(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154554
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/06 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
H02K1/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057647
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】内山 翔
(72)【発明者】
【氏名】岩本 薫
(72)【発明者】
【氏名】光石 暁彦
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA30
5H601CC11
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601EE18
5H601FF02
5H601FF15
5H601FF17
5H601GA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】風損を抑制した回転電機を提供する。
【解決手段】ロータ20とステータ10との間にギャップを有する回転電機1であって、ロータ20の外半径をri、ステータ10の内半径をro、ギャップにおける流体の動粘性係数をv、ロータ20の回転数をp、許容度合をaMAXとした場合、下記の式に基づいて、ロータ20及びステータ10のギャップに面する表面の最大高さδMAXを決定する
ことで設計されることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の軸線の周りに形成される円筒内管と円筒外管とから構成され、前記円筒内管と前記円筒外管との間に隙間を有する回転電機であって、
前記円筒内管の外半径をr
i、前記円筒外管の内半径をr
o、前記隙間における流体の動粘性係数をv、前記円筒内管又は前記円筒外管のうち回転管の回転数をp、許容度合をa
MAXとした場合、下記の式に基づいて、前記円筒内管及び前記円筒外管の前記隙間に面する表面の最大高さδ
MAXを決定する
【数1】
ことで設計されることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジアルギャップ型のモータ等の回転電機では、ロータとステータが回転軸の径方向に対面し、ロータとステータとの間には隙間(ギャップ)が形成される。このギャップには、空気等の流体が存在する。ここで、ロータのギャップに面する表面とステータのギャップに面する表面を、円筒に近い滑らかな状態にすることにより、空気抵抗を下げて風損を抑制することができる。ここで、回転電機のステータに存在するスロット開口溝をスペーサ等で埋めることにより、表面の凹凸をなくし、風損を低減するものがある(例えば、特許文献1参照)。スロット開口溝のみを埋めてステータの内径側を円筒面とすることは難しいため、特許文献1では、樹脂を注入してモールドすることで樹脂体のスペーサを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には風損の抑制のためにギャップに面するロータ表面及びステータ表面を滑らかな状態とする場合に、具体的に、どの程度滑らかにするかについては記載がされていない。この場合、実際に設計する場合に、ギャップに面するロータ表面及びステータ表面をどの程度滑らかにすればよいのかが不明確であった。
【0005】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであって、風損抑制のためのロータ表面及びステータ表面を具体的に設計した回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様である回転電機は、同一の軸線の周りに形成される円筒内管と円筒外管とから構成され、前記円筒内管と前記円筒外管との間に隙間を有する回転電機であって、
前記円筒内管の外半径をr
i、前記円筒外管の内半径をr
o、前記隙間における流体の動粘性係数をv、前記円筒内管又は前記円筒外管のうち回転管の回転数をp、許容度合をa
MAXとした場合、下記の式に基づいて、前記円筒内管及び前記円筒外管の前記隙間に面する表面の最大高さδ
MAXを決定する
【数1】
ことで設計されることを特徴とする回転電機である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様の回転電機によれば、風損抑制のためのロータ表面及びステータ表面を具体的に設計した回転電機となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の回転電機の一例を示す図である。
【
図3】回転電機設計方法を実現するための回転電機設計装置の概念図である。
【
図4】許容度合を設定するための例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。実施形態では説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造や要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面に示す各要素の形状、寸法などは模式的に示したもので、実際の形状、寸法などを示すものではない。
【0010】
図1を用いて本実施形態に係る回転電機の設計方法を適用し得る回転電機1の一例の構成を説明する。
図1は、本実施形態の回転電機1の一例を示す図である。回転電機1は、コイル12が巻回されたステータ10と、永久磁石(不図示)が配置されたロータ20と、軸線Xに沿ってロータ20の鉄心に嵌入されたモータシャフトと、を備える。
【0011】
本実施形態の回転電機1は、円筒状のステータ10の内径側に円筒状のロータ20が配置される、インナーロータ型の回転電機である。回転電機1は、二重円筒管構造であり、ステータ10とロータ20は、同一の軸線Xの周りに、いずれも軸線Xの軸方向に延びるように構成される。
【0012】
本実施形態の回転電機1は、ラジアルギャップ型の回転電機1である。すなわち、円筒外管たるステータ10の内径側と円筒内管たるロータ20の外径側との間に径方向のギャップ(隙間)が形成されている。当該ギャップには、回転電機1内部の空気等の流体が流れる。この構造により、回転電機1では、ステータ10が固定されるとともに、円筒内管のロータ20が軸線Xを中心に回転する。
【0013】
ステータ10は、コイル12を収容するスロット11を有する。スロット11は、ステータ10の周方向に等間隔に配置されている。本実施形態では、ステータ10に24個のスロット11が形成されているものを例示したが、スロット数はこれに限るものではない。
【0014】
図2を用いて、スロット11の詳細構成を説明する。
図2は、
図1のA部分の構成を示す拡大図である。本実施形態のスロット11には、ステータ10の内径面10aにおいて開口する開口部11aが形成される。開口部11aは、内径面10aにおいて、ステータ10の周方向に所定の幅wで開口し、所定の溝の深さdを有する。本実施形態では、開口部11aの溝の深さdは、内径面10aにおいて開口する位置からプレート14までの長さをいう。しかしながら、プレート14が必須ではない場合には、開口部11aの側面13の高さを溝の深さdと考えてもよい。
【0015】
図3を用いて、本実施形態の回転電機の設計方法を実現するための装置構成を説明する。回転電機設計装置50は、入力部51と、入力部51から入力された情報に基づいて設計を行うコンピュータCと、コンピュータCにより得られた結果を表示する表示部56とを有する。
【0016】
入力部51は、キーボード等の入力手段である。入力部51に対して、ユーザ等が回転電機1のステータ10やロータ20に関する情報を入力する(入力工程)。なお、入力部51に対する入力は、ユーザによる手動での入力でなくともよく、外部からデータのみを入力する方法でもよい。入力部51にて入力された情報は、コンピュータCに伝達される。
【0017】
コンピュータCは、演算処理を行うCPU52を有する。CPU52は、入力された情報の演算処理を行う演算処理部53と、コンピュータC及びコンピュータCに接続される各部の制御を行う制御部54を有する。コンピュータCは、プログラムや入力データ等を記憶する記憶部55を有する。記憶部55は、ROMやRAM等、CPU52の作業領域となるメモリを有する。この構成により、CPU52と記憶部55に格納したプログラムとの協働動作が行われて演算処理部53による演算がなされる(演算処理工程)。これにより、後に詳細に説明する回転電機設計方法がコンピュータCで実現される。コンピュータCで得られた回転電機の設計情報は、表示部56に表示(表示工程)されることにより、ユーザが認識できる。
【0018】
次に、本実施形態における回転電機の設計方法について詳細に説明する。本実施形態では、同一の軸線Xの周りに形成される円筒外管であるステータ10と円筒内管であるロータ20とから構成される上述の回転電機1をモデルとして回転電機設計方法を説明する。
【0019】
本実施形態の回転電機の設計方法では、回転電機1に関する情報を入力部51から入力し、コンピュータCが、記憶部55に格納されている下記の数式に関するプログラムを用いて演算処理を行う。これにより、ギャップに面するステータ10及びロータ20の最大高さδMAXを設計する。
【0020】
具体的には、円筒内管としてのロータ20の外半径をri[m]、円筒外管としてのステータ10の内半径をro[m]、ギャップにおける流体の動粘性係数をv[m2/S]、回転管としてのロータ20の回転数をp[min-1]、許容度合をaMAX[-](後述)とした場合、下記の式に基づいて、ステータ10及びロータ20の最大高さδMAXを決定する。最大高さδMAXは、本実施形態のステータ10の場合、ステータ10のスロット11の開口部11aの溝の深さdと同様である。
【0021】
【0022】
上式では、ロータ20の回転数pによって最大高さδMAXを求める式を変えている。すなわち、高回転数の場合は、低回転数の場合よりも大きい値となるようにしている。これは、ロータの回転数によってギャップにおいて形成される作動流体の渦の大きさが変わるためである。
【0023】
次に、上式の許容度合aMAXの設定方法について説明する。許容度合aMAXを基礎づけるパラメータaは、風損の抑制度合いとギャップに面する表面の凹凸の最大高さδMAXとを関係づけるパラメータとなる。
【0024】
図4は、許容度合a
MAXを設定するための例を示すグラフである。
図4では、パラメータaとギャップにおける流体摩擦トルクの変化率R
Tを表す。なお、本図を求めるために使用した数値は、ロータ20の外半径r
i=0.0788[m]、ステータ10の内半径r
o=0.081[m]、スロット11の開口部11aの幅w=2.8[°]、スロット11の数=24、である。
【0025】
図4に示すように、流体摩擦トルクの変化率R
Tの変化、つまり風損の変化は、パラメータaによって示すことができる。
図4のグラフに示すように、パラメータaの値が100以上において流体摩擦トルクの変化率R
Tの変化がおおよそないと認められる場合、許容度合a
MAXを100とする。許容度合a
MAX=100と決めた場合、ギャップに面する表面の凹凸の最大高さδ
MAXは、次の表のように表すことができる。
【0026】
【0027】
なお、本実施形態では、許容度合aMAXを100としたが、これに限るものではない。許容度合aMAXは、設計する回転電機の特性や必要性に応じて、ユーザが適宜設定することができる。
【0028】
以上のように、本実施形態によれば、パラメータaを用いて許容度合aMAXを設定することで、ギャップに面する表面の凹凸の最大高さδMAXを容易に求めることができる。また、最大高さδMAXは、ロータの回転数が低回転数の場合と高回転数の場合を異ならせるようにしている。よって、この回転電機設計方法に基づいて回転電機を設計することで、風損抑制のためのロータ表面及びステータ表面を具体的に設計した回転電機を提供し得る。
【0029】
また、本実施形態に記載の回転電機設計方法に基づいて回転電機を設計することで、回転電機におけるロータ表面及びステータ表面が風損を抑制しうる構成となる。すなわち、回転電機を構成する場合に、ステータ10及びロータ20のギャップに面する表面の凹凸を最大高さδMAX以下に収めることで、風損を防ぐことができる。具体的に、ギャップに面する表面の凹凸を最大高さδMAX以下に収めるためには、例えば、スロット11の開口部11aを形成する場合の型の形状を調整したり、開口部11aを埋めるための部材を開口部11aに挿入したりすることを行うが、これに限るものではない。
【0030】
また、本実施形態に記載の回転電機設計方法をプログラム化することで、コンピュータにて実行させることとすれば、コンピュータを用いて、風損を抑制し得る回転電機を設計することができる。
【0031】
前述の実施形態では、回転電機1としてインナーロータ型の構成を例示して説明したが、これに限るものではなく、二重円筒管構造であれば、上述の回転電機設計方法を適用して回転電機を構成することができる。例えば、回転電機がアウターロータ型の構成であって、円筒外管をロータとし、円筒内管をステータとするものについても、上述の回転電機設計方法を適用して回転電機を構成することができる。
【0032】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0033】
1…回転電機、10…ステータ、10a…内径面、11…スロット、11a…開口部、12…コイル、13…側面、14…プレート、20…ロータ、50…回転電機設計装置、51…入力部、52…CPU、53…演算処理部、54…制御部、55…記憶部、56…表示部、C…コンピュータ