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特開2022-154454研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法
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  • 特開-研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法 図1
  • 特開-研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154454
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20221005BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20221005BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550C
C09K3/14 550Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057504
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】前 僚太
(72)【発明者】
【氏名】多田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ 幸信
(72)【発明者】
【氏名】長野 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】井川 裕文
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CA04
3C158CB01
3C158CB10
3C158DA12
3C158EB01
3C158ED01
3C158ED24
3C158ED26
5F057AA09
5F057BA18
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA18
5F057EA26
5F057EA28
5F057EA33
(57)【要約】
【課題】ポリシリコンおよび窒化ケイ素を含む研磨対象物の研磨において、研磨残りおよびディッシングの両方を抑制できる手段を提供する。
【解決手段】砥粒と、アンモニアと、水酸化カリウムおよびカリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカリウム化合物とを含む研磨用組成物であって、前記アンモニアの含有量は前記研磨用組成物の総質量に対して0.002質量%以上0.5質量%以下であり、前記カリウム化合物の含有量は前記研磨用組成物の総質量に対して0.004質量%以上0.5質量%以下である、研磨用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、アンモニアと、水酸化カリウムおよびカリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカリウム化合物とを含む研磨用組成物であって、
前記アンモニアの含有量は前記研磨用組成物の総質量に対して0.002質量%以上0.5質量%以下であり、
前記カリウム化合物の含有量は前記研磨用組成物の総質量に対して0.004質量%以上0.5質量%以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
水溶性高分子をさらに含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子はラクタム構造を有する、請求項2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
pHが9.0以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記アンモニアの含有量に対する前記カリウム化合物の含有量の比(カリウム化合物/アンモニア(質量比))は0.1以上100以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記砥粒のシラノール基密度は0個/nm以上4個/nm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記砥粒の形状は金平糖形状である、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記砥粒の真密度は1.9g/cm以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、ポリシリコンおよび窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する、研磨方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法を有する、半導体基板の製造方法。
【請求項11】
請求項10の半導体基板の製造方法により得られる、半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(Large Scale Integration)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(chemical mechanical polishing;CMP)法もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線(ダマシン配線)形成において頻繁に利用される技術である。
【0003】
当該CMPは、半導体製造における各工程に適用されてきており、その一態様として、例えばトランジスタ作製におけるゲート形成工程への適用が挙げられる。トランジスタ作製の際には、シリコン、シリコン酸化膜(酸化シリコン)、多結晶シリコン(ポリシリコン)やシリコン窒化物(窒化ケイ素)といったSi含有材料を研磨することがあり、トランジスタの構造によっては、各Si含有材料の研磨レートを制御することが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、(a)金属酸化物(b)第4級アンモニウム塩基;および(c)特定の構造を有するフッ素系界面活性剤を含む、多結晶シリコン膜を研磨するための化学機械研磨用スラリーが開示されている。特許文献1によると、当該スラリーを用いることで、ディッシングの問題を解決し、かつ、面内均一性を向上させることができる、としている。なお、ディッシングとは、膜の中央部分が皿状に凹んでしまう現象を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-515335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近、ポリシリコンおよび窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨するという要求が高まってきている。例えば、ポリシリコンを研磨して窒化ケイ素を表出させることがある。
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術を用いてこのような研磨対象物を研磨したところ、窒化ケイ素の表面にポリシリコンの研磨残りが生じる場合があることが判明した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、ポリシリコンおよび窒化ケイ素を含む研磨対象物の研磨において、研磨残りおよびディッシングの両方を抑制できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、砥粒と、アンモニアと、特定のカリウム化合物とを含む研磨用組成物において、アンモニアの含有量とカリウム化合物の含有量とを特定の範囲内に制御することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一形態に係る研磨用組成物は、砥粒と、アンモニアと、水酸化カリウムおよびカリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカリウム化合物とを含む。そして、前記アンモニアの含有量は前記研磨用組成物の総質量に対して0.002質量%以上0.5質量%以下であり、前記カリウム化合物の含有量は前記研磨用組成物の総質量に対して0.004質量%以上0.5質量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリシリコンおよび窒化ケイ素を含む研磨対象物の研磨において、研磨残りおよびディッシングの両方を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態における金平糖形状の砥粒を示す図である。
図2】研磨残りおよびディッシングの評価に用いた研磨対象物(シリコンウェーハの表面に、Poly-Siパターンを形成したもの)を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、砥粒と、アンモニアと、水酸化カリウムおよびカリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカリウム化合物とを含む研磨用組成物に関する。そして、前記アンモニアの含有量は前記研磨用組成物の総質量に対して0.002質量%以上0.5質量%以下であり、前記カリウム化合物の含有量は前記研磨用組成物の総質量に対して0.004質量%以上0.5質量%以下であることを特徴とする。かような構成を有する本発明の研磨用組成物によれば、ポリシリコン(多結晶シリコン)および窒化ケイ素を含む研磨対象物の研磨において、研磨残りおよびディッシングの両方を抑制できる。より詳細には、窒化ケイ素膜を覆うように形成されたポリシリコン膜を当該窒化ケイ素膜の表面まで研磨する際に、窒化ケイ素膜の表面にポリシリコンの研磨残りが生じるのを抑えつつ、ポリシリコン膜のディッシングをも抑制することができる(ディッシング量を低減できる)。また、本発明の研磨用組成物によれば、ポリシリコンの研磨速度が十分に高くなるが、窒化ケイ素の研磨速度は低く抑えられたままである。その結果、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比が十分に高い(選択比が高い)という効果が得られる。
【0014】
上記のような効果が得られるメカニズムは、以下の通りであると考えられる。ただし、下記メカニズムはあくまで推測であり、これによって本発明の範囲が制限されることはない。
【0015】
アンモニアは、窒素原子に存在する非共有電子対の求核作用により、ポリシリコンのSi-Si結合の結合間距離を伸長させる働きを有する。よって、アンモニアの量が特定量以上であると、Si-Si結合が脆化し、ポリシリコンの研磨が進行しやすくなる。また、同様の理由により、ポリシリコンの研磨残りが取れやすくなる。一方、アンモニアの含有量が多いと、上記作用が大きくなり過ぎ、ディッシングが生じやすくなる(ディッシング量が増大する)。
【0016】
カリウム化合物は、研磨前のポリシリコン表面に存在する酸化膜を取り除く。カリウム化合物の含有量が少ないと、酸化膜を取り除くのに時間がかかり、ポリシリコンの研磨にムラが生じやすくなる。結果的にこのムラが研磨残りとなりうる。一方、カリウム化合物の含有量が多いと、砥粒と窒化ケイ素基板との間の静電的な反発力が低下することにより、窒化ケイ素の研磨速度が大きくなり、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比が低下しうる。
【0017】
研磨用組成物が水溶性高分子を含む場合には、水溶性高分子はポリシリコンの保護膜として機能し、ポリシリコンの研磨を抑制しうる。そのため、水溶性高分子を含む研磨用組成物は、ポリシリコンの研磨残りの問題が生じやすい。研磨用組成物中のアンモニアが基板と相互作用する電気的な力は、水溶性高分子が基板と相互作用する電気的な力よりも大きい。そのため、アンモニアは水溶性高分子よりも基板へ吸着しやすく、水溶性高分子をポリシリコンから剥がし易くする作用を発現すると考えられる。また、研磨用組成物中のカリウム化合物が特定量以上である場合も同様のメカニズムが考えられる。すなわち、カリウム化合物が基板と相互作用する電気的な力は、水溶性高分子が基板と相互作用する電気的な力よりも大きいため、カリウム化合物は水溶性高分子よりも基板へ吸着しやすく、水溶性高分子をポリシリコンから剥がし易くする作用を発現すると考えられる。したがって、研磨用組成物がアンモニアおよび特定量以上のカリウム化合物を含むことにより、砥粒による水溶性高分子の掻き取りが進行しやすくなり、ポリシリコンの研磨が促進される結果、研磨残りが生じにくくなる。
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。
【0019】
本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0020】
また、本明細書において「(メタ)アクリル」とはアクリルおよびメタクリルを包括的に指す意味である。同様に「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。
【0021】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨用組成物は、前述したように、ポリシリコンおよび窒化ケイ素を含む研磨対象物の研磨において、研磨残りおよびディッシングの両方を抑制できる。また、前述したように、ポリシリコンおよび窒化ケイ素を含む研磨対象物に本発明の研磨用組成物を適用した場合、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比が十分に高い(選択比が高い)という効果が得られる。そのため、本発明に係る研磨対象物は、ポリシリコンおよび窒化ケイ素を含むことが好ましい。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、研磨用組成物は、ポリシリコンおよび窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨するために用いられる。本発明の他の好ましい実施形態によれば、研磨用組成物は、窒化ケイ素に対するポリシリコンの選択的な研磨に用いられる。
【0022】
本発明に係る研磨対象物は、ポリシリコンおよび窒化ケイ素以外の他の材料を含みうる。他の材料としては、例えば、炭窒化ケイ素(SiCN)、酸化ケイ素、金属、SiGe等が挙げられる。
【0023】
酸化ケイ素を含む研磨対象物の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素(以下、単に「TEOS-SiO」とも称する)膜、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0024】
上記金属としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。
【0025】
[砥粒]
本発明に係る研磨用組成物中に含まれる砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる。
【0026】
本発明の研磨用組成物において、砥粒は特に制限されない。砥粒の種類としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子が挙げられる。砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。これら砥粒の中でも、シリカが好ましく、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカがより好ましく、コロイダルシリカがさらに好ましい。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、砥粒はシリカ(シリカ粒子)を含む。より好ましい実施形態では、砥粒はコロイダルシリカ(コロイダルシリカ粒子)を含む。
【0027】
コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法などが挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本形態に係る砥粒として好適に用いられる。中でも、高純度で製造できるゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。
【0028】
本発明に係る砥粒の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。中でも、砥粒の形状は、金平糖形状であることが好ましい。砥粒の形状が金平糖形状であると、表面が平滑である砥粒を使用した場合に比べて、ポリシリコンに対する研磨速度が向上する。その結果、研磨残りをより一層抑制することができる。また、この際、窒化ケイ素に対する研磨速度が大きく変化しないため、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比をより一層向上させる(高選択比とする)ことができる。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、砥粒の形状は金平糖形状である。
【0029】
本明細書において「金平糖形状」とは、粒子表面に複数の突起を有することをいう。金平糖形状の砥粒は、一または複数の実施形態において、最も小さい粒子の粒子径を基準にして、粒子径が5倍以上異なる2つ以上の粒子が凝集または融着した形状である。好ましくは、粒径が5倍以上異なる2つ以上の粒子のうちの小さい粒子が、大きな粒子に一部埋没した状態である。
【0030】
金平糖形状の砥粒が表面に有する突起の数は、粒子1つあたり平均で3つ以上であることが好ましく、より好ましくは5つ以上である。
【0031】
ここでいう突起とは、金平糖形状の砥粒の粒子径に比べて十分に小さい高さおよび幅を有するものである。さらに言えば、図1において点Aおよび点Bを通る曲線ABとして示されている部分の長さが、金平糖形状の砥粒の最大内接円の円周長さ、より正確には、金平糖形状の砥粒の外形を投影した輪郭に内接する最大の円の円周長さの4分の1を超えないような突起である。なお、突起の幅とは、突起の基部における幅のことをいい、図1においては点Aと点Bとの間の距離として表されるものである。また、突起の高さとは、突起の基部と、その基部から最も離れた突起の部位との間の距離のことをいい、図1においては直線ABと直交する線分CDの長さとして表されるものである。
【0032】
金平糖形状の砥粒が表面に有する突起の高さを、それぞれ同じ突起の基部における幅で除することにより得られる値(突起の高さ/突起の幅)の平均は、0.17以上であることが好ましく、より好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.22以上である。この値の平均が大きくなるにつれて、突起の形状が比較的鋭いことが理由で、研磨用組成物による研磨速度(特に、ポリシリコンの研磨速度)が向上する。
【0033】
金平糖形状の砥粒が表面に有する突起の平均高さは3.5nm以上であることが好ましく、より好ましくは4.0nm以上である。この突起の平均高さが大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度(特に、ポリシリコンの研磨速度)が向上する。
【0034】
砥粒の形状(外形)は、走査型電子顕微鏡により確認することができる。なお、「突起の平均高さ」および「(突起の高さ/突起の幅)の平均」は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0035】
金平糖形状の砥粒は、公知の手法を適宜参照することにより当業者であれば容易に製造することができる。以下、金平糖形状の砥粒の製造方法の好ましい一形態を簡単に説明する。なお以下では、金平糖形状のシリカ粒子の一例である金平糖形状のコロイダルシリカを例に挙げてその製造方法を説明する。なお、金平糖形状のシリカ粒子としては、金平糖形状のコロイダルシリカの他に、金平糖形状のフュームドシリカが挙げられる。研磨傷の発生を抑制する観点から、金平糖形状のコロイダルシリカが好ましい。
【0036】
まず、アンモニア水が触媒として加えられたメタノールと水との混合溶液にアルコキシシランを連続的に添加して加水分解することにより、コロイダルシリカ粒子を含んだスラリーを得る。得られたスラリーを加熱してメタノールおよびアンモニアを留去する。その後、有機アルカリを触媒としてスラリーに加えてから、70℃以上の温度で再びアルコキシシランを連続的に添加して加水分解することにより、コロイダルシリカ粒子の表面に複数の突起を形成する。ここで使用が可能な有機アルカリの具体例としては、トリエタノールアミンなどのアミン化合物や、水酸化テトラメチルアンモニウムなどの第四級アンモニウム化合物が挙げられる。この方法によれば、金属不純物の含有量が1質量ppm以下の複数の突起を表面に有するシリカ粒子を容易に得ることができる。
【0037】
なお、アルコキシシランの加水分解によりコロイダルシリカを製造する一般的な方法は、例えば作花済夫著「ゾル-ゲル法の科学」(アグネ承風社刊)の第154~156頁に記載されている。また、特開平11-60232号公報には、ケイ酸メチルまたはケイ酸メチルとメタノールの混合物を水、メタノールおよびアンモニアまたはアンモニアとアンモニウム塩からなる混合溶媒中に滴下してケイ酸メチルと水とを反応させる、繭型コロイダルシリカの製造方法の開示がある。特開2001-48520号公報には、アルキルシリケートを酸触媒で加水分解した後、アルカリ触媒を加えて加熱してケイ酸の重合を進行させて粒子成長させる、細長形状のコロイダルシリカの製造方法の開示がある。特開2007-153732号公報には、特定の種類の加水分解触媒を特定の量で使用し、易加水分解性オルガノシリケートを原料として多数の小突起を有するコロイダルシリカを製造する方法が記載されている。特開2002-338232号公報には、単分散のコロイダルシリカに凝集剤を添加することにより球状に二次凝集させる二次凝集コロイダルシリカの製造方法の記載がある。特開平07-118008号公報および国際公開第2007/018069号には、細長などの異形のコロイダルシリカを得るために、ケイ酸ソーダから得られる活性ケイ酸にカルシウム塩またはマグネシウム塩を添加することの開示がある。特開2001-11433号公報には、ケイ酸ソーダから得られる活性ケイ酸にカルシウム塩を添加することにより数珠状のコロイダルシリカを得ることの記載がある。特開2008-169102号公報には、シード粒子の表面に微小粒子を生成および成長させることで金平糖のように多数の小突起を有するコロイダルシリカが得られることが記載されている。本発明に係る金平糖形状のシリカ粒子は、これらの文献に記載の方法を単独または組み合わせて使用することにより製造することも可能である。
【0038】
本発明に係る砥粒は、シラノール基密度が低いほど(単位表面積当たりのシラノール基数が少ないほど)好ましい。シラノール基密度が低いと、砥粒とポリシリコン表面との間に存在する結合水の量が減る。そのため、砥粒がポリシリコン表面に接触しやすくなり、ポリシリコンの研磨速度をより一層向上させることができる。その結果、研磨残りをより一層抑制することができる。また、この際、窒化ケイ素に対する研磨速度が大きく変化しないため、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比をより一層向上させる(高選択比とする)ことができる。具体的には、砥粒のシラノール基密度は0個/nm以上4個/nm以下であることが好ましい。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、砥粒のシラノール基密度は0個/nm以上4個/nm以下である。シラノール基密度は低いほど好ましいため、3.8個/nm以下、3.7個/nm以下、3.6個/nm以下、3.5個/nm以下の順で好ましい。なお、シラノール基密度の下限は低いほど好ましいため、0個/nmであるが、砥粒がシリカ(シリカ粒子)を含む場合は、ある程度のシラノール基が含まれてもよい。したがって、シラノール基密度の下限は、0.5個/nm以上、1.0個/nm以上、1.5個/nm以上、2.0個/nm以上であってもよい。したがって、シラノール基密度としては、好ましくは0.5個/nm以上3.8個/nm以下であり、より好ましくは1.0個/nm以上3.7個/nm以下であり、さらに好ましくは1.5個/nm以上3.6個/nm以下であり、特に好ましくは2.0個/nm以上3.5個/nm以下である。シラノール基密度は、砥粒の製造方法において、焼成等の熱処理を行うことにより低減させることができる。本明細書では、シラノール基密度は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0039】
さらに、砥粒は、シラノール基密度が上記範囲を満たす限り、表面修飾されていてもよい。なかでも、特に好ましいのは、有機酸を固定化したコロイダルシリカである。研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカの表面への有機酸の固定化は、例えばコロイダルシリカの表面に有機酸の官能基が化学的に結合することにより行われている。コロイダルシリカと有機酸を単に共存させただけではコロイダルシリカへの有機酸の固定化は果たされない。有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0040】
本発明に係る砥粒は、真密度が高いほど好ましい。真密度が高いと、ウェハーに効率的に機械的な力を伝えることができるため、その結果、研磨残りをより一層抑制することができる。また、この際、窒化ケイ素に対する研磨速度が大きく変化しないため、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比をより一層向上させる(高選択比とする)ことができる。具体的には、真密度は1.9g/cm以上が好ましい。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、砥粒の真密度は1.9g/cm以上である。真密度は高いほど好ましいため、2.0g/cm以上がより好ましく、2.05g/cm以上がさらに好ましい。なお、上限値は特に制限されないが、通常3.0g/cm以下であり、2.5g/cm以下が好ましく、2.2g/cm以下がより好ましい。したがって、真密度の数値範囲としては、好ましくは1.9g/cm以上3.0g/cm以下であり、より好ましくは2.0g/cm以上2.5g/cm以下であり、さらに好ましくは2.05g/cm以上2.2g/cm以下である。真密度は、砥粒の製造方法(ゾルゲル法)において、反応温度や反応時間を調整することにより空隙率を小さくすることで制御することができる。本明細書では、真密度は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0041】
砥粒の大きさは特に制限されない。例えば、砥粒の平均一次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度(特に、ポリシリコンの研磨速度)が向上する。また、砥粒の平均一次粒子径は、300nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましく、30nm以下が特に好ましい。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いた研磨により欠陥が少ない表面を得ることが容易になる。すなわち、砥粒の平均一次粒子径は、10nm以上300nm以下であることが好ましく、15nm以上100nm以下であることがより好ましく、20nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、20nm以上30nm以下であることが特に好ましい。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法から算出した砥粒の比表面積(SA)を基に、砥粒の形状が真球であると仮定して算出することができる。本明細書では、砥粒の平均一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0042】
また、砥粒の平均二次粒子径は、20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、35nm以上であることがさらに好ましい。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨中の抵抗が小さくなり、安定的な研磨が可能になる。また、砥粒の平均二次粒子径は、400nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、70nm以下であることが特に好ましい。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、砥粒の単位質量当たりの表面積が大きくなり、研磨対象物との接触頻度が向上し、研磨速度(特に、ポリシリコンの研磨速度)がより向上する。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、20nm以上400nm以下であることが好ましく、30nm以上250nm以下であることがより好ましく、35nm以上100nm以下であることがさらに好ましく、35nm以上70nm以下であることが特に好ましい。なお、砥粒の形状が金平糖形状である場合、ここでいう二次粒子とは、金平糖形状の砥粒が研磨用組成物中で会合して形成する粒子をいう。なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えば動的光散乱法により測定することができる。本明細書では、砥粒の平均二次粒子径は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0043】
本発明に係る研磨用組成物において、砥粒の含有量(濃度)は特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%超であることが特に好ましい。また、砥粒の含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%未満であることが特に好ましい。すなわち、砥粒の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がさらに好ましく、0.5質量%超5質量%未満が特に好ましい。このような範囲であれば、コストを抑えながらポリシリコンの研磨速度と窒化ケイ素の研磨速度とのバランスをより向上させることができる。ゆえに、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)をより向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0044】
[アンモニア]
本発明に係る研磨用組成物中に含まれるアンモニアは、ポリシリコンの研磨を促進させる作用を有する。これはアンモニアの非共有電子対の求核作用により、ポリシリコンのSi-Si結合が脆化し、砥粒による研磨が進行しやすくなるためであると考えらえる。
【0045】
本発明に係る研磨用組成物において、アンモニアの含有量(濃度)は、研磨用組成物の総質量に対して、0.002質量%以上0.5質量%以下である。アンモニアの含有量が0.002質量%未満であると、上記のポリシリコンの研磨を促進する作用が十分に発揮されない。その結果、研磨残りを抑制するという本発明の課題が解決されないおそれがある。一方、アンモニアの含有量が0.5質量%を超えると、上記のポリシリコンの研磨を促進する作用が大きくなり過ぎる。その結果、ディッシングを抑制するという本発明の課題が解決されないおそれがある。同様の観点から、アンモニアの含有量は、好ましくは0.004質量%以上0.2質量%以下であり、より好ましくは0.008質量%以上0.14質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下であり、特に好ましくは0.014質量%以上0.05質量%以下である。
【0046】
[カリウム化合物]
本発明に係る研磨用組成物は、水酸化カリウムおよびカリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカリウム化合物を含む。研磨用組成物中のカリウム化合物は、研磨前のポリシリコン表面に存在する酸化膜を取り除く作用を有する。
【0047】
上記カリウム塩は、特に制限されず、カリウムの無機塩、カリウムの有機塩を適宜選択することができる。カリウムの無機塩としては、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、過塩素酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、エチドロン酸カリウム等が挙げられる。カリウムの有機塩としては、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸カリウム等が挙げられる。
【0048】
カリウム化合物の中でも、選択比を向上させる観点から、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カリウムが好ましく、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムがより好ましい。
【0049】
これらカリウム化合物は、1種単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0050】
本発明に係る研磨用組成物において、カリウム化合物の含有量(濃度)は、研磨用組成物の総質量に対して、0.004質量%以上0.5質量%以下である。カリウム化合物の含有量が0.004質量%未満であると、酸化膜を取り除くのに時間がかかり、ポリシリコンの研磨にムラが生じやすくなる。結果的にこのムラが研磨残りとなり、研磨残りを抑制するという本発明の課題が解決されないおそれがある。一方、カリウム化合物の含有量が0.5質量%を超えると、砥粒と窒化ケイ素基板との間の静電的な反発力が低下することにより、窒化ケイ素の研磨速度が大きくなり、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)が低下しうる。同様の観点から、カリウム化合物の含有量は、好ましくは0.005質量%以上0.4質量%以下であり、より好ましくは0.025質量%以上0.3質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上0.2質量%以下である。なお、研磨用組成物が2種以上のカリウム化合物を含む場合には、カリウム化合物の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0051】
本発明に係る研磨用組成物中のアンモニアの含有量に対するカリウム化合物の含有量の比(カリウム化合物/アンモニア(質量比))は、0.1以上100以下が好ましく、0.3以上70以下がより好ましく、1以上30以下がさらに好ましく、10以上20以下が特に好ましい。当該比が上記の範囲であると、ポリシリコンの研磨速度向上および研磨残り低減のバランスが良好になる。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、アンモニアの含有量に対するカリウム化合物の含有量の比(カリウム化合物/アンモニア(質量比))は0.1以上100以下である。
【0052】
[水溶性高分子]
本発明の研磨用組成物は、必要に応じて、水溶性高分子を含みうる。水溶性高分子は、研磨対象物表面に付着し、不均一又は過度なエッチングから研磨対象物表面を保護する。これにより、研磨後の表面品質が向上しうる。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、研磨用組成物は、水溶性高分子をさらに含む。
【0053】
本明細書中、「水溶性」とは、水(25℃)に対する溶解度が1g/100mL以上であることを意味し、「高分子」とは、重量平均分子量が1,000以上である(共)重合体をいう。重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、具体的には、下記の測定方法により測定される値を採用する。
【0054】
(GPC測定条件)
測定装置:HLC-8320GPC(東ソー)
サンプル濃度:0.01質量%
カラム:TSKgel GMPWXL
検出器:示差屈折計
溶離液:10mM 臭化リチウム/N,N-ジメチルホルムアミド
流速:1mL/分
測定温度:40℃
分子量換算:ポリエチレングリコール換算
サンプル注入量:200μL。
【0055】
なお、GPCによって測定することができない場合に限っては、分子式から算出した分子量を重量平均分子量として採用する。
【0056】
本発明に係る水溶性高分子は、特に制限されないが、窒素原子を有することが好ましく、アミド基を有することがより好ましく、ラクタム構造(環状アミド構造)を有することがさらに好ましい。このような水溶性高分子を用いると、研磨対象物表面への保護膜の形成が進行しやすくなる。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、水溶性高分子は窒素原子を有する。本発明のより好ましい一実施形態によれば、水溶性高分子はアミド基を有する。本発明のさらに好ましい一実施形態によれば、水溶性高分子はラクタム構造を有する。
【0057】
水溶性高分子が窒素原子(好ましくはアミド基、より好ましくはラクタム構造)を有する場合、当該水溶性高分子は、窒素原子(好ましくはアミド基、より好ましくはラクタム構造)を有するモノマーに由来する構造単位を、構造単位全体に対して50質量%超の割合で含みうる。当該水溶性高分子中の窒素原子(好ましくはアミド基、より好ましくはラクタム構造)を有するモノマーに由来する構造単位の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。特に好ましくは100質量%、すなわち窒素原子(好ましくはアミド基、より好ましくはラクタム構造)を有するモノマーのホモポリマーである。
【0058】
窒素原子(好ましくはアミド基、より好ましくはラクタム構造)を有するモノマーとしては、N-アクリロイルモルホリン、N-ビニルピペリジン、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルカルバゾール、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-sec-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(tert-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルカルボン酸アミド;N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(1-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニル-2-カプロラクタム等が挙げられる。中でも、研磨対象物表面の保護、ポリシリコンの研磨速度向上および研磨残り低減のバランスを考慮すると、N-ビニル-2-ピロリドン、N-アクリロイルモルホリンが好ましく、N-ビニル-2-ピロリドンがより好ましい。
【0059】
これら窒素原子(好ましくはアミド基、より好ましくはラクタム構造)を有するモノマーは、1種単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0060】
窒素原子(好ましくはアミド基、より好ましくはラクタム構造)を有するモノマーは、必要に応じて、当該モノマーと共重合可能な他の共重合性モノマー由来の構造単位を含んでいてもよい。
【0061】
他の共重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のカルボキシ基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートモノマー;シクロへキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルオキシアルキル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルコキシ基またはオキシアルキレン基を含有する(メタ)アクリレートモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有モノマー;エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレン等のオレフィン;スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、アルキルビニルエーテル、ビニルトルエン、ビニルピリジン、イタコン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、ビニルアルコール、アリルアルコール、メチルビニルケトン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン等が挙げられる。
【0062】
これら他の共重合性モノマーは、1種単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0063】
窒素原子(好ましくはアミド基、より好ましくはラクタム構造)を有する水溶性高分子の好ましい具体例としては、ポリN-ビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルピロリドン-ポリビニルアルコールコポリマーが挙げられる。中でも、研磨対象物表面の保護、ポリシリコンの研磨速度向上および研磨残り低減のバランスを考慮すると、ポリN-ビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルピロリドン-ポリビニルアルコールコポリマーが好ましく、ポリN-ビニルピロリドン(PVP)がより好ましい。
【0064】
水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)の下限は、特に制限されないが、1000以上が好ましく、1000超がより好ましく、1500以上がさらに好ましく、1500超がさらにより好ましく、5000以上が特に好ましく、5000超が最も好ましい。水溶性高分子の重量平均分子量の上限は、特に制限されないが、100000以下が好ましく、100000未満がより好ましく、90000以下がさらに好ましく、90000未満がさらにより好ましく、80000以下が特に好ましく、80000未満が特により好ましく、55000以下が最も好ましい。すなわち、水溶性高分子の重量平均分子量は、1000以上100000以下が好ましく、1000超100000未満がより好ましく、1500以上90000以下がさらに好ましく、1500超90000未満がさらにより好ましく、5000以上80000以下が特に好ましく、5000超80000未満が特により好ましく、5000超55000以下が最も好ましい。上記範囲の重量平均分子量を有する水溶性高分子であれば、溶解性に優れ、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)をより向上させることができる。また、上記範囲の重量平均分子量を有する水溶性高分子であれば、ポリシリコンの研磨速度をより向上させることができる。
【0065】
水溶性高分子の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0066】
水溶性高分子の含有量(濃度)は特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0005質量%以上であることがより好ましく、0.001質量%以上であることがさらに好ましい。また、水溶性高分子の含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。すなわち、水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.0001質量%以上10質量%以下が好ましく、0.0005質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.001質量%以上0.1質量%以下がさらに好ましい。このような含有量の範囲であれば、コストを抑えながら、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)をより向上させることができる。また、このような含有量の範囲であれば、ポリシリコンの研磨速度をより向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の水溶性高分子を含む場合には、水溶性高分子の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0067】
[分散媒]
本発明の研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含むことが好ましい。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明のより好ましい形態によると、分散媒は水を含む。本発明のさらに好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。上記したように、さらに好ましくは、分散媒は水のみからなる。
【0068】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0069】
[pH]
本発明の研磨用組成物のpHは、特に制限されないが、9.0以上であることが好ましく、9.0以上13.0以下がより好ましく、9.5以上12.0以下がさらに好ましく、10.0以上11.5以下が特に好ましく、10.5以上11.5以下が最も好ましい。pHが9.0以上であるとポリシリコンの研磨速度を向上させることができ、pHが13.0以下であると窒化ケイ素の研磨速度を低く抑えることができる。pHが上記範囲であれば、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)を十分に大きくすることができる。なお、研磨用組成物のpHは、後述の実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0070】
本発明の研磨用組成物においては、アンモニアおよびカリウム化合物がpH調整剤としての役割も果たす。これらの成分のみだけで所望のpHが得られ難い場合は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、pH調整剤を添加してpHを調整してもよい。
【0071】
pH調整剤は酸、ならびにアンモニアおよびカリウム化合物以外の塩基のいずれであってもよく、また、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。pH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0072】
pH調整剤として用いられる酸の具体例としては、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸等の有機酸等が挙げられる。
【0073】
pH調整剤として用いられる塩基の具体例としては、例えば、カリウム以外の第1族元素の水酸化物または塩、第2族元素の水酸化物または塩、水酸化第4級アンモニウムまたはその塩等が挙げられる。塩の具体例としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0074】
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0075】
[研磨用組成物の電気伝導度(EC)]
本発明の研磨用組成物の電気伝導度(EC)の下限は、好ましくは0.01mS/cm以上であり、より好ましくは0.1mS/cm以上である。また、本発明の研磨用組成物の電気伝導度(EC)の上限は、好ましくは10mS/cm以下であり、より好ましくは3mS/cm以下である。上記したような範囲であれば、砥粒同士の反発を適切に調整して、(特にポリシリコンに対する)十分な研磨速度および安定性を確保できる。研磨用組成物の電気伝導度は、アンモニアの量、カリウム化合物の種類および量、pH調整剤の種類および量等により調整することができる。なお、研磨用組成物の電気伝導度は、後述の実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0076】
[その他の成分]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0077】
本発明に係る研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含有しないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、研磨対象物(例えばポリシリコン)の表面を酸化して酸化膜を生じさせ、研磨時間が長くなってしまう虞がある。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含有しないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。したがって、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう酸化剤を実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含される。例えば、研磨用組成物中における酸化剤の濃度は、好ましくは0.001質量%以下、より好ましくは0.0001質量%以下、さらに好ましくは0.00001質量%以下(下限:0質量%)である。
【0078】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、アンモニア、カリウム化合物、および必要に応じて水溶性高分子、他の添加剤を、分散媒(例えば、水)中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。なお、通常、アンモニアはアンモニア水の形態で、カリウム化合物はカリウム水溶液の形態で、各成分と混合される。したがって、本発明は、砥粒、アンモニア水およびカリウム化合物水溶液を混合する工程を含む、研磨用組成物の製造方法を提供する。
【0079】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0080】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、ポリシリコンおよび窒化ケイ素を含む研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、前記研磨用組成物を用いてポリシリコンおよび窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する、研磨方法を提供する。
【0081】
さらに、本発明は、前記研磨方法を有する半導体基板の製造方法を提供する。さらに本発明は、当該半導体基板の製造方法により得られる、半導体基板を提供する。
【0082】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0083】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0084】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0085】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0086】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【0087】
(研磨速度)
本発明の実施形態において、ポリシリコンの研磨速度は、2000Å/min以上であると好ましく、3000Å/min以上であることがより好ましく、3100Å/min以上であることがさらに好ましく、3200Å/min以上であることが特に好ましい。また、本発明の実施形態において、窒化ケイ素の研磨速度は、100Å/min以下であると好ましく、80Å/min以下であることがより好ましく、50Å/min以下であることがさらに好ましく、20Å/min以下が特に好ましい。
(選択比)
本発明の研磨用組成物を用いてポリシリコンおよび窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨すると、高い窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(高い窒化ケイ素に対するポリシリコンの選択比)を達成できる。具体的には、本発明の実施形態において、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)は、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、30以上であることがさらに好ましく、70以上であることがさらにより好ましく、100以上であることが特に好ましく、150以上であることが最も好ましい。なお、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)は、高いほど好ましいため、上限は特に制限されないが、通常300以下であり、好ましくは200以下である。
【0088】
本明細書において、ポリシリコンおよび窒化ケイ素の研磨速度は、実施例に記載の方法により算出される値を採用する。本明細書において、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)は、実施例に記載の方法により算出される値を採用する。
【実施例0089】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0090】
<砥粒の粒子径>
砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒の平均二次粒子径は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UT151により測定した。
【0091】
<砥粒の形状>
砥粒の形状(外形)は、走査型電子顕微鏡(SEM)SU8000(株式会社日立ハイテク製)を用いて観察された画像(倍率:500k倍)から、20個の砥粒粒子に存在する各突起について突起の高さおよび突起の幅を測定した。そして、突起の高さの平均値を算出することで「突起の平均高さ」を求めた。また、各突起について突起の高さ/突起の幅を求め、これらの平均値を算出した。
【0092】
<シラノール基密度>
砥粒の単位表面積あたりのシラノール基密度(単位:個/nm)は、以下の測定方法または計算方法により、各パラメータを測定または算出した後、下記の方法により算出した。
【0093】
より具体的には、下記式中のCは、砥粒の合計質量であり、下記式中のSは、砥粒のBET比表面積である。さらに具体的には、まず、固形分として1.50gの砥粒を200mlビーカーに採取し、100mlの純水を加えてスラリーとした後、30gの塩化ナトリウムを添加して溶解する。次に、1N塩酸を添加してスラリーのpHを約3.0~3.5に調整した後、スラリーが150mlになるまで純水を加える。このスラリーに対して、自動滴定装置(平沼産業株式会社製、COM-1700)を使用して、25℃で0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHが4.0になるよう調整し、さらに、pH滴定によってpHを4.0から9.0に上げるのに要した0.1N水酸化ナトリウム水溶液の容量V[L]を測定する。平均シラノール基密度(個/nm)は、下記式により算出できる。
【0094】
【数1】
【0095】
上記式中、
ρは、平均シラノール基密度(個/nm)を表わし;
cは、滴定に用いた水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mol/L)を表わし;
Vは、pHを4.0から9.0に上げるのに要した水酸化ナトリウム水溶液の容量(L
)を表わし;
は、アボガドロ定数(個/mol)を表わし;
Cは、砥粒の合計質量(固形分)(g)を表わし;
Sは、砥粒のBET比表面積の加重平均値(nm/g)を表わす。
【0096】
<砥粒の真密度(g/cm)>
砥粒の真密度(g/cm)は、下記方法によって測定される。詳細には、まず、るつぼに砥粒水分散液を固形分(砥粒)で約15gとなるように入れ、市販のホットプレートを使用して、約200℃で水分を蒸発させる。さらに、砥粒の空隙に残留した水分も除去するために、電気炉(アドバンテック東洋株式会社製、焼成炉)にて300℃で1時間の熱処理を行い、処理後の乾燥砥粒を乳鉢で擂り潰す。次に、あらかじめ精密天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、GH-202)にて重量を測定した100ml比重瓶(Wa(g))に、上記にて作製した乾燥砥粒を10g入れて重量を測定した(Wb(g))後、エタノールを20ml加えて、減圧したデシケータ内で30分間脱気する。その後、比重瓶内をエタノールで満たし、栓をして重量を測定する(Wc(g))。砥粒の重量測定を終えた比重瓶は内容物を廃棄し、洗浄後にエタノールで満たし重量を測定する(Wd)。これらの重量と測定時のエタノールの温度(t(℃))から、式1および式2で真密度を算出する。
【0097】
【数2】
【0098】
【数3】
【0099】
<研磨用組成物のpH>
研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製 型番:F-72 LAQUA(登録商標))により測定した。
【0100】
<研磨用組成物の電気伝導度>
研磨用組成物の電気伝導度(EC)は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71 LAQUA(登録商標))により測定した。
【0101】
[実施例1]
砥粒としてコロイダルシリカ(平均一次粒子径:30nm、平均二次粒子径:60nm、形状:金平糖形状(突起の平均高さ:5nm、「突起の高さ/突起の幅」の平均値:0.3)、シラノール基密度:3.5個/nm、真密度:2.05g/cm)を3質量%、添加剤1として水溶性高分子であるポリビニルピロリドン(PVP)(重量平均分子量(Mw):8000)を10ppm、添加剤2として濃度29質量%のアンモニア水をアンモニア(NH)換算で0.003質量%、添加剤3として濃度49質量%の水酸化カリウム水溶液を水酸化カリウム(KOH)換算で0.196質量%の最終濃度とそれぞれなるように、分散媒である純水に室温(25℃)で加えてから30分攪拌混合し、pHが11の研磨用組成物を得た。得られた研磨用組成物の電気伝導度を測定したところ、2.3mS/cmであった。
【0102】
[実施例2~7、比較例1~8]
砥粒の量、添加剤1~3のそれぞれの種類および量、ならびに研磨用組成物のpHを、下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~7、および比較例1~8の各研磨用組成物を調製した。そして、得られた各研磨用組成物の電気伝導度を測定し、結果を下記表1に示す。なお、下記表1において「-」と表示されているものは、その剤を含んでいないことを示す。なお、比較例6は、添加剤2としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を用い、添加剤3として炭酸カリウム(KCO)を用いた。
【0103】
<評価>
各研磨用組成物を用いた際の研磨速度、研磨残りおよびディッシングを下記の方法で評価した。
【0104】
(研磨装置および研磨条件)
研磨装置:アプライド・マテリアルズ製200mm用CMP片面研磨装置 Mirra(登録商標)
研磨パッド:ニッタ・デュポン株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2psi(1psi=6894.76Pa)
研磨定盤回転数:103rpm
ヘッド(キャリア)回転数:97rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200mL/分
研磨時間:60秒。
【0105】
(研磨対象物)
下記の3種類の膜をそれぞれ形成した。
【0106】
(1)シリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)の表面に、厚さ5000Åのポリシリコン(Poly-Si)膜を形成したもの。
【0107】
(2)シリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)の表面に、厚さ2000Åの窒化ケイ素(SiN)膜を形成したもの。
【0108】
(3)シリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)の表面に、8インチのPoly-Siパターンを形成したもの。
なお、Poly-Siパターンは以下の3層からなる。
1層目は、シリコンウェーハの上に形成された厚さ1,000ÅのプラズマTEOS-SiO膜である。
2層目は、1層目の上に形成されたセマテックの854パターンが施された厚さ500ÅのSiN膜である。
3層目は、2層目の上に形成された厚さ2,000ÅのPoly-Si膜である。
図2は、上記(3)の研磨対象物を模式的に表した断面図である。図2に示すように、研磨対象物10は、シリコンウェーハ1の上に、TEOS-SiO膜2、パターンが施されたSiN膜3、Poly-Si膜4の3層が積層されている。図2中、H1はライン幅を示し、H2はスペース幅を示す。また、図2中、T1はSiN膜3の厚さを示し、T2はTEOS-SiO膜2の厚さ(SiN膜3のライン上におけるTEOS-SiO膜2の表面からSiN膜3の表面までの高さ)を示す。
【0109】
[研磨速度]
上記で得られた各研磨用組成物を用いて、上記(1)および(2)のテストウェーハを上記研磨条件にてそれぞれ60秒間研磨した。そして、研磨速度(研磨レート)を、以下の式により計算した。
【0110】
【数4】
【0111】
膜厚は、光学式膜厚測定器(ASET-f5x:ケーエルエー・テンコール社製)により求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより研磨速度(研磨レート)(Å/分)を評価した。なお、下記表1では、ポリシリコンの研磨速度および窒化ケイ素の研磨速度を、それぞれ、「poly-Si」および「SiN」の欄に記す。
【0112】
[研磨残り]
上記式により求めたポリシリコンの研磨速度を用いて、2000Åのポリシリ
コンを研磨するのにかかる時間を算出し、上記(3)を研磨した。研磨後の(3)の窒化ケイ素膜の上に残存しているポリシリコンの膜厚を光学式膜厚測定器(ASET-f5x:ケーエルエー・テンコール社製)を用いて測定した。このときの膜厚を研磨残りとし、下記の3段階判定基準により判定した。△以上であれば、実用上許容できる。
【0113】
3段階判定基準
(判定):(研磨残り)
○:5Å未満
△:5Å以上15Å未満
×:15Å以上
[ディッシング]
実施例1~7および比較例1~8の各研磨用組成物を用いて、上記(3)のテストウェーハを上記研磨条件にて窒化ケイ素膜の全面が露出するまで研磨した。そして、窒化ケイ素膜とポリシリコン膜とのディッシング量(ディッシング深さ)を原子間力顕微鏡(ブルカージャパン社製、INSIGHT-CAP)を用いて窒化ケイ素100μm、ポリシリコン100μmの配線幅部分(図2におけるH1、H2の部分)を測定し、下記の4段階判定基準により判定した。△以上であれば、実用上許容できる。
【0114】
4段階判定基準
(判定):(ディッシング量)
◎ :200Å未満
○ :200Å以上300Å未満
△ :300Å以上400Å未満
× :400Å以上。
【0115】
評価結果を下記表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
表1から明らかなように、実施例1~7の研磨用組成物は、比較例1~8の研磨用組成物と比べて、研磨残りおよびディッシングの両方を低減できることが分かった。中でも、実施例1、4~7の研磨用組成物は、他の実施例と比べて研磨残りの低減効果が特に優れていた。とりわけ、実施例1、5および6の研磨用組成物は、ディッシングの低減効果についても特に優れていた。さらに、実施例1および6の研磨用組成物は、選択比(ポリシリコンの研磨速度/窒化ケイ素の研磨速度)も高いことから、ポリシリコンおよび窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する用途に非常に好適であると考えられる。
【0118】
一方、比較例1~5および7の研磨用組成物は、アンモニアの含有量が0.002質量%未満、または、カリウム化合物の含有量が0.004質量%未満もしくは0.5質量%を超える例であるが、研磨残りが多いため、実用に適さない。
【0119】
比較例6の研磨用組成物は、特開2015-70008号公報に記載されている実施例10においてキレート剤を添加しなかったことを除いて比較例6の研磨用組成物と同様の組成を有する。比較例6の結果からも分かるように、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)のような第4級アンモニウム塩では、研磨残りの低減効果は得られない。
【0120】
比較例8の研磨用組成物は、アンモニアの含有量が0.5質量%を超える例であるが、ディッシング量が多いために、実用に適さない。
図1
図2