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特開2022-155551サイリウム種皮と糖との結着率を測定するための測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155551
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】サイリウム種皮と糖との結着率を測定するための測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/359 20140101AFI20221005BHJP
   G01N 33/02 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G01N21/359
G01N33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052811
(22)【出願日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2021056338
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉沼 春香
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB09
2G059BB11
2G059EE01
2G059EE11
2G059FF01
2G059FF03
2G059HH01
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM02
2G059MM03
2G059MM04
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】サイリウム種皮と糖との結着を観察することを目的とする。
【解決手段】サイリウム種皮を他の原料と識別可能な吸収バンドを選定する第一選定工程と、糖を他の原料と識別可能な吸収バンドを選定する第二選定工程と、第一選定工程と第二選定工程で選定した吸収バンドを含む、より広い波数範囲に対するサイリウム種皮組成物の吸収スペクトルを測定する第一測定工程と、第一測定工程で得られた吸収スペクトルを基に、第一選定工程および第二選定工程で選定した吸収バンドでの吸光度を抽出する第一データ処理工程と、第二選定工程によって選定した吸収バンドを用いてサイリウムの検出下限を求める第二測定工程と、第一選定工程によって選定した吸収バンドを用いて糖の検出下限を求める第三測定工程と、第一データ処理工程で得られたデータから、第二測定工程と第三測定工程で求めた検出下限を用いてサイリウム種皮及び糖の分布を数値化する第二データ処理工程と、前記分布数値化データからサイリウム種皮と糖とが結着している割合を算出する算出工程と、からなる、測定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイリウム種皮と糖との結着率を測定するための測定方法であって、
サイリウム種皮を他の原料と識別可能な吸収バンドを選定する第一選定工程と、
糖を他の原料と識別可能な吸収バンドを選定する第二選定工程と、
第一選定工程と第二選定工程で選定した吸収バンドを含む、より広い波数範囲に対するサイリウム種皮組成物の吸収スペクトルを測定する第一測定工程と、
第一測定工程で得られた吸収スペクトルを基に、第一選定工程および第二選定工程で選定した吸収バンドでの吸光度を抽出する第一データ処理工程と、
第二選定工程によって選定した吸収バンドを用いてサイリウムの検出下限を求める第二測定工程と、
第一選定工程によって選定した吸収バンドを用いて糖の検出下限を求める第三測定工程と、
第一データ処理工程で得られたデータから、第二測定工程と第三測定工程で求めた検出下限を用いてサイリウム種皮及び糖の分布を数値化する第二データ処理工程と、
前記分布数値化データからサイリウム種皮と糖とが結着している割合を算出する算出工程と、
からなる、測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の測定方法で測定したときに、サイリウム種皮の占める範囲と、サイリウム種皮と糖とが結着している範囲との割合が、45%以上100%以下であるサイリウム種皮含有組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイリウム種皮と糖との結着率を測定するための測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の変化に伴い、食物繊維の摂取量が減ってきている。日本人の食事摂取基準(2020年版)における食物繊維の摂取目標量は,18~64歳の男性であれば21g以上、65歳以上の男性であれば20g以上、また18~64歳の女性であれば18g以上、65歳以上の女性であれば17g以上と設定されている。しかし,令和元年国民健康・栄養調査では、1日当たりの食物繊維摂取量は例えば20歳代男性で17.5g,20歳代女性で16.0gと報告されており、摂取目標量に足りていない。
【0003】
食物繊維の摂取目標量は、食物繊維の摂取不足が生活習慣病の発症に関連するという報告が多いことから設定されている。また食物繊維には、整腸作用等の効果が知られ、整腸作用と保水性は正の相関を示すことも知られている。このため、食物繊維を強化した食品を日常の食生活に取り入れることは,食生活の乱れや食生活の欧米化、更にはストレスの増加等に伴い、便秘や下痢で悩む人にとって有益であると考えられる。
【0004】
食物繊維を摂取するための供給源の一つとして、サイリウム種皮が挙げられる。サイリウム種皮を摂取するには、水に溶解させて摂取するのが一般的である。しかし、サイリウム種皮を水に加えると継粉(ダマ)ができやすい。また、継粉の表面は水和してゲル化しているため、いったん継粉ができてしまうと継粉を破壊することも難しくなる。そこで、溶解性を高めるために糖などを混合してサイリウムを造粒する方法も取られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-012112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、造粒したサイリウム種皮の中には溶けやすい造粒物と溶けにくい造粒物とが存在する。このような溶解性の差が何に起因しているのかは不明であるが、サイリウムに付着する糖の結着率が原因ではないかと考えられている。そこで、本発明者は電子顕微鏡で観察し、サイリウム種皮と糖との結着状態の観察を試みた。しかし、電子顕微鏡下においてはサイリウム種皮と糖とは識別が難しく、サイリウム種皮と糖との結着を観察することは事実上不可能であった。そこで、電子顕微鏡以外の方法によりサイリウム種皮と糖との識別を模索してみたが、明確に識別できる方法は今のところ見つかっていない。そのため、サイリウム種皮と糖との結着率が溶解性に与える影響を調べる方法はいまだ存在しておらず、上記仮説についてもいまだ立証できていない。
【0007】
今回、本発明者は、サイリウム種皮と糖との結着を観察する方法について検討を行った。その結果、近赤外光を用いることで従来識別できなかったサイリウムと糖との識別が可能であることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題解決のため、本発明は、サイリウム種皮と糖との結着率を測定するための測定方法であって、サイリウム種皮を他の原料と識別可能な吸収バンドを選定する第一選定工程と、糖を他の原料と識別可能な吸収バンドを選定する第二選定工程と、第一選定工程と第二選定工程で選定した吸収バンドを含む、より広い波数範囲に対するサイリウム種皮組成物の吸収スペクトルを測定する第一測定工程と、第一測定工程で得られた吸収スペクトルを基に、第一選定工程および第二選定工程で選定した吸収バンドでの吸光度を抽出する第一データ処理工程と、第二選定工程によって選定した吸収バンドを用いてサイリウム種皮の検出下限を求める第二測定工程と、第一選定工程によって選定した吸収バンドを用いて糖の検出下限を求める第三測定工程と、第一データ処理工程で得られたデータから、第二測定工程と第三測定工程で求めた検出下限を用いてサイリウム種皮及び糖の分布をそれぞれ数値化する第二データ処理工程と、前記分布数値化データからサイリウム種皮と糖とが結着している割合を算出する算出工程と、からなる、測定方法を提供する。
【0009】
ここで、本願請求項の用語は日本工業規格(JIS)K 0212(2016)に基づくものである。
【0010】
当該構成によれば、サイリウム種皮と糖それぞれを識別可能な吸収バンドでの吸光度を測定することで、それぞれの物質の分布を可視化することができる。これにより、従来電子顕微鏡でも不可能であった識別が可能となる。
【0011】
また、上記測定方法で測定したときに、サイリウム種皮の占める範囲と、サイリウム種皮と糖とが結着している範囲との割合が、45%以上100%以下であるサイリウム種皮含有組成物を提供する。
【0012】
当該構成によれば、水に対する溶解性が向上した組成物を得ることができるものと考えられる。
【発明の効果】
【0013】
当該発明によれば、電子顕微鏡を用いることなく、サイリウム種皮と糖との結着を観察する方法を提供することができる。これにより、サイリウム種皮と糖との結着率が溶解性に与える影響について調べることができる。また、サイリウム種皮と糖との結着割合を測定できるので、一定の品質を担保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、電子顕微鏡などで識別できない複数物質が一部結着した混合物を、近赤外光に対する各物質の固有の吸収スペクトルを利用して分布を可視化し、識別することを特徴とする。本実施例においては、糖を用いて造粒したサイリウム種皮を例に説明する。
【0015】
本実施例で用いるサイリウム種皮は、高度に分岐した構造を有する多糖類をその主成分とした食物繊維素材である。本発明で用いられるサイリウム種皮としては、オオバコ科の植物プランタゴオバタ(Plantago ovata)の種子から得られる種皮(ハスク)またはその粉砕物が挙げられる。ここで、サイリウム種皮またはその粉砕物としては、サイリウム、サイリウムハスク、サイリウム種皮末、サイリウムシードガム、イサゴールなど(以下、「サイリウム種皮末」という。)として市販されているものが挙げられる。本発明において、サイリウム種皮末は、いかなる粒度、グレードのものを用いても構わないが、夾雑物が少なく、純度が高いものが好ましい。
【0016】
本実施例で用いる糖としては、特に限定されないが、単糖類や二糖類、三糖類以上の多糖類が挙げられる。このうち、単糖類または二糖類が好ましい。具体的には、ブドウ糖、果糖、砂糖(ショ糖)、乳糖及び麦芽糖等が該当する。
【0017】
サイリウム種皮の造粒は既存の方法で行うことができる。例えば、原料のサイリウム種皮と糖とを計量し、よく攪拌する。混合した原料粉末を湿式造粒法で造粒する。湿式造粒法としては、押し出し造粒系、転動造粒系、流動層造粒系、気流造粒系等の湿式造粒を用いることができる。このうち、ポーラスな構造を有し溶解性の高い顆粒を造粒できる、流動層造粒系を用いることが好ましい。
【0018】
近赤外光を用いた測定方法について説明する。本発明においては、近赤外光(NIR)を用いて測定可能な顕微FT-IRシステムSpectrum400-Spotlight400(PerkinElmer)を用いて測定を行った。
【0019】
はじめに、造粒に用いた各原料を原料同士の粒子が重ならないよう注意しながら、直径5cmのシャーレ中央に直径2cm程度の大きさとなるように広げた。次に、NIR顕微透過法で造粒に用いた各原料のNIRスペクトルを測定した。測定条件は、測定波数範囲7800cm-1~4000 cm-1、分解能16 cm-1、アパーチャサイズ100×100μm、積算回数16回、バックグラウンドはガラスシャーレとした。
【0020】
原料ごとのNIRスペクトルデータを比較し、サイリウム種皮と糖とを識別することができる吸収バンドを特定する(特許請求の範囲に記載の「第一選定工程」及び「第二選定工程」に相当。)。本実施例では、サイリウム種皮は5180 cm-1 (OH伸縮とOH変角の結合音) 、糖は6960 cm-1 (スクロースの結晶性バンド)に着目することとした。
【0021】
続いて、造粒物を粒子が重ならないよう注意しながら、直径5cmのシャーレ中央へ直径2cm程度の範囲に広げた。次に、顕微FT-IRシステムSpectrum400-Spotlight400(PerkinElmer)を用いて、造粒物のNIR透過イメージングをおこなった。測定波数範囲7200cm-1~3700cm-1、分解能16cm-1、測定面積領域5mm×5mm、ピクセルサイズ25μm、積算回数2回の条件下で測定し、40000個のピクセルに対するデータを取得した。ここで、各ピクセルデータには7200cm-1~3700cm-1の波数範囲における吸収スペクトルが含まれている。つまり、第一選定工程と第二選定工程で選定した吸収バンドを含む、より広い波数範囲に対するサイリウム種皮組成物の吸収スペクトルを測定している(特許請求の範囲に記載の「第一測定工程」に相当)。
【0022】
次に、第一選定工程で選定された吸収バンドにおける吸光度のピークを定量するために、ピークの両端となる2点を定める。当該2点は平均吸光度イメージ画像に基づいて、平均吸光度イメージからスペクトルを表示させ、着目する吸収バンドの両端となるポイントを選ぶ。サイリウム種皮においては、5320.0cm-1と5000cm-1とした。同様に、第二選定工程で選定された吸収バンドにおける吸光度のピークを定量するために、ピークの両端となる2点についても定める。糖においては、7076.8cm-1と6818.8cm-1とした。次に、5320.0cm-1~5000cm-1及び7076.8cm-1~6818.8cm-1間の面積(吸光度)を算出する。この操作は第一測定工程で得られた吸収スペクトル(先ほど取得した40000個のピクセルデータ)に対して行うことで、ある測定面積領域に対し40000個のピクセルそれぞれにおけるサイリウム種皮の吸光度データと、糖の吸光度データを2つのtxtファイルとして出力した(特許請求の範囲に記載の「第一データ処理工程」に相当)。
【0023】
次に、測定時におけるノイズを排除するため、サイリウム種皮と糖それぞれについて、NIR透過イメージング法で検出可能な下限値を求めた。検出下限は、次の手順で求めた。サイリウム種皮の場合は、まず測定面積領域2mm×2mmにしたこと以外はサイリウム種皮造粒物を測定したときと同じ条件で糖についてNIR透過イメージングをおこなう。得られた吸収スペクトルの平均吸光度イメージから、サイリウム種皮の着目吸収バンドに該当する5320.0cm-1~5000cm-1間の面積(吸光度)を抽出する。サイリウム種皮の着目吸収バンドより得られた平均吸光度イメージから、測定面積領域全体の平均値、最大値/最小値や標準偏差を算出する。次に、統計学における99%信頼区間の算出により検出下限値を求めた。ここでは、検出下限値=平均値±標準偏差の2.5倍として算出した。(特許請求の範囲に記載の「第二測定工程」に相当。)
【0024】
同様に、測定面積領域2mm×2mmにしたこと以外はサイリウム種皮造粒物を測定したときと同じ条件でサイリウム種皮についてNIR透過イメージングをおこなう。得られた吸収スペクトルの平均吸光度イメージからスペクトルを表示させ、糖の着目吸収バンドに該当する7076.8cm-1~6818.8cm-1間の面積(吸光度)を抽出する。糖の着目吸収バンドより得られた平均吸光度イメージから、測定面積領域全体の平均値、最大値/最小値や標準偏差を算出する。次に、統計学における99%信頼区間の算出により検出下限値を求めた。ここでは、検出下限値=平均値±標準偏差の2.5倍として算出した。(特許請求の範囲に記載の「第三測定工程」に相当)。
【0025】
第一データ処理工程で得られたサイリウム種皮および糖それぞれの分布を表すtxtファイルデータを、Excelを用いて次の手順で処理した。まず、サイリウム種皮および糖のtxtデータをそれぞれ別のExcelシートにコピーした。サイリウム種皮のデータは第二測定工程で求めた検出下限値を、糖のデータは第三測定工程で求めた検出下限値を用いて各セルの値が検出下限よりも大きいか否かを、IF関数を用いて判定した(ノイズの識別)。このとき、検出下限以下であれば『0』を、検出下限よりも大きい値であればサイリウム種皮のシートは『1』を、糖のシートは『2』を返すよう指定した。すなわち、以下の式1,2で判定した(特許請求の範囲に記載の「第二データ処理工程」及び「算出工程」に相当)。
【0026】
サイリウム種皮データの判定 = IF(‘データのシート名‘!各セル>サイリウム種皮の検出下限値, 1, 0) ・・・(式1)
【0027】
糖のデータの判定 = IF(‘データのシート名‘!各セル>糖の検出下限値, 2, 0) ・・・(式2)
【0028】
次に、検出下限値よりも大きいか否かを判定したサイリウム種皮のシートおよび糖のシートの対応するセル同士の和を新しいシートに返すよう以下の式3を用いて指定した。ここでは一般に用いられる複数シート間におけるセルの演算方法を用いて処理を行っている。
【0029】
= SUM(‘サイリウム種皮の判定シート:糖の判定シート’!各セル) ・・・(式3)
【0030】
この式3により、分布が以下の数値で返される。サイリウム種皮のみ存在する場合 =1、糖のみ存在する場合 =2、サイリウムと糖が存在する場合 =3、サイリウムも糖も存在しない場合 =0
【0031】
「3」のサイリウムと糖が存在する場合を2種の原料が結着混合状態にあると定義し、サイリウム種皮と糖の結着割合を以下の式4で判定した。
【0032】
結着割合(%) = (糖∧サイリウム種皮)/(糖+サイリウム種皮) × 100 = (サイリウム種皮と糖が存在するセルの個数)/{(サイリウム種皮のみ存在するセルの個数)+(糖のみ存在するセルの個数)+(サイリウム種皮と糖が存在するセルの個数)} × 100 = (「3」のセルの個数)/{(「1」のセルの個数)+(「2」のセルの個数)+(「3」のセルの個数)} × 100 ・・・(式4)
【0033】
さらに、溶けにくさの原因と推察される「結着状態にないサイリウム種皮の割合」を以下の式5で算出した。
【0034】
結着状態にないサイリウム種皮(%) = (サイリウム種皮)/(糖+サイリウム種皮)× 100 =(サイリウム種皮のみ存在するセルの個数)/{(サイリウム種皮のみ存在するセルの個数)+(糖のみ存在するセルの個数)+(サイリウム種皮と糖が存在するセルの個数)} × 100 =(「1」のセルの個数)/{(「1」のセルの個数)+(「2」のセルの個数)+(「3」のセルの個数)} × 100 ・・・(式5)
【実施例0035】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
<サンプルの調製>
サイリウム種皮末及びショ糖を表1の比率で合計500gとなるように混合した。サンプル1~6については、混合した後、流動層造粒機に投入し、水を噴霧しながら造粒をおこなった。このとき、加水量は投入した粉末重量の20%となるまで噴霧を行った。また、造粒後、14メッシュのタイラー篩にかけ、通過したものをサンプルとした。なお、サンプル1には120メッシュのタイラー篩(JIS規格に換算すると、篩の目開きが125μm)を通過しないショ糖を、サンプル2~6には120~280メッシュのタイラー篩(JIS規格に換算すると、篩の目開きが53~125μm)を通過した粉糖(ショ糖)を用いた。一方、サンプル7については、サイリウム種皮末と120~280メッシュのタイラー篩(JIS規格に換算すると、篩の目開きが53~125μm)を通過した粉糖(ショ糖)を混合したのみで、造粒は行わなかった。
【0037】
【表1】
【0038】
<結着割合について>
上述の試験方法に従って、サイリウム種皮末、ショ糖、各サンプルについて顕微FT-IRシステムSpectrum400-Spotlight400(PerkinElmer)を用いて測定した。本実施例においては、サイリウム種皮末の検出下限値は0.85Arb 、ショ糖の検出下限値は0.55Arbであった。得られたデータを基に、サイリウム種皮末とショ糖との結着割合を算出した。結果を表2に示す。数値はn=4の測定結果の平均値である。
【0039】
<水に対する溶解性確認試験>
水に対する溶解性の確認試験は次のようにして行った。まず、0.01重量%濃度の青色1号色素水を用意した。次に、300 mLビーカーに先ほど用意した青色色素水を180mLと、長さ3cmのスターラーバーを入れてから、ビーカーをマグネチックスターラーの上にセットした。続いて、水面から高さ8cmのところに開口部が来るよう、ステンレス製スタンドとクランプを用いて50mLチューブをセットした。チューブの開口部を上に向け、各サンプルをチューブ内に入れた。このとき、チューブ内に入れた各サンプル量は6.4gとした。開口部をアルミホイルで塞ぎ、スターラーバーを100rpmで回転させた。チューブを180度回転させ、アルミ蓋の一端をチューブに固定した状態で開封し、各サンプルをビーカー内に投下した。投下直後にスターラーバーを止めて30秒待った後、平面視におけるビーカー表面をカメラで撮影した。撮影した画像を、画像解析ソフトImageJを用いてグレースケールに変換し、ビーカー表面の面積値および非沈降粉末部分の面積値を求め、ビーカー表面に占める非沈降粉末部分の割合を算出した。算出した割合が小さいほど、水に対する溶解性、すなわち親和性が高く溶けやすいこととなる。結果を表2に示す。数値はn=5の測定結果の平均値である。
【0040】
【表2】
【0041】
まず、造粒の有無がサイリウム種皮末と粉糖(ショ糖)との結着割合に与える影響について検討を行った。サンプル2とサンプル7の結果を比較すると、造粒しているサンプル2では結着割合が60.6%であるのに対し、混合のみのサンプル7では結着割合が8.9%しかないことがわかる。また、造粒したサンプル2の非沈降粉末部分の割合が8.3%であるのに対して、未造粒のサンプル7では93.4%となっていた。これらのことから、造粒によってサイリウム種皮末と粉糖(ショ糖)との結着割合が高まり、さらに溶解性も高まっていることが示唆された。
【0042】
次に、配合割合と結着割合との関連性について検討を行った。表2から明らかなように、サイリウム種皮末と粉糖(ショ糖)との配合比が1:0.37~3の条件下で造粒した場合には、サイリウム種皮末と糖との結着割合が50%以上となっていることがわかる(サンプル2~5参照)。一方、糖の配合比が3を超える条件下で造粒した場合には、サイリウム種皮末と糖との結着割合が低下していることがわかる。(サンプル6参照)。さらに、サイリウム種皮末と糖との結着割合と、非沈降粉末部分の割合とを比較すると、ここでも結着割合が大きいほど非沈降粉末部分の割合が小さくなっていることがわかる。すなわち、結着割合が大きいほどよく溶解しているとの結果となった。これらのことから、サイリウム種皮末と粉糖(ショ糖)との配合比は1:0.37~3が適当であることが示唆された。
【0043】
続いて、ショ糖の粒径がサイリウム種皮末と粉糖(ショ糖)との結着割合に与える影響について検討を行った。サンプル1とサンプル2の結果を比較すると、サンプル1では結着割合が約30%であるのに対して、サンプル2の結着割合はサンプル1の倍以上の60.6%であることがわかる。このことから、サイリウム種皮末とショ糖との結着率にはショ糖の粒径が大きく関与していることが示唆された。
【0044】
以上説明したように、本願発明は従来電子顕微鏡でも識別が難しかったサイリウム種皮と糖を可視化・識別することで、サイリウム種皮と糖との結着を観察することができる。