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特開2022-155020リチウムイオン電池用正極材料、リチウムイオン電池用正極、及びリチウムイオン電池
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  • 特開-リチウムイオン電池用正極材料、リチウムイオン電池用正極、及びリチウムイオン電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155020
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極材料、リチウムイオン電池用正極、及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20221005BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058335
(22)【出願日】2021-03-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野添 勉
(72)【発明者】
【氏名】中野 豊将
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA08
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】低温での出力特性を高めることが可能なリチウムイオン電池を得ることができるリチウムイオン電池用正極材料、該リチウムイオン電池用正極材料を用いたリチウムイオン電池用正極、及び該リチウムイオン電池用正極を備えたリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】炭素質被膜により被覆された1次粒子、もしくはその凝集体からなり、粉体抵抗Yが500Ω・cm以上、50000Ω・cm以下であり、単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量Xが0.7mg/m以上、1.1mg/m以下であり、かつ下記式(1)を満たすリチウムイオン電池用正極材料。
Y≧ 4.91×10×e-9.021X (1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質被膜により被覆された1次粒子、もしくはその凝集体からなり、粉体抵抗が500Ω・cm以上、50000Ω・cm以下であり、単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量が0.7mg/m以上、1.1mg/m以下であり、かつ下記式(1)を満たすリチウムイオン電池用正極材料。
Y≧ 4.91×10×e-9.021X (1)
Y:前記粉体抵抗(Ω・cm)
X:前記単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量(mg/m
【請求項2】
前記炭素質被膜の主成分がハードカーボンから構成されている請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極材料。
【請求項3】
前記炭素質被膜の厚さが0.5nm以上10nm以下である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極材料を用いた、リチウムイオン電池用正極。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウムイオン電池用正極を備えたリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極材料、リチウムイオン電池用正極、及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池には、種々の必要特性があり、それらの向上が検討されている。
例えば、特許文献1では、正極活物質の一次粒子の表面を被覆する炭素質被膜の剥離を抑制し、電子伝導性を担保しつつ、正極密度を向上するために、リチウムイオン二次電池用正極材料を、所定の化学組成で表わされる中心粒子と、該中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む活物質粒子であって、粒度分布の粗粒比が35%以上かつ65%以下であり、前記活物質粒子のメディアン径が0.50μm以上かつ0.80μm以下であるリチウムイオン二次電池用正極材料とすることが開示されている。
【0003】
また、例えば、特許文献2では、正極材料からの金属溶出に伴う電極の耐久性劣化を抑制し、且つ高い入出力特性と良好なサイクル特性を両立したリチウムイオン二次電池を得るために、リチウムイオン二次電池用正極材料を、炭素質被膜で被覆された所定の化学組成で表される正極活物質の一次粒子が複数個凝集した凝集粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極材料であって、前記正極活物質の結晶子径あたりの炭素量が0.0084質量%/nm以上0.0358質量%/nm以下であり、ラマン分光測定により得られたラマンスペクトルのDバンド及びGバンドのピーク強度比(I/I)が0.85以上1.15以下であり、累積粒度分布における累積百分率10%の粒子径(D10)が1μm以上5μm以下、累積百分率90%の粒子径(D90)が15μm以下であるリチウムイオン二次電池用正極材料とすることが開示されている。
【0004】
更に、例えば、特許文献3では、低温環境下で高速放電を行った際の電圧低下を抑制し得る電極材料を得るために、電極材料を、オリビン型結晶構造を有する電極活物質粒子の表面に炭素質被膜が形成されてなる粒子状の電極材料であって、該電極材料の単粒子の-10℃での35C放電容量と、該電極材料の単粒子の-10℃での1C放電容量との放電容量比の平均が0.50以上であり、該炭素質被膜のグラフェン層に起因する(002)面のXRD(CuKα線源)ピークが2θ=25.7°以下に現れる電極材料とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6288338号公報
【特許文献2】特許第6627932号公報
【特許文献3】特許第5743011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池の必要特性の一つとして、低温での出力特性が挙げられるが、カーボンにコートされているリン酸鉄リチウムではカーボンの隙間を通してリチウムイオンの脱挿入が行われているため、電子の移動が容易となる程度のカーボンに被覆されているとカーボンの隙間をリチウムイオンが通りづらくなり低温の特性が低くなってしまう課題があった。
特許文献1及び2に記載の正極材料に用いられている炭素質被膜は、グラフェン状炭素のため、低温特性に優れない。また、特許文献3に記載の電極材料に用いられている炭素質被膜は、グラフェン状であるが、不揃いのカーボンコートであり、更なる検討の余地がある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、低温での出力特性を高めることが可能なリチウムイオン電池を得ることができるリチウムイオン電池用正極材料、該リチウムイオン電池用正極材料を用いたリチウムイオン電池用正極、及び該リチウムイオン電池用正極を備えたリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1> 炭素質被膜により被覆された1次粒子、もしくはその凝集体からなり、粉体抵抗が500Ω・cm以上、50000Ω・cm以下であり、単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量が0.7mg/m以上、1.1mg/m以下であり、かつ下記式(1)を満たすリチウムイオン電池用正極材料。
Y≧ 4.91×10×e-9.021X (1)
Y:前記粉体抵抗(Ω・cm)
X:前記単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量(mg/m
【0009】
<2> 前記炭素質被膜の主成分がハードカーボンから構成されている<1>に記載のリチウムイオン電池用正極材料。
<3> 前記炭素質の厚さが0.5nm以上10nm以下である<1>又は<2>に記載のリチウムイオン電池用正極材料。
<4> <1>~<3>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池用正極材料を用いた、リチウムイオン電池用正極。
<5> <4>に記載のリチウムイオン電池用正極を備えたリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温での出力特性を高めることが可能なリチウムイオン電池を得ることができるリチウムイオン電池用正極材料、該リチウムイオン電池用正極材料を用いたリチウムイオン電池用正極、及び該リチウムイオン電池用正極を備えたリチウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1~7、比較例1~5、および、炭素量、焼成雰囲気等の製造方法を変更した実験例の正極材料における単位比表面積当たりの炭素量に対する粉体抵抗をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[リチウムイオン電池用正極材料]
本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料は、炭素質被膜により被覆された1次粒子、もしくはその凝集体からなり、粉体抵抗が500Ω・cm以上、50000Ω・cm以下であり、単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量が0.7mg/m以上、1.1mg/m以下であり、かつ下記式(1)を満たすリチウムイオン電池用正極材料。
Y≧ 4.91×10×e-9.021X (1)
Y:粉体抵抗(Ω・cm)
X:単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量(mg/m
以下、リチウムイオン電池用正極材料を単に「正極材料」と称することがある。
【0013】
本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料は、電極活物質粒子が炭素質被膜で被覆された形態をしており、電極活物質粒子は、一次粒子及び該一次粒子の凝集体である二次粒子で構成される。以下、炭素質被膜で被覆された電極活物質を、炭素質被覆電極活物質と称することがある。
炭素質被覆電極活物質の製造手法の詳細は後述するが、電極活物質は、通常、電極活物質粒子の表層についている炭素源がそのまま炭化することで、層状グラフェン構造に近い炭素質被膜によって被覆される。本発明では、炭素源の塗布方法、炭素源の焼成時の雰囲気、及び焼成時間を調整することにより、所定の多孔質カーボンに被覆された電極活物質を得ることができた。かかる炭素質被覆電極活物質について、粉体抵抗及び単位比表面積当たりの炭素質の質量の観点から分析を行ったところ、本発明を上記構成とすることで、リチウムイオン電池の低温(例えば、-30℃)での出力特性を高めることがわかった。
【0014】
〔粉体抵抗〕
本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料は、粉体抵抗が500Ω・cm以上、50000Ω・cm以下である。
粉体抵抗が500Ω・cm未満ではカーボンの構造が黒鉛状構造となりリチウムイオンの脱挿入のための細孔が小さくなり、低温での容量が低下してしまう。また、50000Ω・cmを超えると活物質表面の電子伝導性を保持することができない。
粉体抵抗は、700Ω・cm以上、48000Ω・cm以下であることが好ましく、800Ω・cm以上、46000Ω・cm以下であることがより好ましく、900Ω・cm以上、44000Ω・cm以下であることが更に好ましい。
粉体抵抗値は、正極材料を50MPaの圧力で成形した試料から測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0015】
〔単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量〕
本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料は、単位比表面積当たりの炭素質の質量が0.7mg/m以上、1.1mg/m以下である。
単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量が0.7mg/m未満では電子伝導性を保持することができず、また、1.1mg/mを超えるとリチウムイオンの脱挿入の抵抗となってしまい低温での特性が低下する。
単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量は、0.705mg/m以上、1.095mg/m以下であることが好ましく、0.71mg/m以上、1.09mg/m以下であることがより好ましく、0.71mg/m以上、1.08mg/m以下であることが更に好ましい。
単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量は、後述する正極材料の比表面積と炭素質被膜の質量とから算出することができる。
【0016】
(電極活物質)
電極活物質粒子の形状は、特に制限されないが、球状、特に真球状であることが好ましい。電極活物質粒子が球状であることで、造粒された顆粒体(炭素質被覆電極活物質)の内部細孔が均一となりやすく、良好な電解液保持能が発現する。また、顆粒体とすることで、本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料を用いて電極形成用ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができるとともに、電極形成用ペーストの集電体への塗工も容易となる。なお、電極形成用ペーストは、例えば、本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶媒とを混合して調製することができる。
【0017】
本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料で用いられる電極活物質は、下記一般式(1)で表される電極活物質であることが、高放電容量、高エネルギー密度、安全性及びサイクル安定性の観点から好ましい。
LiBO (1)
(式中、AはMn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種、MはNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも一種、BはB、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種、0≦a<4、0<x<1.5、0≦y<1、0<z≦4である。)
【0018】
式中、AはMn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種であり、中でも、Mn、及びFeが好ましく、Feがより好ましい。
MはNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも一種であり、中でも、Mg、Ca、Al、Tiが好ましい。
BはB、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種であり、中でも、安全性及びサイクル特性に優れる観点から、Pが好ましい。
aは、0以上4未満であり、好ましくは0.5以上3以下、より好ましくは0.5以上2以下であり、特に1が好ましい。xは、0より大きく1.5未満であり、好ましくは0.5以上1以下であり、中でも1が好ましい。yは0以上1未満であり、好ましくは0以上0.1以下である。zは0より大きく4以下であり、Bの組成により選択される。例えば、Bがリン(P)の場合は、zは4が好ましく、Bがホウ素(B)の場合は、zは3が好ましい。
【0019】
前記一般式(1)で表される電極活物質は、オリビン構造を有することが好ましく、下記一般式(2)で表される電極活物質であることがより好ましく、LiFePO及び該LiFePOにおいて、Feの一部がMnで置換されたLi(Fex1Mn1-x1)PO(但し、0<x1<1)であることがさらに好ましい。
LiPO (2)
(式中、A、M、a、x、及びyは前記のとおりである。)
【0020】
一般式(1)で表される電極活物質(LiBO)は、固相法、液相法、気相法等の従来の方法により製造したものを用いることができる。
LiBOは、例えば、Li源と、A源と、M源と、B源と、水と、を混合して得られるスラリー状の混合物を水熱合成し、得られた沈殿物を水洗して得られる。また、水熱合成により電極活物質前駆体を生成し、さらに電極活物質前駆体を焼成することでも同様の電極活物質が得られる。水熱合成には耐圧密閉容器を用いることが好ましい。
ここで、Li源としては、酢酸リチウム(LiCHCOO)、塩化リチウム(LiCl)等のリチウム塩及び水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられ、酢酸リチウム、塩化リチウム及び水酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
A源としては、Mn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、A源がFeである場合、Fe源としては、塩化鉄(II)(FeCl)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))、硫酸鉄(II)(FeSO)等の2価の鉄塩が挙げられ、塩化鉄(II)、酢酸鉄(II)、及び硫酸鉄(II)からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
M源としては、同様にNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素の塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等を用いることができる。
B源としては、B、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種を含む化合物が挙げられる。例えば、B源がPである場合、P源としては、リン酸(HPO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)等のリン酸化合物が挙げられ、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、及びリン酸水素二アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0021】
Li源、A源、M源及びB源の物質量比(Li:A:M:B)は、所望する電極活物質が得られ、不純物の生成が無いよう、適宜選択される。
【0022】
電極活物質の結晶子径は、好ましくは30nm以上250nm以下、より好ましくは35nm以上250nm以下、さらに好ましくは40nm以上200nm以下である。結晶子径が30nm以上であると電極活物質表面を炭素質被膜で十分に被覆するために必要な炭素量が抑えられ、また結着剤の量を抑えることができるため、電極中の電極活物質量を増やすことができ、電池の容量を高めることができる。同様に結着力不足による膜剥離を生じにくくすることができる。一方、結晶子径が250nm以下であると電極活物質の内部抵抗が抑えられ、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を高めることができる。
なお、前記結晶子径は、X線回折装置(例えば、RINT2000、RIGAKU製)により測定し、得られる粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、及び回折角(2θ)を用い、シェラーの式により算出することができる。
【0023】
(炭素質被膜)
電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の凝集体である二次粒子を被覆する炭素質被膜は、該炭素質被膜の原料となる有機物を炭化することにより得られる。
有機物としては、イオン性有機物、非イオン性有機物等が挙げられる。
【0024】
[イオン性有機物]
イオン性有機物としては、例えば、糖類、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリカルボン酸系高分子、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、カルボン酸変性ポリビニルアルコールの塩、スルホン酸変性ポリビニルアルコールの塩、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0025】
[非イオン性有機物]
非イオン性有機物としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリエーテル、2価アルコール、3価アルコール、非イオン性界面活性剤等を好適に用いることができる。
【0026】
これらの有機物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
有機物と電極活物質粒子との混合が容易で、均一な炭素質被膜の被覆を得るためには、用いる有機物は溶媒可溶性であることが好ましく、取扱いの容易さ、安全性、価格等の点で水溶性であることがより好ましい。
【0027】
炭素質被膜の主成分は、リチウムイオン電池の低温での出力特性を向上する観点から、ハードカーボンから構成されていることが好ましい。ここで、主成分とは、炭素質被膜中のハードカーボンの質量が50質量%を超えることを意味し、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることが更に好ましい。
ハードカーボンは、難黒鉛化性炭素とも称され、高温で加熱しても黒鉛結晶構造が発達しにくい炭素であり、多孔質構造である。
炭素質被膜の主成分をハードカーボンとし易い観点から、有機物は非イオン性有機物であることが好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、及びポリアクリルアミドからなる群より選択される1つ以上を含むことがより好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)を含むことが更に好ましい。
なお、炭素質被膜の主成分をハードカーボンとする手法は、後述するリチウムイオン電池用正極材料の製造方法において説明する。
【0028】
炭素質被膜で被覆された電極活物質(炭素質被覆電極活物質)の一次粒子の平均粒子径は、好ましくは30nm以上250nm以下、より好ましくは50nm以上200nm以下、さらに好ましくは50nm以上150nm以下、よりさらに好ましくは60nm以上100nm以下である。平均粒子径が30nm以上であると、電極作成のために必要な結着剤の量を低減することができ、電極中の電極活物質量を増加させ、電池の容量を高めることができる。また、結着力不足による膜剥離を抑制することができる。一方、平均粒子径が250nm以下であると、十分な高速充放電性能を得ることができる。
ここで、一次粒子の平均粒子径とは、個数平均粒子径のことである。前記一次粒子の平均粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)観察により測定した200個以上の粒子の粒子径を個数平均することにより求めることができる。
【0029】
前記炭素質被覆電極活物質の二次粒子の平均粒子径は、好ましくは0.5μm以上200μm以下、より好ましくは1μm以上150μm以下、さらに好ましくは3μm以上100μm以下である。二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上であるとリチウムイオン電池用正極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合してリチウムイオン電池用正極材料ペーストを調製する際、導電助剤及び結着剤が多量に必要となることを抑制できる。これによりリチウムイオン電池の電池容量を高くすることができる。一方、200μm以下であるとリチウムイオン電池の高速充放電における放電容量を高くすることができる。
ここで、二次粒子の平均粒子径とは、体積平均粒子径のことである。前記二次粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0030】
前記電極活物質粒子を被覆する炭素質被膜の厚さ(平均値)は、好ましくは0.5nm以上10nm以下、より好ましくは0.8nm以上8nm以下、さらに好ましくは0.8nm以上8nm以下、よりさらに好ましくは0.8nm以上5nm以下である。炭素質被膜の厚さが0.5nm以上であると炭素質被膜中の電子の移動抵抗の総和が高くなることを抑制できる。これによりリチウムイオン電池の内部抵抗の上昇を抑制でき、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。一方、10nm以下であるとリチウムイオンが炭素質被膜中を拡散することを妨害する立体障害の形成を抑制することができ、これによりリチウムイオンの移動抵抗が低くなる。その結果、電池の内部抵抗の上昇が抑えられ、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。
なお、前記炭素質被膜の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて炭素質被覆電極活物質を撮影し、得られた断面の画像から炭素質被膜の厚さを100箇所測定し、その平均値から求めることができる。
【0031】
前記電極活物質粒子に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が十分に得られる。
なお、前記炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X-ray microanalyzer、EDX)等を用いて炭素質被覆電極活物質を観察し、電極活物質表面を覆っている部分の割合を算出し、その平均値から求めることができる。
【0032】
炭素質被膜の密度は、好ましくは0.2g/cm以上2g/cm以下、より好ましくは0.5g/cm以上1.5g/cm以下である。炭素質被膜の密度とは、炭素質被膜の単位体積当たりの質量である。
炭素質被膜の密度が0.2g/cm以上であると炭素質被膜が十分な電子伝導性を示すことができる。一方、2g/cm以下であると炭素質被膜中に層状構造からなる黒鉛の結晶が少量であるため、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0033】
本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料の炭素量(リチウムイオン電池用正極材料に含まれる炭素含有量)は、正極材料中の炭素質被膜の質量と同義と考えられ、好ましくは0.5質量%以上3.5質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上2.5質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以上2.2質量%以下である。炭素量が0.5質量%以上であると、電子伝導性を十分に高めることができる。一方、炭素量が3.5質量%以下であると、電極密度を高めることができる。
なお、前記炭素量は、炭素分析計(例えば、堀場製作所社製、炭素硫黄分析装置:EMIA-220V)を用いて測定することができる。
【0034】
本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料の比表面積は、4m/g以上40m/g以下であることが好ましく、より好ましくは8m/g以上28m/g以下、更に好ましくは10m/g以上25m/g以下、より更に好ましくは11m/g以上22m/g以下である。
比表面積が4m/g以上であると、十分な高速充放電性能を発現することができる。一方、40m/g以下であると、結着剤と導電助剤を多量に含むことなく電極を構成できるため、電池の容量低下を抑制できる。
なお、比表面積はガス吸着測定装置(例えば、(株)マウンテック製、商品名:HM model-1208)を用いて、窒素(N)吸着法により測定することができる。
【0035】
<リチウムイオン電池用正極材料の製造方法>
本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料の製造方法は、炭素源となる有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合したスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥し、造粒する第一工程と、前記第一工程で得られた造粒物を過熱水蒸気雰囲気下で、0.5~24時間熱処理(焼成)する第二工程とを有する。
炭素源として有機物を用い、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合したスラリーを乾燥、造粒、及び過熱水蒸気雰囲気下で、0.5~24時間熱処理(焼成)する熱処理することにより、得られる正極材料が、粉体抵抗、及び単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量を既述の範囲とし易く、式(1)の要件を満たしやすい。また、本製造方法により、主成分がハードカーボンから構成される炭素質被膜を形成し易い。
【0036】
(第一工程)
本工程は、炭素源として有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合したスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥し、造粒する工程である。
まず、有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上とを溶媒に溶解又は分散させて、混合物を調製する。
有機物を、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種に塗布し、溶媒に溶解又は分散させる方法としては、特に限定されないが、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の分散装置を用いることができる。
中でも、リチウムイオン電池の低温での出力特性を向上する観点から、ビーズミルにより、有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合することが好ましく、直径0.05~0.5mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルによることがより好ましい。
【0037】
有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体については、既述のとおりであり、有機物は、炭素質被膜の主成分をハードカーボンから構成する観点から、有機物は非イオン性有機物であることが好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、及びポリアクリルアミドからなる群より選択される1つ以上を含むことがより好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)を含むことが更に好ましい。
【0038】
前記溶媒としては、たとえば、水;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ-ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミドおよびN-メチルピロリドン等のアミド類;ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの溶媒の中で、好ましい溶媒は水である。
なお、必要に応じて分散剤を添加してもよい。
【0039】
有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上との配合比は、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上から得られる活物質100質量部に対して、有機物から得られる炭素質量で、好ましくは0.5質量部以上10質量部以下である。実際の配合量は加熱炭化による炭化量(炭素源の種類、炭化条件等)により異なるが、おおむね1質量部から8質量部程度である。
【0040】
また、有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上とを溶媒に溶解又は分散する際には、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上を溶媒に分散させた後、有機物を添加し撹拌することが好ましい。
【0041】
次いで、得られたスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥し、造粒することで、造粒物を得ることができる。
【0042】
(第二工程)
本工程は、第一工程で得られた造粒物を過熱水蒸気雰囲気下で、0.5~24時間熱処理(焼成)する工程である。
造粒物を過熱水蒸気雰囲気下で、0.5~24時間熱処理(焼成)することで、炭素質被膜の主成分とハードカーボンとし易い。加熱雰囲気が、例えば、窒素(N)、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気では、ハードカーボンを生成しにくい。
また、熱処理時間が0.5~24時間であることで過不足なく造粒物を焼成し、有機物からハードカーボンを生成し易い。
【0043】
熱処理の時間は、好ましくは0.8~10時間、より好ましくは1~6時間、さらに好ましくは1~3時間である。
熱処理の温度は、通常、600℃以上1000℃以下であり、好ましくは650℃以上900℃以下、より好ましくは700℃以上850℃以下、さらに好ましくは700℃以上800℃以下である。
熱処理温度が600℃以上であることで、有機物を十分に炭化し易く、電子伝導性を高めることができ、1000℃以下であることで、電極活物質粒子の分解が生じにくく、粒子成長を抑制し易い。
【0044】
本実施形態の製造方法によれば、有機物を炭素質被膜の前駆体として用いることで、被覆性が高くなる。それにより電極活物質粒子同士の接近を抑制することができるため、炭素を過剰に含むことなく、より高電子伝導性の炭素質で被覆された微細で高反応性のリチウムイオン電池用正極材料を容易に得ることができるばかりではなく、電解液の浸透性、保持能に優れた、適度な細孔径分布を持つ造粒体とすることができる。このようにして得られるリチウムイオン電池用正極材料は、電極密度を高めることができ、低温での出力特性に優れるリチウムイオン電池を形成することができる。
また、本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料は、比表面積が大きく微小粒子径であるため、特に、電極活物質粒子表面での電荷移動反応及び電極活物質粒子内部におけるイオン拡散性が低下する低温の反応においても、良好な反応性を示す。
【0045】
本実施形態の製造方法は、電極活物質の種類によらず適応可能であるが、低コスト、低環境負荷で、電子伝導性の低いオリビン型リン酸塩系リチウムイオン電池用正極材料の製造方法として特に有効である。
【0046】
<リチウムイオン電池用正極>
本実施形態のリチウムイオン電池用正極は、本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料を用いてなる。
本実施形態のリチウムイオン電池用正極を作製するには、上述のリチウムイオン電池用正極材料と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、電極形成用塗料又は電極形成用ペーストを調製する。この際、必要に応じてカーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の導電助剤を添加してもよい。
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
リチウムイオン電池用正極材料とバインダー樹脂との配合比は、特に限定されないが、例えば、リチウムイオン電池用正極材料100質量部に対してバインダー樹脂を1質量部以上30質量部以下、好ましくは3質量部以上20質量部以下とする。
【0047】
電極形成用塗料又は電極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよい。
例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
次いで、電極形成用塗料又は電極形成用ペーストを、金属箔の一方の面に塗布し、その後、乾燥し、上述のリチウムイオン電池用正極材料とバインダー樹脂との混合物からなる塗膜が一方の面に形成された金属箔を得る。
次いで、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、金属箔の一方の面にリチウムイオン電池用正極材料層を有する集電体(電極)を作製する。
このようにして、低温での出力特性に優れる電極を作製することができる。
【0049】
<リチウムイオン電池>
本実施形態のリチウムイオン電池は、本実施形態のリチウムイオン電池用正極を備える。従って、本実施形態のリチウムイオン電池は、低温での出力特性を高めることができる。
本実施形態のリチウムイオン電池では、負極、電解液、セパレーター等は特に限定されない。例えば、負極としては、金属Li、炭素材料、Li合金、LiTi12等の負極材料を用いることができる。また、電解液とセパレーターの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【実施例0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
【0051】
<製造例1:電極活物質(LiFePO)の製造>
LiFePOの合成は以下のようにして水熱合成で行った。
Li源としてLiOH、P源としてNHPO、Fe源としてFeSO・7HOを用い、これらを物質量比でLi:Fe:P=3:1:1となるように純水に混合して200mLの均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量500mLの耐圧密閉容器に入れ、170℃で12時間、水熱合成を行った。この反応後に室温(25℃)になるまで冷却して、沈殿しているケーキ状態の反応生成物を得た。この沈殿物を蒸留水で複数回、十分に水洗し、乾燥しないように含水率30%に保持しケーキ状物質とした。このケーキ状物質を若干量採取し、70℃で2時間真空乾燥させて得られた粉末をX線回折装置(製品名:RINT2000、RIGAKU製)で測定したところ、単相のLiFePOが形成されていることが確認された。
【0052】
〔実施例1〕
製造例で得られたLiFePO(電極活物質)20gと、炭素源としてポリビニルアルコール0.73gを総量で100gとなるように水に混合し、0.1mmφのジルコニアビーズ150gとともに、ビーズミルを行い、分散粒径(d50)が100nmとなるスラリー(混合物)を得た。
その後、スプレードライヤーを用いて乾燥出口温度が60℃となる温度で乾燥、造粒した。管状炉を用い、造粒粉を過熱水蒸気雰囲気のロータリーキルンを用いて、700℃で1時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質からなる正極材料を得た。
【0053】
〔実施例2〕
ポリビニルアルコールの量を0.80gにした以外は実施例1と同様にして炭素質被覆電極活物質からなる正極材料を得た。
【0054】
〔実施例3〕
ポリビニルアルコールの量を0.87gにした以外は実施例1と同様にして炭素質被覆電極活物質からなる正極材料を得た。
【0055】
〔実施例4〕
ポリビニルアルコールの量を0.94gにした以外は実施例1と同様にして炭素質被覆電極活物質からなる正極材料を得た。
【0056】
〔実施例5〕
ポリビニルアルコールの量を0.65gにした以外は実施例1と同様にして炭素質被覆電極活物質からなる正極材料を得た。
【0057】
〔実施例6〕
ジルコニアビーズによるビーズミルを行わなかった以外は実施例1と同様にして炭素質被覆電極活物質からなる正極材料を得た。
【0058】
〔実施例7〕
ジルコニアビーズによるビーズミルを行わなかった以外は実施例5と同様にして炭素質被覆電極活物質からなる正極材料を得た。
【0059】
〔比較例1〕
熱処理の雰囲気を窒素にした以外は実施例1と同様にして炭素質被覆電極活物質からなる正極材料を得た。
【0060】
〔比較例2〕
熱処理の雰囲気を窒素にした以外は実施例2と同様にして炭素質被覆電極活物質からなる正極材料を得た。
【0061】
〔比較例3〕
熱処理の雰囲気を窒素にした以外は実施例3と同様にして炭素質被覆電極活物質からなる正極材料を得た。
【0062】
〔比較例4〕
ポリビニルアルコールの量を0.58gにした以外は実施例1と同様にして炭素質被覆電極活物質からなる正極材料を得た。
【0063】
〔比較例5〕
ポリビニルアルコールの量を1.5gにした以外は実施例1と同様にして炭素質被覆電極活物質からなる正極材料を得た。
【0064】
<正極材料の特性>
1.粉体抵抗の測定
正極材料を金型に投入して50MPaの圧力にて加圧して成形体を作製した。低抵抗率計〔(株)三菱ケミカルアナリテック製、商品名:Loresta-GP〕を用いて、25℃にて四端子法により上記成形体の粉体抵抗値を測定した。
【0065】
2.比表面積の測定
比表面積計〔(株)マウンテック製、商品名:HM model-1208〕を用いて、窒素(N)吸着によるBET法により、正極材料の比表面積を測定した。
【0066】
3.炭素量の測定
炭素硫黄分析装置(堀場製作所社製、商品名:EMIA-220V)を用いて、炭素質被膜の質量を測定し、正極材料中の百分率で示した。
【0067】
4.炭素質被膜の厚さ
透過型電子顕微鏡(TEM;(株)日立ハイテクノロジーズ製、型番:HF2000)を用いて加速電圧200kV、倍率20万倍で正極材料を撮影した。得られた断面の画像において、180nm×180nmの視野を任意で10視野観察し、炭素質被膜の厚さを100箇所測定し、その平均値を炭素質被膜の厚さとした。
【0068】
5.比表面積当たりの炭素質被膜の質量
上記「2.比表面積の測定」と「3.炭素量の測定」の結果から、炭素量(g/g)/比表面積(m/g)×1000=比表面積当たりの炭素量(mg/m)として計算した。
【0069】
<リチウムイオン電池の作製>
(正極の作製)
実施例及び比較例で得られた電極材料と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂とを、電極材料:AB:PVdF=90:5:5の質量比で、N-メチルピロリドン(NMP)に混合し、正極材料ペーストとした。得られたペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔上に塗布し、乾燥後、プレス間隔30μmの設定でロールプレスにより圧着して電極板とした。
【0070】
(電池の作製)
得られた電極板を、円形の打ち抜き機で、面積が2cmとなる円形状に打ち抜き、真空乾燥機を用いて、60℃で15時間乾燥した後、グローブボックス内で、負極がリチウムとなるリチウムイオン電池のコインセルを作製した。
【0071】
<リチウムイオン電池の評価>
(低温特性の評価)
得られたコインセルを25℃で0.1Cのレートで充電した後、-30℃で1C放電した時の放電容量を測定することで、低温での放電容量を得た。結果を表1及び図1に示す。
図1は、実施例1~7、比較例1~5、および、炭素量、焼成雰囲気等の製造方法を変更した実験例の正極材料における単位比表面積当たりの炭素量に対する粉体抵抗をプロットしたグラフである。図1では、式(1)における粉体抵抗Yが500Ω・cm以上、50000Ω・cm以下の範囲と、単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量Xが0.7mg/m以上、1.1mg/m以下の範囲を実線で示し、式(1)から導かれる「Y=4.91×10×e-9.021X」で表される直線を破線で示している。
【0072】
【表1】
【0073】
表1からわかるように、粉体抵抗が500Ω・cm以上、50000Ω・cm以下の範囲に入るものの、単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量が0.7mg/m未満となる比較例1;粉体抵抗及び単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量が本発明の範囲に入るものの、式(1)を満たさない比較例2;式(1)の大小関係は満たすものの、粉体抵抗と単位比表面積当たりの炭素質被膜が本発明の範囲を満たさない比較例4;及び、粉体抵抗及び単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量が本発明の範囲に入らず、更に式(1)も満たさない比較例3と5のいずれも、-30℃での容量が65mAh/g以下であり、低温での出力特性に優れなかった。これに対し、実施例の正極材料を用いたリチウムイオン電池は、いずれも、-30℃での容量が80mAh/g以上となり、低温での出力特性に優れた。
図1
【手続補正書】
【提出日】2021-10-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質被膜により被覆された1次粒子、もしくはその凝集体からなり、粉体抵抗が500Ω・cm以上、50000Ω・cm以下であり、単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量が0.7mg/m以上、1.1mg/m以下であり、かつ下記式(1)を満たすリチウムイオン電池用正極材料。
Y≧ 25.45×10 ×e -9.687X (1)
Y:前記粉体抵抗(Ω・cm)
X:前記単位比表面積当たりの炭素質被膜の質量(mg/m
【請求項2】
前記炭素質被膜の主成分がハードカーボンから構成されている請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極材料。
【請求項3】
前記炭素質被膜の厚さが0.5nm以上10nm以下である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極材料を用いた、リチウムイオン電池用正極。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウムイオン電池用正極を備えたリチウムイオン電池。

【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1