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特開2022-155523研磨用組成物、及び窒化ケイ素を選択的に除去する方法
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  • 特開-研磨用組成物、及び窒化ケイ素を選択的に除去する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155523
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】研磨用組成物、及び窒化ケイ素を選択的に除去する方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20221005BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20221005BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20221005BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20221005BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045157
(22)【出願日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2021057279
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】陳 景智
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA05
3C158CB01
3C158DA12
3C158EB01
3C158ED10
3C158ED23
3C158ED26
5F057AA03
5F057AA17
5F057AA28
5F057BA15
5F057BA21
5F057BB19
5F057CA12
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA23
5F057EA25
5F057EA26
5F057EA32
(57)【要約】      (修正有)
【課題】研磨用組成物、及び当該研磨用組成物を使用した、窒化ケイ素を選択的に除去する方法を提供する。
【解決手段】研磨用組成物は、研磨粒子と少なくとも1種のグルコース誘導体を含み、かつpHが3未満である。本発明の研磨用組成物によれば、窒化ケイ素を効率よく選択的に除去するという効果を達成できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨粒子と少なくとも1種のグルコース誘導体を含み、かつpHが3未満である研磨用組成物。
【請求項2】
少なくとも2種のグルコース誘導体を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記グルコース誘導体がアルキル鎖を有する、請求項1又は2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記グルコース誘導体がオキシアルキレン側鎖を有する、請求項1~3のいずれか1項記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記研磨粒子がシリカ粒子である、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記シリカ粒子がスルホン酸固定化コロイダルシリカである、請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
キレート剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記キレート剤がホスホネート系キレート剤を含む、請求項7に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
pH調節剤をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いる、窒化ケイ素を選択的に除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素を選択的に除去できる研磨用組成物、及び前記研磨用組成物を用いて窒化ケイ素を選択的に除去する方法である。
【背景技術】
【0002】
現在の半導体産業においては、半導体製造工程の技術の開発が絶えず進められている。近年、ウェーハの表面品質に対する要求がますます厳しくなっていることに伴い、ウェーハの研磨においても、より高水準の平滑性・平坦性が求められている。化学機械研磨法(Chemical Mechanical Polishing、以下「CMP」という)によりウェーハの表面品質を改善できることはすでに知られている。
【0003】
例えば、特許文献1は、研磨粒子、塩基性化合物、及び2種以上の水溶性高分子を含み、かつpHが8~12である、ベアシリコンウェーハを研磨するための組成物を開示している。前記2種以上の水溶性高分子は、シリコンウェーハに対して異なる親和性を有し、研磨時にウェーハの比較的内側及び外側の領域のそれぞれに作用することができる。これにより、特許文献1の組成物は、研磨速度を維持しつつ、より高いレベルでウェーハ形状を制御するという目的を達成することができる。
【0004】
特許文献2は、酸化セリウム(CeO)研磨粒子、グルコシド及び水を含み、かつpHが3~9であるCMP用組成物を開示している。特許文献2の組成物は、ポリシリコン又は窒化ケイ素に対して二酸化ケイ素を選択的に除去できる効果を有する。
【0005】
特許文献3は、シリコンウェーハの製造方法を開示している。その製造方法で用いられる研磨スラリーは、研磨粒子、水溶性高分子、及びpH調節剤(pH調整剤)を含み、かつpHが9~12である。特許文献3は、研磨後及び洗浄前にシリコンウェーハを保管し、この期間中に研磨粒子がウェーハ表面に固定され、洗浄プロセスで除去されにくくなるのを防ぐことができる液体組成物も開示している。当該液体組成物にはアルキルポリグルコシドを添加してもよい。
【0006】
特許文献4は、研磨粒子、水溶性アルカリ化合物、水溶性高分子、(アルキル)グルコシド及び水を含む研磨用組成物を開示している。特許文献4の組成物は、ウェーハのヘイズ値を低下させ、ウェーハの表面品質を向上させ、かつウェーハに適度な濡れ性を付与することができる。
【0007】
特許文献5は、研磨粒子、有機酸、複素環式化合物、及びアルキル(ポリ)グルコシドを含み、かつpHが3~10である金属用研磨液を開示している。前記研磨液は、迅速な研磨速度を有し、かつ、研磨精度も高く、高純度の材料に使用してもディッシングが発生しないため、微細配線での腐食を抑制するほか、平坦性を向上させることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2018/124230号
【特許文献2】国際公開第2013/035034号
【特許文献3】特開2019-121795号公報
【特許文献4】特開2018-206956号公報
【特許文献5】特開2010-129941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、半導体ウェーハは、ポリシリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素などのさまざまな成分を含む場合がある。窒化ケイ素と比較して、ポリシリコンや酸化ケイ素(二酸化ケイ素)は柔らかく、一般的に研磨剤と容易に反応する。上記特許文献1~5では、平坦度やヘイズなどの研磨対象物の表面特性を改善し、二酸化ケイ素の選択的除去効果を達成することができるが、窒化ケイ素を選択的に除去することについては、まだ検討されていない。
【0010】
上記のことに鑑み、本発明は、窒化ケイ素を選択的に除去できる研磨用組成物及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、鋭意研究の結果、以下の本発明の(例示にすぎず、それらに限定されない)実施形態により、上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
本発明の第1実施形態に係る研磨用組成物は、研磨粒子と少なくとも1種のグルコース誘導体を含み、かつpHが3未満である。
【0013】
本発明の第2実施形態に係る研磨用組成物は、第1実施形態の研磨用組成物であって、少なくとも2種のグルコース誘導体を含む。
【0014】
本発明の第3実施形態に係る研磨用組成物は、第1実施形態又は第2実施形態の研磨用組成物であって、前記グルコース誘導体がアルキル鎖を有する。
【0015】
本発明の第4実施形態に係る研磨用組成物は、第1実施形態~第3実施形態のいずれか1つの実施形態の研磨用組成物であって、前記グルコース誘導体がオキシアルキレン側鎖を有する。
【0016】
本発明の第5実施形態に係る研磨用組成物は、第1実施形態~第4実施形態のいずれか1つの実施形態の研磨用組成物であって、前記研磨粒子がコロイダルシリカである。
【0017】
本発明の第6実施形態に係る研磨用組成物は、第5実施形態の研磨用組成物であって、前記コロイダルシリカがスルホン酸固定化コロイダルシリカである。
【0018】
本発明の第7実施形態に係る研磨用組成物は、第1実施形態~第6実施形態のいずれか1つの実施形態の研磨用組成物であって、キレート剤をさらに含む。
【0019】
本発明の第8実施形態に係る研磨用組成物は、第7実施形態の研磨用組成物であって、前記キレート剤がホスホネート系キレート剤である。
【0020】
本発明の第9実施形態に係る研磨用組成物は、第1実施形態~第8実施形態のいずれか1つの実施形態の研磨用組成物であって、pH調節剤をさらに含む。
【0021】
本発明の第10実施形態に係る窒化ケイ素を選択的に除去する方法は、第1実施形態~第9実施形態のいずれか一つの実施形態の研磨用組成物を用いる方法である。
【0022】
本発明の第11実施形態に係る表面処理方法は、第1実施形態~第9実施形態のいずれか1つの実施形態の研磨用組成物を用いて、処理対象物に対して表面処理を行う工程を含む表面処理方法である。
【0023】
本発明の第12実施形態に係る表面処理方法は、第11実施形態の表面処理方法であって、前記処理対象物が少なくとも窒化ケイ素を含む。
【0024】
本発明の第13実施形態に係る表面処理方法は、第11実施形態又は第12実施形態の表面処理方法であって、前記表面処理が平坦化処理、選択的除去処理及び洗浄処理から選択される少なくとも1つである。
【0025】
本発明の第14実施形態に係る表面処理装置は、第1実施形態~第9実施形態のいずれか1つの実施形態の研磨用組成物を用いて、処理対象物に対して表面処理を行う機構を含む表面処理装置である。
【0026】
本発明の第15実施形態に係る表面処理装置は、第14実施形態の表面処理装置であって、前記処理対象物が少なくとも窒化ケイ素を含む。
【0027】
本発明の第16実施形態に係る表面処理装置は、第14実施形態又は第15実施形態の表面処理装置であって、前記表面処理が平坦化処理、選択的除去処理及び洗浄処理から選択される少なくとも1つである。
【0028】
本発明の第17実施形態に係る半導体製造方法は、第14実施形態~第16実施形態のいずれか1つの実施形態の表面処理装置を用いる工程を含む半導体製造方法である。
【0029】
本発明の第18実施形態に係る半導体製造設備は、第14実施形態~第16実施形態のいずれか1つの実施形態の表面処理装置を含む半導体製造設備である。
【0030】
本発明の第19実施形態に係る使用は、第1実施形態~第9実施形態のいずれか1つの実施形態の研磨用組成物の表面処理のための使用である。
【0031】
本発明の第20実施形態に係る使用は、第19実施形態の使用であって、前記表面処理の処理対象物が少なくとも窒化ケイ素を含む。
【0032】
本発明の第21実施形態に係る使用は、第19実施形態又は第20実施形態の使用であって、前記表面処理が平坦化処理、選択的除去処理及び洗浄処理から選択される少なくとも1つである。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、窒化ケイ素を選択的に除去できる研磨用組成物及び方法を提供することができる。また、いくつかの実施形態では、ポリシリコンに対して窒化ケイ素を選択的に除去できる研磨用組成物及び方法を提供することができる。具体的には、これらの実施形態の研磨用組成物を用いて研磨を行えば、窒化ケイ素の除去速度を高くし、ポリシリコンの除去速度を低くすることができるため、窒化ケイ素を効果的に除去することができる。なお、ポリシリコンの除去速度を有意に低くせしめることができるためポリシリコンの損傷をできる限り低減させる効果も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、本発明の第7実施形態の研磨用組成物におけるキレート剤の作用原理を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。本明細書において、範囲を示す
「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。「X~Y」が複数記載されている場合、例えば、「X1~Y1、あるいは、X2~Y2」と記載されている場合、各数値を上限とする開示、各数値を下限とする開示、および、それらの上限・下限の組み合わせは全て開示されている(つまり、補正の適法な根拠)となる。具体的には、X1以上との補正、Y2以下との補正、X1以下との補正、Y2以上との補正、X1~X2との補正、X1~Y2との補正は全て適法とみなされなければならない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0036】
[研磨用組成物]
本発明の研磨用組成物は、研磨粒子と少なくとも1種のグルコース誘導体を含み、かつpHが3未満である。
【0037】
[研磨粒子]
本発明の研磨粒子の材質、形状などは、研磨用組成物の使用目的、使用形態などに応じて適宜選択してもよい。本発明の研磨粒子は、無機粒子、有機粒子、又は有機-無機複合粒子のうちの少なくとも1種であってもよい。無機粒子の例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、ジルコニア粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化鉄(例えば、Fe)粒子などの酸化物粒子、窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子などの窒化物粒子、炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子などの炭化物粒子、ダイヤモンド粒子、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩などが挙げられる。有機粒子の例としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子、ポリアクリル酸粒子、ポリメタクリル酸粒子、ポリアクリロニトリル粒子などが挙げられる。上記研磨粒子は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
本発明の一つの実施形態では、上記研磨粒子は、好ましくは、シリカ粒子、より好ましくは、コロイダルシリカ(コロイダルシリカ粒子)を含む。研磨粒子が、シリカ粒子を含む場合、研磨粒子全体に占めるシリカ粒子の質量割合が、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、96質量%以上、97質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、あるいは、100質量%である。
【0039】
本発明に使用可能なコロイダルシリカとしては、CMPの技術分野で常用されているものであればよい。例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド(alkoxide)法コロイダルシリカが挙げられる。上記アルコキシド法コロイダルシリカとは、アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカである。コロイダルシリカは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。実施例のコロイダルシリカはアルコキシド法によって作製されたものである。
【0040】
通常のコロイダルシリカは、酸性条件下でゼータ電位の値がゼロに近いために、酸性条件下ではシリカ粒子同士が互いに電気的に反発せず凝集を起こしやすい。これに対し、酸性条件でもコロイダルシリカのゼータ電位が比較的大きな正の値又は負の値を有するようにコロイダルシリカを表面修飾することで、酸性条件下においてもコロイダルシリカが互いに強く反発して良好に分散する結果、研磨用組成物の保存安定性を向上させることになる。
【0041】
表面修飾されたコロイダルシリカとしては、有機酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを使用することができる。コロイダルシリカの表面への有機酸の固定化は、コロイダルシリカの表面に有機酸の官能基が化学的に結合することにより行われている。コロイダルシリカと有機酸とを単に共存させただけではコロイダルシリカへの有機酸の固定化は果
たされない。上記有機酸の具体例としては、スルホン酸、カルボン酸、スルフィン酸、及びホスホン酸が挙げられる。
【0042】
スルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic
acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247(2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。以下の実施例で使用するコロイダルシリカは、上記の方法で製造することができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3,
228-229(2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0043】
上記有機酸が表面に固定化されたコロイダルシリカとしては、スルホン酸固定化コロイダルシリカが好ましい。
【0044】
シリカ粒子を構成するシリカの真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の増大により、研磨レートは高くなる傾向にある。かかる観点から、真比重が2.0以上(例えば2.1以上)のシリカ粒子が特に好ましい。シリカの真比重の上限は特に限定されないが、典型的には2.3以下、例えば2.2以下である。シリカの真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。なお、真比重は、シリカの製法等によって変わりうる値である。なお、実施例で用いたシリカの真比重は、1.88である。
【0045】
研磨粒子の平均一次粒子径は特に限定されず、例えば5nm~100nm程度の範囲から適宜選択し得る。隆起解消性向上の観点から、平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましく、いくつかの実施形態では、15nm以上、20nm以上、25nm以上、30nm以上、あるいは、31nmである。また、スクラッチの発生防止の観点から、平均一次粒子径は、通常、200nm以下であることが有利であり、150nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、いくつかの実施形態では、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、50nm以下、45nm以下、40nm以下、39nm以下である。研磨粒子の平均一次粒子径は、まずBET法により研磨粒子の比表面積を測定し、測定した比表面積に基づいて研磨粒子の平均一次粒子径の値を算出することができる。実施例においてもそのように算出している。
【0046】
研磨粒子の平均二次粒子径は25nm以上が好ましく、30nm以上であるとより好ましく、35nm以上であるとさらに好ましく、いくつかの実施形態では、40nm以上、45nm以上、50nm以上、55nm以上、60nm以上、65nm以上、あるいは、66nm以上である。研磨粒子の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨対象物(例えば、ケイ素、又はシリコンゲルマニウム材料を含む研磨対象物)に対する研磨速度が高
まる。
【0047】
研磨粒子の平均二次粒子径は300nm以下が好ましく、260nm以下であるとより好ましく、220nm以下がさらに好ましく、いくつかの実施形態では、200nm以下、180nm以下、160nm以下、140nm以下、120nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、75nm以下、あるいは、74nm以下である。研磨粒子の平均二次粒子径が小さくなるにつれ、研磨用組成物を用いて研磨対象物に研磨を行う際、スクラッチのより少ない研磨面を容易に得ることができるようになる。研磨粒子の平均二次粒子径の値は、適した方法、例えばレーザー光散乱法により測定することができる。実施例においてもそのように算出している。
【0048】
研磨粒子の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす粒子の具体例としては、ピーナッツ形状すなわち落花生の殻の形状、繭型形状、金平糖形状などのような突起付き形状、ラグビーボール形状などが挙げられる。本願の実施例では、繭型形状が用いられている。そのような形状の研磨粒子を用いることで研磨速度向上の効果がある。
【0049】
研磨粒子の平均アスペクト比は特に限定されない。研磨粒子の平均アスペクト比は、原理的に1.0以上であり、1.05以上、又は、1.1以上とすることができる。平均アスペクト比の増大により、隆起解消性は概して向上する傾向にある。また、研磨粒子の平均アスペクト比は、スクラッチ低減や研磨の安定性向上などの観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下である。いくつかの態様において、研磨粒子の平均アスペクト比は、例えば1.5以下であってもよく、1.4以下であってもよく、1.3以下であってもよい。なお、実施例で用いた研磨粒子のアスペクト比は、1.24である。
【0050】
いくつかの実施形態において、研磨粒子としては、アスペクト比が1.2以上である粒子の体積割合が50%以上であるものを採用することができる。上記体積割合は、60%以上とすることもできる。上記体積割合の値が50%以上である場合、さらに言えば60%以上である場合には、隆起の解消に特に有効なサイズ及びアスペクト比の粒子が研磨粒子中に比較的多く含まれることが理由で、研磨粒子の機械的作用による隆起解消性をより向上させることができる。
【0051】
研磨粒子の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定し得る。研磨用組成物の全質量に対する研磨粒子の含有量は、例えば0.01質量%以上であってよく、0.05質量%以上でもよく、0.1質量%以上でもよい。研磨粒子の含有量の増大により、隆起解消性は概して向上する傾向にある。いくつかの実施形態において、研磨粒子の含有量は、0.2質量%以上でもよく、0.3質量%以上でもよく、0.4質量%以上でもよく、0.45質量%以上でもよい。また、スクラッチ防止や研磨粒子の使用量節約の観点から、いくつかの実施形態において、研磨粒子の含有量は、例えば10質量%以下であってよく、5質量%以下でもよく、3質量%以下でもよく、2質量%以下でもよく、1.5質量%以下でもよく、1.0質量%以下でもよく、0.9質量%以下でもよく、0.8質量%以下でもよく、0.7質量%以下でもよく、0.6質量%以下でもよい。これらの含有量は、例えば、研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)における含有量に好ましく適用され得る。
【0052】
[グルコース誘導体]
本発明の研磨用組成物は、少なくとも1種のグルコース誘導体、好ましくは少なくとも2種のグルコース誘導体を含む。本発明の研磨用組成物にグルコース誘導体が1種含まれる場合、それを第1グルコース誘導体と呼ぶ。本発明の研磨用組成物にグルコース誘導体
が2種含まれる場合、一方を第1グルコース誘導体と呼び、他方を第2グルコース誘導体と呼ぶ。本発明の研磨用組成物にグルコース誘導体が3種以上含まれる場合、第1グルコース誘導体、第2グルコース誘導体、第3グルコース誘導体、第4グルコース誘導体・・・と呼ぶ。いくつかの実施形態において、グルコース誘導体の種類は、例えば、4種以下、3種以下、あるいは2種である。
【0053】
驚くべきことに、グルコース誘導体を本発明の研磨用組成物に使用すると、研磨用組成物が、窒化ケイ素以外の成分(例えば、ポリシリコン)の研磨に対して阻害効果を示し、その結果、窒化ケイ素を選択的に除去することができる。また、いくつかの実施形態では、2種以上のグルコース誘導体を研磨用組成物に使用すると、窒化ケイ素以外の成分の研磨を阻害するほか、窒化ケイ素の除去速度を向上させることができる。(理論に制限されないが)推測するところによれば、その少なくとも一部の理由として、グルコース誘導体は、処理対象物における窒化ケイ素以外の成分との親和性が比較的高いため、研磨時にその上に薄膜が形成され、当該成分の研磨を阻害することができるということが考えられる。
【0054】
本発明に用いるグルコース誘導体については、公知のグルコース誘導体であってもよく、特に制限はないが、グルコースそのものは含まない。例えば、セルロース、デンプンなどの多糖類、グルコシド、米国特許出願公開第2018/305580号明細書に開示されているメチルグルコシドのオキシアルキレン誘導体などが挙げられ引用によってその全体が本発明に組み込まれる。いくつかの実施形態において、使用されるグルコース誘導体は、グルコース中のヒドロキシ基の化学反応(例えば、エステル化又はエーテル化)によって得られる生成物である。当該グルコース誘導体は、アルキル鎖及び/又はオキシアルキレン(oxyalkylene)側鎖を有する。上記オキシアルキレンは、例えば、オキシエチレン及び/又はオキシプロピレン由来であってもよいが、これらに限定されない。
【0055】
いくつかの実施形態によれば、アルキル鎖を有するグルコース誘導体は、好ましくは、炭素原子数1~20(炭素原子数2~19、炭素原子数3~18、炭素原子数4~17、炭素原子数5~16、炭素原子数6~15、炭素原子数7~14、炭素原子数8~13、炭素原子数9~12、あるいは炭素原子数10又は11)のアルキル鎖を有するグルコース誘導体又はそれらの混合物である。例えば、ラウリルグルコシド(lauryl glucoside)、デシルグルコシド(decyl glucoside)、ヘキシルグルコシド(hexyl glucoside)、ココグルコシド(coco glucoside)、カプリリル/ミリスチルグルコシド(caprylyl/myristyl
glucoside)、カプリリル/カプリルグルコシド(caprylyl/capryl glucoside)、ラウリル/ミリスチルグルコシド(lauryl/myristyl glucoside)、C9~11アルキルグルコシド(C9-11alkyl glucoside)混合物、C10~16アルキルグルコシド(C10-16alkyl glucoside)混合物、C8~16アルキルグルコシド(C8-16alkyl glucoside)混合物などが挙げられる。
【0056】
いくつかの実施形態によれば、使用されるグルコース誘導体は、以下の式(1)で表されるアルキル鎖を有するグルコース誘導体である。
【0057】
【化1】
【0058】
式(1)中、RはC1~C20アルキル基、好ましくはC4~C20アルキル基、より好ましくはC6~C16アルキル基であり、いくつかの実施形態において、C2~C19アルキル基、C3~C18アルキル基、C4~C17アルキル基、C5~C16アルキル基、C6~C15アルキル基、C7~C14アルキル基、C8~C13アルキル基、C9~C12アルキル基、あるいは、C10~11アルキル基である。
【0059】
いくつかの実施形態によれば、式(1)で表されるアルキル鎖を有するグルコース誘導体は、Rで示されるアルキル基の種類が複数である混合物の形態である。アルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。
【0060】
いくつかの実施形態によれば、式(1)で表されるアルキル鎖を有するグルコース誘導体は、RがC3~18アルキル基、RがC4~C17アルキル基、RがC5~C16アルキル基、RがC6~C15アルキル基、RがC7~C15アルキル基、RがC8~C15アルキル基、あるいは、RがC9~C15アルキル基であるグルコース誘導体の混合物の形態である。ここで例えば、RがC9~C15アルキル基であるグルコース誘導体の混合物の形態とは、式(1)で表されるアルキル鎖を有するグルコース誘導体が、混合物であって、当該混合物が、式(1)においてRがC9アルキル基(R~R、nは任意)であるグルコース誘導体と、式(1)においてRがC10アルキル基(R~R、nは任意)であるグルコース誘導体と、式(1)においてRがC11アルキル基(R~R、nは任意)であるグルコース誘導体と、式(1)においてRがC12アルキル基(R~R、nは任意)であるグルコース誘導体と、式(1)においてRがC13アルキル基(R~R、nは任意)であるグルコース誘導体と、式(1)においてRがC14アルキル基(R~R、nは任意)であるグルコース誘導体と、式(1)においてRがC15アルキル基(R~R、nは任意)であるグルコース誘導体からなる群から選択される化合物のうち少なくとも2種の端点の化合物とを含む。つまり、RがC9~C15アルキル基であるグルコース誘導体の混合物は、端点の化合物として式(1)においてRがC9アルキル基(R~R、nは任意)であるグルコース誘導体と、端点の化合物として式(1)においてRがC15アルキル基(R~R、nは任意)であるグルコース誘導体とを含む。本明細書において、同様に考える。
【0061】
いくつかの実施形態によれば、式(1)で表されるアルキル鎖を有するグルコース誘導体は、RがC3~13アルキル基、RがC4~C12アルキル基、RがC5~C11アルキル基、RがC6~C11アルキル基、RがC7~C11アルキル基、あるいは、C8~C11アルキル基、あるいは、C9~C11アルキル基である混合物の形態である。いくつかの実施形態において、混合物の形態のグルコース誘導体は、RがC12以上、C13以上、C14以上又はC15以上のアルキル基を有するグルコース誘導体を実質的に含まない。ここで「実質的に含まない」とは、例えば原料由来等で不可避的に入り込んでしまう場合を除き、その除外対象の成分を含まないという意味である。本明細書で用いられる「実質的に含まない」との用語は、全てそのように解釈する。
【0062】
いくつかの実施形態によれば、式(1)で表されるアルキル鎖を有するグルコース誘導体は、RがC8~18アルキル基、RがC9~C17アルキル基、RがC10~C16アルキル基、RがC11~C15アルキル基、RがC11~C14アルキル基、あるいは、RがC12~C14アルキル基である混合物の形態である。いくつかの実施形態において、混合物の形態のグルコース誘導体は、RがC12以下、C11以下、C10以下、C9以下又は8以下のアルキル基を有するグルコース誘導体を実質的に含まない。
【0063】
式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はC1~C4アルキル基、好ましくは水素原子又はメチル基、より好ましくは水素原子である。いくつかの実施形態によれば、式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、C1~C3アルキル基、あるいは、C1又はC2のアルキル基である。
【0064】
式(1)中、nは、例えば、1~5である。
【0065】
いくつかの実施形態によれば、オキシアルキレン側鎖を有するグルコース誘導体としては、好ましくは、オキシエチレン、オキシプロピレン、又はその両方の側鎖を有するグルコース誘導体である。例えば、オキシエチレン側鎖を有するグルコース誘導体、オキシプロピレン側鎖を有するグルコース誘導体、又はオキシエチレン/オキシプロピレン側鎖を有するグルコース誘導体が挙げられる。オキシエチレン/オキシプロピレン側鎖を有するグルコース誘導体としては、当該オキシエチレンとオキシプロピレンは同じ側鎖又は異なる側鎖に位置してもよい。オキシアルキレン側鎖を有するグルコース誘導体の例としては、メチルグルコースカプリレート/カプレート(Methyl glucose caprylate/caprate)、メチルグルコースジオレエート(Methyl glucose dioleate)、メチルグルコースイソステアレート(Methyl glucose isostearate)、メチルグルコースラウレート(Methyl glucose laurate)、メチルグルコースセスキカプリレート/セスキカプレート(Methyl glucose sesquicaprylate/sesquicaprate)、メチルグルコースセスキココエート(Methyl glucose sesquicocoate)、メチルグルコースセスキイソステアレート(Methyl glucose sesquiisostearate)、メチルグルコースセスキラウレート(Methyl glucose sesquilaurate)、メチルグルコースセスキオレエート(Methyl glucose sesquioleate)、メチルグルコースセスキステアレート(Methyl glucose sesquistearate)、メチルグルコースポリエーテル-10、メチルグルコースポリエーテル-20、PPG-10メチルグルコースポリエーテル(PPG-10 methyl glucose ether)、PPG-20メチルグルコースエーテル(PPG-20 methyl glucose ether)、PPG-25メチルグルコースエーテル(PPG-25 methyl glucose ether)、PPG-20メチルグルコースエーテルアセテート(PPG-20 methyl glucose ether acetate)、PPG-20メチルグルコースエーテルジステアレート(PPG-20 methyl glucose ether distearate)、PEG-120メチルグルコースジオレエート(PEG-120 methyl
glucose dioleate)、PEG-20メチルグルコースジステアレート(PEG-20 methyl glucose distearate)、PEG-80メチルグルコースラウレート(PEG-80 methyl glucose laurate)、PEG-20メチルグルコースセスキカプリレート/セスキカプレート(PEG-20 methyl glucose sesquicaprylate/sesquicaprate)、PEG-20メチルグルコースセスキラウレート(PEG-2
0 methyl glucose sesquilaurate)、PEG-20メチルグルコースセスキステアレート(PEG-20 methyl glucose sesquistearate)、PEG-120メチルグルコーストリイソステアレート(PEG-120 methyl glucose triisostearate)、PEG-120メチルグルコーストリオレエート(PEG-120 methyl glucose trioleate)、PEG-20メチルグルコーストリオレエート(PEG-20 methyl glucose trioleate)又はPEG-120メチルグルコーストリオレエートプロパンジオール(PEG-12 ethyl glucose trioleate propanediol)などが挙げられる。
【0066】
いくつかの実施形態によれば、使用されるグルコース誘導体は、以下の式(2)で表される構造を有する。
【0067】
【化2】
【0068】
式(2)中、AOの各々は、それぞれ独立してオキシアルキレン基、好ましくはオキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基である。AOは、オキシトリメチレン基であってもよい。
【0069】
Rの各々は、それぞれ独立して水素原子又はC1~C18のアルキル基である。いくつかの実施形態によれば、Rの各々は、C1~C15のアルキル基、C1~C12のアルキル基、C1~C10のアルキル基、C1~C8のアルキル基、C1~C6のアルキル基、C1~C4のアルキル基、あるいは、C1、C2、又はC3のアルキル基である。Rの少なくとも一部は、C2~21のアルケニル基、C3~21のアルケニルカルボニル基、C2~C21のアルキルカルボニル基の少なくとも1種であってもよい。
【0070】
a、b、c、dは、それぞれ独立して、1~150の整数、1~140の整数、1~130の整数、1~120の整数、あるいは、1~100の整数であり、好ましくは1~50の整数、より好ましくは1~30の整数である。いくつかの実施形態によれば、a、b、c、dは、それぞれ独立して、2以上の整数、3以上の整数、4以上の整数、5以上の整数、6以上の整数、7以上の整数、8以上の整数、9以上の整数、10以上の整数、12以上の整数、14以上の整数、16以上の整数、あるいは、18以上の整数である。いくつかの実施形態によれば、a、b、c、dは、それぞれ独立して、30以下の整数、28以下の整数、26以下の整数、24以下の整数、22以下の整数、20以下の整数、18以下の整数、16以下の整数、14以下の整数、あるいは、12以下の整数である。a、b、c、dのうち、一部が0であってもよい。
【0071】
いくつかの実施形態によれば、a+b+c+dは、2以上の整数、3以上の整数、4以上の整数、5以上の整数、6以上の整数、7以上の整数、8以上の整数、9以上の整数、10以上の整数、12以上の整数、14以上の整数、16以上の整数、あるいは、18以上の整数である。いくつかの実施形態によれば、a+b+c+dは、30以下の整数、28以下の整数、26以下の整数、24以下の整数、22以下の整数、20以下の整数、18以下の整数、16以下の整数、14以下の整数、あるいは、12以下の整数である。い
くつかの実施形態によれば、a+b+c+dは、6~14の整数である。いくつかの実施形態によれば、a+b+c+dは、16~24の整数である。
【0072】
上記のとおり、少なくとも1種のグルコース誘導体を使用してもよいし、少なくとも2種のグルコース誘導体を使用してもよい。窒化ケイ素を選択的に除去する効果をより好適に発揮するという観点から、少なくとも2種のグルコース誘導体を組み合わせて使用することが好ましく、少なくともアルキル鎖を有するグルコース誘導体とオキシアルキレン側鎖を有するグルコース誘導体を組み合わせて使用することがより好ましい。また、アルキル鎖を有するグルコース誘導体を2種以上組み合わせて使用することもより好ましい。
【0073】
いくつかの実施形態によれば、グルコース誘導体は、少なくともアルキル鎖を有するグルコース誘導体を含む。
【0074】
いくつかの実施形態によれば、グルコース誘導体は、少なくともオキシアルキレン側鎖を有するグルコース誘導体を含む。
【0075】
いくつかの実施形態によれば、グルコース誘導体は、式(1)においてRがC11以下、C10以下、C9以下又は8以下のアルキル基を有するグルコース誘導体を実質的に含まない混合物の形態である。いくつかの実施形態によれば、この混合物の形態のグルコース誘導体の質量割合が、グルコース誘導体の総量に対して40質量%以上、あるいは、50質量%以上である。
【0076】
いくつかの実施形態によれば、式(1)におけるRがC11以上、C12以上、C13以上、C14以上又はC15以上のアルキル基を有するグルコース誘導体を実質的に含まない混合物の形態のグルコース誘導体と、式(1)におけるRがC8~C14の混合物の形態のグルコース誘導体とを含む。いくつかの実施形態によれば、これらのグルコース誘導体の合計の質量割合が、グルコース誘導体の総量に対して、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、あるいは、100質量%である。
【0077】
いくつかの実施形態によれば、グルコース誘導体が、式(2)におけるAOがそれぞれ独立してオキシエチレン基であり、a+b+c+dが6~14の整数であるグルコース誘導体と、式(1)におけるR1がC8~C14の混合物の形態のグルコース誘導体と、キレート剤とを含み、当該キレート剤が下記式(3)で表される化合物又はその塩であり、式(3)中、R~Rは、ホスホン酸基あるいはホスホン酸基で置換されたアルキル基である、あるいは、下記式(4)で表される化合物又はその塩である。当該実施形態において、これらのグルコース誘導体の合計の質量割合が、グルコース誘導体の総量に対して、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、あるいは、100質量%である。
【0078】
いくつかの実施形態によれば、グルコース誘導体が、式(2)におけるa+b+c+dが16~24の整数であるグルコース誘導体と、式(1)におけるRがC8~C14の混合物の形態のグルコース誘導体とを含む。いくつかの実施形態によれば、これらのグルコース誘導体の合計の質量割合が、グルコース誘導体の総量に対して、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、あるいは、100質量%である。
【0079】
いくつかの実施形態によれば、グルコース誘導体が、式(2)におけるa+b+c+dが16~24の整数であるグルコース誘導体と、式(1)においてRがC11以下、C10以下、C9以下又はC8以下のアルキル基を有するグルコース誘導体を実質的に含ま
ない混合物の形態のグルコース誘導体とを含む。いくつかの実施形態によれば、これらのグルコース誘導体の合計の質量割合が、グルコース誘導体の総量に対して、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、あるいは、100質量%である。
【0080】
いくつかの実施形態によれば、グルコース誘導体がアルキル鎖を有するグルコース誘導体を含む場合(この際、グルコース誘導体がオキシアルキレン側鎖を有さない)、アルキル鎖を有するグルコース誘導体の量が、グルコース誘導体の全体量に対して、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、あるいは、100質量%である。
【0081】
いくつかの実施形態によれば、グルコース誘導体がオキシアルキレン側鎖を有するグルコース誘導体を含む場合(この際、グルコース誘導体がアルキル鎖を有さない)、オキシアルキレン側鎖を有するグルコース誘導体の量が、グルコース誘導体の全体量に対して、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、あるいは、100質量%である。
【0082】
いくつかの実施形態によれば、グルコース誘導体がアルキル鎖を有するグルコース誘導体及びオキシアルキレン側鎖を有するグルコース誘導体を含む場合、アルキル鎖を有するグルコース誘導体及びオキシアルキレン側鎖を有するグルコース誘導体の量が、グルコース誘導体の全体量に対して、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、あるいは、100質量%である。
【0083】
研磨用組成物の全質量に対して、グルコース誘導体の総含有量の上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。いくつかの実施形態によれば、研磨用組成物の全質量に対して、グルコース誘導体の総含有量の上限は、0.8質量%以下、0.6質量%以下、0.4質量%以下、0.2質量%以下、0.1質量%以下、0.09質量%以下、あるいは、0.06質量%以下である。
【0084】
また、研磨用組成物の全質量に対して、グルコース誘導体の総含有量の下限は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005%質量以上、さらに好ましくは0.01質量%以上、最も好ましくは0.02質量%以上である。いくつかの実施形態によれば、研磨用組成物の全質量に対して、グルコース誘導体の総含有量の下限は、0.03質量%以上、0.04質量%以上、0.05質量%以上、0.06質量%以上、あるいは、0.07質量%以上である。
【0085】
[キレート剤]
いくつかの実施形態によれば、研磨用組成物はキレート剤をさらに含む。
【0086】
通常、キレート剤は、研磨用組成物に添加されて、化学機械研磨によって生成する不純物と錯イオンを形成し、それによって不純物を除去し、研磨後に不純物が処理対象物の表面に残留して汚染の原因となることを防止することができる。しかしながら、特定のキレート剤を本発明の研磨用組成物に用いれば、窒化ケイ素の研磨/除去速度をより向上させることができるため、窒化ケイ素除去促進剤として使用できることを、研究により見出した。(理論に制限されないが)推測するところによれば、その少なくとも一部の理由としては、本発明の研磨用組成物に含まれるキレート剤は、研磨の際に、窒化ケイ素との間に弱吸着力が生じ、窒化ケイ素の表面に親水層を形成し、当該親水層とコロイダルシリカとの親和力(図1に示すとおり)によってシリカ(特にはコロイダルシリカ)研磨粒子と窒化ケイ素との接触の確率が向上する。そのため、窒化ケイ素の研磨速度の向上に役立つも
のと考えられる。
【0087】
本発明に使用可能なキレート剤としては、例えば、アミノカルボン酸系キレート剤、ホスホネート系キレート剤などが挙げられる。
【0088】
本発明に使用可能なキレート剤としては、例えば、下記式(3)で表される化合物又はその塩である:
【0089】
【化3】
【0090】
前記式(3)中、Y及びYは、それぞれ独立して、炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、nは、0以上4以下の整数であり、R~Rは、それぞれ独立して、ホスホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基で置換されたアルキル基、又はカルボキシル基で置換されたアルキル基である。
【0091】
いくつかの実施形態では、上記式(3)中、Y及びYとしての、炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基としては、特に制限はなく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基等の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基がある。これらのうち、炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が好ましく、炭素数1~3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基がより好ましく、炭素数1又は2のアルキレン基、すなわち、メチレン基、エチレン基がよりさらに好ましく、エチレン基が特に好ましい。
【0092】
いくつかの実施形態では、上記式(3)中のnは、(-Y-N(R)-)の数を表し、0~4の整数である。いくつかの実施形態によれば、nは、0以上3以下の整数、0以上2以下の整数、あるいは、0又は1である。なお、nが2以上の場合、n個の(-Y-N(R)-)は、同じであっても異なっていてもよい。
【0093】
いくつかの実施形態では、R~Rのうち2個以上がホスホン酸基又はカルボキシル基あるいはホスホン酸基で置換されたアルキル基又はカルボキシル基で置換されたアルキル基であり、R~Rのうち3個以上がホスホン酸基又はカルボキシル基あるいはホスホン酸基で置換されたアルキル基又はカルボキシル基で置換されたアルキル基であり、あるいは、R~Rのうち4個がホスホン酸基又はカルボキシル基あるいはホスホン酸基で置換されたアルキル基又はカルボキシル基で置換されたアルキル基である。いくつかの実施形態では、Rがホスホン酸基又はカルボキシル基あるいはホスホン酸基で置換されたアルキル基又はカルボキシル基で置換されたアルキル基である。R~R(あるいはR~R)は、同じであっても異なっていてもよい。ホスホン酸基で置換されたアルキル基又はカルボキシル基で置換されたアルキル基におけるアルキル基は、それぞれ独立して、炭素数1~4、1~3あるいは1または2である。
【0094】
本発明に使用可能なキレート剤としては、例えば、下記式(4)で表される化合物又はその塩である:
【0095】
【化4】
【0096】
前記式(4)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ホスホン酸基、ホスホン酸基で置換された炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシ基、あるいは、炭素数1~4のアルキル基であり、この際、R~Rの少なくとも一つは、ホスホン酸基、あるいは、ホスホン酸基で置換された炭素数1~4のアルキル基である。ここで、炭素数1~4のアルキル基(ホスホン酸基で置換されたものも含む)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基がある。
【0097】
いくつかの実施形態では、R~Rの少なくとも二つは、ホスホン酸基、あるいは、ホスホン酸基で置換された炭素数1~4のアルキル基である。いくつかの実施形態では、R~Rの二つが、ホスホン酸基、あるいは、ホスホン酸基で置換された炭素数1~4のアルキル基である。いくつかの実施形態では、R~Rの二つが、ホスホン酸基である。いくつかの実施形態では、R~Rの一つ又は二つは、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、あるいは、炭素数1~4のアルキル基である。いくつかの実施形態では、R~Rの一つが、ヒドロキシ基であり、R~Rの一つが、炭素数1~4(炭素数1~3、あるいは炭素数1又は2)のアルキル基である。
【0098】
本発明に使用可能なキレート剤としては、例えば、下記式(5)で表される化合物又はその塩である:
【0099】
【化5】
【0100】
前記式(5)中、R10~R12は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ホスホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基で置換された炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシ基で置換された炭素数1~4のアルキル基、カルボキシル基で置換された炭素数1~4のアルキル基、あるいは、炭素数1~4のアルキル基であり、この際、R~Rの少なくとも一つは、ホスホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基で置換された炭素数1~4のアルキル基、あるいは、カルボキシル基で置換された炭素数1~4のアルキル基である。ここで、炭素数1~4のアルキル基(ホスホン酸基、カルボキシル基、あるいは、ヒドロキシ基で置換されたものも含む)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基がある。
【0101】
いくつかの実施形態では、R10~R12の少なくとも二つは、ホスホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基で置換された炭素数1~4のアルキル基、カルボキシル基で置換された炭素数1~4のアルキル基である。いくつかの実施形態では、R~Rの一つがヒドロキシ基で置換された炭素数1~4のアルキル基である。
【0102】
アミノカルボン酸系キレート剤としては、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0103】
ホスホネート系キレート剤としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエ
チリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリス(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸などが挙げられる。これらキレート剤のうち、好ましいのは、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリス(メチレンホスホン酸)及びエチレンジアミン四酢酸である。
【0104】
研磨用組成物の全質量に対して、キレート剤の含有量は、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上であり、さらに好ましくは0.001質量%以上であり、いくつかの実施形態では、研磨用組成物の全質量に対して、キレート剤の含有量は、0.003質量%以上、0.005質量%以上、0.007質量%以上、0.009質量%以上、0.011質量%以上、0.013質量%以上、0.015質量%以上、0.017質量%以上、0.019質量%以上、0.021質量%以上、あるいは、0.023質量%以上である。キレート剤の含有量を増やすことで、窒化ケイ素の研磨速度を高めることができる。また、研磨用組成物中のキレート剤の含有量は、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以下である。いくつかの実施形態では、研磨用組成物の全質量に対して、キレート剤の含有量は、0.04質量%以下、あるいは、0.03質量%以下である。キレート剤の含有量を減らすことで、研磨用組成物の保存安定性をより良好に維持することができる。
【0105】
いくつかの実施形態において、キレート剤が、アミノカルボン酸系キレート剤及び/又はホスホネート系キレート剤を含む場合、キレート剤中にアミノカルボン酸系キレート剤及び/又はホスホネート系キレート剤が占める割合が、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、あるいは、98質量%以上である。
【0106】
[pH調節剤(pH調整剤)]
本発明の研磨用組成物はpH調節剤を含む。pH調節剤によって研磨用組成物のpHを所望の値に調整することができる。公知の酸性化合物又は塩基性化合物をpH調節剤として用いることができる。
【0107】
酸性化合物は、無機酸又は有機酸であってもよい。無機酸としては、例えば、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、硝酸(HNO)、フッ化水素酸(HF)、ホウ酸(HBO)、炭酸(HCO)、次亜リン酸(HPO)、亜リン酸(HPO)及びリン酸(HPO)を挙げることができる。これら無機酸のうち、好ましいのは、塩酸、硫酸、硝酸及びリン酸である。
【0108】
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、ヒドロキシ酢酸(hydroxyacetic acid)、サリチル酸(salicylic acid)、グリセリン酸(glyceric acid)、シュウ酸(oxalic acid)、マロン酸(malonic acid)、コハク酸(succinic acid)、グルタル酸(glutaric acid)、アジピン酸(ad
ipic acid)、ピメリン酸(pimelic acid)、マレイン酸(maleic acid)、フタル酸(phthalic acid)、リンゴ酸(malic
acid)、酒石酸(tartaric acid)、クエン酸(citric acid)、乳酸(lactic acid)、グリオキシル酸(glyoxylic acid)、2-フランカルボン酸(2-furancarboxylic acid)、2,5-フランジカルボン酸(2,5-furandicarboxylic acid)、3-フランカルボン酸(3-furancarboxylic acid)、2-テトラヒドロフランカルボン酸(2-tetrahydrofuran carboxylic acid)、メトキシ酢酸(methoxyacetic acid)、メトキシフェニル酢酸(methoxyphenylacetic acid)及びフェノキシ酢酸(Phenoxyacetic acid)を挙げることができる。メタンスルホン酸(methanesulfonic acid)、エタンスルホン酸(ethanesulfonic acid)及びイセチオン酸(2-hydroxyethanesulfonic acid)などの有機硫酸を使用してもよい。これら有機酸のうち、好ましいのは、酢酸などのモノカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸及び酒石酸などのジカルボン酸;ならびにクエン酸などのトリカルボン酸である。
【0109】
塩基性化合物としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物又は塩、第2族元素の水酸化物又は塩、水酸化第四級アンモニウム又はその塩、アンモニア、アミンなどが挙げられる。アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウムなどが挙げられる。
【0110】
本発明の研磨用組成物のpHは、3未満である。pHが高すぎると(例えば、pHが3以上の場合)、同じ処理対象物において表面の高さが相対的に低い部分の除去速度が増加し、かつ、同じ処理対象物において表面の高さが異なる部分の除去速度の差(比)が低下する可能性がある。結果として、それは段差を低減又は解消するのに不利である。pHの上限としては、好ましくは2.8以下であり、より好ましくは2.6以下であり、さらに好ましくは2.4以下である。pHの上限としては、2.7以下、2.5以下、2.3以下、あるいは、2.2以下でもよい。なお、本発明の研磨用組成物のpHの下限は特に限定されない。しかしながら、製造工程の安全性及び廃液処理の負担を考慮すれば、好ましくは0.8以上、より好ましくは1以上、さらに好ましくは1.5以上である。pHの下限は、1.6以上、1.7以上、1.8以上、1.9以上、2.0以上、あるいは、2.0超であってもよい。本発明の研磨用組成物のpHは0.8以上3未満の範囲内にあることが好ましい。本発明におけるpHは、25℃でのpHを指す。25℃でのpHはpH計で測定することができ、電極を研磨用組成物に1分間浸した後の数値である。
【0111】
本発明の研磨用組成物のpH調節剤(pH調整剤)の含有量としては特に制限はなく、所望のpHとなるような含有量でありうる。
【0112】
[その他の成分]
本発明の効果を損なわなければ、本発明の研磨用組成物はその他の成分(上記で具体的に述べた成分とは異なる成分)を含んでいてもよい。その他の成分としては、界面活性剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、除カビ剤及びその他の研磨用組成物に用いられる周知の添加物などが挙げられる。
【0113】
界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコール(ポリオキシエチレン)、ポリプロピレングリコール(ポリ-1,2-エポキシプロパン)、オキシエチレンと1,2-エポキシプロパンのランダム共重合体、オキシエチレンと1,2-エポキシプロパンのブロック共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられ、その中でもポリエチレングリコールとポリプロピレングリコール
が特に好ましい。これらの界面活性剤から1種又は2種以上を用いてもよいし、2種以上の異なる分子量を有する同じ界面活性剤を混合して用いてもよい。界面活性剤の平均分子量は300~50,000が好ましい。
【0114】
いくつかの実施形態によれば、その他の成分は、分散媒体を除く成分の全体質量に対して、10質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下、0.001質量%以下、あるいは、0.0005質量%以下である。
【0115】
[分散媒体]
本発明の研磨用組成物には分散媒体(「溶媒」と称してもよい)が含まれる。分散媒体は、研磨用組成物中の各成分を分散又は溶解させるために用いることができる。本発明において、研磨用組成物は、分散媒体として水を含んでいてよい。他の成分への作用を抑制するという観点から、できる限り不純物を含まない水が好ましい。より具体的には、イオン交換樹脂で不純物イオンを除去した後、フィルターを通して異物を除去した純水もしくは超純水、又は蒸留水が好ましい。
【0116】
いくつかの実施形態において、分散媒体中に占める水の含有割合は、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、96質量%以上、97質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、あるいは、100質量%である。
【0117】
いくつかの実施形態において、研磨用組成物は、研磨粒子と、pH調節剤と、キレート剤と、少なくとも1種のグルコース誘導体と、分散媒体とを含む場合、分散媒体を除く成分のうち、研磨粒子と、pH調節剤と、キレート剤と、少なくとも1種のグルコース誘導体との合計割合が、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、96質量%以上、97質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、あるいは、99.5質量%以上である。
【0118】
[用途]
本発明の研磨用組成物は特定の対象物の処理に用いられる。処理の方法については特に制限はなく、例えば、平坦化処理、選択的除去処理、洗浄処理を行うことができる。処理の方法は、好ましくは、化学機械研磨である。また、研磨工程は、単一のステップからなる研磨工程であってもよく、複数のステップからなる研磨工程であってもよい。複数のステップからなる研磨工程としては、例えば、予備研磨ステップ(粗研磨ステップ)の後に仕上げ研磨ステップを行う工程、又は一次研磨ステップの後に1回又は2回以上の二次研磨ステップを行い、その後、仕上げ研磨ステップを行う工程が挙げられる。
【0119】
[処理対象物]
本発明の研磨用組成物を用いて処理される処理対象物については特に制限はなく、例えば、ウェーハや基板などの半導体材料、又はレンズやガラス基板などの光学素子が挙げられ、好ましくは、窒化ケイ素を除去する、又は窒化ケイ素を選択的に除去する必要がある材料又は素子である。処理対象物の成分についても特に制限はないが、
窒化ケイ素を含むか、又は、ポリシリコン及び窒化ケイ素を含むものが好ましく
ポリシリコン及び窒化ケイ素を含むものがより好ましい。
【0120】
[表面処理装置(研磨装置)]
本発明の研磨用組成物を用いた表面処理装置については特に制限はなく、例えば、処理対象物に対して平坦化処理、選択的除去処理、洗浄処理を行う装置などが挙げられる。
【0121】
表面処理装置(研磨装置)としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと
回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0122】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、及び多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0123】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転速度は、10~500rpmが好ましく、キャリア回転速度は、10~500rpmが好ましく、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.1~10psiが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0124】
[窒化ケイ素を選択的に除去する方法]
本発明では、上記の研磨用組成物を用いる、窒化ケイ素を選択的に除去する方法も提供される。
【0125】
窒化ケイ素を選択的に除去する本発明の方法は、本発明のような研磨用組成物を用いる限り、特に制限はなく、公知の半導体材料又は光学素子などの製造方法、処理方法と併せて行ってもよい。
【0126】
いくつかの実施形態では、実施例に記載の研磨速度の測定での条件下で、窒化ケイ素/ポリシリコンの選択比は、10以上、14.8超、15以上、20以上、23.5超、25以上、30以上、34.9超、35以上、40以上、45以上、46.2以上、50以上、55以上、56.3以上、あるいは、60以上である。
【実施例0127】
以下、実施例及び比較例によりさらに本発明を説明するが、本発明の範囲は後述する実施例に限定されるものではない。また、後述する実施例において特に説明がない限り、研磨操作の条件はいずれも室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHである。
【0128】
[研磨用組成物の調製]
下記の表1に示す組成で、研磨粒子、キレート剤、第1グルコース誘導体及び第2グルコース誘導体を分散媒体(超純水)中で混合しながら、pH調節剤でpHを調整することにより(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)研磨用組成物を調製した。研磨用組成物のpHはpH計(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した(pH測定時の研磨用組成物の温度は25℃)。また、表1中の「-」は該成分が未添加であることを示す。表1の各成分及び番号について以下に説明する。なお、表1に示すように、実施例、比較例によっては、キレート剤、第1グルコース誘導体及び第2グルコース誘導体の少なくとも一部の成分を含んでいないものもある。
【0129】
SiO:表面にスルホン酸が固定化されたコロイダルシリカ[平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm]、
DTPMP:ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、
ATMP:アミノトリス(メチレンホスホン酸)、
HEDP:1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、
HIDA:ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、
EDTA:エチレンジアミン四酢酸、
G1-1:カプリリル/ミリスチルグルコシド 以下式において n=7~13 in
alkyl chain (R) (DP:1~5)、
G1-2:カプリリル/カプリルグルコシド 以下式において n=7~9 in alkyl chain (R) (DP:1~5)、
G1-3:ラウリル/ミリスチルグルコシド 以下式において n=11~13 in
alkyl chain (R) (DP:1~5)、
【0130】
【化6】
【0131】
G1-4:グルコース、
【0132】
G2-1:メチルグルコースポリエーテル-10:
【化7】
(a+b+c+d=10)
【0133】
G2-2:メチルグルコースポリエーテル-20:
【化8】
(a+b+c+d=20)
【0134】
G2-3:PPG-10メチルグルコースポリエーテル:
【化9】
(a+b+c+d=10)
【0135】
RR[Å/min]:研磨速度。
【0136】
[研磨速度の測定]
上記研磨用組成物の調製で得られた研磨用組成物を用いて、以下の条件で各ウェーハを研磨し、研磨速度を測定した。
【0137】
研磨装置:荏原製作所製FREX 300E
研磨パット:ロームアンドハース社製IC1010
ドレッサー:3M Corp社製A188
窒化ケイ素の研磨時間:60秒
ポリシリコンの研磨時間:120秒
研磨圧力:1psi(1psi=6894.76Pa)
プラテン(定盤)回転速度:90rpm
ヘッド(キャリア)回転速度:90rpm
研磨用組成物の供給速度:300ml/分。
【0138】
【表1】
【0139】
表1が示すように、比較例1及び2と比較して、1種のグルコース誘導体を含む実施例1、2の研磨用組成物を用いて研磨すると、ポリシリコンの研磨速度は低下し、かつ窒化ケイ素は高い研磨速度で研磨される。また、実施例3~15では、2種のグルコース誘導
体を用いることにより、ポリシリコン基板表面の保護効果をさらに高めることができる。実験結果から分かるように、同じキレート剤を用いた実施例1~11のうち、実施例3~11のポリシリコンの研磨速度は実施例1、2より低いが、窒化ケイ素の研磨速度は実施例1、2と同等以上である。さらに、ホスホネート系キレート剤を用いた実施例1~13及びアミノカルボン酸系キレート剤を用いた実施例14及び15の研磨用組成物はいずれもポリシリコンに対して窒化ケイ素を効率的かつ選択的に除去できる効果を有する。
【0140】
比較例2及び3から分かるように、ホスホネート系キレート剤を添加することが、窒化ケイ素の研磨速度の向上に役立つ。しかし、窒化ケイ素は高い研磨速度で研磨することができるものの、ポリシリコンの研磨速度も同時に速くなり、ポリシリコンに対して窒化ケイ素を選択的に除去する効果に影響する可能性がある。また、比較例2及び3から分かるように、比較例3の研磨用組成物にはグルコースが別途添加されているが、その窒化ケイ素の研磨速度及びポリシリコンの研磨速度は、比較例2と概ね同じであり、グルコースが研磨用組成物において何ら顕著な効果を発揮しないことを示している。また、グルコース誘導体を用いた実施例1~15と比較して、グルコースを使用する比較例3は、窒化ケイ素を選択的に除去する効果がよくない。
【0141】
なお、本出願は、2021年3月30日に出願された日本国特許出願2021-57279号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
図1