(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154513
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】半導体基板の製造方法および当該製造方法より得られる半導体基板
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
H01L21/304 621D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057585
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】前 僚太
(72)【発明者】
【氏名】長野 貴仁
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA21
5F057BA15
5F057BB03
5F057BB09
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA08
5F057EA16
5F057EA17
5F057EA28
5F057EA31
5F057EC30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】基板表面の残渣を低減できる手段を有し、ラクタム構造を有する水溶性高分子を特定量以上含む研磨用組成物を用いた半導体基板の製造方法を提供する。
【解決手段】方法は、砥粒と、ラクタム構造を有する水溶性高分子とを含む研磨用組成物を用いて研磨対象物を化学機械研磨する化学機械研磨工程と、少なくとも1種のアンモニア(塩)を含む表面処理組成物を用いて化学機械研磨工程で得られた研磨済研磨対象物を表面処理する表面処理工程と、を有する。水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して0.1ppm以上500ppm以下であり、アンモニア(塩)の含有量は表面処理組成物の総質量に対して100ppm以上10000ppm以下であり、表面処理組成物のpHは8.0以上12.0以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、ラクタム構造を有する水溶性高分子とを含む研磨用組成物を用いて研磨対象物を化学機械研磨する化学機械研磨工程、および
少なくとも1種のアンモニア(塩)を含む表面処理組成物を用いて前記化学機械研磨工程で得られた研磨済研磨対象物を表面処理する表面処理工程を有し、
前記水溶性高分子の含有量は前記研磨用組成物の総質量に対して0.1ppm以上500ppm以下であり、
前記アンモニア(塩)の含有量は前記表面処理組成物の総質量に対して100ppm以上10000ppm以下であり、
前記表面処理組成物のpHは8.0以上12.0以下である、半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記研磨用組成物のpHは2.0以上12.0以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記研磨用組成物のpHが8.0以上12.0以下であり、
前記化学機械研磨工程と、前記表面処理工程との間に、前記研磨済研磨対象物の表面の液性がpH7.5以下となる工程を有しない、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理組成物は水酸化カリウムおよびカリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカリウム化合物をさらに含み、
前記カリウム化合物の含有量は前記表面処理組成物の総質量に対して100ppm以上10000ppm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記研磨対象物はポリシリコンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法により得られる、半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の製造方法および当該製造方法より得られる半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(Large Scale Integration)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(chemical mechanical polishing;CMP)法もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線(ダマシン配線)形成において頻繁に利用される技術である。
【0003】
当該CMPは、半導体製造における各工程に適用されてきており、その一態様として、例えばトランジスタ作製におけるゲート形成工程への適用が挙げられる。トランジスタ作製の際には、シリコン、シリコン酸化膜(酸化シリコン)、多結晶シリコン(ポリシリコン)やシリコン窒化物(窒化ケイ素)といったSi含有材料を研磨することがあり、トランジスタの構造によっては、各Si含有材料の研磨レートを制御することが求められている。
【0004】
CMPで用いられる研磨用組成物には、研磨対象物の表面を保護する等の目的で水溶性高分子が含まれうる。例えば、特許文献1には、分離領域を備えるシリコン基板の上に設けられたポリシリコン膜を研磨する研磨方法において、ポリシリコンのディッシングを抑制するために、予備研磨用組成物および仕上げ研磨用組成物における水溶性高分子の含有量をそれぞれ所定の範囲内に制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によると、ポリビニルピロリドン等のラクタム構造を有する水溶性高分子を含む研磨用組成物を用いてCMPを行うと、CMP後の半導体基板の表面に残渣(不純物;ディフェクト)が多量に残留することが判明した。
【0007】
したがって、本発明の目的は、ラクタム構造を有する水溶性高分子を含む研磨用組成物を用いた半導体基板の製造方法において、基板表面の残渣を低減できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、ラクタム構造を有する水溶性高分子を含む研磨用組成物を用いて研磨対象物を化学機械研磨した後、特定量のアンモニア(塩)を含むアルカリ性の表面処理組成物を用いて表面処理をすることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一形態に係る半導体基板の製造方法は、砥粒と、ラクタム構造を有する水溶性高分子とを含む研磨用組成物を用いて研磨対象物を化学機械研磨する化学機械研磨工程、および少なくとも1種のアンモニア(塩)を含む表面処理組成物を用いて前記化学機械研磨工程で得られた研磨済研磨対象物を表面処理する表面処理工程を有する。そして、前記水溶性高分子の含有量は前記研磨用組成物の総質量に対して0.1ppm以上500ppm以下であり、前記アンモニア(塩)の含有量は前記表面処理組成物の総質量に対して100ppm以上10000ppm以下であり、前記表面処理組成物のpHは8.0以上12.0以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラクタム構造を有する水溶性高分子を特定量以上含む研磨用組成物を用いた半導体基板の製造方法において、基板表面の残渣を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】研磨状態(ディッシング)の評価に用いた研磨対象物(シリコンウェーハの表面に、Poly-Siパターンウェハを形成したもの)を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、砥粒と、ラクタム構造を有する水溶性高分子とを含む研磨用組成物を用いて研磨対象物を化学機械研磨する化学機械研磨工程、および少なくとも1種のアンモニア(塩)を含む表面処理組成物を用いて前記化学機械研磨工程で得られた研磨済研磨対象物を表面処理する表面処理工程を有する半導体基板の製造方法に関する。そして、前記水溶性高分子の含有量は前記研磨用組成物の総質量に対して0.1ppm以上500ppm以下であり、前記アンモニア(塩)の含有量は前記表面処理組成物の総質量に対して100ppm以上10000ppm以下であり、前記表面処理組成物のpHは8.0以上12.0以下であることを特徴とする。かような構成を有する本発明の製造方法によれば、基板表面の残渣を低減できる。また、基板の研磨状態を良好なまま維持することができる。
【0013】
上記のような効果が得られるメカニズムは、以下の通りであると考えられる。ただし、下記メカニズムはあくまで推測であり、これによって本発明の範囲が制限されることはない。
【0014】
本発明者らが検討したところによると、本発明の半導体基板の製造方法においては、以下の2種類の残渣が生じると考えられる。
【0015】
研磨用組成物のpHがアルカリ性領域(pH8.0以上12.0以下)である場合、化学機械研磨工程において、研磨対象物に含まれるSiがケイ酸イオンとして研磨用組成物中に溶出する。そして、ケイ酸イオンは、ラクタム構造を有する水溶性高分子(例えば、ポリビニルピロリドン)に引き寄せられ、水溶性高分子-ケイ酸イオン複合体を形成する。当該複合体は、その後の工程(例えば、途中水洗工程)により基板表面のpHが7.5以下になると塩として析出し、この析出物が研磨済研磨対象物の表面に残渣として残る。
【0016】
また、研磨用組成物のpHが酸性~アルカリ性領域(pH2.0以上12.0以下)である場合、化学機械研磨工程において、研磨用組成物に含まれる砥粒とラクタム構造を有する水溶性高分子(例えば、ポリビニルピロリドン)とが水溶性高分子-砥粒複合体を形成し、当該複合体が研磨済研磨対象物の表面に残渣として残る。
【0017】
本発明に係る表面処理組成物に含まれるアンモニア(塩)は、表面処理組成物中でアンモウムイオン(NH4
+)およびアンモニアとして存在しうる。アンモウムイオンおよびアンモニアは、水溶性高分子とウェハーとの間に入り込み、結果として水溶性高分子を剥がしやすくする作用を有する。この作用により、水溶性高分子-ケイ酸イオン複合体の析出物や、水溶性高分子-砥粒複合体が研磨済研磨対象物の表面から引き剥がされ、残渣が低減すると考えられる。
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。
【0019】
本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0020】
また、本明細書において「(メタ)アクリル」とはアクリルおよびメタクリルを包括的に指す意味である。同様に「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。
【0021】
<化学機械研磨工程>
本工程では、砥粒と、ラクタム構造を有する水溶性高分子とを含む研磨用組成物を用いて研磨対象物を化学機械研磨する。
【0022】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、半導体基板を構成する材料であれば特に制限されない。半導体基板を構成する材料としては、例えば、ポリシリコン(多結晶シリコン)、単結晶シリコン、窒化ケイ素、炭窒化ケイ素(SiCN)、酸化ケイ素、SiGe等のケイ素(Si)を含有する材料、金属が挙げられる。
【0023】
酸化ケイ素を含む研磨対象物の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素面(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0024】
上記金属としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。
【0025】
中でも、研磨対象物は、ケイ素(Si)を含有する材料を少なくとも1種含むことが好ましく、ポリシリコンを含むことがより好ましい。上述のように、ケイ素(Si)を含有する材料(特にポリシリコン)は、水溶性高分子-ケイ酸イオン複合体を形成し、当該複合体の析出物は、研磨済研磨対象物の表面に残渣として残りやすい。よって、ケイ素(Si)を含有する材料(特にポリシリコン)を含む研磨対象物は、本発明の課題がより顕著に生じやすい。つまり、研磨対象物がケイ素(Si)を含有する材料(特にポリシリコン)を含む場合に、本発明は特に適していると言える。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、前記研磨対象物はポリシリコンを含む。
【0026】
[研磨用組成物]
本発明に係る研磨用組成物は、砥粒と、ラクタム構造を有する水溶性高分子とを含む。
【0027】
(砥粒)
本発明に係る研磨用組成物中に含まれる砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる。
【0028】
本発明に係る研磨用組成物において、砥粒は特に制限されない。砥粒の種類としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子が挙げられる。砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。これら砥粒の中でも、シリカが好ましく、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカがより好ましく、コロイダルシリカがさらに好ましい。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、砥粒はシリカ(シリカ粒子)を含む。より好ましい実施形態では、砥粒はコロイダルシリカ(コロイダルシリカ粒子)を含む。
【0029】
コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法などが挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本形態に係る砥粒として好適に用いられる。中でも、高純度で製造できるゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。
【0030】
砥粒の大きさは特に制限されない。例えば、砥粒の平均一次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。また、砥粒の平均一次粒子径は、300nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましく、30nm以下が最も好ましい。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いた研磨により欠陥が少ない表面を得ることが容易になる。すなわち、砥粒の平均一次粒子径は、10nm以上300nm以下であることが好ましく、15nm以上100nm以下であることがより好ましく、20nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、20nm以上30nm以下であることが最も好ましい。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法から算出した砥粒の比表面積(SA)を基に、砥粒の形状が真球であると仮定して算出することができる。本明細書では、砥粒の平均一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0031】
また、砥粒の平均二次粒子径は、20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、35nm以上であることがさらに好ましい。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨中の抵抗が小さくなり、安定的な研磨が可能になる。また、砥粒の平均二次粒子径は、400nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、70nm以下であることが最も好ましい。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、砥粒の単位質量当たりの表面積が大きくなり、研磨対象物との接触頻度が向上し、研磨速度がより向上する。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、20nm以上400nm以下であることが好ましく、30nm以上250nm以下であることがより好ましく、35nm以上100nm以下であることがさらに好ましく、35nm以上70nm以下であることが特に好ましい。なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えば動的光散乱法により測定することができる。本明細書では、砥粒の平均二次粒子径は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0032】
本発明に係る研磨用組成物において、砥粒の含有量(濃度)は特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%超であることが特に好ましい。また、砥粒の含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%未満であることが特に好ましい。すなわち、砥粒の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がさらに好ましく、0.5質量%超5質量%未満が特に好ましい。このような範囲であれば、コストを抑えながら高い研磨速度が得られ、効率的に加工することができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0033】
(水溶性高分子)
本発明に係る研磨用組成物は、ラクタム構造(環状アミド構造)を有する水溶性高分子を含む。水溶性高分子は、研磨対象物表面に付着し、不均一又は過度なエッチングから研磨対象物表面を保護する。これにより、研磨後の表面品質が向上しうる。また、特に研磨対象物がポリシリコンを含む場合は、ラクタム構造の窒素原子に存在する非共有電子対の求核作用により、ポリシリコンのSi-Si結合の結合間距離が伸長する。これによりSi-Si結合が脆化し、ポリシリコンの研磨が進行しやすくなる。その結果、ポリシリコン膜の段差やディッシングを抑制できる。
【0034】
本明細書中、「水溶性」とは、水(25℃)に対する溶解度が1g/100mL以上であることを意味し、「高分子」とは、重量平均分子量が1,000以上である(共)重合体をいう。重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、具体的には、下記の測定方法により測定される値を採用する。
【0035】
(GPC測定条件)
測定装置:HLC-8320GPC(東ソー)
サンプル濃度:0.01質量%
カラム:TSKgel GMPWXL
検出器:示差屈折計
溶離液:10mMの臭化リチウムをN,N-ジメチルホルムアミドに溶かした溶液
流速:1mL/分
測定温度:40℃
分子量換算:ポリエチレングリコール換算
サンプル注入量:200μL。
【0036】
なお、GPCによって測定することができない場合に限っては、分子式から算出した分子量を重量平均分子量として採用する。
【0037】
水溶性高分子は、N-ビニルラクタム型モノマーに由来する構造単位を、構造単位全体に対して50質量%超の割合で含みうる。水溶性高分子中のN-ビニルラクタム型モノマーに由来する構造単位の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは100質量%(すなわちN-ビニルラクタム型モノマーのホモポリマー)である。
【0038】
N-ビニルラクタム型モノマーとしては、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。中でも、研磨対象物表面の保護と研磨速度向上とのバランスを考慮すると、N-ビニル-2-ピロリドンが好ましい。
【0039】
これらN-ビニルラクタム型モノマーは、1種単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
N-ビニルラクタム型モノマーは、必要に応じて、当該モノマーと共重合可能な他の共重合性モノマー由来の構造単位を含んでいてもよい。
【0041】
他の共重合性モノマーとしては、例えば、N-アクリロイルモルホリン、N-ビニルピペリジン、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルカルバゾール、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-sec-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(tert-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルカルボン酸アミド;N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(1-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の窒素原子含有モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のカルボキシ基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートモノマー;シクロへキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルオキシアルキル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルコキシ基またはオキシアルキレン基を含有する(メタ)アクリレートモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有モノマー;アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等の硫黄原子含有モノマー;エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレン等のオレフィン;スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、アルキルビニルエーテル、ビニルトルエン、ビニルピリジン、イタコン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、ビニルアルコール、アリルアルコール、メチルビニルケトン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン等が挙げられる。
【0042】
これら他の共重合性モノマーは、1種単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0043】
水溶性高分子の好ましい具体例としては、ポリN-ビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルカプロラクタム(PVC)等のホモポリマー;ポリ(1-ビニルピロリドン-co-酢酸ビニル)、ポリ(ビニルピロリドン-co-メタクリルアミド-co-n-ビニルイミダゾール)、ポリ(ビニルピロリドン-co-ビニルアルコール)等のコポリマーが挙げられる。中でも、研磨対象物表面の保護と研磨速度向上とのバランスを考慮すると、ポリN-ビニルピロリドン(PVP)、ポリ(1-ビニルピロリドン-co-酢酸ビニル)がより好ましく、ポリN-ビニルピロリドン(PVP)がさらに好ましい。
【0044】
水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)の下限は、特に制限されないが、1000以上が好ましく、1000超がより好ましく、1500以上がよりさらに好ましく、1500超がさらに好ましく、5000以上が特に好ましく、5000超が最も好ましい。水溶性高分子の重量平均分子量の上限は、特に制限されないが、100000以下が好ましく、100000未満がより好ましく、90000以下がよりさらに好ましく、90000未満がさらに好ましく、80000以下がさらにより好ましく、80000未満が特に好ましく、55000以下が最も好ましい。すなわち、水溶性高分子の重量平均分子量は、1000以上100000以下が好ましく、1000超100000未満がより好ましく、1500以上90000以下がよりさらに好ましく、1500超90000未満がさらに好ましく、5000以上80000以下がさらにより好ましく、5000超80000未満が特に好ましく、5000超55000以下が最も好ましい。上記範囲の重量平均分子量を有する水溶性高分子であれば、溶解性に優れ、研磨対象物表面の保護と研磨速度向上とのバランスが良好である。
【0045】
水溶性高分子の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0046】
水溶性高分子の含有量(濃度)は、研磨用組成物の総質量に対して、0.1ppm以上500ppm以下である。含有量が0.1ppm未満であると、水溶性高分子により得られうる研磨対象物表面の保護効果や研磨速度向上効果が十分でなくなる。含有量が500ppmを超えると、水溶性高分子による保護膜が厚くなりすぎて、水溶性高分子そのものが残渣として基板表面に残存するおそれがある。また、上述の水溶性高分子-ケイ酸イオン複合体の析出物や、水溶性高分子-砥粒複合体が過剰に生成し、後述の表面処理工程において除去しきれないおそれがある。同様の観点から、水溶性高分子の含有量は、0.1ppm以上300ppm以下が好ましく、1ppm以上100ppm以下がより好ましく、5ppm以上70ppm以下がさらに好ましく、10ppm以上50ppm以下が特に好ましい。なお、研磨用組成物が2種以上の水溶性高分子を含む場合には、水溶性高分子の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0047】
(分散媒)
本発明に係る研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含むことが好ましい。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明のより好ましい形態によると、分散媒は水を含む。本発明のさらに好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。上記したように、さらに好ましくは、分散媒は水のみからなる。
【0048】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0049】
(その他の成分)
本発明に係る研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0050】
本発明に係る研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含有しないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、研磨対象物(例えばポリシリコン)の表面を酸化して酸化膜を生じさせ、研磨時間が長くなってしまう虞がある。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H2O2)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含有しないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。したがって、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう酸化剤を実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含される。例えば、研磨用組成物中における酸化剤の濃度は、好ましくは0.001質量%以下、より好ましくは0.0001質量%以下、さらに好ましくは0.00001質量%以下(下限:0質量%)である。
【0051】
(pH)
本発明に係る研磨用組成物のpHは、特に制限されないが、2.0以上12.0以下が好ましく、4.0以上11.0以下がより好ましく、8.0以上11.0以下がさらに好ましい。pHが上記範囲であれば、良好な化学機械研磨が達成できる。なお、研磨用組成物のpHは、後述の実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0052】
本発明に係る研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、pH調整剤を添加してpHを調整してもよい。
【0053】
pH調整剤は酸および塩基のいずれであってもよく、また、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。pH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0054】
pH調整剤として用いられる酸の具体例としては、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸等の有機酸等が挙げられる。
【0055】
pH調整剤として用いられる塩基の具体例としては、例えば、第1族元素の水酸化物または塩、第2族元素の水酸化物または塩、水酸化第4級アンモニウムまたはその塩等が挙げられる。塩の具体例としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0056】
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0057】
(研磨用組成物の製造方法)
本発明に係る研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、水溶性高分子、他の添加剤を、分散媒(例えば、水)中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。
【0058】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0059】
(化学機械研磨)
化学機械研磨に用いる研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0060】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0061】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0062】
<表面処理工程>
本工程では、少なくとも1種のアンモニア(塩)を含む表面処理組成物を用いて前記化学機械研磨工程で得られた研磨済研磨対象物を表面処理する。
【0063】
[表面処理組成物]
本発明に係る表面処理組成物は、少なくとも1種のアンモニア(塩)を含み、必要に応じてその他の成分を含みうる。
【0064】
(アンモニア(塩))
本明細書において「アンモニア(塩)」とは、アンモニア(NH3)およびその塩(アンモニウム塩)を包括的に指す意味である。上述のように、アンモニア(塩)は、表面処理組成物中においてアンモウムイオン(NH4
+)およびアンモニアとして存在し、ラクタム構造を有する水溶性高分子を剥がしやすくする作用を有する。この作用により、水溶性高分子-ケイ酸イオン複合体の析出物や、水溶性高分子-砥粒複合体のような残渣を研磨済研磨対象物の表面から引き剥がすことができると推測される。
【0065】
上記アンモニアの塩(アンモニウム塩)としては、無機酸のアンモニウム塩および有機酸のアンモニウム塩のいずれであってもよい。無機酸のアンモニウム塩としては、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、アミド硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸二水素一アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ジ亜リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫化アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、ホウフッ化アンモニウム等が挙げられる。有機酸のアンモニウム塩としては、例えば、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、シュウ酸二アンモニウム、シュウ酸水素アンモニウム、安息香酸アンモニウム、クエン酸一アンモニウム、クエン酸二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、乳酸アンモニウム、フタル酸アンモニウム、コハク酸アンモニウム、酒石酸一アンモニウム、酒石酸二アンモニウム、アスパラギン酸アンモニウム等が挙げられる。中でも、酢酸アンモニウムが好ましい。
【0066】
これらアンモニア(塩)は、1種単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0067】
本発明に係る表面処理組成物において、アンモニア(塩)の含有量(濃度)は、表面処理組成物の総質量に対して、100ppm以上10000ppm以下である。アンモニア(塩)の含有量が100ppm未満であると、本発明の残渣低減効果が十分に発揮されないおそれがある。一方、アンモニア(塩)の含有量が10000ppmを超えると、研磨済研磨対象物がエッチングされ、良好な研磨状態を維持できないおそれがある。同様の観点から、アンモニア(塩)の含有量は、好ましくは100ppm以上8000ppm以下であり、より好ましくは300ppm以上3000ppm以下である。なお、表面処理組成物が2種以上のアンモニア(塩)を含む場合には、アンモニア(塩)の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0068】
(カリウム化合物)
本発明に係る表面処理組成物は、水酸化カリウムおよびカリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカリウム化合物をさらに含むことが好ましい。表面処理組成物中のカリウム化合物は、上記アンモニア(塩)と同様に、ラクタム構造を有する水溶性高分子を剥がしやすくする作用を有する。この作用により、水溶性高分子-ケイ酸イオン複合体の析出物や、水溶性高分子-砥粒複合体のような残渣を研磨済研磨対象物の表面から引き剥がすことができると推測される。その結果、残渣低減効果がより一層向上されうる。
【0069】
上記カリウム塩は、特に制限されず、カリウムの無機塩、カリウムの有機塩を適宜選択することができる。カリウムの無機塩としては、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、過塩素酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、エチドロン酸カリウム等が挙げられる。カリウムの有機塩としては、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸カリウム等が挙げられる。
【0070】
カリウム化合物の中でも、水溶解時のpHの観点から、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カリウムが好ましく、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムがより好ましい。
【0071】
これらカリウム化合物は、1種単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0072】
本発明に係る表面処理組成物において、カリウム化合物の含有量(濃度)は、表面処理組成物の総質量に対して、100ppm以上10000ppm以下であることが好ましい。カリウム化合物の含有量が100ppm以上であると、残渣低減効果を向上させることができる。一方、カリウム化合物の含有量が10000ppm以下であると、研磨済研磨対象物のエッチングが抑制される。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、前記表面処理組成物は水酸化カリウムおよびカリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカリウム化合物をさらに含み、前記カリウム化合物の含有量は前記表面処理組成物の総質量に対して100ppm以上10000ppm以下である。同様の観点から、カリウム化合物の含有量は、より好ましくは100ppm以上1000ppm以下である。なお、表面処理組成物が2種以上のカリウム化合物を含む場合には、カリウム化合物の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0073】
(分散媒)
本発明に係る表面処理組成物は、各成分を分散するための分散媒を含むことが好ましい。表面処理組成物に含まれる分散媒についての好ましい形態は、研磨用組成物の項目で説明した好ましい形態と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0074】
(他の成分)
本発明に係る表面処理組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、表面処理組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。ただし、本発明に係る表面処理組成物の必須成分以外の成分は、残渣の原因となりうるためできる限り含有しないことが望ましいため、その含有量はできる限り少ないことが好ましく、全く含まないことがより好ましい。他の成分としては、特に制限されないが、例えば、砥粒、防腐剤、還元剤、酸化剤等が挙げられる。
【0075】
(pH)
本発明の表面処理組成物のpHは、8.0以上12.0以下である。pHが8.0以上であると、表面処理組成物中のアンモウムイオン(NH4
+)の存在量が増加する。その結果、残渣の低減効果を向上できる。pHが12.0以下であると、研磨済研磨対象物のエッチングが抑制され、良好な研磨状態を維持できる。同様の観点から、表面処理組成物のpHは、8.5以上11.0以下が好ましく、9.0以上10.5以下がより好ましく、9.0以上10.0以下がさらに好ましい。なお、表面処理組成物のpHは、後述の実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0076】
本発明の表面処理組成物においては、アンモニア(塩)およびカリウム化合物がpH調整剤としての役割も果たす。これらの成分のみだけで所望のpHが得られ難い場合は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、pH調整剤を添加してpHを調整してもよい。表面処理組成物に含まれるpH調整剤についての好ましい形態は、研磨用組成物の項目で説明した好ましい形態と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。但し、研磨用組成物の項目で説明したpH調整剤のうち、アンモニア(塩)およびカリウム化合物に相当するものは、表面処理組成物においてpH調整剤として扱わない。
【0077】
(表面処理組成物の製造方法)
本発明に係る表面処理組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、アンモニア(塩)、必要に応じて添加されるカリウム化合物、他の成分を、分散媒(例えば、水)中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。
【0078】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0079】
(表面処理)
本明細書において、表面処理とは、研磨済研磨対象物の表面における残渣を除去する処理をいい、広義の洗浄を行う処理を表す。本発明の一形態に係る表面処理方法は、表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させる方法により行われる。表面処理は、特に制限されないが、例えば、リンス研磨処理または洗浄処理によって行われることが好ましい。
【0080】
本発明の好ましい一実施形態によれば、表面処理は、リンス研磨処理であることが好ましい。この理由は、詳細は不明であるが、リンス研磨処理において、上記の表面処理組成物による残渣除去効果がより顕著に奏されるからである。
【0081】
本明細書において、リンス研磨処理とは、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物の作用により研磨済研磨対象物の表面上の残渣を除去する処理を表す。リンス研磨処理の具体例としては、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、研磨済研磨対象物を研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置し、研磨済研磨対象物と研磨パッドとを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら、研磨済研磨対象物と、研磨パッドとを相対摺動させる処理が挙げられる。
【0082】
よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、表面処理工程は、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上に設置された研磨済研磨対象物に対して、前記研磨済研磨対象物の少なくとも一方の表面と前記研磨パッドとを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら、前記研磨済研磨対象物と、前記研磨パッドとを相対摺動させて処理することにより行われる、半導体基板の製造方法が提供される。
【0083】
リンス研磨処理は、特に制限されないが、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用して行うことが好ましい。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、表面処理組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。また、化学的機械的研磨とリンス研磨処理とを同じ研磨装置を用いて行う場合、研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加えて、本発明に係る表面処理組成物の吐出ノズルを備えていると好ましい。
【0084】
リンス研磨条件は、特に制限されず、表面処理組成物および研磨済研磨対象物の特性に応じて適切な条件を適宜設定することができる。リンス研磨荷重については、特に制限されないが、一般的には、基板の単位面積当たり0.1psi以上10psi以下であることが好ましく、0.5psi以上8psi以下であることがより好ましく、1psi以上6psi以下であることがさらに好ましい。この範囲であれば、高い残渣除去効果を得つつ、荷重による基板の破損や、表面に傷などの欠陥が発生することをより抑制することができる。なお、1psi=6.9kPaである。定盤回転数およびキャリア回転数は、特に制限されないが、一般的には、それぞれ、10rpm以上500rpm以下であることが好ましく、20rpm以上300rpm以下であることがより好ましく、30rpm以上200rpm以下であることがさらに好ましい。定盤回転数およびキャリア回転数は、同一であっても異なっていてもよいが、定盤回転数がキャリア回転数よりも大きいことが好ましい。なお、1rpm=0.017s-1である。表面処理組成物を供給する方法も特に制限されず、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)を採用してもよい。
【0085】
表面処理組成物の供給量(表面処理組成物の流量)は、研磨済研磨対象物全体が覆われる供給量であればよく、特に制限されないが、一般的には、100mL/min以上5000mL/min以下であることが好ましい。リンス研磨処理時間は、目的とする残渣除去効果が得られるよう適宜設定すればよく特に制限されないが、一般的には、5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
【0086】
表面処理方法は、洗浄処理による方法であってもよい。本明細書において、洗浄処理とは、研磨済研磨対象物が研磨定盤(プラテン)上から取り外された状態で行われる、主に表面処理組成物による化学的作用により研磨済研磨対象物の表面上の残渣を除去する処理を表す。洗浄処理の具体例としては、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、または、最終研磨に続いてリンス研磨処理を行った後、研磨済研磨対象物を研磨定盤(プラテン)上から取り外し、研磨済研磨対象物を表面処理組成物と接触させる処理が挙げられる。表面処理組成物と研磨済研磨対象物との接触状態において、研磨済研磨対象物の表面に摩擦力(物理的作用)を与える手段をさらに用いてもよい。
【0087】
洗浄処理方法、洗浄処理装置、および洗浄処理条件としては、特に制限されず、公知の方法、装置、条件等を適宜用いることができる。洗浄処理方法としては、特に制限されないが、例えば、研磨済研磨対象物を表面処理組成物中に浸漬させ、必要に応じて超音波処理を行う方法や、研磨済研磨対象物を保持した状態で洗浄ブラシと研磨済研磨対象物とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら研磨済研磨対象物の表面をブラシで擦る方法等が挙げられる。
【0088】
<途中水洗工程、最終水洗工程>
本発明に係る表面処理工程の前、後またはその両方において、水による洗浄を行ってもよい。本明細書において、表面処理工程の前の水による洗浄を「途中水洗工程」とも称し、表面処理工程の後の水による洗浄を「最終水洗工程」とも称する。途中水洗工程および最終水洗工程における水洗方法は、特に制限されないが、前述の化学機械研磨工程や表面処理工程で用いるような研磨装置内にて水洗を行うことが好ましい。途中水洗工程は、例えば、研磨装置にて化学機械研磨工程を行った後、研磨対象物を研磨定盤(プラテン)に固定したまま、同じパッドを用いて、水を供給しながら研磨を行うことで水洗する方法が挙げられる。また、化学機械研磨工程とは別の研磨定盤(プラテン)上で、別のパッドを用いて、水を供給しながら、研磨を行うことで水洗してもよい。最終研磨工程は、例えば、研磨装置内部のブラシ洗浄部分で行われうる。この際、研磨対象物にブラシを押し当てて水洗してもよいし、押し当てずに水洗しても構わない。その後、研磨済研磨対象物の表面に付着した水滴を、スピンドライヤやエアブロー等により払い落として乾燥させてもよい。
【0089】
ただし、化学機械研磨工程で用いる研磨用組成物のpHがアルカリ性領域(pH8.0以上12.0以下)である場合は、上述のように、研磨対象物に含まれるケイ素(Si)がケイ酸イオンとして研磨用組成物中に溶出する。ケイ酸イオンはpHが7.5以下に低下すると、ケイ酸塩として析出する。これにより、上述の水溶性高分子-ケイ酸イオン複合体も塩として析出する。しかしながら、pHが7.5より高い状態を維持したまま表面処理工程を行うことにより、水溶性高分子-ケイ酸イオン複合体の析出物が生じるのを防ぎ、水溶性高分子-ケイ酸イオン複合体の状態のまま容易に基板表面から除去することができる。その結果、後の表面処理工程における残渣の低減効果がより一層向上できる。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、前記研磨用組成物のpHが8.0以上12.0以下であり、前記化学機械研磨工程と、前記表面処理工程との間に、前記研磨済研磨対象物の表面の液性がpH7.5以下となる工程を有しない、半導体基板の製造方法が提供される。より具体的には、前記化学機械研磨工程と、前記表面処理工程との間に、水洗工程を含まないことが好ましい。
【0090】
さらに、本発明は、半導体基板の製造方法により得られる、半導体基板を提供する。
【実施例0091】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0092】
<砥粒の粒子径>
砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒の平均二次粒子径は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UT151により測定した。
【0093】
<研磨用組成物および表面処理組成物のpH>
研磨用組成物(液温:25℃)および表面処理組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA(登録商標))によりそれぞれ測定した。
【0094】
[実施例1]
《研磨用組成物の調製》
砥粒としてコロイダルシリカ(平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm)を0.5質量%、水溶性高分子としてポリビニルピロリドン(PVP)(重量平均分子量(Mw):8000)を0.1ppmの最終濃度とそれぞれなるように、分散媒である純水に室温(25℃)で加え、混合液を得た。その後、混合液に、pH調整剤として水酸化カリウム(KOH)を、pHが11となるように添加し、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。
【0095】
《表面処理組成物の調製》
添加剤1として濃度29質量%のアンモニア水をアンモニア(NH3)換算で300ppmの最終濃度となるように、分散媒である純水に室温(25℃)で加え、室温(25℃)で30分攪拌混合し、表面処理組成物を調製した。
【0096】
《化学機械研磨工程》
上記研磨用組成物を用いて下記の研磨装置および研磨条件にて下記の研磨対象物を研磨した。
【0097】
(研磨装置および研磨条件)
研磨装置:アプライド・マテリアルズ製200mm用CMP片面研磨装置 Mirra(登録商標)
研磨パッド:ニッタ・デュポン株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2psi(1psi=6894.76Pa)
研磨定盤回転数:103rpm
ヘッド(キャリア)回転数:97rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200mL/分
研磨時間:下記研磨対象物(1)は30秒。下記研磨対象物(2)は、窒化ケイ素膜の全面が露出するまで研磨した。
【0098】
(研磨対象物)
(1)シリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)の表面に、厚さ5000Åのポリシリコン(Poly-Si)膜を形成したもの。
(2)シリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)の表面に、8インチのPoly-Siパターンを形成したもの。
【0099】
なお、Poly-Siパターンは以下の3層からなる。
1層目は、シリコンウェーハの上に形成された厚さ1000ÅのプラズマTEOS-SiO膜である。
2層目は、1層目の上に形成されたセマテックの854パターン が施された厚さ500ÅのSiN膜である。
3層目は、2層目の上に形成された厚さ2000ÅのPoly-Si膜である。
【0100】
図1は、上記(3)の研磨対象物を模式的に表した断面図である。
図1に示すように、研磨対象物10は、シリコンウェーハ1の上に、TEOS-SiO膜2、パターンが施されたSiN膜3、Poly-Si膜4の3層が積層されている。
図1中、H1はライン幅を示し、H2はスペース幅を示す。また、
図1中、T1はSiN膜3の厚さを示し、T2はTEOS-SiO膜2の厚さ(SiN膜3のライン上におけるTEOS-SiO膜2の表面からSiN膜3の表面までの高さ)を示す。
【0101】
《途中水洗工程》
上記化学機械研磨工程を経た研磨済研磨対象物を、株式会社SCREEN ホールディングス社製 枚葉洗浄装置 AS-2000にて、ポリビニルアルコール(PVA)ブラシを用いて脱イオン水(DIW)を掛けながら、60秒間洗浄した。その後、30秒間スピンドライヤにて乾燥させた。なお、洗浄後の研磨済研磨対象物表面の液性はpH7.5以下であった。
【0102】
《表面処理工程》
上記水洗工程を経た研磨済研磨対象物を、上記表面処理組成物を用いて下記の表面処理研磨装置および研磨条件にて下記の研磨対象物を研磨した。
【0103】
(表面処理装置および表面処理条件)
研磨装置:アプライド・マテリアルズ製200mm用CMP片面研磨装置 Mirra
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:1.0psi(1psi=6894.76Pa)
研磨定盤回転数:73rpm
ヘッド(キャリア)回転数:67rpm
表面処理組成物の供給:掛け流し
表面処理組成物供給量:200mL/分
表面処理時間:30秒間。
【0104】
《最終水洗工程》
上記表面処理工程を経た表面処理済研磨対象物を、株式会社SCREEN ホールディングス社製 枚葉洗浄装置 AS-2000にて、ポリビニルアルコール(PVA)ブラシを用いて脱イオン水(DIW)を掛けながら、60秒間洗浄した。その後、30秒間スピンドライヤにて乾燥させた。
【0105】
[実施例2~16、比較例1~5]
PVPの重量平均分子量(Mw)および量、pH調整剤の種類、研磨用組成物のpH、途中水洗工程の有無、添加剤1の種類および量、添加剤2の種類および量、表面処理組成物のpHを、下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~16、および比較例1~5を行った。なお、下記表1において「-」と表示されているものは、その剤を含んでいないことを示す。なお、実施例9はpH調整剤として硝酸(HNO3)を用い、濃度60質量%の硝酸水溶液を表1の最終濃度となるように分散媒である純水に添加した。実施例7は添加剤1として酢酸アンモニウムを用い、濃度99質量%の酢酸アンモニウムを表1の最終濃度となるように分散媒である純水に添加した。実施例4および6は途中水洗工程を含まない例であるが、化学機械研磨工程と表面処理工程との間の研磨済研磨対象物表面の液性はpH7.5超であった。
【0106】
<評価>
最終水洗工程後の各表面処理済研磨対象物について、Si含有残渣数および研磨状態を下記の方法で評価した。
【0107】
(Si含有残渣数)
上記研磨対象物(1)の各表面処理済研磨対象物について、0.05μm以上の残渣数を測定した。残渣数の測定にはKLA TENCOR社製SP-2を使用した。測定は、表面処理済研磨対象物の片面の外周端部から幅5mmの部分を除外した残りの部分について測定を行った。
【0108】
次に、各表面処理済研磨対象物について、Si含有残渣数を測定した。Si含有残渣数の測定には、株式会社日立ハイテク製Review SEM RS6000を使用し、SEM観察によって測定した。まず、SEM観察にて、表面処理済研磨対象物の片面の外周端部から幅5mmの部分を除外した残りの部分に存在する残渣を100個サンプリングした。そして、サンプリングした100個の残渣の中からSEM観察にてSi含有残渣(水溶性高分子-ケイ酸イオン複合体の析出物、水溶性高分子-砥粒複合体)を判別し、その個数を確認することで、残渣中のSi含有残渣の割合(%)を算出した。そして、上述の0.05μm以上の残渣数(個)と、残渣中のSi含有残渣の割合(%)との積を、Si含有残渣数(個)として算出した。
【0109】
なお、Si含有残渣であるか否かは、上記Review SEMに付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により測定されるSi(ケイ素)由来のピークおよびC(炭素)由来のピークを基準に判別した。この2種のピークを持つものとしては、例えば、水溶性高分子-ケイ酸イオン複合体の析出物、水溶性高分子-砥粒複合体などが挙げられる。詳細には、前記の2種のピークがEDXにて測定された場所についてReview SEMにて写真観察を行い、砥粒が介在していないもの(観察される砥粒の大きさに満たないもの)を水溶性高分子-ケイ酸イオン複合体の析出物とし、砥粒が介在するもの(観察される砥粒の大きさ以上のもの)を水溶性高分子-砥粒複合体としてカウントし、その合計個数をSi含有残渣数とした。
【0110】
(研磨状態)
上記研磨対象物(2)の各表面処理済研磨対象物について、窒化ケイ素膜とポリシリコン膜とのディッシング量(ディッシング深さ)を原子間力顕微鏡(INSIGHT-CAP、ブルカージャパン株式会社製)を用いて窒化ケイ素100μm、ポリシリコン100μmの配線幅部分(
図1におけるH1、H2の部分)を測定し、下記の判定基準により判定した。
【0111】
判定基準
(判定):(ディッシング量)
良好:400Å未満
不良:400Å以上。
【0112】
評価結果を下記表1に示す。
【0113】
【0114】
表1から明らかなように、実施例1~16の方法によると、良好な研磨状態を維持しつつ、残渣数(Si含有残渣数)を低減できることが分かった。中でも、途中水洗工程を含まない実施例4および6の方法は、残渣数の低減効果がより一層優れていた。また、添加物2としてカリウム化合物(水酸化カリウム)を含む実施例5~7は残渣数の低減効果がより一層優れていた。
【0115】
一方、比較例1の方法は、研磨用組成物における水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)の含有量が0.1ppm未満の例であるが、当該方法によると、化学機械研磨工程においてディッシングが生じてしまうため、実用に適さない。比較例5の方法は、研磨用組成物における水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)の含有量が500ppmを超える例であるが、当該方法によると、残渣数を十分に低減することができない。
【0116】
比較例2および3の方法は、表面処理組成物においてアンモニア(塩)(アンモニア)の含有量が100ppm未満の例であるが、当該方法によると、残渣数を十分に低減することができない。比較例4の方法は、表面処理組成物においてアンモニア(塩)(アンモニア)の含有量が10000ppmを超える例であるが、当該方法によると、表面処理工程においてポリシリコンがエッチングされることにより、ディッシングが生じてしまうため、実用に適さない。