(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154647
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 107/50 20060101AFI20221005BHJP
C10M 105/32 20060101ALI20221005BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20221005BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20221005BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20221005BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
C10M107/50
C10M105/32
F16C33/10 A
C10N20:02
C10N40:02
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057773
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿賀野 静
【テーマコード(参考)】
3J011
4H104
【Fターム(参考)】
3J011AA07
3J011SB19
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BH03A
4H104CA04A
4H104CJ10A
4H104LA03
4H104PA01
(57)【要約】
【課題】-70℃において適切な粘性を有しながらも、耐摩耗性に優れる、潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】下記成分(A)及び(B)を含有し、下記要件(I)を満たす、潤滑油組成物。
・成分(A):有機シラン化合物
・成分(B):エステル油(B1)及び炭化水素油(B2)からなる群から選択される1種以上
・要件(I):前記潤滑油組成物の-70℃におけるせん断粘度が、25,000mPa・s以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び(B)を含有し、下記要件(I)を満たす、潤滑油組成物。
・成分(A):有機シラン化合物
・成分(B):エステル油(B1)及び炭化水素油(B2)からなる群から選択される1種以上
・要件(I):前記潤滑油組成物の-70℃におけるせん断粘度が、25,000mPa・s以下である。
【請求項2】
前記成分(A)は、下記一般式(a1)で表される化合物(A1)から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【化1】
[前記一般式(a1)中、nは0~4の整数である。
n=0である場合、R
a1は、炭素数1~3の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である。複数存在するR
a1は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
n=4である場合、R
a2は、炭素数2~8の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である。複数存在するR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
n=1~3である場合、R
a1は、炭素数1~3の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である。R
a2は、炭素数1~8の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である。
n=1である場合、複数存在するR
a1は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
n=2である場合、複数存在するR
a1及びR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
n=3である場合、複数存在するR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
【請求項3】
前記化合物(A1)は、前記一般式(a1)中、n=4であり、Ra2が炭素数2~8のアルキル基であり、4つ存在するRa2が同一の基である、請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記成分(A)は、融点が-60℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記エステル油(B1)は、融点が-60℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記炭化水素油(B2)は、流動点が-60℃以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
-70℃以下の環境下において含浸軸受油として用いられる、請求項1~6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の潤滑油組成物を、-70℃以下の環境下において含浸軸受油として使用する、使用方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の潤滑油組成物を含浸させた、含油軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車電装機器、家電機器、及びOA事務機器等の機器に組み込まれる軸受として、金属粉末を焼結して成形した含油軸受が広く利用されている。
含油軸受は、一般的に、原料である金属粉末を、混合、成形、焼結、及びサイジング等の各工程を経て多孔質の金属体に成形した後、含浸装置を用いて、当該金属体に潤滑油を真空含油して製造されたものであって、自己給油の状態で使用される滑り軸受である。
含油軸受は、回転軸の回転に起因するポンピング作用により、多孔質の金属体に含浸されていた潤滑油が回転軸と軸受内面との摺動面に供給され、潤滑を行うものであって、耐久性や剛性に優れるだけでなく、生産コストも低く抑えられるという利点もある。
【0003】
含油軸受に含浸される潤滑油組成物は各種提案されており、近年では、低温環境下で使用することを想定した潤滑油組成物も提案されている。例えば、特許文献1では、北欧や北米等の寒冷地での使用を想定し、エステル油を含む基油と、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有する重合体とを含有し、重合体の含有量を特定の範囲に調整しつつ、粘度指数と-40℃におけるBF(ブルックフィールド)粘度を特定の範囲に調整した潤滑油組成物が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、例えば-70℃以下のさらなる低温環境下で使用される含油軸受に適用可能な潤滑油組成物が要求されてきている。
しかし、特許文献1の潤滑油組成物は、-40℃程度での使用を想定しており、-70℃以下での使用を想定した潤滑油組成物ではない。
そこで、含油軸受に含浸される潤滑油組成物として、-70℃以下の環境下での使用を想定した潤滑油組成物の創出も望まれている。
【0006】
-70℃以下の環境下において含浸軸受油として使用される潤滑油組成物には、-70℃以下の温度領域において、適切な粘性を有することが求められる。加えて、耐摩耗性に優れることも求められる。
しかしながら、-70℃以下の温度領域における潤滑油組成物の粘性については、未だ十分な検討がされていない。また、-70℃以下の温度領域においては、従来の潤滑油組成物に配合されている極圧剤や耐摩耗剤等の性能を発揮させることは困難である。そのため、潤滑油組成物の耐摩耗性を良好なものとするためには、このような添加剤に依拠することができず、基油自体の耐摩耗性に依拠せざるを得ないという問題もある。
このような理由から、-70℃以下の環境下において含浸軸受油として使用される潤滑油組成物の創出は困難であると考えられている。
本発明者は、かかる状況下、-70℃以下の環境下における使用を想定し、適切な粘性を有しながらも、耐摩耗性に優れる潤滑油組成物を創出することを考えた。
【0007】
したがって、本発明は、-70℃において適切な粘性を有しながらも、耐摩耗性に優れる、潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、特定の2種の化合物を組み合わせて用い、特定の要件を満たす潤滑油組成物が、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記[1]~[3]に関する。
[1] 下記成分(A)及び(B)を含有し、下記要件(I)を満たす、潤滑油組成物。
・成分(A):有機シラン化合物
・成分(B):エステル油(B1)及び炭化水素油(B2)からなる群から選択される1種以上
・要件(I):前記潤滑油組成物の-70℃におけるせん断粘度が、25,000mPa・s以下である。
[2] 上記[1]に記載の潤滑油組成物を、-70℃以下の環境下において含浸軸受油として使用する、使用方法。
[3] 上記[1]に記載の潤滑油組成物を含浸させた、含油軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、-70℃において適切な粘性を有しながらも、耐摩耗性に優れる、潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0012】
[潤滑油組成物の態様]
本実施形態の潤滑油組成物は、下記成分(A)及び(B)を含有し、下記要件(I)を満たす。
・成分(A):有機シラン化合物
・成分(B):エステル油(B1)及び炭化水素油(B2)からなる群から選択される1種以上
・要件(I):前記潤滑油組成物の-70℃におけるせん断粘度が、25,000mPa・s以下である。
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、上記成分(A)と上記成分(B)とを組み合わせて用いることで、-70℃においても適切な粘性(流動性)を有し、上記要件(I)を満たす潤滑油組成物を調製できることを見出した。また、本発明者は、上記成分(A)と上記成分(B)を組み合わせて用いることで、潤滑油組成物の耐摩耗性も優れたものとできることを見出した。本発明者は、これらの点に基づき種々検討を重ね、本発明を完成するに至った。
なお、上記成分(A)及び上記成分(B)は、潤滑油組成物を構成する基油成分に相当する成分である。したがって、本発明の効果は、添加剤に依拠することなく、基油成分のみによって奏されているといえる。
【0014】
本実施形態の潤滑油組成物は、成分(A)及び成分(B)のみから構成されていることが好ましいが、本発明の効果を大きく損なうことのない範囲で、成分(A)及び成分(B)以外の他の成分を含んでいてもよい。
本実施形態の潤滑油組成物において、成分(A)及び成分(B)の合計含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは90質量%~100質量%、更に好ましくは95質量%~100質量%、より更に好ましくは98質量%~100質量%である。
なお、実質的に成分(A)及び成分(B)のみから構成される潤滑油組成物は、潤滑油基油と呼ぶこともできる。
以下、本実施形態の潤滑油組成物が含有する各成分について、詳細に説明する。
【0015】
<成分(A)>
本実施形態の潤滑油組成物は、成分(A)として、有機シラン化合物を含有する。
成分(A)を含有しない場合、上記要件(I)を満たすことができず、-70℃において適切な粘性を有する潤滑油組成物を調製することができない。
なお、成分(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
有機シラン化合物としては、ケイ素原子に4つの1価有機基が結合した化合物が挙げられ、これらの化合物のうち、成分(B)との組み合わせで上記要件(I)を満たす化合物を、特に制限なく使用することができる。
当該4つの1価有機基は、成分(B)との組み合わせで上記要件(I)を満たしやすくする観点から、各々独立して、好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルキルオキシ基、又はアルケニルオキシ基であり、より好ましくはアルキル基又はアルキルオキシ基である。
当該4つの1価有機基は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよいが、アルキルオキシ基を1つ以上含むことが好ましく、アルキルオキシ基を2つ以上含むことが好ましく、アルキルオキシ基を3つ以上含むことが更に好ましく、アルキルオキシ基を4つ含むことがより更に好ましい。
なお、アルキル基の炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、更に好ましくは1~2である。アルケニル基の炭素数は、好ましくは2~4、より好ましくは2~3、更に好ましくは2である。
また、アルキルオキシ基及びアルケニルオキシ基の炭素数は、好ましくは2~12、より好ましくは2~10、更に好ましくは2~8である。
また、4つの1価有機基は、同一の基であることが好ましい。
【0017】
(化合物(A1))
ここで、成分(B)との組み合わせで上記要件(I)をより満たしやすくする観点から、成分(A)としての有機シラン化合物は、下記一般式(a1)で表される化合物(A1)から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【化1】
前記一般式(a1)中、nは0~4の整数である。
n=0である場合、R
a1は、炭素数1~3の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である。複数存在するR
a1は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
n=4である場合、R
a2は、炭素数2~8の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である。複数存在するR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
n=1~3である場合、R
a1は、炭素数1~3の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である。R
a2は、炭素数1~8の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である。
n=1である場合、複数存在するR
a1は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
n=2である場合、複数存在するR
a1及びR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
n=3である場合、複数存在するR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0018】
(n=0である場合)
Ra1として選択し得る、炭素数1~3の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、エテニル基、2-プロペニル基等が挙げられるが、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、当該脂肪族炭化水素は直鎖であることが好ましい。
また、同様の観点から、当該脂肪族炭化水素基は、アルキル基であることが好ましい。
さらに、同様の観点から、4つ存在するRa1は、同一の基であることが好ましい。
当該脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~2である。
【0019】
(n=4である場合)
Ra2として選択し得る、炭素数2~8の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基としては、エチル基、各種プロピル基、各種イソブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、エテニル基、各種プロペニル基、各種ブテニル基、各種ペンテニル基、各種ヘキセニル基、各種へプテニル基、各種オクテニル基が挙げられる。
これらの中でも、炭素数2~8の直鎖又は分岐のアルキル基が好ましい。
なお、本明細書中、「各種XX基」とは、直鎖状のXX基だけでなく、同一炭素数の脂肪族炭化水素基における各種の分岐状の異性体も包含されることを意味する。
なお、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、Ra2として選択し得る脂肪族炭化水素基は、アルキル基であることが好ましい。
また、上記要件(I)をより満たしやすくする観点から、当該脂肪族炭化水素基は、直鎖状であることが好ましい。また、同様の観点から、当該脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは2~6、より好ましくは2~5、更に好ましくは2~4である。
さらに、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、4つ存在するRa2は、同一の基であることが好ましい。
【0020】
(n=1~3である場合)
Ra1として選択し得る、炭素数1~3の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基としては、n=0の場合と同様のものが挙げられる。
なお、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、当該脂肪族炭化水素は直鎖であることが好ましい。
また、同様の観点から、当該脂肪族炭化水素基は、アルキル基であることが好ましい。
さらに、同様の観点から、n=1又はn=2であり、Ra1が複数存在する場合、複数存在するRa1は、同一の基であることが好ましい。
Ra2として選択し得る、炭素数1~8の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種イソブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、エテニル基、各種プロペニル基、各種ブテニル基、各種ペンテニル基、各種ヘキセニル基、各種へプテニル基、各種オクテニル基が挙げられる。
なお、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、当該脂肪族炭化水素は直鎖であることが好ましい。
また、同様の観点から、当該脂肪族炭化水素基は、アルキル基であることが好ましい。
さらに、同様の観点から、n=2又はn=3であり、Ra2が複数存在する場合、複数存在するRa2は、同一の基であることが好ましい。
また、同様の観点から、n=1又はn=2であり、Ra1が複数存在する場合、複数存在するRa1は、同一の基であることが好ましい。
【0021】
また、化合物(A1)の中でも、本発明の効果をより発揮させやすくする観点からは、n=4である化合物が好ましい。また、n=4である化合物において、Ra2は、炭素数2~8(好ましくは2~6、より好ましくは2~5、更に好ましくは2~4)の直鎖のアルキル基が好ましい。また、4つ存在するRa2は、同一の基であることが好ましい。
【0022】
化合物(A1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、成分(A)中の化合物(A1)の含有量は、成分(A)の全量基準で、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%、一層好ましくは95質量%~100質量%である。
【0023】
(成分(A)の融点)
成分(A)としての有機シラン化合物、当該有機シラン化合物の好ましい態様である化合物(A1)は、成分(B)との組み合わせで上記要件(I)を満たしやすくする観点から、融点が低いことが好ましい。
具体的には、融点は、-60℃以下であることが好ましく、-65℃以下であることがより好ましく、-70℃以下であることが更に好ましい。
なお、本明細書において、融点は、示差走査熱量(DSC)法により測定した値を意味する。
【0024】
(好ましい有機シラン化合物の態様)
成分(A)としての有機シラン化合物として好ましい化合物としては、既述のように化合物(A1)が挙げられる。
そして、化合物(A1)の中でも、-60℃以下のものが好ましく、-65℃以下のものがより好ましく、-70℃以下のものが更に好ましい。
このような化合物(A1)として好ましいものを具体的に例示すると、テトラn-ブトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(2-エチルヘキシルオキシ)シラン等が挙げられる。
【0025】
(成分(A)の含有量)
成分(A)の含有量は、成分(B)との組み合わせで上記要件(I)をより満たしやすくする観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上である。
また、成分(A)の含有量は、耐摩耗性向上の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは40質量%~90質量%、より好ましくは50質量%~85質量%、更に好ましくは60質量%~80質量%、より更に好ましくは70質量%~80質量%である。
【0026】
<成分(B)>
本実施形態の潤滑油組成物は、下記成分(B)を含有する。
・成分(B):エステル油(B1)及び炭化水素油(B2)からなる群から選択される1種以上
成分(B)を含有しない場合、耐摩耗性に優れる潤滑油組成物を調製することができない。
【0027】
成分(B)としては、エステル油(B1)から選択される1種以上を用いてもよく、炭化水素油(B2)から選択される1種以上を用いてもよく、エステル油(B1)から選択される1種以上と炭化水素油(B2)から選択される1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
以下、エステル油(B1)及び炭化水素油(B2)について、詳細に説明する。
【0028】
(エステル油(B1))
エステル油(B1)としては、エステル結合を有する化合物が挙げられ、これらの化合物の中でも、成分(A)との組み合わせで上記要件(I)を満たす化合物を、特に制限なく使用することができる。
エステル油(B1)としては、具体的には、例えば、二塩基酸エステル、一塩基酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、芳香族エステル、リン酸エステル等が挙げられる。
エステル油(B1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
これらの中でも、エステル油(B1)は、成分(A)との組み合わせで上記要件(I)を満たしやすくする観点から、二塩基酸エステル、一塩基酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上のエステル化合物を含むことが好ましい。
また、成分(A)との組み合わせで上記要件(I)を満たしやすくする観点、及び耐摩耗性をより向上させやすくする観点から、エステル油(B1)は、二塩基酸エステル及び一塩基酸エステルからなる群から選択される1種以上のエステル化合物を含むことがより好ましい。
【0030】
(二塩基酸エステル)
二塩基酸エステルとしては、二塩基酸と第1級アルコールとのエステルが挙げられ、好ましくは二塩基酸と第1級アルコールとの完全エステル(二塩基酸ジエステル)が挙げられる。これらの中でも、下記一般式(b-1)で表される化合物が好ましい。
【化2】
【0031】
上記一般式(b-1)中、Rb1及びRb2は、それぞれ独立に、炭素数2~20の直鎖又は分岐のアルキル基である。
当該アルキル基の炭素数は、好ましくは4~16、より好ましくは4~12、更に好ましくは4~10、より更に好ましくは4~8である。
【0032】
Rb1及びRb2として選択し得る、炭素数2~20のアルキル基を例示すると、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、3,3,5-トリメチルヘキシル基、デシル基、ジメチルオクチル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
なお、当該アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
【0033】
また、上記一般式(b-1)中、Rb3は、炭素数1~16のアルキレン基又は炭素数2~4のアルケニレン基である。
Rb3として選択し得るアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、2-エチルヘキシレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、トリデシレン基、ヘキサデシレン基等が挙げられる。
Rb3として選択し得るアルケニレン基としては、エテニレン基、2-プロピレン-1,2-ジイル基、2-ブテン-2,3-ジイル基等が挙げられる。
なお、当該アルキレン基及びアルケニレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
また、当該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~8、更に好ましくは1~6である。
また、当該アルケニレン基の炭素数は、好ましくは2~3、より好ましくは2である。
【0034】
二塩基酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
(一塩基酸エステル)
一塩基酸エステルは、一塩基酸と第1級アルコールとのエステルである。本実施形態では、一塩基酸エステルの中でも、下記一般式(b-2)で表される化合物が好ましい。
【化3】
【0036】
上記一般式(b-2)中、Rb4は、炭素数2~20の直鎖又は分岐のアルキル基である。
当該アルキル基の炭素数は、好ましくは4~16、より好ましくは6~14、更に好ましくは6~10である。
Rb4として選択し得る、炭素数2~20のアルキル基としては、Rb1及びRb2として選択し得るアルキル基として例示した基と同様の基が挙げられる。
【0037】
また、上記一般式(b-2)中、Rb5は、炭素数1~16の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~16の直鎖又は分岐のアルキル基である。
Rb5として選択し得る、炭素数1~16のアルキル基としては、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種イソブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基が挙げられる。
当該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、更に好ましくは1~2である。
【0038】
一塩基酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
(グリセリン脂肪酸エステル)
グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸とのエステルが挙げられ、好ましくはグリセリンと脂肪酸との完全エステル(グリセリン脂肪酸トリエステル)が挙げられる。
【0040】
グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖の飽和脂肪酸が好ましい。
また、脂肪酸の炭素数としては、好ましくは1~10、より好ましくは2~8、更に好ましくは2~6である。
当該脂肪酸を例示すると、酪酸(n-ブタン酸)、イソ酪酸(イソブタン酸)、吉草酸(n-ペンタン酸)、カプロン酸(n-ヘキサン酸)、エナント酸(n-ヘプタン酸)、カプリル酸(n-オクタン酸)、ペラルゴン酸(n-ノナン酸)、カプリン酸(n-デカン酸)、イソペンタン酸(3-メチルブタン酸)、2-メチルブタン酸、2-エチルブタン酸、2-メチルペンタン酸、2-エチルペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸等が挙げられる。
【0041】
グリセリン脂肪酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(エステル油(B1)の融点)
エステル油(B1)、エステル油(B1)の好ましい態様である上記二塩基酸エステル、上記一塩基酸エステル、上記グリセリン脂肪酸エステルは、成分(A)との組み合わせで上記要件(I)を満たしやすくする観点から、融点が低いことが好ましい。
具体的には、融点は、-60℃以下であることが好ましく、-65℃以下であることがより好ましく、-70℃以下であることが更に好ましい。
【0043】
(好ましいエステル油(B1)の態様)
エステル油(B1)としては、既述のように二塩基酸エステル、一塩基酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上のエステル化合物を含むことが好ましく、二塩基酸エステル及び一塩基酸エステルからなる群から選択される1種以上のエステル化合物を含むことがより好ましい。
そして、エステル油(B1)の中でも、-60℃以下のものが好ましく、-65℃以下のものがより好ましく、-70℃以下のものが更に好ましい。
このようなエステル油(B1)として好ましいものを具体的に例示すると、二塩基酸エステルとしては、二塩基酸ジエステルが好ましい。好ましい二塩基酸エステルを例示すると、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、マレイン酸ジn-ブチル等が挙げられる。
好ましい一塩基酸エステルを例示すると、酢酸(2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリン脂肪酸トリエステルが好ましい。好ましいグリセリン脂肪酸トリエステルを例示すると、トリブチリン等が挙げられる。
【0044】
なお、エステル油(B1)中の二塩基酸エステル、一塩基酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上のエステル化合物の含有量は、エステル油(B1)の全量基準で、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%、一層好ましくは95質量%~100質量%である。
また、エステル油(B1)中の二塩基酸エステル及び一塩基酸エステルからなる群から選択される1種以上のエステル化合物の含有量は、エステル油(B1)の全量基準で、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%、一層好ましくは95質量%~100質量%である。
【0045】
(炭化水素油(B2))
炭化水素油(B2)としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンコオリゴマー等のポリ-α-オレフィン(PAO)及びこれらの水素化物等が挙げられ、これらのうち、成分(A)との組み合わせで上記要件(I)を満たす化合物を、特に制限なく使用することができる。
【0046】
(炭化水素油(B2)の流動点)
炭化水素油(B2)は、成分(A)との組み合わせで上記要件(I)を満たしやすくする観点から、流動点が低いことが好ましい。
具体的には、流動点は、-60℃以下であることが好ましく、-65℃以下であることがより好ましく、-70℃以下であることが更に好ましい。
なお、本明細書において、「流動点」は、JIS K 2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準拠して測定される値を意味する。
【0047】
(成分(B)の好ましい態様)
既述のように、本実施形態において、エステル油(B1)は、成分(A)との組み合わせで上記要件(I)を満たしやすくする観点から、二塩基酸エステル、一塩基酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上のエステル化合物を含むことが好ましい。
したがって、成分(B)は、二塩基酸エステル、一塩基酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステル並びに炭化水素油(B2)からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
また、成分(A)との組み合わせで上記要件(I)を満たしやすくする観点、及び耐摩耗性をより向上させやすくする観点から、エステル油(B1)は、二塩基酸エステル及び一塩基酸エステルからなる群から選択される1種以上のエステル化合物を含むことがより好ましい。
したがって、成分(B)は、二塩基酸エステル及び一塩基酸エステル並びに炭化水素油(B2)からなる群から選択される1種以上であることがより好ましい。
二塩基酸エステルは二塩基酸ジエステルが好ましく、上記一般式(b-1)で表される化合物がより好ましい。
一塩基酸エステルは、上記一般式(b-2)で表される化合物が好ましい。
【0048】
(成分(B)の含有量)
成分(B)の含有量は、成分(A)との組み合わせで上記要件(I)をより満たしやすくする観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは30質量%以下である。
また、成分(B)の含有量は、耐摩耗性向上の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは10質量%~60質量%、より好ましくは15質量%~50質量%、更に好ましくは20質量%~40質量%、より更に好ましくは20質量%~30質量%である。
【0049】
<成分(A)と成分(B)との含有比率>
本実施形態の潤滑油組成物は、成分(A)と成分(B)との含有比率[(A)/(B)]が、下記範囲であることが好ましい。
すなわち、上記要件(I)をより満たしやすくする観点から、質量比で、好ましくは40/60以上、より好ましくは50/50以上、更に好ましくは60/40以上、より更に好ましくは70/30以上である。
また、耐摩耗性向上の観点から、質量比で、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下、更に好ましくは80/20以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは40/60~90/10、より好ましくは50/50~85/15、更に好ましくは60/40~80/20、より更に好ましくは70/30~80/20である。
【0050】
<要件(I):-70℃におけるせん断粘度>
本実施形態の潤滑油組成物は、下記要件(I)を満たす。
・要件(I):潤滑油組成物の-70℃におけるせん断粘度が、25,000mPa・s以下である。
要件(I)を満たさない潤滑油組成物は、-70℃における粘性が適切ではない。
ここで、要件(I)に規定する潤滑油組成物の-70℃におけるせん断粘度は、好ましくは20,000mPa・s以下、より好ましくは15,000mPa・s以下、更に好ましくは10,000mPa・s以下である。また、通常10mPa・s以上である。
要件(I)に規定する潤滑油組成物の-70℃におけるせん断粘度は、後述する実施例に記載の方法で測定される値である。
【0051】
<成分(A)及び成分(B)以外の他の成分>
本実施形態の潤滑油組成物は、既述のように、本発明の効果を大きく損なうことのない範囲で、成分(A)及び成分(B)以外の他の成分を含んでいてもよい。
当該他の成分としては、例えば、固体潤滑剤、酸化防止剤、及び防錆剤が挙げられる。
なお、当該他の成分には、意図しない不純物も含まれる。
【0052】
[潤滑油組成物の物性]
<-80℃における外観>
本実施形態の潤滑油組成物は、後述する実施例に記載の方法で評価した「-80℃における外観」が透明であることが好ましい。
【0053】
<摩耗痕径>
本実施形態の潤滑油組成物は、耐摩耗性をより向上させやすくする観点から、後述する実施例に記載の方法で評価した摩耗痕径が、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.2mm以下、更に好ましくは1.0mm未満である。
【0054】
[潤滑油組成物の製造方法]
本実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、特に制限されない。
例えば、本実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、成分(A)と成分(B)とを混合する工程を含む。
成分(A)及び成分(B)を混合する方法としては、特に制限はないが、例えば、成分(A)に成分(B)を配合する方法、又は、成分(B)に成分(A)を配合する方法が挙げられる。
成分(A)及び成分(B)以外の添加剤を配合する場合、当該添加剤は成分(B)と同時に成分(A)に配合してもよく、成分(B)とは別々に配合してもよい。あるいは、当該添加剤は成分(A)と同時に成分(B)に配合してもよく、成分(A)とは別々に配合してもよい。
各成分を配合した後、公知の方法により、撹拌して均一に分散させることが好ましい。
【0055】
[潤滑油組成物の用途]
本実施形態の潤滑油組成物は、-70℃において適切な粘性を有しながらも、耐摩耗性に優れる。したがって、本実施形態の潤滑油組成物は、低温環境下で用いられる装置に好適に使用することができる。具体的に、低温環境下で用いられる装置としては、超電導現象を利用した産業用機器、送電装置、医療機器等や、物性分析装置、加速器装置、ロケット装置、半導体製造装置、及び冷凍装置などが挙げられる。
また、本実施形態の潤滑油組成物は、低温環境下で用いられる含油軸受に好適に使用することができ、-70℃以下の環境下で用いられる含油軸受に特に好適に使用することができる。
したがって、本実施形態の潤滑油組成物によれば、下記方法が提供される。
(1)本実施形態の潤滑油組成物を、-70℃以下の温度環境下で含浸軸受油として使用する、使用方法。
(2)本実施形態の潤滑油組成物を、設定温度を-70℃以下に調整可能な冷凍装置に使用される含浸軸受油として使用する、使用方法。
なお、本明細書において、「-70℃以下」とは、例えば-85℃~-70℃、好ましくは-80℃~-70℃の低温環境を意味する。
【0056】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様によれば、下記[1]~[9]が提供される。
[1] 下記成分(A)及び(B)を含有し、下記要件(I)を満たす、潤滑油組成物。
・成分(A):有機シラン化合物
・成分(B):エステル油(B1)及び炭化水素油(B2)からなる群から選択される1種以上
・要件(I):前記潤滑油組成物の-70℃におけるせん断粘度が、25,000mPa・s以下である。
[2] 前記成分(A)は、下記一般式(a1)で表される化合物(A1)から選択される1種以上を含む、上記[1]に記載の潤滑油組成物。
【化4】
[前記一般式(a1)中、nは0~4の整数である。
n=0である場合、R
a1は、炭素数1~3の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である。複数存在するR
a1は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
n=4である場合、R
a2は、炭素数2~8の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である。複数存在するR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
n=1~3である場合、R
a1は、炭素数1~3の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である。R
a2は、炭素数1~8の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である。
n=1である場合、複数存在するR
a1は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
n=2である場合、複数存在するR
a1及びR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
n=3である場合、複数存在するR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
[3] 前記化合物(A1)は、前記一般式(a1)中、n=4であり、R
a2が炭素数2~8のアルキル基であり、4つ存在するR
a2が同一の基である、上記[2]に記載の潤滑油組成物。
[4] 前記成分(A)は、融点が-60℃以下である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
[5] 前記エステル油(B1)は、融点が-60℃以下である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[6] 前記炭化水素油(B2)は、流動点が-60℃以下である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[7] -70℃以下の環境下において含浸軸受油として用いられる、上記[1]~[6]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[8] 上記[1]~[7]のいずれかに記載の潤滑油組成物を、-70℃以下の環境下において含浸軸受油として使用する、使用方法。
[9] 上記[1]~[7]のいずれかに記載の潤滑油組成物を含浸させた、含油軸受。
【実施例0057】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実施例1~10、比較例1~3]
以下に示す各成分を、表1に示す含有量で加えて十分に混合し、潤滑油組成物を調製した。
実施例1~10及び比較例1~3で用いた各成分の詳細は、以下に示すとおりである。
【0059】
<成分(A)>
・「テトラn-ブトキシシラン」
上記一般式(a1)で表される化合物(A1)に該当し、上記一般式(a1)中、n=4であり、R
a2はn-ブチル基である。融点は-80℃である。
なお、本実施例において、融点は、示差走査熱量(DSC)法により測定した。
構造式を以下に示す。
【化5】
【0060】
・「テトラエトキシシラン」
上記一般式(a1)で表される化合物(A1)に該当し、上記一般式(a1)中、n=4であり、R
a2はエチル基である。融点は-80℃である。
構造式を以下に示す。
【化6】
【0061】
・「テトラ(2-エチルヘキシルオキシ)シラン」
上記一般式(a1)で表される化合物(A1)に該当し、上記一般式(a1)中、n=4であり、R
a2は2-エチルヘキシル基である。融点は-73℃以下である。
構造式を以下に示す。
【化7】
【0062】
<成分(B)>
(エステル油(B1-1))
・「アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)」
上記一般式(b-1)で表される化合物に該当し、上記一般式(b-1)中、Rb1及びRb2は2-エチルヘキシル基であり、Rb3はブチレン基である。融点は-70℃である。
(エステル油(B1-2))
・「酢酸(2-エチルヘキシル)」
上記一般式(b-2)で表される化合物に該当し、上記一般式(b-2)中、Rb4は2-エチルヘキシル基であり、Rb5はメチル基である。融点は-80℃である。
(エステル油(B1-3))
・「マレイン酸酸ジn-ブチル」
上記一般式(b-1)で表される化合物に該当し、上記一般式(b-1)中、Rb1及びRb2はn-ブチル基であり、Rb3はエテニレン基である。融点は-85℃である。
(エステル油(B1-4))
・「トリブチリン」
グリセリン脂肪酸トリエステルに該当し、構成脂肪酸が酪酸である化合物である。融点は-75℃である。
【0063】
(炭化水素油(B2))
・「炭化水素油(B2-1):PAO1」
Exon Mobil社製、製品名「EM SpectraSyn Plus3.6」
40℃動粘度:16mm2/s、100℃動粘度:3.652mm2/s、粘度指数:113、流動点:-66℃以下
なお、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
また、流動点は、JIS K 2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準拠して測定した。
【0064】
[評価方法]
成分(A)と成分(B)の相溶性を評価するため、以下に説明する「-80℃における外観の評価」を実施した。
また、調製した潤滑油組成物の-70℃における粘性を評価するため、以下に説明する「-70℃におけるせん断粘度の測定」を実施した。
さらに、調製した潤滑油組成物の耐摩耗性を評価するため、以下に説明する「シェル摩耗試験」を実施した。
【0065】
<-80℃における外観の評価>
試験対象である潤滑油組成物を、ガラス製の容器内に約5mL収容した。そして、当該容器を-80℃に設定した恒温槽内で3時間静置した後、当該容器内の潤滑油組成物の外観を目視で観察し、透明かつ分離していないことを合格とした。
【0066】
<-70℃におけるせん断粘度の評価>
試験対象である潤滑油組成物を、MCRレオメーター(Anton Paar社製、製品名「MCR 302」)を用いて、回転数3rps、20℃から降温速度3.3℃/minの条件で、温度降下し、-70℃に達した際のせん断粘度を評価対象とした。そして、-70℃におけるせん断粘度が、25,000mPa・s以下であるものを合格とした。
【0067】
<シェル摩耗試験>
試験対象である潤滑油組成物について、ASTM D2783に準拠して、四球試験機により、回転数1,200rpm、荷重392N、油温25℃(室温)、試験時間60分の条件でシェル摩耗試験を行った。そして、1/2インチ球3個の摩耗痕径の平均値を算出した。摩耗痕径が小さいほど、耐摩耗性に優れているといえる。
本実施例では、摩擦痕径が1.0mm未満のものを「A」、1.0~1.5mmのものを「B」、1.5mm超のものを「C」と評価し、評価A及びBを合格とした。
【0068】
試験結果を表1に示す。
【0069】
【0070】
表1より、以下のことがわかる。
実施例1~10の潤滑油組成物は、要件(I)を満たし、-70℃において適切な粘性を有していることがわかる。また、-70℃における外観が透明であり、耐摩耗性にも優れることがわかる。
これに対し、比較例1の潤滑油組成物は、成分(A)のみからなり、成分(B)を含まないため、シェル摩耗試験による摩耗痕径が大きく、耐摩耗性に劣ることがわかる。
また、比較例2及び3の潤滑油組成物は、成分(B)のみからなり、成分(A)を含まないため、-70℃において粘性が大きく、要件(I)を満たさないことがわかる。