(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153778
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】カソード仕上げ機
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20221005BHJP
C25C 1/12 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C25C7/02 304
C25C1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056475
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】青木 英和
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA30
4K058BA21
4K058BB04
4K058CA04
4K058EB02
4K058EB20
4K058FA08
4K058FA10
4K058FA30
(57)【要約】
【課題】安定的にカソードの歪みを抑制することができるカソードの作製方法およびカソード仕上げ機を提供する。
【解決手段】電解精製によって精製された種板Sを有するカソードCを作製するカソード仕上げ機1であって、種板Sを挟むワークローラー4を備え、種板Sの内部応力を除去する内部応力除去部2と、内部応力除去部2に供給する前に種板Sが通される異物除去部20と、を備えており、異物除去部20は、種板Sを通過させる隙間が形成された一対の除去ローラー21,21を備えており、除去ローラー21は、ローラー本体21と、ローラー本体21の表面に形成された、柔軟性を有する素材に形成された異物除去層23と、を有しており、一対の除去ローラー21,21は、異物除去層23間の距離が種板Sの厚さよりも短く、ローラー本体22間の距離が種板Sの厚さよりも長い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解精製によって精製された種板を有するカソードを作製するカソード仕上げ機であって、
種板を挟むワークローラーを備え、種板の内部応力を除去する内部応力除去部と、
前記内部応力除去部へ供給する前に種板が通される異物除去部と、を備えており、
該異物除去部は、
種板を通過させる隙間が形成された一対の除去ローラーを備えており、
該除去ローラーは、
ローラー本体と、
該ローラー本体の表面に形成された、柔軟性を有する素材に形成された異物除去層と、を有しており、
該一対の除去ローラーは、
前記異物除去層間の距離が種板の厚さよりも短く、前記ローラー本体間の距離が種板の厚さよりも長い
ことを特徴とするカソード仕上げ機。
【請求項2】
前記異物除去部は、
前記一対の除去ローラーの異物除去層間の距離を調整する隙間調整機構を備えている
ことを特徴とする請求項1記載のカソード仕上げ機。
【請求項3】
前記異物除去層の素材がゴムである
ことを特徴とする請求項1または2記載のカソード仕上げ機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード仕上げ機に関する。さらに詳しくは、非鉄金属などの電解工程に使用されるカソード歪を低減するカソード仕上げ機に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属精錬の電解工程では、アノード(粗金属板)とカソードとを、電解槽に懸垂させた状態で交互に並べて電解槽の電解液に浸漬し、その状態でアノードとカソードとの間に通電することによって、カソード表面上に高純度の金属を電着させ製品を作製している。
【0003】
かかる電解工程において使用される電力は、アノードとカソードとの距離、つまり、アノードとカソードの間隔に大きく影響される。例えば、アノードとカソードの間隔を狭くすれば、電解液の電気抵抗を小さくできるので、電解工程に使用される電力を小さくできる。しかし、アノードとカソードの間隔を狭くし過ぎれば、電着が進むことによってカソードに電着した金属がアノードと接触する可能性があり、かかる接触(ショート)が生じれば、アノードからカソードに電流が直接流れて電力が空費される。かといって、アノードとカソードの間隔を広くすれば、アノードとカソードの接触は避けることができても、電解液の電気抵抗が大きくなり大きな電力を要してしまう。したがって、アノードとカソードの間隔は、ショートが生じない範囲でできるだけ狭くすることが望ましい。
【0004】
また、電解工程では、複数のアノードと複数のカソードとを交互に並べているが、アノードとカソードの間隔にバラつきがあれば、電解槽内において、アノードとカソードとの間に流れる電流にばらつきが生じる。すると、カソードに電着される金属の状態にバラつきが生じ、製品の品質にもバラつきが生じる可能性がある。したがって、アノードとカソードの間隔は均一にすることが必要である。
【0005】
しかし、アノードやカソードに曲がりやねじれが生じていれば、アノードとカソードを間隔を均一になるように並べても、曲がりやねじれが生じている部分では、アノードとカソードの間隔が狭くなったり広くなったりする。すると、間隔が狭くなっている個所では、電流が集中しアノードとカソードが当初接触していなくても、電着の進行によってショートが発生する可能性がある。一方、間隔が広くなっている個所では、カソードに十分に電着できない可能性がある。したがって、アノードとカソードの間隔を均一にするためには、アノードやカソードは、曲がりやねじれが少なくその形状(平坦度など)が整った形状、つまり、電解槽に懸垂させた状態における垂直性が高い形状とすることが望ましい。
【0006】
金属電解に用いるカソードは、カソード仕上機によって以下の工程で作製される(特許文献1~3参照)。
【0007】
まず、種板電解において精製した薄い電気銅(以下種板という)を作製し、作製された種板はカソード仕上機に搬送される。カソード仕上機に搬送された種板は、上下千鳥状の配置に設けられた多数のワークローラーを有するローラーレベラーに供給される。ローラーレベラーでは、多数のワークローラーによって挟まれることによって種板は繰り返し曲げられる。すると、種板は、内部応力が除去されるとともに、反りや凹凸幅が小さくなるように加工される。ローラーレベラーで加工された種板は、上側溝付けローラーと下側溝付けローラーとの間に供給され、種板の先頭から後尾へ沿って溝状の変形が加えられる。そして、溝状の変形が加えられた種板には、上部に短冊状の金属板をU字形に折り曲げた吊り手が取り付けられ、この吊り手にカソードビームを挿し込むことによってカソードが完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8-176880号公報
【特許文献2】特開2001-192879号公報
【特許文献3】特開2004-360050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
カソード仕上機に供給される種板は、種板電解によって、1日4000枚から5000枚が作製されるが、専用容器(以下パレットという)に100枚から200枚程度が積載された状態で保管される。種板の表面上には、種板の表面上に落下した異物(例えば種板の切り屑等)や、種板の表面に付着している電気銅小粒やバリ等の異物が存在している場合がある。すると、種板は、その表面上に異物が存在している状態で積載され、種板と種板の間に異物が挟まれた状態でパレットに保管されることになる。
【0010】
保管された種板は使用時にパレットごとカソード仕上機まで運ばれ、カソード仕上機では、種板はパレットから1枚ずつカソード仕上機に供給され、上述した工程でカソードに仕上げられる。このとき、種板の表面上の異物は、種板とともにカソード仕上機に供給される。すると、カソード仕上機で、種板がローラーレベラーを通過する際には、種板の表面がワークローラーと接触するが、この際に、種板の表面の異物は種板の表面から離脱して落下する。落下した異物がローラーレベラーの下部ワークローラーと下部バックアップローラーとの間に入ると、下部ワークローラーと下部バックアップローラーとの間に隙間が生じる可能性があり、かかる隙間が生じると、ローラーレベラーが本来の成型能力を維持することができなくなる。すると、ローラーレベラーを通過した種板に溝状の変形を加えても、溝状の変形効果を有効に発揮させることができず、逆に種板の歪を悪化させる可能性がある。
【0011】
かかる問題を解決するには下部ワークローラーと下部バックアップローラーとの間から異物を除去する必要があるが、異物を除去するためには、ローラーレベラーを分解して掃除する必要が生じる。ローラーレベラーの分解掃除には、電解操業を48時間以上停止しなければならない。そして、カソードの歪を良好な状態で維持するためには、ローラーレベラーの分解掃除の頻度を異物の混入にあわせて実施する必要があるため、異物がローラーレベラーに混入しやすい環境では操業効率が大幅に低下する。
【0012】
本発明は上記事情に鑑み、安定的にカソードの歪みを抑制することができ、操業効率の低下を防止できるカソード仕上げ機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明のカソード仕上げ機は、電解精製によって精製された種板を有するカソードを作製するカソード仕上げ機であって、種板を挟むワークローラーを備え、種板の内部応力を除去する内部応力除去部と、前記内部応力除去部へ供給する前に種板が通される異物除去部と、を備えており、該異物除去部は、種板を通過させる隙間が形成された一対の除去ローラーを備えており、該除去ローラーは、ローラー本体と、該ローラー本体の表面に形成された、柔軟性を有する素材に形成された異物除去層と、を有しており、該一対の除去ローラーは、前記異物除去層間の距離が種板の厚さよりも短く、前記ローラー本体間の距離が種板の厚さよりも長いことを特徴とする。
第2発明のカソード仕上げ機は、第1発明において、前記異物除去部は、前記一対の除去ローラーの異物除去層間の距離を調整する隙間調整機構を備えていることを特徴とする。
第3発明のカソード仕上げ機は、第1または第2発明において、前記異物除去層の素材がゴムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1発明によれば、種板が一対の除去ローラーを通過するときに、種板の表面に存在する異物と異物除去層との干渉によって、種板の表面から異物を除去することができる。すると、内部応力除去部に異物が持ち込まれないので、内部応力除去部を種板の変形に適した状態に維持することができる。
第2発明によれば、一対の除去ローラー間の隙間を、異物の除去に適した状態に維持することができる。
第3発明によれば、異物除去層による異物の除去効果を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(A)は本実施形態のカソード仕上げ機1の概略説明図であり、(B)は異物除去部20の概略拡大説明図であり、(C)は内部応力除去部2のレベラー3の概略説明図である。
【
図2】(A)はカソード仕上げ機1の溝付け部10に採用される溝つけローラー対11~13の一例を示した図であり、(B)はカソード仕上げ機1によって溝gが形成された種板Sの概略平面図であり、(C)は溝つけローラー対11~13の鍔部15~17の概略説明図である。
【
図3】カソードCおよびカソード歪Xの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態のカソード仕上げ機は、カソードの歪みを抑制する装置であって、種板に付着した異物を適切に除去することができるようにしたことに特徴を有している。
【0017】
本実施形態のカソード仕上げ機は、電解精製による電気銅の作製に使用されるカソードの変形防止に適しているが、本実施形態のカソード仕上げ機によって作製されるカソードは上述したカソードに限られない。つまり、種板を加工して変形を防止することが求められるカソードの作製に本実施形態のカソード仕上げ機は使用することができる。例えば、電解採取による電気ニッケルの作製に使用されるカソードの作製に本実施形態のカソード仕上げ機は使用することができる。
【0018】
<カソードC>
まず、本実施形態のカソード仕上げ機1によって作製されるカソードCの概略を説明する。
図3に示すように、カソードCは、種板Sを吊り手shでカソードビームBから吊り下げたものである。種板Sは、例えば、縦幅が約1000~1150mm、横幅が約1000~1150mm、厚さが約0.6~1.0mmの金属板である。電気銅の作製に使用される場合には、種板Sには、純度が99.99%の電気銅が使用される。
【0019】
なお、後述するカソード仕上げ機1では、図示しない種板電解工程から得られた種板Sが収容された種板パレットが供給口に移送されれば、種板Sに吊り手shとカソードビームBとが取り付けられた状態のカソードCを作製する。
【0020】
ここで、種板電解工程とは、例えば、電気銅を作製する場合であれば、純度が99.99%の電気銅の種板を得る工程を意味している。この種板電解工程では、純度98%程度の粗銅であるアノード(陽極)とステンレス製やチタン製の母板(陰極)とを、電解液を満たした電解槽に交互に浸漬した状態で実施される。この状態で、電解槽に対する電解液の給液を行いつつ、例えば、電流密度250A/m2程度となるように両電極間に電流を供給すれば、純度が99.99%の電気銅の種板を得ることができる。この種板電解工程で使用される電解液はとくに限定されないが、例えば、膠、アビトン等が添加された硫酸銅の硫酸溶液が好ましい。
【0021】
そして、
図2に示すように、カソードCの種板Sには、その上下方向(カソードCを吊り下げたときに鉛直方向となる方向、
図2では上下方向。以下、単に上下方向という場合はこの方向を意味することがある。)に沿って延びる溝gが複数本形成されている。この複数本の溝gは、以下に説明するカソード仕上げ機1によって形成される。この複数本の溝gを形成することによって、カソードCの種板Sの上下方向における種板Sの凹凸や曲がりが小さくなり、カソード歪を抑制することができる。したがって、複数本の溝gが形成されたカソードCを使用すれば、電解槽に浸漬した際にアノードとカソードの間隔を均一にしやすくなり、通電工程における電力量の消費を抑えることができるので、電解精製の生産効率を向上することができる。
【0022】
なお、カソード歪とは、種板Sを上下方向の端縁からみたときにおける、種板Sの厚さを意味している(
図3のX参照)。
【0023】
<カソード仕上げ機1>
つぎに、本実施形態のカソード仕上げ機1を説明する。
【0024】
図1(A)に示すように、本実施形態のカソード仕上げ機1は、一般的なカソード仕上げ機と同様に、内部応力除去部2と、溝付け部10と、吊り手形成部と、カソードビーム取り付け部と、を備えている。そして、本実施形態のカソード仕上げ機1は、上記機能に加えて、内部応力除去部2に供給する前に、種板Sから異物を除去する異物除去部20を備えている。
【0025】
なお、
図1(A)では、種板Sに吊り手shを取り付ける吊り手形成部や、カソードビーム取り付け部、は記載を省略している。
また、本実施形態のカソード仕上げ機1は、上記機能以外に、内部応力除去部2に供給される種板Sの厚さを測定する厚さ測定部を有していてもよい。
さらに、本実施形態のカソード仕上げ機1は、内部応力除去部2を有していれば、溝付け部10は必ずしも設けなくてもよい。
【0026】
<内部応力除去部2>
内部応力除去部2は、ローラーによって種板Sを挟んで、種板Sの内部応力を除去するものである。具体的には、内部応力除去部2はレベラー3を備えている。
【0027】
図1(C)に示すように、レベラー3は、種板Sに直接接触する複数のワークローラー4を備えたものである。レベラー3は、上段ローラ群3Aと下段ローラ群3Bとを有しており、各ローラ群3A,3Bは、種板Sの搬送方向に沿って並ぶように複数のワークローラー4を有している。具体的には、ローラ群3A,3Bのワークローラー4は、種板Sの搬送方向に沿って千鳥配置となるように配設されている、つまり、上段ローラ群3Aのワークローラー4と下段ローラ群3Bのワークローラー4とは、種板Sを搬送する方向における位置がズレた状態となるように配設されている。
【0028】
また、上段ローラ群3Aは、ワークローラー4の上方に、ワークローラー4を支えるバックアップローラー5を備えている。このバックアップローラー5は、その回転軸がワークローラー4の回転軸と平行となり、かつ、その表面がワークローラー4の表面と接触するように設けられている。
【0029】
同様に、下段ローラ群3Bは、ワークローラー4の下方に、ワークローラー4を支えるバックアップローラー5を備えている。このバックアップローラー5は、その回転軸がワークローラー4の回転軸と平行となり、かつ、その表面がワークローラー4の表面と接触するように設けられている。
【0030】
内部応力除去部2がかかるレベラー3を有しているので、種板Sの反りや凹凸幅を小さくすることができる。つまり、上段ローラ群3Aのワークローラー4と下段ローラ群3Bとワークローラー4との間に種板Sが送り込まれると、種板Sは多数のワークローラー4によって繰り返し板厚方向に曲げられるので、搬送方向における種板Sの反りや凹凸幅を小さくすることができる。また、種板Sの表面にはワークローラー4の表面が面接触するので、種板Sは、搬送方向と直交する方向の曲がりも除去される。なお、種板Sは、内部応力除去部2のレベラー3における種板Sの搬送方向と上下方向とが一致するように内部応力除去部2に供給される。
【0031】
<溝付け部10>
溝付け部10は、内部応力除去部2によって内部応力を除去された種板Sに溝gを形成するものである。具体的には、種板Sを搬送しながら、内部応力除去部2における種板Sの搬送方向と平行、つまり、種板Sの上下方向と平行な複数本の溝gを種板Sに形成する。この溝付け部10は、
図2(A)に示すように、複数の溝付けローラー対11~13を備えている。この3対の溝付けローラー対11~13は、いずれも上下各一本の溝付けローラー11A~13Bを備えている(
図2(C)参照)。
【0032】
図2(A)、(C)に示すように、各溝付けローラー対11~13の溝付けローラー11A~13Bは、その軸方向の所定の位置に鍔部15~17が設けられたものである。鍔部15~17は、溝付けローラー対11~13ごとに設けられる位置が異なるが、対となる溝付けローラー(例えば溝付けローラー11A,11B)では同じ位置に設けられる(
図2(C)参照)。また、対となる溝付けローラー11A~13Bでは、一方には谷鍔部が設けられ、他方には山鍔部が設けられる(
図2(C)参照)。このため、対となる溝付けローラー11A~13B間に種板Sが通されると、種板Sには、鍔部15~17に挟まれた部分に谷鍔部側に凹んだ溝gが形成される。例えば、
図2(A)に示すように鍔部15~17が設けられた場合、最初に種板Sに溝を形成する溝付けローラー11A,11Bの鍔部15a,15bによって種板Sの幅方向の中央部に3本の溝gが形成され、つぎに、溝付けローラー12A,12Bの鍔部16a,16bによって溝付けローラー11A,11Bで形成された溝gの外側に2本ずつ計4本の溝gが形成される。そして、最後に種板Sに溝gを形成する溝付けローラー13A,13Bの鍔部17a,17bによって、溝付けローラー13A,13Bで形成された溝gのさらに外側に2本ずつ計4つ本の溝gが形成される。
【0033】
<吊り手形成部>
吊り手形成部は、溝付け部10によって溝がつけられた種板Sに吊り手shを取り付けるものである。具体的には、溝付け部10から種板Sが供給されると、金属板を所定の寸法(例えば、縦約100mm×横約300mm)に加工した帯状の板の両端が、種板Sの両面に固定されて、輪状の吊り手shが形成される。一対の吊り手sh,shを取り付ける場合には、
図3に示すような位置に取り付けられる。
【0034】
<カソードビーム取り付け部>
カソードビーム取り付け部は、吊り手shにカソードビームBを取り付けるものである。具体的には、輪状になっている吊り手sh(例えば、一対の吊り手sh,sh)にカソードビームBを挿通する。このように、カソードビームBを吊り手shに取り付ければ、カソードCが完成する(
図3参照)。
【0035】
<異物除去部20>
図1(A)に示すように、本実施形態のカソード仕上げ機1では、内部応力除去部2に種板Sを供給する前に、種板Sから異物を除去する異物除去部20を備えている。
【0036】
図1(B)に示すように、異物除去部20は、一対の除去ローラー21,21を備えている。この一対の除去ローラー21,21は、鋼製のローラー本体22と、ローラー本体22の表面に形成された異物除去層23と、を有している。ローラー本体22は、通常のローラー、例えば、上述したレベラー3のワークローラー4と実質同様の構造を有するものである。異物除去層23は、ゴムによって形成された層であり、ローラー本体22の表面を覆うように設けられている。
【0037】
そして、一対の除去ローラー21,21は、回転軸22aが互いに平行となるように、上下方向に間隔を空けて並ぶように配設されている。具体的には、一対の除去ローラー21,21は、両者の異物除去層23間の距離W1が種板Sの厚さよりも若干短くなり、両者のローラー本体22の表面間の距離W2が種板Sの厚さよりも長くなるように配設されている。例えば、距離W1が種板Sの厚さよりも0.01~0.3mm程度短くなり、距離W2が種板Sの厚さよりも2~20mm程度長くなるように一対の除去ローラー21,21は配設されている。つまり、一対の除去ローラー21,21は、両者間を種板Sが通過するときに、異物除去層23が変形して種板Sの表面に密着するが、異物除去層23から種板Sを変形させる力が加わらないようになっている。
【0038】
異物除去部20の一対の除去ローラー21,21が上記のごとき構成であるので、異物除去層23によって種板Sの表面の異物を種板Sから除去することができる。つまり、一対の除去ローラー21,21間に種板Sが挟まれると、一対の除去ローラー21,21の異物除去層23が変形して異物除去層23が種板Sの表面に密着する。このとき、種板Sの表面の異物mは異物除去層23を強く押し縮めることになり、異物mは異物除去層23から大きな抵抗を受ける。この局面では、異物mに発生する搬送方向への加速度は種板Sに発生する搬送方向への加速度よりも小さくなる。すると、異物mは種板Sの表面の移動に追従できず、種板Sの表面から分離して除去される。一方、異物mでも比較的小さな異物mは、異物除去層23内に埋没した状態で種板Sの表面と同じ速度で移動する。しかし、種板Sが異物除去層23から離れる局面で、異物除去層23内に埋没した異物mは、種板Sから離れていく異物除去層23に埋没された状態で種板Sの表面から除去される(
図1(B)参照)。
【0039】
以上のように、異物除去部20を設ければ、種板Sが内部応力除去部2に供給される前に種板Sの表面から異物mを除去できるので、異物mがレベラー3内に侵入することを防止できる。したがって、内部応力除去部2のレベラー3を種板Sの変形に適した状態を維持できるから、レベラー3によって種板Sの内部応力の除去や反り、凹凸幅を適切に矯正することができる。しかも、レベラー3内に異物mが侵入しないので、レベラー3を種板Sの変形に適した状態に長期間維持することができ、カソード仕上げ機1の操業を長期間維持することができる。
【0040】
また、異物除去層23の厚さはとくに限定されない。上述したように、種板Sの表面のほとんどの領域に対しては難なく変形して種板Sの表面に密着できる程度、かつ、種板Sの表面に付着した異物mに対しては幾分強い接触により種板Sの表面から剥がす(小さな異物mであれば異物除去層23内に埋没させて種板Sの表面から除去する)ことができる程度の厚さを異物除去層23は有していればよい。例えば、ゴムであれば、1~20mm程度の厚さを有していればよい。
【0041】
また、異物除去層23の素材はゴムに限られず、種板Sよりも柔らかい柔軟性を有する素材によって形成されていればよい。つまり、一対の除去ローラー21,21間に種板Sを挟んでも種板Sを変形させる力が加わらず、種板Sの表面に付着した異物mを異物除去層23に埋没させて種板Sから剥がすことができる素材によって形成されていればよい。例えば、合成樹脂や布などを異物除去層23の素材として使用することができる。ゴムを使用すれば、安価で品質が安定しており、異物除去層23による異物の除去効果を高くできる。
【0042】
<隙間調整機構>
異物除去部20は、一対の除去ローラー21,21間の隙間を調整する隙間調整部を備えていることが望ましい。一対の除去ローラー21,21の異物除去層23は、種板Sと接触することによって徐々に摩耗し、また、異物mによって異物除去層23が削れる等の損傷が生じる。すると、一対の除去ローラー21,21の異物除去層23間の距離W1が長くなり、異物除去層23による異物mを除去する効果が低下する。しかし、隙間調整部を設ければ、距離W1が変化しても距離W1を適切な状態まで調整できるので、カソード仕上げ機1の操業を長期間維持することができる。
【0043】
隙間調整部の構成はとくに限定されず、一対のローラー21,21間の距離を調整する公知の機構を採用することができる。例えば、シリンダ機構やネジ機構等によって一対のローラーを回転可能に保持する軸受を移動させる機構を隙間調整部として採用することができる。
【実施例0044】
本発明のカソード仕上げ機を使用することによって、作製されるカソードの歪の変動を抑制でき、カソードの歪を長期間適切な値に維持できることを下記のごとく確認した。
【0045】
実験では、
図1(A)に示す構造のカソード仕上げ機を使用して、2,400枚/日の条件で、実施例1では197日間、比較例1では151日間、種板からカソードを作製し、作製されたカソードの平均歪に対する各カソードの歪の変化を確認した。
【0046】
カソード仕上げ機には、レベラーの前に鋼製の一対のローラーを設け、この一対のローラー(直径100mm、長さ1300mm)間を通して、種板をレベラーに供給するようにした。この一対のローラーの表面に厚さ10mmの異物除去層(素材:ゴム)を設けた場合、つまり、本発明における一対の除去ローラーを設けた場合(実施例1)と、異物除去層を設けない場合、つまり、一般的な鋼製のローラーを設けた場合(比較例1)と、において、カソード歪を確認した。なお、一対のローラー間の距離は、実施例1(異物除去層間の距離)、実施例2(ローラーの表面間の距離)ともに0.5~1.0mmの範囲で種板の厚みに応じて調整した。
【0047】
カソード仕上げ機に供給する種板は、いずれも純度99.99%の電気銅であり、その寸法は、縦1050mm×横1070mmであり、厚さは0.6~1.0mmであった。
【0048】
また、カソードの吊り手は、純度99.99%の電気銅によって形成された板を使用した。板の寸法は、縦300mm×横100mmであって厚さが0.6~1.0mmの帯状のものを使用した。
【0049】
なお、カソード仕上げ機では、レベラーのローラー押し込み量が入り口側で-0.6mm、出口側で+0.8mm、溝付けローラーの基準クリアランス(
図2(C)のCL)が1.0mmの条件で運転を行った。
【0050】
また、カソード歪は、吊り手が取り付けられた種板にカソードビーム(断面30mm×30mm、長さ1400mm)を通し、カソードビームを保持してカソードを吊り下げた状態で測定した。カソード歪は、
図3に示すXの値である。つまり、種板を板の端縁から見たときにおける種板の占める幅を、電解用極版の平坦度測定装置(特開平7-190744)に開示されている測定装置によって測定し、カソード歪とした。
【0051】
実施例1の全操業期間におけるカソードの平均歪と、比較例1の全操業期間におけるカソードの平均歪と、を比較すると、実施例1のカソードの平均歪は比較例1のカソードの平均歪よりも5.7mm小さく、カソードの平均歪を低減する効果が高いことが確認された。
【0052】
電解槽にカソードを設置する際には、アノードを傾ける等の工夫により、カソードの歪の割に良い操業成績を収めることができる場合がある。このような工夫で操業成績を良くするためには、多数のカソードで形状が互いに似通っている必要がある。たとえばカソードが左に傾いた形状をしている場合はアノードも左に傾けることにより間隔を確保することができるが、他のカソードが左に傾いていなければ、左に傾けたアノードと他のカソードとは間隔が狭まってしまう。そこで、カソードの形状が同じ性質(形状)となるように制御できているかを確認するために、各カソードについてカソードの平均的な形状からのズレを算出した。カソード歪は鉛直面からの変位の絶対値の最大箇所の値であるが、ここでいう「カソードの平均的な形状からのズレ」とは、平均的なカソードを鉛直面のかわりに用いて得られる値であり、絶対値の最大箇所の値に方向を示す符号をつけたものとして定義した。「カソードの平均的な形状」とは、全操業期間(実施例1では197日間、比較例1では151日間)に作製した全てのカソードの各位置(
図3(C)の上下方向の各位置)について幅方向(
図3では左右方向)の位置を平均し、得られた平均値に基づいて形成されるカソードの形状を意味している。なお、以下では、「カソードの平均的な形状」を便宜上「カソードの基準形状」という。
【0053】
結果を
図4に示す。
なお、
図4における縦軸は、各日の基準形状に対するズレ量であり、横軸は日を示している。つまり、
図4では、各日の基準形状に対するズレ量を1日1点として、休日を空けて時系列順に並べたものである。ここでいう「各日の基準形状に対するズレ量」とは、各日の全カソードについて「カソードの基準形状」に対するズレ量を測定し、各日の「全カソードの基準形状」に対するズレ量を平均した値である。
【0054】
図4(B)に示すように、比較例1では、「各日の基準形状に対するズレ量」が大きく、全操業期間での「各日の基準形状に対するズレ量」の平均値は、0.5mmであった。
一方、
図4(A)に示すように、実施例1では、「各日の基準形状に対するズレ量」は小さく、全操業期間での「各日の基準形状に対するズレ量」の平均値は、0.1mmであり、異物除去層を設けることによって、似通った形状のカソードが得られることが確認された。
【0055】
以上のように、異物除去層を有する除去ローラーを備えた異物除去部を有する本発明のカソード仕上げ機を使用することによって、カソードの歪を低減でき、その形状のばらつきも小さくできることが確認された。