(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154100
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】発酵乳及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/12 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
A23C9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056980
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保内 愛
(72)【発明者】
【氏名】高梨 南羽
(72)【発明者】
【氏名】玉置 祥二郎
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC06
4B001AC31
4B001BC01
4B001BC06
4B001EC04
(57)【要約】
【課題】特別な原料や設備を使用することなく、ホエイタンパク質含量が高く、口当たりのなめらかな発酵乳を製造することを課題とする。
【解決手段】乳タンパク質含量が、静置型発酵乳基準で5.2質量%以上であり、加熱変性していないホエイタンパク質及び加熱変性しているホエイタンパク質を含む、静置型発酵乳により、前記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳タンパク質含量が、静置型発酵乳基準で5.2質量%以上であり、加熱変性していないホエイタンパク質及び加熱変性しているホエイタンパク質を含む、静置型発酵乳。
【請求項2】
乳タンパク質中のホエイタンパク質の割合が30質量%以上である、請求項1に記載の静置型発酵乳。
【請求項3】
硬度が6gw以上、30gw以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の静置型発酵乳。
【請求項4】
発酵乳の原料ミックス溶液を殺菌する工程と、
ホエイ素材溶液を殺菌する工程と、
殺菌後の発酵乳の原料ミックス溶液と殺菌後のホエイ素材溶液を混合する工程と
を含む、発酵乳の製造方法であって、
前記発酵乳の原料ミックス溶液が、ホエイタンパク質を含み、
発酵乳の原料ミックス溶液の殺菌条件が、ホエイタンパク質が加熱変性する条件であり、そして
ホエイ素材溶液の殺菌条件が、ホエイタンパク質が加熱変性しない条件である、
発酵乳の前記製造方法。
【請求項5】
前記発酵乳が、静置型発酵乳である、請求項4に記載の発酵乳の製造方法。
【請求項6】
発酵乳の原料ミックス溶液を殺菌する工程と、
ホエイ素材溶液を殺菌する工程と、
殺菌後の発酵乳の原料ミックス溶液と殺菌後のホエイ素材溶液とを混合する工程と
を含む、発酵乳の硬度上昇抑制方法であって、
前記発酵乳の原料ミックス溶液が、ホエイタンパク質を含み、
発酵乳の原料ミックス溶液の殺菌条件が、ホエイタンパク質が加熱変性する条件であり、そして
ホエイ素材溶液の殺菌条件が、ホエイタンパク質が加熱変性しない条件である、
発酵乳の硬度上昇抑制方法。
【請求項7】
発酵乳の原料ミックス溶液を殺菌する工程と、
ホエイ素材溶液を殺菌する工程と、
殺菌後の発酵乳の原料ミックス溶液と殺菌後のホエイ素材溶液とを混合する工程と
を含む、発酵乳の食感のなめらかさの向上方法であって、
前記発酵乳の原料ミックス溶液が、ホエイタンパク質を含み、
発酵乳の原料ミックス溶液の殺菌条件が、ホエイタンパク質が加熱変性する条件であり、そして
ホエイ素材溶液の殺菌条件が、ホエイタンパク質が加熱変性しない条件である、
発酵乳の食感のなめらかさの向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静置型発酵乳及び発酵乳の製造方法に関する。更に詳しくは、なめらかな食感を有し、しかも特別な原料や設備を使用しない静置型発酵乳、及び発酵乳の製造方法に関する。本発明はまた、発酵乳の硬度上昇抑制方法及び発酵乳の食感のなめらかさの向上方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳は、牛乳等の獣乳を原料とし、乳酸菌あるいは酵母又はその両者により発酵させたものである。近年、消費者の健康志向が高まっている。発酵乳は、腸内環境を整えるとされる乳酸菌類を摂取できる他、3代栄養素のひとつであるタンパク質を気軽に摂取できる食品として、需要が高まっている。その中で、高タンパク質を訴求した発酵乳商品が、増加する傾向である。発酵乳に含まれる乳タンパク質には、カゼインとホエイタンパク質がある。カゼインに比べて、ホエイタンパク質は、体内への吸収が早く、BCAA(Branched Chain Amino Acid;分岐鎖アミノ酸)が豊富に含まれる特徴がある。しかし、発酵乳において、ホエイタンパク質量を増加させると、製造時の熱安定性が低下することや、製品の硬度が高まり発酵乳本来の食感を損なうといった課題がある。
【0003】
タンパク質量を増加させた発酵乳の製造における殺菌時の熱安定性については、殺菌後に乳タンパク質を濃縮及び又は希釈する方法がある(特許文献1)。これによると殺菌時のタンパク質濃度は高値ではないことから、熱安定性の課題を解決することができる。
特許文献2では、不溶性ホエイタンパク質を30%以上含むホエイタンパク質素材を用いることで、ホエイタンパク質を高含量するが、低い粘度を有する高タンパク液体乳製品の調製方法が示されている。これによると、ホエイタンパク質を増加しても、製品の風味や食感を損なうような粘度上昇を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-169491
【特許文献2】特表2020-507330
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法では、殺菌後に濃縮及び希釈して発酵乳を調製する方法が示されているが、ホエイタンパク質の割合について、言及されていない。また、特許文献1の方法では、液状発酵乳に限られており、さらに、膜濃縮設備の導入が必要であるという課題がある。
特許文献2の方法では、発酵乳の粘度上昇を抑制するホエイ素材が示されているが、特定の高価な素材を購入する必要があるという課題がある。あるいは、当該ホエイ素材を独自に製造するための設備の導入が必要であるという課題がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、静置型発酵乳において、口当たりのなめらかな発酵乳を得ること、しかも、当該発酵乳を、特別な原料や設備を使用することなく製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、発酵乳において、乳タンパク質含量を、発酵乳基準で5.2質量%以上とし、前記発酵乳が加熱変性していないホエイタンパク質及び加熱変性しているホエイタンパク質の両方を含むことで、発酵乳の食感がなめらかで口当たりがよくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明者らは、また、発酵乳の製造において、発酵乳の原料ミックス溶液の殺菌とは別に、ホエイ素材溶液を低温殺菌し、その後発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液を混合することで、発酵後の発酵乳の硬度上昇が抑制され、食感がなめらかで口当たりが良いことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、原料を分けて殺菌して後に混合すると、工程数が増加し、製造工程が煩雑になる。また、歩留まりも低下する。本発明者らは、前記のような欠点があるにもかかわらず、本発明の製造方法に着想し、発酵後の発酵乳の硬度上昇が抑制され、食感がなめらかで口当たりが良いことを見出し、本発明を完成させたのである。
本発明は以下の構成を採用した。
【0007】
<1>
乳タンパク質含量が、静置型発酵乳基準で5.2質量%以上であり、加熱変性していないホエイタンパク質及び加熱変性しているホエイタンパク質を含む、静置型発酵乳。
<2>
乳タンパク質中のホエイタンパク質の割合が30質量%以上である、<1>に記載の静置型発酵乳。
<3>
硬度が6gw以上、30gw以下であることを特徴とする<1>又は<2>に記載の静置型発酵乳。
<4>
発酵乳の原料ミックス溶液を殺菌する工程と、
ホエイ素材溶液を殺菌する工程と、
殺菌後の発酵乳の原料ミックス溶液と殺菌後のホエイ素材溶液とを混合する工程と
を含む、発酵乳の製造方法であって、
前記発酵乳の原料ミックス溶液が、ホエイタンパク質を含み、
発酵乳の原料ミックス溶液の殺菌条件が、ホエイタンパク質が加熱変性する条件であり、そして
ホエイ素材溶液の殺菌条件が、ホエイタンパク質が加熱変性しない条件である、
発酵乳の前記製造方法。
<5>
前記発酵乳が、静置型発酵乳である、<4>に記載の発酵乳の製造方法。
<6>
発酵乳の原料ミックス溶液を殺菌する工程と、
ホエイ素材溶液を殺菌する工程と、
殺菌後の発酵乳の原料ミックス溶液と殺菌後のホエイ素材溶液とを混合する工程と
を含む、発酵乳の硬度上昇抑制方法であって、
前記発酵乳の原料ミックス溶液が、ホエイタンパク質を含み、
発酵乳の原料ミックス溶液の殺菌条件が、ホエイタンパク質が加熱変性する条件であり、そして
ホエイ素材溶液の殺菌条件が、ホエイタンパク質が加熱変性しない条件である、
発酵乳の硬度上昇抑制方法。
<7>
発酵乳の原料ミックス溶液を殺菌する工程と、
ホエイ素材溶液を殺菌する工程と、
殺菌後の発酵乳の原料ミックス溶液と殺菌後のホエイ素材溶液とを混合する工程と
を含む、発酵乳の食感のなめらかさの向上方法であって、
前記発酵乳の原料ミックス溶液が、ホエイタンパク質を含み、
発酵乳の原料ミックス溶液の殺菌条件が、ホエイタンパク質が加熱変性する条件であり、そして
ホエイ素材溶液の殺菌条件が、ホエイタンパク質が加熱変性しない条件である、
発酵乳の食感のなめらかさの向上方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タンパク質含量が高く、口当たりのなめらかな発酵乳が得られる。しかも、発酵乳を特別な原料や設備を使用することなく製造できるので、工業的生産に適している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について以下に詳細に説明する。
【0010】
(発酵乳)
発酵乳は、「乳等省令」で、乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したもの、と定義されている。本明細書において、「発酵乳」は、乳等省令で定める定義を適用する。
本明細書において、静置型発酵乳(後発酵型発酵乳、プレーンヨーグルト、ハードヨーグルト、セットヨーグルトとも呼ばれる。)とは、飲食用の容器に発酵原料を充填して後発酵させた発酵乳である。すなわち、飲食用の容器に発酵原料を充填してから発酵し、その後攪拌することなく市販に供する発酵乳である。タンパク質含量が、高濃度となるように原料を溶解した、あるいは膜装置など設備で予め濃縮した発酵原料にて調製した静置型発酵乳は、濃縮型発酵乳(ギリシャヨーグルト)とも呼ばれる。
発酵乳としては、一般に、静置型発酵乳以外に、攪拌型発酵乳(前発酵型発酵乳又はソフトヨーグルトとも呼ばれる)、液状型発酵乳などがある。攪拌型発酵乳とは、原料を発酵させて得られたカードを撹拌して破砕して得られる発酵乳であり、プレーンタイプのほか、果肉等の他の原料を混合した具入りタイプのものもある。
液状型発酵乳は、静置型発酵乳や攪拌型発酵乳を均質機などで細かく砕いて、液状の性質を高め、必要に応じて果肉やソースなどと混合してから、飲食用の容器に充填して市販に供する発酵乳である。液状型発酵乳は、ドリンクヨーグルトとも呼ばれ、液状(例えば、粘度が600mPa・s以下)である。前記粘度は、東機産業株式会社製等の一般的なB型粘度計を用い、100mlの試料を測定容器に分注し、測定プローブ(ローターM2又はM3)を挿入し、回転開始から30秒後の測定値を粘度(mPa・s)としたものである。この場合、粘度の測定は10℃で行う。
【0011】
(乳原料等)
本発明の発酵乳では、加熱変性していないホエイタンパク質及び加熱変性しているホエイタンパク質を含む限り、通常の発酵乳に含まれる原材料を使用することができる。本発明の発酵乳では、加熱変性していないホエイタンパク質及び加熱変性しているホエイタンパク質は、それぞれ、異なる乳原料、乳原料粉末、又はホエイ素材粉末を使用することができる。例えば、加熱変性していないホエイタンパク質及び加熱変性しているホエイタンパク質を添加するために、生乳(原乳)、全脂乳、脱脂乳等の乳原料:乳タンパク質濃縮物(MPC:Milk Protein Concentrate)、分離ミルクタンパク質(MPI:Milk Protein Isolate)、濃縮ミルクタンパク質(MCC:Micellar Casein Concentrate)ミセラカゼイン濃縮物(MCI:Micellar Casein Isolate)、脱脂粉乳、全脂粉乳などの乳原料粉末:又は、ホエイタンパク質濃縮物(WPC:Whey Protein Concentrate)、分離ホエイタンパク質(WPI:Whey Protein Isolate)などのホエイ素材粉末を使用することができる。同様に、チーズホエイなどの乳製品を製造する過程で得られたホエイや、練乳、クリーム、バター、チーズなどの乳製品も使用することができる。
本発明の発酵乳では、加熱変性していないホエイタンパク質を添加するために、ホエイ素材粉末を用いることが好ましく、ホエイタンパク質濃縮物又は分離ホエイタンパク質を用いることがより好ましい。
本発明の発酵乳では、加熱変性していないホエイタンパク質のみではなく、カゼインタンパク質も含むことが好ましい。カゼインタンパク質を含むことにより、発酵乳の組織形成が促進され、適切な硬度を有することができる。カゼインタンパク質は、ホエイタンパク質が変性する温度で殺菌されていることがより好ましい。
カゼインタンパク質を殺菌すると、カゼインタンパク質の一部であるκカゼインが遊離する。その結果、カゼインタンパク質を含む発酵乳に硬度が付与される。殺菌の際に、カゼインタンパク質とホエイタンパク質が共存することで、κカゼインの遊離が促進される。
カゼインタンパク質を含む原料として、生乳(原乳)、全脂乳、脱脂乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、MPC、MPI、MCC、MCIのような素材を添加することができる。これらのカゼインタンパク質を含む原料には、ホエイタンパク質も含まれていることから、これらホエイタンパク質はカゼインタンパク質とともに殺菌され、調製した発酵乳には、加熱変性したホエイタンパク質も含まれる。すなわち、発酵乳中のカゼインタンパク質と加熱変性しているホエイタンパク質は、同じ原料に由来することが好ましい。
【0012】
ここで、本明細書において、「乳タンパク質」とは、乳由来のタンパク質を意味する。「乳タンパク質」は、カゼインタンパク質とホエイタンパク質の2種類から成る。カゼインタンパク質は、牛乳に含まれる乳タンパク質の約80%を占める乳タンパク質である。
本明細書において、「ホエイタンパク質」とは、「乳タンパク質」に含まれるカゼイン以外のタンパク質を意味する。ホエイタンパク質の代表的な成分として、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、免疫グロブリン、及びラクトフェリンが挙げられる。
本明細書において、「加熱変性しているホエイタンパク質」とは、ホエイタンパク質が変性する温度以上で加熱殺菌され、変性しているホエイタンパク質を意味する。
本明細書において、「加熱変性していないホエイタンパク質」とは、ホエイタンパク質が変性する温度以上での加熱殺菌がされておらず、変性していないホエイタンパク質を意味する。
本明細書において、「乳原料」とは、生乳(原乳)、全脂乳、脱脂乳等の液状の畜乳を意味する。
本明細書において、「乳原料粉末」とは、畜乳又は乳原料を加工して粉末状にしたものを意味する。
本明細書において、「ホエイ素材粉末」とは、乳原料粉末のうち、カゼインタンパク質を除去するための処理をし、乳タンパク質中のホエイタンパク質の割合を上昇させた粉末を意味する。具体的には、乳タンパク質のうち、99質量%以上がホエイタンパク質であるものを意味する。これに対して、「ホエイ素材」は、ホエイ素材粉末に加えて、チーズホエイなどの乳製品を製造する過程で得られたホエイタンパク質を豊富に含む溶液や、それを粉末状にしたホエイ粉なども含む。
本明細書において、「カゼイン素材粉末」とは、乳原料粉末のうち、ホエイタンパク質を除去するための処理をし、乳タンパク質中のカゼインタンパク質の割合を上昇させた粉末を意味する。具体的には、乳タンパク質のうち、90質量%以上がカゼインタンパク質であるものを意味する。
本発明の発酵乳中の、ホエイタンパク質及びカゼインタンパク質の含有量は、それぞれ、液体クロマトグラフィーを用い測定することができる。
【0013】
(乳タンパク質含量)
本発明の発酵乳は、乳タンパク質含量が、発酵乳基準で5.2質量%以上である。乳タンパク質含量が5.2質量%未満では、凝固物を形成せず、硬さが不足する。乳タンパク質含量は、発酵乳基準で5.2質量%以上、5.5質量%以上、6.0質量%以上、6.5質量%以上、7.0質量%以上、7.5質量%以上、8.0質量%以上、8.5質量%以上、9.0質量%以上、9.5質量%以上、10.0質量%以上、又は11.0質量%以上であってもよく、上限は、14.0質量%以下、13.5質量%以下、13.0質量%以下、12.5質量%以下、又は12.0質量%以下であってもよく、具体的な範囲としては、5.2質量%以上14.0質量%以下、5.5質量%以上13.5質量%以下、6.0質量%以上13.0質量%以下であることができる。
本発明の発酵乳中の、乳タンパク質の含有量は、ケルダール法により測定することができる。本発明の発酵乳は、乳タンパク質以外のタンパク質、例えば大豆タンパク質等を含むことができるが、含まないことが好ましい。
【0014】
(乳タンパク質中のホエイタンパク質の割合)
本発明の発酵乳に含まれる、乳タンパク質中のホエイタンパク質の割合(変性しているもの及び変性していないもののいずれも含む)は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは30質量%~80質量%であり、さらに好ましくは40質量%~70質量%である。
ホエイタンパク質は、カゼインよりも吸収性が高く、BCAA等が多いメリットがある。しかしながら、ホエイタンパク質の割合が多いと口当たりが悪くなることが多い。本発明の発酵乳においては、ホエイタンパク質の割合が多くとも、食感のなめらかさを得ることができる。
加熱変性したホエイタンパク質の量を増加させると、殺菌により変性したホエイタンパク質によって硬度が大きく増加し、カードが増加する。このカードが、発酵乳内でカード粒となり発酵乳の食感を悪化させる(後述の比較例1及び2)。加熱変性したホエイタンパク質の一部を加熱変性していないホエイタンパク質に置換することにより、本発明の発酵乳においては、ホエイタンパク質の割合が多くとも、食感のなめらかさを得ることができる。一方で、加熱変性したホエイタンパク質の全てを加熱変性していないホエイタンパク質に置換すると、硬度が不足する(後述の比較例3)。
【0015】
本発明の発酵乳は、加熱変性していないホエイタンパク質を含む。加熱変性していないホエイタンパク質の有無は、以下の手順で評価する。
発酵乳を25℃、1000gの条件で、10分間遠心分離する。得られた上澄みを、加熱変性していないホエイが含まれる可能性があるサンプルとする。サンプル中にβラクトグロブリン及びαラクトアルブミンが存在するか、J. Chromatography A 2001, 928, 63-76. Identification and quantification of major bovine milk proteins by liquid chromatography. (Bordin et al.)に従って、液体クロマトグラフィーを用いて評価する。
【0016】
本発明の発酵乳は、加熱変性しているホエイタンパク質を含む。加熱変性しているホエイタンパク質の有無は、公知の手法を用いて評価することができる。例えば、全ホエイタンパク質量から、液体クロマトグラフィーで測定した加熱変性していないホエイタンパク質の質量を差し引くことができる。
【0017】
(その他の原材料)
本発明の発酵乳には、砂糖、糖類、甘味料、香料、果汁、果肉、ビタミン、ミネラル、植物油脂、乳化剤、ペクチン、大豆多糖類、寒天、ゼラチン、安定剤(カルボキシメチルセルロースなど)、澱粉、デキストリンなどの、食品、食品成分、又は食品添加物などを含むことができる。
【0018】
発酵乳の原料に添加して混合(接種)するためのスターターの例として、乳酸桿菌である、ラクトバチルス・ブルガリクスや、ラクトバチルス・ラクティス、乳酸球菌である、ストレプトコッカス・サーモフィラス、その他の発酵乳の製造で一般的に用いられる乳酸菌や酵母などから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
スターターの添加量は、公知の発酵乳の製造方法において採用されている添加量に従って、適宜設定することができる。また、スターターの接種方法も、特に制限されることなく、発酵乳の製造で慣用されている方法を適宜用いることができる。
発酵の条件は、発酵乳の種類や所望の風味、使用するスターターの種類などを考慮して、適宜設定することができる。例えば、発酵室内の温度(発酵温度)を30℃~50℃の範囲に維持し、その発酵室内で静置しながら発酵させる方法を挙げることができる。かかる温度条件であれば、一般に乳酸菌が活動しやすいため、効果的に発酵を進めることができる。発酵温度は、通常では30℃~50℃程度、好ましくは35℃~45℃の範囲、より好ましくは37℃~43℃の範囲を挙げることができる。
発酵時間は、発酵乳の乳酸酸度が所定の割合に到達することを目安に、適宜設定調整することができる。
【0019】
(硬度)
本発明の発酵乳は、硬度の上昇が抑制され、口当たりがなめらかである特徴を有する。本発明の発酵乳は、好ましくは硬度が6gw~30gwであり、より好ましくは10gw~30gwであり、さらに好ましくは12gw~30gwであり、もっとも好ましくは15gw~30gwである。
本発明の発酵乳において、硬度は、以下の方法で評価する。
発酵乳を10℃に温度調整し、直径16mmの円柱を0.5mm/秒の速さで発酵乳の上面から10mm深さまで貫入させた時の荷重を硬度とする。評価は、製造から7日目に実施する。
本明細書において、発酵乳に関して「硬度上昇抑制」又は発酵乳の「硬度の上昇を抑制する」とは、発酵乳の硬度が30gwを超えることを防止することである。
【0020】
(食感のなめらかさ)
発酵乳の食感が「なめらか」であるとは、発酵乳の組織が細かく、発酵乳を食した場合に、粉状又は粒状等の食感がないことを意味する。発酵乳の食感がなめらかであるかどうかは、パネラーの官能評価により評価することができる。
本明細書において、発酵乳に関して「なめらかさを向上」するとは、発酵乳に関して、粉状又は粒状物の発生を防止し、発酵乳の組織を細かくすることを意味する。
【0021】
本発明の発酵乳は、後述するように、原材料を別々に殺菌して、後に混合して製造することが好ましい。1つの原料ミックスは、カゼインタンパク質及びホエイタンパク質を含んでおり、ホエイタンパク質が加熱変性する温度で加熱殺菌を行う。他方の原料ミックスもホエイタンパク質を含んでおり、ホエイタンパク質が加熱変性しない温度で加熱殺菌を行う。後にこれらの原料ミックスを混合することにより製造される発酵乳は、加熱変性したホエイタンパク質と加熱変性していないホエイタンパク質を含むこととなる。
【0022】
(発酵乳の製造方法)
本発明の発酵乳の製造方法は、発酵乳の原料ミックス溶液を殺菌する工程、ホエイ素材溶液を殺菌する工程、及び殺菌後の発酵乳の原料ミックス溶液と殺菌後のホエイ素材溶液を混合する工程を含む。ここで、発酵乳の原料ミックス溶液は、カゼインタンパク質及びホエイタンパク質を含み、発酵乳の原料ミックス溶液の殺菌は、ホエイタンパク質が加熱変性する条件であり、そして、ホエイ素材溶液の殺菌が、ホエイタンパク質が加熱変性しない条件である。
【0023】
(発酵乳の原料ミックス溶液の殺菌工程)
(発酵乳の原料ミックス溶液)
本明細書において、「発酵乳の原料ミックス溶液」とは、乳原料又は乳原料粉末等の乳成分を含む液体である。発酵乳の原料ミックス溶液は、ホエイタンパク質を含む限り、全脂乳、脱脂乳などの他に、その加工品(例えば、全脂粉乳、全脂濃縮乳、脱脂粉乳、脱塩脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、練乳、クリーム、バター、チーズなど)及びそれらの溶解液を含むことができる。発酵乳の原料ミックス溶液は、ホエイタンパク質に加えて、カゼインタンパク質を含むことが好ましい。
本発明の発酵乳の製造方法において、発酵乳の原料ミックス溶液は、脱脂粉乳を含むことが好ましい。本発明の発酵乳において、発酵乳の原料ミックスには、本発明の効果を損なわない範囲において、ホエイ素材を添加することもできるが、添加しないことが好ましい。
発酵乳の原料ミックス溶液に含まれるタンパク質のうち、ホエイタンパク質濃度は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下が最も好ましい。
発酵乳の原料ミックス溶液には、乳成分の他にも、砂糖、糖類、甘味料、香料、果汁、果肉、ビタミン、ミネラル、植物油脂、乳化剤などの、食品もしくは食品成分及び食品添加物などを含むことができる。また、発酵乳の原料ミックス溶液には、必要に応じて、ペクチン、大豆多糖類、寒天、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースなどの安定剤、澱粉、デキストリンなどを含むことができる。
【0024】
(発酵乳の原料ミックス溶液の殺菌)
通常の発酵乳を製造する場合における殺菌工程での原料の乳タンパク質濃度は、原料混合物由来の乳タンパク質濃度、例えば3.0質量%~4.0質量%程度である。本発明で、発酵乳の原料の殺菌時の乳タンパク質濃度は、例えば、3.0~9.23質量%、好ましくは4.43質量%~9.23質量%、さらに好ましくは7.38質量%~9.23質量%である。この乳タンパク質濃度の範囲で殺菌を行うことによって、発酵乳の原料が殺菌工程でプレートなどの設備へこげつくなどの熱安定性による課題は回避でき、製造後の発酵乳に適度な硬度を付与することができる。
【0025】
(殺菌条件)
本発明の発酵乳の製造方法では、発酵乳の原料ミックス溶液を、ホエイタンパク質が加熱変性する条件で殺菌する。ホエイタンパク質は、約80℃で変性することから、殺菌温度は78℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。殺菌時間は、以下に限定されるものではないが、1秒間~10分間であることができる。当業者であれば、殺菌温度に応じて、適切な殺菌時間を設定可能である。具体的な殺菌条件は、以下に限定されるものではないが、例えば、HTST法で90℃~95℃で15秒~5分間、UHT法で130℃以上約2秒間(例えば、2.0~2.2秒)などの条件、又はこれらに相当する条件であれば制限はない。殺菌温度の上限は、150℃、145℃、又は140℃であることができる。
【0026】
(ホエイ素材溶液の殺菌工程)
(ホエイ素材溶液)
本明細書において、「ホエイ素材溶液」とは、ホエイを豊富に含む原料を溶解液に溶解させたものを意味する。本発明の発酵乳では、ホエイ素材溶液は、ホエイ粉、ホエイ濃縮粉(例えば、ホエイタンパク質濃縮物や分離ホエイタンパク質)など、及びそれらの溶解液を含むことができる。ホエイ素材溶液に含まれるタンパク質のうち、ホエイタンパク質濃度は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。
ホエイ素材溶液には、乳成分の他にも、砂糖、糖類、甘味料、香料、果汁、果肉、ビタミン、ミネラル、植物油脂、乳化剤などの、食品もしくは食品成分及び食品添加物などを含むことができる。また、ホエイ素材溶液には、必要に応じて、ペクチン、大豆多糖類、寒天、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースなどの安定剤、澱粉、デキストリンなどを含むことができる。
【0027】
(ホエイ素材溶液の殺菌)
本発明の発酵乳の製造方法では、ホエイ素材溶液の殺菌時のタンパク質濃度は、例えば、2.67質量%~20.00質量%、好ましくは8.51質量%~17.02質量%、さらに好ましくは9.60質量%~17.02質量%である。
【0028】
(殺菌条件)
ホエイ素材溶液の殺菌温度は、75℃以下が好ましい。ホエイ素材溶液の殺菌温度は、例えば、63℃~65℃で30分間のLTLT法(低温保持殺菌)、65℃~68℃で30分間以上のLTLT法(連続式低温殺菌)、72℃以上15秒以上のHTST法など、これらに相当する条件であれば制限はない。用いる殺菌装置は、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式殺菌機、サーモシリンダー、ロタサーム、ケトル乳化釜、ステファン乳化釜、ジュール加熱装置、タンクを用いたバッチ式殺菌及びこれらの組み合わせのいずれでも良く、発酵乳製造に用いることができれば制限はない。このタンパク質濃度及び殺菌温度の範囲で殺菌を行うことによって、製造時にホエイ素材溶液中のホエイタンパク質の加熱変性を抑制して、殺菌工程でプレートなどの設備へこげつくなどの熱安定性による不具合は回避でき、特別な素材や設備を必要とすることなく、製造後の発酵乳の硬度を変化させず乳タンパク質中のホエイタンパク質の重量割合を30%以上にさせることができる。
【0029】
(殺菌後の混合工程)
殺菌後の発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液の混合、及びその後のスターターの混合は、配管内において連続的にドージングする、タンクに添加して攪拌・溶解する、又はこれらの組み合わせのいずれでもよい。
【0030】
本発明の発酵乳の製造方法は、発酵乳の原料ミックス溶液を殺菌する工程、ホエイ素材溶液を殺菌する工程、及び殺菌後の発酵乳の原料ミックス溶液と殺菌後のホエイ素材溶液を混合する工程に加えて、発酵乳の原料ミックス溶液の混合工程、加温・均質化工程、冷却工程、ホエイ素材溶液の混合工程、加温・均質化工程、発酵乳の原料ミックス溶液及びホエイ素材溶液の混合物へのスターター添加・混合工程、充填工程、発酵工程、冷却工程を含むことができる。
以下、本発明の発酵乳の製造方法の一実施形態を説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定して解釈されるものではない。
すなわち、まず生乳、脱脂粉乳及び無脂肪牛乳などの乳製品を混合・溶解する。これとは別に必要に応じて、予め溶解した寒天、膨潤させたゼラチン、甘味料及び香料などの副原料を混合する。この混合物を50℃~75℃に加温した後、ホモゲナイザーで均質化、次いで殺菌する。加温及び殺菌に用いる機器は、プレート式熱交換器、チューブ式殺菌機、サーモシリンダー、ジュール加熱装置、タンクを用いたバッチ式殺菌及びこれらの組み合わせのいずれでも良いが、これらに限定されるものではなく、発酵乳製造に用いることができればよい。殺菌温度は例えば、90℃~95℃のHTST法、130℃以上のUHT法など、発酵乳製造に用いられる条件であれば制限はない。殺菌後、プレートクーラーなどで35℃~55℃まで冷却してから混合タンクに移される。
次に、ホエイ粉などを混合・溶解する。これとは別に必要に応じて、予め溶解した甘味料及び香料などの副原料を混合する。この混合物を50℃~65℃に加温した後、必要に応じてホモゲナイザーで均質化、次いで殺菌する。加温及び殺菌に用いる機器は、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式殺菌機、ダイレクトスチームインジェクション、ダイレクトスチームインフュージョン、サーモシリンダー、ロタサーム、ケトル乳化釜、ステファン乳化釜、ジュール加熱装置、タンクを用いたバッチ式殺菌及びこれらの組み合わせのいずれでも良く、発酵乳製造に用いることができれば制限はない。殺菌後、プレートクーラーなどで35~55℃まで冷却してから混合タンクに移される。タンク内で混合された発酵乳の原料とホエイ素材に、乳酸菌及び又は酵母(スターター)が添加・混合される。その混合物を容器(通例は紙製又はプラスチック製のカップ状の容器・同じく紙又はプラスチック製の上蓋が付いている)に充填し、必要に応じて小単位の数ずつ包装してから発酵が行われる。発酵条件はスターターによって異なり、一般に発酵乳製造で適用される条件であれば、いずれの温度、時間、仕上げ酸度、仕上げpHでも良い。発酵後、10℃以下の温度に冷却する。
【0031】
本発明の製造方法により製造される発酵乳は、静置型発酵乳であることが好ましいが、攪拌型発酵乳又は液状型発酵乳等の他の種類の発酵乳でもよい。本発明の製造方法により製造される発酵乳が、攪拌型発酵乳又は液状型発酵乳等の他の種類の発酵乳である場合、本発明の製造方法は、これらの種類の発酵乳の製造に必要な工程を含んでもよい。必要な工程としては、例えば、発酵工程の後に撹拌することによってカードを破砕する破砕工程、果肉又はフルーツプレザーブ等の固形物又は他原料を添加する工程、固形物又は他原料と発酵乳とを撹拌して均質化する工程等が挙げられる。
【実施例0032】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。特に説明がない限り、%は質量%を示す。また「タンパク質濃度」及び「タンパク質含量」は、それぞれ、乳タンパク質の濃度及び含量を示す。脱脂粉乳中の乳タンパク質は、約20質量%がホエイタンパク質であり、約80質量%がカゼインタンパク質である。WPCとWPI中のタンパク質は、99質量%以上がホエイタンパク質である。硬度の測定は、前述の測定方法により行った。
【0033】
(実施例1)
脱脂粉乳(雪印メグミルク社製)をタンパク質濃度7.38%となるように溶解して得た発酵乳の原料1500gをステンレス缶に採取し、沸騰した湯浴で90℃5分間加熱して、発酵乳の原料ミックス溶液を得た。その後、この発酵乳の原料ミックス溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
次に、WPI(フォンテラ社製、ホエイタンパク質濃度85.1%)をタンパク質濃度8.51%となるように溶解して得たホエイ素材溶解液1500gをステンレス缶に採取し、65℃の湯浴で63℃30分間加熱して、ホエイ素材溶液を得た。その後、このホエイ素材溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
冷却後の発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液を混合し、予め0.85%食塩水に100U/1000kgとなるように溶解しておいたDVS乳酸菌スターターを0.09%添加・混合した。その混合物をプラスチック製のカップ状の容器に70gずつ充填し、アルミ製の蓋をアイロンでシールした。その後41℃のインキュベーターで発酵させ、pHが4.5となった時点で、5℃のインキュベーターに移し、発酵を停止させた。翌日10℃インキュベーターに移して、実施例品1を得た。
【0034】
(比較例1)
脱脂粉乳(雪印メグミルク社製)をタンパク質濃度7.38%となるように溶解して得た発酵乳の原料1500gをステンレス缶に採取して、発酵乳の原料ミックス溶液を得た。
次に、WPI(フォンテラ社製、ホエイタンパク質濃度85.1%)をタンパク質濃度8.51%となるように溶解して得たホエイ素材溶解液1500gをステンレス缶に採取して、ホエイ素材溶液を得た。
これらの発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液を混合し、沸騰した湯浴で90℃5分間加熱した。その後、氷水中で45℃まで冷却した。冷却後の発酵乳の原料とホエイ素材の混合ミックスに、予め0.85%食塩水に100U/1000kgとなるように溶解しておいたDVS乳酸菌スターターを0.09%添加・混合した。その混合物をプラスチック製のカップ状の容器に70gずつ充填し、アルミ製の蓋をアイロンでシールした。その後41℃のインキュベーターで発酵させ、pHが4.5となった時点で、5℃のインキュベーターに移し、発酵を停止させた。翌日10℃インキュベーターに移して、比較例品1を得た。
【0035】
(比較例2)
WPI(フォンテラ社製、ホエイタンパク質濃度85.1%)をタンパク質濃度8.51%となるように溶解して得たホエイ素材溶解液1500gをステンレス缶に採取し、沸騰した湯浴で90℃5分間加熱した以外は、実施例品1と同様にして、比較例品2を得た。
【0036】
(比較例3)
発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液を混合し、65℃の湯浴で63℃30分間加熱した以外は、比較例品1と同様にして比較例品3を得た。
【0037】
(試験例1:殺菌後のミックスの性状)
殺菌工程後の発酵乳の原料ミックス溶液、ホエイ素材溶液又は発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液の混合ミックスの性状を目視で確認し、「○:均一な状態」、又は「×:凝集した状態」のいずれかに評価した。殺菌機への焦げ付きがある場合も×とした。
【0038】
(試験例2:発酵乳のなめらかさ)
製造後7日目に、7段階の絶対評価による官能評価で評価した。評価点ごとの項目は、「3点:かなりなめらか、2点:ややなめらか、1点:わずかになめらか、0点:どちらでもない、-1点:わずかにざらつく、-2点:ややざらつく、-3点:かなりざらつく」とし、訓練した専門パネル10人以上で実施した。評点の平均が0.5点以上のものをなめらかとした。
【0039】
(試験例3:加熱変性していないホエイタンパク質の有無)
発酵乳を25℃、1000 gの条件で、10分間遠心分離した。得られた上澄みを加熱変性していないホエイが含まれるサンプルとする。サンプル中にβラクトグロブリン及びαラクトアルブミンが存在するか、J. Chromatography A 2001, 928, 63-76. Identification and quantification of major bovine milk proteins by liquid chromatography. Bordin et al. に従って、液体クロマトグラフィーを用いて評価した。
【0040】
実施例品1及び比較例品1~3の評価結果を表1に示す。
実施例品1では、発酵乳の乳タンパク質濃度が7.95%、そのうちホエイタンパク質の割合が53.56%であった。実施例品1は、加熱変性していないホエイタンパク質及び加熱変性しているホエイタンパク質の両方、並びにカゼインタンパク質を含んでいる。実施例品1では、タンパク質量、ホエイタンパク質の割合がともに高いものの、殺菌後のミックスの性状は、発酵乳の原料ミックス溶液もホエイ素材溶液も均一であった。また発酵乳の硬度は25gwであり、なめらかと評価された。
比較例品1~3は、発酵乳の成分は実施例品1と同じであった。
発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液を混合した後に、90℃で殺菌した比較例品1は、発酵乳の硬度が75gwであり、食感を損なうかたさとなった。なめらかさは0.36点であり、0.5点に満たなかった。比較例品1は、加熱変性しているホエイタンパク及びカゼインタンパク質を含んでいるが、加熱変性していないホエイタンパク質を含んでいない。
ホエイ素材溶液を90℃で殺菌したのちに、殺菌した発酵乳の原料ミックス溶液と混合した比較例品2は、発酵乳の硬度が90gwであり、食感を損なうかたさとなった。なめらかさは0点であり、0.5点に満たなかった。比較例品2は、加熱変性しているホエイタンパク及びカゼインタンパク質を含んでいるが、加熱変性していないホエイタンパク質を含んでいない。
発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液を混合した後に、ともに63℃で低温殺菌した比較例品3は、発酵乳の硬度が5gwであり、凝固物を形成しなかった。比較例品3は、加熱変性していないホエイタンパク及びカゼインタンパク質を含んでいるが、加熱変性しているホエイタンパク質を含んでいない。
実施例品1は、比較例品1~3に比べ、好ましい硬度を有し、なめらかであると評価された。
したがって、発酵乳の原料ミックス溶液は通常通りに比較的高温で殺菌し、それとは別にホエイ素材溶液を低温殺菌することで、乳タンパク質濃度、特にホエイタンパク質濃度が高く、好ましい硬度を有し、なめらかな食感である静置型発酵乳が得られた。
【0041】
【0042】
(実施例2)
脱脂粉乳(雪印メグミルク社製)をタンパク質濃度4.43%となるように溶解して得た発酵乳の原料2500gをステンレス缶に採取し、沸騰した湯浴で90℃5分間加熱して、発酵乳の原料ミックス溶液を得た。その後、この発酵乳の原料ミックス溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
次に、WPC(フォンテラ社製、ホエイタンパク質濃度80.0%)をタンパク質濃度9.6%となるように溶解して得たホエイ素材溶解液500gをステンレス缶に採取し、65℃の湯浴で63℃30分間加熱して、ホエイ素材溶液を得た。その後、このホエイ素材溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
冷却後の発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液を混合し、予め0.85%食塩水に100U/1000kgとなるように溶解しておいたDVS乳酸菌スターターを0.09%添加・混合した。その混合物をプラスチック製のカップ状の容器に70gずつ充填し、アルミ製の蓋をアイロンでシールした。その後41℃のインキュベーターで発酵させ、pHが4.5となった時点で、5℃のインキュベーターに移し、発酵を停止させた。翌日10℃インキュベーターに移して、実施例品2を得た。
【0043】
(実施例3)
脱脂粉乳(雪印メグミルク社製)をタンパク質濃度3.10%となるように溶解し、150kg/cm2の均質圧で均質処理して得た、発酵乳の原料2500gをステンレス缶に採取し、沸騰した湯浴で90℃5分間加熱して、発酵乳の原料ミックス溶液を得た。その後、この発酵乳の原料ミックス溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
次に、WPI(フォンテラ社製、ホエイタンパク質濃度85.1%)をタンパク質濃度17.02%となるように溶解して得たホエイ素材溶解液500gをステンレス缶に採取し、65℃の湯浴で63℃30分間加熱して、ホエイ素材溶液を得た。その後、このホエイ素材溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
冷却後の発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液を混合し、予め0.85%食塩水に100U/1000kgとなるように溶解しておいたDVS乳酸菌スターターを0.09%添加・混合した。その混合物をプラスチック製のカップ状の容器に70gずつ充填し、アルミ製の蓋をアイロンでシールした。その後41℃のインキュベーターで発酵させ、pHが4.5となった時点で、5℃のインキュベーターに移し、発酵を停止させた。翌日10℃インキュベーターに移して、実施例品3を得た。
【0044】
(実施例4)
脱脂粉乳(雪印メグミルク社製)をタンパク質濃度7.38%となるように溶解して得た発酵乳の原料1500gをステンレス缶に採取し、沸騰した湯浴で90℃5分間加熱して、発酵乳の原料ミックス溶液を得た。その後、この発酵乳の原料ミックス溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
次に、WPI(フォンテラ社製、ホエイタンパク質濃度85.1%)をタンパク質濃度17.02%となるように溶解し、150kg/cm2の均質圧で均質処理して得たホエイ素材1500gをステンレス缶に採取し、65℃の湯浴で63℃30分間加熱して、ホエイ素材溶液を得た。その後、このホエイ素材溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
冷却後の発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液を混合し、予め0.85%食塩水に100U/1000kgとなるように溶解しておいたDVS乳酸菌スターターを0.09%添加・混合した。その混合物をプラスチック製のカップ状の容器に70gずつ充填し、アルミ製の蓋をアイロンでシールした。その後41℃のインキュベーターで発酵させ、pHが4.5となった時点で、5℃のインキュベーターに移し、発酵を停止させた。翌日10℃インキュベーターに移して、実施例品4を得た。
【0045】
(実施例5)
脱脂粉乳(雪印メグミルク社製)をタンパク質濃度9.23%となるように溶解して得た発酵乳の原料1200gをステンレス缶に採取し、沸騰した湯浴で90℃5分間加熱して、発酵乳の原料ミックス溶液を得た。その後、この発酵乳の原料ミックス溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
次に、WPI(フォンテラ社製、ホエイタンパク質濃度85.1%)をタンパク質濃度17.02%となるように溶解して得たホエイ素材溶解液1800gをステンレス缶に採取し、65℃の湯浴で63℃30分間加熱して、ホエイ素材溶液を得た。その後、このホエイ素材溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
冷却後の発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液を混合し、予め0.85%食塩水に100U/1000kgとなるように溶解しておいたDVS乳酸菌スターターを0.09%添加・混合した。その混合物をプラスチック製のカップ状の容器に70gずつ充填し、アルミ製の蓋をアイロンでシールした。その後41℃のインキュベーターで発酵させ、pHが4.5となった時点で、5℃のインキュベーターに移し、発酵を停止させた。翌日10℃インキュベーターに移して、実施例品5を得た。
【0046】
(比較例4)
脱脂粉乳(雪印メグミルク社製)をタンパク質濃度10.06%となるように溶解して得た発酵乳の原料1100gをステンレス缶に採取し、沸騰した湯浴で90℃5分間加熱して、発酵乳の原料ミックス溶液を得た。その後、この発酵乳の原料ミックス溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
次に、WPI(フォンテラ社製、ホエイタンパク質濃度85.1%)をタンパク質濃度17.02%となるように溶解して得たホエイ素材溶解液1900gをステンレス缶に採取し、65℃の湯浴で63℃30分間加熱して、ホエイ素材溶液を得た。その後、このホエイ素材溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
【0047】
(比較例5)
脱脂粉乳(雪印メグミルク社製)をタンパク質濃度4.61%となるように溶解して得た発酵乳の原料2400gをステンレス缶に採取し、沸騰した湯浴で90℃5分間加熱して、発酵乳の原料ミックス溶液を得た。その後、この発酵乳の原料ミックス溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
次に、WPI(フォンテラ社製、ホエイタンパク質濃度85.1%)をタンパク質濃度21.28%となるように溶解して得たホエイ素材溶解液600gをステンレス缶に採取し、65℃の湯浴で63℃30分間加熱して、ホエイ素材溶液を得た。その後、このホエイ素材溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
【0048】
(比較例6)
脱脂粉乳(雪印メグミルク社製)をタンパク質濃度0.92%となるように溶解して得た発酵乳の原料2000gをステンレス缶に採取し、沸騰した湯浴で90℃5分間加熱して、発酵乳の原料ミックス溶液を得た。その後、この発酵乳の原料ミックス溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
次に、WPI(フォンテラ社製、ホエイタンパク質濃度85.1%)をタンパク質濃度8.51%となるように溶解して得たホエイ素材溶解液1000gをステンレス缶に採取し、65℃の湯浴で63℃30分間加熱して、ホエイ素材溶液を得た。その後、この発酵乳の原料ミックス溶液を氷水中で45℃まで冷却した。
冷却後の発酵乳の原料ミックス溶液とホエイ素材溶液を混合し、予め0.85%食塩水に100U/1000kgとなるように溶解しておいたDVS乳酸菌スターターを0.09%添加・混合した。その混合物をプラスチック製のカップ状の容器に70gずつ充填し、アルミ製の蓋をアイロンでシールした。その後41℃のインキュベーターで発酵させ、pHが4.5となった時点で、5℃のインキュベーターに移し、発酵を停止させた。翌日10℃インキュベーターに移して、比較例品6を得た。
【0049】
実施例品2~5及び比較例品4~6の試験結果を表2に示す。実施例品2~5では、発酵乳のタンパク質濃度が5.29%、5.42%、12.20%、13.90%であり、そのうちホエイタンパク質の割合がそれぞれ30.25%、52.34%、69.75%、73.46%であった。実施例品2~5は、タンパク質含量、ホエイタンパク質の割合がともに高いものの、殺菌後のミックスの性状は、発酵乳の原料ミックス溶液もホエイ素材溶液も均一であった。また発酵乳の硬度は22~30gwであり、いずれもなめらかと評価された。
比較例4の試験では、発酵乳の原料ミックス溶液中のタンパク質含量が10.06%であった。これを90℃で殺菌した後、ミックスの性状は、凝集が認められた。
比較例5の試験では、ホエイ素材溶液のタンパク質濃度が21.28%であった。これを63℃で殺菌した後、ミックスの性状は、凝集が認められた。
比較例品6は、発酵乳のタンパク質濃度が3.45%であり、そのうちホエイタンパク質の割合がそれぞれ82.18%であった。殺菌後のミックスの性状は均一であったが、発酵乳のゲルを形成しなかった。
したがって、発酵乳の原料ミックス溶液中のタンパク質含量は3.1%~9.23%で、殺菌工程での安定性に不具合なく、発酵乳を製造できた。また、ホエイ素材溶液中のタンパク質含量は2.67%以上とすることで、問題なく、発酵乳中のタンパク質中のホエイタンパク質量を30%以上とすることができた。また、ホエイ素材溶液中のタンパク質含量を17.02%以下とすると、殺菌工程での安定性に不具合なく、発酵乳を製造できたが、仮に17.02%を超えても、ホエイ素材溶液中のタンパク質含量を調製したり、殺菌条件を調整することで、問題なくホエイ素材溶液の殺菌を実施できると考えられた。
【0050】
本発明によれば、ホエイタンパク質含量が高く、口当たりのなめらかな発酵乳が得られる。しかも、発酵乳を特別な原料や設備を使用することなく製造できるので、工業的生産に適している。