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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155484
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】有価物含有スラッジの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/62 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
C02F1/62 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013890
(22)【出願日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2021058653
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】服部 正寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 典正
(72)【発明者】
【氏名】羅 中力
(72)【発明者】
【氏名】新屋 宏和
【テーマコード(参考)】
4D038
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB64
4D038AB65
4D038AB66
4D038AB67
4D038AB68
4D038AB69
4D038AB71
4D038AB72
4D038AB73
4D038AB74
4D038AB75
4D038AB76
4D038AB87
4D038BA02
4D038BB13
4D038BB17
4D038BB18
4D038BB20
(57)【要約】
【課題】 銅等の重金属を含有する排水において、重金属を排水基準値以下に処理可能で、かつ硫化水素ガスの発生を抑制できる処理方法であると共に、該方法を用いることにより、スラッジ中の有価金属の含有率を向上させることができるスラッジの製造方法を提供する。
【解決手段】 水酸化カルシウムとジチオカルバミン酸の塩を用いて、中性から弱アルカリ性領域のpHで排水中の重金属を固定化した後、重金属固形物を含有するスラッジを固液分離する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属含有排水に水酸化カルシウムとジチオカルバミン酸の塩を添加して重金属を固定化させた後、重金属固形物を含有するスラッジを固液分離することを特徴とする重金属含有スラッジの製造方法。
【請求項2】
前記の重金属が銅であり、且つ前記重金属含有排水が、20mg/L以上1500mg/L以下の濃度の銅を含む排水であることを特徴とする請求項1に記載の重金属含有スラッジの製造方法。
【請求項3】
ジチオカルバミン酸の塩が、ピペラジン又はテトラエチレンペンタミンと、二硫化炭素と、アルカリ金属水酸化物との反応生成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の重金属含有スラッジの製造方法。
【請求項4】
固液分離する前に、高分子凝集剤を添加することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の重金属含有スラッジの製造方法。
【請求項5】
重金属含有排水にジチオカルバミン酸の塩を添加する時のpHが、6から11の範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の重金属含有スラッジの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅等の重金属を含有するスラッジの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属を含有した水溶液の処理方法として、水酸化カルシウムや水酸化ナトリウム等によるアルカリ沈殿法、塩化第二鉄等の鉄塩や硫酸バンド等のアルミニウム塩を用いた共沈法等が知られている。これらの方法は、pHを通して反応制御が容易であり、プロセスの安全性は高いが、処理した排水の重金属を排水基準値以下に低減できない場合も多い。一方で、水溶液から分離したスラッジは、結晶水や塩を多く含むため、埋め立てなど投棄処理することが一般的ではあるものの、銅やニッケル等を含むスラッジは金属原料として再資源化することが可能である。
【0003】
このような銅等の有価金属のリサイクルの観点から、スラッジ中の有価金属の含有率を向上させる方法として、水硫化ソーダ等の硫化剤を用いた方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-69068公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法は、重金属との反応性の点から、pHを1~5に保持して水硫化ソーダ等の硫化剤を添加することを特徴とする。しかしながら、このような酸性条件における添加は、毒性の強い硫化水素ガスの発生を引き起こすため、pHを下げる要因となる条件は通常避けるべきである。
【0006】
また、次工程である次亜塩素酸ソーダ等の酸化剤処理も同等のpH領域が望ましいとされており、前工程で過剰量の硫化剤を添加した場合、本工程においても硫化水素ガスの発生を伴う。さらに、水硫化ソーダ等の硫化剤は、酸化剤と接触すると発熱を伴って激しく反応する性質があり、これらの一連の工程における安全面で改善の余地があった。
【0007】
即ち、硫化水素ガス発生を抑制できるpH領域での重金属処理を可能とし、かつスラッジ中の有価金属の含有率を向上させる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、水酸化カルシウムとジチオカルバミン酸の塩を用いて、中性から弱アルカリ性領域のpHで排水中の重金属を固定化させた後、重金属固形物を含有するスラッジを固液分離する方法により、硫化水素ガスの発生を抑制できると同時に、スラッジ中の有価金属の含有率を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の要旨を有するものである。
【0010】
[1]重金属含有排水に水酸化カルシウムとジチオカルバミン酸の塩を添加して重金属を固定化させた後、重金属固形物を含有するスラッジを固液分離することを特徴とする重金属含有スラッジの製造方法。
【0011】
[2]前記の重金属が銅であり、且つ前記重金属含有排水が、20mg/L以上1500mg/L以下の濃度の銅を含む排水であることを特徴とする上記[1]に記載の重金属含有スラッジの製造方法。
【0012】
[3]ジチオカルバミン酸の塩が、ピペラジン又はテトラエチレンペンタミンと、二硫化炭素と、アルカリ金属水酸化物との反応生成物であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の重金属含有スラッジの製造方法。
【0013】
[4]固液分離する前に、高分子凝集剤を添加することを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれか1項に記載の重金属含有スラッジの製造方法。
【0014】
[5]重金属含有排水にジチオカルバミン酸の塩を添加する時のpHが、6から11の範囲であることを特徴とする上記[1]乃至[4]のいずれか1項に記載の重金属含有スラッジの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の重金属含有スラッジの製造方法は、重金属を排水基準値以下に処理できると同時に硫化水素ガスの発生を抑制でき、また重金属固定化後のスラッジ中の有価金属の含有率を向上させることができるという効果を奏する。さらに、中性領域のpHで処理可能であることから、重金属を固定化した後の排水を放流可能なpHに調整する工程を省略できるという効果を奏するため、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の方法は、ジチオカルバミン酸の塩のキレート剤による処理が適用できるカドミウム、クロム、銅、鉄、水銀、ニッケル、鉛、亜鉛、パラジウム、金、銀、白金、コバルト、インジウム、モリブデン、アンチモン、スズ、チタン、ジルコニウム、マンガン、タングステン等の重金属類を含有するスラッジの製造方法に有効であり、特に銅を含有するスラッジの製造方法として優れる。
【0018】
本発明のスラッジの製造方法は、重金属含有排水に水酸化カルシウムとジチオカルバミン酸の塩を添加して重金属を固定化させた後、重金属固形物を含有するスラッジを固液分離することを特徴とする。
【0019】
本発明で用いるジチオカルバミン酸の塩としては、分子内にジチオカルバミル基を有する化合物であれば特に限定されない。例えば、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群より選ばれるアミノ基を少なくとも1つ有するアミン化合物と、二硫化炭素と、アルカリ金属水酸化物を反応させて得られる化合物が挙げられる。1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群より選ばれるアミノ基を2つ以上有するアミン化合物と、二硫化炭素と、アルカリ金属水酸化物を反応させて得られる化合物がより好ましい。
【0020】
1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群より選ばれるアミノ基を少なくとも1つ有するアミン化合物としては、具体的には、ジエチルアミン、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ジエチレントリアミン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘプタエチレンオクタミン、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンと塩化ベンジルの縮合物等が例示される。
【0021】
これらのうち、重金属の処理性能、及び化合物としての安定性の点で、ピペラジン、テトラエチレンペンタミン、又はジエチルアミンと、二硫化炭素と、アルカリ金属水酸化物を反応させて得られる化合物が好ましい。ただし、テトラエチレンペンタミンのジチオカルバミン酸の塩は、原料であるテトラエチレンペンタミンが、主成分のリニア体[下記式(1)参照]以外に類縁体[下記式(2)~(4)参照]を含む組成物のみが工業的に製造されているため、得られるジチオカルバミン酸の塩も組成物となり、品質管理上煩雑になる欠点がある。一方、ピペラジン又はジエチルアミンのジチオカルバミン酸の塩はこのような欠点がなく、特に好ましい。
【0022】
【化1】
【0023】
本発明で用いるジチオカルバミン酸の塩を得る際に用いるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられるが、入手が容易な点で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0024】
ジチオカルバミン酸の塩には、無機硫化物、重量平均分子量300以上のポリアミン、窒素原子を3~8有するポリアミン、ヒドロキシアミノカルボン酸及び/又はその塩等を添加しても良い。
【0025】
硫化物の塩としては、例えば、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、硫化カルシウム、硫化水素カルシウム、硫化水素マグネシウム、硫化アンモニウム等が挙げられる。
【0026】
重量平均分子量300以上のポリアミンとしては、例えば、重量平均分子量300以上のポリエチレンイミン類、重量平均分子量300以上のポリエーテルアミン(ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の末端水酸基を1級アミノ基に変換した化合物)等が挙げられる。
【0027】
窒素原子を3~8有するポリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘプタエチレンオクタミン等が挙げられる。
【0028】
ヒドロキシアミノカルボン酸及び/又はその塩としては、例えば、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジアミノヒドロキシプロパン四酢酸(DPTA)、ヒドロキシイミノジコハク酸(HIDS)又はその塩等が挙げられる。
【0029】
本発明において、水酸化カルシウムとジチオカルバミン酸の塩を添加する方法は、特に限定されないが、例えば水溶液、スラリー液、分散液、溶解液として使用することができる。
【0030】
また、水酸化カルシウムとジチオカルバミン酸の塩を別々に添加しても良いし、事前に混合してから添加しても良い。別々に添加する場合は、pH調整の観点から、先に水酸化カルシウムを添加することが好ましい。さらに、水酸化カルシウムとジチオカルバミン酸の塩の質量比は特に限定されない。
【0031】
ジチオカルバミン酸の塩を添加する際のpHは、硫化水素ガスの発生を抑制できる点から、中性からアルカリ性の領域(pH6~14)が好ましく、中性から弱アルカリ性の領域(pH6~11)領域がより好ましく、重金属を固定化した後の排水を放流可能なpHの点から、中性領域(pH6~8)がさらに好ましい。
【0032】
本発明において、水酸化カルシウムとジチオカルバミン酸の塩を添加する時の温度、また添加した後の撹拌時間は重金属を含有する排水の種類によって異なるが、通常、それぞれ-10℃~40℃及び数分~2時間の範囲から選ばれる。
【0033】
重金属固形物を含有するスラッジを固液分離する方法としては特に限定されないが、例えば、ろ過、遠心分離、及び固形物を沈降させた後、上澄み液と分離する方法等が挙げられる。
【0034】
重金属固形物を含有するスラッジを固液分離する前に、高分子凝集剤を添加しても良い。高分子凝集剤の添加により、重金属固形物を含有するスラッジ中の有価金属含有率を高めると同時に、後工程である重金属固形物を含有するスラッジの固液分離を容易にする。
【0035】
高分子凝集剤は、市販されている高分子凝集剤を使用でき、特に限定されない。例えば、アクリル酸ポリマー、アクリルアミドポリマー、ジメチルアミノエチルメタアクリレートポリマー等が挙げられる。これらのうち、凝集性能の点で、弱アニオン性のアクリル酸ポリマーが好ましい。
【0036】
一方、特に限定されないが、例えば塩化第二鉄、硫酸第一鉄等の鉄化合物、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム化合物などの無機凝集剤は、重金属固形物を含有するスラッジ中の有価金属含有率を低下させるため、使用しないことが好ましい。
【0037】
重金属含有排水中に銅が含まれる場合、銅濃度としては特に限定されないが、例えばスラッジ中の銅の含有率を高める点で20mg/L以上が好ましく、重金属量を排水基準値以下に達成できる処理性能と有価物含有率が高いスラッジを製造できる点で、20mg/L以上1500mg/L以下の濃度であることがより好ましく、20mg/L以上1000mg/L以下の濃度であることがさらに好ましい。
【0038】
一連のスラッジの製造方法において、水溶液を酸性又はアルカリ性に調整する場合、pH調整剤を使用しても良い。pH調整剤としては、例えば、酸性に調整する場合は塩酸、硫酸、燐酸、硝酸等の無機塩及びその水溶液、アルカリ性に調整する場合は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム等の無機塩基及びその水溶液等が挙げられる。
【0039】
一連のスラッジの製造方法は、連続式で実施しても良いし、単一式で実施しても良い。
【実施例0040】
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定して解釈されるものではない。
【0041】
(分析方法)
水溶液中の重金属イオン濃度は、ICP発光分光分析装置(ICPE-9800、島津製作所社製)で測定した。
【0042】
排水処理中の水溶液から発生する硫化水素ガス量は、ガステック社製ガス検知管 4LKで測定した。
【0043】
スラッジ発生量[g/L]は、固液分離した後の重金属固形物を含有するスラッジを105℃で2時間乾燥させた後、測定した。
【0044】
スラッジ(%)の含水率は、下記の計算式で算出した。
【0045】
(1-スラッジ発生量[g/L]/固液分離した後の重金属固形物を含有するスラッジ[g/L])×100
スラッジ中の銅含有率(%)は、下記の計算式で算出した。
【0046】
(排水処理前の銅濃度[mg/L]-排水処理後の銅濃度[mg/L])×10-3/スラッジ発生量[g/L]×100
調製例1
実施例で使用したジチオカルバミン酸の塩は、以下の方法に従って調製した。
【0047】
(ジチオカルバミン酸の塩Aの調製)
ピペラジン(東ソー社製)112gと純水386gを混合した後、25℃で、窒素気流中で攪拌しながら48重量%水酸化カリウム306g(キシダ化学社製)と二硫化炭素196g(キシダ化学社製)をそれぞれ4分割して交互に滴下した。1時間攪拌し、下記式(5)に示す化合物40重量%を含む水溶液を得た。
【0048】
【化2】
【0049】
(ジチオカルバミン酸の塩Bの調製)
テトラエチレンペンタミン(東ソー社製)159gと純水331gを混合した後、25℃で、窒素気流中で攪拌しながら48重量%水酸化ナトリウム281g(キシダ化学社製)と二硫化炭素230g(キシダ化学社製)をそれぞれ4分割して交互に滴下した。1時間攪拌し、下記式(6)に示す化合物40重量%を含む水溶液を得た。
【0050】
【化3】
【0051】
(ジチオカルバミン酸の塩Cの調製)
N,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物(富士フイルム和光純薬社製)52.6gに全量が100gになるまで純水を加え、N,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム40重量%を含む水溶液を得た。
【0052】
【化4】
【0053】
(高分子凝集剤)
高分子凝集剤として、オルガノ社製OA-23(弱アニオンポリマー)を使用した。
【0054】
実施例1
ジャーテスター(Jar Tester)に設置した2000mLビーカーに、A社排水(pH2、銅濃度210mg/L含有)を1000mL添加した。次いで、150rpmで攪拌しながら、5%水酸化カルシウム水溶液を18.6g/L添加し、pH8に調整した後、ジチオカルバミン酸の塩Aを300mg/L添加し、150rpmで10分間撹拌した。さらに、高分子凝集剤として0.1重量% OA-23水溶液を2000mg/L加え、50rpmで5分間攪拌した。撹拌終了後、10分間静置し、卓上遠心機(久保田商事 S700T)に設置し、3800rpmで20分間遠心分離することで水溶液と汚泥を分離した。一連の処理工程中における硫化水素ガス発生量は、作業環境評価基準値未満であった。また、処理後の水溶液の銅濃度、スラッジ発生量、スラッジ中の銅含有率の結果を表1に示す。
【0055】
実施例2
高分子凝集剤を用いなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。一連の処理工程中における硫化水素ガス発生量は、作業環境評価基準値未満であった。また、処理後の水溶液の銅濃度、スラッジ発生量、スラッジ中の銅含有率の結果を表1に示す。
【0056】
実施例3
ジチオカルバミン酸の塩Aの代わりに、ジチオカルバミン酸の塩Bを300mg/L添加した以外は実施例1と同様の操作を行った。一連の処理工程中における硫化水素ガス発生量は、作業環境評価基準値未満であった。また、処理後の水溶液の銅濃度、スラッジ発生量、スラッジ中の銅含有率の結果を表1に示す。
【0057】
実施例4
ジチオカルバミン酸の塩Aの代わりに、ジチオカルバミン酸の塩Cを300mg/L添加した以外は実施例1と同様の操作を行った。一連の処理工程中における硫化水素ガス発生量は、作業環境評価基準値未満であった。また、処理後の水溶液の銅濃度、スラッジ発生量、スラッジ中の銅含有率の結果を表1に示す。
【0058】
実施例5
8L容器に、撹拌機を設置し、B社排水(pH3、銅濃度70mg/L含有)を6L添加した。次いで、250rpmで攪拌しながら、5%水酸化カルシウム水溶液を2.7g/L添加し、pH7に調整した後、ジチオカルバミン酸の塩Aを50mg/L、ポリアミンとしてポリエチレンイミン(平均分子量1800)を2mg/L添加し、200rpmで10分間攪拌した。さらに、高分子凝集剤として0.1重量% OA-23水溶液を2000mg/L加え、100rpmで5分間攪拌した。攪拌終了後、10分間静置し、卓上遠心機(久保田商事 S700T)に設置し、3800rpmで20分間遠心分離することで水溶液と汚泥を分離した。一連の処理工程中における硫化水素ガス発生量は、作業環境評価基準値未満であった。また、処理後の水溶液の銅濃度、スラッジ発生量、スラッジ中の銅含有率の結果を表2に示す。
【0059】
実施例6
ポリエチレンイミン(平均分子量1800)の代わりに、ポリエチレンイミン(平均分子量1万)を2mg/L添加した以外は実施例5と同様の操作を行った。一連の処理工程中における硫化水素ガス発生量は、作業環境評価基準値未満であった。また、処理後の水溶液の銅濃度、スラッジ発生量、スラッジ中の銅含有率の結果を表2に示す。
【0060】
実施例7
ポリエチレンイミン(平均分子量1800)の代わりに、ポリエチレンイミン(平均分子量200万)を2mg/L添加した以外は実施例5と同様の操作を行った。一連の処理工程中における硫化水素ガス発生量は、作業環境評価基準値未満であった。また、処理後の水溶液の銅濃度、スラッジ発生量、スラッジ中の銅含有率の結果を表2に示す。
【0061】
比較例1
ジャーテスター(Jar Tester)に設置した2000mLビーカーに、A社排水(pH2、銅濃度210mg/L含有)を1000mL添加した。次いで、150rpmで攪拌しながら、5%水酸化カルシウム水溶液を18.6g/L添加し、pH8に調整した後、150rpmで1時間攪拌した。さらに、高分子凝集剤として0.1重量% OA-23水溶液を2000mg/L加え、50rpmで10分間攪拌した。攪拌終了後、10分間静置し、卓上遠心機(久保田商事 S700T)に設置し、3800rpmで20分間遠心分離することで水溶液と汚泥を分離した。処理後の水溶液の銅濃度、スラッジ発生量、スラッジ中の銅含有率の結果を表1に示す。
【0062】
比較例2
8L容器に、撹拌機を設置し、B社排水(pH3、銅濃度70mg/L含有)を6L添加した。次いで、250rpmで攪拌しながら、5%水酸化カルシウム水溶液を2.7g/L添加し、pH7に調整した後、200rpmで10分間攪拌した。さらに、高分子凝集剤として0.1重量% OA-23水溶液を2000mg/L加え、100rpmで10分間攪拌した。攪拌終了後、5分間静置し、卓上遠心機(久保田商事 S700T)に設置し、3800rpmで20分間遠心分離することで水溶液と汚泥を分離した。処理後の水溶液の銅濃度、スラッジ発生量、スラッジ中の銅含有率の結果を表2に示す。
【0063】
参考例1
高分子凝集剤を添加する前に、無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウム水溶液(酸化アルミニウムとして10%)を1000mg/L加えて150rpmで5分間撹拌した以外は、実施例1と同様の操作を行った。一連の処理工程中における硫化水素ガス発生量は、作業環境評価基準値未満であった。また、処理後の水溶液の銅濃度、スラッジ発生量、スラッジ中の銅含有率の結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
実施例8
ジャーテスター(Jar Tester)に設置した2000mLビーカーに、C社排水(pH1.5、銅濃度300mg/L含有)を1000mL添加した。次いで、150rpmで攪拌しながら、5%水酸化カルシウム水溶液を加えてpH9に調整した後、ジチオカルバミン酸の塩Aを500mg/L添加し、150rpmで10分間撹拌した。撹拌終了後、10分間静置し、卓上遠心機(久保田商事 S700T)に設置し、3800rpmで20分間遠心分離することで水溶液と汚泥を分離した。一連の処理工程中における硫化水素ガス発生量は、作業環境評価基準値未満であった。また、処理後の水溶液の銅濃度、スラッジ発生量、スラッジ中の銅含有率の結果を表3に示す。
【0067】
実施例9、比較例3~4
添加する薬剤を表3に示す条件に変更する以外、実施例8と同様の操作を行った。これらの結果を表3に併せて示す。
【0068】
比較例3は、本出願の権利範囲外の条件で処理した例であるが、処理後の銅濃度が排水基準3mg/Lを超えていた。
【0069】
比較例4は、ジチオカルバミン酸塩を使用せず、水酸化カルシウムのみ用いpH12で処理した例であり、処理後の銅濃度が排水基準3mg/L以下であったが、スラッジの銅濃度が20%と低かった。
【0070】
【表3】
【0071】
実施例10
ジャーテスター(Jar Tester)に500mLビーカーを設置し、D社排水(pH1.0、銅濃度1000mg/L含有)を300mL添加した。次いで、150rpmで攪拌しながら、5%水酸化カルシウム水溶液を加えてpH8に調整した後、ジチオカルバミン酸の塩Aを1000mg/L添加し、150rpmで10分間撹拌した。撹拌終了後、10分間静置し、卓上遠心機(久保田商事 S700T)に設置し、3800rpmで20分間遠心分離することで水溶液と汚泥を分離した。一連の処理工程中における硫化水素ガス発生量は、作業環境評価基準値未満であった。また、処理後の水溶液の銅濃度、スラッジ発生量、スラッジ中の銅含有率の結果を表4に示す。
【0072】
比較例5~6
添加する薬剤を表4に示す条件に変更する以外、実施例10と同様の操作を行った。これらの結果を表4に併せて示す。
【0073】
比較例5~6は、ジチオカルバミン酸塩を使用しないで処理した例であるが、処理後の銅濃度が排水基準3mg/Lを超えていた。また、比較例6では、スラッジの銅濃度が9%と低かった。
【0074】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の重金属含有スラッジの製造方法は、金属表面処理、鍍金、プリント基板、電気部品・機械部品、自動車等の製造工場などから排出される排水の処理方法として、使用される可能性を有している。