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特開2022-154986液圧転写印刷用ベースフィルムおよび、液圧転写印刷用ベースフィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154986
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】液圧転写印刷用ベースフィルムおよび、液圧転写印刷用ベースフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/175 20060101AFI20221005BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20221005BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B44C1/175 D
C08L29/04 A
C08K5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058280
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】趙 廷敏
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 晋作
(72)【発明者】
【氏名】大久保 正憲
【テーマコード(参考)】
3B005
4J002
【Fターム(参考)】
3B005FE04
3B005FG02X
4J002BE021
4J002EC056
4J002FD026
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】 弛みが発生せず、ベースフィルムに意匠を印刷する際の印刷適性及び被転写体
への印刷層の転写特性に優れた液圧転写印刷用ベースフィルムを提供することを目的とす
る。
【解決手段】 ポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とする液圧転写印刷用ベース
フィルムであって、フィルムの幅方向における水分率x(重量%)の最大値xmaxと最
小値xminの差が0.3以下であり、かつフィルムの幅方向の平均水分率Mが2~5重
量%である液圧転写印刷用ベースフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とする液圧転写印刷用ベースフィルムであ
って、フィルムの幅方向における水分率x(重量%)の最大値xmaxと最小値xmin
の差が0.3以下であり、かつフィルムの幅方向の平均水分率Mが2~5重量%であるこ
とを特徴とする液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項2】
フィルムの幅方向における水分率x(重量%)の最小値xminが3.7以上であるこ
とを特徴とする請求項1記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して可塑剤(B)を0.05~5
重量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載の液圧転写印刷用ベースフィル
ム。
【請求項4】
幅が300~4000mm、かつ厚みが20~50μmであることを特徴とする請求項
1~3いずれか一項に記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精細な意匠をフィルム面に印刷することができる印刷特性に優れ、またフ
ィルム面に印刷された高精細な意匠を被転写体表面に精度よく転写することのできる転写
特性に優れた液圧転写印刷用ベースフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
凹凸を有する被転写体表面へ意匠を施す手法として液圧転写印刷法が行われており、こ
れは基材となるフィルム面に意匠を印刷し、その印刷面を上にして水面に浮かべ、フィル
ム上方から被転写体を水中に向けて押し当てて、被転写体の表面に印刷層の意匠を転写さ
せるものである。従来から、液圧転写印刷用ベースフィルムとして、ポリビニルアルコー
ル系樹脂を形成材料とするポリビニルアルコール系樹脂フィルムが用いられている。
【0003】
これらポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、水溶性で膨潤性に優れるため、液圧転
写印刷用ベースフィルムに適している一方で、柔軟性が高く、吸湿しやすいため、製膜後
、フィルムロールとして巻き取る際の張力や、フィルムロール保管時の湿度や温度の影響
により、フィルムに弛みが生じやすく、フィルムロールからフィルムを巻き出して使用す
る際に問題が生じることがある。
特に、転写印刷用途に用いる場合に、ベースフィルムに弛みがあると、フィルム面に印
刷層を形成する際に印刷ズレが発生し高精細な印刷層の形成が困難となったり、転写の際
に水面でのフィルムの伸展が不均一となり、印刷層に歪みが生じ、被転写体への高精細な
転写印刷が行えないなどの問題が生じるため、弛みのないフィルムであることが求められ
ている。
【0004】
弛みの少ないベースフィルムとして例えば、製膜時にフィルムの剥離応力が均一となる
ように剥離速度を調整することで、たわみ率の小さいフィルムを得ること(例えば、特許
文献1参照)や、巻き取り工程において、フィルムの巻き取り張力を特定範囲とすること
で、柔軟で延伸性のある水溶性PVAフィルムであっても保管時の残存応力を低減でき、
フィルムに歪みやシワが発生するのを防止できる水溶性ポリビニルアルコールフィルムの
製造方法(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-160922号公報
【特許文献2】国際公開WO2008/142835
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献の手法をもってしても、フィルムの組成や他の製造条件に
よっては弛み改善効果が十分に得られない場合があった。
【0007】
そこで、本発明ではこのような背景下において、弛みが発生せず、ベースフィルムに意
匠を印刷する際の印刷適性及び被転写体への印刷層の転写特性に優れた液圧転写印刷用ベ
ースフィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに、本発明者等が上記の目的を達成するため検討を重ねた結果、フィルムの幅方
向における水分率を非常に均一にすることにより、より弛みの発生が抑制された液圧転写
印刷用ベースフィルムが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とする液圧転
写印刷用ベースフィルムであって、フィルムの幅方向における水分率x(重量%)の最大
値xmaxと最小値xminの差が0.3以下であり、かつフィルムの幅方向の平均水分率Mが
2~5重量%である液圧転写印刷用ベースフィルムに関するものである。
さらに、本発明は前記液圧転写印刷用ベースフィルムの製造方法にも関するものである
【発明の効果】
【0010】
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムは、弛みの発生が抑制されるため、優れた意匠
印刷適性と転写特性を有し、高精細な意匠の液圧転写印刷に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成
分とするフィルムであって、フィルムの幅方向における水分率x(重量%)の最大値x
axと最小値xminの差が0.3以下であり、かつフィルムの幅方向の平均水分率Mが
2~5重量%である。
以下、液圧転写印刷用ベースフィルムを「ベースフィルム」、ポリビニルアルコールを
「PVA」、ポリビニルアルコール系樹脂を「PVA系樹脂」と略記することがある。
【0012】
本発明において、上記ベースフィルムの幅方向における水分率x(重量%)の最大値x
maxと最小値xminの差が大きすぎると、フィルムロールの保管中後にフィルムを巻
き出して使用する際に弛みが発生しやすくなる。
上記ベースフィルムの幅方向における水分率x(重量%)の最大値xmaxと最小値x
minの差は、0.25以下であることが特に好ましく、更に好ましくは0.2以下であ
る。最大値xmaxと最小値xminの差の下限値は通常0である。
【0013】
また、本発明において、ベースフィルムの幅方向の平均水分率Mが低すぎると、弛みが
発生しやすく、またベースフィルムの膨潤速度が低くなりカールが発生するなど転写特性
が低下する。一方平均水分率が高すぎても見当ずれなど転写特性が低下する。
上記ベースフィルムの幅方向の平均水分率Mは、3.0~4.8重量%であることが特
に好ましく、更に好ましくは3.5~4.7重量%、殊に好ましくは3.7~4.6重量
%である。
【0014】
さらに、上記ベースフィルムの幅方向における水分率x(重量%)の最小値xmin
、3.7以上であることが好ましく、特に好ましくは3.7~4.2、更に好ましくは3
.8~4.0である。ベースフィルムの幅方向における水分率の最小値xminが大きす
ぎると、フィルムを巻き出して使用する際に弛みが発生しやすくなる傾向がある。
【0015】
かかる幅方向における水分率の最大値と最小値の差および平均水分率が特定範囲のベー
スフィルムは、例えば、製膜工程において特定の条件で乾燥することにより製造すること
ができる。
【0016】
本発明において、上記のベースフィルムの幅方向における水分率x(重量%)の最大値
maxと最小値xminの差は、次のようにして測定、算出した値である。
フィルムを流れ方向の任意の位置で、フィルムの一方の端部から他方の端部に向けて5
0mm間隔で50mm×50mmサイズにして計n個切り出し、それぞれの区画の水分率
xi(i=1、2、3、・・・、n)をカールフィッシャー水分計を用いて測定する。測
定される水分率xi(i=1、2、3、・・・、n)全体における最大値をxmax、最
小値をxminとして、最大値xmaxと最小値xminの差を求める。
【0017】
また、ベースフィルムの幅方向における水分率(重量%)の平均水分率Mは、次のよう
にして算出した値である。
【0018】
【数1】
n: フィルム幅方向に沿って50mm×i区画ごとに測定した区画総数
xi: フィルム幅方向に沿って50mm×i区画ごとに測定したi区画目の水分率(重
量%)
【0019】
本発明のベースフィルムは、PVA系樹脂(A)を主成分とし、好ましくは可塑剤を含
有してなるフィルム形成材料を用いてフィルム状に形成されてなるものである。なお、本
発明においてPVA系樹脂を主成分とするとは、ベースフィルム全体に対して、PVA樹
脂系樹脂を50重量%以上、好ましく60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上含
有することを意味する。
【0020】
<フィルム形成材料>
まず、フィルム形成材料について説明する
上記PVA系樹脂(A)は、未変性PVAでも、本発明の効果を阻害しない範囲(例え
ば10モル%以下、好ましくは7モル%以下)で、他の単量体が共重合された変性PVA
でもよい。また、ケン化後の水酸基を化学修飾して得られる変性PVA系樹脂を用いるこ
ともできる。
【0021】
未変性PVAは、ビニルエステル系化合物を重合して得られるビニルエステル系重合体
をケン化することにより製造することができる。
かかるビニルエステル系化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフル
オロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニ
ル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられる
が、酢酸ビニルを用いることが好ましい。上記ビニルエステル系化合物は単独で用いても
、2種以上を併用してもよい。
【0022】
変性PVA系樹脂は、上記ビニルエステル系化合物と、ビニルエステル系化合物と共重
合可能な不飽和単量体とを共重合させた後、ケン化することにより製造することができる

上記ビニルエステル系化合物と共重合可能な不飽和単量体としては、例えば、エチレン
やプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレ
フィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オ
ール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;アクリ
ル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシ
レン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル;ジアセト
ンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン
酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその
塩等が挙げられる。
【0023】
また、変性PVA系樹脂として、側鎖に1,2-ジオール構造を有するポリビニルアル
コール系樹脂を用いることもできる。かかる側鎖に1,2-ジオール構造を有するポリビ
ニルアルコール系樹脂は、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4-ジアセトキシ-1-ブテ
ンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートと
の共重合体をケン化および脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2-ジアルキル
-4-ビニル-1,3-ジオキソランとの共重合体をケン化および脱ケタール化する方法
、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、
等により得られる。
【0024】
本発明では、上記PVA系樹脂(A)の4重量%水溶液の20℃における平均粘度が、
10~70mPa・sであることが好ましく、特に好ましくは15~60mPa・sであ
る。かかる4重量%水溶液の平均粘度が低すぎると、ベースフィルムに意匠(パターン,
柄等)を印刷する際のフィルム強度が不足するため印刷斑が発生する傾向がみられ、また
、ベースフィルムの溶解が促進されて転写時間が短くなるという問題が生じたり、水に浮
かべた際のフィルムに印刷された意匠が安定せず、付き廻り性が低下したりするという傾
向がみられる。一方、4重量%水溶液の平均粘度が高すぎると、印刷された意匠の被転写
体への転写時に被転写体と本発明のベースフィルム(意匠が印刷されたベースフィルム)
との密着性が低下して、皺や剥離が発生する傾向がみられたり、また、水面での膜の伸展
を抑制することはできるが、転写時間が遅延する他に粘度が高く製膜が困難となる傾向が
みられる。なお、上記4重量%水溶液の20℃における平均粘度は、JIS K 672
6に準じて測定される。
【0025】
さらに、上記PVA系樹脂(A)の平均ケン化度が、通常70~98モル%であること
が好ましく、特に好ましくは75~96モル%である。かかるPVA系樹脂の平均ケン化
度が低すぎると、転写後のベースフィルムの溶解に長時間を要する傾向がみられ、高すぎ
ると、ベースフィルムの溶解時間が遅延し、転写時の膜強度が高いために転写時に折れ皺
が発生したり、転写がなされたとしても脱膜不良となる傾向がみられる。なお、上記ケン
化度は、JIS K 6726に準じて測定される。
【0026】
上記PVA系樹脂は、それぞれ単独で用いることもできるし、2種以上併せて用いても
よく、変性種、変性量、平均粘度、平均ケン化度等の異なる2種以上のものを併用しても
よい。
【0027】
本発明のベースフィルムにおいては、フィルムに適度な柔軟性を付与したり、膨潤速度
を調整するために、さらに可塑剤(B)を含有させてもよい。
上記可塑剤(B)としては、多価アルコール系可塑剤が好適であり、例えば、グリセリ
ン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類、トリエチレングリコール、ポリエ
チレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピリングリコール等のアルキレン
グリコール類やトリメチロールプロパンなどがあげられる。なかでも、グリセリン、ポリ
エチレングリコールは入手が容易であり少量で可塑効果が得られる点で好ましい。これら
は単独であるいは2種以上併せて用いられる。
【0028】
上記可塑剤(B)の含有量は、PVA系樹脂100重量部に対して0.05~5重量部
であることが好ましく、特には0.1~4重量部、更には0.2~3重量部、殊には0.
3~2.5重量部であることが好ましい。上記可塑剤の含有量が多すぎると、弛みが発生
しやすくなったり、フィルム面に意匠を印刷する際の寸法安定性が悪く、高精細な印刷が
困難となる傾向がみられる。
【0029】
上記フィルム形成材料には、上記PVA系樹脂(A)および可塑剤(B)以外に、必要
に応じて各種添加剤を配合することができる。
【0030】
例えば、ベースフィルムの製膜装置であるエンドレスベルトやドラムロールの金属表面
等のキャスト面ドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上を目的
として、界面活性剤を配合することができる。上記界面活性剤としては、例えば、ポリオ
キシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポ
リオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテ
ル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノ
パルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソ
ルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエ
タノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリル
アミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン等があげられる。これらは単独でもしくは
2種以上併せて用いられる。なかでも、剥離性の点でポリオキシアルキレンアルキルエー
テルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリ
オキシエチレンソルビタンモノラウレートを用いることが好適である。
【0031】
上記界面活性剤の含有量については、PVA系樹脂と可塑剤の合計100重量部に対し
て通常0.01~5重量部であることが好ましく、0.03~4.5重量部であることが
より好ましい。上記界面活性剤の含有量が少なすぎると、製膜装置のドラムやベルト等の
金属表面と製膜したフィルムとの剥離性が低下して製造困難となる傾向がみられ、逆に多
すぎるとフィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がみられる。
【0032】
さらに、本発明の効果を妨げない範囲で、抗酸化剤(フェノール系、アミン系等)、安
定剤(リン酸エステル類等)、着色料、香料、増量剤、消泡剤、防錆剤、紫外線吸収剤、
無機粉末(二酸化ケイ素等)、有機粉末(澱粉、ポリメチルメタクリレート等)、さらに
は他の水溶性高分子化合物(ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、ポリビニ
ルピロリドン、デキストリン、キトサン、キチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチル
セルロース等)等を添加してもよい。
【0033】
<ベースフィルムの製造>
上記PVA系樹脂、可塑剤等を配合したフィルム形成材料を、水で溶解または分散して
PVA系樹脂水溶液(製膜原料)を調製する。
このようにして得られる製膜原料の固形分濃度は、10~50重量%であることが好ま
しく、特に好ましくは15~40重量%、更に好ましくは20~35重量%である。かか
る濃度が低すぎると乾燥負荷が大きくなるためフィルムの生産性が低下する傾向があり、
高すぎると粘度が高くなりすぎ、製膜原料の脱泡に時間を要したり、フィルム製膜時にダ
イラインが発生したりする傾向がある。
【0034】
次に、調製した製膜原料を膜状に賦形し、乾燥処理を施すことで、ベースフィルムを製
造する。製膜に当たっては、例えば、溶融押出法や流延法等の方法を採用することができ
、膜厚の精度の点で流延法が好ましい。
流延法を行うに際しては、例えば、上記製膜原料を、(i)アプリケーター、バーコー
ター等を用いてギャップ間に通過させて金属表面等のキャスト面に流延する方法、(ii
)T型スリットダイ等のスリットから吐出させ、エンドレスベルトやドラムロールの金属
表面等のキャスト面に流延する方法、などにより製膜原料を流延し、乾燥することにより
本発明のベースフィルムを製造することができる。
【0035】
T型スリットダイ等の製膜原料吐出部における製膜原料の温度は、60~98℃である
ことが好ましく、特に好ましくは70~95℃である。かかる温度が低すぎると製膜原料
の粘度が増加して流動不良となりベースフィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎ
ると発泡等が生じる傾向がある。
【0036】
上記製膜原料を流延する際のキャスト面の表面温度は、50~150℃であることが好
ましく、特に好ましくは55~140℃、更に好ましくは60~95℃である。かかる表
面温度が低すぎると、乾燥不足でフィルムの含水率が高くなり、ブロッキングしやすくな
る傾向があり、高すぎると製膜原料が発泡して製膜不良となったり、得られるベースフィ
ルムの幅方向の水分率偏差が大きくなり、フィルムに弛みが発生しやすくなる傾向がある
【0037】
流延後、キャスト面上で製膜原料を乾燥させるのであるが、乾燥にあたっては、通常、
熱風を吹き付ける乾燥や、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面等のキャスト面を
加熱することにより行われ、また熱ロールによる乾燥、フローティングドライヤーを用い
てフィルムに熱風を吹き付ける乾燥や遠赤外線装置、誘電加熱装置による乾燥等を併用す
ることもできる。
本発明においては、熱風乾燥機中で熱風を吹き付けて乾燥することが好ましく、特には
少なくとも2つ以上の熱風乾燥機中で乾燥を行うことが好ましい。
【0038】
本発明において乾燥工程とは、上記製膜原料がキャスト面上(エンドレスベルトやドラ
ムロールの金属表面等)に吐出された後、乾燥されてフィルム状になり、キャスト面から
剥離されるまでの工程を言う。
【0039】
乾燥工程における乾燥温度としては、好ましくは50~150℃、より好ましくは60
~145℃であり、乾燥時間としては、例えば1~20分間、より好ましくは1~10分
間で行うことができる。乾燥温度が高すぎるとフィルムの水分率調整がしにくくなる傾向
があり、低すぎると乾燥が不十分となったり生産性が低下する傾向がある。また乾燥時間
が長すぎると生産性が低下する傾向があり、短すぎると乾燥が不足しフィルムの平均水分
率が高くなりすぎる傾向がある。
【0040】
本発明の特定の水分率の規定を満たすベースフィルムは、かかる乾燥工程において、熱
風乾燥により乾燥させ、特定の乾燥条件に制御することにより製造することができる。
本発明において、水分率のばらつきが極めて少ないベースフィルムとするためには、連
続キャスト法において製膜原料を流延する際のキャスト面の幅方向の温度分布が均一であ
ること、及びフィルムの平均水分率と乾燥速度の関係が重要であり、乾燥工程において乾
燥温度を制御することにより、キャスト面の幅方向の温度分布と、ベースフィルムの平均
水分率を調整し、弛みの発生の少ないベースフィルムを得ることが可能になる。
【0041】
本発明においては、段階的に乾燥温度を変えて乾燥することが好ましく、例えば、乾燥
開始時から温度を徐々に上げていき、フィルムが所定の平均水分率になるまで一旦設定し
た乾燥温度範囲の、最高の乾燥温度に至らせ、つぎに徐々に乾燥温度を低くすることによ
り最終的に目的とする水分率とすることが効果的である。
【0042】
具体的には、ベースフィルムの幅方向における水分率を均一に調整するに際しては、例
えば、乾燥工程において、全乾燥工程(距離)の最初から25~50%(好ましくは30
~45%)までにフィルムの幅方向の平均水分率を10重量%以下に乾燥することで調整
することができる。
平均水分率は8重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは6重量%以下、殊に
好ましくは3.7~5重量%である。全乾燥工程の25~50%までのフィルムの幅方向
の平均水分率が高すぎると、得られるベースフィルムの幅方向の水分率分布が不均一とな
って弛みが発生しやすくなる。
【0043】
この際に、フィルムの幅方向の平均水分率を10重量%以下とするまでの乾燥温度(前
段の乾燥温度)に対してそれ以降の乾燥温度(後段の乾燥温度)を95%以下(特に好ま
しくは80~95%、更に好ましくは80~90%)とすることが好ましい。
後段の乾燥温度が高すぎるとキャスト面の幅方向の温度分布が不均一となり、得られる
ベースフィルムの幅方向の水分率分布が不均一となって弛みが発生しやすくなり、低すぎ
るとフィルムの水分率が高くなり剥離しにくくなる傾向がある。
【0044】
上記前段の乾燥温度としては、110~150℃であることが好ましく、特には120
~145℃であることが好ましい。上記後段の乾燥温度としては、60~130℃である
ことが好ましく、特には70~125℃であることが好ましい。
【0045】
さらに、全乾燥工程(距離)の最後15~35%(好ましくは20~30%)を、90
℃以下(特には好ましくは60~90℃、更に好ましくは70~85℃)で乾燥すること
が好ましい。
【0046】
また、フィルムの幅方向における水分率を均一に調整するに際しては、乾燥温度を2段
階以上変えて乾燥することも好ましく、例えば、乾燥工程の距離全体に対して前段分(4
5%)までの距離における(各乾燥温度×当該温度での乾燥距離)/製膜速度の合計(前
段の乾燥量)に対する後段分(55%)の距離における(各乾燥温度×当該温度での乾燥
距離)/製膜速度の合計(後段の乾燥量)が95%以下(好ましくは80~90%)とな
るような温度条件で乾燥することにより調整することができる。
例えば、製膜速度12m/minで、乾燥温度120℃-130℃-115℃-100
℃で段階的に乾燥し、各温度での乾燥距離が同じ場合は、後段の乾燥量は前段の乾燥量の
108%となる。
多段階の乾燥温度での乾燥は、例えば各温度に設定した複数の熱風乾燥機中をフィルム
を通過させることで行うことができる。
【0047】
本発明において、上記乾燥工程後、必要に応じてさらにフィルムを熱処理してもよい。
熱処理の方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、熱ロール(カレンダーロ
ールを含む)、熱風、遠赤外線、誘電加熱等の方法があげられる。また、熱処理される面
は、キャスト面(エンドレスベルトやドラムロールの金属表面等)に接する面と反対側と
なる面が好ましいが、ニップしても問題はない。
【0048】
上記熱処理は、通常50~140℃で行うことが好ましく、より好ましくは60~13
0℃である。上記熱処理の温度が低すぎると、キャスト面に接するフィルム面のカールが
強く、印刷および転写工程で不具合が生じる傾向がみられ、熱処理の温度が高すぎると、
得られるベースフィルムの水溶性が低下する傾向がある。さらに、上記熱処理に時間は、
通常0.5~15秒間に設定することが好ましい。
【0049】
<ベースフィルム>
かくして本発明のベースフィルムが得られ、キャスト面から剥離され、必要に応じて熱
処理をした後、芯管に巻き取ることによりフィルムロールが調製される。
【0050】
上記において製膜して得られたベースフィルムは、例えば、先に述べた水分率に変化が
生じないように従来公知の防湿包装の処理を行い、10~25℃の雰囲気下、宙づり状態
にて保存することが好ましい。
【0051】
なお、本発明においては、必要に応じて、製膜後のベースフィルムに対して巻き取りを
行う前にそのままフィルム端部を製品サイズにスリットした後巻き取る(オンラインスリ
ット)か、あるいは、一旦製膜後のフィルムを巻き取った後に再度巻き出し製品サイズに
フィルム端部をスリットし巻き取る(オフラインスリット)かして、フィルムロールとし
て上記の通り宙づり保存することが好ましい。
【0052】
上記で得られるベースフィルムのフィルム幅としては、製品サイズの大きさ等により適
宜選択されるが、通常は300~4000mmであることが好ましく、特には500~3
000mm、更には700~2000mmであることが好ましい。かかる幅が狭すぎると
生産効率が低下する傾向があり、広すぎると弛みが発生しやすくなったり膜厚の制御が困
難になる傾向がある。
更に、フィルム全体のフィルム長さとしては、通常500m以上、特には700m以上
、更には1000m以上であることがフィルムを使用する効率の点で好ましい。なお、フ
ィルム長さの下限としては通常100mである。
【0053】
また、本発明のベースフィルムは、通常、膜厚が20~50μmであり、好ましくは2
5~47μm、特に好ましくは30~45μm、更に好ましくは35~42μmである。
膜厚が薄すぎると印刷フィルムの膨潤が速く転写に不具合が生じる傾向があり、厚すぎる
と転写物にフィルムが残留したり、転写浴における水中のポリビニルアルコール系樹脂の
濃度の上昇が速く排水負荷が大きくなる傾向がある。
【0054】
かくして得られた本発明のベースフィルムは、意匠印刷適正に優れ、凹凸形状を有する
被転写体への意匠の転写に有用である。
【0055】
本発明のベースフィルムは、連続方式による液圧転写方法、バッチ方式による液圧転写
方法など、公知一般の液圧転写に用いることができる。
また被転写体の材質としては、特に限定されるものではなく、例えば、プラスチック成
形体、金属成形体、木質成形体、ガラス等の無機質成形体等を用いることができる。さら
に、その形状に関しても特に限定するものではなく、平面であっても各種立体形状を有し
ていてもよい。
【実施例0056】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えな
い限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0057】
<実施例1>
〔ベースフィルムの作製〕
4%水溶液粘度30mPa・s(20℃)、平均ケン化度88モル%のPVA100部
に、可塑剤としてグリセリン1.5部、澱粉7部、界面活性剤としてポリオキシアルキレ
ンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩1.0部を水に溶解して22
.5%水分散液を得た。そして、上記水分散液を用い、ステンレス製のエンドレスベルト
を備えたベルト製膜機により、表1に示すような乾燥条件で、流延製膜法に従い製膜し、
ベースフィルムを得た(フィルム幅:1000mm、フィルム長さ:1000m、フィル
ム膜厚:40μm)。
得られたベースフィルムを用いて、水分率、弛みの有無、印刷特性の評価を行った。結
果を表1に示す。
【0058】
〔ベースフィルムの幅方向における水分率x〕
(評価方法)
得られたフィルム幅1000mmのベースフィルムから、一方の端部から他方の端部ま
で幅方向に50mm間隔で50mm×50mmサイズにして水分率測定用の試料を切り出
した。切り出した各フィルム試料について、フィルム重量(W)を電子天秤で秤量したの
ち、フィルム試料を水分率0.03%以下の脱水メタノール15ml(S)内に浸漬させ
て室温,1時間の条件でフィルム内の水分を抽出した。カールフィッシャー水分計(京都
電子工業社製、「MKA-610」)を用いて、容量滴定法によって抽出液10ml(E
)の水分量を測定し、以下の式からフィルム水分率x(重量%)を算出した。
【0059】
【数2】
F: カールフィッシャー試薬の力価(mg/ml)
V: 抽出液10mlの滴定に用いたカールフィッシャー試薬量(ml)
B: 脱水メタノール10mlの滴定に用いたカールフィッシャー試薬量(ml)
W: 50mm×50mmサイズにしたフィルム試料の重量(g)
E: カールフィッシャー測定に使用した抽出液の量(ml)
S: フィルム試料の水分抽出に使用した脱水メタノールの量(ml)
【0060】
〔弛み〕
(評価方法)
23℃×50%RHの環境下、ベースフィルムを巻いたロールサンプルからフィルムを
巻き出し、巻き出したフィルムを2m離れて同じ高さに設置した水平な2本のガイドロー
ルの上を通過させた後巻き取る装置において、フィルムを巻き出してから任意の長さのと
ころで、フィルム幅1mあたり50~80Nの張力をかけて2本のガイドロールの上で一
旦静止させ、その時に、ガイドロール上をフィルムが通る高さを基準にして、ガイドロー
ル間で、フィルムの全幅において垂れ下がっている部分までの高低差を測定し、以下の通
り評価した。
なお、高低差を測定するにあたっては、フィルム上を幅方向で水平に超音波式変位セン
サー(キーエンス社製UD-300)を走行させて検出する。また、流れ方向のセンサー
設置位置は2本のガイドロールから等しい距離となる中央部とする。
(評価基準)
〇・・・基準の高さから一番垂れ下がっている部分までの高低差が10mm以下
×・・・基準の高さから一番垂れ下がっている部分までの高低差が10mmより大きい
【0061】
〔印刷適性〕
得られた転写印刷用ベースフィルムの表面に転写用の意匠を印刷したときに、かかるフ
ィルムの外観を目視観察し、以下の通り評価した。
○・・・外観不良なし
×・・・シワあり
【0062】
<実施例2、比較例1~3>
実施例1において、乾燥条件を表1に示す通りに変更した以外は同様にしてベースフィ
ルムを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
上記表1の結果から、実施例1、2のベースフィルムは、フィルムの幅方向における水
分率が特定条件を満足するものであるため、ロールサンプルから巻き出したフィルムに弛
みが発生せず、印刷時のシワ入りなどの不具合も見られなかった。
これに対して、フィルムの幅方向における水分率が特定条件を満足しない比較例1~3
では、フィルムの弛みが発生し、意匠の印刷時にシワが入る等の不具合が発生し、液圧転
写印刷用ベースフィルムとして実用に供することはできないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムは、自動車の内外装品をはじめとして、印刷適
正に優れ、携帯電話機の外装、各種電化製品、建材、家庭・生活用品等への液圧転写印刷
用途に、幅広く適用することができる。