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特開2022-154306セメントクリンカの製造装置、及び分散装置
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  • 特開-セメントクリンカの製造装置、及び分散装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154306
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】セメントクリンカの製造装置、及び分散装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/36 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
C04B7/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057265
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100212026
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真生
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼須賀 祐介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】表 誠治
(57)【要約】
【課題】ライジングダクト内を流れるガスへの影響を抑制しつつ、セメント原料を分散させる。
【解決手段】本開示の一側面に係るセメントクリンカの製造装置は、ロータリキルンからの排ガスを含むガスによってセメント原料を仮焼する仮焼炉と、仮焼炉とロータリキルンとを接続し、排ガスを仮焼炉に導くライジングダクトと、ライジングダクトにセメント原料を投入する原料投入部と、ライジングダクトの内部に配置され、原料投入部から投入されたセメント原料を分散させる分散部材と、を備える。分散部材は、間隔を空けて配列された複数の棒状部材によって構成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリキルンからの排ガスを含むガスによってセメント原料を仮焼する仮焼炉と、
前記仮焼炉と前記ロータリキルンとを接続し、前記排ガスを前記仮焼炉に導くライジングダクトと、
前記ライジングダクトにセメント原料を投入する原料投入部と、
前記ライジングダクトの内部に配置され、前記原料投入部から投入されたセメント原料を分散させる分散部材と、を備え、
前記分散部材は、間隔を空けて配列された複数の棒状部材によって構成されている、セメントクリンカの製造装置。
【請求項2】
前記複数の棒状部材のそれぞれは、前記棒状部材の延在方向に沿った軸線まわりに回転可能に設けられている、請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
ロータリキルンからの排ガスを含むガスによってセメント原料を仮焼する仮焼炉と、
前記仮焼炉と前記ロータリキルンとを接続し、前記排ガスを前記仮焼炉に導くライジングダクトと、
前記ライジングダクトにセメント原料を投入する原料投入部と、
前記ライジングダクトの内部に配置され、前記原料投入部から投入されたセメント原料を分散させる分散部材と、を備え、
前記分散部材は、複数の切欠部が形成された板状部材によって構成されている、セメントクリンカの製造装置。
【請求項4】
前記分散部材は、一方向に沿って延びるように形成されており、当該分散部材の延在方向に沿って移動可能に設けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項5】
ロータリキルンからの排ガスを含むガスによってセメント原料を仮焼する仮焼炉と前記ロータリキルンとを接続し、前記排ガスを前記仮焼炉に導くライジングダクトに投入されたセメント原料を分散させる分散装置であって、
間隔を空けて配列された複数の棒状部材を備える、分散装置。
【請求項6】
ロータリキルンからの排ガスを含むガスによってセメント原料を仮焼する仮焼炉と前記ロータリキルンとを接続し、前記排ガスを前記仮焼炉に導くライジングダクトに投入されたセメント原料を分散させる分散装置であって、
複数の切欠部が形成された板状部材を備える、分散装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セメントクリンカの製造装置、及び分散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカを製造する製造装置では、セメント原料である原料粉を予熱するために、例えばニュー・サスペンション・プレヒーター(NSP)が使用されている。このNSPにおいてサイクロンから、仮焼炉に接続されたライジングダクトに原料粉を投入する場合がある。この場合に、原料粉がライジングダクト内において高温ガス中に分散しないと、熱交換がされないまま下部に落下してしまう。その結果、塩素バイパスの抽気口への原料粉の流入に起因して塩素バイパスの運転に支障をきたす等のトラブルが発生するおそれがある。そのため、原料粉(粉粒体)を分散させる分散装置(例えば、特許文献1参照)が利用され、高温ガス中に原料粉を分散させる工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/159572号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ライジングダクト内を流れるガスへの影響を抑制しつつ、セメント原料を分散させることが可能なセメントクリンカの製造装置、及び分散装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係るセメントクリンカの製造装置は、ロータリキルンからの排ガスを含むガスによってセメント原料を仮焼する仮焼炉と、仮焼炉とロータリキルンとを接続し、排ガスを仮焼炉に導くライジングダクトと、ライジングダクトにセメント原料を投入する原料投入部と、ライジングダクトの内部に配置され、原料投入部から投入されたセメント原料を分散させる分散部材と、を備える。分散部材は、間隔を空けて配列された複数の棒状部材によって構成されている。
【0006】
この製造装置では、間隔を空けて配列された複数の棒状部材によって、原料投入部から投入されたセメント原料が分散される。複数の棒状部材の間には空間が設けられるので、ライジングダクト内での排ガスの流れが、分散部材によって阻害される程度が小さくなる。そのため、ライジングダクト内を流れるガスへの影響を抑制しつつ、セメント原料を分散させることが可能となる。
【0007】
複数の棒状部材のそれぞれは、棒状部材の延在方向に沿った軸線まわりに回転可能に設けられていてもよい。この場合、棒状部材を回転させることで、棒状部材において排ガスによるコーティングが形成され難く、セメント原料が棒状部材上に滞留し難い。その結果、棒状部材への滞留物に起因したガスへの影響を抑制することが可能となる。
【0008】
本開示の一側面に係るセメントクリンカの製造装置は、ロータリキルンからの排ガスを含むガスによってセメント原料を仮焼する仮焼炉と、仮焼炉とロータリキルンとを接続し、排ガスを仮焼炉に導くライジングダクトと、ライジングダクトにセメント原料を投入する原料投入部と、ライジングダクトの内部に配置され、原料投入部から投入されたセメント原料を分散させる分散部材と、を備える。分散部材は、複数の切欠部が形成された板状部材によって構成されている。
【0009】
この製造装置では、複数の切欠部が形成された板状部材によって、原料投入部から投入されたセメント原料が分散される。複数の切欠部によって空間が形成されているので、ライジングダクト内での排ガスの流れが、分散部材によって阻害される程度が小さくなる。そのため、ライジングダクト内を流れるガスへの影響を抑制しつつ、セメント原料を分散させることが可能となる。
【0010】
分散部材は、一方向に沿って延びるように形成されており、当該分散部材の延在方向に沿って移動可能に設けられていてもよい。この場合、分散部材の位置を変化させることで、セメント原料を分散させる量を調節できる。その結果、製造装置の運転状況に応じた分散量の調節が可能となる。
【0011】
本開示の一側面に係る分散装置は、ロータリキルンからの排ガスを含むガスによってセメント原料を仮焼する仮焼炉とロータリキルンとを接続し、排ガスを仮焼炉に導くライジングダクトに投入されたセメント原料を分散させる装置である。この分散装置は、間隔を空けて配列された複数の棒状部材を備える。この分散装置では、上述のセメントクリンカの製造装置と同様に、ライジングダクト内を流れるガスへの影響を抑制しつつ、セメント原料を分散させることが可能となる。
【0012】
本開示の一側面に係る分散装置は、ロータリキルンからの排ガスを含むガスによってセメント原料を仮焼する仮焼炉とロータリキルンとを接続し、排ガスを仮焼炉に導くライジングダクトに投入されたセメント原料を分散させる装置である。この分散装置は、複数の切欠部が形成された板状部材を備える。この分散装置では、上述のセメントクリンカの製造装置と同様に、ライジングダクト内を流れるガスへの影響を抑制しつつ、セメント原料を分散させることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、ライジングダクト内を流れるガスへの影響を抑制しつつ、セメント原料を分散させることが可能なセメントクリンカの製造装置、及び分散装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、セメントクリンカの製造装置の一例を示す模式図である。
図2図2は、分散装置及びその周辺の一例を模式的に示す側面図である。
図3図3(a)は、分散部材の一例を模式的に示す斜視図である。図3(b)は、分散部材の一例を模式的に示す側面図である。
図4図4(a)及び図4(b)は、分散部材の一例を模式的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0016】
[セメントクリンカの製造装置]
図1には、一実施形態に係るセメントクリンカの製造装置が模式的に示されている。製造装置1は、セメント原料の焼成を行うことでセメントクリンカを製造する装置である。製造装置1には、粉粒体(粉体)であるセメント原料が供給される。製造装置1は、例えば、予熱仮焼部10と、ロータリキルン30と、クリンカクーラ60とを備える。
【0017】
予熱仮焼部10は、ロータリキルン30での焼成前に、加熱用の高温のガス(以下、単に「高温ガス」という。)を用いてセメント原料の予熱及び仮焼を行う装置である。高温ガスには、ロータリキルン30で生じた排ガスが含まれる。高温ガスは、セメント原料を予熱及び仮焼できる程度の温度を有する。予熱仮焼部10は、4つのサイクロンC1,C2,C3,C4と、ガスダクト14a,16a,18aと、シュート14b,16b,18bとを有する。4つのサイクロンC1,C2,C3,C4は、上からこの順で配置されており、各サイクロンは、セメント原料(予熱した原料)と高温ガスとを分離する装置である。
【0018】
サイクロンC1とサイクロンC2との間には、サイクロンC2からサイクロンC1に向けて高温ガスを流すガスダクト14aが設けられ、ガスダクト14aの内部には、セメント原料を予熱仮焼部10に供給するためのシュート14bが接続されている。予熱仮焼部10(製造装置1)は、粉砕工程等を含む前工程を経て生成されたセメント原料を、シュート14bを介してガスダクト14aに供給する。ガスダクト14a内に供給されたセメント原料は、サイクロンC2から上昇してくる高温ガス中に分散され、その高温ガスとの熱交換により予熱されながら、サイクロンC1に導入される。サイクロンC1では、セメント原料と高温ガスとが分離される。
【0019】
サイクロンC2とサイクロンC3との間には、サイクロンC3からサイクロンC2に向けて高温ガスを流すガスダクト16aが設けられ、ガスダクト16aの内部には、サイクロンC1において捕集されたセメント原料を投入するためのシュート16bが接続されている。サイクロンC1において捕集されたセメント原料は、シュート16bを介してガスダクト16aに投入される。ガスダクト16a内に投入されたセメント原料は、サイクロンC3から上昇してくる高温ガス中に分散され、その高温ガスとの熱交換により予熱されながら、サイクロンC2に導入される。サイクロンC2では、セメント原料と高温ガスとが分離される。
【0020】
サイクロンC3とサイクロンC4との間には、サイクロンC4からサイクロンC3に向けて高温ガスを流すガスダクト18aが設けられ、ガスダクト18aの内部には、サイクロンC2において捕集されたセメント原料を投入するためのシュート18bが接続されている。サイクロンC2において捕集されたセメント原料は、シュート18bを介してガスダクト18aに投入される。ガスダクト18a内に投入されたセメント原料は、サイクロンC4から上昇してくる高温ガス中に分散され、その高温ガスとの熱交換により予熱されながら、サイクロンC3に導入される。サイクロンC3では、セメント原料と高温ガスとが分離される。以上のように、サイクロンC1,C2,C3の順に下降しながら、セメント原料が予熱される。
【0021】
予熱仮焼部10は、仮焼部24と、シュート22とを更に有する。仮焼部24は、その内部に投入されたセメント原料を、ロータリキルン30の窯尻32から導入される排ガスを含む高温ガスを用いて仮焼する。仮焼部24は、仮焼炉26と、ライジングダクト28とを有する。
【0022】
仮焼炉26は、ロータリキルン30からの排ガスを含む高温ガスによってセメント原料の仮焼を行う炉体である。仮焼炉26は、ライジングダクト28を介してロータリキルン30の窯尻32と接続されている。すなわち、ライジングダクト28は、仮焼炉26とロータリキルン30とを接続する。ライジングダクト28は、ロータリキルン30からの排ガスを仮焼炉26に導く。ロータリキルン30の窯尻32からの排ガスは、ライジングダクト28内及び仮焼炉26内を上昇するように流れる。仮焼炉26は、石炭等の燃料を燃焼するバーナ等の燃焼機構(不図示)を有する。そのため、高温ガスには、バーナ等の燃焼機構からの燃焼ガスも含まれる。バーナ等からの燃焼ガスによって、仮焼炉26の内部において旋回しながら上昇する旋回流が形成されてもよい。仮焼炉26(仮焼部24)では、セメント原料と高温ガスとの熱交換により、セメント原料に含まれる石灰石(炭酸カルシム:CaCO)の脱炭酸が行われる。
【0023】
シュート22は、サイクロンC3において捕集されたセメント原料を、仮焼部24のライジングダクト28の内部に投入(供給)する。仮焼炉26は、セメント原料と、当該セメント原料を仮焼するための高温ガス(上記排ガス及び燃焼ガス)とを、その上部からサイクロンC4に向けて送出する。サイクロンC4では、脱炭酸された(仮焼された)セメント原料と、高温ガスとが分離される。仮焼後に高温ガスと分離されたセメント原料は、サイクロンC4の下部とロータリキルン30との間を接続するシュートを介して、ロータリキルン30に供給される。サイクロンC4で分離された高温ガスは、上述のようにガスダクト18aを通してサイクロンC3に導入される。
【0024】
製造装置1は、塩素バイパス40を更に備える。セメント原料を加熱するための燃料として用いられる産業廃棄物には、塩素等の揮発性成分が含まれている。このような成分がロータリキルン30及び予熱仮焼部10内で循環しつつ濃縮することを抑制するために、塩素バイパス40は、ロータリキルン30からの排ガスの一部を抽気する。例えば、塩素バイパス40には、プローブ42が接続される。プローブ42は、ライジングダクト28内の排ガスを抽気すると共に、抽気した排ガス(以下、「抽気ガス」という。)を塩素バイパス40に導入する。
【0025】
塩素バイパス40は、例えば、冷却部44と、チャンバ46と、熱交換器48と、集塵器52と、吸引ファン54とを有する。冷却部44、チャンバ46、熱交換器48、集塵器52、及び吸引ファン54は、抽気ガスの流れに沿って、プローブ42からこの順に配置されている。冷却部44及び熱交換器48は、抽気ガスを揮発性アルカリ塩の融点以下に冷却する。チャンバ46では、プローブ42及び冷却部44を介した抽気ガスが、更に混合されて均一化される。この時、抽気ガスが、他のセメントクリンカの製造装置から抽気された排ガスと混合されてもよい。
【0026】
集塵器52は、抽気ガスに含まれ、冷却に伴って析出された塩素バイパスダストを回収する。吸引ファン54は、ライジングダクト28から排ガスを吸引する。吸引ファン54から排出される排出ガスは、例えば、セメントクリンカを冷却するための冷却用のガスとして、クリンカクーラ60に導入されてもよい。塩素バイパス40が備えられることで、製造装置1内の揮発性成分を低減することができる。
【0027】
ロータリキルン30は、サイクロンC4からシュートを介して窯尻32に供給されたセメント原料を焼成する。ロータリキルン30は、本体部34と、その本体部34の後端に設けられたバーナ36とを有する。ロータリキルン30では、予熱仮焼部10において予熱及び仮焼されたセメント原料が、バーナ36による燃焼によって加熱されることで、セメントクリンカが生成される。ロータリキルン30は、生成したセメントクリンカをクリンカクーラ60に供給する。クリンカクーラ60は、冷却用のガスを用いてセメントクリンカを冷却する。
【0028】
(分散装置)
続いて、図2及び図3を用いて、シュート22から仮焼部24のライジングダクト28にセメント原料を投入する部分の詳細について説明する。シュート22の端部は、仮焼部24のライジングダクト28の側壁28aに接続されている。シュート22は、セメント原料をライジングダクト28に投入する原料投入部として機能する。予熱仮焼部10は、ライジングダクト28に投入されるセメント原料を分散させる分散装置70を更に有する。
【0029】
分散装置70は、ライジングダクト28の内部に配置される。例えば、分散装置70は、ライジングダクト28の筒状に形成された側壁28a、又はシュート22のライジングダクト28に近い端部に取り付けられている。分散装置70(シュート22による原料の投入口)は、上下方向において、例えば、ライジングダクト28の略中央に配置される。なお、分散装置70は、上下方向においてライジングダクト28の上半分又は下半分に配置されてもよい。分散装置70は、固定用の部材を介して側壁28a又はシュート22の端部に取り付けられてもよい。分散装置70は、シュート22からライジングダクト28へのセメント原料の投入口(その近傍)に配置される。より詳細には、分散装置70は、シュート22から投入されるセメント原料が通過可能な領域(図示の「PA」で示す領域)に配置される。
【0030】
分散装置70は、分散部材72を有する。分散部材72は、ライジングダクト28内に配置され、シュート22から投入されたセメント原料を分散させる機能を有する。分散部材72は、一方向に沿って延びるように形成されている。分散部材72は領域PAにおいて略水平に配置されてもよく、水平面に対して傾いて配置されてもよい。分散部材72は、その延在方向が、側壁28aからライジングダクト28の中心(内側)に向かうように配置される。以下、分散部材72が水平に配置されている場合の当該分散部材72の延在方向を「方向D1」とする。すなわち、方向D1は水平な一方向に対応する。
【0031】
シュート22によるセメント原料の投入方向PDと分散部材72の延在方向とがなす角は、セメント原料の滑り落ち及び滞留を防ぐ観点を考慮して、所定の角度に設定されている。セメント原料の投入方向PDは、シュート22の側壁(より詳細には、シュート22のうちのライジングダクト28に接続される端部の側壁)が延在する方向に対応する。投入方向PDと分散部材72の延在方向とがなす角は、例えば、90°~150°であってもよく、100°~140°であってもよく、110°~130°であってもよい。
【0032】
分散部材72と、シュート22の側壁28aに近い端部の延在方向とがなす角は、セメント原料の滑り落ちを防ぐ観点から、150°以下、140°以下、又は130°以下であってもよい。分散部材72と、シュート22の側壁28aに近い端部の延在方向とがなす角は、セメント原料の滞留を防ぐ観点から、90°以上、100°以上、又は110°以上であってもよい。
【0033】
一例では、分散部材72は、図3(a)及び図3(b)に示されるように、複数の棒状の部材(以下、「棒状部材82」という。)によって構成されている。複数の棒状部材82それぞれは、一方向に沿って延びるように形成されており、例えば、その一端が側壁28aに設けられた取付穴28bに挿入されている(図2も参照)。図3(a)には、各棒状部材82のうちのライジングダクト28の内部空間に露出する部分の一部が例示されている。
【0034】
複数の棒状部材82は、間隔を空けて配列されている。複数の棒状部材82は、シュート22によるセメント原料の投入方向PDに交差する方向に沿って、互いに間隔を空けて配列されている。この場合、投入方向PDから見て、各棒状部材82の延在方向に交差する方向(例えば、直交する方向)に沿って、複数の棒状部材82は並んで配置される。一例では、複数の棒状部材82は、水平方向に沿って並んで配置される。例えば、各棒状部材82が水平に配置されている場合に、複数の棒状部材82は、上下方向と方向D1との双方に直交する方向(以下、「方向D2」という。)に沿って並んでいる。
【0035】
複数の棒状部材82のそれぞれは、棒状部材82の延在方向に交差する断面が円形となるように形成されていてもよい。図3(a)及び図3(b)の例示とは異なり、棒状部材82の上記断面が、楕円形であってもよく、多角形であってもよい。複数の棒状部材82の高さ位置(例えば、中心位置)は、互いに略一致していてもよく、互いに異なっていてもよい。複数の棒状部材82は、方向D2において、互いに等間隔に配置されてもよい。互いに隣り合う棒状部材82同士の間隔Sは、棒状部材82の径(方向D2における長さ)よりも短くてもよく、長くてもよく、又は棒状部材82の径と略一致していてもよい。
【0036】
複数の棒状部材82それぞれ(分散部材72)は、その延在方向に沿って、移動可能に設けられていてもよい。より詳細には、各棒状部材82のうちのライジングダクト28の内部空間に露出する範囲が変化するように、各棒状部材82が移動可能であってもよい。例えば、各棒状部材82は、棒状部材82の内部空間に露出可能な範囲が全て露出する第1位置と、露出可能な当該範囲の全てが露出しない第2位置との間を移動可能である。複数の棒状部材82は、個別に移動可能であってもよく、共に移動可能であってもよい。以上のように、各棒状部材82は、ライジングダクト28に対して抜き差し可能に設けられてもよい。
【0037】
複数の棒状部材82それぞれは、その延在方向に沿った軸線Axまわりに回転可能に設けられてもよい。軸線Axは、対応する棒状部材82の延在方向に交差する断面の中心(例えば、円の中心)に略一致する。棒状部材82が回転可能である場合、当該棒状部材82が延在方向に沿って移動可能であってもよく、延在方向において棒状部材82の位置が固定されていてもよい。作業員による操作又はモータ等による駆動によって、棒状部材82の移動が行われてもよく、棒状部材82の回転が行われてもよい。
【0038】
シュート22から投入されたセメント原料のうちの棒状部材82に向かう原料は、棒状部材82(の上面)に当たり分散される。すなわち、複数の棒状部材82は、セメント原料を分散させる本体部として機能する。ロータリキルン30からライジングダクト28を通り仮焼炉26に向かう排ガス(上昇流)のうち分散装置70が設けられる領域を通る一部は、互いに隣り合う棒状部材82同士の間を通過して上方に向かう。すなわち、互いに隣り合う棒状部材82同士の間に位置する空間は、排ガスを通過させるガス流通部として機能する。
【0039】
分散部材72を構成する部材は複数の棒状部材82に限られない。図4(a)に示される例では、分散部材72が、複数の切欠部が形成された板状の部材(以下、「板状部材73」という。)によって構成されている。この場合、分散部材72は、櫛歯状の板状部材73によって構成される。図4(a)に示される分散部材72は、2個の切欠部74が形成された板状部材73によって構成されている。板状部材73は、ライジングダクト28に投入されたセメント原料を分散させる本体部として機能する。2個の切欠部74は、ライジングダクト28内を上昇するロータリキルン30からの排ガスを通過させるガス流通部として機能する。
【0040】
板状部材73は、分散部材72の本体部分である。板状部材73(分散部材72)は、シュート22からのセメント原料の投入方向PDに交差して配置されている。この場合、板状部材73の上面は、投入方向PDに交差する方向に沿って延びている。板状部材73の上面にセメント原料が当たることで、セメント原料の下方への通過が阻止され、セメント原料が分散される。2個の切欠部74は、板状部材73の周縁部分に形成されている。切欠部74を形成する周縁は、分散部材72(板状部材73)の周縁領域において内側に凹むように形成されている。より詳細には、複数の切欠部74がないと仮定した場合の分散部材72の仮想的な四角形の周縁に対して、分散部材72の周縁の一部が、内側に凹むように形成されており、凹んだ部分が各切欠部74を形成する。
【0041】
切欠部74は、分散部材72(板状部材73)のうちのライジングダクト28の中心に近い先端部に形成されてもよい。2個の切欠部74は、上記先端部を3つの部分に分離するように方向D1に沿って延びている。切欠部74は、一端が外部に開放したスリットである。切欠部74は、板状部材73の主面(上面又は下面)に垂直な方向から見て、板状部材73の外部の領域と接続されている。
【0042】
切欠部74の方向D1に沿った長さは、板状部材73のうちのライジングダクト28の内部に露出可能な部分の方向D1に沿った長さの1/5倍~1倍であってもよい。切欠部74の方向D1における長さは、ロータリキルン30からの排ガスの流れを過度に阻害しない観点から、上記露出可能な部分の方向D1における長さの1/4倍、1/3倍、又は1/2倍以上であってもよい。板状部材73(分散部材72)は、ライジングダクト28内に露出する部分が変化するように、当該板状部材73の延在方向に沿って移動可能に設けられてもよい。
【0043】
切欠部74の方向D2に沿った幅Wは、略一定であってもよい。すなわち、方向D1の位置が変化しても、切欠部74を挟む2つの部分の間の距離(幅W)は、略一定であってもよい。なお、図4(a)に示される例とは異なり、切欠部74の幅Wは、上記先端部から基端部(側壁28a)に向かうにつれて小さくなってもよく、先端部から基板部に向かうにつれて大きくなってもよい。切欠部74を形成する周縁は、図4(a)に示される例では直線であるが、切欠部74を形成する少なくとも一部の周縁が、曲線(例えば円弧)であってもよい。複数の切欠部74の少なくとも一部の間において、形状又は寸法が互いに異なっていてもよい。
【0044】
分散装置70は、図4(b)に示されるように、2つの分散部材72を有してもよい。2つの分散部材72は、各分散部材72の延在方向に交差する方向D2に沿って並んで配置されている。これらの2つの分散部材72は、線対称である点を除き、互いに同様に形成されている。2つの分散部材72は、方向D1に沿って個別に移動可能であってもよい。図4(a)に示される例では、板状部材73の先端の縁が方向D2に平行であるが、図4(b)に示されるように、当該先端部の縁が方向D2に対して傾斜していてもよい。
【0045】
[セメントクリンカの製造方法]
上述の製造装置1を用いて、セメントクリンカを製造することができる。セメントクリンカの製造方法は、例えば、予熱仮焼工程と、焼成工程と、回収工程と、冷却工程とを含む。予熱仮焼工程では、予熱仮焼部10によってセメント原料の予熱及び仮焼が行われる。焼成工程では、予熱及び仮焼されたセメント原料が、予熱仮焼部10からロータリキルン30の窯尻32に供給され、ロータリキルン30での焼成によってセメントクリンカが生成される。回収工程では、仮焼部24のライジングダクト28から揮発分を含む排ガスが塩素バイパス40に抽気され、塩素バイパスダストが回収される。冷却工程では、焼成工程で生成されたセメントクリンカが、クリンカクーラ60によって冷却される。
【0046】
より詳細には、予熱仮焼工程では、粉砕工程等を含む前工程で生成されたセメント原料が、サイクロンC1とサイクロンC2との間のガスダクト14aにシュート14bから供給される。そして、ガスダクト14aに供給されたセメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2、及びサイクロンC3を流通し、ロータリキルン30からの排ガスを含む高温ガスにより予熱される。その後、サイクロンC3とライジングダクト28とを接続するシュート22から、ライジングダクト28の内部に向けて予熱されたセメント原料が投入される。
【0047】
シュート22からセメント原料が投入される際に、セメント原料の投入口の近傍に設けられた分散部材72(例えば、複数の棒状部材82)によって、投入されたセメント原料の一部が分散される。分散部材72によって分散されたセメント原料、及び分散部材72に当たらずに分散部材72を通過したセメント原料は、ライジングダクト28内を上方に向かって流れる高温ガス中に分散される。その結果、ライジングダクト28及び仮焼炉26においてセメント原料の脱炭酸(セメント原料の仮焼)が行われる。
【0048】
仮焼炉26において仮焼されたセメント原料は、仮焼炉26の上部からサイクロンC4に導入される。そして、サイクロンC4から、仮焼されたセメント原料が、ロータリキルン30の窯尻32に供給される。その後、ロータリキルン30の本体部34が回転することで、セメント原料が攪拌されながら、バーナ36からの燃焼ガスによって焼成される。その結果、セメントクリンカが生成される。
【0049】
以上、本開示のいくつかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。例えば、複数の棒状部材82と、複数の切欠部74が形成された板状部材73とが、ライジングダクト28内に配置されてもよい。上述の例では、複数の切欠部74が、分散部材72の先端の一辺(ライジングダクト28の中心に最も近い辺)に設けられるが、当該辺に接続され、方向D1に沿って延びる異なる辺に形成されてもよい。複数の棒状部材82の個数及び複数の切欠部74の個数は、2個以上であれば、何個であってもよい。
【0050】
[実施形態の効果]
以上に説明した一実施形態に係る製造装置1では、間隔を空けて配列された複数の棒状部材82によって、原料投入部(シュート22)から投入されたセメント原料が分散される。分散させる方法として、切欠等が設けられていない1枚の板状の部材をライジングダクト28内に設置することも考えられるが、この場合、ライジングダクト28内を流れる排ガスへの分散部材からの影響が大きい。また別の方法として、ライジングダクト28の側方に分散部材を配置するためのスペース(シュート22の下方に膨出したスペース)を設けることも考えられる。しかしながら、この場合、当該スペースを設けることに起因したガスの流れの乱れ、ガスの温度の低下、及び当該スペースでのコーティングの形成が懸念される。
【0051】
これに対して、上記製造装置1では、複数の棒状部材82の間には空間が設けられるので、ライジングダクト28内での排ガスの流れが、分散部材72によって阻害される程度が小さくなる。そのため、ライジングダクト28内を流れるガスへの影響を抑制しつつ、セメント原料を分散させることが可能となる。
【0052】
複数の棒状部材82のそれぞれは、棒状部材82の延在方向に沿った軸線Axまわりに回転可能に設けられていてもよい。この場合、棒状部材82を回転させることで、棒状部材82において排ガスによるコーティングが形成され難く、セメント原料が棒状部材82上に滞留し難い。その結果、棒状部材82への滞留物に起因したガスへの影響を抑制することが可能となる。
【0053】
以上に説明した他の一実施形態に係る製造装置1では、複数の切欠部74が形成された板状部材73によって、原料投入部(シュート22)から投入されたセメント原料が分散される。複数の切欠部74によって空間が形成されているので、ライジングダクト28内での排ガスの流れが、分散部材72によって阻害される程度が小さくなる。例えば、1つの切欠部が形成された板状部材をライジングダクト28内に配置し、ガスの流れの阻害を抑制するために、その1つの切欠部を大きくすることも考えられる。この場合、分散部材による分散機能が損なわれてしまう可能性がある。これに対して、複数の切欠部を形成すれば、分散機能を損なうことなく、ガスの流れを阻害する程度を低下させることができる。したがって、ライジングダクト28内を流れるガスへの影響を抑制しつつ、セメント原料を分散させることが可能となる。
【0054】
分散部材72は、一方向に沿って延びるように形成されており、当該分散部材72の延在方向に沿って移動可能に設けられていてもよい。この場合、分散部材72の位置を変化させることで、セメント原料を分散させる量を調節できる。その結果、製造装置1の運転状況に応じた分散量の調節が可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1…セメントクリンカの製造装置、10…予熱仮焼部、C1,C2,C3,C4…サイクロン、22…シュート、24…仮焼部、26…仮焼炉、28…ライジングダクト、30…ロータリキルン、40…塩素バイパス、60…クリンカクーラ、70…分散装置、72…分散部材、73…板状部材、74…切欠部、82…棒状部材。
図1
図2
図3
図4