい欠点があることから、さらなる改良が必要であった。
【0017】
また、PEDOT-PSSを繊維化する技術としては、上記の他に、スピニング法(ウエットスピニングやエレクトロスピニング)が挙げられる。しかし、長尺である繊維束(糸)とブレンドしたPEDOT-PSSをスピニングにより製造することは、技術的には困難である。
【0018】
また、PEDOT-PSSと繊維束との複合繊維を製造する方法として、予め、繊維束に金属コーティングを施すことで導電性を付与しておくか、あるいは、化学固定法によってPEDOT-PSSを線維束に固定して導電性を付与し、この導電性を電極として活用することでPEDOT-PSSを電気化学的に固定するという方法も考えられる。しかしながら、この方法では2段階で固定を行う工程となることから、生産性に劣り、コスト高となるおそれがある。
【0019】
上述したようなPEDOT-PSSとシルク等の繊維束との複合繊維は、生体適合性に優れ、生体電極への応用も期待される導電性素材である。このような複合繊維は、上述した化学的固定法によって製作できるものの、さらなる導電性と耐久性の向上と、製造の効率化が求められる。
【0020】
また、医療をはじめ、ヘルスプロモーションやインフォメーションテクノロジー、ウエアラブルコンピューターなどの幅広い分野から、長時間の連続使用が可能な体表面装着型の生体電極が求められている。生体電気信号の測定の安定性、信頼性の高さだけでなく、装着感の快適性も要求されている。また、生体組織への侵襲性が低い体内埋め込み型電極が求められている。
【0021】
本発明の発明者らは、近年開発されたPEDOT-PSSを代表とする導電性高分子が高い親水性及び柔軟性を有することに着目し、導電性高分子を電極として体内に埋め込んだ場合の生体組織に与えるストレスを軽減できると考え、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成させた。
本発明の第一から四の態様は、上記従来の問題点に鑑みて、また本発明者の様々な検討によりなされたものである。本発明において、第一の態様の導電性高分子繊維は、第二の態様の装置や製法で好ましく製造されることができる。また第三や四の態様の電極や装置は、第一の態様の導電性高分子繊維を好ましく使用することができる。
【0022】
本発明の第一の態様は、導電性、乾燥状態及び湿潤状態における強度、並びに柔軟性に優れた導電性高分子繊維と、それを備えた生体電極を提供することを目的としている。
【0023】
本発明の第二の態様は、導電性高分子としてPEDOT-PSSを含む導電体を絶縁性の繊維(繊維束)に含浸あるいは付着させ、電気化学的に連続的に重合固定することができ、生体適合性が高く良好な均質性を備え、導電性と耐久性に優れた導電性高分子繊維を、生産性良く製造することが可能な、導電性高分子繊維の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【0024】
本発明の第三の態様は、生体電気信号の測定時における安定性及び信頼性を有し、従来よりも装着感が向上した生体電極及びその生体電極が備えられた生体信号測定装置を提供することを目的とする。
【0025】
本発明の第四の態様は、生体内の微弱な電気信号を検出することが可能であり、生体親和性に優れ、生体組織への侵襲性が低い体内埋め込み型電極、及びその体内埋め込み型電極が備えられた生体信号測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、導電性高分子を含有する導電性繊維を用いた生体電極であって、前記導電性繊維は、基材繊維に導電性高分子を含む導電体が含浸及び/又は付着されてなり、前記導電性高分子が親水性を有することを特徴とする生体電極である。
(第一の態様)
本発明に関連する第一の態様は、以下の導電性高分子繊維を提供する。
I-(A): 基材繊維に、導電性高分子を含む導電体が含浸及び/又は付着されてなる導電性高分子繊維であって、複数の前記基材繊維の間に、前記導電体が保持及び固定されていることを特徴とする導電性高分子繊維。
I-(B): 基材繊維に、導電性高分子を含む導電体が含浸及び/又は付着されてなる導電性高分子繊維であって、複数の前記基材繊維の間に、前記導電体が前記基材繊維に密着して配されていることを特徴とする導電性高分子繊維。
【0027】
上記の第一の態様の導電性高分子繊維に関連する導電性高分子繊維として、以下の特徴を有する導電性高分子繊維が挙げられる。
I-(1): 上記の第一の態様に関連する導電性高分子繊維は、動物性繊維を含む基材繊維に、導電性高分子を含む導電体が含浸及び/又は付着されてなり、前記導電性高分子がPEDOT-PSSであることを特徴とする。
I-(2): 上記の導電性高分子繊維は、前記導電体は、添加剤としてグリセロール、ポリエチレングリコール‐ポリプロピレングリコールコポリマー、エチレングリコール、ソルビトール、スフィンゴシン又はホスファチジルコリンを含有する。
【0028】
I-(3): 前記I-(1)または(2)の、上記導電性高分子繊維は、前記導電体が、前記基材繊維の周囲に被覆されている。
【0029】
I-(4): 前記I-(1)から(3)のいずれかの、上記導電性高分子繊維は、前記基材繊維内に前記導電体が含浸されている。
【0030】
I-(5): 前記I-(1)~(4)のいずれかの、上記導電性高分子繊維は、前記基材繊維内に前記導電体が含浸され、前記基材繊維の周囲に金属又はカーボンが被覆され、さらに前記被覆された金属又はカーボンの周囲に前記導電体が被覆されている。
【0031】
I-(6): 前記I-(1)~(5)のいずれかの、上記導電性高分子繊維は、複数の前記基材繊維の間に、前記導電体が前記基材繊維に密着して配されている。
【0032】
I-(7): 前記I-(1)~(5)のいずれかにおいて、上記導電性高分子繊維は、この導電性高分子繊維の周囲に、さらに絶縁層が被覆されている。
【0033】
I-(8): 本発明に関連する生体電極は、前記I-(1)~(7)のいずれかに記載の導電性高分子繊維を電極として備えたことを特徴とする。
【0034】
(第二の態様)
本発明に関連する第二の態様は、以下の導電性高分子繊維の製造方法及び装置を提供する。
II-(1): 上記の導電性高分子繊維の製造方法は、糸状、紐状、布状又はリボン状の繊維束からなる絶縁性の基材繊維を、導電性高分子としてPEDOT-PSS{ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)}を含む導電体の溶液に浸漬することにより、前記基材繊維に前記導電体を含浸及び/又は付着させる浸漬工程と、前記基材繊維を前記導電体の溶液から垂直方向に引き上げながら電極間で走行させて通電することにより、前記基材繊維に含浸及び/又は付着した前記導電体を電気化学的に重合固定する固定工程と、を備えることを特徴とする。
上記製造方法は、前記浸漬工程と、前記固定工程と、前記導電体が重合固定された前記基材繊維を送風乾燥する乾燥工程と、を順次備えてなり、さらに、前記浸漬工程、前記固定工程及び前記乾燥工程の各々を、雰囲気湿度を調湿しながら行うことを特徴としてもよい。
なお、ここで言う電極とは、単数(単極)の電極の他、複数の電極の構成も含む。
上記第二の態様のII-(1)は、以下の特徴を有することも好ましい。
【0035】
II-(2): 上記の第二の態様の導電性高分子繊維の製造方法においては、前記固定工程に関して、単数の電極を用いることのみならず、複数の電極を配列させて用いることができる。
具体的には、前記固定工程に関して、前記電極として複数の電極を用い、且つ、前記複数の電極が、前記基材繊維の長手方向で複数備えられた櫛歯を有する櫛歯状電極とされており、前記櫛歯状電極は、前記基材繊維の径方向両側から前記基材繊維を挟み込むように配置されているとともに、前記複数の櫛歯が、前記基材繊維の径方向両側から、前記基材繊維の長手方向で各々交互に組み合わせられるように配置されており、前記基材繊維に対して、径方向両側から前記櫛歯状電極に備えられる前記複数の櫛歯を押し当てつつガイドしながら、前記基材繊維を走行させて通電する方法としても良い。
【0036】
II-(3): 上記の第二の態様の導電性高分子繊維の製造方法においては、前記固定工程に関して、前記電極として複数の電極を用い、且つ、前記複数の電極が、前記基材繊維の長手方向で複数配置されるとともに、前記基材繊維の径方向両側から前記基材繊維を挟み込むように配置された回転子電極とされており、前記基材繊維の径方向における一方の側に配置された回転子電極がローラー状とされるとともに、他方の側に配置された回転子電極がプーリー状とされており、前記基材繊維の両側に配置された前記回転子電極が、前記基材繊維の長手方向で各々交互に配置されており、前記基材繊維に前記ローラー状の回転子電極を押し当てつつ、前記プーリー状の回転子電極に形成された溝部でガイドしながら、前記基材繊維を複数の各電極間で走行させて通電することが好ましい。
【0037】
II-(4): 上記の第二の態様の導電性高分子繊維の製造方法においては、前記固定工程に関して、前記基材繊維を、前記ローラー状の回転子電極で押し当てつつ、前記プーリー状の回転子電極の溝部でガイドすることで繊維束の配列形状を整えることにより、前記基材繊維に含浸及び/又は付着する前記導電体の量を調整しながら通電を行うことがより好ましい。
【0038】
上記の第二の態様は、以下の導電性高分子繊維の製造装置も提供する。
II-(5): 上記の第二の態様の導電性高分子繊維の製造装置は、導電性高分子としてPEDOT-PSS{ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)}を含む導電体の溶液が内部に収容され、糸状、紐状、布状又はリボン状の繊維束からなる絶縁性の基材繊維を前記導電体の溶液に浸漬させることで、前記基材繊維に前記導電体を含浸及び/又は付着させるための浸漬容器と、前記基材繊維を前記浸漬容器に収容された前記導電体の溶液から垂直に引き上げるための巻き取り部と、前記垂直に引き上げられる基材繊維を走行させながら通電することで、前記基材繊維に含浸及び/又は付着した前記導電体を電気化学的に重合固定する電極と、前記導電体が重合固定された前記基材繊維に向けて送風することで乾燥させるための乾燥部と、前記基材繊維の近傍における雰囲気湿度を調整するための調湿部と、を具備してなることを特徴とする。
【0039】
上記の装置は、以下の特徴を有することも好ましい。
II-(6): 前記電極が複数の電極からなり、且つ、前記複数の電極が、前記基材繊維の長手方向で複数備えられた櫛歯を有する櫛歯状電極であり、前記櫛歯状電極は、前記基材繊維の径方向両側から前記基材繊維を挟み込むように配置されるとともに、前記複数の櫛歯が、前記基材繊維の径方向両側から、前記基材繊維の長手方向で各々交互に組み合わせられるように配置されており、前記櫛歯状電極に備えられる前記複数の櫛歯を、前記基材繊維の径方向両側から押し当てつつガイドしながら、前記基材繊維を走行させて通電する構成を採用することも好ましい。
【0040】
II-(7): 上記の第二の態様の導電性高分子繊維の製造装置においては、前記電極が複数の電極からなり、且つ、前記複数の電極が、前記基材繊維の長手方向で複数配置されるとともに、前記基材繊維の径方向両側から前記基材繊維を挟み込むように配置された回転子電極であり、前記基材繊維の径方向における一方の側に配置される回転子電極がローラー状であるとともに、他方の側に配置された回転子電極がプーリー状であり、前記基材繊維の両側に配置される前記回転子電極が、前記基材繊維の長手方向で各々交互に配置されており、前記基材繊維に前記ローラー状の回転子電極を押し当てつつ、前記プーリー状の回転子電極に形成された溝部でガイドしながら、前記基材繊維を複数の各電極間で走行させて通電する構成であることが好ましい。
【0041】
II-(8): 上記の第二の態様の導電性高分子繊維の製造装置においては、前記複数の電極に関し、前記ローラー状の回転子電極を前記基材繊維に押し当てつつ、前記プーリー状の回転子電極の溝部でガイドすることで繊維束の配列形状を整えることにより、前記基材繊維に含浸及び/又は付着する前記導電体の量を調整しながら通電を行う構成であることがより好ましい。
【0042】
(第三の態様)
本発明に関連する第三の態様は、以下の生体電極である。
III-(1): 導電性高分子を含有する導電性複合繊維を用いたことを特徴とする生体電極である。
上記生体電極は以下の特徴を有することも好ましい。
【0043】
III-(2): 前記導電性複合繊維により構成された、紐状、帯状又は布状の接触子が備えられていることを特徴とする前記III-(1)に記載の生体電極である。
【0044】
III-(3): 前記接触子は、前記導電性複合繊維が複数束ねられて形成されている又は前記導電性複合繊維が金属製線材に巻き付けられて形成されていることを特徴とする前記III-(2)に記載の生体電極である。
【0045】
III-(4): 前記導電性複合繊維が、皮膚に対する吸着性又は親水性を有することを特徴とする前記III-(1)~(3)のいずれか一に記載の生体電極である。
【0046】
III-(5): 前記接触子が弓形又はヘアーピン形のフレームによって支持されていることを特徴とする前記III-(2)~(4)のいずれか一に記載の生体電極である。
【0047】
III-(6) 前記接触子がシート状基材の表面に配置されていることを特徴とする前記III-(2)~(4)のいずれか一に記載の生体電極である。
【0048】
III-(7): 前記シート状基材の裏面に伸縮性のホルダーが備えられ、前記裏面に沿って前記ホルダーが摺動可能に配置されていることを特徴とする前記III-(6)に記載の生体電極である。
【0049】
本発明に関連する第三の態様は、以下の生体信号測定装置を含む。
III-(8): 前記III-(1)~(7)のいずれか一に記載の生体電極が備えられたことを特徴とする生体信号測定装置である。
【0050】
(第四の態様)
本発明に関連する第四の態様は以下の電極である。
IV-(1): 導電性高分子を含有する導電性複合繊維を備えたことを特徴とする体内埋め込み型電極。
本発明に関連する体内埋め込み型電極は以下の特徴を有することも好ましい。
【0051】
IV-(2) 前記導電性複合繊維が、棒状又はコイル状に成形されていることを特徴とする前記IV-(1)に記載の体内埋め込み型電極である。
【0052】
IV-(3): 前記導電性複合繊維が、針の先端部に接着されていることを特徴とする前記IV-(1)又は(2)に記載の体内埋め込み型電極である。
【0053】
IV-(4): 前記導電性複合繊維が、水溶性の接着性材料を介して、前記針に接着されていることを特徴とする前記IV-(3)に記載の体内埋め込み型電極である。
【0054】
IV-(5): 前記導電性複合繊維が乾燥収縮状態であることを特徴とする前記IV-(1)~(4)のいずれか一に記載の体内埋め込み型電極である。
【0055】
IV-(6): 前記導電性複合繊維に金属製、シリコン製又はカーボン製の電線が接続されていることを特徴とする前記IV-(1)~(5)のいずれか一に記載の体内埋め込み型電極である。
【0056】
IV-(7): 棒状又は紐状に成形された前記導電性複合繊維を芯部とし、その少なくとも一部の周囲が耐水性ポリマーによって被覆されていることにより、前記被覆された芯部の一端部から他端部へ液体が浸透するための流路が形成されていることを特徴とする前記IV-(1)~(6)に記載の体内埋め込み型電極である。
【0057】
IV-(8): 前記流路に、薬物を含有する溶液が含まれていることを特徴とする前記IV-(7)に記載の体内埋め込み型電極である。
【0058】
IV-(9): 前記IV-(1)~(8)のいずれか一に記載の体内埋め込み型電極が備えられたことを特徴とする生体信号測定装置である。
【0059】
前記 IV-(1)~(8)に記載の導電性複合繊維にはグリセロール、ソルビトール、エチレングリコール、スクワラン、シリコーン、ミネラルオイル又はMPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)のいずれか1種以上を含有させてもよい。これらを含有させることにより、前記導電性複合繊維が生体組織内で水分を吸収する速度を遅くし、前記導電性複合繊維の膨潤速度を遅くすることができる。この結果、導電性複合繊維を生体組織中に埋め込む作業中に、前記導電性複合繊維が膨潤して、その機械的強度が低下することを抑制することができる。
【0060】
前記 IV-(7)に記載の導電性複合繊維には、前記一端部に、薬剤溶液を入れることが可能なリザーバー又はチャンバーを接続してもよい。前記リザーバー又はチャンバーに、例えば、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、フルクトース、NGF (Nerve Growth Factor)、BDNF (Brain-derived neurotrophic factor)、SKF96365、Cilostazol、Gadolinium、NT3 (Neurotrophin-3), GSNO (S-Nitrosoglutathione)、マグネシウム(Magnesium)、TRIM (1-(2-Trifluoromethylphenyl)imidazole)、 EGTA(ethylene glycol tetraacetic acid)、又はRuthenium Redのいずれか1種以上の薬物を含む溶液を入れることにより、前記被覆が施された前記導電性複合繊維の前記一端部から前記他端部へ前記溶液を浸透させることができる。すなわち、生体組織内において前記他端部から前記溶液を放出し、前記導電性複合繊維の周囲に局所的に前記溶液に含まれる薬物等を投与することができる。
【0061】
前記薬物の1種以上が、前記IV-(1)~(8)のいずれかに記載の導電性複合繊維に含浸又は塗布されていてもよい。この場合にも、生体組織内に設置された前記導電性複合繊維から前記薬物が徐々に放出され、前記導電性複合繊維の周囲に局所的に前記薬物を投与することができる。
【0062】
前記IV-(1)、(2)、(5)、(6)又は(7)に記載の導電性複合繊維に糸が連結されていてもよい。さらに前記糸には手術用の針が結び付けられていてもよい。前記糸を先行して生体内に導入し、前記糸を引っ張ることにより、前記糸に連結された糸を生体組織内にスムーズに導入することができる。
【発明の効果】
【0063】
本発明では、以下の優れた効果を得ることができる。
(第一の態様の効果)
本発明の第一の態様によれば、導電性、乾燥状態及び湿潤状態における強度、並びに柔軟性に優れた導電性高分子繊維と、それを備えた生体電極を提供することができる。
本発明のI-(1)に記載の導電性高分子繊維によれば、基材繊維が有する高い強度及び柔軟性と、導電性高分子であるPEDOT-PSSが有する導電性及び親水性とを併せ持つ繊維が得られる。
I-(2)の構成によれば、添加剤がPEDOT-PSSの吸水を抑制し、湿潤状態になることによる強度の低下を防ぐことができるので、導電性高分子繊維がより高強度の繊維となる。
I-(3)の構成によれば、導電体が基材繊維の周囲を被覆することにより、導電性高分子繊維の導電性がより高まるとともに、複数の導電性高分子繊維を接触させて導通させることがより容易となる。
I-(4)の構成によれば、基材繊維内に導電体が含浸されているため、導電体と基材繊維とが分離する恐れが無く、優れた長期信頼性を有する繊維となる。
I-(5)の構成によれば、導電性高分子繊維の内部及び周囲の導電体に挟まれて金属又はカーボンが配されているので、より一層高い導電性を有する繊維となる。また、金属又はカーボンが繊維表面に露出していないため、金属又はカーボンの腐食や劣化が防止される。
I-(6)の構成によれば、導電体が基材繊維の周囲を被覆することにより、導電性高分子繊維の導電性がより高まるとともに、複数の導電性高分子繊維を接触させて導通させることがより容易となる。
I-(7)の構成によれば、絶縁層によって導電性高分子繊維が保護されるので、耐久性に優れた繊維となる。
本発明のI-(8)の生体電極によれば、導電性、乾燥状態及び湿潤状態における強度に優れ、さらに柔軟性にも優れる導電性高分子繊維を備えているため、生体の体表面や体内に設置する箇所の自由度が高く、設置作業時の作業性に優れ、電気的な測定を充分に行うことが可能であり、さらに比較的長期間の測定が可能となる。
【0064】
(第二の態様の効果)
本発明の第二の態様によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明の第二の態様によれば、本発明の導電性高分子繊維の製造方法によれば、上述のように、PEDOT-PSSを含む導電体が含浸及び/又は付着した基材繊維を、導電体溶液から垂直に引き上げながら、単数又は複数の電極間で走行させて通電する方法を採用している。これにより、基材繊維に導電体を電気化学的に重合固定する工程を、一段階の工程で連続的に行うことができるので、生産性が向上する。さらに、基材繊維を垂直に引き上げながら電極間で走行させることで、基材繊維に重合固定する導電体を均等に分散させ、偏在を防止できる。従って、生体適合性が高く良好な均質性を備え、導電性と耐久性に優れた導電性高分子繊維を、生産性良く製造することが可能となる。
【0065】
また、本発明の第二の態様の導電性高分子繊維の製造装置によれば、PEDOT-PSSを含む導電体が含浸及び/又は付着した基材繊維を、浸漬容器中の導電体溶液から垂直に引き上げる巻き取り部と、基材繊維を走行させながら通電する単数又は複数の電極を備えた構成を採用している。これにより、上記同様、基材繊維に導電体を電気化学的に重合固定する工程を、一段階の工程で連続的に行うことが可能となり、生産性を向上させることが可能となる。さらに、基材繊維を垂直に引き上げながら通電する電極を備えることで、基材繊維に重合固定する導電体を均等に分散させ、偏在を防止できる。従って、生体適合性が高く良好な均質性を備え、導電性と耐久性に優れた導電性高分子繊維が、高い生産性で得られる。
より具体的に説明すれば以下の効果を得ることができる。
第二の態様のII-(1)から(8)によれば、以下の効果を得ることができる。
【0066】
II-(1)の構成の導電性高分子繊維の製造方法によれば、PEDOT-PSSを含む導電体が含浸及び/又は付着した基材繊維を、導電体溶液から垂直に引き上げながら電極間を走行させて通電する方法を採用することで、基材繊維に導電体を電気化学的に重合固定する。
さらに、この構成によれば、基材繊維を垂直に引き上げながら電極間を走行させることで、基材繊維に重合固定する導電体を均等に分散させ、偏在を防止できるので、導電性と耐久性に優れた導電性高分子繊維が得られる。
【0067】
II-(2)の場合、基材繊維に導電体を電気化学的に重合固定する工程を、一段階の工程で連続的に行うことができるので、生産性が向上する。
またこの構成によれば、基材繊維の長手方向で複数備えられた櫛歯を有する櫛歯状電極を用い、複数の櫛歯が、基材繊維の径方向両側から、基材繊維の長手方向で各々交互に組み合わせられるように配置されているので、基材繊維が複数の櫛歯に対して繰り返し接触して通電されることにより、基材繊維への導電体の重合固定効率を高めることができる。
【0068】
II-(4)の構成によれば、基材繊維に前記ローラー状の回転子電極を押し当てつつ、プーリー状の回転子電極に形成された溝部でガイドしながら、基材繊維を複数の各電極間で走行させて通電する方法を採用することで、基材繊維と電極との接触に伴う摩擦が軽減され、基材繊維に固定された導電体が剥離するのを防止できる。また、繊維束の配列形状を整えることで、基材繊維に含浸及び/又は付着する導電体の量を調整しながら通電を行うことにより、任意の量のPEDOT-PSSを保持して重合固定することができる。
【0069】
II-(5)の導電性高分子繊維の製造装置によれば、PEDOT-PSSを含む導電体が含浸及び/又は付着した基材繊維を、浸漬容器中の導電体溶液から垂直に引き上げる巻き取り部と、基材繊維を走行させながら通電する電極を備えた構成なので、基材繊維に導電体を電気化学的に重合固定する。さらに、この構成によれば、基材繊維を垂直に引き上げながら通電する電極を備えることで、基材繊維に重合固定する導電体を均等に分散させ、偏在を防止できるので、導電性と耐久性に優れた導電性高分子繊維を製造することが可能となる。 本発明の導電性高分子繊維の製造装置においては、前記電極に関して、単数の電極を用いる構成のみならず、複数の電極を配列させる構成を採用することができる。この場合、基材繊維への導電体の電気化学的な重合固定を、一段階で連続的に行うことができるので、生産性が向上する。
【0070】
II-(6)の構成によれば、複数の電極として櫛歯状電極を備え、複数の櫛歯が、基材繊維の径方向両側から、基材繊維の長手方向で各々交互に組み合わせられるように配置された構成なので、基材繊維を複数の櫛歯に対して繰り返し接触させて通電することにより、基材繊維への導電体の重合固定効率を高めることが可能となる。
【0071】
II-(8)の構成によれば、複数の電極が、基材繊維の径方向における一方の側に配置されるローラー状の回転子電極と、他方の側に配置されるプーリー状の回転子電極とから構成されているので、基材繊維にローラー状の回転子電極を押し当てつつ、プーリー状の回転子電極に形成された溝部でガイドしながら、基材繊維を複数の各電極間で走行させて通電することで、基材繊維と電極との接触に伴う摩擦が軽減され、基材繊維に固定された導電体が剥離するのを防止することが可能となる。また、上記の回転子電極で糸状の繊維束の配列形状を整えることで、基材繊維に含浸及び/又は付着する導電体の量を調整しながら通電を行うことにより、任意の量のPEDOT-PSSを保持して重合固定することが可能となる。
【0072】
(第三の態様の効果)
本発明の第三の態様によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明の上記第三の態様の体表面装着型の生体電極は、導電性高分子と柔軟な繊維素材を複合させた複合繊維を備えている。このため、生体表面に対する設置性が従来よりも向上し、電極の小型化、皮膚との接触面積の縮小化が可能である。また、本発明の生体電極は柔軟な繊維素材によって構成されているため、装着時に皮膚へ与える刺激が少なく、装着中の違和感を生じにくい。さらに、本発明の生体電極を構成する複合繊維は皮膚に対して適度な吸着性を有するため、従来の生体電極のように高粘着性のゲル又はテープ等によって皮膚及び電極を密閉する必要がない。すなわち、本発明の生体電極によれば、被験者(装着者)の負担を低減し、快適な装着感を提供することができる。
より具体的に説明すれば以下の効果を得ることができる。
【0073】
上記第三の態様の生体電極及び装置は以下の効果を提供できる。
III-(1)の生体電極は、導電性、柔軟性及び優れた引っ張り強度を有する導電性複合繊維を用いているため、従来の生体電極と比べて、装着した時の不快感や装着者へのダメージが少なく、単位面積あたりの電極抵抗が小さく、精密な生体信号の伝達が可能であり、さらに小型化、軽量化に適している。
III-(2)では、前記接触子の形状が皮膚又は生体表面への接触に適しているため、より精密な生体信号の伝達が可能である。また、装着者への不快感やダメージがより低減される。
III-(3)では、前記生体電極が上記構成を有する接触子を備えることにより、前記接触子及び生体電極の構造的強度が高められ、電極抵抗をより小さくできる。
III-(4)では、前記導電性複合繊維が皮膚に対する吸着性又は親水性を有することにより、前記生体電極を皮膚表面又は生体表面に自立的に設置することが可能であり、ノイズが低減された高精度の生体信号の伝達をより容易に行うことができる。また、前記生体電極によれば、従来の生体電極の皮膚表面への設置に必要であった粘着性及び導電性を有するペースト若しくはゲルを使用することなく設置することができる。
【0074】
III-(5)の前記生体電極によれば、頭髪間に前記生体電極を挿入し、頭皮に電極面を接触させることをより容易に行うことができる。
III-(6)の前記生体電極によれば、広い面積の皮膚表面又は生体表面に前記接触子を安定した状態で接触させることができる。
III-(7)の前記生体電極によれば、ホルダーが有する伸縮性により、シート状基材の表面に配置された接触子を皮膚表面に押し付けることができるので、接触子を安定に設置することができる。さらに、この安定な状態を維持しつつ、ホルダーがシート状基材の裏面を摺動しながら、ホルダーがシート状基材と独立して移動し、ホルダーと皮膚表面との相対的位置が変更可能となる。このため、前記生体電極の装着者が体を動かした場合にも、安定に生体信号を伝達することができる。
III-(8)では、前記生体信号測定装置としては、例えば心電図測定装置、心拍計、脳波測定装置などが挙げられる。前記生体信号測定装置において、前記生体電極は生体表面から信号を受信する機能だけでなく、電気信号(電気刺激)を送信する機能を有していても構わない。
【0075】
前記III-(6)、(7)に記載のシート状基材、及び前記III-(8)の生体信号測定装置を構成する生体電極が有していてもよいシート状基材には、開口部が備えられていることが好ましい。開口部が備えられていることにより、シート状基材と皮膚との間の通気性が向上し、皮膚が蒸れることを低減できる。
【0076】
(第四の態様の効果)
本発明の第四の態様によれば、以下の効果を得ることができる。
上記第四の態様の本発明の体内埋め込み型電極によれば、電極を構成する導電性複合繊維が柔軟で生体親和性に優れるため、埋め込んだ生体組織に対する侵襲性を低減することができる。また、導電性複合繊維に含まれる導電性高分子が生体内の微弱な電気信号を検出することができるため、高精度の信号の送受信を外部装置と電極埋め込み部との間で行うことができる。
さらに、導電性複合繊維を構成する繊維材料により機械的強度が高められているため、体内埋め込み時の外力により電極が破損することがなく、体内埋め込み後における耐久性に優れる。
本発明の生体信号測定装置に備えられた前記体内埋め込み型電極は生体組織に対する侵襲性が低いため、生体組織が本来有する機能を損なわずに、高精度の信号の送受信を外部に設置した測定装置と電極埋め込み部との間で行うことができる。
より具体的に説明すれば以下の効果を得ることができる。
【0077】
上記第四の態様の電極や装置によれば、以下の効果を得ることができる。
IV-(1)の体内埋め込み型電極によれば、電極を構成する導電性複合繊維が柔軟性及び生体親和性に優れるため、埋め込んだ生体組織に対する侵襲性を低減することができる。また、導電性複合繊維に含まれる導電性高分子が生体内の微弱な電気信号を伝達できるため、高精度の信号の送受信を外部装置と電極埋め込み部との間で行うことができる。
さらに、導電性複合繊維を構成する繊維材料により機械的強度が高められているため、体内埋め込み時の外力により電極が破損することがなく、体内埋め込み後における耐久性に優れる。
IV-(2)によれば、棒状に成形された導電性複合繊維は、体内埋め込み時に針の如く差し込むことができるため、生体組織に対する侵襲性をより低減することができる。コイル状(螺旋状)に成形された導電性複合繊維は、埋め込まれた生体組織内で位置ズレを起こすことが殆どなく、高精度の信号の送受信を外部装置と電極埋め込み部との間で行うことができる。
IV-(3)によれば、前記導電性複合繊維が先端部に接着された前記針を、生体組織に刺入する(刺し入れる)という簡単な操作により、低い侵襲性で容易に、生体組織内に前記導電性複合繊維を設置することができる。また、設置した導電性複合繊維を生体内に留めたまま、前記針を抜去するという簡単な操作により、低い侵襲性で容易に、信号の送受信には不要な前記針を生体外に除いて、導電性複合繊維の設置を完了することができる。
IV-(4)によれば、前記針を生体組織内に刺入すると、前記接着性材料が体液等の水分を吸収することにより溶解し、前記針と前記導電性複合繊維との接着を容易に解除することができる。接着の解除後、前記針を生体外へ抜去し、前記導電性複合繊維を生体組織中に留めることができる。
【0078】
IV-(5)によれば、乾燥収縮状態の導電性繊維は柔軟でありながらも、その機械的強度が比較的高いため、生体組織内に設置する(刺入する)際に導電性繊維が破損(破断)することを防止できる。また、乾燥収縮状態の導電性繊維の物理的な体積が比較的小さいため、生体組織内に設置する(刺入する)際の侵襲性を低減することができる。
IV-(6)によれば、前記電線により、生体組織内に埋め込まれた前記導電性複合繊維と外部装置とを電気的に接続することができる。
IV-(7)によれば、前記芯部の一端部を薬物溶液等が貯留されたリザーバー又はチューブコネクターが備えられたチャンバーに接続し、前記芯部の他端部を生体組織内の所定位置へ設置することにより、前記芯部を構成する導電性複合繊維を薬物溶液等が透過(浸透)して、他端部が位置する生体組織中へ薬物溶液を輸送することができる。
IV-(8)によれば、前記流路を介して前記薬物(薬剤)を電極が埋め込まれた部位に投与することができる。前記薬物は生体反応を抑制する又は促進する薬理作用を有する薬物であることが好ましい。前記薬物としては、例えば生体組織の障害を低減させる薬物、生体組織の修復を促す薬物、生体組織を成長させる薬物等が挙げられる。
IV-(9)によれば、前記体内埋め込み型電極は生体組織に対する侵襲性が低いため、生体組織が本来有する機能を損なわずに、外部に設置した測定装置と電極埋め込み部との間で、信号の送受信を高精度に行うことができる。
【0079】
なお、本発明において説明する基材繊維とは、単線糸状の繊維の他、例えば、複数の基材繊維を撚り合わせて所望の太さの撚り糸にしたもの等も含むものである。また、本発明における基材繊維の形状は、上記の糸状のみに限定されるものではなく、例えば、紐状、布状、リボン状等も含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図1】本発明の導電性高分子繊維の一例における、長手方向の断面を示す模式図である。
【
図2】本発明の導電性高分子繊維の一例における、長手方向の断面を示す模式図である。
【
図3】本発明の導電性高分子繊維の一例における、長手方向に対して直交する方向の断面を示す模式図である。
【
図4】本発明の導電性高分子繊維の一例における、長手方向に対して直交する方向の断面を示す模式図である。
【
図5】本発明の導電性高分子繊維の一例における、長手方向に対して直交する方向の断面を示す模式図である。
【
図6】本発明の導電性高分子繊維の一例における、長手方向に対して直交する方向の断面を示す模式図である。
【
図7】本発明の導電性高分子繊維の一例における、長手方向に対して直交する方向の断面を示す模式図である。
【
図8】本発明の導電性高分子繊維の一例における、長手方向に対して直交する方向の断面を示す模式図である。
【
図11A】生体電極を体表面に設置した様子を示す、本発明の一例を示す模式図である。
【
図11B】測定したヒト心電図(上から順にI, II, III誘導)である。
【
図12A】作製した糸状の埋め込み型生体電極の実体顕微鏡による観察の写真である。
【
図12B】測定したラット坐骨神経の活動電位(上から順に静止時、筋収縮時、筋弛緩時)である。
【0081】
【
図13】本発明の導電性高分子繊維の製造方法及び製造装置の実施の形態を模式的に示す図であり、導電性高分子繊維の製造装置の構成の一例を説明する概略図である。
【
図14】本発明の導電性高分子繊維の製造方法及び製造装置の実施の形態の一例を模式的に示す要部拡大図であり、櫛歯状電極を基材繊維の両側に配置した状態を示す図である。
【
図15A】本発明の導電性高分子繊維の製造方法及び製造装置の実施の形態の一例を模式的に示す要部拡大図であり、ローラー状の回転子電極の例を示す図である。
【
図15B】プーリー状の回転子電極の例を示す図である。
【
図15C】ローラー状の回転子電極とプーリー状の回転子電極とを基材繊維の長手方向で交互に組み合わせた状態の例を示す図である。
【
図16】本発明の導電性高分子繊維の製造方法及び製造装置の実施の形態の他の例を模式的に示す概略図であり、単数の電極を用いた場合について示す図である。
【
図17A】本発明の導電性高分子繊維の製造方法及び製造装置の実施例について説明する図であり、実施例2-1において、本発明に係る回転子電極を用いて通電を行って得られた導電性高分子繊維を示す写真図である。
【
図17B】実施例2-2において、櫛歯状電極を用いて通電を行って得られた導電性高分子繊維を示す写真図である。
【
図18A】本発明の導電性高分子繊維の製造方法及び製造装置の実施例について説明する図であり、実施例2-1において、本発明の方法及び装置を用いて電気化学的に重合固定することで得られた導電性高分子繊維の耐水性試験後の状態を示す写真図である。
【
図18B】比較例2-2において従来の化学固定で得られた導電性高分子繊維の耐水性試験後の状態を示す写真図である。
【0082】
【
図19A】本発明の第三の態様の第一実施形態にかかる櫛形電極の模式図であり、接触子311が弓形の第一フレーム312に弦のように固定されている様子を示す櫛形の生体電極310の側面図である。
【
図19C】前記生体電極310が頭髪Hの間隙に挿入され、頭皮Sと接した位置に固定された状態を示す斜視図である。
【
図19D】前記生体電極310が皮膚と接する領域を示す写真である。
【
図20A】本発明の第三の態様の第一実施形態にかかるヘアーピン形電極の模式図であり、接触子321が固定ポスト322を介してヘアーピン形髪止めに弦のように2本平行に固定されている様子を示す生体電極320の側面図である。
【
図20C】前記ヘアーピン形の生体電極320が頭髪Hを頭皮Sに近い位置で挟み、接触子21が頭皮Sに接した状態を示す斜視図である。
【
図20D】前記上段はヘアーピン形の生体電極320の上面を写した写真であり、下段は皮膚と接触する下面を写した写真である。
【0083】
【
図21A】接触子の断面構造の一例を示す模式図であり、左部分は右部分のX-X線の断面を示す。
【
図21B】第三の態様の第二実施形態の接触子321の断面構造を示す模式図であり、左部分は右部分のX-X線の断面を示す。
【
図22A】櫛形の生体電極310を頭髪間に挿入し、その上から伸縮性のネット状のホルダーNを被せて、生体電極310を保持している様子を示す模式図である。
【
図22B】伸縮性ネットNに生体電極310を、国際10-20法に合わせて設置した例を示す上面図である。
【
図23A】ヘアーピン形脳波用電極で測定したヒトの脳波(C3 C4 50μV 400msec/div)を示すグラフである。
【
図23B】ヘアーピン形脳波用電極で測定したヒトの聴性脳幹反応(0.2μV、1ms/div 90db、クリック音、1000回加算平均、IV-VII誘発電位のピークを示す)を示すグラフである。
【0084】
【
図24A】心電図用電極330の皮膚との接触面を示す平面図である。
【
図24B】前記心電図用電極330を皮膚表面Sに設置した様子を示す側面図である。
【
図25A】電極パッドの側面図及び正面図(皮膚接触面、即ち表面)の一例を示す。
【
図25B】前記電極パッドの側面図及び正面図(皮膚接触面、即ち表面)の別の例を示す。
【
図26A】躯幹Bに対する電極パッド338とホルダー335の配置を示す断面図である。
【
図27】実施例3-3において、本発明にかかる生体電極1と、従来の生体電極2,3を用いて測定した心電図の記録波形を示すグラフであり、スケールバーは一秒、50mVを表す。
【
図28】本発明にかかる生体電極B,C又は、従来の生体電極D,Eを設置した皮膚の水分量を測定し、各電極による皮膚の蒸れの程度を比較した結果を示すグラフである。
【0085】
【
図29A】本発明の第四の態様の体内埋め込み型電極の第一実施形態の側面図である。
【
図29B】
図29Aに示される導電性複合繊維束が吸水により膨潤する様子を示した側面図である。
【
図29C】前記膨潤させた導電性複合繊維束から針を離している様子を示した側面図である。
【
図30A】ガイド針に導電性複合繊維束を1個備えた、本発明の第四の態様の電極の例を示す側面図及び底面図である。
【
図30B】ガイド針に導電性複合繊維束を2個備えた、本発明の第四の態様の電極の例を示す側面図及び底面図である。
【
図30C】ガイド針に導電性複合繊維束を4個備えた、本発明の第四の態様の電極の例を示す側面図及び底面図である。
【
図31A】本発明の第四の態様の体内埋め込み型電極の第二実施形態の側面図である。
【
図31B】前記電極の導電性複合繊維束が吸水により膨潤する様子を示した側面図である。
【
図31C】前記電極の膨潤させた導電性複合繊維束から針を離している様子を示した側面図である。
【0086】
【
図32A】本発明の第四の態様の体内埋め込み型電極の第三実施形態を神経索N’に導入する様子を示した模式図である。
【
図32B】体内埋め込み型電極の第三実施形態を神経索N’に導入する様子を示した模式図である。
【
図32C】体内埋め込み型電極の第三実施形態を神経索N’に導入する様子を示した模式図である。
【
図32D】体内埋め込み型電極の第三実施形態を神経索N’に導入する様子を示した模式図である。
【
図33A】流路を備えた体内埋め込み型電極の側面図及び底面図であり、リザーバーを備えた第四実施形態である。
【
図33B】チャンバー及びチューブコネクターを備えた第四実施形態である。
【0087】
【
図34A】(A)体内埋め込み型電極の第四実施形態(PEDOT-PSS)と従来の金属製電極とを各々使用して測定したラット脳の集合活動電位の波形(Scale bar 250ms 40mV)である。
【
図34B】ラット大脳皮質の抗GFAP抗体によるグリア細胞(アストロサイト)の免疫染色像を示し、かつ電極が埋め込まれていない状態を示す。
【
図34C】ラット大脳皮質の抗GFAP抗体によるグリア細胞(アストロサイト)の免疫染色像を示し、かつ本発明の第四実施形態の電極が埋め込まれた位置(点線)とその周囲の状態を示す。
【
図34D】ラット大脳皮質の抗GFAP抗体によるグリア細胞(アストロサイト)の免疫染色像を示し、かつ従来の金属製電極が埋め込まれた位置(点線)とその周囲の状態を示す。
【
図35A】本発明の第一実施形態の体内埋め込み型電極により記録したラットの大脳皮質(バレル皮質)の活動電位を示す波形である。
【
図35B】本発明の第三実施形態の体内埋め込み型電極により記録したラットの座骨神経の集合活動電位を示す波形である(Scale bar 1秒 50μV)。
【
図35C】本発明の第三実施形態の体内埋め込み型電極により記録したラットの心電図を示す波形である(Scale bar 1秒 50mV)。
【
図36】PDMSにより被覆された導電性複合繊維束における薬物輸送の速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0088】
以下、本発明の第一から第四の態様について、本発明の好ましい例や実施形態を、図面を用いて説明する。ただし、本発明は以下の各例や実施形態のみに限定されるものではない。例えばこれら好ましい例や実施形態の構成要素や条件同士を適宜組み合わせてもよい。また各態様間で好ましい例を互いに使用しても良い。また問題の無い限りその他の構成要素と組み合わせたりしてもよい。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、位置、数、サイズ、量など、種々の変更を加えることが可能である。
例えば
図1の説明において好ましいとされた例は、特に断りの無い限り、本態様の他の例でも好ましく使用できる。
《第一の態様について》
以下、本発明の第一の態様の第一の態様の実施形態について、図面を参照して説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されない。
本発明の第一の態様の第一の態様は、導電性高分子繊維、及び生体電極に関する。より詳しくは、基材繊維に導電性高分子が含浸又は付着された導電性高分子繊維、及び前記導電性高分子繊維を備えた生体電極に関する。
<第一の態様の第一実施形態>
図1に示す本発明の導電性高分子繊維10(第一実施形態)は、基材繊維11に、導電性高分子としてPEDOT-PSS{ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)}を含む導電体12が被覆された繊維である。
図1は導電性高分子繊維10の長手方向の断面図であり、
図3はその長手方向に直交する方向の断面図である。導電性高分子繊維10は、基材繊維11を芯として、その周囲に導電体12が被覆されているので、両者の密着面積が大きくなっており、互いに充分に接着した複合繊維となっている。この構成であると、導電体12が基材繊維11によって補強されているので、導電体12だけからなる繊維と比べて強度を強くすることができる。特に、乾燥状態及び湿潤状態における強度に優れたものとなる。また、芯である基材繊維11の柔軟性が導電性高分子繊維10に付与される。
【0089】
基材繊維11の種類は、高分子(ポリマー)からなるものであれば特に制限されない。
例えば、合成繊維、植物性の繊維、動物性の繊維などが用いられる。単一の材料からなってもよいが、混合物であっても良い。
前記合成繊維としては、例えばナイロン、ポリエステル、アクリル、アラミド、ポリウレタン、炭素繊維などが挙げられる。前記植物性の繊維としては、例えば綿、麻、ジュートなどが挙げられる。前記動物性の繊維としては、例えば絹、羊毛、コラーゲン、動物組織を構成する弾性繊維などが挙げられる。
【0090】
例示した基材繊維材料の中でも、導電体12との密着性に優れ、乾燥状態及び湿潤状態における強度が強く、且つ衣料品等の用途に適した柔軟性を有する、動物製の繊維(蛋白質含有繊維)が好ましい。更に後述のPEDOT-PSSに対する接着性及び親水性に特に優れた、シルク(絹)繊維がより好ましい。
基材繊維は、シルク単体であることも好ましい。必要に応じて混合物であることも好ましい。シルク混合物である場合、シルクの含有率は0.1%以上100%未満であってもよく、1%以上95%以下であっても良く、3%以上90%以下であってもよく、10%以上80%以下であっても良く、30%以上70%以下であってもよく、40%以上60%以下であってもよい。目的に応じて適宜別の材料と混合することも好ましい。
【0091】
基材繊維11として使用し得るシルク繊維としては、例えば、蚕蛾、クモ、蜂の天然シルク繊維及び遺伝子組み換え技術を用いた人工のシルク繊維が挙げられる。シルクはフィブロインと呼ばれる蛋白質を含有し、衣料や手術用の糸に利用されるように、親水性、生体親和性、染色性に優れた繊維であり、最も古くから人類に利用されてきた繊維の一つである。このため、基材繊維11として好適に用いられる。
【0092】
基材繊維11に用いるシルク繊維は、膠質成分であるセリシンを除去していない無加工の生糸、セリシンの一部又は全部を除去した練糸、のいずれであっても良い。導電体12との密着性及び繊維強度を高める観点から、練糸がより好ましい。
【0093】
基材繊維11の直径(太さ)は特に制限されず、用途に応じて適宜選択できる。例えば、0.1μm~1mmや、1μm~1mmや、1μm~0.5mmなどの範囲等も、直径の例として挙げられる。衣料品、生体電極、バイオインターフェース等に用いる場合は、例えば、1μm~100μmの直径であることが好ましい。
基材繊維11の長さは特に制限されず、用途に応じて適宜選択できる。例えば、生体組織への埋め込み用の電極としては10μm~10cm、体表のバイオインターフェースに用いる場合は1mm~50cm、衣料品への織り込み又は編み込みには繊維材料として1cm~100mなどとすることができる。これに限定されず、必要に応じて選択してよい。
【0094】
基材繊維11(41)は特に限定されず、必要に応じて選択できる。例えば、複数の基材繊維を撚り合わせて、所望の太さの撚り糸にしたものや(
図6に示す例参照)、種類の異なる基材繊維を混紡した混紡糸を使用しても良い。基材繊維の形状は、上記のような糸状のみに限定されるものではなく、例えば、紐状、布状、リボン状等の基材繊維を使用しても構わない。また、基材繊維11の親水性を向上させる目的で、プラズマ処理や細孔処置、化学的コーティングを施したものを使用しても構わない。
【0095】
導電体12は、導電性高分子(導電性ポリマー)を含むものであり、導電性高分子だけからなるものであっても良いし、他の添加剤を含むものであっても良い。
【0096】
本発明において使用する導電性高分子は、導電性及び親水性に優れるPEDOT-PSS{ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)}である。PEDOT-PSSは、モノマーである3,4-エチレンジオキシチオフェンが、ポリ(4-スチレンスルホン酸)の存在下で重合して得ることができる、導電性ポリマーである。PSSは、PEDOTに負電荷を付与するドーパントとして機能する。本発明では、導電性高分子繊維の導電性を高める観点から、導電性高分子にはドーパントが含有されていることが好ましい。
【0097】
本発明者らは、PEDOT-PSSとシルク等の蛋白質を含む繊維との接着性が特に優れ、両者の接着面が容易には剥離しないことを見出した。
この知見に基づき、本発明においては、基材繊維11としてシルク繊維を使用し、且つ、導電体12に含まれる導電性高分子としてPEDOT-PSSを使用することがより好ましい。
【0098】
また、他に使用しうる導電性高分子として、ポリアニリンスルフォン酸やポリピロールが例示できる。導電体12に含まれる導電性高分子は、1種であっても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
本発明で用いる導電性高分子の分子量は特に制限されない。例えば数千~数十万の範囲のものが使用できる。必要に応じて任意に選択して良い。具体例を挙げれば、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1000~900000の範囲であってもよく、3000~450000の範囲であっても良く、5000~50000の範囲であってもよい。ただしこの範囲に限定されるものではない。
【0099】
導電体12を形成する方法として、PEDOT-PSS等の導電性高分子及び希釈溶媒を含む溶剤を基材繊維11上に塗工し、溶媒を乾燥させることにより、導電性高分子だけからなる導電体12を形成する方法が例示できる。ただし、導電体12は導電性高分子以外の添加剤を含有していてもよい。
【0100】
前記添加剤としては、例えばグリセロール、ソルビトール、ポリエチレングリコール‐ポリプロピレングリコールコポリマー、エチレングリコール、スフィンゴシン、ホスファチジルコリン等が挙げられる。導電体12に含まれる添加剤は1種であっても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0101】
上記例の添加剤は、PEDOT-PSS等の導電性高分子繊維の濡れ特性を調整する目的や、柔軟性を付与することにより、生体電極としての使用時における生体組織(皮膚や組織)との親和性を向上させる目的で、使用することができる。
なお、前記濡れ特性の調整の具体例としては、例えば吸水性の調整、湿潤・乾燥時の過剰な膨張・収縮の防止等が挙げられる。
【0102】
PEDOT-PSSと前記添加剤とを組み合わせて用いると、導電体12の濡れ特性の調整が容易となり、特に過剰な膨張及び収縮の防止がより容易となるので好ましい。この理由としては、高い吸水性を有するPEDOT-PSSを予め添加剤とともに含有されることによって、水分が後から浸入してくる余地が少なくなることが一因だと考えられる。
またPEDOT-PSSの濡れ特性を調整し、更に柔軟性を付与する目的で用いる添加剤としては、上記例のうち、特にグリセロール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、及びポリエチレングリコール‐ポリプロピレングリコールコポリマーが好ましい。
【0103】
前記添加剤及びPEDOT-PSSを含有する導電体12を有する導電性高分子繊維10は、高湿度環境で使用した場合にも、過剰な吸水が起こらず、高い繊維強度を有し、導電性に優れたものとなる。また、優れた柔軟性も併せ持つので、PEDOT-PSSのごわごわした感触(剛直性)が緩和され、生体組織との接触性、親和性に優れるので、ノイズの少ない生体信号の測定が可能な生体電極を構成することができる。
【0104】
導電体12に含まれる添加剤としては、上記例に限定されず、例えば界面活性剤、アルコール、天然多糖類、糖アルコール、アクリル系樹脂、ジメチルスルホキシドなどの公知の有機溶媒等を用いることもできる。
【0105】
上記界面活性剤としては、公知の、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0106】
上記カチオン性界面活性剤としては、例えば第4級アルキルアンモニウム塩、ハロゲン化アルキルピリジニウムなどが挙げられる。
上記アニオン性界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、脂肪酸塩などが挙げられる。
上記非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0107】
上記アルコールとしては、公知の1価アルコール及び多価アルコールを幅広く使用することができる。これらのアルコールは1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0108】
1価アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどが挙げられる。これらのアルコールを構成する炭素骨格は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよい。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコールなどのグリコール類、グリセリンなどの鎖状多価アルコール、グルコースやスクロースなどの環状多価アルコール、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールコポリマーなどのポリマー状多価アルコールなどが挙げられる。
【0109】
天然多糖類としては、例えばキトサン、キチン、グルコース、アミノグリカンなどが挙げられる。
糖アルコールとしては、例えばソルビトール、キシリトール、エリトリトールなどが挙げられる。
上記のアクリル樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸メチル樹脂などが挙げられる。
【0110】
基材繊維11の周囲に被覆された導電体12の厚さhは特に制限されず任意で選択できる。本願の効果が得られる限りいかなる厚さであっても良い。例えば基材繊維11の直径Lの0.001~2倍の厚さとすれば良い。厚さhは必要に応じて選択でき、例えば、基材繊維11の直径Lの0.01~1倍の厚さであっても良く、0.001~0.1倍の厚さであっても良く、1~2倍の厚さであっても良く、または、0.1~1倍の厚さであっても良い。より具体的には、例えば2~3デニール(D)の蚕のシルク繊維、すなわち繊維直径が約10~15ミクロンのシルク繊維を芯とした場合、0.01ミクロン~10ミクロンの厚さとすればよい。なお繊維の直径などは任意の方法で測定できるが、例えば、電子顕微鏡写真などで確認することもできる。
必要に応じて、基材繊維は導電体に完全に覆われていなくても良い。本発明において、厚さとは基材繊維の中心から表面に向かう線が導電体に覆われる長さであっても良い。
【0111】
導電体12が基材繊維11の周囲を被覆することにより、導電性高分子繊維10の導電性がより高まるとともに、複数の導電性高分子繊維10を接触させて導通させることがより容易となる。また、上記厚さの範囲であると、導電性高分子繊維10の柔軟性を損なわずに、より優れた導電性を有する繊維とすることができる。上記範囲において、厚いほど、より高い導電率を有する繊維とすることができる。つまり、導電体12の厚さを調整することにより、導電性高分子繊維1の導電率又は電気抵抗を調整できる。
【0112】
<導電性高分子繊維の作成法(1a)>
図1に示す導電性高分子繊維10のように、導電体12を基材繊維11の表面に付着又は被覆する方法としては、以下の方法が例として挙げられる。
まず導電性高分子を含む水溶液(例えば、市販のPEDOT-PSS溶液(Heraeus 社:CLEVIOS P))を溶液バス中で基材繊維11の表面に付着させる。この後、又は、ローラー若しくはブラシを用いて基材繊維11の表面に前記溶液を均一に塗布した後、前記溶液に含まれる水分の一部を乾燥除去する。次いで、アセトン、メタノール、エタノール等の有機溶媒または塩化マグネシウム溶液等の固定液を塗布して、PEDOT-PSS等の導電性高分子をゲル化する。このことによって、基材繊維11の表面にPEDOT-PSS等の導電性高分子を含む導電体12を固定する方法(以下、作成法1aということがある。)が例示できる。前記水溶液の一例として、PEDOT-PSS等の導電性高分子が0.1~50(v/v)%の濃度で含有される水溶液が挙げられる。この濃度は必要に応じて選択できる。例えば、濃度は、1~30%でも良いし、30~50%でも良いし、0.5~15%などであっても良い。なお、前記水溶液中には、必要に応じて、前記添加剤を含有させることができる。
また本発明では、導電性高分子を含む水溶液としては、例に挙げたCLEVIOS P以外にも、PEDOT-PSSを含む溶液であれば、如何なるものも使用できる。
【0113】
<添加剤を含有させる方法>
導電体12に添加剤を含有させる方法としては、作成法1aによって基材繊維11に塗工した導電体12を乾燥させた後、得られた導電性高分子繊維10を用いて、その表面に添加剤を塗布する方法や、添加剤を含む溶液中に導電性高分子繊維10を所定の時間で浸漬した後、その表面に残る余剰の添加剤の溶液を除去する方法が例示できる。また、別の方法として、基材繊維11の表面に塗工する導電性高分子を含む溶液中に、添加剤を混合させた混合液を使用して、導電性高分子と添加剤とを一緒に塗布又は浸漬させる方法も適用できる。
【0114】
前記混合液の一例として、PEDOT-PSS等の導電性高分子が0.1~50(v/v)%、グリセロール等の添加剤が0.1~50(v/v)%の濃度で含有される水溶液が挙げられる。
本発明における導電体12中の添加剤の濃度は特に制限されず、例えば0.1~50wt%とすることができる。この濃度は必要に応じて選択でき、例えば、0.1~20wt%であってもよく、20~50wt%であってもよく、0.1~5wt%であってもよい。
【0115】
<第一の態様の第二実施形態>
図2に示す本発明の導電性高分子繊維20(第二実施形態)は、基材繊維21に、導電性高分子を含む導電体22が含浸された繊維である。
図2は導電性高分子繊維20の長手方向の断面図であり、
図4はその長手方向に直交する方向の断面図である。
基材繊維21の内部に導電体22が染み渡っているので、両者が一体化した複合繊維となっている。この構成であると、導電体22が基材繊維21から脱落する恐れが無い。また、導電体22が基材繊維21によって補強されているので、導電体22だけからなる繊維と比べて強度を強くすることができる。また、基材繊維21の柔軟性を併せ持つ。
なお本発明では、基材繊維の内部空間全てに導電体が満たされていても良いが、満たされていない空間があっても良い。また基材繊維の内部中心まで導電体が到達していることが好ましいが、必要に応じて到達していない部分があっても良い。
【0116】
基材繊維21及び導電体22を構成する材料は、第一実施形態で説明した基材繊維11及び導電体12を構成する材料が適用できる。また、第一実施形態と同様に、導電体22には前記添加剤を含有させることが好ましい。
【0117】
<導電性高分子繊維の作成法(1b)>
図2に示す導電性高分子繊維20のように、導電体22を基材繊維21の内部に浸漬する方法としては、基材繊維21を溶液バス中において、導電性高分子を含む水溶液(例えば、市販のPEDOT-PSS溶液(Heraeus CLEVIOS P))に基材繊維21を所定時間で浸漬させた後、前記溶液に含まれる水分の一部を乾燥除去し、次いで、アセトン、メタノール、エタノール等の有機溶媒または塩化マグネシウム溶液等の固定液を塗布して、PEDOT-PSSをゲル化することによって、基材繊維21の表面にPEDOT-PSSを含む導電体22を固定する方法(以下、作成法1bということがある。)が例示できる。
なお、前記水溶液中には、必要に応じて、前記添加剤を含有させることができる。
【0118】
導電性高分子を含む溶液が基材繊維21内へ浸透することを促進する方法としては、前記溶液のpHを調整して浸漬する方法、浸漬時に基材繊維21に張力や圧縮などの機械的操作を加える方法、浸漬時に前記溶液を加熱する方法、浸漬時に減圧や加圧などの処理をする方法など、を例示できる。具体的には、シルク等の基材繊維21をPEDOT-PSS溶液中に浸漬させる場合、前記溶液のpHを1~6に調整することが好ましい。
【0119】
<第一の態様の第三実施形態>
図5に示す本発明の導電性高分子繊維30(第三実施形態)は、基材繊維31に、導電性高分子を含む導電体32が含浸され、基材繊維31の周囲に金属33が被覆され、さらに被覆された金属又はカーボン33の周囲に導電体34が被覆されてなるものである。
図5は導電性高分子繊維30の長手方向に直交する方向の断面図である。
以下では、特に明記しない限り、「金属又はカーボン」を金属類と呼ぶ。
【0120】
第三実施形態は、前述の第一実施形態及び第二実施形態の利点を併せ持つ。また、被覆された金属類33そのものが、導電性高分子繊維30の導電性を向上させることに寄与する。金属類33は導電体32及び導電体34に挟まれているので、金属類33は繊維表面に露出していない。このため、金属類33の腐食や劣化が防止される。なお、必要に応じて、金属類33の一部を繊維表面に露出させても良い。
【0121】
基材繊維31及び導電体32,34を構成する材料は、第一実施形態及び第二実施形態で説明した基材繊維及び導電体を構成する材料が適用できる。また、第一実施形態及び第二実施形態と同様に、導電体32,34には前記添加剤を含有させることが好ましい。なお、導電体32を構成する材料と導電体34を構成する材料とは、同一であっても良いし、異なっていても良い。
【0122】
金属類33の種類は特に制限されず、例えばチタン、金、銀、銅、カーボン等が挙げられる。これらの金属類のうち、金が、耐腐食性、導電性、延性に優れるので好ましい。
前記カーボンとしては、炭素原子を主原料として含むものが好ましく、例えばカーボンブラック、グラッシーカーボン、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン等を含む炭素材料が挙げられる。これらの炭素材料中の炭素の含有量は、80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましく、95~100質量%がさらに好ましい。
金属類33は、1種の金属類を単独で用いても良いし、2種以上の金属類を組み合わせて用いても良い。
【0123】
基材繊維31の周囲に被覆された金属類33(金属層又はカーボン層)の厚さは特に制限されず、金属類の種類に応じて適宜変更できる。例えば0.1nmから1mmの範囲なども挙げることができる。例えば金を用いた場合、その厚さは1nm~2μmとすることができる。金属層33は、スパッタ法や無電解メッキ法等の公知の成膜方法で形成することができる。また、カーボン層はカーボン蒸着等の公知の成膜方法で形成することができる。
【0124】
<導電性高分子繊維の作成法(2a)>
導電性高分子繊維30を作成する方法としては、次の方法が例示できる。
まず、作成法1bによって得られた導電性高分子繊維20に対して、公知の成膜方法によって金属33を被覆する。ここで得られた繊維を導電性高分子を含む水溶液(例えば、市販のPEDOT-PSS溶液(Heraeus CLEVIOS P))に浸漬して、この金属33を電極として利用し、+0.5V~20Vの直流電圧を印加することによって、PEDOT-PSS等の導電性高分子が金属33の表面に電気化学的に固定された導電性高分子繊維30を作成できる。この方法を以下では、作成法2aと呼ぶことがある。
ここでは、導電性高分子繊維20の周囲に金属層を形成する方法を例示したが、単なる基材繊維に金属層を形成して、同様に前記金属層の周囲に導電性高分子を電気的に固定する方法を採用しても構わない。
【0125】
なお、前記溶液に、エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を添加することによって、導電性が一層優れた導電性高分子繊維30が得られる。エチレンジオキシチオフェンの量は任意で選択できる。例えば、前記溶液に、エチレンジオキシチオフェンの0.1w/v%溶液(HeraeusCLEVIOS M V2)などを添加してもよい。
【0126】
<導電性高分子繊維の作成法(2b)>
金属33を形成せずに、電気化学的に導電性高分子を固定する方法も例示できる。すなわち、作成法1bによって得られた導電性高分子繊維20は、既に導電性を有する。この導電性を利用して、作成法1bで得られたような導電性高分子繊維20を、導電性高分子を含む溶液(例えば、市販のPEDOT-PSS溶液(Heraeus CLEVIOS P))に加え、この中で、+0.5V~20Vの直流電圧を印加することによって、PEDOT-PSS等の導電性高分子が導電性高分子繊維20の周囲の表面に電気化学的に固定された導電性高分子繊維を作成できる。この方法を以下では、作成法2bと呼ぶことがある。なお、前記水溶液中には、必要に応じて、前記添加剤を含有させることができる。
【0127】
作成法2bによって得られる導電性高分子繊維の構成の図示は省略するが、
図5に示す導電性高分子繊維30から金属33を除いて、前記金属33が導電体34に置き換わった構成となる。
【0128】
<第四実施形態>
図6に示す本発明の導電性高分子繊維40(第四実施形態)は、複数の基材繊維41の間に、導電性高分子を含む導電体42が基材繊維41に密着して配されてなるものである。
図6は導電性高分子繊維40の長手方向に直交する方向の断面図である。基材繊維の数は任意に選択でき、2以上の整数である。例えば2,3,4,5,6、7または8などの数であっても良い。1~1000の範囲に含まれる数や、1~30の範囲に含まれる数などであっても良い。導電性高分子繊維40は、複数の基材繊維41が撚り合わされたり編まれたりすることによって、撚り紐、織布、不織布などの高次構造体を形成したものであっても良い。
図6に示す例のように、複数の基材繊維41の間に、導電性高分子であるPEDOT-PSSを含む導電体42が基材繊維41に密着して配され、複数の基材繊維41が撚り合わされたり編まれたりすることにより、導電性高分子繊維40を、撚り紐、織布、不織布等の高次構造体として構成することができる。
導電体42が複数の基材繊維41同士を接着する役割を担うので、前記高次構造体の強度を高めることができる。さらに、複数の基材繊維41の間には、導電体42を比較的大量に配することができるので、より導電性に優れた導電性高分子繊維となる。なお、ここで比較した量は、単一の基材繊維の表面に配された導電体の量である。
【0129】
導電性高分子繊維40を作成する方法は特に制限されず、例えば前記高次構造体を導電性高分子を含む溶液に浸漬して、これを乾燥させる方法が挙げられる。
複数の基材繊維41間の繊維間隔は任意に選択できる。例えば、基材繊維の直径の0.01~3倍程度を、基材繊維41間の繊維間隔としてもよい。例えば、直径10μm~15μmの基材繊維41を用いた場合、0.01μm~50μmとすることができる。このような範囲の繊維間隔であると、導電体42を繊維間に充分に配することができる。
【0130】
基材繊維41及び導電体42を構成する材料は、第一実施形態で説明した基材繊維及び導電体を構成する材料が適用できる。また、第一実施形態と同様に、導電体42には前記添加剤を含有させることが好ましい。
【0131】
<第一の態様の第五実施形態>
図7に示す本発明の導電性高分子繊維50(第五実施形態)は、導電性高分子を含む導電体52が内部に含浸された複数の基材繊維51の間に、導電性高分子を含む導電体54が基材繊維51に密着して配されてなるものである。
図7は導電性高分子繊維50の長手方向に直交する方向の断面図である。
【0132】
第五実施形態の構成は、基材繊維51の内部に導電体52が含浸されている以外は、第四実施形態の構成と同様である。本実施形態では、導電体52によって導電性がより向上している。
【0133】
導電体52を構成する材料と導電体54を構成する材料とは、同一であっても良いし、異なっていても良い。第五実施形態の作成方法は、前述の第一~第四実施形態の作成方法を適用できる。
【0134】
<第一の態様の第六実施形態>
図8に示す本発明の導電性高分子繊維60(第六実施形態)は、基材繊維61に、導電性高分子を含む導電体62が被覆されており、その周囲に絶縁層63が被覆されてなるものである。
図8は導電性高分子繊維60の長手方向に直交する方向の断面図である。
基材繊維61及び導電体62が絶縁層63によって保護されているため、耐久性に優れた繊維となる。なお、必要に応じて、絶縁層63の一部を除去して導電体62の一部を繊維表面に露出させた構成とすることもできる。
【0135】
絶縁層63の材料としては、公知の絶縁材料が適用できる。生体親和性や柔軟性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やシリコーン樹脂(シリコーンゴム)が好ましい。絶縁層63の厚さは特に制限されない。任意に選択でき、例えば、0.1μm~3mmや、0.1μm~2mmや、1μm~2000μmや、10μm~500μmなどの範囲とすることができる。また、公知の樹脂コーティング方法によって、絶縁層63で基材繊維61及び導電体62を被覆することができる。
【0136】
<生体電極>
本発明にかかる導電性高分子繊維は、高湿度の使用条件においても十分な強度、導電性及び柔軟性を有するので、生体電極やバイオインターフェースのみならず衣料品に好適に用いられる。
本発明にかかる導電性高分子繊維を複数束ねて糸や紐を構成することによって、生体信号の測定に充分な導電性を得ることができる。前記繊維には導電性高分子であるPEDOT-PSSが配されているため、前記繊維と測定対象とが接触することにより、直ちに導通を得ることができる。したがって、前記繊維(糸)を測定対象に、接触、又は、結紮、巻き付け、縫い込み、折り込みなどすることによって、生体信号を長期間安定して記録することが可能である。
本発明にかかる導電性高分子繊維を電極として用いて生体電極を作成する場合、前記繊維を束ねた糸を結んだり、編んだり、縫い込んだり、束ねたりすることによって、布、ベルト、ストラップなどの様々な形状の生体電極を提供することができる。さらにこの導電性高分子繊維を結合し不織布等に成形することによって、パッチ状(布状)の生体電極を作成することもできる。
【0137】
《第二の態様について》
本発明の第二の態様は、導電性高分子繊維を製造する方法及び装置に関し、特に、導電性高分子を含む導電体を絶縁性の繊維(繊維束)に含浸あるいは付着させる、導電性高分子繊維の製造方法及び製造装置に関する。
以下、本発明の第二の態様の導電性高分子繊維の製造方法及び製造装置の実施の形態について、主に
図13~
図18を適宜参照しながら説明するが、本発明の第二の態様は、以下の実施形態に限定されるものではない。ここで、
図13~16は本実施形態で説明する導電性高分子繊維の製造装置を示す模式図である。
図1、3や6等は、本実施形態の製造方法及び製造装置で得られる導電性高分子繊維の一例を示す模式図である。
【0138】
[導電性高分子繊維]
本発明の第二の態様に係る製造方法及び製造装置は、上記第一の態様で述べた導電性高分子繊維を好ましく形成することができる。第一の態様で述べた好ましい条件もここで使用できる。例えば、
図1、3や6に記載した導電性高分子繊維を容易に形成することができる。なお本態様では、導電体12に含まれる導電性高分子としてPEDOT-PSSを使用することがより好ましいが、本実施形態で用いる基材繊維は、シルク繊維に限定されるものではなく、その他、一般的な繊維材料を何ら制限無く用いることができる。導電性高分子としてPEDOT-PSSを含むことが必須とすれば良い。
【0139】
本態様においては、後述の製造方法及び製造装置によって導電性高分子繊維10を製造するにあたり、まず、基材繊維11を導電体12の溶液中に浸漬することで、基材繊維11に導電体12を含浸及び/又は付着させる。この際、導電体12の溶液としては、導電性高分子であるPEDOT-PSSに加えて希釈溶媒を含み、さらに、必要に応じて導電性高分子以外の添加剤を含有することができる。
【0140】
[導電性高分子繊維の製造方法及び製造装置]
以下に、本発明に係る導電性高分子繊維の製造方法及び製造装置の一実施形態について、主に
図13~16を参照しながら詳述する。
【0141】
「製造装置」
まず、本実施形態で用いる製造装置について詳述する。
図13に示す導電性高分子繊維の製造装置(以下、製造装置と略称することがある)210は、浸漬容器205を備えている。浸漬容器205は、導電性高分子としてPEDOT-PSS{ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)}を含む導電体の溶液204が内部に収容され、糸状、紐状、布状又はリボン状の繊維束からなる絶縁性の基材繊維211を導電体の溶液204に浸漬させることで、基材繊維211に導電体(
図17A、17B等に示す導電体212も参照)を含浸及び/又は付着させるための浸漬容器である。また、製造装置210は、基材繊維211を浸漬容器205に収容された導電体の溶液204から垂直に引き上げるための巻き取り部209と、垂直に引き上げられる基材繊維211を走行させながら通電することで、基材繊維211に含浸及び/又は付着した導電体212を電気化学的に重合固定する複数の電極202、203とを備えている。そして、本実施形態で説明する製造装置210は、導電体212が重合固定された基材繊維211に向けて送風することで乾燥させるための乾燥部208と、基材繊維211の近傍における雰囲気湿度を調整可能なチャンバー(調湿部を含む)207とを具備し、概略構成されている。
【0142】
浸漬容器205は、上述したような、導電性高分子としてPEDOT-PSSを含む導電体の溶液204が内部に収容される容器であり、従来公知のものを用いることができる。また、浸漬容器205内には、導電体の溶液204に浸漬されるように糸巻き206が収容されている。糸巻き206に捲回された糸状、紐状、布状又はリボン状の繊維束からなる絶縁性の基材繊維211が導電体の溶液204に浸漬されることで、基材繊維211に導電体212を含浸及び/又は付着させる。
【0143】
本実施形態では、糸巻き206についても、従来公知のものを使用することができる。
例えば、ロールボビン状等の形状とされ、モーター等で回動可能とされることで、基材繊維211を捲回することが可能な構成のものを用いる。この糸巻き204には、導電体212が含浸及び/又は付着させる処理が行われる前の基材繊維211が捲回されており、以下に説明する巻き取り部209により、処理後の基材繊維211、即ち、導電性高分子繊維201が巻き取られるのに伴い、糸巻き204に捲回された基材繊維211が解かれてゆく。なお、糸巻き204の形状は、上記のロールボビンに限定されず、例えば、布状あるいは紐状の基材繊維を用いる場合には、その形態に適合した巻き取り軸を用いればよい。
【0144】
巻き取り部209は、浸漬容器205に収容された導電体の溶液204から、基材繊維211を垂直方向に一定速度で引き上げて基材繊維211を巻き取り、捲回するものである。これについても、上記の糸巻き204と同様、ロールボビン状等の形状とされた回動可能なものを用いることができる。また、巻き取り部209は、詳細を後述するように、基材繊維211の走行速度を調節することで、基材繊維211に対して電気化学的に重合固定される導電体212の量を調節することが可能な構成とされている。
【0145】
本実施形態では、巻き取り部209によって、導電体の溶液204から基材繊維211を垂直に引き上げることで、基材繊維211に対する導電体212の含浸及び/又は付着する量が一定となるので、通電による電気化学的な重合固定が均一となる。
【0146】
図13に示すように、製造装置210には、巻き取り部209によって垂直に引き上げられる基材繊維211を走行させながらかつ通電し、基材繊維211に含浸及び/又は付着した導電体212を電気化学的に重合固定する、複数の電極202、203が交互に設けられている。これら複数の電極202、203は、基材繊維211の長手方向において複数設けられるとともに、基材繊維211の横径方向の両側に各々配置されることで、複数の電極202、203によって基材繊維211を挟み込むように構成されている。また、これら複数の電極202、203には、図示略の直流安定化電源から定電流もしくは定電圧が印加される。
なお本願発明の効果が得られる限り、複数の電極202、203は垂直に配置されていなくてもよい。電極間は接触せず距離が設けられていることが好ましいが、距離は任意に選択される。また電極の数も任意で選択でき、陽極と負極の電極の組み合わせが1つ以上あればよい。例えば、前記組み合わせが1から10この範囲でも良いし、2から8の範囲でも良いし、3から5の範囲でもよい。
【0147】
また、
図13に示す例では、複数の電極202が陽極、複数の電極203が負極とされている。これにより、
図13中においては、導電体212が含浸及び/又は付着した基材繊維211が垂直方向に走行しながら、「正極(+)」~「負極(-)」~「正極(+)」~「負極(-)」の順で各電極を通過する。このように正極と負極が交互に加えられる。
【0148】
複数の電極202、203は、例えば、導電性の金属材料あるいはカーボン材料からなり、垂直に走行する基材繊維211と接触しながら、前記基材繊維211の長手方向で通電を行う。このように、走行する基材繊維211に電極間で通電を行うことで、基材繊維211に含浸及び/又は付着した導電体212に含まれるPEDOT-PSSが重合し、電気化学的に重合固定される。
【0149】
このような複数の電極202、203としては、従来から電極の分野で用いられてきた様々な形状を有する公知の電極、例えば、表面が平滑な金属棒や金属板等を何ら制限無く用いることができる。特に、複数の櫛歯(電極)を有する櫛歯状電極を採用した場合には、基材繊維211に対する導電体212の電気化学的な重合固定の効率をより高めることが可能となる。
【0150】
図14に、
図13中に示した複数の電極(符号202、203)を、複数の櫛歯を有する櫛歯状電極221、231から構成した例の要部拡大図を示す。櫛歯の数は任意で選択して良い。
図14に示す櫛歯状電極221、231は、基材繊維211の長手方向で複数備えられた櫛歯221a、231aを有しており、基材繊維211の径方向両側から前記基材繊維11を挟み込むように配置されるとともに、複数の櫛歯221a、231aが、基材繊維11の径方向両側から、基材繊維211の長手方向で各々交互に組み合わせられるように配置されている。そして、櫛歯状電極221、231は、複数の櫛歯221a、231aを基材繊維211の径方向両側から押し当てつつガイドしながら、
図14中の矢印方向に基材繊維211を走行させて通電する。この際、櫛歯状電極221、231には、端子221b、231bに図示略の直流安定化電源を接続することで、定電流もしくは定電圧が供給される。
【0151】
上述のように、櫛歯状電極221、231は、基材繊維211の走行方向に沿って、陽極(櫛歯221a)と陰極(櫛歯231a)とを交互に配列することにより、基材繊維211と接触することで前記基材繊維211に短時間で繰り返し通電して、PEDOT-PSSを重合、固定化することができる。
【0152】
本実施形態においては、まず、基材繊維211を垂直方向に走行させることにより、固定する導電体212を基材繊維211からなる繊維束の内外に均等に分布させ、偏在を防止している。さらに、複数の電極として櫛歯状電極221、231を用い、櫛歯(陽極)221aと櫛歯(陰極)231aとを交互に連続して配置することにより、基板繊維(繊維束)211に対して、1回の走行で複数回にわたる導電体12の重合固定を行うことができる。
【0153】
また、複数の櫛歯(電極)221a、231aの各々が並列に接続された構成なので、電極間の合成抵抗が低減されるため、印加電圧を低く設定することができる。一般に、各電極への印加電圧を高く設定した場合、水の電気分解やポリマーの加熱による劣化等の問題が生じ易くなることから、印加電圧は、重合固定が可能な範囲で出来るだけ低めに設定することが好ましい。このように、電極への印加電圧を低めに設定した場合には、ポリマーの重合に必要な電流を効率よく流す必要があることから、この観点からも、上記構成の櫛歯状電極221、231を用いることが好ましい。この際、櫛歯状電極221、231への印加電圧は任意に選択できる。例えば、0.1~18(V)の範囲とすることができる。
【0154】
本実施形態において、複数の櫛歯221a、231aを備える多極電極とされた櫛歯状電極221、231を用いた構成は、通常、既に電気化学的に重合したPEDOT-PSS(導電体212)は、重合後、逆方向の電流を流しても分解が生じない、という特性を利用したものである。このため、櫛歯状電極221、231を基材繊維211が走行する過程において、陽極(+極)に接近している際に重合固定が行われ、多極電極とされた櫛歯状電極221、231間を走行することで電気化学重合が繰り返され、PEDOT-PSSを含む導電体212が基板繊維211上に重積される。
【0155】
櫛歯状電極221、231のサイズとしては、特に限定されないが、複数の櫛歯221a(231a)の櫛歯間距離(電極間距離)は、1~50mmの範囲が好ましく、電気化学的な重合固定の処理効率の観点からは、10mm程度とすることが好ましい。
【0156】
なお、
図13中に示す複数の電極(符号202、203)は、上述したような櫛歯状電極221、231に限定されるものではない。例えば、複数の電極として、
図15A~15Cに詳細な要部拡大図を示すように、基材繊維211の長手方向で複数配置されるとともに、基材繊維211の径方向両側から前記基材繊維211を挟み込むように配置された回転子電極222、232から構成しても良い。
図15A~15Cに示す例においては、基材繊維211の径方向における一方の側に配置される回転子電極232がローラー状であるとともに、他方の側に配置された回転子電極222がプーリー状とされている。これら回転子電極222、232が、基材繊維211の長手方向で各々交互に配置されている。
【0157】
図15Cに示すように、複数の電極として回転子電極222、232を用いた場合には、基材繊維211にローラー状の回転子電極232を押し当てつつ、プーリー状の回転子電極222に形成された溝部222bでガイドしながら、基材繊維211を複数の各電極222、232間で走行させて通電を行う。
【0158】
図15Aに示すように、ローラー状の回転子電極232は、本実施形態においては陰極(-)とされ、金属軸部232cにローラー232aが組み付けられて構成される。金属軸部232cには、図示略の図示略の直流安定化電源の(-)側が接続されるため、この金属軸部232cとしては、導電性を有する金属材料が用いられる。また、ローラー232aとしても、例えば、ステンレススチール材料からなり、回転用のボールベアリングが内蔵された金属製小型ローラーが用いられる。
【0159】
また、
図15Cに示すように、ローラー状の回転子電極232は、その外周面232bに、垂直方向に走行する基材繊維211が接触する。このため、ローラー232aのサイズとしては必要に応じて選択可能であるが、基材繊維211の走行速度等を考慮し、例えば、直径が6mm程度、幅が3mm程度のものを用いることができる。
【0160】
図15Bに示すように、プーリー状の回転子電極222は、本実施形態においては陽極(+)とされ、金属軸部222cに、その外周面に溝部222bが形成されたプーリー222aが組み付けられて構成される。金属軸部222cには、図示略の図示略の直流安定化電源の(+)側が接続されるため、この金属軸部222cとしては、ローラー状の回転子電極232の場合と同様、導電性を有する金属材料が用いられる。また、プーリー222aとしても、例えば、ステンレススチール材料からなり、回転用のボールベアリングが内蔵された金属製小型プーリーが用いられる。
【0161】
また、
図15Cに示すように、プーリー状の回転子電極222は、その外周面に形成された溝部222bにおいて、垂直方向に走行する基材繊維211が接触してガイドされる。このため、プーリー222aのサイズとしても、ローラー状の回転子電極232の場合と同様必要に応じて選択可能であるが、基材繊維11の走行速度等を考慮し、例えば、直径が8mm程度、幅が4mm程度のものを用いることができる。
【0162】
また、
図15Cに示すように、本実施形態では、プーリー状の回転子電極222とローラー状の回転子電極232とが、基材繊維211の垂直走行方向に沿って交互に、即ち、陽極(+)と陰極(-)とを交互に配置した構成とされている(
図15A~15C中の符号202、203も参照)。
【0163】
そして、導電体212が含浸及び/又は付着した基材繊維(繊維束)211は、それぞれ金属軸部222c、232cに固定された、金属製でベアリングを内蔵するプーリー状の回転子電極(陽極)222及びローラー状の回転子電極(陰極)32に接触する。これら各回転子電極222、232に、図示略の直流安定化電源から定電流もしくは低電圧を給電することで、基材繊維211にPEDOT-PSSを含む導電体212を電気化学的に重合固定する。
【0164】
上述のような回転子電極222、232を用いた場合の、PEDOT-PSSを含む導電体212の重合固定に必用な電気量は任意で選択できるが、例えば、基材繊維として直径が約280μmのシルク糸(9号:シルク糸:フジックス社製)を用いた場合、10mmあたりで0.1~6mCであり、特に、3mC程度で良好な重合固定が可能となる。
【0165】
上述のような回転子電極222、232は、走行する基材繊維211とともに回転する。このことから、接触に伴う摩擦が低減されるため、電気化学的に基材繊維211に固定されたPEDOT-PSSを含む導電体212が摩擦によって剥離するのを防止できる。
即ち、導電性高分子繊維201におけるポリマーの表面破壊が生じるのを回避することが可能となる。
【0166】
また、本実施形態の製造装置210においては、ローラー状の回転子電極232を基材繊維211に押し当てつつ、プーリー状の回転子電極222の溝部222bでガイドすることで、糸状の繊維束の配列形状を整える。このことにより、基材繊維211に含浸及び/又は付着する導電体212の量を調整しながら通電を行うことが可能な構成を採用することも可能である。この場合、例えば、プーリー状の回転子電極222及びローラー状の回転子電極232の形状や配置形態、ならびに、基材繊維(繊維束)201の張力や走行速度、回旋状態を調節する。これにより、基材繊維(線維束)の開繊、集束機能、繊維間隔、繊維束の配列(形状)等を調整することができる。
【0167】
そして、上述のような調節を行うことで各基材繊維間の間隙を調整することにより、例えば、
図6に示す例のように、任意の量の導電体212(42)を各基材繊維間に保持、固定化することが可能となる。特に、プーリー状の回転子電極422及びローラー状の回転子電極232を利用した、基材繊維(繊維束)211の形状セットを行うことで、上述のような各種形状に調整することが可能となる。
【0168】
ここで、繊維束のセット形状としては、例えば、繊維束の撚りの有無、繊維束の断面形状(扁平、真円、楕円、四角形、等)、線維束の回旋(撚りを戻して線維束を直線化、あるいは、さらに撚りを加える)等、各種形状が挙げられ、適宜、選択して調整しながら形状セットを行えば良い。本実施形態では、上述のような繊維束の形状セットを行うことで、所定の形状にセット(成形)された導電性高分子繊維201の複合繊維束が得られる。
このような複合繊維束を形成する場合には、
図6に示す例のように、複数の基材繊維211(41)の間に、導電性高分子であるPEDOT-PSSを含む導電体212(42)が基材繊維211(41)に密着して配され、複数の基材繊維211(41)が撚り合わされたり編まれたりすることにより、撚り紐、織布、不織布等の高次構造体とすれば良い。
【0169】
図13に示すように、本実施形態の製造装置210は、上記構成に加え、さらに、導電体212が重合固定された基材繊維211に向けて送風する乾燥部208と、基材繊維211の近傍における雰囲気湿度を調整するチャンバー(調湿部を含む)207とを具備することができる。
【0170】
チャンバー207は、調湿調温機能(調湿部)を備え、庫内の湿度を高湿度に保つことで導電体212の濃度(PEDOT-PSS濃度)を一定に保つ。このようなチャンバー207としては、従来からこの分野で用いられ、浸漬容器205や複数の電極202、203を収容することが可能なサイズとされた恒温恒湿槽等を、何ら制限無く用いることができる。
【0171】
乾燥部208は、導電体212が重合固定された基材繊維211(導電性高分子繊維201)に向けて低湿度の乾燥空気を吹きつけ、乾燥させるものである。例えば、モーターとファン等から構成される、従来公知の送風乾燥手段を何ら制限無く採用することが可能である。
【0172】
また、本実施形態では、さらに、上記のチャンバーを増設し、複数の電極202、203近傍の湿度調整を行うことで、基材繊維(繊維束)211に含浸させたPEDOT-PSS溶液(導電体212)の水分量の調整を行うことが可能となる。
また、チャンバーを3室構成として、各々の湿度を独立して調整する場合には、以下の(A)~(C)に示すような設定とすることができる。
(A)浸漬容器・・・PEDOT-PSSを含む導電体溶液からの水分の蒸発を防止し、PEDOT-PSSの濃度を一定に保つために、例えば、湿度設定が50~100%の範囲となるように調整する。
(B)複数の電極・・・ 高湿度から低湿度、例えば、湿度設定を99~10%の範囲とすることにより、繊維に含浸させたPEDOT-PSSを含む導電体溶液の水分量の調整を行う。
(C)乾燥部・・・低湿度乾燥空気の循環により、導電体が重合固定された基材繊維(導電性高分子繊維)の乾燥を促進するため、乾燥空気を吹き付ける機能を付加(例えば、湿度設定が0~40%の範囲)。
【0173】
また、本実施形態の製造装置においては、図示を省略するが、上記各構成に加え、さらに、例えば、エタノールやアセトン浴により、残存モノマーの固定と殺菌消毒を行う、容器状の消毒洗浄部が設けられていても良い。さらに、消毒洗浄部には、生理的食塩水等の洗浄バスで残存モノマーの除去を行うことが可能な構成が付加されていても良い。
【0174】
またさらに、本発明において用いられる電極は、
図13~15に示すような、複数の電極にのみ限定されるものではなく、例えば、
図16に示すような、単極(単数)の電極252、253を備えた製造装置250としても良い。この製造装置250は、PEDOT-PSS溶液204が収容される浸漬容器255を備え、浸漬容器255内のPEDOT-PSS溶液中に設置されて金属板等からなる電極(負極)253と、浸漬容器255の外部に設置されて基材繊維211に接触する金属棒等からなる電極(陽極)252と、浸漬容器255中に設置されて基材繊維211が捲回される糸巻き256と、浸漬容器255、糸巻き256、各電極252、253の各々が収容されて内部が調湿されるチャンバー257と、電極252、253に電流を供給する直流安定化電源251と、基材繊維201(導電性高分子繊維201)を送風乾燥する乾燥部258と、完成後の導電性高分子繊維201を巻き取る巻き取り部259と、を備えてなる。
【0175】
このような、単数(単極)の電極252、253を備えた製造装置250を用いた場合にも、基材繊維211を垂直に引き上げながら電極間を走行させることで、基材繊維211に重合固定する導電体212を均等に分散させ、偏在を防止できるので、導電性と耐久性に優れた導電性高分子繊維201を製造することが可能となる。
【0176】
「製造方法」
以下に、上述の製造装置210を用いて導電性高分子繊維201を製造する方法について、上記製造装置の説明と同じ図面(
図13~15)を参照しながら、その手順を説明する。
本実施形態で説明する導電性高分子繊維201の製造方法は、以下に示す(1)~(3)に示す各工程を順次備え、さらに、これら(1)~(3)の各工程を、雰囲気湿度を調湿しながら行うものである。
(1)糸状の繊維束からなる絶縁性の基材繊維211を、導電性高分子としてPEDOT-PSSを含む導電体の溶液に浸漬することにより、基材繊維211に導電体212を含浸及び/又は付着させる浸漬工程。
(2)基材繊維211を導電体の溶液から垂直に引き上げながら複数の電極202、203間で走行させて通電することにより、基材繊維211に含浸及び/又は付着した導電体212を電気化学的に重合固定する固定工程。
(3)導電体212が重合固定された基材繊維211を送風乾燥する乾燥工程。
【0177】
(浸漬工程)
浸漬工程では、上述したように、基材繊維211を、導電性高分子としてPEDOT-PSSを含む導電体の溶液に浸漬することにより、基材繊維211に導電体212を含浸及び/又は付着させる。
具体的には、
図13に示すような浸漬容器205に、導電性高分子であるPEDOT-PSSを含む導電体の溶液を収容し、この溶液中に基材繊維(繊維束)211を浸漬させる。これにより、導電性を有する導電体212が、基材繊維211に含浸及び/又は付着されるため、基材繊維211が導電性を有するものとなる。
【0178】
上述のような導電性高分子を含む導電体の溶液を調整する場合には、例えば、市販のPEDOT-PSS溶液(Heraeus社: CLEVIOS P等)に、さらに、必要に応じて添加剤等を加えることができる。即ち、PEDOT-PSSを含む導電体の溶液中に添加剤を混合させた混合溶液を調整し、導電性高分子及び添加剤を、基材繊維211に対して同時に塗布又は浸漬させる方法も適用できる。このような混合液は任意に選択できる。一例として、PEDOT-PSS等の導電性高分子が0.1~50(V/V)%、グリセロール等の添加剤が0.1~50(V/V)%の濃度で含有される水溶液が挙げられる。また、導電体の溶液中における添加剤の濃度は、特に制限されず、例えば0.1~50wt%の範囲とすることができる。
【0179】
(固定工程)
次に、固定工程においては、基材繊維211を溶液中から垂直に引き上げながら、複数の電極202、203間で走行させて通電する。これにより、基材繊維211に含浸及び/又は付着した導電体212を電気化学的に重合固定する。
【0180】
具体的には、例えば、導電体212が含浸及び/又は付着した基材繊維(繊維束)211を、
図13中に示すような巻き取り部209により、溶液中から垂直に引き上げて走行させる。このように、基材繊維211を垂直に引き上げて走行させることで、重力によって導電体212が偏芯することなく、均等に分布して基材繊維211に含浸及び/又は付着した状態となる。
【0181】
そして、固定工程においては、
図13に示すような複数の電極202、203を用いて、基材繊維211の径方向両側から挟み込むように接触させながら通電を行う。このように、PEDOT-PSSを含む導電体212が含浸及び又は付着した基材繊維(繊維束)211を電極202、203に接触させて電流を流すことで、繊維束の内外に付着したPEDOT-PSSを含む導電体212が電気化学的に重合、固定化され、PEDOT-PSSを含む導電体212と基材繊維(繊維束)211との複合繊維である導電性高分子繊維201が得られる。
【0182】
なお、固定工程においては、複数の電極として、上述したような、
図14に示す複数の櫛歯221a、231aを有する櫛歯状電極221、231を用いることができる。この場合、櫛歯状電極221、231を、基材繊維211の径方向両側から前記基材繊維211を挟み込むように配置し、且つ、複数の櫛歯221a、231aが、基材繊維211の径方向両側から、基材繊維211の長手方向で各々交互に組み合わせられるように配置する。そして、基材繊維(繊維束)211に対して、径方向両側から櫛歯状電極221、231に備えられる複数の櫛歯221a、231aを押し当てつつガイドしながら、基材繊維211を垂直に走行させて通電する方法を採用することができる。
【0183】
また、固定工程においては、複数の電極として、
図15A~15Cに示すような、基材繊維211の長手方向で複数配置されるとともに、基材繊維211の径方向両側から前記基材繊維211を挟み込むように配置された回転子電極222、232を用いることも可能である。
即ち、基材繊維211の径方向における一方の側に配置されたローラー状の回転子電極232と、他方の側に配置されたプーリー状の回転子電極222を用い、基材繊維211の両側に配置された回転子電極222、232を、基材繊維211の長手方向で各々交互に配置する。そして、基材繊維(繊維束)211に対して、ローラー状の回転子電極232を押し当てつつ、プーリー状の回転子電極222に形成された溝部222bでガイドしながら、基材繊維211を複数の各電極間で走行させて通電する方法を採用することができる。
【0184】
さらに、固定工程においては、上記の製造装置の構成で説明したように、基材繊維211を、ローラー状の回転子電極232で押し当てつつ、プーリー状の回転子電極222の溝部222bでガイドすることで、糸状の繊維束の配列形状を整えることにより、基材繊維211に含浸及び/又は付着する導電体212の量を調整しながら通電を行う方法を採用することも可能である。
【0185】
(乾燥工程)
次に、乾燥工程においては、導電体212が重合固定された基材繊維211、即ち、導電性高分子繊維201に向けて低湿度の乾燥空気を吹き付けることで、導電性高分子繊維201を乾燥させる。
【0186】
具体的には、
図13中に示すように、例えば、上記固定工程において導電体212が電気化学的に重合固定された基材繊維(繊維束)211に対して、図示略の湿度調節手段と送風手段とを備える乾燥部208を用いて、乾燥した空気を吹き付ける。これにより、PEDOT-PSSを含む導電体212の溶液に含まれていた水(溶媒)を乾燥させて除去する。
【0187】
その後、本実施形態の製造方法では、例えば、生理的食塩水等からなる電解質溶液を用いて、導電性高分子繊維201を洗浄することにより、未重合のPEDOT-PSSや、溶媒を除去することが好ましい。
さらに、本実施形態では、エタノール溶液を用いて導電性高分子繊維201を洗浄消毒した後、乾燥させることが好ましい。
【0188】
なお、詳細な説明を省略するが、本実施形態の製造方法においては、
図16に示すような単極(単数)の電極252、253を備えた製造装置250を用いて、導電性高分子繊維201を製造することも可能である。
【0189】
以上説明したような、本発明に係る導電性高分子繊維201の製造方法によれば、上述のように、PEDOT-PSSを含む導電体212が含浸及び/又は付着した基材繊維11を、導電体溶液から垂直に引き上げながら複数の電極202、203間で走行させて通電する方法を採用している。これにより、基材繊維211に導電体212を電気化学的に重合固定する工程を、一段階の工程で連続的に行うことができるので、生産性が向上する。さらに、基材繊維211を垂直に引き上げながら複数の電極202、203間で走行させることで、基材繊維211に重合固定する導電体212を均等に分散させ、偏在を防止できる。従って、生体適合性が高く良好な均質性を備え、導電性と耐久性に優れた導電性高分子繊維201を、生産性良く製造することが可能となる。
【0190】
また、本発明に係る導電性高分子繊維の製造装置210によれば、PEDOT-PSSを含む導電体212が含浸及び/又は付着した基材繊維211を、浸漬容器5中の導電体溶液から垂直に引き上げる巻き取り部209と、基材繊維211を走行させながら通電する複数の電極202、203を備えた構成を採用している。これにより、基材繊維211に導電体212を電気化学的に重合固定する工程を、一段階の工程で連続的に行うことが可能となり、生産性を向上させることが可能となる。さらに、基材繊維211を垂直に引き上げながら通電する複数の電極202、203を備えることで、基材繊維211に重合固定する導電体212を均等に分散させ、偏在を防止できる。従って、生体適合性が高く良好な均質性を備え、導電性と耐久性に優れた導電性高分子繊維201が、高い生産性で得られる。
【0191】
《第三の態様について》
本発明の第三の態様は、生体電極および生体信号測定装置に関する。より詳しくは、本発明は導電性高分子と繊維の複合材料(以下導電性複合繊維)を利用した体表面装着型の生体電極、およびその生体電極を備えた生体信号測定装置に関する。本態様では、本発明の第一の態様で述べた繊維が好ましく使用できる。
以下、本発明の第三の態様の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されない。
【0192】
《生体電極を脳波測定用の電極として使用する例》
近年、脳波測定は医療機関内での検査だけでなく、在宅の脳波検査や、遠隔医療、ヘルスインフォメーションやユビキタスヘルスケアシステムなどへの応用が進められている。
さらに医療分野以外でも事象関連電位測定による心理学的研究や、BCI(ブレインコンピューターインターフェース)など工学や、介護福祉分野への応用も期待されている。
【0193】
脳波の測定では、頭皮上に存在する頭髪をよけて電極を設置する必要がある。
従来の生体電極を用いた脳波測定においては、電極を安定させて固定するために、接着剤を用いて電極を皮膚に固定したり、頭部全体を覆うヘッドキャップを用いて電極を上から圧迫固定したり、電極と頭皮間のペーストやゲルを増量することによって、電極の浮き上がりを防いでいる。しかし、これらの対策は、装着に伴う不便が多く、被験者への負担が大きく、特に長時間にわたって脳波の連続測定を行う際に問題である。また、電極の外見が装着者又は他者へ少なからず違和感を生じさせることがあるため、脳波の利用が医療用途を超えて、広く一般化するには至っていない。
【0194】
以下に説明する本発明の第三の態様の第一実施形態の生体電極は、導電性高分子の導電性を活用しているため、電極の小型化及び皮膚との接触面積の縮小が可能である。さらに柔軟な繊維素材によって構成される本電極は、装着時の皮膚への刺激が少なく、装着中の違和感を生じにくい。また従来の生体電極のように高粘着性のゲルやテープ等によって皮膚を密閉する必要がない。本発明の第三の態様の第一実施形態の生体電極は、装着感に優れ、連続使用が可能で、装着時の外観に違和感のないため、例えば、脳波測定の用途においても好ましく用いられる。
【0195】
[第三の態様の第一実施形態]
第一実施形態の生体電極は、導電性複合繊維によって構成された紐状の接触子を備える。頭髪の間隙から前記接触子を頭皮に密着させることによって脳波を測定することができる(
図19Aから19D、
図20Aから20D参照)。
【0196】
図19A~
図19Dに示す生体電極310は、導電性複合繊維によって構成された紐状の接触子311、第一フレーム312及び第二フレーム313(連結部)を少なくとも備える。アーチ形状の第一フレーム312の両端に、接触子311の両端が留められている。第一フレームによって柔軟な接触子311の形状が整えられている。第一フレーム312によって接触子311に張力が加えられても構わない。複数の第一フレーム312に横架された第二フレーム313は、各第一フレーム312を固定する梁として機能する。また、各接触子311の末端は、信号ケーブル314に接続されている。各接触子311と、信号ケーブル314の先に接続された図示しない脳波解析装置との間で電気信号が送受信される。電気信号の向きは、一方向だけでも良いし、双方向でも良い。
【0197】
接触子311の形状は、頭皮Sに接触させることが可能な形状であれば特に制限されず、紐状、糸状、帯状、布状、網状等の何れの形状であっても構わない。また、接触子11の大きさ及び長さは適宜調節される。
【0198】
第一フレーム312及び第二フレーム313の形状、数、サイズは特に制限されない。
例えば、接触子311に適度な張力を与えることが可能な形状又は接触子311が弛まないように固定されることが可能な形状を採用することができる。第一フレーム312及び第二フレーム313を構成する材料は、接触子311における電気信号をかく乱する材料でなければ特に制限されず、従来公知の樹脂材料を使用することができる。第一フレーム312の数の例としては、1から20の範囲や、2から8の範囲、2から4の範囲などが挙げられる。第二フレーム313の数の例としては、1から6の範囲や、1から3の範囲や、1から2の範囲などが挙げられる。第一フレーム312及び第二フレーム313の形状は例えば、部分ループ形状であっても良いし、板状形状であっても良い。厚さは一定であることが好ましいが、部分的に異なっていても良い。図では一つの第二フレーム313が4つの第一フレーム312に対して直角に配置されている。第二フレーム313は複数配置されても良く、また必要に応じて斜めに配置されても良い。
また、脳波測定(信号測定)に支障がなければ、第一フレーム312又は第二フレーム313のうち少なくともいずれか一方が金属製であっても構わない。例えば第一フレーム312及び第二フレーム313を金属材料で構成することにより、信号ケーブル314を接触子311に接続せずに、第一フレーム312又は第二フレーム313に接続して、接触子311との電気信号の送受信を第一フレーム312又は第二フレーム313を介して行う構成にしても構わない。
【0199】
接触子311を構成する導電性複合繊維と信号ケーブル314との接続方法は、電気的に接続可能な方法であれば特に制限されない。例えば、金属を用いたかしめ、信号ケーブル314への導電性複合繊維の巻き付け若しくは結紮、又は導電性接着剤による接着のいずれかを適用することができる。
【0200】
本発明において、紐状の接触子311は、1個の電極あたり、1本から複数本使用可能である。
図19A~19Dで例示したように、第一フレーム312及び第二フレーム313を使用して、櫛形の生体電極310を構成することにより、接触子311と皮膚との安定した接触が得られる。
図19A~19Dに示した櫛形の生体電極310においては、複数本の紐状の接触子311が平行に配列されている。複数の接触子311を平行に配列させた櫛形の生体電極310を、毛髪間又は頭髪の生え際に櫛を通す様に挿入し、櫛の上からネット状のホルダーを被せて固定することもできる(
図22A~22B)。
【0201】
(第三の態様の第一実施形態の変形例)
更に小型化した生体電極の構成として、ヘアーピン形の頭髪クリップ(金属板バネ)に2本の接触子321を固定したヘアーピン形の生体電極320を
図20A~20Dに示す。このヘアーピン形の生体電極320は、頭髪の根本付近に挿入して使用することができる。ヘアーピン形の頭髪クリップは、頭髪を把持することができる。図示した例では、2本の接触子321を頭皮S上に固定している。
【0202】
図20A~
図20Dに示すヘアーピン形の生体電極320は、導電性複合繊維によって構成された紐状の接触子321、第三フレーム322及び第四フレーム323を少なくとも備える。2つの円柱状の第三フレーム322の間に接触子321の両端が留められている。2つの第三フレーム322の距離を調節することによって接触子321に加わる張力を調整することができる。2つの第三フレーム322は、ヘアーピンを用いた第四フレーム324の先端部と屈曲部とに各々固定されている。
図20Aから20Dに示す例では、ヘアーピンに2本の紐状の接触子321が備えられている。また、各接触子321の末端は、信号ケーブル324に接続されている。各接触子321と、信号ケーブル324の先に接続された図示しない脳波解析装置との間で電気信号が送受信される。電気信号の向きは、一方向だけでも良いし、双方向でも良い。
【0203】
接触子321の形状は、頭皮Sに接触させることが可能な形状であれば特に制限されず、紐状、糸状、帯状、布状、網状等の何れの形状であっても構わない。また、接触子321の大きさ及び長さは適宜調節される。
【0204】
第三フレーム322の形状は特に制限されず、例えば、円柱状、三角柱状若しくは四角柱状などの多角柱状又は球状などの形状を採用することができる。本構成では第四フレーム323がヘアーピン構造を有し、且つヘアーピンとしての機能を有するため、毛髪Hに第四フレーム323を固定することができる。この結果、接触子321を皮膚(頭皮)Sに容易に接触させるとともに、所望の位置に固定することができる。
【0205】
第三フレーム322及び第四フレーム323を構成する材料は、接触子321における電気信号をかく乱する材料でなければ特に制限されず、例えば従来公知の樹脂材料を使用することができる。また、脳波測定(信号測定)に支障がなければ、第三フレーム322又は第四フレーム323のうち少なくともいずれか一方が金属製であっても構わない。本変形例においては、例えば第三フレーム322を絶縁性の樹脂で構成し、第四フレーム323であるヘアーピンが金属製であっても構わない。脳波測定に支障がなければ、接触子321が金属製の第四フレーム323と電気的に接続されていても構わない。
【0206】
紐状の接触子321は1個の電極あたり1本から複数本使用可能である。
図20A~20Dで例示したように、第三フレーム322及び第四フレーム323を使用してヘアーピン形320電極を構成することにより、接触子321と皮膚との安定した接触が得られる。
図20A~20Dに示したヘアーピン電極320においては、複数本の紐状の接触子321が平行に配列されている。複数の接触子321を平行に配列させたヘアーピン電極320を、毛髪をヘアーピンで留めるようにして固定することができる。
【0207】
紐状の接触子321を構成する導電性複合繊維は、前述の接触子311と同様で構わない。
【0208】
(導電性複合繊維)
紐状の接触子311,321を構成する導電性複合繊維として、導電性高分子と従来公知の繊維材料との複合繊維が適用可能である。複合の形態(方法)は特に制限されず、例えば、導電性高分子が紐状(糸状)の前記繊維材料の表面に被覆された形態であっても良いし、導電性高分子が紐状の前記繊維材料に含浸された形態であっても良いし、紐状の導電性高分子と紐状の前記繊維材料とを撚り合わせた若しくは紡いだ形態であっても良い。
第一の態様で述べられた材料や導電性高分子繊維を好ましく使用することができるし、また第二の態様で述べられた装置や方法を使用しても良い。
【0209】
前記導電性高分子の種類は特に制限されず、公知の導電性高分子が適用可能であり、例えば、前述したPEDOT-PSSの他、PEDOT-S(poly(4-(2,3-dihydrothieno[3,4-b][1,4]dioxin-2yl-methoxy-1-butanesulfonic acid, potassium salt)などの、親水性の導電性高分子が挙げられる。親水性の導電性高分子を含む複合繊維を接触子11,21の材料として用いることにより、接触子11,21それ自体に、皮膚に対する吸着性(粘着性)を容易に付与することができる。
【0210】
前記繊維材料として、例えば、シルク、綿、麻、レーヨン、化学繊維などの従来公知の繊維材料が適用可能である。これらのうちシルクが好適である。シルクを用いた場合、前記複合繊維の強度及び親水性をより向上させることができる。また、シルクを用いた場合、皮膚に触れた際の装着感がより優れる。
シルクと組み合わせる前記導電性高分子の種類は特に制限されないが、前述したPEDOT-PSS又はPEDOT-S等の親水性の導電性高分子が好ましい。
【0211】
本発明の各実施形態の接触子を構成する前記導電性複合繊維としては、後でさらに詳述する導電性高分子繊維が適用可能である。
【0212】
(接触子の構造)
本発明の各実施形態を構成する紐状の接触子の構造として、2種類の構造が例示される。
紐状接触子の第一の構造は、前記導電性複合繊維束を単独で使用した構造である。第一の構造の例として、
図19A~19Dに示した接触子311が挙げられる。接触子311は複数の導電性複合繊維を束ねた糸(紐)を編んで作製されているため、適度な太さと強度を有する。導電性複合繊維だけで構成される第一の構造は柔軟であるため、生体電極に柔軟性や快適な装着感が求められる用途に好適である。前記導電性複合繊維は糸状又は紐状であることが好ましい。
【0213】
紐状接触子の第二の構造は、前記導電性複合繊維束と金属製ケーブル又は金属製細線とを組み合わせた構造である。第二の構造の例としての
図21A及び21Bに模式的に示した構造が挙げられる。
図20の接触子321は、
図21Bで示される構造を有する。第二の構造は金属製ケーブル又は金属細線により導電性が高められているため、生体電極の接触面積あたりの電極抵抗を下げる必要がある用途に好適である。
【0214】
図21Aに示す第二の構造において、複数の芯材321gの束を纏めるように金属細線321fが巻き付けられ、その上に導電性複合繊維321eが巻き付けられている。芯材321gを構成する材料は導電性であっても良いし、絶縁性であっても良い。図示した例では、芯材311は絶縁性の繊維からなる芯である。芯材311の本数及び太さは適宜調整される。
図においては、金属細線の巻き数と導電性複合繊維321eの巻き数が同程度であるように描かれているが、この巻き数の相対関係はこれに制限されない。例えば、金属細線321fの巻き数は導電性複合繊維の巻き数よりも少なくても良い。また、紐状接触子は必要に応じて、その一部が絶縁性カバー321zにより被覆されていても構わない。絶縁性カバーとしては、例えばシリコーン樹脂からなるカバーが挙げられる。
【0215】
図21Bに示す第二の構造において、複数の金属製ケーブル321bの束を纏めるように導電性複合繊維321aが巻き付けられている。金属製ケーブルを構成する金属の種類は特に制限されず、導電性の高い銅線が好適である。図示した例では、金属製ケーブル321bは銅線である。金属製ケーブル321bの本数や太さは特に制限されず、適宜調整される。太い金属製ケーブルを少数使用するよりは、細い金属製ケーブル又は金属製細線を多数使用した方が、同じ径であっても柔軟性を高めることができる場合がある。紐状接触子は必要に応じて、その一部が絶縁性カバー321cにより被覆されていても構わない。絶縁性カバーとしては、例えばシリコーン樹脂からなるカバーが挙げられる。
図21Cは
図21Bの構造を有する紐状接触子321の写真である。
【0216】
第一の構造と第二の構造とを比較すると、第一の構造においては、接触子311と金属製(導電性)の信号ケーブル314との電気的接続が、接触子311の端部の1点でとられているのに対して、第二の構造においては、接触子321と信号ケーブル324との電気的接続が接触子321全体でとられている。したがって、第二の構造においては、第一の構造よりも皮膚と金属製ケーブルの距離が短縮されるため、電極抵抗が低下する。
【0217】
接触子の太さは特に制限されないが、皮膚との接触において破断し難い構造的強度が得られる太さであることが好ましい。例えば0.1mm~5mmの太さであると、破断し難い構造的強度を容易に得ることができる。通常、金属線材を有する第二の構造の方が、第一の構造よりも構造的強度が強くなる傾向がある。太さの他の範囲の例としては、0.1mm~3mmの太さや、0.5mm~1mmの太さなども挙げられる。
【0218】
導電性複合繊維を備えた接触子は皮膚に対する粘着性(吸着性)を有するため、第一実施形態の生体電極は、電極設置用のペーストや接着剤を用いずに、自立的に設置されることが可能である。しかし、被験者の動作や信号ケーブルの引張り等の外的な力が加わると皮膚表面から生体電極が外れる(剥がれる)可能性がある。これを防止するために、生体電極を皮膚表面へ押し付ける手段を採用することができる。前記手段として、例えば、
図22Aに示す様なネット状のホルダー(キャップ)Nが例示できる。
【0219】
(脳波用電極のホルダー;伸縮性ネットのキャップ)
第三の態様の第一実施形態の生体電極、例えば
図22Aに示す櫛形電極310は、
図22Aに示す伸縮性ネットのキャップNを上から被せて固定することができる。ネットNは櫛形電極310を軽く上から押さえ安定保持するホルダーとして使用することができる。
櫛形電極310は頭髪の間隙に挿入されるので、浮き上がりにくい。このため、櫛形電極310においては、従来の電極のようにヘッドキャップ等で強く圧迫固定する必要はなく、低緊張性の伸縮性ネット等のカバーを用いることにより、安定した固定が得られる。前記低緊張性の伸縮性ネットとしては、例えば市販のネット包帯(日本衛材株式会社製)等を適用できる。第一実施形態の生体電極によれば、頭髪下に収まるデザインを容易に実現できる。さらに、伸縮性ネットの使用において、頭髪をネットの外に引き出すことも可能である。このため、第一実施形態の生体電極を用いることにより、装着感ともに装着中の外観も改善される。
図22Aは櫛形電極310と伸縮性ネットNのキャップの装着図を示す。
図22Bは伸縮性の格子状ネットNに、櫛形電極310を配置した例(上面図)を示す。
図22Bにおいて、△は鼻を表し、2つの楕円は左右の耳をそれぞれ表す。格子で区切られた領域のうち、斜線で示した位置は櫛形電極310が配置された箇所を表す。この構成において、伸縮性ネットNの紐の間隔を調整することにより、生体電極310の設置部位を国際10-20法に合わせることができる。
【0220】
《生体電極を心電図測定用の電極として使用する例》
従来、ホルター心電図検査用の生体電極や、心拍数若しくは筋電位のモニター用の生体電極は広く普及している。ホルター心電図検査用の電極は、粘着性の高いテープ又は粘着パッドを使用して、皮膚に固定された状態で使用されることが多い。生体電極を皮膚に固定することによりノイズの発生を防いでいる。また、長時間連続使用することの多いモニター用の電極を皮膚に固定するためには、導電性ゲルの粘着性パッドが使用される場合が多い。これらの電極による測定データにはノイズなどのアーチファクトの混入が少なく、測定波形の安定性に優れる。
【0221】
しかしながら、生体信号の高い周波数成分が減衰する問題がある。この問題は、従来型の生体電極においては、金属製の電極板と皮膚の間に電解質ペーストやゲルを使用しているため、電解質溶液の容量成分(キャパシタンス)の影響によって生じていると考えられる。故に、電解質ペースト及び電解質ゲルは、高い周波成分を含む生体信号の解析や、BCI等における生体と外部装置との高速通信を困難にする要因の一つになっている。
また、従来型の生体電極においては、高い粘着性を持った電極を皮膚に密着させることにより、蒸れが発生しやすく、被験者(装着者)に不快感が生じる。また、粘着剤の効果を得るための前処置として、アルコール綿等により皮膚の接着面の脱脂を行う必要がある。しかし、アルコール類による脱脂処置は、皮膚への刺激性が強いため、掻痒感や接触性皮膚炎を発生させる一因となっており、改善が求められている。
【0222】
このように、金属製の電極板を用いることによる周波数特性への影響及び蒸れの問題は、心電図測定だけに限らず、前述の脳波測定を含めて、生体と電極との間で電気信号又は電気刺激を伝達するうえで解決すべき問題となっている。これらの問題を改善する試みが従来においてもなされているが、充分な改善には至っていない。
【0223】
例えば、従来の脳波測定用の生体電極として、電解質ペーストによる周波数特性への影響を軽減するために、電解質ペーストを使用せずに焼結金属製小型電極等を直接皮膚の上に設置して測定する試みがなされている。しかし、この方法によると測定波形の安定性に問題が生じる。すなわち、金属製の電極を直接皮膚に設置する方法は、金属製電極と皮膚との機械的コンプライアンスならびに電気化学的なミスマッチによって、皮膚電極間の抵抗が変動しやすい。さらに生体の体動や呼吸などの振動によって、測定信号は不安定化しやすく、測定信号にノイズが混入することが多くなる。また、堅い金属製の電極は、直接皮膚と接触させると、違和感又は不快感を生じやすいなど、解決すべき点がある。
【0224】
堅い金属製電極の問題点を軽減するために、近年、導電性繊維を利用したテキスタイル電極の開発が進められ、スポーツや健康分野を中心に普及している。テキスタイル電極は、導電性の繊維を組み込んだ布状の生体電極であり、伸縮性のバンド等を用いて皮膚に圧迫固定して使用される。テキスタイル電極においては、電解質ペーストは使用されず、皮膚に電極を直接接触させるか、または電極を構成する布に水分を含ませた状態で使用するペーストレスタイプが主流である。
このテキスタイル電極による測定においては、皮膚との接触状態が安定に維持される場合には、比較的良好な生体信号が得られる。しかし、皮膚との接触状態が少しでも不安定になった場合には、皮膚電極間抵抗が大きく変動し、記録波形の歪み、ハムノイズの混入などのアーチファクトにより測定波形の信頼性が低下しやすいことが問題である。
【0225】
以下に説明する本発明の第三の態様の第二実施形態の生体電極は、第一実施形態の生体電極と同様に、導電性高分子の導電性を活用しているため、電極の小型化及び皮膚との接触面積の縮小が可能である。さらに柔軟な繊維素材によって構成される本電極は、装着時の皮膚への刺激が少なく、装着中の違和感を生じにくい。また従来の生体電極のように高粘着性のゲルやテープ等によって皮膚を密閉する必要がない。本発明の第二実施形態の生体電極は、装着感に優れ、連続使用が可能で、装着時の外観に違和感のないため、例えば、医療用又はスポーツ用テキスタイルの用途においても好ましく用いられる。
【0226】
[第三の態様の第二実施形態]
第二実施形態の生体電極330を
図24A~24Bに示す。生体電極330においては、導電性複合繊維によって構成された紐状の複数の接触子331が平面状に配列された接触部(電極面)332と、接触部332を支持するシート状の基板333とが備えられている。接触部332と基板333を合わせた構成を電極パッドと呼ぶ。各接触子331と電気的に接続された信号ケーブル334が備えられている。さらに、前記電極パッドの接触部332を皮膚Sに押し当てる手段として、伸縮性の材料で構成されたホルダー335を備えている。
【0227】
導電性複合繊維束により構成された複数の接触子331を配列した平面状の接触部332及び基板333の形状は、接触部332と皮膚との接触が面で得られる形状であれば特に制限されず、必ずしも平板状である必要はない。つまり、皮膚の曲面に沿って、接触部332又は基板333が曲面、凹部又は凸部を形成していても構わない。電極パッドの形状は堅く固定されている必要はなく、皮膚との接触に合わせて柔軟に変形しても構わない。
【0228】
シート状の基板332を用いることにより、生体電極の皮膚接触面の平面性を確保し、さらに皮膚との安定した接着を促すことができる。前記基板の素材やサイズや形状は任意に選択できる。例えば基板として、厚さ0.2mmのPVC(ポリ塩化ビニール)シートまたはシリコーン製の平面シート(厚さ1mm)が挙げられる。前記基板の素材はこれらに限定されず、柔軟な膜状(シート状)の材料であって、基板の平面性が容易に保たれ、皮膚との密着性が良好な材料が、好適に使用される。
【0229】
前記基板上に、導電性複合繊維によって構成される接触子331を配列して固定し、皮膚との接触部332(電極パッド)を構成する。シート状の基板の片面(接触部332が設けられた面)には、軽度の粘着力を与えることにより、基板表面に皮膚に対する接着性を持たせても良い。基板333を構成するシートのサイズは特に制限されず、例えば心電図用の正方形の電極の場合、一辺が30mm程度(例えば5mmから75mmの範囲)に設定することができる。
【0230】
生体電極30の具体例を
図25A~25Bに示す。なお、上段は側面図であり、下段は正面図である。ホルダー335は省略して描いていない。
図25A~25Bの例においては、複数の接触子331が紙面横方向に平行に配列され、紙面縦方向に配置された信号ケーブル334に対して、各接触子331の両端が接続されている。接触子331の両端は基板333を貫通して信号ケーブル334に接続されている。図示した例においては、信号ケーブル334は基材である基板333の面のうち接触子331が配列固定された面(表面)とは反対面(裏面)に配置されている。この構成であると、信号ケーブル334により接触子331を基板面に引き寄せることができる。
信号ケーブル334を配置する面は、基板333の裏面ではなく表面であっても良い。
【0231】
基板333と接触部332との重なり位置において、基板333には開口部336が設けられている。開口部336は換気口(通気口)として機能する。つまり、接触部332及び基板333からなる電極パッドを皮膚に押し当てた際に、皮膚からの蒸気又は汗を開口部336から電極パッドの外部へ排出することができる。開口部336の形状は、基板333を通過して気体が流通可能な形状であれば特に制限されず、円形、矩形等のいかなる形状であっても構わない。基板333の表面に配置された接触子331が開口部336を通して基板333の裏面に露出しても構わない。
【0232】
開口部336が基板333に配置される位置は特に制限されないが、基板333の中心に対して、複数の開口部336が互いに対称となるように配置されることが好ましい。また、複数の開口部336は接触部332と重なる位置に設けられることが好ましい。基板333に備えられた開口部336の合計の開口面積は特に制限されない。基板333の構造的強度を損なう程に大きな開口面積にすることは避けた方が好ましく、通常、基板333の面積の1~40%程度の開口面積であることが好ましい。この範囲で目的に応じて選択することが好ましく、例えば1~20%であっても良く、20~40%であってもよく、10から30%であてもよい。上記範囲であると、基板333の構造的強度を充分に保ちつつ、基板333と皮膚との間の通気性を向上させ、皮膚の蒸れを低減することができる。また、接触部332と重なる位置に設けられた開口部36の合計の開口面積は、接触部332の面積の2~60%程度であることが好ましい。この範囲で目的に応じて選択することが好ましく、例えば2~40%であっても良く、40~60%であってもよく、10から30%や、5から45%であってもよい。上記範囲であると、接触部332の構造的強度を充分に保ちつつ、接触部332と皮膚との間の通気性を向上させ、皮膚の蒸れを低減することができる。
【0233】
図25Bに示すように、接触部332とは反対の基板333の面(裏面)に調湿用パッド337を備えても良い。開口部336を通過した蒸気又は汗を調湿用パッド337で吸い取ることができる。調湿用パッド337の材料は吸水性を有する材料であれば特に制限されない。
また調湿用パッド337を覆う又は固定するための調湿用カバー338を設けても構わない。
【0234】
調湿用パッド337は皮膚の汗等を吸い取るだけでなく、調湿用パッド337に予め水分やグリセロール等の保湿剤を含浸させておくことにより、皮膚や接触子に水分やグリセロール等の保湿剤を供給する目的で使用することもできる。
図25A~25Bにおいて、基板333の表面に配置された接触子331が開口部336を通して基板333の裏面に露出し、接触子331と調湿用パッド337とが接触しても良い。この接触により接触子331に水分等を供給することが可能である。
【0235】
基板333に開口部336を設けることにより、夏季、若年者、運動時などの発汗量が多く蒸れやすい状況から、冬季、高齢者、安静時など乾燥した状況まで、さまざまな皮膚の状態に対応することができる。開口部336は、電極パッドにより閉鎖された(覆われた)皮膚を開放して、湿気を放散する目的のためだけに設けられるのではなく、皮膚に対して積極的に水分を供給する目的のために設けても構わない。つまり、開口部336の上に吸水性のパッド(スポンジ等)337を設置することにより、汗の除去や湿度調節を図ることができる。乾燥しやすい環境においては、前記調湿用のパッド337に、水、グリセロール、保湿成分を含有させることにより、パッド337から接触子331及び皮膚へ、前記含有物を補給することができる。乾燥時の保湿の目的においては、さらに前記調湿用パッド37の外側をPVC等のカバーで覆うことが好ましい。接触子331を構成する導電性複合繊維は適度な吸湿性を有し、接触子331を構成する微細な繊維による毛細管現象により水分が移動及び拡散するため、開口部336やパッド337を設置することにより、接触部332周辺における円滑な湿度調整が可能である。
【0236】
開口部336の大きさ(面積)は室温、湿度、運動、発熱の有無などの使用条件に合わせて適宜調節できる。基板333に設けられた単数又は複数の開口部336の総面積は、基板333の構造的な強度が適度に保たれる範囲であれば特に制限されず、例えば電極パッドを構成するシート状の基板333の面積に対して0.1から50%の範囲で調整することができる。この範囲で目的に応じて選択することが好ましく、例えば0.1~30%であっても良く、30~50%であってもよく、5から40%や、15から50%や、0.1から5%などであってもよい。
【0237】
接触子331を構成する導電性複合繊維の説明は、前述の第一実施形態の導電性複合繊維の説明と同様である。また接触子331の構造の説明は、前述の第一実施形態の接触子の説明と同様である。
【0238】
接触部332における接触子331の密度又は接触部332の単位面積あたりの接触子331の本数、及び接触部332の面積は特に制限されず、用途に合わせて適宜調整される。
接触部332における接触子331の密度は、例えば直径280ミクロンの接触子331(繊維束)を並列に配列する場合、電極幅10mmあたり通常30本程度を使用するが、これに限定されるものではない。例えば1本から200本の範囲で調節することができる。
より具体的には、例えば心電図測定の生体電極として、以下に述べる実施例3-1と同様の導電性複合繊維束(PEDOT-PSSとシルク繊維の複合繊維にグリセロールを含浸させた接触子)を隙間無く平行に配列し、基板に固定して使用する場合、皮膚との接触面積(接触部332の面積)は1cmx1cm(100mm2)程度に設定すれば良く、通常10~50,000mm2に設定することができる。また、前記心電図測定の生体電極を電気刺激用の皮膚表面電極として使用する場合、その電極の接触面積の範囲は、例えば10から50,000 mm2に設定することができる。
【0239】
接触部332における接触子331の配列の方法は特に制限されず、用途に合わせて適宜調整される。例えば、複数の接触子331(導電性複合繊維束)を平行に隙間無く配置するだけでなく、複数の接触子331を多層に敷き詰めた構成、複数の接触子331を織ったり編んだりして布状に成形した構成、複数の接触子331を布地から起毛させたタオルの様な構成を採用することができる。複数の接触子331が互いに重なった構成において、各接触子331は互いに接触して電気的に接続されている(導電性が得られる)ため、使用上の問題は生じない。また、接触部332における複数の接触子331の間隔を広げて、複数の接触子331を疎に配列した構成を採用しても構わない。この構成の場合、基板333の表面が接触子331の間隙から露出するので、前記露出した表面が接触子331の間から皮膚に直接接触することが可能である。よって、基板333の前記露出した表面を粘着性にすることによって、電極パッドの皮膚に対する粘着力や、電流密度、電極の接触部332と皮膚との接触範囲を調節することもできる。
【0240】
接触子331を構成する導電性複合繊維にグリセロール等の保湿成分を含浸させることによって及び生体電極を設置した皮膚からの水分(発汗)が前記導電性複合繊維に吸収されることによって、前記導電性複合繊維が適度に湿潤した(濡れた)状態に維持される。
前記導電性複合繊維が適度の水分を有することにより、前記導電性複合繊維に軽度の粘着性が生じる。
【0241】
生体電極330の電極パッドを皮膚表面に設置する方法は、生体電極を安定に固定できる方法であれば特に制限されず、例えば前述した導電性複合繊維が有する粘着性、又はシート状の基板333の粘着性を利用して、電極パッドを単独で自立的に皮膚に貼り付けることが可能である。接触子331を配列した接触部332を体表面(皮膚表面)に接触させると、接触子331が皮膚表面にすみやかに貼り付き、接触子331と皮膚表面との間で導通が得られ、生体信号を取得できる。生体信号は接触子331に結線された信号ケーブル334(金属導線)を経て、生体アンプ等の外部装置に送られる。
【0242】
このように電極パッドが有する粘着性を利用して、電極パッドを単独で皮膚表面に固定(設置)することが可能である。この固定方法においては、弱粘着性の基板333と、接触子331の導電性複合繊維の濡れによって生じる接着性とを利用して電極パッドを皮膚に貼り付けるため、皮膚への固定力は高くない。従って信号ケーブル334による牽引や身体の大きな動きによって、電極パッドのズレや脱落の可能性がある。そこで電極パッドを安定保持し、ズレや脱落を防ぐ目的で、電極パッドを皮膚表面Sに押し当てるために、ホルダー335を適用しても良い。
【0243】
ホルダー335の形状や大きさ等の形態は特に制限されない。例えば
図25A~25Bに示すような帯状の伸縮性の布(幕)を利用して、身体Bの皮膚表面Sに電極パッド338を設置し、電極パッド338の上から身体Bの胴囲を巻くように伸縮性のホルダー335を巻きつける方法が挙げられる。この形態であると、身体Bを大きく動かしたとしても電極パッド338が容易に脱落することはなく、電極パッド338をより安定に固定することができる。
【0244】
例えば
図26A~26Bに示すように、ホルダー335は、例えば下着(シャツ)Tの内側に設置することができる。電極パッド338及びホルダー335の一部が下着Tの内側に固定されている。ホルダー335と電極パッド338とは構造的に独立しており、ホルダー335は、電極パッド338の上を横方向に移動可能なように、即ち身体Bの表面に沿う方向に移動可能(シフト可能)とされている。したがって、電極パッド338とホルダー336とが互いに離れることが可能なように配置されていることが好ましく、電極パッド338とホルダー335とが完全には固定されていないことが好ましい。このように電極パッド338とホルダー335とが構造的に独立して、電極パッド338とホルダー335の接触部位が固定されておらず、前記接触部位において電極パッド338の上をホルダー335が摺動可能とされていることにより、身体Bと下着Tのズレによる電極パッド338の脱落、生体信号の喪失、及び電極のズレに伴うノイズの発生を抑えることができる。また、必要に応じて、ホルダー335を積極的に身体Bから離して、電極パッド338を取り外したり、交換したりすることもできる。ホルダー335は電極パッド338を安定に保持する役割とともに、生体電極の付属品(ケーブル、コネクター、アンプ339等)の保持にも活用される。
【0245】
ホルダー335を構成する生地(材料)は特に制限されない。例えば布、シート、メッシュ、ゴムバンド等のうち、伸縮性のある生地を用いることが好ましい。具体的には、帯状の2方向伸縮性の布、ライクラ(登録商標)(一般名:スパンデックス)(東レ株式会社製)を、下着のシャツの内側に、心臓の高さに合わせて15cm幅(縦の長さ)で縫い付けて用いることができる(
図25A,25B参照)。このホルダーは例えばホルター心電図用電極のホルダー(CC5誘導用)として好適である。CC5の場合、電極パッド338が前胸部の左右に設置され、これを電極ホルダー335が覆う構成を採用することができる。
【0246】
ホルダー335は、前述した上半身の下着の内側に設置される場合に限らず、生体電極330の用途に応じて、例えば四肢、頭、頸、指にバンド状に巻き付けて設置されても構わない。ホルダー335の材料は前述したスパンデックスに限定されず、伸縮性のある平面状の材料(生地)であれば、各種の布、シート、メッシュ、バンド等を使用できる。
【0247】
《本発明の第三の態様の第一実施形態及び第二実施形態の生体電極によって奏される効果》
各実施形態の生体電極が備える素材及び構造により得られる効果の例を以下に列挙する。
【0248】
本発明にかかる生体電極を測定部位に設置する際、導電性ゲル(電解質ゲル)又は導電性ペースト(電解質ペースト)を使用する必要が無い。導電性ゲル又はペーストを使用しないことにより、下記(A)~(E)の効果が得られる。
(A)装着感が改善される。
電極の皮膚装着に伴う不快感が生じにくい。前記ゲル又はペーストを使用しないため、皮膚を液体やゲルで密封する必要がなく、外気に対してオープンな状態で電極を設置できる。すなわち、紐状の電極が皮膚に軽く接触した状態、もしくは柔らかい布状の電極が皮膚に接した状態で測定できる。
(B)電解質ペーストが原因のトラブルが回避される。
電解質液の漏出や、前記ゲル又はペーストの水分が乾燥した場合における接触不良やノイズの発生の恐れがない。
(C)電極の電気的特性が改善される。
従来の生体電極よりも単位面積あたりの電極の抵抗(レジスタンス)を下げることが可能である。脳波、誘発電位などの微弱な信号の測定に有利である。また本発明にかかる電極の容量(キャパシタンス)が少ないため、高周波の伝搬特性に優れ、脳波、筋電図などの高い周波数成分を含む生体信号の記録に有利である。
(D)電極の使用上の利便性が高い。
前記ペースト又はゲルを使用しないため、測定後(検査後)に前記ペースト又はゲルの除去作業が不要である。例えば、従来電極の使用において必要であった、脳波測定後の洗髪を省略できる。
(E)電極の小型軽量化が可能である。
単位面積あたりの電極抵抗が従来の電極よりも小さいことから、従来の生体電極よりも電極を小型化、軽量、高密度化できる。
【0249】
本発明にかかる生体電極が導電性複合繊維を備えることにより、下記(F)~(K)の効果が得られる。
(F)設置の安定性が向上する。
軽度の圧迫もしくは弱い粘着性材料によって、電極の安定した設置が可能である。従来の生体電極のように強力な粘着剤もしくはバンド、ヘッドギア等による強固な圧迫固定の必要がない。
(G)低雑音の信号が得られる。
導電性複合繊維が有する接着性、柔軟性、薄型及び軽量、という性質により、電極の装着者(被験者)が動いたとき体動時の電極の不要な振動が少なく、雑音が軽減される。
(H)自然な外観が得られる。
特に脳波用電極の用途において、電極の小型平坦化と頭髪の下に電極が隠れるデザインにより、電極を装着しても目立たない。すなわち、日常生活の中で常時脳波測定が可能である。
(I)生体電極の長時間の装着による皮膚の蒸れを軽減できる。
一般に、電極を長時間連続装着すると、皮膚の発汗によって、皮膚の蒸れが生じやすい。しかし、本発明にかかる生体電極が、前述のように電極材料に親水性の導電性複合繊維を使用した場合及び基板に通気用の開口部を設けた場合、長時間使用時の皮膚の蒸れをより一層軽減できる。
(J)生体電極の応用範囲を拡大できる。
生体電極の全体的な形状(基本形状)を薄い平面状(布状)または線状(紐状)に加工できる。従来の電極と比較し軽量、平坦及び柔軟であるため、紐状よりも細い線状の電極も作製可能である。また、装着感も快適である。これらの性質により、本発明にかかる生体電極をウエアラブル電極として応用し、その適用範囲を広げることが可能である。
(K)従来の生体電極と同等又はそれ以上に安定した計測が可能である。
本発明にかかる生体電極は、電解質ペーストを使用しない(ペーストレス)場合においても、従来のペーストレス電極の欠点であるノイズの混入や測定信号の不安定性を克服することができる。すなわち、電解質ペーストを使用する従来の医療用の生体電極と同等又はそれ以上に、測定信号の安定性が得られる。
【0250】
以下、本発明の生体電極を構成する導電性複合繊維として使用することが可能な、導電性高分子繊維について詳細に説明する。ただし、前記導電性複合繊維はこの導電性高分子繊維に限定されない。
【0251】
《第四の態様について》
本発明の第四の態様は、体内埋め込み型電極および生体信号測定装置に関する。より詳しくは、本発明は導電性高分子と繊維の複合材料(以下導電性複合繊維)を利用した体内埋め込み型の生体電極、およびその生体電極を備えた生体信号測定装置に関する。
以下、本発明の第四の態様の実施形態について、図面を参照して説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されない。
【0252】
上述したように、従来公知の導電性高分子であるPEDOT-PSSは、その高い吸水性により生体組織の中でゲル化し、機械的強度が極端に低下する。このため、従来の金属製又はカーボン製の生体電極のように、針状又は棒状に加工したPEDOT-PSSを単独で体内に設置することは困難である。また、仮に生体組織にPEDOT-PSSを埋め込むことができたとしても、PEDOT-PSSだけで構成された電極と外部装置へ接続する金属導線(ケーブル)との結線部分が、PEDOT-PSSが吸水することによって脆弱化し、破断(断線)し易いという問題がある。
【0253】
本発明の第四の態様では、導電性高分子を繊維と複合化した導電性複合繊維を体内埋め込み型電極として用いることにより、導電性高分子が吸水することによる電極自体の解体、及び導電性高分子と金属導線との結線の脆弱化の問題を解決した。
【0254】
《第四の態様の第一実施形態》
図29A~29Cに示す本発明の第四の態様の第一実施形態の体内埋め込み型電極410は、導電性高分子を含有する導電性複合繊維が複数束ねられて棒状(針状)に成形された導電性複合繊維束401を備える。導電性複合繊維束401の一部には金属導線402が巻き付けられ、結線部403を形成している。結線部403は絶縁性及び耐水性のポリマー404(樹脂)によって被覆されている。導電性複合繊維束401は、吸水前及び吸水後のいずれにおいても、導電性高分子が単独で同等の径を有する棒状に成形された導電体よりも機械的強度に優れる。このため、生体組織内に埋め込む際に導電性複合繊維束401が破損したり、埋め込み後に生体組織内で導電性複合繊維束401が解体したりすることを防止できる。
【0255】
導電性複合繊維束401は、使用前は乾燥状態であることが好ましい。乾燥状態の導電性複合繊維束401は、高い機械的強度を有するとともに、湿潤時に比べて収縮しているので、比較的小さい体積を有する。従って、乾燥収縮状態の導電性複合繊維束1を用いることにより、生体組織中に刺入する際の侵襲を軽減することができる。
【0256】
(導電性複合繊維)
導電性複合繊維束401を構成する導電性複合繊維として、導電性高分子と従来公知の繊維材料との複合繊維が適用可能である。複合の形態(方法)は特に制限されず、例えば、導電性高分子が糸状(紐状)の前記繊維材料の表面に被覆された形態であってもよいし、導電性高分子が糸状の前記繊維材料に含浸された形態であってもよいし、糸状の導電性高分子と糸状の前記繊維材料とを撚り合わせた若しくは紡いだ形態であってもよい。本発明の第一の態様で述べた繊維が好ましく使用できる。
【0257】
前記導電性高分子の種類は特に制限されず、公知の導電性高分子が適用可能であり、例えば、前述したPEDOT-PSSの他、PEDOT-S (poly(4-(2,3-dihydrothieno[3,4-b][1,4]dioxin-2yl-methoxy-1-butanesulfonic acid, potassium salt)などの、親水性の導電性高分子が挙げられる。親水性の導電性高分子を含む複合繊維を導電性複合繊維束1の材料として用いることにより、導電性複合繊維束1それ自体に、針5に対する接着性(粘着性)を容易に付与することができる。
【0258】
前記繊維材料として、例えば、シルク、綿、麻、レーヨン、化学繊維などの従来公知の繊維材料が適用可能である。これらのうちシルクが好適である。シルクを用いた場合、前記複合繊維の強度及び親水性をより向上させることができる。また、シルクは生体組織に対する毒性が殆どなく、免疫反応による炎症の惹起を起こし難く、生体組織適合性に優れているため好ましい。
シルクと組み合わせる前記導電性高分子の種類は特に制限されないが、前述したPEDOT-PSS又はPEDOT-S等の親水性の導電性高分子が好ましい。
【0259】
本発明の体内埋め込み型電極を構成する導電性複合繊維の長さ及び太さは特に制限されず、複合化する繊維材料の長さ及び太さによって適宜調整される。また、複数の導電性複合繊維を撚り合わせたり結着させることによって構成される導電性複合繊維束の長さ及び太さは特に制限されず、目的や用途に応じて適宜調整可能である。例えば、太さは、0.01μm~5mmの範囲であってもよく、長さは0.1μm~1mの範囲であってもよい。別の例では、太さは、0.1μm~1mmの範囲であってもよく、長さは0.1μm~50cmの範囲であってもよい。
具体例を挙げれば、例えば
図29Aから29Cに示す棒状の導電性複合繊維束401の太さは0.1μm~500μmとし、長さは1μm~10mmにすることができる。また、
図31Aから31Cに示すコイル状の導電性複合繊維束401の太さは例えば10μm~500μmとし、長さは100μm~50cmにすることができる。ここで、前記太さ及び長さはコイル状に巻かれた導電性複合繊維束1を引き伸ばした状態における太さ及び総延長の長さである。
図301Aから301Cに示すコイル状に巻かれた状態におけるコイルの外径は例えば10μm~5mmとし、前記コイルの中心軸方向の長さは例えば100μm~50mmにすることができる。また、
図32Aから32Dに示す手術用糸に繋がれた導電性複合繊維束401の太さは例えば0.1μm~500μmとし、長さは1μm~10cmにすることができる。
また、
図33Bに示す芯部を構成する導電性複合繊維束401の太さは例えば10μm~10mmとし、長さは10μm~50cmにすることができる。
【0260】
本発明の各実施形態の体内埋め込み型電極を構成する導電性複合繊維として、後でさらに詳述する導電性高分子繊維が適用可能である。
【0261】
(針と導電性複合繊維束との接着)
第四の態様の第一実施形態の導電性複合繊維束401は、針405(ガイド針)の先端部に接着されている。
導電性複合繊維束401を水又はアルコール等で湿らせると、その表面の導電性高分子が接着性(粘着性)を有し、再び乾燥させると収縮して固化する。この性質を利用して、導電性複合繊維束401を針405の先端部に接着(固定)することができる(
図29A)。この構成を有する体内埋め込み型電極410は、生体組織内に刺入されると、導電性複合繊維束401が体液(細胞外液又は脳脊髄液など)を吸収し、膨潤する(
図29B)。
さらに膨潤した導電性複合繊維束401と針405の接着力(固定力)が低下するため、導電性複合繊維束1を生体組織中に残したまま、針405を抜去することができる(
図29C)。生体組織中に設置された導電性複合繊維束401は電線402(金属導線402)を介して外部装置と接続され、信号(電気信号又は電気刺激)の送受信が行われる。
【0262】
針405の構成材料は特に制限されず、例えば、金、白金、銅などの金属、カーボン又は樹脂(プラスチック)等が挙げられる。
【0263】
電線402は、導電性複合繊維束と外部装置とを電気的に導通させることが可能な線材であることが好ましい。電線402の構成材料は特に制限されず、例えば金属、シリコン、カーボン等が適用できる。前記金属の種類は特に制限されず、従来公知の電線で使用される金属で構わない。生体組織に埋め込まれた電線402が電気的なノイズを拾うことを防止し、長期間安定して機能するために、電線402は絶縁性及び耐水性を有するポリマーによって被覆されていることが好ましい。前記ポリマーの種類は特に制限されず、例えば、後述する本発明の第四実施形態の導電性複合繊維束を被覆する耐水性ポリマーが適用可能である。電線402の太さ及び長さは特に制限されず、用途に応じて適宜調整可能である。
【0264】
針5に導電性複合繊維束401を接着する方法として、前述した導電性高分子の湿潤時の接着性を利用する方法の他、親水性の接着材料(接着剤)を介して接着してもよい。前記接着材料は特に制限されず、乾燥状態で導電性複合繊維束1と針5とを固着することができ(接着性を発揮し)、吸水によって固着力(接着力)が低下する材料であることが好ましい。例えば、PEG(polyethylene glycol)、PEDOT-PSS、ポリ乳酸、ソルビトール、フィブリン糊、デンプン糊等を含む材料が挙げられる。
【0265】
前記PEGの種類は特に制限されず、例えば、室温(例えば20℃程度)~体温(例えば40℃程度)において固体であり、加温すると液体となるような比較的高分子のPEGを使用することができる。加温して溶解させたPEGを針に塗布し、次に導電性複合繊維束を針に接触させた後、室温に戻すことによりPEGが固体化するため、針と繊維束とを接着することができる。これを組織中などの体液のある環境に置くとPEGは徐々に溶解し、導電性複合繊維束を針から自然に分離させることができる。
【0266】
また、針405に導電性複合繊維束401を接着する方法として、結線部403を被覆するポリマー404に塗布した前記接着材料を介して、導電性複合繊維束1と針5とを間接的に接着しても構わない。
【0267】
(結線部の保護)
結線部403はポリマー404によって被覆されている。生体組織中において結線部403を構成する導電性複合繊維束401はポリマー404よって被覆されているため、吸水による膨潤及び機械的強度の低下が殆ど起こらない。また、導電性複合繊維束401は繊維材料との複合化により機械的強度が高められているため、吸水後においても導電性複合繊維束401と金属導線403との結線が破損(断線)せず、電気的接続を充分に維持できる。
【0268】
結線部403において導電性複合繊維束401に金属導線402を結線する方法は特に限定されず、例えば、巻き付け、結紮、かしめ、導電性接着剤(銀ペースト、銀エポキシ等)による接着等の方法が挙げられる。結線部403を被覆するポリマー404の種類は特に制限されず、例えばシリコーン(silicone)、PTFE(polytetrafluoroethylene)、PVC(polyvinyl chloride)等が挙げられる。ポリマー404で結線部403を被覆することにより、電気的な短絡を防止するとともに結線部3を保護することができる。
【0269】
(体内への電極設置)
第四の態様の第一実施形態の体内埋め込み型電極410を生体組織中に設置する方法としては、例えば高速動作が可能なマニピュレーターを使用し、針405を生体内に高速度で(短時間で)刺入する方法が挙げられる。針405が先導して生体内の所定位置まで侵入し、針405に接着された導電性複合繊維束401及び結線された金属導線402が共に生体内の所定位置に導入される。この刺入は、高速度で完了し、生体中で導電性複合繊維束401の膨潤が開始する前に完了することが好ましい。刺入速度は特に制限されないが、例えば100~1000mm/sec程度で行うことができる。具体例として、高速度動作が可能な電導アクチュエーターを使用し、体内埋め込み型電極410の導電性複合繊維束401が動物の大脳皮質下2mmの深度に設置されるように10~20msecの速度で刺入させることができる。その後、導電性複合繊維束401を体液により膨潤させ、導電性複合繊維束401と針405を接着する前記接着材料を溶解させ、その接着力が弱まった段階で、針405だけを抜去することができる。生体組織中に設置された導電性複合繊維束401は膨潤し、周囲の生体組織と密着する。
【0270】
(複数の電極設置)
第一実施形態の体内埋め込み型電極10は、
図30Aに示すように針405の先端に1個の導電性複合繊維束401を備えてもよいし、
図30B,30Cに示すように針405に複数の導電性複合繊維束401を備えていてもよい。
【0271】
図30Bの構成では、針405における2個の導電性複合繊維束401の接着箇所の高さをずらしている(針405の長さ方向に位置をずらしている)。この構成であると、体内へ刺入した際に各導電性複合繊維束401が各々異なる高さ(深さ)に設置され、各々独立した電極(2chの電極)として機能させることができる。
図30Bの構成例においては、側面及び底面から見た場合に針405を挟んで両側に導電性複合繊維束401が固定されているが、針405の片側に2つの電極を固定してもよい。この場合、底面から見た場合に2つの導電性複合繊維束401が奥行き方向に(高さ方向に)重なって見える。
つまり断面積が小さくなる。このように固定すると、体内への刺入時に生体組織に与える侵襲を一層軽減することができる。
【0272】
図30Cの構成では、針405における4個の導電性複合繊維束401の接着箇所の高さを同一にして、針405の周囲を4個の導電性複合繊維束401が取り囲むように配置されている。この場合、針405を刺入した位置を中心にして4個の導電性複合繊維401(4chの電極)を生体組織中に設置することができる。
【0273】
《第四の態様の第二実施形態》
図31Aから31Cに示す本発明の第四の態様の第二実施形態の体内埋め込み型電極420は、導電性複合繊維束401が、コイル状に針405の先端部に巻き付けられていること以外は、第一実施形態と同様である。
図31Aから31Cにおいて、第四の態様の第一実施形態と同じ構成には同じ符合を付してある。
【0274】
コイル状の導電性複合繊維束401は、針405の先端部に接着されていてもよいし、単に巻き付けられているだけであってもよい。コイル状の導電性複合繊維束401は針405の先端にしっかりと巻き付けられているため、針405の先端方向を生体組織に刺入する際、針405から導電性複合繊維束401が脱落してしまうことが防止されている(
図31A)。また、乾燥収縮時のコイルの外径(コイルが周回して描く円の直径)は小さいため、生体組織への侵襲性が低減されている。生体組織中へ刺入された体内埋め込み型電極420は、導電性複合繊維束1が体液を吸収することにより膨潤し、膨潤した繊維束401’となり(
図31B)、すなわち、コイルが自発展開してその外径が大きくなり、導電性複合繊維束401と生体組織とが密着する。吸水により導電性複合繊維束401と針405との接着力が弱まるため、導電性複合繊維束401を生体組織中に残したまま、針405を抜去することができる(
図31C)。
【0275】
コイル状の導電性複合繊維束401を有する第二実施形態の体内埋め込み型電極420は、電極(導電性複合繊維束401)の設置により生体組織に萎縮や死腔が形成される可能性がある場合や、測定対象の細胞や神経線維が生体組織中に散在している場合に適す。
【0276】
《第四の態様の第三実施形態》
図32Aから32Dに、本発明の第四の態様の第三実施形態の体内埋め込み型電極430を示す。導電性複合繊維束401の一端部には金属導線402が結線され、他端部には手術用のナイロンモノフィラメント糸406が前述の方法により接着されている。ナイロン製の糸406には手術縫合用の彎曲針405が結び付けられている。
【0277】
体内埋め込み型電極430を神経索(Bundle)内に設置する方法を例示する。神経血管縫合に用いられるマイクロサージェリーの手術手技により、神経索Nを縫合する要領で針405を神経索N’に貫通させ(突き通し)(
図32A)、ナイロン糸406を引っ張り上げることにより、ナイロン糸406に牽引されて導電性複合繊維束401が神経索N’内に導入される(
図32B)。その後、神経索N内の所定位置で導電性複合繊維束401が体液を吸収することにより、ナイロン糸406を導電性複合繊維束401から剥がして、ナイロン糸406を神経索N’の外に除くことができる。神経索N’内に留置された導電性複合繊維束401は吸水により膨張し、神経索N’の内部に密着する(
図32C)。
図32Dは、神経束内の複数の神経索Nに複数の体内埋め込み型電極を設置した様子を示す。
【0278】
末梢神経は運動、知覚、自律神経の混合神経が多く、神経索(Bundle)を形成している。神経索は神経束の中を立体的に走行し、神経束索の分布には個人差が大きいため、中枢神経のような脳座標による神経索の同定は困難であるが、臨床的には顕微鏡下の観察と神経活動の測定により主要な神経線維を同定することができる。第三実施形態の体内埋め込み型電極はこの臨床技術を利用することにより、運動、知覚、自律神経の選択的な信号記録や刺激を可能とする。
【0279】
第三実施形態の体内埋め込み型電極は、手術手技による設置だけでなく、自動吻合器やマイクロマニピュレーター等により機械的に挿入することも可能である。
【0280】
(吸水速度の調整)
本発明の体内埋め込み型電極を構成する導電性複合繊維及び導電性複合繊維束が体内で体液を吸収する速度は遅延させることが可能である。遅延させる方法は、グリセロール、ソルビトール、エチレングリコール、スクワラン、シリコーン、ミネラルオイル又はMPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)のいずれか1種以上を予め導電性複合繊維(束)に含浸又は塗布しておく方法である。例えば第三実施形態の導電性複合繊維束401にグリセロールを予め含浸させておくことにより、生体内への電極導入が難航して手術時間が長くなったとしても、導電性複合繊維束401の吸水による膨潤及びナイロン糸406の剥離が前記手術中に起きることを防止することができる。導電性複合繊維束401の径を細く維持しておくことにより、電極導入中の生体組織への侵襲を軽減することができる。
【0281】
《第四の態様の、第四実施形態》
本発明の第四実施形態の体内埋め込み型電極440は、
図33Aと33Bに示すように、棒状(針状)又は紐状(ケーブル状)に成形された導電性複合繊維(束)401を芯部とし、その芯部の少なくとも一部の周囲が耐水性ポリマー404によって被覆され、芯部の一端部1a(401a)から他端部1bへ液体が浸透する(透過する)ための流路が形成されている。一端部1a及び他端部1bはポリマー404によって被覆されておらず、露出している。
【0282】
「流路」は中空の管を意味するのではなく、耐水性ポリマー404が管を構成し、その管内に導電性複合繊維束1が配置された構成を意味する。導電性複合繊維束401は吸水性及び物質透過性を有するため、液体が一端部1aから他端部1bへ浸透して自発的に移動することが可能である。流路を通して液体又は物質を輸送する方法としては、浸透、毛細管現象、拡散等の自発的な移動だけに限らず、一端部1a及び他端部1bのうち一方を正極、他方を負極として物質を電気泳動させる方法や、一端部1aにポンプ(例えば、浸透圧ポンプ)を接続して液体を加圧することにより送液する方法を採用してもよい。いずれの方法においても、安定的に一定の速度で薬物輸送及び送液することができる。
【0283】
導電性複合繊維束401によって構成される芯部の一端部1aには、薬剤溶液を入れることが可能なリザーバー407(
図33A)又はチャンバー408(
図33B)が接続されている。チャンバー408に備えられたチューブコネクター409に送液用のポンプを接続してもよい。
リザーバー407又はチャンバー408に、薬物を含む溶液を貯留することにより、前記溶液が前記流路を浸透して、芯部の一端部1aから他端部1bへ流通することが可能である。従って、他端部1bを生体組織内の所望の位置に設置することにより、他端部1bの周囲に局所的に薬物を投与することができる。
【0284】
前記薬物の種類は特に限定されないが、生体反応を抑制する又は促進する薬理作用を有する薬物であることが好ましい。前記薬物としては、例えば生体組織の障害を低減させる薬物、生体組織の修復を促す薬物、生体組織を成長させる薬物等が挙げられる。具体的には、例えばグリセロール、ソルビトール、マンニトール、フルクトース、BDNF (Brain-derived neurotrophic factor)、NGF (Nerve Growth Factor)、NT3 (Neurotrophin-3), GSNO (S-Nitrosoglutathione)、SKF96365、Cilostazol、TRIM (1-(2-Trifluoromethylphenyl)imidazole)、Gadolinium、 マグネシウム(Magnesium)、EGTA(ethylene glycol tetraacetic acid)、Ruthenium Red等の可溶性薬物が挙げられる。これらの薬物の1種以上を溶解させた液体をリザーバー407又はチャンバー408に貯留する構成が挙げられる。
【0285】
芯部を被覆する耐水性ポリマー404の種類は、芯部の周囲に被覆層を形成する(芯部の外表面にウォーターシールを形成する)ことが可能なポリマーであれば特に制限されず、例えば、従来公知のカテーテル等の医療器具の分野で使用されるポリマー(樹脂)が適用可能である。耐水性ポリマー404は、芯部を構成する導電性複合繊維401が周囲と電気的に短絡することを避けるために、絶縁性を合わせ持つことが好ましい。耐水性ポリマー404によって構成される被覆層の厚さは特に制限されない。例えば0.1μm~5mmが挙げられる。
【0286】
耐水性ポリマー404の具体例としては、シリコーン、PTFE(polytetrafluoroethylene), PVC(ポリ塩化ビニル)(polyvinyl chloride)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)(acrylonitrile butadiene styrene)、ANS(アクリロニトリル・スチレン)(acrylonitrile styrene)、PEN(ポリエチレン・ナフタレート)(polyethylene napthalate)、PBT(ポリブチレン・テレフタレート)(polybutylene terephthalate)、ポリカーボネート(polycarbonate)、PEI(ポリエーテルイミド)(polyetherimide)、PES(ポリエーテル・スルホン)(polyether sulfone)、PET(ポリエチレン・テレフタレート)(polyethylene terephthalate)、ポリアミド(polyamide)、芳香族ポリアミド(aromatic polyamide)、ポリエステル(polyester)、ポリエーテルブロックアミド共重合体、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリウレタン(polyurethane)、EVA(エチレン・ビニル・アセテート)(ethylene vinyl acetate)、エチレン・ビニル・アルコール(ethylene vinyl alcohol)、ポリエチレン(polyethylene)、ラテックス(latex rubber)、PTFE、FEP、PFA、ポリプロピレン(polypropylene)、ポリシロキサン(polysiloxane)、アイオノマー(inomer)、SAN(スチレン・アクリロニトリル)(styrene acrylonitrile)、ナイロン(nylon)、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0287】
前記薬物は本発明の体内埋め込み型電極を構成する導電性複合繊維に予め含浸又は塗布されていてもよい。この場合にも、生体組織内に設置された前記導電性複合繊維から前記薬物が徐々に放出され、前記導電性複合繊維の周囲に局所的に前記薬物を投与することができる。
【0288】
芯部の他端部1bが生体組織中に埋め込まれた状態において、一端部1a及びリザーバー407若しくはチャンバー408は生体組織中に埋め込まれていてもよいし、生体組織外に設置されてもよい。生体組織中に一端部1aを埋め込む場合は、一端部1aに接続されるリザーバー407若しくはチャンバー408は、なるべく体積が小さいことが望ましい。例えば、カプセル状のリザーバー407が挙げられる。また、チャンバー408を生体組織内に設置する場合、チャンバー408に設けられたチューブコネクター409を介して、生体組織外へ接続されていてもよい。生体組織に対する侵襲性を低減する観点からは、芯部の一端部1a及びリザーバー7若しくはチャンバー408は、生体組織外に設置されることが好ましい。
耐水性ポリマー4によって被覆された芯部は、用途に応じて所望の長さ(例えば100μm~10cm)及び太さ(例えば10μm~5mm)で作製可能である。
【0289】
リザーバー407及びチャンバー408の大きさ及び構成材料は特に制限されず、使用目的および使用態様に応じて適宜変更可能である。例えば、シリコーン樹脂等のプラスチック製の袋(バッグ)若しくは箱(ケース)をリザーバー407又はチャンバー408として適用することができる。
【0290】
第四実施形態において、導電性複合繊維束401の一端部1aから他端部1bまでの全ての区間が耐水性ポリマー404によって被覆されている必要はない。一部の区間において被覆がなくても構わない。導電複合繊維束401が送液路として機能する区間が耐水性ポリマー404によって被覆されていることが好ましい。
図33Aと33Bに示した第四実施形態においては、他端部1bの近傍から一端部1aが内部に備えられたリザーバー407又はチャンバー408までが耐水性ポリマー404によって被覆されている。
【0291】
リザーバー407及びチャンバー408と一端部1aとの接続方法は特に制限されない。一端部1aを露出させた状態でリザーバー407又はチャンバー408の液体貯留部に設置し、一端部1aよりも中央側を被覆する耐水性ポリマー404をリザーバー407又はチャンバー408の外壁に公知の接着剤等により接着する接続方法が例示できる。
【0292】
(ドラッグデリバリー機能の応用)
従来、脳神経系(中枢神経系の組織)に電極を埋め込むと、埋め込み時の侵襲により生じた限定的な障害が拡大し、電極の大きさよりも広い領域にわたって恒久的な障害が生じる問題があり、その解決策が求められている。
【0293】
本発明の第四実施形態の体内埋め込み型電極440が有する薬物輸送機能(ドラッグデリバリー機能)は、電極の埋め込みによる障害を軽減するための薬物の投与に適用可能であり、特に神経組織への埋め込みによって生じる障害の軽減に顕著な効果を発揮する。中枢神経組織の障害を軽減する効果を持つ薬物、例えばGSNO(S-Nitrosoglutathione)を前記芯部の他端部1bから投与することにより、体内埋め込み型電極440が中枢神経組織に与えるダメージを大幅に軽減できる。この結果、電極-神経組織間の信号の送受信を従来よりも長期間に亘って安定的に高精度に行うことができる。後述する実施例4-4(
図34Aから34D)においてデータを参照して詳細に説明する。
【0294】
従来の金属製又はカーボン製の生体電極とGSNO等の薬物を併用する場合、生体電極の設置部位に対して、薬物輸送のための管(例えばマイクロキャピラリー等の極細の中空針)を別途設置する必要がある。或いは生体電極に極細の中空針を沿わせた状態で単一の鞘(管)に格納した(結束した)バンドル構造(束構造)にする必要がある。このようなバンドル構造においては、薬物輸送路の薬物放出孔(放出口)と電極とが離れて設置されている(鞘に内蔵されている)ため、生体組織内に埋め込む構造物の構成が複雑になるだけでなく、電極と生体組織との境界面に均一に薬物を分布させることが困難である。
【0295】
一方、本発明の第四実施形態は、電極である導電性複合繊維束401自体が薬物輸送路を兼ねているため、構造がシンプルである。さらに電極の表面から薬物が浸み出すため、電極と細胞組織の接する境界面、すなわち障害が最も発生する領域、に均一に薬物を投与することが可能である。また、導電性複合繊維束401にグリセロール等の前述した添加剤を加えることによって薬物の放出速度の調節ができる。
【0296】
本発明の第四の態様の第四実施形態の体内埋め込み型電極440が有する薬物輸送機能(ドラッグデリバリー機能)は、生体組織の障害を軽減するための薬物投与の用途に限定されず、例えば、神経栄養因子による神経線維の選択的な結合(選択的な神経配線の形成)、神経線維の選択的刺激に伴う電気信号の記録など、生体の細胞及び生体組織の生理的機能を刺激若しくは活用する種々の用途に用いることができる。また、体内埋め込み型電極440の流路を流通する液体は薬物溶液に限られず、導電性複合繊維束401を浸透して移動することが可能な液体であれば、その組成や機能は限定されない。
【0297】
《本発明の第四の態様によって奏される効果の例》
本発明の体内埋め込み型電極によれば、例えば次の効果が得られる。
1.柔軟な導電性複合繊維によって構成された生体電極を生体組織内に設置できる。
2.導電性複合繊維と電線(信号ケーブル)の接続を生体内で安定に維持できる。
3.薬物を電極と生体組織の接する部位に定速度で輸送できる。
4.電極の設置(埋め込み)による生体組織(特に脳神経組織)の障害を軽減できる。
5.生体信号の長期間の安定記録が可能となる。
6.電極を神経組織の立体構造に合わせて立体的に設置することができる。
【実施例0298】
《第一の態様の実施例》
次に実施例を示して本発明の第一の態様をさらに詳細に説明するが、本発明の第一の態様は以下の実施例に限定されるものではない。
<引張強度の評価>
[比較例1-1]
Heraeus CLEVIOS P溶液(Heraeus社製)を乾燥濃縮した液体を平板上に均一に塗布して自然乾燥させ、さらにエタノール固定して作成したPEDOT-PSSフイルム(断面積0.03 mm
2、長さ3cm)を試料として、その乾燥状態および湿潤状態(純水を飽和するまで吸収させた状態)の引張強度をそれぞれ調べた結果を
図9Aに示す。
グラフから、湿潤状態の PEDOT-PSS線状体の引張強度(右)は、乾燥状態の引張強度(左)の約10%まで、極端に低下していることが明らかである。
【0299】
[実施例1-1]
乾燥状態および湿潤状態(純水を飽和するまで吸収させた状態)の原料のシルク糸(9号絹糸;株式会社フジックス製、21Dデニールシルク繊維18本の撚り糸、糸の直径約280μm、長さ20cm)の引張強度を調べた結果を
図9Bに示す。
また、前記CLEVIOS P液20ccに1時間浸漬後、櫛歯状の多点電極を使用して、1cmあたり3mCの通電による電気化学固定を行い、また有機溶媒としてエタノールを使用して、溶液に含まれる水分の一部を乾燥する際には乾燥空気の吹き付けによって60%の水を除去させた、前述の作成法2bによって得られた、PEDOT-PSSと前記シルク糸(9号絹糸)とからなる直径約280μmの導電性高分子繊維束(以下、PEDOT-PSSシルク繊維束1と呼ぶことがある。)の乾燥状態および湿潤状態(純水を飽和するまで吸収させた状態)の引張強度を調べた結果とを
図9Bに示す。なお、グラフの縦軸は最大張度(CN:センチニュートン)を表し、エラーバーは各標本数10の標準偏差を表す。引張強度試験はJIS L 1013規格に従い、定速伸長形試験器(株式会社オリエンテック製、型番RTC-1210A)を使用し、繊維つかみ間隔20cm、引張速度20cm/min、試験回数10回の計測値の平均から最大強度を求めた。
【0300】
前記グラフの具体的な測定値 (CN)は、次の通りであった。
・未加工シルク乾燥;平均値=1350.4、標準偏差=8.11
・未加工シルク湿潤;平均値=1082.9 、標準偏差=12.28
・PEDOT-PSSシルク乾燥;平均値=1238.8、標準偏差=16.93・PEDOT-PSSシルク湿潤;平均値=1031.4、標準偏差=24.45
【0301】
グラフから、乾燥状態および湿潤状態の原料のシルク糸と、乾燥状態および湿潤状態のPEDOT-PSS シルク繊維束1とを比較すると、両者には明らかな強度差は認められなかった。すなわち、湿潤状態の PEDOT-PSS シルク繊維束1の引張強度は乾燥時の83%の強度を保ち、湿潤状態の原料シルク糸の引張強度は乾燥時の80%の強度を保っていた。このことから、本発明にかかる導電性高分子繊維は、乾燥状態及び湿潤状態のいずれにおいても、原料のシルク糸と同等の優れた強度を有し、破断やひび割れ等が生じづらいので、その導電性が低下し難いものであることが明らかである。さらに、乾燥時と湿潤時における強度差については、PEDOT-PSSシルク繊維束1(乾燥時の強度を基準にすると17%(207CN)低下した)の方が、原料シルク糸(乾燥時の強度を基準にすると20%(268CN)低下)よりも強度差が小さくなっていることから、PEDOT-PSSシルク繊維束1は、湿潤による強度変化がより小さく、安定した強度特性を有していることが分かる。
また、実施例1-1と比較例1-1の結果から、PEDOT-PSSだけからなる導電性繊維(乾燥状態)に比べて、本発明にかかる導電性高分子繊維(乾燥状態)の引張強度は、約10倍向上していることが明らかである。
【0302】
<耐水性の評価>
[実施例1-2]
実施例1と同様の方法で作成した導電性高分子繊維(PEDOT-PSS シルク繊維束1)について、グリセロールを含浸させた試料Aと、グリセロールを含浸させない試料Bとを準備した。
各試料A, Bを純水に浸漬した状態で、水平振幅5cm、3Hz、10回の条件で振盪を加え、その後自然乾燥させるWashing処理を3セット繰り返し、各試料A, Bの抵抗値の推移を記録した。抵抗値は、直流安定化電源(PAB18-5.5;菊水電子工業社製)及びデジタルマルチメーター (VOAC7511;岩崎通信機社製)を用いてDC5V負荷時の電流量から計算した。抵抗値の測定は、乾燥状態(水分を含まない状態)の試料に対して行った。その結果を
図10に示す。なお、グラフの縦軸は繊維径約280ミクロンのPEDOT-PSS シルク繊維束1(乾燥状態)の、長さ1mmあたりの抵抗値(MΩ/mm)を示す。
【0303】
グラフから、グリセロールを添加しないPEDOT-PSS シルク繊維束1(試料B;グラフ中、実線で繋いだ「◇」のプロット)の場合、抵抗値はWashing処理の繰り返しにより上昇し、導電性が低下した。一方、グリセロールを添加したPEDOT-PSS シルク繊維束1(試料A;グラフ中、二点鎖線で繋いだ「△」のプロット)には抵抗値の上昇は認められず導電性が保たれていることが明らかである。つまり、本発明にかかる導電性高分子繊維にグリセロール等の添加剤を含浸させることによって、耐水性を向上させることができる。
【0304】
<生体電極の評価(1)>
[実施例1-3]
前述の作成法2bによって得られたPEDOT-PSSと前記シルク糸(9号絹糸)とからなる直径約280μm、長さ300mmの導電性高分子繊維(以下、PEDOT-PSS シルク繊維束2と呼ぶことがある。)を用いて、
図11Aに示す様に、固定紐3上にゴムバンド4及び金属導線5を備え、更にPEDOT-PSS シルク繊維束2を電極としてコイル状に巻き付けて、紐状の体表型の生体電極を作製した。この生体電極をヒトの体表面6に設置した。この生体電極を用いてヒト心電図を測定した結果の一例を
図11Bに示す。
ヒト心電図を測定する際は、電解質等を含むペースト(ゼリー)を使用することなく、生体電極を構成する電極であるPEDOT-PSS シルク繊維束2を皮膚に接触させて測定することができた。つまり、本発明にかかるPEDOT-PSS シルク繊維束2を備えた生体電極は、強度、柔軟性及び導電性に優れるので、体表面に密着させて装着可能であることが明らかである。
なお、生体電極の設置箇所は、右上肢、左上肢、左下肢の皮膚(体表)上であり、各生体電極を心電計(ポリグラフ、AP1124;TEAC社製)に接続して、双極肢誘導の方法(設定感度2000μV/mm、時間スケール 1秒間 I, II, III誘導)で安静時のヒト心電図を記録した。
【0305】
<生体電極の評価(2)>
[実施例1-4]
前述の作成法1aによって得られたPEDOT-PSSと前記シルク糸(9号絹糸)とからなる直径約280μm、長さ1.5mmの導電性高分子繊維の周囲をシリコーン樹脂で覆って、一部を絶縁した。具体的には、露出部(非絶縁部)の長さを約500μmとし、絶縁被覆部の長さを約1000μmとした。得られた導電性高分子繊維(以下、PEDOT-PSS シルク繊維束3と呼ぶことがある。)の電極抵抗は約500kΩであり、これを金属細線(Xwire、田中貴金属工業社製)に接続して、糸状の埋め込み型の生体電極とした。それを実体顕微鏡で観察した写真を
図12A左に示す。
【0306】
つぎに、作製した生体電極を顕微鏡下でラットの坐骨神経の神経外膜直下に刺入し、マイクロサージェリー用手術糸(S&T 10-0)を用いて結紮固定した(
図12Aの右図)。手術後、金属導線を前置増幅器に接続し、生体信号記録装置(AP1024、TEAC社製)を用いて、坐骨神経の活動電位(集合活動電位)を記録した。測定結果の一例を
図12Bに示す。なお、測定条件は、設定感度2000μV/mm、時間スケール1秒間であり、上から順に静止時 筋収縮時 筋弛緩時)である。
【0307】
本発明にかかるPEDOT-PSS シルク繊維束3を備える埋め込み型の生体電極は、糸状であるため、手術によって組織に縫い込むことができる。このため、従来の大型で柔軟性に劣る金属電極と比較して、本発明にかかる生体電極の設置場所の自由度が高く、安定した状態で電極を固定することができ、必要最小限の箇所のみを露出して他は被覆しているので耐久性が高く、長期記録が可能となる。
【0308】
<導電性の評価>
[実施例1-5]
前記シルク糸(9号絹糸)を用いて、前述の作成法2bによって、シルク糸の内部及び外周部にPEDOT-PSSが配された導電性高分子繊維を作製した。具体的には、外周部にPEDOT-PSSを電気化学的に1回コートして乾燥した試料Cと、試料Cに更にグリセロールを含浸させた試料Dと、試料CにPEDOT-PSSを再度、電気化学的にコート(合計2回のコート)を施した試料Eと、試料Eに更にグリセロールを含浸させた試料Fとを準備した。
乾燥状態(水分を含まない状態)の各試料C, D, E, Fの導電率を実施例1-2で記載した抵抗値の測定方法で測定し、各抵抗値を実施例1-2と同様の方法で測定した結果を表1に示す。
得られた結果から、導電率及び抵抗値を向上させるためには、導電体の厚さは厚い方が好ましく(コート回数は1回よりも2回の方が好ましく)、グリセロールは添加した方が好ましいことが明らかである。
【0309】
【0310】
《第二の態様の実施例》
以下、実施例により本発明の第二の態様をさらに具体的に説明するが、本発明の第二の態様はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0311】
[実施例2-1]
本実施例では、機材繊維としてシルク繊維(9号シルク糸:直径約280μm)を準備し、
図13及び
図15A~Bに示すような、本発明の回転子電極が備えられた製造装置を用いて、シルク繊維の外周部、及び、前記シルク繊維からなる繊維束の内部にPEDOT-PSSを含む導電体が重合固定された導電性高分子繊維を作製した。この際、導電体溶液として、添加物等を用いないものと、グリセロールを添加したものの2種類を調整し、各々、電気化学的な重合固定を行った。
【0312】
また、回転子電極としては、
図13A~13Bに示すような、プーリー状の回転子電極222及びローラー状の回転子電極232を用い、これら各回転子電極222、232が、シルク繊維を前記シルク繊維の径方向両側から挟み込むように交互に配置した。この際、プーリー状の回転子電極222として、そのプーリー222aの直径が8mm、幅が4mmのものを用いた。また、ローラー状の回転子電極232として、そのローラー232aの直径が6mm、幅が3mmのものを用いた。
【0313】
具体的には、上述の本発明に係る実施の形態で説明したように、浸漬容器に収容されたPEDOT-PSSを含む導電体溶液にシルク繊維を浸漬させ、これを巻き取り部で垂直に引き上げた。この際、
図14に示すような櫛歯状電極を用い、複数の櫛歯によってシルク繊維を両側から交互に挟み込み、シルク繊維を引き上げながら通電を行った。この際、直流安定化電源(菊水電子工業社製:PAB18-5.5)を用いて、櫛歯状電極に対して20μA、18Vの直流電源を供給し、シルク繊維の長手方向10mmにおける重合固定に3~6mCの電気量(電束密度:5.85~9.95×10
4C/m
2)が確保されるよう、「デジタルマルチメーター(岩崎通信機社製:VOAC7511)」を用いて、電流電圧監視を行って調整した。
【0314】
そして、得られた導電性高分子繊維について、その繊維抵抗及び導電率を、抵抗測定器「DM2561(NF回路設計ブロック社製)」を用いて、350mAの直流電流にて、繊維長10mmで測定した。また、繊維の把持掴み治具としては、スタック電子社製ナノクリップを使用した。また、この際の測定は、乾燥状態(水分を含まない状態)で行い、結果を下記表2に示した。なお表2では実施例1は実施例2―1を示し、比較例1は比較例1-1を示す。
【0315】
また、得られた導電性高分子繊維について、実体顕微鏡を用いて観察することにより、PEDOT-PSSを含む導電体の被覆状況を目視で確認し、その際の写真を
図17Aに示した。
また、得られた導電性高分子繊維について、生理的食塩水(0.9%NaCl溶液:20℃)に1ヶ月間浸漬した後の状態を、実体顕微鏡像(ライカSZを使用)で撮影して耐水性を評価し、その写真を
図18Aに示した。
【0316】
【0317】
[実施例2-2]
本実施例では、
図13に示す製造装置において、
図14に示すような櫛歯状電極221、231を用いて通電を行った点を除き、上記実施例2-1と同様の条件及び手順で導電性高分子繊維を作製した。この際、櫛歯状電極221、231として、複数の櫛歯221a、231aの櫛歯間距離(電極間距離)が10mmのものを用いた。
【0318】
そして、得られた導電性高分子繊維について、実体顕微鏡を用いて観察することにより、PEDOT-PSSを含む導電体の被覆状況を目視で確認し、その際の写真を
図17B示した。
【0319】
[比較例2-1]
比較例では、従来の化学固定法により、シルク繊維(基材繊維)に対して導電体を固定した点を除き、上記実施例2-1と同様の条件及び手順で、シルク繊維の外周部、及び、前記シルク繊維からなる繊維束の内部にPEDOT-PSSを含む導電体が固定された導電性高分子繊維を作製した。そして、上記同様の方法によって、得られた導電性高分子繊維について、その繊維抵抗及び導電率を測定し、結果を表2に示した。
【0320】
また、上記実施例2-1と同様の方法で耐水性を評価し、実体顕微鏡像として撮影した写真を
図18Bに示した。
【0321】
[評価結果]
表2に示す結果のように、本発明に係る製造装置を用い、本発明で規定する製造方法によって、シルク繊維(基材繊維)にPEDOT-PSSを含む導電体を電気化学的に重合固定した実施例1の導電性高分子繊維は、従来の製造装置を用いて化学固定法により作製した比較例の導電性高分子繊維に比べ、添加物の有無に関わらず、繊維抵抗が低く、また、優れた導電性が得られることが明らかとなった。
また、
図17Aの写真図に示すように、実施例2-1で得られた導電性高分子繊維は、シルク繊維の表面、及び、その繊維束の内部にまで、PEDOT-PSSを得組む導電体が均一に被覆され、シルク繊維が露出することなく、導電体が固定化していることがわかる。
さらに、
図18Aの写真図に示すように、実施例2-1で得られた導電性高分子繊維は、1ヶ月間の耐水性試験後においても、シルク繊維の表面、及び、その繊維束の内部にまで導電体が被覆された状態(シルク繊維表面の黒色)が維持されていることが確認された。
【0322】
一方、従来の化学固定法を用いて作製した導電性高分子繊維は、表2に示すように、実施例2-1の導電性高分子繊維に比べて繊維抵抗が高く、また、導電率も低いことが明らかとなった。
また、比較例2-1で得られた導電性高分子繊維は、
図18Bの写真図に示すように、1ヶ月間の耐水性試験後において、シルク繊維が露出した状態(シルク繊維表面の白色~灰色)であることが認められ、ほとんどの導電体が剥離して失われていることが確認された。
【0323】
なお、
図17Bの写真図に示すように、実施例2-2において櫛歯状電極を用いて得られた導電性高分子繊維は、回転子電極を用いて作製した実施例1の導電性高分子繊維に較べて、シルク繊維表面の一部が露出していることが確認された。これは、櫛歯状電極を用いて垂直に引き上げながら通電した際、一部の櫛歯(金属棒電極)との接触によって導電体が剥離したものであるが、比較例で作製した導電性高分子繊維に較べてシルク繊維表面の被覆率が高いことから、従来品に較べて、繊維抵抗及び導電率の何れの点においても優れているものと考えられる。
【0324】
《第三の態様の実施例》
次に実施例を示して本発明の第三の態様をさらに詳細に説明するが、本発明の第三の態様は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例3-1;脳波用櫛形電極)
複合繊維化する前のシルク繊維束(株式会社フジックス製、タイヤ 9号、繊維直径約280μm)を、PEDOT-PSS(Clevios P、ドイツ国ヘレウス社製)にEDOT (ドイツ国ヘレウス社製)を0.1%添加した溶液に浸漬した。続いて前記シルク繊維束に通電し、シルク繊維束の表面及び内部に、電気化学的にPEDOT-PSSを固定することにより、シルク繊維束とPEDOT-PSSとの導電性複合繊維を製作した。この導電性複合繊維束を4本束ね、櫛形のポリスチレン製のアーチ状のフレームに張る形に固定し(4カ所、計16本)、
図19Aから19Dに示す櫛形の生体電極10を得た。
導電性複合繊維で構成された接触子311と接合される信号ケーブル314として、脳波測定装置(日本光電工業株式会社製)用の信号ケーブルを用いた。この信号ケーブルの被覆を1cm剥いて銅線を露出した上に導電性複合繊維を巻き付け、結紮した。導電性複合繊維と信号ケーブルの接合部はエチレンビニールアルコール系接着剤により絶縁被覆した。
この際、信号ケーブルと共に前記接合部をフレーム端に固定した。
脳波測定における生体電極の使用前に、グリセロールを接触子311(導電性複合繊維)に含浸させた。グリセロールを含浸させることにより、導電性複合繊維の導電性と耐水性が向上するとともに、繊維の柔軟性が改善され、接触子311と頭皮との良好な接触が得られ、脳波の安定した測定が可能となる。本実施例で作製した生体電極310は、幅12mm 長さ35mm厚さ6mm 櫛先端部厚さ2mmの大きさ及び重さ1.1g(電極部のみ ケーブル重量含まず)であり、薄型化及び軽量化されている。さらに、櫛形の形状であるため、生体電極310を頭髪の下に隠して装着できる。
【0325】
(実施例3-2;ヘアーピン形脳波用電極)
実施例1と同じ導電性複合繊維を使用した。フレームとして、長さ3.5cmのヘアーピン形髪止めを使用した。前記ヘアーピンはスチール製であり、その表面はウレタン系樹脂で塗装されている。脳波測定用信号ケーブル(日本光電株式会社製)の被覆を3cm剥き、露出した銅線の上に導電性複合繊維を2重に巻き付け、太さ約1mmの接触子とした(
図21C)。2本の接触子をエチレンビニール製の支持体を介してヘアーピンのU字フレームの両端に固定し、
図20A~20Dに示すヘアーピン形の生体電極320を得た。本実施例で作製した生体電極320は、長さ35mm 横幅2-5mm高さ3mm の大きさ及び重さ0.5g(電極部のみ ケーブル重量含まず)である。生体電極320を用いて脳波測定を行う場合、電極自体が頭髪を把持することができるため、自立的な固定が可能であり、伸縮性ネット等のホルダーは使用しても使用しなくても良い。
【0326】
図23Aは、実施例3-2のヘアーピン形の脳波用電極を用いて測定したヒトの脳波を示す。関電極として実施例3-2のヘアーピン状の電極をC3及びC4にそれぞれ設置した。不関電極として、銀塩化銀皿電極(NE134A日本光電株式会社製コロディオン電極用)を、生理的食塩水を含ませた脱脂綿を介して、両側の耳介(耳垂)にテープを用いて固定して設置した。電極を設置する皮膚には脱脂、角質除去等の前処置は行わなかった。
図23Aは、成人男性の覚醒時脳波を通常の実験室にて日本光電株式会社製のMEB5504を使用して、低域遮断フィルター1Hz、高域遮断フィルター20Hzの条件で測定した波形を示す。
ここで、図の横軸は400ms/divであり、縦軸は50μV/divである。
【0327】
図23Bは、実施例3-2のヘアーピン形の脳波用電極を用いて測定した成人男性の聴性脳幹反応(誘発電位)を示す。使用した測定機器(日本光電株式会社製MEB5504)及び電極の設置は、
図23Aの脳波測定と同じである。両耳にヘッドフォンから90 dbのクリック音を入力し、聴性誘発電位の標準設定値により1000回の加算平均を行った。ここで、図の横軸は1ms/divであり、 縦軸は0.2μV/divである。低域遮断フィルター1Hz、高域遮断フィルター200Hzの条件で測定された誘発電位波形から、本発明の実施形態の生体電極が誘発電位測定に使用可能であることを示している。
【0328】
(実施例3-3:心電図用電極)
測定する生体信号の安定性及びノイズの発生を比較する目的で、以下の3種の電極1~3を同じ1頭の実験動物(ラット)の体表面に設置し、心電図を同時測定し、測定波形の比較を行った。
・電極1(本発明の第二実施形態にかかる電極);実施例3-1と同様に作製した導電性複合繊維にグリセロールを含浸させた繊維(長さ12mm)を30本配列した接触子をラット体表面に設置し、後述する2種の方法で固定した。
・電極2(従来型);銀-塩化銀電極に導電性ゲルを塗布した電極(F120S、日本光電工業株式会社製)をラット体表面に設置し、後述する2種の方法で固定した。
・電極3(従来型テキスタイル電極);銀コートが施された繊維織布を備えた市販のスポーツ心拍数計用の電極(商品名:Smart Fabric Sensor、WearLink+ strap 電極)、ポラール社製)をラット体表面に設置し、後述する2種の方法で固定した。
【0329】
ラットの胸背部の皮膚を剃毛し、消毒用エタノールにて皮膚を洗浄した後に上記3種類の生体電極(電極1~3)をそれぞれ左胸背部と右胸背部に設置した。各部において、電極1~3の設置部位は可能な限り近接させた。不関電極(ボディーアース)として、医療用生体電極(F-150S、日本光電工業株式会社製)を胸腰部に設置した。各生体電極から得られた信号は測定機器(ポリメイトAP1124、ティアック株式会社製)により解析した。
【0330】
ラットの左胸背部及び右胸背部電極において、各電極を2種類の固定方法(伸縮性バンド又はテープ)で固定して測定した。測定結果を
図27に示す。
まず、各電極の上にPVC製シート基板を載せて構成した電極パッドを伸縮性のバンドで圧迫固定した場合、3種の電極から得られる信号はほぼ同一であり、安定して信号を記録できた。次に、バンドを除去し、医療用粘着テープ(シルキーポア)(登録商標)で固定した場合、電極1及び電極2からは、ラットの安静時及び体動時のいずれの状態においても安定した信号が記録された。しかし、電極3からの信号は、体動により基線が動揺し、ハムノイズの混入が認められた。以上の結果から、本発明の第二実施形態にかかる電極1により測定した信号の安定性は、医療用の電極2に近似しており、テキスタイル電極3よりも優れていることが明らかである。
【0331】
(実施例3-4:皮膚の湿度の調節)
生体電極を貼付した皮膚の蒸れに伴う皮膚水分量の変化を皮膚水分量測定装置(コルネオメーター)で測定し、従来型の生体電極と本発明の第二実施形態にかかる生体電極の貼付6時間後の皮膚水分量を比較した。ヒト成人男性前腕の皮膚を測定部位として用いた。
被験者は室温26度湿度40%の環境でパソコン等のデスクワークを行った。各電極の貼り付け前と6時間後の各電極貼り付け部位の皮膚水分量を皮膚水分量測定機器(TK59823、ドイツ国Courage + Khazaka electronic社製)で測定した。測定結果を
図10に示す。
【0332】
図28に示す測定結果は、電極の装着前(結果A)と電極の貼付6時間後(結果B~E)の前腕の皮膚水分量を示す(エラーバー 1 SD 標準偏差 n=10)。結果B(+13.7%)はシート基板に換気用の開口部を備えた本発明の第二実施形態にかかる生体電極を用いた結果であり、結果C(+15%)は開口部を備えていないこと以外は結果Bと同じ生体電極を用いた結果であり、結果D(+32.3%)は粘着性ゲルを塗布した従来型生体電極を用いた結果であり、結果E(+54.4%)はシート基板として高粘着性パッド使用した従来型生体電極を用いた結果である。上記括弧内の結果は、電極装着前の水分量を100%として、各電極の貼付部位の水分量の上昇率を表示している。
【0333】
各結果に対応する電極B~Eの具体的な構成は次の通りである。
電極Bは、実施例3-1と同様に作製した導電性複合繊維にグリセロールを含浸させ、20x30mmのPVC製のシート状基板に30本並列し、7x12mm接触子を構成した、
図25Aに示す形態の生体電極である。シート状基板には面積20mm
2の開口部が2個設けられ、PVC製シート表面に塗布した粘着剤により皮膚表面に固定した。
電極Cは、開口部が設けられていないシート状基板を使用した以外は電極Bと同じ構成を有する。
電極Dは、導電性粘着ゲルを使用した銀-塩化銀の医療用生体電極(F120S、18x35mm、日本光電工業株式会社製)である。
電極Eは、高粘着性フォームパッドを使用した銀-塩化銀の医療用生体電極(M150、日本光電工業株式会社製 直径40mm)である。
生体電極B~Dは被験者の前腕に自立的に固定された状態で使用された。
【0334】
以上の結果において、粘着性ゲルを使用した従来型の電極Dの皮膚水分量が+32.3%、高粘着性フォームパッドを使用した従来型の電極Eの皮膚水分量が+54.4%に上昇していた。一方、従来型に対して、導電性複合繊維を用いた電極B(開口部あり)の皮膚水分量は+13.7%、電極C(開口部なし)の皮膚水分量は+15.0%の上昇にとどまった。この結果は、本発明の第二実施形態にかかる電極が従来型電極と比較して蒸れにくいことを示している。さらにシート状基板に開口部を設けた電極Bは、開口部の無い電極Cよりも皮膚水分量の上昇(増加)が低く抑えられており、開口部による湿度の低減効果が認められた。
【0335】
(実施例3-5:生体電極の電気特性の比較)
・生体電極と皮膚の合成抵抗の比較
ヒト前腕皮膚に、以下の3種の生体電極4~6を電極間隔5cmでそれぞれ設置し、各生体電極と皮膚の合成抵抗を生体電極インピーダンス計(メロンテクノス株式会社製)を使用して、10Hz、正弦波の条件により測定した。この測定結果を、下記電極4の結果を「1」として、電極面積により正規化した抵抗比を図以下の表に示す。また、各電極の接触面積、インピーダンスを併記する。上記結果から、本発明の第二実施形態にかかる生体電極4の面積あたりのインピーダンスがもっとも低いことが示された。なお、接触面が乾燥状態である場合のスポーツ用生体電極6のインピーダンスは非常に高く、使用した測定機器では計測不能であった。
【0336】
・電極4(本電極)は、実施例1と同様に作製しグリセロールを含浸させた導電性複合繊維15本をPVC製のシート状基板に並列した12mmx7mmの接触子を第二実施形態の方法で固定した生体電極である。ヒト前腕皮膚の表面に電極4を設置し、伸縮性バンドで固定した。この際、ヒト前腕皮膚の表面と前記接触子で構成された接触部との接触面積は84mm2(7x12mm)であった。
・電極5(従来型);銀-塩化銀電極に導電性ゲルを塗布した電極(Vitrode F 150S、日本光電工業株式会社製)を皮膚表面に設置し、電極4で使用したシート状基板を上から被せて、伸縮性バンドで固定した。この際、ヒト前腕皮膚の表面と電極5の接触面積は630mm2であった。
・電極6(従来型スポーツ用生体電極);銀コートが施されたナイロン製の繊維織布を備えた市販のスポーツ心拍数計用の電極(Smart Fabric Sensor、WearLink+ strap 電極)、ポラール社製)を皮膚表面に設置し、伸縮性バンドで固定した。この際、ヒト前腕皮膚の表面と電極6の接触面積は600mm2であった。
以下に、各生体電極と皮膚の合成抵抗を測定した結果を示す。
【0337】
【0338】
・周波数特性
導電性複合繊維を備えた下記電極7と、電解質溶液を使用した従来型の下記電極8の周波数特性を比較する目的で、オートラボ(PGSTAT、Metrohm Autolab社製)を使用して両電極の周波数特性を測定した結果を以下の表に示す。本発明の第三の態様の第二実施形態にかかる下記電極7のインピーダンスは、10Hz-10KHzの領域において、塩化ナトリウム電解質溶液を含浸させたシルク繊維からなる下記電極8のインピーダンスよりも低いことが示された。
【0339】
・電極7(本電極)は、実施例3-1と同様に作製しグリセロールを含浸させた長さ2cmの導電性複合繊維の接触子である。
・電極8は、電極7を構成するシルク繊維(繊維径280ミクロン)に0.9%塩化ナトリウム電解質溶液を含浸させて得られた電極(長さ2cm)である。
以下に、各電極の周波数特性を測定した結果を示す
【0340】
【0341】
《第四の態様の実施例》
次に実施例を示して本発明の第四の態様をさらに詳細に説明するが、本発明の第四の態様は以下の実施例に限定されるものではない。
【0342】
[実施例4-1]
(導電性複合繊維を用いた体内埋め込み型電極の作製)
複合繊維化する前のシルク繊維束(株式会社フジックス製、タイヤ 9号、繊維直径約280μm)を、PEDOT-PSS(Clevios P、ドイツ国ヘレウス社製)にEDOT (ドイツ国ヘレウス社製)を0.1%添加した溶液に浸漬した。続いて櫛形電極を用いて前記シルク繊維束に通電し、シルク繊維束の表面及び内部に、電気化学的にPEDOT-PSSを固定することにより、シルク繊維束とPEDOT-PSSとの導電性複合繊維束を得た。
【0343】
ポリイミド被覆プラチナイリジウム線(直径30ミクロン)(米国カリフォルニア ワイヤーカンパニー社製)の先端の被覆を除去し、作製した導電性複合繊維束(繊維直径約280ミクロン)に結紮した。その結紮部及び導電性複合繊維束の表面を、PDMS(Polydimethylsiloxane)(商品名:シルガード184、東レダウコーニング社製)を用いて被覆した。導電性複合繊維束の先端500~2000ミクロンの被覆を剥いで、導電性複合繊維束の先端を露出した。ステンレス製のガイド針(直径100ミクロン、セイリン株式会社製)に、前記露出した先端に含まれるPEDOT-PSSを接触させ、さらにエタノールを塗布して化学的に固定(接着)することによって、体内埋め込み型電極を作製した。
【0344】
(体内埋め込み型電極の設置)
SDラットをイソフルレン麻酔し、頭蓋骨に開窓を行い、硬膜を除去して大脳皮質を露出させた。脳固定装置(SR-6R、株式会社ナリシゲ社製)のマイクロマニピュレーター上に固定した電動式アクチュエーター(RCD 株式会社IAI社製)を用い、大脳皮質内へ前記体内埋め込み型電極を設置した。具体的には、左バレル皮質に前記電極の先端が皮質下2mmに達する深度へ、0.01~0.02秒間で刺入した。前記導電性複合繊維束に結紮されたプラチナイリジウム線を脳神経信号測定記録解析装置(型番:RZ51、米国TDT社製)のヘッドアンプに接続した。リファレンス電極として銀塩化銀線を皮質上に設置し、ボディーアースとして銀塩化銀線を頭蓋下に設置した。測定した信号は専用ソフト(Open EX, open explorer TDT)によって記録及び解析した。
【0345】
PEDOT-PSS及びシルク繊維によって構成された複合材の吸水は緩やかである。
例えば乾燥状態の前記導電性複合繊維束を0.9%NaCl生理的食塩水に浸積した場合、繊維の膨張が明らかに認められるのは浸積開始後、約30秒以降である。生体組織に前記導電性複合繊維束を高速度(短時間(例えば1秒以内)で刺入すれば、PEDOT-PSSが吸水することにより膨張し、さらに強度が低下する前に、前記導電性複合繊維束を備えた前記体内埋め込み型電極を体内に設置することができる。
【0346】
前記体内埋め込み型電極の脳内への刺入後、組織中に静置されたPEDOT-PSSを含有する導電性複合繊維は体液(細胞外液又は脳脊髄液)を徐々に吸収し、膨張して周囲の組織と密着した。さらに吸水することによって導電性複合繊維とガイド針の接着部が剥離し、導電性複合繊維の電極はガイド針から分離した。その後、ガイド針をマイクロマニピュレーターにより抜去し、前記電極の本体である導電性複合繊維束を組織中に留置した。
【0347】
(脳活動電位の記録)
上記刺入方法により、ラット脳内の左バレル皮質の2カ所において深さ2mmの位置に繊維径200ミクロン且つ繊維長1mmの前記体内埋め込み型電極を設置した。この際、電極間距離は2mmであった。前記電極により記録したラットの大脳皮質(バレル皮質)の活動電位を
図35Aに示す。上段のグラフと下段のグラフは、設置した2つの電極がそれぞれ検出した信号である。ラットの右側の髭への機械的刺激により、設置した2つの電極からバースト状の集合活動電位が記録された。また、2つの電極の波形には同期した集合電位(↓:矢印)と非同期の集合電位(▼印)が認められた。
【0348】
[実施例4-2]
(体内埋め込み型電極の作製)
実施例4-1と同様に作製した導電性複合繊維束(長さ3mm、線径50ミクロン)をグリセロールに浸漬し、繊維内にグリセロールを含浸させた。得られた導電性複合繊維束の片端に挿入ガイド用の糸を結合した。挿入ガイド用の糸として、マイクロサージェリー用の彎曲針付きナイロンモノフィラメント縫合糸(太さ:10-0、S&T社製)を使用した。前記導電性複合繊維束のもう一方の端に、金線(Xワイヤー、田中貴金属工業株式会社製)の絶縁被覆を除いた裸線を巻き付けて固定し、固定部をPDMS (商品名:シルガード184、東レダウコーニング社製)で被覆した。
【0349】
(坐骨神経の集合活動電位の記録)
ウイスターラットをイソフルレン麻酔し、左後肢に皮膚切開を加え、左坐骨神経を露出した。顕微鏡下で坐骨神経束の外膜に10-0のガイド糸を刺入した。次にガイド糸に結合した前記導電性複合繊維束を、ガイド糸を引いて坐骨神経束内に導入した。前記導電性複合繊維束には吸水速度の遅延加工が施されているため、すなわちグリセロールが含浸されていることにより吸水速度が遅くなっているため、手術操作中に明らかな膨張はせず、組織内(神経外膜下)に挿入された。前記導電性複合繊維束は挿入の15分後には膨張し組織内に固定された。電極の固定後に測定したラットの座骨神経の集合活動電位(Scalebar 1秒 50μV)を
図35Bに示す。
【0350】
[実施例4―3]
(ラットの心電図の記録)
実施例4-1と同様に作製した導電性複合繊維束(長さ20mm、線径280ミクロン)を用いてラットの心電図を記録した。イソフルレン麻酔下で、ラットの右前胸部、左前胸部及び季肋部の3カ所の皮膚下組織層に、前記導電性複合繊維束を結紮することにより、体内埋め込み型電極を皮下組織に設置した。絶縁性及び耐水性ポリマーにより被覆された金属製電線を介して、前記電極を構成する導電性複合繊維束をポリグラフ(AP1124、ティアック株式会社製)の前置増幅器の信号ケーブルに接続した。サンプリング周波数1kHzで記録したラットの心電図(双極誘導)(Scale bar 1秒 50mV)を
図35Cに示す。
【0351】
[実施例4-4]
(埋め込み型生体電極を活用した薬物輸送(ドラッグデリバリー))
実施例1と同じ方法で、ただし比較的長く作製した導電性複合繊維束の一方の端部に、薬剤溶液を貯留したシリコーン製のバッグをリザーバーとして接続した。この際、PDMS(商品名:シルガード184、東レダウコーニング社製)を用いて前記導電性複合繊維束の外表面を被覆(シール)し、薬物の輸送経路を構成した。この被覆により、前記導電性複合繊維束を芯部に備え、PDMS製のチューブが前記輸送経路の外殻を構成する体内埋め込み型生体電極を得た。
【0352】
前記電極の芯部を構成する前記導電性複合繊維束における薬物輸送速度を測定する目的で、試験用の導電性複合繊維束を準備して、薬物輸送試験を行った。
まず、実施例4-1と同じ方法で作製した導電性複合繊維束(長さ20mm、線径280ミクロン)の中央部を長さ5mmに亘ってPDMSで被覆し、前記導電性複合繊維束の一方の端を、蛍光物質のルシファーイエロー100μMを含む生理的食塩水1mLを入れたチャンバーに浸し、他方の端を普通の(蛍光物質を含まない)生理的食塩水0.5mLを入れたディッシュに投入した。ルシファーイエローを入れたチャンバーの液の水位が、普通の生理的食塩水を入れたディッシュの水位よりも5mm高くなるように設定した。これらを37度の恒温室中に静置し、前記ディッシュ中の生理的食塩水に含まれるルシファーイエローの濃度を、設置後0,1,2,3,4,7日目に測定した。測定には蛍光強度測定装置(マルチラベルカウンター、ALVO SX1420、パーキンエルマー社製)を用い、蛍光測定法にて測定した。測定結果を
図36に示す。
【0353】
前記チャンバーから前記導電性複合繊維束を介してディッシュまでルシファーイエローが輸送されたことにより、前記ディッシュ中のルシファーイエローの濃度は0.17μM/dayの速度で上昇した。この結果は、ルシファーイエローが導電性複合繊維を一定速度で透過(浸透移動)していることを示している(
図36、▲のプロット及び点線)。
【0354】
[実施例4-5]
実施例4-4と同様に中央部がPDMSにより被覆された導電性複合繊維束を準備した。ただし、PDMSで被覆する前に前記導電性複合繊維束にグリセロールを含浸させた。
この導電性複合繊維束を用いて、実施例4-4と同様に薬物輸送速度を測定したところ、ディッシュ中のルシファーイエローの濃度は6.7μM/dayの速度で上昇した(
図36、■のプロット及び実線)。この結果から、グリセロールを導電性複合繊維へ添加したことによって、薬物輸送速度が上昇することが示された。
【0355】
導電性複合繊維束にグリセロールを含浸させたことにより薬物輸送速度が向上する理由の一つとして、PDMSにより導電性複合繊維束を被覆する際に、PDMSが導電性複合繊維束の内部に浸透する(染み込む)ことをグリセロールが防止し、導電性複合繊維束で構成される流路の状態が薬物輸送に適した状態に保たれていることが考えられる。
【0356】
[実施例4-6]
(電極による中枢神経組織に対する侵襲性の評価)
中枢神経系の組織への生体電極の埋め込みによって、中枢神経系の組織に電極の大きさよりも広い領域に恒久的な障害が発生し、測定の障害になることが従来から問題になっており、その解決策が求められている。本発明にかかる実施例4-4で作製した生体内埋め込み型電極の脳内への刺入後、前記電極の前記流路(薬物輸送路)を介して、中枢神経組織の障害を軽減する効果を持つ薬物を投与(GSNO:S-Nitrosoglutathione)することにより、前記電極の埋め込みによって中枢神経組織に与えられる障害(侵襲)を軽減できるかを、動物実験により検討した(
図34B~34D)。
【0357】
ラット脳内への電極の挿入(刺入)による神経組織の障害の程度は、ラットの大脳皮質のグリア細胞(アストロサイト)の免疫組織染色と、神経組織の欠損の程度により評価した。免疫組織染色は次のように行った。4%パラフォルムアルデヒドで環流固定した大脳皮質から25ミクロンの凍結切片を作成し、抗GFAP抗体(MAB360 Chemicon) を1:1000希釈、4℃、overnightの条件で結合させ、さらに2次抗体(Alexa 568)で標識し、蛍光顕微鏡(BX51、オリンパス株式会社製)で観察した。
【0358】
従来型の金属製針電極をラット脳内に埋め込み、一週間後の大脳皮質を蛍光顕微鏡で観察したところ、
図34Dに示すように、金属製針電極の埋め込み部(点線の領域)を超えて、顕著な組織欠損(黒色の領域)が生じていた。神経組織にはGFAP陽性のグリア細胞(アストロサイト)が増殖していた(
図34Dの▲)。特に電極と接触した領域にグリア細胞が密に増殖し、グリア瘢痕(
図34Dの矢印)を形成していた。このように、電極埋め込み後7日目において、顕著な組織欠損とグリア瘢痕の形成(矢印)とグリア細胞の集団(▲印)が認められた。
【0359】
このように設置した従来型の金属製針電極を用いてラットの大脳皮質の集合活動電位を測定した。電極の埋め込み後、1日目と7日目に測定した。その結果を
図34Aの下段(Conventional)(Scale bar 250ms 40mV)に示す。1日目の測定信号は良好であるが、7日目には測定波形の縮小やスパイクの欠落(矢印)が認められた。
図34Aにおいて、Day1は電極埋め込み後1日目の測定記録であり、Day7は電極埋め込み後7日目の測定記録であり、る。矢印はスパイクの欠落を指す。
【0360】
一方、実施例4-4で作製した生体内埋め込み型電極をラット脳内へ刺入した後、前記電極の前記薬物輸送路を介して、抗炎症剤(GSNO)を体重250gあたり15μg/dayで投与した。
薬物輸送の速度は、前記薬物輸送路に接続した小型浸透圧ポンプ(米国アルゼット社製)により調節した。抗炎症剤を投与した本実施例の場合、組織欠損は従来型電極と比較して小さく、組織欠損は電極設置部(点線の領域)に限られていた(
図34C)。また、神経組織のグリア細胞の増殖は軽度であり、電極との接触部に明確なグリア瘢痕は認められなかった(
図34C)。
図34Cにおいては、電極の周囲にGSNOが投与されており、電極埋め込み後7日目においても組織欠損は電極の設置領域(点線)に限局し、組織中のグリア細胞の増殖も少なかった。
比較するために、
図34Bに、電極を埋め込んでいない正常な大脳皮質のグリア細胞の蛍光免疫染色像を示す。
【0361】
このように設置した本発明にかかる実施例4の電極を用いてラットの大脳皮質の集合活動電位を測定した。電極の埋め込み後、1日目と7日目に測定した。その結果を
図34Aの上段(PEDOT-PSS)(Scale bar 250ms 40mV)に示す。1日目及び7日目の測定信号ともに、良好な波形が観察された。
【0362】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。