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特開2022-154583混合セメント組成物、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154583
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】混合セメント組成物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20221005BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20221005BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20221005BHJP
   C04B 18/10 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/14 B
C04B14/28
C04B18/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057688
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】後藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB23
4G112PA10
4G112PA26
4G112PB11
(57)【要約】
【課題】混合材の配合量を増加させることによって環境負荷低減に寄与し、かつ優れた強度を発揮し得る混合セメント組成物、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本開示の一側面は、セメントクリンカ、石膏、石灰石、及び、無機粉末を含み、上記石灰石及び上記無機粉末の合計の含有量は5質量%超20質量%以下であり、上記無機粉末の含有量は、上記石灰石及び前記無機粉末の合計量を基準として、0.1~90質量%であり、上記無機粉末の含有成分が下記式(1)を満たす、混合セメント組成物を提供する。
[(CaO)-(f-CaO)]/[(SiO)+(Al)]≧0.20 式(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカ、石膏、石灰石、及び、無機粉末を含み、
前記石灰石及び前記無機粉末の合計の含有量は5質量%超20質量%以下であり、
前記無機粉末の含有量は、前記石灰石及び前記無機粉末の合計量を基準として、0.1~90質量%であり、
前記無機粉末の含有成分が下記式(1)を満たす、混合セメント組成物。
[(CaO)-(f-CaO)]/[(SiO)+(Al)]≧0.20 式(1)
(式(1)中、(CaO)、(SiO)、(Al)は、それぞれ無機粉末中のCaO含有量[質量%]、SiO含有量[質量%]、Al含有量[質量%]を示し、(f-CaO)は無機粉末中の遊離酸化カルシウム量[質量%]を示す。)
【請求項2】
前記無機粉末における[(CaO)-(f-CaO)]の値が40質量%未満である、請求項1に記載の混合セメント組成物。
【請求項3】
前記無機粉末のMgO含有量が4.0質量%未満である、請求項1又は2に記載の混合セメント組成物。
【請求項4】
前記無機粉末が燃焼灰を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の混合セメント組成物。
【請求項5】
前記燃焼灰がバイオマス燃焼灰を含有する、請求項4に記載の混合セメント組成物。
【請求項6】
前記無機粉末のブレーン比表面積が3000cm/g以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の混合セメント組成物。
【請求項7】
下記式(1)を満たす無機粉末を選別する選別工程と、
セメントクリンカ、石膏、石灰石、及び、前記無機粉末を含む原料を、前記石灰石及び前記無機粉末の合計の配合量が5質量%超20質量%以下となり、前記無機粉末の配合量が前記石灰石及び前記無機粉末の合計量を基準として0.1~90質量%となるように、混合する混合工程と、を有する混合セメント組成物の製造方法。
[(CaO)-(f-CaO)]/[(SiO)+(Al)]≧0.20 式(1)
(式(1)中、(CaO)、(SiO)、(Al)は、それぞれ無機粉末中のCaO含有量[質量%]、SiO含有量[質量%]、Al含有量[質量%]を示し、(f-CaO)は無機粉末中の遊離酸化カルシウム量[質量%]を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、混合セメント組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントに添加される混合材として、石灰石は入手しやすく、安価であるため、広く利用されている。環境への配慮から、石灰石に代えて廃棄物や産業副産物を混合材として用いることによって天然資源である石灰石の使用量を削減することが行われている。例えば、普通ポルトランドセメントに添加される混合材(少量混合成分)として、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム等の産業副産物が利用されている。なお、普通ポルトランドセメントへ添加される混合材は、JIS規格によってその配合量は5質量%以下と定められている。
【0003】
上述の高炉スラグ、フライアッシュ、及びシリカフュームに加えて、その他の廃棄物や産業副産物をセメント混合材として利用することができれば、さらなる環境負荷の低減が可能であり、循環型社会の形成に寄与することができる。これまで混合材としての利用実績が少ない無機粉末としては、例えば、バイオマス燃料、バイオマス廃棄物、一般ごみを燃焼した際に発生する燃焼灰が挙げられる。
【0004】
特に近年、再生可能エネルギーとして、バイオマス燃料を使用した発電が増加している。木質バイオマスやペーパースラッジ等の廃棄物や産業副産物をバイオマス燃料として利用することで、環境負荷を低減できる(例えば、特許文献1)。その際に発電所から排出される燃焼後の灰分(バイオマス燃焼灰)は、産業廃棄物として多く排出されており、その有効利用が望まれている。バイオマス燃焼灰はセメント原料としてリサイクルされているが、実際にはクリンカ焼成時の原料として投入されており、セメントの混合材としての利用はほとんど検討されていない。これらの燃焼灰をセメント分野で利用拡大できれば、環境負荷の低減に大きく寄与する。
【0005】
また地球温暖化防止及び低炭素化の観点から、製造時のCO排出量の多いセメントクリンカに代えて、セメント組成物における混合材の含有量を増加させることも望まれている。例えば、低炭素化を推進する試みとして、製造量が多い普通ポルトランドセメントの混合材成分を増量させた場合を想定し、混合材を5質量%以上添加した配合についての検討が行われている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-122550号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中口歩香他、“少量混合成分を増量したセメントの品質評価”、セメント技術大会講演要旨、2018、p.270-271
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、混合材の添加量が5質量%を超える場合、長期強度が低下する可能性が高まることが知られている。例えば、石灰石は国内では入手しやすく、セメントの混合材及び少量混合成分として広く利用されているものの、10質量%程度まで添加量を増やすと、長期強度の低下を招き得る(非特許文献1)。
【0009】
また、特許文献1には、バイオマス燃焼灰を有効利用するための方法が開示されているが、セメント添加材としての配合やどのような化学成分の灰が適しているかについては記載されていない。
【0010】
反応性の低い混合材を利用した場合には圧縮強度が低下するため、産業副産物の混合材の中でもセメント添加時の反応性に優れた混合材を選定し、強度発現性に優れたセメント組成物を製造する方法が望まれる。
【0011】
本開示は、混合材の配合量を増加させることによって環境負荷低減に寄与し、かつ優れた強度を発揮し得る混合セメント組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一側面は、セメントクリンカ、石膏、石灰石、及び、無機粉末を含み、上記石灰石及び上記無機粉末の合計の含有量は5質量%超20質量%以下であり、上記無機粉末の含有量は、上記石灰石及び上記無機粉末の合計量を基準として、0.1~90質量%であり、上記無機粉末の含有成分が下記式(1)を満たす、混合セメント組成物を提供する。
[(CaO)-(f-CaO)]/[(SiO)+(Al)]≧0.20 式(1)
(式(1)中、(CaO)、(SiO)、(Al)は、それぞれ無機粉末中のCaO含有量[質量%]、SiO含有量[質量%]、Al含有量[質量%]を示し、(f-CaO)は無機粉末中の遊離酸化カルシウム量[質量%]を示す。)
【0013】
上記混合セメント組成物は、上記式(1)の要件を満たす無機粉末を所定の含有量で含むことによって、5質量%以上の添加であることで従来の普通ポルトランドセメントより低炭素化に貢献しつつも、優れた強度を発現し得る。
【0014】
上記無機粉末における[(CaO)-(f-CaO)]の値が40質量%未満であってよい。
【0015】
上記無機粉末のMgO含有量が4.0質量%未満であってよい。
【0016】
上記無機粉末が燃焼灰を含有してよい。
【0017】
上記燃焼灰がバイオマス燃焼灰を含有してよい。燃焼灰がバイオマス燃焼灰を含むことで、混合セメント組成物の物性の調整がより容易である。
【0018】
上記無機粉末のブレーン比表面積が3000cm/g以上であってよい。
【0019】
本開示の一側面は、下記式(1)を満たす無機粉末を選別する選別工程と、セメントクリンカ、石膏、石灰石、及び、上記無機粉末を含む原料を、上記石灰石及び上記無機粉末の合計の配合量が5質量%超20質量%以下となり、上記無機粉末の配合量が上記石灰石及び上記無機粉末の合計量を基準として0.1~90質量%となるように、混合する混合工程と、を有する混合セメント組成物の製造方法を提供する。
[(CaO)-(f-CaO)]/[(SiO)+(Al)]≧0.20 式(1)
(式(1)中、(CaO)、(SiO)、(Al)は、それぞれ無機粉末中のCaO含有量[質量%]、SiO含有量[質量%]、Al含有量[質量%]を示し、(f-CaO)は無機粉末中の遊離酸化カルシウム量[質量%]を示す。)
【0020】
上記混合セメント組成物の製造方法では、上記式(1)の要件を満たす無機粉末を選別して、所定の割合となるように配合することによって、上述のような5質量%以上の添加であっても、従来のセメント組成物と同等以上の優れた強度を発現し得る混合セメント組成物を製造できる。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、混合材の配合量を増加させることによって環境負荷低減に寄与し、かつ優れた強度を発揮し得る混合セメント組成物、及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。なお、以下の説明では、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味する。
【0023】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0024】
混合セメント組成物の一実施形態は、セメントクリンカ、石膏、石灰石、及び、無機粉末を含む。当該混合セメント組成物において、上記石灰石及び上記無機粉末の合計の含有量は5質量%超20質量%以下となっており、従来の混合セメント組成物と比較して混合材の含有量が多くなっている。
【0025】
セメントクリンカは、例えば、普通セメントクリンカ、早強セメントクリンカ、中庸熱セメントクリンカ、低熱セメントクリンカ、及び油井セメントクリンカ等が挙げられる。セメントは、入手のしやすさ及び初期材齢強度をより向上させる観点から、好ましくは普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントの少なくとも一方を含み、より好ましくは普通ポルトランドセメントを含み、普通ポルトランドセメントであってもよい。
【0026】
セメントクリンカはCS、CS、CA、CAFを含み、それぞれの含有量をBogue式によって算出することができる。Bogue式とは、化学組成の含有比率からセメントクリンカ中の主要鉱物の含有率を算定する式として広く用いられる式である。以下に示すBogue式を用いることによって、セメントクリンカ中のケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2、Sで示す。)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2、Sで示す。)、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al3、Aで示す。)、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al、CAで示す。)、及び鉄アルミン酸四カルシウム(4CaO・Al・Fe3、AFで示す。)の含有量を算出することができる。化学式は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」による化学分析値が示す各化合物の含有比率(質量%)を表す。
【0027】
<Bogue式>
S[質量%]=(4.07×CaO[質量%])-(7.60×SiO[質量%])-(6.72×Al[質量%])-(1.43×Fe[質量%])-(2.85×SO[質量%])
S[質量%]=(2.87×SiO[質量%])-(0.754×CS[質量%])
A[質量%]=(2.65×Al[質量%])-(1.69×Fe[質量%])
AF[質量%]=3.04×Fe[質量%]
【0028】
セメントクリンカ中のCS量は、好ましくは30.0~70.0質量%であるが、より好ましくは45.0~66.0質量%であり、更に好ましくは50.0~63.0質量%であり、更により好ましくは55.0~61.5質量%であり、特に好ましくは58.0~60.0質量%である。CS量の下限値を上記範囲内とすることによって、セメント組成物の硬化における初期強度をより向上させることができる。またCS量の上限値を上記範囲内とすることによって、セメント組成物の硬化時における発熱をより抑制することができる。
【0029】
セメントクリンカ中のCS量は、好ましくは5.0~65.0質量%であるが、より好ましくは10.0~55.0質量%であり、更に好ましくは12.0~30.0質量%であり、更により好ましくは15.0~25.0質量%であり、特に好ましくは17.0~20.0質量%である。CS量の下限値を上記範囲内とすることによって、セメント組成物の硬化における長期強度をより向上させることができる。またCS量の上限値を上記範囲内とすることによって、セメント組成物の硬化における初期強度をより向上させることができる。
【0030】
セメントクリンカにおけるCA量の下限値は、好ましくは7.0質量%以上であるが、より好ましくは8.0質量%以上であり、更に好ましくは8.5質量%以上であり、更により好ましくは9.0質量%以上であり、特に好ましくは9.3質量%以上である。CA量の下限値を上記範囲内とすることによって、セメントクリンカ原料となる石炭灰等の廃棄物・副産物利用量を増加させたセメント組成物を製造することができる。セメントクリンカにおけるCA量の上限値は、好ましくは13.0質量%以下であるが、より好ましくは12.0質量%以下であり、更に好ましくは11.0質量%以下であり、更により好ましくは10.5質量%であり、特に好ましくは10.3質量%以下である。CA量の上限値を上記範囲内とすることによって、エトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HOで表される化合物)の再生成を抑制することができ、またセメント組成物の硬化時における断熱温度上昇の増加をより低減することができる。
【0031】
セメントクリンカにおけるCAF量の下限値は、好ましくは7.0質量%以上であるが、より好ましくは8.0質量%以上であり、更に好ましくは9.0質量%以上であり、更により好ましくは9.5質量%以上であり、特に好ましくは9.8質量%以上である。CAF量の下限値を上記範囲内とすることによって、セメントクリンカ原料となる石炭灰等の廃棄物・副産物利用量を増加させたセメント組成物を製造することができる。セメントクリンカにおけるCAF量の上限値は、好ましくは14.0質量%以下であるが、より好ましくは13.0質量%以下であり、更に好ましくは12.0質量%以下であり、更により好ましくは11.0質量%であり、特に好ましくは10.5質量%以下である。CAF量の上限値を上記範囲内とすることによって、セメント組成物の硬化時における断熱温度上昇の増加をより低減することができる。
【0032】
石膏は、例えば、二水石膏、半水石膏、及び無水石膏等を使用することができる。石膏は、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。セメント組成物における石膏の含有量は、一般的なポルトランドセメントにおける石膏の含有量と同等であってよい。
【0033】
混合セメント組成物における石膏の含有量は、SO換算で、混合セメント組成物全量を100質量%として、例えば、0.5~3.5質量%、0.7~3.0質量%、又は1.0~2.5質量%であってよい。
【0034】
石灰石としては、例えば、一般に販売されている石灰石、石灰石粉、及び寒水石粉等の炭酸カルシウムを主成分とする粉末を使用することができる。石灰石は、好ましくは、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分に適合するものを含む。
【0035】
無機粉末は、石灰石以外の混合材であり、含有成分が下記式(1)の条件を満たすものである。
[(CaO)-(f-CaO)]/[(SiO)+(Al)]≧0.20 式(1)
【0036】
式(1)中、(CaO)、(SiO)、(Al)は、それぞれ無機粉末中のCaO含有量[質量%]、SiO含有量[質量%]、Al含有量[質量%]を示し、(f-CaO)は無機粉末中の遊離酸化カルシウム量[質量%]を示す。
【0037】
上記式(1)の左辺の値は、例えば、0.40以上、0.50以上、0.60以上、0.70以上、0.80以上、0.90以上、又は1.00以上であってもよい。上記式(1)の左辺の値が上記範囲内であることで、混合セメント組成物の硬化の際により優れた強度を発揮し得る。
【0038】
上記式(1)における[(CaO)-(f-CaO)]の値[単位:質量%]は、無機粉末中の酸化カルシウム量から遊離酸化カルシウム量を除いた量を意味する。[(CaO)-(f-CaO)]の値の上限値は、例えば、40質量%未満、38.0質量%以下、36.0質量%以下、又は34.0質量%以下であってよい。[(CaO)-(f-CaO)]の値の下限値は、0.0質量%であってもよいが、例えば、12.0質量%以上、18.0質量%以上、22.0質量%以上、24.0質量%以上、26.0質量%以上、又は30.0質量%以上であってよい。
【0039】
無機粉末としては、強度発現の観点から、酸化マグネシウムの含有量(MgO含有量)の少ない粉末を用いることが好ましい。無機粉末におけるMgO含有量の上限値は、例えば、4.0質量%未満、3.8質量%以下、又は3.5質量%以下であってよい。無機粉末におけるMgO含有量の下限値は、例えば、0.5質量%以上、1.0質量%以上、又は1.3質量%以上であってよい。
【0040】
無機粉末としては、強度発現の観点から、二酸化ケイ素の含有量(SiO含有量)の少ない粉末を用いることが好ましい。無機粉末におけるSiO含有量の上限値は、例えば、45.0質量%未満、40.0質量%以下、30.0質量%以下、又は19.5質量%以下であってよい。廃棄物・副産物の有効利用、特にバイオマス燃焼灰の有効利用の観点から、二酸化ケイ素の含有量(SiO含有量)の多い粉末を用いることが好ましい。無機粉末におけるSiO含有量の下限値は、例えば、1.0質量%以上、5.0質量%以上、又は10.0質量%以上であってよい。
【0041】
無機粉末としては、強度発現の観点から、酸化アルミニウムの含有量(Al含有量)の少ない粉末を用いることが好ましい。無機粉末におけるAl含有量の上限値は、例えば、14.0質量%以下、11.0質量%以下、又は8.0質量%以下であってよい。廃棄物・副産物の有効利用の観点から、酸化アルミニウムの含有量(Al含有量)の多い粉末を用いることが好ましい。無機粉末におけるAl含有量の下限値は、例えば、1.0質量%以上、3.0質量%以上、6.0質量%以上、又は7.0質量%以上であってよい。
【0042】
無機粉末は無機成分のみで構成されている必要はなく、本開示の効果を損なわない範囲で有機分を含有していてもよい。例えば、無機粉末が燃焼灰である場合、燃焼灰は未燃炭素を含有していてもよい。
【0043】
無機粉末のブレーン比表面積の下限値は、例えば、3000cm/g以上、4000cm/g以上、5000cm/g以上、8000cm/g以上、又は10000cm/g以上であってよい。無機粉末のブレーン比表面積の上限値は、例えば、50000cm/g以下、30000cm/g以下、20000cm/g以下、又は15000cm/g以下であってよい。無機粉末のブレーン比表面積は上述の範囲内で調整してよく、例えば、3000~30000cm/gであってよい。
【0044】
本明細書における「ブレーン比表面積」は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠して測定される値を意味する。
【0045】
無機粉末は、例えば、燃焼灰、石炭ガス化スラグの粉砕物等が挙げられる。廃棄物・副産物の有効利用の観点から、無機粉末は燃焼灰を含むことが好ましく、燃焼灰であることがより好ましい。燃焼灰は、例えば、バイオマス燃焼灰等が挙げられる。
【0046】
本明細書におけるバイオマス燃焼灰とは、火力発電等の工程において、少なくとも一部にバイオマス燃料を含む燃料を燃焼した際に得られる燃焼灰を意味する。バイオマス燃焼灰を得るための燃料は、好ましくはバイオマス燃料の割合が高く、より好ましくはバイオマス燃料を25質量%以上含み、更に好ましくはバイオマス燃料を50質量%超含み、特に好ましくはバイオマス燃料のみからなる燃料であってもよい。バイオマス燃焼灰としては、バイオマス燃料のみからなる燃料を燃焼(専焼)させて得られる燃焼灰を用いることができ、バイオマス燃料と、他の燃料又は廃棄物とを含む燃料を燃焼(混焼)させて得られる燃焼灰を用いることもでき、また両燃焼灰の混合灰を用いることもできる。
【0047】
バイオマス燃料としては、例えば、木質チップ、木屑、木質ペレット、廃木材、間伐材、おがくず、わら、籾殻、ヤシ殻、トウモロコシ残渣、バガス、製紙スラッジ、廃パルプ、古紙、黒液、バイオエタノール、バイオ由来メタン、家畜排泄物、及び食品加工廃棄物等が挙げられる。他の燃料としては、例えば、石炭、石油、重油、及びその他の油脂等が挙げられる。上記廃棄物としては、例えば、廃プラスチック、廃油、廃タイヤ、RPF、建設廃材、建設発生土、廃石膏、及び廃石灰等が挙げられる。
【0048】
燃焼灰は、灰の状態を特に限定することなく用いることができ、主灰、飛灰(フライアッシュ)、炉底灰(クリンカアッシュ)、及び混合灰のいずれの灰であっても用いることができる。燃焼灰としてはまた、上述の灰を粉砕したものを用いてもよく、水洗処理、アルカリ除去、及び忌避成分除去等の前処理を行ったものを用いることができる。
【0049】
上述の混合セメント組成物において、無機粉末の含有量は、上記石灰石及び上記無機粉末の合計量を基準として、0.1~90質量%である。無機粉末の含有量の下限値は、上記石灰石及び上記無機粉末の合計量を基準として、例えば、5.0質量%以上、15.0質量%以上、25.0質量%以上、又は30.0質量%以上であってよい。無機粉末の含有量の上限値は、上記石灰石及び上記無機粉末の合計量を基準として、例えば、80.0質量%以下、70.0質量%以下、50.0質量%以下、又は20.0質量%以下であってよい。
【0050】
上記石灰石及び上記無機粉末の合計の含有量の下限値は、混合セメント組成物全量を基準として、例えば、5.0質量%超、7.0質量%以上、8.5質量%以上、又は10.0質量%超であってよい。上記石灰石及び上記無機粉末の合計の含有量の上限値は、混合セメント組成物全量を基準として、例えば、20.0質量%以下、15.0質量%以下、12.0質量%以下、又は10.0質量%以下であってよい。
【0051】
混合セメント組成物は、セメントクリンカ、石膏、石灰石、及び、無機粉末に加えて、本開示の趣旨を損なわない範囲で、他の成分を含んでよい。他の成分としては、例えば、水酸化カルシウム、硅石粉、その他カルシウムを含む粉末(石膏、石灰石、及び上記無機粉末を除く)、コンクリート用減水剤、促進剤、及び遅延剤等が挙げられる。
【0052】
上述の混合セメント組成物は、例えば、以下のような方法によって製造することができる。混合セメント組成物の製造方法は、上記式(1)を満たす無機粉末を選別する選別工程と、セメントクリンカ、石膏、石灰石、及び、上記無機粉末を含む原料を、上記石灰石及び上記無機粉末の合計の配合量が5質量%超20質量%以下となり、上記無機粉末の配合量が上記石灰石及び上記無機粉末の合計量を基準として0.1~90質量%となるように、混合する混合工程と、を有する。
【0053】
選別工程では、無機粉末から、上記式(1)を満たす無機粉末を選別する工程である。入手した無機粉末のロット毎に、化学成分を測定し、測定されたデータを用いて上記(1)の左辺を計算することで、上述の要件を満たすロットと、満たさないロットとに選別する。
【0054】
混合工程は、セメントクリンカ、石膏、石灰石、及び上記無機粉末を含む原料を、上記石灰石及び上記無機粉末の合計の配合量が5質量%超20質量%以下となり、上記無機粉末の配合量が上記石灰石及び上記無機粉末の合計量を基準として0.1~90質量%となるように混合する工程である。
【0055】
混合工程においては、各主成分の混合の他、各主成分を破砕してもよく、混合及び破砕の順序は特に限定されるものではない。すなわち、各主成分を混合した後に破砕を行ってもよく、各主成分を破砕した後に混合してもよく、また各主成分の混合と破砕とを同時に行ってもよい。混合工程における各種成分の混合は、例えば、パン型ミキサー、傾胴式ミキサー、リボンミキサー等の混合機を用いて行ってよく、ボールミル又は竪型ローラーミル、及びローラープレス等の粉砕機を用いて混合粉砕してもよく、又は各主成分のそれぞれを粉砕した後に機械混合機等の混合機で混合してもよい。
【0056】
上述の製造方法は、選別工程、及び混合工程の他の工程を備えてもよい。その他の工程としては、例えば、原材料の水洗や忌避成分除去などを行う改質工程等が挙げられる。
【0057】
上述の製造方法によって製造される混合セメント組成物は、細骨材、粗骨材、水、混和材等と混合してモルタルとして使用してもよい。
【0058】
細骨材は、JIS A 5005:2020「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定の細骨材等を用いることができる。細骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、銅スラグ細骨材、及び電気炉酸化スラグ細骨材等が挙げられる。細骨材を使用する場合、細骨材の使用量は、上述の混合セメント組成物100質量部に対して、例えば、50~500質量部、100~300質量部、又は200~250質量部であってよい。
【0059】
粗骨材は、JIS A 5005:2020「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定の粗骨材等を用いることができる。粗骨材としては、例えば、砂利、及び砕石等が挙げられる。粗骨材を使用する場合、粗骨材の使用量は、上述の混合セメント組成物100質量部に対して、例えば、50~500質量部、100~300質量部、又は200~250質量部であってよい。
【0060】
細骨材及び粗骨材を併用することもできるが、この場合、細骨材及び粗骨材の合計の使用量は、上述の混合セメント組成物100質量部に対して、100~300質量部、又は200~250質量部であってよい。
【0061】
水としては、例えば、水道水、蒸留水、及び脱イオン水等が挙げられる。水の使用量は、上述の混合セメント組成物100質量部に対して、20~100質量部、又は40~70質量部であってよい。
【0062】
混和剤は、例えば、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、収縮低減剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、及び増粘剤等が挙げられる。混和剤の使用量は、上述の混合セメント組成物100質量部に対して、例えば、0.01~2質量部であってよい。
【0063】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例0064】
以下、実施例、比較例、及び参考例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[混合セメント組成物の原料]
混合セメント組成物の原料として以下の物を用いた。
【0066】
(セメントクリンカ)
セメントクリンカは、Bogue式による鉱物組成が下記表1の記載となるような普通ポルトランドセメントクリンカを用いた。Bogue式の計算に用いたセメントの化学組成は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に記載の方法に準拠して測定した。
【0067】
【表1】
【0068】
(石膏)
石膏は、JIS R 9151:2009「セメント用天然せっこう」に記載の要件を満たす石膏を用いた。
【0069】
(混合材)
混合材としては、後述する、石灰石、無機粉末(燃焼灰、石炭ガス化スラグ)シリカフューム、メタカオリン、及び火山ガラスを用いた。混合材の化学組成、遊離酸化カルシウム量、及びブレーン比表面積を表2に示す。
【0070】
・石灰石
石灰石(CC)は、炭酸カルシウム含有量が90質量%以上、酸化アルミニウム含有量が1.0質量%以下であり、JIS R 5210:2019「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分の要件を満たす石灰石を用いた。
【0071】
・無機粉末:燃焼灰
焼却灰(BA)は、ブレーン比表面積値が3860~10790cm/gであるバイオマス燃焼灰BA1~BA9を使用した。一部の燃焼灰については、ボールミルで粉砕してから用いた。
【0072】
・無機粉末:石炭ガス化スラグ
石炭ガス化スラグ(IG)は、発電所から産出されたものを入手し、試料はボールミルにて粉砕した後に用いた。
【0073】
・シリカフューム
シリカフューム(SF)は、市販品を用いた。
【0074】
・メタカオリン
メタカオリン(MK)は、市販品を用いた。
【0075】
・火山ガラス
火山ガラス(VA)は、JIS A 6209:2020「コンクリート用火山ガラス微粉末」において規定される「火山ガラス微粉末III種」に相当する火山ガラスを用いた。
【0076】
【表2】
【0077】
表2における各成分について、化学組成はJIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」の記載に準拠して測定し、遊離酸化カルシウム量(f-CaO量)はJCAS I-01-1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」の記載に準拠して測定し、ブレーン比表面積はJIS R 5201:2015「セメントの物理測定方法」の記載に準拠して測定した。蛍光X線分析には、株式会社理学製の「Simultix12」(製品名)を用いた。
【0078】
(実施例1~12、比較例1~6、及び参考例1)
セメントクリンカ、石膏、石灰石、及び混合材を表3に示す配合割合(質量部)で、混合及び粉砕することによって混合セメント組成物を調製した。具体的には、まずセメントクリンカ、石膏、及び石灰石をボールミルにて混合粉砕することで、参考例1の混合セメント組成物を作製した(ブレーン比表面積値:3220cm/g、石膏添加量:2.8質量%)。その後参考例1の混合セメント組成物と、別途粉砕された石灰石微粉末及び混合材とを所定の割合で混合することで実施例及び比較例の混合セメント組成物を得た。
【0079】
<圧縮強さの測定>
実施例1~12、比較例1~6、及び参考例1で調製した各混合セメント組成物を用いて、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」の記載に準拠して圧縮強さ比の測定を行った。
【0080】
具体的にはまず、上記混合セメント組成物100質量部に対して、細骨材として、セメント協会から入手したセメント強さ試験用標準砂を300質量部、及び水を50質量部混合し、モルタル組成物を調製した。当該モルタル組成物を練り混ぜ、及び型詰めを行った。次に、型枠を相対湿度90%以上の湿気箱内に入れ、20℃において24時間かけて養生した。その後、脱型し、モルタル硬化体を得た。
【0081】
次に、調製されたモルタル硬化体について、20℃の恒温室にて水中養生を行い、水中養生材齢28日目にモルタル硬化体を水中から取り出して、モルタル硬化体の圧縮強さを測定し、基準モルタル(参考例1)に対する圧縮強さの比((試験モルタルの材齢28日目の圧縮強さ/基準モルタルの材齢28日目の圧縮強さ)×100)を算出した。結果を表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3において、混合材の含有量が9.1質量%である実施例1~9、及び比較例1~6の結果から、本開示に係る所定の無機粉末を用いることによって、混合材における石灰石の一部を置き換えた場合に、良好な圧縮強さ比を発揮することが確認された。またこれらの中でも式(1):[(CaO)-(f-CaO)]/[(SiO)+(Al)]≧0.20の左辺の数値が大きいほど、より優れる圧縮強さ比を発揮し得ることが確認された。
【0084】
表3の実施例7~10及び比較例1の結果から、本開示に係る所定の無機粉末による石灰石の置き換え比率に係わらず、石灰石単独使用の場合に比べて優れた圧縮強さ比が得られることが確認できた。また実施例10,11のように混合材の含有量が多くても十分な圧縮強さ比を得られることが確認できた。
【0085】
実施例1,3,5,6及び比較例2,3は無機粉末のブレーン比表面積が同程度の値となっている例であるが、表2及び表3に示す結果から、ブレーン比表面積が同程度の値である場合には、式(1):[(CaO)-(f-CaO)]/[(SiO)+(Al)]≧0.20の左辺の数値が大きいほど、より優れる圧縮強さ比を発揮し得ることが確認された。
【0086】
また実施例2,4で使用した無機粉末のブレーン比表面積は、比較例2,3で使用した無機粉末のブレーン比表面積よりも小さいものの、本開示の無機粉末の要件を充足することで、優れた圧縮強さ比を発揮することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本開示によれば、混合材の配合量を増加させることによって環境負荷低減に寄与し、かつ優れた強度を発揮し得る混合セメント組成物、及びその製造方法を提供できる。