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特開2022-155487ポリエステル樹脂の分解酵素及び分解方法
<図1>
  • 特開-ポリエステル樹脂の分解酵素及び分解方法 図1
  • 特開-ポリエステル樹脂の分解酵素及び分解方法 図2
  • 特開-ポリエステル樹脂の分解酵素及び分解方法 図3
  • 特開-ポリエステル樹脂の分解酵素及び分解方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155487
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂の分解酵素及び分解方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/16 20060101AFI20221005BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221005BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
C12N9/16 Z ZNA
C12N1/21
C12N15/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017860
(22)【出願日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2021057222
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 悟史
(72)【発明者】
【氏名】三沢 悟
(72)【発明者】
【氏名】大谷 未央
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭士
(72)【発明者】
【氏名】澤辺 智雄
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC01
4B050CC04
4B050DD02
4B050FF01
4B050FF14E
4B050LL10
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA55
4B065CA60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】海洋微生物由来の酵素を用いた、ポリエステル系プラスチックの分解のための技術の提供。
【解決手段】10種類の特定のいずれかのアミノ酸配列、又は、それらの配列のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ポリエステル樹脂に対する加水分解活性を有する、酵素を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1-10のいずれかのアミノ酸配列、又は、配列番号1-10のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、
ポリエステル樹脂に対する加水分解活性を有する、
酵素。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂が、生分解性ポリエステル樹脂である、請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
前記生分解性ポリエステル樹脂が、脂肪族ポリエステル樹脂である、請求項2に記載の酵素。
【請求項4】
前記脂肪族ポリエステル樹脂が、炭素数2-20のジオール化合物と炭素数2-20のジカルボン酸との重合物である、請求項3に記載の酵素。
【請求項5】
請求項1に記載の酵素を発現する組換え微生物。
【請求項6】
請求項1に記載の酵素と、ポリエステル樹脂と、を含有する樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の酵素又は請求項5に記載の組換え微生物と、ポリエステル樹脂と、を接触させる工程を含む、ポリエステル樹脂の分解方法。
【請求項8】
前記工程が、海水中で行われる、請求項7に記載の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂分解酵素、該酵素を発現する組換え微生物、及びこれらを用いたポリエステル樹脂の分解方法、並びに該酵素を含有する樹脂組成物に関する。より詳しくは、海洋微生物由来のポリエステル樹脂分解酵素等に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロプラスチックによる海洋汚染の懸念をうけ、プラスチック廃棄物による環境汚染問題への取り組みの重要性が改めて高まっており、プラスチック廃棄物の分解、再資源化のための技術の開発が望まれている。
【0003】
本発明に関連して、例えば、特許文献1では、レプトスリックス属の微生物由来の酵素を用いたポリエステル系プラスチックの分解方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-197883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、海洋微生物由来の酵素を用いた、ポリエステル系プラスチックの分解のための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]-[22]を提供する。
[1] 配列番号1-10のいずれかのアミノ酸配列、又は、配列番号1-10のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、
ポリエステル樹脂に対する加水分解活性を有する、
酵素。
[2] 前記ポリエステル樹脂が、生分解性ポリエステル樹脂である、[1]の酵素。
[2-2] 前記ポリエステル樹脂が、生分解性ポリエステル樹脂又は非生分解性ポリエステル樹脂であり、
配列番号10のアミノ酸配列、又は、配列番号10のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、[1]の酵素。
[3] 前記生分解性ポリエステル樹脂が、脂肪族ポリエステル樹脂である、[2]の酵素。
[4] 前記脂肪族ポリエステル樹脂が、炭素数2-20のジオール化合物と炭素数2-20のジカルボン酸との重合物である、[3]の酵素。
[5] [1]の酵素をコードする核酸、該核酸を含む発現ベクター又は該酵素を発現する組換え微生物。
【0007】
[6] [1]の酵素と、ポリエステル樹脂と、を含有する樹脂組成物。
[7] 前記ポリエステル樹脂が、生分解性ポリエステル樹脂である、[6]の樹脂組成物。
[7-2] 前記ポリエステル樹脂が、生分解性ポリエステル樹脂又は非生分解性ポリエステル樹脂であり、
前記酵素が、配列番号10のアミノ酸配列、又は、配列番号10のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、
[6]の樹脂組成物。
[8] 前記生分解性ポリエステル樹脂が、脂肪族ポリエステル樹脂である、[7]の樹脂組成物。
[9] 前記脂肪族ポリエステル樹脂が、炭素数2-20のジオール化合物と炭素数2-20のジカルボン酸との重合物である、[8]の樹脂組成物。
【0008】
[10] [1]の酵素又は[5]の組換え微生物と、ポリエステル樹脂と、を接触させる工程を含む、ポリエステル樹脂の分解方法。
[11] 前記工程が、海水中で行われる、[10]の分解方法。
[12] 前記工程が、3重量%以上のNaCl存在下で行われる、[10]の分解方法。
[13] 前記ポリエステル樹脂が、生分解性ポリエステル樹脂である、[10]-[12]のいずれかの分解方法。
[13-2] 前記ポリエステル樹脂が、生分解性ポリエステル樹脂又は非生分解性ポリエステル樹脂であり、
前記酵素が、配列番号10のアミノ酸配列、又は、配列番号10のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、[10]-[12]のいずれかの分解方法。
[14] 前記生分解性ポリエステル樹脂が、脂肪族ポリエステルである、[10]-[13]のいずれかの分解方法。
[15] 前記脂肪族ポリエステル樹脂が、炭素数2-20のジオール化合物と炭素数2-20のジカルボン酸との重合物である、[14]の分解方法。
【0009】
[16] [1]の酵素又は[5]の組換え微生物と、ポリエステル樹脂と、を接触させる工程を含む、ポリエステル樹脂分解物の製造方法。
[17] 前記工程が、海水中で行われる、[16]の製造方法。
[18] 前記工程が、3重量%以上のNaCl存在下で行われる、[16]の製造方法。
[19] 前記ポリエステル樹脂が、生分解性ポリエステル樹脂である、[16]-[18]のいずれかの製造方法。
[19-2] 前記ポリエステル樹脂が、生分解性ポリエステル樹脂又は非生分解性ポリエステル樹脂であり、
前記酵素が、配列番号10のアミノ酸配列、又は、配列番号10のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、[16]-[18]のいずれかの製造方法。
[20] 前記生分解性ポリエステル樹脂が、脂肪族ポリエステル樹脂である、[16]-[19]のいずれかの製造方法。
[21] 前記脂肪族ポリエステル樹脂が、炭素数2-20のジオール化合物と炭素数2-20のジカルボン酸との重合物である、[20]の製造方法。
[22] 前記ポリエステル樹脂分解物が、炭素数2-20のジオール化合物と炭素数2-20のジカルボン酸および/またはこれらのオリゴマーである、[20]の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、海洋微生物由来の酵素を用いた、ポリエステル系プラスチックの分解のための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】p-ニトロフェニルブチレートを基質としてエステル結合の分解活性を測定した結果を示す。
図2】PBSの分解活性を測定した結果を示す。図中、縦軸は濁度の減少値、横軸は時間を示す。
図3】PBSフィルム及びPBSAフィルムの分解を評価した結果を示す。
図4】PEFフィルム及びPETフィルムの分解を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
[ポリエステル樹脂]
本発明において、ポリエステル樹脂は、脂肪族ポリエステル樹脂であっても、芳香族ポリエステル樹脂であっても、脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂であってもよい。
ポリエステル樹脂には、生分解性及び非生分解性のものが含まれ得る。
非生分解性のポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンフラノエートおよびポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
ポリエステル樹脂は、生分解性ポリエステル樹脂であってよく、生分解性の高さの観点から脂肪族ポリエステル樹脂であることが好ましく、さらに炭素数2-20のジオール単位と炭素数2-20のジカルボン酸単位を有する脂肪族ポリエステル樹脂が好ましい。
ここで、「生分解性」とは、微生物の働きにより、樹脂が加水分解等によりオリゴマーやモノマー等の低分子に分解され、これが更に、水と二酸化炭素等に分解される性質を意味する。
なお、ポリエステル樹脂における各繰返し単位は、それぞれの繰返し単位の由来となる化合物に対する化合物単位とも呼ぶ。例えば、脂肪族ジオールに由来する繰返し単位を「脂肪族ジオール単位」、脂肪族ジカルボン酸に由来する繰返し単位を「脂肪族ジカルボン酸単位」、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位を「芳香族ジカルボン酸単位」とも呼ぶ。また、ポリエステル樹脂中の「主構成単位」とは、通常、その構成単位が当該ポリエステル樹脂中に80重量%以上含まれる構成単位のことであり、主構成単位以外の構成単位が含まれない場合もある。
ポリエステル樹脂は、各構成単位を、1種類を単独で用いても、2種類以上を任意の組み合わせと比率で含んでいてよい。また、ジオール単位、ジカルボン酸単位及び脂肪族オキシカルボン酸単位は、石油から誘導された化合物由来であっても、植物原料から誘導された化合物由来であってもかまわないが、植物原料から誘導された化合物由来であることが環境問題に配慮できることから望ましい。
【0014】
ポリエステル樹脂に含まれるジオール単位は、脂肪族でも芳香族でもよいが、生分解しやすいことから、脂肪族が好ましく、下記一般式(1)で表されるジオール単位が特に好ましい。
-O-R1-O- (1)
式(1)中、R1は炭素数2以上20以下の脂肪族炭化水素基を表す。
【0015】
1で表される脂肪族炭化水素基の炭素数は、通常2以上、好ましくは4以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは6以下である。脂肪族炭化水素基として特に好ましい基は、炭素数4の脂肪族炭化水素基である。
式(1)で表される脂肪族ジオール単位を与える脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が好ましく、1,4-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール及びエチレングリコールがより好ましく、1,4-ブタンジオールが特に好ましい。
ポリエステル樹脂に含まれるジオール単位は、1種類でも、2種類以上の単位を任意の組み合わせと比率で有していてもよい。ポリエステル樹脂に複数種のジオール単位が含まれる場合、脂肪族ジオール単位が30モル%以上含まれることが好ましく、50モル%以上含まれることがより好ましい。
【0016】
ポリエステル樹脂に含まれるジオール単位は、芳香族ジオール単位を含んでいてもよい。芳香族ジオール単位を与える芳香族ジオール成分の具体例としては、例えば、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等が挙げられる。芳香族ジオール成分は、芳香族ジオール化合物の誘導体でもよい。また、複数の脂肪族ジオール化合物及び/又は芳香族ジオール化合物が互いに脱水縮合した構造を有する化合物であってもよい。
【0017】
ポリエステル樹脂に含まれるジカルボン酸単位は、脂肪族でも芳香族でもよい。また、ポリエステル樹脂に含まれるジカルボン酸単位は、1種類でも、2種類以上の単位を任意の組み合わせと比率で有していてもよく、脂肪族ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位を有していてもよい。但し、生分解性の観点から、ジカルボン酸単位は、脂肪族のジカルボン酸単位であることが好ましい。ポリエステル樹脂に複数種のジカルボン酸単位が含まれる場合、脂肪族ジカルボン酸単位が30モル%以上含まれることが好ましく、40モル%以上含まれることがより好ましい。一方、脂肪族ジカルボン酸単位の下限値は、特にないが、含まれていなくても構わない。また、ポリエステル樹脂に芳香族ジカルボン酸単位が含まれる場合は、芳香族ジカルボン酸単位が70モル%以下であることが好ましく、60モル%以下であることがさらに好ましい。
ジカルボン酸単位が有する炭素数は、2~22であることが好ましい。
ポリエステル樹脂に含まれるジカルボン酸単位は、下記一般式(2)で表されるジカルボン酸単位、またはシュウ酸が好ましい。
-OC-R2-CO- (2)
式(2)中、R2は単結合、炭素数1以上22以下の脂肪族炭化水素基又は炭素数4以上8以下の芳香族炭化水素基若しくは複素芳香族基を表す。
【0018】
2で表される炭化水素基の炭素数は、2以上、22以下であることが好ましい。
2で表される脂肪族炭化水素基の炭素数は、通常1以上、好ましくは2以上であり、また、一方で、好ましくは22以下、より好ましくは16以下、さらに好ましくは12以下、特に好ましくは8以下である。ポリエステル樹脂が、式(2)で表される脂肪族ジカルボン酸単位を2種類以上含む場合、脂肪族炭化水素基の組み合わせとしては、炭素数2の脂肪族炭化水素基と炭素数4以上10以下の脂肪族炭化水素基との組み合わせが好ましい。
【0019】
式(2)で表される脂肪族ジカルボン酸単位を与える脂肪族ジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、その炭素数は、2以上が好ましく、4以上がより好ましく、また、一方で、22以下が好ましく、10以下がより好ましい。すなわち、炭素数2以上22以下の脂肪族ジカルボン酸又はそのアルキルエステル等の誘導体が好ましく、炭素数4以上10以下の脂肪族カルボン酸又はそのアルキルエステル等の誘導体がより好ましい。
好ましい脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸又はその誘導体が挙げられる。これらのうち、アジピン酸、コハク酸及びセバシン酸が好ましく、コハク酸及びセバシン酸がより好ましく、コハク酸が特に好ましい。
【0020】
式(2)で表される芳香族ジカルボン酸単位を与える芳香族ジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、その炭素数は、通常4以上、8以下であり、好ましくは6以上である。好ましい芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,5-フランジカルボン酸等が挙げられ、中でも、テレフタル酸及び2,5-フランジカルボン酸が好ましく、2,5-フランジカルボン酸が更に好ましい。
【0021】
ポリエステル樹脂は、オキシカルボン酸単位を含む樹脂であってもよい。
ポリエステル樹脂に含まれるオキシカルボン酸単位は、下記一般式(3)で表される脂肪族オキシカルボン酸単位を含むポリエステル樹脂であってもよい。
-O-R3-CO- (3)
式(3)中、R3は炭素数1以上20以下の脂肪族炭化水素基を表す。
【0022】
3で表される脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上、また、一方で、好ましくは16以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下である。
【0023】
式(3)で表される脂肪族オキシカルボン酸単位を与える脂肪族オキシカルボン酸成分としては、特に限定されず、例えば、乳酸、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、2-ヒドロキシカプロン酸、6-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、4-ヒドロキシ酪酸、5-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシ酸又はこれらの低級アルキルエステル若しくは分子内エステル等の誘導体等が挙げられる。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体のいずれでもよい。これらの中で好ましいものは、乳酸及びグリコール酸である。
【0024】
ポリエステル樹脂に含まれるオキシカルボン酸単位は、芳香族オキシカルボン酸単位を含んでいてもよい。
芳香族オキシカルボン酸単位を与える芳香族オキシカルボン酸成分の具体例としては、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸等が挙げられる。芳香族オキシカルボン酸成分は、芳香族オキシカルボン酸化合物の誘導体でもよい。また、複数の芳香族オキシカルボン酸化合物及び/又は芳香族オキシカルボン酸化合物が互いに脱水縮合した構造を有する化合物(オリゴマー)であってもよい。すなわち、原料物質としてオリゴマーを用いてもよい。
これらの芳香族化合物単位を与える芳香族化合物成分に光学異性体が存在する場合には、D体、L体、及びラセミ体のいずれであってもよい。
【0025】
ポリエステル樹脂としては、上記一般式(1)で表されるジオール単位及び上記一般式(2)で表されるジカルボン酸単位を含むポリエステル樹脂;上記一般式(1)で表されるジオール単位、上記一般式(2)で表されるジカルボン酸単位及び上記一般式(3)で表されるオキシカルボン酸単位を含むポリエステル樹脂;上記一般式(3)で表されるオキシカルボン酸単位を含むポリエステル樹脂等が挙げられる。
すなわち、ポリエステル樹脂は、脂肪族ジオール単位及び脂肪族ジカルボン酸単位を主構成単位として含む脂肪族ポリエステル樹脂(以下、「脂肪族ポリエステル樹脂(A)」と言う場合がある。)、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の繰り返し単位の少なくとも一部が、芳香族化合物単位に置き換えられた樹脂である脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の繰り返し単位が芳香族化合物単位に置き換えられた樹脂である芳香族ポリエステル樹脂(ポリアリレート)(C)などが挙げられる。
【0026】
(脂肪族ポリエステル樹脂(A))
脂肪族ポリエステル樹脂(A)としては、上記の式(1)で表される脂肪族ジオール単位とR2が脂肪族炭化水素基である上記の式(2)で表される脂肪族ジカルボン酸単位を含む脂肪族ポリエステル樹脂;上記の式(1)で表される脂肪族ジオール単位とR2が脂肪族炭化水素基である上記の式(2)で表される脂肪族ジカルボン酸単位と上記の式(3)で表される脂肪族オキシカルボン酸単位を含む脂肪族ポリエステル樹脂が好ましい。
なお、式(1)で表される脂肪族ジオール単位、R2が脂肪族炭化水素基である式(2)で表される脂肪族ジカルボン酸単位及び式(3)で表される脂肪族オキシカルボン酸単位については、前述したとおりである。また、脂肪族ポリエステル(A)として好ましい脂肪族ポリエステル樹脂についても、脂肪族ポリエステル樹脂(A)が、3官能以上の脂肪族多価アルコールと3官能以上の脂肪族多価カルボン酸若しくはその酸無水物又は3官能以上の脂肪族多価オキシカルボン酸成分とを共重合されている場合も含め、前述したとおりである。
【0027】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)としては、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネートセバケート(PBSSe)等のポリブチレンサクシネート系樹脂が特に好ましい。
【0028】
(脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B))
脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)は、上述の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の繰り返し単位の少なくとも一部が、芳香族化合物単位に置き換えられた樹脂である。脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)としては、上述の式(1)で表される脂肪族ジオール単位及びR2が芳香族基である上述の式(2)で表される芳香族ジカルボン酸単位を含む、
脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂;式(1)で表される脂肪族ジオール単位、R2が芳香族炭化水素基である上述の式(2)で表される芳香族ジカルボン酸単位及び式(3)で表される脂肪族オキシカルボン酸単位を含む、脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂が好ましい。
【0029】
なお、式(1)で表される脂肪族ジオール単位、R2が芳香族炭化水素基である式(2)で表される芳香族ジカルボン酸単位及び式(3)で表される脂肪族オキシカルボン酸単位については、前述したとおりである。また、脂肪族-芳香族ポリエステル(B)として好ましい脂肪族ポリエステルについても、脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)が、3官能以上の脂肪族多価アルコールと3官能以上の脂肪族多価カルボン酸若しくはその酸無水物又は3官能以上の脂肪族多価オキシカルボン酸成分とを共重合されている場合も含め、前述したとおりである。
【0030】
脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)は、芳香族ジオール単位を含んでいてもよい。すなわち、脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)は、芳香族ジオール単位と脂肪族ジカルボン酸単位;芳香族ジオール単位と脂肪族ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位;脂肪族ジオール単位と芳香族のジオール単位と芳香族ジカルボン酸単位;脂肪族ジオール単位と芳香族のジオール単位と脂肪族ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位を有するポリエステル樹脂であってもよい。なお、ここで、芳香族ジオール成分の具体例については、上述したとおりである。
【0031】
脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)は、芳香族オキシカルボン酸単位を含んでいてもよい。芳香族オキシカルボン酸単位を与える芳香族オキシカルボン酸成分の具体例としては、上述したとおりである。
【0032】
脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)としては、芳香族化合物単位を与える成分として、芳香族ジカルボン酸成分を用いることが好ましく、この場合の芳香族ジカルボン酸単位の含有量は、脂肪族ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位の全量を基準(100モル%)として、10モル%以上、80モル%以下であることが好ましい。
【0033】
芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸又は2,5-フランジカルボン酸を用いることが好ましい。具体的には、脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)としては、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)やポリブチレンサクシネートテレフタレート(PBST)、ポリブチレンセバケートテレフタレート(PBSeT)等のポリブチレンテレフタレート系樹脂、及びポリブチレンアジペートフラノエート(PBAF)やポリブチレンサクシネートフラノエート(PBSF)、ポリブチレンセバケートフラノエート(PBSeF)、ポリブチレンサクシネートセバケートフラノエート(PBSSeF)等のポリフランジカルボキシレート系樹脂が好ましい。
【0034】
脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)としては、ジカルボン酸単位として、コハク酸、アジピン酸及びセバシン酸を有する樹脂が好ましい。そこで、脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)としては、PBST、PBSF、PBSSeFなどのポリブチレンサクシネート系樹脂;PBAT、PBAF、PBASeFなどのポリブチレンアジベート系樹脂;及びPBSeT、PBSeFなどのポリブチレンセバケート系樹脂が好ましく、PBST、PBSF、PBSSeFなどのポリブチレンサクシネート-芳香族ジカルボン酸系樹脂が更に好ましい。
【0035】
(芳香族ポリエステル樹脂(C))
芳香族ポリエステル樹脂(ポリアリレート)(C)は、上述の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の繰り返し単位が、芳香族化合物単位に置き換えられた樹脂である。
芳香族ポリエステル樹脂(C)としては、上述の脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)が含んでいてもよい芳香族ジオール単位とR2が芳香族炭化水素基である上述の式(2)で表される芳香族ジカルボン酸単位を含む芳香族ポリエステル樹脂;脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)が含んでいてもよい芳香族ジオール単位、R2が芳香族炭化水素基
である上述の式(2)で表される芳香族ジカルボン酸単位及び脂肪族-芳香族ポリエステル樹脂(B)が含んでいてもよい芳香族オキシカルボン酸単位を含む芳香族ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0036】
芳香族ポリエステル樹脂(C)に含まれる各単位等については、上述したとおりである。
【0037】
[酵素]
本発明に係る酵素は、配列番号1-10のいずれかのアミノ酸配列を含んでなる(comprising of)タンパク質または当該アミノ酸配列からなる(consisting of)タンパク質とできる。
また、本発明に係る酵素は、配列番号1-10のいずれかのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなるか、及び/又は、配列番号1-10のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも70%、75%、好ましくは80%、85%、より好ましくは90%、95%、さらに好ましくは96%、97%、特に好ましくは98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、ポリエステル樹脂に対する加水分解活性を有するタンパク質とできる。
ここで、「数個」とは、2-40個、2-30個、好ましくは2-20個、2-10個、より好ましくは2-5個、2-4個、特に好ましくは3個、2個をいう。アミノ酸配列に欠失等を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社)等を用いることができる。あるいは、欠失等を含む配列を有する遺伝子全体を人工合成してもよい。
「配列同一性」とは、比較すべき2つのアミノ酸配列の残基ができるだけ多く一致するように両配列を整列させ、一致した残基数を、全残基数で除したものを百分率で表したものである。上記整列の際には、必要に応じ、比較する2つの配列の一方または双方に適宜ギャップを挿入する。このような配列の整列化は、例えばBLAST、FASTA、CLUSTALW等の周知のプログラムを用いて行なうことができる。ギャップが挿入される場合、上記全残基数は、1つのギャップを1つの残基として数えた残基数となる。このようにして数えた全残基数が比較する2つの配列間で異なる場合には、長い方の配列の全残基数で一致した残基数を除して同一性(%)を算出する。
【0038】
上述のアミノ酸置換の例として、ポリエステル鎖との相互作用を向上させる目的で、活性中心残基の近傍のアミノ酸を、疎水性アミノ酸(F、Y、W、L、I、V、A、P)又は塩基性アミノ酸(K、R、H)に置換してもよい。例えば、配列番号9のアミノ酸配列からなる酵素にこのようなアミノ酸置換を導入して得た酵素が、配列番号10のアミノ酸配列からなる酵素である。ここで、活性中心残基とは、-Gly-X-Ser-Gly-X-(Xは任意のアミノ酸)という保存領域におけるセリンを指す。配列番号9の酵素においては154番目のセリンが活性中心残基である。また、活性中心残基近傍のアミノ酸とは、酵素の立体構造上において活性残基周辺に位置し、基質との相互作用が予想される残基を指す。例えば、配列9の酵素においては、80番目のグリシンから83番目のセリン、113番目のグルタミン酸、153番目のトリプトファン、155番目のメチオニン、178番目のチロシン、200番目のイソロイシン、205番目のアスパラギン、231番目のスレオニンなどが活性中心残基近傍のアミノ酸である。
また、酵素の構造安定性を高めるため、適当な位置へのジスルフィド結合の導入や、ペプチド主鎖間の空間を狭めるようなアミノ酸置換等を施しても良い。変異を導入する位置は、酵素の立体構造情報から、近接しあう二次構造や主鎖間に空隙が存在する箇所等を見出すことにより設定できる。例えば、配列9の酵素においては、155番目のメチオニンから166番目のアスパラギンまでのアミノ酸残基からなるαヘリックスと、114番目のプロリンから133番目のセリンまでのアミノ酸残基からなるαヘリックスとの交差する箇所に空隙が見られる。酵素の立体構造は、X線結晶構造解析により得られた座標情報や、シミュレーションにより導かれた座標情報等を用いることができる。
【0039】
本発明に係る酵素は、上述のアミノ酸配列からなるものであれば、ポリエステル樹脂に対する加水分解活性を有する限りにおいて、修飾を有していてもよい。修飾には、酵素の安定性を改善するための分子内架橋、アミノ酸側鎖基の修飾、及びアミノ酸配列端での精製タグの追加などが含まれる。
【0040】
さらに、本発明に係る酵素は、配列番号11-20のいずれかの塩基配列からなるDNAにコードされるアミノ酸配列を含んでなる(comprising of)タンパク質または当該アミノ酸配列からなる(consisting of)タンパク質として定義することもできる。
そして、本発明に係る酵素は、配列番号11-20のいずれかの塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質であって、ポリエステル樹脂に対する加水分解活性を有するタンパク質であってもよい。
ストリンジェントな条件としては、例えば、DNAを固定したナイロン膜を、6×SSC(1×SSCは塩化ナトリウム8.76g、クエン酸ナトリウム4.41gを1リットルの水に溶かしたもの)、1%SDS、100μg/mlサケ精子DNA、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコールを含む溶液中で65℃にて20時間プローブとともに保温してハイブリダイゼーションを行う条件を挙げることができるが、これに限定されるわけではない。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、ハイブリダイゼーションの条件を設定することができる。ハイブリダイゼーション後の洗浄条件として、例えば、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば、「1×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、50℃」等の条件を挙げることができる。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons(1987-1997))等を参照することができる。
【0041】
酵素は、海洋微生物由来であり、例えばGammaproteobacteria綱に属する微生物に由来するものであってよい。
Gammaproteobacteria綱に属する微生物としては、Pseudomonas、Vibrio、Alcanivorax、Alteromonas及びPseudoalteromonasの属に属する微生物が挙げられる。
【0042】
Pseudomonas属の微生物としては、P. salina、P. oceani、P. bauzanensis, P. saudimassiliensis, P. litoralis, P. pachastrellae, P. salegens, P. jilinensis, P. aestusnigri, P. abyssi, P. oceani, P. formosensis, P. gallaeciensis, P. pelagia, P. xinjiangensis, P. sabulinigri, P. yangmingensisが挙げられる。
【0043】
Vibrio属の微生物としては、V. gazogenes, V. spartinae, V. ruber, V. palustris, V. aerogenes, V. rhizosphiraeが挙げられる。
【0044】
Alcanivorax属の微生物としては、A. balearicus, A. borkumensis, A. dieselolei, A. gelatiniphagus, A. hongdengensis, A. jadensis, A. marinus, A. mobilis, A. pacificus, A. venustensis, A. xenomutans, A. profundi, A. indicus, A. nanhaiticusなどが挙げられる。
【0045】
Alteromonas属の微生物としては、A. addita, A. genovensis, A. hispanica, A. macleodii, A. litorea, A. marina, A. simiduii, A, stellipolaris, A. tagae, A. mediterranea, A. naphthalenivorans, A. australica, A. ponticolaなどが挙げられる。
【0046】
Pseudoalteromonas属の微生物としては、P. agarivorans, P. aliena, P. antarctica,P. arctica, P. atlantica, P. aurantia, P. bacteriolytica, P. byunsanensis, P. carrageenovora, P. citrea, P. denitrificans, P. distincta, P. donghaensis, P. elyakovii, P. espejiana, P. flavipulchra, P. haloplanktis, P. issachenkonii, P. luteoviolacea, P. lipolytica, P. maricaloris, P. marina, P. mariniglutinosa, P. nigrifaciens, P. paragorgicola, P. peptidolytica, P. phenolica, P. piscicida, P. prydzensis, P. rubra, P. ruthenica, P. sagamiensis, P. spongiae, P. tetraodonis, P. translucida, P. tunicate, P. ulvae, P. undina, P. xiamenensisなどが挙げられる。
【0047】
[組換え微生物]
本発明に係る酵素は、上述した海洋微生物から単離・精製してもよく、従来公知の分子生物学的手法を用いて組換え微生物により発現させ、精製することもできる。
組換え微生物の作製は、本発明に係る酵素をコードする核酸を一般的な宿主ベクター系に導入し、該ベクター系で微生物を形質転換することより行われる。宿主としては、上述した海洋微生物に加えて、細菌では大腸菌、Rhodococcus属、Pseudomonas属、Corynebacterium属、Bacillus属、Streptococcus属、Streptomyces属などが挙げられ、酵母ではSaccharomyces属、Candida属、Shizosaccharomyces属、Pichia属、糸状菌ではAspergillus属などが挙げられる。これらの中で、特に大腸菌を用いることが簡便であり、効率もよく好ましい。
【0048】
上述した本発明に係る酵素を発現する海洋微生物又は組換え微生物は、培養液から遠心分離等の集菌操作によって得られる培養液上清を用いるか、菌体またはその処理物等を用いることができる。菌体処理物としては、アセトンおよびトルエン等で処理した菌体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物、並びにこれらから酵素を抽出した粗酵素または精製酵素等が挙げられる。
【0049】
[ポリエステル樹脂の分解方法]
本発明に係る酵素又は組換え微生物とポリエステル樹脂とを接触させることにより、ポリエステル樹脂を分解させることができる。
ポリエステル樹脂の分解は、例えば、分解に供した樹脂の重量減少や、平均分子量低下などにより、確認できる。また、エマルジョンとして供する場合は樹脂の分解によるクリアゾーンの形成により、確認できる。
【0050】
酵素又は組換え微生物とポリエステル樹脂とを接触させる工程は、適当な溶媒中で行えばよい。溶媒には、通常、緩衝液等の水性溶媒が用いられる。
本発明に係る酵素は海洋微生物由来であり高塩濃度下でも加水分解活性を示すため、高塩濃度(例えば3重量%以上のNaCl濃度)の溶媒中でも酵素反応を行うことができる。したがって、溶媒として安価、容易かつ大量に使用可能な海水を溶媒に利用でき、水資源の有効利用にも資する。
また、酵素又は組換え微生物とポリエステル樹脂とを接触させる工程は、酵素又は組換え微生物を含む溶液を、ポリエステル樹脂に直接塗布又は噴霧して行ってもよい。
さらに、酵素又は組換え微生物とポリエステル樹脂とを接触させる工程は、コンポスト中で行われても良い。コンポストは、撹拌・保温を伴う装置であってもよく、開放系で発酵する堆肥であってもよい。コンポスト内におけるコンポスト樹脂の分解は通常遅い。本発明に係る酵素は、塩濃度の高いコンポスト中においても活性を発揮し、コンポスト内にてポリエステル樹脂製品の分解促進効果を示す。したがって、ポリエステル樹脂の焼却量を低減し、二酸化炭素排出量の削減にも資する。
【0051】
酵素反応の時間や温度、pH、酵素の添加量は、特に制限されず、適宜調整され得る。反応温度及び時間は、通常10-60℃で1時間~1週間とされ、好ましくは20-50℃で1日以上であり、より好ましくは30-40℃で3日以上である。
酵素反応のpH条件も、例えばpH4~10の範囲、好ましくはpH5.0~9.0である。
酵素の添加量は、ポリエステル樹脂に対して例えば0.001-20%(w/w)、好ましくは0.01-10%(w/w)、より好ましくは0.1-5%(w/w)である。
【0052】
本発明に係る酵素とポリエステル樹脂との反応によって生成するポリエステル樹脂の分解物は、ポリエステル樹脂の再合成のために回収し利用してもよい。
ポリエステル樹脂の分解物は、ポリエステル樹脂の種類に応じて定まるが、炭素数2-20のジオール化合物と炭素数2-20のジカルボン酸および/またはこれらのオリゴマー(10量体程度以下)であり得、例えばコハク酸、アジピン酸、6-ヒドロキシヘキサン酸、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、およびそれらの組み合わせからなるオリゴエステル等であってよい。
【0053】
[樹脂組成物]
本発明に係る酵素とポリエステル樹脂とを含有する樹脂組成物は、優れた生分解性を示す。本発明に係る樹脂組成物は、通常、海水中、淡水中、汽水中、土壌中又はコンポスト中の少なくとも何れかの環境で生分解される。また、特に、海水中では微生物量が少ないため、海水中で生分解性が高いこと(海洋生分解性樹脂組成物)が好ましい。本発明に係る樹脂組成物は、例えば海洋中に投棄された場合にも、酵素が高塩濃度下でも加水分解活性を示すことにより海水中で分解されることが期待できる。
本発明に係るポリエステル樹脂の分解の実施態様には、樹脂を意図的に海水に曝して分解させる態様の他、本発明に係るポリエステル樹脂が海水中に投棄され意図せずに海水中での分解に供される態様も含む。
【0054】
本発明に係る樹脂組成物において、ポリエステル樹脂は、1種類を単独で用いても、2種類以上の樹脂を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
【0055】
樹脂組成物中におけるポリエステル樹脂に対する酵素の配合量は、特に限定されないが、例えば0.001-20%(w/w)、好ましくは0.01-10%(w/w)、より好ましくは0.1-5%(w/w)である。
【0056】
酵素は、そのまま樹脂組成物中に配合され得る。また、酵素は、樹脂に付着固定した状態や、樹脂に結合固定した状態で樹脂組成物中に配合され得る。さらには、酵素は、形状任意の担体に付着結合または結合固定された状態や、立体格子形の担体の格子空間内に内包された状態、あるいは水溶性のカプセル形の担体内に内包された状態で樹脂組成物中に配合され得る。担体としては、ポリエチレングリコール(PEG)やポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド、および光硬化性樹脂等の合成高分子や、セルロース、カラギーナン、およびアルギン酸ナトリウム等の天然高分子からなるゲル担体、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリポロピレン、ポリエステル、ポリオレフィン、およびレーヨン等からなる担体が挙げられる。また、活性炭やアンスラサイト等の無機物主成分の担体を用いることも可能である。これらの担体には、いわゆるマイクロスフィアと称されるものも利用できる。
【実施例0057】
1.PBS・PBSA乳化寒天培地の作成
2 gのポリブチレンサクシネート(PBS)又はポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)を40 mLのクロロホルムに溶解し、40 mgの界面活性剤(Plysurf A210G)と250 mLの水を加えた。溶液をプロセスホモジナイザーで乳化させた。乳化液をホットスターラーで3時間保温・撹拌し、クロロホルムを揮発させた。水で250 mLにメスアップした後、オートクレーブにて滅菌し、樹脂溶液とした。
ろ過した海水750 mLに対し、1g NH4Cl、0.05 g K2HPO4、0.1 g BD Yeast Extract、15 g 寒天を加え、オートクレーブにて滅菌し、寒天溶液とした。
寒天溶液と乳化液を容量比が3:1となるように混合した後、固化させて平板培地(PBS(A)乳化寒天培地)とした。
【0058】
2.海洋からのポリエステル分解微生物の探索
限外ろ過膜(分画分子量200,000Da)を用いて海水を体積比1/100となるまで濃縮した。
濃縮海水を培地(Marine Broth 2216)に播種した。培地にPBS又はPBSAの粉末を10 mg / mLで添加し、25℃、200 rpmで数週間培養した。
目視にて微生物の生育が確認でき次第、培地を少量採取し、継代を行った。25℃、200 rpmで数週間培養を行い、培地を分離源1として回収した。
【0059】
濃縮海水100 mLに対し、微量のミネラル(8.5 mg/L KH2PO4、22 mg/L K2HPO4、33 mg/LNa2HPO4・2H2O、1.7 mg/L NH4Cl、0.25 mg/L FeCl3・6H2O)と30 mgのPBS粉末を添加した溶液を用いて、BOD測定器(Oxitop、セントラル科学株式会社)を用いて生分解試験を実施した。25℃でインキュベートし、生分解度の上昇が見られた時点で溶液を回収し、分離源2とした。
【0060】
PBS(A)乳化寒天培地に分離源1又は分離源2を塗布した後、30℃で静置培養した。コロニー周辺に形成されるクリアゾーンを指標に、ポリエステル分解微生物を単離した。
【0061】
3.ポリエステル分解酵素遺伝子の同定
ポリエステル分解微生物を1白金耳とり、培地(Marine Broth 2216)に植菌した。30℃、200 rpmで数日間培養した後、遠心分離により菌体を回収した。
菌体を破砕して得た抽出物からゲノムDNAを抽出し、配列を決定した。ゲノム配列中から加水分解酵素遺伝子を探索し、酵素1-9(アミノ酸配列を配列番号1-9に、核酸配列を配列番号11-19に示す)を見出した。なお、酵素3(配列番号3,13)は、Vibrio gazogenesのゲノム配列から配列5,9との相同性検索により見出した。
酵素1~9の遺伝子を、ベクター(pET26b又はpET22b)にクローニングし、発現ベクターを得た。
【0062】
4.酵素への変異導入
配列番号19(酵素9)の遺伝子を有する発現ベクター 5-10ngを鋳型とし、50 pmolのプライマー、KODOneポリメラーゼ(東洋紡株式会社)を用いて、PCR法にてアミノ酸置換の導入を行った。プライマー配列を表1に示す。
PCR反応後、反応液に1 μLのDpnI酵素溶液を添加し、37℃で1時間保温した。反応液3 μLをE. coli JM109のコンピテントセルに添加し、常法にて形質転換を行った。生じた形質転換体からプラスミドを抽出し、酵素10の発現ベクターとした。
酵素10は、酵素9のアミノ酸配列において113番目のGlnをTyrに、159番目のGlyをAlaに、178番目のTyrをTrpに、205番目のAsnをLysに置換した改変体酵素である。
【0063】
【表1】
【0064】
5.加水分解酵素の発現・精製
大腸菌(BL21(DE3)株又はRosetta2(DE3)株)を発現ベクターで形質転換した。10 mLのLB培地(1% Tryptone、0.5% Yeast Extract、1% NaCl)に組換菌を1白金耳植菌した。37℃、200 rpmで1晩培養し、前培養液とした。
前培養液を250 mLの2X YT培地に添加した。30℃、150 rpmで培養し、濁度(OD600)が1を超えたところでイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、150 rpmでさらに1晩培養し、本培養液を得た。
【0065】
酵素は、回収した菌体の抽出液、あるいはペリプラズム画分から精製した。
(1)ペリプラズム画分の調製
本培養液を遠心分離して菌体を回収した。菌体を本培養液の1/10量の緩衝液(20 mM Tris-HCl (pH8.0)、20%(w/v) sucrose、1 mM EDTA)に懸濁した。懸濁液を遠心分離し、上清を除去した後、同量の水で菌体を再懸濁した。さらに懸濁液を遠心分離し、上清(ペリプラズム画分)を回収した。ペリプラズム画分に終濃度20 mMとなるようTris-HCl緩衝液(pH8.0)を加え、メンブレンフィルターでろ過してペリプラズム画分を得た。
(2)菌体抽出液の調製
培養液10 mL相当の菌体に対し8 mLのMerck社製BugBusterを加え、室温で30分から2時間撹拌した。その後、8,000gで10分間遠心し、上清を0.22μmフィルターで除菌し、菌体抽出液を得た。
【0066】
ペリプラズム画分または菌体抽出液をアフィニティーカラム(HisTrap HP)で分画し、精製酵素を得た。
【0067】
6.酵素活性の測定
(1)測定1
p-ニトロフェニルブチレートと精製酵素を反応させ、エステル結合の分解に伴い生じるp-ニトロフェノールを吸光度(405 nm)に基づき定量し、酵素活性を測定した。1分間に1 μmolのp-ニトロフェノールを生じる酵素量を1ユニットと定義した。反応は100 mMのTris-HCl緩衝液 (pH8.0)中で行い、反応系の液量は200 μLとした。p-ニトロフェニルブチレートをDMSOに溶解し、反応系内への終濃度1 mMで添加した。経時的に405 nmの吸光度を測定し、直線領域から初速度を算出した。
【0068】
結果を図1に示す。酵素1-10について、p-ニトロフェニルブチレートのエステル結合分解活性が確認された。
【0069】
(2)測定2
乳化PBS溶液を、OD660が0.5となるよう20 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)で希釈した。900 μLの乳化PBS溶液に対し、100 μLの精製酵素溶液を添加した。吸光度計で660 nmの濁度減少を経時的に測定した。
酵素の添加量は以下のとおりとした。
【0070】
【表2】
【0071】
結果を図2に示す。図中、縦軸は濁度の減少値、横軸は時間を示す。酵素1-10について、PBSの分解活性が確認された。
【0072】
(3)測定3
精製酵素を含む20 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0) 1 mLに、1 cm2のPBSフィルム又はPBSAフィルムを浸漬し、30℃、約1-3日間静置し反応させた。反応終了後、フィルム表面を70%エタノールで洗浄し、風乾させたのち、フィルムの重量減少を測定した。酵素の添加量は以下のとおりとした。
【0073】
【表3】
【0074】
結果を図3に示す。酵素1-10について、PBSフィルム及びPBSAフィルムの分解の進行が確認された。
【0075】
(4)測定4
酵素10を含む200 mM Tris-HCl 緩衝液(pH8.0) 5 mLに、1 cm2のPEFフィルムおよびPETフィルムをそれぞれ浸漬し、40℃、120 rpmで8日間反応を行った。反応終了後、フィルム表面を70%エタノールで洗浄し、風乾させたのち、フィルムの重量減少を測定した。酵素の添加量は50 μgとした。
【0076】
結果を図4に示す。PEFフィルムおよびPETフィルムの両方のポリエステルに対して分解の進行が確認された。
【配列表フリーテキスト】
【0077】
配列番号1:酵素1のアミノ酸配列
配列番号2:酵素2のアミノ酸配列
配列番号3:酵素3のアミノ酸配列
配列番号4:酵素4のアミノ酸配列
配列番号5:酵素5のアミノ酸配列
配列番号6:酵素6のアミノ酸配列
配列番号7:酵素7のアミノ酸配列
配列番号8:酵素8のアミノ酸配列
配列番号9:酵素9のアミノ酸配列
配列番号10:酵素10のアミノ酸配列
配列番号11:酵素1の遺伝子配列
配列番号12:酵素2の遺伝子配列
配列番号13:酵素3の遺伝子配列
配列番号14:酵素4の遺伝子配列
配列番号15:酵素5の遺伝子配列
配列番号16:酵素6の遺伝子配列
配列番号17:酵素7の遺伝子配列
配列番号18:酵素8の遺伝子配列
配列番号19:酵素9の遺伝子配列
配列番号20:酵素10の遺伝子配列
配列番号21:プライマーPS2-3_Q113Y_Fの塩基配列
配列番号22:プライマーPS2-3_Q113Y_Rの塩基配列
配列番号23:プライマーPS2-3_G159A_Fの塩基配列
配列番号24:プライマーPS2-3_G159A_Rの塩基配列
配列番号25:プライマーPS2-3_Y178W_Fの塩基配列
配列番号26:プライマーPS2-3_Y178W_Rの塩基配列
配列番号27:プライマーPS2-3_N205K_Fの塩基配列
配列番号28:プライマーPS2-3_N205K_Rの塩基配列
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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