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  • 特開-リチウム含有溶液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155680
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】リチウム含有溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20221006BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20221006BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B3/24
C22B3/44 101A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059031
(22)【出願日】2021-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 修
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸也
(72)【発明者】
【氏名】工藤 陽平
(72)【発明者】
【氏名】仙波 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭平
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001BA24
4K001DB23
4K001DB35
(57)【要約】
【課題】溶離工程後の溶液におけるリチウムの含有率を高め、溶離工程後の工程で用いられる溶離溶液の量を抑制することでリチウム製造のための製造コストを抑えることが可能となるリチウム含有溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】リチウム含有溶液の製造方法は、マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤に低リチウム含有液を接触させて吸着後マンガン酸リチウムを得る吸着工程と、吸着後マンガン酸リチウムと酸含有溶液とを接触させて溶離溶液を得る溶離工程と、マンガンを酸化させ、マンガン濃度を抑制したリチウム含有溶液を得るマンガン酸化工程と、をこの順で実行する。そして、酸含有溶液には、溶離溶液に酸を加えたものが含まれている。この製造方法により、溶離工程での酸の使用量が抑制され、溶離工程後の溶離溶液内のリチウムの含有率を高くでき、リチウム含有溶液の製造コストを抑えることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤に低リチウム含有溶液を接触させて吸着後マンガン酸リチウムを得る吸着工程と、
前記吸着後マンガン酸リチウムと酸含有溶液とを接触させて溶離溶液を得る溶離工程と、
前記溶離溶液に、酸化剤およびpH調整剤を追加することでマンガンを酸化させ、マンガン濃度を抑制したリチウム含有溶液を得るマンガン酸化工程と、
をこの順で実行し、
前記酸含有溶液には、前記溶離溶液に酸を加えたものが含まれる、
ことを特徴とするリチウム含有溶液の製造方法。
【請求項2】
前記溶離工程に用いられる前記酸含有溶液の水素イオン濃度が、
0.1mol/L以上4.0mol/L以下になるように、前記酸が加えられている、
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウム含有溶液の製造方法。
【請求項3】
前記溶離工程において、
前記溶離溶液が、5回以上11回以下繰り返し使用される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム含有溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有溶液の製造方法に関する。さらに詳しくは、溶離工程後の溶液におけるリチウムの含有率を高め、溶離工程後の工程で用いられる溶離溶液の量を抑制することでリチウム製造のための製造コストを抑えることが可能なリチウム含有溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピネル型の構造を持つ、マンガン酸リチウム(LiMn、Li1.33Mn1.67、Li1.6Mn1.6等)に塩酸などの鉱酸を接触させることで得られるλ-MnO(HMn、H1.33Mn1.67、H1.6Mn1.6等)は、選択的にリチウムを吸着することが知られている。このλ-MnOをリチウム回収に用いた場合、λ-MnOは不純物を吸着しないため、リチウム回収において中和剤の使用量を大幅に低減できるといったメリットがある。このことから、この方法の商業利用が期待されている。このλ-MnOを用いたリチウム含有溶液の製造方法が、特許文献1で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/116607号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のリチウム含有溶液の製造方法は、薬剤(特に中和剤)を低減でき、コスト面で大きなメリットがある。しかし、上記の製造方法を商業的に利用するためにはさらなるコスト低減が必要となるという問題がある。例えば上記の製造方法では、溶離工程での反応を維持するために、溶離工程で加えられる酸含有溶液の酸濃度は、所定の範囲に維持する必要があり、これにより溶離工程後の工程で用いられる溶離溶液の量が増え、溶離工程後の設備サイズを大きくする必要があるという問題がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、溶離工程後の溶液におけるリチウムの含有率を高め、溶離工程後の工程で用いられる溶離溶液の量を抑制することでリチウム製造のための製造コストを抑えることが可能となるリチウム含有溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明のリチウム含有溶液の製造方法は、マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤に低リチウム含有溶液を接触させて吸着後マンガン酸リチウムを得る吸着工程と、前記吸着後マンガン酸リチウムと酸含有溶液とを接触させて溶離溶液を得る溶離工程と、前記溶離溶液に、酸化剤およびpH調整剤を追加することでマンガンを酸化させ、マンガン濃度を抑制したリチウム含有溶液を得るマンガン酸化工程と、をこの順で実行し、前記酸含有溶液には、前記溶離溶液に酸を加えたものが含まれることを特徴とする。
第2発明のリチウム含有溶液の製造方法は、第1発明において、前記溶離工程に用いられる前記酸含有溶液の水素イオン濃度が、0.1mol/L以上4.0mol/L以下になるように、前記酸が加えられていることを特徴とする。
第3発明のリチウム含有溶液の製造方法は、第1発明または第2発明において、前記溶離工程において、前記溶離溶液が、5回以上11回以下繰り返し使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、酸含有溶液に、溶離溶液を繰り返し使用することにより、溶離工程での酸の使用量が抑制される。これにより、リチウム含有溶液の製造コストを抑えることができる。また、溶離工程後の溶離溶液内のリチウムの含有率を高くできるので、リチウム含有溶液の全体量を抑えることができ、後工程での設備サイズを抑制したり、リチウムを固体として得る際の工程の負荷を低減できたりする。
第2発明によれば、酸含有溶液の水素イオン濃度が所定の範囲内となるように酸が加えられることにより、溶離工程での反応が効率的に行われる。
第3発明によれば、溶離溶液が所定の回数だけ繰り返し用いられることにより、溶離工程後の溶液内のリチウムの含有率をさらに高めることができ、リチウム含有溶液の全体量をさらに抑えることができ、後工程での設備サイズをより抑制したり、マンガン酸化工程など後工程での薬剤の使用量を、より抑制することができたりする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具現化するためのリチウム含有溶液の製造方法を例示するものであって、本発明はリチウム含有溶液の製造方法を以下のものに特定しない。
【0010】
本発明に係るリチウム含有溶液の製造方法は、マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤に低リチウム含有溶液を接触させて吸着後マンガン酸リチウムを得る吸着工程と、前記吸着後マンガン酸リチウムと酸含有溶液とを接触させて溶離溶液を得る溶離工程と、前記溶離溶液に、酸化剤およびpH調整剤を追加することでマンガンを酸化させ、マンガン濃度を抑制したリチウム含有溶液を得るマンガン酸化工程と、をこの順で実行し、前記酸含有溶液には、前記溶離溶液に酸を加えたものが含まれるものである。
【0011】
酸含有溶液に、溶離溶液を繰り返し使用することにより、溶離工程での酸の使用量が抑制される。これによりリチウム含有溶液の製造コストを抑えることができる。また、溶離工程後の溶離溶液内のリチウムの含有率を高くできるので、リチウムを固体として得る際の工程の負荷を低減できる。
【0012】
また、前記溶離工程に用いられる前記酸含有溶液が、0.1mol/L以上4.0mol/L以下になるように、前記酸が加えられていることが好ましい。酸含有溶液が所定の範囲内となるように酸が加えられることにより、溶離工程での反応が効率的になる。
【0013】
また、前記溶離工程において、前記溶離溶液が、5回以上11回以下繰り返し使用されることが好ましい。溶離溶液が所定の回数だけ繰り返し使用されることにより、リチウムの含有率をさらに高めることができ、マンガン酸化工程での薬剤の使用量を、より抑制することができる。
【0014】
(実施形態)
(吸着工程の前段階)
吸着工程では、リチウム吸着剤に低リチウム含有溶液を接触させて、吸着後マンガン酸リチウムが得られるが、この吸着工程で使用するリチウム吸着剤を得る方法について説明する。なお、図1には、本発明の一実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法のフロー図が示されているが、「吸着工程の前段階」の説明は、図1の最上段に位置するH1.6Mn1.6が得られる段階である。
【0015】
マンガン酸リチウムは、数1に示すように、酸処理を施されることによりリチウム吸着剤となる。なお、数1ではマンガン酸リチウムをLi1.6Mn1.6と表したが、マンガン酸リチウムはこれに限定されない。例えばLi1.33Mn1.67を使用することもできる。すなわちマンガン酸リチウムがLi1.6Mn1.6である場合、リチウム吸着剤はH1.6Mn1.6となるが、マンガン酸リチウムが、例えばLi1.33Mn1.67である場合、リチウム吸着剤はH1.33Mn1.67となる。また酸処理に用いられる酸をHClとしたが、これに限定されない。例えば硫酸、硝酸などを使用することもできる。
【0016】
マンガン酸リチウムの形状は、吸着工程でのリチウムの吸着を考慮した形態となる。例えばマンガン酸リチウムの形状は、粉末状、粉末を造粒した粒子状、カラムの繊維に吹き付けたカラム状など様々な形状とすることができる。酸処理が行われると、例えばリチウム吸着剤として、H1.6Mn1.6が得られる。リチウム吸着剤の形状は、酸処理が行われる前のマンガン酸リチウムの形状と同じである。
【0017】
[数1]
Li1.6Mn1.6+1.6HCl→H1.6Mn1.6+1.6LiCl
【0018】
(吸着工程)
図1には、本発明の一実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法のフロー図を示す。吸着工程では、リチウム吸着剤に低リチウム含有溶液を接触させて、数2に示すHとLiとのイオン交換反応により吸着後マンガン酸リチウムを得る。本明細書では、吸着工程で得られたマンガン酸リチウムを、吸着後マンガン酸リチウムと称することがある。
【0019】
[数2]
1.6Mn1.6+1.6LiCl→Li1.6Mn1.6+1.6HCl
【0020】
低リチウム含有溶液は、例えば海水、または塩湖のかん水が該当する。例えば海水には平均0.17ppmのリチウムが含まれている。ただしこれらの低リチウム含有溶液には、リチウムのほかに、ナトリウム、マグネシウムまたはカルシウムなどの元素が溶解している。本発明のリチウム含有溶液の製造方法によれば、これらの元素が溶解している低リチウム含有溶液から、リチウムを選択的に回収することが可能である。なお、低リチウム含有溶液については、後述するLi含有溶液と比較して、単位体積あたりのリチウム量が少ないことを意味している。
【0021】
吸着工程では、吸着剤の形状により、低リチウム含有溶液と吸着剤との接触方法が異なる。例えば吸着剤が粉状である場合は、低リチウム含有溶液に所定量の吸着剤が投入され、所定時間かき混ぜられることで、低リチウム含有溶液と吸着剤とが接触し、リチウムが吸着剤に吸着する方法が一つの方法として挙げられる。吸着剤が粒子状である場合は、通液容器に粒子状の吸着剤が封入され、低リチウム含有溶液が通液されることで、低リチウム含有溶液と吸着剤とが接触し、吸着剤にリチウムが吸着する方法が一つの方法として挙げられる。吸着剤がカラムの繊維に吹き付けられている場合は、低リチウム含有溶液がカラムを通り抜けることにより、低リチウム含有溶液と吸着剤とが接触し、吸着剤にリチウムが吸着する方法が一つの方法として挙げられる。なお、低リチウム含有溶液を通液する際は、吸着剤への接触回数を確保するために、繰り返し通液を行う場合がある。
【0022】
吸着工程を経ると、吸着剤は吸着後マンガン酸リチウムとなる。また低リチウム含有溶液は、吸着剤によりリチウムが吸着された後は吸着後液となる。この吸着後液は、低リチウム含有溶液を採取した海または湖に放流される。その際、吸着後液は、中和処理等、放流に適した状態に処理された後放流される。
【0023】
(溶離工程)
溶離工程では、吸着後マンガン酸リチウムに酸含有溶液を接触させて、数3に示す反応により溶離溶液を得る。この際、吸着後マンガン酸リチウムは、LiとHという陽イオン同士の交換反応により、リチウム吸着剤として再生され、このリチウム吸着剤は、再度吸着工程で用いられる。
【0024】
[数3]
Li1.6Mn1.6+1.6HCl→H1.6Mn1.6+1.6LiCl
【0025】
本実施形態では、酸含有溶液には、塩酸などの酸単体の溶液と、一度溶離工程を経て得られた溶離溶液に酸を加えたものと、が含まれる。例えば本実施形態では、溶離工程は複数の段階に分かれ、第1段階では酸含有溶液は酸単体の溶液であり、第2段階以降では、その前段階で得られた溶離溶液が用いられ、この溶離溶液に酸を加えたものにより第2段階以降の溶離工程が行われる。
【0026】
数3に示す反応は、溶離工程で用いられる酸含有溶液のpHの値が、小さいほどよく進行する。しかし、数3に示す反応がある程度進行すると、酸含有溶液のpHの値が大きくなるため、数3に示す反応が進行しなくなる。従来はこの状態に至らないようにするために、大量の酸含有溶液が供給され、これにより溶離溶液の量が多くなっていた。本願では、溶離工程を複数段階に分けて行い、その複数段階の第2段階以降で、その前の段階で得られた溶離溶液に酸を加えたものが酸含有溶液として用いられる。
【0027】
酸含有溶液に、溶離溶液が繰り返し用いられることにより、溶離工程での酸の使用量が抑制され、溶離工程後の溶離溶液内のリチウムの含有率を高くできるとともに、溶離工程後の工程で用いられる溶離溶液の量を削減することができる。すなわち、溶離工程では、溶液内のpHが所定の値以上になると、数3に示す反応が行われず、水素イオンが溶離溶液内に残存するところ、溶離工程により得られた溶離溶液に酸を新たに加えることで、残存する遊離酸と合わせて酸含有溶液のpHの値を小さくすることができ、溶離工程後の工程で用いられる溶離溶液の量を全体として抑えることができるとともに、その溶離溶液のリチウムの含有率を高くできる。
【0028】
このように溶離溶液のリチウムの含有率を高くできると、後工程での設備サイズが抑制できたり、リチウムを固体として得る際の工程の負荷を低減できたりする。すなわち、リチウムの含有率が高くなると、リチウム含有溶液自体の量を少なくできるので、後工程での設備サイズを大きくする必要がなくなる。加えてリチウムを固体として得る場合に溶液を煮詰める時間を短くできたり、後述するマンガン酸化工程でのpH調整剤、またはマンガン酸化工程後に設けられる中和工程におけるpH調整剤の量を抑制したりできる。この中和工程は、例えばマグネシウムを除去するために設けられる。また、高濃度にリチウムを含む溶液は、そのまま客先に出荷することも可能である。
【0029】
なお、溶離工程が複数の段階に分かれる場合について説明したが、溶離工程はこの形態に限定されない。例えば、連続的に溶離溶液に酸が加えられ、酸含有溶液となる場合も含まれる。
【0030】
本実施形態の溶離工程で吸着後マンガン酸リチウムと接触させる酸含有溶液の水素イオン濃度は、0.1mol/L以上4.0mol/L以下であることが好ましい。さらに水素イオン濃度は、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましい。
【0031】
この溶離工程において、酸含有溶液の水素イオン濃度が0.1mol/L以上4.0mol/L以下であることにより、溶離工程において、LiとHという陽イオン同士の交換反応の効率を維持しながら、マンガン酸リチウム全体の溶解を抑制することができる。すなわち、リチウム吸着剤を繰り返し使用することが可能となる。
【0032】
酸含有溶液の水素イオン濃度が0.1mol/Lよりも薄い場合、陽イオン同士の交換反応が十分に行うことができず、この交換反応の効率が落ちる。また、酸含有溶液が4.0mol/Lよりも濃い場合、マンガン酸リチウム全体が酸溶液に溶解するため、吸着後マンガン酸リチウムを再度リチウム吸着剤として利用することができなくなる。なお、酸含有溶液に使用される酸は塩酸が好ましいがこれに限定されない。例えば、硫酸または酢酸などが用いられる場合もある。
【0033】
このように酸含有溶液の水素イオン濃度が所定の範囲内となるように酸が加えられることにより、溶離工程での反応が効率的に行われる。
【0034】
また、本実施形態の溶離工程では、溶離溶液が、5回以上11回以下繰り返し使用されるのが好ましい。さらに7回以上9回以下がより好ましい。
【0035】
溶離溶液が所定の回数だけ繰り返し使用されることにより、溶離工程後の溶液内のリチウムの含有率をさらに高めることができ、マンガン酸化工程など後工程での薬剤の使用量を、より抑制することができる。
【0036】
マンガン酸リチウムの形状により、溶離工程で行われる吸着後マンガン酸リチウムと酸溶液の接触の形態は異なる。例えばマンガン酸リチウムが粉末状であれば、酸溶液に吸着後マンガン酸リチウムの粉末を投入し、かき混ぜることで吸着後マンガン酸リチウムと酸溶液との接触が行われる方法が一つの方法として挙げられる。マンガン酸リチウムが粒子状、またはカラムの繊維に吹き付けられている場合は、粒子状のマンガン酸リチウムおよびカラムは通液容器内に収納された状態で、酸溶液が通液容器の中に通液されることで、吸着後マンガン酸リチウムと酸溶液との接触が行われる方法が一つの方法として挙げられる。
【0037】
(マンガン酸化工程)
マンガン酸化工程では、溶離工程で得られた溶離溶液に、酸化剤およびpH調整剤を追加することで2価のマンガンを、4価のマンガンに酸化させ、マンガン濃度を抑制したリチウム含有溶液を得る。4価のマンガンは難溶性であるため、溶液内で沈殿する。これにより溶離溶液に含まれるマンガンの濃度を抑制することができる。さらに、沈殿したマンガンは、リチウム吸着剤の原料として再利用することが可能である。
【0038】
2価のマンガンを4価のマンガンに酸化させるために、溶離溶液に、酸化剤とpH調整剤が加えられる。酸化剤とpH調整剤が加えられる際は、pHを3以上7以下の範囲にするとともに、酸化還元電位を銀塩化銀電極で600mV以上1100mV以下に調整することが好ましい。すなわち、pHと酸化還元電位は同時に測定され、上記の範囲に入るように、酸化剤およびpH調整剤が、同時にまたは交互に加えられる。酸化剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、オゾン、過マンガン酸塩などが使用可能である。ただしこれらに限定されず、酸化還元電位の調製が可能なものであれば問題ない。pH調整剤としては、例えば水酸化ナトリウム、消石灰などアルカリ中和剤が使用可能である。ただしこれらに限定されず、pH調整が可能なものであれば問題ない。
【0039】
(マンガン酸化工程の後段階)
マンガン酸化工程で得られたリチウム含有溶液には、本実施形態の場合塩化リチウム(LiCl)という状態でリチウムが存在するので、この溶液にアルカリを投入したり、過熱濃縮したりして、例えば炭酸リチウムという状態でリチウムが得られる。
【0040】
また、吸着後マンガン酸リチウムは、酸溶液によりリチウム吸着剤となるので、このリチウム吸着剤は、再度吸着工程で用いられる。
【実施例0041】
以下、本発明に係るリチウム含有溶液の製造方法の具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>
(吸着工程)
粉末状のリチウム吸着剤H1.6Mn1.6を、直径20mmのガラス製カラムに10ml保持させた。そして、このカラムに、低リチウム含有溶液である塩湖かん水を模してリチウムを溶解させた溶液を通過させて、リチウム吸着剤を吸着後マンガン酸リチウムであるLi1.6Mn1.6とした。
【0043】
(溶離工程)
ガラス製カラム内の吸着後マンガン酸リチウムと、酸含有溶液とを接触させた。溶離工程の第1段階として、酸含有溶液は、水素イオン濃度0.5mol/Lの塩酸のみとした。この際の酸含有溶液のpHは0.35である。吸着剤を充填したカラムにこの酸含有溶液を通液速度1.67ml/minで、75mlを通液した。ここで通液速度、通液量について、SVおよびBVという単位を使用することがある。SVはSpace Velocityの略であり、単位時間(1時間)あたりの通液量(単位は以下に説明するBV)を表している。すなわち、上記の1.67ml/minはSV10と表される。またBVはBed Volumeの略であり、カラム内のリチウム吸着剤の体積の何倍かを表す単位である。すなわち、上記の75mlはBV7.5と表される。カラムから流出した溶液は全て混合して均一な溶液にした。この溶離工程の第1段階で得られた溶液を第1溶離溶液とした。この第1溶離溶液のpHを測定したところ、そのpHは1であった。これより、第1溶離溶液には、溶離工程後も遊離した酸が存在していることがわかる。
【0044】
次に溶離工程の第2段階として、酸含有溶液は、上記の第1溶離溶液に35%の塩酸を加えて、水素イオン濃度0.5mol/Lとしたものを用いた。通液速度および通液量は第1段階と同じである。カラムから流出した溶液を第2溶離溶液とした。
【0045】
第1溶離溶液および第2溶離溶液の元素濃度の分析値を表1に示す。酸含有溶液として、第1溶離溶液に酸を加えたものを利用した第2溶離溶液において、リチウムの含有率が高くなったことがわかる。
【0046】
【表1】
【0047】
(マンガン酸化工程)
第2溶離溶液を用いて、マンガン酸化工程が行われた。この際に酸化剤とpH調整剤が用いられ、リチウム含有溶液が得られた。
【0048】
<実施例2>
実施例2では、溶離工程の第2段階で、塩酸加えて、水素イオン濃度が0.1mol/Lとした酸含有溶液が用いられ、第2溶離溶液を得た。その他の条件は実施例1と同じである。第1溶離溶液および第2溶離溶液の元素濃度の分析値を表2に示す。酸含有溶液として、第1溶離溶液に酸を加えたものを利用した第2溶離溶液において、リチウムの含有率が高くなったことがわかる。
【0049】
【表2】
【0050】
<比較例1>
比較例1では、溶離工程の第2段階で、塩酸を全く加えずに第2溶離溶液を得た。その他の条件は実施例1と同じである。第1溶離溶液および第2溶離溶液の元素濃度の分析値を表2に示す。いずれの元素についても含有率に変化がないことがわかる。
【0051】
【表3】
【0052】
<実施例1a>
実施例1においては第2段階までの溶離溶液について各元素の分析値が得られた。実施例1aにおいては、溶離工程を第14段階まで行い、各段階の溶離溶液について、リチウムの分析値を得た。その他の条件は実施例1と同じである。その結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4に示すように、第6溶離溶液(5回溶離溶液が繰り返し使用された後の溶液)まで、繰り返し回数の増加に合わせてリチウムの含有率が高くなっているのがわかる。また、第13溶離溶液(12回溶離溶液が繰り返し使用された後の溶液)以降は、ほぼ繰り返し回数が増えてもリチウムの含有率が高くなっていないのがわかる。この結果より、溶離溶液のリチウム含有率を高くするためには、5回以上11回以下だけ溶離溶液が繰り返し使用するのが好ましいのがわかる。
図1
【手続補正書】
【提出日】2022-03-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
上記のリチウム含有溶液の製造方法は、薬剤(特に中和剤)の使用量を低減でき、コスト面で大きなメリットがある。しかし、上記の製造方法を商業的に利用するためにはさらなるコスト低減が必要となるという問題がある。例えば上記の製造方法では、溶離工程での反応を維持するために、溶離工程で加えられる酸含有溶液の酸濃度は、所定の範囲に維持する必要があり、これにより溶離工程後の工程で用いられる溶離溶液の量が増え、溶離工程後の設備サイズを大きくする必要があるという問題がある。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
また、前記溶離工程に用いられる前記酸含有溶液の水素イオン濃度が、0.1mol/L以上4.0mol/L以下になるように、前記酸が加えられていることが好ましい。酸含有溶液の水素イオン濃度が所定の範囲内となるように酸が加えられることにより、溶離工程での反応が効率的になる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
酸含有溶液の水素イオン濃度が0.1mol/Lよりも薄い場合、陽イオン同士の交換反応が十分に行うことができず、この交換反応の効率が落ちる。また、酸含有溶液が4.0mol/Lよりも濃い場合、マンガン酸リチウム全体が酸含有溶液に溶解するため、吸着後マンガン酸リチウムを再度リチウム吸着剤として利用することができなくなる。なお、酸含有溶液に使用される酸は塩酸が好ましいがこれに限定されない。例えば、硫酸または酢酸などが用いられる場合もある。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
マンガン酸リチウムの形状により、溶離工程で行われる吸着後マンガン酸リチウムと酸含有溶液の接触の形態は異なる。例えばマンガン酸リチウムが粉末状であれば、酸含有溶液に吸着後マンガン酸リチウムの粉末を投入し、かき混ぜることで吸着後マンガン酸リチウムと酸含有溶液との接触が行われる方法が一つの方法として挙げられる。マンガン酸リチウムが粒子状、またはカラムの繊維に吹き付けられている場合は、粒子状のマンガン酸リチウムおよびカラムは通液容器内に収納された状態で、酸含有溶液が通液容器の中に通液されることで、吸着後マンガン酸リチウムと酸含有溶液との接触が行われる方法が一つの方法として挙げられる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0040
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0040】
また、吸着後マンガン酸リチウムは、酸含有溶液によりリチウム吸着剤となるので、このリチウム吸着剤は、再度吸着工程で用いられる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0050
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0050】
<比較例1>
比較例1では、溶離工程の第2段階で、塩酸を全く加えずに第2溶離溶液を得た。その他の条件は実施例1と同じである。第1溶離溶液および第2溶離溶液の元素濃度の分析値を表に示す。いずれの元素についても含有率に変化がないことがわかる。