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特開2022-154269治療計画装置、治療計画生成方法及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154269
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】治療計画装置、治療計画生成方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20221005BHJP
   A61B 34/10 20160101ALI20221005BHJP
【FI】
A61N5/10 P
A61B34/10
A61N5/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057201
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高柳 泰介
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴啓
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】梅川 徹
(72)【発明者】
【氏名】白土 博樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 伸一
(72)【発明者】
【氏名】松浦 妙子
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高尾 聖心
(72)【発明者】
【氏名】平田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】田中 創大
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC04
4C082AE01
4C082AN02
(57)【要約】
【課題】複数の照射パターンを備える治療計画において、照射パターンの妥当性を評価する指標に基づいた治療計画を短時間に立案する。
【解決手段】標的に粒子線を照射する治療計画を生成する治療計画装置501は、1つの治療計画に対して少なくとも2つ以上の照射パターンを設定し、標的の領域を含む少なくとも1つの領域に対して領域毎に設定された目標線量に基づいて照射パターン毎に複数の予測線量分布を算出し、複数の予測線量分布に基づいて照射パターンの妥当性を評価する指標を算出する演算処理装置606を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的に粒子線を照射する治療計画を生成する治療計画装置であって、
1つの前記治療計画に対して少なくとも2つ以上の照射パターンを設定し、
前記標的の領域を含む少なくとも1つの前記領域に対して前記領域毎に設定された目標線量に基づいて前記照射パターン毎に複数の予測線量分布を算出し、
複数の前記予測線量分布に基づいて前記照射パターンの妥当性を評価する指標を算出する
制御装置を有することを特徴とする治療計画装置。
【請求項2】
前記治療計画装置は前記治療計画の実績データが記録された第1のデータベースを有し、
前記制御装置は、前記実績データに基づいて前記予測線量分布を算出することを特徴とする請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記標的に対して等方的に広がり、前記標的からの距離に従って徐々に減衰する予測モデルに基づいて前記予測線量分布を算出することを特徴とする請求項2に記載の治療計画装置。
【請求項4】
前記指標は、腫瘍制御確率及び正常組織障害発生確率の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記標的毎に設定された総照射線量、治療開始日、及び治療完了日に対する腫瘍制御確率及び正常組織障害発生確率の勾配を計算し、腫瘍制御確率が増加し、正常組織障害発生確率が減少する方向に前記総照射線量、前記治療開始日、及び前記治療完了日を更新することを特徴とする請求項4に記載の治療計画装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記領域毎に対して設定された分割照射回数にも基づいて前記照射パターン毎に複数の前記予測線量分布を算出することを特徴とする請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項7】
前記治療計画装置は、前記目標線量及び前記分割照射回数の設定値の入力を受け入れる入力装置を有し、
前記制御装置は、前記入力装置が受け入れた前記目標線量及び前記分割照射回数に基づいて前記予測線量分布を算出することを特徴とする請求項6に記載の治療計画装置。
【請求項8】
前記照射パターンは、前記標的に設定された前記粒子線の照射位置及び前記照射位置毎の前記粒子線の規定照射量であることを特徴とする請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項9】
前記治療計画装置は放射線の生物学的効果比の変動モデルが記録された第2のデータベースを有し、
前記制御装置は、前記放射線の前記生物学的効果比の変動を考慮すべきと設定された前記領域について、前記変動モデルに基づいて前記照射パターン毎の生物照射線量が一定となるように物理照射線量を計算することを特徴とする請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項10】
標的に粒子線を照射する治療計画を生成する治療計画装置による治療計画生成方法であって、
1つの前記治療計画に対して少なくとも2つ以上の照射パターンを設定し、
前記標的の領域を含む少なくとも1つの前記領域に対して前記領域毎に設定された目標線量に基づいて前記照射パターン毎に複数の予測線量分布を算出し、
複数の前記予測線量分布に基づいて前記照射パターンの妥当性を評価する指標を算出する
ことを特徴とする治療計画生成方法。
【請求項11】
標的に粒子線を照射する治療計画を生成するコンピュータにより実行されるコンピュータプログラムであって、、
1つの前記治療計画に対して少なくとも2つ以上の照射パターンを設定する機能と、
前記標的の領域を含む少なくとも1つの前記領域に対して前記領域毎に設定された目標線量に基づいて前記照射パターン毎に複数の予測線量分布を算出する機能と、
複数の前記予測線量分布に基づいて前記照射パターンの妥当性を評価する指標を算出する機能と
を実現させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療計画装置、治療計画生成方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療計画装置は、CT画像等から得られる患者体内の情報を基に患者体内での線量分布を数値計算する。操作者は得られた計算結果を参照しながら、放射線の照射角度、エネルギー、横方向への強度分布といった照射パターンを決定する。このような手順を治療計画と称する。
【0003】
以下に、治療計画の一般的な手順を述べる。操作者は、はじめに放射線を照射すべき標的領域をCT画像上に入力する。標的領域は離れた箇所に複数存在する場合がある。また、ほとんどのケースにおいて、放射線の照射を極力避けるべき重要臓器(Organ at Risk, OAR)の領域群も同様に入力する。
【0004】
次に、操作者は、入力された各々の領域について臨床的知見に基づいて目標の照射線量を設定する。例えば、標的については体積の95%以上に60Gyの線量を与える、等がある。OARについては、例えば体積の60%以上に30Gy以上の線量を与えてはいけない、等の制限(線量制約)を設定する。複数の標的が存在する場合、目標線量は標的毎に異なる場合がある。また、線量制約もOAR毎に異なる場合がある。
【0005】
続いて、操作者は、設定した目標線量と線量制約を満足する最も適切な照射パターンを最適化によって求める。適切な照射パターンとは、具体的には、OARに障害が発生しない範囲で標的に最大の線量を与えるものになる。治療計画装置では、照射パターンに基づいて計算した線量分布と、目標線量・線量制約とのズレを数値化した目的関数が照射パターンの最適化に利用されることがある。目的関数を最小化するアルゴリズムとしては、準ニュートン法などが用いられる。
【0006】
一般的に、標的への線量付与とOARへの線量低減はトレードオフの関係にあり、標的の目的関数が改善するとOARの目的関数は悪化する。操作者は、照射パターンの最適化に関するパラメータ、具体的には各目的関数の重みを調整し、繰り返し治療計画装置を操作して臨床的に最も適切と判断される照射パターンを決定する。
【0007】
こうした治療計画の結果得られた照射パターンの良し悪しを判断する指標としては、腫瘍制御確率(Tumor control probability, TPC)、と正常組織障害発生確率(Normal tissue complication probability, NTCP)がある。照射パターンに基づき計算した線量分布と、治療計画装置に事前に登録された生物モデルとに基づきTCPとNTCPを計算し、操作者に提示する発明が開示されている(例えば特許文献1参照)。TCPとNTCPが目標値に達しない場合は、標的への照射線量と分割照射回数(詳細は後述する)を修正し、更にOARへの線量制約と最適化のパラメータ(各目的関数の重み)を調整し、繰り返し照射パターンの最適化を実施する必要がある。
【0008】
前述の分割照射について、以下に説明する。放射線治療においては、OARのNTCPを抑制するために、標的への1日の照射線量を2Gy程度に抑え、20~30日間かけて治療をおこなう分割照射が行われる。ただし、標的がOARから離れている場合、標的への線量付与はOARのNTCPにほとんど影響を与えないため、1日あたりの照射線量を増加し、分割回数すなわち治療日数を減らすことができる。
【0009】
近年、放射線治療では、放射線照射に伴う免疫の働きが注目されている。放射線照射によって一部のがん細胞が死滅すると、死滅したがん細胞から特有の抗原が放出されることが知られている。免疫細胞ががん抗原を認識すると、がん細胞を異物と判断し、残存するがん細胞への攻撃が開始される。一方、リンパ節に放射線が照射されると、免疫細胞が放射線によってダメージを受けるために、がん細胞に対する攻撃が弱められることが知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2017-522097号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Takeshima. T, et al., "Local Radiation Therapy Inhibits Tumor Growth through the Generation of Tumor-Specific CTL: Its Potentiation by Combination with Th1 Cell Therapy" Cancer Res; 70 (7) April 1, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般的に、1つの治療計画に対し照射パターンは1つであり、日ごとの照射パターン、照射線量は同一となる。従って、例えば、OARとの距離が異なる複数の標的が存在するケースにおいては、OARと近い距離に存在する標的がボトルネックとなり、OARから遠く離れた標的に対して分割回数を減らすことはできなかった。
【0013】
このような課題に対しては、1つの治療計画に対し複数の照射パターンを用意することが有効と考えられる。例えば、OARから離れた標的に関しては1日の照射線量を増強し短期間に治療完了し、その後、照射パターンを変更し、OARと隣接する標的に対して1日の照射線量を抑制し、従来通り20~30日間の治療を行うといった方法である。
【0014】
しかしながら、標的領域ごとに総照射線量、照射日数を設定し、必要とされる照射パターンの数を導出できたとしても、その照射パターン群が臨床的に最大の治療効果をもたらすものなのか、判断する手段がなかった。また、仮に臨床効果を示す何らかの数的指標が得られたとしても、その指標を計算するためには全照射パターンの最適化と線量計算が必須になる。治療計画の立案に膨大な時間を要する課題があった。
【0015】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、複数の照射パターンを備える治療計画において、照射パターンの妥当性を評価する指標に基づいた治療計画を短時間に立案することが可能な治療計画装置、治療計画生成方法及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決すべく、本発明の一つの観点に従う治療計画装置は、標的に粒子線を照射する治療計画を生成する治療計画装置であって、1つの治療計画に対して少なくとも2つ以上の照射パターンを設定し、標的の領域を含む少なくとも1つの領域に対して領域毎に設定された目標線量に基づいて照射パターン毎に複数の予測線量分布を算出し、複数の予測線量分布に基づいて照射パターンの妥当性を評価する指標を算出する制御装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数の照射パターンを備える治療計画において、照射パターンの妥当性を評価する指標に基づいた治療計画を短時間に立案することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1に係る治療計画装置を有する粒子線治療システムを示す概略構成図である。
図2】実施例1に係る粒子線治療システムに用いられる照射野形成装置の構成を示す図である。
図3】ラスタースキャニング方式における照射位置の設定例を示す斜視図である。
図4】ラスタースキャニング方式におけるエネルギー変更時の照射位置の設定例を示す斜視図である。
図5】実施例1に係る治療計画装置を示す図である。
図6】実施例1に係る治療計画装置による治療計画立案の手順を示すフロー図である。
図7】実施例1に係る治療計画装置における、領域入力に関するGUIの模式図である。
図8】実施例1に係る治療計画装置における、標的毎の照射線量、治療日数設定に関する放射線治療計画装置のGUIの模式図である。
図9】実施例2に係る治療計画装置による、免疫効果を考慮した治療計画立案の手順を示すフロー図である。
図10】実施例2に係る治療計画装置における、領域入力に関するGUIの模式図である。
図11】実施例2に係る治療計画装置における、標的毎の照射線量、治療日数設定に関するGUIの模式図である。
図12図11において、物理線量表示ボタンをアクティブにした状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0020】
なお、実施形態を説明する図において、同一の機能を有する箇所には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0022】
同一あるいは同様な機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【実施例0023】
実施例1の放射線治療計画装置(以下、単に「治療計画装置」と称する)501を、図1~8を参照して説明する。本実施例では、放射線治療の一種であるスキャニング照射法による陽子線治療の治療計画を立案する治療計画装置について説明するが、散乱体照射法による陽子線治療や、炭素線等を用いる重粒子線治療の治療計画を立案する治療計画装置にも適用可能である。また、X線治療の治療計画装置にも適用可能である。
【0024】
図1は、実施例に係る治療計画装置が適用される粒子線治療システムを示す概略構成図である。
【0025】
図1において、実施例に係る粒子線治療システムSは、荷電粒子ビーム発生装置301、高エネルギービーム輸送系310、回転照射装置311、中央制御装置312、メモリ313、照射制御システム314、表示装置315、照射野形成装置(照射装置)400、ベッド407、治療計画装置501を有する。
【0026】
荷電粒子ビーム発生装置301は、イオン源302、前段加速器303、粒子ビーム加速装置304を有する。本実施例は、粒子ビーム加速装置304としてシンクロトロン型の粒子ビーム加速装置を想定したものだが、粒子ビーム加速装置304としてサイクロトロン等、他のどの粒子ビーム加速装置を用いてもよい。シンクロトロン型の粒子ビーム加速装置304は、図1に示すように、その周回軌道上に偏向電磁石305、加速装置306、出射用の高周波印加装置307、出射用デフレクタ308、および4極電磁石(図示せず)を備える。
【0027】
図1を用いて、粒子ビームが、シンクロトロン型の粒子ビーム加速装置304を利用した荷電粒子ビーム発生装置301から発生し、患者406へ向けて出射されるまでの経過を説明する。
【0028】
イオン源302より供給された粒子は前段加速器303にて加速され、粒子ビーム加速装置304であるシンクロトロンへと送られる。シンクロトロンには加速装置306が設置されており、シンクロトロン内を周回する粒子ビームが加速装置306を通過する周期に同期させて加速装置306に設けられた高周波加速空胴(図示せず)に高周波を印加し、粒子ビームを加速する。このようにして粒子ビームが所定のエネルギーに達するまで加速される。
【0029】
所定のエネルギー(例えば70~250MeV)まで粒子ビームが加速された後、中央制御装置312より、照射制御システム314を介して出射開始信号が出力されると、高周波電源309からの高周波電力が、高周波印加装置307に設置された高周波印加電極によりシンクロトロン内を周回している粒子ビームに印加され、粒子ビームがシンクロトロンから出射される。
【0030】
高エネルギービーム輸送系310は、シンクロトロンと照射野形成装置400とを連絡している。シンクロトロンから取り出された粒子ビームは、高エネルギービーム輸送系310を介して回転照射装置311に設置された照射野形成装置400まで導かれる。回転照射装置311は、患者406の任意の方向からビームを照射するためのものであり、装置311全体が回転することで患者406の設置されたベッド407の周囲どの方向へも回転することができる。
【0031】
照射野形成装置400は、最終的に患者406へ照射する粒子ビームの形状を整形する装置であり、その構造は照射方式により異なる。散乱体法とスキャニング法が代表的な照射方式であり、本実施例の粒子線治療システムSはスキャニング法を対象とする。スキャニング法は、高エネルギービーム輸送系310から輸送された細いビームをそのまま標的へ照射し、これを3次元的に走査することで、最終的に標的のみに高線量領域を形成することができる。
【0032】
図2は、実施形態に係る粒子線治療システムSに用いられる照射野形成装置400の構成を示す図である。図2に示す照射野形成装置400は、スポットスキャニング方式に対応したものである。
【0033】
図2を使って、照射野形成装置400内の機器のそれぞれの役割と機能とを簡単に述べる。照射野形成装置400は、上流側から二つの走査電磁石401および402、線量モニタ403、ビーム位置モニタ404を有する。線量モニタ403はモニタを通過した粒子ビームの量を計測する。一方、ビーム位置モニタ404は、粒子ビームが通過した位置を計測することができる。これらのモニタ403、404からの情報により、計画通りの位置に計画通りの量のビームが照射されていることを、照射制御システム314が管理することが可能となる。
【0034】
荷電粒子ビーム発生装置301から高エネルギービーム輸送系310を経て輸送された細い粒子ビームは、走査電磁石401、402によりその進行方向を偏向される。これらの走査電磁石401、402は、ビーム進行方向と垂直な方向に磁力線が生じるように設けられており、例えば図2では、走査電磁石401は走査方向405の方向にビームを偏向させ、走査電磁石402はこれに垂直な方向に偏向させる。この二つの電磁石401、402を利用することで、ビーム進行方向と垂直な面内において任意の位置にビームを移動させることができ、標的406aへのビーム照射が可能となる。
【0035】
照射制御システム314は、走査電磁石磁場強度制御装置411を介して、走査電磁石401および402に流す電流の量を制御する。走査電磁石401、402には、走査電磁石用電源410より電流が供給され、電流量に応じた磁場が励起されることでビームの偏向量を自由に設定できる。粒子ビームの偏向量と電流量との関係は、あらかじめテーブルとして中央制御装置312の中のメモリ313に保持されており、それを参照する。
【0036】
ここで、スポットスキャニング方式とは、患者体内、特に腫瘍などの放射線を照射すべき標的領域の内部及び周辺に対し3次元的に点(スポット)を配置し、各スポットに細径ビームを照射していく。各スポットには規定の照射線量が定められており、あるスポットに対し規定線量が照射されると、次の照射すべきスポットにビームを偏向し、再びビームを照射する。全てのスポットに規定線量が付与されることで、標的領域に一様な線量分布が形成される。なお、スキャニング照射には、ディスクリート方式とラスター方式がある。ディスクリート方式では、スポットの切替時に一旦ビームを停止する。ラスター方式は、照射位置の移動中にもビームを停止しない方式である。
【0037】
以下の例ではラスタースキャニング方式について記述するが、本実施例はディスクリートスキャニング方式に対しても適用することができる。
【0038】
図3は、ラスタースキャニング方式における照射位置の設定例を示す斜視図である。図3では、立方体の標的101を照射する例を示した。
【0039】
図3において、粒子線は、進行方向におけるある位置で停止し、その停止位置にエネルギーの大部分が付与される。このため、粒子線の停止する深さが標的領域内となるようにエネルギーが調整される。
【0040】
図3の例では、同一エネルギーで照射される面102付近で停止するエネルギーの粒子線が選ばれている。この面102上に、照射位置として設定された照射スポット104がスポット間隔103で配置されている。1つの照射スポット104に規定量の粒子線が照射されると、粒子線が次の照射スポット104に移動し、移動先の照射スポット104に粒子線が照射される。粒子線の走査経路106は、例えば、ジグザグな経路に設定することができる。この時、粒子線は面102の端から端までx軸に沿って移動した後、スポット間隔103だけy軸に沿って移動し、そこから面102の端から端までx軸に沿って移動することを繰り返すことができる。
【0041】
各照射スポット104の線量分布はガウス分布で与えることができる。この時、各照射スポット104のガウス分布の重ね合わせにより面102全体の線量分布が平坦化されるようにスポット間隔803を設定することができる。
【0042】
粒子線の移動中に照射される照射量も計測され、移動中の粒子線の照射量と、次の照射スポット104に停止した状態で照射される粒子線の照射量の合計が規定量に達すると、さらに次の照射スポット104へ移動する。照射スポット104は、照射スポット104を照射する軌跡105を通る粒子線で照射される。標的101内に配置された同一エネルギーの照射スポット104を順次照射し終わると、標的101内の他の深さ位置を照射するために、標的101内で粒子線を停止させる深さが変更される。
【0043】
ビームが停止する深さを変更するために、標的101に照射する粒子線のエネルギーを変化させる。エネルギーを変化させる1つ方法は、粒子ビーム加速装置304、すなわち本実施形態においてはシンクロトロンの設定を変更することである。粒子はシンクロトロンにおいて設定されたエネルギーになるまで加速されるが、この設定値を変更することで標的101に入射するエネルギーを変更することができる。
【0044】
この場合、シンクロトロンから取り出されるエネルギーが変化するため、高エネルギービーム輸送系310を通過する際のエネルギーも変化し、高エネルギービーム輸送系310の設定変更も必要になる。シンクロトロンの場合、エネルギー変更には1秒程度の時間を要する。
【0045】
図4は、ラスタースキャニング方式におけるエネルギー変更時の照射位置の設定例を示す斜視図である。
【0046】
図4の例では、図3で使用したエネルギーよりも低いエネルギーの粒子線が照射される。そのため、粒子線は、図3の面102より浅い位置で停止する。この停止位置を同一エネルギーで照射される面201で表わす。このエネルギーの粒子線に対応する照射スポット202は、照射スポット202を照射する軌跡203を通る粒子線で照射される。
【0047】
粒子線のエネルギーを変化させるもう1つの方法は、照射野形成装置400内に飛程変調体(図示せず)を挿入することである。変化させるエネルギーに応じて、飛程変調体の厚みを選択する。厚みの選択は、複数の厚みを持つ複数の飛程変調体を用いる方法や、対向する楔形の飛程変調体を用いてもよい。この方法におけるエネルギー変更にかかる時間は飛程変調体を挿入する時間だけであるので、シンクロトロンの設定を変更する方法よりも高速に行うことができる。
【0048】
図5は、実施例1に係る治療計画装置501を示す概略構成図である。
【0049】
治療計画装置501は、図5に示すように、粒子線を照射するためのパラメータを入力するための入力装置602、治療計画を表示する表示装置603、メモリ(記憶媒体)604、データベース(記憶媒体)605、線量分布計算を実施する演算処理装置606(演算素子である制御装置)、通信装置607を有する。演算処理装置606が、入力装置602、表示装置603、メモリ604、データベース605、通信装置607に接続される。
【0050】
治療計画装置501は、各種情報処理が可能な装置、一例としてコンピュータ等の情報処理装置から構成される。情報処理装置は、演算素子、記憶媒体及び通信装置607である通信インターフェースを有し、さらに、マウス、キーボード等の入力装置602、ディスプレイ等の表示装置603を有する。
【0051】
演算素子は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等である。記憶媒体は、例えばHDD(Hard Disk Drive)などの磁気記憶媒体、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)などの半導体記憶媒体等を有する。また、DVD(Digital Versatile Disk)等の光ディスク及び光ディスクドライブの組み合わせも記憶媒体として用いられる。その他、磁気テープメディアなどの公知の記憶媒体も記憶媒体として用いられる。
【0052】
記憶媒体には、ファームウェアなどのプログラムが格納されている。治療計画装置501の動作開始時(例えば電源投入時)にファームウェア等のプログラムをこの記憶媒体から読み出して実行し、治療計画装置501の全体制御を行う。また、記憶媒体には、プログラム以外にも、治療計画装置501の各処理に必要なデータ等が格納されている。
【0053】
あるいは、治療計画装置501を構成する構成要素の一部がLAN(Local Area Network)を介して相互に接続されていてもよいし、インターネット等のWAN(Wide Area Network)を介して相互に接続されていてもよい。
【0054】
次に、図6図8を参照して、本実施例の治療計画装置501の動作について説明する。
【0055】
図6は、本実施例に係る治療計画装置501による治療計画立案の手順を示すフロー図である。
【0056】
図6に示すように、まず操作者は、表示装置603の領域入力画面で、入力装置602を用いて、被照射体のCT画像のスライスごとに指定すべき領域を入力する(手順1)。即ち、放射線を照射すべき標的領域と、放射線の照射を極力避けるべき重要臓器(Organ at Risk, OAR)の領域である。各スライスで入力が終わると、操作者が入力した領域は、3次元の位置情報としてメモリ604に保存される(手順2)。
【0057】
図7は、操作者があるスライス上で標的領域701(標的番号k=1)、標的領域702(k=2)及びOAR703を入力し、表示装置603上のGUI704に描画した状態を例として示している。
【0058】
さらに、操作者は、図8に示す表示装置上のGUI801を用いて、各標的領域kに対して総照射線量Dk、照射開始日、照射完了日を初期設定する(手順3)。設定値は記録装置に保存される(手順4)。
【0059】
次に、治療計画装置501は、演算処理装置606を用いて治療に必要な照射パターン数Lと、治療全体の総分割回数Nを計算し、図8に示すGUI802に結果を表示する(手順5)。具体的には、図8に示すGUI301に入力された各標的領域kへの照射開始・完了日情報に基づき、標的への照射が新たに開始されるタイミングと、標的への照射が完了するタイミングとを検知し、照射パターンの切替タイミング、総照射パターン数L、及び治療全体の総分割回数Nを計算する。ここで、照射パターンとは各スポットの位置と、各スポットへの規定照射量を示す。
【0060】
さらに、手順5において、治療計画装置501は、照射パターンの切り替えタイミングと各標的領域kの総照射線量Dk、治療全体の総分割回数Nとに基づき、1番目の照射パターンにおける標的領域kへの照射線量D(l) k、分割回数Nlを計算し、図8に示すGUI802に結果を表示する。ここで、
【数1】
である。
【0061】
次に、治療計画装置501は照射パターン1での線量分布を過去の治療実績に基づいて予測する(手順6)。まず、演算処理装置606は標的領域kの表面上に均等に点列Pk (0)(q)を配置する。qは各標的表面に配置された点列の番号である。次に、各点に対して標的に対する法線ベクトルhk(q)を計算し、以下に示す点Pk (1)(q)が囲む領域として拡大標的領域を計算する。
【数2】
【0062】
本実施例ではhk(q)の大きさは1~10mmであり、k、qによらず一定とするが、個別に調整しても同等の発明の効果が得られる。この計算を繰り返し、徐々に標的を拡大していく。即ち、j回目の拡大標的は以下の点列で囲まれた領域となる。
【数3】
【0063】
データベース605には、点列Pk (j)(q)で囲まれた拡大標的領域と点列Pk (j-1)(q)で囲まれた拡大標的領域との差分領域dVk (j)での平均線量付与率wjが過去の治療実績から計算され、記録されている。一般的に、放射線治療では標的から離れるほど線量は減衰していくため、標的拡大が進むほどdVk (j)の持つ線量付与率wjは低下する。
【0064】
次に、治療計画装置501に備わる演算処理装置606は、照射パターン1において標的kには一様に線量D(1) が付与されると仮定し、dVk (j)に付与される線量dk (j)をwjD(l) kと計算する。自明であるが、w0=1.0である。結局、照射パターン1においてCT画像上の任意の位置rに付与される線量D(l)(r)は以下の式で求められる。
【数4】
ここで、Kは標的領域の総数(本実施例では、K=2)、Jは標的拡大回数である。標的拡大回数は、操作者によって治療計画装置501に事前に設定される。このように、最適化を実施せずに、僅かな計算量で照射パターン1における任意の位置rへの付与線量が計算される。
【0065】
本実施例では、標的を中心として線量分布D(l)(r)が等方的に広がり、遠ざかるほど減衰していくモデルを採用し、過去の治療計画の実績からdVk (j)での平均線量を算出することでD(l)(r)を予測する方法を採用した。実績データが十分に蓄積されている場合には、CT画像、手順1、手順2で設定した各領域の3次元位置情報を入力として、機械学習を用いて線量分布D(l)(r)を推定する方法でも本実施例と同様の結果が得られる。
【0066】
次に、治療計画装置501は、照射パターン1での線量分布D(l)(r)に基づき、治療全体での腫瘍制御確率(TCP)と正常組織障害発生確率(NTCP)を計算する(手順7)。標的領域を微小体積(以下、ボクセル)の集合として考えると、ボクセルiに線量diが1回照射された場合、ボクセルi内に存在する腫瘍細胞の生存率は以下のように示される。ここで、iはボクセル番号である。
【数5】
ここで、α、βは標的の種類(例えば、肺がん、膵臓がん等)によって決まる生物学的パラメータであり、細胞への放射線照射実験等によって測定され、操作者によって事前に治療計画装置に設定される。総分割数N、総照射線量Diの治療の場合は、
【数6】
となる。従って、本実施例のようにL個の照射パターンを含む治療計画では、
【数7】
と計算される。放射線による細胞死の発生は、ポアソン分布に従う事が知られている。治療開始前に標的kの各ボクセルに含まれる腫瘍細胞数をnkとすると、数7より治療終了後の腫瘍細胞の数はnkλDiと計算されることから、治療終了後にボクセル内の腫瘍細胞数χをゼロとする確率P(χ=0)は
【数8】
と表せられる。TCPは放射線治療終了後に標的内に腫瘍細胞が生き残らない確率であるので、数8について標的kに含まれる全ボクセルの積をとることで
【数9】
と計算される。nkは、検査の結果や過去の臨床データに基づき、操作者によって事前に治療計画装置に入力される。当然のことながら、標的kに含まれないボクセルに関してはnk=0となる。
【0067】
OARのNTCPは以下の式で計算される。
【数10】
【数11】
【数12】
ここで、np, mp、TD50は過去の臨床データ等によってOAR毎に定まるパラメータであり、操作者によって事前に治療計画装置に入力される。VはOARの体積、viは標的と同様にOAR領域をボクセルの集合として考えた場合のボクセル毎の体積である。iはOARに含まれるボクセルの番号を示す。Di'は換算総照射線量であり、1回照射線量dref=2Gyとした場合に、総照射線量Di、総分割回数Nの照射と同等の生物学的効果が得られる総照射線量を示す。
【0068】
総照射線量Di、総分割回数NのときOAR内の正常組織が生き残る確率は
【数13】
であるから、換算総照射線量Di'=Nrefdref
【数14】
と表せられる。本実施例のようにL個の照射パターンを含む治療計画では、OAR内の正常組織が生き残る確率は
【数15】
であるから、換算総照射線量Di'は治療計画装置501によって以下のように計算される。
【数16】
【0069】
上記の式に基づいて計算された標的毎のTCP、およびOAR毎のNTCPは、図7に示すように、GUI704内の各領域近傍に表示されたボックス705に表示される。操作者は表示されたTCP・NTCPを確認し、治療計画の良し悪しを判断する(手順8)。改善が必要と判断した場合には、手順3に戻り、各標的への総照射線量Dk、照射開始日、照射完了日の各入力パラメータを修正し、再びTCP・NTCPの計算を行う。
【0070】
本実施例では、発明の効果を簡潔に説明するために治療計画のパラメータである各標的の総照射線量Dk、照射開始日、照射完了日をTCP・NTCPに基づき手動で調整するとしたが、各パラメータに対するTCP・NTCPの偏微分若しくは感度行列を計算し、TCPを最大化し、且つNTCPを最小化するように各パラメータを自動更新および探索する方法でも本発明と同様の効果が得られる。
【0071】
計算されたTCP・NTCPが妥当と判断された場合には、操作者は総照射線量Dk、照射開始日、照射完了日を確定し、治療計画装置501を操作して各照射パターン1におけるスポット毎のビーム照射量を最適化する。まず、操作者は最適化に必要なパラメータ、例えば目的関数ごとのウエイト(詳細は後述する)を入力する(手順9)。
【0072】
治療計画装置501は、スポット毎の照射線量に基づいて計算した線量分布と、目標値とのズレを数値化した目的関数を作成する。標的領域kの内部及び周辺に設定されたM(k)個の点での線量値を要素とするベクトルをd(k)とすると、d(k)とスポット照射量を要素とするベクトルxとの関係は、次式で表せる。
【数17】
ここで、行列Aは、各スポットへ照射したビームからの標的領域内の計算点に与える線量(線量行列)を表し、操作者によって事前に設定された照射方向や、CT画像による体内情報を基に計算される。同様に、OAR内のM(OAR)個の点での線量値を要素とするベクトルをd(OAR)とすると、d(OAR)=Bxと表すことができる。BはAと同様の線量行列である。
【0073】
治療計画装置501は、標的領域に対応するM(k)個の点に対し目標とする照射線量D(l) k/Nlを設定する。これは照射パターン1において標的領域kに対する1日あたりの照射線量に相当する。さらに、OARに対応するM(OAR)個の点に対し許容線量値D(l) limを設定する。許容線量値D(l) limは操作者によって照射パターン1毎に入力される。このとき、治療計画装置501は目的関数F(x)を次式のように定める。
【数18】
第1項は標的領域に相当する部分となり、M(k)個の点での線量値が目標として設定された処方線量値D(l) k/Nlに近いほど目的関数F(x)は小さくなる。第2項はOARの線量制約に関する項であり、許容線量D(l) limを越えない線量であればよい。θ(d(OAR) m-D(l) lim)は階段関数であり、d(OAR) m<D(l) limの場合は0、それ以外の場合は1となる。ここで、w(k),w(OAR)は、それぞれの目的関数に対応する重みであって、操作者によって入力される値である。重みは、計算点毎に異なる数値を設定することもできる。
【0074】
治療計画装置501は、上記の目的関数F(x)を生成後、終了条件を満たすまで反復計算を繰り返すことで、目的関数F(x)が最も小さくなるxを探索する。終了条件に達すると、治療計画装置501は反復計算を終了する。前述したように、終了条件には、計算時間や計算回数、目的関数の変化量などの指標が設定される。治療計画装置501は、反復計算の結果最終的に求められたスポット照射量に基づき線量分布を計算し、その結果を表示装置603に表示する。この手順は照射パターン1毎に実施される(手順10)。
【0075】
次に、治療計画装置501は、最適化された照射パターン1に基づいて計算した線量分布に基づき、手順5と同様のアルゴリズムで治療全体でのTCP・NTCPを計算する(手順11)。手順5と同様に、計算結果は表示装置603上のGUI704に表示される。操作者は、表示された計算結果を見て立案した治療計画の良し悪しを判断し、適切と判断された場合には治療計画を完了する(手順12)。改善が必要と判断した場合には、手順9に戻り、目的関数の重みw(k),w(OAR)とOARに対する線量制約値D(l) limを調整し、適切なTCP・NTCPが得られるまで照射パターンの最適化を繰り返す。もしくは、手順3に戻り、各標的への総照射線量Dk、照射開始日、照射完了日の各入力パラメータを修正し、適切なTCP・NTCPが得られるまで照射パターンの最適化を繰り返す。
【0076】
従って、本実施例の治療計画装置501によれば、複数の照射パターンを備える治療計画において、照射パターンの妥当性を評価する指標に基づいた治療計画を短時間に立案することが可能となる。
【実施例0077】
実施例2である、免疫の影響を考慮した治療計画立案を可能とする放射線治計画療装置について図9~12を用いて説明する。
【0078】
本実施例で説明する放射線治療計画装置501は、免疫によって放射線の生物学的効果比(Relative biological effectiveness, RBE)が日々変動すると見做すことで、免疫による日々の治療効果の変動を考慮し、臨床的に最大の治療効果が得られるように照射パターンを最適化する。
【0079】
図9のフロー図に示すように、実施例1と同様に、まず操作者は、表示装置603の領域入力画面で、入力装置602を用いて、被照射体のCT画像のスライスごとに指定すべき領域を入力する(手順1)。操作者が入力した領域は、3次元の位置情報として治療計画装置501のメモリ604に保存される(手順2)。
【0080】
図10は、操作者があるスライス上で標的領域1001(標的番号k=1)、標的領域1002(k=2)及びOAR1003、を入力し、表示装置603上のGUI1004に描画した状態を例として示している。本実施例では、標的領域1002(k=2)にはリンパ節が含まれている。さらに、図10に示すように、操作者は、各領域に対し免疫による放射線生物学的効果(RBE)の変動を考慮するか否かをチェックボックス1005により設定する。
【0081】
次に、操作者は、図11に示す表示装置603上に示されたGUI1101から、各標的領域kに対して総生物照射線量Dbiol_k、照射開始日、照射完了日を初期設定する(手順3)。設定値はメモリ604に保存される(手順4)。さらに手順4では、治療計画装置501は実施例1と同様の方法で治療に必要な照射パターン数Lと、治療全体の総分割回数Nを計算する。実施例2においては、L=Nである。つまり、全ての日で照射パターンが変更される。
【0082】
次に、治療計画装置501はデータベース605に保存された免疫RBE変動モデルに基づいて、チェックボックス1005により設定された領域に対し、照射パターン1毎、即ち日毎のRBE変動δRlを計算する(手順5)。
【0083】
図11に示すように、計算されたδRlは表示装置603上のGUI102に表示される。図11に示す例では、標的領域1001(k=1)への照射によってRBEが増加し(δRl>1)、その後、リンパ節を含む標的領域1002(k=2)への照射によってRBEが低下する(δRl<1)様子が示されている。免疫RBE変動モデルを考慮しない領域(本実施例においては、OAR1003である)では、δRl=1となる。
【0084】
免疫RBE変動モデルは過去の治療実績や細胞照射実験等によって作成され、操作者により事前に治療計画装置に登録される。本実施例では、チェックされた全領域に対し同じ免疫RBE変動モデルを適用するとしたが、領域ごとに異なるモデルを用いることができる。
【0085】
さらに、治療計画装置501は照射パターン1毎の生物照射線量D(l) biol_kを一定に保つように、日ごとの物理照射線量D(l) kを計算する。即ち
【数19】
ここで、RBEは線質によって決まる放射線の生物学的効果比である。本実施例は陽子線治療であるため、RBEは常に1.1である。炭素線のように線エネルギー付与(LET)等によってRBEが変化する場合は、ビームの残余飛程等に基づきボクセル毎に異なるRBEが適用される。切替ボタン1103を押すことで、計算された照射パターン1毎の物理照射線量D(l) kが表示装置603に示される。図12は、図11において切替ボタン1103をアクティブにした場合のGUIのイメージ図を示す。
【0086】
以下の手順は実施例1と同等である。まず、治療計画装置501は照射パターン1での線量分布D(l)(r)を過去の治療実績に基づいて予測する(手順6)。次に、治療計画装置は照射パターン1での線量分布D(l)(r)に基づき、治療全体でのTCPとNTCPを計算する(手順7)。実施例2では、照射パターンは毎日変更されるためNlは常に1となる。
【0087】
計算されたTCP・NTCPが妥当と判断された場合、操作者は総生物照射線量Dbiol_k、照射開始日、照射完了日を確定する。改善が必要と判断した場合には、手順3に戻り、各標的への総生物照射線量Dbiol_k、照射開始日、照射完了日の各入力パラメータを修正し、再びTCP・NTCPの計算を行う(手順8)。
【0088】
次に、操作者は治療計画装置501に照射パターン最適化のためのパラメータ(実施例1で示したように、例えば目的関数毎の重みである)を入力する(手順9)。治療計画装置は入力パラメータに基づいて各照射パターン1におけるスポット毎のビーム照射量を最適化し、線量分布を計算する(手順10)。
【0089】
次に、治療計画装置501は計算された全照射パターンの線量分布D(l)(r)に基づき、手順7と同様のアルゴリズムで治療全体でのTCP・NTCPの計算を行う(手順11)。操作者は、表示装置上に表示されたTCP・NTCPの計算結果を確認し、立案した治療計画の良し悪しを判断する(手順12)。適切と判断された場合には治療計画を完了する。改善が必要と判断した場合には、手順9に戻り、目的関数の重みw(k),w(OAR)とOARに対する線量制約値D(l) limを調整し、適切なTCP・NTCPが得られるまで照射パターンの最適化を繰り返す。もしくは、手順3に戻り、各標的への総照射線量Dbio;_k、照射開始日、照射完了日の各入力パラメータを修正し、適切なTCP・NTCPが得られるまで照射パターンの最適化を繰り返す。
【0090】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0091】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0092】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0093】
501…治療計画装置 602…入力装置 603…表示装置 604…メモリ 605…データベース 606…演算処理装置 607…通信装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12