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特開2022-155304ガスバリア性膜、ガスバリア性フィルム及びその製造方法、並びにガスバリア性膜用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155304
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ガスバリア性膜、ガスバリア性フィルム及びその製造方法、並びにガスバリア性膜用キット
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20221005BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221005BHJP
   C08L 79/02 20060101ALI20221005BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C08L101/02
B32B27/00 B
C08L79/02
C08K5/092
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058735
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】仲村 太智
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK24B
4F100AK35B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100EH46
4F100EJ86
4F100JD02B
4F100YY00A
4F100YY00B
4J002BG01X
4J002BH02X
4J002BJ00W
4J002CM01W
4J002EF066
4J002EF106
4J002EF116
4J002FD206
4J002GB01
4J002GG02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高湿度下でのガスバリア性が良好なフィルムを提供する。
【解決手段】ポリカチオン、ポリアニオン及び多価カルボン酸を含有する組成物からなる、ガスバリア性膜である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカチオン、ポリアニオン及び多価カルボン酸を含有する組成物からなる、ガスバリア性膜。
【請求項2】
前記ポリカチオンがポリアミンである、請求項1に記載のガスバリア性膜。
【請求項3】
前記ポリアニオンがポリカルボン酸である、請求項1又は2に記載のガスバリア性膜。
【請求項4】
前記多価カルボン酸が、芳香族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及び芳香族トリカルボン酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載のガスバリア性膜。
【請求項5】
厚みが0.1~10μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のガスバリア性膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のガスバリア性膜と、基材とを積層してなるガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記ガスバリア性膜と基材との厚み比(ガスバリア性膜の厚み/基材の厚み)が0.001~10である、請求項6に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
ポリカチオンを含有する第1の混合液と、ポリアニオン及びアンモニアを含有する第2の混合液と、多価カルボン酸とからなる、ガスバリア性膜用キット。
【請求項9】
前記ポリカチオンと前記ポリアニオンのモル比(ポリカチオン/ポリアニオン)が1/2~1/1.1であるか、又は1.1/1~2/1である、請求項8に記載のガスバリア性膜用キット。
【請求項10】
前記ポリカチオンと前記多価カルボン酸のモル比(ポリカチオン/多価カルボン酸)が1/0.01~1/1である、請求項8又は9に記載のガスバリア性膜用キット。
【請求項11】
前記第1の混合液及び前記第2の混合液の少なくともいずれか1つは、固形分濃度が1~10質量%である、請求項8~10のいずれか1項に記載のガスバリア性膜用キット。
【請求項12】
ポリカチオンを含有する第1の混合液と、ポリアニオン及びアンモニアを含有する第2の混合液とを混合し、第3の混合液を得る第1混合工程と、
前記第3の混合液に多価カルボン酸を添加し、第4の混合液を得る第2混合工程と、
前記第4の混合液を基材に塗布し、ガスバリア性膜を得る工程と、
前記ガスバリア性膜を乾燥させる工程と、を含む、ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記ポリカチオンと前記ポリアニオンのモル比(ポリカチオン/ポリアニオン)が1/2~1/1.1であるか、又は1.1/1~2/1である、請求項12に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記ポリカチオンと前記多価カルボン酸のモル比(ポリカチオン/多価カルボン酸)が1/0.01~1/1である、請求項12又は13に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記第1の混合液及び前記第2の混合液の少なくともいずれか1つは、固形分濃度が1~10質量%である、請求項12~14のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性膜、ガスバリア性フィルム及びその製造方法、並びにガスバリア性膜用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等の包装分野において、内容物の品質劣化を抑制するために、酸素等のガスに対してバリア性を有する包装材料が使用されている。
ガスバリア性を有する包装材料として、従来からポリビニルアルコール系樹脂等の高分子フィルムが検討されているが、ポリビニルアルコール系樹脂を用いたフィルムは湿度の影響を受けやすいため、高湿度下でガスバリア性が悪化することが知られている。
【0003】
そこで、湿度依存性のないガスバリア性フィルムとして、特許文献1では、ポリカルボン酸と、ポリアミンおよび/またはポリオールから製膜されたガスバリア層を有し、ポリカルボン酸の架橋度が40%以上であるガスバリアフィルムが提案されている。
特許文献1では、ポリカルボン酸とポリアミンの組み合わせの場合に、塩形成によるゲル化を抑制するため、アンモニアを添加することが記載されている(特許文献1、段落0062参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-225940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高湿度下でのガスバリア性が良好なフィルムを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]ポリカチオン、ポリアニオン及び多価カルボン酸を含有する組成物からなる、ガスバリア性膜。
[2]前記ポリカチオンがポリアミンである、上記[1]に記載のガスバリア性膜。
[3]前記ポリアニオンがポリカルボン酸である、上記[1]又は[2]に記載のガスバリア性膜。
[4]前記多価カルボン酸が、芳香族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及び芳香族トリカルボン酸から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のガスバリア性膜。
[5]厚みが0.1~10μmである、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のガスバリア性膜。
[6]上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のガスバリア性膜と、基材とを積層してなるガスバリア性フィルム。
[7]前記ガスバリア性膜と基材との厚み比(ガスバリア性膜の厚み/基材の厚み)が0.001~10である、上記[6]に記載のガスバリア性フィルム。
[8]ポリカチオンを含有する第1の混合液と、ポリアニオン及びアンモニアを含有する第2の混合液と、多価カルボン酸とからなる、ガスバリア性膜用キット。
[9]前記ポリカチオンと前記ポリアニオンのモル比(ポリカチオン/ポリアニオン)が1/2~1/1.1であるか、又は1.1/1~2/1である、上記[8]に記載のガスバリア性膜用キット。
[10]前記ポリカチオンと前記多価カルボン酸のモル比(ポリカチオン/多価カルボン酸)が1/0.01~1/1である、上記[8]又は[9]に記載のガスバリア性膜用キット。
[11]前記第1の混合液及び前記第2の混合液の少なくともいずれか1つは、固形分濃度が1~10質量%である、上記[8]~[10]のいずれか1項に記載のガスバリア性膜用キット。
[12]ポリカチオンを含有する第1の混合液と、ポリアニオン及びアンモニアを含有する第2の混合液とを混合し、第3の混合液を得る第1混合工程と、前記第3の混合液に多価カルボン酸を添加し、第4の混合液を得る第2混合工程と、前記第4の混合液を基材に塗布し、ガスバリア性膜を得る工程と、前記ガスバリア性膜を乾燥させる工程と、を含む、ガスバリア性フィルムの製造方法。
[13]前記ポリカチオンと前記ポリアニオンのモル比(ポリカチオン/ポリアニオン)が1/2~1/1.1であるか、又は1.1/1~2/1である、上記[12]に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
[14]前記ポリカチオンと前記多価カルボン酸のモル比(ポリカチオン/多価カルボン酸)が1/0.01~1/1である、上記[12]又は[13]に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
[15]前記第1の混合液及び前記第2の混合液の少なくともいずれか1つは、固形分濃度が1~10質量%である、上記[12]~[14]のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のガスバリア性膜及びガスバリア性フィルムは、高湿度下でのガスバリア性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本発明の概要>
本発明は、ポリカチオン及びポリアニオンを含む混合液を基材に塗布し、ポリカチオンとポリアニオンの静電相互作用により高分子電解質複合体(PEC:Polyelectrolyte complex)を形成することで、ガスバリア性膜を得る技術に関する。
ポリカチオンとポリアニオンを単に混合すると、これらの相互作用により沈殿が発生してしまうため、基材へ塗布することができない。
そこで、従来の技術では、ポリアニオンに対して過剰量のアンモニア等の塩基を添加することでポリカチオンとポリアニオンの相互作用を起こりにくくしていたが、ガスバリア性を高めることには限界があった。
【0009】
本発明では、ポリカチオンを含有する第1の混合液に対して、ポリアニオンにアンモニアを混合してポリアニオンの反応基をマスクした第2の混合液を加え、さらに多価カルボン酸を添加することによって、ポリカチオンとポリアニオンの相互作用による沈殿を抑制しつつ、ガスバリア性の高い膜が得られることを見出した。ガスバリア性が高くなる理由としては、PECを形成しきれずに未反応のままのポリカチオンが残留していた場合であっても、ポリカチオンが多価カルボン酸と反応し、架橋構造等を形成することにより、膜内をガスがより通過しにくくなること等が考えられる。
本発明のガスバリア性膜は、第1の混合液及び第2の混合液を混合し、さらに多価カルボン酸を添加して基材に塗布した後、乾燥によってアンモニアを除去できるため、PECを容易に形成できる。
【0010】
<ガスバリア性膜>
本発明のガスバリア性膜は、ポリカチオン、ポリアニオン及び多価カルボン酸を含有する組成物からなる。当該ガスバリア性膜は、ポリカチオン及びポリアニオンにより形成される高分子電解質複合体と、多価カルボン酸とを少なくとも含む。
【0011】
[ポリカチオン]
本発明に係るポリカチオンは、カチオン性基を有する高分子化合物であり、カチオン性基としては、種々挙げられるが、アミノ基又はアンモニウム基が好ましい。これらのうち、多価カルボン酸との反応性を良好にする観点から、、アミノ基を有するポリカチオン、すなわちポリアミンが好ましく、特に、弱塩基のポリアミンがより好ましい。
アミノ基としては、第一級、第二級又は第三級アミノ基のいずれでもよく、ポリアミンとしては、主鎖、側鎖又は末端にアミノ基を有する高分子化合物であればよい。具体的には、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、直鎖状ポリエチレンイミン、分岐状ポリエチレンイミン、ポリリジン、キトサン、ポリアルギニン等が挙げられる。中でも、得られる膜のガスバリア性を良好にする観点から、ポリエチレンイミンが好ましく、弱塩基なためpHによるイオン制御が容易であるとの理由から、分岐状ポリエチレンイミンがより好ましい。
【0012】
アンモニウム基としては、4級アンモニウム基が好ましく、対イオンとしては、特に限定されないが、ハロゲンイオンが好ましい。アンモニウム基を有するポリカチオンとしては、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
【0013】
本発明のポリカチオンの質量平均分子量は、塗膜上でPECを良好に形成する観点から、1,000~100,000であることが好ましく、5,000~50,000であることがより好ましく、20,000~30,000であることがさらに好ましい。上記下限値以上であると、ポリカチオンとポリアニオンが層分離することを抑えられ、良好な膜強度が得られる。一方、上記上限値以下であると、十分なガスバリア性が得られる。
なお、質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。
【0014】
[ポリアニオン]
本発明に係るポリアニオンは、アニオン性基を有する高分子化合物であり、アニオン性基としては、カルボキシル基、リン酸基又は硫酸基が好ましく、アンモニアでイオン化を制御するという理由から、カルボキシル基を有するポリアニオン、すなわちポリカルボン酸がより好ましい。ポリカルボン酸としては、側鎖又は末端にカルボキシル基を有する高分子化合物であればよく、具体的には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体、ポリマレイン酸、アルギン酸等が挙げられる。中でも、弱酸なためpHによるイオン制御が容易である理由からポリアクリル酸が好ましい。
【0015】
本発明のポリアニオンの質量平均分子量は、塗膜上でPECを良好に形成する観点から、10,000~1,000,000であることが好ましく、50,000~500,000であることがより好ましく、80,000~200,000であることがさらに好ましい。上記下限値以上であると、ポリカチオンとポリアニオンが層分離することを抑えられ、良好な膜強度が得られる。一方、上記上限値以下であると、十分なガスバリア性が得られる。なお、質量平均分子量の測定方法は、上記ポリカチオンの質量平均分子量の測定方法と同様である。
【0016】
[多価カルボン酸]
本発明に係る多価カルボン酸は、分子内に2つ以上のカルボキシル基を有する低分子である。多価カルボン酸の分子量は、50以上1000以下であることが好ましく、100以上500以下であることがより好ましい。
多価カルボン酸としては、二価カルボン酸又は三価以上の多価カルボン酸等が挙げられる。
二価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、グルタル酸、アジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、チオジプロピオン酸、ジグリコール酸、1,9-ノナンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ベンジルマロン酸、ジフェン酸、4,4’-オキシジ安息香酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;等が挙げられる。
三価以上の多価カルボン酸としては、例えば、クエン酸、トリカルバリル酸、1,2,3,4-ブタントリカルボン酸等の脂肪族トリカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメシン酸等の芳香族トリカルボン酸;アダマンタントリカルボン酸等の脂環族トリカルボン酸;等が挙げられる。
これらの多価カルボン酸は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
上記の中でも、ポリカチオンとの反応性を良好にする観点から、芳香族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及び芳香族トリカルボン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましく、芳香族ジカルボン酸及び芳香族トリカルボン酸から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
具体的には、フタル酸、イソフタル酸、クエン酸、トリカルバリル酸、トリメシン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましく、フタル酸、イソフタル酸、クエン酸、トリメシン酸から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フタル酸、イソフタル酸、トリメシン酸から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。
【0018】
[厚み]
本発明のガスバリア性膜の厚み(乾燥後)は、0.1~10μmであることが好ましく、0.2~5μmがより好ましく、0.5~3μmがさらに好ましい。厚みが上記下限値以上であることによって、ガスバリア性が良好となる。一方、上記上限値以下であることによって、塗工しやすくなるので、生産性が良好となる。
【0019】
[酸素透過度]
本発明のガスバリア性膜は、25℃、80%RHにおける、厚み1μmあたりの酸素透過度が、10cc/(m・day・atm)以下であるのが好ましく、8cc/(m・day・atm)以下であるのがより好ましく、6cc/(m・day・atm)以下であるのがさらに好ましく、4cc/(m・day・atm)以下であるのがよりさらに好ましい。なお、酸素透過度は低ければ低いほど好ましいが、例えば0.1cc/(m・day・atm)以上であってよい。
ガスバリア性膜の酸素透過度(OTR)は、JIS K7126-2に基づき、温度25℃、湿度80%RHの条件で測定できる。より具体的には、25℃、80%RHの条件下において、基材上にガスバリア性膜を設けたときの酸素透過度の測定値を、下記式によって1μmあたりの酸素透過度に換算した値である。
なお、基材は、例えば、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムであってよい。
【0020】
【数1】
【0021】
<ガスバリア性フィルム>
本発明のガスバリア性フィルムは、上記ガスバリア性膜と基材とを積層してなるものである。ガスバリア性膜は、基材の少なくとも一方の面に設けられるとよい。
【0022】
[基材]
本発明のガスバリア性フィルムで用いる基材としては、特に限定されないが、樹脂であることが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリ乳酸;ポリウレタン;ポリ酢酸ビニル;ポリアクリロニトリル;ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂が好ましい。
中でも、ガスバリア性、透明性等の光学特性の観点から、ポリエステル系樹脂が好ましく、特にポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0023】
また、基材としては、単層構造であっても多層構造であってもよい。多層構造の場合、2層構造、3層構造などでもよいし、本発明の要旨を逸脱しない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、層数は特に限定されない。多層構造の場合は、複数の層は同一の樹脂で構成されていてもよいし、異なる樹脂で構成されていてもよい。
基材には、必要に応じて添加剤が加えられてもよく、例えば、耐候性を付与するための紫外線吸収剤、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することも可能である。また必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0024】
基材の厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば1~350μm、好ましくは10~200μm、さらに好ましくは30~100μmの範囲である。
また、基材は、ガスバリア性膜が形成される面にコロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0025】
ガスバリア性膜と基材との厚み比(ガスバリア性膜の厚み/基材の厚み)は、ガスバリア性を良好にする観点から、0.001~10が好ましく、0.005~1がより好ましく、0.01~0.5がさらに好ましい。
なお、ガスバリア性フィルムの酸素透過度は、10cc/(m・day・atm)以下が好ましく、8cc/(m・day・atm)以下がより好ましく、6cc/(m・day・atm)以下がさらに好ましく、4cc/(m・day・atm)以下がよりさらに好ましい。なお、酸素透過度は低ければ低いほど好ましいが、例えば0.1cc/(m・day・atm)以上であってよい。ガスバリア性フィルムの酸素透過度は、JIS K7126-2に基づき、温度25℃、湿度80%RHの条件で測定したものである。
【0026】
<ガスバリア性膜用キット>
本発明のガスバリア性膜用キットは、ポリカチオンを含有する第1の混合液と、ポリアニオン及びアンモニアを含有する第2の混合液と、多価カルボン酸とからなる。当該キットを用いて、後述する製造方法によって、本発明のガスバリア性膜を製造することができる。
第1の混合液で用いるポリカチオン、第2の混合液で用いるポリアニオン、及び多価カルボン酸については、前述の通りである。
【0027】
(第1の混合液)
第1の混合液は、ポリカチオンを含有する。ポリカチオンをイオン化させる必要があるため、溶媒は水が好ましい。第1の混合液は、固形分濃度が1~10質量%であることが好ましく、3~8質量%がより好ましい。この範囲内であることによって、得られる塗膜のガスバリア性が良好となる。
【0028】
(第2の混合液)
第2の混合液は、ポリアニオンとアンモニアを含有する。ポリアニオンをイオン化させる必要があるため、溶媒は水が好ましい。第2の混合液は、固形分濃度が1~10質量%であることが好ましく、3~8質量%がより好ましい。この範囲内であることによって、得られる塗膜のガスバリア性が良好となる。
アンモニアとしては、アンモニア水溶液を用いることが好ましい。
アンモニアの含有量は、ポリカチオンとポリアニオンとの相互作用による沈殿を抑制でき、かつ、溶液のpHが高くなりすぎないようにする観点から、ポリアニオンのアニオン性基に対し0.5~5当量となる量が好ましく、0.6~3当量となる量がより好ましく、0.8~2当量となる量がさらに好ましい。
【0029】
(多価カルボン酸)
多価カルボン酸は、溶媒を用いず、固体のままであってもよいが、水等に溶解させた溶液の状態であってもよい。多価カルボン酸の保存安定性や、ガスバリア性膜の生産コストの観点からは、溶媒を用いないことが好ましい。一方、多価カルボン酸が水溶性である場合、第1の混合液及び第2の混合液との混合しやすさの観点からは、水に溶解させた状態であることが好ましい。
【0030】
前記第1の混合液及び第2の混合液は、上述のように、それぞれ固形分濃度が1~10質量%であることが好ましいが、少なくともいずれか1つは、固形分濃度が1~10質量%であることが好ましい。固形分濃度を上記範囲内とすることで、ポリカチオンとポリアニオンの反応により急激に粘度変化が起こることを抑えられ、生産性を良好にできる。また、第1の混合液及び第2の混合液の両者の固形分濃度が1~10質量%であることがより好ましい。
【0031】
第1の混合液に含まれるポリカチオンと第2の混合液に含まれるポリアニオンのモル比(ポリカチオン/ポリアニオン)は、1/2~1/1.1であるか、又は1.1/1~2/1となる量が好ましく、1/1.8~1/1.1、又は1.1/1~1.8/1がより好ましく、1/1.5~1/1.2、又は1.2/1~1.5/1が更に好ましい。
このように、ポリカチオンとポリアニオンのうち一方が他方より多いことによって、ポリカチオンとポリアニオンの静電的相互作用が1:1より弱くなり、後述する製造方法において、ポリカチオンとポリアニオンが凝集沈殿しにくくなる。
【0032】
また、第1の混合液に含まれるポリカチオンと多価カルボン酸とのモル比(ポリカチオン/多価カルボン酸)は、1/0.01~1/1が好ましく、1/0.05~1/0.8がより好ましく、1/0.1~1/0.5がさらに好ましい。ポリカチオンと多価カルボン酸とのモル比が上記範囲であることで、ポリカチオンと多価カルボン酸の反応によってガスバリア性が良好になり、かつ、多価カルボン酸の沈殿を抑制できる。
【0033】
<ガスバリア性フィルムの製造方法>
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、ポリカチオンを含有する第1の混合液と、ポリアニオン及びアンモニアを含有する第2の混合液とを混合し、第3の混合液を得る第1混合工程と、前記第3の混合液に多価カルボン酸を添加し、第4の混合液を得る第2混合工程と、前記第4の混合液を基材に塗布し、ガスバリア性膜を得る工程と、前記ガスバリア性膜を乾燥させる工程と、を含む。
なお、ガスバリア性フィルムの製造方法においても、前記第1の混合液及び第2の混合液は、少なくともいずれか1つは、固形分濃度が1~10質量%であることが好ましく、また、第1の混合液及び第2の混合液の両者の固形分濃度が1~10質量%であることがより好ましい。
【0034】
[第1混合工程]
第1混合工程は、第1の混合液及び第2の混合液を混合し、第3の混合液を得る工程である。混合方法は公知の方法であってよい。
第1の混合液と第2の混合液の混合比は、ポリカチオンとポリアニオンのモル比(ポリカチオン/ポリアニオン)が1/2~1/1.1であるか、又は1.1/1~2/1となる量が好ましく、1/1.8~1/1.1、又は1.1/1~1.8/1となる量がより好ましく、1/1.5~1/1.2、又は1.2/1~1.5/1となる量が更に好ましい。
このように、ポリカチオンとポリアニオンのうち一方が他方より多いことによって、ポリカチオンとポリアニオンの静電的相互作用が1:1より弱くなり、ポリカチオンとポリアニオンが凝集沈殿しにくくなる。
【0035】
[第2混合工程]
第2混合工程は、第3の混合液に多価カルボン酸を添加し、第4の混合液を得る工程である。混合方法は公知の方法であってよい。
多価カルボン酸の添加量は、ポリカチオンと多価カルボン酸とのモル比(ポリカチオン/多価カルボン酸)が1/0.01~1/1となる量が好ましく、1/0.05~1/0.8となる量がより好ましく、1/0.1~1/0.5となる量がさらに好ましい。ポリカチオンと多価カルボン酸とのモル比が上記範囲であることで、ポリカチオンと多価カルボン酸の反応によってガスバリア性が良好になり、かつ、多価カルボン酸の沈殿を抑制できる。
【0036】
[塗布工程]
塗布工程は、第4の混合液を基材に塗布し、ガスバリア性膜を得る工程である。基材については、前述の通りである。
塗布方法は公知の方法であってよく、例えば、コンマコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、ディップ法、スライドコート法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、エクストルージョンコート法等が挙げられる。
【0037】
[乾燥工程]
乾燥工程は、第4の混合液を塗布した基材を乾燥し、ガスバリア性膜を乾燥せせる工程である。乾燥方法は、公知の方法であってよい。
乾燥温度及び乾燥時間は、第1の混合液及び第2の混合液に含まれる水等の溶媒や、アンモニアが除去できる条件であればよく、例えば、乾燥温度は、60~100℃、好ましくは70~90℃で、乾燥時間は、30秒~1時間、好ましくは1~10分程度である。加熱乾燥により、ガスバリア性膜には、イオン架橋が形成されると考えられるが、特に限定されない。
【実施例0038】
以下、本発明のガスバリア性膜、ガスバリア性フィルム等について、実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明のガスバリア性膜、ガスバリア性フィルム等は、以下の実施例および比較例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
<評価方法>
[酸素透過度]
実施例1~4及び比較例1のガスバリア性フィルムを温度25℃、湿度80%RHの恒温恒湿機に250時間以上静置し、前処理を行った後、JIS K7126-2に基づき、MOCON社製OX-TRAN 2/22を用いて、温度25℃、湿度80%RHの条件で酸素透過度を測定した。
また、下記の式を用いて、ガスバリア性膜1μmあたりの酸素透過度を求めた。基材として用いた厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの酸素透過度は25.1514cc/(m・day)であった。
【0040】
【数2】
【0041】
[実施例1]
(1)第1の混合液の調製
分岐状ポリエチレンイミン(BASF社製、製品名:Lupasol-HF、54質量%水溶液、平均分子量:約25,000)に蒸留水を添加し、(A-1)ポリエチレンイミン水溶液(固形分濃度:5質量%)を調製した。
(2)第2の混合液の調製
ポリアクリル酸(31質量%水溶液、平均分子量:約100,000)にアンモニア水(富士フィルム和光純薬製、アンモニア25質量%)と蒸留水を添加し、ポリアクリル酸のカルボキシル基に対し1当量のアンモニアが含まれる(B-1)ポリアクリル酸-アンモニア水溶液(固形分濃度:5質量%)を調製した。
(3)第3の混合液の調製
上記(A-1)ポリエチレンイミン水溶液6.0gに上記(B-1)ポリアクリル酸-アンモニア水溶液13.0gを滴下しながら撹拌して第3の混合液を調製した。ポリエチレンイミンとポリアクリル酸のモル比は1/1.3であった。
(4)第4の混合液の調製
上記第3の混合液に(C-1)フタル酸を攪拌しながら添加し、ポリエチレンイミンとフタル酸のモル比(ポリカチオン/多価カルボン酸)が1/0.3となる混合液を調製した。
(5)ガスバリア性フィルムの作製
厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ処理面に、メイヤーバーにて乾燥後の塗工厚みが1μmになるように混合液(第4の混合液)を塗布し、熱風乾燥機を使用して乾燥温度:80℃、乾燥時間:2分の条件で乾燥し、実施例1のガスバリア性フィルムを得た。このガスバリア性フィルムについて、酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
[実施例2]
上記(4)において、(C-1)フタル酸の代わりに(C-2)イソフタル酸を用いた以外は実施例1と同じ方法で、ガスバリア性フィルムを得た。このガスバリア性フィルムについて、酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例3]
上記(4)において、(C-1)フタル酸の代わりに(C-3)トリメシン酸を用いた以外は実施例1と同じ方法で、ガスバリア性フィルムを得た。このガスバリア性フィルムについて、酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例4]
上記(4)において、(C-1)フタル酸の代わりに(C-4)クエン酸を用いた以外は実施例1と同じ方法で、ガスバリア性フィルムを得た。このガスバリア性フィルムについて、酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
(C-1)フタル酸を添加していない第3の混合液を用いてガスバリア性フィルムを作製したこと以外は実施例1と同じ方法で、ガスバリア性フィルムを得た。このガスバリア性フィルムについて、酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例1~4に示すとおり、ポリカチオンを含有する第1の混合液と、ポリアニオン及びアンモニアを含有する第2の混合液とを混合して得た第3の混合液に、多価カルボン酸を添加して基材に塗布することで、ガスバリア性の良好なフィルムを作製できることがわかった。