(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154604
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造装置、セメントクリンカの製造方法、塩素バイパス設備の運転方法、および塩素含有廃棄物処理方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/43 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
C04B7/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057718
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】末益 猛
(72)【発明者】
【氏名】藤永 祐太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥介
(72)【発明者】
【氏名】大場 康太
(57)【要約】
【課題】抽気管の閉塞の発生を抑制することが可能な技術を提供する。
【解決手段】塩素バイパス設備90は、セメントキルン50の窯尻52、ライジングダクト42またはこれらの間からキルン排ガスを抽気する抽気口21Aと、抽気口21Aから抽気された抽気ガスから原料ダストの粗粉を分離し、原料ダストの微粉を含む770℃以上の温度を有する導出ガスを得る分級部22と、抽気口21Aと分級部22との間を接続し、断熱部材によって断熱された抽気管21と、抽気管21の内部へ高温の排ガスを供給する排ガス供給部20と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻、ライジングダクト又はこれらの間からキルン排ガスを抽気する抽気口と、
前記抽気口から抽気された抽気ガスから原料ダストの粗粉を分離し、前記原料ダストの微粉を含む770℃以上の温度を有する導出ガスを得る分級部と、
前記抽気口と前記分級部との間を接続し、断熱部材によって断熱された抽気管と、
前記抽気管の内部に高温の排ガスを供給する排ガス供給部と、
を有する、塩素バイパス設備。
【請求項2】
前記排ガス供給部は、前記抽気管の内壁に沿うように、前記排ガスを供給する、請求項1に記載の塩素バイパス設備。
【請求項3】
前記排ガス供給部から供給される前記排ガスの前記抽気管の内部への吐出口が、前記抽気ガスの流路の延在方向に対して交差する方向に延びる長尺状である、請求項1または2に記載の塩素バイパス設備。
【請求項4】
前記排ガスは、プラスチックを熱処理することによって生じた熱分解ガスを燃焼することによって得られたガスである、請求項1~3のいずれか一項に記載の塩素バイパス設備。
【請求項5】
前記排ガスは、前記抽気口が接続する前記セメントキルンにおける前記抽気口とは異なる第2の抽気口から抽気されたガスであるか、前記セメントキルンとは異なるセメントキルンから抽気されたガスである、請求項1~3のいずれか一項に記載の塩素バイパス設備。
【請求項6】
前記抽気管の内部に堆積するダストの堆積量を測定するダスト測定部をさらに有し、
前記排ガス供給部は、前記ダスト測定部により測定された前記ダストの堆積量に基づいて、前記排ガスの供給量を調整する、請求項1~5のいずれか一項に記載の塩素バイパス設備。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の塩素バイパス設備を有するセメントクリンカ製造装置。
【請求項8】
請求項7に記載のセメントクリンカ製造装置を用いてセメントクリンカを製造するセメントクリンカの製造方法。
【請求項9】
セメントキルンの窯尻、ライジングダクト又はこれらの間からキルン排ガスを得る抽気工程と、
前記抽気工程で得られた抽気ガスを、断熱部材によって断熱された抽気管を介して導入し、前記抽気ガスから原料ダストの粗粉を分離し、前記原料ダストの微粉を含む770℃以上の温度を有する導出ガスを得る分級工程と、
前記抽気管の内部に高温の排ガスを供給する排ガス供給工程と、
を含む、塩素バイパス設備の運転方法。
【請求項10】
セメントクリンカ製造装置によって塩素含有廃棄物を処理する方法であって、
前記塩素含有廃棄物を、セメント原料および/またはセメント焼成の熱エネルギーとしてセメントキルンへ投入する投入工程と、
前記セメントキルンの窯尻、ライジングダクトまたはこれらの間からキルン排ガスを得る抽気工程と、
前記抽気工程で得られた抽気ガスを、断熱部材によって断熱された抽気管を介して導入し、前記抽気ガスから原料ダストの粗粉を分離し、前記原料ダストの微粉を含む770℃以上の温度を有する導出ガスを得る分級工程と、
前記抽気管の内部に高温の排ガスを供給する排ガス供給工程と、
を含む、塩素含有廃棄物処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塩素バイパス設備、セメントクリンカ製造装置、セメントクリンカの製造方法、塩素バイパス設備の運転方法、および塩素含有廃棄物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカの製造装置では、各種廃棄物を原料および熱エネルギーとして用いることの取り組みが進められている。このような事情から、セメントキルンに持ち込まれる塩素量は増加する傾向にある。多くのセメントクリンカ製造装置にはセメントキルン内の塩素を低減するために塩素バイパス設備が設置されており、この塩素バイパス設備で抽気された抽気ガスから効率的に塩素を除去する技術が検討されている。特許文献1では、キルン排ガス流路から抽気した抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で抽気ガスから粗粉を分級装置において分離し、その後、600℃以下に冷却して塩素バイパスダストを分離する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、抽気した抽気ガスの温度を770℃以上に維持して分級装置に導入するため、分級装置までの抽気管を断熱する必要がある。このような抽気管内では、抽気管内へ冷却風を導入することによって原料ダストの堆積を抑制することができないため、抽気管が閉塞しやすいという問題があった。
【0005】
本開示は上記を鑑みてなされたものであり、抽気管の閉塞の発生を抑制することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の一態様に係る塩素バイパス設備は、セメントキルンの窯尻、ライジングダクト又はこれらの間からキルン排ガスを抽気する抽気口と、前記抽気口から抽気された抽気ガスから原料ダストの粗粉を分離し、前記原料ダストの微粉を含む770℃以上の温度を有する導出ガスを得る分級部と、前記抽気口と前記分級部との間を接続し、断熱部材によって断熱された抽気管と、前記抽気管の内部に高温の排ガスを供給する排ガス供給部と、を有する。
【0007】
上記の塩素バイパス設備では、断熱部材によって断熱された抽気管の内部へ高温の排ガスが供給されることで、抽気管内のダストが除去される。そのため、ダストの堆積による抽気管の閉塞の発生が抑制される。
【0008】
前記排ガス供給部は、前記抽気管の内壁に沿うように、前記排ガスを供給する態様であってもよい。上記のように抽気管の内壁に沿うように排ガスを供給することで、広範囲の堆積ダストを除去することが可能になる。そのため、ダストの堆積による抽気管の閉塞の可能性を低減することができる。
【0009】
前記排ガス供給部から供給される前記排ガスの前記抽気管の内部への吐出口が、前記抽気ガスの流路の延在方向に対して交差する方向に延びる長尺状である態様であってもよい。上記の構成とすることで、抽気管の内部のより広範囲に向けて排ガスを供給することが可能となり、ダストの除去をより効率よく行うことができる。
【0010】
前記排ガスは、プラスチックを熱処理することによって生じた熱分解ガスを燃焼することによって得られたガスである態様であってもよい。上記の構成とすることで、プラスチックの熱処理によって発生した熱分解ガスに含まれる塩素についても、クリンカダストとして回収することが可能となる。
【0011】
前記排ガスは、前記抽気口が接続する前記セメントキルンにおける前記抽気口とは異なる第2の抽気口から抽気されたガスであるか、前記セメントキルンとは異なるセメントキルンから抽気されたガスである態様であってもよい。上記の構成とすることで、既存の設備から発生するガスを利用して、抽気管内のダストの除去を行うことができる。
【0012】
前記抽気管の内部に堆積するダストの堆積量を測定するダスト測定部をさらに有し、前記排ガス供給部は、前記ダスト測定部により測定された前記ダストの堆積量に基づいて、前記排ガスの供給量を調整する態様であってもよい。上記の構成とすることで、ダストの堆積によって抽気管の内部が閉塞される可能性を低減させることができ、塩素バイパス設備の安定した運転を実現することができる。
【0013】
本開示の一側面に係るセメントクリンカ製造装置は、上述のいずれかの塩素バイパス設備を有する。上記のセメントクリンカ製造装置は、上述の塩素バイパス設備を含むため、ダストの堆積による抽気管の閉塞の発生が抑制される。
【0014】
本開示の一側面に係るセメントクリンカの製造方法は、上記のセメントクリンカ製造装置を用いてセメントクリンカを製造する。上記のセメントクリンカの製造方法は、上述の塩素バイパス設備を用いてセメントクリンカを製造するため、ダストの堆積による抽気管の閉塞の発生が抑制される。
【0015】
本開示の一態様に係る塩素バイパス設備の運転方法は、セメントキルンの窯尻、ライジングダクト又はこれらの間からキルン排ガスを得る抽気工程と、前記抽気工程で得られた抽気ガスを、断熱部材によって断熱された抽気管を介して導入し、前記抽気ガスから原料ダストの粗粉を分離し、前記原料ダストの微粉を含む770℃以上の温度を有する導出ガスを得る分級工程と、前記抽気管の内部に高温の排ガスを供給する排ガス供給工程と、を含む。
【0016】
上記の塩素バイパス設備の運転方法によれば、断熱部材によって断熱された抽気管の内部へ高温の排ガスが供給されることで、抽気管内のダストが除去される。そのため、ダストの堆積による抽気管の閉塞の発生が抑制される。
【0017】
本開示の一態様に係る塩素含有廃棄物処理方法は、セメントクリンカ製造装置によって塩素含有廃棄物を処理する方法であって、前記塩素含有廃棄物を、セメント原料および/またはセメント焼成の熱エネルギーとしてセメントキルンへ投入する投入工程と、前記セメントキルンの窯尻、ライジングダクトまたはこれらの間からキルン排ガスを得る抽気工程と、前記抽気工程で得られた抽気ガスを、断熱部材によって断熱された抽気管を介して導入し、前記抽気ガスから原料ダストの粗粉を分離し、前記原料ダストの微粉を含む770℃以上の温度を有する導出ガスを得る分級工程と、前記抽気管の内部に高温の排ガスを供給する排ガス供給工程と、を含む。
【0018】
上記の塩素含有廃棄物処理方法によれば、断熱部材によって断熱された抽気管の内部へ高温の排ガスが導入されることで、抽気管内のダストが除去される。そのため、ダストの堆積による抽気管の閉塞の発生が抑制される。さらに、上記のセメントクリンカ製造装置で塩素含有廃棄物を処理することで、塩素バイパス設備を安定的に運転することが可能になり、塩素を効率よく大量に処理することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、抽気管の閉塞の発生が抑制することが可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る塩素バイパス設備とこれを備えるセメントクリンカ製造装置を示す図である。
【
図2】
図2(a)、
図2(b)、
図2(c)は、抽気管の周辺の構成を説明する模式図である。
【
図3】
図3(a)、
図3(b)は、抽気管の周辺の別の構成を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、冷却ガス導入部が接続される導出ガスの流路の径方向断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素または同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0022】
[セメントクリンカ製造装置]
図1は、一実施形態に係る塩素バイパス設備とこれを備えるセメントクリンカ製造装置を示す図である。塩素バイパス設備90は、セメントクリンカ製造装置100の予熱仮焼部40のライジングダクト42に接続される。塩素バイパス設備90は、セメントクリンカ製造装置100内の塩素分等の揮発分をクリンカダストとして回収し、セメントクリンカ製造装置100内の塩素分を低減する。なお、セメントクリンカ製造装置100は、制御部10を含んで構成されていてもよい。
【0023】
塩素バイパス設備90は、ライジングダクト42からガスを抽気する抽気口21Aと、抽気口21Aから抽気された、原料ダストを含む抽気ガスが流通する抽気管21とを有する。また、塩素バイパス設備90は、抽気管21から接続され、導入した抽気ガスから原料ダストの粗粉を分離して、当該粗粉よりも小さい原料ダストの微粉を含む導出を得る分級部22と、導出ガスが流通する流路24と、流路24に旋回流が生じるように冷却ガスを導入する冷却ガス導入部80と、を備える。
【0024】
抽気管21は、抽気口21Aから抽気された抽気ガスを分級部22に供給する機能を有する。
【0025】
抽気口21Aから抽気された抽気ガスは、原料ダストおよびガス状の塩素分を含む。抽気ガスは抽気管21を流通し分級部22に導入される。抽気管21は、抽気プローブと称されるものであってもよい。分級部22に導入される際の抽気ガスの温度は、KClおよびNaCl等の揮発した塩素分が単独で析出し、または原料ダストの表面に析出し、クリンカダストとして分級部22に付着することを抑制する観点から、好ましくは770℃を超え、より好ましくは820℃以上であり、さらに好ましくは860℃以上である。
【0026】
抽気管21には、その抽気管21の内部に高温の排ガスを供給する排ガス供給部20が設けられる。
図1では、排ガス供給部20の一例として、廃プラスチック脱塩設備30における燃焼炉32で生じた排ガスが、流路33を介して抽気管21へ供給される構成を示している。すなわち、流路33が排ガス供給部20として機能し得る。さらに、抽気管21には、その内部のダストの堆積量を測定するためのダスト測定部37が設けられる。
【0027】
排ガスを供給する廃プラスチック脱塩設備30について説明する。廃プラスチック脱塩設備30は、廃プラスチックを含む熱エネルギー源の脱塩処理を行う設備である。廃プラスチック脱塩設備30は、廃プラスチックを含む熱エネルギー源を熱処理する脱塩炉35を有する。また、燃焼炉32は、脱塩炉35において生じた熱分解ガスに含まれるタールを燃焼する炉である。
【0028】
なお、排ガス供給部20によって抽気管21に供給される排ガスは、上記の廃プラスチック脱塩設備30の燃焼炉32からの排ガスに限定されず、例えば、廃プラスチック脱塩設備30の燃焼炉32とは異なる燃焼炉からの排ガスであってもよい。例えば、排ガスとして、バイオマスペレット炭化設備に備えられる燃焼炉、アンモニアガス化炉、硫黄燃焼炉、或いは、これらとは異なる燃焼炉または溶融炉からの高温排ガスを用いてもよい。これらの一種の排ガスを単独で用いてもよいし、複数の排ガスを組み合わせて用いてもよい。
【0029】
さらに、排ガスは、セメントキルン50における抽気口21Aとは異なる抽気口(第2の抽気口)から抽気されたガスであってもよい。また、セメントクリンカ製造装置100に含まれるセメントキルン50とは異なるセメントキルンから抽気されたガスを排ガスとして使用してもよい。セメントキルン50における抽気口21Aとは異なる抽気口から排ガスを導入する場合、例えば、抽気口21A近傍に位置し、原料ダストが抽気されにくい箇所に排ガスを抽気するための抽気口を設けること好ましい。抽気口21Aから抽気される原料ダストに、予熱仮焼部40の仮焼炉44からの抜け落ちダストが多く含まれる場合は、抽気口21Aより下方に異なる抽気口(第2の抽気口)を設けることで、異なる抽気口(第2の抽気口)から原料ダストが抽気されにくくなる。一方、抽気口21Aから抽気される原料ダストに、セメントキルン50の窯尻52からの巻き上がりダストが多く含まれる場合は、抽気口21Aより上方に異なる抽気口(第2の抽気口)を設けることで、異なる抽気口(第2の抽気口)から原料ダストが抽気されにくくなる。
【0030】
また、抽気管21に供給される時点での排ガスの温度は、770℃を超え、より好ましくは820℃以上であり、さらに好ましくは860℃以上とされる。そのため、排ガスを導入する流路33は、例えば、断熱構造を有していてもよい。
【0031】
次に、
図2を参照しながら、抽気管21および排ガス供給部20について説明する。
図2は、抽気管21およびその周辺の構成を説明する図である。
図2(a)は、排ガス供給部20が抽気管21に対して取り付けられた状態における、抽気管21の中央より下方を示す図であり、
図2(b)は、抽気管21の内部を模式的に示す斜視図であり、
図2(c)は、抽気管21の延在方向に沿った断面図である。
図2(a)~
図2(c)は、抽気管21の一部として、排ガス供給部20が設けられる領域の近傍を切り出した図である。また、
図2(b)は、抽気管21の内部(管壁211の内側)の空間のみを模式的に示している。また、抽気管21内での抽気ガスの流れを矢印F1で示し、排ガスの流れを矢印F2で示している。
【0032】
図2(b)に示すように、抽気管21は、流路の断面(抽気管21の延在方向に対して直交する断面)の形状が例えば円形状である、円筒状の配管とされる。また、抽気管21は、高い断熱性能を有する部材によって管壁211が構成され得る。抽気管21を構成する断熱性能を有する部材としては、例えば、耐火レンガ等が用いられる。また、抽気管21の周囲を囲うように、さらに別の断熱部材やヒーター等の保温装置が配置されていてもよい。
【0033】
また、抽気管21には、管の内外を連通する開口212が設けられる。開口212は、例えば、
図2(a)~
図2(c)に示すように、抽気管21の底面近傍の下方において、管壁211(およびその周囲に断熱部材が設けられている場合には断熱部材)を貫通するように設けられる。この開口212は、抽気管21の内部へ高温の排ガスを供給する際の吐出口として機能し得る。開口212は、例えば、
図2(a)および
図2(b)に示すように長尺状とすることができる。開口212が長尺状である場合、その長手方向の延在方向は特に限定されないが、
図2(a)に示すように、抽気管21の延在方向に対して交差する方向に沿って延びるように開口212が形成されていてもよい。本実施形態では、開口212は、抽気管21の延在方向に対して直交する方向に沿って延びるように形成されている。
【0034】
排ガス供給部20として機能する流路33は、
図2(c)に示すように、開口212に対して接続している。流路33が接続した状態で、流路33から高温の排ガスを供給すると、開口212から抽気管21内へ排ガスが導入される。燃焼炉32が稼働している間は、流路33を介して排ガスが常時供給されていてもよい。また、流路33には、抽気管21への送気量を調整するためのダンパー34(
図1参照)が設けられていてもよい。このダンパー34は、制御部10によって制御されていてもよい。
【0035】
排ガスを供給することで、抽気管21の底部に堆積したダストDを飛散させることができる。高温の抽気ガスを導入する抽気管21内は、断熱部材による断熱の結果、高温(例えば、770℃以上)に維持されている。そのため、抽気管21内に存在するダストDは、付着性が低い。そのため、排ガスを抽気管21の底部近傍に供給すると、排ガスが流れてきた領域のダストDは飛散し得る。飛散したダストDは、抽気ガスF1の流れに沿って下流側(分級部22側)へ移動し得る。この結果、抽気管21内でのダストDの滞留・堆積を減らすことができる。
【0036】
排ガスF2は後述される吸引ファンの吸引により供給することができる。このとき、排ガスF2が抽気管21の底面を沿うように供給されることで、通常は抽気ガスの流速が遅い抽気管21壁面近傍において流速を上げる。この結果、抽気管21内でのダストDの堆積を抑制することができる。
【0037】
抽気管21において開口212を設ける位置を、ダストDが堆積し得る領域とすることで、開口212から供給される排ガスによるダストDの移動を促進させることができる。開口212から抽気管21に供給される排ガスの流速は、例えば、ダストDが移動可能な程度に調整されていてもよい。
【0038】
抽気管21内に排ガスが供給されることで、排ガスが抽気ガスに合流し、混合ガスが得られる。排ガスの流量は、セメントクリンカ製造装置100又は塩素バイパス設備90の運転状況に応じて調節してもよい。排ガスの流量の調節は、例えば、抽気ガスの流路24、分級部22、抽気管21、ライジングダクト42、セメントキルン50(窯尻52)の運転情報を計測する計測部、及び/又は、回収部72で回収されるクリンカダストの塩素濃度に基づいて行ってよい。具体的には、分級部22の運転情報(例:温度)、及び/又は、回収部72で回収されるクリンカダストの塩素濃度に基づいて、オペレータが、排ガスの流量をマニュアルで調節してもよく、制御部10を用いて自動で調節してもよい。
【0039】
なお、排ガス供給部(流路33と抽気管21とが接続される場所であって、開口212が形成される場所)は、抽気管21内の複数の場所に設置してもよい。排ガスの供給は、ダストDの堆積を抑制するために実施され得る。したがって、ダストDが堆積しやすいと予想される場所に、開口212を形成し、排ガスの流路33を接続することで、ダストDの堆積によって管内が閉塞する可能性を低減することができる。ダストDが堆積しやすい場所とは、例えば、抽気管21のうち、流路が曲がる部分(曲がり部)、分級部22の近傍等、抽気ガスF1の流れが変化し得る場所が挙げられる。このような場所に、排ガス供給部20を設けて高温の排ガスを供給する構成とすることで、ダストDによる流路の閉塞リスクを低減することができる。
【0040】
また、排ガスは高温に維持されているため、排ガスは常時供給されたとしても、抽気管21を流れるガスの温度の低下は抑制される。具体的には、分級部22に導入される際のガスの温度が770℃以上であるように抽気管21を流れるガスの温度が維持される。これによって、ガスの温度を維持しながら、ダストDの堆積の発生を抑制することができる。
【0041】
また、ダスト測定部37(
図1参照)を用いて、ダストの堆積量を検出し、その結果に応じて、高温の排ガスの供給量を調整することとしてもよい。ダストの堆積量を検出する方法としては、例えば、抽気管21の内部または外部の温度を測定する方法が挙げられる。ダストDが抽気管21内に堆積していると、ダストDの存在によってその領域の温度が低下する。したがって、ダスト測定部37として、抽気管21の管壁211の内表面または外面等に温度センサを取り付けて、温度測定を行うことによって、ダストDの堆積量を検出する構成としてもよい。
【0042】
なお、ダスト測定部37(温度センサまたは圧力センサ)によるダストDの堆積量の検出結果に基づいて、排ガスの供給量の調整を自動的に行う構成としてもよい。その場合、制御部10によって、ダスト測定部37による測定結果を収集し、測定結果に基づいて、排ガスの供給量を決定し、その結果に基づいた制御信号をダンパー34に送信する構成としてもよい。なお、ダスト測定部37は、ダストDの堆積量を正確に把握する必要はない。すなわち、ダスト測定部37によるダストの堆積量の測定精度とは、例えば、ダストの堆積量に基づいて、排ガスの供給量の調整が可能な程度の精度であればよい。また、ダスト測定部37による測定結果に基づき、オペレータが、排ガスの供給量をマニュアルで調節してもよい。なお、ダスト測定部37は温度センサに限られない。例えば、超音波(エコー)、X線等を用いた抽気管21内のダストDの堆積状況を測定可能な装置、または、圧力センサ等のダストDの堆積状況によって変化する数値を測定可能な装置等をダスト測定部37として用いてもよい。
【0043】
なお、抽気管21および排ガス供給部20の構成は上記の例に限られない。
図3を参照しながら,変形例に係る抽気管21Xおよび抽気管21Xの内部への排ガスの供給について説明する。
図3(a)は、抽気管21Xの底面を模式的に示す断面図であり、
図3(b)は、排ガスの供給方向の一例を示す図である。
図3(b)は、抽気管21Xの一部を切り出した図であり、抽気管21の内部(管壁211の内側)の空間のみを模式的に示している。また、抽気管21内での抽気ガスの流れを矢印F1で示し、排ガスの流れを矢印F2で示している。
【0044】
図3(b)に示すように、変形例に係る抽気管21Xは、流路の断面(抽気管21Xの延在方向に対して直交する断面)の形状が例えば矩形である、四角筒状の配管とされる。また、抽気管21Xの底面213は平坦面とされている。
【0045】
この場合、ダストDは、平坦面である底面213に堆積し得る。この場合、ダストDを除去するために、排ガスを供給するための開口214を底面213に設けてもよい。この場合、底面213に設けられた開口214から排ガスF2を導入することで、底面213にダストDが堆積することを抑制するか、または、堆積したダストDを移動させることができる。
【0046】
なお、開口214は、
図2で示した形状と同様に長尺状であってもよいがこの形状には限定されない。ただし、より広範囲のダストDを移動させるために、
図2に示す開口212、および
図3に示す開口214のように、抽気ガスF1の流れる方向(流路の延在方向)に対して直交する方向に延在している形状とし、排ガスF2の供給する方向が底面213に対して垂直な方向ではなく、抽気ガスF1の流れる方向に沿って傾斜した方向になっていてもよい。この場合、抽気管21Xの底面213に沿って、排ガスを供給することになる。この構成であると、排ガスがより広範囲のダストDを飛散させ、除去させることができる。抽気管21Xの底面213と、排ガスを管内に供給する方向とのなす角度を例えば45°以下とした場合、排ガスがより広範囲のダストDを飛散させることができる。
【0047】
図3では、底面213が平坦面である場合について説明したが、平坦面は、抽気管の底面以外の内面を構成する場合がある。例えば、抽気管の側面や上面等が平坦面によって形成され、当該面に対してダストDが堆積し得る。このような場合、平坦面に沿って、排ガスが供給されるように、排ガス供給部が設けられていてもよい。さらに、抽気管の形状の内部の形状によっては、平坦ではない側面等にもダストDが堆積する可能性がある。その場合、ダストDの堆積が想定される位置に応じて、排ガス供給部の構成を適宜追加・変更してもよい。
【0048】
図1に戻り、分級部22は、抽気ガスおよび排ガスによる混合ガスを導入して分級を行うことで、原料ダストの粗粉を分離する。分級部22は例えばサイクロンであってよい。分級部22において、上記の温度範囲の混合ガスの分級を行うことで、塩素分が気相に含まれている状態で、原料ダストの粗粉が混合ガスから分離することができる。そのため、揮発した塩素分が単独で析出すること、または原料ダストの表面に析出することによりコーチングが発生し、分級部22が閉塞することが抑制される。また、塩素が析出した原料ダストがセメントキルン側に循環流路で戻ることを抑制することができる。
【0049】
なお、燃焼炉32からの排ガスを分級部22においても混合する構成としてもよい。この場合、分級部22において、混合ガスにおける排ガスの割合が高められることになる。この場合、燃焼炉32からの流路33を分岐して、抽気管21と分級部22との両方に排ガスを供給する構成としてもよいし、互いに異なる燃焼炉からの排ガスを抽気管21および分級部22に対して個別に導入する構成としてもよい。
【0050】
分級部22で混合ガスから分離される原料ダストの粗粉に塩素分が析出することを抑制する観点から、分級部22において原料ダストの粗粉を分離する際の抽気ガスの温度は、770℃以上とされる。分級部22へ導入される混合ガスの温度は、好ましくは820℃以上、より好ましくは860℃以上とすることができる。分級部22から導出される導出ガスの温度についても、770℃以上とされる。また、導出ガスの温度は、好ましくは820℃以上、より好ましくは860℃以上とすることができる。
【0051】
原料ダストの粗粉の粒径は、例えば、18μm以上であってよく、好ましくは16μm以上であってよく、より好ましくは14μm以上であってもよい。原料ダストの粗粉が14μm以上となるように分級を行うことによって、揮発分を十分に低減することができる。
【0052】
分級部22で混合ガスから分離された原料ダストの粗粉は、セメントクリンカの原料となるものであるため、原料ダストの粗粉は循環流路27を流通してセメントキルン50の窯尻52に導入される。このように、抽気口21Aから抽気された原料ダストの粗粉を窯尻52に戻すことによって、原料ダストの粗粉をセメントクリンカの製造に用いることができる。なお、原料ダストの粗粉は窯尻52ではなく、ライジングダクト42、仮焼炉44、サイクロンC4と窯尻52を接続するシュート、またはキルン本体56に戻してもよい。また、循環流路27を複数設けて原料ダストの粗粉を複数箇所に戻してもよい。
【0053】
分級部22から導出される導出ガスには、分級部22で回収されなかった原料ダストの粗粉および微粉が含まれる。この分級部22で回収されなかった原料ダストに含まれるCa分と、排ガス中のHCl等の塩素分が反応して固体状のCaCl2が発生する場合がある。このような塩素分も、塩素バイパス設備90においてクリンカダストとして回収することができる。したがって、塩素分を含む燃焼炉32の排ガスを処理する洗浄装置の負荷を低減することができる。なお、塩素分を含む燃焼炉32の排ガスの全量を抽気管21に導入する構成とした場合には、排ガスの洗浄装置を省略することもできる。
【0054】
分級部22において混合ガスから原料ダストの粗粉を分離することによって得られる、原料ダストの微粉とガス状の塩素分を含む導出ガスは、分級部22に接続された流路24を流通し冷却ガス導入部80で冷却される。冷却ガス導入部80では、円管26で構成される流路24に冷却ガスの流路81が接続され、原料ダストの微粉および塩素分を含む導出ガスが冷却ガスと混合され冷却される。冷却後、導出ガスを含むガスは、流路24を流通し冷却部70に導入される。
【0055】
冷却ガスは、常温の空気でもよいし、また、工場等で発生する200℃以下、好ましくは100℃以下の排気ガスを含むものであってもよい。排気ガスとしては、例えば、セメント製造工場に持ち込まれた下水汚泥等の含水汚泥の受け入れ、貯蔵および発酵時に発生する臭気ガス、後述の吸引部74(
図1参照)および他工程の吸引部から排出される排出ガス等が挙げられる。これらの一種を単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。一例として、
図1では、上記の冷却ガスの流路81に常温の空気(外気)が導入される構成を示している。
【0056】
冷却ガス導入部80において、導出ガスは冷却ガスと混合され冷却される。冷却後の導出ガスを含むガス(導出ガスと冷却ガスの混合ガス)の温度は、設備の耐熱性の観点から600℃以下であってよく、500℃以下であってもよい。
【0057】
冷却ガス導入部80において、冷却ガスは、原料ダストの微粉および塩素分を含む導出ガスが流通する流路24の内壁面の周方向に沿うように導入される。これによって、流路24に旋回流が生じ、流路24の内壁面にクリンカダストが付着してコーチングが発生することを抑制することができる。このような旋回流は、流路24の外周部にエアーカーテンを形成し、高温の導出ガスから流路24を構成する円管26の内壁面を保護することができる。
【0058】
図4は、冷却ガス導入部が接続される導出ガスの流路24の径方向断面を示す断面図である。原料ダストの粗粉が分離され、塩素分および原料ダストの微粉を含む導出ガスが流通する流路24は円管26によって構成される。
図4に示すような流路24(円管26)の径方向断面で見たときに、冷却ガス導入部80の流路81を形成する流路壁28は、円管26の接線方向と平行方向に伸びるように、円管26に接続されている。円管26に接続された冷却ガス導入部80は、流路81内を流通する冷却ガスGを流路24内に導入する。導入された冷却ガスGは、流路24において導出ガスと合流しながら旋回流SFを形成する。旋回流SFの旋回軸は、円管26で構成される流路24の中心軸Pと一致する。
【0059】
導出ガスは中心軸Pの軸方向に沿って流路24の中央部を流通し、冷却ガスGは流路24を構成する円管26の内壁面26Wに沿って旋回流SFとして流通する。このように、流路24では導出ガスと冷却ガスGの流通路が異なるようにガスを流通させる。導出ガスの流通路と冷却ガスGの流通路の境界では微量のクリンカダストができるが、旋回流SFがエアーカーテンとなって、クリンカダストが内壁面26Wに付着しコーチングとなることを抑制することができる。
【0060】
さらに、塩素バイパス設備90は、冷却ガス導入部80の下流に導出ガスを含むガスを冷却する冷却部70と、導出ガスを含むガスに含まれるダスト(クリンカダスト)を導出ガスを含むガスから回収する回収部72と、導出ガスを吸引する吸引部74とを備える。吸引部74は抽気口21Aからの抽気ガスだけでなく、開口212からの排ガスを吸引してもよい。冷却部70は水冷式または空冷式の熱交換器であってよい。吸引部74としては、シロッコファンおよびターボファンなどの通常の吸引ファンが挙げられる。
【0061】
冷却部70は、冷却ガスGと導出ガスが合流して得られる導出ガスを含むガスを、例えば260℃未満、好ましくは200℃未満に冷却する。この導出ガスを含むガスはクリンカダストを含んでいるため、回収部72に導入される。回収部72は、バグフィルタであってよく、湿式スクラバ等の湿式集塵器であってもよい。回収部72で回収されたクリンカダストは、水洗処理がなされた後、セメント組成物に配合してもよいし、セメント原料として用いてもよい。
【0062】
図1のセメントクリンカ製造装置100は、塩素バイパス設備90と、セメント原料を予熱および仮焼する予熱仮焼部40と、予熱および仮焼されたセメント原料を焼成してセメントクリンカを得るセメントキルン50と、セメントキルン50で得られたセメントクリンカを冷却するクリンカクーラ60とを備える。予熱仮焼部40は、4つのサイクロンC1,C2,C3,C4(プレヒータ)と仮焼炉44とを有する。
【0063】
セメントキルン50の窯尻52と予熱仮焼部40の仮焼炉44とは、ライジングダクト42で接続されている。ライジングダクト42と窯尻52の接続部近傍には、セメントキルン50で発生するキルン排ガスを抽気して、キルン排ガスに含まれるダストを回収する塩素バイパス設備90の抽気口21Aが設けられている。抽気口21Aには、抽気管21が接続されている。セメントクリンカ製造装置100は、塩素バイパス設備90を備えることによって、セメントクリンカ製造装置100内の塩素分を低減することができる。
【0064】
サイクロンC1とサイクロンC2との接続部から導入されるセメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2、サイクロンC3、ライジングダクト42、仮焼炉44、およびサイクロンC4を流通してセメントキルン50の窯尻52に導入される。セメントキルン50では、予熱および仮焼されたセメント原料が、窯尻52とは反対側に設けられたバーナ54の燃焼によって加熱されセメントクリンカとなる。得られたセメントクリンカは、クリンカクーラ60で冷却される。クリンカクーラ60によって冷却された後、セメントクリンカが得られる。
【0065】
制御部10は、上述のように、ダスト測定部37による測定結果に基づいて、抽気管21のダストの堆積状況(堆積量)を把握し、これに基づいて、排ガス供給部20による抽気管21内への排ガスの供給量を制御する機能を有していてもよい。
【0066】
また、制御部10は、排ガス供給部20に限らず上記のセメントクリンカ製造装置100の各部を制御してもよい。制御部10は、セメントクリンカ製造装置100の各部に設けられた計測部において計測された情報に基づいて、セメントクリンカ製造装置100を制御してもよい。計測部が計測する運転情報としては、温度、圧力、ガスの成分、ガスの流速、ダスト濃度および画像等が挙げられる。塩素バイパス設備を例として挙げると、具体的には、抽気管21、分級部22および流路24の内部または表面の温度、ライジングダクト42および窯尻52におけるキルン排ガスの温度、抽気口21Aから抽気管21内に流入するキルン排ガスの温度、キルン排ガスおよび抽気ガスの圧力、キルン排ガスおよび抽気ガスのガス成分、キルン排ガスおよび抽気ガスに含まれるダスト濃度、並びに、抽気管21および分級部22内部の画像等が挙げられる。計測部としては、例えば、温度センサ、圧力センサ、ガス成分センサ、流速センサ、およびカメラ等が挙げられる。
【0067】
制御部10は、上記の計測部で計測された運転情報に基づいて、各部を制御するための制御信号を出力してもよい。制御部は、通常のコンピュータシステムであってよく、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)および入出力インターフェイスなどを備えてよい。
【0068】
なお、制御部10は、燃焼炉からの排ガスの流量についても自動で制御する機能を有してもよい。例えば、分級部22から導出される導出ガスの温度を計測部で計測し、その計測結果にも基づいて、抽気管21に導入する排ガスの流量が増加するように制御してもよい。これによって、分級部22の温度が下がり過ぎることを回避できる。
【0069】
セメントクリンカ製造装置100は、塩素バイパス設備90を備えるため、安定的に運転することが可能であり、安定的にセメントクリンカを製造することができる。また、原料ダストを有効利用して、セメントクリンカの収量を増やすことができる。また、クリンカダストが低減され、クリンカダストの処理コストを低減することができる。
【0070】
[セメントクリンカの製造方法]
一実施形態に係るセメントクリンカの製造方法は、セメントクリンカ製造装置100を用いて行うことができる。これらの方法は、予熱仮焼部40でセメント原料を予熱および仮焼する予熱仮焼工程と、予熱および仮焼されたセメント原料を、窯尻52からキルン本体56に導入し、セメントクリンカを製造する焼成工程(投入工程)と、焼成工程で発生するキルン排ガスを抽気して抽気ガスを得る抽気工程と、断熱部材によって断熱された抽気管21を介して抽気ガスを導入し、抽気ガスから分級部22で原料ダストの粗粉を分離する分級工程と、抽気管21の内部に高温の排ガスを供給する排ガス供給工程と、分級部22から導出される、原料ダストの粗粉が低減された導出ガスが流通する流路に旋回流が生じるように冷却ガスを導入する冷却ガス導入工程と、導出ガスを含むガスを冷却する冷却工程と、冷却工程で冷却された導出ガスを含むガスに含まれるクリンカダストを回収するダスト回収工程とを有していてもよい。セメント原料および/またはセメント焼成の熱エネルギーには塩素含有廃棄物が含まれ得る。したがって、焼成工程は、セメント原料および/またはセメント焼成の熱エネルギーをセメントキルンに投入する投入工程ということもできる。また、分級工程で分離された原料ダストの粗粉をセメントキルン50側に戻す循環工程と、を有してもよい。また、焼成工程で得られたセメントクリンカを、クリンカクーラ60で冷却するクリンカ冷却工程を有してもよい。
【0071】
予熱仮焼工程では、セメント原料がサイクロンC1とサイクロンC2の間の流路から導入される。セメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2およびサイクロンC3を流通して予熱される。その後、仮焼炉44に導入され、仮焼される。仮焼炉44には、石炭等の熱エネルギー源を供給するバーナや廃プラスチックを投入するバーナが設けられていてよい。仮焼炉44で仮焼されたセメント原料(仮焼原料)は、サイクロンC4に導入され加熱される。
【0072】
焼成工程(投入工程)では、サイクロンC4で加熱された仮焼原料が窯尻52に導入される。その後、キルン本体56において焼成されセメントクリンカとなる。
【0073】
抽気工程では、焼成工程で発生するキルン排ガスを抽気口21Aから抽気する。また、分級工程では、断熱部材によって断熱された抽気管21を介して前記抽気ガスを導入し分級を行う。塩素分が抽気ガスに気相として含まれている状態で、原料ダストの粗粉を分離することができる。したがって、揮発した塩素分が単独で析出して、または原料ダストの表面に析出することによりコーチングが発生し、分級部22が閉塞することを抑制できる。また、塩素が析出した原料ダストをセメントキルン側に循環流路で戻すことを抑制することができる。
【0074】
排ガス供給工程では、抽気管21の内部に高温の排ガスを供給することで堆積するダストを除去する。抽気管21の内部に堆積し得るダストDを排ガスによって飛散させることで、管内の閉塞が発生する可能性を低減することができる。
【0075】
循環工程では、分級部22で分級された粗粉をセメントキルン50の窯尻52に戻すことによって、セメントクリンカの生産量を効率よく増やすことができる。また、冷却ガス導入工程では、分級部22から導出される導出ガスに冷却ガスを合流させて導出ガスを冷却する。
【0076】
また、円管26で構成される導出ガスを含むガスの流路24の内壁面の周方向に沿って冷却ガスを導入することによって、旋回流を生じさせてもよい。これによって、流路24にクリンカダストが付着してコーチングが発生することを抑制できる。冷却ガス導入工程で冷却ガスGを混合することによって冷却された導出ガスを含むガスの温度は、設備の耐熱性の観点から600℃以下であってよく、500℃以下であってもよい。導出ガスがこのように冷却されることによって、揮発した塩素分が単独で析出して、または原料ダストの表面に析出してクリンカダストができる。
【0077】
冷却工程では、例えば熱交換器を備える冷却部70において導出ガスを含むガスを例えば260℃未満、好ましくは200℃未満に冷却する。ダスト回収工程では、回収部72において冷却された導出ガスを含むガスに含まれるダストを回収する。このようにして回収されるダストはクリンカダストと称される。この製造方法によって、塩素バイパス設備90およびセメントクリンカ製造装置100を安定的に運転することができる。また、原料ダストを有効利用して、セメントクリンカを効率よく製造することができる。また、分級工程で原料ダストの粗粉を分離したことでクリンカダストの量が低減され、クリンカダストの処理コストを低減することができる。
【0078】
[バイパス設備の運転方法]
一実施形態に係る塩素バイパス設備の運転方法は、上述の抽気工程、分級工程、排ガス供給工程、混合工程、冷却工程およびダスト回収工程を有してよい。また、上述の循環工程を有していてもよいし、上述のセメントクリンカの製造方法のいずれかの工程をさらに有していてもよい。この運転方法はセメントクリンカ製造装置100に備えらえる塩素バイパス設備90を用いて行うことができる。したがって、各工程の内容は、上述のセメントクリンカの製造方法における内容と同様であってよい。
【0079】
[廃棄物処理方法]
上記のセメントクリンカの製造方法は、塩素含有廃棄物の処理方法ということもできる。すなわち、一実施形態に係る塩素含有廃棄物の処理方法は、上述のセメントクリンカ製造装置100において塩素含有廃棄物を処理する方法であり、上述の投入工程、抽気工程、分級工程、排ガス供給工程を含んでいてもよい。さらに、冷却工程、ダスト回収工程を有してよい。また、上述の循環工程を有していてもよいし、上述のセメントクリンカの製造方法のいずれかの工程をさらに有していてもよい。塩素含有廃棄物としては、例えば、セメント原料で用いる焼却灰や、セメント焼成の熱エネルギーとして用いられる廃プラスチックなどが挙げられる。
【0080】
[作用]
以上の例によれば、塩素バイパス設備90においては、断熱部材によって断熱された抽気管21の内部へ、排ガス供給部20によって高温の排ガスが供給される。これにより、抽気管21内のダストDが除去される。そのため、ダストの堆積による抽気管21の閉塞の発生が抑制される。
【0081】
従来から、770℃以上の導出ガスが排出される条件で抽気ガスの分級を行うことが検討されている。このとき、抽気口21Aにおいて抽気された抽気ガスを分級部22まで高温のまま移動させることが求められるため、抽気管21は断熱構造とする必要がある。しかしながら、断熱構造を採用した場合、従来の塩素バイパス設備のように、抽気管内に多量の冷却風を導入してダストを吹き飛ばす構造は、抽気ガスの温度を低下させてしまうため、採用できない。そのため、抽気管21内部がダストDによって閉塞する可能性が生じ得る。これに対して、上記の構成では、抽気管21の内部に、高温の排ガスが供給されることによって、堆積するダストが除去される。そのため、ダストの堆積による抽気管21の閉塞の発生が抑制される。また、高温の排ガスが用いられるため、抽気管21内部の温度低下が抑制される。このため、内部を流れる抽気ガスの温度低下も抑制される。
【0082】
排ガス供給部20は、抽気管21の内壁に沿うように排ガスを供給してもよい。上記のように抽気管21の内壁に沿うように排ガスを供給することで、広範囲の堆積ダストを除去することが可能になる。そのため、ダストの堆積による抽気管21の閉塞の発生が抑制される。
【0083】
排ガス供給部20から供給される排ガスの抽気管21の内部への吐出口として、開口212が設けられる。開口212は、抽気ガスの流路の延在方向に対して交差する方向に延びる長尺状であってもよい。上記の構成とすることで、抽気管21の内部のより広範囲に向けて排ガスを供給することが可能となり、ダストの除去をより効率よく行うことができる。
【0084】
排ガスは、プラスチックを熱処理することによって生じた熱分解ガスを燃焼することによって得られたガスであってもよい。上記の構成とすることで、プラスチックの熱処理によって発生した熱分解ガスに含まれる塩素についても、クリンカダストとして回収することが可能となる。
【0085】
また、排ガスは、抽気口21Aが接続するセメントキルン50における抽気口21Aとは異なる第2の抽気口から抽気されたガスであってもよい。また、排ガスは、セメントキルン50とは異なるセメントキルンから抽気されたガスであってもよい。このような構成とすることで、既存の設備から発生するガスを利用して、抽気管21内のダストの除去を行うことができる。
【0086】
また、抽気管21の内部に堆積するダストの堆積量を測定するダスト測定部37をさらに有し、排ガス供給部20は、ダスト測定部37により測定されたダストの堆積量に基づいて、排ガスの供給量を調整してもよい。この場合、ダストの堆積量に応じて、排ガスの供給量を調整することが可能となるため、ダストの堆積によって抽気管の内部が閉塞される可能性を低減させることができる。そのため、塩素バイパス設備90の安定した運転を実現することができる。
【0087】
上記の例において、セメントクリンカ製造装置100は、上述のいずれかの塩素バイパス設備90を有する。上記のセメントクリンカ製造装置100は、上述の塩素バイパス設備90を含むため、ダストの堆積による抽気管21の閉塞の発生が抑制される。
【0088】
また、上記のセメントクリンカの製造方法は、上記のセメントクリンカ製造装置100を用いてセメントクリンカを製造する。上記のセメントクリンカの製造方法は、上述の塩素バイパス設備90を用いてセメントクリンカを製造するため、ダストの堆積による抽気管の閉塞の発生が抑制される。
【0089】
上記の塩素バイパス設備90の運転方法は、セメント原料をセメントキルンで焼成する際に発生するキルン排ガスを抽気して抽気ガスを得る抽気工程と、断熱部材によって断熱された抽気管を介して抽気ガスを導入し、抽気ガスから原料ダストの粗粉を分離し、前記原料ダストの微粉を含む770℃以上の温度を有する導出ガスを得る分級工程と、抽気管の内部に高温の排ガスを供給する排ガス供給工程と、を含む。この塩素バイパス設備の運転方法によれば、断熱部材によって断熱された抽気管の内部へ高温の排ガスが供給されることで、抽気管内のダストが除去される。そのため、ダストの堆積による抽気管の閉塞の発生が抑制される。
【0090】
また、上記の塩素含有廃棄物処理方法は、セメントクリンカ製造装置100によって廃棄物を処理する方法であって、塩素含有廃棄物を、セメント原料および/またはセメント焼成の熱エネルギーとしてセメントキルンへ投入する投入工程と、セメントキルンの窯尻、ライジングダクトまたはこれらの間からキルン排ガスを得る抽気工程と、抽気工程で得られた抽気ガスを、断熱部材によって断熱された抽気管を介して導入し、抽気ガスから原料ダストの粗粉を分離し、原料ダストの微粉を含む770℃以上の温度を有する導出ガスを得る分級工程と、抽気管の内部に高温の排ガスを供給する排ガス供給工程と、を含む。この塩素含有廃棄物処理方法によれば、断熱部材によって断熱された抽気管の内部へ高温の排ガスが供給されることで、抽気管内のダストが除去される。そのため、ダストの堆積による抽気管の閉塞の発生が抑制される。さらに、上記のセメントクリンカ製造装置100で塩素含有廃棄物を処理することで、塩素バイパス設備を安定的に運転することが可能になり、塩素を効率よく大量に処理することができる。
【0091】
[変形例]
本明細書における開示はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲において、以上の例に対して種々の省略、置換、変更などが行われてもよい。
【0092】
上記実施形態では、抽気口21Aがライジングダクト42に設けられているが、これに限定されない。例えば、抽気口21Aは窯尻52に設けられてもよく、窯尻52とライジングダクト42の間(または境界部)に設けられてもよい。
【0093】
また、排ガスと抽気ガスとの合流位置を抽気管21以外にも設ける場合、その場所は特に限定されない。また、排ガスの流路を分岐して、排ガスを複数箇所に分けて抽気ガスまたは混合ガスと合流するようにしてもよい。この場合、複数の合流部において合流する排ガスの流量を個別に調節可能な構成としてもよい。
【0094】
上述の塩素バイパス設備90およびセメントクリンカ製造装置100に関する説明内容は、上述のセメントクリンカの製造方法および塩素バイパス設備の運転方法の説明内容にも適用される。また、上記製造方法および運転方法の説明内容も、上述の塩素バイパス設備90およびセメントクリンカ製造装置100の説明内容に適用される。
【0095】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、分級部22で分離された原料ダストの粗粉は循環流路27を介してセメントキルン50側に戻していたがこれに限定されない。例えば、セメント原料のタンクに入れてセメント原料として予熱仮焼部40に供給されてもよい。また、導出ガスの流路24を構成する円管26は水平に配置されずに、水平方向に対して傾斜して配置されてもよい。塩素バイパス設備は、冷却ガス導入部80と冷却部70の間に混合チャンバを有していてもよい。
【符号の説明】
【0096】
10…制御部、20…排ガス供給部、21,21X…抽気管、21A…抽気口、22…分級部、24…流路、26…円管、27…循環流路、30…廃プラスチック脱塩設備、32…燃焼炉、33…流路、34…ダンパー、35…脱塩炉、37…ダスト測定部、40…予熱仮焼部、42…ライジングダクト、44…仮焼炉、50…セメントキルン、52…窯尻、70…冷却部、72…回収部、74…吸引部、80…冷却ガス導入部、81…流路、90…塩素バイパス設備、100…セメントクリンカ製造装置、F1…抽気ガス、F2…排ガス。