(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155043
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体及びその製造方法、難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物、並びに難燃性シラン架橋アクリルゴム成形品
(51)【国際特許分類】
C08J 3/24 20060101AFI20221005BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20221005BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20221005BHJP
C08L 33/08 20060101ALI20221005BHJP
C08L 31/04 20060101ALI20221005BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20221005BHJP
C08F 8/42 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C08J3/24 A CEY
C08J3/215
C08J3/22
C08L33/08
C08L31/04 S
C08L23/04
C08F8/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058370
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100198328
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】西口 雅己
(72)【発明者】
【氏名】桜井 貴裕
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA18
4F070AA30
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4J100HD08
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4J100JA44
(57)【要約】
【課題】優れた高温耐油性、引張特性、及び難燃性を兼ね備えた難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を、工程負荷を低減して製造できる製造方法、この方法により得られた難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体及び成形品、この成形体の製造に好適な、難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を提供する。
【解決手段】金属水和物とシランカップリング剤とを混合してなる混合物と、エチレン-アクリルゴム及びエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂を特定量で含有するベースアクリルゴムの40~79質量%とを、溶融混合して、シランカップリング剤とグラフト化反応させたシラン架橋性アクリルゴムと、グラフト反応していないベースアクリルゴム21~60質量%とを含む難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を得る工程を有する製造方法、これにより製造される難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物及び成形体、並びに成形品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法であって、
工程(1):ベースアクリルゴム100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.6質量部と、金属水和物75~200質量部と、前記有機過酸化物から発生したラジカルの存在下で前記ベースアクリルゴムとグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベースアクリルゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性アクリルゴムを含む難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を得る工程
工程(2):前記難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を成形して、成形体を得る工程
工程(3):前記成形体を水と接触させて、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を得る工程
前記ベースアクリルゴムが、エチレン-アクリルゴム10~70質量%、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂45質量%以下、及び密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂45質量%以下を、前記エチレン-アクリルゴムと前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂との合計含有率がベースアクリルゴム100質量%中、35~70質量%の範囲になる質量割合で含有し、前記密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂以外のエチレン樹脂を含有せず、
前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)、及び工程(c)を有する、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
工程(a-1):前記金属水和物及び前記シランカップリング剤を混合して混合物を調製する工程
工程(a-2):前記混合物と前記ベースアクリルゴムの全量の40~79質量%とを、前記有機過酸化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベースアクリルゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性アクリルゴムを含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベースアクリルゴムの全量の21~60質量%及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと前記触媒マスターバッチとを溶融混合して、前記難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を得る工程
【請求項2】
前記ベースアクリルゴムが、スチレンエラストマー1~15質量%及び鉱物性オイル1~15質量%を含有する請求項1に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
【請求項3】
前記ベースアクリルゴムがプロピレン樹脂1~10質量%及び酸変性エチレン樹脂1~10質量%を含有する請求項1又は2に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ベースアクリルゴム100質量部に対して赤燐を2.5~10質量部溶融混合する請求項1~3のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
【請求項5】
前記金属水和物を、前記ベースアクリルゴム100質量部に対して、100~200質量部溶融混合する、請求項1~4のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
【請求項6】
前記シラノール縮合触媒を、前記ベースアクリルゴム100質量部に対して、0.01~0.5質量部溶融混合する、請求項1~5のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
【請求項7】
前記エチレン-アクリルゴムが、エチレンとアクリル酸アルキルエステルとの二元共重合体、若しくはエチレンとアクリル酸アルキルエステルとカルボキシ基を含有する共重合成分との三元共重合体、又はこれらの混合物を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
【請求項8】
前記工程(1)において、前記ベースアクリルゴム100質量部に対して、前記金属水和物75~200質量部と、前記シランカップリング剤1~15質量部と、前記有機過酸化物0.01~0.6質量部と、前記シラノール縮合触媒0.01~0.5質量部とを溶融混合する、請求項1~4、6~7のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法の工程(1)により製造されてなる難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋ゴム成形体の製造方法により製造されてなる難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体。
【請求項11】
請求項10に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を含む難燃性シラン架橋アクリルゴム成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体及びその製造方法、難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物、並びに難燃性シラン架橋アクリルゴム成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部配線若しくは外部配線に使用される絶縁電線、ケーブル、コード、光ファイバ心線又は光ファイバコードの各配線材には、機械特性(例えば、引張強さ、引張伸び)など種々の特性が要求されている。
【0003】
さらに、配線材は、油に接触しうる状態で使用されることがある。このような用途に使用される配線材には、耐油性(浸油しても物性の変化が小さい特性)が要求される。
【0004】
上述のような配線材においては、その特性向上のため、被覆層を形成する樹脂又はゴムの架橋処理がよく行われる。樹脂又はゴムを架橋する方法としては、一般に電子線架橋法又は化学架橋法が用いられる。例えば、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂を架橋する方法として、電子線を照射して架橋させる電子線架橋法、また、成形後に熱を加えることにより有機過酸化物等を作用させ架橋反応させる架橋法、及びシラン架橋法等の化学架橋法が挙げられる。
ここで、シラン架橋法とは、有機過酸化物の存在下で不飽和基を有するシランカップリング剤を樹脂又はゴムにシラングラフト化反応(単に、グラフト化反応ともいう。)させてシラングラフト樹脂又はゴムを得た後に成形して、シラノール縮合触媒の存在下でシラングラフト樹脂又はゴムを水分と接触させることにより、架橋した樹脂を得る方法である。
上記の方法のなかでも、特にシラン架橋法は架橋処理に特殊な設備を要しないため、幅広い分野で使用することができる。
【0005】
このようなシラン架橋法を応用した、耐油性の成形体の製造方法の例として、例えば、特許文献1には、アクリルゴム及びポリプロピレン樹脂を特定量含有するベース樹脂、有機過酸化物、金属水和物、シランカップリング剤、シラノール縮合触媒を溶融混合した後に、成形し、得られた成形体を水と接触させる製造方法が記載されている。特許文献2には、エチレン-アクリルゴムと、不飽和カルボン酸成分で変性されたポリオレフィン樹脂とを特定量含有するベースゴム、有機過酸化物、無機フィラー、シランカップリング剤、シラノール縮合触媒を溶融混合した後に、成形し、得られた成形体を水と接触させる製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-188307号公報
【特許文献2】特開2019-116582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の、特定のシラン架橋法においてアクリルゴムと特定の成分を組み合わせて含有するベースゴムを採用する特許文献1及び特許文献2に記載の技術により、高温耐油性をある程度実現することができる。
しかし、配線材には、一般に、上記高温耐油性に加えて、高い引張特性と難燃性とを備えていることが求められている。本発明者らが検討したところ、特許文献1及び2に記載された製造方法によって得られる成形体は引張特性について十分ではなく耐油性との両立の点で改善の余地がある。また、特許文献1及び2に記載された製造方法は、溶融混練、成形等の際の製造時の負荷(例えば、押出成形では押出機のスクリューのトルク)を更に低減して、汎用の成形機を用いて所定の配線材を製造できれば実際の製造的観点から大幅な利点が期待できる。
【0008】
本発明は、高温耐油性を維持しながら、優れた引張特性及び難燃性を有する難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を、製造時の工程負荷を低減して得ることができる製造方法、この製造方法により得られる難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体、並びに難燃性シラン架橋アクリルゴム成形品を提供することを課題とする。
また、本発明は、この難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造に好適な、難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、エチレン-アクリルゴムを用いたシラン架橋法を採用するに当たり、密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂以外のエチレン樹脂を必須とせずに、エチレン-アクリルゴム10~70質量%を含有し、この含有率が、エチレン-アクリルゴムとエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂との合計含有率として35~70質量%の範囲になる質量割合であるベースアクリルゴムとした上で、ベースアクリルゴムの全量の40~79質量%をシランマスターバッチの調製時に、全量の21~60質量%を触媒マスターバッチの調製時に用いて、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を製造することにより、製造工程(溶融混練、押出成形等)の負荷を低減できること、得られる難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を、高温耐油性を維持しつつ、優れた引張特性及び難燃性を有するものとできること、を見出した。本発明者らはこれらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0010】
本発明の課題は以下の手段によって達成された。
〔1〕
下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法であって、
工程(1):ベースアクリルゴム100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.6質量部と、金属水和物75~200質量部と、前記有機過酸化物から発生したラジカルの存在下で前記ベースアクリルゴムとグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベースアクリルゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性アクリルゴムを含む難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を得る工程
工程(2):前記難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を成形して、成形体を得る工程
工程(3):前記成形体を水と接触させて、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を得る工程
前記ベースアクリルゴムが、エチレン-アクリルゴム10~70質量%、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂45質量%以下、及び密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂45質量%以下を、前記エチレン-アクリルゴムと前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂との合計含有率がベースアクリルゴム100質量%中、35~70質量%の範囲になる質量割合で含有し、前記密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂以外のエチレン樹脂を含有せず、
前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)、及び工程(c)を有する、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
工程(a-1):前記金属水和物及び前記シランカップリング剤を混合して混合物を調製する工程
工程(a-2):前記混合物と前記ベースアクリルゴムの全量の40~79質量%とを、前記有機過酸化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ベースアクリルゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性アクリルゴムを含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベースアクリルゴムの全量の21~60質量%及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと前記触媒マスターバッチとを溶融混合して、前記難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を得る工程
〔2〕
前記ベースアクリルゴムがスチレンエラストマー1~15質量%及び鉱物性オイル1~15質量%を含有する〔1〕に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
〔3〕
前記ベースアクリルゴムがプロピレン樹脂1~10質量%及び酸変性エチレン樹脂1~10質量%を含有する〔1〕又は〔2〕に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
〔4〕
前記ベースアクリルゴム100質量部に対して赤燐を2.5~10質量部溶融混合する〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
〔5〕
前記金属水和物を、前記ベースアクリルゴム100質量部に対して、100~200質量部溶融混合する、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
〔6〕
前記シラノール縮合触媒を、前記ベースアクリルゴム100質量部に対して、0.01~0.5質量部溶融混合する、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
〔7〕
前記エチレン-アクリルゴムが、エチレンとアクリル酸アルキルエステルとの二元共重合体、若しくはエチレンとアクリル酸アルキルエステルとカルボキシ基を含有する共重合成分との三元共重合体、又はこれらの混合物を含む、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
〔8〕
前記工程(1)において、前記ベースアクリルゴム100質量部に対して、前記金属水和物75~200質量部と、前記シランカップリング剤1~15質量部と、前記有機過酸化物0.01~0.6質量部と、前記シラノール縮合触媒0.01~0.5質量部とを溶融混合する、〔1〕~〔4〕、〔6〕~〔7〕のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法。
〔9〕
〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の製造方法の工程(1)により製造されてなる難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物。
〔10〕
〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋ゴム成形体の製造方法により製造されてなる難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体。
〔11〕
〔10〕に記載の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を含む難燃性シラン架橋アクリルゴム成形品。
【0011】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、優れた高温耐油性、引張特性、及び難燃性を兼ね備えた難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を、溶融混練、成形等の工程負荷を低減して製造できる製造方法、この製造法により得られる難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体、並びにこのシラン架橋アクリルゴム成形体を含む難燃性シラン架橋アクリルゴム成形品を提供できる。また、このような優れた特性を示す難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造に好適な、難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明において用いる各成分について説明する。
【0014】
<ベースアクリルゴム>
本発明に用いられるベースアクリルゴムは、ゴム成分としてエチレン-アクリルゴムを含有する。ベースアクリルゴムは、さらに、任意成分としてエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、及び0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂、さらには、スチレンエラストマー、鉱物性オイル、プロピレン樹脂、及び酸変性エチレン樹脂を含有できる。これらの成分は、いずれも、有機過酸化物から発生したラジカルの存在下において、シランカップリング剤のグラフト化反応部位とグラフト化反応可能な部位、例えば炭素鎖の不飽和結合部位や、水素原子を有する炭素原子を主鎖中又はその末端に有している。
さらに、ベースアクリルゴムは、密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂以外のエチレン樹脂を含有しない。
【0015】
- エチレン-アクリルゴム -
本発明において、エチレン-アクリルゴムは、構成成分として少なくともエチレンとアクリル酸アルキルエステルとを共重合して得られるものをいう。エチレン-アクリルゴムは、アクリル酸アルキルエステル成分を50質量%以上含むものが好ましい。アクリル酸アルキルエステル成分は60質量%以下が好ましい。単量体成分としてアクリル酸メチル及び/又はアクリル酸エチルを含むものがより好ましく、アクリル酸メチルを含むものが特に好ましい。
エチレン-アクリルゴムとしては、エチレンとアクリル酸アルキルエステルとの二元共重合体や、これにさらにカルボキシ基を含有する共重合成分を共重合させた三元共重合体等の各共重合体からなるゴムを好適に使用することができる。中でも、三元共重合体からからなるゴムが特に好ましい。このような、カルボキシ基を含有する共重合成分としては、カルボキシ基と、エチレン又はアクリル酸アルキルエステルと共重合可能な不飽和基(通常、エチレン性不飽和基)とを有する化合物が挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸、及びマレイン酸が挙げられる。三元共重合体としては、例えば、エチレン-アクリル酸アルキルエステル-アクリル酸共重合体やエチレン-アクリル酸アルキルエステル-マレイン酸共重合体が挙げられ、特にエチレン-アクリル酸アルキルエステル-アクリル酸共重合体が好ましい。エチレン-アクリルゴムは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
二元共重合体からなるエチレン-アクリルゴムとしては、例えば、ベイマックDPやベイマックDLSが挙げられる。三元共重合体からなるエチレン-アクリルゴムとしては、例えば、ベイマックG、ベイマックHG、ベイマックLS、ベイマックGLS、ベイマックUltra HT-OR(商品名、いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)が挙げられる。
【0016】
- エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂 -
エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂としては、エチレンと酢酸ビニルとを共重合して得られる共重合体の樹脂等が挙げられる。エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
- 密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂 -
本発明のベースアクリルゴムに密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂を含有させることにより、機械的強度、伸び特性を向上することができる。密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂の密度は、0.920~0.940g/cm3がより好ましい。このような密度のエチレン樹脂を用いることにより、金属水和物の受容性が高まり、優れた機械特性を得られるとともに、高温耐油性も維持できる。エチレン樹脂の密度は、JIS K 7112に記載の方法によって、測定することができる。
密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂は、後述するエチレン樹脂の内、上記密度を有するものを選択することができる。本発明において、特に密度を特定せずに「エチレン樹脂」と記載する場合には、密度が限定されないものを意味する。
【0018】
エチレン樹脂としては、エチレン性不飽和結合を有する化合物を重合又は共重合して得られる重合体からなる樹脂(エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂及びプロピレン樹脂を除く)であって、上記密度を有するものであれば特に限定されず、従来、電線の被覆材の用途に使用されているものを使用することができる。例えば、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体等の各重合体からなる樹脂が挙げられる。エチレン樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ポリエチレン樹脂は、エチレン構成成分を含む重合体の樹脂であればよく、エチレンのみからなる単独重合体、エチレンとα-オレフィン(好ましくは5mol%以下)との共重合体(ポリプロピレンに該当するものを除く)、並びに、エチレンと官能基に炭素、酸素及び水素原子だけを持つ非オレフィン(好ましくは1mol%以下)との共重合体からなる樹脂が包含される。なお、上述のα-オレフィレン及び非オレフィンはポリエチレンの共重合成分として従来用いられる公知のものを特に制限されることなく用いることができる。
ポリエチレン樹脂としては、例えば、HDPE(高密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、UHMW-PE(超高分子量ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、MDPE(中密度ポリエチレン)、VLDPE(超低密度ポリエチレン)等が挙げられる。LLDPEは、メタロセン触媒存在下に合成されたLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)であってもよい。これらのポリエチレン樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのポリエチレン樹脂の中でも、LLDPEを使用することが好ましい。
エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂としては、例えばエチレンと炭素数4~12のα-オレフィンとの共重合体の樹脂が挙げられ、α-オレフィンとしては、1-ブテン、1-へキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等が挙げられる。これらのエチレン-αオレフィン共重合体樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
エチレン樹脂は、市販されているものとしては、例えば「エボリュー」(商品名:(株)プライムポリマー製)等を挙げることができる。
【0020】
- 密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂以外のエチレン樹脂 -
ベースアクリルゴムは、密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂以外のエチレン樹脂を含有しない。このようなエチレン樹脂としては、上記エチレン樹脂の内、密度が0.910~0.940g/cm3の範囲にないものが挙げられる。
【0021】
- スチレンエラストマー -
本発明に用いるスチレンエラストマーは、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とに由来する構成成分の共重合体ブロック、及び/又は、上記化合物に由来する構成成分を主体としたブロック共重合体若しくはランダム共重合体の水素添加物である。
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-第3ブチルスチレンなどのうちから1種又は2種以上を選択でき、中でもスチレンが好ましい。共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンなどのうちから1種又は2種以上を選択でき、中でも、ブタジエン、イソプレン又はこれらの組み合せが好ましい。
スチレンエラストマーとしては、ポリスチレンブロックとポリオレフィン構造のエラストマーブロックで構成された、二元又は三元の共重合体を使用することができる。
上記共重合体の水素添加物(以下、水添共重合体という場合がある)は、芳香族ビニル化合物に由来する構成成分を5~70質量%、更には10~60質量%含むものが好ましい。この含有量は、例えばクロロホルム溶液を用いた紫外線分光光度計にて、UV吸収スペクトルを測定することによって求められる。
スチレンエラストマーとしては、例えば、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー)、SIS(スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー)、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー:水素化SBS)、SEEPS(スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー)、SEPS(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー:水素化SIS)、HSBR(水素化スチレン-ブタジエンランダムコポリマー)等を挙げることができる。スチレンエラストマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
スチレンエラストマーとしては、例えば、「セプトン」(商品名、クラレ社製)、「タフテック」(商品名、旭化成ケミカルズ社製)、「ダイナロン」(商品名、JSR社製)を挙げることができる。
【0022】
- 鉱物性オイル -
本発明に用いる鉱物性オイルは、芳香族環を有するオイル、ナフテン環を有するオイル及びパラフィン鎖を有するオイルの三者を含む混合油である。パラフィンオイルとは、パラフィン鎖の炭素数(CP)が、芳香族環、ナフテン環及びパラフィン鎖の全炭素数に対して例えば50%以上75%未満で、ナフテン鎖の炭素数(CN)が20以上40%未満、芳香族環(CA)の炭素数が3以上10%未満を占めるものをいう。ナフテンオイルとは、上記全炭素数に対して、CNが40以上60%未満、CPが30%以上50%未満、かつCAが8%以上16%未満のもの、芳香族オイルとはCAが16%以上のものを、いう。
鉱物性オイル(ゴム用軟化材)としては、パラフィンオイル又はナフテンオイルを用いることができ、機械的強度の点でパラフィンオイルが好ましい。
パラフィンオイルは、40℃における動的粘度が20~500cSt、流動点が-10~-15℃、引火点(COC)が180~300℃を示すものが好ましい。
鉱物性オイルとしては、例えば、「ダイアナプロセスオイル」(商品名、出光興産社製)、「コスモニュートラル」(商品名、コスモ石油ルブリカンツ社製)等を挙げることができる。
【0023】
- プロピレン樹脂 -
プロピレン樹脂は、主成分がプロピレン構成成分を含む重合体の樹脂であればよく、プロピレンの単独重合体、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等の樹脂を使用することができる。
エチレン-プロピレンランダム共重合体は、エチレン成分の含有量が1~10質量%程度のものをいい、エチレン成分がプロピレン鎖中にランダムに取り込まれているものをいう。また、エチレン-プロピレンブロック共重合体は、エチレンやエチレン-プロピレンゴム(EPR)成分の含有量が5~20質量%程度のものをいい、プロピレン成分の中にエチレンやEPR成分が独立して存在する海島構造であるものをいう。プロピレン樹脂として特に好ましいものは、外観の点で、エチレン-プロピレンランダム共重合体の樹脂である。エチレン成分含有量は、ASTM D3900に記載の方法に準拠して、測定される値である。
プロピレン樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
- 酸変性エチレン樹脂 -
酸変性エチレン樹脂としては、上記エチレン樹脂を酸変性して得られる樹脂を用いることができる。酸変性エチレン樹脂に用いられるエチレン樹脂の密度は特に限定されない。酸変性に用いられる酸としては、特に限定されず、通常用いられる不飽和カルボン酸等が挙げられる。
【0025】
- 他のベースアクリルゴム成分 -
本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の樹脂又はゴムを用いることが出来る。
【0026】
- ベースアクリルゴム中の含有率 -
ベースアクリルゴムは、各成分の総計が100質量%となるように、各成分の含有率が下記範囲内から決定される。
エチレン-アクリルゴムの含有率は、ベースアクリルゴム100質量%中、10~70質量%である。この含有率が少なすぎると、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体に十分な難燃性、さらには高温耐油性を実現することができないことがある。一方、含有率が多すぎると、十分な引張特性を実現できないことがある。
ベースアクリルゴム中の、エチレン-アクリルゴムの含有率は、30~70質量%であることが好ましく、32~70質量%がより好ましく、35~55質量%が特に好ましい。エチレン-アクリルゴムの含有率が上記範囲内にあると、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の難燃性又は高温耐油性をさらに向上させることができる。
エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂の含有率は、ベースアクリルゴム100質量%中、45質量%以下である。エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂の含有率が多すぎると優れた高温耐油性を実現できないことがある。エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂の含有率は、10~40質量%が好ましく、15~35質量%がより好ましい。
エチレン-アクリルゴム及びエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は、それぞれ、単独で上記範囲内の含有量を満たしたうえで、エチレン-アクリルゴムとエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂との合計含有率がベースアクリルゴム100質量%中、35~70質量%の範囲に設定される。合計含有率が多すぎると、十分な引張特性を実現できない場合がある。また、製造時の負荷が高くなりすぎる場合がある。合計含有率が少なすぎると、十分な難燃性が実現できない場合がある。合計含有率は、40~65質量%が好ましく、45~60量%がより好ましく、その下限値を50質量%以上とすることもできる。50質量%以上にすることにより、より高度の難燃性を実現できる傾向にある。
【0027】
密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂の含有率は、ベースアクリルゴム100質量%中、45質量%以下であり、好ましくは5~45質量%、さらに好ましくは15~40質量%である。この含有率が多すぎると、十分な難燃性が実現できない場合がある。
【0028】
本発明において、「密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂以外のエチレン樹脂を含有しない」とは、密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂以外のエチレン樹脂が、本発明の効果を損なわい限りは存在していてもよいことを意味する。例えば、密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂以外のエチレン樹脂の含有率は、ベースアクリルゴム100質量%中、5質量%以下であり、1質量%以下であることが好ましい。
【0029】
スチレンエラストマーの含有率は、特に限定されないが、ベースアクリルゴム100質量%中、15質量%以下が好ましく、1~15質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましく、2~8質量%が特に好ましい。この範囲であると、高温耐油性、機械特性を高めることができる。
【0030】
鉱物性オイルの含有率は、特に限定されないが、ベースアクリルゴム100質量%中、15質量%以下が好ましく、1~15質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましく、2~8質量%が特に好ましい。この範囲であると、高温耐油性を維持しつつ、機械特性及び難燃性を高めることができる。また、製造時の負荷を低減することができる。
【0031】
プロピレン樹脂の含有率は、特に限定されないが、ベースアクリルゴム100質量%中、10質量%以下が好ましく、1~10質量%がより好ましく、1~6質量%がさらに好ましく、1~5質量%がより好ましい。この範囲であると、高温耐油性を維持しつつ、機械特性及び難燃性を高めることができる。また、製造時の負荷を低減することができる。
【0032】
酸変性エチレン樹脂の含有率は、特に限定されないが、ベースアクリルゴム100質量%中の10質量%以下が好ましく、1~10質量%がより好ましく、1~6質量%がさらに好ましく、1~5質量%がより好ましい。この範囲であると、高温耐油性を維持しつつ、機械特性及び難燃性を高めることができる。また、製造時の負荷を低減することができる。
【0033】
ベースアクリルゴムは、ベースアクリルゴム100質量%中に、スチレンエラストマー1~15質量%及び鉱物性オイル1~15質量%を含有することが好ましい。
ベースアクリルゴムは、ベースアクリルゴム100質量%中に、プロピレン樹脂1~10質量%及び酸変性エチレン樹脂1~10質量%を含有することが好ましい。
【0034】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、シランカップリング剤のゴム成分へのラジカル反応によるグラフト化反応(シランカップリング剤のグラフト化反応部位とゴム成分のグラフト化反応可能な部位との共有結合形成反応であって、(ラジカル)付加反応ともいう。)を生起させる働きをする。特にシランカップリング剤がグラフト化反応部位としてエチレン性不飽和基を含む場合、エチレン性不飽和基とゴム成分とのラジカル反応(ゴム成分からの水素ラジカルの引き抜き反応を含む)によるグラフト化反応を生起させる働きをする。
有機過酸化物としては、ラジカルを発生させるものであれば、特に制限はなく、例えば、一般式:R1-OO-R2、R3-OO-C(=O)R4、R5C(=O)-OO(C=O)R6で表される化合物が好ましい。ここで、R1~R6は各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。各化合物のR1~R6のうち、いずれもアルキル基であるもの、又は、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。
【0035】
このような有機過酸化物としては、国際公開第2015/046478号の段落[0037]に記載の有機過酸化物が挙げられ、該記載はここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
【0036】
有機過酸化物の分解温度は、120~195℃であるのが好ましく、125~180℃であるのが特に好ましい。有機過酸化物の分解温度は、後述する工程(a-2)における溶融混合温度以下である。
本発明において、有機過酸化物の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
【0037】
<金属水和物>
本発明において、金属水和物は、その表面に、シランカップリング剤のシラノール基等の反応部位と水素結合若しくは共有結合等、又は分子間結合により、化学結合しうる部位を有するものであれば特に制限なく用いることができる。この金属水和物における、シランカップリング剤の反応部位と化学結合しうる部位としては、OH基(水酸基、含水若しくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)等が挙げられる。
【0038】
金属水和物としては、水酸基又は結晶水を有する化合物が挙げられる。金属水和物としては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、タルク等が挙げられる。金属水和物は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
金属水和物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどから選ばれる少なくとも1種が好ましく、水酸化マグネシウムがより好ましい。
【0039】
金属水和物は、シランカップリング剤等で表面処理した表面処理金属水和物を使用することができる。例えば、シランカップリング剤表面処理金属水和物として、キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、水酸化マグネシウム、協和化学工業社製等)等が挙げられる。シランカップリング剤による金属水和物の表面処理量は、特に限定されないが、例えば、3質量%以下である。
【0040】
金属水和物が粉体である場合、金属水和物の平均粒径は、0.2~10μmが好ましく、0.3~8μmがより好ましく、0.4~5μmがさらに好ましく、0.4~3μmが特に好ましい。平均粒径が上記範囲内にあると、シランカップリング剤の保持効果が高く、引張特性に優れたものとなる。また、シランカップリング剤との混合時に金属水和物が2次凝集しにくく、外観に優れたものとなる。平均粒径は、金属水和物をアルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0041】
<シランカップリング剤>
本発明に用いられるシランカップリング剤は、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下でベースアクリルゴムとグラフト化反応しうるグラフト化反応部位(基又は原子)を有している。また、金属水和物の化学結合しうる部位と反応し、シラノール縮合可能な反応部位(加水分解して生成する部位を含む。例えばシリルエステル基等)を有している。このようなシランカップリング剤として、従来、シラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。
シランカップリング剤としては、例えば下記の一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0042】
【0043】
一般式(1)中、Ra11はエチレン性不飽和基を含有する基、Rb11は脂肪族炭化水素基、水素原子又はY13である。Y11、Y12及びY13は加水分解しうる有機基である。Y11、Y12及びY13は互いに同じでも異なっていてもよい。
【0044】
Ra11は、グラフト化反応部位であり、エチレン性不飽和基を含有する基が好ましい。エチレン性不飽和基を含有する基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基、p-スチリル基を挙げることができる。中でも、ビニル基が好ましい。
Rb11は、脂肪族炭化水素基、水素原子又は後述のY13を示す。脂肪族炭化水素基としては、脂肪族不飽和炭化水素基を除く炭素数1~8の1価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。Rb11は、好ましくは後述のY13である。
【0045】
Y11、Y12及びY13は、シラノール縮合可能な反応部位(加水分解しうる有機基)を示す。例えば、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数6~10のアリールオキシ基、炭素数1~4のアシルオキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましい。加水分解しうる有機基としては、具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、アシルオキシ等を挙げることができる。このなかでも、シランカップリング剤の反応性の点から、メトキシ又はエトキシがさらに好ましい。
【0046】
シランカップリング剤としては、好ましくは、加水分解速度の速いシランカップリング剤であり、より好ましくは、Rb11がY13であり、かつY11、Y12及びY13が互いに同じであるシランカップリング剤、又は、Y11、Y12及びY13の少なくとも1つがメトキシ基であるシランカップリング剤である。
【0047】
シランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルアルコキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルコキシシランを挙げることができる。
【0048】
上記シランカップリング剤のなかでも、末端にビニル基とアルコキシ基を有するシランカップリング剤がさらに好ましく、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0049】
シランカップリング剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、そのままで用いても、溶媒等で希釈して用いてもよい。
【0050】
<シラノール縮合触媒>
シラノール縮合触媒は、ベースアクリルゴムにグラフトしたシランカップリング剤を水分の存在下で縮合反応させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介して、ゴム成分同士が架橋される。その結果、優れた引張強さを有する難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体が得られる。また、必要により耐熱性に優れた難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を得ることもできる。
【0051】
シラノール縮合触媒としては、特に限定されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。一般的なシラノール縮合触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ナフテン酸鉛、硫酸鉛、硫酸亜鉛、有機白金化合物等が用いられる。シラノール縮合触媒は、1種を用いても、2種以上を用いてもよい。
【0052】
<添加剤>
本発明では、電線、電気ケーブル、電気コード、自動車用部材、OA機器、建築部材、雑貨、シート、発泡体、チューブ、パイプにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤を、目的とする効果を損なわない範囲で適宜配合してもよい。このような添加剤としては、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、金属不活性剤、難燃(助)剤や他の樹脂等が挙げられる。
【0053】
架橋助剤は、有機過酸化物の存在下においてゴム成分との間に部分架橋構造を形成する化合物をいう。例えば、多官能性化合物等が挙げられる。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤又はイオウ酸化防止剤等が挙げられる。
滑剤としては、炭化水素、シロキサン、脂肪酸、脂肪酸アミド、エステル、アルコール、金属石けん等の各滑剤が挙げられる。
難燃剤としては、上述の金属水和物に加えて、赤燐が挙げられる。
金属水和物以外の難燃剤の配合量は特に限定されないが、ベースアクリルゴム100質量部に対して、2.5~10質量部であることが好ましい。
【0054】
<難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法>
以下、本発明の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法を具体的に説明する。
本発明の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法は、下記工程(1)、工程(2)、及び工程(3)を有する。
本発明の難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物は、下記工程(1)により製造される。
【0055】
工程(1):ベースアクリルゴム100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.6質量部と、金属水和物75~200質量部と、有機過酸化物から発生したラジカルの存在下でベースアクリルゴムとグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、有機過酸化物から発生したラジカルによってグラフト化反応部位とベースアクリルゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性アクリルゴムを含む難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を得る工程
工程(2):難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を成形して、成形体を得る工程
工程(3):成形体を水と接触させて、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を得る工程
【0056】
上記工程(1)は以下の工程を有する。
工程(a-1):金属水和物及びシランカップリング剤を混合して混合物を調製する工程
工程(a-2):混合物とベースアクリルゴムの全量の40~79質量%とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、有機過酸化物から発生したラジカルによってグラフト化反応部位とベースアクリルゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性アクリルゴムを含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):ベースアクリルゴムの全量の21~60質量%及びシラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):シランマスターバッチと触媒マスターバッチとを溶融混合して、難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を得る工程
以下、工程(a-1)及び工程(a-2)の両工程を併せて工程(a)ということがある。
【0057】
本発明の製造方法において、「ベースアクリルゴム」とは、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体又は難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を形成するためのゴムである。
【0058】
工程(1)におけるベースアクリルゴムの配合量100質量部は、工程(a-2)及び工程(b)で混合されるベースアクリルゴムの合計量である。
ベースアクリルゴムは、工程(a-2)において、ベースアクリルゴム100質量%中、40~79質量%、好ましくは45~70質量%が配合され、工程(b)において、21~60質量%、好ましくは30~55質量%が配合される。上記範囲となるように配合することで、高温耐油性を維持しつつ、機械特性及び難燃性を高めることができる。また、製造時の負荷を低減することができる。
【0059】
工程(1)において、ベースアクリルゴム中の、エチレン-アクリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂の、ベースアクリルゴム中の配合量(含有率)は、上記したとおりである。エチレン-アクリルゴムとエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂との合計量についても、上記したとおりである。
さらに、スチレンエラストマー、鉱物性オイル、プロピレン樹脂、酸変性エチレン樹脂、密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂以外のエチレン樹脂の配合量についても上述したとおりである。
【0060】
工程(a-2)で用いられるベースアクリルゴム成分は、上述のベースアクリルゴム成分を特に制限されずに使用できる。工程(a-2)においては、エチレン-アクリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂、スチレンエラストマー、鉱物性オイル、プロピレン樹脂、変性エチレン樹脂の少なくとも1種を用いることが出来る。エチレン-アクリルゴムを用いることが好ましく、エチレン-アクリルゴムに加えて、密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂、スチレンエラストマー、鉱物性オイルを用いることがより好ましい。
【0061】
工程(b)で触媒マスターバッチ調製に用いられるベースアクリルゴム(キャリアともいう)成分としては、上述のベースアクリルゴム成分を特に制限されずに使用できる。キャリアとしては、エチレン-アクリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂、プロピレン樹脂、変性エチレン樹脂の少なくとも1種が好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、密度0.910~0.940g/cm3のエチレン樹脂、プロピレン樹脂、及び変性エチレン樹脂の少なくとも1種類がより好ましい。
【0062】
工程(1)において、有機過酸化物の配合量は、ベースアクリルゴム100質量部に対して、0.01~0.6質量部であり、0.01~0.5質量部が好ましく、0.05~0.2質量部がより好ましい。有機過酸化物の配合量を0.01~0.6質量部にすることにより、適切な範囲でグラフト化反応を行うことができ、シランカップリング剤同士の縮合を抑制して、機械特性を十分に得ることができる。
【0063】
工程(1)において、金属水和物の配合量は、ベースアクリルゴム100質量部に対して、75~200質量部であり、100~200質量部が好ましく、110~170質量部がより好ましく、115~150質量部がさらに好ましい。金属水和物の配合量を75~200質量部とすることにより、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体に配線材に必要な引張特性及び難燃性を実現できる。さらに、成形時や混練時の負荷の上昇を抑えて、成形を可能とできる。金属水和物の配合量を130質量部以上とすると、より高度の難燃性を達成できる傾向にある。
【0064】
工程(1)において、シランカップリング剤の配合量は、ベースアクリルゴム100質量部に対して、1~15質量部であり、好ましくは1.5~7質量部であり、より好ましくは2~5質量部である。
シランカップリング剤の配合量が1~15質量部であると、金属水和物の表面にシランカップリング剤が吸着して、シランカップリング剤が混練中に揮発するのを抑制できるため、経済的である。また、吸着しないシランカップリング剤が縮合して、成形体にゲルブツや荒れが生じて外観が悪化することを抑制することができる。さらに、必要により、架橋反応を十分に進行させて優れた引張強さを発揮させることができる。
シランカップリング剤の配合量が2.0質量部を超えて15.0質量部以下であると、より高温耐油性に優れた難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を製造することができる。
【0065】
工程(1)において、シラノール縮合触媒の配合量は、特に限定されず、ベースアクリルゴム100質量部に対して、好ましくは0.01~0.5質量部、より好ましくは0.02~0.5質量部、さらに好ましくは、0.05~0.4質量部、特に好ましくは、0.08~0.3質量部である。シラノール縮合触媒の配合量が上述の範囲内にあると、十分に架橋が進行し機械強度に優れる。また、必要により耐熱性を実現したり、成形時のゲルブツの発生を抑制したりできる。
【0066】
優れた耐熱性、高温耐油性、引張強度の付与の観点からは、工程(1)において、ベースアクリルゴム100質量部に対して、金属水和物75~200質量部と、シランカップリング剤1~15質量部と、有機過酸化物0.01~0.6質量部と、シラノール縮合触媒0.01~0.5質量部とを溶融混合することが好ましい。
【0067】
工程(1)を行うに際して、工程(a-1)及び工程(a-2)を順次行う。すなわち、まず、金属水和物及びシランカップリング剤を混合し、次いで、得られた混合物とベースアクリルゴムの全量の40~79質量%とを、上記配合量で、有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混練することにより、上記グラフト化反応を生起させて、シランマスターバッチを調製する。
ベースアクリルゴムの混合方法は特に限定されない。例えば、予め混合調製されたベースアクリルゴムを用いてもよく、各成分、例えばゴム成分それぞれを別々に混合してもよい。
【0068】
本発明においては、シランカップリング剤は、シランマスターバッチに単独で導入されず、金属水和物と前混合される。すなわち、金属水和物及びシランカップリング剤を混合して混合物を調製する(工程(a-1))。前混合されたシランカップリング剤は、金属水和物の表面を取り囲むように存在し、その一部又は全部が金属水和物に吸着又は結合すると考えられる。これにより、後の溶融混合の際にシランカップリング剤の揮発を低減できる。また、金属水和物に吸着又は結合しないシランカップリング剤が縮合して溶融混練が困難になることも防止できる。さらに、押出成形の際に所望の形状を得ることもできる。
【0069】
金属水和物とシランカップリング剤を前混合する方法としては、特に限定されないが、湿式処理、乾式処理等の混合方法が挙げられる。具体的には、有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは10~60℃、より好ましくは室温近傍(20~25℃)で金属水和物とシランカップリング剤を、数分~数時間程度、乾式又は湿式により、混合する方法が挙げられ、金属水和物、好ましくは乾燥させた金属水和物中にシランカップリング剤を、加熱又は非加熱で加えて混合する乾式処理がより好ましい。工程(a-1)においては、上記分解温度未満の温度が保持されている限り、ベースアクリルゴムを混合していてもよい。
【0070】
本発明の製造方法においては、次いで、工程(a-1)で得られた、金属水和物とシランカップリング剤との混合物と、ベースアクリルゴムの全量の40~79質量%とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱しながら、溶融混合する(工程(a-2))。
工程(a-2)における溶融混合により、有機過酸化物から発生したラジカルによって、シランカップリング剤のグラフト化反応部位とベースアクリルゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させる。その結果、シランカップリング剤がゴム成分に共有結合で結合したシラン架橋性アクリルゴム(シラングラフトポリマー)が合成され、このシラン架橋性アクリルゴムを含むシランマスターバッチが調製される。
【0071】
工程(a-2)において、上記成分を溶融混合(溶融混練、混練りともいう)する温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは150~230℃である。有機過酸化物の分解温度はベースアクリルゴム成分が溶融してから設定することが好ましい。上記混合温度であれば、上記成分が溶融し、有機過酸化物が分解、作用して必要なシラングラフト化反応が工程(a-2)において十分に進行する。混合時間は、反応混合物が十分混合され、シラングラフト化反応が完了し得る時間でよく、通常、5~30分の間で適宜設定されるが、これに制限されるものではない。その他の条件は適宜設定することができる。
混合方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混練装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。
【0072】
有機過酸化物は、上記工程(a-2)の溶融混合時、すなわち、工程(a-1)で得られた混合物とベースアクリルゴムとを溶融混合する際に、存在していればよい。有機過酸化物は、例えば、工程(a-1)において混合されてもよく、工程(a-2)において混合されてもよい。有機過酸化物は、工程(a-1)において混合されることが好ましい。
【0073】
工程(a-1)及び工程(a-2)、特に工程(a-2)においては、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに上述の各成分を混練することが好ましい。これにより、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることができ、溶融混合しやすく、また押出成形の際に所望の形状を得ることができる。ここで、「実質的に混合せず」とは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。例えば、工程(a-2)において、シラノール縮合触媒は、ベースアクリルゴム100質量部に対して0.01質量部以下であれば、存在していてもよい。
【0074】
このようにして、工程(a-1)及び工程(a-2)からなる工程(a)を行い、シランカップリング剤とベースアクリルゴムとをグラフト化反応させて、シランマスターバッチ(シランMBともいう)を調製する。こうして得られるシランMBは、後述するように、工程(1)で調製される反応組成物(難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物)の製造に、後述する触媒マスターバッチとともに、用いられる。シランMBは、後述の工程(2)により成形可能な程度にシランカップリング剤がゴム成分にグラフト化反応したシラン架橋性アクリルゴムを含有する混合物である。
【0075】
本発明の製造方法において、次いで、ベースアクリルゴムの全量の21~60質量%とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチ(触媒MBともいう)を調製する工程(b)を行う。
【0076】
混合は、均一に混合できる方法であればよく、ベースアクリルゴムの溶融条件下で行う混合(溶融混合)が挙げられる。溶融混合は上記工程(a-2)の溶融混合と同様に行うことができる。例えば、混合温度は、ベースアクリルゴム成分の溶融温度以上で適宜設定でき、好ましくは120~200℃、より好ましくは140~180℃で行うことができる。その他の条件は適宜設定することができる。
【0077】
また、工程(b)において、金属水和物を用いてもよい。この場合、金属水和物の配合量は、特には限定されないが、キャリア100質量部に対し、350質量部以下が好ましい。金属水和物の量を350質量部以下とすることにより、シラノール縮合触媒が適度に分散して架橋が進行しやすい。また、必要により、十分な耐熱性を得ることができる。
高い難燃性や優れた外観特性の付与、製造負荷の低減の観点からは、工程(b)において、金属水和物を用いることが好ましい。工程(b)における金属水和物の配合量は、工程(1)における金属水和物の全量の、10~80質量%であることが好ましく、25~70質量%であることがより好ましい。
【0078】
このようにして調製される触媒MBは、シラノール縮合触媒及びキャリア、所望により添加されるフィラーの(溶融)混合物である。
この触媒MBは、シランMBとともに、工程(1)で調製される難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物の製造に用いられる。
【0079】
本発明の製造方法において、次いで、シランMBと触媒MBとを溶融混合して、難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物(反応組成物)を得る工程(c)を行う。この反応組成物は、上記工程(a-2)で合成したシラン架橋性アクリルゴムを含む組成物である。
混合方法は、上述のように均一な反応組成物を得ることができれば、どのような混合方法でもよい。
【0080】
混合は、工程(a-2)の溶融混合と基本的に同様である。DSC等で融点が測定できないゴム成分、例えばエラストマーもあるが、少なくともゴム成分等が溶融する温度で混練する。溶融混合温度は、ベースアクリルゴム又はキャリアの溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80~250℃、より好ましくは100~240℃である。その他の条件、例えば混合(混練)時間は適宜設定することができる。
【0081】
工程(c)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
【0082】
このようにして、工程(a)~(c)(工程(1))を行い、反応組成物として、難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物が製造される。この難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物は、ベースアクリルゴムの内の40~79質量%にシランカップリング剤がグラフト化したシラン架橋性アクリルゴムと、グラフト化していないベースアクリルゴム21~60質量%と、ベースアクリルゴム100質量部に対して、金属水和物75~200質量部と、シラノール縮合触媒と、を含有する。
この難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物は、架橋方法の異なるシラン架橋性アクリルゴムを含有する。このシラン架橋性アクリルゴムにおいて、シランカップリング剤の、シラノール縮合可能な反応部位は、金属水和物と結合又は吸着していてもよいが、後述するようにシラノール縮合していない。したがって、シラン架橋性アクリルゴムは、金属水和物と結合又は吸着したシランカップリング剤がベースアクリルゴムにグラフト化した架橋性ゴムと、金属水和物と結合又は吸着していないシランカップリング剤がベースアクリルゴムにグラフト化した架橋性ゴムとを少なくとも含む。また、シラン架橋性アクリルゴムは、金属水和物が結合又は吸着したシランカップリング剤と、金属水和物が結合又は吸着していないシランカップリング剤とを有していてもよい。さらに、シランカップリング剤と未反応のゴム成分を含んでいてもよい。
上記のように、シラン架橋性アクリルゴムは、シランカップリング剤がシラノール縮合していない未架橋体である。実際的には、工程(c)で溶融混合されると、一部架橋(部分架橋)は避けられないが、得られる難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物について、少なくとも工程(2)での成形における成形性が保持されたものとする。
【0083】
工程(1)において、工程(a)~(c)は、同時又は連続して行うことができる。
【0084】
工程(1)においては、上記成分の他に用いることができる他のベースアクリルゴム成分や上記添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜に設定される。
工程(1)において、上記添加剤、特に酸化防止剤及び難燃剤は、いずれの工程で又は成分に混合されてもよいが、キャリアに混合されるのがよい。
工程(1)、特に工程(a-1)及び工程(a-2)において、架橋助剤は実質的に混合されないことが好ましい。架橋助剤が実質的に混合されないと、溶融混合中にゴム成分同士の架橋が生じにくく、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の外観が優れる。ここで、実質的に混合されないとは、架橋助剤を積極的に混合しないことを意味し、不可避的に混合することを除外するものではない。
【0085】
本発明の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法は、次いで、工程(2)及び工程(3)を行う。
本発明の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法において、得られた反応組成物を成形して成形体を得る工程(2)を行う。この工程(2)は、反応組成物を成形できればよく、本発明の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体又は難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を含む難燃性シラン架橋アクリルゴム成形品の形態に応じて、適宜に成形方法及び成形条件が選択される。成形方法は、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた押出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。押出成形は、本発明の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体又は難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を含む難燃性シラン架橋アクリルゴム成形品が電線又は光ファイバケーブルである場合に、好ましい。
【0086】
また、工程(2)は、工程(c)と同時に又は連続して、行うことができる。すなわち、工程(c)の溶融混合の一実施態様として、溶融成形の際、例えば押出成形の際に、又は、その直前に、成形原料を溶融混合する態様が挙げられる。例えば、ドライブレンド等のペレット同士を常温(例えば20~25℃)又は高温で混ぜ合わせて成形機に導入(溶融混合)してもよいし、混ぜ合わせた後に溶融混合し、再度ペレット化をして成形機に導入してもよい。より具体的には、シランMBとシラノール縮合触媒又は触媒MBとからなる成形材料を被覆装置内で溶融混練し、次いで、導体等の外周面に押出被覆して、所望の形状に成形する一連の工程を採用できる。
このようにして、難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物の成形体が得られる。この成形体は難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物と同様に、一部架橋は避けられないが、工程(2)で成形可能な成形性を保持する部分架橋状態にある。したがって、この発明の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体は、工程(3)を実施することによって、架橋又は最終架橋された成形体とされる。
【0087】
本発明の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の製造方法においては、工程(2)で得られた成形体を水と接触させる工程(3)を行う。これにより、シランカップリング剤の、シラノール縮合可能な反応部位が加水分解されてシラノール基となり、成形体中に存在するシラノール縮合触媒によりシラノール基の水酸基同士が縮合して架橋反応が起こる。こうして、シランカップリング剤がシラノール縮合して架橋した難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を得ることができる。
この工程(3)の処理自体は、通常の方法によって行うことができる。シランカップリング剤同士の縮合は、常温、例えば20~25℃で保管するだけで進行する。したがって、工程(3)において、成形体を水に積極的に接触させる必要はない。この架橋反応を促進させるために、成形体を水分と積極的に接触させることもできる。例えば、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0088】
このようにして、本発明の難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物から難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体が製造される。この難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体は、後述するように、シラン架橋性アクリルゴムがシロキサン結合を介して縮合した架橋ゴムを含んでいる。この難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体の一形態は、難燃性シラン架橋ゴムと金属水和物とを含有する。ここで、金属水和物は難燃性シラン架橋ゴムのシランカップリング剤に結合していてもよい。したがって、この難燃性シラン架橋ゴムは、複数の架橋ゴムがシランカップリング剤により金属水和物に結合又は吸着して、金属水和物及びシランカップリング剤を介して結合(架橋)した架橋ゴムと、上記架橋性ゴムのシランカップリング剤の反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、シランカップリング剤を介して架橋した架橋ゴムとを少なくとも含む。また、難燃性シラン架橋ゴムは、金属水和物及びシランカップリング剤を介した結合(架橋)と、シランカップリング剤を介した架橋とが混在していてもよい。さらに、シランカップリング剤と未反応のゴム成分及び/又は架橋していないシラン架橋性アクリルゴムを含んでいてもよい。
【0089】
本発明の作用機構については、まだ定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の製造方法によれば、工程(a-1)において、金属水和物とシランカップリング剤とを特定の量比で予め混合することにより、工程(a-2)で行うグラフト化反応に先立って、シランカップリング剤が金属水和物に吸着又は結合する。この状態で、工程(a-2)において、有機過酸化物の存在下で、ベースアクリルゴムと共に溶融混練するとグラフト化反応が起こる。その際に、金属水和物と弱い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤は、金属水和物から脱離する一方、金属水和物に対し前者より強い結合で結合したシランカップリング剤は、金属水和物との結合を維持する。このようにして、金属水和物の吸着状態の異なるシラン架橋性ゴムが形成される。さらに、これらのシラン架橋性ゴムが、工程(3)において、水分と接触することにより、シラノール結合を介する架橋構造を有する架橋ゴムが形成される。
本発明の製造方法においては、上述のシラン架橋による架橋構造の形成を前提とした上で、特定の組成のベースアクリルゴムを、特定の割合で、他の成分と共に、シランマスターバッチ及び触媒マスターバッチの調製に用いる。このようにしたことにより、ベースアクリルゴム成分同士の過度の架橋を抑制することができる。結果として、押出負荷が低減する。さらに、グラフト化反応したベースアクリルゴムと、グラフト化反応していないベースアクリルゴムが適切な比率で含まれていることにより、過剰な架橋による引張伸びの低減を抑制しつつ、十分に引張強さを高めることができ、引張特性が優れたものとなる。また、配線材用途に必要な架橋を形成できる。このようにして、本発明では、エチレン-アクリルゴムがもともと有する高温耐油性に加えて、優れた引張特性と難燃性とを兼ね備えた成形体を得ることができる。
【0090】
本発明の製造方法は、高温耐油性が要求される製品(半製品、部品、部材も含む。)、高温耐油性に加えて、強度が求められる製品、柔軟性が要求される製品、難燃性が要求される製品、ゴム材料等の製品の構成部品又はその部材の製造に適用することができる。したがって、難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体、又は難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を含む難燃性シラン架橋アクリルゴム成形品は、このような製品とされる。
本発明の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体、又は難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を含む難燃性シラン架橋アクリルゴム成形品として、例えば、難燃性の絶縁電線等の電線又は難燃ケーブルの被覆材料、ゴム代替電線・ケーブルの材料、その他、難燃電線部品、難燃耐熱シート、難燃フィルム等が挙げられる。また、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、パッキン、クッション材、防震材、電気・電子機器の内部配線及び外部配線に使用される配線材、特に絶縁電線や光ケーブルが挙げられる。
【0091】
本発明の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体は、特に優れた引張特性と難燃性の両者を要求される部位に用いられる材料として好適であり、例えば難燃電線・ケーブルの被覆材のみならず、ホース、チューブ類、更にはゴムモールド材など、従来、電子線照射による架橋や化学加硫工程を経ていたアクリルゴム材料の置き換えとして用いることができる。また、車両用電線、自動車用電線などに使用出来る。
【0092】
本発明の製造方法は、上記耐油性製品のなかでも、特に電線及び光ケーブルの製造に好適に適用され、これらの被覆材料(絶縁体、シース)を形成することができる。
【0093】
本発明の難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体、又は難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を含む難燃性シラン架橋アクリルゴム成形品が電線、ケーブル等の押出成形品である場合、好ましくは、成形材料を押出機(押出被覆装置)内で溶融混練して上記グラフト化反応させることにより難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を調製しながら、この難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を導体等の外周に押し出して、導体等を被覆する等により、製造できる(工程(c)及び工程(2))。このときの押出成形機の温度は、ゴムの種類、導体等の引取り速度の諸条件にもよるがシリンダー部で120~180℃、クロスヘッド部で約160~210℃程度にすることが好ましい。難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体、又は難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を含む難燃性シラン架橋アクリルゴム成形品は、金属水和物を大量に加えた難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を電子線架橋機等の特殊な機械を使用することなく汎用の押出被覆装置を用いて、導体の周囲に、又は抗張力繊維を縦添え若しくは撚り合わせた導体の周囲に押出被覆することにより、成形することができる。例えば、導体としては、金属導体が好ましく、軟銅、銅合金、アルミニウムなどの単線又は撚り線等を用いることができる。また、導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いることもできる。導体の周りに形成される絶縁層(本発明の難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが、通常、0.15~5mm程度である。
【実施例0094】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
表1-1及び表1-2(併せて表1という。)において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分について空欄は対応する成分の配合量が0質量部であることを意味する。
【0095】
実施例1~21及び比較例1~9において、ベースアクリルゴムを構成する成分の一部を触媒MBのキャリアとして用いた。シランMB及び触媒MBにおけるベースアクリルゴムの配合比率を、表中の「ゴム比率」欄に示した。
【0096】
(実施例1~21、比較例1~5、7~9)
まず、金属水和物とシランカップリング剤と有機過酸化物とを表1に示す質量比で、回転刃式ミキサー(商品名、マゼラーPM、マゼラー社製)に投入し、室温(25℃)において10rpmで1分間攪拌(前混合)して、粉体混合物を得た(工程(a-1))。次いで、得られた粉体混合物とベースアクリルゴムと酸化防止剤とを、表1に示す質量比で、予め100℃に昇温したニーダー(容量75L)へ投入し、30rpmで5分間の混合後、25rpmで3分間の仕上げ混練を行った。混合物の温度が有機過酸化物の分解温度以上である180~200℃に達したことを確認した後、フィーダー・ルーダー及びペレタイザーを用いてペレット化することでシランMBを得た(工程(a-2))。こうして得られたシランMBは、ゴム成分にシランカップリング剤がグラフト化反応したシラン架橋性アクリルゴムを含有している。
【0097】
一方、ベースアクリルゴム、金属水和物、難燃剤、酸化防止剤及びシラノール縮合触媒を、表1に示す質量比で、順次、予め80℃に昇温したニーダー(容量75L)へ投入し、30rpmで5分間の混合後、25rpmで3分間仕上げ混練を行った。混合物の温度が160℃程度に達しベースアクリルゴムが十分に溶融したことを確認した後、フィーダー・ルーダー及びペレタイザーを用いてペレット化することで触媒MBを得た(工程(b))。この触媒MBは、キャリア及びシラノール縮合触媒の溶融混合物である。
【0098】
次いで、シランMBと触媒MBを密閉型のリボンブレンダーに投入し、室温(25℃)で5分間ドライブレンドしてドライブレンド物を得た。このとき、シランMBと触媒MBとの混合比は表1に示す質量比である。
【0099】
次いで、得られたドライドブレンド物を、下記押出成形条件(1)~(3)のいずれかで溶融混合、成形して、被覆導体をそれぞれ得た(工程(c)及び工程(2))。上記ドライブレンド物を押出機内で押出成形前に溶融混合すること(工程(c))により、反応組成物として難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物を調製した。この難燃性シラン架橋性アクリルゴム組成物は、シランMBと触媒MBとの溶融混合物であって、上述のシラン架橋性アクリルゴムを含有している。
【0100】
(押出成形条件(1))
L/D(スクリュー有効長Lと直径Dとの比)=25、スクリュー直径25mmのスクリューを備えた押出機を、ダイス温度200℃、以下フィーダー側へ、C3=180℃、C2=150℃、C1=130℃の押出温度条件に設定した。この押出機に、調製したドライブレンド物を投入して溶融混合し(工程(c))、裸軟銅線からなる直径0.8mmの導体上に、外径3.8mm、絶縁層厚さが1.5mmとなるように、線速5m/分で(押出負荷試験の条件)で押出・被覆して、被覆導体を得た(工程(2))。
【0101】
(押出成形条件(2))
L/D=25、スクリュー直径90mmのスクリューを備えた押出機を上記押出成形条件(1)と同じ押出温度条件に設定した。この押出機に、調製したドライブレンド物を投入して溶融混合し(工程(c))、裸軟銅線からなる直径2.2mmの導体を5本撚り合わせ直径約6.0mに仕上げた集合導体の上に、外径9.0mm、絶縁層厚さ1.5mmとなるように、線速10m/分で押出・被覆して、被覆導体を得た(工程(2))。
【0102】
(押出成形条件(3))
L/D=25、スクリュー直径70mmのスクリューを備えた押出機を上記押出成形条件(1)と同じ押出温度条件に設定した。この押出機に、調製したドライブレンド物を投入して溶融混合し(工程(c))、裸軟銅線からなる直径2.0mmの導体上に、外径5.0mm、絶縁層厚さ1.5mmとなるように、線速20m/分で押出・被覆して、被覆導体を得た(工程(2))。
【0103】
得られた被覆導体を室温(23℃)、相対湿度50%の条件下で24時間放置し、シランカップリング剤の反応部位(トリアルコキシシリル基)を加水分解し、次いでシラノール縮合反応(シラン架橋)させた(工程(3))。このようにして、上記押出成形条件(1)~(3)のいずれかにより上記導体を難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体で被覆した各電線を製造した。被覆層としての難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体は上述の難燃性シラン架橋アクリルゴムを有している。
【0104】
(比較例6)
シランMBを調製する際に、金属水和物とシランカップリング剤と有機過酸化物との前混合(工程(a-1))を行わずに、表1のシランMB欄に示す成分を、表1に示す質量比で、ニーダーに投入してシランMBを得た以外は、実施例1と同様にして、電線を製造した。
【0105】
上記実施例及び比較例の製造において、金属水和物とシランカップリング剤と有機過酸化物との前混合(工程(a-1))を行った場合には、表1の「前混合」欄に「有」と記載し、前混合を行わなかった場合には「無」と記載した。
【0106】
表1に示す各成分としては、以下のものを用いた。
(1)エチレン-アクリルゴム1:ベイマックUltra HT-OR(商品名、デュポン社製、三元共重合体)
(2)エチレン-アクリルゴム2:ベイマックDP(商品名、デュポン社製、二元共重合体)
(3)EVA1:エバフレックスEV180(商品名、三井デュポンポリケミカルズ社製、EVA)
(4)EVA2:レバプレン800(商品名、LANXESS社製、EVA)
(5)エチレン樹脂1:エボリューSP3010(商品名、プライムポリマー社製、LLDPE、密度0.926g/cm3)
(6)エチレン樹脂2:エボリューSP0540(商品名、プライムポリマー社製、LLDPE、密度0.903g/cm3)
(7)エチレン樹脂3:ハイゼックス5100E(商品名、プライムポリマー社製、HDPE、密度0.943g/cm3)
(8)スチレンエラストマー1:タフテックN504(商品名、旭化成社製)
(9)鉱物性オイル1:コスモニュートラル500(商品名、コスモ石油ルブリカンツ、パラフィンオイル)
(10)プロピレン樹脂1:PB222A(商品名、サンアロマー社製、PP)
(11)酸変性エチレン樹脂1:アドテックスL6100M(商品名、日本ポリエチレン社製、マレイン酸変性ポリエチレン)
(12)金属水和物1:キスマ5L(商品名、協和化学社製、水酸化マグネシウム)
(13)難燃剤1:ノーバレッド120UFA(商品名、燐化学工業製、赤燐)
(14)シランカップリング剤1:KBM-1003(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン)
(15)有機過酸化物1:パーヘキサ25B(商品名、日油社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン)
(16)酸化防止剤1:イルガノックス1076(商品名、BASF社製、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル)
(17)シラノール縮合触媒1:アデカスタブOT-1(商品名、ADEKA社製、ジオクチルスズジラウレート)
【0107】
製造した各電線について、下記試験をし、その結果を表1に示した。
【0108】
1.押出負荷試験
製造時の負荷を押出機のスクリュートルクの大きさにより評価した。
上述の、押出成形条件(1)による被覆導体製造時において、押出機のスクリュートルクを計測した。スクリュートルクが300kg/cm2未満であるものを特に優れたレベルとして「A」とし、300kg/cm2以上450kg/cm2未満であるものを優れたレベルとして「B」とし、450kg/cm2以上550kg/cm2未満であるものを本試験の合格レベルとして「C」とし、550kg/cm2以上のものを本試験の不合格レベルとして「D」とした。
スクリュートルクが550kg/cm2未満であれば、成形条件にもよるが、押出負荷が小さくなって、一般的に、汎用の押出機を用いて押出成形できる。押出負荷を更に低減して汎用の押出機を使用した実際の製造的観点からは、300kg/cm2未満とすることが好ましい。スクリュートルクが550kg/cm2以上となると、通常は、押出機の改造等が必要となる。
【0109】
2.引張特性試験(機械特性)
上記押出成形条件(1)により得られた被覆導体を用いて製造した各電線から抜き取った被覆(管状片)について引張試験を行った。
この引張試験はJIS C 3005に準じて、標線間距離25mm、引張速度200mm/分の条件で、引張強さ(MPa)及び引張伸び(%)を測定した。
引張強さは、12MPa以上であったものを極めて優れたレベルとして「A」で表し、10MPa以上12MPa未満であったものを優れたレベルとして「B」で表し、8MPa以上10MPa未満であったもの合格レベルとして「C」で表し、8MPa未満を本試験の不合格レベルとして「D」で表した。
引張伸びは、250%以上であったものを極めて優れたレベルとして「A」で表し、200%以上250%未満であったもの優れたレベルとして「B」で表し、150%以上200%未満を本試験の合格レベルとして「C」で表し、150%未満であったものを本試験の不合格レベルとして「D」で表した。
【0110】
3.耐油試験
上記押出成形条件(1)により得られた被覆導体を用いて製造した各電線について、JIS C3005に記載の「耐油試験」を行った。耐油試験においては、浸油温度を100℃、浸油時間を24時間とし、油としてIRM902を使用した。
浸油後の引張強さ及び引張伸びを、上記引張特性試験と同じ条件で測定した。
浸油後の引張強さを浸油前の引張強さ(上述の引張試験で得られた引張強さ)で除して、引張強さの残率(%)を算出した。同様にして、引張伸びの残率(%)を算出した。
本試験の評価は、浸油前後の引張強さの残率及び引張伸びの残率がともに80%以上であったものを本試験の優れたレベルとして「A」、引張強さの残率及び引張伸びの残率がともに70%以上80%未満であったものを良好なレベルとして「B」、引張強さの残率及び引張伸びの残率がともに60%以上70%未満であったものを合格レベルとして「C」、引張強さの残率及び引張伸びの残率の一方でも60%満であったものを本試験の不合格レベルとして「D」で表した。
【0111】
4.ホットセット試験
上記押出成形条件(1)により得られた被覆導体を用いて製造した各電線から導体を引き抜いた管状片を用いて、ホットセット試験を行った。
ホットセット試験は、IEC60811-2-1に記載の方法に準拠して、行った。
試験条件は200℃又は150℃、加熱時間は15分、荷重は20N/cm2とした。加熱後の長さを測定し、加熱前の長さに対する伸び率(%)を求めた。さらに、荷重を除去して荷重除去後の長さを測定し、加熱前の長さに対する伸び率(%)を求めた。
試験温度200℃でも、加熱後の伸び率が100%以下、かつ、加熱及び荷重除去後の伸び率が25%以下であった場合を、本試験の優れたレベルとして「A」で表した。
試験温度200℃では、加熱後の伸び率が100%を超えるか、または、加熱及び荷重除去後の伸び率が25%を超えるが、試験温度150℃の測定において、加熱後の伸び率が100%以下、かつ、加熱及び荷重除去後の伸び率が25%以下であった場合を、本試験の合格レベルとして「B」で表した。試験温度150℃で、加熱後の伸び率が100%を超えるか、または、加熱及び荷重除去後の伸び率が25%を超える場合を「D」で表し、不合格とした。本試験への合格は必須ではない。
【0112】
5.難燃性試験A
上記押出成形条件(2)により得られた被覆導体を用いて製造した電線を用いて、難燃性試験を行った。試験はIEC(国際電気標準会議:International Electronical Commission)60332-1-2記載の一条燃焼試験に基づいて行った。
電線から600mm長のサンプルを切り出し、サンプルを垂直に保持し、45度の角度でバーナーの炎をサンプルの下端にあて、60秒間燃焼させた。バーナーを取り除き、炎が自消した後に、炭化部分の上端と上部支持部材との距離が50mm以上であった場合を合格「A」、50mm未満であった場合を不合格「D」とした。
上記難燃性試験Aに合格することは、被覆層が良好な難燃性を有し、外径9.0mm以上の電線に対しては、高い難燃性を付与できることを意味する。
【0113】
6.難燃性試験B
上記押出成形条件(3)により得られた被覆導体を用いて製造した電線を用いて、難燃性試験を行った。試験はIEC60332-1に基づいて行った。
電線から600mm長のサンプルを切り出し、サンプルを垂直に保持し、45度の角度でバーナーの炎をサンプルの下端にあて、60秒間燃焼させた。バーナーを取り除き、炎が自消した後に、炭化部分の上端と上部支持部材との距離が50mm以上であった場合を合格「A」、50mm未満であった場合を不合格「D」とした。本試験への合格は必須ではない。
上記難燃性試験Bに合格することは、被覆層が極めて高い難燃性を有し、外径5.0mm以上9.0mm未満の電線に対しても高い難燃性を付与できることを意味する。
上記難燃性試験Bにおいては、上記難燃性試験Aにおけるサンプル(外径9.0mm)よりも外径の小さいサンプル(外径5.0mm)を用いる。外径が小さくなることにより、炎がめぐりやすく、より燃焼しやすい条件下での試験といえる。
【0114】
【0115】
【0116】
本発明で規定する各工程を有する製造方法において、本発明で規定する組成を満たしていないベースアクリルゴムを混合すると、押出負荷試験、引張特性試験、耐油性試験、難燃性試験Aのいずれかが不合格であり、高温耐油性を維持しながら、優れた引張特性及び難燃性を実現した難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を押出負荷を低減して製造することができなかった(比較例1、2、5、7、8)。工程(a-2)及び工程(b)において用いられるベースアクリルゴムの比率が本発明で規定する比率を満たしていないと、押出負荷試験、引張特性試験、耐油性試験のいずれかが不合格であり、高温耐油性を維持しながら、優れた引張特性及び難燃性を実現した難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を押出負荷を低減して製造することができなかった(比較例3、4、9)。金属水和物とシランカップリング剤との前混合を行わないと、機械特性試験(引張強さ)及び耐油性試験に不合格であり、高温耐油性を維持しながら、優れた引張特性及び難燃性を実現した難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を押出負荷を低減して製造することができなかった(比較例6)。
これに対して、本発明で規定する各工程を有する製造方法において、本発明で規定する組成を満たしたベースアクリルゴムを、金属水和物、有機過酸化物等と特定量で配合し、かつ、工程(a-2)及び工程(b)において用いられるベースアクリルゴムの比率が本発明で規定する比率を満たしていると、押出負荷試験、引張特性試験、耐油性試験、難燃性試験Aのいずれにも合格し、高温耐油性を維持しながら、優れた引張特性及び難燃性を実現した難燃性シラン架橋アクリルゴム成形体を押出負荷を低減して製造することができた(実施例1~21)。よって、これらの成形体を被覆層として備えた実施例1~21の電線は、いずれも、押出負荷を低減して製造でき、高温耐油性を維持しながら、優れた引張特性及び難燃性を有している。